(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075363
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】卵様食品、卵様食品の製造方法、及び卵様食品における卵様のコク付与方法
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20240527BHJP
【FI】
A23L15/00
A23L15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186760
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】葛原 大士
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AD37
4B042AD40
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK04
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AP02
(57)【要約】
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、卵様食品において、卵様のコクを付与する
ことである。
【解決手段】 卵様食品の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、調合で
ある。調合工程で調合されるのは、少なくとも、アミノ酸含有組成物、及び、核酸含有組
成物であり、かつ、これによって得られる当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタ
ミン酸当量[A]に対する、核酸由来のグルタミン酸当量[B]は、0.29以上、かつ
、0.80以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵様食品の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
調合:ここで調合されるのは、少なくとも、アミノ酸含有組成物、及び、核酸含有組成物
であり、かつ、
これによって得られる当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A]
に対する、核酸由来のグルタミン酸当量[B]の比は、0.29以上、かつ、0.80以
下である。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、
当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量は[A]は、35mg/10
0g以上、かつ、80mg/100g以下である。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法であって、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン
酸である。
【請求項4】
請求項1又は2の製造方法であって、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニ
ル酸である。
【請求項5】
請求項1又は2の製造方法であって、当該卵様食品は、動物性原料を含有しない。
【請求項6】
請求項1又は2の製造方法であって、前記アミノ酸含有組成物は、少なくとも、野菜又は
果実の加工品である。
【請求項7】
請求項1又は2の製造方法であって、前記調合において、さらに調合されるのは、凝固剤
である。
【請求項8】
卵様食品であって、
当該卵様食品が含有するのは、少なくとも、アミノ酸、及び核酸であり、
当該卵様食品において、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A] に対する、核酸由来
のグルタミン酸当量[B]の比は、0.29以上、かつ、0.80以下である。
【請求項9】
請求項8の卵様食品であって、
当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量は[A]は、35mg/10
0g以上、かつ、80mg/100g以下である。
【請求項10】
請求項8又は9の卵様食品であって、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン
酸である。
【請求項11】
請求区8又は9の卵様食品であって、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニ
ル酸である。
【請求項12】
請求項8又は9の卵様食品であって、当該卵様食品は、動物性原料を含有しない。
【請求項13】
請求項8又は9の卵様食品であって、当該卵様食品が含有するのは、少なくとも、野菜又
は果実の加工品である。
【請求項14】
請求項8又は9の卵様食品であって、当該卵様食品が含有するのは、少なくとも、凝固剤
である。
【請求項15】
卵様食品における卵様のコク付与方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の
工程である:
調合:ここで調合されるのは、少なくとも、アミノ酸含有組成物、及び、核酸含有組成物
であり、かつ、
これによって得られる当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A]
に対する、核酸由来のグルタミン酸当量[B]の比は、0.29以上、かつ、0.80
以下である。
【請求項16】
請求項15の方法であって、
当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量は[A]は、35mg/10
0g以上、かつ、80mg/100g以下である。
【請求項17】
請求項15又は16の方法であって、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン
酸である。
【請求項18】
請求区15又は16の方法であって、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニ
ル酸である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、卵様食品、卵様食品の製造方法、及び卵様食品における卵様の
コク付与方法
【背景技術】
【0002】
近年、動物由来原料の一部、あるいは全部を植物由来の原料に置き換え、動物性食品様
の食品としたものが作られてきている。
【0003】
その背景として、種々の点から、動物性食品の摂取を忌避する人がいるからである。一
つの理由は、動物性食品には、コレステロールが含まれていることである。他の理由は、
菜食主義者やヴィーガンは摂取しないようにしていることである。また他の理由は、動物
の飼育による環境負荷の問題である。このような理由から、植物由来原料を用いた代替食
品には、一定の需要がある。
【0004】
代替食品の具体的な態様は、獣肉を用いず、植物性原料を用いて製造した代替肉である
。また別の具体的な態様は、卵を用いず、植物性原料を用いて製造した代替卵である。こ
れまで、代替卵に関する食品の検討は、種々なされてきた。
【0005】
特許文献1が示すのは、卵様焼成凝固食品であって、卵使用量を減らしつつも卵様焼成
凝固食品を製造するため、熱凝固性植物タンパク素材および大豆クリームを原料として使
用し、凝固させたものである。
【0006】
特許文献2が示すのは、液状組成物であって、卵黄の含有量を低めつつ、生卵黄特有の
食感とするため、特定量の卵黄、乳、アルギン酸ナトリウム、及びカルシウムを含有させ
たものである。
【0007】
特許文献3が示すのは、スクランブルエッグ様食品の製造法であって、卵液を用いずと
もスクランブルエッグ様の食品を得るため、澱粉性野菜と大豆蛋白ペーストと混錬するこ
とである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開第2017-169488号公報
【特許文献2】特開第2013-39096号公報
【特許文献3】特開第2002‐119260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、卵様食品において、卵様のコクを付与することであ
る。
【0010】
代替食品を作る上での課題は、味、香り、食感、色合い、栄養成分、機能性成分など、
種々存在する。中でも呈味は、食品のおいしさを決定する上で重要な役割がある。あわせ
て、卵の使用を減じ、あるいは全く使用せずに、卵食品の呈味に近づけることは、代替卵
を作る上での一つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が検討していたのは、卵様食品において、卵の使用を減じ、あるいは全く使用
しない場合に、如何に、卵様コクを付与するかである。上記検討の結果、本願発明者が見
出したのは、(1)卵様のコクは、アミノ酸、及び核酸の使用により付与し得ること(2
)アミノ酸量と核酸量の特定のバランスにより、卵様のコクのフレーバープロファイルが
形成されること(3)卵様のコクには、アミノ酸と核酸由来のグルタミン酸当量が関与し
ていること、である。上記機序を応用して、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0012】
本発明に係る卵様食品の製造方法を構成するのは、少なくとも、調合である。ここで、
人又は装置によって調合されるのは、少なくとも、アミノ酸含有組成物、及び、核酸含有
組成物であり、かつ、これによって得られる当該卵様食品における、アミノ酸由来のグル
タミン酸当量[A] に対する、核酸由来のグルタミン酸当量[B]の比は、0.29以
上、かつ、0.80以下である。当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当
量は[A]は、35mg/100g以上、かつ、80mg/100g以下であることが好
ましい。
【0013】
また、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン酸であることが好ましい。あ
わせて、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニル酸であることが好ましい。
【0014】
当該卵様食品は、動物性原料を含有しないことが好ましく、前記アミノ酸含有組成物は
、少なくとも、野菜又は果実の加工品であることが好ましい。さらに、前記調合において
、さらに調合されるのは、凝固剤であることが好ましい。
【0015】
本発明の実施に係る卵様食品が含有するのは、少なくとも、アミノ酸、及び核酸であり
、当該卵様食品において、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A] に対する、核酸由来
のグルタミン酸当量[B]の比は、0.29以上、かつ、0.80以下である。当該卵様
食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量は[A]は、35mg/100g以上、
かつ、80mg/100g以下である。
【0016】
また、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン酸であることが好ましい。あ
わせて、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニル酸であることが好ましい。
【0017】
当該卵様食品は、動物性原料を含有しないことが好ましく、前記アミノ酸含有組成物は
、少なくとも、野菜又は果実の加工品であることが好ましい。さらに、前記調合において
、さらに調合されるのは、凝固剤であることが好ましい。
【0018】
本発明の実施の形態に係る卵様食品における卵様のコク付与方法を構成するのは、少な
くとも調合である。ここで、人又は装置によって調合されるのは、少なくとも、アミノ酸
含有組成物、及び、核酸含有組成物であり、かつ、これによって得られる当該卵様食品に
おける、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A] に対する、核酸由来のグルタミン酸当
量[B]の比は、0.29以上、かつ、0.80以下である。
【0019】
当該卵様食品における、アミノ酸由来のグルタミン酸当量は[A]は、35mg/10
0g以上、かつ、80mg/100g以下であることが好ましい。
【0020】
また、前記アミノ酸は、アスパラギン酸、及びグルタミン酸であることが好ましい。あ
わせて、前記核酸は、グアニル酸、イノシン酸、及びアデニル酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明が可能にするのは、卵様食品において、卵様のコクを付与することである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る卵様食品の製造方法の流れ図
【
図2】アミノ酸量、及び核酸量の違いによる卵様食品のコクの評価結果
【発明を実施するための形態】
【0023】
<卵食品>
本願明細書において、卵食品とは、食品であって、卵白と卵黄を均一に混合した卵原料
を主原料して含有するものである。具体的には、卵焼き、スクランブルエッグ、オムレツ
、炒り卵、等である。卵食品の形態としては、液状、ゲル状(半固体状)、又は固体状な
どが挙げられる。
【0024】
<卵様食品>
本発明に係る卵様食品(以下、「本卵様食品」ともいう。)とは、食品であって、卵食
品における卵原料の一部、あるいは全部を植物由来原料に代替したものである。また、本
卵様食品は、外見上卵食品である、あるいは、その用途において卵食品の代替食品である
ものをいう。
【0025】
<アミノ酸含有組成物>
本発明の実施の形態に係るアミノ酸含有組成物とは、組成物であって、アミノ酸を含有
する物である。本発明におけるアミノ酸含有組成物は、食品に用いられるものであれば、
特に限定されない。具体例として挙げられるのは、食品添加物としてのグルタミン酸ナト
リウム、食品添加物としてのアスパラギン酸ナトリウム、酵母エキス等である。
【0026】
<核酸含有組成物>
本発明の実施の形態に係る核酸含有組成物とは、組成物であって、核酸を含有する物で
ある。本発明における核酸含有組成物は、食品に用いられるものであれば、特に限定され
ない。具体例として挙げられるのは、食品添加物としてのイノシン酸、食品添加物として
のグアニル酸、酵母エキス等である。
【0027】
<植物由来原料>
本発明の実施の形態に係る植物由来原料とは、植物に由来する食品用原料である。当該
植物由来原料とは、具体的には、穀類加工品、種実類加工品、野菜又は果実の加工品など
が挙げられる
【0028】
<穀類加工品>
本発明における穀類加工品を用いる目的は、穀類に由来する栄養成分の確保である。本
発明の実施の形態に係る穀類加工品とは、加工された穀類である。本発明の実施の形態に
おける穀類は、イネ科の植物、及びマメ科の植物を含むものである。穀類を例示すると、
米、小麦、大麦、オーツ麦、大豆、エンドウ豆、インゲン豆、ソラマメ、ひよこ豆、レン
ズマメ、アワ、ヒエ、キビ、などが挙げられる。
【0029】
本発明の実施の形態に係る穀類加工品は、好ましくは、穀類の搾汁、穀類のタンパク質
抽出物、又は穀類のピューレ、並びに、これらの粉末であることが好ましい。穀類加工品
を例示すると、ライスミルク、豆乳、オーツミルク、等である。
【0030】
本卵様食品における穀類加工品の含有量の下限値は、好ましくは、2重量%、より好ま
しくは、3重量%である。本卵様食品における穀類加工品の含有量の上限値は、好ましく
は、20重量%、より好ましくは、10重量%である。
【0031】
<種実類加工品>
本発明における種実類加工品を用いる目的は、種実に由来する栄養成分の確保である。
本発明の実施の形態に係る種実類加工品とは、加工された種実類である。本発明の実施の
形態における種実類を例示すると、アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、マカダミ
アナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、クルミ、マツの実、クリ、カボチャの種、ヒマ
ワリの種、などが挙げられる。
【0032】
本発明の実施の形態に係る種実類加工品は、好ましくは、種実類の搾汁、穀類のタンパ
ク質抽出物、又は種実類のピューレ、並びに、これらの粉末であることが好ましい。
【0033】
本卵様食品における種実類加工品の含有量の下限値は、好ましくは、2重量%、より好
ましくは、3重量%である。本卵様食品における種実類加工品の含有量の上限値は、好ま
しくは、20重量%、より好ましくは、10重量%である。
【0034】
<野菜又は果実の加工品>
本卵様食品で使用できるのは、野菜又は果実の加工品である。この野菜の種類は、不問
であるが、例示すると、トマト、ニンジン、カブ、大根、ホウレンソウ、ピーマン、アス
パラガス、大麦若葉、春菊、カラシ菜、サラダ菜、小松菜、明日葉、甘藷、馬鈴薯、モロ
ヘイヤ、パプリカ、パセリ、セロリ、三つ葉、レタス、ラディッシュ、紫蘇、茄子、イン
ゲン、カボチャ、牛蒡、ネギ、生姜、大蒜、ニラ、トウモロコシ、さやえんどう、オクラ
、かぶ、きゅうり、ウリ、ズッキーニ、へちま、もやし等である。果実の種類も、不問で
あるが、例示すると、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン
、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカン等の柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、
サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズ
ベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウ
イフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、
パッションフルーツ、レイシ等である。
【0035】
<動物性原材料>
本発明の実施の形態において、使用することを排除しないのは、動物性原材料である。
本発明の実施の形態に係る動物性原材料とは、食品の原材料であって、その由来が動物で
あるものである。動物性原材料を例示すると、牛、豚、鶏、鶏卵、羊、馬、魚、由来の原
材料が挙げられる。本卵様食品において、使用を排除しないのは、鶏卵である。ただし、
動物性原材料を極力使用しない観点から、本卵様食品に含有される卵の重量割合は、好ま
しくは、50重量%以下である。より好ましくは、20重量%以下であり、さらに好まし
くは、10重量%以下であり、最も好ましくは、0重量%である。特に、卵のタンパク質
は、熱凝固性が高いため、当該タンパク質含量が高くなるに従い、凝固剤を用いた際、十
分な凝固形状を保つことができない。当該観点から、固形物、又はゲル状物を作製する場
合は、卵由来のタンパク質含量は、0%であることが好ましい。
【0036】
<食用油脂>
本発明の実施の形態において、使用することを排除しないのは、食用油脂である。本発
明において、食用油脂を用いる目的は、栄養成分としての使用、及びコク付与である。本
発明の実施の形態に係る食用油脂とは、油脂であって、食用に用いられるものである。本
発明において使用する食用油脂は、植物由来であることが好ましい。食用油脂の具体的な
例を挙げると、亜麻仁油、エゴマ油、オリーブオイル、グレープシードオイル、コーン油
、ごま油、米油、大豆油、なたね油、パーム油、ひまわり油、べに花油、綿実油、等であ
る。
【0037】
本卵様食品における食用油脂の含有量は、特に限定されない。本卵様食品における食用
油脂の含有量の下限値は、好ましくは、1重量%、より好ましくは、2重量%、さらに好
ましくは、3重量%である。本卵様食品における食用油脂の含有量の上限値は、好ましく
は、20重量%、より好ましくは、15重量%、さらに好ましくは、10重量%である。
【0038】
<調味料>
本卵様食品の原材料として、本発明が排除しないのは、調味料の使用である。調味料と
は、材料であって、料理の味を調えるものである。調味料を例示すると、砂糖、食用酢、
みりん、しょうゆ、ウスターソース、食塩、うま味調味料、酵母エキス、畜肉エキス等で
ある。動物性原材料不使用の観点から、畜肉エキス、魚エキス等の動物性原料を使用しな
いことが好ましい。食塩は、味を引き立てる効果があることから、適度に含有することが
好ましい。好ましい食塩の含有量は、1.0重量%以下であり、より好ましくは、0.4
重量%以上、かつ、0.8重量%以下である。
【0039】
<添加剤>
本卵様食品は、各種添加剤が適宜添加されていてもよい。当該添加剤は、通常、飲食品
に添加されるものであり、例示すると、甘味料、酸味料、着色料、pH調整剤、酸化防止
剤、香料、増粘剤、凝固剤、乳化剤等である。
【0040】
<増粘剤、又はゲル化剤>
本発明に係る卵様食品として、卵焼き、スクランブルエッグ、炒り卵のような焼成卵様
食品を作る観点からは、増粘剤、又はゲル化剤を使用することが好ましい。本卵様食品で
使用可能な増粘剤、又はゲル化剤は、特に限定されないが、例示すると、ペクチン、寒天
、澱粉、加工澱粉、カラギーナン、グァーガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナ
ン、アルギン酸塩、アラビアガム、セルロース、ゼラチン、等である。また、増粘促進、
或いは、凝固促進を目的とした凝固促進剤として、カルシウム又はその塩を使用すること
もできる。
【0041】
<アルギン酸塩>
本発明の実施の形態に係る増粘剤、又はゲル化剤として使用可能なものは、アルギン酸
塩である。アルギン酸塩として具体的に挙げられるのは、アルギン酸ナトリウム、アルギ
ン酸カリウム、およびアルギン酸アンモニウムなどである。アルギン酸塩の調合量は、特
に限定されないが、好ましくは、0.2~1.2質量%である。アルギン酸塩の量は、ゲ
ルの性状に影響する。アルギン酸塩の濃度を当該範囲とすることにより、スクランブルエ
ッグ様の形状に適したものとすることが可能となる。
【0042】
<カルシウム又はその塩>
本発明の実施の形態に係る凝固促進剤に含有されるものとして使用可能なものは、好ま
しくは、カルシウム又はその塩である。カルシウム又はその塩として具体的に挙げられる
のは、少なくとも、卵殻カルシウム、貝カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシ
ウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酢酸カルシウム
、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムなどのうち、何れか一つ以上である。
【0043】
カルシウム又はその塩の調合量、又は混合量は、前記調合するアルギン酸塩との関係で
、適した卵様の形状になるように調整すればよい。具体的な濃度は、特に限定されないが
、好ましくは、アルギン酸ナトリウム1質量部に対して、カルシウム又はその塩を1.0
~5.0質量部とすることである。カルシウム塩の量は、ゲル化、又は固形化の速さに影
響を与える。
【0044】
本卵様食品として、スクランブルエッグ様食品を想定した場合、好ましい増粘剤又はゲ
ル化剤、及び凝固促進剤は、それぞれ、アルギン酸ナトリウム、及び乳酸カルシウムであ
る。当該増粘剤又はゲル化剤、及び凝固促進剤を用いることで、本物の卵を用いてスクラ
ンブルエッグを作ったときと同様の食感を得ることができる。
【0045】
<本卵様食品の製造方法の概念的構成>
本卵様食品の製造方法(以下、この欄では、「本製法」ということもある。)を概念的
に構成するのは、少なくとも、調合である。
図1が示すのは、本製法の流れである。本製
法を構成するのは、少なくとも、調合(S10)、加熱及び充填(S20)、冷却(S3
0)である。
【0046】
<調合(S10)>
調合工程で調合されるのは、少なくとも、アミノ酸含有組成物、及び核酸含有組成物で
ある。アミノ酸含有組成物を調合する目的は、先味におけるコクの付与である。核酸含有
組成物を調合する目的は、後味におけるコクの付与である。調合される原材料として排除
しないのは、前記アミノ酸含有組成物、及び核酸含有組成物以外に、食用油脂、その他の
植物由来原料、調味料、及び添加剤、増粘剤又はゲル化剤等である。好ましくは、さらに
凝固促進剤を使用することが好ましい。当該調合によって、調整される調合液のBrix
は、4以上、かつ20以下であることが好ましい。
【0047】
<加熱(S20)>
本製法が適宜採用するのは、加熱である。加熱の目的の一つは、調合液の殺菌である。
加熱のもう一つの目的は、調合液の凝固の促進である。前記調合、又は混合において、凝
固剤を使用した場合、凝固剤の種類によっては、当該加熱工程により、凝固が促進される
。加熱の方法は、公知の方法で良く、例えば、プレート式殺菌、レトルト殺菌、及びチュ
ーブラー式殺菌方法、等がある。加熱は、後述する、容器に充填を行った後に行ってもよ
い。加熱の条件は、特に限定されないが、温度は60℃以上であることが好ましい。
【0048】
<充填(S20)>
本製法が適宜採用するのは、充填である。充填方法は、公知の方法でよい。本卵様食品
が充填される(詰められる)容器は、公知の物で良く、例示すると、ビニル製容器、缶、
瓶、紙容器、及びペット製容器、等である。前記加熱、及び充填の順序は、特に限定され
ない。
【0049】
<冷却(S30)>
以上に加えて、本製法が適宜採用するのは、冷却である。冷却方法は、公知の方法で良
い。
【0050】
<グルタミン酸当量>
本発明の実施の形態に係るグルタミン酸当量とは、旨味の強度を示す指標であって、ア
ミノ酸、及び核酸に由来する旨味強度を、グルタミン酸量として換算し、数値化したもの
である。アミノ酸による旨味は、主にグルタミン酸とアスパラギン酸によるため、当該グ
ルタミン酸当量は、グルタミン酸、及びアスパラギン酸によるものであることが好ましい
。グルタミン酸当量は、具体的には、グルタミン酸の旨味強度を1としたとき、等量のア
スパラギン酸では、旨味強度は0.077、等量のグアニル酸では、旨味強度は2.3、
等量のイノシン酸では、旨味強度は1、等量のアデニル酸では、旨味強度は、0.18で
あることが知られている。アミノ酸由来のグルタミン酸当量に対する、核酸由来のグルタ
ミン酸当量は、0.29以上、かつ、0.80以下であることが好ましい。本明細書が取
り込むのは、Shu-Yao Tsai, Tsai-Ping Wu, Shih-Jeng Huang, JengLeun Mau, Food、Che
mistry, 103, pp.1457-1464, (2007)、及び、加瀬谷泰介, 遠田智江、星子英次郎, マッ
シュルームの成熟に伴う呈味・抗酸化成分の変動,東洋食品研究所研究報告書, 31, pp.1-
9, (2016)である。
【0051】
本発明において、グルタミン酸当量の範囲は、特に限定されないが、50mg%以上、
100mg%であることが好ましい。
【0052】
本発明の実施の形態に係る、アミノ酸由来のグルタミン酸当量[A]に対する、核酸由
来のグルタミン酸当量[B]の比([B]/[A])は、特に限定されないが、好ましく
は、0.29以上、かつ、0.80以下である。
【0053】
<旨味当量>
本発明の実施の形態に係る旨味当量(Equivalent Umami Concentration, 以下、「EU
C」ともいう。)とは、旨味の強度を示す指標であって、アミノ酸、及び核酸に由来する
旨味強度を、その相乗効果も加味して、グルタミン酸量に換算し、数値化したものである
。EUCは、以下の数式1により算出される。本明細書が取り込むのは、Shu-Yao Tsai,
Tsai-Ping Wu, Shih-Jeng Huang, JengLeun Mau, Food、Chemistry, 103, pp.1457-1464,
(2007)、及び、加瀬谷泰介, 遠田智江、星子英次郎, マッシュルームの成熟に伴う呈味
・抗酸化成分の変動,東洋食品研究所研究報告書, 31, pp.1-9, (2016)である。
【0054】
【0055】
本発明において、EUCは、特に限定されないが、好ましくは、0.10以上、かつ、
1.80以下である。より好ましくは、1.00以上、かつ、1.72以下である。
【0056】
<コレステロール含量>
本卵様食品のコレステロール含量は、特に限定されないが、好ましくは、3.0重量%
以下である。より好ましくは、1重量%以下である。さらに好ましくは、0重量%である
。コレステロール含量の測定方法は、公知の方法でよい。
【0057】
<可溶性固形分量>
本卵様食品の可溶性固形分量(以下、「Brix」ともいう。)は、特に限定されない
が、好ましくは、4以上、かつ20以下である。また、Brixの測定方法は、公知の方
法でよい。測定手段を例示すると、光学屈折率計(NAR-3T ATAGO社製)であ
る。
【0058】
<タンパク質量>
本発明の実施の形態に係るタンパク質相当量とは、ケルダール法により分析を行った際
に測定されるタンパク質量のことである。当該ケルダール法は、対象となる試料が含有す
る窒素量を基に、たんぱくしつ換算係数を用いて算出される。そのため、タンパク質、ペ
プチド、アミノ酸を含めて、タンパク質量として測定される。
【0059】
本発明に係る卵様食品のタンパク質量は、好ましくは、3.0g/100g以上である
。また、本発明に係る卵様食品のタンパク質量の上限値は、好ましくは、10.0g/1
00g、より好ましくは8.0g/100g、さらに好ましくは、5.0g/100gで
ある。
【0060】
<アミノ酸、核酸含量>
本実施の形態に係る卵様食品のアミノ酸含量、及び核酸含量の測定方法は、公知の方法
であればよい。例を挙げると、HPLC法である。
【0061】
<pH>
本実施の形態に係る卵様食品のpHは、特に限定されないが、呈味の観点から、好まし
くは、5.0以上7.0以下であり、より好ましくは5.5以上6.5以下である。
【実施例0062】
卵様食品中におけるアミノ酸由来のグルタミン酸当量、及び核酸由来のグルタミン酸当
量を変化させることで、官能における卵様のコクに与える影響を確認した。
【0063】
<比較例1>
市販の卵を237g、食塩1.42g、綿実油23.7gを混合し、フライパンで加熱
することで、スクランブルエッグを作製した。
【0064】
<試験例1>
グルタミン酸ナトリウム、核酸、その他原料を混合した。これと乳酸カルシウム溶液を
混合し、スクランブルエッグ様食品を作製した。スクランブルエッグ様食品中のアミノ酸
由来のグルタミン酸当量と、核酸由来のグルタミン酸当量の比が、1:0となるように調
整した。作製したスクランブルエッグ様食品は、90℃、20分で加熱殺菌を行った。当
該スクランブルエッグ様食品における、各原材料の含有量は、表1に記載のとおりである
。
【0065】
<試験例2>
グルタミン酸ナトリウム、核酸、その他原料を混合した。これと乳酸カルシウム溶液を
混合し、スクランブルエッグ様食品を作製した。スクランブルエッグ様食品中のアミノ酸
由来のグルタミン酸当量と、核酸由来のグルタミン酸当量の比が、1:0.29となるよ
うに調整した。作製したスクランブルエッグ様食品は、90℃、20分で加熱殺菌を行っ
た。当該スクランブルエッグ様食品における、各原材料の含有量は、表1に記載のとおり
である。
【0066】
<試験例3>
グルタミン酸ナトリウム、核酸、その他原料を混合した。これと乳酸カルシウム溶液を
混合し、スクランブルエッグ様食品を作製した。スクランブルエッグ様食品中のアミノ酸
由来のグルタミン酸当量と、核酸由来のグルタミン酸当量の比が、1:0.48となるよ
うに調整した。作製したスクランブルエッグ様食品は、90℃、20分で加熱殺菌を行っ
た。当該スクランブルエッグ様食品における、各原材料の含有量は、表1に記載のとおり
である。
【0067】
<試験例4>
グルタミン酸ナトリウム、核酸、その他原料を混合した。これと乳酸カルシウム溶液を
混合し、スクランブルエッグ様食品を作製した。スクランブルエッグ様食品中のアミノ酸
由来のグルタミン酸当量と、核酸由来のグルタミン酸当量の比が、1:0.77となるよ
うに調整した。作製したスクランブルエッグ様食品は、90℃、20分で加熱殺菌を行っ
た。当該スクランブルエッグ様食品における、各原材料の含有量は、表1に記載のとおり
である。
【0068】
<試験例5>
グルタミン酸ナトリウム、核酸、その他原料を混合した。これと乳酸カルシウム溶液を
混合し、スクランブルエッグ様食品を作製した。スクランブルエッグ様食品中のアミノ酸
由来のグルタミン酸当量と、核酸由来のグルタミン酸当量の比が、1:1.05となるよ
うに調整した。作製したスクランブルエッグ様食品は、90℃、20分で加熱殺菌を行っ
た。当該スクランブルエッグ様食品における、各原材料の含有量は、表1に記載のとおり
である。
【0069】
【0070】
比較例、並びに、試験例1乃至5における、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸
)量、及び各種核酸量は、表2に記載のとおりである。あわせて、アミノ酸と核酸のグル
タミン酸当量、当該当量の比率、及びEUCの値も表2に記載した。
【0071】
【0072】
<官能評価>
試験例1乃至5について、対照区分と比較して、官能評価により卵様のコクの評価を行
った。評価は、訓練されたパネリスト34名により構成されるパネルにより行った。評価
は、評点法により行った。各パネリストが各試験区分について、対照区分を4点として、
7段階評価で行った。評点が4点に近づくにつれて、卵様のコクを有することを意味する
こととした。パネリスト34名の評点データに基づき、平均値を得た。統計解析は、Du
nnet検定を用い、対照区分との比較を実施した。
【0073】
<卵様のコクに関する評点>
1:卵様のコクを、とても弱く感じる
2:卵様のコクを、弱く感じる
3:卵様のコクを、やや弱く感じる
4:卵様のコクを、卵と同等に感じる
5:卵様のコクを、やや強く感じる
6:卵様のコクを、強く感じる
7:卵様のコクを、とても強く感じる
【0074】
<結果>
試験例1では、対照と比較して有意差があり、卵様のコクは弱かった(p<0.05)
。試験例2乃至4は、対照と比較して有意差がなく、卵様のコクを感じられた。試験例5
は、対照と比較して差がある傾向がみられ、卵様のコクは弱くなる傾向が見られた(p<
0.1)。(表3、
図2)
【0075】
【0076】
<考察>
試験の結果より、卵様食品を作る上で、スクランブルエッグ様のコクの風味プロファイ
ルを得るには、アミノ酸由来のグルタミン酸当量に対する、核酸由来のグルタミン酸当量
が、0.29以上、かつ、0.80以下とすることが良いことがわかった。すなわち、同
じグルタミン酸当量であっても、アミノ酸と核酸由来のグルタミン酸当量の違いにより、
卵様のコクの風味プロファイルを形成できる場合とできない場合があることがわかった。
これは、グルタミン酸当量が同じであっても、アミノ酸に由来するコクは、先味として感
じられやすい一方、核酸に由来するコクは、後味として感じられやすいことが影響してい
る可能性が考えられた。