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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075364
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】差動装置の製造方法および差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20240527BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20240527BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
F16H48/40
F16H48/08
F16H55/17 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186763
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】津田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】西本 大地
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC08
3J030BA05
3J030BC02
3J030BD07
3J030CA10
(57)【要約】
【課題】溶接のオーバーラップ部にかかるトルクを低減する。
【解決手段】差動装置は、リングギアと、窓部を有するデフケースと、を備える。差動装置の製造方法は、溶接装置により、リングギアとデフケースとを、リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接する溶接工程を有する。溶接工程において、溶接の開始点と終了点とを、デフケースの窓部が位置する領域の周部に設定し、周部において溶接をオーバーラップさせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギアと、窓部を有するデフケースと、を備えた差動装置の製造方法であって、
前記リングギアと前記デフケースとを、前記リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接する溶接工程を有し、
前記溶接工程において、溶接の開始点と終了点とを、前記デフケースの前記窓部が位置する領域の周部に設定し、前記周部において溶接をオーバーラップさせる、差動装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記デフケースは、
中空のケース部を備え、
前記ケース部は、前記ケース部の内部に収容されたシャフトを支持する軸孔と、
前記ケース部の内部と外部とを連通させる前記窓部と、を有し、
前記窓部は、前記軸孔に対して、前記回転軸周りの周方向に位置をずらして設けられている、差動装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ケース部の、前記窓部および前記軸孔から前記回転軸方向に離れた位置に、前記リングギアの内周部に嵌合する嵌合部が設けられ、
前記溶接工程において、前記リングギアの内周部と前記ケース部の嵌合部との接合部が溶接され、
前記周部は、前記回転軸方向から見て、前記接合部の、前記窓部が位置する領域と周方向位置が重なる部分である、差動装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記デフケースの周方向位置を判定する判定工程を有し、
前記デフケースの周方向位置に基づいて、前記溶接の開始点を設定する、請求項1記載の差動装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記デフケースは、
前記窓部およびマークが設けられた中空のケース部を有し、
前記マークは、前記窓部に対して、前記回転軸周りの周方向に位置をずらして設けられ、
前記判定工程において、前記マークを検出して、前記デフケースの周方向位置を判定する、差動装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記判定工程において、
前記デフケースを前記回転軸回りに回転させながら、前記マークの検出を行い、
前記マークを検出してから、前記マークから前記窓部が位置する領域までの回転移動に要する時間が経過したタイミングで前記マークの検出位置に位置する前記デフケースの周方向位置を判定する、差動装置の製造方法。
【請求項7】
リングギアと、窓部を有するデフケースと、を備え、
前記リングギアと前記デフケースとが、前記リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接された差動装置であって、
前記デフケースの前記窓部が位置する領域の周部において、溶接のオーバーラップ領域が位置する、差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置の製造方法および差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、デフケースと、デフケースに固定されたリングギアと、を備えた差動装置を開示している。デフケースとリングギアの接合部は、リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019―168077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接装置では、溶接を開始してからレーザの照射パワーが要求値に達するまで時間差がある。そのため、溶接不良となる部分が生じないように、デフケースとリングギアの接合部において、溶接をオーバーラップさせたオーバーラップ領域を設ける。
接合部に形成される溶接部の中で、オーバーラップ領域は、溶接の熱が2回加えられるため、他の領域と比較して耐久性が低くなる傾向がある。そのため、オーバーラップ領域に高いトルクがかかることは望ましくない。
【0005】
溶接のオーバーラップ領域にかかるトルクを低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、
リングギアと、窓部を有するデフケースと、を備えた差動装置の製造方法であって、
前記リングギアと前記デフケースとを、前記リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接する溶接工程を有し、
前記溶接工程において、溶接の開始点と終了点とを、前記デフケースの前記窓部が位置する領域の周部に設定し、前記周部において溶接をオーバーラップさせる。
【0007】
本発明のある態様は、
リングギアと、窓部を有するデフケースと、を備え、
前記リングギアと前記デフケースとが、前記リングギアの回転軸周りの全周に亘って溶接された差動装置であって、
前記デフケースの前記窓部が位置する領域の周部において、溶接のオーバーラップ領域が位置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のある態様によれば、溶接のオーバーラップ領域にかかるトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、差動装置の構成を示す断面模式図である。
図2図2は、組付け状態のデフケースとリングギアの外観図である。
図3図3は、図2を矢印A方向から見た図である。
図4図4は、図2を矢印B方向から見た図である。
図5図5は、図3を軸線Yに沿って切断した断面図である。
図6図6は、差動装置の製造方法を説明する図である。
図7図7は、判定工程におけるマークの検出を説明する図である。
図8図8は、判定工程におけるデフケースの周方向位置の判定を説明する図である。
図9図9は、溶接におけるレーザのパワーの変化を示すグラフである。
図10図10は、溶接のオーバーラップ領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、差動機構を適用した動力伝達装置の構成を示す断面模式図である。
図2は、組み付け状態のデフケースとリングギアの外観図である。
図3は、図2を矢印A方向から見た図である。
図4は、図2を矢印B方向から見た図である。
図5は、図3を軸線Yに沿って切断した断面図である。
【0011】
実施形態では、一例として、車両に搭載された動力伝達装置に差動装置を適用する例を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1は、アイドラギア3、差動装置4およびドライブシャフトDA、DBを備える。
アイドラギア3は、モータ(不図示)の出力回転を減速して差動装置4に入力する。差動装置4は、アイドラギア3から入力された回転を、ドライブシャフトDA、DBを介して車両の左右の駆動輪(不図示)に伝達する。モータの出力回転の伝達経路に沿って、アイドラギア3と、差動装置4と、ドライブシャフトDA、DBと、が設けられている。
【0012】
アイドラギア3および差動装置4は、ギアケース8に収容される。ギアケース8の回転軸X方向における一端側(図中、右側)および他端側(図中、左側)には、開口81、82が設けられている。ドライブシャフトDA、DBは、ギアケース8の外部から、開口81、82を貫通して、ギアケース8の内部に延在している。
【0013】
ドライブシャフトDAには、円筒状のモータシャフト20が外挿されている。モータシャフト20は、モータシャフト20は、不図示のモータの出力回転を、ギアケース8の内部に設けられたアイドラギア3に伝達する。
ギアケース8の内部において、モータシャフト20の外周に、インプットギア23がスプライン嵌合している。インプットギア23の外周には、アイドラギア3のラージギア33が、回転伝達可能に噛合している。アイドラギア3においてラージギア33は、円筒状の軸部31の外周にスプライン嵌合している。軸部31は、ベアリングB3、B3を介してギアケース8内に回転可能に支持されている。軸部31は、回転軸Xに平行な回転軸X1回りに回転する。
軸部31の外周には、スモールギア32が形成されている。スモールギア32は、ラージギア33の外径よりも小さい外径で形成されている。
【0014】
差動装置4は、デフケース5と、デフケース5に固定されたリングギア6と、を備える。
スモールギア32は、リングギア6に回転伝達可能に噛合している。
リングギア6は、例えば外歯式のはすば歯車とすることができる。リングギア6は、回転軸X方向から見て円環状である。リングギア6は、スモールギア32に噛合する歯部が形成された外周部61と、後記するデフケース5のケース部50が嵌合する内周部62を備える。
【0015】
図2に示すように、デフケース5は、回転軸Xを周方向に囲む略球状のケース部50を有する。ケース部50は中空である。図1に示すように、ケース部50の内部には、シャフト71、かさ歯車72、73およびサイドギア74、75が収納されている。
図5に示すように、ケース部50は、回転軸X方向の中心部分より他端側(図中、左側)に、傾斜部50aを有する。傾斜部50aは、回転軸X方向の他端側に向かうにつれて、回転軸Xに近づく方向に傾斜している。ケース部50は、回転軸X方向における中心部分から一端側にかけて、回転軸Xから離れる方向に膨出する肉厚部50bを有する。
【0016】
ケース部50の回転軸X方向の一端(図中、右側)および他端(図中、左側)には、筒状の支持部501、502が設けられている。支持部501、502は、シャフト71から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
図1に示すように、支持部501には、ベアリングB2が外挿されている。支持部501は、ベアリングB2を介して、ギアケース8の内部に設けられたカバー9に回転可能に支持されている。
支持部502には、ベアリングB2が外挿されている。支持部502は、ベアリングB2を介して、ギアケース8で回転可能に支持されている。
支持部502には、ギアケース8の他端側の開口82を貫通したドライブシャフトDBが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフトDBは、支持部502で回転可能に支持されている。
支持部501には、ギアケース8の一端側の開口81を貫通したドライブシャフトDAが、回転軸X方向から挿入されている。
ドライブシャフトDAは、モータシャフト20と、インプットギア23の内径側と、カバー9を回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフトDAの先端側が、支持部501で回転可能に支持されている。
【0017】
ケース部50の内部では、ドライブシャフトDA、DBの先端部の外周に、サイドギア74、75がスプライン嵌合している。サイドギア74、75は、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸X方向に間隔を空けて2つ設けられており、サイドギア74、75の間には、シャフト71が位置している。
【0018】
図5に示すように、ケース部50の肉厚部50bには、軸孔51a、51bが形成されている。軸孔51a、51bは、回転軸Xに直交する方向にケース部50を貫通して設けられている。軸孔51a、51bは、重力方向から見て互いにオーバーラップしている。シャフト71の一端と他端は、軸孔51a、51bに挿入されている。シャフト71は、ケース部50を貫通するピンP(図1参照)によって位置決めされている。
図1に示すように、シャフト71には、2つのかさ歯車72、73が外挿して回転可能に支持されている。かさ歯車72、73は、シャフト71の長手方向(軸線Y方向)で間隔を空けて設けられている。かさ歯車72、73は、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。
ケース部50の内部において、かさ歯車72、73とサイドギア74、75とは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0019】
図5に示すように、ケース部50の肉厚部50bには、フランジ52が形成されている。フランジ52は、軸孔51a、51bの、回転軸X方向における一端側(図中、右側)に位置する。フランジ52は、ケース部50の肉厚部50bから回転軸Xの径方向外側に突出している。フランジ52は、ケース部50を回転軸X周りの全周に亘って囲む。
肉厚部50bの回転軸X方向における一端側(図中、右側)の外周には、回転軸X方向に突出する環状部53(嵌合部)が設けられている。環状部53は、支持部501を間隔を空けて回転軸X周りの周方向に囲んでいる。環状部53は、回転軸X方向における他端側(図中、左側)においてフランジ52に接続している。
図5に示すように、デフケース5の環状部53の回転軸X方向の長さD1は、リングギア6の内周部62の回転軸X方向の長さと整合している。デフケース5の環状部53の外径D2は、リングギア6の内径と整合している。
【0020】
図2に示すように、ケース部50には、窓部54が設けられている。
窓部54は、ケース部50の内部と外部を連通させる開口として設けられている。窓部54は、回転軸Xの径方向に開口する。窓部54を介して、かさ歯車72、73、サイドギア74、75(図1参照)が、ケース部50の内部に挿入されて組み付けられる。
窓部54は、軸孔51a、51bとは回転軸X周りの周方向に位置をずらして設けられている。
図3に示すように、窓部54は、回転軸Xおよび軸線Yに直交する線L1に沿った位置に設けられている。
窓部54は、線L1の一端側(図中、上側)と他端側(図中、下側)の2箇所に設けられている。2つの窓部54、54は、軸孔51a、51bが位置する軸線Yを挟んで対称に配置されている。
【0021】
図5に示すように、窓部54は、ケース部50の傾斜部50aおよび肉厚部50bにまたがって設けられている。窓部54は、回転軸Xの径方向から見て、略楕円形を成している。窓部54は、回転軸X方向における他端側(図中、左側)から中心に向かって開口幅が広がり、中心から一端側(図中、右側)に向かって開口幅が狭くなっている。ここで、開口幅とは、回転軸X周りの周方向における幅を意味する。
窓部54は、回転軸X方向の一端側においてフランジ52に接続している。窓部54は、フランジ52の回転軸X方向における一端側に位置する環状部53(嵌合部)に対して、回転軸X方向に離れた位置に設けられている。
【0022】
図3に、窓部54の回転軸X方向における一端側(図中、紙面奥側)における境界線L2、L3を示している。
窓部54の境界線L2から境界線L3までの範囲を、以降、窓部領域54a(窓部54が位置する領域)という。図3では、窓部領域54aにハッチングを付して示している。
【0023】
図2に示すように、ケース部50の傾斜部50aには、マーク55が設けられている。マーク55は、軸孔51a、51bに対して、回転軸X方向における他端側(図中、左側)に位置している。
図3に示すように、マーク55は、回転軸X方向から見て、軸孔51a、51bを通る軸線Yに沿った位置に設けられている。マーク55は、軸線Yの一端側(図中、右側)と他端側(図中、左側)の2箇所に設けられている。2つのマーク55、55は、線L1を挟んで対称に配置されている。
2つのマーク55、55は、それぞれ、回転軸X周りの周方向において、2つの窓部54、54の間に配置されている。言い換えると、マーク55は、窓部54に対して、回転軸X周りの周方向において位置をずらして設けられている。
【0024】
マーク55は、ケース部50の傾斜部50aに形成された矩形状の枠部56内に配置されている。図2図3ではマーク55を模式的にクロスハッチングで示しているが、マーク55は、例えば、ケース部50の傾斜部50aに形成した刻印とすることができる。マーク55は、例えば、後記する判定装置100のカメラ102により読み取り可能な文字、図形等とすることができる。一例として、マーク55は、デフケース5の製品情報をコード化したバーコードまたは2次元コード等とすることができる。
【0025】
図5に示すように、リングギア6に、ケース部50を内嵌させることで、デフケース5とリングギア6は組み付けられる。さらに、リングギア6とデフケース5が、回転軸X周りの周方向の全周に亘って溶接されることで、デフケース5とリングギア6が固定される。
具体的には、リングギア6の内周部62に、デフケース5の環状部53(嵌合部)の外周が嵌合する。ケース部50の肉厚部50bから回転軸Xの径方向外側に突出するフランジ52が、リングギア6の内周部62の、回転軸X方向における他端側(図中、左側)の面に当接する。これによって、リングギア6が位置決めされる。図4に示すように、リングギア6の内周部62は、デフケース5の環状部53を外周側で取り囲む。
【0026】
図4に示すように、デフケース5とリングギア6が組み付けられると、デフケース5の環状部53とリングギア6の内周部62が接合する接合部JPが形成される。図4では、接合部JPを太線で示している。接合部JPは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って形成され、回転軸X方向から見て環状を成す。
本実施形態では、この接合部JPを溶接することで、デフケース5とリングギア6を固定する。
図5に示すように、接合部JPを回転軸X方向における一端側から溶接する。これによって、接合部JPには、溶接部WPが形成される。溶接部WPは、デフケース5の環状部53とリングギア6の内周部62にまたがる形で形成され、回転軸X方向から見た場合に環状を成す。
【0027】
溶接部WPは、デフケース5とリングギア6を構成する材料を溶融して一体化された合金から構成される。一例として、デフケース5は鋳鉄、リングギア6は炭素鋼から構成される。これらの材料は融点が大きく異なるため、溶接すると内部応力が高くなる傾向がある。そこで、デフケース5とリングギア6を溶接する際に、ニッケルワイヤ等の材料を同時に添加することで、溶接部WPの内部応力を下げ、耐久性を高めることができる。ニッケルワイヤを添加した場合、溶接部WPは3種合金で構成される。
【0028】
溶接部WPが形成される接合部JPは、窓部54とは、回転軸X方向において離れて位置している。
図4では、回転軸X方向から見た窓部54の境界線L2、L3と窓部領域54aの位置をハッチングで示している。図4に示すように、接合部JPは、回転軸X方向から見た場合、窓部領域54aと回転軸X周りの周方向の位置(以降、単に「周方向位置」という)が重なる部分を有する。接合部JPの、窓部領域54aと周方向位置が重なる部分を、以降「周部JPa」という。
なお、「周方向位置が重なる」とは、図4に例示するように周部JPaが、回転軸X方向から見て窓部領域54aとオーバーラップする場合だけでなく、周部JPaが、窓部領域54aの外周側または内周側に位置する場合も含む。
【0029】
続いて、差動装置4の製造方法を説明する。
図6は、差動装置4の製造ラインの一部を示す図である。
図7は、判定工程におけるマーク55の検出を説明する図である。
図8は、判定工程におけるデフケース5の周方向位置P1の判定を説明する図である。図7および図8では、判定装置100の支持台101は図示を省略している。
図6に示すように、差動装置4の製造ラインの一部として、判定装置100と、溶接装置200とが設けられている。
判定装置100は、デフケース5の周方向位置P1を判定し、判定した周方向位置P1に基づいて、溶接の開始点SPを設定する判定工程を行う(図4参照)。
溶接装置200は、判定装置100で設定された溶接の開始点SPに基づいて、デフケース5とリングギア6の溶接工程を行う。
図3に示すように、周方向位置P1は、窓部領域54a(境界線L2から境界線L3の範囲)内の位置である。図4に示すように、接合部JPの周部JPaは、窓部領域54aと周方向位置が重なる部分である。周部JPaの、デフケース5の周方向位置P1に位置する箇所が、溶接の開始点SPに設定される。
【0030】
<判定工程>
図6に示すように、判定装置100は、支持台101、カメラ102及び制御装置103を備える。カメラ102及び制御装置103は、判定装置100におけるマーク検出部として機能する。本実施形態において、判定装置100は、デフケース5に設けられたマーク55を検出することで、窓部領域54a内の周方向位置P1を判定する。
【0031】
支持台101は、デフケース5を、回転軸Xが鉛直線方向に沿う形で支持する。デフケース5は、傾斜部50aが上側に位置し、肉厚部50bが下側に位置する状態で支持台101に支持される。すなわち、デフケース5は、ケース部50の傾斜部50aに形成されたマーク55が、上側に位置するように支持される(図7参照)。
図示は省略するが、支持台101は、デフケース5を回転軸X回りに回転させる回転機構を備える。回転機構は、例えば回転シャフトとモータ等から構成することができる。モータは、例えば、エンコーダを備えたサーボモータとすることができ、制御装置103によって回転角度や回転速度が制御される。
【0032】
カメラ102は不図示のフレーム等により、支持台101の上側に支持されている。
図7に示すように、カメラ102は、鉛直線方向に沿った回転軸Xに対して傾けて配置されている。カメラ102は、ケース部50の傾斜部50aを斜め上側から撮影する。カメラ102は、支持台101に対して、回転軸X周りの周方向位置Pdに配置されている。カメラ102の周方向位置Pdを、以降、検出位置Pdという。
図6に示すように、判定装置100の制御装置103は、支持台101によりデフケース5を回転軸X回りに回転させると共に、カメラ102によりデフケース5を連続的に撮影する。制御装置103は、カメラ102が撮影した画像を取得して、公知の画像解析処理により、画像に映るマーク55を検出する。図7に示すように、マーク55は、デフケース5の回転軸X回りに回転によって回転軸X周りの周方向に移動し、カメラ102の検出位置Pdを通過する際に、カメラ102の撮影する画像に映る。
【0033】
図8に示すように、制御装置103は、カメラ102の画像からマーク55を検出してから所定時間Tが経過したタイミングで、支持台101の回転を停止させる。所定時間Tは、図3に示すように、マーク55から窓部領域54a(境界線L2から境界線L3の範囲)内の周方向位置P1までの距離Dを、支持台101が回転移動するのに要する時間である。所定時間Tは、マーク55から周方向位置P1までの距離Dと、支持台101の回転速度に基づいて予め決定される。
図8に示すように、マーク55を検出してから所定時間Tが経過したタイミングで支持台101の回転を停止させると、カメラ102の検出位置Pdには、デフケース5の周方向位置P1が位置することになる。判定装置100は、カメラ102の検出位置Pdで停止したデフケース5の周方向位置を、周方向位置P1として判定する。
【0034】
判定装置100は、判定した周方向位置P1に基づいて、溶接の開始点SPを設定する。
図7および図8では、後記する溶接装置200で、デフケース5に組み付けられるリングギア6の一部を仮想線で図示している。デフケース5とリングギア6が組み付けられると、環状部53と内周部62が接合する接合部JPが形成される。前記したように、接合部JPに対して溶接が行われる。
図3に示すように、周方向位置P1は窓部領域54a内にある。そのため、図8に示すように、周方向位置P1には、接合部JPにおいて、窓部領域54aと周方向位置が重なる周部JPaが位置することになる。溶接工程では、周部JPaにおいて、周方向位置P1に位置する箇所が、溶接の開始点SPとして設定される。
【0035】
なお、ケース部50には、窓部54およびマーク55がそれぞれ2箇所に設けられているが、判定装置100は、いずれか一つのマーク55を検出し、支持台101の回転方向(図7の反時計回り方向)において、検出したマーク55に近い窓部54の窓部領域54aの周方向位置P1を判定すれば良い。
【0036】
判定工程が終了すると、デフケース5は、周方向位置P1の位相を保った状態で、不図示のロボットアーム等によって、判定装置100から溶接装置200に移送される。
【0037】
<溶接工程>
図6に示すように、溶接工程を行う溶接装置200は、支持台201と、レーザ照射装置202と、ワイヤ供給装置203と、制御装置204と、を備える。
支持台201は、判定装置100から移送されたデフケース5と、デフケース5に組み付けられるリングギア6と、を支持する。
支持台201は、図示は省略するが、回転シャフトとモータ等から構成される回転機構を備える。モータは、例えば、エンコーダを備えたサーボモータとすることができ、制御装置204によって回転角度や回転速度が制御される。
レーザ照射装置202とワイヤ供給装置203は、支持台201の上側に配置されている。
ワイヤ供給装置203は、レーザ照射装置202がレーザを照射する位置(レーザ照射位置)において、ニッケルワイヤを供給する。レーザ照射装置202とワイヤ供給装置203の動作は、制御装置204によって制御される。
【0038】
図6に示すように、判定工程が終了すると、デフケース5は、不図示のロボットアーム等によって、判定装置100から溶接装置200の支持台201に移送される。デフケース5は、判定装置100で判定されたデフケース5の周方向位置P1の位相を保った状態で、鉛直線方向において180°回転されて支持台201に載置される。具体的には、デフケース5の周方向位置P1が、レーザの照射位置に合うように支持台201に載置される。
【0039】
支持台201は、デフケース5を、回転軸Xを鉛直線方向に沿わせた状態で支持する。デフケース5は180°回転されることによって、支持台201において、肉厚部50bが上側に位置し、傾斜部50aが下側に位置する。すなわち、デフケース5は、肉厚部50bに形成された環状部53(嵌合部)が上側に位置する状態で、支持台201に支持される。
【0040】
不図示のロボットアームにより、支持台201に支持されたデフケース5に対して、リングギア6が上側から組み付けられる。具体的には、図5に示すように、デフケース5の環状部53の外周が、リングギア6の内周部62に圧入嵌合される。デフケース5のフランジ52にリングギア6の内周部62の他端側が当接して位置決めされる。デフケース5の環状部53とリングギア6の内周部62が接合して、接合部JPが形成される。
接合部JPは、図6に示す支持台201の上側に位置するレーザ照射装置202とワイヤ供給装置203に対向する。
【0041】
デフケース5とリングギア6が組み付けられると、溶接装置200は接合部JPの溶接を開始する。
溶接装置200の制御装置204は、支持台201を回転させると共に、レーザ照射位置において、レーザ照射装置202により、接合部JPにレーザを照射する。
支持台201において、デフケース5とリングギア6は同軸に組み付けられており、支持台201を回転させることで、デフケース5とリングギア6は回転軸X回りに回転する。溶接装置200は、レーザ照射装置202とワイヤ供給装置203の位置は固定したまま、支持台201を回転させることで、接合部JPの全周に亘って溶接が行う。
【0042】
制御装置204は、レーザの照射と同時に、ワイヤ供給装置203により、接合部JPにニッケルワイヤを供給する。これによって、接合部JPにおけるニッケルワイヤと、デフケース5およびリングギア6を構成する素材が溶融し、凝固することで溶接部WPが形成される。
【0043】
前記したように、デフケース5は、判定装置100から周方向位置P1の位相を保った状態で支持台201に移送され、レーザの照射位置に、デフケース5の周方向位置P1が合わせられる。すなわち、判定装置100で設定された、接合部JPの周方向位置P1における溶接の開始点SPがレーザの照射位置に合わせられているため、溶接装置200では、開始点SPの位置合わせの作業を要することなく、スムーズに溶接を開始することができる。
【0044】
図9は、溶接におけるレーザのパワーの変化を示すグラフである。
図10は、溶接のオーバーラップ領域OAを説明する図である。図10は、溶接が行われる接合部JPと、溶接によって形成される溶接部WPを模式的に示した図である。
図9および図10に示すように、環状の接合部JPを溶接するに当たり、支持台201の回転角度は、360°以上に設定される。すなわち、溶接は、環状の接合部JPの全周を一周した後、さらに延長して行われる。これにより、図10に示すように、接合部JPに形成される溶接部WPには、2回溶接が行われるオーバーラップ領域OAが形成される。すなわち、溶接の終了点EPは、溶接の開始点SPと同じ位置(周方向位置P1)ではなく、回転軸X周りの周方向にずらした位置(周方向位置P2)に設定される。
【0045】
図9に示すように、レーザ照射装置202がレーザの照射を開始してから、レーザのパワーが溶接に要求される値(以降、「要求値VL」という。)に到達するまでに時間差がある。すなわち、溶接では、レーザのパワーが要求値VLに到達するまでの立ち上がり部aと、レーザのパワーが要求値VLで出力される一定出力部bが存在する。
環状の接合部JPを単純に360°の回転角度で溶接した場合、レーザのパワーが要求値VLに到達するまでの立ち上がり部aにおいて、デフケース5およびリングギア6を構成する材料とニッケルワイヤが十分に溶融されず、溶接不良が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、溶接を360°以上行って、溶接を重ねて行うオーバーラップ領域OAを設ける。これによって、立ち上がり部aにおける溶接不良の発生を低減する。
【0046】
図10に示すように、接合部JPの開始点SPから終了点EPまでの範囲が、オーバーラップ領域OAとなる。
ここで、レーザ照射装置202がレーザの照射を停止した場合、レーザのパワーは即時に0に下がるわけではない。図9の立ち下がり部cに示すように、レーザのパワーは要求値VLから0まで徐々に下がっていく。オーバーラップ領域OAにおいて、パワーの立ち上がり部aと立ち下がり部cが重なってしまうと、溶接が重ねて行われても溶接不良が発生する可能性がある。
そこで、オーバーラップ領域OAは、レーザのパワーの立ち上がり部aと立ち下がり部cが重ならないように、それぞれに対応する回転角度を合わせた範囲に設定とすることができる。
【0047】
図9に示すように、例えば、レーザのパワーの立ち上がり部aに対応する回転角度が8°であり、立ち下がり部cに対応する回転角度が20°であれば、オーバーラップ領域OAは、回転角度28°の範囲に設定することができる。この場合、一回の溶接における支持台201の回転角度は、388°に設定される。溶接の終了点EPは、開始点SPに対して回転軸X周りの周方向に28°分オフセットした位置に設定される。
このようにオーバーラップ領域OAを設定することで、図9に示すように、接合部JPの全周に亘って、一定出力部bでの溶接が行われるため、溶接不良を低減することができる。
【0048】
図9および図10に沿って、溶接装置200による溶接工程の流れを説明する。
溶接装置200の制御装置204が、支持台201を回転させると共に、レーザ照射装置202によるレーザの照射と、ワイヤ供給装置203によるニッケルワイヤの供給を開始することで、接合部JPの開始点SPから回転軸X周りの周方向に溶接が行われる。図10では、支持台201の回転方向を反時計回りとしている。この場合、接合部JPに対しては、支持台201の回転方向と反対の時計回りに溶接が行われる。
【0049】
図9の立ち上がり部aに示すように、レーザのパワーは徐々に大きくなり、回転角度8°に到達すると要求値VLに到達する。以降、一定出力部bに示すように、要求値VLが維持された状態で溶接が行われる。レーザの照射によって、接合部JPを構成するデフケース5およびリングギア6の材料と、接合部JPに供給されるニッケルワイヤとが溶融して、3種合金からなる溶接部WP(図5参照)が形成される。
図10に示すように、支持台201の回転角度が360°に到達すると、溶接は開始点SPに戻る。溶接はさらに継続され、パワーの立ち上がり部aに対応する回転角度8°が経過する回転角度368°まで、レーザの照射が継続される。支持台201の回転角度が368°に到達すると、制御装置204は、レーザ照射装置202を停止させる。
【0050】
制御装置204は、パワーの立ち下がり部cに対応する回転角度388°に到達するまで、支持台201の回転を続行する。制御装置204は、支持台201の回転角度が388°に到達する前に、ワイヤ供給装置203を停止させる。図9では、一例として、回転角度376°でワイヤ供給装置203を停止させる。これにより、レーザのパワーが0に近くなる終了点EP付近において、溶融されないニッケルワイヤが接合部JPに残存することが低減される。
制御装置204は、回転角度388°に到達すると、支持台201の回転を停止させる。これにより、接合部JPの終了点EPで溶接が終了する。
【0051】
本実施形態では、溶接のオーバーラップ領域OA(開始点SPから終了点EPまでの範囲)が、接合部JPにおける周部JPaに位置するように設定される。前記したように、周部JPaは、接合部JPにおいて、窓部領域54a(境界線L2~L3の範囲)と周方向位置が重なる部分である。
前記したように、オーバーラップ領域OAはパワーの立ち上がり部aおよび立ち下がり部cに対応する回転角度から設定されるが、本実施形態では、このオーバーラップ領域OAが周部JPaの範囲(境界線L2~L3の範囲)に入るように、溶接の開始点SPおよび終了点EPを周部JPaに設定する。
【0052】
溶接の開始点SPおよび終了点EPの位置は限定されないが、例えば、図10のように、開始点SPを境界線L2の近傍に設定することができる。支持台201の回転方向が図10と逆方向の場合は、開始点SPは、例えば、境界線L3の近傍に設定することができる。
なお、立ち上がり部aと立ち下がり部cに対応する回転角度は、支持台201の回転速度によって調節可能である。よって、オーバーラップ領域OAが周部JPaの範囲に入るように、支持台201の回転速度を適宜調節しても良い。
【0053】
本実施形態では、接合部JPにおいて、窓部領域54aと周方向位置が重なる周部JPaに溶接のオーバーラップ領域OAを設定することで、接合部JPに形成される溶接部WPのオーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減する。
溶接において、オーバーラップ領域OAには、レーザの熱が2回加えられることになる。そのため、溶接部WPのオーバーラップ領域OAは、他の領域と比較して耐久性が低くなる傾向がある。さらに、オーバーラップ領域OAにはニッケルワイヤが供給されない部分が生じることがある。具体的には、オーバーラップ領域OAの立ち上がり部aにおいては、ワイヤ供給装置203は動作するものの、レーザのパワーが要求値VLに達しないためニッケルワイヤが溶融されないことがある。また、オーバーラップ領域OAの終了点EP付近(回転角度376°~388°の範囲)では、ワイヤ供給装置203が停止されるため、ニッケルワイヤが供給されない。このように、溶接部WPにおいて、ニッケルワイヤが供給されない部分は、他の部分と比較して内部応力が高くなる傾向がある。
【0054】
図1に示すように、動力伝達装置1において、不図示のモータの回転によって発生したトルクは、モータシャフト20、アイドラギア3、リングギアを介してデフケース5に入力される。
デフケース5に入力されたトルクによってケース部50が回転すると、ケース部50の軸孔51a、51bに支持されたシャフト71が回転する。すなわち、図5に示すように、ケース部50の環状部53に固定されたリングギア6から、軸孔51a、51bに支持されたシャフト71へのトルクの伝達経路が形成される。
【0055】
溶接部WPは、ケース部50の環状部53とリングギア6の内周部62が接合する接合部JPに形成されるものである。そのため、溶接部WPにおいて、軸孔51a、51bと周方向位置が重なる部分は、ケース部50におけるトルクの伝達経路上に位置しているため、トルクがかかりやすい部分である。
一方、溶接部WPにおいて、窓部領域54aと周方向位置が重なる周部JPaは、軸孔51a、51bと回転軸X周りの周方向においてオフセットしている。すなわち、周部JPaは、ケース部50におけるトルクの伝達経路からオフセットしている。さらに、窓部54は開口であるため、トルクの伝達が窓部54の部分で途切れやすい。このように、溶接部WPの中で、窓部領域54aの周部JPaは、高いトルクがかかりにくい部分である。
そのため、図10に示すように、本実施形態では、接合部JPの周部JPaに、溶接のオーバーラップ領域OAを設定して溶接を行う。これによって、接合部JPに形成される溶接部WPのオーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減することができる。
【0056】
以下に、本実施形態にかかる差動装置4の製造方法の例を列挙する。
(1)差動装置4は、リングギア6と、窓部54を有するデフケース5と、を備える。
差動装置4の製造方法は、
溶接装置200により、リングギア6とデフケース5とを、リングギア6の回転軸X周りの全周に亘って溶接する溶接工程を有する。
溶接工程において、溶接の開始点SPと終了点EPとを、デフケース5の窓部領域54a(窓部54が位置する領域)の周部JPaに設定し、周部JPaにおいて溶接をオーバーラップさせる。
【0057】
これによって、リングギア6とデフケース5の接合部JPに形成される溶接部WPのオーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減することができる。
具体的には、溶接部WPのオーバーラップ領域OAは、レーザ照射装置202が照射するレーザの熱が2回加えられるため、溶接部WPの他の領域と比較して、耐久性が低くなる傾向がある。そのため、溶接部WPのオーバーラップ領域OAに高いトルクがかかることは望ましくない。
ここで、接合部JPの中で、窓部領域54aの周部JPaは、ケース部50におけるトルクの伝達が低減される部分である。本実施形態では、溶接工程において、溶接のオーバーラップ領域OAを接合部JPの周部JPaに位置させる。これによって、接合部JPに形成される溶接部WPのオーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減することができる。
【0058】
(2)デフケース5は、中空のケース部50を備える。
ケース部50は、ケース部50の内部に収容されたシャフト71を支持する軸孔51a、51bと、ケース部50の内部と外部とを連通させる窓部54と、を有する。窓部54は、軸孔51a、51bに対して、回転軸X周りの周方向に位置をずらして設けられている。
【0059】
窓部54は軸孔51a、51bに対して回転軸X周りの周方向に位置をずらして設けられている。そのため、窓部領域54aの周部JPaは、軸孔51a、51bに支持されるシャフト71へのトルク伝達経路からオフセットしている。また、窓部54はケース部50の内部と外部を連通させる開口であり、窓部54において、ケース部50におけるトルクの伝達が途切れやすい。すなわち、窓部領域54aの周部JPaにオーバーラップ領域OAを設けることで、オーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減することができる。
【0060】
(3)ケース部50の、窓部54および軸孔51a、51bから回転軸X方向に離れた位置に、リングギア6の内周部62に嵌合する環状部53(嵌合部)が設けられる。
溶接工程において、リングギア6の内周部62とケース部50の環状部53との接合部JPが溶接される。
周部JPaは、回転軸X方向から見て、接合部JPの、窓部領域54aと周方向位置が重なる部分である。
【0061】
周部JPaは、溶接が行われる接合部JPの中で、窓部領域54aと周方向位置が重なる部分であるため、トルクの伝達が低減される部分である。この部分にオーバーラップ領域OAを設けることで、オーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減することができる。
【0062】
(4)差動装置4の製造方法は、
デフケース5の周方向位置P1を判定する判定工程を有する。
判定工程で判定されたデフケース5の周方向位置P1に基づいて、溶接の開始点SPを設定する。
【0063】
これにより、判定工程で判定されたデフケース5の周方向位置P1に基づいて、窓部領域54aの周部JPaに溶接の開始点SPを設定することができる。溶接工程において手作業で開始点SPを位置合わせする必要がなく、差動装置4の製造効率を向上させることができる。
【0064】
(5)デフケース5は、例えば、窓部54およびマーク55が設けられた中空のケース部50を有する。
マーク55は、窓部54に対して、回転軸回りの周方向に位置をずらして設けられる。
差動装置4の製造方法の判定工程において、判定装置100のカメラ102および制御装置103から構成されるマーク検出部がマーク55を検出する。制御装置103は、マーク55の検出位置Pdに基づいて、ケースの周方向位置P1を判定する。
【0065】
窓部54はケース部50において比較的広い範囲を占める開口である。一方、マーク55は、例えば、ケース部50に刻印して形成されるもので、窓部54と比較して小さいものであることが多く、カメラ102の撮影画像から検出しやすい。また、マーク55がバーコードまたは2次元コード等であれば、カメラ102の画像から容易に検出することができる。窓部54は、マーク55に対して回転軸X周りの周方向に位置をずらして設けられている。そのため、マーク55を検出すれば、窓部54とマーク55の位置関係から、窓部領域54aに位置する周方向位置P1を判定することができる。
このように、マーク55を利用することで、ケースの周方向位置P1を容易に判定することができる。
【0066】
(6)差動装置4の製造方法の判定工程において、
判定装置100により、デフケース5を回転軸X回りに回転させながら、マーク55の検出を行うことができる。
判定装置100は、マーク55を検出してから、所定時間T(マーク55から窓部54が位置する領域までの回転移動に要する時間)が経過したタイミングで、マーク55の検出位置Pdに位置するデフケース5の周方向位置P1を判定することができる。
【0067】
これによって、マーク55を検出したから所定時間T経過したタイミングで、デフケース5の回転を停止させれば、検出位置Pdには、デフケース5の周方向位置P1が位置することになる。これによって、デフケース5の周方向位置P1の判定を容易に行うことができる。
【0068】
また、本実施形態にかかる差動装置4は、例えば、以下の構成を有する。
(7)差動装置4は、リングギア6と、窓部54を有するデフケース5と、を備え、リングギア6とデフケース5とが、リングギア6の回転軸回りの全周に亘って溶接される。
差動装置4のデフケース5の窓部54が位置する領域の周部JPaにおいて、溶接のオーバーラップ領域OAが位置する。
【0069】
これによって、リングギア6とデフケース5の接合部JPに形成される溶接部WPのオーバーラップ領域OAにかかるトルクを低減して、差動装置4の耐久性を向上させることができる。
【0070】
前記した実施形態では、判定工程において、ケース部50に設けられたマーク55を検出することで、デフケース5の周方向位置P1を判定する例を説明したが、この態様に限定されない。
たとえば、判定装置100の制御装置103は、カメラ102の撮影した画像から、窓部54を検出するようにしても良い。この場合、制御装置103に対して、窓部54の形状を、機械学習等により予め学習させておく。制御装置103は、カメラ102の撮影した画像から窓部54を検出したタイミングで、支持台101の回転を停止させる。制御装置103は、検出位置Pdで停止した位置を、デフケース5の周方向位置P1を判定することができる。
【0071】
前記した実施形態では、判定装置100と溶接装置200を別個に設ける例を説明したが、この態様に限定されない。例えば、溶接装置200に判定装置100を組み込んでも良い。この場合、溶接装置200においてデフケース5とリングギア6を組み付けた後に、判定工程を行っても良い。溶接装置200の支持台201を回転させながら、カメラ102によりデフケース5を撮影して周方向位置P1を判定する。例えば、窓部54を検出して周方向位置P1を判定する場合には、カメラ102はレーザの照射位置に設けることができる。判定装置100の制御装置103は、カメラ102の撮影画像から窓部54を検出したタイミングで支持台201の回転を停止させることで、デフケース5周方向位置P1を判定することができる。この場合、周方向位置P1における接合部JPの開始点SPがレーザの照射位置に位置するため、スムーズに溶接を開始することができる。
【0072】
前記した実施形態では、ケース部50の2箇所にマーク55を設ける例を説明したが、マーク55は1箇所にのみ設けても良い。
【0073】
本実施形態では、本発明のある態様における差動装置を、車両に搭載される動力伝達装置に適用する例を説明したが、この態様に限定されない。本発明は、車両以外にも適用することができる。また、本実施形態において複数の実施例、変形例が記載されている場合は、これらを任意に組み合わせても良い。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
4 差動装置
5 デフケース
50 ケース部
53 環状部(嵌合部)
54 窓部
54a 窓部領域(窓部が位置する領域)
55 マーク
6 リングギア
62 内周部
JP 接合部
JPa 周部
SP 開始点
EP 終了点
OA オーバーラップ領域
WP 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10