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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075375
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】銅のエッチング剤
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20240527BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C23F1/18
H05K3/06 N
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186779
(22)【出願日】2022-11-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸弘
【テーマコード(参考)】
4K057
5E339
【Fターム(参考)】
4K057WA04
4K057WA10
4K057WB04
4K057WE03
4K057WE08
4K057WE25
4K057WF06
4K057WN01
5E339BC02
5E339BE13
5E339EE10
(57)【要約】
【課題】安定してエッチング後の平滑性を維持することができる銅のエッチング剤の提供を課題とする。
【解決手段】上記課題を解決する手段としては、エッチング剤は、過酸化水素と、硫酸と、芳香族化合物と、塩素イオンとを含み、前記芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基及び/又はカルボキシ基が結合された構造を含む。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素と、硫酸と、芳香族化合物と、塩素イオンとを含み、
前記芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基及び/又はカルボキシ基が結合された構造を含む、銅のエッチング剤。
【請求項2】
前記塩素イオンを0.000020質量%以上0.02質量%以下含む請求項1に記載の銅のエッチング剤。
【請求項3】
前記芳香族化合物は、フェノール類、安息香酸化合物、2-ヒドロキシ安息香酸、5-スルホサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸イソアミル、アセチルサリチル酸からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の銅のエッチング剤。
【請求項4】
トリアゾール類をさらに含む請求項1に記載の銅のエッチング剤。
【請求項5】
前記トリアゾール類は、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4トリアゾール、4-アミノ-3-メルカプト-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾール、からなる群から選択される1種以上である請求項4に記載の銅のエッチング剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅のエッチング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体やプリント配線基板の製造過程では、ウェットエッチングにより、金属のパターニングや凹部の形成が行われる。例えば、半導体の製造工程では、溝や凹部(リセス)の形成にウェットエッチングが利用されている。また、プリント配線基板の製造工程においては、ウェットエッチングにより銅等からなる金属層をパターニングして、金属配線を形成している。
【0003】
配線の形成方法の一種であるセミアディティブ法による銅配線の形成においては、絶縁基板上に「シード層」と呼ばれる銅層を無電解めっきによって形成し、シード層上にめっきレジストを形成した後、電解銅めっきにより、シード層上のレジスト開口部にパターンめっきを行う。その後、めっきレジストを除去し、配線間に残存したシード層をウェットエッチング除去することにより、銅配線が形成される。かかるウェットエッチングによるシード層除去においては、シード層だけでなく、銅配線部分もエッチング剤によってエッチングされるため、かかるエッチングが配線形状や特性に影響を与える場合がある。
【0004】
このようなシード層を除去するエッチング剤については、例えば、特許文献1及び2に記載されているものがある。
特許文献1には、硫酸及び過酸化水素を含み、さらにベンゾトリアゾール化合物及びアミン化合物を含むエッチング剤が記載されている。特許文献1には、かかるエッチング剤はシード層除去時の銅配線のアンダーカットを抑制できることが記載されている。
特許文献2には、硫酸及び過酸化水素を含み、さらにアミノ酸、アゾール類等の含窒素複素環式化合物、ハロゲン等を含むエッチング剤が記載されている。特許文献2には、かかるエッチング剤はシード層除去後にも銅配線等の表面形状が平滑に維持できることが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の、いわゆる硫酸過酸化水素系のエッチング剤によるエッチングでは、エッチング後の銅表面の平滑性が不十分であり、特に、連続してエッチング処理を行った場合にエッチング後の平滑性を安定して維持することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-202242号公報
【特許文献2】特開2021-195572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、安定してエッチング後の銅表面の平滑性を維持することができる銅のエッチング剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、過酸化水素と、硫酸と、芳香族化合物と、塩素イオンとを含み、前記芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基及び/又はカルボキシ基が結合された構造を含む。
【0009】
前記塩素イオンを0.000020質量%以上0.02質量%以下含んでいてもよい。
【0010】
前記芳香族化合物は、フェノール類、安息香酸化合物、2-ヒドロキシ安息香酸、5-スルホサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸イソアミル、アセチルサリチル酸からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0011】
トリアゾール類をさらに含んでいてもよい。
【0012】
前記トリアゾール類は、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4トリアゾール、4-アミノ-3-メルカプト-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾールからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安定してエッチング後の銅表面の平滑性を維持することができる銅のエッチング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、EDS装置によって試験基板の表面を分析した結果を示すチャートである。
図2図2は、EDS装置によって試験基板の表面を分析した結果を示すチャートである。
図3図3は、塩素イオン濃度の変化とSdr値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の銅のエッチング剤(以下、単にエッチング剤ともいう。)の実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態の銅のエッチング剤は過酸化水素と、硫酸と、芳香族化合物と、塩素イオンとを含み、前記芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基又は/及びカルボキシ基が結合された構造を含むエッチング剤である。
【0017】
[銅]
本実施形態のエッチング剤でエッチングする銅とは、銅(純銅)及び銅を含む銅合金であってもよい。以下、本明細書において「銅」は、銅又は銅合金を指す。
【0018】
[過酸化水素]
過酸化水素は、エッチング剤中で銅の酸化剤として作用する。
エッチング剤中の過酸化水素の濃度は、例えば、4質量%以上25質量%以下、又は5質量%以上20質量%以下の範囲である。
過酸化水素の濃度が上記範囲である場合には適切に銅の酸化剤として機能しうる。
【0019】
[硫酸]
硫酸は、エッチング剤中で酸化された銅を溶解させる成分として作用する。エッチング剤中で、銅は過酸化水素によって酸化銅となるが、かかる酸化銅は酸によって液中に溶解することで、銅がエッチングされる。
【0020】
エッチング中の硫酸の濃度は、例えば、5質量%以上30質量%以下、又は10質量%以上20質量%以下の範囲である。
硫酸の濃度が上記範囲である場合には酸化された銅を適切にエッチング剤中に溶解させることができる。
【0021】
[芳香族化合物]
芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基又は/及びカルボキシ基が結合された構造を有する化合物である。
本実施形態の芳香族化合物では、水酸基、カルボキシ基のうち、少なくとも1つがベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合されていることが好ましい。
ベンゼン環に水酸基が結合した構造を有する芳香族化合物としては、フェノール、メチルフェノール、ジメチルフェノールなどのフェノール類等が挙げられる。中でも、ベンゼン環に水酸基のみが結合した構造を有するフェノールが好ましい。
ベンゼン環にカルボキシ基が結合した構造を有する芳香族化合物としては、安息香酸、ニトロ安息香酸、アミノ安息香酸等の安息香酸に他の官能基が付加された付加物や安息香酸ナトリウム等の安息香酸の塩等の安息香酸化合物が挙げられる。
ベンゼン環に水酸基及びカルボキシ基が結合した構造有する芳香族化合物としては、2-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)、5-スルホサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸イソアミル、アセチルサリチル酸等が挙げられる。
水酸基及びカルボキシ基が両方ベンゼン環に結合している構造を有する化合物を芳香族化合物として用いた場合には、エッチング後の平滑性を特に好ましい状態に維持できるという利点がある。
【0022】
エッチング剤中の芳香族化合物の濃度は、例えば、0.0001質量%以上1質量%以下、又は0.0005質量%以上0.5質量%以下、又は0.0008質量%以上0.1質量%以下の範囲である。
芳香族化合物の濃度が上記範囲である場合には、エッチング後の平滑性をより好適な状態に維持することができる。
【0023】
[塩素イオン]
塩素イオンは、銅のエッチングを抑制する成分として作用する。
塩素イオンは、塩素イオン源をエッチング剤中に含むことで配合することができる。塩素イオン源としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0024】
エッチング剤中の塩素イオン濃度は、例えば、0.00001質量%以上0.5質量%以下、又は0.000015質量%以上0.05質量%以下、又は、0.00002質量%以上0.02質量%の範囲である。
塩素イオン濃度が上記範囲である場合には、銅のエッチング速度を適度に抑制できエッチング性能を好適な範囲に調整しやすくなる。
【0025】
[トリアゾール類]
本実施形態のエッチング剤は、トリアゾール類をさらに含むことができる。
本実施形態においてトリアゾール類とは、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、及び、トリアゾール骨格に各官能基が結合した誘導体を指す。
トリアゾール骨格とは、3つの窒素原子を含む5員環の含窒素複素環を含む化合物を指す。
前記誘導体としては、トリアゾール骨格に、アミノ基、メルカプト基、メチル基、エチル基などのアルキル基が結合した化合物が挙げられる。
中でも、アミノ基、メルカプト基が結合したトリアゾール誘導体が好ましい。
【0026】
より具体的には、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4トリアゾール、4-アミノ-3-メルカプト-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。
【0027】
エッチング剤中のトリアゾール類の濃度は、例えば、0.00001質量%以上1.0質量%以下、又は0.00005質量%以上0.5質量%以下、又は0.00009質量%以上0.48質量%以下の範囲である。
トリアゾールの濃度が上記範囲である場合には、エッチング後の平滑性をさらに好適な状態に維持しやすくなる。また、トリアゾールを含むことで、無電解銅めっき銅に対するエッチング性能が向上しやすくなる。従って、セミアディティブ法によるシード層を配線以外の部分に残存させることなく除去することに適したエッチング剤が得られる。
【0028】
[他の成分]
本実施形態のエッチング剤は必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の成分としては、例えば、各成分の溶解性を高める添加剤、同じく各成分の分解を抑制する添加剤、金属銅の酸化促進成分としての銅イオン源、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
例えば、金属銅の酸化促進成分である銅イオン源を含む場合には、銅イオン源としては、硫酸銅、有機酸の銅塩等が挙げられる。
銅イオン源を含む場合にはその含有量は1.4質量%以上4.2質量%以下程度であることが好ましい。
【0030】
尚、本実施形態のエッチング剤のpHは特に限定されるものではないがpH3以下、又は2以下等の範囲であることが挙げられる。
【0031】
[溶媒]
前記の各成分をイオン交換水、純水、超純水等の適切な溶媒に溶解させることによりエッチング剤を容易に調製することができる。
【0032】
エッチング剤の各成分は、特に記載がない場合を除き、例示されているものを単独で又は2以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
本実施形態のエッチング剤は、上記各成分を公知の方法で混合することで製造しうる。
尚、各成分は溶解性や分解性を考慮して、一部の成分をまず混合しておき、使用直前に全成分を混合してもよい。あるいは、溶媒の一部を混合した濃縮液を作成しておき、使用直前に残りの溶媒を混合することで適切な濃度のエッチング剤を作成してもよい。
【0034】
本実施形態のエッチング剤で、銅をエッチングする方法は特に限定されず、公知の方法で使用することができる。例えば、浸漬、スプレー等によるエッチング処理方法が挙げられる。処理温度、処理時間等の処理条件も適宜調整することができる。
例えば、スプレーでエッチングする場合には、スプレー圧は0.05~0.20MPa、液温度は20℃以上35℃以下、処理時間は20秒以上300秒以下等が挙げられる。
また、浸漬によるエッチングをする場合には、液温度は20℃以上35℃以下、処理時間は20秒以上300秒以下等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のエッチング剤でエッチングされた銅表面の平滑性を示す指標については、例えば、以下のような指標で評価しうる。
ISO25178に基づき測定される界面の展開面積比(Sdr)値が、例えば、0.20%以下、好ましくは0.18%以下、より好ましくは0.175%以下であることが挙げられる。
Sdr値は、測定表面の展開面積(表面積)が測定表面の面積に対してどれだけ増大しているかを示す値であり、この値が小さいほど表面が平滑であることを示している。この値は、例えば、公知の形状解析レーザー顕微鏡により測定することができる。詳細は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0036】
さらに、JIS B 0601(2013)に従って測定される算術平均粗さ(Ra)が、例えば、0.11μm以下、又は0.10μm以下、又は0.095μm以下であることが挙げられる。
また、JIS B 0601(2013)に従って測定される二乗平均平方根粗さ(Rq)が、例えば、0.125μm以下、好ましくは0.120μm以下であることが挙げられる。
Ra、Rqいずれも表面形状の粗さを示す基準であり、値が小さい方が凹凸が少ない(平滑)ことを示す。
この値は、例えば、公知のレーザー顕微鏡を用いて測定することができる。詳細は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0037】
本実施形態のエッチング剤で処理される銅は特に限定されるものではないが、特に、セミアディティブ法による銅配線の形成におけるシード層除去に使用されることが適している。
この場合、絶縁基板上に銅層である無電解銅めっきによってシード層を形成し、シード層上にめっきレジストを形成した後、電解銅めっきによりシード層上のレジスト開口部にパターンめっきを行う。その後、めっきレジストを除去し配線を形成し、配線間に残存したシード層を本実施形態のエッチング剤でウェットエッチング除去することにより配線が形成できる。
また、かかる配線形成において、配線の銅表面は平滑になり且つ配線のえぐれ(サイドエッチング)が少ない好適な配線形状を維持することができる。
このように配線等の銅表面の平滑性が維持されることで、電気信号の伝送損失を低減できるという利点がある。
【0038】
また、本実施形態のエッチング剤は、シード層除去に適したエッチング性能を有している。例えば、電解銅めっきによる銅層に対するエッチング速度よりも、無電解銅めっきによる銅層に対するエッチング速度が高いため、シード層除去性が高いと同時に配線に対するサイドエッチング等が少なく、配線形成工程におけるシード層除去に適している。
【0039】
また、本実施形態のエッチング剤は、連続してエッチング処理を行っても処理された銅表面の平滑性が低下することを抑制できる。従って、安定して平滑性の高い銅表面を得ることができる。
一般的なセミアディティブ法による銅配線の形成におけるシード層除去でのエッチングでは、配線やシード層の銅めっきに含まれる塩素イオンがエッチング剤中に混入することで処理数が多くなるにつれてエッチング剤中の塩素イオン濃度が高くなることが知られている。硫酸過酸化水素系のエッチング剤では、塩素イオンは適切な濃度範囲でエッチング剤中に含まれている場合にはエッチングを適度に抑制し、適切なエッチング速度を維持する作用があるが、濃度が上がりすぎるとエッチング性が極端に低下し、十分に銅が除去できなくなったり、エッチング後の平滑性が低下したりすることがある。
本実施形態のエッチング剤は、塩素イオン濃度が高くなってもエッチング性能の低下を抑制することができ、安定して平滑性の高い銅表面を得ることができる。
よって、連続して多数の基板等の被処理物を処理しても安定して平滑性の高い銅表面を得ることができる。
【0040】
本実施形態にかかるエッチング剤は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例0041】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】
[試験1:平滑性試験]
(エッチング剤)
本実施例で使用する各エッチング剤を準備した。
各エッチング剤は、以下の材料を表1~3に記載の各成分の濃度になるように溶媒であるイオン交換水に溶解した水溶液である。尚、表1~3には各成分の質量も併記するが、表中の成分以外にイオン交換水を加えて全量で1000gになるように調整した。さらに、後述する調整方法に従い、表1~3に記載の成分の他に過酸化水素100gを添加して、最終的には1100gのエッチング剤を調整した。
【0043】
(材料)
硫酸:日産化学社製、精製硫酸
硫酸銅:メルテックス社製
トリアゾール類
3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール:東京化成工業社製
1,2,4-トリアゾール:富士フイルム和光純薬社製
3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール:東京化成工業社製
3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール:大塚化学社製
3-アミノ-1H-1,2,4トリアゾール:富士フイルム和光純薬社製
4-アミノ-3-メルカプト-4H-1,2,4-トリアゾール:富士フイルム和光純薬社製
3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾール:東京化成工業社製
3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール:東京化成工業社製
アゾール
5-アミノテトラゾール:東京化成工業社製
ベンゾトリアゾール:キシダ化学社製
芳香族化合物
2-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸):富士フイルム和光純薬社製
フェノール:富士フイルム和光純薬社製
安息香酸:東京化成工業社製
5-スルホサリチル酸・二水和物:東京化成工業社製
サリチル酸メチル:富士フイルム和光純薬社製
アセチルサリチル酸:富士フイルム和光純薬社製
アミノ酸
β-アラニン:富士フイルム和光純薬社製
過酸化水素:ADEKA社製
【0044】
エッチング剤の調整方法は、イオン交換水(DI水)に硫酸、芳香族化合物又はアミノ酸を混合し、トリアゾール類又はアゾールを混合し十分に溶解させ、銅イオン源としての硫酸銅を混合する。エッチングをする直前に過酸化水素を混ぜる。
【0045】
(試験基板)
以下の試験用の基板1及び2を作成した。
基板1:厚さ0.2mm、サイズ340×510mmの銅張積層板(CCL)上に電解銅めっき液を用いてめっき層(20μm)を形成した基板を100×100mmにカットした。

基板2:厚さ725μm、直径200mmのウエハー上に絶縁樹脂(25μm)をラミネートし、絶縁樹脂上に無電解銅めっき液を用いてシード層(0.4μm)を作成し、該シード層の上に電解銅めっき液を用いて厚さ6μm、L/S=10/10μmのパターン層を作成した基板を10×10mmにカットした。
【0046】
(試験方法)
各エッチング剤を用いて基板1をエッチングした。
処理条件は、以下の通りである。
スプレー機を用いて、スプレー圧0.1MPaで基板上に温度25℃の各エッチング剤をスプレーし、銅のエッチング量が1.0μmとなるようにエッチング時間を調整してエッチングした。次いで、水洗を行い、乾燥させた。
【0047】
(評価方法)
エッチング後の試験基板を、以下の方法で評価した。
(1)界面の展開面積比(Sdr)値の測定
界面の展開面積比(Sdr)はコンフォーカル顕微鏡により測定した。コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製、OPTELICS HYBRID+)により、倍率50倍の対物レンズを使用してSdr値を測定した。
(2)算術平均粗さ(Ra)と二乗平均平方根粗さ(Rq)の測定方法
算術平均粗さ(Ra)と二乗平均平方根粗さ(Rq)はコンフォーカル顕微鏡により測定した。コンフォーカル顕微鏡(使用装置:OPTELICS HYBRID+、レーザーテック社製)により、倍率50倍の対物レンズを使用して測定した。算術平均粗さ及び二乗平均平方根粗さの測定は規格(JIS B 0633:2001)に準拠して行った。
結果を表1~表3に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1~3に示すように各実施例では、Sdr値が0.20%以下、Raが0.11μm以下、Rqが0.125μmの範囲であり、比較例に比べて平滑性が良好であった。
【0052】
[試験2:Cuの残存性評価]
上記実施例のうち実施例1及び8のエッチング剤(表中の成分に過酸化水素を100g添加済みのもの)及び基板2を用いて、基板2のパターン層の銅のエッチング量が0.5μmとなるように処理時間を調整し処理を行い、エッチング後の銅の残存性を調べた。
評価は、エッチング後の試験基板のパターンの間の樹脂部分の表面の3点を任意に選び、EDS(Energy dispersive X-ray spectrometry:エネルギー分散型X線分析)装置によって表面を分析した。使用した装置はJSM-IT200A(日本電子社製)であり、加速電圧10kvで分析を行った。
測定した3点のうちの1点の結果を図1及び2に示す。
【0053】
図1は、トリアゾールを含む実施例1のエッチング剤でエッチングした結果であるが、パターン間には、絶縁樹脂由来のC、Si、Oの存在を示す位置にピークが見られたが、Cuの存在を示す位置にはピークは現れなかった。
一方、図2は、トリアゾールを含まない実施例8のエッチング剤でエッチングした結果であるが、パターン間に、絶縁樹脂由来のC、Si、Oの存在を示す位置にピークが見られた他、Cuの存在を示す位置にもピークが見られた。尚、他の2点においてもそれぞれ同様の結果が得られた。
よってトリアゾールを含む実施例のエッチング剤で処理した試験基板は平滑性が良好であると同時にシード層銅の残存性も低いことがわかった。
【0054】
[試験3:塩素イオン濃度の影響]
表4に記載の各成分の濃度になるようにDI水を溶媒として用いて調整したエッチング剤を準備した。
銅めっき基板を長時間エッチングすることで、エッチング剤中に塩素イオンが溶け込むことを想定して、上記エッチング剤をベースに、塩素イオン濃度を0.25mg/Lから100mg/Lまで14種類変化させたエッチング剤で基板1をエッチングした。エッチング条件は上記試験1と同じである。尚、試験1と同様に表中の成分に過酸化水素を100gを添加してエッチング剤とした。
エッチング後のSdr値を試験1と同様の方法で測定した結果を表5及び図3に示す。
尚、エッチング速度は、エッチング前後に基板の重量を測定し、基板の面積とエッチング時間で割った値を、μm/分として算出した。
併せて表5に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
表5及び図3のグラフに示されているように、塩素イオン濃度が上がるとSdr値も上昇していくものの、100mg/Lまで塩素イオン濃度を上げた場合でも、Sdr値は0.2以下であった。また、エッチング速度も比較的安定していた。


図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-08-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
[芳香族化合物]
芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基又は/及びカルボキシ基が結合された構造を有する化合物である。
本実施形態の芳香族化合物では、水酸基、カルボキシ基のうち、少なくとも1つがベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合されていることが好ましい。
ベンゼン環に水酸基が結合した構造を有する芳香族化合物としては、フェノール、メチルフェノール、ジメチルフェノールなどのフェノール類等が挙げられる。中でも、ベンゼン環に水酸基のみが結合した構造を有するフェノールが好ましい。
ベンゼン環にカルボキシ基が結合した構造を有する芳香族化合物としては、安息香酸、ニトロ安息香酸、アミノ安息香酸等の安息香酸に他の官能基が付加された付加物や安息香酸ナトリウム等の安息香酸の塩等の安息香酸化合物が挙げられる。
ベンゼン環に水酸基及びカルボキシ基が結合した構造有する芳香族化合物としては、2-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)、5-スルホサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸イソアミル、アセチルサリチル酸等が挙げられる。
水酸基及びカルボキシ基が両方ベンゼン環に結合している構造を有する化合物を芳香族化合物として用いた場合には、エッチング後の平滑性を特に好ましい状態に維持できるという利点がある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
エッチング剤中の塩素イオン濃度は、例えば、0.00001質量%以上0.5質量%以下、又は0.000015質量%以上0.05質量%以下、又は、0.00002質量%以上0.02質量%以下の範囲である。
塩素イオン濃度が上記範囲である場合には、銅のエッチング速度を適度に抑制できエッチング性能を好適な範囲に調整しやすくなる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
さらに、JIS B 0601(2013)に従って測定される算術平均粗さ(Ra)が、例えば、0.11μm以下、又は0.10μm以下、又は0.095μm以下であることが挙げられる。
また、JIS B 0601(2013)に従って測定される二乗平均平方根粗さ(Rq)が、例えば、0.125μm以下、好ましくは0.120μm以下であることが挙げられる。
Ra、Rqいずれも表面形状の粗さを示す基準であり、値が小さい方が凹凸がより少ない(平滑)ことを示す。
この値は、例えば、公知のレーザー顕微鏡を用いて測定することができる。詳細は後述の実施例に記載の方法で測定される。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
【表2】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
【表3】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
表1~3に示すように各実施例では、Sdr値が0.20%以下、Raが0.11μm以下、Rqが0.125μmの範囲であり、エッチング処理をした比較例に比べて平滑性が良好であった(比較例1は未処理のコントロールである)
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素と、硫酸と、芳香族化合物と、塩素イオンとを含み、
前記芳香族化合物は、ベンゼン環に水酸基及び/又はカルボキシ基が結合された構造を含み、
前記塩素イオンを0.000020質量%以上0.02質量%以下含む銅のエッチング剤。
【請求項2】
前記芳香族化合物は、フェノール類、安息香酸化合物、2-ヒドロキシ安息香酸、5-スルホサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸イソアミル、アセチルサリチル酸からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の銅のエッチング剤。
【請求項3】
トリアゾール類をさらに含む請求項1又は2に記載の銅のエッチング剤。
【請求項4】
前記トリアゾール類は、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジアミノ-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4トリアゾール、4-アミノ-3-メルカプト-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチルチオ-1H-1,2,4-トリアゾール、からなる群から選択される1種以上である請求項に記載の銅のエッチング剤。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記塩素イオンを0.000020質量%以上0.02質量%以下含む。