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特開2024-75381フェライト系ステンレス鋼板および排気部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075381
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板および排気部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240527BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240527BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D9/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186790
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉井 睦子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA29
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FB00
4K037FD04
4K037FF03
4K037FF05
4K037FG00
4K037FH01
4K037FH03
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FM02
4K037GA08
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】高温強度と耐凝縮水腐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.001~0.030%、Si:0.010~1.0%、Mn:0.01~1.0%、P:0.01~0.10%、S:0.0001~0.010%、Cr:16.0~20.0%、Cu:1.0~1.5%、Mo:0.02~0.50%、Ti:0.05~0.30%、Nb:0.05~0.20%、Al:0.003~0.50%、Co:0.003~0.20%、Ni:0.010~0.300%、B:0.0001~0.0050%、N:0.001~0.020%、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、[104Cu―10916Ni+239Si+44142Co+501Mo+377Nb≧0]を満足する、フェライト系ステンレス鋼板。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.010~1.0%、
Mn:0.01~1.0%、
P:0.01~0.10%、
S:0.0001~0.010%、
Cr:16.0~20.0%、
Cu:1.0~1.5%、
Mo:0.02~0.50%、
Ti:0.05~0.30%、
Nb:0.05~0.20%、
Al:0.003~0.50%、
Co:0.003~0.20%、
Ni:0.01~0.30%、
B:0.0001~0.0050%、
N:0.001~0.020%、
Mg:0~0.0010%、
Ca:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~3.0%、
Zr:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
Sn:0~0.50%、
Sb:0~0.50%、
Ga:0~0.30%、
Ta:0~1.0%、
Hf:0~1.0%、
Bi:0~0.02%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足する、フェライト系ステンレス鋼板。
104Cu―10916Ni+239Si+44142Co+501Mo+377Nb≧0 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はフェライト系ステンレス鋼に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Mg:0.0001~0.0010%、
Ca:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
W:0.02~3.0%、
Zr:0.01~0.10%、
REM:0.005~0.10%、
Sn:0.005~0.50%、
Sb:0.005~0.50%、
Ga:0.0002~0.30%、
Ta:0.001~1.0%、
Hf:0.001~1.0%、および
Bi:0.001~0.02%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
Nb析出物の面積率が、5%以下である、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
Nb析出物の面積率が、5%以下である、請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた排気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板および排気部品
に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、熱膨張しにくく、低コストであるため、加熱と冷却とが繰り返される自動車等の排気部品に用いられている。一方で、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して、高温強度が劣る。このため、Nbを含有させたフェライト系ステンレス鋼が開発されている。また、Nbを含有させると、再結晶温度が上昇したり、熱延の際、靭性が低下したりして、製造性が低下することがある。このため、Nbと同様、高温強度を向上させるCuを含有させた鋼が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、Cuを含有させることで、高温強度を向上させたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際国際第2015/174079号
【特許文献2】特開2008-240143号公報
【特許文献3】特開2010-248620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、排気部品に用いられるフェライト系ステンレス鋼には、高温強度だけでなく、凝縮水腐食を抑制しうる、すなわち、耐凝縮水腐食性が高いことが求められる。凝縮水腐食とは、排気ガスが溶解した結露水である、排気ガス凝縮水に起因して排気部品内面が腐食することである。このような凝縮水腐食が生じると部品としての性能が低下する。
【0006】
一方、特許文献1~3に開示されたフェライト系ステンレス鋼は、耐凝縮水腐食性について、検討しておらず、さらに、改善の余地がある。
【0007】
以上を踏まえ、本発明は、高温強度と耐凝縮水腐食性とに優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のフェライト系ステンレス鋼板および排気部品を要旨とする。
【0009】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.010~1.0%、
Mn:0.01~1.0%、
P:0.01~0.10%、
S:0.0001~0.010%、
Cr:16.0~20.0%、
Cu:1.0~1.5%、
Mo:0.02~0.50%、
Ti:0.05~0.30%、
Nb:0.05~0.20%、
Al:0.003~0.50%、
Co:0.003~0.20%、
Ni:0.01~0.30%、
B:0.0001~0.0050%、
N:0.001~0.020%、
Mg:0~0.0010%、
Ca:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~3.0%、
Zr:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
Sn:0~0.50%、
Sb:0~0.50%、
Ga:0~0.30%、
Ta:0~1.0%、
Hf:0~1.0%、
Bi:0~0.02%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足する、フェライト系ステンレス鋼板。
104Cu―10916Ni+239Si+44142Co+501Mo+377Nb≧0 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はフェライト系ステンレス鋼に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0010】
(2)前記化学組成が、質量%で、
Mg:0.0001~0.0010%、
Ca:0.0001~0.0050%、
V:0.01~0.50%、
W:0.02~3.0%、
Zr:0.01~0.10%、
REM:0.005~0.10%、
Sn:0.005~0.50%、
Sb:0.005~0.50%、
Ga:0.0002~0.30%、
Ta:0.001~1.0%、
Hf:0.001~1.0%、および
Bi:0.001~0.02%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【0011】
(3)Nb析出物の面積率が、5%以下である、上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【0012】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた排気部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温強度と耐凝縮水腐食性とに優れたフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、高温強度と耐凝縮水腐食性とを両立することについて検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0015】
(a)Coを必須元素とすることで、耐凝縮水腐食性を向上させることができる。そして、高温強度と耐凝縮水腐食性とを両立するために、Cu、Ni、Si、Co、Mo、およびNbの含有量のバランスを調整するのが望ましい。
【0016】
(b)加えて、高温強度を向上させるために、析出物として存在するNbの量、すなわち、Nb析出量を所定の範囲に低減するのが好ましい。Nb析出量を低減することで、固溶強化に寄与する固溶Nb量を確保することができる。この固溶Nbは、使用環境中で微細析出して析出強化に寄与するLaves相(主にFeNb)を生成する。従って、Nbの析出強化によっても、高温強度を向上させることができるからである。
【0017】
(c)Nb析出量を制御するためには、製造条件のなかでも、特に、熱間圧延後の冷却速度を50℃/s以上とするのが好ましい。冷却中にLaves相が析出するのを抑制することができるからである。
【0018】
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の各要件について詳しく説明する。
【0019】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0020】
C:0.001~0.030%
C(炭素)は、炭化物を生成して耐食性および高温強度の低下を引き起こす。このため、C含有量は、0.030%以下とする。C含有量は、0.015%以下とするのが好ましく、0.010%以下とするのがより好ましい。一方、Cの過剰な低減は、精錬コストを増加させる。このため、C含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
【0021】
Si:0.010~1.00%
Si(ケイ素)は、脱酸元素として利用する他、高温特性および耐酸化性を向上させる元素である。このため、Si含有量は、0.010%以上とする。しかしながら、Siが1.00%超、含有されると、鋼板が硬質化して部品加工性および製造性を低下させる。このため、Si含有量は、1.00%以下とする。なお、耐酸化性を高め、950℃以上で異常酸化およびスケール剥離を抑制するためには、Si含有量は、0.10~0.80%とするのが好ましく、0.13~0.50%とするのがより好ましく、0.15~0.25%とするのがさらに好ましい。
【0022】
Mn:0.01~1.0%
Mn(マンガン)は、脱酸元素として利用する他、高温強度を向上させる元素である。また、長時間使用中、表層にMn系酸化物を形成してスケール密着性向上に寄与する。このため、Mn含有量は、0.01%以上とする。
【0023】
しかしながら、Mnが過剰に含有されると、常温での均一伸びを低下させる他、MnSを形成して、耐食性および耐酸化性を低下させる。このため、Mn含有量は、1.0%以下とする。さらに、高温延性、スケール密着性を高めるとともに、異常酸化、特に、酸化増量を抑制することを考慮すると、Mn含有量は、0.05~0.8%とするのが好ましく、0.10~0.5%とするのがより好ましく、0.11~0.3%とするのがさらに好ましい。
【0024】
P:0.01~0.10%
P(リン)は、製造時における熱間加工性および凝固割れを助長する元素である。このため、P含有量は、0.10%以下とする。P含有量は、極力低減するのが好ましいが、Pを過剰に低減すると、精錬コストを上昇させる。このため、P含有量は、0.01%以上とする。さらに、製造コストを低下させる観点から、P含有量は、0.02~0.06%とするのが好ましく、0.03~0.05%とするのがより好ましい。
【0025】
S:0.0001~0.010%
S(硫黄)は、熱間加工性および耐食性を低下させる元素である。また、粗大な硫化物(MnS)が形成されると、鋼板の介在物清浄性が著しく低下する。このため、S含有量は、0.010%以下とする。しかしながら、Sの過度な低減は、精錬コストの増加に繋がる。このため、S含有量は、0.0001%以上とする。耐酸化性および製造コストの観点から、S含有量は、0.0005~0.005%とするのがより好ましい。
【0026】
Cr:16.0~20.0%
Cr(クロム)は、耐食性および耐酸化性を向上させる元素である。排気部品環境において、異常酸化および凝縮水腐食を抑制する観点から、Cr含有量は、16.0%以上とする。しかしながら、Crが過剰に含有されると、素材を硬質化させる他、製造コストを増加させる。このため、Cr含有量は、20.0%以下とする。さらに、加工性、製造性、および製造コストの観点から、Cr含有量は、16.5~19.0%とするのが好ましく、17.0~18.0%とするのがより好ましい。
【0027】
Cu:1.0~1.5%
Cu(銅)は、析出強化により高温強度を向上させる元素である。これは、ε-Cuが析出することによる析出硬化作用であり、1.0%以上、Cuを含有することで発現する。このため、Cu含有量は、1.0%以上とする。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、素材を硬質化させ、均一伸びおよび破断伸びの低下が生じやすくなる。また、常温耐力が高くなり、プレス成形性等の部品製造性に支障が生じる。さらに、高温域でオーステナイト相が形成されて表面に異常酸化が生じやすくなる。このため、Cu含有量は、1.5%以下とする。製造性およびスケール密着性を考慮すると、1.05~1.4%とするのが好ましく、1.15~1.3%とするのがより好ましい。
【0028】
Mo:0.02~0.50%
Mo(モリブデン)は、耐食性および耐酸化性を向上させる他、固溶強化により高温強度を向上させる元素である。このため、Mo含有量は、0.02%以上とする。しかしながら、Moは高価であるとともに、常温における均一伸びを低下させる。このため、Mo含有量は、0.50%以下とする。さらに、介在物清浄性、製造性、コストおよび高温強度の向上の観点から、Mo含有量は、0.11~0.40%以下とするのが好ましく、0.15~0.30%とするのがより好ましい。
【0029】
Ti:0.05~0.30%
Ti(チタン)は、C、N、およびSと結合して、耐食性および耐粒界腐食性を向上させる元素である。また、Nbと複合添加することで、高温強度および高温延性を向上させるとともに、高温疲労特性および熱疲労特性も向上させる。このため、Ti含有量は、0.05%以上とする。
【0030】
しかしながら、Tiが過剰に含有されると、疲労破壊等の起点になり得る粗大なTi炭窒化物を生じやすくなったり、鋳造段階でのノズル詰まりが生じやすくなる。この結果、製造性を著しく低下させる。このため、Ti含有量は、0.30%以下とする。耐塩害腐食性、耐凝縮水腐食性、高温強度、溶接部の粒界腐食性および製造コストの観点から、Ti含有量は、0.08~0.25%とするのが好ましく、0.10~0.19%とするのがより好ましい。
【0031】
Nb:0.05~0.20%
Nb(ニオブ)は、固溶強化により高温強度を向上させる元素である。また、およそ750℃で、Laves相(主にFeNb)として、微細に析出することでも、高温強度を向上させる。加えて、Tiと同様に、C、およびNと結合して、耐食性および耐粒界腐食性を向上させる。このため、Nb含有量は、0.05%以上とする。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、熱間加工性が著しく低下する上に再結晶温度が上昇する。このため、Nb含有量は、0.20%以下とする。耐塩害腐食性、耐凝縮水腐食性、高温強度、溶接部の粒界腐食性および製造コストの観点から、Nb含有量は、0.08~0.18%とするのが好ましく、0.10~0.16%とするのがより好ましい。
【0032】
Al:0.003~0.50%
Al(アルミニウム)は、脱酸元素として作用し、介在物清浄性を向上させる。このため、Al含有量は、0.003%以上とする。しかしながら、Alが過剰に含有されると、酸洗性を低下させて、表面粗さを増加させる。また、介在物の量が多くなるため、疲労亀裂の起点となって、疲労強度を低下させる。このため、Al含有量は、0.50%以下とする。
【0033】
なお、精錬コストおよび表面性状の観点から、Al含有量は、0.010~0.30%とするのが好ましい。さらに、熱間加工性の観点から、Al含有量は、0.020~0.15%とするのがより好ましい。
【0034】
Co:0.003~0.20%
Co(コバルト)は、耐食性および高温強度の向上に寄与する。このため、Co含有量は、0.003%以上とする。耐塩害腐食性、耐凝縮水腐食性、および高温強度の観点から、0.005%以上とするのが好ましく、0.010%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Coが0.20%を超えて含有されると、鋼板の硬質化、製造時における靭性の低下、および製造コストの増加につながる。このため、Co含有量は、0.20%以下とする。製造性および精錬コストを考慮すると、Co含有量は、0.15%以下とするのが好ましく、0.10%以下とするのがより好ましい。
【0035】
Ni:0.01~0.30%
Ni(ニッケル)は、フェライト系ステンレス鋼の靭性を改善する他、成型時の脆性割れを防止する元素である。このため、Ni含有量は、0.01%以上とする。しかしながら、Niが過剰に含有されると、オーステナイト相の析出によって、異常酸化の誘発、熱疲労特性および耐凝縮水腐食性の低下を招く。このため、Ni含有量は、0.30%以下とする。製造性、異常酸化の抑制、熱疲労特性、耐塩害腐食性、および耐凝縮水腐食性の観点から、Ni含有量は、0.01~0.10%とするのが好ましく、0.01~0.08%とするのがより好ましい。
【0036】
B:0.0001~0.0050%
B(ボロン)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。また、常温での加工硬化および二次加工割れを抑制する場合もある。このため、B含有量は、0.0001%以上とする。しかしながら、Bが過剰に含有されると、ホウ炭化物の形成が生じ、鋼板の介在物清浄度および耐粒界腐食性が低下する。このため、B含有量は、0.0050%以下とする。精錬コストおよび延性の観点から、B含有量は、0.0002~0.0030%とするのが好ましく、0.0003~0.0010%とするのがより好ましい。
【0037】
N:0.001~0.020%
N(窒素)は、Cと同様に、耐食性および高温強度の低下を引き起こすため、低減するのが好ましい。このため、N含有量は、0.020%以下とする。しかしながら、Nが過剰に低減されると、精錬コストが増加する。N含有量は、0.003~0.015%とするが好ましく、0.004~0.013%とするのがより好ましい。
【0038】
上記の元素に加えて、さらに、Mg、Ca、V、W、Zr、REM、Sn、Sb、Ga、Ta、HfおよびBiから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0039】
Mg:0~0.0010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸元素として作用し介在物清浄度を向上させ、耐食性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、溶接性および耐食性が低下する。このため、Mg含有量は、0.0010%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0001%以上とする。耐凝縮水腐食性および溶接性の観点においては、Mg含有量は、0.00015~0.0008%とするのが好ましく、0.00015~0.0005%とするのが好ましい。
【0040】
Ca:0~0.0050%
Ca(カルシウム)は、脱硫に作用し介在物清浄度を向上させ、耐食性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが、0.0050%を超えて含有されると、水溶性の介在物であるCaSが形成する。この結果、鋼板の介在物清浄性および耐食性が著しく低下する。このため、Ca含有量は、0.0050%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。さらに、製造性および表面性状の観点から、Ca含有量は、0.0005~0.0020%とするのが好ましく、0.0007~0.0020%とするのがより好ましい。
【0041】
V:0~0.50%
V(バナジウム)は、耐食性を向上させる効果を有する。また、Vは、炭化物および窒化物を形成し、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、製造コストが増加する。加えて、異常酸化限界温度が低下する。このため、V含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上とすることが好ましい。V含有量は、0.02~0.20%とするのが好ましく、0.025~0.15%とするのがより好ましい。
【0042】
W:0~3.0%
W(タングステン)は、Moと同様、固溶強化により高温強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wが3.0%を超えて含有されると、硬質化、製造時の靭性劣化、および製造コストの増加につながる。このため、W含有量は、3.0%以下とする。さらに、製造性および精錬コストの観点から、W含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.02%以上とするのが好ましい。W含有量は、0.10~1.5%とするのがより好ましい。
【0043】
Zr:0~0.10%
Zr(ジルコニウム)は、TiおよびNbと同様に、CまたはNと結合して、炭化物および窒化物を形成し、高温強度、耐酸化性および溶接部の粒界腐食性を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが、0.10%を超えて含有されると、製造性の著しい低下、および製造コストの増加を招く。このため、Zr含有量は、0.10%以下とする。製造性および精錬コストの観点から、Zr含有量は、0.08%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましい。
【0044】
REM:0~0.10%
REM(希土類元素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMを過剰に含有させると、鋳造時に溶鋼を流すノズルに、REMを含む酸化物を形成してノズル閉塞を起こしたり、REMを含む硫化物が形成して耐食性を低下させたりする。このため、REM含有量は、0.10%以下とする。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。REM含有量は、0.010~0.07%とするのがより好ましい。
【0045】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0046】
Sn:0~0.50%
Sn(スズ)は、耐食性、高温強度の向上に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snが0.50%を超えて含有されると、製造時にスラブ割れが生じる場合がある。このため、Sn含有量は、0.50%以下とする。さらに、製造性および精錬コストの観点から、Sn含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.005%以上とするのが好ましく、0.03%以上とするのがより好ましい。
【0047】
Sb:0~0.50%
Sb(アンチモン)は、粒界に偏析して高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbが0.50%を超えて含有されると偏析が生じ、溶接時に割れが発生する。このため、Sb含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。高温特性、靭性および製造コストを考慮すると、Sb含有量は、0.03~0.30%とするのが好ましい。
【0048】
Ga:0~0.30%
Ga(ガリウム)は、耐食性向上および水素脆化を抑制するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaが0.30%を超えて含有されると、粗大硫化物が生成し、部品加工性が低下する。このため、Ga含有量は、0.30%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。さらに、製造性および製造コストの観点から、Ga含有量は、0.002~0.10%とするのがより好ましい。
【0049】
Ta:0~1.0%
Hf:0~1.0%
Bi:0~0.02%
Ta(タンタル)は、高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Ta含有量は、1.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。また、強度をさらに高めるためには、Ta含有量は、0.01~0.2%とするのがより好ましい。
【0050】
同様の理由により、Hf(ハフニウム)も必要に応じて含有させてもよい。このため、Hf含有量は、1.0%以下とする。また、同様の理由により、Hf含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。Hf含有量は、0.01~0.2%とするのがより好ましい。
【0051】
同様の理由により、Bi(ビスマス)も必要に応じて含有させてもよい。このため、Bi含有量は、0.02%以下とする。また、同様の理由により、Bi含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。Bi含有量は、0.005~0.015%とするのがより好ましい。
【0052】
本実施形態の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、フェライト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。なお、As、Pb等の一般的な有害な元素や不純物元素はできるだけ低減することが望ましい。
【0053】
(i)式
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、高温強度と耐凝縮水腐食性とを両立させるために、(i)式を満足する。
【0054】
104Cu―10916Ni+239Si+44142Co+501Mo+377Nb≧0 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はフェライト系ステンレス鋼に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0055】
(i)式を満足することで、耐凝縮水腐食性および高温強度の二つの特性を向上させることができる。(i)式の元素の中で、耐凝縮水腐食性に影響を与えるのは、Cu、Ni、Co、SiおよびMoである。また、(i)式の元素の中で、高温強度に影響を与えるのは、Cu、およびNbである。従って、これら元素の含有量が(i)式を満足するように、調整する必要がある。
【0056】
耐凝縮水腐食性に関し、特に、CoおよびMoは固溶してステンレス鋼表面に形成される保護性を有する不働態皮膜を強化し、耐凝縮水腐食性を向上させる効果がある。また、Siは、予加熱時に内部酸化して不働態皮膜を強化し、耐凝縮水腐食性を向上させる効果がある。なお、耐塩害腐食性についても耐凝縮水腐食性と同様、高温強度と両立させることができる。
【0057】
高温強度に関し、Cuは、Cu粒子(主にε-Cuやbcc-Cu)として析出分散することによる析出強化で高温強度を向上させる。また、Moは固溶強化により高温強度を向上させる。さらに、Nbは、固溶強化とLaves相(主にFeNb)として微細析出することによる析出強化とにより、高温強度を向上させる。従って、Cu、MoおよびNbの複合的な強化機構により、高温強度を向上させることができる。
【0058】
2.Nb析出物の面積率
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、高温強度をさらに、高めるために、Nb析出物の面積率を制御する。具体的には、Nb析出物の面積率を5%以下とするのが好ましい。鋼板中に析出物として存在するNb量は少量にして、固溶強化に寄与する固溶Nb量および、使用環境中に微細析出して析出強化に寄与するLaves相(主にFeNb)を生成するために十分なNb量を確保するためである。なお、製造コストの観点からNb析出物の面積率は2%以下とするのが好ましい。Nb析出物の面積率は、可能な限り、低い方が好ましく、下限は、0%であるのが好ましい。
【0059】
Nb析出物の面積率は、以下の手順で測定すればよい。圧延方向および板厚方向と平行な断面(L断面)を観察面として、熱硬化樹脂に埋め込み、機械研磨にて鏡面研磨した後、エネルギー分散型X線分光分析装置(以下、「EDS」という。)を付属した走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)を用いて観察、分析して算出した。
【0060】
測定範囲は、板厚中心から板厚の1/4部の領域の範囲とし、1000倍で10視野観察し、画像解析により求めたNbを含有する析出物の面積の平均値を視野面積で除して、Nb析出物の面積率とした。ここで、Nbを含有する析出物はNbを1.0wt%以上含有するものと定義する。
【0061】
3.目標とする特性
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、600~900℃程度の環境に曝される排気マニホールドなどの自動車排気部品向けとして従来適用されてきた、高Nb含有鋼と同等以上の高温強度を有することを目標とする。すなわち、高温強度において、850℃の0.2%耐力が18MPa以上であり、かつ700℃の0.2%耐力が100MPa以上であることを目標とする特性とする。
【0062】
また、耐凝縮水腐食性については、大気中、400℃、8時間の前熱処理を施した後、JASO M611-92 A法に準拠した凝縮水腐食試験(温度:80℃、時間:600時間)を行った場合に、最大腐食深さが400μm以下であることを目標とする特性とする。
【0063】
なお、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、上記の高温強度と耐凝縮水腐食性を課題としているが、例えば、塩害に対する耐食性、すなわち、耐塩害腐食性についても、同様に、高めることができる。耐塩害腐食性については、大気中、400℃、8時間の前熱処理を施した後、JASO M 609-91法に準拠した塩害腐食試験(サイクル数:180サイクル)を行った場合に、最大腐食深さが160μm以下であることが好ましい。
【0064】
4.製造方法
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。すなわち、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、製鋼-熱間圧延-焼鈍・酸洗-冷間圧延-焼鈍・酸洗、または、製鋼-熱間圧延-酸洗-冷間圧延-焼鈍・酸洗の工程を経て製造されるのが好ましい。以下、各工程について、具体的に説明する。
【0065】
4-1.製鋼工程
上記の化学組成を有する鋼を、電気炉溶製または転炉で溶製し、続いて2次精錬を行うのが好ましい。溶製した鋼は、公知の鋳造方法(連続鋳造など)に従ってスラブとする。連続鋳造時に、介在物の過度な混入を避けるために、連続鋳造前に沈静時間を設けることが有効であり、連続鋳造前に沈静時間を1分間以上設けるとよい。
【0066】
4-2.熱間圧延工程
上述の製鋼工程で、得られたスラブは、連続圧延で熱間圧延され、熱延板となる。熱間圧延の際の条件は、後述する冷却条件を除き、特に、限定されない。スラブの厚さ、熱間圧延における圧下率は適宜選択すればよいが、例えば、スラブの加熱温度は、1030~1200℃の範囲とするのが好ましい。
【0067】
熱間圧延後、熱延板は巻き取られ、冷却が冷却される。巻き取りから巻き取り後の冷却中に、Nb析出物、例えば、Nb(C,N)、Laves相が析出することを抑制するのが好ましく、冷却速度を高めるのが好ましい。Nb析出物の面積率を5%以下にするためである。
【0068】
このため、熱間圧延後の冷却速度は、50℃/s以上とするのが好ましい。製造性を考慮すると、70℃/s以上がより好ましい。なお、熱間圧延後に、再結晶を促すため、必要に応じて、焼鈍してもよい。焼鈍を行う場合は、900~1200℃で10~200秒の範囲で行うのが好ましい。そして、焼鈍を行った場合は、焼鈍後の冷却速度を50℃/s以上とすればよい。なお、熱間圧延後(焼鈍を実施する場合は焼鈍後)の鋼板は、通常、酸洗処理が行われる。
【0069】
4-3.冷間圧延および焼鈍工程
続いて、所定の板厚に冷間圧延する。なお、冷間圧延の圧下率は適宜選択すればよい。また、冷間圧延機のロール径は適宜選択すればよい。冷間圧延後は、冷延板焼鈍と酸洗処理を行えばよい。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、再結晶温度の低温化を狙ってNb量を少量にしている。このため、焼鈍温度は、870~980℃の範囲とし、焼鈍時間は1~120秒の範囲とするのが好ましい。
【0070】
冷延板の焼鈍は、冷間圧延のパスの間に行なってもよく、またバッチ式焼鈍でも連続式焼鈍でもよい。冷間圧延後、最終焼鈍の冷却中は、Cu粒子およびNbを含有するLaves相など、高温強度に影響を与える析出物が析出する。これらの析出物は鋼板中の析出量をできる限り抑制して使用環境中で析出させることで、効果的に高温強度を向上できる。このため、冷間圧延後の最終焼鈍後の冷却に関し、上記析出物が析出しやすい、800~350℃までの温度域における冷却速度は、5℃/s以上とするのが好ましい。800~350℃までの温度域における冷却速度が5℃/s未満であると、析出物が多量に析出し、加工性が低下しやすくなる場合がある。
【0071】
焼鈍および冷却後に酸洗処理を行うのが好ましい。酸洗処理では、焼鈍により鋼表面に形成されたスケールを除去することができる。酸洗方法は硫酸、硝弗酸、硝酸電解等の化学的デスケールのどの方法でもよく、その前処理として溶融アルカリ塩浸漬を行なってもよい。酸洗条件は、所望する鋼板の特性に応じ、適宜、調整すればよい。また、酸洗された鋼板は調質圧延、研磨工程を付与しても構わない。
【0072】
以下、実施例によって本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0073】
表1に示す化学組成を有する鋼を、扁平17kg鋳型に鋳造し、スラブを得た。続いて、得られたスラブを、1050℃で熱間圧延し5mm厚の熱延板とし、5.3~70℃/sで冷却し、酸洗した。その後、冷間圧延を行い、920℃で120s間の焼鈍し、800℃から350℃までの温度域が、5.2~8.6℃/sの冷却速度となるよう冷却し、冷延焼鈍板を得た。得られた冷延焼鈍板を、酸洗をして2.0mm厚の鋼板(以下、「製品板」ともいう。)とした。
【0074】
【表1】
【0075】
得られた製品板について、Nb析出物の面積率、高温強度、耐凝縮水腐食性、塩害腐食試験、および常温延性について、調べた。
【0076】
(Nb析出物の面積率)
製品板のL断面を観察面として熱硬化樹脂に埋め込み、機械研磨にて鏡面研磨した後、EDSを付属したSEM(日本電子製、JSM-IT510A)を用いて観察、分析して、Nb析出物の面積率を測定した。
【0077】
測定範囲は板厚中心から板厚の1/4部の領域の範囲とし、1000倍で10視野観察し、画像解析により求めたNb析出物の面積の平均値を視野面積で除して、Nb析出物の面積率とした。ここで、Nbを含有する析出物はNbを1.0wt%以上含有するものと定義した。表中では、Nb析出物の面積率が1%以下のものを◎、5%以下のものを〇、10%以下のものを△、10%超のものを×とした。
【0078】
(常温延性)
常温延性は、以下の手順で評価した。具体的には、製品板から長手方向が圧延方向と平行となるようにJIS13B号試験片を作製して引張試験を行い、破断伸び(全伸び)を測定した。常温の全伸びは、27%以上のものを良好と判断し、〇とし、それ以外のものを×と記載した。
【0079】
(高温強度)
高温強度は、700℃および850℃で、引張試験を行うことで評価した。具体的には、製品板から圧延方向を長手方向と平行となるように、評点間距離35mm、評点間内幅10mmのつば付き試験片を採取し、JISG0567に準拠して引張試験を行った。上記試験には、島津製作所製オートグラフAG-100kNXを用いた。
【0080】
排気部品に適用可能な高温強度であるかを判断するため、700℃の0.2%耐力が130MPa以上のものを◎、110MPa以上130MPa未満のものを〇、95MPa以上110MPa未満のものを△、95MPa未満のものを×と記載した。同様に、850℃の0.2%耐力が19MPa以上のものを◎、17MPa以上19MPa未満のものを〇、15MPa以上17MPa未満のものを△、15MPa未満のものを×と記載した。
【0081】
(耐凝縮水腐食性)
耐凝縮水腐食性は、以下の手順で評価した。具体的には、製品板から100mm(長手方向と平行)×25mm(短手方向と平行)サイズに切り出し、全面#600湿式研磨仕上げとした試験片を、大気中、400℃、8時間の前熱処理を施した後、JASO M611-92 A法に準拠した凝縮水腐食試験(温度:80℃、時間:600時間)を行うことで評価した。
【0082】
凝縮水腐食試験後の試験片は、脱スケール処理を施した後、顕微鏡焦点深度法を用いて最大腐食深さを求めた。最大腐食深さは、一度に2本の試験片を用いて、試験を実施し、それぞれの最大腐食深さの平均値を最大腐食深さとした。すなわち、n=2の場合の、平均値で評価した。排気部品に適用可能な耐凝縮水腐食性を確保するため、最大腐食深さが400μm以下のものを〇、400μmより深いものを×とした。
【0083】
(耐塩害腐食性)
耐凝縮水腐食性は、以下の手順で評価した。具体的には、製品板から150mm(長手方向と平行)×70mm(短手方向と平行)サイズに試験片を切り出し、全面#600湿式研磨仕上げとした。この試験片を、大気中、400℃、8時間の前熱処理を施した後、JASO M 609-91法に準拠した塩害腐食試験(サイクル数:180サイクル)に供した。
【0084】
塩害腐食試験後の試験片は、脱スケール処理を施した後、顕微鏡焦点深度法を用いて最大腐食深さを求めた。最大腐食深さは、耐凝縮水腐食性の場合と同様、n=2の場合の平均値で評価した。排気部品材料に適用可能な耐塩害腐食性を確保するため、最大腐食深さが160μm以下のものを〇、160μm超のものを×とした。以下、結果を纏めて、表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
本発明例であるNo.1~6の例は、化学組成を満足するとともに、製造条件も、好ましい範囲内だったため、常温延性、高温強度、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が良好であった。No.7の例は、化学組成を満足するが、製造方法のうち熱延後冷却速度が遅かったNb析出物の面積率が多くなり、高温強度がNo.1~6と比較してやや劣る特性を示した。No.8の例も、No.7の例と同様、化学組成を満足するが、製造方法のうち熱延後冷却速度が遅かったNb析出物の面積率が多くなり、高温強度特性がNo.1~6と比較してやや劣る特性を示した。
【0087】
一方、No.9は、CuおよびNb含有量が少なくMo含有量が多いため、高温強度が低下した。No.10は、Cu、Si、NbおよびMo含有量が少ないため、高温強度、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が低下した。No.11は、CuおよびMo含有量が少なく、Ni含有量が多いため、高温強度、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が低下した。No.12は、Cr、CoおよびNb含有量が少ないため、高温強度、耐凝縮水腐食性および耐塩害腐食性が低下した。
【0088】
No.13は、Nb含有量が多いため、再結晶不良となり常温延性が低下した。また、CrおよびCu含有量が少なく、高温強度、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が低下した。No.14はCu含有量が多く常温延性が低下した。また、Ti含有量が少なく、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が低下した。No.15は、各元素の含有量は、本願の範囲内であるが、(i)式を満足しなかったため、高温強度、耐凝縮水腐食性、および耐塩害腐食性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、中温域~高温域まで環境に使用される排気部品に好適であり、そのなかでも特に、自動車の排ガス規制、軽量化、省資源化、燃費向上に対応した部品に好適である。さらに、自動車、二輪の排気部品に限らず、各種ボイラー、燃料電池システム、熱交換器等の高温環境でかつ結露水による凝縮水腐食や塩害腐食に曝される環境において使用される部品に適用することも可能である。