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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007541
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】航路計画システムおよび航路計画方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
G08G3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110288
(22)【出願日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】22183112.6
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】魚下 成一
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181EE12
5H181FF04
5H181FF33
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
(57)【要約】
【課題】 船舶等の移動体が複数の他船当の障害物との衝突を回避し、安全に航行できる支援装置および方法を提供する。
【解決手段】 移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得する計画航路取得部と、移動体の位置及び移動方向を含む移動体情報を取得する移動体情報取得部と、複数の障害物の夫々について位置及び移動方向を含む障害物情報を取得する障害物情報取得部と、移動体情報と前記障害物情報に基づいて衝突リスク値を算出する衝突リスク値算出部と、障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定する最大衝突リスク障害物選定部と、最大衝突リスク障害物を含む/除く1又は複数の障害物について同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出する輻輳リスク値算出部と、輻輳リスク値に基づいて前記計画航路とは異なる避航経路の航行を決定するリスク評価部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得する計画航路取得部と、
前記移動体の位置および移動方向を含む移動体情報を取得する移動体情報取得部と、
前記移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置および移動方向を含む障害物情報を取得する障害物情報取得部と、
前記移動体情報と前記障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出する衝突リスク値算出部と、
複数の前記障害物を含む輻輳リスク障害物について、該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出する輻輳リスク値算出部と、
前記輻輳リスク値に基づいて、前記移動体の、前記計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定するリスク評価部と、
を備える航路計画システム。
【請求項2】
請求項1記載の航路計画システムであって、
前記リスク評価部は、
前記輻輳リスク値に対し設定された輻輳リスクしきい値と前記輻輳リスク値を比較して輻輳リスク評価結果を出力する輻輳リスク評価部を備え、
前記輻輳リスク評価結果に基づいて避航経路の航行の要否を決定する、
航路計画システム。
【請求項3】
請求項2記載の航路計画システムであって、さらに、
前記障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定する最大衝突リスク障害物選定部を備え、
前記リスク評価部は、さらに、
前記最大の衝突リスク値に対して設定された衝突リスクしきい値と該最大の衝突リスク値とを比較して最大衝突リスク評価結果を出力する最大衝突リスク評価部を備え、
前記輻輳リスク評価結果と前記最大衝突リスク評価結果とに基づいて避航経路の航行の要否を決定する
航路計画システム。
【請求項4】
請求項3に記載の航路計画システムであって、さらに、
前記リスク評価部が、前記避航経路の設定が必要と決定したとき、前記計画航路のうち前記移動体の未航行航路の一部または全部に、該計画航路とは異なる避航経路を設定する避航経路設定部を備える、
航路計画システム。
【請求項5】
請求項4に記載の航路計画システムであって、
前記避航経路設定部は、さらに、
前記未航行航路上の避航開始点と計画航路復帰点の間に前記計画航路とは異なる経路の1または複数の避航経路の候補となる避航経路候補パターンを発生させる避航経路候補パターン生成部と、
避航経路候補パターンの中から避航経路を選定する避航経路選定部と、
を備える航路計画システム。
【請求項6】
請求項5に記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、前記複数の衝突リスク値のうち、最大衝突リスク値を含めた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、前記計画航路の輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項7】
請求項5記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、前記複数の衝突リスク値のうち、最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、前記計画航路の輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項8】
請求項7記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、前記障害物情報取得部が取得する前記障害物情報に対応する複数の障害物のうち、選定された複数の障害物に対応する衝突リスク値に基づいて、前記輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項9】
請求項8記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、
前記最大衝突リスク値の次に大きい衝突リスク値の準最大衝突リスク値に対応する準最大衝突リスク障害物と
前記準最大衝突リスク値より小さい衝突リスク値を有する障害物と
を含む準最大衝突リスク障害物群のそれぞれの障害物に対応する衝突リスク値に基づいて、前記輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項10】
請求項9に記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、前記複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、前記計画航路の輻輳リスク値と前記避航経路の輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項11】
請求項5乃至10のいずれかの請求項に記載の航路計画システムであって、
前記衝突リスク値算出部は、さらに、
前記1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて前記最大の衝突リスク値を算出し、
前記輻輳リスク算出部は、さらに、
前記1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて前記輻輳リスク値を算出する、
航路計画システム。
【請求項12】
請求項11に記載の航路計画システムであって、
前記衝突リスク値算出部は、
前記避航経路候補パターンのそれぞれについて前記移動体が該避航経路候補パターン航行する場合の前記最大の衝突リスク値を算出し、
前記避航経路選定部は、
前記最大の衝突リスク値が所定のしきい値以下となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定し、
選定された前記避航経路に対応する前記最大の衝突リスク値が前記計画航路に対する前記最大の衝突リスク値より小さいかを判定し、
小さいとき前記避航経路の航行を要と判断する、避航経路航行判定部を備える、
航路計画システム。
【請求項13】
請求項12に記載の航路計画システムであって、
前記輻輳リスク値算出部は、前記移動体が選定された前記避航経路を航行する場合の避航経路輻輳リスク値を算出し、
前記避航経路選定部は、さらに、
前記避航経路輻輳リスク値が前記計画航路に対する輻輳リスク値より小さいとき、選定された前記避航経路の航行を要と判断する、
航路計画システム。
【請求項14】
請求項13に記載の航路計画システムであって、
前記避航経路選定部は、
前記避航経路候補パターンのそれぞれについて、さらに、前記移動体の該各避航経路候補パターンを航行する距離を加味して避航の要否を決定する
航路計画システム。
【請求項15】
請求項14に記載の航路計画システムであって、
前記避航経路選定部は、
前記最大の衝突リスク値と前記輻輳リスク値がともに所定のしきい値以下である前記避航経路候補パターンのうち、前記移動体が航行する距離が最小となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定する
航路計画システム。
【請求項16】
請求項1乃至請求項10のいずれかの請求項に記載の航路計画システムであって、
前記移動体情報は、前記移動体の移動速度を含む、
航路計画システム。
【請求項17】
請求項16に記載の航路計画システムであって、
前記障害物情報は、前記障害物の移動速度を含む、
航路計画システム。
【請求項18】
請求項13に記載の航路計画システムであって、
前記障害物情報は、
前記移動体に装着されたレーダー、ライダー、ソナー、イメージセンサのうち、少なくともいずれか1つのデバイスによって検知された情報、
前記自動識別システム受信器によって受信された情報、
前記移動体以外の他船によって送信された情報、または
前記移動体以外の場所で無線通信によって検知された情報
のいずれかを含む、航路計画システム。
【請求項19】
請求項18に記載の航路計画システムであって、
前記障害物情報は、さらに他船、潮流、気象、岩礁、または座礁船のうち少なくとも1つを含む、他の物に関する情報を含んでいる、
航路計画システム。
【請求項20】
請求項19に記載の航路計画システムであって、さらに、
表示画像上に前記計画航路とともに前記避航経路を表示するディスプレイを備えている、航路計画システム。
【請求項21】
請求項20に記載の航路計画システムであって、さらに、
前記出航地から前記目的地までの前記移動体の航行に対する1または複数の航路を提供するルート計画部と、
前記障害情報を取得する1または複数のセンサ部と
を備える、航路計画システム。
【請求項22】
航路計画方法であって、
水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得し、
前記移動体の位置、移動方向および移動速度を含む移動体情報を取得し、
前記移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置、移動方向および移動速度を含む障害物情報を取得し、
前記移動体情報と前記障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出し、
前記障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定し、
該最大衝突リスク障害物を含む1または複数の前記障害物を含む輻輳リスク障害物について、該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出し、
前記輻輳リスク値に基づいて、前記移動体の、前記計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定する、
航路計画方法。
【請求項23】
請求項22記載の航路計画方法であって、
前記避航経路の航行の要否は、
前記輻輳リスク値に対し設定された輻輳リスクしきい値と前記輻輳リスク値を比較して決定する、
航路計画方法。
【請求項24】
請求項23記載の航路計画方法であって、
前記避航経路の航行の要否は、さらに、
前記最大の衝突リスク値に対して設定された衝突リスクしきい値と該最大の衝突リスク値とを比較して決定する、
航路計画方法。
【請求項25】
請求項24に記載の航路計画方法であって、さらに、
前記避航経路の設定が必要と決定したとき、前記計画航路のうち前記移動体の未航行航路の一部または全部に、該計画航路とは異なる避航経路を設定する、
航路計画方法。
【請求項26】
請求項25に記載の航路計画方法であって、さらに、
前記未航行航路上の避航開始点と計画航路復帰点の間に前記計画航路とは異なる経路の1または複数の避航経路の候補となる避航経路候補パターンを発生させ、
避航経路候補パターンの中から避航経路を選定する、
航路計画方法。
【請求項27】
請求項26記載の航路計画方法であって、
前記複数の衝突リスク値のうち、最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、前記計画航路の輻輳リスク値を算出する、
航路計画方法。
【請求項28】
請求項25乃至請求項27のいずれかの請求項に記載の航路計画方法であって、さらに、
前記1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて前記最大の衝突リスク値を算出し、
前記1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて前記輻輳リスク値を算出する、
航路計画方法。
【請求項29】
請求項28に記載の航路計画方法であって、
前記避航経路候補パターンのそれぞれについて前記移動体が該避航経路候補パターン航行する場合の前記最大の衝突リスク値を算出し、
前記最大の衝突リスク値が所定のしきい値以下となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定し、
選定された前記避航経路に対応する前記最大の衝突リスク値が前記計画航路に対する前記最大の衝突リスク値より小さいかを判定し、
小さいとき前記避航経路の航行を要と判断する、
航路計画方法。
【請求項30】
請求項29に記載の航路計画方法であって、
前記最大の衝突リスク値と前記輻輳リスク値がともに所定のしきい値以下である前記避航経路候補パターンのうち、前記移動体が航行する距離が最小となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定する
航路計画方法。
【請求項31】
コンピュータに実行可能なプログラムであり、コンピュータで実行されると、
水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得させ、
前記移動体の位置、移動方向および移動速度を含む移動体情報を取得させ、
前記移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置、移動方向および移動速度を含む障害物情報を取得させ、
前記移動体情報と前記障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出させ、
前記障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定させ、
該最大衝突リスク障害物を含む1または複数の前記障害物を含む輻輳リスク障害物について、該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出させ、
前記輻輳リスク値に基づいて、前記移動体の、前記計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に船舶を安全に航行させるための船舶航行システムに関するものであり、より具体的には、自船の周囲に複数の障害物がある場合でもこれらの障害物との衝突を回避して船舶を安全に航行させるための航路計画システムおよび航路計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、船舶やその他の移動体は、航行を開始する前に、出航地または出発地から目的地までの航海の計画航路(ルート)を設定する。現在、船舶などの移動体には、移動体を安全に移動させるために、計画航路を生成し、計画航路を監視するためのナビゲーションシステムおよび装置が置かれる場合がある。
【0003】
これらの従来の航路計画システムでは、他船など他の障害物との衝突を回避するに自船などの移動体自らの位置と計画航路上にある近くにいる障害物や他舶の位置を検知して識別し、追尾するために複数のセンサ部を用いて移動体情報や障害物情報を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2020/0310434
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、計画航路を航行中に、付近の障害物や計画航路を横切る可能性のある他の船舶の出現などの人為的要因により、計画航路を変更しなければならない場合がある。また、海洋条件の急変や潮汐、その他の外乱要因などの自然要因により、予定する航路から航路の変更を余儀なくされることがある。
【0006】
このため、船舶運航者(オペレータ)は、周辺の障害物や他船との衝突を回避し、自船などの移動体を計画航路に沿って安全に航行しなければならず、また、海洋の状態や潮汐を航行するための支援を必要とする場合もある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の要求に応え、複数の障害物や他の船舶との衝突を回避することで、船舶の運航要員が移動体を安全に航行することを支援するシステム、装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の航路計画システムは、水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得する計画航路取得部と、移動体の位置および移動方向を含む移動体情報を取得する移動体情報取得部と、移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置および移動方向を含む障害物情報を取得する障害物情報取得部とを備えている。そして、移動体情報と障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出する衝突リスク値算出部と、複数の前記障害物を含む輻輳リスク障害物について、該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出する輻輳リスク値算出部と、輻輳リスク値に基づいて、移動体の、計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定するリスク評価部と、を備えている。
【0009】
移動体情報には、さらに移動体の移動速度を含み、障害物情報には障害物の移動速度を含んでいてもよいし、これらは所定周期で検知される位置と方位から算出してもよい。
【0010】
ここで、リスク評価部は、輻輳リスク値に対し設定された輻輳リスクしきい値と輻輳リスク値を比較して輻輳リスク評価結果を出力する輻輳リスク評価部を備え、輻輳リスク評価結果に基づいて避航経路の航行の要否を決定してもよい。
【0011】
また、本発明の航路計画システムは、さらに障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定する最大衝突リスク障害物選定部を備え、リスク評価部はさらに、最大の衝突リスク値に対して設定された衝突リスクしきい値と該最大の衝突リスク値とを比較して最大衝突リスク評価結果を出力する最大衝突リスク評価部を備え、輻輳リスク評価結果と最大衝突リスク評価結果とに基づいて避航経路の航行の要否を決定してもよい。
【0012】
本発明の航路計画システムは、リスク評価部が避航経路の設定が必要と決定したとき、計画航路のうち移動体の未航行航路の一部または全部に、該計画航路とは異なる避航経路を設定する避航経路設定部を備える。
【0013】
ここで、避航経路設定部は、さらに、未航行航路上の避航開始点と計画航路復帰点の間に計画航路とは異なる経路の1または複数の避航経路の候補となる避航経路候補パターンを発生させる避航経路候補パターン生成部と、避航経路候補パターンの中から避航経路を選定する避航経路選定部とを備えてもよい。
【0014】
本発明の航路計画システムは、輻輳リスク値算出部が、複数の衝突リスク値のうち、最大衝突リスク値を含めた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路の輻輳リスク値を算出してもよい。あるいは、複数の衝突リスク値のうち最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路の輻輳リスク値を算出してもよい。
【0015】
また、輻輳リスク値算出部は、障害物情報取得部が取得する障害物情報に対応する複数の障害物のうち、選定された複数の障害物に対応する衝突リスク値に基づいて、輻輳リスク値を算出してもよい。輻輳リスク値算出部は、最大衝突リスク値の次に大きい衝突リスク値の準最大衝突リスク値に対応する準最大衝突リスク障害物と、準最大衝突リスク値より小さい衝突リスク値を有する障害物とを含む準最大衝突リスク障害物群のそれぞれの障害物に対応する衝突リスク値に基づいて、前記輻輳リスク値を算出してもよい。
【0016】
本発明の航路計画システムは、輻輳リスク値算出部が、複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路の輻輳リスク値と前記避航経路の輻輳リスク値を算出する。
【0017】
ここで、衝突リスク値算出部は、1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて最大の衝突リスク値を算出し、輻輳リスク算出部は、1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて輻輳リスク値を算出する。
【0018】
また、衝突リスク値算出部は避航経路候補パターンのそれぞれについて移動体が該避航経路候補パターン航行する場合の最大の衝突リスク値を算出し、避航経路選定部は最大の衝突リスク値が所定のしきい値以下となる避航経路候補パターンを避航経路に選定し、選定された避航経路に対応する最大の衝突リスク値が計画航路に対する最大の衝突リスク値より小さいかを判定し、小さいとき避航経路の航行を要と判断する避航経路航行判定部を備えている。
【0019】
ここで、輻輳リスク値算出部は移動体が選定された前記避航経路を航行する場合の避航経路輻輳リスク値を算出し、避航経路選定部はさらに、避航経路輻輳リスク値が計画航路に対する輻輳リスク値より小さいとき選定された避航経路の航行を要と判断する。
【0020】
避航経路選定部は、避航経路候補パターンのそれぞれについてさらに、移動体の該各避航経路候補パターンを航行する距離を加味して避航の要否を決定するようにしてもよい。
【0021】
避航経路選定部は、最大の衝突リスク値と輻輳リスク値がともに所定のしきい値以下である避航経路候補パターンのうち、移動体が航行する距離が最小となる避航経路候補パターンを避航経路に選定してもよい。
【0022】
本発明の航路計画システムにおいては、障害物情報は移動体に装着されたレーダー,ライダー,ソナー,イメージセンサのうち少なくともいずれか1つのデバイスによって検知された情報、自動識別システム受信器によって受信された情報、移動体以外の他船によって送信された情報、または移動体以外の場所で無線通信によって検知された情報のいずれかを含むことができる。また、障害物情報は、他船,潮流,気象,岩礁,または座礁船のうち少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0023】
本発明の航路計画システムは、さらに、表示画像上に計画航路とともに避航経路を表示するディスプレイを備えていてもよい。さらに、出航地から目的地までの移動体の航行に対する1または複数の航路を提供するルート計画部と、障害情報を取得する1または複数のセンサ部とを備えていてもよい。
【0024】
本発明の航路計画方法は、水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得し、移動体の位置、移動方向および移動速度を含む移動体情報を取得し、移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置、移動方向および移動速度を含む障害物情報を取得し、移動体情報と障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出し、障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定し、該最大衝突リスク障害物を含む1または複数の障害物を含む輻輳リスク障害物について、該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出し、輻輳リスク値に基づいて移動体の計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定する。
【0025】
ここで、避航経路の航行の要否は、輻輳リスク値に対し設定された輻輳リスクしきい値と輻輳リスク値を比較して決定してもよい。また、避航経路の航行の要否は、最大の衝突リスク値に対して設定された衝突リスクしきい値と該最大の衝突リスク値とを比較して決定してもよい。
【0026】
本発明の航路計画方法であって、さらに、避航経路の設定が必要と決定したとき、計画航路のうち移動体の未航行航路の一部または全部に、該計画航路とは異なる避航経路を設定するようにしてもよい。
【0027】
さらに、未航行航路上の避航開始点と計画航路復帰点の間に計画航路とは異なる経路の1または複数の避航経路の候補となる避航経路候補パターンを発生させ、避航経路候補パターンの中から避航経路を選定するようにしてもよい。また、複数の衝突リスク値のうち最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路の輻輳リスク値を算出してもよい。
【0028】
本発明の航路計画システムであって、さらに、1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて前記最大の衝突リスク値を算出し、1または複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて輻輳リスク値を算出するようにしてもよい。
【0029】
避航経路候補パターンのそれぞれについて移動体が該避航経路候補パターン航行する場合の最大の衝突リスク値を算出し、最大の衝突リスク値が所定のしきい値以下となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定し、選定された避航経路に対応する最大の衝突リスク値が計画航路に対する最大の衝突リスク値より小さいかを判定し、小さいとき前記避航経路の航行を要と判断するようにしてもよい。
【0030】
最大の衝突リスク値と輻輳リスク値がともに所定のしきい値以下である避航経路候補パターンのうち、移動体が航行する距離が最小となる避航経路候補パターンを前記避航経路に選定してもよい。
【0031】
本発明の航路計画プログラムは、コンピュータに実行可能なプログラムであり、コンピュータで実行されると、水上を移動する移動体の計画航路を示す計画航路情報を取得させ、移動体の位置、移動方向および移動速度を含む移動体情報を取得させ、移動体の周辺に存する複数の障害物のそれぞれについて、位置、移動方向および移動速度を含む障害物情報を取得させ、移動体情報と前記障害物情報に基づいて、該移動体と各障害物との衝突のリスク度合いを示す衝突リスク値を算出させ、障害物の中で最大の衝突リスク値に対応する最大衝突リスク障害物を選定させ、該最大衝突リスク障害物を含む1または複数の前記障害物を含む輻輳リスク障害物について該輻輳リスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す輻輳リスク値を算出させ、輻輳リスク値に基づいて、移動体の計画航路とは異なる経路を有する避航経路の航行の要否を決定させる。
【0032】
本明細書では、「衝突リスク値」、「輻輳リスク値」など「リスク値」と言う用語が記載されているが、リスクを所定のルールに基づいて数値化したものであり、危険度といってもよい。「衝突リスク値」は、衝突の怖れがある障害物(船舶)に対する、その衝突の可能性の度合いを所定の基準により数値化したものであり、「輻輳リスク値」は、衝突の怖れがある障害物が複数ある場合のその複数の障害物のうちのいずれかとの衝突の可能性の度合いを所定の基準により数値化したものである。
【0033】
計画航路は出航地から目的地までの全航路に限定されず、計画航路のうち、すでに出航し航行中の移動体の現在の位置より先の航路であってもよいし、さらに、将来通過する予測位置より先の計画航路であってもよい。また、計画航路に代えて、移動体の避航経路を生成し、それを計画航路に代えて上記を適用してもよい。
【0034】
輻輳リスクとは、輻輳リスクとなる可能性のある複数の障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す概念である。一例として、輻輳リスクがない状態を示す0から輻輳リスクが障害物の中で最大の衝突リスクを示す最大衝突リスク値と同じ1までの範囲の前記複数の衝突リスク値に基づいて、前記計画航路の輻輳リスク値を算出する。ここでは、輻輳リスク値の範囲は0から1の数値範囲で示しているが、これに限定されるものではない。
【0035】
さらに、前記避航経路の輻輳リスク値についても決定する。輻輳リスク値算出部は、上記複数の衝突リスク値のうち最大衝突リスク値を除いた、複数の衝突リスク値に基づいて、前記計画航路と前記避航経路のそれぞれの輻輳リスク値を算出する。最大衝突リスク値を除いた、複数の衝突リスク値に基づいた輻輳リスク値の算出の一例として、算出の対象となるそれぞれの衝突リスク値の論理和の値を算出し、これを輻輳リスク値とする。但し、論理和による算出はあくまでも一例であり、単純に論理和によるのではなく、衝突リスクの高い順に高い係数を乗じた上で加算するなど、障害物の同時接近の度合いに応じた数値を示せるのであれば上記一例には限定されない。
【0036】
発明を実施するための形態の欄でも詳述するが、最大リスク値を有する障害物を輻輳リスク値算出の対象に含めても除いてもそれぞれに意味がありどちらも採り得る。
【発明の効果】
【0037】
計画航路上で複数の障害物が検知された場合に、移動体の現在位置や予測位置よりも前方に避航経路を生成することで、船舶運航者が安全に航行するために直感的に利用できる視覚情報を表示する手立てがないという問題を解決する。
【0038】
そして、本発明の航路計画システムは、船舶運航者が表示部の画面に表示される避航経路上で、障害物となる船舶、地形などの複数の周囲障害物との衝突を回避することにより自船などの移動体を安全に航行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
課題を解決するための手段について例示された実施形態は、図面を参照することによってよりよく理解されるであろう。ここで、類似の部分は、全体を通して同様の数字で指定される。以下の説明は、あくまでも一実施携帯としてのみ意図されており、ここで主張されている課題とそれを解決するための手段と一致するシステム、装置および方法の特定の選択された実施形態を単純に示している。
図1】本発明の航路計画システムの一実施形態による、自船など操作により水上を移動する移動体を安全に航行するための航路計画システムの構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態の説明のための図であって、自船を囲む領域における自船と他船との位置関係を示す図である。
図3】一実施形態の説明のための図であって、自船を囲む領域における自船と他船との位置関係を示す図であるが、ここでは自船が計画航路上にあるが針路に対して傾いた方向を向いている。
図4】本発明の航路計画システムの別の一実施形態による、自船など操作により水上を移動する移動体を安全に航行するための航路計画システムの構成を示すブロック図である。
図5】本発明の航路計画システムの一実施形態におけるリスク評価部とそれに関連する構成の一例を示す図である。
図6】本発明の航路計画システムの一実施形態による、計画航路に沿った障害物に関連する衝突リスク値の決定を示す図である。
図7】本発明の航路計画システムの一実施形態による、自船が障害物に接近したときの衝突リスク値の決定を示す図である。
図8】一実施形態の説明のために示した、自船と障害物が最も近い距離に位置するまでの時間と衝突リスク値との関係を示している。
図9】本発明の航路計画システムの別の実施形態による、自船が障害物に接近したときの衝突リスク値の決定を示す図である。
図10】本発明の航路計画システムのさらに別の実施形態による、自船が障害物に接近したときの衝突リスク値の決定を示す図である。
図11】本発明の航路計画システムの別の実施形態による移動体(または自船)を安全に航行するための航路計画システムのブロック図である。
図12】本発明の航路計画システムのさらに別の実施形態による移動体(または自船)を安全に航行するための航路計画システムのブロック図である。
図13】本発明の航路計画システムにおける避航経路設定部の構成の一例を示す図である。
図14】本発明の航路計画システムにおける避航経路候補パターンが生成される一例を示す図である。
図15】一実施形態の説明のために示した、自船(移動体)が避航経路を辿っている場合に設定される自船の避航経路を示す図である。
図16】本発明の実施形態による航路計画方法を示すフローチャートの一部である。
図17図16に示すフローチャートに続くフローチャートの一部である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ここでは本発明の航路計画システムの実施形態について例をあげて説明する。他の例示的な実施形態または特徴をさらに利用することができ、ここに提示された主題の精神または範囲から逸脱することなく、他の変更を加えることができる。
【0041】
ここに記載されている例示的な実施形態は、限定的なものではない。ここに一般的に記載され、図面に例示されている本発明の形態は、ここで明示的に意図されている多種多様な異なる構成で、配置、置換、結合、分離、および設計することができることは容易に理解されるであろう。
【0042】
以下の詳細な説明では、その一部を構成する添付図面を参照する。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態による、移動体200を安全に航行するための航路計画システム100の構成を示すブロック図である。図2および図3は、本発明の航路計画システムの一実施形態による、自船200を囲む所定の領域を図示する。以下、移動体200は適宜に自船200ともいうことにする。
【0044】
航路計画システム100は、出航地から目的地まで自船200を航行させるために、自船200自体に装備することができる。航海が開始されたら、出航地と目的地の間で自船200が辿るべき経路である計画航路202に沿って自船200が適切に航行をしているか、航路計画システム100によって監視される。
【0045】
航路計画システム100は、自船200が障害物として認識された船、悪海況や天候、その他の障害物とする周囲の障害物との衝突を回避し安全に航行できるようにすることを目的に使用される。船舶運航者、すなわち自船200を運航するオペレータは、航路計画システム100の支援を受けて、計画航路202に沿って自船200を航行する。
【0046】
図2および図3に示されているように、本実施形態において計画航路202は自船200が航行し安全に目的地に到達するために辿るべき航路であり、計画航路202は自船200の航路と自船200の現在位置からの針路方向を示している。
【0047】
航路計画部2は、自船200の航行のために複数の航路を格納するように構成されている。本実施形態では、船舶運航者は、本発明は航路計画システムの機能に応じて様々な機能を実行するために、航路計画システム100と操作可能に接続された様々な周辺機器を操作することができる。例えば、ユーザは、キーボードやマウスなどの周辺機器を操作することで、自船200の航行の出航地の位置や目的地について、航路計画システム1に各種指示を与えることができる。
【0048】
航路計画部2は、ユーザから取得した発信元の場所や目的地などの情報に基づいて、出航地から目的地までの自船200の航行のための1または複数の航路を提供することができる。本実施形態では、各航路は、航海の日時、気象条件、潮汐条件などを含むことができ、これらの情報と関連付けることができる。
【0049】
航路計画部2は、出航地の位置から目的地までの自船200の航行のための計画航路202としての経路の選択について、船舶運航者またはそれに関連する者からからユーザ入力を受け取る。本実施形態では、船舶運航者が移動する経路を選択するが、別の実施例として、現在の気象条件、移動時間、潮汐または潮流条件などに基づいて、航路計画部2自体の判断によって最適な経路を選択してもよい。
【0050】
航路計画システム1は、計画航路202に沿って、自船200を安全に出発地から目的地まで航行させるために、自船200の周囲の領域にある他船などの移動体200と複数の障害物204、206に関連する情報を利用する。全地球航法衛星システム(GNSS)受信器3は、一般的には自船200上に装着されており、自船200の位置、移動方向、速度などの移動体情報を取得する。GNSS受信器3は、衛星信号を受信し、自船200に関する上記移動体情報を正確に取得する。
【0051】
1または複数のセンサ部4は、自船200の航行を妨げる可能性のある複数の障害物204、206の位置、移動方向、速度を含む障害物情報を取得する。センサ部4は、1または複数の航海電子機器に対応してもよい。センサ部4の具体的な構成としては、無線検出測距(RADAR)装置、光検出測距(LIDAR)装置、音響航法測距(SONAR)装置、自動識別システム(AIS)受信機、自船200に搭載されたカメラやビデオレコーダなどのイメージセンサなど探知または検知する機能を備えたデバイスである。センサ部4は自船200の航行の障害物となるものを検知できればよく、上記に限られないし、さらに、自船に装着されたセンサに限定されず他船や陸地の管理局などから送信された情報によってもよい。
【0052】
本実施形態では、障害物情報には、レーダー、LIDAR装置、SONAR装置、イメージセンサのいずれかまたは少なくとも1つが検出した情報、AIS受信機が取得した情報、他の船舶から送信された情報、自船200以外の場所で無線通信を検出して取得した情報が含まれるものとする。
【0053】
本実施形態では、理解を容易にするために、計画航路202に沿った複数の障害物204および206は2つだけであるが、障害物の数は2だけに限定されずそれ以上であってもよい。他の様々な実施形態では、計画航路202を横断または接近しようと計画している、あるいはその怖れがある複数の障害物は、本発明の範囲から逸脱することなく、2以上の任意の数の障害物を含んでいてもよい。
【0054】
本実施形態では、障害物情報はさらに、他の船舶、潮流、気象、岩礁、座礁船の少なくとも1つを含む他の移動体に関する情報を含む。他の移動体に関する情報は、複数の障害物204、206の情報を取得するのと同様の方法で取得され得る。
【0055】
図1に示すように、航路計画システム1は、計画航路取得部11、移動体情報取得部12、障害物情報取得部13、衝突リスク値算出部14、輻輳リスク値算出部15、リスク評価部16を備えている。ここでは図1に加えて、図2および図3をそれぞれ適宜に参照して説明する。
【0056】
計画航路取得部11は、船舶運航者が計画航路202として選択した計画航路を受信するものであり、航路計画部2とは操作可能に通信接続されている。移動体情報取得部12は、自船200に関連付けられた移動体情報を受信するために、GNSS受信器3と動作可能に接続されており通信することができる。さらに、移動体情報取得部12は、受信した移動体情報を記憶するように構成されている。
【0057】
障害物情報取得部13は、複数の障害物204および206に関連する障害物情報を受信するために、1または複数のセンサ部4と動作可能に接続されており通信することができる。障害物情報取得部13は、センサ部4によって検知された、自船200が通過する計画航路を横断する、あるいは計画航路に接近する複数の障害物204、206の各障害物の位置、移動方向、速度を含む障害物情報を受信するように構成されている。本実施形態では、計画航路は、自船200が航行を予定する計画航路202である。障害物情報取得部13は、さらに上記の障害物情報を格納するように構成されている。
【0058】
本実施形態では、移動体情報取得部12は自船200の移動体情報を定期的に取得し、障害物情報取得部13は複数の障害物204、206の障害物情報を定期的に取得する。
【0059】
衝突リスク値算出部14は、計画航路取得部11、移動体情報取得部12、障害物情報取得部13と操作可能に接続されており、それぞれと通信することができる。衝突リスク値算出部14は、航行を予定する航路として、計画航路202、自船200の移動体情報、複数の障害物204、206の障害物情報を受信し、それによる自船200との衝突のリスクを数値化したリスク値を算出する。具体的な衝突リスク値、輻輳リスク値の算出については後述する。
【0060】
衝突リスク値算出部14は、さらに、移動体情報と障害物情報とに基づいて、計画航路202上にあることが予想される複数の障害物204、206に対する複数の衝突リスク値を算出するように構成されている。自船200と複数の障害物204、206の位置、移動方向、速度から、複数の衝突リスク値を算出してもよい。複数の衝突リスク値は、自船200と複数の障害物204、206との衝突のリスク値を示す。
【0061】
本実施形態では、障害物204と障害物206がそれぞれ予測される将来の経路208と210に沿って航行しており、自船200が計画された航路に沿って航行を続けている場合、予測される将来の経路208と210と計画された自船200の航路が、図に示されているようなポイントで干渉、衝突する可能性がある。
【0062】
図2および図3に示されているような場合、計画航路に関連する複数の衝突リスク値が高く、自船200と複数の障害物204および206との衝突リスクが高くなる。障害物204に伴う衝突リスク値の決定については、後ほど図6乃至図10を参照して詳細に説明する。
【0063】
図1に戻って、輻輳リスク値算出部15は、衝突リスク値算出部と操作可能に接続され、衝突リスク値算出部14と通信して計画航路202に沿った複数の障害物204および206に関する複数の衝突リスク値を受信するように構成されている。さらにここでは、輻輳リスク値算出部15は、複数の衝突リスク値に基づいて、現在の経路方向に沿った計画航路202に関連する輻輳リスク値を決定するように構成されている。輻輳リスク値は、輻輳領域にあるリスク障害物に含まれる障害物のそれぞれに対応する衝突リスク値に基づいて該輻輳リスク障害物に含まれる障害物の同時接近の度合いを示す。
【0064】
輻輳リスク値算出部15は、複数の障害物204、206に対応する算出の一例として、複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路202に対応する輻輳リスク値を決定する。本実施形態においては、輻輳リスク値算出部15は、複数の衝突リスク値のうち、最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて、計画航路202の輻輳リスク値を求める。
【0065】
ここでいう「論理和」とは、論理演算でいう二つの命題のいずれか一方あるいは両方が真のときに真となり、いずれも偽のときに偽となる、すなわち、論理回路や2進数の数値による論理和は二つの入力のいずか一方あるいは両方が1のとき出力が1となり、いずれも0の場合に0になるという論理を基礎にしたものをいう。例えば、4つの障害物Obs(1)、Obs(2)、Obs(3)、Obs(4)があって衝突リスク値がそれぞれ、0.3、0.5、0.7、0.9であったとすると、最大の衝突リスク値はObs(4)の0.9であり、これを除いた3つのObs(1)乃至Obs(3)の論理和を求めると0.7となる。
【0066】
図4は、本発明の航路計画システムの別の一実施形態による、自船など操作により水上を移動する移動体を安全に航行するための航路計画システムの構成を示すブロック図である。図1との相違点は、図4に示す実施形態では、最大衝突リスク値選定部18を備えていることである。
【0067】
最大衝突リスク値選定部18は、衝突リスク値算出部14で算出された複数の障害物のそれぞれに対する衝突リスク値のうち、最大の衝突リスク値を有する障害物、すなわち衝突リスクが最も高い障害物を選定する。本実施形態では、上述の通り、最大衝突リスク値を有する障害物に対しては最優先に衝突の可能性を評価し、必要に応じて回避行動をとらないといけない。
【0068】
他方、最大衝突リスクを有する障害物以外については、同時接近の度合いにより生じる衝突リスク、すなわち輻輳リスクを評価する。これを行うために、最大衝突リスク値以外の衝突リスク値を有する1又は複数の障害物最大衝突リスク値以外の衝突リスク値を有する1又は複数の障害物の集合については輻輳リスク値算出部15によりこれらの衝突リスク値が入力され、輻輳リスク値が算出される。
【0069】
なお、本実施形態では、最大衝突リスク値を有する障害物との衝突リスクは個別に評価されるので、これを除いているが含めたままでもよい。また、最大衝突リスク値を有する障害物を除いて輻輳リスク値を算出する場合には、最大リスク値に続く準最大リスク値を有する障害物を含めて輻輳リスク値を算出した方がより適切に輻輳リスク値を算出できる。
【0070】
ところで、衝突リスクの評価においては、最大衝突リスク値を有する障害物を除いたその他の1または複数の障害物のそれぞれの衝突リスク値に基づいて輻輳リスク値を算出し、最大衝突リスク値と輻輳衝突リスク値を別々に分けて評価した方がよい。最大衝突リスク値を有する障害物との衝突回避を最優先に考えるべきだからである。そして、衝突回避行動をとる際にその他の衝突リスク、例えば、その次に衝突リスク値の高い準最大衝突リスク値を有する障害物を含めた障害物との衝突リスクを考えればよいからである。但し、輻輳リスク値を算出する際に最大衝突リスク値を含めて算出してもよい。
【0071】
図5は、本発明の航路計画システムの一実施形態におけるリスク評価部とそれに関連する構成の一例を示す図である。最大衝突リスク値選定部18で選定された最大障害リスク値はそのままリスク評価部16にある最大衝突リスク評価部20において所定の最大衝突リスクしきい値との比較によりリスク評価される。
【0072】
一方、最大衝突リスク値を除く衝突リスク値は輻輳リスク値算出部15に入力されて輻輳リスク値が算出され、これはリスク評価部16の輻輳リスク評価部19において所定の輻輳リスクしきい値との比較によりリスク評価される。
【0073】
本実施形態では、リスク評価部16は最大衝突リスク値と輻輳リスク値の双方がそれぞれの所定のしきい値以下であれば衝突リスクがないと判断しリスク評価結果を出力する。一方でもしきい値を上回るようであれば、衝突リスクがあると判断する。但し、最大衝突リスク値がしきい値を下回っていれば輻輳リスク値がしきい値を上回っていても喫緊の衝突リスクは小さいと判断することもできる。
【0074】
上述の通り、リスク評価部16は輻輳リスク値算出部15と連動して動作可能であり、計画航路202に関連付けられた輻輳リスク値を取得する。リスク評価部16はさらに、計画航路202に関する輻輳リスク値に基づいて、自船200が計画航路202から避航すべきか、計画航路202に沿った航行を継続すべきかを判断する。潜在的な衝突リスクは、計画航路202の輻輳リスク値を評価することによって判断することができる。輻輳リスク値が高い場合、自船200は計画航路202を回避し、複数の障害物204、206との衝突を避けるため、避航経路212などの別ルートを航行することになる。
【0075】
本実施形態では、輻輳リスク値に基づいて自船200が計画航路202から避航する必要があるとリスク評価部16が判断した場合、航路計画システム1は、図2および図3に示すように、自船200の現在位置または自船が将来航行する予測位置、すなわちこれら起点となる基準点(またはウェイポイント)214から、避航経路212を経由して自船200を航行させるよう船舶運航者に促す。これは画面上の警告表示や音声など種々の手段が想定され得る。
【0076】
本実施形態では、自船200が計画航路202に従って航行している場合、航行すべき予定航路は計画航路202であるが、本発明の範囲はそれに限定されないことは当業者には明らかであろう。別の実施形態として、本発明の範囲を逸脱せずに、自船200が避航経路212を辿っているときに航行すべき航路は避航経路212となることも想定され得る。
【0077】
別の実施形態として、自船200が避航経路212に沿って航行している場合、衝突リスク値算出部14は、移動体情報と障害物情報に基づいて、避航経路212(避航のために予定された経路)に沿った複数の障害物204、206に関連する複数の衝突リスク値を求めるようにしてもよい。
【0078】
輻輳リスク値算出部15は、複数の衝突リスク値に基づいて避航経路212に伴う輻輳リスク値を算出する。輻輳リスク値算出部15は、例えば上述したように、複数の障害物204、206に対応する複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて避航経路212に対応する輻輳リスク値を算出する。本実施形態では、輻輳リスク値算出部15は複数の衝突リスク値のうち最大衝突リスク値を除いた複数の衝突リスク値の論理和の値に基づいて避航経路212の輻輳リスク値を決定している。
【0079】
リスク評価部16は、避航経路212に伴う輻輳リスク値に基づいて、自船200が避航経路212を外れるか、避航経路212を継続して航行すべきかを判断する。航路計画システム1は、自船200が通過する計画航路、すなわち計画航路202または避航経路212に沿って、複数の障害物204、206との衝突回避の処理を繰り返し、計画航路上では衝突の危険性が高い場合には避航経路を再計算、再設定する。
【0080】
図1図2および図3を参照して、航行制御部5は、リスク評価部16と操作可能に接続されており通信するようにしてもよい。航行制御部5は、自船200が計画航路202または、障害物を回避するために設定された避航経路212から外れてさらに回避するか、計画航路202または避航経路212に沿って航行を継続するかの判断に基づいて、自船200の航行を監視し制御するように構成されている。
【0081】
航行制御部5が、障害物を回避するためにいったん設定された避航経路212から外れてさらに回避する場合があるというのは、避航経路212を航行中にさらに別の障害物が接近し、これもさらに回避しなければならない状態が想定され得るからである。
【0082】
自船200の航行を制御するために、航行制御部5は自船200の位置、移動方向、速度を制御することができる。自船200が計画航路202または避航経路212を回避するとの判断に基づき、航行制御部5は、避航経路212または計画航路202、当初の避航経路212とは別の避航経路などの航路に沿って自船200を航行させることもある。
【0083】
一例として、自船200の実際の航行の方向に基づいて、図2に示すように、現在の自船200の航行の方向は計画航路202に沿っている。別の例では、自船200の実際の航行の方向に基づいて、図3に示すように、自船200の現在の航行の方向は避航経路212に沿っている。
【0084】
表示部6は、後述する目的のための船舶計器として、自船200に搭載されているか、自船200に搭載されるリスク評価部16に電気的に接続されている。表示部6には、自船200が辿るべき計画航路202が表示される。
【0085】
自船200が計画航路202から避航した場合、表示部6は、複数の障害物204、206との衝突を回避するために自船200が航行する避航航路212を表示する。また、自船200が避航航路212から外れて回避する場合、表示部6は複数の障害物204、206との衝突を回避するために自船200が航行する別の避航航路を表示する。これにより、船舶運航者は、複数の障害物204、206との衝突を回避することができ安全に自船200を航行させることができる。
【0086】
図6は、本発明の航路計画システムの一実施形態による、計画航路に沿った障害物204に関連する衝突リスク値の決定の様子を示している。衝突リスク値算出部14は、移動体情報と障害物情報に基づいて、障害物204に対する衝突リスク値を算出する。ここでは、自船200と障害物204の位置、移動方向、速度に基づいて、障害物204の衝突リスク値を決定する。
【0087】
衝突リスク値算出部14は、さらに、移動体情報と障害物情報に基づいて、自船200と障害物204との間の最接近距離Dcと特定方向の最接近距離DxまたはDyの双方または一方を求めるように構成されている。本実施形態では、最接近距離Dcは、自船200の現在位置と最接近点302との距離である。図中、垂直方向(例えば、自船200から見て航行の方向)の最接近距離Dxは、自船200の現在位置と垂直方向の最接近点304との距離である。
【0088】
上記垂直方向に垂直な方向(ここでは船の航行方向に対して横方向になり、水平方向と言うことにする。)の最接近距離Dyは、自船200の現在位置と水平方向最接近地点306との距離である。衝突リスク値算出部14は、自船200と障害物204の位置関係、自船200と障害物204の相対速度、自船200と障害物204の移動方向と速度から、自船200と障害物204が接近したときの最接近距離Dc、Dx、Dyを算出する。
【0089】
衝突リスク値算出部14は、自船200と障害物204との最接近距離Dcと特定方向の最接近距離DxまたはDyの少なくとも一つに基づいて、障害物204の衝突リスク値を求める。
【0090】
本実施形態では、最接近距離Dcが所定距離以下でリスク評価部16は衝突リスクが高いと判断した場合には、自船200は障害物204を回避する必要がある。この場合、自船200は計画航路202を外れこれとは異なる経路、すなわち設定される避航経路212に沿って航行する。一方、最接近距離Dcが所定距離より大きい場合、リスク評価部16は衝突リスクが低いと判断し、自船200は計画航路202をそのまま継続して航行してよい。
【0091】
別の実施形態では、特定方向の最接近距離DxまたはDyが所定距離以下でリスク評価部16が衝突リスクは高いと判断した場合には、自船200は計画航路を避けて別の経路、すなわち避航経路で航行することにより障害物204を回避する必要がある。一方、特定方向DxおよびDyの最接近距離が所定距離より大きい場合、リスク評価部16は衝突リスクが低いと判断し、この場合、自船200は計画航路をそのまま継続して航行してもよい。
【0092】
本実施形態において、自船200と障害物204との位置関係を、垂直方向の最接近距離Dxまたは水平方向の最接近距離Dyの双方またはいずれかに基づいて特定することにより衝突リスク値を算出してもよい。一般的には、自船200と障害物204が衝突する危険性は、障害物204が自船200の前方を横切ると高くなる。
【0093】
本実施形態では、衝突リスク値算出部14はさらに、自船200が最も近い距離Dcを横断するために必要な時間Tcを決定するようにさらに構成されている。衝突リスク値算出部14は、さらに最接近距離Dcと、障害物204となる他船が最接近距離302に到達するのに要する時間Tcを基に、計画航路202の起点(例えば、出航地)から目的地に向かって自船200が航行している場合の障害物204の衝突リスク値を求める。他船が最接近距離302に到達するのに要する時間Tcは、移動体情報と障害物情報に基づいて算出される。
【0094】
自船200と障害物204との最接近距離Dcに基づいて衝突リスク値を算出すると、自船200が障害物204に接近するまでの時間が非常に長い場合でも衝突リスク値は増加する。その結果、自船200はしばらくしてから障害物204との衝突を避けるために計画航路を外れなければならなくなる場合がある。そこで、本実施形態では、自船200と障害物204との最接近距離Dcと、自船200が最接近点302に到達するまでに要する時間Tcをも考慮して障害物204に関連する衝突リスク値を決定する。
【0095】
一例として、障害物204に対する衝突リスク値は、以下の数式(1)に基づいて算出、決定される。
【0096】
【数1】
【0097】
図7は、本発明の航路計画システムの一実施形態による、自船200が障害物204に接近したときの衝突リスク値の決定の様子を示している。自船200を中心とした楕円形の領域402に障害物204が進入すると、衝突リスク値が高くなる。ここでは一例として、楕円形の領域402は、前方1.5NM(ノーティカルマイル)、後方0.2NM、自船200の側面0.5NM以内の領域に基づいて決定される。自船200と障害物204との距離が縮まると衝突リスク値が大きくなる。
【0098】
したがって、衝突リスク値は、自船200と障害物204との距離に反比例するような関係になる。
【0099】
図7はさらに、衝突リスク値と、自船200と障害物204との垂直方向の距離との関係、および衝突リスク値と、自船200と障害物204との水平方向の距離との関係を示している。ここでは一例として、垂直方向と水平方向の最近接距離DxとDyの衝突リスク値を図7に示している。
【0100】
図8は、自船200にとって障害物となる他船が最接近点302に到達するのに要する時間Tcと衝突リスク値との関係を示している。時間Tcが小さい場合、衝突リスク値は高くなる。ここに示す一例では、時間Tcが所定時間以下の場合、衝突リスク値は高く、この状態では最大値1と決定される。
【0101】
図9は、本発明の航路計画システムの別の実施形態による、自船200が障害物204に接近したときの衝突リスク値を決定する様子を示している。障害物204の障害物バンパーエリア602は、障害物204すなわち船舶の位置、移動方向、速度に基づいて決定される。障害物204の障害物バンパーエリア602は、障害物204の移動方向に基づく障害物204の予測未来の経路206上に位置する。
【0102】
障害物204の障害物バンパーエリア602は、障害物204と障害物204の周辺エリアを含んでいる。障害物204の障害物バンパーエリア602は、衝突を防止するために、自船200の側面、前面、および背面でそれぞれ許容される最も近い距離である安全通過距離604a、604b、および604cに基づいて決定することができる。
【0103】
また、障害物バンパーエリア602は接近禁止エリアに相当し、衝突する怖れのある方向、および自船200と障害物204との距離を同時に認識することができる。自船200と障害物204との垂直または水平方向606または608の最接近点(障害物204に対する)を、移動体情報と障害物情報を基に決定する。自船200と障害物204との垂直方向または水平方向の最接近点606または608が障害物バンパーエリア602の外側にあるときは衝突の怖れはない。図9に示すように、本実施形態では、障害物204からRxの距離にある垂直方向の最接近点606も、Ryの距離にある水平方向の最接近点608も、障害物バンパーエリア602には存在しないため、衝突の怖れはない。
【0104】
本実施形態では、衝突リスク値算出部14は、自船200と障害物204との相対速度に基づいて、自船200が障害物バンパーエリア602に侵入するのに要する時間を算出する。衝突リスク値算出部14はさらに、自船200が障害物バンパーエリア602に侵入するまでの時間に基づいて、障害物204の衝突リスク値を算出する。
【0105】
図10は、本発明の航路計画システムのさらに別の実施形態による、自船200が障害物204に接近したときの衝突リスク値の決定を示している。自船200の移動可能な移動体バンパー領域702は、自船200の位置、移動方向、速度に基づいて決定される。自船200の移動体バンパーエリア702は、自船200の移動方向に基づいて自船200の予定航路(すなわち、本実施形態の計画航路202)上に位置し、自船200とその周辺領域を含む。
【0106】
自船200に対する自船200と障害物204との垂直方向の最接近点304または水平方向の最接近点306を、移動体情報と障害物情報に基づいて算出する。自船200と障害物204との間の垂直方向の最近接点304および水平方向の最近接点306が移動体バンパーの外側にある場合、領域702に衝突の危険はないことになる。
【0107】
図10に示すように、本実施形態では、自船200からの距離Rxで垂直方向304に最も近い点が移動可能な移動体バンパー領域702にあるため、衝突の危険性がある。自船200が計画航路に沿って現在の方向に航行し続け、障害物204の障害物バンパーエリア602に侵入すると衝突の危険がある。
【0108】
本実施形態では、衝突リスク算出部14は、自船200と障害物204との相対速度に基づいて、移動可能な移動体バンパー領域702が障害物バンパー領域602に侵入するのに要する時間を自船200と障害物204のそれぞれの速度と両者の距離に基づいて決定する。衝突リスク値算出部14はさらに、移動体バンパー領域702が障害物バンパー領域602に侵入するまでの時間に基づいて、障害物204に関連する衝突リスク値を算出する。障害物204に関連する衝突リスク値は、図6乃至図10に記載されている障害物204に関連する衝突リスク値の決定と同様の方法で決定されてもよい。
【0109】
図11および図12はともに、本発明の航路計画システムの別の実施形態による、自船200を安全に航行するための航路計画システム100を示すブロック図である。図11に示す実施形態では最大衝突リスク値を含めて、図12に示す実施形態では最大衝突リスク値を除いて輻輳リスク値を算出する以外に相違はない。図1に示す本発明の航路計画システムの一実施形態との違いは、図11および図12に示す一実施形態では避航経路を生成する避航経路設定部17をさらに備えていることである。
【0110】
図1および図4に示す航路計画システム100の一実施形態では障害物との衝突リスクを評価し、避航すべきか否かを決定することが主である。これに対して、図11及び図12に示す航路計画システム100の一実施形態は、避航が必要と決定されたとき避航経路を生成し、その避航経路の衝突リスクを評価し最終決定をする点で異なる。以下、図12に示す構成による一実施形態につき説明する。
【0111】
図13は本発明の航路計画システムにおける避航経路設定部の構成の一例を示す図である。図13に示す本発明の航路計画システムの一実施形態では、避航経路設定部17は避航経路候補パターン生成部22と避航経路選定部21を有している。
【0112】
衝突リスク評価の結果、自船200が計画航路を外れて避航経路を航行すべきと決定されると、避航経路候補パターン生成部22は1又は複数の避航経路候補パターンを自動生成する。
【0113】
図14は、本発明の航路計画システムにおける避航経路候補パターンが生成される一例を示す図である。避航経路候補パターン生成部22は、計画航路202上の避航開始点WP1を起点に計画航路202上の復帰点WP4までを結ぶ1又は複数の航路パターンを自動生成する。この航路パターンはあらかじめ2点間を結ぶ複数の結節点とそれらの間を結ぶ直線または曲線を記憶しておいて避航開始点WP1と復帰点WP4に重ね合わせて避航経路候補パターンとしてもよいし、その都度適宜の関数により曲線を発生させてもよい。
【0114】
また、避航開始点WP1と復帰点WP4の位置も計画航路202上であれば避航経路候補パターンごとに任意に設定してよい。避航開始点WP1については、例えば衝突リスクが高まっている場合には現在自船が航行する位置を避航開始点WP1に設定するなど適宜に決めることができる。復帰点WP4の位置については、後述するように避航経路の距離の設定方針に従って決定すればよい。
【0115】
図13に戻って、避航経路候補パターン生成部22で生成された複数の避航経路候補パターンのそれぞれについて、衝突リスク値算出部14により衝突リスク値を算出する。図14に示されるように自船の近傍には衝突リスクがある障害物204,302,304,306,308、310、312が捕捉される。まず計画航路202を航行した場合の上記複数の障害物に対する衝突リスク値が算出され、さらにこの中で最大の衝突リスク値を有する最大衝突リスク障害物が選定され、最大衝突リスク値と輻輳リスク値が算出される。ここでは、障害物204が該当し衝突リスクが高いことから避航経路を設定すべきとの決定がされる。
【0116】
次に、避航経路候補パターン生成部22では、複数の避航経路候補パターン1102(破線で示すパターン)が生成され、それぞれについて上記と同様に上記複数の障害物に対する衝突リスク値、さらにこの中で最大の衝突リスク値を有する最大衝突リスク障害物が選定され、併せて最大衝突リスク値と輻輳リスク値が算出される。これらに対するリスク評価がリスク評価部16でなされ、最適な避航経路212が選定される。
【0117】
次に、自船200が計画航路202を外れて避航経路212に沿って航行しているときの衝突リスク評価について説明する。
【0118】
図15は、本発明の一実施形態による、自船200が避航経路212に沿って航行しているときの自船200を囲む領域を示している。
【0119】
航路計画システム100は、航路計画システム1、航路計画部2、GNSS3、1または複数のセンサ部4、航行制御部5、表示部6を含んでいる。航路計画システム1は、計画航路取得部11、移動体情報取得部12、障害物情報取得部13、衝突リスク値算出部14、輻輳リスク値算出部15、リスク評価部16、避航経路設定部17を備えている。航路計画部2、GNSS3、1または複数のセンサ部4、計画航路取得部11、移動体情報取得部12、障害物情報取得部13、衝突リスク値算出部14、リスク評価部16は、図1を参照して説明したのと同様にそれぞれ機能する。
【0120】
ここで再び図11を参照して、避航経路設定部17は操作可能にリスク評価部16と接続されており、通信が可能である。避航経路設定部17は、自船200の避航経路212を生成する。避航経路設定部17は、現在位置214または予測位置を自船200の基準点として、図1に示したように、リスク評価部16に代わって避航経路212を生成する。
【0121】
図15において、自船200の予測位置は、現在の航路上の予測位置、計画航路202上の予測位置、避航経路212上の予測位置のいずれかである。避航経路設定部17は、現在の速度と自船200の旋回角速度に基づいて予測位置を決定することができる。本実施形態では、避航経路設定部17は、複数の障害物204、206を対象として算出された最大衝突リスク値と、計画航路202、すなわち計画航路に関連する輻輳リスク値に基づいて避航経路212を生成する。
【0122】
計画航路202に関する複数の障害物を対象に算出された最大衝突リスク値および輻輳リスク値が高い場合、避航経路設定部17は、複数の障害物204および206との衝突を回避するための自船200の避航経路212を生成する。生成された避航経路212は、避航開始点(またはウェイポイント)WP1から避航経路を開始し、計画航路202への復帰点(またはウェイポイント)WP4で計画航路202に戻ることができる。船舶運航者、すなわち、自船200を運航するユーザは、複数の障害物902、904との衝突を回避するため、生成された避航経路212に沿って自船200を航行することができる。
【0123】
別の実施形態として、自船200は避航経路212を辿っており、避航経路設定部17は、避航経路212に沿って障害物902、904などの複数の障害物に基づいて避航経路212を再生するかどうかを決定する。この実施形態では、計画航路は避航経路212となる。
【0124】
避航経路が再生成されると、衝突リスク値算出部14は、計画航路を横断または接近しようとする複数の障害物に対する複数の衝突リスク値に基づいて、計画航路に関連付けられた現在の衝突リスク値を決定する。
【0125】
計画航路に関連する現在の衝突リスク値が高い場合、自船200と複数の障害物が衝突する危険性が高くなる。現在の衝突リスク値は、0から1までの数値で示される場合がある。なお、衝突リスク値は上記の数値による評価に限定されず、危険の度合いを任意の範囲で設定すればよい。また、現在の衝突リスク値は、自船200が同速度を維持しながら計画航路を航行する際に、周囲の目標のうち最も危険な目標に着目した場合の接近の度合いを示す。
【0126】
さらに、衝突リスク値算出部14は、避航経路に沿った複数の障害物に対する複数の衝突リスク値に基づいて、生成される避航経路に伴う避航衝突リスク値を算出する。
【0127】
避航経路において算出された避航衝突リスク値が高い場合、自船200と複数の障害物が衝突するリスクは高くなる。避航衝突リスク値は、自船200が同速度を維持しながら避航経路を航行する場合に、周囲の障害物のうち最も衝突の怖れの高い障害物に焦点を合わせたときの接近による危険の度合いを示す。避航衝突リスク値は、0から1までの数値で示される場合があるが、上記の数値による評価に限定されず衝突の怖れの度合いを任意の範囲で設定すればよい。
【0128】
輻輳リスク値算出部15はさらに、計画航路に関する輻輳リスク値、および避航経路に関する輻輳リスク値を算出、決定するように構成されている。ここでは、輻輳リスク値は、自船200が同じ速度を維持しながら計画航路を航行する場合に、最も衝突の怖れのある障害物を除く複数の周辺障害物が同時に接近する度合いを示す。
【0129】
輻輳リスク値は、複数の障害物に対するそれぞれの衝突リスク値に基づいて算出され、ここではそれらの論理和の値により算出される。計画航路および避航経路に関する輻輳リスク値はそれぞれ0から1の範囲の数値で示すようにしてもよく、ここでは0から1の範囲の数値で示されている。なお、数値の設定の方法やその範囲についてはこれに限らず任意に設定してよい。
【0130】
計画航路を対象とした輻輳リスク値は、自船200に同時に接近する障害物の数が多い場合に高くなる。自船200に接近している障害物が一つだけの場合、ここに示す一例では、最大衝突リスクの対象となる最大衝突リスク障害物を除いており、輻輳リスク値を算出すると輻輳リスク値は0となる。自船200に複数の障害物(例えば、他の船舶)接近している場合は、衝突リスク値と輻輳リスク値の両者の数値が異なることになる。
【0131】
例えば、複数の障害物がある場合の衝突リスク値および輻輳リスク値は、以下の数式(2)および(3)に基づいて決定される。
【0132】
【数2】
【0133】
【数3】
【0134】
本実施形態では、複数の障害物に対して障害物ごとに衝突リスク値Riskiを計算することができ、複数の障害物には‘N’番号が付される。この例では、次の数式(2)乃至(4)を適用することにより複数の障害物の衝突リスク値を算出する。
【0135】
【数4】
【0136】
ここで、Nは障害物の番号を示す。
【0137】
本実施形態では、次の数式(3)乃至(5)を適用することにより、最大の衝突リスク値を持つ障害物を除く各障害物について求めた衝突リスク値Riskiに基づいて輻輳リスク値を求める。
【0138】
【数5】
【0139】
図11を参照して、航行制御部5は、避航経路設定部17と操作可能に接続されており通信することができる。航行制御部5は、自船200の航行を監視、制御するように構成されており、移動体情報と障害物情報に基づいて、衝突を回避する必要があると判断された場合、自船200が計画航路202を外れて航行するように制御する。これにより、船舶運航者は、衝突リスク値が高い場合に、複数の障害物との衝突を回避させることができ、計画航路または避航経路に沿って安全に自船200を航行させることができる。
【0140】
本実施形態では、表示部6は航路計画システム1の外部にあるが、本発明の航路計画システムはそれに限定されないことは当業者には明らかであろう。別の実施形態では、表示部6は、本発明の範囲から逸脱することなく、航路計画システム1の内部にある。
【0141】
図16および図17に示されるフローチャートを適宜に参照して、本発明の実施形態による航路計画方法1200について説明する。
【0142】
ステップ1202において、計画航路取得部11は、自船200の航路である計画航路202を受信する。航路計画部2は、出航地(出発地)の場所から目的地までの自船200の航行のための1または複数の航路を提供することができる。
【0143】
ステップ1204において、障害物情報取得部13は、1または複数のセンサ部4から障害物情報を受信する。障害物情報には、複数の障害物204、206(または902、904)の位置、移動方向、速度が含まれる。障害物情報には、他の船舶などの他の移動体、潮流、気象、岩礁、座礁船などに関連するさらに1または複数の情報が含まれていてもよい。
【0144】
ステップ1206において、移動体情報取得部12は、自船200の位置、移動方向、速度などの移動体情報を受信する。
【0145】
ステップ1208において、衝突リスク値算出部14は、移動体情報と障害物情報に基づいて、自船200の計画航路に関連する複数の衝突リスク値を求める。一実施形態では、航行すべき航路は計画航路202であるが、別の実施形態として、航行すべき航路は避航経路212であることもある。
【0146】
ステップ1210において、リスク評価部16が計画航路に沿った航行は衝突リスクが低いと判断し、自船200は計画航路を外れて回避する必要がなく避航航路を生成する必要がないと判断した場合、ステップ1204を実行する。
ステップ1210において、リスク評価部16が計画航路で衝突リスクが高いと判断し、計画航路を回避するために自船200を要求し避航航路を生成する必要がある場合、ステップ1212を実行する。
【0147】
ステップ1212において、避航経路設定部17は自船200の避航経路を生成し、表示部6の画面に避航経路を表示する。ステップ1214で、衝突リスク値算出部14は、計画航路に沿った複数の障害物に関連する複数の衝突リスク値を決定する。衝突リスク値算出部14は、計画航路と避航経路に対する衝突リスク値をそれぞれ求める。
【0148】
ステップ1216で、輻輳リスク値算出部15は、計画航路の輻輳リスク値、避航経路の輻輳リスク値、自船の合流点(計画航路への復帰点)に到達するまでの距離を算出それぞれ求める。
【0149】
ステップ1218で、リスク評価部16は、計画航路の輻輳リスク値を超える避航経路を候補から除外する。ステップ1220において、所定の輻輳リスク値を超える避航経路を候補から除外する。
【0150】
ステップ1222において、合流点に到達するまでの距離が最も短いものを移動体(自船)の避航経路に選定する。そして、ステップ1224において、移動体(自船)は避航経路に沿って航行する。
【0151】
以上の通り、本発明の航路計画システム1は、船舶運航者、すなわち、自船を運航するオペレータが表示部6の画面に表示された計画航路(計画航路202または避航経路212)および生成された避航経路(避航経路212または他の避航経路)において、障害物となる他船、地形等の複数の周囲障害物との衝突あるいは錯綜を回避することにより、自船200を安全に航行させることができる。
【0152】
以上が本発明の航路計画システムおよび航路計画方法の実施形態の説明であるが、ここに示される発明の実施形態に関連して記述された様々な例示的な論理ブロックおよび部は、プロセッサのような機械によって実装または実行することができる。
【0153】
プロセッサはマイクロプロセッサでもよいが、コントローラ、マイクロコントローラ、ステートマシン、またはこれらの組み合わせでもよい。プロセッサには、コンピュータの実行可能命令を処理するように構成された電気回路を含めることができる。別の実施形態では、プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはコンピュータの実行可能命令を処理することなく論理演算を実行するその他のプログラム可能なデバイスを含む。
【0154】
プロセッサは、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)とマイクロプロセッサの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと組み合わせた1つ以上のマイクロプロセッサ、またはその他のそのような構成など、コンピューティングデバイスの組み合わせとして実装することもできる。
【0155】
ここでは主にデジタル技術に関して説明するが、プロセッサは主にアナログコンポーネントを含むこともある。例えば、ここで説明する信号処理アルゴリズムの一部またはすべては、アナログ回路またはアナログとデジタルの混合回路によって実装される場合もあり得る。
【0156】
コンピューティング環境には、マイクロプロセッサ、メインフレームコンピュータ、デジタルシグナルプロセッサ、ポータブルコンピューティングデバイス、デバイスコントローラ、またはデバイス内のコンピューティングエンジンに基づくコンピュータシステムを含むが、これらに限定されない任意のタイプのコンピュータシステムを含めることができる。
【符号の説明】
【0157】
1 航路計画装置
2 航路計画部
3 全地球航法衛星システム(GNSS)の受信器
4 1または複数のセンサ部
5 航行制御部
6 表示部(ディスプレイ)
11 計画航路取得部
12 移動体情報取得部
13 障害物情報取得部
14 衝突リスク(危険度)算出部
15 輻輳リスク(危険度)算出部
16 リスク評価部
17 避航経路設定部
18 最大衝突リスク値選定部
19 輻輳リスク評価部
20 最大衝突リスク評価部
21 避航経路選定部
22 避航経路候補パターン生成部
100 航路計画システム
200 移動体(自船)
202 計画航路
204,206,902,904 障害物
212 避航経路
302,304,306,308,310,312 輻輳リスク対象障害物
1102 避航経路候補パターン
WP1 (計画航路から避航経路への)避航開始点
WP4 (避航経路等から計画航路への)復帰点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17