(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075415
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】アスファルト舗装補修用のアスファルト組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20240527BHJP
E01C 7/26 20060101ALI20240527BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240527BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240527BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240527BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
C08L95/00
E01C7/26
C08L91/00
C08K5/09
C08K3/34
C08L9/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186863
(22)【出願日】2022-11-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000201515
【氏名又は名称】前田道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博
(72)【発明者】
【氏名】畠山 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】小田 猛
【テーマコード(参考)】
2D051
4J002
【Fターム(参考)】
2D051AG01
2D051AG04
4J002AC083
4J002AE052
4J002AG001
4J002DJ007
4J002EF036
4J002EF056
4J002FD202
4J002FD203
4J002FD206
4J002FD207
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】常温での施工が可能であるうえ、たわみ性および床版との接着性に優れた舗装体を与えることのでき、特にアスファルト舗装の補修に好適に用いられるアスファルト組成物を提供する。
【解決手段】アスファルト舗装補修用のアスファルト組成物であって、前記アスファルト組成物は、アスファルトと、潤滑性固化材とを含有し、前記潤滑性固化材が、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するアスファルト組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト舗装補修用のアスファルト組成物であって、
前記アスファルト組成物は、アスファルトと、潤滑性固化材とを含有し、
前記潤滑性固化材が、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するアスファルト組成物。
【請求項2】
前記潤滑性固化材における前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと前記炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸との含有比率が、「トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル:炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸」の重量比で、5:95~95:5である請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項3】
前記アスファルトが、改質アスファルトである請求項1または2に記載のアスファルト組成物。
【請求項4】
前記改質アスファルトが、ストレートアスファルトと、改質材とを含み、
前記改質アスファルトにおける前記改質材の含有割合が1~40重量%である請求項3に記載のアスファルト組成物。
【請求項5】
アルカリ性添加材をさらに含有する請求項1または2に記載のアスファルト組成物。
【請求項6】
骨材がしきならされた補修箇所に、前記アスファルト組成物を充填することにより用いられる請求項1または2に記載のアスファルト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装の補修に用いられるアスファルト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、加熱アスファルト混合物は、舗装施工便覧等に示されるように、初期転圧温度は110~140℃の範囲内で行われている。しかし、加熱アスファルト混合物は、舗設直後から大きな強度が得られるものの、その可使時間は混合物の温度が低下するまでの時間であり、そのため、少量の混合物を数回に分けて使用する場合や、長時間混合物を運搬する場合、さらには、薄層オーバーレイ工法など施工厚さが薄く敷きならし直後に大幅な温度低下がともなう場合などにおいては、その適用が困難となる。
【0003】
そのため、中温化技術を使用した加熱アスファルト混合物や、常温施工型のアスファルト混合物が検討されている。中温化技術を使用した加熱アスファルト混合物、すなわち中温化アスファルト混合物は、一般的には加熱アスファルト混合物の可使温度範囲を下限側に30℃程度広げることができるとされている。また、常温施工型のアスファルト混合物は、常温(100℃以下)での施工が可能とされるアスファルト混合物である。
【0004】
常温あるいは中温域で施工可能なアスファルト混合物として、たとえば、アスファルト混合物の粘度を、鉱物油等を使用して強制的に低下させる、いわゆるカットバックアスファルト混合物が提案されている。カットバックアスファルト混合物は、特許文献1に示すように鉱物油等のカットバック材でアスファルトを軟質化させ、カットバック材の揮発に伴って、アスファルト混合物の強度を発現させるものである。しかし、上記したようにアスファルト混合物を、鉱物油等を使用してカットバックし、施工時の粘度を強制的に低下させる方法では、たとえば、道路の交通開放時点の混合物強度が極端に低下すると共に、養生時間が長くなるという欠点が存在した。
【0005】
あるいは、アスファルト乳剤を用いた常温施工型のアスファルト混合物も提案されているが、該混合物は、骨材を加熱、乾燥させる必要がないが、強度が比較的小さく、また、アスファルト乳剤の分解速度を考慮しなければならず、使用できる範囲が限定されてしまう場合があった。また、アスファルト乳剤を用いた常温アスファルト混合物は、舗装施工後のアスファルト乳剤の分解前に雨が降ったりすると、乳剤が流れ出してしまうというおそれがあった。
【0006】
これに対し、特許文献2では、常温で施工可能な常温施工型のアスファルト混合物として、カットバック材としてトール油脂肪酸を使用し、トール油脂肪酸の作用により、アスファルト混合物の粘度を低下させることにより、常温での施工を可能とするものである。そして、この特許文献2の技術では、施工後においては、カットバック材としてのトール油脂肪酸が、セメントと反応することで硬化剤として作用し、これにより、十分な強度を発現するものである。
【0007】
一方で、常温あるいは中温域で施工可能なアスファルト混合物においても、施工後の舗装体に対し、さらなる耐久性の向上や、たわみ性の向上、床版との接着強度の向上など、各種特性の向上が求められており、そのため、これらの特性を向上可能な常温あるいは中温域で施工可能なアスファルト混合物が望まれていた。
【0008】
また、これらのアスファルト混合物を用いた舗装を行う場合、アスファルト混合物は、通常、流し込み可能な流動性を保つために、加熱混合装置(クッカ)を備えた運搬車で加熱撹拌しながら運搬される。しかしながら、小規模な舗装の補修を行う場合には、使用するアスファルト混合物の量が運搬車の積載量に対して少量であるため、廃棄材料が多く発生したり、補修に係るコストが増大してしまったりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-12475号公報
【特許文献2】特許第5583978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、常温での施工が可能であるうえ、たわみ性および床版との接着性に優れた舗装体を与えることができ、特にアスファルト舗装の補修に好適に用いられるアスファルト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アスファルトと潤滑性固化材を含有し、潤滑性固化材として、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸を含有するアスファルト組成物によれば、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の態様1によれば、アスファルト舗装補修用のアスファルト組成物であって、前記アスファルト組成物は、アスファルトと、潤滑性固化材とを含有し、前記潤滑性固化材が、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するアスファルト組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の態様2によれば、前記潤滑性固化材における前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと前記炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸との含有比率が、「トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル:炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸」の重量比で、5:95~95:5である態様1に記載のアスファルト組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の態様3によれば、前記アスファルトが改質アスファルトである態様1または2に記載のアスファルト組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の態様4によれば、前記改質アスファルトが、ストレートアスファルトと、改質材とを含み、前記改質アスファルトにおける前記改質材の含有割合が1~30重量%である態様3に記載のアスファルト組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の態様5によれば、アルカリ性添加材をさらに含有する態様1~4のいずれかに記載の記載のアスファルト組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の態様6によれば、骨材がしきならされた補修箇所に、前記アスファルト組成物を充填することにより用いられる態様1~5のいずれかに記載のアスファルト組成物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、潤滑性固化材として、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸を含有するものを用いることにより、常温での施工が可能であるうえ、たわみ性および床版との接着性に優れた舗装体を得ることができる。特に、本発明に係るアスファルト組成物は、通常のアスファルト混合物に含まれる骨材を含まず、少量での運搬および施工が容易であることから、アスファルト舗装の小規模な補修に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアスファルト組成物は、アスファルトと、潤滑性固化材とを含有するものであり、潤滑性固化材が、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するものである。本発明のアスファルト組成物は、施工時に、アルカリ性添加材および硬化促進剤を添加することにより、潤滑性固化材が、アルカリ性添加材に由来するアルカリ成分と鹸化反応または中和反応することで、強度が向上するものである。なお、アルカリ性添加材としては、たとえば、普通ポルトランドセメントなどを挙げることができ、硬化促進剤としては、たとえば、水などを挙げることができる。
【0020】
ここで、本発明において、鹸化反応または中和反応としては、脂肪酸アルカリ塩を生成させる反応であればよく、たとえば、脂肪酸エステルにアルカリ水を加えることにより、脂肪酸アルカリ塩(石鹸)とグリセリンを生成する鹸化法や、脂肪酸をアルカリ水で中和する中和法等が挙げられる。また、鹸化反応において、アルカリ性添加材を固形状態で添加した場合には、通常、水などの溶媒が存在しない限り反応は開始しない。その一方で、水などの溶媒が存在する場合には、「潤滑性固化材中の脂肪酸+アルカリ性添加材+水=石鹸(固体)」の反応(鹸化反応または中和反応)が起こり、石鹸が生成し、これにより、強度が発現するものである。
【0021】
アスファルトとしては、ストレートアスファルトおよび改質アスファルトなどを用いることができるが、アスファルト組成物を用いて得た舗装体のたわみ性を向上する観点から、ストレートアスファルトに改質材を添加してなる改質アスファルトを用いることが好ましい。改質材としては、熱可塑性エラストマーおよび鉱油を含有するものが好ましく用いられる。改質材に含有される熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジエン系エラストマー(SBS)、スチレンブタジエンブチレン系エラストマー(SBBS)、スチレンイソプレン系エラストマー(SIS)、スチレンエチレンブチレン系エラストマー(SEBS)等のスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。改質材における熱可塑性エラストマーの含有割合は、好ましくは10~50重量%であり、より好ましくは15~40重量%である。改質材における鉱油の含有割合は、好ましくは50~90重量%であり、より好ましくは60~85重量%である。改質材は、上記の熱可塑性エラストマー以外に、必要に応じて、熱可塑性樹脂、その他の添加材等が含まれていてもよい。改質アスファルトにおける改質材の含有割合は、好ましくは1~40重量%であり、より好ましくは10~25重量%である。改質材の含有割合を上記範囲内とすることにより、アスファルト組成物を用いて得られる舗装体のたわみ性をより向上することができる。
【0022】
本発明のアスファルト組成物におけるアスファルトの含有割合は、好ましくは1~70重量%であり、より好ましくは10~60重量%であり、さらに好ましくは20~40重量%である。
【0023】
潤滑性固化材として、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するものを用いる。本発明によれば、潤滑性固化材として、トール油脂肪酸と、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸とを含有するものを用いることにより、施工前においては、常温あるいは中温域において、アスファルト組成物の粘度を低下させるカットバック材として作用することで、アスファルト組成物をハンドリング性に優れたものとすることができるうえ、常温あるいは中温域での施工が可能となる。さらに、アスファルト組成物を骨材等と混合し固化させることにより得られる舗装体を、たわみ性および床版との接着性のバランスに優れたものとすることができる。
【0024】
潤滑性固化材におけるトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の含有比率は、「ト―ル油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル:炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸」の重量比で、好ましくは5:95~95:5であり、より好ましくは10:90~90:10であり、さらに好ましくは30:70~90:10であり、特に好ましくは50:50~90:10である。トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の含有比率を上記範囲内とすることにより、本発明のアスファルト組成物を骨材等と混合し固化させることにより得られる舗装体を、たわみ性および床版との接着性のバランスに一層優れたものとすることができる。
【0025】
なお、潤滑性固化材におけるトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の含有比率は、施工時に用いる骨材の粒度範囲に合わせて調整することが好ましい。例えば、骨材として粒度20~13mmの5号砕石を用いる場合には、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の含有比率を重量比で40:60~80:20とすることが好ましく、50:50~70:30とすることがより好ましい。また、骨材として粒度13~5mmの6号砕石を用いる場合には、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の含有比率を重量比で50:50~90:10とすることが好ましく、60:40~80:20とすることがより好ましい。
【0026】
トール油脂肪酸は、脂肪酸を含有するものである。トール油脂肪酸を構成する脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸(共役リノール酸を含む)などが挙げられる。トール油脂肪酸を構成する脂肪酸における各成分の割合は、特に限定されないが、以下の通りであることが好ましい。
パルミチン酸:好ましくは0.5~10重量%、より好ましくは:1~6重量%
ステアリン酸:好ましくは0.5~8重量%、より好ましくは1~4重量%
オレイン酸:好ましくは15~65重量%、より好ましくは30~50重量%
リノール酸(共役リノール酸を含む):好ましくは15~70重量%、より好ましくは
30~45重量%
【0027】
トール油脂肪酸は、天然由来のものであるため、上述の脂肪酸に加え、樹脂酸を含有することがある。トール油脂肪酸に含有される樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、パラストリン酸のうちいずれか1種以上を含有するロジン等が挙げられる。
【0028】
潤滑性固化材として用いる分岐鎖飽和脂肪酸としては、炭素数が6~30のものであればよいが、炭素数が6~24のものが好ましく、炭素数が6~20のものがより好ましく、たわみ性をより高めるという観点からは、炭素数が6~12のものがさらに好ましく、炭素数が6~10のものが特に好ましい。あるいは、ハンドリング性およびたわみ性をより高度にバランスさせるという観点からは、炭素数が16~20のものが特に好ましい。また、潤滑性固化材として用いる分岐鎖飽和脂肪酸としては、ハンドリング性をより高めるという観点から、融点が、40℃以下であるものが好ましく、25℃以下(常温で液体)であるものがより好ましい。
【0029】
本発明において、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸としては、その構造中に、少なくともアルキル基からなる側鎖構造あるいは分岐鎖構造を有する、炭素数6~30の飽和脂肪酸であればよく、天然由来のもの、あるいは合成により得られたもののいずれであってもよく、さらには、複数の構造異性体が存在する場合には、複数の構造異性体からなるものであってよい。炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸の具体例としては、たとえば、イソヘプタン酸、オクチル酸、イソノナン酸、イソデシル酸、イソトリデシル酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソミスチリン酸などが挙げられ、これらの中でも、オクチル酸、イソステアリン酸が好ましく、ひび割れ抵抗性の向上という観点より、イソステアリン酸がより好ましい。
【0030】
本発明のアスファルト組成物におけるアスファルトおよび潤滑性固化材の含有比率は、「アスファルト:潤滑性固化材」の重量比で、10:90~90:10の範囲内であることが好ましく、15:85~65:35の範囲内であることがより好ましく、20:80~40:60の範囲内であることがさらに好ましい。なお、潤滑性固化材の添加量が増加するに伴い可使温度範囲も広がるため、潤滑性固化材の添加量は、施工条件にあわせて決定することが好ましい。
【0031】
本発明で用いる潤滑性固化材の酸価は、特に限定されないが、好ましくは130~380mgKOH/gであり、より好ましくは150~320mgKOH/g、さらに好ましくは160~280mgKOH/gである。
【0032】
なお、本発明のアスファルト組成物には、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、上記以外に、アスファルト舗装の分野において、通常用いられるその他の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、特に限定されないが、たとえば、フィラー、植物繊維、顔料、凍結防止剤などが挙げられる。
【0033】
本発明のアスファルト組成物は、次の方法により製造される。まず、混合装置にアスファルトと改質材を加え混合することにより、改質アスファルト調製する。混合温度は、通常、120~185℃、好ましくは140~180℃であり、混合時間は通常、160~175程度である。次いで、混合装置に、潤滑性固化材を添加し、改質アスファルトと潤滑性固化材との混合を行う。なお、潤滑性固化材は、常温のまま用いてもよいが、寒冷期などには、15~25℃程度に加温して用いることが好ましい。混合温度は、通常、50~160℃、好ましくは60~140℃であり、混合時間は通常、10秒~5分程度である。以上のようにして本発明のアスファルト組成物が得られる。
【0034】
本発明のアスファルト組成物は、通常、ペール缶等に充填し密封することで長期保存(たとえば、12ヶ月程度)することができる。
【0035】
本発明のアスファルト組成物は、後述するように、常温での施工が可能であり、かつ、少量での運搬および施工が容易であることから、特に、アスファルト舗装の小規模な補修に好適に用いることができる。
【0036】
本発明のアスファルト組成物を用いてアスファルト舗装の施工を行う方法は、次の通りである。まず、補修を行う床版上に骨材を敷き詰め、コテなどを用いて骨材の高さを調整する。次いで、ハンドミキサーを用いてペール缶等に入った本発明のアスファルト組成物を撹拌した後、アルカリ性添加材を加えて撹拌し、硬化促進剤としての水を加えてさらに撹拌して、舗装用混合物を得る。次いで、骨材が敷きならされた補修箇所に上記の舗装用混合物を流し込み(充填し)、コテなどを用いて整形する。最後に、30分~120分養生することで施工が完了する。
【0037】
骨材としては、通常の舗装用アスファルトに用いられるものを適宜用いることができるが、単粒度砕石を用いることが好ましく、目開きが4.75mmの篩目を通過する粒子の比率である4.75mmフルイ通過質量百分率が3%以下である単粒度砕石を用いることがより好ましい。一例を挙げると、粒度20~13mmの5号砕石や、粒度13~5mmの6号砕石を好適に用いることができる。
【0038】
舗装に用いるアスファルト組成物の量は、骨材100重量部に対して、好ましくは5~45重量部であり、より好ましくは15~35重量部である。また、アスファルト組成物にアルカリ性添加材および硬化促進剤を加えてなる混合物の使用量は、骨材100重量部に対して好ましくは10~50重量部であり、より好ましくは20~40重量部である。
【0039】
アルカリ性添加材としては、硬化促進剤(たとえば、水)の作用により、アルカリ成分となる化合物であればよく特に限定されず、分岐鎖飽和脂肪酸を中和するために、硬化促進剤の作用により、低い水素イオン濃度(すなわち、pHが大きい)を呈するものが望ましく、石鹸作製において、通常用いられる水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることも可能であるが、環境的な観点より、一般的な土木材料として使用されるセメントの中でも、硬化促進剤の作用によって低い水素イオン濃度を呈する普通セメント(普通ポルトランドセメント)が好ましく用いられる。普通ポルトランドセメントとしては、たとえば、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)などを主成分とするものを用いることができる。なお、アルカリ性添加材としては、これ以外にも、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等の金属イオンを含む水溶液もしくは、水を添加することで上記のイオンに分解する金属塩を含む粉末、若しくは炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)などが使用できる。アルカリ性添加材の使用量は、「アスファルト組成物:アルカリ性添加材」の重量比が、100:5~100:150の範囲内となる量とすることが好ましく、100:15~100:40の範囲内となる量とすることがより好ましい。
【0040】
以上のようにして、本発明のアスファルト組成物を用いた舗装を行うことができる。
【実施例0041】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0042】
<実施例1>
ストレートアスファルト5.8重量部に、改質材(商品名「アスタス」、日進化成株式会社製、スチレン-ブタジエン系熱可塑性エラストマー20重量%程度および鉱油60重量%程度を含む)1.5重量部を撹拌機かミキサ(スターラー)により混合し、改質アスファルトを得た(ストレートアスファルト:改質材=80:20(重量比))。この改質アスファルトにトール油脂肪酸(商品名「ハートールFA-1」、ハリマ化成グループ社製)12.7重量部と、イソステアリン酸(商品名「イソステアリン酸R」、ミヨシ油脂株式会社製)4.3重量部を加え(トール油脂肪酸:イソステアリン酸=75:25(重量比))、アスファルト組成物を得た。この際、アスファルトの加熱温度は160~175℃、その他の部材は常温とした。
【0043】
なお、実施例1で用いた潤滑性固化材としてのトール油脂肪酸(商品名「ハートールFA-1」、ハリマ化成グループ社製)は、以下の性状を有するものである。
・「不飽和脂肪酸:樹脂酸」=98.5:1.5(重量比)
・不けん化物含有量:2.0重量%
・不飽和脂肪酸の成分比率:パルミチン酸1~3重量%、ステアリン酸1~3重量%、オレイン酸40~50重量%、リノール酸35~45重量%
・樹脂酸の種類:ロジン
・酸価:194mgKOH/g
・融点:25℃以下(常温で液体)
【0044】
また、実施例1で用いた潤滑性固化材としてのイソステアリン酸(商品名「イソステアリン酸R」、ミヨシ油脂株式会社製)は、以下の性状を有するものである。
・酸価:191.1mgKOH/g
・ヨウ素価:4.7
・融点:25℃以下(常温で液体)
【0045】
次いで、アスファルト舗装の補修箇所に見立てたモールド(型枠)を用意し、モールド内に骨材20(5号砕石、粒度20~13mm)を配置し敷きならした。
【0046】
次いで、20℃とした上記のアスファルト組成物に、アルカリ性添加材としての普通ポルトランドセメントを加えて混合し、さらに硬化促進剤としての水を加えて舗装用混合物とした。この舗装用混合物を骨材が敷きならされたモールド内に流し込み、モールド内を充填した。さらに、温度20℃、湿度60%の条件で7日間養生を行うことで、供試体を得た。そして、得られた供試体を用いて、以下の曲げ試験および接着強度試験を行った。なお、各成分の配合比は、表1の記載の値のとおりとした。
【0047】
(曲げ試験)
上記にて得られた供試体を用いて、「舗装調査・試験法便覧 B005」に準じて、試験温度-10℃にて、曲げ試験を行うことで、破断時のひずみ(曲げひずみ、[×10-3mm/mm])を求めた。曲げ試験においては、破断時のひずみ(曲げひずみ)が大きいほど、たわみ性に優れ、ひび割れの発生を軽減できるための望ましい。曲げ試験の結果を表1に示す。
【0048】
(引張接着強度試験)
模擬コンクリート床版の設けられたモールドをさらに用意し、上記にて得られ供試体とコンクリート床版とをエポキシ系接着剤を用いて貼り合わせ、「道路橋床版防水便覧」に準じて、試験温度23℃および-10℃にて、引張試験を行うことで、引張接着強度[N/mm2]を求めた。結果を表1に示す。引張接着強度の値が大きいほど、床版との接着性に優れる。
【0049】
<実施例2>
トール油脂肪酸とイソステアリン酸の使用比率を60:40(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0050】
<実施例3>
トール油脂肪酸とイソステアリン酸の使用比率を45:55(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0051】
<実施例4>
トール油脂肪酸とイソステアリン酸の使用比率を75:25(重量比)に変更し、骨材として6号砕石(粒度13~5mm)を用いた以外は、実施例1と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0052】
<実施例5>
トール油脂肪酸とイソステアリン酸の使用比率を60:40(重量比)に変更した以外は、実施例2と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0053】
<実施例6>
ストレートアスファルトと改質材の使用比率を90:10(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0054】
<実施例7>
ストレートアスファルトと改質材の使用比率を100:0(重量比)に変更した以外は、実施例1と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0055】
<比較例1>
トール油脂肪酸とイソステアリン酸の使用比率を100:0(重量比)に変更した以外は、実施例7と同様にしてアスファルト組成物および舗装用混合物を得て、供試体を製造して評価を行った。
【0056】
【0057】
表1に示すように、アスファルトと潤滑性固化材を含有し、潤滑性固化材として、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと、炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸を含有するアスファルト組成物を用いて得られた供試体は、曲げ破断歪みが高いことからたわみ性に優れるものであり、かつ、床版との接着性に優れたものであった。
前記潤滑性固化材における前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルと前記炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸との含有比率が、「トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル:炭素数6~30の分岐鎖飽和脂肪酸」の重量比で、5:95~95:5である請求項1に記載のアスファルト組成物。