(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075431
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240527BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 311Z
H01G4/30 201L
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186931
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 幸史郎
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 祐太
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD03
5E001AG00
5E001AJ02
5E001AJ04
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC33
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL01
(57)【要約】
【課題】 信頼性が向上した積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 積層セラミック電子部品1は、誘電体層5と内部電極層6とが積層されてなる積層体2であって、互いに対向する第1側面9a及び第2側面9bを有し、内部電極層6の端部が第1側面9a及び第2側面9bに露出している積層体2と、第1側面9a及び第2側面9bに位置するサイドマージン部3とを含む。積層体2は、Siが偏析した第1部分21を有する。第1部分21は、サイドマージン部3寄りの領域であって、内部電極層6の端部6aを含む領域に存在する。サイドマージン部3は、Siが偏析した第2部分31及びMgが偏析した第3部分32を有する。第2部分31は、積層体2寄りの領域であって、誘電体層5と内部電極層6との積層方向に沿って延びる領域に存在し、第3部分32は、第1部分21と第2部分31との間の領域に存在する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなる略直方体状の積層体であって、互いに対向する第1面および第2面、互いに対向する第1端面および第2端面、ならびに、互いに対向する第1側面および第2側面を有し、前記内部電極層の端部が前記第1側面および前記第2側面に露出している積層体と、
前記第1側面および前記第2側面に位置するサイドマージン部と、を含み、
前記積層体は、Siが偏析した第1部分を有し、
前記第1部分は、前記サイドマージン部寄りの領域であって、前記内部電極層の前記端部を含む領域に存在し、
前記サイドマージン部は、Siが偏析した第2部分と、Mgが偏析した第3部分とを有し、
前記第2部分は、前記積層体寄りの領域であって、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向に沿って延びる領域に存在し、
前記第3部分は、前記積層方向に長い形状を有し、前記第1部分と前記第2部分との間の領域に存在する、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記第3部分は、ダンベル状形状を有する、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記第3部分は、第1塊状部分と、第2塊状部分と、前記第1塊状部分と前記第2塊状部分とを接続する棒状部分とで構成される、請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記棒状部分は、前記第1塊状部分および前記第2塊状部分よりも、前記積層方向に垂直な方向の長さが短い、請求項3に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記第3部分は、前記積層方向に長い塊状形状を有する、請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記第3部分は、前記積層方向における中央部が括れている、請求項5に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなる略直方体状の積層体であって、互いに対向する第1面および第2面、互いに対向する第1側面および第2側面、ならびに、互いに対向する第1端面および第2端面を有し、前記内部電極層の端部が前記第1側面および前記第2側面に露出している積層体を準備することと、
Si粒子および鱗片状のMg粒子を含有したセラミックスラリーを用いて、セラミックグリーンシートを成形することと、
前記セラミックグリーンシートに加圧処理を施すことと、
加圧処理された前記セラミックグリーンシートを用いて、前記積層体の前記第1側面および前記第2側面にサイドマージン部を形成することと、
前記サイドマージン部が形成された前記積層体を焼成することと、を含む積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型高機能化に伴い、電子機器に搭載される電子部品においても小型化が求められている。積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、一辺の長さが1mm以下である製品が主流となっているが、さらなる小型化大容量化が求められている。積層セラミックコンデンサを小型大容量化するためには、サイドマージン部を薄くすることが有効であるが、サイドマージン部を薄くした場合、サイドマージン部の曲げ強度が低下してしまい、積層セラミックコンデンサの信頼性が劣化する虞がある。
【0003】
特許文献1は、サイドマージン部と、内部電極層の最もサイドマージン部側とに、Siが偏析した偏析部分を形成することによって、サイドマージン部の曲げ強度を向上させた積層セラミックコンデンサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の積層セラミックコンデンサは、外力等によりサイドマージン部に応力が生じた際、サイドマージン部における、2つの偏析部分の間に位置する領域に応力が集中し、サイドマージン部にクラックが生じる虞があった。このように、従来の積層セラミックコンデンサは、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の積層セラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなる略直方体状の積層体であって、互いに対向する第1面および第2面、互いに対向する第1端面および第2端面、ならびに、互いに対向する第1側面および第2側面を有し、前記内部電極層の端部が前記第1側面および前記第2側面に露出している積層体と、
前記第1側面および前記第2側面に位置するサイドマージン部と、を含み、
前記積層体は、Siが偏析した第1部分を有し、
前記第1部分は、前記サイドマージン部寄りの領域であって、前記内部電極層の前記端部を含む領域に存在し、
前記サイドマージン部は、Siが偏析した第2部分と、Mgが偏析した第3部分とを有し、
前記第2部分は、前記積層体寄りの領域であって、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向に沿って延びる領域に存在し、
前記第3部分は、前記積層方向に長い形状を有し、前記第1部分と前記第2部分との間の領域に存在する。
【0007】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなる略直方体状の積層体であって、互いに対向する第1面および第2面、互いに対向する第1端面および第2端面、ならびに、互いに対向する第1側面および第2側面を有し、前記内部電極層の端部が前記第1側面および前記第2側面に露出している積層体を準備することと、
Si粒子および鱗片状のMg粒子を含有したセラミックスラリーを用いて、セラミックグリーンシートを成形することと、
前記セラミックグリーンシートに加圧処理を施すことと、
加圧処理された前記セラミックグリーンシートを用いて、前記積層体の前記第1側面および前記第2側面にサイドマージン部を形成することと、
前記サイドマージン部が形成された前記積層体を焼成することと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の積層セラミック電子部品によれば、サイドマージン部の曲げ強度を向上させることができるため、信頼性が向上した積層セラミックコンデンサを提供することができる。本開示の積層セラミック電子部品の製造方法によれば、サイドマージン部の曲げ強度が向上し、信頼性が向上した積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。
【
図2】
図1の積層セラミックコンデンサの本体部を示す斜視図である。
【
図3】
図1の切断面線III-IIIから見た断面図である。
【
図4】
図2の切断面線IV―IVから見た断面図である。
【
図5】
図4のV部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図6C】第3部分の断面形状の一例を示す図である。
【
図7】仮積層体を作製する工程を示す斜視図である。
【
図9】母積層体を切断して得た複数の積層体を示す斜視図である。
【
図10】樹脂フィルム上に成形されたセラミックグリーンシートを示す側面図である。
【
図11】ロールプレス装置を用いたセラミックグリーンシートの加圧の一例を示す側面図である。
【
図12】金型プレス装置を用いたセラミックグリーンシートの加圧の一例を示す側面図である。
【
図13A】積層体の側面にサイドマージン部を形成する工程を示す側面図である。
【
図13B】積層体の側面にサイドマージン部を形成する工程を示す側面図である。
【
図13C】積層体の側面にサイドマージン部を形成する工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本開示の積層セラミック電子部品および積層セラミック電子部品の製造方法の実施形態について説明する。以下では、積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサについて説明するが、本開示の積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限られず、積層型圧電素子、積層サーミスタ素子、積層チップコイル、およびセラミック多層基板等であってもよい。本開示の積層セラミック電子部品の製造方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に限られず、積層型圧電素子、積層サーミスタ素子、積層チップコイル、およびセラミック多層基板等の様々な積層セラミック電子部品の製造方法にも適用することができる。以下で参照する図面は、模式的なものであり、図面に示された寸法比率等は、必ずしも正確に図示されたものではない。本明細書においては、一部の図面において、便宜的に直交座標系xyzを定義する。x軸方向は、第1方向または長さ方向とも称される。y軸方向は、第2方向または幅方向とも称される。z軸方向は、第3方向、積層方向または高さ方向とも称される。
【0011】
図1は、本開示の実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図であり、
図2は、
図1の積層セラミックコンデンサの本体部を示す斜視図であり、
図3は、
図1の切断面線III-IIIから見た断面図であり、
図4は、
図2の切断面線IV―IVから見た断面図であり、
図5は、
図4のV部を拡大して示す拡大断面図である。
図6A,6B,6Cは、第3部分の断面形状の一例を示す図である
【0012】
本開示の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、
図1~3に示すように、積層体2とサイドマージン部3とを備える。以下では、積層体2およびサイドマージン部3を纏めて本体部2,3と記載することがある。
【0013】
積層体2は、略直方体状の形状を有している。積層体2は、第3方向(z軸方向)に互いに対向する第1面7aおよび第2面7b、第1方向(x軸方向)に互いに対向する第1端面8aおよび第2端面8b、ならびに、第2方向(y軸方向)に互いに対向する第1側面9aおよび第2側面9bを有している。以下では、第1面7aおよび第2面7bを纏めて主面7a,7bと記載することがあり、第1端面8aおよび第2端面8bを纏めて端面8a,8bと記載することがあり、第1側面9aおよび第2側面9bを纏めて側面9a,9bと記載することがある。主面7a,7bは第3方向に垂直であってよく、端面8a,8bは第1方向に垂直であってよく、側面9a,9bは、第2方向に垂直であってよい。
【0014】
積層体2は、誘電体層5と内部電極層6とが交互に積層されて構成されている。誘電体層5と内部電極層6とは、第3方向に積層されている。内部電極層6は、端部6aが第1側面9aおよび第2側面9bに露出している。また、内部電極層6は、極性別に端部が第1端面8aまたは第2端面8bに露出している。
【0015】
誘電体層5は、絶縁性を有する材料で構成されている。誘電体層5は、例えばBaTiO3(チタン酸バリウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、BaZrO3(ジルコン酸バリウム)等を主成分とするセラミック材料で構成されていてもよい。以下では、誘電体層5がBaTiO3を主成分とするセラミック材料で構成されている場合について説明する。なお、本明細書において、「主成分」とは、着目する材料または部材等において構成比率が最も高い成分のことを言う。構成比率は、例えば含有濃度(mol%)であってよい。
【0016】
内部電極層6は、導電性を有する材料で構成されている。内部電極層6は、例えばNi(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Cu(銅)、Au(金)等の金属またはこれらの合金で構成されていてもよい。内部電極層6は、誘電体層5を構成するセラミック材料を含んでいてよい。
【0017】
誘電体層5の第3方向における厚みが薄いほど、積層セラミックコンデンサ1の静電容量(以下、単に、容量ともいう)を増加させることが可能となる。誘電体層5は、例えば0.1μm以上10μm以下の厚みを有していてもよい。また、コンデンサとしての特性が確保できる限りにおいて、内部電極層6の第3方向における厚みが薄いほど、内部応力に起因する内部欠陥を抑制し、積層セラミックコンデンサ1の信頼性を向上させることができる。内部電極層6は、例えば1.5μm以下の厚みを有していてもよい。
【0018】
図3,4に示すように、積層体2の第3方向における両端部は、カバー層2aで構成されていてよい。カバー層2aは、絶縁性を有する材料で構成されている。カバー層2aは、例えばBaTiO
3、CaTiO
3、SrTiO
3、BaZrO
3等を主成分とするセラミック材料で構成されていてもよい。カバー層2aと誘電体層5とは、主成分が同一のセラミック材料で構成されていてもよい。カバー層2aは、1層または複数層の誘電体層5で構成されていてもよい。
【0019】
サイドマージン部3は、積層体2の第1側面9aおよび第2側面9bに位置している。サイドマージン部3は、積層体2側とは反対側の外側面3aを有している。サイドマージン部3は、側面9a,9bに露出した極性の異なる内部電極層6同士を電気的に絶縁する役割を有している。また、サイドマージン部3は、側面9a,9bに露出した内部電極層6の端部6aを覆い、端部6aを物理的に保護している。
【0020】
サイドマージン部3は、絶縁性を有する材料で構成されている。サイドマージン部3は、セラミック材料で構成されていてもよい。この構成により、サイドマージン部3は、絶縁性および比較的高い機械的強度を有することができる。また、サイドマージン部3がセラミック材料で構成されている場合、積層体2とサイドマージン部3とを同時に焼成することが可能となる。サイドマージン部3は、例えばBaTiO
3、CaTiO
3、SrTiO
3、BaZrO
3等を主成分とするセラミック材料で構成されていてもよい。サイドマージン部3と誘電体層5とは、主成分が同一のセラミック材料で構成されてよい。以下では、サイドマージン部3が、誘電体層5と同様に、BaTiO
3を主成分とするセラミック材料で構成されている場合について説明する。なお、
図1,2では、積層体2とサイドマージン部3との境界を二点鎖線で示しているが、実際の境界は明瞭に現われるわけではない。
【0021】
サイドマージン部3の第2方向における厚みが薄いほど、積層セラミックコンデンサ1を小型大容量化することができる。サイドマージン部3は、例えば30μm程度以下の厚みを有していてもよい。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1は、
図1,3に示すように、第1外部電極4aおよび第2外部電極4bをさらに備える。第1外部電極4aは、
図1に示すように、第1端面8aから、第1面7a、第2面7b、および外側面3aにかけて位置している。第1外部電極4aは、第1端面8aに露出した内部電極層6と電気的に接続されている。第2外部電極4bは、
図1に示すように、第2端面8bから、第1面7a、第2面7b、および外側面3aにかけて位置している。第2外部電極4bは、第2端面8bに露出した内部電極層6と電気的に接続されている。以下では、第1外部電極4aおよび第2外部電極4bを纏めて外部電極4a,4bと記載することがある。
【0023】
外部電極4a,4bは、1層または複数層の導電層で構成されている。外部電極4a,4bは、
図3に示すように、第1層41および第2層42を含んで構成されていてもよい。第1層41は、下地層とも称される。第2層42は、外層とも称される。下地層41は、本体部2,3に直接接しており、端面8a,8bに露出した、内部電極層6の端部と接続されている。外層42は、下地層41における積層体2側とは反対側の面を覆っている。外部電極4a,4bを複数層の導電層で構成することで、外部電極4a,4bと本体部2,3との密着性を高めることができる。さらに、積層セラミックコンデンサ1を基板に実装する際に用いる導電性接合材に対する外部電極4a,4bの濡れ性を高めることができる。その結果、積層セラミックコンデンサ1および積層セラミックコンデンサ1を含む実装構造体の信頼性を向上させることができる。
【0024】
下地層41は、金属材料から構成されている。下地層41に用いられる金属材料としては、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Au等の金属またはこれらの金属から成る合金が挙げられる。下地層41は、例えば、めっき法、スパッタリング法、蒸着法等の薄膜形成技術を用いて形成されていてもよく、ディップ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の厚膜形成技術を用いて形成されていてもよい。
【0025】
外層42は、金属材料から構成されている。外層42に用いられる金属材料としては、例えば、Ni、Cu、Au、Sn等の金属が挙げられる。外層42は、例えば、無電解めっき法、電解めっき法等の薄膜形成技術を用いて形成されていてもよい。
【0026】
積層セラミックコンデンサ1では、
図5に示すように、積層体2が、Siが偏析した第1部分21を有している。第1部分21は、積層体2におけるサイドマージン部3寄りの領域であって、内部電極層6の端部6aを含む領域(以下、第1領域ともいう)R1に存在している。第1領域R1は、第2方向(y軸方向)において、0.3~2.0μm程度の幅を有してよい。第1領域R1は、
図5に示すように、第3方向(z軸方向)に連続する領域(すなわち、帯状領域)である。第1領域R1は、第3方向において、積層体2の活性部(すなわち、積層体2からカバー層2aを除いた部分)の長さと同程度の長さを有してよい。第1部分21は、積層体2からサイドマージン部3にかけて位置し、積層体2の側面9a,9bから第2方向に0.3~1.0μm程度延出していてもよい。
【0027】
第1部分21は、Siが偏析した複数の部分で構成されてよい。本明細書においては、本体部2,3を端面8a,8bと平行に切断した断面の第1領域R1における、Siが偏析した連結領域のそれぞれを第1部分21と言う。第1部分21は、第1領域R1に点在してよい。第1部分21は、内部電極層6の端部6aに位置してよい。
【0028】
サイドマージン部3は、
図5に示すように、Siが偏析した第2部分31、および、Mgが偏析した第3部分32を有している。第2部分31は、サイドマージン部3における積層体2寄りの領域であって、第3方向(z軸方向)に沿って延びる領域(以下、第2領域ともいう)R2に存在している。第2領域R2は、第2方向(y軸方向)において、0.3~2.0μm程度の幅を有してよい。第2領域R2は、
図5に示すように、第3方向に連続する領域(すなわち、帯状領域)であり、第3方向において、第1領域R1と同程度の長さを有してよい。
【0029】
第2部分31は、Siが偏析した複数の部分で構成されてよい。本明細書においては、本体部2,3を端面8a,8bと平行に切断した断面の第2領域R2における、Siが偏析した連結領域のそれぞれを第2部分31と言う。第2部分31は、第2領域R2に点在していてよい。
【0030】
第3部分32は、第3方向(z方向)に長い形状を有している。第3部分32は、第1部分21と第2部分31との間の領域(以下、第3領域ともいう)R3に存在している。第3領域R3は、第2方向において、0.3~2.0μm程度の幅を有してよい。第3領域R3は、
図5に示すように、第3方向に連続する領域(すなわち、帯状領域)であり、第3方向において、第1領域R1および第2領域R2と同程度の長さを有してよい。
【0031】
第3部分32は、Mgが偏析した複数の部分で構成されてよい。本明細書においては、本体部2,3を端面8a,8bと平行に切断した断面の第3領域R3における、Mgが偏析した連結領域のそれぞれを第3部分32と言う。第3部分32は、第3領域R3に点在していてよい。
【0032】
第1部分21、第2部分31および第3部分32の分布、寸法等は、本体部2,3を端面8a,8bと平行に切断した断面を、例えば波長分散型X線分光(WDS)等で面分析により観察することで求めることができる。
【0033】
積層セラミックコンデンサ1では、第1領域R1および第2領域R2に第1部分21および第2部分31がそれぞれ存在している。第1領域R1および第2領域R2は、第1部分21および第2部分31がそれぞれ存在していることで、焼結性が向上し、ボイド率が減少する。このため、第1領域R1および第2領域R2は、第1部分21および第2部分31が存在していない場合と比べて、曲げ強度が向上している。その結果、積層体2におけるサイドマージン部3寄りの部位、およびサイドマージン部3にクラックが生じ難くなり、水分の進入を抑制できることから、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性を確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性を向上させることができる。
【0034】
また、積層セラミックコンデンサ1では、第1領域R1と第2領域R2との間に帯状に延びる第3領域R3に第3部分32が存在している。Mgのヤング率(64.5GPa程度)が、Siのヤング率(107GPa程度)より小さく、かつBaTiO3のヤング率(100GPa程度)より小さいため、第3領域R3は、外力等により応力が生じた際に変形し易い。その結果、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなり、水分の進入をいっそう抑制できる。ひいては、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。
【0035】
第3部分32は、第2方向(y軸方向)の長さに対する第3方向(z軸方向)の長さの比で表されるアスペクト比が1.2程度以上であってよい。この場合、第2方向(サイドマージン部3の厚み方向)の応力が生じた際、第3部分32が容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。
【0036】
第3部分32は、ダンベル状形状を有してよい。この場合、第2方向(サイドマージン部3の厚み方向)の応力が生じた際、第3部分32が容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。なお、本明細書において、ダンベル状形状とは、例えば
図6Aに示すように、任意形状を有する基部32aと、任意方向(
図6Aにおける上下方向)における基部32aの両端にそれぞれ連結した第1拡幅部32bおよび第2拡幅部32cであって、上記任意方向に垂直な方向における幅が基部32aよりも大きい第1拡幅部32bおよび第2拡幅部32cとで構成される形状を指す。したがって、ダンベル状形状は、
図6B,6Cに示すような形状を含む。
【0037】
第3部分32は、例えば
図6Bに示すように、第1塊状部分32d、第2塊状部分32e、および、第1塊状部分32dと第2塊状部分32eとを接続する棒状部分32fで構成されてよい。この場合、第2方向の応力が生じた際、第3部分32が容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。棒状部分32fは、第3方向に垂直な方向に延びていてよい。
【0038】
棒状部分32fは、第1塊状部分32dおよび第2塊状部分32eよりも、第3方向に垂直な方向の長さが短くてよい。この場合、第2方向の応力が生じた際、第3部分32が容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。
【0039】
第3部分32は、例えば
図6Cに示すように、第3方向に長い塊状形状を有してよい。この場合、第2方向の応力が生じた際、第3部分32が容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。
【0040】
第3部分32は、例えば
図6Cに示すように、第3方向における中央部32gが括れていてよい。この場合、第3部分32がいっそう容易に変形できるため、サイドマージン部3にクラックがいっそう生じ難くなる。その結果、積層セラミックコンデンサ1の絶縁性をより確保することができ、積層セラミックコンデンサ1の信頼性をより向上させることができる。括れた中央部32gは、ネック部とも称される。ネック部32gは、第3部分32の第3方向における両端から等距離に位置してよいし、等距離に位置しなくてよい。
【0041】
なお、第3部分32が複数存在する場合(
図5参照)、複数の第3部分32は、
図6Bに示すような断面形状の第3部分32と、
図6Cに示すような断面形状の第3部分32とを含んでいてもよい。また、
図5に示す複数の第3部分32のうちの、断面形状が略円形状である第3部分32は、ZX面方向に長く延びる第3部分32であってよい。そのような第3部分32は、第3方向に長い第3部分32と同様に、第2方向の応力が生じた際に容易に変形できるため、積層セラミックコンデンサ1の信頼性の向上に寄与し得る。
【0042】
次に、積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。
図7は、仮積層体を作製する工程を示す斜視図であり、
図8は、母積層体を示す斜視図であり、
図9は、母積層体を切断して得た複数の積層体を示す斜視図である。
図10は、樹脂フィルム上に成形されたセラミックグリーンシートを示す側面図であり、
図11は、ロールプレス装置を用いたセラミックグリーンシートの加圧の一例を示す側面図であり、
図12は、金型プレス装置を用いたセラミックグリーンシートの加圧の一例を示す側面図であり、
図13A,13B,13Cは、積層体の側面にサイドマージン部を形成する工程を示す側面図である。
図14は、未焼成の本体部を示す斜視図である。
図10~12,13A,13B,13Cでは、図解を容易にするために、セラミックグリーシートにハッチングを付している。
【0043】
先ず、誘電体層5の材料として、BaTiO3を主成分とする粉末を準備し、当該粉末に有機ビヒクルを加えて、セラミックスラリーを調製する。次に、ドクターブレード法、ダイコーター法等のシート成形法を用いて、誘電体層5となるセラミックグリーンシート(以下、単に、グリーンシートともいう)13を成形する。グリーンシート13の厚みは、例えば0.5~10μm程度であってもよい。
【0044】
次に、内部電極層6の材料として、Ni、Cu、Ag等の金属材料またはこれらの混合物を主成分とする粉末を用いて、導電性ペーストを調製する。続いて、調整した導電性ペーストを用いて、グリーンシート13の主面上に内部電極層6となる電極パターンが印刷されたパターンシート14を形成する。電極パターンの印刷には、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法等の印刷法を用いることができる。
【0045】
次に、所定枚数積層したグリーンシート13の上に、パターンシート14を所定枚数積層し、さらに、グリーンシート13を所定枚数積層することによって、仮積層体を作製する。所定枚数積層したグリーンシート13は、カバー層2aとなる。続いて、仮積層体を積層方向に加圧して、母積層体15を得る。仮積層体の加圧は、例えば静水圧プレス装置を用いて行うことができる。続いて、母積層体15を仮想分割ライン16に沿って切断し、未焼成の積層体2を作製する。母積層体15の切断は、例えば押切切断機、ダイシングソウ装置、レーザ切断機等を用いて行うことができる。未焼成の積層体2は、焼成後の積層体2と同一構造であるため、以下では、未焼成の積層体2についても、主面7a,7b、端面8a,8b、側面9a,9b、誘電体層5および内部電極層6等の用語および参照符号を用いる。内部電極層6は、端部が第1側面9aおよび第2側面9bに露出している。
【0046】
次に、積層体2の第1側面9aおよび第2側面9bにサイドマージン部3を形成する。先ず、BaTiO
3を主成分とする粉末を準備し、当該粉末にSi粒子、鱗片状のMg粒子、および有機ビヒクルを加えて、セラミックスラリーを調製する。セラミックスラリーを調製する際、Baをさらに加えてもよい。Si粒子は、例えば、Siのmol数をTiのmol数で除算した値が1.0以上7.0以下となるように添加してよい。Mg粒子は、例えば、Mgのmol数をTiのmol数で除算した値が0.1以上2以下となるように添加してよい。Mg粒子の平均粒径は、例えば0.05μm以上2μm以下であってよい。続いて、ドクターブレード法、ダイコーター法等のシート成形法を用いて、
図10に示すように、サイドマージン部3となるセラミックグリーンシート(以下、単に、グリーンシートともいう)17を、樹脂フィルム18上に成形する。グリーンシート17の厚みは、例えば10~50μm程度であってよい。樹脂フィルム18は、グリーンシート17を支持する支持体としての役割を有する。樹脂フィルム18は、例えば10~40μm程度の厚みを有する平滑なフィルムであってよい。樹脂フィルム18は、可撓性を有してよい。樹脂フィルム18は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等で構成されてよい。以下では、樹脂フィルム18上に成形されたグリーンシート17を、樹脂フィルム18付グリーンシート17とも言う。
【0047】
次に、グリーンシート17を厚み方向に加圧する加圧処理を施す。加圧処理は、グリーンシート17を圧縮することで、焼成後のサイドマージン部3における第3部分32の断面形状を、
図6A,6B,6Cに示すようなダンベル状形状とする処理である。
【0048】
加圧処理は、例えば、ロールプレス装置100を用いて行うことができる。ロールプレス装置100は、
図11に示すように、上ロール101および下ロール102を有している。ロールプレス装置100は、上ロール101および下ロール102を互いに逆向きに回転させることによって、上ロール101と下ロール102との間隙に配置された被加圧物を連続的に加圧する。
【0049】
グリーンシート17に加圧処理を施す際、グリーンシート17のみを加圧するのではなく、
図11に示すように、樹脂フィルム18付グリーンシート17を加圧してよい。この場合、加圧処理中にグリーンシート17が破損する虞を低減することができる。加圧処理は、グリーンシート17を加熱しながら行ってよく、この場合、加圧処理中にグリーンシート17が破損する虞を低減することができる。ロールプレス装置100は、グリーンシート17に当接する上ロール101が、グリーンシート17を加熱するためのヒータ103を有していてよい。
【0050】
加圧処理は、ロールプレス装置100を用いる加圧処理に限られない。加圧処理は、金型プレス装置200を用いて行ってもよい。金型プレス装置200は、
図12に示すように、上パンチ201および下パンチ202を有している。金型プレス装置200は、固定された下パンチ202に向かって上パンチ201を移動させることにより、上パンチ201と下パンチ202との間に配置された被加圧物を加圧する、一軸成形プレス装置であってもよい。樹脂フィルム18付グリーンシート17を加圧する場合、樹脂フィルム18付グリーンシート17は、上パンチ201がグリーンシート17に当接するように、金型プレス装置200内に配置してもよい。これにより、グリーンシート17を効果的に圧縮できる。加圧処理は、グリーンシート17を加熱しながら行ってよく、この場合、加圧処理中にグリーンシート17が破損する虞を低減することができる。金型プレス装置200は、グリーンシート17に当接する上パンチ201が、グリーンシート17を加熱するためのヒータ203を有していてよい。
【0051】
グリーンシート17に加える圧力および加圧時間は、グリーンシート17に含まれるMg粒子の量、平均粒径等に基づいて、適宜設定することができる。
【0052】
次に、圧縮されたグリーンシート17を用いて、積層体2の側面9a,9bに未焼成のサイドマージン部3を形成する。先ず、
図13Aに示すように、積層体2の第2側面9bを、粘着および剥離が可能な支持シート19を介して、第1台座20aの下面に固定する。第1台座20aに固定されている積層体2の下方には、第2台座20bが配置されている。第2台座20bの上面には、樹脂フィルム23を介して、圧縮されたグリーンシート17が配置されている。樹脂フィルム23は、グリーンシート17を圧縮する際に用いた樹脂フィルム18であってよい。
【0053】
次に、
図13Bに示すように、積層体2が固定されている第1台座20aを下方に移動させて、グリーンシート17を第1側面9aに圧着させる。グリーンシート17と第1側面9aとの圧着力を高めるために、グリーンシート17を加熱してもよい。あるいは、製品に影響を与えない接着剤を、グリーンシート17と第1側面9aとの間に配置しておいてもよい。
【0054】
次に、
図13Cに示すように、積層体2の第1側面9aにグリーンシート17が圧着された状態で、積層体2が固定されている第1台座20aを上方に移動させる。グリーンシート17における第1側面9aに接触していない部分は樹脂フィルム23上に残るため、第1側面9aにグリーンシート17を貼り付けることができる。
【0055】
図13A,13B,13Cに示す工程と同様にして、第2側面9bにグリーンシート17を貼り付けることができる。
図14は、第1側面9aおよび第2側面9bにグリーンシート17が貼り付けられた、未焼成の本体部2,3を示している。
【0056】
次に、本体部2,3に対して、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気または還元雰囲気において、大気圧または減圧で脱脂処理を施した後、還元雰囲気で焼成する。焼成温度は、例えば1100~1300℃程度であってよい。続いて、焼成後の本体部2,3に対して、窒素雰囲気で再酸化処理を行う。再酸化処理後の本体部2,3を研磨粉、研磨メディア等が入ったポットの中に入れて回転させて研磨することによって、本体部2,3の角およびバリを取り除き、
図2に示すような本体部2,3を得る。得られた本体部2,3に外部電極4a,4bを形成することによって、積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。
【0057】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法によれば、サイドマージン部3の曲げ強度が向上し、信頼性が向上した積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。
【0058】
上記製造方法では、サイドマージン部3を1枚のグリーンシート17で形成する例について説明したが、サイドマージン部3を複数枚のグリーンシートで形成してもよい。複数枚のグリーンシートは、厚みが互いに異なっていてよく、Si粒子およびMg粒子の含有量が互いに異なっていてもよい。
【0059】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 積層セラミック電子部品(積層セラミックコンデンサ)
2 積層体
2a カバー層
21 第1部分
3 サイドマージン部
3a 外側面
31 第2部分
32 第3部分
32a 基部
32b 第1拡幅部
32c 第2拡幅部
32d 第1塊状部分
32e 第2塊状部分
32f 棒状部分
32g 中央部(ネック部)
4a 第1外部電極
4b 第2外部電極
41 第1層(下地層)
42 第2層(外層)
5 誘電体層
6 内部電極層
6a 端部
7a 第1面
7b 第2面
8a 第1端面
8b 第2端面
9a 第1側面
9b 第2側面
13 セラミックグリーンシート
14 パターンシート
15 母積層体
16 仮想分割ライン
17 セラミックグリーンシート
18 樹脂フィルム
19 支持シート
20a 第1台座
20b 第2台座
23 樹脂フィルム
100 ロールプレス装置
101 上ロール
102 下ロール
103 ヒータ
200 金型プレス装置
201 上パンチ
202 下パンチ
203 ヒータ