(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075452
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】RNAの合成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20240527BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20240527BHJP
A61K 31/7105 20060101ALN20240527BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C12P19/34 A ZNA
C12N9/12
A61K31/7105
A61P31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022212629
(22)【出願日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 涼
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
(72)【発明者】
【氏名】矢田 貴子
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4C086
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF01
4B050HH02
4B050LL01
4B064AF27
4B064CA21
4B064CC24
4B064CE02
4B064DA01
4C086AA04
4C086EA16
4C086NA20
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】 pH7.5以下、又は低温域若しくは高温域においても、効率よくRNAを合成できるRNAの合成方法を提供し、該合成方法に使用できるRNA合成用キットを提供するものである。
【解決手段】 ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ(MtRNAP)を用いて、pH7.5以下、又は低温域若しくは高温域においても、効率よくRNAを合成できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、鋳型DNA、NTP、マグネシウム塩及び緩衝液を含む反応液を用いて、pH7.5以下でインビトロ転写を行うことを特徴とする、RNA合成方法。
【請求項2】
35℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うことを特徴とする、請求項1記載のRNA合成方法。
【請求項3】
ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、鋳型DNA及びNTPを含む反応液を用いて、35℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うことを特徴とする、RNA合成方法。
【請求項4】
ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、NTP、マグネシウム塩及びpH7.5以下の緩衝液を含む、RNA合成用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの合成方法及びRNA合成用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
新型ウイルスの感染拡大に伴い、感染症ワクチンとしてmRNAワクチンが開発、利用されると共に、がん治療ワクチンとしてもmRNAの研究が進められる等、RNA合成の需要が急速に高まっている。
【0003】
現在、RNAの合成は、T7RNAポリメラーゼ(T7RNAP)を使用して、T7RNAPの認識配列であるT7プロモーターを含み、該プロモーターの下流に目的の配列を挿入したDNAを鋳型として、インビトロ転写により行われている。T7RNAPは、T7ファージ由来の単一サブユニットからなるDNA依存性RNAポリメラーゼであり、安定性、正確性等を高めた改変酵素が開発されている(特許文献1及び2)。ファージ由来のDNA依存性RNAポリメラーゼとしては、T7RNAPの他に、T3RNAP、SP6RNAP等が知られている。
【0004】
ファージ由来DNA依存性RNAポリメラーゼと同様に、単一サブユニットからなるDNA依存性RNAポリメラーゼとして、ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ(MtRNAP)が知られており、MtRNAPは、転写因子を必要とすることが知られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022-521094号公報
【特許文献2】特表2020-532963号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mol Cell.,81(2),268-280,2021
【非特許文献2】Nature,25,478(7368),269-273,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、pH7.5以下、又は低温域若しくは高温域においても、効率よくRNAを合成できるRNAの合成方法を提供し、該合成方法に使用できるRNA合成用キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ(MtRNAP)を用いて、pH7.5以下、又は低温域若しくは高温域においても、効率よくRNAを合成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]の態様に関する。
[1]ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、鋳型DNA、NTP、マグネシウム塩及び緩衝液を含む反応液を用いて、pH7.5以下でインビトロ転写を行うことを特徴とする、RNA合成方法。
[2]35℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うことを特徴とする、[1]記載のRNA合成方法。
[3]ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、鋳型DNA及びNTPを含む反応液を用いて、35℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うことを特徴とする、RNA合成方法。
[4]ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ、NTP、マグネシウム塩及びpH7.5以下の緩衝液を含む、RNA合成用キット。
【発明の効果】
【0010】
従来のRNA合成法では、T7RNAPの酵素活性がpH7.5以下の弱酸性領域で低下するため、RNAの安定性が高い弱酸性領域での効率的なRNA合成ができなかったが、本発明により、RNAの安定性が高いpH7.5以下において、効率的なRNA合成が可能になった。また、T7RNAPの酵素活性が35℃以下で低下するため、RNA分解酵素の影響を受けにくい35℃以下の温度領域での効率的なRNA合成ができなかったが、本発明により、35℃以下においても効率的なRNA合成が可能になった。さらに、T7RNAPの酵素活性が40℃以上で低下するため、温度に比例して反応速度が高まるという酵素の特性を利用した効率的なRNA合成ができなかったが、本発明により、40℃以上においても効率的なRNA合成が可能になった。よって、RNAが安定な条件下で、より効率的なRNA合成ができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のRNA合成方法は、ミトコンドリアルRNAポリメラーゼ(MtRNAP)を用いて、pH7.5以下でインビトロ転写を行うことによりRNAを合成できる。また、MtRNAPを用いて、35℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うことによりRNAを合成できる。
【0012】
MtRNAPは、二本鎖DNAを鋳型とし、NTPを基質としてプロモーター配列より下流のDNAに相補的な一本鎖RNAを合成するDNA依存型RNAポリメラーゼであり、T7RNAPと同じ単一サブユニットからなる酵素である。DNAを鋳型として、一本鎖RNAを合成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、公知のMtRNAPを用いることができる。例えば、前記非特許文献1、2等に記載の酵母由来MtRNAP、ヒト由来MtRNAP等の他、カビ由来、シロイヌナズナ等の植物由来のMtRNAPでもよく、前記反応を触媒する活性を有する限り、上記に例示した配列のアミノ酸残基の一部又はドメインの一部が欠失、置換又は付加されていてもよい。具体的にはGenBank:DAA12404.1(配列番号2)、GenBank:AAB58255.1(配列番号10)、GenBank:GAQ40436.1(配列番号11)、GenBank:CAA69331.1(配列番号12)等の公知配列を利用して組換え製造したMtRNAPを使用することができる。
【0013】
本発明で用いるMtRNAPは、下記の性質(1)を有し、並びに(2)~(5)の性質を有するのが好ましい。
(1)作用:二本鎖DNAを鋳型とし、NTPを基質としてプロモーター配列より下流のDNAに相補的な一本鎖RNAを合成する反応を触媒する酵素である。
(2)酵素のポリペプチドの分子量が100~160kDaである。
(3)pH4.0~9.0の緩衝液を含む反応液において活性を有する。
(4)10~80℃において活性を有する。
(5)トリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、6時間静置後の残存活性が50%以上である。
活性を有するとは、二本鎖DNAを鋳型とし、NTPを基質としてプロモーター配列より下流の鋳型DNAに相補的な一本鎖RNAを合成する反応を触媒し得ることを意味する。
【0014】
(2)酵素のポリペプチドの分子量が100~160kDaであるのが好ましく、より好ましくは、110~150kDaである。酵素のポリペプチドの分子量とは、タンパク質部分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分子量を測定した場合の分子量のことであり、宿主によって糖鎖を有する場合は糖鎖を除去したタンパク質部分の分子量である。
【0015】
(3)pH4.0~9.0の緩衝液を含む反応液において活性を有するのが好ましく、pH3.0~9.0の緩衝液を含む反応液において活性を有するのがより好ましく、詳細には、MtRNAP、1Mの各pHの緩衝液及び水を用いて終濃度40mM緩衝液に調製し、その他基質等を含む反応液において活性を有することを意味する。pH8.0の緩衝液を用いて調製した反応液における活性を100%とした場合に、pH7.0の緩衝液を用いた場合において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましく、pH6.0の緩衝液を用いた場合において20%以上、30%以上又は40%以上の相対活性を有するのが好ましく、pH5.0の緩衝液を用いた場合において20%以上、30%以上又は35%以上の相対活性を有するのが好ましく、pH4.0の緩衝液を用いた場合において8%以上、10%以上又は15%以上の相対活性を有するのが好ましく、pH3.0において5%以上又は10%以上の相対活性を有するのがより好ましい。また、野生型T7RNAPのpH8.0の緩衝液を用いて調製した反応液における活性を100%とした場合の各pHにおける相対活性と、MtRNAPのpH8.0の緩衝液を用いて調製した反応液における活性を100%とした場合の各pHにおける相対活性とを比較して、pH6.0におけるMtRNAPの相対活性値が、1.2倍以上であるのが好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましく、2倍以上が特に好ましく、pH5.0におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、pH4.0におけるMtRNAPの相対活性値が、2倍以上であるのが好ましく、2.5倍以上がより好ましく、3倍以上がさらに好ましく、3.5倍以上が特に好ましく、pH3.0におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましい。尚、pH3.0及び4.0は酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.0及び6.0はリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0、8.0及び9.0はトリス塩酸緩衝液を使用する。
【0016】
(4)10~80℃において活性を有するのが好ましく、10~100℃において活性を有するのがより好ましく、詳細には、MtRNAP、1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)及び水を用いて終濃度40mM緩衝液に調製し、その他基質等を含む反応液を用いて、前記温度範囲で、活性を有することを意味する。37℃における活性を100%とした場合に、50℃において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましく、60℃において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましく、80℃において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましく、100℃において30%以上、40%以上又は50%以上の相対活性を有するのが好ましく、20℃において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましく、10℃において50%以上、60%以上又は70%以上の相対活性を有するのが好ましい。また、野生型T7RNAPの37℃における活性を100%とした場合の各温度における相対活性と、MtRNAPの37℃における活性を100%とした場合の各温度における相対活性とを比較して、50℃におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、60℃におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、80℃におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、100℃におけるMtRNAPの相対活性値が、1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、20℃におけるMtRNAPの相対活性値が、同等であるのが好ましく、1倍以上がより好ましく、10℃におけるMtRNAPの相対活性値が、同等であるのが好ましく、1倍以上がより好ましく、1.1倍以上がさらに好ましく、1.2倍以上が特に好ましい。
【0017】
(5)トリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、6時間静置後の残存活性が40%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのがさらに好ましく、詳細には、0時間目の活性を100%とした場合の、6時間静置後の相対活性を、残存活性とする。また、野生型T7RNAPのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、6時間静置後の残存活性と、MtRNAPのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、6時間静置後の残存活性とを比較して、MtRNAPの残存活性値が、同等であるのが好ましく、1倍以上がより好ましく、1.1倍以上がさらに好ましい。
【0018】
本発明で使用するMtRNAPのアミノ酸配列の例として、(a)配列番号2、9、10、11若しくは12で示されるアミノ酸配列、又は(b)該配列と相同性を有するアミノ酸配列であって、DNAを鋳型とし、NTPを基質として一本鎖RNAを合成する反応を触媒する活性を有するタンパク質のアミノ酸配列が例示できる。尚、配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のうち、N末端側の1-270番目のアミノ酸配列を含まないアミノ酸配列である。
【0019】
また本発明のMtRNAPは、
(a)配列番号2、9、10、11若しくは12で示されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2、9、10、11若しくは12で示されるアミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列、
を含み、DNAを鋳型とし、NTPを基質として一本鎖RNAを合成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を例示できる。
【0020】
アミノ酸配列が「相同性」を有するとは、類似性が好ましくは少なくとも90%又は95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列であること、又は同一性が好ましくは少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、98%又は99%のアミノ酸配列であることを意味する。
【0021】
類似性は、GENETYX(登録商標)の説明書 p.220 A.18 ホモロジースコア表 A.18.2 アミノ酸、参考文献:Atlas of Protein Sequence and Structure Vol.5(1978))を用いて、アライメント時にスコアが0以上になる文字数÷アライメント長で算出された値である。配列解析ソフトである、GENETYX((登録商標)、株式会社ゼネティックス製)を用いて算出できる。詳細には、該ソフトを初期設定で使用し、アミノ酸配列同士のホモロジー解析を行い、Similarityとして算出される。
【0022】
同一性は、NCBI BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)のProtein BLASTで、Align two or more sequencesにより、2アミノ酸配列を比較した際の“Per.Ident”又は“Identities”で表示される値に基づく。
【0023】
MtRNAPは公知の方法で取得でき、例えば、MtRNAPを産生する公知の微生物若しくは市販のDNAから該酵素の構造遺伝子を取得し、又は公知のアミノ酸配列を基に、例えば宿主に最適化した遺伝子配列を合成し、取得した構造遺伝子若しくは合成した構造遺伝子を組換え用ベクター(pUC118、pUC18、pBR322、pCold等)に挿入後、該ベクターを用いて適切な宿主を形質転換して得られた形質転換体又はCRISPR-Cas9システムを用いて得られた形質転換体を培養し、遠心分離等で菌体又は培養上清を回収した後、菌体破砕等により抽出した粗酵素液を精製して得られる。
【0024】
宿主は、例えば大腸菌、枯草菌、放線菌等の原核細胞や、真菌(酵母、アスペルギルス属等の子嚢菌、担子菌等)、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用できるが、大腸菌又は酵母が好ましい。
【0025】
本発明で使用されるMtRNAP生産菌の培養には、通常の微生物培養用培地が使用できる。例えば、炭素源、窒素源、ビタミン類、無機物、その他使用する微生物が必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、スクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜、メタノール等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用でき、ビタミン類を使用してもよい。さらに、タンパク質の発現の調整に必要な化合物を適宜添加しても良い。
【0026】
本発明のMtRNAPを得るための培養は、通常、振盪培養や通気攪拌等の方法により好気的条件下で行うのが良い。MtRNAP生産菌の特性を踏まえて、MtRNAPの生産に適した培養条件に設定すれば良い。例えば、培養温度は15℃から45℃、好ましくは20℃~40℃、pHは4.0~8.5.好ましくは5.0~8.0の範囲で行うのが好ましく、生産性を考慮して培養中にpH調整をしても良い。培養期間は0.5日から10日の範囲が好ましいが、流加培養や連続培養による生産量増大を行うのであれば、生産性が最適と判断される範囲で期間を延ばすことができる。この様な方法で培養することにより、培養物中にMtRNAPを生成蓄積することができる。
【0027】
培養物中からMtRNAPを得る方法は、通常のタンパク質の製造方法が利用できる。例えば、最初にMtRNAP生産菌を培養後、遠心分離により培養上清液を得る。又は培養菌体を得、適当な方法で該培養微生物を破砕し、破砕液から遠心分離等によって上清液を得る。次に、これらの上清液中に含まれるMtRNAPを、通常のタンパク質の精製方法で精製し、精製酵素を得ることができる。例えば、限外ろ過、塩析、溶媒沈殿、熱処理、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィー等を適宜組み合わせることによって精製できる。
【0028】
本発明のMtRNAPは液状で供することもできるが、凍結乾燥、真空乾燥又はスプレードライ等により粉末化することができる。MtRNAPは緩衝液等に溶解した組成物として用いることができ、さらに賦形剤あるいは安定化剤として、糖・糖アルコール類、アミノ酸、タンパク質、ペプチド等を添加することができ、例えばトレハロース・スクロース・ソルビトール・エリスリトール、グリセロール等の糖・糖アルコール類、グルタミン酸・アルギニン等のアミノ酸、牛血清アルブミン・卵白アルブミン等のタンパク質・ペプチド類等を挙げることができる。
【0029】
本発明のRNA合成方法は、MtRNAP、鋳型DNA、NTP、マグネシウム塩及び緩衝液を含む反応液を用いて、pH7.5以下でインビトロ転写を行うことによりRNAを合成できる。さらに反応液に、DEPC等のRNase阻害剤、DTT等の還元剤、MtRNAP用の転写因子、スペルミジン等の安定化剤等、適宜含ませることができ、転写因子としては、酵母由来MtRNAPについてはMtf1、ヒト由来MtRNAPについてはTFAM及び/又はTFB2Mが例示できる。基質となるNTPは、ATP、GTP、CTP及びUTPを使用でき、合成するRNAの用途により、適宜、修飾された各ヌクレオチドも使用できる。
【0030】
鋳型DNAは、プロモーター配列の下流に目的の遺伝子配列を挿入したDNAであればよく、プロモーター配列は、MtRNAPが認識できるプロモーターであれば特に限定されないが、ミトコンドリアルプロモーターが好ましく、例えばThe Plant Cell,Vol.19.959-971,2007の表1記載の既知のミトコンドリアルプロモーター(下記表1参照)が例示でき、既知のプロモーター配列を一部改変した配列でもよく、天然型又は改変型のT7プロモーターも利用できる。また、目的の遺伝子配列の下流にターミネーター配列を含むのが好ましく、ターミネーター配列はMtRNAPが認識できるターミネーターであれば、特に限定されない。
【0031】
【0032】
本発明では、pH7.5以下でインビトロ転写を行えばよく、pH7.0以下でインビトロ転写を行うのが好ましく、pH6.5以下がより好ましく、pH6.0以下がさらに好ましく、下限としてはpH3.0以上でインビトロ転写を行うのが好ましく、pH3.5以上がより好ましく、pH4.0以上がさらに好ましく、野生型T7RNAPのpH8.0の緩衝液を用いて調製した反応液における活性を100%とした場合の各pHにおける相対活性と、MtRNAPのpH8.0の緩衝液を用いて調製した反応液における活性を100%とした場合の各pHにおける相対活性とを比較した場合に、MtRNAPの方が合成効率が高いpH範囲で行うのが特に好ましい。野生型T7RNAPを用いたRNA合成量に対して、MtRNAPを用いたRNA合成量が、pH6.0において1.2倍以上であるのが好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましく、2倍以上が特に好ましく、pH5.0において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、pH4.0において2倍以上であるのが好ましく、2.5倍以上がより好ましく、3倍以上がさらに好ましく、3.5倍以上が特に好ましく、pH3.0において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましい。
【0033】
本発明で用いる緩衝液としては、pH7.5以下の範囲で緩衝能を有する緩衝液であれば特に限定されないが、pH3.0~7.0で緩衝能を有する緩衝液がより好ましく、トリス塩酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、酢酸カリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等の緩衝液の他、BES、Bis-Tris、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSOといったグッド緩衝剤を用いた緩衝液も例示できる。これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。pH7.0以下の緩衝液を用いるのが好ましく、pH6.5以下の緩衝液を用いるのがより好ましく、pH6.0以下の緩衝液を用いるのがさらに好ましく、下限としてはpH3.0以上の緩衝液を用いるのが好ましく、pH3.5以上の緩衝液を用いるのがより好ましく、pH4.0以上の緩衝液を用いるのがさらに好ましい。
【0034】
反応液中の緩衝液の濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は200mM以下、より好ましくは100mM以下であり、さらに好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
【0035】
本発明では、30℃以下又は40℃以上でインビトロ転写を行うのが好ましく、28℃以下でインビトロ転写を行うのがより好ましく、25℃以下がさらに好ましく、20℃以下又は15℃以下でもよい。又は42℃以上でインビトロ転写を行うのがより好ましく、45℃以上がさらに好ましく、50℃以上が特に好ましく、55℃以上、60℃以上又は65℃以上でもよく、野生型T7RNAPの37℃における活性を100%とした場合の各温度における相対活性と、MtRNAPの37℃における活性を100%とした場合の各温度における相対活性とを比較した場合に、MtRNAPの方がRNA合成効率が高い温度範囲で行うのが特に好ましい。野生型T7RNAPを用いたRNA合成量に対して、MtRNAPを用いたRNA合成量が、50℃において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、60℃において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、80℃において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、100℃において1.5倍以上であるのが好ましく、2倍以上がより好ましく、2.5倍以上がさらに好ましく、3倍以上が特に好ましく、20℃において同等であるのが好ましく、1倍以上がより好ましく、10℃において同等であるのが好ましく、1倍以上がより好ましく、1.1倍以上がさらに好ましく、1.2倍以上が特に好ましい。
【0036】
本発明では、MtRNAPを用いて、RNA合成用キットを製造することができ、MtRNAPに加え、NTP、マグネシウム塩及びpH7.5以下の緩衝液を含む、RNA合成用キット製造することが可能となった。さらにキットは、DEPC等のRNase阻害剤、DTT等の還元剤、MtRNAP用の転写因子、スペルミジン等の安定化剤等を適宜含むことができ、転写因子としては、酵母由来MtRNAPについてはMtf1、ヒト由来MtRNAPについてはTFAM及び/又はTFB2Mが例示できる。基質となるNTPは、ATP、GTP、CTP及びUTPを使用でき、合成するRNAの用途により、適宜、修飾された各ヌクレオチドを選択できる。
【0037】
(酵素活性測定法)
本発明のMtRNAPの酵素活性は、次の方法で測定できる。
活性測定にはT7RNA Polymerase Assay Kit(プロフォルディンプロテインフォールディングサービス社製)を使用した。反応試薬と各酵素を混合し、37℃で1時間保温してmRNAを合成した後、反応液と蛍光試薬を混合して励起波長485nmで535nmの蛍光強度を測定した。
また、活性濃度が既知のT7RNAPを用いて酵素活性濃度をX軸、蛍光強度をY軸として検量線を作成し、各酵素を測定したときの蛍光強度から活性濃度を算出した。
【0038】
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
本遺伝子をpColdIIベクター(タカラバイオ社製)にクローニング(マルチクローニングサイトのNdeI、EcoRIサイトの挿入)し、プラスミドを構築後、大腸菌BL21-CodonPlus-RILコンピテントセル(アジレントテクノロジー社製)に導入した。本大腸菌をLB培地で培養し、培養後の菌体を回収して超音波破砕を行うことでCFEを取得した。また、取得したCFEを常法に従って精製することで、それぞれの精製酵素を取得した。各精製酵素について上記酵素活性測定法により活性を確認したところ、各々RNAP活性が確認できた。
取得したRNAPの分子量をSDS-PAGEから計算した結果、MtRNAPは約150kDa、T7RNAPは約100kDaだった。また、ブラッドフォード法によりタンパク質濃度を測定し比活性(U/mg)を算出したところ、MtRNAPが16,000U/mg、T7RNAPが248,000U/mgだった。