(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075490
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】造粒物及び造粒物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240527BHJP
A23L 2/39 20060101ALI20240527BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A23L2/00 Q
A23L2/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183267
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022186839
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
(72)【発明者】
【氏名】永瀧 達大
【テーマコード(参考)】
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B035LC04
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG08
4B035LG15
4B035LG17
4B035LP36
4B117LC13
4B117LE01
4B117LG17
4B117LK01
4B117LK11
4B117LK14
4B117LK15
4B117LK16
4B117LK23
4B117LL01
4B117LL02
4B117LL03
4B117LL04
4B117LL06
4B117LL09
(57)【要約】
【課題】水に溶かしたときの易溶解性及び流動性が両立されたタンパク質含有造粒物を提供すること。
【解決手段】タンパク質と、糖類と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有する造粒物であって、粒度分布において、粒径106μm以上500μm未満の粒子が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒子が50質量%以下であり、水分含量が5質量%以下である造粒物。スパチュラ角が73°未満であることが好ましい。安息角が、54.0°以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と、糖類と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有する造粒物であって、
粒度分布において、粒径106μm以上500μm未満の粒子が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒子が50質量%以下であり、且つ、
水分量が5質量%以下である、造粒物。
【請求項2】
スパチュラ角が73°未満である、請求項1に記載の造粒物。
【請求項3】
安息角が、54.0°以下である、請求項1又は2に記載の造粒物。
【請求項4】
ゆるめかさ密度が0.2g/cm3以上0.6g/cm3以下である、請求項1又は2に記載の造粒物。
【請求項5】
タンパク質含有量が15質量%以上98.6質量%以下である、請求項1又は2に記載の造粒物。
【請求項6】
糖類含有量が1質量%以上89質量%以下である、請求項1又は2に記載の造粒物。
【請求項7】
均一度が1%以上5%以下である、請求項1又は2に記載の造粒物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の造粒物を含む粉末飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を含む造粒物は、サプリメントや粉末飲料として知られている。
タンパク質は、一般的に水に対する分散性が悪く、水に添加した場合に、粉末の表面だけが濡れて内部まで水が浸透せず、粉末が水面上に浮いたまま湿潤、沈降せず、“ままこ”や“ダマ”となる。タンパク質を含有する粉末が“ままこ”や“ダマ”になってしまうと、水中に沈降した場合であっても粉末が崩壊せず、分散性が低下する。
【0003】
タンパク質を含む食品粉末の水への分散性を改善するために、界面活性剤を添加する方法が提案されている(特許文献1~3)。
特許文献1には、結晶砂糖の過飽和溶液に硬化油を添加した後、乳化剤、タンパク質を混合し、押し出し、次いで粉砕する即席粉末食品の製造方法が記載されている。
特許文献2には、小麦粉、大豆粉末等の食用粉末に対し、食用油脂、乳化剤と水又は乳化安定剤含有水溶液よりなる水中油型乳化液を均一に噴霧して粉末同士を相互付着させて顆粒化した後に乾燥させる顆粒の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、乳ホエー蛋白質濃縮物、グラニュー糖、レシチンを含むココア風味の飲料用粉末を製造したことが記載されている。
特許文献4には、タンパク含有粉末と糖類とを含み、タンパク質を65質量%以上含む高タンパク含有粉末組成物に、ジグリセリン脂肪酸エステルを含む水溶液を加えて造粒する工程を含む、易溶解性高タンパク含有粉末の製造方法が記載されている。
特許文献5及び6には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、所定粒度の造粒物を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-301759号公報
【特許文献2】特公昭62-40993号公報
【特許文献3】特開平10-257867号公報
【特許文献4】特開2016-116494号公報
【特許文献5】国際公開第2021/054452号
【特許文献6】国際公開第2021/054454号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のタンパク質含有粉末は、水に溶かしたときの易溶解性及び流動性の両立の点で十分でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下〔1〕~〔13〕を提供する。
〔1〕 タンパク質と、糖類と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有する造粒物であって、粒度分布において、粒径106μm以上500μm未満の粒子が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒子が50質量%以下である、造粒物。
〔2〕 水分量が5質量%以下である、〔1〕に記載の造粒物。
〔3〕 スパチュラ角(衝撃前と衝撃後の平均値)が73°未満である、〔1〕又は〔2〕に記載の造粒物。
〔4〕 安息角が、54.0°以下である、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の造粒物。
〔5〕 圧縮度が55%以下である、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の造粒物。
〔6〕 ゆるめかさ密度が0.2g/cm3以上0.6g/cm3以下である、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の造粒物。
〔7〕 タンパク質含有量が15質量%以上98.6質量%以下である、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の造粒物。
〔8〕 糖類含有量が1質量%以上89質量%以下である、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の造粒物。
〔9〕 均一度が1%以上5%以下である、〔1〕~〔8〕の何れかに記載の造粒物。
〔10〕 スパチュラ角が20°以上である、〔1〕~〔9〕の何れかに記載の造粒物。
〔11〕 〔1〕~〔10〕の何れかに記載の造粒物を含む粉末飲料。
〔12〕 タンパク質と、糖類と乳化剤とを含有する造粒物の製造方法であって、タンパク質に糖類及び乳化剤を添加する工程を含む造粒物の製造方法。
〔13〕 噴霧乾燥造粒工程において、タンパク質に糖類及び乳化剤を添加する工程である、〔12〕に記載の造粒物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質含有造粒物は、水に溶かしたときの易溶解性及び流動性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まずは本発明の造粒物の好ましい実施形態について説明する。
本発明の造粒物は、タンパク質と、糖類と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有する造粒物であって、粒度分布において、粒径106μm以上500μm未満の粒度が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒度が50質量%以下である。本実施形態の造粒物はタンパク質、糖類及びグリセリン脂肪酸エステルを含む顆粒の集合体である。
【0010】
<タンパク質>
本発明では、タンパク質源として、高濃度でタンパク質を含有するタンパク質含有粉末を用いることが好適である。例えばそのようなタンパク質含有粉末として、コラーゲン粉末、乳由来タンパク質粉末、大豆由来タンパク質粉末、種子由来タンパク質、魚介由来タンパク質が挙げられる。乳由来タンパク質粉末としては、全粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエイタンパク質(WPC:WheyProteinConcentrate、WPI:WheyProteinIsorate)、乳タンパク質(MPC:MilkProteinConcentrate、MPI:MilkProteinIsorate)、カゼイン等が挙げられる。大豆由来タンパク質粉末としては、分離大豆タンパクや濃縮大豆たんぱく、大豆ペプチドが挙げられる。分離大豆タンパクとは、大豆を脱脂した後、水で抽出して得た豆乳に酸を加えるとホエーとカードが出来るが、カード部分を遠心分離またはフィルターで分別し、中和、乾燥、粉砕したものである。
本発明では、タンパク質源として、乳由来タンパク質粉末を用いることが効率的なタンパク質量摂取、顆粒の流動性、溶解性の点で好ましく、ホエイタンパク質を用いる事がコストとタンパク質摂取における体内吸収性の点で好ましく、WPIを用いることがタンパク質摂取における体内吸収性の点で最も好ましい。乳由来タンパク質としては、牛乳由来タンパク質が挙げられる。
【0011】
タンパク質の含有量は、本発明の造粒物中5質量%以上であることが本発明を採用する技術的意義を得やすい点で好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましく、20質量%以上であることが最も好ましい。また、タンパク質の含有量は、本発明の造粒物中99.5質量%以下であることが、他成分の含有量を確保する点から好ましく、99質量%以下が好ましく、98.6質量%以下が更に好ましい。
【0012】
本発明の造粒物がタンパク質として乳由来タンパク質を用いる場合、その含有量は、本発明の造粒物中10質量%以上であることが上記の乳由来タンパク質の効果を得やすい点で好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、場合によっては30質量%以上であってもよく、35質量%以上であってもよい。また、乳由来タンパク質の含有量は、本発明の造粒物中99.5質量%以下であることが、溶解性の点から好ましく、99質量%以下が好ましく、98質量%以下が更に好ましい。
【0013】
<糖類>
糖類は、溶解性を向上させるために用いられる。後述する比較例2~6の通り、糖類を非含有である場合、「粒径106μm以上500μm未満の粒度が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒度が50質量%以下」という粒度分布を有していても、溶解性が高い造粒物は得られない。糖類としては単糖類、二糖類、オリゴ糖、糖アルコール、多糖類としての水溶性食物繊維が挙げられる。単糖類としては、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、ショ糖、麦芽糖、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。オリゴ糖は結合糖数が3~10の糖であり、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクチュロース、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース、ラクトスクロース、大豆オリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、乳化オリゴ糖等が挙げられる。糖アルコールとしては、還元麦芽糖、還元水あめ、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、キシロビイトール等が挙げられる。多糖類としては、構成糖数10超のものである。多糖類の一例である水溶性食物繊維は人の消化酵素によって消化されにくい、食物に含まれている難消化性成分のうち、水に可溶な食物繊維であり、例えば、デキストリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イヌリン等が挙げられる。
糖類としては、二糖類、オリゴ糖、糖アルコール、ポリデキストロース及びデキストリンから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。特に、溶解性向上効果と摂取カロリーの抑制を両立する点からオリゴ糖、糖アルコール及び水溶性食物繊維の少なくとも一種が好ましく、オリゴ糖及びソルビトールから選ばれる少なくとも一種が最も好ましい。
【0014】
糖類含量は、固形分として、造粒物中0.01質量%以上であることが溶解性向上の点で好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に一層好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが最も好ましい。糖類含量は、固形分として、造粒物中89質量%以下が好ましく、52質量%以下が好ましく、40質量%以下が更に一層好ましく、25質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることが更に一層好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。後述する通り、バインダーに糖類を含有する場合、バインダーとしての糖類含量は、固形分として造粒物中0.01質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
造粒物は、ゲル化剤を含有してもよい。ゲル化剤の例としては、グァーガムおよびその分解物、ペクチン、カラギナン、アルギン酸およびその塩、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、アラビアガム、グルコマンナン、プルラン等が挙げられる。ゲル化剤の量は、造粒物中、0~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.2~8質量%がより好ましく、0.3~6質量%が特に好ましい。
また、ゲル化剤と糖類の合計量は、造粒物中、0.01質量%以上であることが溶解性向上の点で好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に一層好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが最も好ましい。ゲル化剤と糖類の合計量は固形分として、造粒物中89質量%以下が好ましく、52質量%以下が好ましく、40質量%以下が更に一層好ましく、25質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることが更に一層好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0016】
<グリセリン脂肪酸エステル>
本発明においてグリセリン脂肪酸エステルは、造粒物を水に溶かした時に、一次粒子間の隙間への水の侵入しやすさや構成する一次粒子同士をばらけ易さを規定する。後述する比較例7~11の通り、グリセリン脂肪酸エステルを非含有である場合、「粒径106μm以上500μm未満の粒度が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒度が50質量%以下」という粒度分布を有していても、溶解性が高い造粒物は得られない。グリセリン脂肪酸エステルとしては、溶解性を向上させる点から、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが知られている。グリセリン脂肪酸エステルは植物油脂の形態であってもよい。ここで植物油脂の形態とは、常温(25℃)で液状の植物油脂を70~97質量%、及び、グリセリン脂肪酸エステルを0.5~25質量%含有する油脂組成物としてグリセリン脂肪酸エステルを含有することをいう。
【0017】
乳化剤の中でも、本発明では、グリセリン脂肪酸エステルを用いることが、一定以上の流動性を得ながら優れた溶解性が得られる点で好ましく、モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが特に好ましい。これらの乳化剤を用いることで、当該効果を得られる理由は定かでないが、発明者は、グリセリン脂肪酸エステルは疎水性が適度であることで、顆粒を水に分散させたときに水が一次粒子間の隙間に入り込みやすいことが一因と考えている。またグリセリン脂肪酸エステル、特にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルは造粒時における一次粒子同士を結合させる能力も適度であるために、顆粒の流動性を低下させずに十分な隙間を形成して造粒させることができ、それにより流動性と溶解性の両立が可能であると考えられる。グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物である場合、両者の質量比は前者:後者の質量比で1:0.1~1:800が好適に挙げられ、1:1~1:500の範囲内が特に好ましく、1:1~1:300の範囲内が更に一層好ましく、1:10~1:300が最も好ましい。グリセリン脂肪酸エステル中、ポリグリセリン脂肪酸エステルの割合は0.1質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に一層好ましい。
【0018】
グリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸としては、炭素数6~22のものが好ましく、より好ましくは、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルチミン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニン酸及びエルカ酸から選ばれる少なくとも一種であり、溶解性と流動性を両立する点で、特に好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸から選ばれる少なくとも一種であり、最も好ましくはパルミチン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも一種である。
特にグリセリン脂肪酸エステルとしては、その構成脂肪酸組成中、パルミチン酸及びオレイン酸の合計量が20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、或いは60質量%以上であるものが好ましい。
乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル)のHLBは、溶解性と流動性を両立する観点から10~19であることが特に好ましい。
【0019】
乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルの場合、その平均重合度は2~15が好ましく、2~10がより好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸としては、炭素数6~22のものが好ましく、より好ましくは、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルチミン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニン酸及びエルカ酸から選ばれる少なくとも一種であり、溶解性と流動性を両立する点で、特に好ましくはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸から選ばれる少なくとも一種であり、最も好ましくはパルミチン酸、オレイン酸から選ばれる少なくとも一種である。
【0020】
乳化剤含量は、造粒物中0.001質量%以上10質量%以下であることが溶解性向上・流動性の向上のバランスの点で好ましく、0.005質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることが更に一層好ましい。
造粒物におけるグリセリン脂肪酸エステルの量は、乳化剤中5質量%以上であることが溶解性向上・流動性の向上のバランスの点で好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に一層好ましく、40質量%以上であってもよい。
好ましくは、造粒物中のグリセリン脂肪酸エステル含量は、造粒物中0.001質量%以上10質量%以下であることが溶解性向上・流動性の向上のバランスの点で好ましく、0.005質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることが更に一層好ましい。
【0021】
<粒度分布>
本発明は、タンパク質に、糖類、グリセリン脂肪酸エステルを含有し、微粉が少なく、一次粒子同士が結合して適度な粒度となることで溶解性を向上させることができる。具体的には、本発明の造粒物は、下記実施例1~20に示すように、粒径106μm以上500μm未満の粒子の比率R1が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒子の比率R2が50質量%以下であることが好ましく、上記R1が5質量%以上100質量%以下であり、上記比率R2が45質量%以下であることがより好ましい。このような造粒物は一次粒子の多くが造粒されて結合されており、水に溶かした時に容易に分散性を向上させることができる。本発明は、糖類の存在下にて後述する造粒方法を採用して上記粒度とし、且つ乳化剤を含有させることにより水溶解時の溶解性を高めるものである。
一方、実施例1に示すように、流動性と溶解性を両立する点からは、上記R1が適度な大きさであることが好ましい。この観点からR1が20質量%以上98質量%以下であり、上記比率R2が1質量%以上48質量%以下であることが特に好ましく、上記R1が55質量%以上95質量%以下であり、上記比率R2が2質量%以上45質量%以下であることが最も好ましい。
なお、R1とR2とR7の合計は100質量%となる。また、R2、R4、R5、R6及びR7の合計も100質量%になる。
【0022】
溶解性の点からは、実施例1~20に示すように、粒径150μm以上500μm未満の比率R3が高い方が好ましく、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、31質量%以上であることが好ましく、39質量%以上であることが特に好ましい。一方実施例1に示すように、流動性と溶解性を両立する点から、粒径150μm以上500μm未満の比率R3は、特に10質量%以上98質量%以下であることが好ましく、20質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上95質量%以下であることが更に好ましく、39質量%以上95質量%以下であることが特に好ましい。
【0023】
溶解性の点からは、実施例1~20に示すように、粒径106μm以上150μm未満の比率R4が60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。実施例1に示すように、粒径106μm以上150μm未満の比率R4は、流動性と溶解性を両立する点から、特に1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、2質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
溶解性の点からは、実施例1~20に示すように、粒径150μm以上300μm未満の比率R5が5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。実施例1~20に示すように、粒径150μm以上300μm未満の比率R5は、流動性と溶解性を両立する点から、特に5質量%以上75質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
溶解性の点からは、実施例1~20に示すように、粒径300μm以上500μm未満の比率R6が0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。実施例1に示すように、粒径300μm以上500μm未満の比率R6は、流動性と溶解性を両立する点から、特に0.1質量%以上65質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
溶解性及び流動性の点からは、実施例1~20に示すように、粒径500μm以上の比率R7が50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0027】
上記の粒度分布は、後述する好適な造粒物の製造方法において、バインダー中の糖類の濃度や乳化剤の種類や濃度、被造粒物の温度や造粒時間、バインダーの添加量を調整することにより調整することができる。
【0028】
<均一度>
本発明の造粒物は、粒度分布が一定の均一性を有することが溶解性を一層向上する点で好ましい。この点から、本発明の造粒物は、均一度(D60%径/D10%径)が5.9未満であることが好ましく、5.7未満であることがより好ましく、5.3未満であることが特に好ましい。また、粒度分布の均一性の下限は製造容易性の点から0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることが特に好ましい。なお、ここでいうD60%径、D10%径は、ふるい分け法で体積基準にて求めたものである。
【0029】
上記の均一度は、後述する好適な造粒物の製造方法において、被造粒物の温度、バインダー中の糖類の濃度、乳化剤の種類や濃度、単位時間当たりの噴霧液量、被造粒物の温度や造粒時間、単位時間当たりの気体流量やバインダーの添加量、造粒後の乾燥時間を調整することにより調整することができる。
【0030】
<スパチュラ角>
造粒物は、スパチュラ角が所定以下であることで、飲料として用いた場合に流動性及び溶解性を効果的に両立させることができる。これにより、例えば本発明では、水入りのコップに容器から造粒物を投入する際に容器から速やかに水中に造粒物を投入でき、利便性が高く、且つ容易に溶解する点で好ましい。この観点から、本発明の造粒物は、スパチュラ角は73°未満が好ましく、70°以下が更に一層好ましく、最も好ましくは67.3°以下である。スパチュラ角の下限としては例えば20°以上であると、製造容易性の点で好ましく、30°以上がより好ましく、35°以上が特に好ましい。
なおスパチュラ角は、粉体特性評価装置(パウダテスタ、ホソカワミクロン株式会社製パウダテスタ)を用い、パウダテスタの取扱説明書中の記載手順にしたがって行ったものである。
スパチュラと接した状態に設置したバット上に50gの造粒物を投入する。バット上の造粒物が均一な高さであることを確認した後、静かにバットを下方に移動させ、スパチュラ上に造粒物が堆積した状態を作る。この状態でのスパチュラ上の粉体の稜線とスパチュラ底面との角度を測定する(衝撃前)。この後、装置に備えられた錘を落下位置まで移動した後に落下させ、一度だけスパチュラに衝撃を加える。この状態でのスパチュラ上の粉体の稜線とスパチュラ底面との角度を測定する(衝撃後)。この2回の測定を3度行い、この平均値をスパチュラ角とする。
衝撃前の角度としては、78°以下であることが好ましく、更に好ましくは75°以下であり、73°未満が特に好ましく、71.9°以下が更に一層好ましい。スパチュラ角の下限としては例えば30°以上がより好ましく、35°以上が特に好ましい。
衝撃後の角度としては、71°以下が好ましく、更に好ましくは70°以下であり、65°以下が特に好ましい。衝撃後のスパチュラ角の下限としては例えば10°以上が好ましい。
【0031】
<安息角>
本発明の造粒物は、安息角が所定以下であることが、飲料として用いた場合に流動性及び溶解性を効果的に両立させることができる点で好ましい。例えば水入りのコップに容器から造粒物を投入する際に容器から速やかに水中に投入できて利便性が高く、且つ容易に溶解する点で好ましい。この観点から、安息角は54.0°以下が好ましく、50.4°以下が最も好ましい。安息角は低いほど流動性が良好であり溶解性の点でも好ましいが、下限としては例えば30°以上であると、製造容易性の点で好ましく、35°以上が特に好ましい。
【0032】
上記のスパチュラ角、安息角は、後述する好適な造粒物の製造方法において、バインダーに用いる糖類の種類、バインダー中の糖類の濃度、乳化剤の種類や濃度、バインダーの添加量、造粒中の被造粒物の品温や造粒時間、風量を調整することにより調整することができる。
【0033】
<差角>
本発明の造粒物は、差角(安息角-崩壊角)が所定以上であることが、飲料として用いた場合に流動性が高く、例えば水入りのコップに容器から造粒物を投入する際に容器からすぐに投入できて利便性が高い点で好ましい。この観点から、差角は3°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、7°以上であることが特に好ましい。差角の上限としては例えば35°以下であると、製造容易性の点で好ましく、30°以下が特に好ましい。
【0034】
<崩壊角>
上記安息角及び差角が容易に得られる点から造粒物の崩壊角は13°以上60°以下が好ましく、15°以上55°以下がより好ましく、16°以上53°以下が特に好ましく、16°以上37°以下が特に好ましい。
【0035】
上記の崩壊角、差角は、後述する好適な造粒物の製造方法において、バインダーに用いる糖類の種類、バインダー中の糖類の濃度、乳化剤の種類や濃度、バインダーの添加量、造粒中の被造粒物の品温や造粒時間、風量を調整することにより調整することができる。
【0036】
<ゆるめかさ密度>
本発明の造粒物は、ゆるめかさ密度が所定以下であることが、造粒物中において一次粒子間の隙間が十分に存在し、それにより水に分散させたときの溶解性が高い点で好ましい。この点から、ゆるめかさ密度は、0.60g/cm3以下であることが好ましく、0.50g/cm3以下であることが特に好ましく、0.45g/cm3以下であることが最も好ましい。製造しやすさの点からゆるめかさ密度は0.15g/cm3以上であることが好ましく、流動性が得やすい点から、0.20g/cm3以上であることが特に好ましい。
【0037】
<圧縮度>
本発明の造粒物は、ゆるめかさ密度をD1とし、固めかさ密度をD2としたときのゆるめかさ密度をD1とし、固めかさ密度をD2としたとき、式:[(D2-D1)/D2]×100(%)で表される圧縮度(%)が所定以上であることが、造粒物中において一次粒子間の隙間が十分に存在し、それにより水に分散させたときの溶解性が高い点で好ましい。この点から圧縮度は、8%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、17%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが特に好ましい。製造しやすさの点から圧縮度は55%以下であることが好ましく、流動性が得やすい点から、50%以下であることが特に好ましく、45%以下であることが更に一層好ましく、40%以下であることが更に好ましく、8.3%以下であることが最も好ましい。
【0038】
<固めかさ密度>
上記の圧縮度を容易に与える点から、固めかさ密度は、0.20g/cm3以上0.62g/cm3以下であることが好ましく、0.23g/cm3以上0.60g/cm3以下であることが好ましく、0.25g/cm3以上0.59g/cm3以下であることがより好ましい。
【0039】
上記のゆるめかさ密度、固めかさ密度、圧縮度は、後述する好適な造粒物の製造方法において、バインダーに用いる糖類の種類、糖類の濃度、乳化剤の種類や濃度、被造粒物の温度やバインダーの添加量、造粒時間、風量を調整することにより調整することができる。
【0040】
<水分量>
本発明の造粒物は、保存性の点で、水分量が10質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよいが、5質量%以下であることが、流動性、溶解性を特に向上させやすい点で好ましく、4.55質量%以下であることが特に好ましい。水分量は1.5質量%以上であることが、流動性の点で好ましい。
【0041】
<その他成分>
造粒物は溶解性を有する限度において、タンパク質、糖類、乳化剤、水以外の成分を含有できる。その様な成分としては、脂質、ビタミン類、ミネラル類、不溶性食物繊維、ポリフェノール類、調味料、香味料等が挙げられる。溶解性効果を一層高める点から、造粒物中、タンパク質、糖類、乳化剤、水以外の成分の量は合計で90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であってもよい。また、造粒物に含まれる脂質の量は、糖類及び乳化剤の合計量100質量部に対して30質量部以下であることが、溶解性向上の点から一層好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが最も好ましい。
【0042】
<製造方法>
本発明の造粒物の好適な製造方法は、タンパク質と、糖類とグリセリン脂肪酸エステルとを含有する造粒物の製造方法であって、タンパク質に糖類及びグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程を含む造粒物の製造方法である。造粒方法は、湿式造粒である。一般に造粒方法としては、撹拌造粒、押出造粒、噴霧乾燥造粒、流動層造粒等が知られている。
本製造方法は、造粒物の溶解性向上の点から、流動層造粒によるものであることが好ましい。流動層造粒は気体流により粉体を吹き上げて流動させ、その流動している部分にバインダー(結合用の液体)を噴霧して(スプレーして)吹きかけつつ乾燥させ粉体同士をつなぎ合わせて顆粒を得る造粒方法である。流動層造粒において流動状態の粉体に対し、スプレーを上部から吹き付けるトップスプレー型と、下方から吹き付けるワースター型があるが、本発明では、トップスプレー型を採用することが製造性の点から好ましい。
【0043】
本製造方法では、流動層造粒による場合、タンパク質を含む流動層に対し、乳化剤を含む水性液を、バインダーとしてスプレーすることが、グリセリン脂肪酸エステルにより容易に粒度分布を好ましい範囲に制御することができる点で好ましい。糖類は予めタンパク質に混合されて流動層とされても、バインダー中にグリセリン脂肪酸エステルとともに含有されていてもよいが、バインダーがグリセリン脂肪酸エステルと糖類とを含有していることが、バインダー中の糖類の存在に起因して一次粒子が結合されやすく、粒度の成長が適度に起こり、望ましい嵩密度、圧縮度、安息角、スパチュラ角等の物性を得やすい点で好ましい。とりわけ、バインダーが、二糖類、オリゴ糖、糖アルコール、ポリデキストロース及びデキストリンから選ばれる少なくとも一種の糖類を含有することが好ましい。
【0044】
バインダー中のグリセリン脂肪酸エステルの量は、0.1質量%以上20質量%以下であることが、望ましい粒度分布等を得やすい点、風味の点で好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
バインダー中に糖類を含有させる場合、バインダー中の糖類の量は、1質量%以上40質量%以下であることが、望ましい粒度分布等の上記で述べた望ましい物性を一層得やすい点、風味やカロリー摂取量の点で好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
バインダーにおける水性液は、水、エタノール、又はその混合液が挙げられ、水を用いる事が望ましい嵩密度、圧縮度、安息角、崩壊角、スパチュラ角等の上記で述べた物性を一層得やすい点で好ましい。
【0047】
バインダーの量は、流動層を構成するタンパク質含有粉末100質量部に対し、3質量部以上50質量部以下であることが、粒度分布、嵩密度、圧縮度、安息角、崩壊角、スパチュラ角等の上記で述べた物性を一層得やすい点で好ましく、5質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であってもよい。
【0048】
流動層を形成するための造粒中の給気温度としては、50℃未満であることが、水分量、スパチュラ角、安息角、崩壊角、圧縮度を上記で述べた好ましい範囲とできるために好ましく、49℃以下が更に好ましい。造粒中の給気温度は、30℃以上であることが、製造効率を得る点で好ましく、35℃以上がより好ましい。
【0049】
流動層内における被造粒物の温度(造粒完了後には造粒物の温度)としては、60℃以下であることが、上記で述べた物性を一層得やすい点及び、タンパク質変性を防止できる点で好ましく、50℃未満であることが、水分量、スパチュラ角、安息角、崩壊角、圧縮度を上記で述べた好ましい範囲とできるために好ましい。流動層内における被造粒物の温度は、30℃以上であることが、製造効率を得る点で好ましく、35℃以上がより好ましい。
【0050】
本発明では、好適な本製造方法において、バインダーとして増粘多糖類ではなく、上記の所定の糖類を用い、且つ造粒温度を低い所定温度、高い風量とすることで、好適な粒度分布を有しつつ、水分量、スパチュラ角、安息角、圧縮度を好適に低い値とすることができる。このような本製造方法によれば、溶解性及び流動性がいずれも良好な造粒物を得ることができる。これに対し、後述する比較例12及び13からわかる通り、特許文献5及び6のように増粘多糖類をバインダーに用い、造粒温度が高い場合、流動層造粒を行って微粒の少ない粒度分布が得られても、水分量、スパチュラ角や安息角、圧縮度が高くなってしまう。
【0051】
造粒時点の気体流の風量としては上記で述べた物性を一層得やすい点、特に、水分量、スパチュラ角、安息角、崩壊角、圧縮度等の物性を、上記で述べた好ましい範囲とできる点、並びに製造安定性の点から、15m3/分以上80m3/分以下が好ましく、20m3/分以上60m3/分以下がより好ましい。
【0052】
流動層を構成するタンパク質含有原料の量は、300~600gであることが好ましく、400~500gであることがより好ましい。ここでいうタンパク質含有原料の量とは、バインダー以外で流動層を構成する原料の合計量を指す。
【0053】
造粒時間としては、4分以上120分以下であることが上記で述べた物性を一層得やすい点、製造コストと製造安定性とのバランスの点で好ましく、4分以上60分以下であることがより好ましい。
【0054】
上記の造粒を経た後、乾燥させる。乾燥は、バインダーの噴霧を停止した状態でタンパク質含有粉末に対する気体流の吹き上げを行えばよく、その場合の風速や風量、気体流の温度は造粒時の風速や風量、気体流の温度と同様とすることができる。乾燥前に別成分を添加及び混合してもよい。
【0055】
乾燥時点の気体流の風量としては上記で述べた物性を一層得やすい点、特に、水分量、スパチュラ角、安息角、崩壊角、圧縮度等の物性を、上記で述べた好ましい範囲とできる点、並びに製造安定性の点から、15m3/分以上80m3/分以下が好ましく、20m3/分以上60m3/分以下がより好ましい。
【0056】
<用途>
本発明の粉末飲料は、本発明の造粒物を含有する。本発明の粉末飲料は、本発明の造粒物を含有することによって、水に溶解したときにダマの発生が優れて抑制され、スプーンでの撹拌等の簡単な方法にて容易に溶解・分散するものとなる。
本発明の粉末飲料は、本実施形態の造粒物と別成分の造粒物とを混合したものであってもよいが、全造粒物中、本実施形態の造粒物の割合が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。
また、粉末飲料の全質量中、本実施形態の造粒物の割合が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。
ここでいう本実施形態の造粒物とは、タンパク質、糖類及びグリセリン脂肪酸エステルを含み、タンパク質と、糖類と、乳化剤とを含有する顆粒からなり、粒度分布において、粒径106μm以上500μm未満の粒子が3質量%以上100質量%以下であり、粒度106μm未満の粒子が50質量%以下であり、造粒物をいう。
【実施例0057】
(実施例1~11、比較例2~11)
下記表1~表2に記載の糖類及び乳化剤をバインダー原料として水に溶解してバインダーを調製した。下記表1~表2に示す配合で、ホエイタンパク質(WPI)400g又は大豆タンパク質(分離大豆たんぱく質)400gを流動層造粒機の造粒チャンバー(容積約30L)に仕込み、造粒チャンバーにおいて、品温度43℃、風量20m3/分、流速30ml/分の気体流を吹き上げ、原料粉末を流動化させた。機体上部からのスプレーにて、上記で調製したバインダーを一定速度で噴霧しながら造粒し、その後噴霧を終了して乾燥させた。造粒に用いたバインダー液の噴霧総量・噴霧時間(造粒時間)は比較例2が160gで12分、比較例3,4が50gで3分、その他の比較例及び各実施例が100gで5分であった。スプレーエア空気圧は0.1MPaであった。噴霧終了後、上記条件の気体流にてチャンバー内の造粒物を表1~表2に記載の水分量となるまで乾燥させた。乾燥時の気体流の温度は70℃、風量30m3/分であった。このようにして、易溶解性タンパク質含有顆粒である造粒物を得た。得られた易溶解性タンパク質含有粉末について、下記評価を行った。結果を表1~表2に示す。顆粒に含有された糖及び乳化剤の量は表1~表2に示す量であった。
【0058】
(比較例1)
ホエイタンパク質(WPI)をそのまま、比較例1の粉末として用いた。
【0059】
<水分量>
ザルトリウス社製MA35赤外線水分計を用いて水分量を測定した。
【0060】
<粒度分布>
試料10gについて、JISZ 8801-1:2019に準拠した公称目開き710μm、500μm、300μm、150μm、106μmの試験用篩に対し、600秒間ロータップシェーカー(ローリング290r/min、タッピング156t/min)による機械ふるい分けを行うことにより実施した。表1及び2には、目開き106μmを通過した割合を「under 106μm」、「目開き150μmを通過して目開き106μmを通過しなかった割合」を「106μmON」、「目開き300μmを通過して目開き150μmを通過しなかった割合」を「150μmON」、「目開き500μmを通過して目開き300μmを通過しなかった割合」を「300μmON」、「目開き710μmを通過して目開き500μmを通過しなかった割合」を「500μmON」、「目開き710μmを通過しなかった割合」を「710μmON」とそれぞれ記載している。
【0061】
<均一度>
均一度(D60%径/D10%径)の測定は、ホソカワミクロン社製パウダテスタPTXを用いて行った。条件設定としては通常測定とした。
【0062】
<安息角>
安息角測定器(ホソカワミクロン社製パウダテスタPTX)を用いて、サンプル約300gを高度20cmから半径5cmのシャーレ中央に落下させ、次いで山型に堆積したサンプルの高さを測定し、次いでシャーレの半径及び堆積したサンプルの高さから下記式にて安息角を算出した。
安息角=tan-1(b/a)×180÷π(式中、a=シャーレ半径、b=堆積したサンプルの高さを表わす。)
【0063】
<崩壊角>
[崩壊角の測定方法]
安息角を測定した円錐状堆積物を、測定用テーブルに一定の衝撃を3回加えることで崩壊させた後に円錐状堆積物の直径及び高さから底角を算出し、この底角を崩壊角とする。
ここで一定の衝撃とは使用した測定装置において、採用されている衝撃であり、装置固有かつ一定のものである。崩壊角の測定には、ホソカワミクロン社製パウダテスタPTXを使用した。
【0064】
<ゆるめかさ密度、固めかさ密度、圧縮度>
粉体特性評価装置(ホソカワミクロン社製パウダテスタPTX)を用いて、ゆるめかさ密度D1及び固めかさ密度D2を求めた。圧縮度(%)は、ゆるめかさ密度をD1とし、固めかさ密度をD2としたとき、式:[(D2-D1)/D2]×100に基づいて算出した。評価結果を表1に示す。
【0065】
まず、容器に試料を山盛りになるまで静かに充填し、容器面より上にある余分な試料をすり切って、容器内に粗充填した試料の重量を測定した。このとき、ゆるめかさ密度(g/cm3)を、容器内に粗充填された試料の重量(g)÷100(cm3)から算出した。
続いて、容器にキャップを取り付け、18mmの高さから180回の条件でタッピングを行った後、容器面より上にある余分な粉体をすり切って重量を測定した。このとき、固めかさ密度(g/cm3)を、タッピング後の容器内に充填された試料の重量(g)÷100(cm3)から算出した。
【0066】
<スパチュラ角>
ホソカワミクロン社製パウダテスタPTXを用いて行なった。バット上に静置したヘラの上に造粒物の山を盛ってから、ヘラを静かに持ち上げた後、ヘラ上の粉の稜線とヘラとがなす角度(A)及びその後付属の錘で1回衝撃を加えた後の角度(B)の間の値(A+B)/2を求め、その平均値をスパチュラ角とした。
【0067】
<溶解性評価>
コップへ150mlの水を入れ、10gの粉末(比較例1以外は造粒物)を投入、薬さじで20回かき混ぜた後のダマの残留状況を確認し、以下の評価基準にて評価した。
(評価基準)
1:ダマの残りなし。
2:少量の小さなダマ(直径3mm以下)が残っており、静置していれば3分以内で溶解する。
3:小さなダマが残り、静置では溶解せず3分超残存する。
4:比較的大きなダマ(直径4mm以上)が残存する。
5:比較的大きなダマが多数残存する。
6:かき混ぜると粉全体が大きなダマを形成する。
【0068】
<流動性評価>
造粒物400gをポリエチレン製の袋(横35cm、縦48cm、マチ無し)に入れ、袋にシワが入らない程度に膨らんだ状態で、袋の縦方向を垂直方向と平行にして、上部15cmの部分を手に持ち袋を正面から見た。その状態から水平線に対して袋の下縁を60°傾け、その際の粉の袋の下縁における下側の端部(以下「底部」ともいう。)への造粒物の滑りにより流動性を評価した。
(評価基準)
1:傾きとともに速やかに崩壊し、全体が底部に3秒以内に移動する。
2:傾きとともに速やかに崩壊し、全体が底部に3秒超かかって移動する。
3:傾きとともに崩壊し、全体が底部に移動する。
4:傾きとともに崩壊するものの、一部で崩壊が起こらず滑りが発生する。
5:全体が崩壊することなく滑りのみ発生する。
【0069】
【0070】
表1に示すように、本発明の各実施例の造粒物は、溶解性に優れるだけでなく、流動性も良好であった。
【0071】
【0072】
表1及び表2に示す通り、各実施例に比して、各比較例は溶解性に劣ることがわかる。比較例1の通り、「粒径106μm以上500μm未満の粒度が3質量%以上100質量%以下であり、粒径106μm未満の粒度が50質量%以下」という粒度分布を有さないと撹拌後も大きなダマが残り、溶解性が大きく劣る。比較例2~6の通り、糖類を非含有である場合、当該粒度分布を有していても、撹拌後にダマが残り、優れた溶解性は得られない。比較例7~9の通り、乳化剤を非含有である場合、一定以上の流動性が得られるが、撹拌後にダマが残り、優れた溶解性は得られない。更に比較例10及び11の通り、乳化剤としてレシチンを用いた場合も、溶解性と流動性の両立効果に劣る。
【0073】
(実施例12~20)
表3における「糖類」のうち下線斜字で示す成分とグリセリン脂肪酸エステルを水に溶解してバインダーとして用いた。表3の「タンパク質」、「糖類」のうちバインダー以外の成分、その他の成分のうち二重下線を付していない成分をそれぞれ混合し、これにバインダーを吹き付けて造粒した。バインダーの噴霧量は実施例12~20で50~150g、噴霧時間(造粒時間)は4~13分であった。なお、造粒後に、「その他」の項における二重下線成分(後添加成分)を混合し、乾燥して最終的な造粒物を得た。なお、表3においてゲル化剤としては、グァーガムを用いた。それらの点以外は実施例1と同様にして、下記表3に記載の組成の実施例12~20の造粒物を得た。得られた造粒物について、実施例1と同様の方法にて各種評価を行った。
【0074】
【0075】
表3に示す通り、その他成分を用いても、また糖類の種類や含有量を変更しても、溶解性及び流動性に優れた造粒物が得られる。
【0076】
〔製造例1~3〕
タンパク質粉末の種類や量、バインダーに含まれる糖類の種類や量、乳化剤の量を変更したほか、表4に記載のその他の成分をタンパク質粉末に予め混入させて造粒することにより、実施例1と同様にして、下記表4に記載の組成の製造例1~3の造粒物を得た。なお、製造例1~3は各原料成分の合計量が400~500gとなる量であった。表4において、ゲル化剤としては、グァーガムを用いた。
【0077】
【0078】
(比較例12)
本比較例は、特許文献5に相当するものである。特許文献5の製造例のトレースを行った。
以下の各成分を混合することにより、造粒前のホエイタンパク質含有組成物1を調製した。
組成物1の構成成分:
・WPC80(レプリノフーズ社製:ホエイタンパク質含有率:78質量%)
・マルトデキストリン(松谷化学社製、パインデックス#2)
・ビタミン混合物(理研ビタミン社製、ビタミンエースミックスMA-11;ビタミンA,B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、パントテン酸、葉酸、ナイアシンを含有)
【0079】
調製された上記組成物1を、液体成分(バインダー)である乳化剤(実施例1で用いたものと同じ乳化剤)、及び増粘多糖類(プルランおよびアラビアガム)水溶液とともに流動層造粒機に導入し、表5に示す組成を有する造粒物を得た。
【0080】
【0081】
造粒前の上記組成物1の粒子径は未測定であるが、特許文献5の製造例1と同じ材料を用いていることから、特許文献5と同様にホエイタンパク質の導入時のサイズは180~220μmとみられる。
上記で調製された上記組成物1を、液体成分(バインダー)である乳化剤、及び増粘多糖類水溶液とともに流動層造粒機に導入した。
以下の条件にて造粒を行った。
ホエイタンパク質の導入時の量:400g
給気温度(造粒):70℃
給気温度(乾燥):70℃
給気風量(造粒):0.8m3/分
給気風量(乾燥):0.8m3/分
バインダー流量:10g/分
バインダー添加量:30g
スプレー空気圧:0.1MPa
造粒および乾燥時間:20分
【0082】
(比較例13)
本比較例は、特許文献6に相当するものである。特許文献6の製造例のトレースを行った。
以下の各成分を混合することにより、造粒前の大豆タンパク質含有組成物1を調製した。
組成物1の構成成分:
・精製大豆タンパク質(商品名HD101R、不二製油社製)
・マルトデキストリン(松谷化学社製、パインデックス#2)
・ココアパウダー
・食塩
・甘味料(ステビア)
・ビタミン混合物(理研ビタミン社製社、ビタミンエースミックスMA-11;ビタミンA,B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、パントテン酸、葉酸、ナイアシンを含有)
【0083】
調製された上記組成物1を、液体成分(バインダー)である乳化剤(実施例1で用いたものと同じ乳化剤)、及び増粘多糖類(プルランおよびアラビアガム)水溶液とともに流動層造粒機に導入し、表6に示す組成を有する造粒物を得た。
【0084】
【0085】
造粒前の上記組成物1の粒子径は未測定であるが、特許文献6の製造例1と同じ材料を用いていることから、特許文献6と同様に大豆タンパク質の導入時のサイズは80~100μmとみられる。
上記で調製された上記組成物1を、液体成分(バインダー)である乳化剤、及び増粘多糖類水溶液とともに流動層造粒機に導入した。
以下の条件にて造粒を行った。
大豆タンパク質の導入時の量:400g
給気温度(造粒):70℃
給気温度(乾燥):70℃
給気風量(造粒):0.8m3/分
給気風量(乾燥):0.8m3/分
バインダー流量:10g/分
バインダー添加量:30g
スプレー空気圧:0.1MPa
造粒および乾燥時間:20分
【0086】
得られた造粒物の物性について、平均粒子径を特許文献5及び6に記載の方法にて測定した。
【0087】
(平均粒子径)
造粒物についてレーザー回折・散乱式測定法により、横軸を粒子径、縦軸を粒子の含有比率としてプロットした体積基準粒度分布を得、メジアン径を平均粒子径(μm)とした。
【0088】
またその他の物性について、実施例1と同様の方法にて測定した。結果を表7に示す。
【0089】
【0090】
表7に示す通り、特許文献5及び6に記載の製造方法では、水分量等が大きく、溶解性及び流動性にいずれも優れた本発明の造粒物が得られないことが判る。
【0091】
<官能評価>
実施例1、実施例4、比較例12又は比較例13の造粒物について官能評価をおこなった。
実施例1および比較例12のコントロールとして市販のホエイタンパク分解物(WPI)10gを200mlの水に加えて30秒間撹拌した組成物(以下、「コントロール1」ともいう。)を用いた。
実施例4および比較例13のコントロールとして市販の大豆プロテイン10gを200mlの水に加えて30秒間撹拌した組成物(以下、「コントロール2」ともいう。)を用いた。
官能評価は日常的にプロテインを摂取しており、かつ、官能評価経験を有するパネラーにより行った。
上記パネラーに、実施例1、実施例4、比較例12又は比較例13の造粒物10gを200mlの水に溶かした組成物を、対応する上記コントロール1又は2と飲み比べさせ、以下<風味>及び<飲み心地>の評価をしてもらった。なお、<飲み心地>では、溶解に関連する飲用時の口腔内に生じる被膜感、ざらつき具合を評価した。
【0092】
<風味>
◎:臭み及びクセがなく、コントロールよりかなりおいしく感じられる。
○:臭み及びクセが少なく、コントロールよりおいしく感じられる。
△:コントロールと同程度である。
×:コントロール以下である。
【0093】
<飲み心地>
◎:コントロールよりかなり被膜感やざらつきが低減され、さらりとして飲み心地が良好である。
○:コントロールより被膜感やざらつきが低減され、やや飲み心地が良い。
△:被膜感やざらつきがコントロールと同程度である。
×:被膜感やざらつきがコントロールに比して劣る。
【0094】
《総合評価》
風味及び飲み心地の各評価から以下の基準により総合評価を判定した。判定結果を上記表8に示す。
◎:×及び△がいずれもなく、優れている。
○:×及び△がいずれもなく、良好である。
△:△があるが×がなく、可である。
×:×が1つ以上であり、不可である。
【0095】
【0096】
表8の結果から、実施例1および4は、風味、飲み心地の優れた飲みやすいプロテイン飲料になることが見出せた。
本発明のタンパク質含有造粒物は、タンパク質と、糖類と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有し、特定の粒度分布及びスパチュラ角条件を満たすことにより水に溶かしたときの易溶解性及び流動性を両立させ、また風味、飲み心地に優れるものであるから、産業上の利用可能性が高いものである。