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  • 特開-保湿衛生用紙の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075516
(43)【公開日】2024-06-03
(54)【発明の名称】保湿衛生用紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20240527BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20240527BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A47K10/16 D
A47K10/16 A
D21H27/00 F
D21H21/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198093
(22)【出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022186145
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】坂野 賀津士
【テーマコード(参考)】
2D135
4L055
【Fターム(参考)】
2D135AA07
2D135AA15
2D135AA21
2D135AB02
2D135AB03
2D135AB06
2D135AB13
2D135AC01
2D135AC03
2D135AD01
2D135AD02
2D135AD03
2D135AD04
2D135AD07
2D135BA02
2D135BA11
2D135CA02
2D135CA03
2D135CA04
2D135DA05
2D135DA06
2D135DA10
2D135DA11
2D135DA14
2D135DA28
2D135DA34
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AH50
4L055BE08
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA16
4L055FA21
4L055FA22
4L055GA29
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができ、かつ、生産性に優れた保湿衛生用紙の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程を含み、保湿液の固形分濃度が40質量%超80質量%未満であり、かつ、水の含有量は18質量%以上である、保湿衛生用紙の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程を含み、
前記保湿液の固形分濃度が40質量%超80質量%未満であり、かつ、水の含有量は18質量%以上である、保湿衛生用紙の製造方法。
【請求項2】
前記保湿液の固形分濃度が50質量%以上70質量%未満である、請求項1に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【請求項3】
前記保湿液の全質量に対する水の含有量は25質量%以上である、請求項1に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【請求項4】
前記保湿液を塗工する工程の前に、保湿液原液を希釈する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【請求項5】
前記保湿衛生用紙に含まれる保湿剤含有量が1~11質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿衛生用紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパー製品は、非保湿ティシュと保湿ティシュに大別される。保湿ティシュは抄紙されたティシュ原紙にグリセリン等の保湿剤を塗布して生産されたティシュであり、非保湿ティシュはティシュ原紙に保湿剤を塗布しない一般的なティシュである。ティシュペーパー製品は、肌に直接触れるものであるため、肌への刺激が少ないものが好まれる傾向にあり、近年は保湿ティシュの需要が高まってきている。
【0003】
保湿ティシュはグリセリン等の吸湿性のある薬剤を、衛生薄葉紙の基紙に対し塗布することで製造される。例えば、特許文献1には、油性物質と保湿剤を外添塗布する技術が開示されている。ここでは、衛生薄葉紙の基紙に油性物質や保湿剤といった保湿成分を含有させることで、保水性やしっとり感を高めることが提案されている。
【0004】
保湿成分を含む衛生用紙としては、保湿ティシュの他に、例えば保湿成分を含むトイレットペーパーも知られている。特許文献2には、シートの全面に水溶性保湿成分及び/又は水溶性柔軟成分を塗工することが可能なトイレットペーパーロール及びその製造方法が開示されている。ここでは、トイレットペーパーの巻き取り装置(ロールワインダー)のライン上で、水溶性保湿成分及び柔軟成分を全面に塗工することが可能なトイレットペーパーロール及びその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-9121号公報
【特許文献2】国際公開第2012/105135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、保湿成分を含有する各種衛生用紙が知られている。しかしながら、従来の保湿衛生用紙においては、その柔らかな触感について改善の余地があった。特に、生産コストを削減するために保湿成分の添加量を減らした場合であっても、柔らかな触感が発揮されるよう改善が求められていた。
【0007】
一方で、衛生用紙の柔らかな触感等を高めるために保湿成分の添加量を増やした場合、原料コストがかさむだけではなく、塗工する保湿液過多により保湿衛生用紙を製造する工程において断紙が生じる場合がある。このように、製造工程において、断紙が生じた場合や、断紙が生じることを防ぐために塗工速度を落とすなどした場合、保湿衛生用紙の生産性が著しく低下するため問題となる。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができ、かつ、生産性に優れた保湿衛生用紙の製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0010】
[1] 衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程を含み、
保湿液の固形分濃度が40質量%超80質量%未満であり、かつ、水の含有量は18質量%以上である、保湿衛生用紙の製造方法。
[2] 保湿液の固形分濃度が50質量%以上70質量%未満である、[1]に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
[3] 保湿液の全質量に対する水の含有量は25質量%以上である、[1]又は[2]に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
[4] 保湿液を塗工する工程の前に、保湿液原液を希釈する工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の保湿衛生用紙の製造方法。
[5] 保湿衛生用紙に含まれる保湿剤含有量が1~11質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【0011】
[6] 衛生用紙原紙は2プライ以上であり、
前記保湿液を塗工する工程では、前記保湿液を各プライ同士が接する面に塗工する、[1]~[5]のいずれかに記載の保湿衛生用紙の製造方法。
[7] 前記保湿液を塗工してから各プライを構成するシートを貼り合わせるまでの時間が10秒以下である、[6]に記載の保湿衛生用紙の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができる。また、本発明の製造方法は、生産性に優れた保湿衛生用紙の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態の保湿トイレットロールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
(保湿衛生用紙の製造方法)
本発明は、衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程を含み、保湿液の固形分濃度は40質量%超80質量%未満であり、かつ、水の含有量は18質量%以上である、保湿衛生用紙の製造方法に関する。本発明の製造方法は、上記構成を有するため、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができる。また、本発明の製造方法は、生産性に優れた保湿衛生用紙の製造方法である。
【0016】
本実施形態の衛生用紙としては、ティシュペーパー、ちり紙、ペーパータオル(キッチンペーパー等)、トイレットペーパー、ワッティング(紙綿)等を挙げることができる。中でも、本実施形態の衛生用紙は、ティシュペーパー又はトイレットペーパーであることが好ましく、トイレットペーパーであることが特に好ましい。本実施形態の衛生用紙は、柔らかく手触り感に優れるものであるため、肌に直接触れる用途に用いられることに適している。
【0017】
衛生用紙原紙は、パルプスラリーを公知の抄紙機を利用して抄紙することで得ることができる。パルプスラリーに含まれるパルプ成分としては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LKP))、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NKP))、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプが挙げられる。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。パルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
パルプ成分としては、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。中でも、本発明においては、針葉樹パルプと広葉樹パルプを併用することが好ましく、針葉樹クラフトパルプ(NKP)と広葉樹クラフトパルプ(LKP)を併用することがより好ましい。
【0019】
パルプスラリーを抄紙する工程の前には、繊維原料を漂白する工程を含んでもよい。漂白工程で使用する漂白剤としては、酸素系漂白剤や塩素系漂白剤等の公知の漂白剤を使用することができる。
【0020】
パルプスラリーを調製する工程では、パルプ成分を叩解する工程を含むことが好ましい。叩解工程においては、例えば、ダブルディスクリファイナー等を用いて叩解処理を施すことができる。叩解処理時には、例えば、針葉樹パルプと広葉樹パルプをそれぞれ単独で叩解してもよいし、混合させた後に叩解してもよい。
【0021】
パルプスラリーには、パルプ成分の他に任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤等を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。柔軟剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤などを挙げることができる。
【0022】
パルプスラリーを抄紙する抄紙機としては、例えば、サクションブレストフォーマー(円網タイプ、長網タイプ)、ツインワイヤーフォーマー、円網フォーマー(Cラップ、Sラップ)、クレセントフォーマー等の抄紙機を挙げることができる。
【0023】
パルプスラリーを抄紙する抄紙機は、一般的に、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパート、及びリールパートを備えている。ワイヤーパートは、供給されたスラリーを脱水してシート化する工程である。ワイヤーパートでは、パルプスラリーをフォーミングユニットに供給し、衛生用紙の原紙となる2層抄きのシートを形成することができる。なお、フォーミングユニットにおいて3層抄きとなるようにシートを形成することにより、3層抄きの衛生用紙を形成することもできる。フォーミングユニットでは、各層を形成するパルプスラリーの成分配合比率を異なるものとすることもできる。これにより、衛生用紙原紙を構成する各層の性状を異なるものとしてもよい。
【0024】
パルプスラリーを抄紙する工程では、衛生用紙の1プライ当たりの坪量が所定範囲となり、かつ衛生用紙の強度が所望の範囲内となるように、抄き出し水流速度/ワイヤー速度の比(ジェットワイヤー比(J/W比))を調整することが好ましい。ジェットワイヤー比とは、スラリーの供給速度とワイヤー走行速度の比であり、ジェットワイヤー比が1よりも大きい場合は、スラリーの供給速度がワイヤーの走行速度よりも速く、この場合を「押し地合」という。また、ジェットワイヤー比が1以下の場合は、スラリーの供給速度はワイヤーの走行速度よりも遅く、この場合を「引き地合」という。ジェットワイヤー比(J/W比)は、例えば、0.90以上1.05以下に調整されることが好ましい。
【0025】
パルプスラリーを抄紙する工程では、例えば、針葉樹パルプと広葉樹パルプを混合したパルプスラリーを抄紙して均一な1つの層として湿紙を形成する方法、もしくは、針葉樹パルプ層と広葉樹パルプ層を抄き合わせて1枚の湿紙を形成する方法があるが、いずれの手法を採用してもよい。
【0026】
抄紙機におけるプレスパートは、シートに圧力をかけて、さらに脱水する工程である。プレスパートでは、ワイヤーパートにおいて形成されたシートに圧力をかけ、シートの水分を搾り取る。プレスパートでは、シートに圧力をかけることによって、シートの表面を平滑にすると同時に、パルプ成分の密度を調整することもできる。
【0027】
ドライヤーパートでは、プレスパートを経て得られたシートを乾燥させる。乾燥工程は、例えば、湿紙に向かって熱風を吹き付ける工程、もしくは、湿紙をヤンキードライヤーの外周面に圧着させる工程であることが好ましい。ヤンキードライヤーによる乾燥工程では、乾燥された紙をヤンキードライヤーからドクターブレードで掻き取ること(クレープ処理)により、ちりめん上の皺を形成させることもできる。この際のクレープ率は10~40%であることが好ましい。なお、クレープ率は(ヤンキードライヤーの速度-リール速度)/リール速度×100で求められる値である。クレープ率を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙の柔らかさと強度を効果的に高めることができる。
【0028】
衛生用紙原紙の製造工程は、カレンダー処理する工程を含んでいてもよい。カレンダー処理工程は、カレンダーパートにおいて行われる。カレンダーパートでは、乾燥後のシートの表面を押圧しながら引き延ばして、シートの表面を滑らかにする工程である。
【0029】
リールパートでは、上記工程を経て得られた衛生用紙原紙を巻き取って、ロール体(原紙巻取)を形成する。この際、シート(薄葉紙)のヤンキードライヤーに圧着された面が原反ロールの外周面となるように巻取ることが好ましい。
【0030】
衛生用紙原紙の製造工程は、リールパートの後に、さらにワインダーパートを備えていることが好ましい。ワインダーパートではリールパートで得られた1層の原紙から構成されたロール体を2本以上用意し、各ロール体の原紙を重ね合わせることで、2プライ以上の衛生用紙原紙を形成することが好ましい。原紙を重ね合わせる工程の後には、再度巻取り工程が設けられ、原反ロールが形成されてもよい。また、ワインダーパートでは、2プライ以上の衛生用紙原紙に対してカレンダー処理を行ってもよい。
【0031】
本発明の保湿衛生用紙の製造方法は、衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程を含む。保湿液は、保湿剤としてグリセリンを含むものであることが好ましい。保湿液の固形分濃度は40質量%超であればよく、43質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが一層好ましく、54質量%以上であることが特に好ましい。また、保湿液の固形分濃度は80質量%未満であればよく、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、70質量%未満であることが特に好ましい。また、保湿液の全質量に対するグリセリンの含有量は30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。保湿液の全質量に対するグリセリンの含有量は80質量%未満であればよく、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、70質量%未満であることが特に好ましい。
【0032】
保湿液の全質量に対する水の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、46質量%以下であることが特に好ましい。本実施形態においては、保湿液に含まれる固形分濃度を上記範囲内とすることにより、保湿液の浸透性を高めることができ、これにより、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができる。また、保湿液の全質量に対する水の含有量を上記上限値以下とすることにより、保湿衛生用紙を製造する際の断紙を効果的に抑制することができる。
【0033】
保湿液の全質量に対する水の含有量は、18質量%以上であればよく、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましく、32質量%以上であることが特に好ましい。本実施形態においては、保湿液に含まれる水の含有量を上記範囲内とすることにより、保湿液の浸透性を高めることができ、これにより、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができる。また、保湿液に含まれる水の含有量を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙の生産性を効果的に高めることができる。
【0034】
保湿液は固形分としてグリセリンを含むことが好ましい。保湿液はグリセリンと水に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、グリセリン以外の保湿剤であってもよく、このような保湿剤としては、例えば、ジグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、トレハロース、ポリグリセリン、乳酸、乳酸ナトリウム等を挙げることができる。なお、保湿液は保湿剤としてグリセリンのみを含むことも好ましい態様である。また、保湿剤以外に、他の成分としては、柔軟剤、乳化剤、消泡剤、防腐剤、潤滑油等を挙げることができる。保湿液における他の成分の含有量は、保湿液の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。一般的に市販の保湿液には上記のような他の成分や水以外の溶媒が数質量%程度含まれていてもよい。
【0035】
衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程は、保湿液を衛生用紙原紙にグラビア塗工する工程であることが好ましい。グラビア塗工する工程における保湿液の塗工速度は、50m/min以上であることが好ましく、75m/min以上であることがより好ましく、100m/min以上であることがさらに好ましく、125m/min以上であることが一層好ましく、150m/min以上であることが特に好ましい。保湿液の塗工速度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、500m/min以下であることが好ましい。保湿液の塗工速度を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙の生産性をより効果的に高めることができる。
【0036】
また、衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程は、保湿液を衛生用紙原紙に噴霧塗布する工程であってもよい。噴霧塗布する工程では、スプレー噴霧機を用いることが好ましく、スプレー噴霧機としては、例えば、保湿液と圧縮空気とを混合して噴出する二流体スプレー噴霧機を用いることができる。例えば、噴霧塗布する工程では、スプレーイング社製のスプレーイングノズル2流体間欠スプレーを用いることができる。
【0037】
衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程では、保湿液を衛生用紙原紙の一方の面にのみ塗布することが好ましい。すなわち、本実施形態の衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程は、衛生用紙原紙の片面に保湿液を塗工する工程であることが好ましい。衛生用紙原紙の片面に保湿液を塗工する工程を有することにより、保湿衛生用紙の製造設備を簡易化できるため、設備投資にかかるコストを削減することができる。
【0038】
衛生用紙原紙が2プライ以上の構成である場合、衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程では、衛生用紙原紙を1枚のシートごとに分離し、少なくともいずれかのシートに保湿液を塗工することが好ましい。この場合、保湿液は、積層した際に各プライ同士が接する面(すなわち、2プライ以上の衛生用紙において内面となる面)に塗工することが好ましい。そして、保湿液を塗工してから各プライを構成するシートを貼り合わせるまでの時間は10秒以下であることが好ましく、5秒以下であることがより好ましく、3秒以下であることがさらに好ましい。これにより、保湿液が塗工された面から、保湿液が外側方向に拡散することになり、衛生用紙の両面の手触り感を向上させることができる。また、保湿液を積層した際に各プライ同士が接する面に塗工することにより、製造設備が保湿液によって汚染されることを抑制することができる。
【0039】
なお、衛生用紙原紙が2プライ以上の構成である場合であっても、各プライを分離せずに積層した状態のまま保湿液を塗工してもよい。このような場合であっても、保湿液は衛生用紙原紙の他方の面にも染み出すため、両面の手触り感を向上させることができる。
【0040】
本実施形態においては保湿液に含まれる固形分濃度と水の含有量を所定範囲内とすることにより、保湿成分(グリセリン)を含む保湿液が他方の面に染み出し易くなっている。このため、本実施形態で製造された保湿衛生用紙においては、両面の手触り感の差異が少なくなっており、保湿衛生用紙全体の品質が高められている。また、保湿液に含まれる固形分濃度と水の含有量を所定範囲内とすることにより、保湿液の浸透不足を抑制することができ、これにより、保湿液の過剰塗工を防ぐことができる。
【0041】
保湿液と塗工する工程には、余剰の保湿液を回収する工程が設けられていてもよい。そして、回収された保湿液は再利用することもできる。
【0042】
本実施形態においては、保湿液を塗工する工程の前に、保湿液原液を希釈する工程をさらに含むことが好ましい。保湿液原液を希釈する工程は、保湿液原液を水で希釈する工程であることが好ましい。本実施形態においては、保湿液原液の固形分濃度は、80質量%以上であることが好ましく、82質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。なお、保湿液原液のグリセリン濃度は、高い方が好ましく、例えば、グリセリン濃度は保湿液原液の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。保湿液原液の固形分濃度及びグリセリン濃度を上記範囲内とすることにより、保湿液原液の輸送コストや保管コストを抑制することができ、結果として保湿衛生用紙の生産コストを抑えることができる。
【0043】
保湿液原液を希釈する工程では、保湿液原液を希釈することで保湿液が得られる。このようにして得られた保湿液における固形分濃度は保湿液の全質量に対して、40質量%超80質量%未満であり、かつ、水の含有量は18質量%以上となる。本実施形態においては、グリセリンといった固形分を高濃度で含む保湿液原液を希釈して得られる保湿液を衛生用紙原紙に塗工することで、優れた品質(柔らかさ)を有する保湿衛生用紙を製造することができ、かつ保湿衛生用紙の生産コストを抑制することができる。
【0044】
保湿液原液を希釈する工程では、保湿液原液を希釈することで保湿液を得ている。この場合の希釈率は45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。また、希釈率は99%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましく、80%以下であることが特に好ましい。なお、希釈率は以下の式で算出される値である。
希釈率(%)=保湿液固形分濃度(質量%)/保湿液原液固形分濃度(質量%)×100
【0045】
衛生用紙原紙に保湿液を塗工する工程の後には、再度巻取り工程が設けられ、衛生用紙ロールが形成されてもよい。なお、保湿液を塗工する工程と再度巻取り工程は同時に行うことも可能である。
【0046】
保湿液塗工後に得られる巻取(塗工後巻取)の密度は、0.10g/cm以上であることが好ましく、0.13g/cm以上であることがより好ましく、0.15g/cm以上であることがさらに好ましい。また、保湿液塗工後に得られる巻取の密度は、0.35g/cm以下であることが好ましく、0.30g/cm以下であることがより好ましく、0.25g/cm以下であることがさらに好ましく、0.20g/cm以下であることが一層好ましい。塗工後巻取密度を上記範囲内とすることにより、衛生用紙表面の手触り感を高めることができる。塗工後巻取密度を0.10g/cm以上とすることにより、保湿液を塗工後において、塗工側シートと接触する反塗工側シートや積層されたシートの非塗工面への薬剤の浸透が良化するため、薬剤が均一に浸透しやすくなる。また、巻取密度を0.35g/cm以下とすることにより、保湿液の浸透性をより効果的に高めることができ、手触り感に優れた保湿衛生用紙を得ることができる。その結果、柔らかさを保ちつつ十分な強度を有する保湿衛生用紙が得られやすくなる。
ここで、保湿液塗工後に得られる巻取(塗工後巻取)とは、保湿液塗工工程を経て次工程において巻き取られたものである。塗工後巻取は、製品状態の巻取であってもよく、保湿剤塗工後に得られる2次原反であってもよい。2次原反は、その後、巻き出されて改めて製品に加工される。すなわち、保湿液塗工後に得られる巻取の密度は、ロール状製品の巻取密度であってもよく、ロール状製品の製造工程で得られる2次原反の巻取密度であってもよい。なお、2次原反を得る方法では、保湿液の浸透が終わってから製品に加工するため、製品の巻取密度は低くてもかまわない。2次原反を得る方法では、保湿液の浸透に要するエージング時間は12時間以上とすることが好ましく、24時間以上とすることがより好ましい。
【0047】
保湿液塗工後に得られる巻取の密度は下記式により算出された値である。なお、ロール半径とコア半径はそれぞれの外周より算出される。
保湿液塗工後に得られる巻取の密度(g/cm)=ロール重量/(ロール半径×ロール半径×3.14×幅-コア半径×コア半径×3.14×幅)
ロール重量の測定は、2次原反の場合も、ロール状製品の場合も、ISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で24時間調湿した後に測定される。直接重量を測るのが困難な二次原反については、ロール重量は=調湿坪量×プライ数×幅×長さで計算することが可能である。また、ロール重量の測定は、二次原反を得た後、エージング処理をする場合は、エージング後に測定する。
なお、ティッシュ製品のように巻取ではなくシートが折りたたまれて積層された束状のものである場合は、巻取密度は以下の算出法により代用が可能である。
保湿剤塗工後の束密度(g/cm)=束重量/(束の幅×束の長さ×束の高さ)
【0048】
図1には、本実施形態の一つであるトイレットペーパーを巻回してなるトイレットロール100が図示されている。トイレットロール100を構成するトイレットペーパー20は2プライのトイレットペーパーであり、外側トイレットペーパー20aと、内側トイレットペーパー20bを有している、好ましい実施形態においては、保湿液は外側トイレットペーパー20aに塗工される。また、保湿液は外側トイレットペーパー20aと、内側トイレットペーパー20bが接する面(すなわち、2プライ以上の衛生用紙において内面となる面)に塗工されることが好ましい。このように、塗工した面をロールの内面とすることで、ロール製品から保湿剤が脱落したり、保湿剤が他の対象に付着することを抑制することができる。また、外側トイレットペーパーに保湿液が多く含まれることで、使用時の触感をより効果的に高めることができる。
【0049】
再度巻取り工程では、各層を貼り合わせる際にエンボス加工を施してもよい。エンボス加工は、エンボスの付与されたエンボスロールによりシートを加圧することで行う。エンボスロールの押し込み量または押し込み圧を変更することによって、保湿液を含有した衛生用紙に所定のエンボス高さを有するエンボス形状を形成することができる。エンボス加工を施す場合は、衛生用紙の表裏の区別ができる様、複数層を積層した状態でエンボス加工を施してもよいが、積層された衛生用紙を一旦分離し、各層に異なるエンボス処理を施した後に積層してもよい。
【0050】
なお、本実施形態では、エンボス加工を施さず、衛生用紙はエンボスを有していないことが好ましい。エンボスを有さない衛生用紙ではシートの密度が必要以上に高くならず、かつシート表面の凹凸が少ないため、塗工された保湿液の厚み方向への浸透性をより効果的に高めることができる。
【0051】
再度巻取り工程では、保湿剤を含有した衛生用紙を重ねた後に製品の端部となる部分に幅狭のコンタクトエンボス(接合用エンボス)を付与することによって貼り合わせてもよく、端部に接着剤等を塗工することで貼り合わせを行ってもよい。保湿剤を含有した衛生用紙を重ねた後に製品の端部となる部分に幅狭のコンタクトエンボスを付与する場合、コンタクトエンボス部は、例えば、衛生用紙の幅方向(CD方向)両側縁部に、その長手方向(MD方向)に沿って延在するように形成されていてもよく、そのように形成されている場合、エッジエンボスとも称される。コンタクトエンボス部は、衛生用紙の表裏両面から厚さ方向外側に突出しないように形成されていてもよい。
【0052】
なお、保湿液を塗工する工程と、エンボス加工の工程は別々に行うことも可能である。保湿液を塗工後、一旦巻き取り、保湿液が浸透するようにエージングを施してからエンボス加工を行ってもよい。
【0053】
巻取り工程では、その幅方向に横切る破断用ミシン目を長手方向に沿って一定間隔毎に形成しつつ巻取りを行ってもよい。そして、巻取の末端処理部では、巻取部から排出される長尺衛生用紙の末端部を幅方向に沿って糊付けし、長尺衛生用紙が巻きほぐれないようにすることが好ましい。得られた巻取は所定の幅に切断され、衛生用紙ロール製品となる。
【0054】
(保湿衛生用紙)
本実施形態の保湿衛生用紙は、上記製造方法により製造されるものである。本実施形態の保湿衛生用紙は、1プライもしくは2プライ以上の保湿衛生用紙であることが好ましい。保湿衛生用紙のプライ数は衛生用紙原紙の重ね合わせ枚数を意味する。プライ数は、1以上であってもよく、2以上4以下であることがより好ましく、2もしくは3であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。また、本実施形態の保湿衛生用紙はロール状製品であることも好ましい。
【0055】
本実施形態の保湿衛生用紙に含まれる保湿剤含有量は保湿衛生用紙の全質量に対して1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、1.8質量%以上であることがさらに好ましく、2質量%以上であること特に好ましい。また、保湿衛生用紙に含まれる保湿剤含有量は11質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。なお、保湿衛生用紙に含まれるグリセリンの含有量も上記範囲内であることが好ましい。なお、保湿衛生用紙に含まれる固形分濃度は、例えば、ソックスレー抽出法により測定することができる。ソックスレー抽出法では、湿衛生用紙に含まれる固形分をアセトン/エタノール(1:1)で4時間還流抽出し、以下の式を用いて固形分濃度を算出する。
固形分濃度(質量%)=[(抽出物の質量)/{(サンプルの質量)-(抽出物の質量)}]×100
【0056】
保湿衛生用紙の影響水分は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.7質量%以上であることがさらに好ましく、0.9質量%以上であることが特に好ましい。また、保湿衛生用紙の影響水分は3.5質量%以下であることが好ましく、3.4質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.5質量%以下であることが一層好ましく、2.0質量%以下であることがより一層好ましく、1.9質量%以下であることがさらに一層好ましく、1.7質量%以下であることが特に好ましい。なお、本明細書において、影響水分とは以下の式で算出される値である。
影響水分(質量%)=保湿衛生用紙に塗布された水分(質量%)-0.15×保湿衛生用紙に塗布された保湿剤(質量%)
保湿衛生用紙の影響水分を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙の品質(柔らかさ)をより効果的に高めることができ、さらに保湿衛生用紙の生産性も高めることができる。
【0057】
保湿衛生用紙の紙厚(全体の厚み)は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、保湿衛生用紙の紙厚(全体の厚み)は、250μm以下であることが好ましく、220μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。保湿衛生用紙の紙厚を上記範囲内とすることにより、使用時の手触り感を高めることができ、さらに十分な強度を得ることができる。また、紙厚を上記範囲内とすることにより使用時のごわつき感を低減し、肌触りを良化させることができる。なお、保湿衛生用紙が2プライ品である場合、保湿衛生用紙の紙厚(全体の厚み)は、2プライの保湿衛生用紙の測定値である。測定には厚さ計(ハイブリッジ製作所製)を用いることができる。測定圧を50kPaとし、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろした時の値を全体の厚みとする。なお、紙厚の測定は2プライのティシュ10組を用意して、各1組につき3か所ずつ行い、合計30か所の厚さを平均する。保湿衛生用紙がロール状製品の場合には、最外巻の端縁から20%に相当する位置、同端縁から巻長の50%の位置、最内巻の端縁から20%の位置の各3位置において、それぞれ30cm巾(上記3位置が、巾の中心になるように)のサンプルを採取し、各1組につき10か所、合計30か所の紙厚の測定を行い、平均値を算出する。上記測定は、ISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。
【0058】
保湿衛生用紙の坪量は、8.0g/m以上であることが好ましく、9.0g/m以上であることがより好ましい。また、保湿衛生用紙の坪量は、30.0g/m以下であることが好ましく、25.0g/m以下であることがより好ましい。坪量を上記範囲内とすることにより、使用時に十分な強度が得られる。また、坪量を上記範囲内とすることにより、使用時のごわつき感を低減し、肌触りを良化させることができる。なお、上記の坪量は、保湿衛生用紙の1プライの測定値である。坪量は、JIS P 8124の規定に従って測定する。
【0059】
保湿衛生用紙の密度は、0.12g/cm以上であることが好ましく、0.14g/cm以上であることがより好ましく、0.16g/cm以上であることがさらに好ましい。また、保湿衛生用紙の密度は、0.50g/cm以下であることが好ましい。密度を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙表面の平滑性を高めることができる。また、密度を0.50g/cm以下とすることにより、保湿液の浸透性をより効果的に高めることができ、手触り感に優れた保湿衛生用紙を得ることができる。また、密度を上記範囲内とすることにより、柔らかさを保ちつつ十分な強度が得られる。上記保湿衛生用紙の密度は、2プライの保湿衛生用紙の密度であり、下記式に示すように、上述した方法で測定した坪量を2倍し、紙厚(2プライ)で割ることにより算出された値である。
(1プライの坪量(g/m)×2)/2プライの紙厚(μm)=保湿衛生用紙の密度(g/cm
【0060】
保湿衛生用紙の表面のハンドフィール値(以下、HF値ともいう)は75.0以上であることが好ましく、76.0以上であることがより好ましく、80.0以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されるものではないが、例えば、100以下とすることができる。ハンドフィール値を上記範囲内とすることにより、保湿衛生用紙の滑らかさや柔らかさを高め、手触り感を良化させることができる。
ここで、ハンドフィール値(HF値)は、ティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH社製)を用いて、以下の測定方法によって測定することができる。
まず、ティシューソフトネスアナライザーのサンプル台に、直径112.8mmの円形にカットしたサンプルを設置する。サンプルは2プライの製品の場合、2プライのまま使用する。サンプルを円形にカットする際は、大体円形の中心がティシュ製品の中央部に位置するようにカットする。このサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力をかけて上方から押し込む。その後、ブレード付きローターを回転数が2.0回転/秒となるように回転させ、その時の振動周波数を測定する。
また、直径112.8mmの円形にカットした別のサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNと、600mNの圧力で押し込んだ際の上下方向の変形変位量を算出する。HF値は、振動周波数と変形変位量から算出される値であり、計算のアルゴリズムはFacialIIを用いることができる。
HF値を算出する際は、各水準ごとに10組のサンプルを用意する。10組のサンプルを1組ずつ使用し、表面を1回測定する。このとき、表面とは、製品の外側を向いている面を指し、外側を向いている面であればどの面を測定しても構わない。1プライの製品であった場合は、より高いHF値を示した面を表面とする。10組のサンプルすべてを1回ずつ測定し、合計10個の測定データを得て、平均値を算出する。
なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。また、測定の際には、付属の説明書に従い標準サンプル(emetec ref.2X(nn.n))で校正し、アルゴリズムをFacialIIに設定する。計算ソフトウェアとしてはemetec measurement system ver.3.22を使用する。
【実施例0061】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0062】
(実施例1)
針葉樹クラフトパルプ(NBKP)20質量%、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)80質量%となるようにパルプ原料を混合したパルプスラリーを、ダブルディスクリファイナーを用いてフリーネスが700mlとなるように叩解した。次に、このように調整したパルプスラリーを、ツインワイヤーヤンキーマシンによりJ/W比0.97にて抄紙し、坪量16.4g/mのトイレットペーパー原紙巻取を得た。なお、坪量はJIS P 8124に準拠して測定した1プライ当たりの測定値を示す。
得られた原紙巻取2本を加工機にかけ、2プライへの貼り合わせを行い2プライのトイレットペーパー原反ロールを得た。
【0063】
保湿液原液として固形分85%、水15%の保湿液(ミヨシ油脂社製、ソフティーナ)を用い、当該保湿液原液を水で希釈して、固形分濃度が78質量%、水含有量が22質量%の保湿液を得た。
原反ロールから2プライのトイレットペーパーを巻出し、プライされたシートを一旦分離し、上層側のシート(原反ロールに巻かれた際の表面側プライシート)をオフセットグラビア方式の塗工装置に通した。下層側のシートは塗工設備を通さずに次工程に送った。塗工装置の塗布部において、上層側のシートに保湿液を塗工速度200m/minで塗布した。保湿液の塗布量は、保湿剤を含有した2プライのトイレットペーパー(乾燥後)全質量に対し、保湿剤含有量が2.5質量%となるように塗布した。保湿液を塗布してから2秒後に、上層側のシートと下層側のシートを再度積層し(保湿液を塗布した面が内側になるように積層し)、40mの長さに巻取り、得られた巻取を114mmの幅に断裁することで2プライのトイレットペーパーロール製品を得た。トイレットペーパーロール製品の巻取密度は0.19g/cmだった。
【0064】
(実施例2~6及び8~10)
保湿液の組成が表1に記載のとおりとなるように希釈し、さらに、保湿剤の含有量が表1の記載となるように保湿液の塗布量を変更した以外は、実施例1と同様にして保湿剤含有トイレットペーパーロール製品を得た。なお、実施例5及び9では、保湿液を塗工速度160m/minで塗布し、実施例6及び10では、保湿液を塗工速度100m/minで塗布した。
【0065】
(実施例7)
保湿液として、固形分濃度68質量%、水分濃度32質量%のものを用いた以外は、実施例1と同様にして保湿剤含有トイレットペーパーロール製品を得た。
【0066】
(実施例11~13)
トイレットペーパーロール製品の巻取密度を表1に記載のとおりとなるように巻取り条件を変更した以外は、実施例8と同様にして保湿剤含有トイレットペーパーロール製品を得た。
【0067】
(実施例14)
トイレットペーパー原紙に保湿剤を塗工して、塗工後巻取(2次原反)を得た。具体的には、原紙巻取2本を加工機にかけ、2プライへの貼り合わせを行い、オフセットグラビア方式の塗工装置に送った。塗工装置の塗布部において、上層側のシートに保湿液を塗工速度200m/minで塗布した。保湿液の塗布量は、保湿剤を含有した2プライのトイレットペーパー(乾燥後)全質量に対し、保湿剤含有量が2.5質量%となるように塗布して2次原反を得た。実施例14における巻取密度はこの塗工後巻取(2次原反)の密度である。2次原反の巻取密度は0.30g/cmであった。
十分薬液の浸透が進行した後(24時間経過後)、塗工後巻取(2次原反)にエンボス加工をした後、25mの長さに巻取り、得られた巻取を114mmの幅に断裁することで2プライのトイレットペーパーロール製品に加工した。トイレットペーパーロール製品の巻取密度は0.11g/cmだった。
【0068】
(比較例1及び2)
保湿液の組成が表1に記載のとおりとなるように希釈した以外は、実施例1と同様にして保湿剤含有トイレットペーパーロール製品を得た。なお、比較例2では、保湿液を塗工速度40m/minで塗布した。
【0069】
(評価)
<影響水分>
影響水分は以下の計算式により算出した。
影響水分(質量%)=保湿衛生用紙に塗布された水分(質量%)-0.15×保湿衛生用紙に塗布された保湿剤(質量%)
【0070】
<トイレットペーパーの柔らかさ>
実施例及び比較例で得た製品(ロール)の外側から1mを巻きからほどいて、トイレットペーパーの柔らかさについて手触り感を評価した。具体的には、実施例及び比較例で得たトイレットペーパーを50人に触ってもらい、トイレットペーパーの柔らかさについて、トイレットペーパーの柔らかさについて、3:優れている、2:普通、1:劣る、の3段階評価を行い、その平均点に基づいて評価を行った。
◎:2.5点以上
〇:2.0点以上、2.5点未満
△:1.5点以上、2.0点未満
×:1.5点未満
【0071】
<生産性>
実施例及び比較例におけるトイレットロールの生産性について、下記の基準で評価を行った。具体的には、必要に応じて塗工速度を減速することで生産し、以下の4段階で評価を行った。
◎:塗工速度200m/minで問題なく塗工できた
○:塗工速度を20%減速することで問題なく塗工できた
△:塗工速度を50%減速することで問題なく塗工できた
×:塗工速度を80%減速することで問題なく塗工できた
【0072】
【表1】
【0073】
実施例で得られたトイレットロールは品質(柔らかさ)に優れ、かつ生産性も良好であった。一方、比較例では、品質(柔らかさ)と生産性の両立がなされていなかった。また、塗工後巻取の密度が高い場合、保湿液の浸透性が高まるため、品質が向上する傾向が見られ、一方で、影響水分が低い場合、生産性が向上する傾向が見られた。
【符号の説明】
【0074】
20 トイレットペーパー
20a 外側トイレットペーパー
20b 内側トイレットペーパー
100 トイレットロール
図1