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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075522
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】塞栓物、および塞栓物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20240528BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240528BHJP
   A61B 17/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61L31/14 400
A61L31/14
A61B17/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058957
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水田 亮
(72)【発明者】
【氏名】柴田 秀彬
(72)【発明者】
【氏名】生野 恵理
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AC10
4C081BB01
4C081CA011
4C081CB041
4C081CC04
4C081DA04
4C081DB03
4C081EA02
4C081EA03
4C081EA05
4C160DD03
4C160DD53
(57)【要約】
【課題】塞栓物が動脈瘤から枝分かれした分枝血管を塞ぐこと(遠位塞栓)を防止する。
【解決手段】本発明に係る塞栓物10は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部11を有し、本体部は、血液との接触時に軸方向と直交する方向に軸方向よりも大きく膨張する膨張特性を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、
軸方向に延在する長尺状の本体部を有し、
前記本体部は、血液との接触時に軸方向と直交する方向に前記軸方向よりも大きく膨張する膨張特性を有することを特徴とする、塞栓物。
【請求項2】
前記本体部は、多孔質な膨張性材料により形成され、
前記本体部の空孔は、前記軸方向に引き延ばされていることを特徴とする、請求項1に記載の塞栓物。
【請求項3】
生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物の製造方法であって、
モノマー溶液中のモノマーを架橋重合させて膨張性材料を形成し、
前記膨張性材料を軸方向に引き延ばした状態で乾燥させることを含む、塞栓物の製造方法。
【請求項4】
前記膨張性材料に空孔を形成するポロゲンが、前記モノマー溶液に含有されており、
前記モノマーの架橋重合後に前記ポロゲンを除去することにより、多孔質な前記膨張性材料を形成し、
多孔質な前記膨張性材料を前記軸方向に引き延ばした状態で乾燥させることを特徴とする、請求項3に記載の塞栓物の製造方法。
【請求項5】
前記ポロゲンが、前記モノマーの架橋重合後に透析により除去可能な固体粒子であることを特徴とする、請求項3または4に記載の塞栓物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルによって瘤内に送達される塞栓物、および塞栓物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の大動脈に生じた瘤(大動脈瘤)は、瘤径の増大、破裂を防ぐ薬物的治療はなく、破裂の危険を伴う瘤径のものに対しては、一般的に外科的療法(手術)が行われる。また、大動脈瘤の手術は、従来、開腹または開胸して人工血管を移植する人工血管置換術が主流であったが、近年では、より低侵襲なステントグラフト内挿術(Endovascular Aneurysm Repair;EVAR)の適用が急速に拡大しつつある。
【0003】
一例として、腹部大動脈瘤(AAA:Abdominal aortic aneurysm)に対するステントグラフト内挿術においては、先端にステントグラフトを収納したカテーテルを患者の末梢血管から挿入し、ステントグラフトを動脈瘤患部に展開・留置することにより、動脈瘤への血流が遮断されて動脈瘤の破裂が防止され得る。
【0004】
一般的に、ステントグラフト内挿術で使用されるステントグラフトは、略Y字状に分岐した分岐部を備える「主本体部」と、分岐部に装着されると共に右腸骨動脈および左腸骨動脈にそれぞれ装着される「脚部」の2種類の部材を組み立てられる構造を有している。
【0005】
そのため、ステントグラフト内挿術において、内挿したステントグラフトの密着不足によるステントグラフト周囲からの血液漏れ、動脈瘤から枝分れした細い血管(分枝血管)からの血液の逆流などにより、動脈瘤内に血流が残存する、所謂「エンドリーク」が生じることがある。この場合、動脈瘤内に浸入した血流によって動脈瘤壁に圧がかかってしまうため、動脈瘤破裂の危険性が潜在する。
【0006】
下記特許文献1には、エンドリークを起因とする大動脈瘤内への血流残存を遮断するため、圧縮した比較的細長なスポンジ(塞栓物)をその管腔内に保持可能なカテーテルと、カテーテル内に保持された塞栓物を血液で満たされた動脈瘤内に押し出すプランジャーとを備えたデバイスについて開示されている。このデバイスに使用されるスポンジは、血液に曝されると直ちに拡張するため、動脈瘤内に押し出されて瘤内の血液を吸収すると膨張(膨潤)し、その状態で動脈瘤内に留置されて血流を遮断して破裂を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第9561096号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の塞栓物は上述のように膨張することによって動脈瘤への血流を遮断することができる。しかしながら、塞栓物が膨張する方向によっては、動脈瘤から枝分れした分枝血管が膨張した塞栓物より大きい(太い)場合がある。そのため、動脈瘤に留置された塞栓物が分枝血管に入り込んで意図しない部位を塞いでしまう、いわゆる遠位塞栓をしてしまう場合がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、遠位塞栓のリスクを低減させることができる塞栓物、および塞栓物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る塞栓物は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部を有し、前記本体部は、血液との接触時に軸方向と直交する方向に前記軸方向よりも大きく膨張する膨張特性を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る塞栓物の製造方法は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物の製造方法であって、モノマー溶液中のモノマーを架橋重合させて多孔質の膨張性材料を形成し、前記膨張性材料を軸方向に引き延ばした状態で乾燥させることを含む。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した塞栓物は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、軸方向に直交する方向に膨張しやすい。これにより、塞栓物は、分枝血管の近位側に詰まりやすくなり、分枝血管の遠位側に迷入しにくくなる。したがって、塞栓物は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0013】
上記のように構成した塞栓物の製造方法は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、軸方向に直交する方向に膨張しやすい塞栓物を製造することができる。これにより、上記製造方法により製造される塞栓物は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る塞栓物を示す図である。
図2】瘤内で膨潤した塞栓物を示す図である。
図3】本実施形態に係る塞栓物の製造方法を説明するための図である。
図4】本実施形態に係る塞栓物の製造方法を説明するための図である。
図5】本実施形態に係る塞栓物の乾燥状態と膨潤状態を説明するための図である。
図6】本実施形態に係る塞栓物の乾燥状態と膨潤状態を説明するための図である。
図7】医療器具セットおよびデリバリーセットの構成を示す図である。
図8】塞栓物デリバリー医療システムの構成を示す図である。
図9A】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図9B】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図9C】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図9D】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0016】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0017】
なお、本明細書において、塞栓物10を瘤内に送達可能な塞栓物デリバリー医療システム300を構成する各部の操作方向は、例えば、塞栓物装填用カテーテル20を瘤内に送達させるための送達用カテーテル30の軸方向に沿った方向であって、塞栓物10が瘤内に搬送される側を「先端側(または先端部)」とし、先端側と軸方向で反対側に位置して術者が手元で操作する側(送達用カテーテル30が抜去される側)を「基端側(または基端部)」とする。なお、「先端」とは、最先端を含む軸方向の一定の範囲を意味し、「基端」とは、最基端を含む軸方向の一定の範囲を意味するものとする。
【0018】
また、塞栓物10は、一例として、血管内に生じた瘤(例えば動脈瘤)の破裂を防止するための治療法である腹部大動脈瘤(AAA)のステントグラフト内挿術に対するエンドリーク塞栓術に適用され得る。また、塞栓物10を適用可能な治療法としては、上記エンドリーク塞栓術に限らず、血管内に生じた瘤の破裂を防止させるための他のインターベンション治療法にも適用可能である。
【0019】
また、本明細書において、範囲を示す「M~N」は、MおよびNを含み、「M以上N以下」を意味する。本明細書において、「Mおよび/またはN」とは、MおよびNの少なくとも一方を含むことを意味し、「M単独」、「N単独」および「MおよびNの組み合わせ」を包含する。
【0020】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリロイル」との語は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリロイル基」との語は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の双方を包含する。
【0021】
[構成]
本実施形態に係る塞栓物10、塞栓物10を瘤内に送達するための医療器具セット100、デリバリーシステム200、および塞栓物デリバリー医療システム300の構成について説明する。
【0022】
図1図6は、塞栓物10の説明に供する図である。また、図7は、医療器具セット100、デリバリーシステム200を構成する各デバイスを示す図であり、図8は、塞栓物デリバリー医療システム300を構成する各デバイスを示す図である。図7および図8において、塞栓物10は、塞栓物装填用カテーテル20の装填用ルーメンに装填されている。
【0023】
なお、図1図2図5図6に付した矢印Xは、塞栓物10の「軸方向(長手方向)」を示し、矢印Yは、塞栓物10の「幅方向(奥行方向)」を示し、矢印Zは、塞栓物10の「高さ方向」を示し、矢印rは、塞栓物10の「径方向(放射方向)」を示す。
【0024】
<塞栓物>
塞栓物10は、血管内に生じた動脈瘤のような瘤内に留置され、瘤内に流入される血液を含む液体を吸収して膨張する。塞栓物10は、塞栓物装填用カテーテル20に装填され、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に装着された状態で送達用プッシャー40により押し出されて瘤内に留置される。
【0025】
塞栓物10は、細長い繊維状の線体(線状体)である。塞栓物10は、軸方向と直交する方向の断面形状が略円形の細長な線状体であり、瘤内へ留置される膨張前の状態においては比較的脆い。なお、塞栓物10の断面形状は特に限定されず、楕円、矩形などの多角形であってもよい。また、塞栓物10の形状は、塞栓物装填用カテーテル20の装填用ルーメンに収納できれば、線状体に限定されず、変形させることによって装填用ルーメンに収納可能な形状(例えば、扁平形状)であってもよい。塞栓物10が扁平形状である場合、塞栓物10は、丸められた状態で装填用ルーメンに収納され、塞栓物10が装填用ルーメンから取り出された際に(膨張しない状態において)塞栓物10の構成材料の物性等に由来する復元力により扁平な状態に戻るまたは扁平な状態に近づくように構成される。
【0026】
塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体との接触により膨脹する膨張性材料(高分子材料(吸水ゲル材料)など)によって構成することができ、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応生成物を含むハイドロゲルによって構成することができる。エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物の詳細については後述する。
【0027】
ここで、「生理条件」とは、哺乳動物(例えば、ヒト)の体内または体表面における少なくとも1つの環境特性を有する条件を意味する。そのような特性は、等張環境、pH緩衝環境、水性環境、中性付近(約7)のpH、合わせを包含する。また、「水性液体」は、例えば、等張液、水;血液、髄液、血漿、血清、ガラス体液、尿などの哺乳動物(例えば、ヒト)の体液を包含する。塞栓物10の外径は、塞栓物装填用カテーテル20に収容可能であればよい。また、塞栓物10の全長は、特に制限はないが、装填容易性と手技時間の短縮化などを考慮しつつ留置先となる瘤の大きさなどによって適宜決定されてよい。
【0028】
なお、塞栓物10の構成材料は、少なくとも血液のような液体を吸収して膨張し、かつ瘤内に留置された状態でも人体への有害性がない(または極めて低い)材料であれば、特に限定されない。また、塞栓物10は、X線、蛍光X線、超音波、蛍光法、赤外線、紫外線などの確認方法によって生体内の存在位置が確認可能な可視化剤が添加されていてよい。
【0029】
塞栓物10の本体部11(図1を参照)は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、軸方向(X方向)と比較して径方向(r方向)に膨張するように構成されている。塞栓物10は、膨張によって分枝血管tよりも大きくなる(言い換えれば、塞栓物10の外径d1が分枝血管tの内径d2よりも太くなる、図2を参照)、または瘤内sで折りたたまれたときに分枝血管tよりも大きくなるため、分枝血管tの近位側に詰まりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入しにくくなる。したがって、このように構成された塞栓物10によれば、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。なお、塞栓物10が扁平形状である場合、塞栓物10は、瘤内に留置される際に丸められた形状から扁平形状または扁平形状に近い形状に展開するが、その状態で生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、軸方向(長尺方向)と比較して幅方向や厚さ方向に膨張するように構成することができる。
【0030】
(エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物)
(2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物)
繊維状の塞栓物10(ハイドロゲルフィラメント)を構成する反応生成物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応生成物である。すなわち、ハイドロゲルフィラメントを構成する反応生成物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物であるまたは2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物である。なお、以下では、「エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物」および「2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物」を一括して単に「反応生成物」とも称する。
【0031】
ここで、エチレン系不飽和モノマーは、アクリロイル基(CH=CH-C(=O)-)、メタクリロイル基(CH=C(CH)-C(=O)-)、ビニル基(CH=CH-)、アクリルアミド基(CH=CH-C(=O)-NH-)またはメタクリルアミド基(CH=C(CH)-C(=O)-NH-)等の末端に二重結合を有するモノマーである。具体的には、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸およびこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩);(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートおよびこれらの誘導体;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびこれらの4級化物;N-ビニルピロリジノンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。上記エチレン系不飽和モノマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時のより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時のさらなるより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル酸またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)であることがさらに好ましく、アクリル酸および/またはアクリル酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0032】
また、架橋剤は、エチレン系不飽和モノマーまたは2官能性マクロマーおよびエチレン系不飽和モノマーを架橋できるものであれば特に制限されず、公知の架橋剤が使用できる。具体的には、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、それらの誘導体などが挙げられる。上記架橋剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時の膨潤性の制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、架橋剤は、N、N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時の膨潤性のより制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドであることがより好ましく、N,N’-メチレンビスアクリルアミドであることが特に好ましい。
【0033】
2官能性マクロマーは、重合時に高分子鎖を架橋し、反応生成物(ゆえに塞栓物)に柔軟性(可撓性)を付与する。このため、2官能性マクロマーを含む反応生成物(ゆえに塞栓物)は屈曲部に対する追従性に優れる。ゆえに、カテーテルを介して塞栓物を瘤内に留置する場合であっても、塞栓物は屈曲部を容易に通過して瘤内に留置できる。ゆえに、本発明の塞栓物は、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物、および可視化剤を含むハイドロゲルフィラメントから構成されることが好ましい。
【0034】
2官能性マクロマーは、2つの官能部位を含むものであれば特に制限されないが、1以上のエチレン系不飽和基および2つの官能部位を含む(2官能エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。ここで、1以上のエチレン系不飽和基は、官能部位の一方を形成してもまたは両方の官能部位を形成してもよい。2官能性マクロマーとしては、以下に制限されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体などが挙げられる。これらのうち、塞栓物への柔軟性(可撓性)の付与効果などの観点から、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体であることが好ましい。ここで上記2官能性マクロマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明の好ましい形態では、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。生体適合性および溶媒への溶解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリルアミドであることがより好ましい。分解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0035】
2官能性マクロマーの分子量は、特に制限されないが、塞栓物への柔軟性(可撓性)の付与効果、膨潤倍率の向上などの観点から、低分子量である(2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。具体的には、2官能性マクロマーの分子量は、好ましくは約100~約50,000g/モル、より好ましくは約1,000~約20,000g/モル、特に好ましくは約2,000~約15,000g/モルである。
【0036】
反応生成物は、上記エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤ならびに必要であれば2官能性マクロマーに加えて、他のモノマー由来の構成単位(他の構成単位)を含んでもよい。ここで、他のモノマーは、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、2,4,6-トリヨードフェニルペンタ-4-エノエート、5-(メタ)アクリルアミド-2,4,6-トリヨード-n,n’-ビス-(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミドN-ビニルピロリジノンなどが挙げられる。本発明に係る反応生成物が他の構成単位を有する場合の他の構成単位の量(含有量)は、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、他の構成単位の量(含有量)は、反応生成物を構成する全構成単位に対して、10モル%未満であり、好ましくは5モル%未満であり、さらにより好ましくは1モル%未満である(下限値:0モル%超)。なお、その他の単量体に由来する構成単位が2種以上の構成単位から構成される場合には、上記その他の単量体に由来する構成単位の組成は、全構成単位の合計(100モル%)に対する、その他の単量体に由来する構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。なお、当該モル%は、反応生成物を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する他のモノマーの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。特に好ましくは、反応生成物は他の構成単位を含まない(他の構成単位の量(含有量)は0モル%である)。
【0037】
<塞栓物の製造方法>
次に、塞栓物10の製造方法について説明する。図3は、塞栓物10の製造方法の各手順を示すフローチャートである。
【0038】
塞栓物10の製造方法は、モノマーを重合および架橋させる、すなわち、架橋重合させること(ステップS1)、架橋重合後の反応生成物を乾燥させること(ステップS2)、透析などで反応生成物からポロゲンを除去すること(ステップS3)、ポロゲン除去後の反応生成物に酸またはアルカリ処理を施すこと(ステップS4)、酸またはアルカリ処理後の反応生成物を洗浄すること(ステップS5)、洗浄後の反応生成物を再度乾燥させること(ステップS6)、を含む。
【0039】
以下、図4図6を参照して各手順について説明する。図4は、塞栓物10の乾燥工程(ステップS6)を説明するための図である。また、図5の(A)および図6の(A)は、塞栓物10の乾燥状態を示し、図5の(B)および図6の(B)は、塞栓物10の膨潤状態を示す図である。
【0040】
まず、作業者は、管状部材を準備し、該管状部材の内腔に塩粒子や硫酸バリウム粒子などのポロゲンとして機能する固体粒子を含有するモノマー溶液を充填する。そして、作業者は、管状部材に充填されたモノマーを架橋重合させ、その後ポロゲンである固体粒子を除去することにより、多孔質の膨張材料Eを形成する(ステップS1)。なお、架橋重合させる方法としては、熱を与える方法、光または放射線を照射する方法、反応開始剤や反応促進剤(詳細は後述する)と、架橋剤とを用いる方法などの中から、モノマーの種類に応じた方法を用いることができる。また、管状部材の構成材料は、特に制限されないが、反応温度で変形しない材質であることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー等の樹脂を用いることができる。また、モノマー溶液に含有させるポロゲンとしては、塩粒子や硫酸バリウム粒子などの固体粒子の他に、モノマー溶液中の貧溶媒となるポリマーなどが挙げられる。
【0041】
(反応開始剤および反応促進剤)
反応開始剤を用いる場合には、重合反応を開始できるものであれば特に制限されず、公知の反応開始剤が使用できる。具体的には、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)などが挙げられる。上記反応開始剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、反応促進剤をさらに用いる場合には、重合反応を促進できるものであれば特に制限されず、公知の反応促進剤が使用できる。具体的には、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、水溶性AIBN誘導体(例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩)などが挙げられる。上記反応促進剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、反応開始剤および反応促進剤の少なくとも一方を、エチレン系不飽和モノマーや架橋剤などと混合すればよいが、好ましくは次の重合工程の進行しやすさ、反応時間等の観点から、反応開始剤及び反応促進剤双方を混合することが好ましい。
【0042】
次に、作業者は、反応生成物である膨張性材料Eを加熱乾燥や減圧乾燥、送風乾燥などの任意の乾燥方法により乾燥させる(ステップS2)。これにより、膨張性材料Eが収縮して管状部材から取り出しやすくなるとともに、溶媒除去により架橋重合反応を確実に停止させる。
【0043】
次に、作業者は、膨張性材料Eを透析することによって膨張性材料E内のポロゲンとして機能する固体粒子(塩粒子など)を除去する(ステップS3)。これにより、空孔Fを有する多孔質な膨張性材料Eを得ることができる。そのため、これらの製造方法によって製造された塞栓物10は、モノマー溶液にポロゲンである固体粒子を含有させずに得た膨張性材料より高い膨潤倍率を有する。なお、ステップS3では、透析により未反応の残留モノマーも一緒に除去される。
【0044】
次に、作業者は、膨張性材料Eに酸またはアルカリ処理を施すことによって膨潤を制御する(ステップS4)。ここでいう「酸処理」とは、反応生成物をpHの低いまたは高い溶液中でインキュベーションすることを意味する。特にエチレン系不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸またはこれらの塩等のカルボキシル基(またはカルボン酸塩由来の基)を有する場合には、反応生成物をpHの低い溶液中でインキュベーションすることが好ましい。これにより、溶液中の遊離プロトンがハイドロゲルネットワーク内のカルボキシル基をプロトン化する。ハイドロゲルフィラメントは、カルボキシル基が脱プロトンするまで膨潤しないため、膨潤を制御することができる。また、エチレン系不飽和モノマーがN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン基を有する場合には、反応生成物をpHの高い溶液中でインキュベーションする、すなわちアルカリ処理することが好ましい。これにより、アミン基を脱プロトン化する。ハイドロゲルは、アミン基がプロトン化するまで膨潤しないため、膨潤を制御することができる。ここで、インキュベーション時間及び温度、ならびに溶液のpHは、特に制限されず、所望の膨潤の程度(例えば、膨潤速度)に応じて適切に選択できる。一般に、インキュベーション時間および温度は膨潤制御の大きさに正比例し、溶液pHは反比例する。また、十分量の溶液中でインキュベーションすることが好ましい。これにより、ハイドロゲルフィラメントは、溶液中でより膨潤することができる。また、より多くの数のカルボキシル基をプロトン化にまたはより多くのアミン基の脱プロトン化に利用できるため、膨潤速度をより所望の程度に制御できる。
【0045】
次に、作業者は、膨張性材料Eを洗浄することによって酸処理後の酸や不純物を除去し(ステップS5)、膨張性材料Eを送風乾燥により再度乾燥させる(ステップS6)。例えば、低pH溶液で処理したハイドロゲルフィラメントは、未処理に比してより小さな寸法に脱水できる。そのため、当該工程によって製造された塞栓物10は、より小径なカテーテルにハイドロゲルフィラメントを装填することができ、該カテーテルを介してハイドロゲルフィラメントを所望の部位に送達できるため、患者に与える侵襲をさらに抑制することができる。
【0046】
作業者は、ステップS6を行う際に、膨張性材料Eを治具Mから吊り下げることによって、膨張性材料Eの自重により膨張性材料Eを軸方向に引き延ばした状態で乾燥させる(図4を参照)。なお、膨張性材料Eを乾燥させる方法は、特に限定されず、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、自然乾燥を用いることができる。また、膨張性材料Eを軸方向に引き延ばす方法は、特に限定されず、例えば、膨張性材料Eの一端を固定して他端を引っ張る方法、膨張性材料Eを両端から引っ張る方法を用いることができる。
【0047】
軸方向に引き延ばした状態で乾燥させた膨張性材料E(言い換えれば、膨張性材料Eを乾燥させることによって得られる塞栓物10の本体部11)は、図5の(A)および(B)に示すように、空孔Fが軸方向に引き延ばされた状態で固定される。そのため、塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、空孔Fが元の形状に戻ろうとする作用によって軸方向と比較して径方向に膨張しやすくなる。なお、空孔Fは、ポロゲンとして機能する固体粒子を用いて膨張性材料Eを形成した場合にのみ形成され、空孔Fの大きさはマイクロオーダー(マイクロ単位で表されるくらいの大きさ)となる。
【0048】
また、軸方向に引き延ばした状態で乾燥させた膨張性材料E(言い換えれば、膨張性材料Eを乾燥させることによって得られる塞栓物10の本体部11)は、図6の(A)および(B)に示すように、軸方向への高分子鎖Gの配向性が高くなる。そのため、塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、高分子鎖Gが元の状態に戻ろうとする作用によって軸方向と比較して径方向に膨張しやすくなる。
【0049】
このように、作業者は、ステップS1~S6を実施することによって脱水されたハイドロゲルフィラメントを製造し、本発明のハイドロゲルフィラメント(塞栓物10)を得ることができる。
【0050】
なお、上記の塞栓物10の製造方法は、種々変更可能である。例えば、作業者は、予め選択した固体粒子の種類とモノマーの種類に応じて、塞栓物10の製造するための工程を選択して、各工程を組み合わせることができる。
【0051】
また、上記で説明したステップS1は、重合させながら架橋させているが、重合させた後に架橋させる手順であってもよい。
【0052】
また、多孔質な膨張性材料Eは、ステップS2、S4、S5を省略した場合でも得ることができるため、これらのステップを省略してもよい。
【0053】
また、上記では、ポロゲンとして機能する固体粒子を用いて膨張性材料Eを形成した場合を説明したが、膨張性材料は、該固体粒子を用いずに形成した多孔質でない(空孔を有さない)材料であってもよい。なお、多孔質な膨張性材料Eは、ステップS2~S5を省略した場合でも得ることができるため、これらのステップを省略してもよい。非多孔質の膨張性材料における高分子鎖の配向は、多孔質の膨張性材料における高分子鎖の配向と同様の機序となる(図6を参照)。そのため、上記の製造方法により製造された非多孔質の膨張性材料は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、高分子鎖Gが元の状態に戻ろうとする作用によって軸方向と比較して径方向に膨張しやすくなる。
【0054】
<医療器具セット>
次に、医療器具セット100の構成について説明する。図7に示すように、医療器具セット100は、塞栓物装填用カテーテル20と、送達用カテーテル30を備えている。
【0055】
塞栓物装填用カテーテル20は、装填用ルーメンが設けられる本体21と、本体21の基端側に設けられる基端ハブ22を備えている。塞栓物装填用カテーテル20は、装填用ルーメンに塞栓物10を収容し、送達用カテーテル30に装着された状態で使用される。このとき、装填用ルーメンに装填された塞栓物10は、送達用プッシャー40が基端ハブ22から挿入されることによって瘤内に向けて押し出される。なお、塞栓物装填用カテーテル20は、主として予め塞栓物10が装填された状態で供されるが、本体21に装填される塞栓物10は、術者などが塞栓物10を把持して本体21内に装填してもよい。また、塞栓物10の装填方法としては、術者が塞栓物10を把持して塞栓物装填用カテーテル20の先端側開口部または基端ハブ22側から挿入することができる。
【0056】
送達用カテーテル30は、シースルーメン(図示省略)が設けられるシース31を備え、後述する挿通補助部材50の本体51を挿通可能に構成されている。送達用カテーテル30は、生体管腔内に留置されて、塞栓物装填用カテーテル20を瘤内に送達させるための導入路として機能することができる。
【0057】
<デリバリーシステム>
次に、デリバリーシステム200の構成について説明する。図7に示すように、第1実施形態に係るデリバリーシステム200は、医療器具セット100に加え、塞栓物10を瘤内に押し出すための送達用プッシャー40を備えている。
【0058】
送達用プッシャー40は、長尺な棒状部材からなるプッシャー本体41を備え、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に挿着された状態で、術者によって基端ハブ22から挿入される。送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20に挿入されると、装填用ルーメンに収容された塞栓物10を瘤内へと押し出すことができる。
【0059】
<塞栓物デリバリー医療システム>
次に、塞栓物デリバリー医療システム300の構成について説明する。図8に示すように、本実施形態に係る塞栓物デリバリー医療システム300は、デリバリーシステム200に加えて、生体管腔内に送達用カテーテル30を送達させる挿通補助部材50を備えている。
【0060】
挿通補助部材50は、ガイドワイヤルーメン52が設けられる本体51を備え、事前に生体管腔内に挿通されたガイドワイヤに沿って送達用カテーテル30を瘤内まで送達させる動作を補助することができる。
【0061】
[動作]
次に、第1実施形態に係る塞栓物デリバリー医療システム300の動作について説明する。図9A図9Dは、腹部大動脈瘤のステントグラフト内挿術に対するエンドリーク塞栓術における主な手技工程を説明するための図である。
【0062】
術者は、図9Aに示すように、ガイドワイヤーGWを挿入した送達用カテーテル30のシース31を、穿刺部位となる患者の肢体からイントロデューサーを介して経皮的に生体管腔へと挿入し、送達用カテーテル30の先端開口部を腹部大動脈瘤まで送達させる。術者は、送達用カテーテル30の先端開口部が瘤内(動脈瘤内)sまで送達されると、ガイドワイヤーGWを抜去する。なお、送達用カテーテル30は、ガイドワイヤーGWを挿通補助部材50に挿入し、ガイドワイヤーGWと挿通補助部材50を送達用カテーテル30に挿入した状態で動脈瘤患部まで送達させてもよい。
【0063】
次に、術者は、図9Bに示すように、イントロデューサーを介してステントグラフトSGを圧縮挿入したカテーテル(ステントグラフトデバイス)を生体管腔内に挿入し、予め瘤内sに挿入したガイドワイヤを用いて動脈瘤患部まで移動させる。その後、患部にてカテーテルからステントグラフトSGを展開し留置する。これにより、送達用カテーテル30は、ステントグラフトSGの脚部と血管壁との間を介して、送達用カテーテル30の先端部がステントグラフトSGと動脈瘤の血管壁との間、すなわち、瘤内sに挿入され、先端開口部が瘤内sに位置した状態で生体管腔内に留置される。
【0064】
送達用カテーテル30が留置されると、術者は、送達用カテーテル30の基端側に塞栓物10を装填した塞栓物装填用カテーテル20の先端側を装着する。そして、術者は、送達用プッシャー40の先端を基端ハブ22の基端側から挿入する。基端ハブ22から挿入された送達用プッシャー40の先端は、塞栓物装填用カテーテル20内に装填された塞栓物10の基端と当接し、押し出し操作によって塞栓物10を送達用カテーテル30のシースルーメンへと押し出して移動させる。
【0065】
次に、術者は、図9Cに示すように、基端ハブ22から挿入された送達用プッシャー40を押し出し操作して送達用カテーテル30のシースルーメンから塞栓物10を瘤内sへと押し出す。その後、術者は、空になった塞栓物装填用カテーテル20を送達用プッシャー40と共に、送達用カテーテル30から離脱させる。送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20に挿入した状態で送達用カテーテル30から離脱させることができる。これにより、瘤内sに対する塞栓物10の1回目の挿入動作が完了する。なお、挿入動作において、送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20の離脱操作前に、塞栓物装填用カテーテル20から引き抜いてもよい。このような一連の塞栓物留置動作を、瘤内sに塞栓物10が必要量だけ装填されるまで繰り返す。なお、必要量は、患者のCTデータを基に動脈瘤の体積を計算し、その値から当該動脈瘤に展開した場合のステントグラフトSGの体積分を引いた値として算出する。
【0066】
瘤内sに必要量の塞栓物10の留置が完了すると、術者は、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く。この際、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に装着され、かつ、送達用プッシャー40が送達用カテーテル30に挿入された状態で、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜いてもよい。また、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く前に、送達用カテーテル30から塞栓物装填用カテーテル20を離脱させつつ、送達用プッシャー40を送達用カテーテル30から引き抜いてもよい。また、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く前に、送達用プッシャー40を送達用カテーテル30および塞栓物装填用カテーテル20から引き抜き、送達用カテーテル30から塞栓物装填用カテーテル20を離脱させてもよい。なお、いずれの場合でも、塞栓物10の留置後のバルーンによるステントグラフトSGの追加拡張や造影操作などのために、イントロデューサーは生体管腔内に留置したままにする。
【0067】
瘤内sに留置された塞栓物10は、図9Dに示すように、瘤内sの血液などの液体と接触して徐々に膨潤し、完全に膨脹した塞栓物10が動脈瘤内面とステントグラフト外面との間の空間が埋まって瘤内sが閉塞される。これにより、動脈瘤は、破裂が防止されることとなる。
【0068】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係る塞栓物10は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部11を有し、本体部11は、血液との接触時に軸方向と直交する方向に軸方向よりも大きく膨張する膨張特性を有することを特徴とする。
【0069】
上記のように構成した塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、軸方向に直交する方向(塞栓物10が線状体の場合は径方向、塞栓物10が扁平体の場合は幅方向や厚さ方向)に膨張しやすい。これにより、塞栓物10は、分枝血管tの近位側に詰まりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入しにくくなる。したがって、塞栓物10は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0070】
また、塞栓物10は、本体部11が多孔質な膨張性材料Eにより形成され、本体部11の空孔Fは、軸方向に引き延ばされていることを特徴とする。そのため、本体部11は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、空孔Fが元の形状に戻ろうとする作用によって軸方向と比較して径方向に膨張しやすくなる。
【0071】
また、塞栓物10の製造方法は、生体内の瘤内sに挿入され、留置される塞栓物の製造方法であって、モノマー溶液中のモノマーを架橋重合させて膨張性材料を形成し、膨張性材料Eを軸方向に引き延ばした状態で乾燥させることを含む。
【0072】
上記のように構成した塞栓物10の製造方法は、生理条件下で血液を含む水性液体との接触すると、軸方向に直交する方向に膨張しやすい塞栓物10を製造することができる。これにより、上記製造方法により製造される塞栓物10は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0073】
また、膨張性材料に空孔Fを形成するポロゲンが、モノマー溶液に含有されており、モノマーの架橋重合後にポロゲンを除去することにより、多孔質な膨張性材料Eを形成し、多孔質な膨張性材料Eを軸方向に引き延ばした状態で乾燥させることを特徴とする。この製造方法によって製造された多孔質な膨張性材料Eは、モノマー溶液にポロゲンである固体粒子を含有させずに得た膨張性材料より高い膨潤倍率を有する。また、ポロゲンを除去した後に多孔質な膨張性材料Eを軸方向に引き延ばした状態で乾燥させるとポロゲンにより形成された空孔Fが軸方向に引き延ばされた状態で固定されるため、塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、空孔Fが元の形状に戻ろうとする作用によって軸方向と比較して径方向に膨張しやすくなる。
【0074】
また、ポロゲンが、モノマーの架橋重合後に透析により除去可能な固体粒子であることを特徴とする。作業者は、このような固体粒子を用いることによって、多孔質の膨張材料Eを形成するとことができる。
【符号の説明】
【0075】
10 塞栓物、
11 本体部、
100 医療器具セット、
200 デリバリーシステム、
300 塞栓物デリバリー医療システム、
E 膨張性材料、
F 膨張性材料の空孔、
X 軸方向、
Y 幅方向、
Z 高さ方向、
r 径方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D