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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075523
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】塞栓物
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
A61B17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021059130
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水田 亮
(72)【発明者】
【氏名】柴田 秀彬
(72)【発明者】
【氏名】生野 恵理
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD53
4C160DD63
4C160DD70
(57)【要約】
【課題】塞栓物が動脈瘤から枝分かれした分枝血管を塞ぐこと(遠位塞栓)を防止する。
【解決手段】本発明に係る塞栓物10は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部11を有し、本体部は、軟質な領域12と、軟質な領域よりも硬い硬質な領域13と、を備え、硬質な領域は、本体部の全長の50パーセント以下であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、
軸方向に延在する長尺状の本体部を有し、
前記本体部は、軟質な領域と、前記軟質な領域よりも硬い硬質な領域と、を備え、
前記硬質な領域は、前記本体部の全長の50パーセント以下であることを特徴とする、塞栓物。
【請求項2】
前記本体部は、多孔質の膨張性材料により形成され、
前記硬質な領域は、前記軟質な領域と比べて前記本体部の空孔の密度が低いことを特徴とする、請求項1に記載の塞栓物。
【請求項3】
前記本体部は、架橋重合した高分子材料からなる膨張性材料と、ワイヤー部材と、から構成され、
前記軟質な領域は、前記膨張性材料により形成され、
前記硬質な領域は、前記膨張性材料と前記膨張性材料の外表面を覆う前記ワイヤー部材とによって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の塞栓物。
【請求項4】
前記本体部は、架橋重合した高分子材料からなる膨張性材料とワイヤー部材とによって構成され、
軟質な領域は、前記膨張性材料により形成され、
前記硬質な領域は、前記膨張性材料と前記膨張性材料に覆われるように配置された前記ワイヤー部材により形成されることを特徴とする、請求項1に記載の塞栓物。
【請求項5】
前記軟質な領域は、架橋重合した高分子材料からなる第1膨張性材料により形成され、
前記硬質な領域は、架橋重合した高分子材料からなり、前記第1膨張性材料と比べて硬質な第2膨張性材料によって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の塞栓物。
【請求項6】
前記本体部は、両端部に軟質な領域を備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の塞栓物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルによって瘤内に送達される塞栓物に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の大動脈に生じた瘤(大動脈瘤)は、瘤径の増大、破裂を防ぐ薬物的治療はなく、破裂の危険を伴う瘤径のものに対しては、一般的に外科的療法(手術)が行われる。また、大動脈瘤の手術は、従来、開腹または開胸して人工血管を移植する人工血管置換術が主流であったが、近年では、より低侵襲なステントグラフト内挿術(Endovascular Aneurysm Repair;EVAR)の適用が急速に拡大しつつある。
【0003】
一例として、腹部大動脈瘤(AAA:Abdominal aortic aneurysm)に対するステントグラフト内挿術においては、先端にステントグラフトを収納したカテーテルを患者の末梢血管から挿入し、ステントグラフトを動脈瘤患部に展開・留置することにより、動脈瘤への血流が遮断されて動脈瘤の破裂が防止され得る。
【0004】
一般的に、ステントグラフト内挿術で使用されるステントグラフトは、略Y字状に分岐した分岐部を備える「主本体部」と、分岐部に装着されると共に右腸骨動脈および左腸骨動脈にそれぞれ装着される「脚部」の2種類の部材を組み立てられる構造を有している。
【0005】
そのため、ステントグラフト内挿術において、内挿したステントグラフトの密着不足によるステントグラフト周囲からの血液漏れ、動脈瘤から枝分れした細い血管(分枝血管)からの血液の逆流などにより、動脈瘤内に血流が残存する、所謂「エンドリーク」が生じることがある。この場合、動脈瘤内に浸入した血流によって動脈瘤壁に圧がかかってしまうため、動脈瘤破裂の危険性が潜在する。
【0006】
下記特許文献1には、エンドリークを起因とする大動脈瘤内への血流残存を遮断するため、圧縮した比較的細長なスポンジ(塞栓物)をその管腔内に保持可能なカテーテルと、カテーテル内に保持された塞栓物を血液で満たされた動脈瘤内に押し出すプランジャーとを備えたデバイスについて開示されている。このデバイスに使用されるスポンジは、血液に曝されると直ちに拡張するため、動脈瘤内に押し出されて瘤内の血液を吸収すると膨張(膨潤)し、その状態で動脈瘤内に留置されて血流を遮断して破裂を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第9561096号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の塞栓物は上述のように膨張することによって動脈瘤への血流を遮断することができる。しかしながら、動脈瘤から分岐する分枝血管は、膨潤する前であって挿入直後の塞栓物より大きい(太い)場合がある。そのため、動脈瘤に留置された塞栓物が分枝血管に入り込んで意図しない部位を塞いでしまう、いわゆる遠位塞栓を生じさせてしまう虞がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、遠位塞栓のリスクを低減させることができる塞栓物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る塞栓物は、生体内の瘤内に挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部を有し、前記本体部は、軟質な領域と、前記軟質な領域よりも硬い硬質な領域と、を備え、前記硬質な領域は、前記本体部の全長の50パーセント以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した塞栓物は、硬く構成されることによって曲げ方向に変形しにくい領域を有している。そのため、塞栓物は、硬質な領域を支点として分枝血管の近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管の遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、塞栓物は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る塞栓物を示す図である。
図2】瘤内で膨潤した塞栓物を示す図である。
図3】変形例1に係る塞栓物を示す図である。
図4】変形例2に係る塞栓物を示す図である。
図5】医療器具セットおよびデリバリーセットの構成を示す図である。
図6】塞栓物デリバリー医療システムの構成を示す図である。
図7A】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図7B】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図7C】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図7D】塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図8】変形例に係る医療器具セットの構成を示す図である。
図9A】変形例に係る塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
図9B】変形例に係る塞栓物デリバリー医療システムの動作例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0014】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0015】
なお、本明細書において、塞栓物10を瘤内に送達可能な塞栓物デリバリー医療システム300を構成する各部の操作方向は、例えば、塞栓物装填用カテーテル20を瘤内に送達させるための送達用カテーテル30の軸方向に沿った方向であって、塞栓物10が瘤内に搬送される側を「先端側(または先端部)」とし、先端側と軸方向で反対側に位置して術者が手元で操作する側(送達用カテーテル30が抜去される側)を「基端側(または基端部)」とする。なお、「先端」とは、最先端を含む軸方向の一定の範囲を意味し、「基端」とは、最基端を含む軸方向の一定の範囲を意味するものとする。
【0016】
また、塞栓物10は、一例として、血管内に生じた瘤(例えば動脈瘤)の破裂を防止するための治療法である腹部大動脈瘤(AAA)のステントグラフト内挿術に対するエンドリーク塞栓術に適用され得る。また、塞栓物10を適用可能な治療法としては、上記エンドリーク塞栓術に限らず、血管内に生じた瘤の破裂を防止させるための他のインターベンション治療法にも適用可能である。
【0017】
また、本明細書において、範囲を示す「M~N」は、MおよびNを含み、「M以上N以下」を意味する。本明細書において、「Mおよび/またはN」とは、MおよびNの少なくとも一方を含むことを意味し、「M単独」、「N単独」および「MおよびNの組み合わせ」を包含する。
【0018】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリロイル」との語は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリロイル基」との語は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の双方を包含する。
【0019】
[構成]
本実施形態に係る塞栓物10、塞栓物10を瘤内に送達するための医療器具セット100、デリバリーシステム200、および塞栓物デリバリー医療システム300の構成について説明する。
【0020】
図1および図2は、塞栓物10の説明に供する図であり、図3および図4は、塞栓物10の変形例の説明に供する図である。また、図5は、医療器具セット100、デリバリーシステム200を構成する各デバイスを示す図であり、図6は、塞栓物デリバリー医療システム300を構成する各デバイスを示す図である。図5および図6において、塞栓物10は、塞栓物装填用カテーテル20の装填用ルーメンに装填されている。
【0021】
なお、図1および図2に示す塞栓物10には、説明の便宜上、軟質な領域12と硬質な領域13を区別するための濃淡を付している。
【0022】
また、図1図4に付した矢印Xは、塞栓物の「軸方向(長手方向)」を示し、矢印Yは、塞栓物の「幅方向(奥行方向)」を示し、矢印Zは、塞栓物の「高さ方向」を示し、矢印rは、塞栓物の「径方向(放射方向)」を示す。
【0023】
<塞栓物>
塞栓物10は、血管内に生じた動脈瘤のような瘤内に留置され、瘤内に流入される血液を含む液体を吸収して膨張する。塞栓物10は、塞栓物装填用カテーテル20に装填され、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に装着された状態で送達用プッシャー40により押し出されて瘤内に留置される。
【0024】
塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体との接触により膨脹する膨張性材料E(高分子材料(吸水ゲル材料)など)からなる細長い繊維状の線体(線状体)である。塞栓物10は、軸方向と直交する方向の断面形状が略円形の細長な線状体であり、瘤内へ留置される膨張前の状態においては比較的脆い。なお、塞栓物10の断面形状は特に限定されず、楕円、矩形などの多角形であってもよい。また、塞栓物10の形状は、塞栓物装填用カテーテル20の装填用ルーメンに収納できれば、線状体に限定されず、変形させることによって装填用ルーメンに収納可能な形状(例えば、扁平形状)であってもよい。塞栓物10が扁平形状である場合、塞栓物10は、丸められた状態で装填用ルーメンに収納され、塞栓物10が装填用ルーメンから取り出された際に(膨張しない状態において)塞栓物10の構成材料の物性等に由来する復元力により扁平な状態に戻るまたは扁平な状態に近づくように構成される。
【0025】
塞栓物10は、生理条件下で血液を含む水性液体との接触により膨脹する膨張性材料(高分子材料(吸水ゲル材料)など)によって構成することができ、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応生成物を含むハイドロゲルによって構成することができる。エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物の詳細については後述する。
【0026】
ここで、「生理条件」とは、哺乳動物(例えば、ヒト)の体内または体表面における少なくとも1つの環境特性を有する条件を意味する。そのような特性は、等張環境、pH緩衝環境、水性環境、中性付近(約7)のpH、またはそれらの組み合わせを包含する。また、「水性液体」は、例えば、等張液、水;血液、髄液、血漿、血清、ガラス体液、尿などの哺乳動物(例えば、ヒト)の体液を包含する。塞栓物10の外径は、塞栓物装填用カテーテル20に収容可能であればよい。また、塞栓物10の全長は、特に制限はないが、装填容易性と手技時間の短縮化などを考慮しつつ留置先となる瘤の大きさなどによって適宜決定されてよい。
【0027】
なお、塞栓物10の構成材料は、少なくとも血液のような液体を吸収して膨張し、かつ瘤内に留置された状態でも人体への有害性がない(または極めて低い)材料であれば、特に限定されない。また、塞栓物10は、X線、蛍光X線、超音波、蛍光法、赤外線、紫外線などの確認方法によって生体内の存在位置が確認可能な可視化剤が添加されていてよい。
【0028】
塞栓物10の本体部11(図1を参照)は、多孔質の膨張性材料により形成され、軸方向に沿って、第1領域、第2領域、第3領域からなる複数の領域を有し、第2領域は、隣り合う第1領域と第3領域よりも硬いことを特徴としている。以下の説明では、塞栓物10の第1領域と第3領域を軟質な領域12と称し、塞栓物10の第2領域を硬質な領域13と称する。
【0029】
軟質な領域12は、第1膨張性材料E1により形成されている。
【0030】
硬質な領域13は、第1膨張性材料E1と比べて硬質な第2膨張性材料E2により形成されている。硬質な領域13は、本体部11の空孔の密度が軟質な領域12と比べて低くなるように構成されている。そのため、塞栓物10が生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、硬質な領域13は、軟質な領域12と比べて膨張しにくく、曲げ方向(本体部11の軸方向に交差する方向)に変形しにくいという効果を奏する。
【0031】
また、塞栓物10は、両端部に軟質な領域12を有し、中央部に硬質な領域13を有している。塞栓物10は、図2に示すように、瘤内sに留置された後に分枝血管tに入り込むと、硬質な領域13を支点として軟質な領域12の各々を分枝血管tの形状に合わせて曲げ方向に変形させ、硬質な領域13を分枝血管tの血管壁に当接させることができる。そのため、塞栓物10が硬質な領域13を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、このように構成された塞栓物10によれば、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0032】
なお、塞栓物10の構成は種々変更することができる。
【0033】
例えば、塞栓物10は、第1領域、第2領域、第3領域からなると説明したが、塞栓物10が備える領域の数は特に限定されない。
【0034】
また、塞栓物10は、両端部が軟質な領域12である限り、その構成は特に限定されず、硬質な領域13の位置や数は、特に限定されない。ただし、塞栓材10の硬質な領域13の長さd1は、1.5mm以上であり、本体部11の全長の50パーセント以下であることが好ましい。硬質な領域13の長さd1が1.5mm以上であることにより、硬質な領域13を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分により引っ掛かりやすくなる。また、硬質な領域13の長さd1が本体部11の全長の50パーセント以下であることにより、塞栓物10の柔軟性を確保でき、瘤内sに留置した際に、塞栓物10が誤って瘤の血管壁を突き破ることを防止できる。
【0035】
また、本体部11の構成材料は、非多孔質の膨張性材料(単に重合および架橋した、すなわち架橋重合した高分子材料)であってもよい。架橋重合させただけの非多孔質のゲル材料でも、多孔質のゲル材料と比べて膨張特性は低くなるものの、吸水により膨潤することができるため、本発明の効果を奏する。
【0036】
また、塞栓物10は、本体部11の空孔の密度を低くすることによって硬質な領域13を形成していると説明したが、塞栓物10を部分的に硬くするための構成は、これに限定されない。例えば、硬質な領域13は、軟質な領域12を形成するために添加している添加剤(例えば、後述する2官能性マクロマー)を除いた膨張性材料によって形成してもよく、軟質な領域12よりも架橋密度を高めた膨張性材料によって形成してもよい。このように形成された硬質な領域13は、曲げ方向に変形しにくいため、塞栓物10が硬質な領域13を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。なお、後者の場合、本体部11の構成材料は、架橋重合した高分子材料からなる膨張性材料であれば、多孔質でなくてもよい。
【0037】
(エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物)
(2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物)
繊維状の塞栓物10(ハイドロゲルフィラメント)を構成する反応生成物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応生成物である。すなわち、ハイドロゲルフィラメントを構成する反応生成物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物である(第一の側面)または2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物である(第二の側面)。なお、以下では、「エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物」および「2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物」を一括して単に「反応生成物」とも称する。
【0038】
ここで、エチレン系不飽和モノマーは、アクリロイル基(CH=CH-C(=O)-)、メタクリロイル基(CH=C(CH)-C(=O)-)、ビニル基(CH=CH-)、アクリルアミド基(CH=CH-C(=O)-NH-)またはメタクリルアミド基(CH=C(CH)-C(=O)-NH-)等の末端に二重結合を有するモノマーである。具体的には、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸およびこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩);(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートおよびこれらの誘導体;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびこれらの4級化物;N-ビニルピロリジノンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。上記エチレン系不飽和モノマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時のより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時のさらなるより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル酸またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)であることがさらに好ましく、アクリル酸および/またはアクリル酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0039】
また、架橋剤は、エチレン系不飽和モノマーまたは2官能性マクロマーおよびエチレン系不飽和モノマーを架橋できるものであれば特に制限されず、公知の架橋剤が使用できる。具体的には、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、それらの誘導体などが挙げられる。上記架橋剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時の膨潤性の制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、架橋剤は、N、N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時の膨潤性のより制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドであることがより好ましく、N,N’-メチレンビスアクリルアミドであることが特に好ましい。
【0040】
2官能性マクロマーは、重合時に高分子鎖を架橋し、反応生成物(ゆえに塞栓物)に柔軟性(可撓性)を付与する。このため、2官能性マクロマーを含む反応生成物(ゆえに塞栓物)は屈曲部に対する追従性に優れる。ゆえに、カテーテルを介して塞栓物を瘤内に留置する場合であっても、塞栓物は屈曲部を容易に通過して瘤内に留置できる。ゆえに、本発明の塞栓物は、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応生成物、および可視化剤を含むハイドロゲルフィラメントから構成されることが好ましい。
【0041】
2官能性マクロマーは、2つの官能部位を含むものであれば特に制限されないが、1以上のエチレン系不飽和基および2つの官能部位を含む(2官能エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。ここで、1以上のエチレン系不飽和基は、官能部位の一方を形成してもまたは両方の官能部位を形成してもよい。2官能性マクロマーとしては、以下に制限されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体などが挙げられる。これらのうち、塞栓物への柔軟性(可撓性)の付与効果などの観点から、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体であることが好ましい。ここで上記2官能性マクロマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明の好ましい形態では、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。生体適合性および溶媒への溶解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリルアミドであることがより好ましい。分解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0042】
2官能性マクロマーの分子量は、特に制限されないが、塞栓物への柔軟性(可撓性)の付与効果、膨潤倍率の向上などの観点から、低分子量である(2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。具体的には、2官能性マクロマーの分子量は、好ましくは約100~約50,000g/モル、より好ましくは約1,000~約20,000g/モル、特に好ましくは約2,000~約15,000g/モルである。
【0043】
反応生成物は、上記エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤ならびに必要であれば2官能性マクロマーに加えて、他のモノマー由来の構成単位(他の構成単位)を含んでもよい。ここで、他のモノマーは、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、2,4,6-トリヨードフェニルペンタ-4-エノエート、5-(メタ)アクリルアミド-2,4,6-トリヨード-n,n’-ビス-(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミドN-ビニルピロリジノンなどが挙げられる。本発明に係る反応生成物が他の構成単位を有する場合の他の構成単位の量(含有量)は、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、他の構成単位の量(含有量)は、反応生成物を構成する全構成単位に対して、10モル%未満であり、好ましくは5モル%未満であり、さらにより好ましくは1モル%未満である(下限値:0モル%超)。なお、その他の単量体に由来する構成単位が2種以上の構成単位から構成される場合には、上記その他の単量体に由来する構成単位の組成は、全構成単位の合計(100モル%)に対する、その他の単量体に由来する構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。なお、当該モル%は、反応生成物を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する他のモノマーの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。特に好ましくは、反応生成物は他の構成単位を含まない(他の構成単位の量(含有量)は0モル%である)。
【0044】
<塞栓物の変形例>
次に、塞栓物10の変形例について説明する。図3は、変形例1に係る塞栓物10Aの説明に供する図であり、図4は、変形例2に係る塞栓物10Bの説明に供する図である。
【0045】
(変形例1)
塞栓物10Aの本体部11Aは、両端部に軟質な領域12Aを有し、中央部に硬質な領域13Aを有している。図3に示すように、軟質な領域12Aは、膨張性材料Eにより形成され、硬質な領域13Aは、膨張性材料Eと、膨張性材料Eの外表面を覆うワイヤー部材W1と、によって構成されている。なお、本体部11Aを形成する膨張性材料Eは多孔質であってもよく、多孔質でなくてもよい。
【0046】
硬質な領域13Aを構成する膨張性材料Eは、ワイヤー部材W1に覆われることによって硬度を確保し、軟質な領域12Aを構成する膨張性材料Eと比べて曲げ方向に変形しにくいという効果を奏する。
【0047】
このように構成された塞栓物10Aによれば、硬質な領域13Aを支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、塞栓物10Aは、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0048】
なお、硬質な領域13Aは、膨張性材料Eとワイヤー部材W1からなると説明したが、膨張性材料Eの外表面を覆う部材の構成は、特に限定されない。
【0049】
(変形例2)
塞栓物10Bの本体部11Bは、両端部に軟質な領域12Bを有し、中央部に硬質な領域13Bを有している。図4に示すように、軟質な領域12Bは、膨張性材料Eにより形成され、硬質な領域13Bは、膨張性材料Eと、膨張性材料Eに覆われるように配置されたワイヤー部材W2(芯材)により形成されている。なお、本体部11Bを形成する膨張性材料Eは多孔質であってもよく、多孔質でなくてもよい。
【0050】
塞栓物10Bは、軟質な領域12Bを構成する膨張性材料Eのみが膨潤し、柔軟性を確保する。また、硬質な領域13Bは、軟質な領域12Bを構成する膨張性材料Eに比べて曲げ方向に変形しにくいという効果を奏する。
【0051】
このように構成された塞栓物10Bによれば、硬質な領域13Bを支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、塞栓物10Bは、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0052】
なお、硬質な領域13Bは、ワイヤー部材W2からなると説明したが、硬質な領域13Bの構成は、これに限定されない。例えば、硬質な領域13Bは、ワイヤー部材と一体に構成される膨張性材料によって形成されていてもよい。また、硬質な領域13Bは、芯部分(軸方向から視た膨張性材料の断面における中央部分)が硬い組成である膨張性材料によって形成されていてもよい。
【0053】
<医療器具セット>
次に、医療器具セット100の構成について説明する。図5に示すように、医療器具セット100は、塞栓物装填用カテーテル20と、送達用カテーテル30を備えている。
【0054】
塞栓物装填用カテーテル20は、装填用ルーメンが設けられる本体21と、本体21の基端側に設けられる基端ハブ22を備えている。塞栓物装填用カテーテル20は、装填用ルーメンに塞栓物10を収容し、送達用カテーテル30に装着された状態で使用される。このとき、装填用ルーメンに装填された塞栓物10は、送達用プッシャー40が基端ハブ22から挿入されることによって瘤内に向けて押し出される。なお、塞栓物装填用カテーテル20は、主として予め塞栓物10が装填された状態で供されるが、本体21に装填される塞栓物10は、術者などが塞栓物10を把持して本体21内に装填してもよい。また、塞栓物10の装填方法としては、術者が塞栓物10を把持して塞栓物装填用カテーテル20の先端側開口部または基端ハブ22側から挿入することができる。
【0055】
送達用カテーテル30は、シースルーメン(図示省略)が設けられるシース31を備え、後述する挿通補助部材50の本体51を挿通可能に構成されている。送達用カテーテル30は、生体管腔内に留置されて、塞栓物装填用カテーテル20を瘤内に送達させるための導入路として機能することができる。
【0056】
<デリバリーシステム>
次に、デリバリーシステム200の構成について説明する。図5に示すように、第1実施形態に係るデリバリーシステム200は、医療器具セット100に加え、塞栓物10を瘤内に押し出すための送達用プッシャー40を備えている。
【0057】
送達用プッシャー40は、長尺な棒状部材からなるプッシャー本体41を備え、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に挿着された状態で、術者によって基端ハブ22から挿入される。送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20に挿入されると、装填用ルーメンに収容された塞栓物10を瘤内へと押し出すことができる。
【0058】
<塞栓物デリバリー医療システム>
次に、塞栓物デリバリー医療システム300の構成について説明する。図6に示すように、本実施形態に係る塞栓物デリバリー医療システム300は、デリバリーシステム200に加えて、生体管腔内に送達用カテーテル30を送達させる挿通補助部材50を備えている。
【0059】
挿通補助部材50は、ガイドワイヤルーメン52が設けられる本体51を備え、事前に生体管腔内に挿通されたガイドワイヤに沿って送達用カテーテル30を瘤内まで送達させる動作を補助することができる。
【0060】
[動作]
次に、第1実施形態に係る塞栓物デリバリー医療システム300の動作について説明する。図7A図7Dは、腹部大動脈瘤のステントグラフト内挿術に対するエンドリーク塞栓術における主な手技工程を説明するための図である。
【0061】
術者は、図7Aに示すように、ガイドワイヤーGWを挿入した送達用カテーテル30のシース31を、穿刺部位となる患者の肢体からイントロデューサーを介して経皮的に生体管腔へと挿入し、送達用カテーテル30の先端開口部を腹部大動脈瘤まで送達させる。術者は、送達用カテーテル30の先端開口部が瘤内(動脈瘤内)sまで送達されると、ガイドワイヤーGWを抜去する。なお、送達用カテーテル30は、ガイドワイヤーGWを挿通補助部材50に挿入し、ガイドワイヤーGWと挿通補助部材50を送達用カテーテル30に挿入した状態で動脈瘤患部まで送達させてもよい。
【0062】
次に、術者は、図7Bに示すように、イントロデューサーを介してステントグラフトSGを圧縮挿入したカテーテル(ステントグラフトデバイス)を生体管腔内に挿入し、予め瘤内sに挿入したガイドワイヤを用いて動脈瘤患部まで移動させる。その後、患部にてカテーテルからステントグラフトSGを展開し留置する。これにより、送達用カテーテル30は、ステントグラフトSGの脚部と血管壁との間を介して、送達用カテーテル30の先端部がステントグラフトSGと動脈瘤の血管壁との間、すなわち、瘤内sに挿入され、先端開口部が瘤内sに位置した状態で生体管腔内に留置される。
【0063】
送達用カテーテル30が留置されると、術者は、送達用カテーテル30の基端側に塞栓物10を装填した塞栓物装填用カテーテル20の先端側を装着する。そして、術者は、送達用プッシャー40の先端を基端ハブ22の基端側から挿入する。基端ハブ22から挿入された送達用プッシャー40の先端は、塞栓物装填用カテーテル20内に装填された塞栓物10の基端と当接し、押し出し操作によって塞栓物10を送達用カテーテル30のシースルーメンへと押し出して移動させる。
【0064】
次に、術者は、図7Cに示すように、基端ハブ22から挿入された送達用プッシャー40を押し出し操作して送達用カテーテル30のシースルーメンから塞栓物10を瘤内sへと押し出す。その後、術者は、空になった塞栓物装填用カテーテル20を送達用プッシャー40と共に、送達用カテーテル30から離脱させる。送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20に挿入した状態で送達用カテーテル30から離脱させることができる。これにより、瘤内sに対する塞栓物10の1回目の挿入動作が完了する。なお、挿入動作において、送達用プッシャー40は、塞栓物装填用カテーテル20の離脱操作前に、塞栓物装填用カテーテル20から引き抜いてもよい。このような一連の塞栓物留置動作を、瘤内sに塞栓物10が必要量だけ装填されるまで繰り返す。なお、必要量は、患者のCTデータを基に動脈瘤の体積を計算し、その値から当該動脈瘤に展開した場合のステントグラフトSGの体積分を引いた値として算出する。
【0065】
瘤内sに必要量の塞栓物10の留置が完了すると、術者は、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く。この際、塞栓物装填用カテーテル20が送達用カテーテル30に装着され、かつ、送達用プッシャー40が送達用カテーテル30に挿入された状態で、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜いてもよい。また、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く前に、送達用カテーテル30から塞栓物装填用カテーテル20を離脱させつつ、送達用プッシャー40を送達用カテーテル30から引き抜いてもよい。また、送達用カテーテル30を瘤内s及び生体管腔から引き抜く前に、送達用プッシャー40を送達用カテーテル30および塞栓物装填用カテーテル20から引き抜き、送達用カテーテル30から塞栓物装填用カテーテル20を離脱させてもよい。なお、いずれの場合でも、塞栓物10の留置後のバルーンによるステントグラフトSGの追加拡張や造影操作などのために、イントロデューサーは生体管腔内に留置したままにする。
【0066】
瘤内sに留置された塞栓物10は、図7Dに示すように、瘤内sの血液などの液体と接触して徐々に膨潤し、完全に膨脹した塞栓物10が動脈瘤内面とステントグラフト外面との間の空間が埋まって瘤内sが閉塞される。これにより、動脈瘤は、破裂が防止されることとなる。
【0067】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係る塞栓物10は、生体内の瘤内sに挿入され、留置される塞栓物であって、軸方向に延在する長尺状の本体部11を有し、本体部11は、軟質な領域12と、軟質な領域12よりも硬い硬質な領域13と、を備え、硬質な領域13は、本体部11の全長の50パーセント以下であることを特徴とする。
【0068】
上記のように構成した塞栓物10は、硬く構成されることによって曲げ方向に変形しにくい領域を有している。そのため、塞栓物10が硬質な領域13を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、塞栓物10は、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【0069】
また、塞栓物10は、多孔質の膨張性材料により形成され、硬質な領域13は、軟質な領域12と比べて本体部11の空孔の密度が低いことを特徴とする。このとき、塞栓物10が生理条件下で血液を含む水性液体と接触すると、硬質な領域13は、軟質な領域12と比べて膨張しにくく、曲げ方向(本体部11の軸方向に交差する方向)に変形しにくいという効果を奏する。そのため、塞栓物10は、分枝血管の近位側に詰まりやすくなり、分枝血管の遠位側に迷入することを防ぐことができる。
【0070】
また、塞栓物10Aは、架橋重合した高分子材料からなる多孔質の膨張性材料Eと、ワイヤー部材W1と、から構成され、軟質な領域12Aは、膨張性材料Eにより形成され、硬質な領域13Aは、膨張性材料Eと膨張性材料Eの外表面を覆うワイヤー部材W1とによって構成されることを特徴とする。このとき、硬質な領域13Aを構成する膨張性材料Eは、ワイヤー部材W1に覆われることによって硬度を確保し、軟質な領域12Aを構成する膨張性材料Eと比べて曲げ方向に変形しにくいという効果を奏する。そのため、塞栓物10Aは、分枝血管の近位側に詰まりやすくなり、分枝血管の遠位側に迷入することを防ぐことができる。
【0071】
また、塞栓物10Bは、架橋重合した高分子材料からなる膨張性材料Eと、ワイヤー部材W2とによって構成され、軟質な領域12Bは、膨張性材料Eにより形成され、硬質な領域13Bは、膨張性材料Eと、膨張性材料Eに覆われるように配置されたワイヤー部材W2によって形成されることを特徴とする。このとき、塞栓物10Bは、軟質な領域12Bを構成する膨張性材料Eのみが膨潤し、柔軟性を確保する。また、硬質な領域13Bは、軟質な領域12Bを構成する膨張性材料Eと比べて曲げ方向に変形しにくいという効果を奏する。そのため、塞栓物10Bは、分枝血管の近位側に詰まりやすくなり、分枝血管の遠位側に迷入することを防ぐことができる。
【0072】
また、塞栓物10の軟質な領域12は、架橋重合した高分子材料からなる第1膨張性材料により形成され、硬質な領域13は、架橋重合した高分子材料からなり、第1膨張性材料と比べて硬質な第2膨張性材料によって構成されることを特徴とする。このように形成された硬質な領域13は、曲げ方向に変形しにくいため、塞栓物10が硬質な領域13を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。
【0073】
また、塞栓物10(塞栓物10A、10B)は、両端部に軟質な領域12(軟質な領域12A、12B)を備えることを特徴とする。これにより、塞栓物10は、瘤内sに留置された後に分枝血管に入り込むと、硬質な領域13を支点として軟質な領域12の各々を曲げ方向に変形させ、硬質な領域13を分枝血管の血管壁に当接させることができる(図2を参照)。そのため、塞栓物10は、硬質な領域13を分枝血管の近位側の湾曲部分に容易に引っ掛けることができる。
【0074】
なお、本実施形態に係る医療器具セット100、デリバリーシステム200、および塞栓物デリバリー医療システム300を構成する各部材は、図5および図6に示す構成に限定されない。
【0075】
例えば、医療器具セットは、図8に示す医療器具セット400のように、塞栓物装填用カテーテル20と、本体431(シース)と湾曲部432とを含み、湾曲部432の先端側から本体431の基端側に向かって連通するルーメン(図示省略)を介して瘤内sに塞栓物10(塞栓物10A、10B)を送達させる送達用カテーテル430と、矯正部材60と、を備えていてもよい。
【0076】
送達用カテーテル430の湾曲部432は、本体431の中心軸に対して所定曲率で湾曲している。湾曲部432は、本体431の先端から延在して設けられ、基端側から先端側に向かうに連れて徐々に本体431の中心軸から遠ざかる方向(本体431の中心軸に対する放射方向)に湾曲する。湾曲部432は、先端側から基端側に向かって連通する孔(ルーメン)を備えている。このルーメン(図示省略)は、本体431のルーメン(シースルーメン)と連通され、送達用カテーテル430のルーメン(図示省略)として機能する。なお、湾曲部432は、図8において、二点鎖線で区切られた範囲である。
【0077】
湾曲部432は、少なくとも動脈瘤内に送達されたときに湾曲状態が維持され、送達用カテーテル430の挿抜時には矯正部材60により略真直状態へと変位し得る。湾曲部432は、生体管腔内を通って動脈瘤内を送達される際には、矯正部材60が挿入されて曲がりが緩やかとなるため送達の邪魔にならず、動脈瘤内に到達したときには、矯正部材60が抜去されて元の湾曲状態に復元される構成となっている。
【0078】
矯正部材60は、送達用カテーテル430を生体管腔内から抜去する際に使用される。矯正部材60は、送達用カテーテル430に挿入されることで、挿入前と比べて湾曲部432の湾曲量(曲がり具合)を略真直状態に近付くように変位させる。つまり、矯正部材60の送達用カテーテル430に対する挿入前後を比較すると、矯正部材60を挿入した後の湾曲部432の曲がり具合は、矯正部材60を挿入する前の曲がり具合と比べて緩やかになる。なお、矯正部材60は、送達用カテーテル430の挿抜時の容易性を向上させるため、挿入後に湾曲部432の湾曲状態が略真直状態となるように矯正するのが好ましい。
【0079】
なお、上述した挿通補助部材50を矯正部材60として機能させることもできる。
【0080】
術者は、送達用カテーテル430の先端を、ガイドワイヤGWに沿って瘤内sまで送達させる(図9Aを参照)。そして、術者は、ガイドワイヤGWを抜去し、テントグラフトSGを留置すると(図9Bを参照)、送達用カテーテル430の先端開口部を瘤内sに位置した状態で送達用カテーテル430が生体管腔内に留置する。塞栓物装填用カテーテル20に装填されている塞栓物は、送達用カテーテル430が生体管腔内に留置されると、湾曲部432のルーメンに沿って先端側から押し出される。また、塞栓物の放出口となる湾曲部432の先端側の開口は、送達用カテーテル430を回転方向に回転させることで、送達用カテーテル430の回転中心(中心軸)に対する所定の放射方向に向けることができる。これにより、湾曲部432の開口の向きが変わるため、塞栓物の押し出し方向を瘤内sの適切な方向に向けることで、塞栓物は、適切な位置に留置されることとなる。
【0081】
このように構成された医療器具セット400によれば、術者は、送達用カテーテル430を操作しながら塞栓物の押出方向を制御し、瘤内sの適切な位置に留置可能とすると共に、送達用カテーテル430の挿入または抜去時に湾曲部132の湾曲状態が略真直状態に近付くように変位させて挿抜動作をスムーズにさせることができる。しかしながら、送達用カテーテル430に装填された塞栓物は、本体431から先端側が湾曲しているがゆえに、意図しない分枝血管tに入り込むリスクが増えてしまい、遠位塞栓のリスクが増える虞がある。そのため、瘤内sに留置されても分枝血管の遠位側に迷入することを防ぎ、遠位塞栓のリスクを低減させることができる塞栓物が求められる。
【0082】
本発明の塞栓物10(塞栓物10A、10B)は、硬く構成されることによって曲げ方向に変形しにくい領域(硬質な領域13、13A、13B)を有している。そのため、塞栓物10(塞栓物10A、10B)は、硬質な領域13(硬質な領域13A、13B)を支点として分枝血管tの近位側の湾曲部分に引っ掛かりやすくなり、分枝血管tの遠位側に迷入することを防ぐことができる。したがって、塞栓物10(塞栓物10A、10B)、遠位塞栓のリスクを低減させることができる。
【符号の説明】
【0083】
10、10A、10B 塞栓物、
11、11A、11B 本体部、
12、12A、12B 軟質な領域、
13、13A、13B 硬質な領域、
100 医療器具セット、
200 デリバリーシステム、
300 塞栓物デリバリー医療システム、
X 軸方向、
Y 幅方向、
Z 高さ方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9A
図9B