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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075570
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】タガトースの酵素的製造
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20240528BHJP
   C12N 9/90 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C12P19/02 ZNA
C12N9/90
C12N9/16 B
C12N9/12
C12N9/10
C12N9/26
C12N15/61
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024026360
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2021521105の分割
【原出願日】2019-10-18
(31)【優先権主張番号】62/747,877
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/790,788
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518059587
【氏名又は名称】ボヌモーズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィチェレキー、ダニエル、ジョセフ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】糖をD‐タガトースに酵素的に変換することができる改良されたD‐タガトース調製方法を提供する。
【解決手段】フルクトース‐6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)によって触媒される、フルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップ;及びタガトースを製造するプロセスで以前に使用されたF6PE及びタガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)と比較してより高い活性を持つ酵素を使用して、T6PPによって触媒されるT6Pをタガトースに変換するステップを含む、タガトースを製造するための改良されたプロセスである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖からタガトースを製造するための改良されたプロセスであって、この改良はフルクトース‐6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換することを含み、F6PEは配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、上記プロセス。
【請求項2】
糖からタガトースを製造するための改良されたプロセスであって、この改良はタガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換することを含み、T6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、上記プロセス。
【請求項3】
フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップをさらに含み、F6PEが配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
グルコース6‐リン酸(G6P)をF6Pに変換するステップをさらに含み、このステップがホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
グルコース1‐リン酸(G1P)をG6Pに変換するステップをさらに含み、このステップがホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
糖をG1Pに変換するステップをさらに含み、このステップが少なくとも1つの酵素によって触媒され、糖がデンプン又はその誘導体、セルロース又はその誘導体及びスクロースからなる群から選択される、請求項5に記載のプロセス。。
【請求項7】
少なくとも1つの酵素が、α‐グルカンホスホリラーゼ(αGP)、マルトースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼ、及びセルロースホスホリラーゼからなる群から選択される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
糖が、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、マルトトリオース、及びグルコースからなる群から選択されるデンプン又はその誘導体である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
デンプンをデンプン誘導体に変換するステップをさらに含み、デンプン誘導体がデンプンの酵素的加水分解又はデンプンの酸加水分解によって調製される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
4‐グルカントランスフェラーゼ(4GT)がプロセスに追加される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
デンプン誘導体が、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、αアミラーゼ、又はそれらの組み合わせによって触媒されるデンプンの酵素的加水分解によって調製される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
少なくとも1つの酵素によって触媒されるフルクトースをF6Pに変換するステップ、及び
任意選択で、少なくとも1つの酵素によって触媒されるスクロースをフルクトースに変換するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
少なくとも1つの酵素によって触媒されるグルコースをG6Pに変換するステップ、及び
任意選択で、少なくとも1つの酵素によって触媒されるスクロースをグルコースに変換するステップをさらに含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項14】
前記プロセスが、タガトースを製造するための酵素的プロセスであり、以下のステップを含む、請求項2に記載のプロセス:
(i)1つ又は複数の酵素を使用して糖をグルコース1‐リン酸(G1P)に変換するステップ、ここで、糖は、デンプン、デンプンの1つ又は複数の誘導体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される;
(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM)を使用してG1Pをグルコース6‐リン酸(G6P)に変換するステップ;
(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI)を使用してG6Pをフルクトース6‐リン酸(F6P)に変換するステップ;
(iv)フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してF6Pをタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップ;及び
(v)タガトース6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換するステップ、ここで、T6PPは、配列番号3又は4に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む;
ここで、プロセスステップ(i)~(v)は、単一の反応容器内で実施される。
【請求項15】
F6PEが、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
プロセスステップが、以下のプロセス条件のうちの少なくとも1つの下で実施される、請求項14又は15に記載のプロセス:
約37℃から約85℃の範囲の温度で、
約5.0から約9.0の範囲のpHで、又は
約1時間から約48時間で。
【請求項17】
プロセスステップが、以下のプロセス条件のうちの少なくとも1つの下で実施される、請求項14~16のいずれか一項に記載のプロセス:
リン酸源としてのアデノシン三リン酸(ATP)なしで、
ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドなしで、
約0.1mMから約150mMのリン酸塩濃度で、
約0.1mMから50mMのMg2+濃度で、
ここで、リン酸塩はリサイクルされ、及び
プロセスの少なくとも1つのステップは、エネルギー的に好ましい化学反応を伴う。
【請求項18】
リン酸がリサイクルされ、T6PのT6PP脱リン酸化によって生成されたリン酸イオンが、糖をG1Pに変換するプロセスステップで使用される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
T6Pをタガトースに変換するステップが、エネルギー的に有利な、不可逆的なホスファターゼ反応である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項20】
生成されたタガトースを分離回収するステップをさらに含み、分離回収がクロマトグラフィー分離を介さない、請求項14~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
デンプンの誘導体が、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトトリオース、マルトース、及びグルコースからなる群から選択される、請求項14又は15に記載のプロセス。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載のプロセスから製造されたタガトース。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか一項に記載のプロセスから製造されたタガトースを含む消耗品。
【請求項24】
F6PEがディクチオグロムス・テルモフィルム(Dictyoglomus thermophilum)(Uniprot ID B5YBD7)からのF6PEの活性と比較してより高い活性を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項25】
T6PPがアルケオグロブス・フルギヅス(Archaeoglobus fulgidus)(Uniprot ID O29805)からのT6PPの活性と比較してより高い活性を有する、請求項2に記載のプロセス。
【請求項26】
F6PEがディクチオグロムス・テルモフィルム(Dictyoglomus thermophilum)(Uniprot ID B5YBD7)からのF6PEの活性と比較して少なくとも10%高い活性を有する、請求項24に記載のプロセス。
【請求項27】
T6PPがアルケオグロブス・フルギヅス(Archaeoglobus fulgidus)(Uniprot ID O29805)からのT6PPの活性と比較して少なくとも10%高い活性を有する、請求項25に記載のプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2018年10月19日に出願された米国出願第62/747,877号及び2019年1月10日に出願された米国出願第62/790,788号への優先権を主張し、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、D‐タガトース製造に関係するバイオテクノロジーの分野に関する。より具体的には、本発明は、糖(例えば、多糖類、オリゴ糖、二糖類、スクロース、D‐グルコース、及びD‐フルクトース)をD‐タガトースに酵素的に変換することができる改良されたD‐タガトース調製方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
D‐タガトース(以下、タガトース)は、スクロースの92%の甘味を有するが、カロリーは38%にすぎない、低カロリーの天然甘味料である。販売価格が高いため、甘味料としての使用は制限されている。タガトースは無数の健康上の利点を誇り:非齲蝕原性であり;低カロリーであり;グリセミック指数は3と非常に低くなっており;グルコースのグリセミック指数を20%減衰させ;平均血糖値を下げることができ;高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールを促進することにより、心血管疾患、脳卒中、その他の血管疾患の予防に役立ち;そして検証されたプレバイオティクスであり、抗酸化剤である。Lu et al., Tagatose, a New Antidiabetic and Obesity Control Drug, Diabetes Obes. Metab. 10(2): 109-34 (2008)(タガトース、新しい抗糖尿病及び肥満管理薬)。そのため、タガトースは明らかに、消耗品や、製薬、バイオテクノロジー、学術、食品、飲料、栄養補助食品、食料品業界などのさまざまな業界でさまざまな用途がある。
【0004】
タガトースは、主に、ラクターゼによるラクトースの加水分解によって生成され、D‐グルコース及びD‐ガラクトースを形成する(WO2011/150556、CN103025894、US5,002,612、US6,057,135、及びUS8,802,843を参照)。次に、D‐ガラクトースは、アルカリ性条件下で水酸化カルシウムによって化学的に、又はpH中性条件下でL‐アラビノースイソメラーゼによって酵素的にD‐タガトースに異性化される。最終生成物は、ろ過とイオン交換クロマトグラフィーの組み合わせによって分離される。この方法は、D‐グルコースとD‐ガラクトースの分離にコストがかかり、生成物の収率が低いために問題がある。微生物細胞発酵によるいくつかの方法が開発されているが、高価な原料(ガラクチトールやD‐プシコースなど)に依存し、生成物の収量が少なく、分離に費用がかかるため、実用的な代替手段として証明されたものはない。タガトースを調製するための他のプロセスも報告されている。たとえば、Lee et al., Scientific Reports | 7: 1934 | DOI:10.1038/s41598-017-02211-3, pp. 1-8;米国特許公開番号2018/0023073;国際特許出願公開番号WO2014/196811、WO2018/004310、WO2018/021894、WO2018/182344、WO2018/182345、WO2018/182354、WO2018/182355、及びWO2016/064146を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国際特許出願公開第WO2017/059278号は、エピメラーゼ、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼによって触媒される、フルクトース6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップ、及びホスファターゼ、タガトース6‐リン酸ホスファターゼによって触媒される、T6Pをタガトースに変換するステップを含むプロセスにおけるタガトースの酵素的合成を最近記載した。しかしながら、酵素的タガトース製造の改良にもかかわらず、例えば、より少ない量の酵素でより高い収量を提供することができる、タガトースを製造するさらに改良されたプロセスを提供することへの要望及び必要性が依然としてある。タガトース製造のコストを削減することに強い産業的及び商業的関心があり、この削減には、酵素の使用量の削減及び以前に使用された酵素よりも効果的な酵素の組み合わせの使用が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、糖(例えば、多糖類、オリゴ糖、二糖類、スクロース、D‐グルコース、及びD‐フルクトース)をタガトースに酵素的に変換することができる改良されたタガトース調製方法を提供する。一態様では、糖からタガトースを製造するための本発明の改良されたプロセスは、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップを含み、F6PEは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。別の態様において、糖からのタガトースの製造のための本発明による改良されたプロセスは、タガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換するステップを含み、T6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明のいくつかの実施形態において、改良されたプロセスは、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップを含み、ここで、F6PEが配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、及びタガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換するステップを含み、ここで、T6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0007】
本発明のいくつかの改良されたプロセスにおいて、タガトースを調製するためのプロセスはまた、グルコース6‐リン酸(G6P)をF6Pに変換するステップを含み、このステップは、ホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される。本発明によるいくつかのプロセスは、ホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒されるグルコース1‐リン酸(G1P)をG6Pに変換するステップをさらに含む。本発明のいくつかのプロセスは、少なくとも1つの酵素によって触媒される、糖をG1Pに変換するステップをさらに含む。
【0008】
任意のプロセスで使用される糖は、デンプン又はその誘導体、セルロース又はその誘導体、及びスクロースからなる群から選択することができる。デンプン又はその誘導体は、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、マルトトリオース、又はグルコースであり得る。本発明のいくつかの改良されたプロセスにおいて、タガトースを調製するためのプロセスは、酵素加水分解又はデンプンの酸加水分解によってデンプンをデンプン誘導体に変換することを含む。他のプロセスでは、デンプン誘導体は、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α‐アミラーゼ、又はこれらの酵素の2つ以上の組み合わせによって触媒されるデンプンの酵素的加水分解によって調製される。本発明のいくつかのプロセスは、さらに、4‐グルカントランスフェラーゼ(4GT)を加えることを含み得る。
【0009】
タガトースを調製するための本発明の他のプロセスは、少なくとも1つの酵素によって触媒される、フルクトースをF6Pに変換するステップをさらに含む。本発明の他のプロセスは、少なくとも1つの酵素によって触媒される、スクロースをフルクトースに変換するステップをさらに含む。タガトースを調製するためのいくつかのプロセスで使用されるG6Pは、少なくとも1つの酵素によって触媒される、グルコースをG6Pに変換することによって生成することもできる。次に、グルコースは、少なくとも1つの酵素によって触媒される、スクロースをグルコースに変換することによって製造することができる。
【0010】
本発明の方法は、約37℃から約85℃の範囲の温度で、約5.0から約9.0の範囲のpHで、及び/又は約1時間から約48時間を含む反応条件下で、又は連続反応として実施される。いくつかの実施形態において、タガトースを調製するためのプロセスのステップは、1つのバイオリアクターにおいてそれらの反応条件下で実施される。他の実施形態では、これらのステップは、これらの反応条件下で、直列に配置された複数のバイオリアクター内で実施される。
【0011】
本発明のいくつかのプロセスにおいて、タガトースを調製するためのステップは、ATPフリー、NAD(H)フリーで、約0.1mMから約150mMのリン酸塩濃度で行われ、リン酸塩はリサイクルされ、及び/又はT6Pをタガトースに変換するステップには、エネルギー的に有利な化学反応が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、デンプン又はその誘導生成物をタガトースに変換する酵素経路を示す概略図である。次の略語が使用される:αGP、α‐グルカンホスホリラーゼ又はデンプンホスホリラーゼ;PGM、ホスホグルコムターゼ;PGI、ホスホグルコイソメラーゼ;F6PE、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ;T6PP、タガトース6‐リン酸ホスファターゼ;IA、イソアミラーゼ;PA、プルラナーゼ;MP、マルトースホスホリラーゼ;PPGK、ポリリン酸グルコキナーゼ。
【0013】
図2図2は、セルロース又はその誘導生成物をタガトースに変換する酵素経路を示している。CDP、セロデキストリンホスホリラーゼ;CBP、セロビオースホスホリラーゼ;PPGK、ポリリン酸グルコキナーゼ;PGM、ホスホグルコムターゼ;PGI、ホスホグルコイソメラーゼ;F6PE、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ;T6PP、タガトース6‐リン酸ホスファターゼ。
【0014】
図3図3は、フルクトースをタガトースに変換する酵素的経路を示す概略図である。PPFK、ポリリン酸フルクトキナーゼ;F6PE、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ;T6PP、タガトース6‐リン酸ホスファターゼ。
【0015】
図4図4は、グルコースをタガトースに変換する酵素的経路を示す概略図である。PPGK、ポリリン酸グルコキナーゼ;PGI、ホスホグルコイソメラーゼ;F6PE、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ;T6PP、タガトース6‐リン酸ホスファターゼ。
【0016】
図5図5は、スクロース又はその誘導生成物をタガトースに変換する酵素経路を示している。SP、スクロースホスホリラーゼ;PPFK、ポリリン酸フルクトキナーゼ;PGM、ホスホグルコムターゼ;PGI、ホスホグルコイソメラーゼ;F6PE、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ;T6PP、タガトース6‐リン酸ホスファターゼ。
【0017】
図6図6は、グルコース1‐リン酸をタガトースに変換するための形成ギブスエネルギーに基づく中間体間の反応ギブズエネルギーを示す。
【0018】
図7図7は、HPLCクロマトグラムで例3に記載されているF6Pのタガトースへの変換を示している。(実線)0時間クロマトグラム;(破線)F6PE(Uniprot ID B5YBD7)及びT6PP(Uniprot ID O29805)で2時間;及び(点線)F6PE(Uniprot ID A0A0P6XN50)及びT6PP(Uniprot ID D6YBK5)を使用した改良されたプロセスで2時間。示されているピークは、(1)ボイド、(2)F6P及びT6P、(3)遊離リン酸イオン(遊離ホスフェート)、(4)タガトース、及び(5)フルクトースである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、一般に、糖をタガトースに変換するための改良された酵素プロセスに関する。例えば、本発明は、無細胞酵素カクテルを使用して、デンプン、セルロース、スクロース、グルコース、及びフルクトースなどの糖及びそれらの誘導生成物をタガトースに変換するための改良されたプロセスに関する。細胞ベースの製造方法とは対照的に、本発明はタガトースの無細胞調製を含み、細胞膜の除去により比較的高い反応速度を有し、これはしばしば細胞内外への基質/生成物の輸送を遅くする。本発明のプロセスはまた、栄養豊富な発酵培地/細胞代謝産物を含まない最終生成物をもたらす。
【0020】
一態様では、本発明は、F6PEによって触媒される、F6PをT6Pに変換するステップ;及びタガトースを製造するプロセスで以前に使用されたF6PE及び/又はT6PPと比較して改良された活性を有する酵素を使用して、T6PPによって触媒される、T6Pをタガトースに変換するステップを含む、タガトースを製造するための改良されたプロセスに関する。例えば、F6PE類及びT6PP類:Anaerolinea thermophila UNI‐1からのF6PE(Uniprot ID E8N0N6);Caldicellulosiruptor kronotskyensisからのF6PE(Uniprot ID E4SEH3);Caldilinea aerophilaからのF6PE(Uniprot ID I0I507);Caldithrix abyssiからのF6PE(Uniprot ID H1XRG1);及びDictyoglomus thermophilumからのF6PE(Uniprot ID B5YBD7);Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot ID O29805);Archaeoglobus profundusからのT6PP(Uniprot ID D2RHV2_ARCPA);Archaeoglobus veneficusからのT6PP(Uniprot ID F2KMK2_ARCVS)を開示している国際特許出願公開WO2017/059278を参照されたい。より高い活性を持つ酵素を使用すると、より少ない量の酵素を使用できるため、プロセス全体のコストを削減できる。
【0021】
本発明の改良されたプロセスにおいて、F6PEは、以前に開示されたディクチオグロムス・サーモフィラム(Dictyoglomus thermophilum)からの好熱性F6PE(Uniprot ID B5YBD7)の活性と比較して、より高い活性を有する。国際特許出願公開WO2017/059278を参照のこと。好ましくは、本発明のプロセスで使用されるF6PEは、Dictyoglomus thermophilumからの好熱性F6PE(Uniprot ID B5YBD7)の活性と比較して、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも180%又は少なくとも200%改良された酵素活性を有する。たとえば、例1に示すように、Thermanaerothrix daxensisからの好熱性F6PE(Uniprot A0A0P6XN50)は、Dictyoglomus thermophilumからの好熱性F6PE(Uniprot ID:B5YBD7)と比較して酵素活性が約150%向上しており、Candidatus Thermofonsia Clade 3からの好熱性F6PE(Uniprot ID:A0A2M8QBR9)は、Dictyoglomus thermophilumからの好熱性F6PE(Uniprot ID:B5YBD7)と比較して約120%酵素活性が向上し、Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticumからの好熱性F6PE(Uniprot A0A223HVJ3)は、Dictyoglomus thermophilumからの好熱性F6PE(Uniprot ID B5YBD7)と比較して酵素活性が約178%向上している。以下の例は、酵素をその基質と共にインキュベートし、次いでHPLCを介して反応物及び生成物の量を測定することを含む、F6PEの活性を決定するためのプロトコルを当業者に提供する。任意の2つの酵素の相対的活性の測定は、緩衝液、pH、温度などの同一の反応条件下で実行される。
【0022】
本発明のプロセスで使用されるF6PEは、F6P及びT6Pに特異的である。F6PEによって触媒されるエピマー化は可逆反応である。特定のとは、反応中に存在する他のリン酸化単糖よりもF6P/T6Pに対してより高い活性を有することを意味する。たとえば、F6PEは、たとえばG6PよりもF6P/T6Pで高いエピマー化活性を示す。
【0023】
本発明の改良されたプロセスで使用するためのF6PEの例には、以下のタンパク質が含まれるが、これらに限定されない:配列番号1に記載されているアミノ酸配列を有するThermanaerothrix daxensisからの好熱性F6PE(Uniprot ID A0A0P6XN50);配列番号2に記載されているアミノ酸配列を有するThermoanaerobacterium thermosaccharolyticumからの好熱性F6PE(Uniprot ID A0A223HVJ3);配列番号7に記載されているアミノ酸配列を有するCandidatus Thermofonsia Clade 3からの好熱性F6PE(Uniprot ID A0A2M8QBR9);及び配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸配列同一性を有するF6PE。本発明による、糖からタガトースを製造するための改良されたプロセスは、F6PEを使用したフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップを含み、ここで、F6PEは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0024】
本発明のプロセスで使用されるF6PEは、F6PをT6Pに変換することができるエピメラーゼである。F6PEは、マグネシウム、マンガン、コバルト、又は亜鉛、好ましくはマグネシウムなどの二価金属補因子を利用する。本発明のプロセスで使用するためのF6PEは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくはアルドラーゼ型TIMバレルを含む。Wichelecki et al.,(2015) J. Biol. Chem., v290, pp. 28963-76を参照のこと。
【0025】
本発明の改良されたプロセスにおいて、T6PPは、以前に開示されたArchaeoglobus fulgidus(アルカエオグロブス・フルギダス)からのT6PP(Uniprot ID O29805)の活性と比較して、より高い活性を有する。国際特許出願公開WO2017/059278を参照のこと。好ましくは、本発明のプロセスで使用されるT6PPは、Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot ID O29805)の活性に対して、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも900%、少なくとも1200%、少なくとも1500%、少なくとも1800%、又は少なくとも2100%改良された酵素活性を有する。たとえば、例2に示すように、Methanosarcina thermophila CHTI‐55からのT6PP(Uniprot ID A0A0E3NCH4)は、Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot ID O29805)と比較して酵素活性が約614%向上し、Thermobispora bispora株ATCC19993からのT6PP(Uniprot D6YBK5)は、Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot ID O29805)と比較して酵素活性が約1328%向上し、Spirochaeta thermophila ATCC 49972からのT6PP(Uniprot ID E0RT70)は、Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot IDO29805)と比較して酵素活性が約2075%向上し、Sphaerobacter thermophilus DSM 20745からのT6PP(Uniprot ID D1C7G9)は、Archaeoglobus fulgidusからのT6PP(Uniprot ID O29805)と比較して酵素活性が約814%向上している。以下の例は、酵素をその基質と共にインキュベートし、次いでHPLCを介して反応物及び生成物の量を測定することを含む、T6PPの活性を決定するためのプロトコルを当業者に提供する。任意の2つの酵素の相対的活性の測定は、緩衝液、pH、温度などの同一の反応条件下で実行される。
【0026】
本発明のプロセスで使用されるT6PPは、T6Pに特異的である。T6PPの場合、特定のとは、プロセス内の他のリン酸化単糖よりもT6Pに対してより高い脱リン酸化活性を有することを意味する。例えば、T6PPは、例えば、G1P、G6P、及びF6PよりもT6Pに対してより高い脱リン酸化活性を有する。
【0027】
本発明のプロセスで使用するためのT6PPの例には、以下のタンパク質が含まれるが、これらに限定されない:配列番号3に記載されているアミノ酸配列を有するMethanosarcina thermofila CHTI‐55からのT6PP(Uniprot ID A0A0E3NCH4);配列番号4に記載されているアミノ酸配列を有するThermobispora bispora株ATCC19993からのT6PP(Uniprot ID D6YBK5);配列番号5に記載されているアミノ酸配列を有するSpirochaeta thermophila株ATCC49972からのT6PP(Uniprot ID E0RT70);配列番号6に記載されているアミノ酸配列を有するSphaerobacter thermophilus株DSM20745からのT6PP(Uniprot ID D1C7G9);配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸配列同一性を有するT6PP。糖からタガトースを製造するための本発明によるプロセスは、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換すること、及びタガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用して生成されたT6Pをタガトースに変換することを含み、ここで、T6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0028】
本発明のプロセスにおいて、T6PPは、T6Pをタガトースに変換するホスファターゼである。T6PPは、亜鉛、マンガン、コバルト、又はマグネシウム、好ましくはマグネシウムなどの二価金属補因子を利用する。本発明のプロセスにおいて、T6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、又は100%のアミノ酸配列同一性を有する;そして、好ましくは、触媒作用のためのロスマノイドフォールドドメイン、及びさらに、基質特異性のためのC1キャッピングドメイン;マグネシウムを配位するためのロスマノイドフォールドの最初のβストランドのDxDシグネチャー、ここで、2番目のAspは一般的な酸/塩基触媒である;反応中間体の安定性を助けるロスマノイドフォールドの2番目のβストランドの端にあるThr又はSer;反応中間体の安定性を助けるロスマノイドフォールドの3番目のβストランドに対するαヘリックスC末端のN末端のLys;及びマグネシウムなどの二価金属カチオンを配位するためのロスマノイドフォールドの4番目のβストランドの端にあるE(D/N)シグネチャを含む。たとえば、Burroughs et al。、Evolutionary Genomics of the HAD Superfamily:Understanding the Structural Adaptations and Catalytic Diversity in a Superfamily of Phosphoesterases and Allied Enzymes J. Mol. Biol, 2006; 361; 1003-1034(HADスーパーファミリーの進化ゲノミクス:ホスホエステラーゼと関連酵素のスーパーファミリーにおける構造適応と触媒的多様性の理解)を参照のこと。
【0029】
本発明による好ましい酵素プロセスは、フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用して、フルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換するステップを含み、ここで、F6PEは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、及びタガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換するステップを含む、ここでT6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。より好ましくは、F6PEは、配列番号2に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、及びT6PPは、配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。最も好ましくは、F6PEは、配列番号2に記載されるアミノ酸配列を有し、T6PPは配列番号5に記載されているアミノ酸配列を有する。
【0030】
本発明による糖からタガトースを調製するためのプロセスはまた、グルコース6‐リン酸(G6P)をF6Pに酵素的に変換するステップを含み、このステップは、ホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される。使用できる例示的なPGIには、国際特許出願公開WO2017/059278に開示されているもの:Clostridium thermocellum(クロストリジウム・サーモセラム)からのPGI(Uniprot ID A3DBX9)及びThermus thermophilus(サーマス・サーモフィルス)からのPGI(Uniprot ID Q5SLL6)が含まれる。
【0031】
本発明によるタガトースを調製するためのプロセスは、グルコース1‐リン酸(G1P)をG6Pに変換するステップをさらに含み、このステップは、ホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される。PGMの例は、国際特許出願公開WO2017/059278に開示されている、Thermococcus kodakaraensis(サーモコッカス・コダカラエンシス)からのPGM(Uniprot ID Q68BJ6)である。
【0032】
さらに、本発明によるプロセスは、糖をG1Pに変換するステップをさらに含むことができ、このステップは、少なくとも1つの酵素によって触媒され、糖は、デンプン又はその誘導体(図1)、セルロース又はその誘導体(図2)、フルクトース(図3)、グルコース(図4)、及びスクロース(図5)からなる群から選択される。本発明によるプロセスにおいて糖をG1Pに変換するステップで使用される酵素(単数又は複数)は、アルファ‐グルカンホスホリラーゼ(αGP)、マルトースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼ、及び/又はセルロースホスホリラーゼ及びそれらの混合物であり得る。F6Pに到達するための酵素又は酵素の組み合わせの選択は、プロセスで使用される糖に依存する。
【0033】
セルロースは最も豊富な生物資源であり、植物細胞壁の主成分である。非食品リグノセルロース系バイオマスには、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、及びその他の微量成分が含まれている。アビセル(微結晶性セルロース)、再生アモルファスセルロース、バクテリアセルロース、ろ紙などを含む純粋なセルロースは、一連の処理によって調製できる。部分的に加水分解されたセルロース基質には、重合度が7を超える水不溶性セロデキストリン、重合度3~6の水溶性セロデキストリン、セロビオース、グルコース、及びフルクトースが含まれる。
【0034】
本発明による特定のプロセスにおいて、セルロース及びその誘導生成物は、一連のステップを介してタガトースに変換することができる。図2を参照されたい。例えば、本発明によるプロセスは、以下のステップを含む経路を提供する:セロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)及びセロビオースホスホリラーゼ(CBP)によってそれぞれ触媒されるセロデキストリン及びセロビオース並びに遊離リン酸イオン(遊離ホスフェート)からG1Pを生成するステップ;PGMによって触媒されるG1PをG6Pに変換するステップ;PGIによって触媒されるG6PをF6Pに変換するステップ;上記のようにF6Pをタガトースに変換するステップ;リン酸イオン(ホスフェート)は、セロデキストリンとセロビオースをG1Pに変換するステップでリサイクルできる。
【0035】
いくつかの酵素を使用して、固体セルロースを水溶性セロデキストリン及びセロビオースに加水分解することができる。このような酵素には、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼが含まれるが、ベータ‐グルコシダーゼ(セロビアーゼ)は含まれない。セルロースの加水分解とG1Pの生成の前に、セルロースとバイオマスを前処理して、それらの反応性を高め、セルロース鎖の重合度を下げることができる。セルロース及びバイオマスの前処理方法には、希酸前処理、セルロース溶媒ベースのリグノセルロース分画、アンモニア繊維膨張、アンモニア水性浸漬、イオン液体処理が含まれ、塩酸、硫酸、リン酸及びそれらの組み合わせを含む濃酸を使用して部分的に加水分解される。
【0036】
糖がセロビオースを含み、酵素がセロビオースホスホリラーゼを含む場合、G1Pは、セロビオースホスホリラーゼによってセロビオースから生成される。糖がセロデキストリンを含み、酵素がセロデキストリンホスホリラーゼを含む場合、G1Pはセロデキストリンホスホリラーゼによってセロデキストリンから生成される。糖がセルロースを含み、酵素がセルロースホスホリラーゼを含む場合、G1Pはセルロースホスホリラーゼによってセルロースから生成される。
【0037】
糖がマルトースを含み、酵素がマルトースホスホリラーゼを含む場合、G1Pは、マルトースホスホリラーゼによってマルトースから生成される。糖がスクロースを含み、酵素がスクロースホスホリラーゼを含む場合、G1Pはスクロースホスホリラーゼによってスクロースから生成される。
【0038】
糖がデンプン又はデンプン誘導体である場合、誘導体は、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、マルトトリオース、及びグルコース、並びにそれらの混合物からなる群から選択され得る。本発明の特定のプロセスにおいて、糖をG1Pに変換するために使用される酵素は、αGPを含む。このステップでは、糖がデンプンを含む場合、G1PはαGPによってデンプンから生成される。糖が可溶性デンプン、アミロデキストリン、又はマルトデキストリンを含む場合、G1Pは可溶性デンプン、アミロデキストリン、又はマルトデキストリンからαGPによって生成される。αGPの例は、Thermotoga maritimaからのαGP(Uniprot ID G4FEH8)であり、国際特許出願公開WO2017/059278に開示されている。
【0039】
本発明によるいくつかのプロセスは、デンプンをデンプン誘導体に変換するステップをさらに含むことができ、ここで、デンプン誘導体は、デンプンの酵素的加水分解又はデンプンの酸加水分解によって調製される。本発明の特定のプロセスにおいて、マルトースホスホリラーゼ(MP)を使用して、分解生成物マルトースをG1P及びグルコースにリン酸分解的に切断することにより、タガトース収量を増加させることができる。あるいは、4‐グルカントランスフェラーゼ(4GT)を使用して、分解生成物であるグルコース、マルトース、及びマルトトリオースを、より長いマルトオリゴ糖にリサイクルすることにより、タガトースの収量を増やすことができる。これはαGPによってリン酸分解的に切断されてG1Pを生成することができる。4GTの例は、Thermococcus litoralisからの4GT(Uniprot ID O32462)であり、国際特許出願公開WO2017/059278に開示されている。本発明のいくつかのプロセスにおいて、ポリリン酸及びポリリン酸グルコキナーゼ(PPGK)をプロセスに加えることができ、したがって、分解生成物グルコースをG6Pにリン酸化することによってタガトースの収量を増加させることができる。
【0040】
デンプンは、自然界で最も広く使用されているエネルギー貯蔵化合物であり、ほとんどが植物の種子に貯蔵されている。天然デンプンには、線状アミロースと分岐アミロペクチンが含まれている。デンプン誘導体の例には、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、フルクトース、及びグルコースが含まれる。セルロース誘導体の例には、前処理されたバイオマス、再生アモルファスセルロース、セロデキストリン、セロビオース、フルクトース、及びグルコースが含まれる。スクロース誘導体には、フルクトースとグルコースが含まれる。
【0041】
プロセスがデンプン誘導体を使用する場合、デンプン誘導体は、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α‐アミラーゼ、又はそれらの組み合わせによって触媒されるデンプンの酵素的加水分解によって調製することができる。コーンスターチには、αGPの作用を妨げる多くの枝が含まれている。イソアミラーゼを使用してデンプンを枝切りし、線状アミロデキストリンを生成することができる。イソアミラーゼで前処理されたデンプンは、最終生成物のF6P濃度をより高くする可能性がある。イソアミラーゼとプルラナーゼはα‐1,6‐グリコシド結合を切断し、α‐グルカンホスホリラーゼによるデンプンのより完全な分解を可能にする。α‐アミラーゼはα‐1,4‐グリコシド結合を切断するため、α‐アミラーゼを使用してデンプンをフラグメントに分解し、タガトースにすばやく変換する。
【0042】
タガトースはまた、フルクトースから製造することができる。図3を参照されたい。本発明によるプロセスはまた、フルクトースをF6Pに変換するステップを含むことができ、このステップは、少なくとも1つの酵素によって触媒され、任意選択で、スクロースをフルクトースに変換するステップを含み、このステップは、少なくとも1つの酵素によって触媒される。たとえば、このプロセスには、ポリリン酸フルクトキナーゼ(PPFK)によって触媒されるフルクトースとポリリン酸からF6Pを生成することが含まれる。F6Pのタガトースへの変換は上記のとおりである。フルクトースは、例えば、スクロースの酵素的変換によって製造することができる。T6Pがタガトースに変換されるときに生成されるリン酸イオンは、次いでスクロースをG1Pに変換するステップでリサイクルできる。
【0043】
タガトースはまた、グルコースから製造することができる。図4を参照されたい。本発明によるプロセスはまた、少なくとも1つの酵素によって触媒されるグルコースをG6Pに変換するステップ、及び任意選択で、スクロースをフルクトースに変換するステップを含むことができ、このステップは、少なくとも1つの酵素によって触媒される。たとえば、このプロセスには、ポリリン酸グルコキナーゼ(PPGK)によって触媒されるグルコースとポリリン酸からG6Pを生成することが含まれる。グルコースは、例えば、スクロースの酵素的変換によって製造することができる。図5を参照されたい。
【0044】
本発明のいくつかの方法において、T6Pがタガトースに変換されるときに生成されるリン酸イオンは、デンプン誘導体をG1Pに変換するステップ(例えば、図1を参照)、セルロース誘導体をG1Pに変換するステップ(例えば、図2を参照)、又は特にプロセスが単一の反応容器内で行われる場合、スクロースをG1Pに変換するステップ(図5を参照)においてリサイクルされる。さらに、PPFKとポリリン酸塩を使用して、SPによるスクロースのリン酸分解切断によって生成されたフルクトースからF6Pを製造することにより、タガトースの収量を増やすことができる。
【0045】
例えば、糖からタガトースを調製するためのプロセスは、以下のステップを含む:(i)1つ又は複数の酵素を使用して、糖をグルコース1‐リン酸(G1P)に変換するステップ;(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM、EC 5.4.2.2)を使用してG1PをG6Pに変換するステップ;(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI、EC 5.3.1.9)を使用してG6PをF6Pに変換するステップ;(iv)フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を介してF6PをT6Pに変換するステップ;及び(v)タガトース6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を介してT6Pをタガトースに変換するステップ。本発明の改良されたプロセスにおいて、F6PEは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又はT6PPは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。そのようなプロセスにおいて、例えば、ステップ(i)の酵素はαGPである。通常、プロセスで使用される酵素ユニットの比率は1:1:1:1:1(αGP:PGM:PGI:F6PE:T6PP)である。酵素単位は、1μmolの基質を1分間に生成物に変換するために必要な酵素の量である。したがって、より高い活性を有する酵素は、同じ反応を触媒するより低い活性を有する酵素と比較して、1つの酵素単位あたりの酵素のmgに関して、より少ない量の酵素を有するであろう。生成物の歩留まりを最適化するために、これらの比率は任意の数の組み合わせで調整できる。例えば、特定の酵素は、他の酵素の量と比較して、約2倍、3倍、4倍、5倍などの量で存在し得る。
【0046】
本発明によるタガトースを調製するためのプロセスは、以下の追加のステップを含むことができる:酵素加水分解又は酸加水分解による多糖及びオリゴ糖からグルコースを生成するステップ、少なくとも1つの酵素によって触媒されるグルコースをG6Pに変換するステップ、酵素加水分解又は酸加水分解により多糖及びオリゴ糖からフルクトースを生成するステップ、及び少なくとも1つの酵素によって触媒されるフルクトースをG6Pに変換するステップ。多糖類及びオリゴ糖の例は上に列挙されている。
【0047】
本発明によるタガトースを調製するためのプロセスは、単一のバイオリアクター又は反応容器内で実施することができる。あるいは、ステップは、直列に配置された複数のバイオリアクター又は反応容器内で実施することもできる。好ましいプロセスでは、タガトースの酵素的生成は単一の反応容器内で行われる。
【0048】
本発明で使用される酵素は、可溶性、固定化、集合、又は凝集したタンパク質の形態をとることができる。これらの酵素は、当技術分野で知られているように、機能性を改良するために一般的に使用される不溶性の有機又は無機支持体に吸着することができる。これらには、アガロース、メタクリレート、ポリスチレン、又はデキストランなどの高分子支持体、並びにガラス、金属、又は炭素ベースの材料などの無機支持体が含まれる。これらの材料は、固定化酵素の付着と活性を促進する大きな表面対体積比と特殊な表面で製造されることがよくある。酵素は、共有結合、イオン結合、又は疎水性相互作用を介してこれらの固体支持体に付着している可能性がある。酵素はまた、固体支持体に親和性を有する別のタンパク質又はペプチド配列、ほとんどの場合、ポリヒスチジン配列への共有結合融合などの遺伝子操作された相互作用を介して固定することができる。酵素は、表面又は表面コーティングに直接付着する場合もあれば、表面又は表面コーティングにすでに存在する他のタンパク質に付着する場合もある。酵素は、すべて1つの担体、個々の担体、又は2つの組み合わせに固定化できる(たとえば、担体ごとに2つの酵素を混合してからそれらの担体を混合する)。これらのバリエーションは、連続反応器でのターンオーバーを最適化するために、均等に又は定義された層で混合することができる。例えば、反応器の始まりは、高い初期G1P増加を確実にするためにaGPの層を有し得る。酵素は、すべて1つの担体に、個々の担体に、又はグループで固定化することができる。これらの酵素は、ターンオーバーを最適化するために、均一に、又は定義された層又はゾーンで混合することができる。
【0049】
当技術分野で知られている任意の適切な生物学的緩衝液、例えば、HEPES、PBS、BIS‐TRIS、MOPS、DIPSO、Trizmaなどを本発明のプロセスで使用することができる。すべての実施形態の反応緩衝液は、5.0から9.0までの範囲のpHを有することができる。より好ましくは、反応緩衝液のpHは、約6.0から約7.3の範囲であり得る。例えば、反応緩衝液のpHは、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、又は7.3であり得る。
【0050】
本発明のいくつかの改良されたプロセスにおいて、反応緩衝液は、二価の金属カチオンを含む。例には、Mn2+、Co2+、Mg2+及びZn2+など、好ましくはMg2+が含まれる。二価金属カチオンの濃度は、約0mMから約150mM、約0mMから約100mM、約1mMから約50mM、好ましくは約5mMから約50mM、又はより好ましくは約10mMから約50mMの範囲であり得る。例えば、二価金属カチオン濃度は、約0.1mM、約0.5mM、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、又は約55mMであり得る。
【0051】
プロセスステップが実施される反応温度は、37~85℃の範囲であり得る。より好ましくは、ステップは、約37℃から約85℃の範囲の温度で実施することができる。温度は、例えば、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、又は約60℃であり得る。好ましくは、反応温度は約50℃である。本発明のいくつかのプロセスにおいて、反応温度は一定であり、プロセス中に変化しない。
【0052】
開示されたプロセスの反応時間は、必要に応じて調整することができ、約1時間から約48時間の範囲であり得る。例えば、反応時間は、約16時間、約18時間、約20時間、約22時間、約24時間、約26時間、約28時間、約30時間、約32時間、約34時間、約36時間、約38時間、約40時間、約42時間、約44時間、約46時間、又は約48時間であり得る。より好ましくは、反応時間は約24時間である。
【0053】
反応は、充填床反応器又は同様の装置を使用して、バッチ又は連続プロセスで実行することができる。連続プロセスでは、溶液マルトデキストリンは、溶液が下流の処理のためにカラムを離れるときにタガトースへの変換が完了するような速度で、固定化酵素の床を通してポンプで送られる。たとえば、200g/Lのマルトデキストリンを固定化酵素(たとえば50℃に維持)が充填されたカラムにポンプで送り、マルトデキストリンがカラムを離れるときに最大のタガトース収量が達成されるようにすることができる。この方法論は、バッチ法よりも優れた体積生産性を提供する。これにより、生成物がカラム及び反応条件と接触する時間が制限され、生成物の分解(ヒドロキシメチルフルフラール形成の可能性など)の可能性が減少する。バッチモードであろうと連続モードであろうと、本発明のプロセスの様々なステップは、他のステップと同じ反応条件を使用して実施することができる。例えば、単一のバイオリアクター又は反応容器を使用する本発明の特定のプロセスにおいて、pH及び温度などの反応条件、並びに反応緩衝液は、プロセスのすべてのステップにわたって一定に保たれる。
【0054】
次に、T6PのT6PP脱リン酸化によって生成されたリン酸イオンは、特にすべてのプロセスステップが単一のバイオリアクター又は反応容器内で行われる場合、糖をG1Pに変換するプロセスステップでリサイクルすることができる。開示されたプロセスでリン酸塩をリサイクルする能力は、非化学量論量のリン酸塩を使用することを可能にし、それは反応リン酸塩濃度を低く保つ。これは、全体的な経路とプロセスの全体的な速度に影響を与えるが、個々の酵素の活性を制限することはなく、タガトース製造プロセスの全体的な効率を可能にする。
【0055】
例えば、反応リン酸塩濃度は、約0mMから約300mM、約0mMから約150mM、約1mMから約50mM、好ましくは約5mMから約50mM、より好ましくは、約10mMから約50mMの範囲である。例えば、反応リン酸濃度は、約0.1mM、約0.5mM、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、又は約55mMであり得る。
【0056】
したがって、リン酸塩濃度が低いと、総リン酸塩が少ないために製造コストが減少し、したがってリン酸塩除去のコストが減少する。また、それは、高濃度の遊離リン酸イオン(遊離ホスフェート)によるT6PPの阻害を防ぎ、リン酸塩汚染の可能性を減らす。
【0057】
さらに、本明細書に開示されるプロセスは、リン酸塩の供給源としてATPを添加することなく、すなわち、ATPを含まずに実施することができる。このプロセスは、NAD(H)を追加する必要性なしにに、つまりNAD(H)を含まずに実行することもできる。他の利点はまた、タガトースを製造するための開示されたプロセスの少なくとも1つのステップがエネルギー的に好ましい化学反応を伴うという事実を含む。図6。より高い活性を持つ酵素の使用は全体的なエネルギーに影響を与えないが、改良されたプロセスでより少ない量の酵素を使用する能力は有利である。利点は、生成物の総製造コストにおける酵素の総コストの削減である。
【0058】
本発明によるプロセスは、反応全体に対して非常に好ましい平衡定数のために、高収率を達成することができる。理論的には、出発物質が完全に中間体に変換された場合、最大99%の収率を達成することができる。また、本発明によるT6Pをタガトースに変換するステップは、供給原料に関係なく、不可逆的なホスファターゼ反応である。したがって、タガトースは非常に高い収率で製造される。
【0059】
本発明のプロセスは、低コストの出発材料を使用し、原料及び生成物の分離に関連するコストを削減することによって製造コストを削減する。デンプン、セルロース、スクロース及びそれらの誘導体は、例えば、ラクトースよりも安価な原料である。タガトースが乳糖から製造される場合、グルコースとガラクトース及びタガトースはクロマトグラフィーによって分離されるため、製造コストが高くなる。
【0060】
本発明によるプロセスは、タガトースの容易な回収を可能にし、分離コストが最小限に抑えられる。好ましくは、本発明のプロセスにおいて、タガトースの回収は、クロマトグラフィー分離によるものではない。連続反応でタガトースを生成した後、生成物は代わりに精密ろ過、イオン交換(陽イオン、次に陰イオン、混合床ではない)、濃縮、結晶化、結晶分離、及び乾燥を通過する。タガトースの収率が高いため、タガトースを精製するために必要なのは結晶化ステップだけである。結晶化の前にタガトースをさらに精製するためには、ナノ濾過を使用して、結晶化プロセスに酵素が存在するリスクを排除し、タガトースと共結晶化する可能性のある未変換のデキストリンを除去するか、母液(マルトデキストリン、マルトテトラオース、マルトトリオース、マルトースなど)のリサイクル性を制限することができる。
【0061】
本発明によるタガトースを調製するための改良されたプロセスは、以下のステップを含む:(i)一つ又は複数の酵素を使用して糖をグルコース‐1‐リン酸(G1P)に変換するステップ;(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM、EC 5.4.2.2)を使用してG1PをG6Pに変換するステップ;(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI、EC 5.3.1.9)を使用してG6PをF6Pに変換するステップ;(iv)フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を介してF6PをT6Pに変換するステップ;及び(v)タガトース6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を介してT6Pをタガトースに変換するステップ、ここで、F6PEは配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、及び/又はT6PPは配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。このプロセスは、好ましくは、単一のバイオリアクター又は反応容器内で実施される。
【0062】
好ましくは、本発明によるタガトースを調製するための改良されたプロセスは、以下のステップを含む:(i)αGPを使用して糖をグルコース1‐リン酸(G1P)に変換するステップ、ここで、糖は、デンプン、1つ又は複数のデンプンの誘導体、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される;(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM、EC 5.4.2.2)を使用してG1PをG6Pに変換するステップ;(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI、EC5.3.1.9)を使用してG6PをF6Pに変換するステップ;(iv)フルクトース6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を介してF6PをT6Pに変換するステップ;及び(v)タガトース6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を介してT6Pをタガトースに変換するステップ、ここで、F6PEは配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、及び/又はT6PPは配列番号3、配列番号4、配列番号5、又は配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。このプロセスは、好ましくは、単一の反応器容器内で実施され、上記の様々なプロセス条件のうちの1つ又は複数を組み込むことができる。
【実施例0063】
【0064】
材料及び方法
【0065】
グルコース1‐リン酸、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム(一塩基性及び二塩基性)を含むすべての化学物質は、特に明記されていない限り、試薬グレード以上であり、シグマアルドリッチ(Sigma‐Aldrich)(セントルイス、ミズーリ州、米国)又はフィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific)(ピッツバーグ、ペンシルバニア州、USA)から購入する。大腸菌BL21(DE3)(Sigma‐Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)を組換えタンパク質発現の宿主細胞として使用した。50mgのL‐1カナマイシンを含むZYM‐5052培地を大腸菌細胞の増殖と組換えタンパク質の発現に使用した。
【0066】
組換え酵素の産生及び精製
【0067】
タンパク質発現プラスミド(pET28a)を保有する大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株を、1L エーレンマイヤーフラスコ中で、50mgのL‐1カナマイシンを含む100mLのZYM‐5052培地と共にインキュベートした。細胞を37℃で220rpmで16~24時間回転振とうしながら増殖させた。細胞を12℃での遠心分離により回収し、50mM NaCl及び5mM MgCl(熱沈殿)を含む20mM HEPES(pH7.5)又は300mM NaCl及び5mMイミダゾール(Ni精製)を含む20mM HEPES(pH7.5)のいずれかで1回洗浄した。細胞ペレットを同じ緩衝液に再懸濁し、超音波処理によって溶解した。遠心分離後、上清中の標的タンパク質を精製した。Hisタグ付きタンパク質は、Profinity IMAC Ni‐Charged Resin(Bio‐Rad、Hercules、CA、USA)によって精製された。熱安定性酵素を精製するために、50~80℃で5~30分間の熱沈殿を使用した。組換えタンパク質の純度は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‐PAGE)によって調べた。
【0068】
例1:より高い活性を有するF6PE
【0069】
異なるF6PEの相対的活性を、5mM MgCl、0.5mM MnCl、38.5mM G1P、0.05g/L PGM、0.05g/L PGI、0.05g/L F6PE、及びMethanosarcina thermophila CHTI‐55からの0.075g/L T6PP(Uniprot ID A0A0E3NCH4)を含む50mM HEPES緩衝液(pH7.2)中で、50°Cで1時間測定した。Vivaspin2濃縮器(10,000MWCO)で酵素を濾過することにより反応を停止させた。生成物のタガトースは、Agilent Hi‐PlexHカラムと屈折率検出器を使用して評価した。サンプルは、65℃で15分間、0.6mL/minで5mM HSO中で分析した。表1は、本発明の改良されたプロセスで使用されるF6PEが、以前に開示されたDictyoglomus thermophilum(ディクチオグロムス・サーモフィラム)からのF6PE(Uniprot ID B5YBD7)と比較してより高い活性を有することを示している。国際特許出願公開WO2017/059278を参照のこと。
【表1】
【0070】
例2:より高い活性を有するT6PP
【0071】
T6PPの相対的活性は、5mM MgCl、0.5mM MnCl、38.5mM G1P、0.05g/L PGM、0.05g/L PGI、Thermanaerothrix daxensisからの0.25g/L F6PE(Uniprot ID A0A0P6XN50)、及び0.05g/L T6PPを含む50mM HEPES緩衝液(pH7.2)中で、50°Cで1時間測定された。Vivaspin2濃縮器(10,000MWCO)で酵素を濾過することにより反応を停止させた。生成物のタガトースは、Agilent Hi‐PlexHカラムと屈折率検出器を使用して評価した。サンプルは、65℃で15分間、0.6mL/minの5mM HSOで分析した。表2は、本発明の改良されたプロセスで使用されるT6PPが、以前に開示されたArchaeoglobus fulgidus(アルカエオグロブス・フルギダス)からのT6PP(Uniprot ID O29805)と比較してより高い活性を有することを示している。国際特許出願公開WO2017/059278を参照のこと。
【表2】
【0072】
例3:F6Pからの改良されたタガトース製造
【0073】
以前に開示された酵素、F6PE(Uniprot ID B5YBD7)及びT6PP(Uniprot ID O29805)を使用するF6Pのタガトースへの変換を、本発明の改良されたプロセスに有用な酵素、F6PE(Uniprot ID A0A0P6XN50)及びT6PP(Uniprot ID D6YBK5)によるF6Pのタガトースへの変換と比較した。38.5mM F6P、50mM HEPES pH7.2、5mM MgCl、0.5mM MnCl、0.1g/L F6PE、及び0.033g/L T6PPを含む0.20mLの反応混合物を50℃で2時間インキュベートした。
【0074】
Vivaspin2濃縮器(10,000MWCO)での酵素の濾過により反応を停止し、Agilent Hi‐Plex Hカラム及び屈折率検出器を使用するHPLC(Agilent 1100シリーズ)により分析した。サンプルは、5mM HSO中で、0.6mL/minで、15.5分間、65℃で分析した。結果は、以前に開示された酵素よりも改良されたプロセスの酵素によるタガトース製造の4.4倍の改良を示している(図7)。改良されたプロセスの酵素との反応には、わずかな量のフルクトース(図7、肩、5、ピーク4を参照)が存在する。これは、T6PPが最初にここでの反応のT6Pと比較して大量のF6Pを確認したことによるアーティファクトである可能性があり、全体の経路では問題ではない。
【0075】
配列表
α‐グルカンホスホリラーゼ
テルモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)(Uniprot ID G4FEH8)‐配列番号8
【化1】
【0076】
ホスホグルコムターゼ
テルモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)(Uniprot ID Q68BJ6)‐配列番号9
【化2】
【0077】
フルクトース6‐リン酸4‐エピメラーゼ
(比較)ディクチオグロムス・テルモフィルム(Dictyoglomus thermophilum)(Uniprot ID B5YBD7)‐配列番号10
【化3】
【0078】
テルマナエロトリクス・ダキセンシス(Thermanaerothrix daxensis)(Uniprot ID A0A0P6XN50)‐配列番号1
【化4】
【0079】
テルモアナエロバクテリウム・テルモサッカロリチウム(Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum)(Uniprot ID A0A223HVJ3)‐配列番号2
【化5】
【0080】
カンジダツス・テルモフォンシア クラド3バクテリウム(Candidatus Thermofonsia Clade 3 bacterium)(Uniprot ID A0A2M8QBR9)‐配列番号7
【化6】
【0081】
タガトース6‐リン酸ホスファターゼ
(比較)アルケオグロブス・フギジス(Archaeoglobus fugidis)(Uniprot ID O29805)‐配列番号11
【化7】
【0082】
メタノザルシナ・テルモフィラ(Methanosarcina thermophila)CHTI-55 (Uniprot ID A0A0E3NCH4)‐配列番号3
【化8】
【0083】
テルモビスポラ・ビスポラ(Thermobispora bispora)株 ATCC 19993 (Uniprot ID D6YBK5)‐配列番号4
【化9】
【0084】
スピロヘータ・テルモフィラ(Spirochaeta thermophila)ATCC 49972 (Uniprot ID E0RT70)‐配列番号5
【化10】
【0085】
スフェロバクター・テルモフィルス(Sphaerobacter thermophilus)DSM 20745 (Uniprot ID D1C7G9)‐配列番号6
【化11】
【0086】
4‐グルカントランスフェラーゼ
テルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(Uniprot ID O32462)‐配列番号12
【化12】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024075570000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖からタガトースを製造するための改良されたプロセスであって、この改良されたプロセスは
フルクトース‐6‐リン酸エピメラーゼ(F6PE)を使用してフルクトース‐6‐リン酸(F6P)をタガトース6‐リン酸(T6P)に変換すること、及び
タガトース‐6‐リン酸ホスファターゼ(T6PP)を使用してT6Pをタガトースに変換すること
を含み、ここでT6PPは、配列番号、配列番号、配列番号4、又は配列番号に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む
記プロセス。
【請求項2】
6PEが配列番号1、配列番号2、又は配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
グルコース6‐リン酸(G6P)をF6Pに変換するステップをさらに含み、このステップがホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
グルコース1‐リン酸(G1P)をG6Pに変換するステップをさらに含み、このステップがホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される、請求項に記載のプロセス。
【請求項5】
糖をG1Pに変換するステップをさらに含み、このステップが少なくとも1つの酵素によって触媒され、糖がデンプン又はその誘導体、セルロース又はその誘導体及びスクロースからなる群から選択される、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
少なくとも1つの酵素が、α‐グルカンホスホリラーゼ(αGP)、マルトースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼ、及びセルロースホスホリラーゼからなる群から選択される、請求項に記載のプロセス。
【請求項7】
糖が、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、マルトトリオース、及びグルコースからなる群から選択されるデンプン又はその誘導体である、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
デンプンをデンプン誘導体に変換するステップをさらに含み、デンプン誘導体がデンプンの酵素的加水分解又はデンプンの酸加水分解によって調製される、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
4‐グルカントランスフェラーゼ(4GT)がプロセスに追加される、請求項に記載のプロセス。
【請求項10】
デンプン誘導体が、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、αアミラーゼ、又はそれらの組み合わせを使用してデンプンの酵素的加水分解によって調製される、請求項に記載のプロセス。
【請求項11】
少なくとも1つの酵素によって触媒されるフルクトースをF6Pに変換するステップ、及び
任意選択で、少なくとも1つの酵素によって触媒されるスクロースをフルクトースに変換するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項12】
少なくとも1つの酵素によって触媒されるグルコースをG6Pに変換するステップ、及び
任意選択で、少なくとも1つの酵素によって触媒されるスクロースをグルコースに変換するステップをさらに含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項13】
プロセスステップが、以下のプロセス条件のうちの少なくとも1つの下で実施される、請求項1又は2に記載のプロセス:
単一の反応容器内で
約37℃から約85℃の範囲の温度で、
約5.0から約9.0の範囲のpHで、
約1時間から約48時間で、又は
上記の任意の組み合わせ。
【請求項14】
プロセスステップが、以下のプロセス条件のうちの少なくとも1つの下で実施される、請求項1又は2に記載のプロセス:
リン酸源としてのアデノシン三リン酸(ATP)なしで、
ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドなしで、
約0.1mMから約150mMのリン酸塩濃度で、
約0.1mMから50mMのMg2+濃度で、
6PのT6PP脱リン酸化によって生成されたリン酸イオンが、糖をG1Pに変換するプロセスステップで使用される、
ロセスの少なくとも1つのステップは、エネルギー的に好ましい化学反応を伴う、又は
上記の任意の組み合わせ。
【請求項15】
生成されたタガトースを分離回収するステップをさらに含み、分離回収がクロマトグラフィー分離を介さない、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項16】
F6PEがディクチオグロムス・テルモフィルム(Dictyoglomus thermophilum)(Uniprot ID B5YBD7)からのF6PEの活性と比較して、改良されたプロセスにおいて、より高い活性を有する、請求項に記載のプロセス。
【請求項17】
T6PPがアルケオグロブス・フルギヅス(Archaeoglobus fulgidus)(Uniprot ID O29805)からのT6PPの活性と比較して、改良されたプロセスにおいて、より高い活性を有する、請求項に記載のプロセス。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2024075570000001.xml
【外国語明細書】