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特開2024-75660多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法
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  • 特開-多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075660
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240528BHJP
   G03F 1/48 20120101ALI20240528BHJP
   G03F 1/52 20120101ALI20240528BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/48
G03F1/52
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041943
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2021548918の分割
【原出願日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2019175851
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
(57)【要約】      (修正有)
【課題】露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供する。
【解決手段】多層反射膜付き基板110は、基板1と、多層反射膜5とを備える。多層反射膜5は、基板1の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなる。多層反射膜5は、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含む。添加元素の多層反射膜5における原子数密度は、0.006atom/nm以上0.50atom/nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜とを備える多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含み、
前記添加元素の前記多層反射膜における原子数密度は、0.006atom/nm以上0.50atom/nm以下であることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項2】
前記添加元素の前記多層反射膜における原子数密度は、0.10atom/nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項3】
前記添加元素は、重水素(D)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項4】
前記多層反射膜の上に保護膜を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜の上、又は請求項4に記載の多層反射膜付き基板の前記保護膜の上に、吸収体膜を備えることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項6】
請求項5に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングした吸収体パターンを備えることを特徴とする反射型マスク。
【請求項7】
請求項6に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される反射型マスク、並びに反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。
【0003】
露光装置にセットされた反射型マスクに入射した光は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射される。反射された像は反射光学系を通して半導体基板上に転写されることでマスクパターンを形成する。上記多層反射膜としては、例えば13~14nmの波長を有するEUV光を反射するものとして、数nmの厚さのMoとSiを交互に積層させたものなどが知られている。
【0004】
このような多層反射膜を有する多層反射膜付き基板を製造する技術として、特許文献1には、真空中に基板を配置するための真空チャンバと、真空から基板を除去することなく、多層スタックを堆積させるための堆積システムと、アモルファス金属層として堆積される多層スタックの上で層を処理するための処理システムを含む統合化極端紫外線ブランク生産システムが記載されている。アモルファス金属層としては、アモルファスモリブデン、さらに、ホウ素、窒素、又は炭素と合金化することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、軟X線・真空紫外線の高吸収層と低吸収層の交互層よりなる多層薄膜構造を有する軟X線・真空紫外線用多層膜反射鏡において、該高吸収層は遷移金属のホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物又は酸化物のうちの一種以上を主成分として有してなり、該低吸収層は炭素、ケイ素、ホウ素もしくはベリリウムの単体又はそれらの各々の化合物のうちの一種以上を主成分として有してなることを特徴とする軟X線・真空紫外線用多層膜反射鏡が記載されている。
【0006】
特許文献3には、多層反射膜の各層の界面を水素化して層間拡散を防止すると共に滑らかな界面を形成することにより、多層反射膜の界面及び表面を平滑化する技術が記載されている。
【0007】
特許文献4には、基板上にEUV光を反射する反射層を形成するEUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板の製造方法であって、前記反射層が、Mo/Si多層反射膜であり、前記Mo/Si多層反射膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスと、水素(H2)を含む雰囲気中で、スパッタリング法により形成され、形成後の前記Mo/Si多層反射膜を120~160℃の温度で加熱処理する工程を含むEUVL用反射層付基板の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2016-519329号公報
【特許文献2】特公平7-97159号
【特許文献3】特開平5-297194号
【特許文献4】特開2013-122952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年のパターンの微細化に伴う欠陥品質の向上や、反射型マスクに求められる光学特性(多層反射膜の表面反射率等)の観点から、多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜の表面はより高い平滑性を有することが要求されている。欠陥検査の対象である多層反射膜付き基板の表面、すなわち多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜の表面を平滑化し、多層反射膜の各層の界面の粗さ及び/又は多層反射膜の表面の粗さに起因するノイズ(バックグラウンドノイズ)を低減することによって、多層反射膜付き基板に存在する微小欠陥(欠陥シグナル)をより確実に検出することが可能になる。
【0010】
また、反射型マスクを用いた露光の際には、パターン状に形成された吸収体膜により露光光が吸収され、多層反射膜が露出した部分で露光光が多層反射膜により反射される。露光の際に高いコントラストを得るために、多層反射膜の露光光に対する反射率は、高いことが望ましい。
【0011】
多層反射膜の露光光に対する反射率を高くするために、多層反射膜を構成する各層の結晶性を向上すること(結晶粒サイズを大きくすること)が考えられる。しかしながら、結晶粒サイズを大きくすると、欠陥検査の際のノイズ(バックグラウンドレベル:BGL)が高くなってしまい、欠陥検査に必要な時間が増加するという問題が生じる。これは、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが高くなりすぎた場合には、ノイズが欠陥として検出されてしまい、転写に寄与する実欠陥と転写に寄与しない擬似欠陥の判定に長時間を要することに起因する。また、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが高くなることにより、転写に寄与する実欠陥がノイズと誤判定されて検出されないという問題も生じる。バックグラウンドレベルが高くなるという問題が生じる理由として、結晶粒子が粗大化してしまい、多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜の表面の平滑性が悪化してしまうことが考えられる。多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜表面の平滑性の悪化により、欠陥検査中に照射した検査光の散乱が増加し、これが欠陥検査の際のバックグラウンドレベルの増加の原因となることが考えられる。
【0012】
そこで本発明は、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、転写に寄与する実欠陥をより確実に検出できる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)
基板と、該基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜とを備える多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜は、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含み、
前記添加元素の前記多層反射膜における原子数密度は、0.006atom/nm以上0.50atom/nm以下であることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【0016】
(構成2)
前記添加元素の前記多層反射膜における原子数密度は、0.10atom/nm以下であることを特徴とする、構成1に記載の多層反射膜付き基板。
【0017】
(構成3)
前記添加元素は、重水素(D)であることを特徴とする、構成1または2に記載の多層反射膜付き基板。
【0018】
(構成4)
前記多層反射膜の上に保護膜を備えることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の多層反射膜付き基板。
【0019】
(構成5)
構成1乃至3のいずれかに記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜の上、又は構成4に記載の多層反射膜付き基板の前記保護膜の上に、吸収体膜を備えることを特徴とする反射型マスクブランク。
【0020】
(構成6)
構成5に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングした吸収体パターンを備えることを特徴とする反射型マスク。
【0021】
(構成7)
構成6に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することができる。また、本発明により、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供することができる。さらに本発明により、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明により、転写に寄与する実欠陥をより確実に検出できる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】多層反射膜付き基板の一例の断面模式図である。
図2】多層反射膜付き基板の別の一例の断面模式図である。
図3】反射型マスクブランクの一例の断面模式図である。
図4】反射型マスクの製造方法を断面模式図にて示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
図1に、本発明の実施形態の多層反射膜付き基板110の一例の断面模式図を示す。図1に示すように、本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の上に多層反射膜5を備えたものである。多層反射膜5は、露光光を反射するための膜であり、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなる。本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の裏面(多層反射膜5が形成された主表面とは反対側の主表面)に、裏面導電膜2を含むことができる。
【0027】
図2に、本実施形態の多層反射膜付き基板110の別の一例の断面模式図を示す。図2に示す例では、多層反射膜付き基板110が保護膜6を含む。
【0028】
本実施形態の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。図3に、反射型マスクブランク100の一例の断面模式図を示す。反射型マスクブランク100は、吸収体膜7をさらに含む。
【0029】
具体的には、本実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜付き基板110の最表面(例えば、多層反射膜5又は保護膜6の表面)の上に、吸収体膜7を有する。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、EUV光に対する反射率が高い多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0030】
本明細書において、「多層反射膜付き基板110」とは、所定の基板1の上に多層反射膜5が形成されたものをいう。図1及び図2に、多層反射膜付き基板110の断面模式図の一例を示す。なお、「多層反射膜付き基板110」は、多層反射膜5以外の薄膜、例えば保護膜6及び/又は裏面導電膜2が形成されたものを含む。本明細書において、「反射型マスクブランク100」とは、多層反射膜付き基板110の上に吸収体膜7が形成されたものをいう。なお、「反射型マスクブランク100」は、吸収体膜7以外の薄膜(例えば、エッチングマスク膜及びレジスト膜8等)がさらに形成されたものを含む。
【0031】
本明細書において、「多層反射膜5の上に吸収体膜7を配置(形成)する」とは、吸収体膜7が、多層反射膜5の表面に接して配置(形成)される場合だけでなく、多層反射膜5と、吸収体膜7との間に、他の膜が存在する場合も含む。その他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0032】
<多層反射膜付き基板110>
以下、本実施形態の多層反射膜付き基板110を構成する基板1及び各薄膜について説明をする。
【0033】
<<基板1>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110における基板1は、EUV露光時の熱による吸収体パターンの歪みが小さいものであることが好ましい。そのため、基板1としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO-TiO系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0034】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜7がこれを構成する)が形成される側の第1主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から、所定の平坦度となるように表面加工される。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜7が形成される側と反対側の第2主表面(裏面)は、露光装置にセットするときに静電チャックされる表面である。第2主表面は、142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。
【0035】
また、基板1の表面平滑性の高さも重要である。吸収体パターン7aが形成される第1主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.15nm以下、より好ましくはRmsで0.10nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑性は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0036】
さらに、基板1は、基板1の上に形成される膜(多層反射膜5など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0037】
<<下地膜>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の表面に接する下地膜3を有してもよい。下地膜3は、基板1と多層反射膜5との間に形成される薄膜である。下地膜3は、目的に応じた機能を有する膜であってもよい。例えば、下地膜3は、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止する導電性層であってもよい。下地膜3は、基板1の表面の平坦性を改善する平坦化層であってもよい。下地膜3は、基板1の表面の平滑性を改善する平滑化層であってもよい。
【0038】
上記導電性の機能を有する下地膜の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。例えば、Ru金属単体、Ta金属単体でも良いし、Ru又はTaに、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金又はTa合金であっても良い。下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0039】
また、上記平坦性の改善や平滑性を改善する下地膜の材料として、ケイ素又はケイ素を主成分として含む材料が好ましく用いられる。下地膜の材料は、例えば、ケイ素(Si)単体でも良いし、Siに酸素(O)、窒素(N)を含有したSiO、SiO(x<2)、SiON、Si、Si(x:3、y:4以外の自然数)のケイ素化合物であっても良い。上述と同様に、下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0040】
<<多層反射膜5>>
多層反射膜5は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜5は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0041】
一般的には、多層反射膜5として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期(ペア)程度積層された多層膜が用いられる。
【0042】
多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した「高屈折率層/低屈折率層」の積層構造を含む。1つの「高屈折率層/低屈折率層」を1周期として、この積層構造を複数周期積層してもよい。あるいは、多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した「低屈折率層/高屈折率層」の積層構造を含む。1つの「低屈折率層/高屈折率層」を1周期として、この積層構造を複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜5の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜5の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。上述の多層膜において、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜5の最表面となるため、多層反射膜5の最表面が容易に酸化されてしまい、反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層の上に、高屈折率層をさらに形成することが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、さらなる高屈折率層を形成する必要はない。
【0043】
高屈折率層としては、例えば、ケイ素(Si)を含む材料を用いることができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、窒素(N)及び酸素(O)から選択される少なくとも1つの元素を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。
【0044】
低屈折率層としては、例えば、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる少なくとも1種の金属単体、又はこれらの合金を用いることができる。
【0045】
本実施形態の多層反射膜付き基板110においては、低屈折率層がモリブデン(Mo)を含む層であり、高屈折率層がケイ素(Si)を含む層であることが好ましい。例えば波長13nmから14nmのEUV光を反射するための多層反射膜5としては、Moを含む層とSiを含む層とを交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。
【0046】
なお、多層反射膜5の最上層である高屈折率層がケイ素(Si)を含む層である場合、最上層(Siを含む層)と保護膜6との間に、ケイ素と酸素を含むケイ素酸化物層を形成することができる。この場合、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0047】
本実施形態の多層反射膜5は、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含む。多層反射膜5が、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含むことによって、多層反射膜5に含まれる各層の界面の粗さ及び/又は多層反射膜5の表面の粗さを低減して平滑性を向上させることが可能となる。これにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を得ることができる。その結果、多層反射膜付き基板110に存在する微小欠陥(欠陥シグナル)をより高度に検出することが可能となる。
【0048】
上述した通り、多層反射膜5は、低屈折率層及び高屈折率層が積層した多層膜を含む。水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素は、低屈折率層にのみ含まれてもよく、高屈折率層にのみ含まれてもよく、これらの両方に含まれてもよい。ただし、水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素は、低屈折率層よりも高屈折率層に相対的に多く含まれている方が、欠陥検査の際のバックグランドレベルを低減する効果がより高くなる。
【0049】
本発明者は、多層反射膜5に含まれる上記添加元素の原子数密度(atom/nm)と欠陥検査の際のバックグラウンドレベルとに相関関係があることを見出し、本実施形態の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5に含まれる添加元素の原子数密度を所定の範囲としている。本実施形態の多層反射膜5に含まれる上記添加元素の原子数密度は、0.006atom/nm以上0.50atom/nm以下である。添加元素の原子数密度は、例えば、ダイナミックSIMS(二次イオン質量分析法)によって測定することができる。
【0050】
多層反射膜5に含まれる添加元素の原子数密度が0.006atom/nm未満である場合、多層反射膜5に含まれる添加元素の密度が小さすぎるため、多層反射膜5に含まれる各層の界面の粗さ及び/又は多層反射膜5の表面の粗さを低減して平滑性を向上させる効果が十分に得られない。そのため、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが十分に低い多層反射膜5が得られなくなる。一方、添加元素の原子数密度が0.50atom/nmよりも大きい場合、多層反射膜5に含まれる添加元素の密度が大きすぎるため、多層反射膜5のEUV光に対する反射率が低下する。その結果、露光の際に、反射型マスクによって形成される転写パターンの像のコントラストが許容できない程度に低下する恐れがある。多層反射膜5に含まれる上記添加元素の原子数密度は、好ましくは0.007atom/nm以上であり、より好ましくは0.008atom/nm以上である。また、上記添加元素の原子数密度は、好ましくは0.10atom/nm以下であり、より好ましくは0.07atom/nm以下であり、さらに好ましくは0.04atom/nm以下である。
【0051】
本実施形態の多層反射膜付き基板110を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスクブランク100及び反射型マスク200を製造することができる。欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低いことにより、欠陥検査を比較的短時間で行うことができ、また、転写に寄与する実欠陥をより確実に検出することができる。
【0052】
なお、一般に、ある元素の原子比率(at%)の情報のみから、その元素の原子数密度(atom/nm)を算出することは困難であり、多層反射膜5に含まれる上記添加元素の原子数密度(atom/nm)と、多層反射膜5に含まれる上記添加元素の原子比率(at%)とは、直接的に関連付けられない。したがって、仮に、ある公知文献に上記添加元素の原子比率(at%)が記載されていたとしても、その記載が上記添加元素の原子数密度を所定の範囲に調整するための動機付けとなることはない。
【0053】
本実施形態の多層反射膜付き基板110は、欠陥検査装置により多層反射膜5表面の欠陥検査をした際のバックグラウンドレベル(BGL)が、400未満であることが好ましい。欠陥検査をした際のバックグラウンドレベル(BGL)とは、例えば、検査光としてEUV光を使用したブランクス欠陥検査装置(ABI: Actinic Blank Inspection)により多層反射膜5の表面の欠陥検査をする場合、信号のノイズとして観測されるバックグラウンドの値を意味する。EUV光を使用したブランクス欠陥検査装置の場合には、バックグラウンドレベル(BGL)は、測定信号に基づき自動的に算出される。
【0054】
本実施形態の多層反射膜5の単独でのEUV光に対する反射率は、通常67%以上であることが好ましい。多層反射膜5の反射率が67%以上であることにより、半導体装置の製造のための反射型マスク200として好ましく用いることができる。反射率の上限は通常73%であることが好ましい。なお、多層反射膜5を構成する低屈折率層及び高屈折率層の膜厚及び周期数(ペア数)は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜5を構成する低屈折率層及び高屈折率層の膜厚及び周期数(ペア数)は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜5において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくてもよい。また、多層反射膜5の最表面(例えば、Si層)の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面の高屈折率層(例えばSi層)の膜厚は、例えば、3nmから10nmである。
【0055】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5が、1対の低屈折率層及び高屈折率層を1周期(ペア)として、30~60周期(ペア)備えていることが好ましく、35~55周期(ペア)備えていることがより好ましく、35~45周期(ペア)備えていることがさらに好ましい。周期数(ペア数)が多いほど、高い反射率を得ることができるが、多層反射膜5の形成時間が長時間になる。多層反射膜5の周期を適切な範囲とすることにより、比較的短い時間で、比較的高い反射率の多層反射膜5を得ることができる。
【0056】
本実施形態の多層反射膜5は、イオンビームスパッタリング法、又はDCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。多層反射膜5中に不純物が混ざりにくい点や、イオン源が独立していて、条件設定が比較的容易等の点から、イオンビームスパッタリング法により多層反射膜5を成膜することが好ましい。希ガス(Arガス、Krガス、Xeガス等)と、添加元素を含有するガス(Hガス、Dガス、Heガス等)とをプロセスガスとして用いたイオンビームスパッタリングにより多層反射膜5を成膜すると、上記添加元素を含有する多層反射膜5を得ることができる。なお、添加元素を含有するガスは、高屈折率層の成膜のときのみに導入することが好ましい。これにより、低屈折率層よりも高屈折率層に上記添加元素を多く含む多層反射膜5を成膜することができる。
【0057】
また、本実施形態の多層反射膜5は、プロセスガスとして希ガスと、上記添加元素を含むターゲットとを用いて成膜することもできる。ターゲットに含まれる添加元素の比率を変えることにより、多層反射膜5に含まれる添加元素の原子数密度を容易に調整することができる。
【0058】
本実施形態の多層反射膜5は、低屈折率層がモリブデン(Mo)を含むことが好ましい。この場合、Moを含む低屈折率層のIn-plane測定法によるX線回折におけるピーク強度は、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
(110)/(I(110)+I(200)) ≦ 0.88・・・(1)
(式(1)において、I(110)は、Moの(110)面のピーク強度を示す。I(200)は、Moの(200)面のピーク強度を示す。)
【0059】
Moを含む低屈折率層のX線回折におけるピーク強度は、例えば、X線回折装置SmartLab(株式会社リガク製)を用いて測定することができる。測定条件は、例えば、後述の実施例に記載の条件とすることができる。
【0060】
多層反射膜5に含まれる低屈折率層のX線回折におけるピーク強度が上記式(1)を満たすことによって、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を備えた多層反射膜付き基板110をより確実に製造することができる。
【0061】
<<保護膜6>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、図2に示すように、多層反射膜5上に保護膜6を形成することが好ましい。多層反射膜5上に保護膜6が形成されていることにより、多層反射膜付き基板110を用いて反射型マスク200を製造する際の多層反射膜5表面へのダメージを抑制することができる。その結果、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0062】
保護膜6は、後述する反射型マスク200の製造工程において、ドライエッチング及び洗浄によるダメージから、多層反射膜5を保護することができる。また、保護膜6は、電子線(EB)を用いたマスクパターンの黒欠陥修正の際に、多層反射膜5を保護することもできる。
【0063】
図2では、保護膜6が1層の場合を示している。保護膜6は、2層の積層構造であってもよい。又は、保護膜6は、3層以上の積層構造であってもよい。保護膜6が3層以上である場合、最下層及び最上層は、例えば、Ruを含有する物質からなる層であってもよい。最下層と最上層との間の層は、Ru以外の金属若しくはその合金を含む層であってもよい。
【0064】
保護膜6は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金、及びそれらに窒素を含む材料が挙げられる。
【0065】
保護膜6は、Tiを含有したRu系材料で形成されることが好ましい。多層反射膜5にケイ素が含まれる場合には、Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることにより、多層反射膜5の表面から保護膜6へケイ素が拡散する現象を抑制できる。この結果、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、膜はがれも起こりにくくなる。表面荒れを低減することによって、EUV露光光に対する多層反射膜5の反射率低下を防止することができる。したがって、表面荒れの低減は、EUV露光の効率の改善、及び、スループットの向上のために重要である。
【0066】
保護膜6に用いるRu合金のRu含有比率は、50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜6に対する多層反射膜5の構成元素(例えば、ケイ素)の拡散を抑えることが可能になる。また、この場合、保護膜6は、EUV光の反射率を十分に確保することができる。また、この場合、保護膜6は、マスク洗浄耐性を向上させることができる。さらに、保護膜6は、吸収体膜7をエッチング加工する際のエッチングストッパとして機能することができる。さらに、保護膜6は、多層反射膜5の経時的変化を防止することができる。
【0067】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物の付着を防止するペリクルを製造することが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によって反射型マスク200にカーボン膜が堆積したり、酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。このため、反射型マスク200を半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行って反射型マスク200上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このことから、EUV反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高くなり、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0068】
保護膜6の膜厚は、保護膜6としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜6の膜厚は、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0069】
保護膜6の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、保護膜6の形成方法として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0070】
<反射型マスクブランク100>
本実施形態の反射型マスクブランク100について説明する。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を製造することができる。
【0071】
<<吸収体膜7>>
反射型マスクブランク100は、上述の多層反射膜付き基板110の上に、吸収体膜7を有する。すなわち、吸収体膜7は、多層反射膜5の上(保護膜6が形成されている場合には、保護膜6の上)に形成される。吸収体膜7の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜7は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜7であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜7であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜7とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜7がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜7が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜7が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜6を介して多層反射膜5から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜7からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有する吸収体膜7は、吸収体膜7からの反射光と、多層反射膜5からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0072】
吸収体膜7は単層の膜であっても良いし、複数の膜からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できるため、生産効率が向上する。多層膜の場合には、上層の吸収体膜を、光を用いたマスクパターン検査時の反射防止膜として機能させることができる。この場合、上層の吸収体膜の光学定数と膜厚を適当に設定する必要がある。これにより、光を用いたマスクパターン検査時の検査感度が向上する。また、上層の吸収体膜として、酸化耐性を向上させることのできる酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いることができる。これにより、吸収体膜の経時的安定性が向上する。このように、多層膜からなる吸収体膜7を用いることによって、吸収体膜7に様々な機能を付加することが可能となる。吸収体膜7が位相シフト機能を有する場合には、多層膜からなる吸収体膜7を用いることによって、光学面での調整の範囲を大きくすることができる。これにより、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0073】
吸収体膜7の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分として含むタンタル化合物を好ましく用いることができる。
【0074】
上述のタンタル及びタンタル化合物等の吸収体膜7は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、吸収体膜7を成膜することができる。
【0075】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物は、Taの合金を含む。吸収体膜7がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜7の結晶状態は、アモルファス又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜7の表面が平滑・平坦でないと、吸収体パターン7aのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜7の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0076】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を用いることができる。
【0077】
Taは、EUV光の吸収係数が大きい。また、Taは、塩素系ガスやフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜7の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜7の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜7の酸化に対する耐性が向上するため、吸収体膜7の経時的安定性を向上させることができる。
【0078】
また、吸収体膜7の材料としては、タンタル又はタンタル化合物以外に、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、又はこれらの化合物を好ましく用いることができる。
【0079】
<<裏面導電膜2>>
基板1の第2主表面(裏面)の上(多層反射膜5の反対側の面の上。基板1に水素侵入抑制膜等の中間層が形成されている場合には、中間層の上。)には、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。裏面導電膜2のシート抵抗は、通常100Ω/□以下である。裏面導電膜2は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法によって形成することができる。裏面導電膜2を形成するためのクロム(Cr)を含む材料は、Crに、ホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択される少なくとも1つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜2を形成するためのタンタル(Ta)を含む材料は、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択される少なくとも1つを含有したTa化合物であることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0080】
裏面導電膜2の膜厚は、特に限定されないが、通常10nmから200nmである。裏面導電膜2は、マスクブランク100の第2主表面側の応力を調整することができる。すなわち、裏面導電膜2は、第1主表面側に形成された各種の膜によって生じる応力と、第2主表面側の応力とのバランスをとることができる。第1主表面側と第2主表面側の応力のバランスをとることによって、反射型マスクブランク100が平坦になるように調整することができる。
【0081】
なお、上述の吸収体膜7を形成する前に、多層反射膜付き基板110に裏面導電膜2を形成することができる。その場合には、図2に示すような裏面導電膜2を備えた多層反射膜付き基板110を得ることができる。
【0082】
<その他の薄膜>
本実施形態の製造方法で製造される多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、吸収体膜7上にエッチング用ハードマスク膜(「エッチングマスク膜」ともいう。)及び/又はレジスト膜8を備えることができる。エッチング用ハードマスク膜の代表的な材料としては、ケイ素(Si)、並びにケイ素に酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの元素を加えた材料、又は、クロム(Cr)、並びにクロムに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの元素を加えた材料等が挙げられる。具体的には、SiO、SiON、SiN、SiO、Si、SiC、SiCO、SiCN、SiCON、Cr、CrN、CrO、CrON、CrC、CrCO、CrCN、及びCrOCN等が挙げられる。但し、吸収体膜7が酸素を含む化合物の場合、エッチング用ハードマスク膜として酸素を含む材料(例えばSiO)はエッチング耐性の観点から避けたほうが良い。エッチング用ハードマスク膜を形成した場合には、レジスト膜8の膜厚を薄くすることが可能となり、パターンの微細化に対して有利である。
【0083】
本実施形態の多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、それらの基板1であるガラス基板と、タンタル又はクロムを含有する裏面導電膜2との間に、基板1から裏面導電膜2へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることが好ましい。水素侵入抑制膜の存在により、裏面導電膜2中に水素が取り込まれることを抑制でき、裏面導電膜2の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0084】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板1から裏面導電膜2への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であってもよい。あるいは、水素侵入抑制膜は、これらの材料の複数層であってもよく、組成傾斜膜であってもよい。
【0085】
<反射型マスク200>
上述の反射型マスクブランク100の吸収体膜7をパターニングすることによって、多層反射膜5上に吸収体パターン7aを有する反射型マスク200を得ることができる。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0086】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0087】
反射型マスクブランク100を準備して、その第1主表面の最表面(以下の実施例で説明するように、吸収体膜7の上)に、レジスト膜8を形成する(反射型マスクブランク100がレジスト膜8を備えている場合は不要)。このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。
【0088】
このレジストパターン8aをマスクとして使用して、吸収体膜7をドライエッチングすることにより、吸収体パターン7aを形成する。なお、エッチングガスとしては、Cl、SiCl、及びCHCl等の塩素系のガス、塩素系ガスとOとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとHeとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとArとを所定の割合で含む混合ガス、CF、CHF、C、C、C、C、CH、CHF、C、SF、F等のフッ素系のガス、並びにフッ素系ガスとOとを所定の割合で含む混合ガス等から選択したものを用いることができる。ここで、エッチングの最終段階でエッチングガスに酸素が含まれていると、Ru系保護膜6に表面荒れが生じる。このため、Ru系保護膜6がエッチングに曝されるオーバーエッチング段階では、酸素が含まれていないエッチングガスを用いることが好ましい。
【0089】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターン8aを除去し、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。
【0090】
以上の工程により、本実施形態の反射型マスク200を得ることができる。
【0091】
<半導体装置の製造方法>
【0092】
本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述の反射型マスク200を用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体に転写パターンを形成する工程を有する。
【0093】
本実施形態では、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を、半導体装置の製造のために用いることができる。その結果、半導体装置の製造の際のスループットを向上させることができる。さらに、多層反射膜5上に転写に寄与する実欠陥がない反射型マスク200を使用して半導体装置を製造するので、多層反射膜5の欠陥に起因する半導体装置の歩留まり低下を抑制することができる。
【0094】
具体的には、本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板上に所望の転写パターンを形成することができる。このリソグラフィ工程に加え、被加工膜のエッチングや絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例0095】
以下、実施例及び比較例について図面を参照しつつ説明する。なお、実施例において同様の構成要素については同一の符号を使用し、説明を簡略化若しくは省略する。
【0096】
実施例の多層反射膜付き基板110は、図1に示すように、基板1と、多層反射膜5とを有する。
【0097】
まず、第1主表面及び第2主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の基板1を準備した。この基板1は、低熱膨張ガラス(SiO-TiO系ガラス)からなる基板である。基板1の主表面は、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程によって研磨した。
【0098】
次に、基板1の主表面(第1主面)上に、多層反射膜5を形成した。基板1上に形成される多層反射膜5は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜5とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜5とした。多層反射膜5は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、所定のプロセスガス及び所定のターゲットによるイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo膜及びSi膜を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜し、多層反射膜5を形成した。
【0099】
本実施例の多層反射膜5は、H、DまたはHeが所定の原子数密度となるようにプロセスガスのガス流量及び/又はガス圧を調整して成膜した。表1、表2及び表3に、実施例及び比較例の多層反射膜5を成膜する際に用いたプロセスガスを示す。実施例1~6、9~11、及び、比較例2では、多層反射膜5の成膜の際に、Krガスに加えて、Hガスを用いることによって、多層反射膜5へ水素(H)を導入した。実施例7では、多層反射膜5の成膜の際に、Krガスに加えて、Dガスを用いることによって、多層反射膜5へ重水素(D)を導入した。実施例8では、多層反射膜5の成膜の際に、Krガスに加えて、Heガスを用いることによって、多層反射膜5へヘリウム(He)を導入した。比較例1では、多層反射膜5の成膜の際に、Krガスのみを用いた。
【0100】
<<原子数密度>>
実施例1~11、及び、比較例1、2で得られた多層反射膜付き基板110の多層反射膜5に含まれる添加元素(H、D、またはHe)の原子数密度(atom/nm3)を、ダイナミックSIMS(四重極型二次イオン質量分析装置:PHI ADEPT-1010TM、アルバック・ファイ株式会社製)によって測定した。測定条件は、一次イオン種をCs、一次加速電圧を1.0kV、一次イオン照射領域を90μm角、二次イオン極性を正、検出二次イオン種を[Cs-H]、[Cs-D]、または[Cs-He]とした。また、標準試料はSiとした。測定結果を表1、表2及び表3に示す。
【0101】
<<バックグラウンドレベル(BGL)>>
実施例1~11、及び、比較例1、2で得られた多層反射膜付き基板110に対して欠陥検査を行い、多層反射膜5のバックグラウンドレベル(BGL)を測定した。バックグラウンドレベル(BGL)は、多層反射膜5の欠陥を検査するための欠陥検査装置によって自動的に測定することができる。欠陥検査装置としては、検査光としてEUV光を使用したブランクス欠陥検査装置(Actinic Blank Inspection)を用いた。表1、表2及び表3に、BGLの測定結果を示す。
【0102】
<<反射率>>
実施例1~11、及び、比較例1、2の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の、波長13.5nmのEUV光に対する反射率を測定した。表1、表2及び表3に反射率の測定結果を示す。
【0103】
表1、表2及び表3に示すように、多層反射膜5に水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含む実施例1~11の多層反射膜付き基板110は、反射率が67%以上と高く、かつ、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400未満であり、バックグラウンドレベルが十分に低かった。
一方、多層反射膜5に添加元素を含まない比較例1の多層反射膜付き基板110は、反射率は67%以上と高いが、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400を超えていた。また、添加元素を多く含む比較例2の多層反射膜付き基板110は、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルは400未満であったが、反射率が67%未満と低かった。
【0104】
<<X線回折ピーク強度測定>>
実施例1~8、及び、比較例1で得られた多層反射膜付き基板110の多層反射膜5に対してIn-plane測定法によるX線回折測定を行った。具体的には、X線回折装置SmartLab(株式会社リガク製)を用いて、電圧45kV、電流200mAにより発生したCuKαの特性X線を試料に照射し、回折X線の強度及び回折角度(2θ)を測定することにより、低屈折率層に含まれるMoの(110)面及び(200)面に対応する回折X線の回折ピークを得た。ピークの面積を測定することにより、Moの(110)面のピーク強度I(110)、及び(200)面のピーク強度I(200)を測定した。その際に、測定装置付属のソフトウェアを用いて、所定のバックグラウンドを差し引く等の処理を行った。表1及び表2に、ピーク強度の測定結果を示す。
【0105】
表1及び表2に示すように、実施例1~8の多層反射膜付き基板110は、ピーク強度I(110)、I(200)が、I(110)/(I(110)+I(200))≦0.88を満たしていた。一方、比較例1の多層反射膜付き基板110は、ピーク強度I(110)、I(200)が、I(110)/(I(110)+I(200))=0.891であり、上述の(1)式を満たしていなかった。
【0106】
なお、上述した実施例1~8では、多層反射膜5がMoとSiを周期的に積層した多層膜からなる例を示したが、多層反射膜5がMoとSi以外を含む多層膜からなる場合であっても、上述の作用効果を得ることができる。すなわち、多層反射膜5がMoとSi以外の他の元素を含む多層膜からなる場合であっても、多層反射膜5が水素(H)、重水素(D)及びヘリウム(He)から選ばれる少なくとも1つの添加元素を含むことによって、露光光に対する反射率が高く、かつ、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400未満である多層反射膜付き基板110を得ることができる。また、多層反射膜5がMoとSi以外の他の元素を含む多層膜からなる場合であっても、低屈折率層に含まれるMoのX線回折におけるピーク強度比が、I(110)/(I(110)+I(200))≦0.88を満たす多層反射膜付き基板110を得ることができる。
【0107】
<反射型マスクブランク100>
上記の実施例1~8及び比較例1の多層反射膜付き基板110は、露光光である波長13.5nmのEUV光に対する反射率が67%以上であり、反射率が高い多層反射膜5を有する。ただし、上記の比較例1の多層反射膜付き基板110は、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400以上と高いため、欠陥検査に必要な時間が長かった。また、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400以上と高いために、転写に寄与する実欠陥が含まれないと判定した多層反射膜付き基板110に、実欠陥が含まれているリスクがある。
そこで、反射率が高く(67%以上)、バックグラウンドレベルが低い(400未満)実施例1~8の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。以下、実施例1~8の多層反射膜付き基板110を用いた反射型マスクブランク100の製造方法について、説明する。
【0108】
実施例1~8の多層反射膜付き基板110の表面に、保護膜6を形成した。Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したDCスパッタリング法によりRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。
【0109】
次に、DCスパッタリング法により、吸収体膜7として膜厚62nmのTaBN膜を形成した。TaBN膜は、TaB混合焼結ターゲットを用いて、ArガスとNガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法で形成した。
【0110】
TaBN膜の元素比率は、Taが75原子%、Bが12原子%、Nが13原子%であった。TaBN膜の波長13.5nmにおける屈折率nは約0.949、消衰係数kは約0.030であった。
【0111】
次に、基板1の第2主表面(裏面)にCrNからなる裏面導電膜2をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。
裏面導電膜2の形成条件:Crターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0112】
以上のようにして、多層反射膜5の反射率が高く、かつ、多層反射膜5の欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い反射型マスクブランク100を製造した。
【0113】
<反射型マスク200>
次に、上述の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。図4を参照して反射型マスク200の製造方法を説明する。
【0114】
まず、図4(b)に示されるように、反射型マスクブランク100の吸収体膜7の上に、レジスト膜8を形成した。そして、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成した(図4(c))。次に、レジストパターン8aをマスクにして吸収体膜7(TaBN膜)を、Clガスを用いてドライエッチングすることで、吸収体パターン7aを形成した(図4(d))。Ruからなる保護膜6はClガスに対するドライエッチング耐性が極めて高く、十分なエッチングストッパとなる。その後、レジストパターン8aをアッシングやレジスト剥離液などで除去した(図4(e))。
【0115】
<半導体装置の製造>
上記のように製造した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0116】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【符号の説明】
【0120】
1 基板
2 裏面導電膜
5 多層反射膜
6 保護膜
7 吸収体膜
7a 吸収体パターン
8 レジスト膜
8a レジストパターン
100 反射型マスクブランク
110 多層反射膜付き基板
200 反射型マスク
図1
図2
図3
図4