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特開2024-75694光学積層体、並びに、これを用いた偏光板、表示パネル及び画像表示装置
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  • 特開-光学積層体、並びに、これを用いた偏光板、表示パネル及び画像表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075694
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光学積層体、並びに、これを用いた偏光板、表示パネル及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240528BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G02B5/30
G09F9/00 313
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044809
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2020107799の分割
【原出願日】2020-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打矢 直之
(72)【発明者】
【氏名】星野 国昭
(72)【発明者】
【氏名】黒田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】牛山 章伸
(57)【要約】
【課題】配向層と、ポジティブA層とを直接積層してなり、かつ、配向層とポジティブとの密着性に優れた光学積層体を提供する。
【解決手段】配向層及びポジティブA層を有する光学積層体であって、前記配向層と前記ポジティブA層とが接してなり、前記ポジティブA層は化合物aを含み、前記配向層は、前記ポジティブA層から移行してなる前記化合物aと、その他の化合物とを含み、前記化合物aは、前記その他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含み、前記ポジティブA層内の前記原子Xの平均検出量を質量基準で100と規格化したときに、前記配向層内の前記原子Xの平均検出量が23以上である、光学積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向層及びポジティブA層を有する光学積層体であって、
前記配向層と前記ポジティブA層とが接してなり、
前記ポジティブA層は化合物aを含み、
前記配向層は、前記ポジティブA層から移行してなる前記化合物aと、その他の化合物とを含み、
前記化合物aは、前記その他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含み、
前記ポジティブA層内の前記原子Xの平均検出量を質量基準で100と規格化したときに、前記配向層内の前記原子Xの平均検出量が23以上であり、
前記ポジティブA層内及び前記配向層内の前記原子Xの検出量が下記の条件2を満たす、光学積層体。
(条件2)
前記ポジティブA層内の前記原子Xの量を、前記ポジティブA層と前記配向層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。検出した前記原子Xの質量基準の変動係数をCV1と定義する。
前記配向層内の前記原子Xの量を、前記配向層と前記ポジティブA層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。検出した前記原子Xの質量基準の変動係数をCV2と定義する。
前記CV1と前記CV2との比(CV2/CV1)が2.00以上を示す。
【請求項2】
前記配向層内の前記原子Xの検出量が下記の条件1を満たす、請求項1に記載の光学積層体。
(条件1)
前記配向層内の前記原子Xの量を、前記配向層と前記ポジティブA層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。前記100箇所の前記原子Xの検出量の質量基準の変動係数が0.16以上である。
【請求項3】
前記原子Xが硫黄原子である、請求項1又は2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記化合物aが、前記原子Xとしての硫黄原子を含む重合性液晶化合物である、請求項1~3の何れかに記載の光学積層体。
【請求項5】
前記配向層がポジティブC層である、請求項1~4の何れかに記載の光学積層体。
【請求項6】
前記その他の化合物が、感光性基を有する液晶化合物を含む、請求項1~5の何れかに記載の光学積層体。
【請求項7】
前記配向層の波長550nmにおける厚み方向の位相差をRth(550)と定義した際に、Rth(550)が-100nm~-50nmである、請求項1~6の何れかに記載の光学積層体。
【請求項8】
前記光学積層体の波長450nmにおける面内位相差をRe(450)、前記光学積層体の波長550nmにおける面内位相差をRe(550)、前記光学積層体の波長650nmにおける面内位相差をRe(650)と定義した際に、下記式(A)の関係を満たす、請求項1~7の何れかに記載の光学積層体。
Re(450)<Re(550)<Re(650) (A)
【請求項9】
偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置されてなる透明保護板Aと、前記偏光子の他方の側に配置されてなる透明保護板Bとを有する偏光板であって、前記透明保護板A及び前記透明保護板Bの何れか一方が、請求項1~8のいずれかに記載の光学積層体である、偏光板。
【請求項10】
表示素子の光出射面上に、請求項1~8のいずれかに記載の光学積層体を配置してなる、表示パネル。
【請求項11】
請求項10に記載の表示パネルを備えてなる、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体、並びに、これを用いた偏光板、表示パネル及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置等に適用される光学フィルムとして、入射した光に所望の位相差を付与する光学積層体がある。例えば、λ/4位相差層と直線偏光板とを組み合わせてなる円偏光板は、画像表示装置の反射防止のために用いられている。
【0003】
このような光学積層体は、全ての波長に対して同様の効果をもたらすものではないことがよく知られている。
例えば、λ/4位相差層と直線偏光板とを積層してなる円偏光板は、波長550nmの光を円偏光として外光反射を大幅に抑制することができるが、550nmよりも長い波長及び短い波長の光は楕円偏光となるため、反射防止機能が低下するという問題がある。
この点を解決する手法として、円偏光板の位相差層を、λ/4位相差層とλ/2位相差層との組み合わせにする方法が提案されている。
【0004】
しかし、λ/4位相差層及びλ/2位相差層等のポジティブA層を有する画像表示装置は、斜め方向から視認した際に、表示品質(例えばコントラスト)が低下するという問題があった。
このため、ポジティブA層とポジティブC層とを組み合わせてなる光学積層体が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-215221号公報
【特許文献2】特開2016-4142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、基材上に液晶組成物を面内に配向させた層と、基材上に液晶組成物を垂直に配向させた層とをそれぞれ作製し、これらの層をそれぞれ基材から剥離して積層する必要がある。このため、特許文献1の光学積層体は、工程が複雑化するという問題がある。また、特許文献1では、ポジティブA層とポジティブC層とを接着剤層又は粘着剤層を介して積層しているため、接着剤層又は粘着剤層の分だけ厚みが増し、薄型化に支障があるものである。
【0007】
特許文献2では、ポジティブA層と、ポジティブC層とを、接着剤層又は粘着剤層を介することなく直接積層しているため、薄型化の問題を解消し得るものである。
しかし、特許文献2の光学積層体は、他の部材に貼り合わせる際に、ポジティブA層と、ポジティブC層との界面で剥離する事例が多発した。また、特許文献2の光学積層体のうち、剥離可能な基材上にポジティブC層及びポジティブA層を形成し、他の部材にポジティブC層及びポジティブA層を転写する実施形態のものは、転写時に、ポジティブA層と、ポジティブC層とが剥離する事例が多発した。
【0008】
本発明は、ポジティブC層等の配向層と、ポジティブA層とを直接積層してなり、かつ、配向層とポジティブA層との密着性に優れた光学積層体、並びに、これを用いた表示パネル及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]配向層及びポジティブA層を有する光学積層体であって、前記配向層と前記ポジティブA層とが接してなり、前記ポジティブA層は化合物aを含み、前記配向層は、前記ポジティブA層から移行してなる前記化合物aと、その他の化合物とを含み、前記化合物aは、前記その他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含み、前記ポジティブA層内の前記原子Xの平均検出量を質量基準で100と規格化したときに、前記配向層内の前記原子Xの平均検出量が23以上である、光学積層体。
[2]偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置されてなる透明保護板Aと、前記偏光子の他方の側に配置されてなる透明保護板Bとを有する偏光板であって、前記透明保護板A及び前記透明保護板Bの何れか一方が、前記[1]に記載の光学積層体である、偏光板。
[3]表示素子の光出射面上に、前記[1]に記載の光学積層体を配置してなる、表示パネル。
[4]前記[3]に記載の表示パネルを備えてなる、画像表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学積層体、並びに、これを用いた表示パネル及び画像表示装置によれば、配向層とポジティブA層とが直接積層されてなるため、光学積層体を薄型化することができ、かつ、配向層とポジティブA層との密着性に優れるため、作業性及び経時安定性等を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の光学積層体の一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明の偏光板の一実施形態を示す断面図である。
図3】本発明の表示パネルの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本明細書において、「AA~BB」との表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0013】
また、本明細書において、「波長450nmにおける面内位相差」を「Re(450)」、「波長550nmにおける面内位相差」を「Re(550)」、「波長650nmにおける面内位相差」を「Re(650)」、「波長550nmにおける厚み方向の位相差」を「Rth(550)」と表記する場合がある。
面内位相差(Re)及び厚み方向の位相差(Rth)は、Nx、Ny、Nz及び位相差層の厚みd(nm)から、下記式により算出できる。
面内位相差(Re)=(Nx-Ny)×d
厚み方向の位相差(Rth)=((Nx+Ny)/2-Nz)×d
【0014】
また、本明細書において、ポジティブA層とは、層の面内に沿った最も屈折率の高い軸方向であるX軸方向の屈折率をNx、層の面内に沿った方向でX軸に直交するY軸方向の屈折率をNy、層の厚み方向の屈折率をNzとしたとき、Nx>Ny≒Nzの関係を満たす層である。また、本明細書において、ポジティブC層とは、Nx≒Ny<Nzの関係を満たす層である。
【0015】
[光学積層体]
本発明の光学積層体は、配向層及びポジティブA層を有してなり、前記配向層と前記ポジティブA層とが接してなり、前記ポジティブA層は化合物aを含み、前記配向層は、前記ポジティブA層から移行してなる前記化合物aと、その他の化合物とを含み、
前記化合物aは、前記その他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含み、
前記ポジティブA層内の前記原子Xの平均検出量を質量基準で100と規格化したときに、前記配向層内の前記原子Xの平均検出量が23以上であるものである。
【0016】
図1は、本発明の光学積層体の実施の形態を示す断面図である。
図1の光学積層体100は、配向層20及びポジティブA層30を有し、配向層20とポジティブA層30とが接している。また、図1の光学積層体は、配向層20及びポジティブA層30が、基材10上に形成されている。
【0017】
本発明の光学積層体は、配向層及びポジティブA層を有してなり、配向層とポジティブA層とが接してなるものである。このように、本発明の光学積層体は、配向層とポジティブA層とが、接着剤層等を介することなく、直接積層されているため、光学積層体を薄型化することができるとともに、光学積層体を簡易に製造することができる。
【0018】
<配向層の原子Xの平均検出量>
本発明の光学積層体は、下記(1)~(3)の構成を有し、かつ、配向層の原子Xの平均検出量が下記(4)の条件を満たすことを要する。
(1)ポジティブA層が化合物aを含む。
(2)配向層が、ポジティブA層から移行してなる前記化合物aと、その他の化合物とを含む。
(3)前記化合物aは、前記その他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含む。
(4)前記ポジティブA層内の前記原子Xの平均検出量を質量基準で100と規格化したときに、前記配向層内の前記原子Xの平均検出量が23以上である。
【0019】
化合物aは、ポジティブA層に含まれる液晶化合物を意味する。化合物aに含まれる原子Xとしては、硫黄原子及び窒素原子が挙げられる。
また、その他の化合物は、配向層を構成する化合物から化合物aを除いた全ての化合物を意味する。
また、本明細書において、上記(4)の平均検出量のことを「配向層の平均検出量」と称する場合がある。
【0020】
配向層の平均検出量が上記(4)の条件を満たすことは、ポジティブA層の化合物aが、所定の割合を超えて配向層に浸透していることを意味している。このように、ポジティブA層の化合物aが、所定の割合を超えて配向層に浸透した場合、ポジティブA層と配向層との親和性が増すとともに、投錨効果が生じることになる。したがって、上記(1)~(3)の構成を有し、かつ、上記(4)の条件を満たす本発明の光学積層体は、ポジティブA層と配向層との密着性を良好にすることができる。
一方、上記(4)の条件を満たさない光学積層体は、ポジティブA層と配向層との密着性を良好にすることができず、貼り合わせ作業及び転写作業等の作業時に生じる応力により、ポジティブA層と配向層との界面で剥離が生じてしまう。
【0021】
配向層の平均検出量は、27以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、33以上であることがさらに好ましい。
配向層の平均検出量を多くするほど密着性は徐々に向上するが、密着性の向上には限界がある。また、化合物aは配向層の配向構造の隙間に入り込むため、配向層に浸透した化合物aによって配向層の配向は影響を受けにくい。しかし、配向層の平均検出量が多くなりすぎると、ポジティブA層が配向しにくくなったり、配向層の諸物性が変化することによる不具合が生じたりする可能性がある。このため、平均検出量は、60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましい。
【0022】
配向層の平均検出量は、例えば、ポジティブA層の化合物aの分子量、配向層とポジティブA層との親和性、ポジティブA層形成用塗布液の溶剤等により増減できる。具体的には、化合物aの分子量が小さいほど平均検出量は多くなり、化合物aの分子量が大きいほど平均検出量が少なくなる傾向がある。また、配向層とポジティブA層との親和性が高いほど平均検出量は多くなり、親和性が低いほど平均検出量は少なくなる傾向がある。また、ポジティブA層形成用塗布液の溶剤の配向層への浸透性が高いほど平均検出量は多くなり、該溶剤の配向層への浸透性が低いほど平均検出量は少なくなる傾向がある。また、ポジティブA層形成用塗布液の溶剤の質量割合が多いほど平均検出量は多くなり、該塗布液の溶剤の質量割合が低いほど平均検出量は少なくなる傾向がある(塗布液の溶剤の質量割合≒塗布液の全量-塗布液の固形分の質量割合)。
また、後述するように、ポジティブC層等の配向層を構成する化合物として、特定の液晶化合物を用い、化合物aが硫黄原子を含む化合物の場合、平均検出量を多くしやすくできる。また、後述するように、化合物aが動きやすい分子構造を有する場合、平均検出量を多くしやすくできる。
【0023】
ポジティブA層内及び配向層内の原子Xの質量基準の検出量は、光学積層体を垂直方向に切断した薄片の測定用サンプルを作製し、当該サンプルの断面側から、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により測定することができる。なお、測定用サンプルは20個作製し、20個の測定値の平均値を原子Xの検出量に関する各種のパラメータとすることが好ましい。
薄片の測定用サンプルは、例えば、光学積層体を所定の大きさに切断したカットサンプルを作製し、当該カットサンプルをダイヤモンドナイフで垂直に切断して作製することができる。薄片の測定用サンプルの厚みは40nm~160nmとすることが好ましい。
【0024】
SEM-EDX分析装置による測定では、各装置に固有の定量条件(例えば、日立ハイテクノロジーズ製のSEM“SU8000”とオックスフォード・インストゥルメンツ製のEDX“XMAX80”では加速電圧30kV、焦点距離15mm、試料傾斜0度)に合わせ、照射電流や測定時間を目的元素が十分検出できるように適時調整して特性X線スペクトルを取得することが好ましい。また、各元素の濃度は、ZAF補正法(各元素の相対強度に原子番号補正Z、吸収補正A、蛍光補正Fを施して各元素の含有量を求める方法)によって、求めることができる。
【0025】
本明細書において、上述した原子Xの検出量に関する測定、並びに、その他の測定及び評価は、特に断りのない限り、温度23℃±5℃、湿度40%~65%の雰囲気で実施するものとする。また、測定及び評価の前に、前記雰囲気にサンプルを30分以上晒すものとする。
【0026】
<検出量の変動係数、バラツキの比>
本発明の光学積層体は、前記配向層内の前記原子Xの検出量が下記の条件1を満たすことが好ましい。
(条件1)
前記配向層内の前記原子Xの量を、前記配向層と前記ポジティブA層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。前記100箇所の前記原子Xの検出量の質量基準の変動係数が0.16以上である。
【0027】
条件1を満たすことは、配向層に浸透した化合物Aの量が、配向層の場所ごとでバラついており、かつ、バラツキの程度が所定以上であることを意味している。このように、配向層の場所ごとに化合物Aの浸透性をバラつかせることにより、配向層とポジティブA層との密着性をより良好にすることができる。
条件1の変動係数は0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましい。
条件1の変動係数の上限は、微細領域における物性の変動を抑制する観点から、0.60以下であることが好ましく、0.50以下であることがより好ましく、0.40以下であることがさらに好ましく、0.35以下であることがよりさらに好ましい。
なお、変動係数とは、標準偏差(バラツキ)を平均値で割った無次元のパラメータである。
【0028】
本発明の光学積層体は、前前記ポジティブA層内及び前記配向層内の前記原子Xの検出量が下記の条件2を満たすことが好ましい。
(条件2)
前記ポジティブA層内の前記原子Xの量を、前記ポジティブA層と前記配向層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。検出した前記原子Xの質量基準の変動係数をCV1と定義する。
前記配向層内の前記原子Xの量を、前記配向層と前記ポジティブA層との界面から厚み方向に200nmの位置において、前記界面と平行な方向に26nmごとに100箇所で検出する。検出した前記原子Xの質量基準の変動係数をCV2と定義する。
前記CV1と前記CV2との比(CV2/CV1)が2.00以上を示す。
【0029】
条件2を満たすことは、条件1と同様に、配向層に浸透した化合物Aの量が、配向層の場所ごとでバラついており、かつ、バラツキの程度が所定以上であることを意味している。このように、配向層の場所ごとに化合物Aの浸透性をバラつかせることにより、配向層とポジティブA層との密着性をより良好にすることができる。
条件2の比は2.10以上であることが好ましく、2.20以上であることがより好ましい。
条件2の比の上限は、微細領域における物性の変動を抑制する観点から、4.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく、2.50以下であることがさらに好ましい。
【0030】
条件1及び2は、例えば、配向層の配向度合いの面内均一性により調整できる。具体的には、配向層の配向度合いの面内均一性が低いほど、条件1の変動係数及び条件2の比が大きくなる傾向があり、配向層の配向度合いの面内均一性が高いほど、条件1の変動係数及び条件2の比が小さくなる傾向がある。
【0031】
<配向層>
配向層は、光学積層体の厚み方向において、ポジティブA層と接する位置に配置される。
基材上に、配向層及びポジティブA層を形成する場合、基材上に先に配向層を形成し、その後、ポジティブA層を形成することが好ましい。
【0032】
また、配向層は、ポジティブA層から移行してなる化合物aと、その他の化合物とを含む。その他の化合物は、配向層を構成する化合物から化合物aを除いた全ての化合物である。その他の化合物の主成分は液晶化合物であり、当該液晶化合物は、感光性基を有する液晶化合物であることが好ましい。
その他の化合物は、化合物aに含まれる原子Xを実質的に含有しないものである。本明細書において、その他の化合物が原子Xを実質的に含有しないとは、その他の化合物の全量の0.1質量%以下を意味し、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0033】
配向層としては、例えば、ホメオトロピック配向層が挙げられる。
ホメオトロピック配向とは、液晶化合物が層の法線方向に対し、平行かつ一様に配向した状態、すなわち、垂直配向した状態をいう。
ホメオトロピック配向層の代表例はポジティブC層である。すなわち、配向層としては、ポジティブC層が挙げられる。
以下、主として、配向層の代表例であるポジティブC層の実施形態を説明する。
【0034】
ポジティブC層の液晶化合物は、液晶性ポリマーからなる材料であっても、液晶性モノマーからなる材料であってもよい。
ポジティブC層の液晶化合物は、ポジティブC層上に形成するポジティブA層の配向性の観点から、感光性基を有する液晶化合物であることが好ましい。すなわち、配向層は、その他の化合物として感光性基を有する液晶化合物を含むことが好ましい。
【0035】
本明細書において感光性基とは、光照射により他の分子と結合する官能基をいう。また、本明細書において、液晶化合物とは、材料単独に物理的な外部刺激(加熱、冷却、電場、磁場、せん断の印加等)を与えた時に液晶性を示すか、または溶媒や非液晶性成分との混合により液晶性を発現する材料をいう。
【0036】
感光性基を有する液晶化合物としては、例えば、下記(i)と(ii)とをスペーサーを介してまたは介さず結合した構造を含む側鎖を有する感光性側鎖型液晶性ポリマーが挙げられる。このような感光性基を有する液晶化合物は、特開2016-4142号公報に記載されたものを用いることもできる。
(i)シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基(または、それらの誘導体)などの感光性基。
(ii)液晶性ポリマーのメソゲン成分として多用されているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼンなどの置換基。
【0037】
感光性側鎖型液晶性ポリマーとしては、側鎖末端にカルボキシル基を有する感光性の側鎖を有し、該側鎖末端のカルボキシル基の水素結合による2量化により剛直な構造を形成し、側鎖自体にメソゲン基を構造に含まず液晶性を発現するポリマーも挙げられる。
感光性側鎖型液晶性ポリマーを構成する主鎖としては、上記側鎖をスペーサーを介して結合した炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサン、マレインイミド、N-フェニルマレインイミドなどが挙げられる。これらのポリマーは同一の繰り返し単位からなる単一重合体または構造の異なる側鎖を有する複数の単位からなる共重合体、あるいは感光性基を含む側鎖を有する単位に、感光性基を含まない側鎖を有する単位を液晶性を損なわない程度に配合して得られる共重合体のいずれであってもよい。また、配向を増強するために低分子化合物を添加しても構わない。
【0038】
感光性側鎖型液晶性ポリマーは、耐熱性を向上することなどを目的として、イソシアネート材料及びエポキシ材料などの架橋剤により架橋構造を導入したポリマーであってもよい。
【0039】
感光性側鎖型液晶性ポリマーは、下記の一般式(1)~(3)で示される側鎖を有するモノマーを用いて形成されるポリマーが好ましい。
なお、下記の一般式(1)~(3)で示される側鎖を有するモノマーを用いて形成されるポリマーは、硫黄原子を含む化合物との親和性が高い。すなわち、ポジティブC層等の配向層が下記の一般式(1)~(3)で示される側鎖を有するモノマーを用いて形成されるポリマーを含み、ポジティブA層の化合物aが硫黄原子を含む場合、化合物aがポジティブC層に浸透しやすくなり、原子X(例えば硫黄)の検出量が上記範囲を満たしやすくなる点で好ましい。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
前記化学式1および化学式2のそれぞれにおいて、nは1~12、mは1~12の整数をそれぞれ示し、XまたはYは、none、-COO、-OCO-、-N=N-、-C=C-または-C64-をそれぞれ表し、W1はシンナモイル基、カルコン基、シンナミリデンキ基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基もしくはそれらの誘導体を表すか、または、-H、-OH、もしくは-CNを表し、W2は、シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデンキ基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基もしくはそれらの誘導体を表すか、または、-H、-OHもしくは-CNを表す。 前記一般式(1)及び一般式(2)のそれぞれにおいて、nは1~12の整数を示し、mは1~12の整数を示し、XまたはYは、単結合、-COO、-OCO-、-N=N-、-C=C-または-C-を示し、Wは、シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基及びこれらの誘導体、又は、-H、-OH及び-CNを示し、Wは、シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基及びこれらの誘導体、又は、-H、-OH及び-CNを示す。
【0043】
上記の式で表わされる側鎖のなかで、W及びWが、-H、-OH及び-CNで表わされる側鎖を有するモノマーは感光性を示さないが、側鎖に感光性基を有するモノマーと共重合することにより、感光性基を有する液晶性ポリマーを得ることができる。共重合する場合において、上記の式で表わされる感光性を示さないモノマーの割合が高いほどホメオトロピック配向しやすいポリマーを得やすいが、共重合割合はホメオトロピック配向性と液晶性とのバランスを見て適宜設定することができる。
【0044】
【化3】
【0045】
一般式(3)において、sは0または1を表し、tは1~3の整数を表し、RはH、アルキル基,アルキルオキシ基またはハロゲンを表す。
【0046】
ポジティブC層等の配向層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、光安定剤及び酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
【0047】
ポジティブC層は、例えば、ポジティブC層を構成する成分(例えば、一般式(1)~(3)で表わされる側鎖を有するモノマー単位から形成される液晶性ポリマー、添加剤)を溶剤に溶解又は希釈してなるポジティブC層用塗布液を調製し、当該塗布液を基材上に塗布、乾燥することにより形成することができる。
【0048】
ポジティブC層用塗布液の溶剤としては、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独または混合して用いられる。
【0049】
ポジティブC層用塗布液を基材上に塗布して、溶剤を除去する過程において、ポジティブC層はホメオトロピック配向を示し始め、乾燥後、さらに加熱を行うことによりホメオトロピック配向は増強される。具体的には、液晶相転移温度以上であって等方性転移温度以下(好ましくは等方性転移温度未満)の温度に加熱して冷却することによってホメオトロピック配向が誘起される。
さらに、ホメオトロピック配向した層に対して、直線偏光性紫外線を照射する。直線偏光性紫外線を照射することにより、感光性基を有する液晶性ポリマーの感光性基の光反応が異方的に進行し、ポジティブA層の液晶化合物を配向させる液晶配向能が付与される。照射光の波長は200nm~500nmが好ましく、250nm~400nmがより好ましい。このような直線偏光性の紫外線照射がなされても、ホメオトロピック配向層の配向は実質的に影響されない。
【0050】
ポジティブC層に直線偏光性紫外線を照射した後であって、ポジティブC層上にポジティブA層を形成した後に、非偏光性の紫外線を照射することが好ましい。非偏光性紫外線を照射すると、感光性基を有する液晶性ポリマーの二量化が進行し、配向が固定され、安定したホモジニアス配向層が形成される。なお、ポジティブA層のホメオトロピック配向は非偏光性の紫外線の照射前に完了しているため、非偏光性紫外線によってポジティブA層のホメオトロピック配向は実質的に乱されることはないといえる。また、非偏光性の紫外線を照射することで、ポジティブC層の感光性基とポジティブA層との感光性基とが反応し、密着性がより向上することが期待できる。
【0051】
ポジティブC層等の配向層は、Rth(550)が-100nm~-50nmであることが好ましく、-90nm~-60nmであることがより好ましい。配向層のRth(550)を当該範囲とすることにより、斜め方向の視認性を良好にしやすくできる。
【0052】
ポジティブC層等の配向層は、Re(550)が小さいことが好ましく、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下、より更に好ましくは1nm以下である。
【0053】
本明細書において、面内位相差、厚み方向の位相差、ヘイズ及び全光線透過率は、16箇所の測定値の平均値を意味する。16の測定箇所は、測定サンプルの外縁から1cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域に関して、縦方向及び横方向を5等分する線を引いた際の、交点の16箇所を測定の中心とすることが好ましい。測定サンプルが四角形の場合には、四角形の外縁から1cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域を縦方向及び横方向に5等分した線の交点の16箇所を中心として測定を行い、その平均値を算出することが好ましい。なお、測定サンプルが円形、楕円形、三角形、五角形等の四角形以外の形状の場合、これらの形状に内接する最大面積の四角形を書き、該四角形に関して、上記手法により16箇所の測定を行うことが好ましい。
面内位相差及び厚み方向の位相差は、例えば、王子計測(株)製の商品名「KOBRA-WR」で測定できる。
【0054】
ポジティブC層等の配向層の厚みは、好ましくは100nm~5μmであり、より好ましくは50nm~3μm、さらに好ましくは100nm~2μmである。
ポジティブC層等の配向層、ポジティブA層及び基材等の各層の厚みは、例えば、光学積層体の断面像を、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等で観察し、20箇所の平均値として算出できる。
【0055】
<ポジティブA層>
ポジティブA層は、光学積層体の厚み方向において、ポジティブC層と接する位置に配置される。また、ポジティブA層は化合物aを含む。
【0056】
化合物aは、ポジティブC層に含まれるその他の化合物が実質的に含有しない原子Xを含む。化合物aが含む原子Xとしては硫黄原子及び窒素原子が挙げられ、硫黄原子が好ましい。
ポジティブA層は液晶化合物から形成することが好ましい。液晶化合物は重合性液晶化合物であることが好ましい。すなわち、化合物aは、液晶化合物であることが好ましく、重合性液晶化合物であることがより好ましい。また、化合物aは、前記原子Xとしての硫黄原子又は窒素原子を含む重合性液晶化合物であることが好ましく、前記原子Xとしての硫黄原子を含む重合性液晶化合物であることがより好ましい。
【0057】
ポジティブA層はホモジニアス配向を示す層である。ホモジニアス配向とは、液晶性材料が層面に対して平行に、かつ同一方位に配列している状態(光学的一軸性)をいう。ホモジニアス配向し得る液晶化合物は、液晶性ポリマーからなる材料であっても液晶性モノマーからなる材料であってもよい。
上述したように、ホメオトロピック配向したポジティブC層に対して、直線偏光性紫外線を照射すると、感光性基を有する液晶性ポリマーの感光性基の光反応が異方的に進行し、ポジティブA層の液晶化合物を配向させる液晶配向能が付与される。このため、ポジティブC層上に、ポジティブA層用塗布液を直接塗布、乾燥及び硬化しても、ホメオトロピック配向したポジティブC層上に、ホモジニアス配向してなるポジティブA層を得ることができる。
【0058】
ポジティブA層は、Re(450)、Re(550)及びRe(650)が、下記(i)の関係を満たすことが好ましい。すなわち、ポジティブA層は逆分散性を有することが好ましい。ポジティブA層として、下記(i)の関係を満たす逆分散性のものを用いることにより、ポジティブA層及びポジティブC層を含む光学積層体全体としても逆分散性を付与しやすくすることができ、550nmから外れた波長域における視認性及び反射防止性等を良好にしやすくできる。
Re(450)<Re(550)<Re(650) (i)
【0059】
ポジティブA層のRe(450)、Re(550)及びRe(650)は、特に限定されないが、ポジティブA層をλ/4位相差層とする場合には下記の範囲として、ポジティブA層をλ/2位相差層とする場合には下記の範囲とすることが好ましい。
【0060】
《λ/4位相差層の場合》
Re(450)は82nm~143nmであることが好ましく、90nm~135nmであることがより好ましい。Re(550)は100nm~175nmであることが好ましく、110nm~165nmであることがより好ましい。Re(650)は119nm~206nmであることが好ましく、130nm~195nmであることがより好ましい。
また、ポジティブA層(λ/4位相差層)とポジティブC層の積層体は、Rth(550)が-40nm~40nmであることが好ましく、-25nm~25nmであることがより好ましい。
【0061】
《λ/2位相差層の場合》
Re(450)は165nm~286nmであることが好ましく、180nm~270nmであることがより好ましい。Re(550)は201nm~349nmであることが好ましく、220nm~230nmであることがより好ましい。Re(650)は237nm~412nmであることが好ましく、260nm~390nmであることがより好ましい。
また、ポジティブA層(λ/2位相差層)とポジティブC層の積層体は、Rth(550)が-50nm~50nmであることが好ましく、-30nm~30nmであることがより好ましい。
【0062】
ポジティブA層の厚みは、好ましくは100nm~5μmであり、より好ましくは500nm~4μm、さらに好ましくは1.5μm~3.0μmである。
【0063】
逆分散性のポジティブA層は、逆分散性を示す液晶化合物から形成することができる。このような液晶化合物は、重合性を有するものが好ましい。
逆分散性を示す重合性液晶化合物としては、例えば、特開2019-73712号公報の一般式(1)で表されるもの、国際公開番号WO2017/043438の一般式(II)で表されるものが挙げられる。
【0064】
逆分散性を示す重合性液晶化合物の具体例としては、下記化学式(4)~(29)に示す化合物が挙げられる。下記化学式(4)~(29)に示す化合物は、何れも分子中に硫黄原子及び窒素原子を含んでいる。
下記化学式(4)~(29)に示す化合物は、ビフェニル基を中心として分子構造の左右がそれぞれ動きやすい構造を有しているため、配向膜の中に染み込みやすく、配向膜中の原子Xの平均検出量を上記範囲にしやすい点で好ましい。
【0065】
【化4】

【0066】
【化5】
【0067】
【化6】
【0068】
【化7】
【0069】
【化8】
【0070】
【化9】
【0071】
【化10】
【0072】
【化11】
【0073】
【化12】
【0074】
【化13】
【0075】
ポジティブA層は、本発明の効果を阻害しない範囲で、光安定剤及び酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。
【0076】
ポジティブA層は、例えば、ポジティブA層を構成する成分を溶剤に溶解又は希釈してなるポジティブA層用塗布液を調製し、当該塗布液をポジティブC層上に塗布、乾燥し、必要に応じて電離放射線を照射して硬化することにより形成することができる。
【0077】
ポジティブA層用塗布液の溶剤は、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール類(イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、グリコールエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が例示でき、これらの混合物であってもよい。
【0078】
上記溶剤の中でも、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、1,3-ジオキソラン、トルエンなどを含むことが好ましく、中でも、極性が高く配向層に浸透しやすいシクロヘキサノン及び1,3-ジオキソランを含むことがより好ましい。
【0079】
ポジティブA層用塗布液中の溶剤の割合は、70質量%~95質量%であることが好ましく、75質量%~90質量%であることがより好ましい。
【0080】
<基材>
光学積層体は、基材を有していてもよい。
基材としては、プラスチックフィルムが好ましい。
プラスチックフィルムを構成するポリマーとしては、セルロースアシレート、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー及びエポキシ系ポリマー等が挙げられる。
【0081】
画像表示装置の薄型化を考慮すると、基材は、配向層及びポジティブA層を剥離可能なものが好ましい。剥離可能な基材を用いることにより、画像表示装置の他の部材に、配向層及びポジティブA層を転写することができる。
本発明の光学積層体は、配向層とポジティブA層との密着性が良好であるため、転写時に生じる応力で配向層とポジティブA層との界面が剥離することを抑制できるため、剥離可能な基材を適用しやすい点で好ましい。
剥離可能な基材は、例えば、上記プラスチックフィルムそのもの、又は、上記プラスチックフィルムの表面を汎用の離型剤等で離型処理したものが挙げられる。
【0082】
基材の厚みは、通常25μm~150μm程度であり、好ましくは30μm~125μm、より好ましくは40μm~100μmである。
【0083】
<その他の層>
光学積層体は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、ガスバリア層、接着剤層、位相差層等が挙げられる。
【0084】
<光学積層体の物性>
本発明の光学積層体は、光学積層体の波長450nmにおける面内位相差をRe(450)、光学積層体の波長550nmにおける面内位相差をRe(550)、光学積層体の波長650nmにおける面内位相差をRe(650)と定義した際に、下記式(A)の関係を満たすことが好ましい。
Re(450)<Re(550)<Re(650) (A)
【0085】
式(A)を満たすことにより、光学積層体全体として逆波長分散特性を示すことになり、550nmから外れた波長域における視認性及び反射防止性等を良好にしやすくできる。
【0086】
光学積層体は、JIS K7136:2000のヘイズが1.0%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましい。
また、光学積層体は、JIS K7361-1:1997の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0087】
光学積層体の総厚みは特に限定されないが、取り扱い性及び機械的強度を良好にする観点から、15μm~300μmであることが好ましく、20μm~200μmであることがより好ましく、25μm~100μmであることがさらに好ましい。
【0088】
<大きさ、形状等>
光学積層体は枚葉状であってもよいしロール状であってもよい。
また、枚葉の大きさは特に限定されないが、一般的には、大きさは対角で2インチから500インチ程度である。ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は500mmから3000mm、長さは500mから5000m程度である。
また、枚葉の形状も特に限定されず、例えば、多角形(三角形、四角形、五角形等)や円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。
【0089】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置されてなる透明保護板Aと、前記偏光子の他方の側に配置されてなる透明保護板Bとを有する偏光板であって、前記透明保護板A及び前記透明保護板Bの何れか一方が、上述した本発明の光学積層体であるものである。
【0090】
図2は、本発明の偏光板の実施の形態を示す断面図である。
図2の偏光板200は、偏光子50と、前記偏光子の一方の側に配置されてなる透明保護板A(61)と、前記偏光子の他方の側に配置されてなる透明保護板B(62)とを有している。また、図2の透明保護板A(61)は、光学積層体100である。
【0091】
<偏光子>
偏光子としては、例えば、ヨウ素等により染色し、延伸したポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等のシート型偏光子、平行に並べられた多数の金属ワイヤからなるワイヤーグリッド型偏光子、リオトロピック液晶や二色性ゲスト-ホスト材料を塗布した塗布型偏光子、多層薄膜型偏光子等が挙げられる。なお、これらの偏光子は、透過しない偏光成分を反射する機能を備えた反射型偏光子であってもよい。
【0092】
<透明保護板>
偏光子の一方の側には透明保護板A、他方の側には透明保護板Bが配置される。透明保護板A及び透明保護板Bの一方は、上述した本発明の光学積層体である。
【0093】
光学積層体以外の透明保護板A及び透明保護板Bとしては、プラスチックフィルム及びガラス等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム及びアクリルフィルムが挙げられ、機械的強度の観点から、これらの延伸フィルムが好ましい。ガラスは、アルカリガラス、窒化ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸塩ガラス及び鉛ガラス等が挙げられる。また、偏光子を保護する透明保護板としてのガラスは、画像表示装置の他の部材(例えば、液晶表示素子のガラス基板、画像表示装置の表面板)と兼用することが好ましい。
なお、偏光子と透明保護板とは、接着剤を介して貼り合わせることが好ましい。接着剤は汎用の接着剤を用いることができ、PVA系接着剤が好ましい。
【0094】
本発明の偏光板は、表示素子の光出射面側に配置する偏光板として用いることが好ましい。また、前記のように用いる際に、偏光子を基準として光入射面側の透明保護板を上述した本発明の光学積層体とすることが好ましい。なお、偏光板を円偏光板として機能させる観点から、偏光子の吸収軸に対する、ポジティブA層の遅相軸の向きは30°~60°の範囲とすることが好ましく、40°~50°の範囲とすることがより好ましい。
【0095】
[表示パネル]
本発明の表示パネルは、表示素子の光出射面側の面上に、上述した本発明の光学積層体が配置されてなるものである。
【0096】
図3は、本発明の表示パネル500の実施の形態を示す断面図である。図3の表示パネル500は、表示素子300の光出射面側の面上に、光学積層体100が積層されている。
【0097】
表示パネルの表示素子が液晶表示素子である場合、液晶表示素子の背面には図示しないバックライトが必要である。バックライトとしては、エッジライト型バックライト、直下型バックライトの何れも用いることができる。また、バックライトの光源としては、LED、CCFL等が挙げられるが、光源として量子ドットを用いたバックライトは色再現性を高めやすい点で好ましい。
【0098】
表示パネルは、光学積層体の表示素子とは反対側の面に偏光子を有することが好ましい。かかる構成を採用することで、画像表示装置に外光反射防止機能を付与するとともに、斜めから視認した際に色味が損なわれることを抑制できる。
【0099】
<表示素子>
表示素子としては、液晶表示素子、有機EL表示素子、無機EL表示素子、プラズマ表示素子、電子ペーパー表示素子、LED表示素子(マイクロLEDなど)、量子ドットを用いた表示素子等が挙げられる。これら表示素子は、表示素子の内部にタッチパネル機能を有していてもよい。
【0100】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、本発明の表示パネルを備えるものであれば特に限定されないが、本発明の表示パネルと、該表示パネルに電気的に接続された駆動制御部と、これらを収容する筐体とを備えることが好ましい。
【0101】
画像表示装置は、フォルダブル型の画像表示装置、ローラブル型の画像表示装置であってもよい。また、画像表示装置は、タッチパネル付きの画像表示装置であってもよい。
【実施例0102】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準とする。
【0103】
1.測定、評価
実施例及び比較例で得られた光学積層体について、下記の測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
1-1.硫黄原子の測定
実施例及び比較例の光学積層体を所定の大きさに切断したカットサンプルを作製し、当該カットサンプルをエポキシ樹脂で包埋してなる包埋サンプルを作製した。次いで、当該包埋サンプルをダイヤモンドナイフで垂直に切断してなる、薄片の測定用サンプル(厚み0.08μm)を20個ずつ作製した。
次いで、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により、測定用サンプルのポジティブA層内及び配向層内の硫黄原子の質量基準の検出量を測定した。測定結果を元に、ポジティブA層内の硫黄原子の平均検出量を質量基準で100と規格化したときの、配向層(ポジティブC層)内の原子Xの平均検出量を算出し、20個のサンプルの平均値を算出した。結果を表1に示す。
さらに、上記測定結果を元に、明細書本文の「条件1の変動係数」及び「条件2の比」を算出した。結果を表1に示す。
SEM-EDXの測定装置は、日立ハイテクノロジーズ社製のSEM“SU8000”、オックスフォード・インストゥルメンツ製のEDX“XMAX80”を用いた。また、同装置の測定条件は下記のように設定した。
<測定条件>
加速電圧30kV、焦点距離15mm、(試料傾斜0度)に合わせ、照射電流や測定時間を目的元素が十分検出できるように適時調整して特性X線スペクトルを取得した。各元素の濃度は、ZAF補正法(各元素の相対強度に原子番号補正Z、吸収補正A、蛍光補正Fを施して各元素の含有量を求める方法)によって算出した。
【0105】
1-2.密着性
実施例及び比較例の光学積層体の中間体を、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間保管した後に、実施例及び比較例の光学積層体の中間体の配向層(ポジティブC層)及びポジティブA層を粘着層付ガラスに転写してガラス積層体とし、そのガラス積層体の配向層(ポジティブC層)側から刃を入れ、100マスの碁盤目状(縦10マス×横10マス)に、刃先が粘着層まで到達するようにクロスカットした。碁盤目のカット間隔は、1mmのものと、2mmのものとの2種類を準備した。
上記クロスカットを施したサンプルの、クロスカットを施した表面に、粘着テープ(ニチバン株式会社製、製品名「3M社製、Scotch はってはがせるテープ、CAT.NO.811-3-18)を貼り付けし、JIS K5600-5-6:1999に規定されるクロスカット法に準拠し剥離試験を行った。カット間隔1mm及び2mmのそれぞれについて、剥がれた目の数をマイクロスコープ(キーエンス社製のデジタルマイクロスコープVH5500、設定倍率100倍)で評価した。結果を表1に示す。なお、「0/100」は剥がれた目の数が0であり、配向層(ポジティブC層)とポジティブA層との密着性が最良であることを示し、「100/100」は全ての目が剥がれ、配向層(ポジティブC層)とポジティブA層との密着性が乏しいことを示している。
【0106】
1-3.転写作業性
実施例及び比較例の光学積層体(実施例及び比較例の光学積層体の中間体の配向層(ポジティブC層)及びポジティブA層をガラスに転写した積層体)に関して、ポジティブA層とポジティブC層との界面で剥離が生じているか否かをマイクロスコープ(キーエンス社製デジタルマイクロスコープVH5500、設定倍率100倍)で評価した。剥離が確認できないものを「A」、剥離が確認できたものを「C」とした。結果を表1に示す。
【0107】
2.配向層の化合物の合成
2-1.実施例で用いる化合物の合成
(単量体1)
4,4’-ビフェニルジオールと2-クロロエタノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-ヒドロキシ-4’-ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。この生成物に、アルカリ条件下で1,6-ジブロモヘキサンを反応させ、4-(6-ブロモヘキシルオキシ)-4’-ヒドロキシエトキシビフェニルを合成した。次いで、リチウムメタクリレートを反応させ、下記の化学式(30)で示される単量体1を合成した。
【0108】
(単量体2)
単量体1に、塩基性の条件下において、塩化シンナモイルを加え、下記の化学式(31)で示される単量体2を合成した。
【化14】
【0109】
(重合体1)
単量体1と単量体2をモル比3:7でテトラヒドロフラン中に溶解し、反応開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、70℃で24時間重合することにより感光性の重合体1を得た。この重合体1は液晶性を呈した。
【0110】
2-2.比較例で用いる化合物の準備
比較例の配向膜にはポリシンナメート系化合物を含有する配向膜形成組成物を使用した。
【0111】
3.ポジティブA層の化合物の合成
特開2019-73712号公報の実施例の製造例10の記載に準じて、下記の硫黄原子を含む化合物a(化学式(5)の化合物)を合成した。
【0112】
【化15】
【0113】
4.光学積層体の作製
[実施例1]
上記2-1で得た重合体1をシクロヘキサノンに溶解し、光重合開始剤(東京化成社の4、4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)を添加し、ポジティブC層用塗布液1を調製した。ポジティブC層用塗布液1中の光重合開始剤の含有量は、100質量部の重合体1に対して2重量部とした。
基材(厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、製品名「A4100」、東洋紡社)上に、ポジティブC層用塗布液1をミヤバーを用いて0.6μmの厚みとなるよう塗布し、室温(約25℃)で乾燥した。次いで、130℃まで加熱した後冷却し、ホメオトロピック配向層であるポジティブC層を形成した。ポジティブC層のRe(550)は3.2nm、Rth(550)は-73nmであった。
次いで、ポジティブC層に直線偏光性紫外線(高圧水銀灯の光を、グランテラープリズムを介して直線偏光性を付与してなる紫外線)を15秒間照射し、重合体1の感光性基の光反応を異方的に進行させた。
次いで、ポジティブC層上に、下記のポジティブA層用塗布液1を硬化後の厚みが2μmになるように塗布し、成膜した。その後、120℃で60秒間乾燥させた後に、Fusion社製のHバルブを用いて、紫外線(非偏光の紫外線)を照射量400mJ/cmで照射し、ポジティブA層を形成し、実施例1の光学積層体の中間体を得た。ポジティブA層のRe(550)は161nm、積層体のRth(550)は-5nmであった。
次いで、ガラス基材上に透明粘着剤層(パナック社製、商品名:パナクリーンPD-S1、厚み25μm)を形成し、実施例及び比較例の光学積層体のポジティブA層側の面を当該透明粘着剤層に貼り合わせた。次いで、剥離可能な基材(PETフィルム)を剥離し、ガラス基材、透明粘着剤層、ポジティブA層、ポジティブC層をこの順に有する、実施例1の光学積層体を得た。光学積層体は、Re(450)が136nm、Re(550)が161nm、Re(650)が164nm、Rth(550)が-5nmであった。
【0114】
<ポジティブA層用塗布液1>
・上記3で得た硫黄原子を含む化合物a 100質量部
・光重合開始剤 4質量部
(2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、IGM Resins B.V.社、商品名「Omnirad 907」)
・トルエン 70質量部
・シクロヘキサノン 30質量部
【0115】
[比較例1]
ポジティブC層用塗布液1を、下記のポジティブC層用塗布液2に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の光学積層体を得た。比較例1のポジティブC層は、Re(550)が0.5nm、Rth(550)が-0.2nmであった。
【0116】
<ポジティブC層用塗布液2>
・重合性液晶化合物 4質量部
(ポリシンナメート系化合物)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 96質量部
【0117】
【表1】
【0118】
実施例の結果から、実施例の光学積層体は、配向層とポジティブA層とが直接積層されてなるため、薄型化に寄与し得るものであり、かつ、配向層とポジティブA層との密着性に優れたものであることが確認できる。
【符号の説明】
【0119】
10:基材
20:配向層
30:ポジティブA層
50:偏光子
61:透明保護板A
62:保護保護板B
100:光学積層体
200:偏光板
300:表示素子
500:表示パネル
図1
図2
図3