(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075699
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20240528BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240528BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240528BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240528BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240528BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/443 C
H01M50/414
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/489
H01M50/443 D
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044990
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2020071825の分割
【原出願日】2020-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】中尾 哲士
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、品質の向上(未溶融物量の低減)が図られた微多孔膜を提供することである。
【解決手段】ポリエチレン樹脂と、そのポリエチレン樹脂とは異なり融点が140℃~330℃の樹脂とを含む微多孔膜であって、固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150℃~300℃の範囲で10Pa~10,000,000Paである微多孔膜が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂と、前記ポリエチレン樹脂とは異なり融点が140℃~330℃の樹脂とを含む微多孔膜であって、
固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)が150℃~300℃の範囲で1,000,000Pa~10,000,000Paであり、損失弾性率(E”)が150℃~300℃の範囲で10Pa~580,000Paであり、
2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂が前記ポリエチレン樹脂中に粒状に分散しており、かつ
前記2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂の平均粒径が6μm~10μmである、微多孔膜。
【請求項2】
前記2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂の少なくとも1つの粒径が5.1μm~10μmである、請求項1に記載の微多孔膜。
【請求項3】
前記融点が140℃~330℃の樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ベンゼン環含有樹脂、及びヘテロ原子含有樹脂から成る群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の微多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂が、ホモポリプロピレンを除く、請求項3に記載の微多孔膜。
【請求項5】
前記ベンゼン環含有樹脂が、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンエーテルから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の微多孔膜。
【請求項6】
前記ヘテロ原子含有樹脂が、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリケトンから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の微多孔膜。
【請求項7】
前記ポリエチレン樹脂が超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の微多孔膜。
【請求項8】
前記融点が140℃~330℃の樹脂と前記ポリエチレン樹脂との質量比(前記融点が140℃~330℃の樹脂/前記ポリエチレン樹脂)が、0.01/0.99~0.90/0.10である、請求項1~7のいずれか1項に記載の微多孔膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の微多孔膜を備える蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の微多孔膜を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の微多孔膜を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上の樹脂を含有する微多孔膜、及びかかる微多孔膜を備えるセパレータ(例えば、蓄電デバイス用セパレータ)等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、精密ろ過膜、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、及び蓄電デバイス用セパレータ又はそれらの構成材料等として広く用いられている。
【0003】
ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、及びデジタルカメラ等には、リチウムイオン二次電池(LIB)が広く使用されている。このうち、LIB用セパレータ又はその構成材料としては、例えばポリオレフィン微多孔膜が知られている。特許文献1には、高強度、高比表面積、及び高細孔容積等を目的とした、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法が提案されている。特許文献1では、重量平均分子量が500,000以上のポリオレフィン樹脂と、流動パラフィンとを溶融混錬し、得られた樹脂組成物から流動パラフィンを抽出することによってポリオレフィン微多孔膜を製造している。特許文献2には、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂と、ポリオレフィン以外の樹脂(例えばポリアミド)とを予め押出機で混錬してペレット化してから、ペレットと、流動パラフィンとを混合して押出成形して、さらに流動パラフィンを抽出することにより微多孔膜を製造する方法が記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-088189号公報
【特許文献2】特開2002-226639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、蓄電デバイスに用いられるセパレータには、品質の向上(未溶融物量の低減)が一層求められている。品質の向上が図られた微多孔膜を備えることで、品質の向上が図られたセパレータを提供でき、そして品質の向上が図られたセパレータを備えることで、安全性(釘刺試験における安全性)に優れ、かつ、充放電を繰り返したときの容量維持特性(サイクル特性)に優れた蓄電デバイスが実現可能であると期待される。
上記の状況に対して、特許文献1及び2に記載の微多孔膜には、品質の向上という観点で改良の余地があった。
【0006】
上記の事情に鑑み、本発明は、品質の向上(未溶融物量の低減)が図られた微多孔膜を提供することを目的とする。また、本発明の一実施形態により、蓄電デバイスの安全性(釘刺試験における安全性)かつサイクル特性の向上を図ることが可能な該微多孔膜、かかる微多孔膜を備えるセパレータ(蓄電デバイス用セパレータ)、かかる微多孔膜を備える蓄電デバイスも開示される。
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を行い、以下の構成を有する蓄電デバイス用セパレータを用いることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。本発明の態様の一部を、以下に例示する。
[1] ポリエチレン樹脂と、前記ポリエチレン樹脂とは異なり融点が140℃~330℃の樹脂とを含む微多孔膜であって、
固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150℃~300℃の範囲で10Pa~10,000,000Paである微多孔膜。
[2] 2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂が前記ポリエチレン樹脂中に粒状に分散している、[1]に記載の微多孔膜。
[3] 前記2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂の少なくとも1つの粒径が5.1μm~10μmである、[2]に記載の微多孔膜。
[4] 前記2D分光学マッピング測定において、前記融点が140℃~330℃の樹脂の平均粒径が5.1μm~10μmである、[2]又は[3]に記載の微多孔膜。
[5] 前記融点が140℃~330℃の樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ベンゼン環含有樹脂、及びヘテロ原子含有樹脂から成る群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の微多孔膜。
[6] 前記ポリオレフィン樹脂が、ホモポリプロピレンを除く、[5]に記載の微多孔膜。
[7] 前記ベンゼン環含有樹脂が、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンエーテルから成る群より選択される少なくとも1種である、[5]に記載の微多孔膜。
[8] 前記ヘテロ原子含有樹脂が、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリケトンから成る群より選択される少なくとも1種である、[5]に記載の微多孔膜。
[9] 前記ポリエチレン樹脂が超高分子量ポリエチレンを含む、[1]~[8]のいずれか1項に記載の微多孔膜。
[10] 前記融点が140℃~330℃の樹脂と前記ポリエチレン樹脂との質量比(前記融点が140℃~330℃の樹脂/前記ポリエチレン樹脂)が、0.01/0.99~0.90/0.10である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の微多孔膜。
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の微多孔膜を備える蓄電デバイス用セパレータ。
[12] [1]~[10]のいずれか1項に記載の微多孔膜を備えるリチウムイオン二次電池。
[13] [1]~[10]のいずれか1項に記載の微多孔膜を備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、品質の向上(未溶融物量の低減)が図られた微多孔膜を提供できる。また、本発明によれば、かかる微多孔膜を備えることで、品質の向上が図られたセパレータを提供できる。このようなセパレータを備えることで、安全性(釘刺試験における安全性)に優れ、かつ、サイクル特性に優れた蓄電デバイスが実現可能であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る2D分光学マッピングの測定結果の一例を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(「本実施形態」という)を説明するが、本発明は本実施形態のみに限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0011】
<微多孔膜>
本実施形態に係る微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」と称することがある)は、ポリエチレン樹脂(以下、「第1樹脂」と称することがある)と、その第1樹脂とは異なりかつ融点が140~330℃の樹脂(以下、「第2樹脂」と称することがある)とを含む。そして、微多孔膜は、固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150~300℃の範囲で10~10,000,000Paである。
【0012】
微多孔膜は、精密ろ過膜、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、蓄電デバイス用セパレータ、電気分解膜又はそれらの構成材料等として利用可能である。
蓄電デバイス用セパレータ又はその構成材料、特に特にLIB用セパレータ又はその構成材料として微多孔膜が用いられる場合、微多孔膜は、それ自体が該セパレータとして用いられてもよく、微多孔膜の少なくとも片面に他の層又は他の膜が設けられたものが該セパレータとして用いられてもよい。蓄電デバイス用セパレータに用いられる微多孔膜としては、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、そして、孔径の微細なものが好ましい。
【0013】
実施例欄に記載のとおり、実施例に該当する微多孔膜は、比較例に該当する微多孔膜に比べて、未溶融物量(凝集物量、すなわちゲル含有量)の低減が図られている、つまり、品質の向上が図られている。
【0014】
このような品質の向上を達成するには、第1樹脂中に第2樹脂が好適に分散することが好ましい。つまり、第2樹脂が第1樹脂中に粒状に分散することが好ましい。上記の好適な分散は、第1樹脂と第2樹脂を単に混合するだけでは得られ難い。しかしながら、第1樹脂を含む第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)と、第2樹脂を含む第2成分(例えば、第2樹脂のペレット)とを各々作製し、そしてそれらを押出機に投入する手法に基づくことで、上記の好適な分散が得られる傾向にある。かかる手法については後述する。
【0015】
本実施形態に係る微多孔膜の温度-E’グラフ、及び温度-E”グラフについては、200℃を超えたあたりで線が途切れていることがある。その理由は、微多孔膜の昇温とともに、その微多孔膜が含有可能な樹脂成分(例えば、ナイロン12)の融点を超えた後、その融点を超えた樹脂成分の粘度が低下し、破断に至るためである。ただし、破断する温度は、樹脂成分の融点と一概に相関せず、ポリエチレン(PE)中に分散するドメインの大きさ、微多孔膜が含有可能な樹脂成分(例えば、ヘテロ原子含有樹脂等、第2樹脂の分子量等)により調整することが可能である。
なお、仮に貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)を300℃まで測定せずとも、これらは150℃以上で減少傾向にある場合が多いため、150℃の時点で10,000,000Pa以下であれば、上記要件「150~300℃の範囲で10~10,000,000Pa」を満たす可能性が高い。
【0016】
本実施形態において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)に着目する意義は以下のとおりである。
貯蔵弾性率(E’)は、動的挙動中における材料の剛性、すなわち、材料の硬さを表している。貯蔵弾性率(E’)の値が低くなるほど材料の剛性が低くなる。貯蔵弾性率(E’)が、150~300℃の範囲で10~10,000,000Paであることで、微多孔膜が上記の温度の範囲で所望の剛性を有するようになる。
また、損失弾性率(E”)は、動的挙動中における材料の消失エネルギー、すなわち、材料の粘性を表している。損失弾性率(E”)の値が低くなるほど低粘度になる。損失弾性率(E”)が、150~300℃の範囲で10~10,000,000Paであることで、微多孔膜が上記の温度の範囲で所望の粘性を有するようになる。
これらのとおり、固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150~300℃の範囲で10~10,000,000Paである微多孔膜は、その150~300℃の範囲で、所望の剛性と所望の粘性とを両立する。
【0017】
この点、理論に拘束されることを望まないが、固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150~300℃の範囲で10Pa以上であることにより、蓄電デバイスの内部短絡による温度上昇によって該蓄電デバイス内の微多孔膜が溶融するとき、その溶融した樹脂(微多孔膜)が電極の空孔に侵入してアンカー効果を発現すると考えられる。そして、溶融した樹脂が電極の空孔に侵入した状態でその場に留まるため、短絡面積の増加を抑えることができると考えられる。
同様に、理論に拘束されることを望まないが、固体粘弾性測定において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に、150~300℃の範囲で10,000,000Pa以下であることにより、溶融した樹脂(微多孔膜)が適度な粘弾性を有するようになるため、溶融した樹脂の流動性が上がりすぎることなく、樹脂の流出による電極の露出又は短絡面積の増加を抑制することができると考えられる。
よって、たとえ高エネルギー密度の蓄電デバイス、例えば、大型LIB、更に具体的には車載用LIBであっても、そのような蓄電デバイスが、本実施形態に係る微多孔膜を具備するセパレータを備えることで、内部短絡時に熱暴走を防止し易くなる。
【0018】
内部短絡時に熱暴走を防止し易くする観点から、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)が共に150~300℃の範囲で、好ましくは20Pa以上、より好ましくは30Pa以上であり、好ましくは9,950,000Pa以下、より好ましくは9,900,000Pa以下である。
なお、貯蔵弾性率(E’)は、50Pa以上であってもよく、100Pa以上であってもよい。また、損失弾性率(E”)は、30~700,000Paであってもよく、50~600,000Paであってもよい。
【0019】
微多孔膜の固体粘弾性を測定した場合と、微多孔膜の樹脂原料の固体粘弾性を測定した場合とでは、得られる値が異なる場合がある。また、樹脂原料の固体粘弾性を測定可能な手法でも、その樹脂原料から得られる微多孔膜の固体粘弾性を測定するのに好ましくない手法もある。本実施形態において、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)はそれぞれ、微多孔膜を対象とする手法(すなわち、実施例に記載の手法)により測定される。
微多孔膜を対象として、150~300℃の範囲で、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E”)を特定の範囲に制御する意義は、蓄電デバイスの内部短絡が生じたとき、その蓄電デバイス内のセパレータを構成する樹脂(微多孔膜)の粘弾性を特定の範囲に制御し易くする点にある。本実施形態では、樹脂原料を対象とするのではなく微多孔膜を対象として、粘弾性に関するパラメータを特定の範囲に制御しているため、蓄電デバイスに内部短絡が生じたとき、その蓄電デバイス内のセパレータが所望の粘弾性を得易くなり、ひいては、内部短絡時に熱暴走を防止し易くなる。
【0020】
(第1成分)
第1成分は、第1樹脂(ポリエチレン樹脂)を含む。第1樹脂は、粘度平均分子量(Mv)が100,000~9,700,000、かつ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比として表される分散度(Mw/Mn)が3~18であることが好ましい。このようなポリエチレン樹脂は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とも称される。
【0021】
第1樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、より好ましくは120,000~9,000,000、更に好ましくは200,000~8,500,000である。また、その分散度(Mw/Mn)は、上記の3~7に限られず、3~18であることも好ましく、4~14であることも更に好ましく、4~13であることも極めて好ましい。
【0022】
ここで、第1成分は、未溶融物量を低減し易くする観点から、その第1成分の全質量を基準として、上記の第1樹脂を2~100質量%含むパウダーであることが好ましい。得られる微多孔膜の強度を確保する観点から、第1成分中の第1樹脂の含有量は、より好ましくは4質量%以上である。
【0023】
第1樹脂は、単一種のみならず、複数種のUHMWPEを含んでもよい。UHMWPEは、微多孔膜の高強度の観点から、好ましくはポリ(エチレン、及び/又はプロピレン-co-α-オレフィン)であり、より好ましくはポリ(エチレン-co-プロピレン)、ポリ(エチレン-co-ブテン)、及びポリ(エチレン-co-プロピレン-co-ブテン)から成る群から選択される少なくとも1つである。同様の観点から、UHMWPEは、好ましくは、エチレン由来の構成単位を98.5モル%以上100モル%以下で含み、より好ましくは、エチレン以外のα-オレフィンに由来する構成単位を0.0モル%超1.5モル%以下で含む。
【0024】
また、第1樹脂は、UHMWPE以外のポリエチレン樹脂を含んでもよい。UHMWPE以外のポリエチレン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の低密度ポリオレフィン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
第1成分として好ましい「パウダー」とは、数平均粒径(Nd50)が80μm~180μmであること、体積平均粒径(Nd50)が120μm~220μmであること、数粒径分布(Nd80/Nd20)が1.1~4.2であり、好ましくは1.2~4.1であること、体積粒径分布(Vd80/Vd20)が1.1~3.3であり、好ましくは1.15~3.2あること、結晶子サイズが10.0nm~30.0nmであり、好ましくは11.0nm~28.0nmであり、より好ましくは12.0nm~23.0nmであること、結晶化度が30%~99%、好ましくは32%~98%で、より好ましくは38%~97.5%であること、ポリエチレンを含むこと、から成る群より選択される少なくとも1つの条件を満たすものをいう。これらの数平均粒径(Nd50)、体積平均粒径(Vd50)、数粒径分布(Nd80/Nd20)、体積粒径分布(Vd80/Vd20)、結晶子サイズ、結晶化度等は、既知の手法により測定可能である。
【0026】
例えば、数平均粒径(Nd50)、体積平均粒径(Vd50)、数粒径分布(Nd80/Nd20)、及び体積粒径分布(Vd80/Vd20)については、Micromeritics製フロー式画像解析粒子径・形状測定装置Particle Insightを用いた測定により得ることができる。また、例えば、結晶子サイズ、及び結晶化度については、リガク社製X線回折装置Ultima-IVを用いたXRD測定により得ることができる。
【0027】
なお、第1成分は、本発明の作用効果の発揮を阻害しない範囲で、第1樹脂以外の樹脂を含んでもよい。第1樹脂以外の樹脂としては、後述する第2樹脂として添加可能な樹脂等が挙げられる。
また、第1成分は、本発明の作用効果の発揮を阻害しない範囲で、樹脂以外の添加物を含んでもよい。添加物としては、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等が挙げられる。
【0028】
(第2成分)
第2成分は、上記の第1樹脂とは異なる第2樹脂(融点が140℃~330℃の樹脂)を含む。第2樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン6-66、アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブテンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;エチレンとビニルアルコールの共重合体(例えば、株式会社クラレ製 エバール 融点:157℃~190℃)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。これらの樹脂は、単数又は複数で使用されることができる。
【0029】
このような第2樹脂を用いることで、得られる微多孔膜の耐熱性を向上させ易くなる。そして、このような第2樹脂が上記の第1樹脂中に好適に分散することで、第2樹脂が第1樹脂によって包まれる形となり、つまり、微多孔膜の内部に第2樹脂が取り込まれる形となる。これにより、微多孔膜の表面における第2樹脂の露出を少なくできるので、たとえ微多孔膜と電極とを接触させたとしても、その電極と第2樹脂との接触面積を少なくできる。従って、第2樹脂の酸化還元分解が電極によって引き起こされる可能性を少なくできる。
【0030】
第2樹脂は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ホモポリプロピレン(PP)を除くことができ、かつ/又はプロピレンの繰り返し単位を構成成分として含む樹脂を除くことができる。これらのポリオレフィン樹脂は、単数又は複数で使用されることができる。
【0031】
また、第2樹脂は、ベンゼン環含有樹脂であることが好ましい。ベンゼン環含有樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンエーテルから成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのベンゼン環含有樹脂は、単数又は複数で使用されることができる。
【0032】
また、第2樹脂は、ヘテロ原子含有樹脂であることが好ましい。ヘテロ原子含有樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリケトンから成る群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのヘテロ原子含有樹脂は、単数又は複数で使用されることができる。
【0033】
第2樹脂が複数の樹脂から成る場合、第2樹脂の融点は、第2樹脂を構成する各々の樹脂の融点ではなく、第2樹脂の全体としての融点を意味する。従って、融点が140℃~330℃の範囲外の樹脂を含んでいても、全体として融点が140℃~330℃の範囲に収まれば、第2樹脂に該当する。第1樹脂と第2樹脂とは、全体の組成が異なればよい。このため、例えば、第2樹脂を構成する樹脂に第1樹脂(ポリエチレン樹脂)が含まれていてもよい。仮に、ポリエチレン樹脂の融点が140℃未満であっても、他の樹脂との組み合わせによって、全体として融点が140℃~330℃の範囲に収まるように構成されていれば、それは第2樹脂に該当する。
【0034】
このような第2樹脂としては、粘度平均分子量(Mv)が10,000~300,000、かつ、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の分散度(Mw/Mn)が3~18であることが好ましい。
【0035】
ここで、第2成分は、その第2成分の全質量を基準として、第2樹脂を2質量%~100質量%含むペレットであることが好ましい。膜強度の確保とヒューズ特性の発現との両立の視点から、第2成分中の第2樹脂は、より好ましくは2.1質量%以上、更に好ましくは2.3質量%以上である。
【0036】
第2成分は、本発明の作用効果の発揮を阻害しない範囲で、樹脂以外の添加物を含んでもよい。添加物としては、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等が挙げられる。
【0037】
ペレットである第2成分は、例えば、重合した第2樹脂のパウダーを乾燥した後、それを押出機によりストランド状に押出し、水冷後、ペレット状にカットすることで得ることができる。原料となるパウダーにおける、粘度平均分子量(Mv)は30,000~3,500,000であることが好ましく、分散度(Mw/Mn)は3~15であることが好ましい。
また、第2成分をペレット状に成型したときの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは35,000~3,300,000であり、より好ましくは、30,000~3,200,000である。そして、分散度は、好ましくは3~15、より好ましくは4~14、更に好ましくは4~13である。
【0038】
ここで、第2成分として好ましい「ペレット」とは、第1成分として好ましい「パウダー」の数平均粒径(Nd50)、及び体積平均粒径(Vd50)よりも大きく、かつ、1辺の長さが最大10mm以下であり、1mm以上の樹脂物である。ペレットの形状は特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、及び柱形のいずれでもよい。原料を押出機により、溶融押出を行い、水冷又は空冷させながら、ストランド状に整え、連続的に切断することで得られる。大きさや形状は、ストランド形成や切断法式で調整できる。
【0039】
このように、上記の「パウダー」を溶融押出させて上記の「ペレット」に調整することで、可塑剤による膨潤速度を大幅に遅らせることができる(後述のとおり、ペレットである第2成分は、実質的に膨潤しない)。押出機の内部では、第1成分の膨潤を阻害しないことが重要である。また、膨潤工程後の溶融工程で、均一溶融の視点からは、第2成分として好ましい「ペレット」とは、第1成分として好ましい「パウダー」の結晶子サイズよりも大きく、かつ、上記の範囲の結晶子サイズを有するものをいう。
更に、第2成分として好ましい「ペレット」とは、第1成分として好ましい「パウダー」の結晶化度よりも小さく、かつ、上記の範囲の結晶化度を有するものをいう。ペレットの製造方法では、ストランド状に押出樹脂の温度や切断時の冷却温度又は押出よりストランド状の引き速度(溶融微延伸)など、ペレットの結晶子サイズ、結晶化度、ペレットの大きさ、形状を調整できる。これらの数平均粒径(Nd50)、体積平均粒径(Vd50)、結晶子サイズ、結晶化度等は、既知の手法により測定可能である。
【0040】
例えば、これらの数平均粒径(Nd50)、体積平均粒径(Vd50)、結晶子サイズ、及び結晶化度は、第1成分の項目で記載した手法と同様の手法により測定可能である。
また、ペレットの大きさは、例えば、校正済みのノギスによって1辺の長さを計測することで、得ることができる。
【0041】
第2成分をペレット状に形成することで、第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)と混合したときの、二軸押出機内での可塑剤の膨潤の均一性を著しく向上させ易くなる。これは、第2成分をペレット状に形成することで、例えばそのような第2成分のパウダーと比べ、その膨潤速度を著しく遅くすることができるためであると考えられる。そのため、第2成分は、第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)の膨潤を過度に阻害することなく、また、かかるペレット自体は基本的には膨潤しないで、その後の熔融混練において好適に利用される。これにより、溶融混錬のプロセスでも容易に均一に分子レベルまで、第1成分中に第2成分を分散させ易くなる。
【0042】
上記の通り、ペレットである第2成分は、その膨潤速度がパウダーの膨潤速度に比べて著しく遅く、そのため実質的に膨潤しない。だからこそ、第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)の膨潤が、第2成分によって過度に阻害されることを防止することができる。
【0043】
(2D分光学マッピング測定)
図1は、本実施形態に係る微多孔膜の2D分光学マッピング測定結果を示す画像である。
図1中、白線により四角で囲まれた部分の拡大画像が示され、白線により丸で囲まれた部分は、特定の伸縮振動吸収帯と対応する。2D分光学マッピング測定において、第2樹脂が第1樹脂(ポリエチレン樹脂)中に粒状に分散していることが好ましい。「第2樹脂が第1樹脂中に粒状に分散」とは、2D分光学マッピング測定により得られる画像において、第2樹脂が第1樹脂中に海島状又はドット状に観察されることを意味する。観察エリアにおいて、第1樹脂の面積の方が第2樹脂の面積より多くても構わない。観察エリア、及び観察倍率は、第2樹脂の全体像が好適に確認されるように適宜変更可能である。2D分光学マッピング測定の具体例は、実施例に記載のとおりである。
【0044】
また、2D分光学マッピング測定において、第2樹脂(融点が140℃~330℃の樹脂)の少なくとも1つの粒径が5.1~10μmであることが好ましく、5.2~9.8μmであることがより好ましい。ここでいう粒径は、粒状である第2樹脂の長径でもよく、短径でもよく、又は長径と短径との平均でもよい。
観察エリアは適宜変更可能である。任意の観察エリアにおいて、少なくとも5.1~10μmの粒径を有する第2樹脂が存在すればよい。第1樹脂中において第2樹脂が好適に分散することで、該第2樹脂が、少なくとも5.1~10μmの粒径を有するように成る。
【0045】
また、2D分光学マッピング測定において、第2樹脂(融点が140℃~330℃の樹脂)の平均粒径が5.1~10μmであることが好ましく、5.2~9.8μmであることがより好ましい。第1樹脂中において第2樹脂がより好適に分散することで、該第2成分の平均粒径が、5.1~10μmの範囲内の値になる。第2樹脂の平均粒径の算出手法は、実施例に記載のとおりである。
【0046】
上記のように、第1成分中において第2成分が好適に分散することで、得られる微多孔膜は、未溶融物量の低減が図られ、つまり、品質の向上が図られる。品質の向上が図られた微多孔膜を備えることで、品質の向上が図られたセパレータを提供できる。そしてこのようなセパレータを備えることで、安全性(釘刺試験における安全性)に優れ、かつ、サイクル特性に優れた蓄電デバイスが実現可能であると期待される。
【0047】
(第1樹脂、及び第2樹脂の各質量)
第2樹脂(融点が140~330℃の樹脂)と第1樹脂(ポリエチレン樹脂)との質量比(第2樹脂/第1樹脂)は、0.01/0.99~0.90/0.10であることが好ましい。
従来、上記のような第2樹脂は、第1樹脂とは相溶性パラメータが異なるため、非溶融であり、熱力学的に相溶しないが、物理的に第1樹脂中に分散することができた。このような分散型アロイ成形品は、第1、第2の樹脂のそれぞれの特性を両立が可能であるため、その性能の発現にとっては、アロイを形成するドメインの大きさが重要である。本発明者らは、第2樹脂の大きさを限定することにより分散体を構築することに努めた。実際には、第1樹脂と第2樹脂を単に混合するだけでは、第1樹脂中に第2樹脂は好適に分散し難い。しかしながら、第1樹脂を含む第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)と、第2樹脂を含む第2成分(例えば、第2樹脂のペレット)とを各々作製し、それらを、後述される工程(1)及び/又は(2)のように特殊な押出工程に供することで、上記の好適な分散が得られる傾向にある。そして、かかる手法によれば、上記の範囲においてより好適に、第1樹脂中に第2樹脂を分散させ易くなる。
第2樹脂を好適に分散させる観点からは、上記の質量比(第2樹脂/第1樹脂)は、より好ましくは0.02/0.98~0.88/0.12である。
【0048】
(微多孔膜の各種特性)
微多孔膜の特性を以下に説明する。
これらの特性は、蓄電デバイス用セパレータとしての微多孔膜が平膜の場合であるが、蓄電デバイス用セパレータが積層膜の形態である場合には積層膜から微多孔膜以外の層を除いてから測定されることができる。
【0049】
微多孔膜の気孔率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは32%以上又は35%以上である。微多孔膜の気孔率が20%以上であることにより、微多孔膜をLIB用セパレータ又はその構成材料に用いたときに、リチウム(Li)イオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。一方、微多孔膜の気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは50%以下である。微多孔膜の気孔率が90%以下であることにより、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。微多孔膜の気孔率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
微多孔膜の透気度は、100cm3当たり、好ましくは1秒以上、より好ましくは50秒以上、更に好ましくは55秒以上、より更に好ましくは100秒以上である。微多孔膜の透気度が1秒以上であることにより、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。また、微多孔膜の透気度は、好ましくは400秒以下、より好ましくは300秒以下である。微多孔膜の透気度が400秒以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜の透気度は、延伸倍率、延伸温度を調整する等により調節可能である。かかる透気度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0051】
微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、更に好ましくは3.0μm以上、又は4.0μm以上である。微多孔膜の膜厚が1.0μm以上であることにより、膜強度がより向上する傾向にある。また、微多孔膜の膜厚は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。微多孔膜の膜厚が500μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜の膜厚は、延伸倍率、延伸温度を調整する等により調節可能である。かかる膜厚は、実施例に記載の方法により測定される。
【0052】
特に、LIB用セパレータ又はその構成材料として微多孔膜を用いる場合、微多孔膜の膜厚は、好ましくは25μm以下、より好ましくは22μm以下又は20μm以下、更に好ましくは18μm以下である。この場合、微多孔膜の膜厚が25μm以下であることにより、透過性がより向上する傾向にある。この場合、微多孔膜の膜厚の下限値は、1.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上又は5.0μm以上でよい。
【0053】
微多孔膜の突刺強度は、好ましくは200gf/20μm以上、より好ましくは300gf/20μm以上であり、好ましくは2000gf/20μm以下、より好ましくは1000gf/20μm以下である。突刺強度が200gf/20μm以上であることは、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。一方、2000gf/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。微多孔膜の突刺強度は、延伸倍率、延伸温度を調整する等により調節可能である。かかる突刺強度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0054】
<微多孔膜の製造方法>
製微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(1)第1樹脂(ポリエチレン樹脂)を含む第1成分、第2樹脂(融点が140~330℃の樹脂)を含む第2成分、及び可塑剤を二軸押出機に供給する工程;
(2)第1成分、第2成分、及び可塑剤を二軸押出機にて溶融混錬し、樹脂組成物を製造する工程;及び
(3)樹脂組成物から可塑剤を抽出し、微多孔膜を製造する工程;
を含む。
以下、各工程について順番に説明する。
【0055】
[工程(1)]
工程(1)では、第1樹脂を含む第1成分、第2樹脂を含む第2成分、及び可塑剤を二軸押出機に供給する。
上記のとおり、第1成分の例としては、第1樹脂のパウダーが挙げられ、第2成分の例としては、第2樹脂のパウダーから作製したペレットが挙げられる。
【0056】
(可塑剤)
可塑剤は、20℃~70℃の温度で液状であり、かつ、第1樹脂又は第2樹脂の分散性に優れる限り、既知の材料であることができる。工程(1)で使用される可塑剤は、その後の抽出も考慮すると、第1樹脂又は第2樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る、不揮発性溶媒が好ましい。不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、デカン、及びデカリン等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。中でも、流動パラフィンは、ポリエチレンとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤との界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0057】
(二軸押出機への供給)
第1成分、及び第2成分は、例えば、二軸押出機に同時に供給することができる。同時に供給するには、例えば、第1成分、及び第2成分をスーパーミキサー等でドライブレンドしたものを二軸押出機に供給する手法;第1成分、及び第2成分により後述する混合スラリーを作製し、これを二軸押出機に供給する手法が挙げられる。
【0058】
また、第1成分、及び第2成分は、例えば、二軸押出機に個別に供給することもできる。個別に供給するには、例えば、第1成分、及び第2成分を個別のフィーダーから二軸押出機に供給する手法;第1成分、及び可塑剤より後述する混合スラリーを作製し、これを第2成分とは別に二軸押出機に供給する手法;別の押出機(第2の押出機)により第2成分を溶融させ、これを第1成分とは別に上記の二軸押出機(第1の押出機)に供給する手法が挙げられる。なお、第1成分、及び第2成分を二軸押出機に個別に供給する場合、第1成分を先に供給してもよく、第2成分を先に供給してもよい。
【0059】
また、可塑剤は、例えば、第1成分と共に二軸押出機に供給することができる。第1成分と共に可塑剤を二軸押出機に供給した後で、同一又は異なるフィーダーから、可塑剤を追加供給してもよい。
この種の二軸押出機は、一般に、上流側に配される上段フィード口と、そのフィード口よりも下流側であって、溶融混錬エリアの途中に配される中段フィード口とを有している。従って、二軸押出機の上段フィード口から混合スラリーを供給した後、二軸押出機先の中段フィード口から可塑剤を追加供給することもできる。これにより、二軸押出機から押出される樹脂組成物に占める流動パラフィン量比を所望の割合に調整し易くなり、また、樹脂組成物の温度を所望の範囲に調整し易くなる。勿論、中段フィード口から、第1成分又は第2成分を供給することもできる。
【0060】
(混合スラリー)
ここで、工程(1)は、20℃~70℃の温度、100~400,000秒-1のせん断速度、及び1.0秒~60秒の滞留時間の条件下で連続混合機を用いて第1成分、及び可塑剤により混合スラリーを製造し、該混合スラリー、及び第2成分を二軸押出機に供給する工程を含むことができる。
また、工程(1)は、上記の条件下で連続混合機を用いて第1成分、第2成分、及び可塑剤により混合スラリーを製造し、該混合スラリーを二軸押出機に供給する工程を含むこともできる。
【0061】
連続混合機の設定温度の下限は、第1成分を最大限に膨潤させる観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上である、またその上限は、混合時に第1樹脂の溶解を抑制してスラリーを得るという観点から、好ましくは68℃以下、より好ましくは、67℃以下、66℃以下又は65℃以下である。
連続混合機のせん断速度は、第1成分を均一に可塑剤と接触させ、分散体を得る観点から、100~400,000秒-1であり、好ましくは120~398,000秒-1、より好ましくは1,000~100,000秒-1である。
連続混合機の滞留時間は、可塑剤中の第1樹脂の分散を確保する観点から、1.0~60秒であり、好ましくは2.0~58秒、より好ましくは2.0秒~56秒である。
【0062】
混合スラリー中の、第1成分(例えば、第1樹脂のパウダー)の含有率は、その混合スラリーの全質量を基準として、得られる微多孔膜の強度の観点から、好ましくは0質量%を超え、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上又は4質量%以上である。また、この含有率は、第1樹脂中の未溶融物の発生を抑制する観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下又は20質量%以下である。
【0063】
また、混合スラリー中の、第2成分(例えば、第2樹脂のペレット)の含有率は、その混合スラリーの全質量を基準として、得られる微多孔膜の強度の観点から、好ましくは0質量%を超え、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上又は4質量%以上である。また、この含有率は、第2樹脂中の未溶融物の発生を抑制する観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下又は20質量%以下である。
【0064】
混合スラリーは、25℃~80℃の温度で二軸押出機に供給することが好ましい。混合スラリーの適切な粘度を確保しながら、第1樹脂の分子量の低下を起こさない程度にポリマー鎖の絡み合いを確保する観点から、供給温度を25℃~80℃の範囲内に調整することが好ましい。同様の観点から、供給温度は、より好ましくは30℃~76℃、更に好ましくは30℃~70℃である。
【0065】
(添加物)
上記の混合スラリーは、公知の添加剤、例えば、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等を含んでよい。
【0066】
[工程(2)]
工程(2)では、第1成分、第2成分、及び可塑剤を二軸押出機にて溶融混錬し、樹脂組成物を製造する。本実施形態では、上記の工程(1)において、第1成分に対する、可塑剤の膨潤の均一性が確保されるため、工程(2)においては、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、二軸押出機の種類、二軸押出機への各原料の供給、押出時間、押出速度、せん断速度、せん断力等の条件は限定されない。
【0067】
[工程(3)]
工程(3)は、上記の工程(2)において製造された樹脂組成物から可塑剤を抽出し、微多孔膜を製造する。
特に、本実施形態に係る工程(3)は、シート加工工程(4)、延伸工程(5)、抽出工程(6)、及び熱処理工程(7)を含む。
【0068】
(シート加工工程(4))
工程(4)では、上記の工程(2)で得られた樹脂組成物をシート状に押出し、冷却固化させてシート状成形体に加工する。樹脂組成物は、可塑剤又はその他の添加物等を含んでよい。
【0069】
シート状成形体中の樹脂(第1樹脂、第2樹脂、及び含まれる場合にはその他の樹脂の総量)の割合は、シート成形性の観点から、シート状成形体の質量を基準として、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~60質量%、最も好ましくは30~50質量%である。
【0070】
シート状成形体を製造する方法としては、例えば、上記の工程(2)で得られた樹脂組成物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した樹脂組成物を金属製のロールに接触させるとき、ロール間で挟み込むことも、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるため好ましい。樹脂組成物をTダイからシート状に押出すときのダイリップ間隔は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジ又は欠点などの膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断などのリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
また、工程(4)中に、押出されたシート状成形体を圧延してもよい。
【0071】
[延伸工程(5)]
工程(5)では、上記の工程(4)で得られたシート状成形体を20倍以上200倍以下の面倍率で二軸延伸し、延伸物を形成する。
【0072】
延伸処理としては、幅方向の膜厚分布と透気度分布を小さくできるという観点から、一軸延伸よりも二軸延伸が好ましい。シートを二軸方向に同時に延伸することでシート状成形体が製膜工程の中で冷却・加熱を繰り返す回数が減り、幅方向の分布が良くなる。二軸延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、及び延伸の均一性の観点からは、同時二軸延伸が好ましく、また、面配向の制御容易性の観点からは、遂次二軸延伸が好ましい。
【0073】
本明細書では、同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD、及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸が為されているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0074】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上200倍以下の範囲内であることが好ましく、25倍以上170倍以下の範囲であることがより好ましく、30倍以上150倍以下が更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに2倍以上15倍以下、TDに2倍以上15倍以下の範囲であることが好ましく、MDに3倍以上12倍以下、TDに3倍以上12倍以下の範囲であることがより好ましく、MDに5倍以上10倍以下、TDに5倍以上10倍以下の範囲であることが更に好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる微多孔膜に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が200倍以下であると、工程(5)における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0075】
延伸温度は、第1樹脂、及び第2樹脂の溶融性、及び製膜性の観点から、好ましくは90~150℃、より好ましくは100~140℃、更に好ましくは110~130℃である。
【0076】
[抽出工程(6)]
工程(6)では、上記の工程(5)で得られた延伸物から可塑剤を抽出し、多孔体を形成する。可塑剤の抽出方法としては、例えば、抽出溶剤に延伸物を浸漬して可塑剤を抽出して、乾燥させる方法が挙げられる。抽出方法は、バッチ式と連続式のいずれであってもよい。多孔体の収縮を抑えるために、浸漬、及び乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔体中の可塑剤残存量は、多孔膜全体の質量に対して、1質量%未満にすることが好ましい。
なお、工程(6)の後に、蒸留等の操作により可塑剤を回収して再利用してよい。
【0077】
抽出溶剤としては、第1樹脂、及び第2樹脂に対して貧溶媒であり、可塑剤に対して良溶媒であり、かつ沸点が第1樹脂、及び第2樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0078】
[熱処理工程(7)]
工程(7)では、上記の工程(6)で得られた多孔体の融点以下の温度で、その多孔体の熱処理を行った後、かかる多孔体を延伸し、微多孔膜を製造する。
【0079】
多孔体には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施す。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の雰囲気、所定の温度、及び所定の延伸倍率で行う延伸操作、並びに/又は、延伸応力低減を目的として、所定の雰囲気、所定の温度、及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0080】
延伸操作は、微多孔膜の強度、及び気孔率を高めるという観点から、膜のMD、及び/又はTDに1.1倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.2倍以上の延伸を行う。
また、緩和操作は、膜のMD、及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MDとTDの双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.97以下、更に好ましくは0.95以下である。緩和率は膜品質の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MDとTDの両方向で又はMDとTDの片方だけで行ってよい。
【0081】
延伸又は緩和操作などを含む熱処理の温度は、第1樹脂、及び第2樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)の観点から、100~170℃の範囲内であることが好ましい。延伸、及び緩和操作の温度が上記範囲であると、熱収縮率の低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。熱処理温度の下限は、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上、より更に好ましくは125℃以上であり、その上限は、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下、より更に好ましくは140℃以下である。
【0082】
工程(7)中又は工程(7)後に、微多孔膜に対して、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。なお、上記で説明された工程(5)、(6)、及び(7)の順序を並べ替えたり、これらの工程を同時に行ったりしてよいが、製膜性の観点からは、二軸延伸機を用いて、工程(5)、(6)、及び(7)の順序で、これらの工程を行うことが好ましい。
得られた微多孔膜は、取り扱い性、及び保管安定性の観点から、巻取機により巻き取られ、ロールを形成したり、スリッターにより切断されたりすることができる。
【0083】
<蓄電デバイス用セパレータ、LIB用セパレータ>
微多孔膜は、蓄電デバイスにおいて使用されることができ、例えば、LIB用セパレータ又はその構成材料として使用されることができる。これによれば、セパレータの酸化還元劣化を抑制し易くなり、また、緻密で均一な多孔質構造を構築し易くなる。
【0084】
セパレータは、平膜(例えば、1枚の微多孔膜で形成される)、積層膜(例えば、複数の微多孔膜の積層体、微多孔膜と他の膜の積層体)、コーティング膜(例えば、微多孔膜の少なくとも片面に機能性物質がコーティングされている場合)などの形態でよい。
【0085】
<LIB>
LIBは、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料、そして電解液としてLiPF6等のリチウム塩を含む有機溶媒を使用した蓄電池である。LIBの充電・放電時に、イオン化したLiが電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、イオン化したLiが電極間を比較的高速で移動する必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【実施例0086】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以下の実施例のみに限定されない。実施例中の物性は、以下の方法により測定した。
【0087】
<第2樹脂の融点(℃)>
示差走査熱量(DSC:Differential Scanning Calorimetric)測定装置「DSC-60」(島津製作所社製)を用いて、第2樹脂の融点を測定した。まず、第2樹脂を、直径5mmの円形に打ち抜き、数枚重ね合わせて3mgとしたものを測定サンプルとして用いた。このサンプルを、直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに敷き、クランピングカバーを乗せ、サンプルシーラーによりアルミパン内に固定した。窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温し(1回目昇温)、200℃で5分ホールドした後、降温速度10℃/分で200℃から30℃まで降温した。続いて、30℃において5分間ホールドした後、再度、昇温速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温した(2回目昇温)。2回目昇温の融解吸熱曲線において、極大となる温度を、第2樹脂の融点とした。極大値が複数ある場合は、1番大きな融解吸熱曲線の極大値となる温度を第2樹脂の融点として採用した。
【0088】
<微多孔膜の固体粘弾性測定>
動的粘弾性測定装置を用いてセパレータの動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、及び損失弾性率(E’’)を算出可能である。
なお、E’、及びE’’については、150℃~300℃において、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察されない場合には、150℃~300℃の平均値より算出し、150℃~300℃においてサンプルの破断が見られた場合には、150℃から破断点の温度までの平均値より算出した。
【0089】
・貯蔵弾性率(E’)
貯蔵弾性率(E’)の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)上記の静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指す。また、上記の正弦波荷重とは、上記の静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)上記の正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら上記の振動応力を測定することを指す。上記の正弦波引張モードでは、上記の静的引張荷重と上記の正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び上記の静的引張荷重を変動して上記の振動応力を測定する。そして、上記の正弦波荷重が0.02N以下になった場合、上記の正弦波荷重が5N以内かつ上記の振幅値の増加量が25%以内になるように上記の振幅値を増幅させて、上記の振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ*=σ0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε*=ε0・Exp(iωt)、
σ*=E*・ε*
E*=E’+iE’’
(式中、σ*:振動応力、ε*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率E’を算出した。
【0090】
・損失弾性率(E’’)
損失弾性率(E’’)の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行う。
(ii)上記の静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指す。また、上記の正弦波荷重とは、上記の静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)上記の正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら上記の振動応力を測定することを指す。上記の正弦波引張モードでは、上記の静的引張荷重と上記の正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び上記の静的引張荷重を変動して上記の振動応力を測定する。そして、上記の正弦波荷重が0.02N以下になった場合、上記の正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように上記の振幅値を増幅させて、上記の振動応力を測定する。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値、及び下記式:
σ*=σ0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε*=ε0・Exp(iωt)、
σ*=E*・ε*
E*=E’+iE’’
(式中、σ*:振動応力、ε*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から損失弾性率E’’を算出した。
【0091】
<2D分光学マッピング測定>
・サンプル作製
微多孔膜をMD5mm×TD5mmに切断して、測定に用いた。
【0092】
・測定手法
nano photon社製先端増強ラマン散乱顕微鏡(TERSsense)を用いて、サンプル中のPE以外の振動吸収帯を検知し、2Dマッピングを行った。具体的には、PE以外の振動吸収帯として、例えばナイロン12(実施例1)の場合は1650cm-1付近の伸縮振動吸収帯を用いた。
【0093】
・第2樹脂の平均粒径の算出手法
2Dマッピングより得られた画像データを画像処理し、円形相当の面積を求め、その直径を平均粒子径として算出した。
【0094】
<膜厚(μm)>
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて、室温23℃、湿度40%の雰囲気下で測定した。端子径5mmφの端子を用い、44gfの荷重を印加して測定した。
【0095】
<気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/密度)/体積×100
【0096】
<透気度(秒/100cm3)>
JIS P-8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G-B2(商標)を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下でポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度を測定し透気度とした。
【0097】
<突刺強度(gf)>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(gf)を得た。
【0098】
<セパレータ中の未溶融物量(個/1000m2)>
セパレータ中の未溶融物量は、実施例と比較例の製膜工程を経て得られたセパレータを透過型光学顕微鏡で観察したときに、縦100μm×横100μm以上の面積を有し、かつ光が透過しない領域によって定量化される。透過型光学顕微鏡による観察にて、セパレータ面積1000m2当たりの樹脂凝集物の個数を測定した。
【0099】
<釘刺し評価(%)>
以下の手順a~cにより、正極、負極、及び非水電解液を調製した。
a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm3)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm3)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このときの正極活物質塗布量は109g/m2であった。
【0100】
b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このときの負極活物質塗布量は52g/m2であった。
【0101】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
【0102】
d.電池作製
上記a~cで得られた正極、負極、及び非水電解液、並びにセパレータ(実施例のセパレータ又は比較例のセパレータ)を使用して、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
e.釘刺し評価
ラミネート型二次電池を、温調可能な防爆ブース内の鉄板上に静置した。ラミネート型二次電池の中央部に、防爆ブース内の温度を40℃に設定し、直径3.0mmの鉄製釘を、2mm/secの速度で貫通させ、釘は貫通した状態で維持した。釘内部に、釘が貫通した後ラミネート電池内部の温度が測定できるように設置した熱電対の温度を測定し、発火の有無を評価した。
同様の手法により新たに作製したラミネート型二次電池を用いて評価を繰り返し、発火に至らなかった(発火なし)サンプル数を、下記式により%値で算出した。
評価結果(%)=(100×発火に至らなかったサンプル数/総サンプル数)
【0103】
<サイクル試験(%)>
実施例、及び比較例で得たセパレータをそれぞれ使用し、上記手順dで得られた簡易電池を用いて、以下の手順でサイクル特性の評価を行った。
(1)前処理
上記簡易電池を、1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、更に1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行った。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
(2)サイクル試験
上記前処理を行った電池を、温度25℃の条件下で、放電電流1Cで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Cで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。そして、初期容量(第1回目のサイクルにおける容量)に対する300サイクル後の容量保持率を下記式により%値で算出した。
評価結果(%)=(100×300サイクル後の保持容量/初期容量)
【0104】
[実施例1]
第1樹脂(重量平均分子量、及び数平均分子量は測定困難、粘度平均分子量100万のUHMWPE)を含むパウダー(第1成分)と、第2樹脂(融点178℃のナイロン12:Aldrich社販売 製品番号;181161、表中「PA12」として表示される)を含むペレット(第2成分;直径5~6mm、高さ3~2mmの円柱体)を、表1に記載の質量比にて、スーパーミキサーにてドライブレンドし、第1成分と第2成分とを二軸押出機に供給して、溶融混合した。そして、溶融混合しながら、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を、インジェクションノズルにて、ダイリップ間隔1500μmのマニホルド(Tダイ)を備える二軸押出機へ供給し、更に混練を行って、樹脂組成物を押出した。このとき、二軸押出機から押出される樹脂組成物に占める流動パラフィン量比が質量70%、樹脂組成物の温度が220℃となるように、押出中段部(二軸押出機の中段フィード口)から流動パラフィンを更に注入した。続いて、押出された樹脂組成物を、表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出し、キャストすることにより、シート状成形体を得た。
次に、同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行って延伸物を得た。延伸条件は、延伸面倍率50~180倍であり、延伸温度、加熱風量、及び倍率等を調整することで、気孔率、透気度、厚み、及び突刺強度等を調整した。なお、実施例1では、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸物をジクロロメタンに浸漬して、延伸物から流動パラフィンを抽出して、多孔体を形成した。
次に、多孔体の熱固定を行なうべくTDテンターに導き、128℃で熱固定(HS)を行い、その後、TD方向に0.5倍の緩和操作(すなわち、HS緩和率が0.5倍)を行った。その後、得られた微多孔膜に対して上記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0105】
[実施例2~10、及び比較例1~4]
表1のとおりに原料組成を変更した以外は、実施例1と同様の手法により微多孔膜を作製した。得られた膜の評価結果を表1に示す。実施例1と同様、第1成分に相当する樹脂はパウダー、第2成分に相当する樹脂はペレットとして用いた。
【0106】
なお、実施例2の「EVOH」は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ製エバール(商標)標準グレード「G156B」)を表す。ただし、使用可能な市販品はこれに限定されず、上記社製の他のグレード又は上記社製以外のエチレン-ビニルアルコール共重合体も使用可能である。
【0107】
また、実施例3、及び5の「PE-PA」は、ポリエチレン-ポリアミド共重合体を表す。ここでは「PE-PA」として、ARKEMA社製のLP91を用いた。ただし、使用可能な市販品はこれに限定されず、上記社製の他のグレード又は上記社製以外のポリエチレン-ポリアミド共重合体も使用可能である。
【0108】
また、実施例7の「ナノ結晶構造制御型エラストマー」は、三井化学社製タフマー(登録商標)銘柄「PN-2070」を表す。ただし、使用可能な市販品はこれに限定されず、上記社製の他の銘柄又は上記社製以外のナノ結晶構造制御型エラストマーも使用可能である。
【0109】
また、実施例10の「PA12&PE-PA」は、ナイロン12とポリエチレン-ポリアミド共重合体を10:1で混合したもの(10:1=PA12:PE-PA)を表す。ここでは「PA12&PE-PA」として、融点178℃のナイロン12:Aldrich社販売(製品番号;181161)と、ARKEMA社製のLP91を用いた。ただし、使用可能な市販品はこれに限定されず、上記社製の他のグレード又は上記社製以外のナイロン12、また、上記社製の他のグレード又は上記社製以外のポリエチレン-ポリアミド共重合体も使用可能である。
【0110】
また、比較例1の「PA共重合体」は、東レ株式会社から入手可能なアラミン(登録商標)グレード「CM8000」を表し、そして比較例2の「PEEK」は、ポリエーテルエーテルケトン(東レプラスチック精工株式会社から入手可能なTPS(登録商標)標準グレード「NC」)を表す。
【0111】
【0112】
【0113】
表1の結果より、実施例1~10の微多孔膜は、比較例1~4に比べて、未溶融物量(凝集物量、すなわちゲル含有量)の低減が図られており、つまり、品質の向上が図られていることが確かめられた。また、表1の結果より、実施例1~10では、比較例1~4に比べて、安全性(釘刺試験における安全性)に優れ、かつ、サイクル特性に優れた蓄電デバイスが実現可能であることも確かめられた。