(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075717
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】粘着剤組成物及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 183/10 20060101AFI20240528BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20240528BHJP
C09J 143/04 20060101ALI20240528BHJP
C09J 151/00 20060101ALI20240528BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240528BHJP
【FI】
C09J183/10
C09J133/14
C09J143/04
C09J151/00
C09J7/38
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046717
(22)【出願日】2024-03-22
(62)【分割の表示】P 2020515778の分割
【原出願日】2020-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019042673
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】下地頭所 彰
(72)【発明者】
【氏名】緒方 雄大
(57)【要約】 (修正有)
【課題】貼り付け時には高い粘着力を有しながらも、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着剤組成物及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供する。
【解決手段】本発明は、粘着剤成分と、前記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するシリコーン系グラフト共重合体とを含有する、粘着剤組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤成分と、前記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するシリコーン系グラフト共重合体とを含有し、
前記シリコーン系グラフト共重合体は、下記構造式で表される構造を有する、
粘着剤組成物。
【化1】
ここで、R
1は水素原子を表し、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、メチル基又は水素原子を表し、R
5、R
6、R
7は、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子1~18個の飽和炭化水素基を表し、R
8は(メタ)アクリロイル基含有官能基を表し、R
9は極性官能基含有基を表す。Pは、0以上の整数を表し、L、Mは、それぞれ独立して、1以上の整数を表し、N、Oは、少なくとも1つは1以上の整数を表す。
【請求項2】
粘着剤成分と、前記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するシリコーン系グラフト共重合体とを含有し、
前記シリコーン系グラフト共重合体は、下記構造式で表される構造を有する、
粘着剤組成物。
【化2】
ここで、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、メチル基又は水素原子を表し、R
5は、直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子5~18個の飽和炭化水素基を表し、R
6、R
7は、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子1~18個の飽和炭化水素基を表し、R
8は(メタ)アクリロイル基含有官能基を表し、R
9は極性官能基含有基を表す。Pは、0以上の整数を表し、L、Mは、それぞれ独立して、1以上の整数を表し、N、Oは、少なくとも1つは1以上の整数を表す。
【請求項3】
前記粘着剤組成物は、重合開始剤を含有する硬化型粘着剤組成物である、請求項1又は2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記シリコーン系グラフト共重合体における前記粘着剤成分と架橋可能な官能基は、加熱により前記粘着剤成分と反応する官能基である、請求項1、2又は3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記シリコーン系グラフト共重合体は、極性官能基を有する、請求項1、2、3又は4記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記粘着剤組成物中における前記シリコーン系グラフト共重合体の含有量が0.1~20重量%である、請求項1、2、3、4又は5記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
基材及び前記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層を有する粘着テープであって、前記粘着剤層は請求項1、2、3、4、5又は6記載の粘着剤組成物からなる、粘着テープ。
【請求項8】
前記粘着剤層のゲル分率が90重量%未満である、請求項7記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粘着テープは各種産業分野に用いられている。建築分野では養生シートの仮固定、内装材の貼り合わせ等に、自動車分野ではシート、センサー等の内装部品の固定、サイドモール、サイドバイザー等の外装部品の固定等に、電気電子分野ではモジュール組み立て、モジュールの筐体への貼り合わせ等に両面粘着テープが用いられている。具体的には、例えば、画像表示装置又は入力装置を搭載した携帯電子機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末等)において、組み立てのために両面粘着テープが用いられている。より具体的には、例えば、携帯電子機器の表面を保護するためのカバーパネルをタッチパネルモジュール又はディスプレイパネルモジュールに接着したり、タッチパネルモジュールとディスプレイパネルモジュールとを接着したりするために両面粘着テープが用いられている。このような両面粘着テープは、例えば、額縁状等の形状に打ち抜かれ、表示画面の周辺に配置されるようにして用いられる(例えば、特許文献1、2)。また、車輌部品(例えば、車載用パネル)を車両本体に固定する用途にも両面粘着テープが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-242541号公報
【特許文献2】特開2009-258274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着テープの用途によっては、粘着テープを被着体に貼りつけたまま高温の熱処理工程を行い、その後、粘着テープを剥離する必要がある。例えば、半導体チップ等の電子部品の製造工程において、両面粘着テープを介して半導体ウエハを支持板に接着して補強した状態で、各種の高温の熱処理工程を行い、その後に半導体ウエハを支持板から剥離することが行われる。ここで、高温の熱処理工程により粘着テープが接着亢進してしまうと、半導体ウエハを支持板から剥離することが困難となったり、剥離時に半導体ウエハの表面に糊残りしてしまったりすることがある。これに対して、剥離助剤として粘着剤層にシリコーン化合物を配合することが行われる。シリコーン化合物を配合することにより、粘着剤層からブリードアウトしたシリコーン化合物によって接着亢進を抑えることができる。
【0005】
しかしながら、従来のシリコーン化合物は被着体の種類によっては接着亢進を充分に抑えることが難しい場合がある。従来のシリコーン化合物は低極性であることから高極性の物質と親和性が低いという性質があり、被着体が半導体ウエハのような極性の高いものである場合、粘着テープ表面にブリードアウトしているシリコーン化合物が表面に留まることができず、被着体との界面から拡散してしまう。そのため、粘着テープと被着体との界面に存在するシリコーン化合物が減少してしまい、接着亢進を充分に抑えられないことがある。
【0006】
また、粘着テープは接着亢進を抑える必要がある一方で、貼り付け時には高い粘着力を有している必要がある(以下、貼り付け時の粘着力を初期粘着力という)。しかしながら、従来のシリコーン化合物は、大量に使用しなければ接着亢進を抑えることができず、シリコーン化合物を大量に使用すると初期粘着力が低下してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、貼り付け時には高い粘着力を有しながらも、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着剤組成物及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粘着剤成分と、前記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するシリコーン系グラフト共重合体とを含有する、粘着剤組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、粘着剤成分を含有する。
上記粘着剤成分は特に限定されず、硬化型の粘着剤成分であってもよく、非硬化型の粘着剤成分であってもよいが、硬化型の粘着剤成分であることが好ましい。なかでも、本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、硬化型の粘着剤成分として重合性ポリマーを主成分とし、重合開始剤を含有する硬化型粘着剤組成物であることが好ましい。
粘着剤成分が硬化型の粘着剤成分であると、硬化前は粘着剤組成物からなる粘着剤層が被着体に良好に密着することが可能となるため、貼り付け時には高い粘着力を発現できる。さらに、粘着剤成分を硬化させることによって粘着剤層の弾性率を上昇させることができるため、熱処理工程の前や熱処理工程の際に粘着剤成分を硬化させることで、高温下での接着亢進を抑えることができる。また、粘着剤層の弾性率が上昇することにより、被着体への糊残りも抑えることができる。
【0010】
上記硬化型粘着剤組成物としては、上記重合性ポリマーと光重合開始剤とを含有する光硬化型粘着剤組成物や、上記重合性ポリマーと熱重合開始剤とを含有する熱硬化型粘着剤組成物が挙げられる。なかでも、熱処理工程の熱によって硬化させることができ、光硬化設備や光硬化工程が不要であることから、熱硬化型粘着剤組成物が好ましい。硬化型粘着剤組成物が熱硬化型粘着剤組成物である場合、加熱工程を経るだけで、硬化工程を別途設ける必要がないため、工程数を削減することもできる。また、上記硬化型粘着剤組成物は特に限定されないが、耐熱性、耐候性に優れ、幅広い被着体に適用可能であることからアクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。
上記粘着剤成分の構造は特に限定されず、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体、グラフト共重合体でもよい。
【0011】
上記粘着剤成分が硬化型の粘着剤成分である場合、硬化性を発揮するための架橋性官能基は特に限定されないが、ラジカル重合性の不飽和結合が好ましい。すなわち、上記粘着剤成分は、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有することが好ましい。
上記粘着剤成分は、分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有する場合、すなわち、硬化型の粘着剤成分の架橋性官能基がラジカル重合性の不飽和結合である場合、他の架橋性官能基を用いるよりも架橋点の極性が下がり、架橋密度を上げることができる。これにより、粘着剤組成物からなる粘着剤層の弾性率がより向上して接着亢進をより抑えることができる。また、弾性率が向上することで、糊残りを抑えることもできる。
なお、上記ラジカル重合性の不飽和結合は、上記粘着剤成分内で架橋構造を構築できるだけでなく、後述するシリコーン系グラフト共重合体と架橋可能な官能基でもあり、上記粘着剤成分とシリコーン系グラフト共重合体との架橋にも寄与するものである。上記粘着剤成分が上記ラジカル重合性の不飽和結合以外のシリコーン系グラフト共重合体と架橋可能な官能基を有する場合、このような官能基は特に限定されず、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミド基、イソシアネート基、エポキシ基等が挙げられる。これらのシリコーン系グラフト共重合体と架橋可能な官能基は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0012】
上記ラジカル重合性の不飽和結合は、例えば、上記重合性ポリマーを合成する際に、ラジカル重合性の不飽和結合を有するモノマーを用いることで導入することができる。また、上記ラジカル重合性の不飽和結合は、以下の方法により上記重合性ポリマーを得ることで導入することもできる。
すなわち、上記重合性ポリマーは、例えば、分子内に官能基を持った(メタ)アクリル系ポリマー(以下、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーという)をあらかじめ合成し、分子内に上記の官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、官能基含有不飽和化合物という)と反応させることにより得ることができる。
【0013】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、アルキル基の炭素数が通常2~18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルと、官能基含有モノマーと、更に必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとをラジカル重合等の常法により共重合させることにより得られるものである。これは、常温で粘着性を有するポリマーである一般の(メタ)アクリル系ポリマーの場合と同様である。上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は通常20万~200万程度である。
【0014】
上記官能基含有モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有モノマー等が挙げられる。また、上記官能基含有モノマーとして、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸イソシアネートエチル、メタクリル酸イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有モノマー;アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル等のアミノ基含有モノマー等も挙げられる。なお、これらの官能基含有モノマーの官能基のうち、上記官能基含有不飽和化合物との反応に使用されなかった未反応の官能基は、シリコーン系グラフト共重合体と架橋可能な官能基として、上記粘着剤成分とシリコーン系グラフト共重合体との架橋に寄与するものとなる。
上記共重合可能な他の改質用モノマーは、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、無水マレイン酸等の一般の(メタ)アクリル系ポリマーに用いられている各種のモノマーが挙げられる。
【0015】
上記ラジカル重合の重合方法としては、従来公知の方法が用いられ、例えば、溶液重合(沸点重合又は定温重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる。
上記ラジカル重合において用いられる重合開始剤は特に限定されず、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。上記有機過酸化物として、例えば、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート等が挙げられる。上記アゾ化合物として、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーはリビングラジカル重合によって得てもよい。リビングラジカル重合は、重合反応が停止反応又は連鎖移動反応等の副反応で妨げられることなく分子鎖が生長していく重合である。リビングラジカル重合によれば、例えばフリーラジカル重合等と比較してより均一な分子量及び組成を有するポリマーが得られ、低分子量成分等の生成を抑えることができるため、得られる粘着剤組成物が高温下での接着亢進を抑えられる一方、意図せぬ剥離が起きない程度に粘着剤組成物を剥がれにくくすることができる。
【0017】
リビングラジカル重合は一般的に用いられるものであれば特に限定されず、TERP法、RAFT法、NMP法等が挙げられる。TERP法においては有機テルル化合物、RAFT法においてはRAFT剤、NMP法においてはニトロキシド化合物が用いられ、必要に応じて有機過酸化物、アゾ化合物等の上記重合開始剤を組み合わせて使用する。他に、ATRP法を用いることもできる。
【0018】
上記ラジカル重合においては、分散安定剤を用いてもよい。上記分散安定剤として、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0019】
上記ラジカル重合において重合溶媒を用いる場合、該重合溶媒は特に限定されない。上記重合溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン等の非極性溶媒や、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド等の高極性溶媒を用いることができる。これらの重合溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合温度は、重合速度の観点から0~110℃が好ましい。
【0020】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーに反応させる官能基含有不飽和化合物としては、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基に応じて上述した官能基含有モノマーと同様のものを使用できる。例えば、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基がカルボキシル基の場合はエポキシ基含有モノマーやイソシアネート基含有モノマーが用いられる。また、同官能基がヒドロキシル基の場合はイソシアネート基含有モノマーが用いられる。また、同官能基がエポキシ基の場合はカルボキシル基含有モノマーやアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが用いられる。更に、同官能基がアミノ基の場合はエポキシ基含有モノマーが用いられる。
【0021】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、多官能オリゴマー又はモノマーを含有してもよい。
上記多官能オリゴマー又はモノマーは、分子量が1万以下であるものが好ましく、より好ましくは加熱又は光の照射による粘着剤層の三次元網状化が効率よくなされるように、その分子量が5000以下でかつ分子内のラジカル重合性の不飽和結合の数が2~20個のものである。このようなより好ましい多官能オリゴマー又はモノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。上記多官能オリゴマー又はモノマーとして、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等も挙げられる。これらの多官能オリゴマー又はモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
上述したように本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、硬化型の粘着剤成分として重合性ポリマーを主成分とし、重合開始剤を含有する硬化型粘着剤組成物であることが好ましい。上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。
上記光重合開始剤は、例えば、250~800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられる。このような光重合開始剤は、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物;ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。また、フォスフィンオキシド誘導体化合物、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物等の光ラジカル重合開始剤も挙げられる。更に、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤も挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記熱重合開始剤は、例えば、熱により分解し、重合硬化を開始する活性ラジカルを発生するものが挙げられる。具体的には例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエール、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0024】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、シリコーン系グラフト共重合体を含有する。
シリコーン系グラフト共重合体とは、シリコーン部位がグラフト鎖となる共重合体のことを指す。粘着剤組成物がシリコーン系グラフト共重合体を含有すると、本発明の一実施態様である粘着剤組成物を用いた粘着テープを高温の熱処理工程に供したときに、粘着剤層と被着体との界面にシリコーン系グラフト共重合体が集まるため接着亢進を防止することができる。
【0025】
従来のシリコーン化合物は、シリコーン化合物の末端に官能基を有する程度の構造であり、分子の大部分がシリコーン部位となっている。そのため、接着亢進を低減できる程度にシリコーン化合物を用いた場合、初期粘着力が低下する原因となる場合がある。
本発明の一実施態様である粘着剤組成物においてはシリコーン化合物がシリコーン系グラフト共重合体であるため、シリコーン部位以外の部位によって粘着剤組成物からなる粘着剤層の表面の極性を適切な範囲とすることができ、初期粘着力の低下を抑えることができる。また、シリコーン部位が主鎖でなくグラフト鎖であることで、シリコーン部位の数を容易に増やすことができるため、高い接着亢進抑制性能を発揮することができる。
【0026】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、後述する上記粘着剤成分と架橋可能な官能基とシリコーン基を含有するグラフト鎖とを有していれば特に限定されない。なかでも、初期粘着力及び熱処理工程後の粘着力の制御を有利に行うことができる観点から、粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーと、シリコーンマクロモノマーと、必要に応じてその他のモノマーとを含有する原料モノマー混合物を共重合させたものであることが好ましい。
【0027】
上記シリコーンマクロモノマーとしては、例えば、アクリル系シリコーンマクロモノマー、スチレン系シリコーンマクロモノマー等が挙げられる。なかでも耐熱性及び耐候性に優れていることから、アクリル系シリコーンマクロモノマーが好ましく、下記構造式(1)、(2)に示すようなアクリル系シリコーンマクロモノマーであることがより好ましい。
【0028】
【0029】
ここで、Rは(メタ)アクリロイル基含有官能基、例えば(メタ)アクリロイル基を表し、X及びYは、それぞれ独立して、0以上の整数を表す。なお、X及びYの上限は、特に限定されないが、例えば500以下、特に200以下である。
【0030】
上記原料モノマー混合物中における上記シリコーンマクロモノマーの含有量は1重量%以上90重量%以下であることが好ましい。上記シリコーンマクロモノマーの含有量が上記範囲であることで、高温下での接着亢進を抑えることができるとともに得られる粘着剤組成物が高い初期粘着力を発揮することができる。接着亢進を更に抑え、初期粘着力を更に高める観点から、上記原料モノマー混合物中における上記シリコーンマクロモノマーの含有量のより好ましい下限は5重量%、更に好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は60重量%である。
すなわち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位の含有量は、1重量%以上90重量%以下であることが好ましい。上記シリコーンマクロモノマーに由来する構成単位の含有量のより好ましい下限は5重量%、更に好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は60重量%である。
【0031】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有する。
シリコーン系グラフト共重合体が粘着剤成分と架橋可能な官能基を有することで、被着体との界面に集まったシリコーン系グラフト共重合体が粘着剤成分と架橋して固定されるため、接着亢進の抑制効果を高めることができる。また、シリコーン系グラフト共重合体が粘着剤成分に固定されることにより、シリコーン系グラフト共重合体による被着体の汚染を抑えることができる。
【0032】
上記粘着剤成分と架橋可能な官能基は、上記粘着剤成分の有する官能基によって適宜選択されるが、例えば、カルボキシ基、ラジカル重合性の不飽和結合、ヒドロキシ基、アミド基、イソシアネート基、エポキシ基等が挙げられる。上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸等のカルボキシ基を有するモノマー、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するモノマー等が挙げられる。また、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するモノマー、(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するモノマー、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するモノマー等も挙げられる。なかでも、架橋密度及び粘着剤組成物からなる粘着剤層の弾性率を向上させ、高温下での接着亢進をより抑えることができることから、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基は、ラジカル重合性の不飽和結合であることが好ましい。これらの粘着剤成分と架橋可能な官能基は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記粘着剤成分と架橋可能な官能基は、例えば、上記原料モノマー混合物に上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーを用いることで導入できる。また、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基がラジカル重合性の不飽和結合である場合は、官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーを含有する上記原料モノマー混合物をラジカル重合させ、次いで、ラジカル重合性の不飽和結合と上記官能基と反応する官能基とを有するモノマーを反応させることで導入することができる。
【0033】
上記原料モノマー混合物中における上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーの含有量は0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーの配合量が上記範囲であることで、粘着剤成分とシリコーン系グラフト共重合体とが充分に架橋しながらも、粘着剤成分内でも充分な架橋構造を構築できるため、高温下での接着亢進をより抑えることができる。高温下での接着亢進を更に抑える観点から、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーの配合量は0.5重量%以上であることがより好ましく、2重量%以上であることが更に好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
すなわち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。上記粘着剤成分と架橋可能な官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は0.5重量%以上であることがより好ましく、2重量%以上であることが更に好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
また、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基がラジカル重合性の不飽和結合である場合は、原料モノマー混合物100重量%に対して反応させる上記ラジカル重合性の不飽和結合を有するモノマーの配合量は0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、2重量%以上であることが更に好ましい。上記ラジカル重合性の不飽和結合を有するモノマーの配合量は10重量%以下であることが好ましく、8重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
上記粘着剤成分と架橋可能な官能基は、加熱により上記粘着剤成分と反応する官能基であることが好ましい。
上記粘着剤成分と架橋可能な官能基が加熱により反応することで、高温処理工程の熱で架橋反応を行うことができるため、光硬化工程等の架橋のための工程を減らすことができ、生産性を向上させることができる。加熱により上記粘着剤成分と反応する上記粘着剤成分と架橋可能な官能基としては例えば、ラジカル重合性の不飽和結合、エステル交換反応性の水酸基等が挙げられる。
【0035】
上記シリコーン系グラフト共重合体は極性官能基を有することが好ましい。なお、ここでいう極性官能基には、上記粘着剤成分と架橋可能な官能基としての極性官能基と、上記粘着剤成分とは架橋しない極性官能基との両方が含まれるものとする。
シリコーン系グラフト共重合体が極性官能基を有することで、得られる粘着剤組成物の初期粘着力を向上させることができる。
上記極性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基等が挙げられる。上記極性官能基は、上記原料モノマー混合物に上記極性官能基を有するモノマーを用いることで導入することができる。
上記水酸基を有するモノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記カルボキシ基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
上記原料モノマー混合物中における上記極性官能基を有するモノマーの含有量は0.1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。上記極性官能基を有するモノマーの含有量が上記範囲であることで、得られる粘着剤組成物の初期粘着力をより向上させることができるとともに、シリコーン系グラフト共重合体を被着体との界面に集まりやすくすることができる。高初期粘着力をより向上させシリコーン系グラフト共重合体を被着体との界面により集まりやすくする観点から、上記極性官能基を有するモノマーの含有量は0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることが更に好ましく、2重量%以上であることが更により好ましい。上記極性官能基を有するモノマーの含有量は40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが更により好ましく、8重量%以下であることがより一層好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
すなわち、上記シリコーン系グラフト共重合体における上記極性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、0.1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。上記極性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることが更に好ましく、2重量%以上であることが更により好ましい。上記極性官能基を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが更により好ましく、8重量%以下であることがより一層好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
上記その他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、2-エチルへキシルアクリレート、ブチルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記その他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等も挙げられる。なかでも、適度な粘着力を付与できることから、2-エチルへキシルアクリレートが好ましい。
【0038】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、下記構造式(3)で表される構造を有することが好ましい。
下記構造式(3)のような構造を有するシリコーン系グラフト共重合体は、シリコーン部位がグラフト鎖であるため、容易にシリコーン部位の数を調節でき、従来のシリコーン化合物よりも接着亢進を抑えることができる。また、下記構造式(3)のような構造を有するシリコーン系グラフト共重合体は、粘着剤成分と架橋可能な官能基としてラジカル重合性の不飽和結合を有しているため、粘着剤成分との架橋密度が向上し、より接着亢進を抑えることができるとともに、被着体の汚染を低減することができる。更に、下記構造式(3)のような構造を有するシリコーン系グラフト共重合体は、極性官能基を有しているため、初期粘着力が向上し、シリコーン部位を増やした場合であっても初期粘着力の低下を抑えることができる。
【0039】
【0040】
ここで、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立して、メチル基又は水素原子を表し、R5、R6、R7は、それぞれ独立して、直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子1~18個の飽和炭化水素基を表し、R8は(メタ)アクリロイル基含有官能基を表し、R9は極性官能基含有基を表す。L、M、N、O及びPは、それぞれ独立して、0以上の整数を表す。
【0041】
上記構造式(3)における上記直鎖状又は分岐状の炭素鎖を有する炭素原子1~18個の飽和炭化水素基の炭素数は、被着体界面の極性の最適化の観点から、好ましくは3個以上、より好ましくは6個以上であり、好ましくは15個以下、より好ましくは12個以下である。
【0042】
上記構造式(3)における上記(メタ)アクリロイル基含有官能基としては、例えば、炭素原子1~18個(好ましくは炭素原子2~15個、より好ましくは炭素原子3~12個)を有する(メタ)アクリロイル基含有官能基が挙げられる。
【0043】
上記構造式(3)における上記極性官能基含有基は、例えば、極性官能基を含有する飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基が挙げられ、粘着力の制御の観点からは、好ましくは極性官能基を含有する飽和炭化水素基であり、より好ましくは極性官能基を有する、炭素原子1~18個(更に好ましくは炭素原子3~15個)の飽和炭化水素基である。上記極性官能基含有基が含有する極性官能基としては、例えばカルボキシ基、ヒドロキシ基が挙げられる。接着亢進を抑制する観点から、上記極性官能基はヒドロキシ基が好ましい。
【0044】
上記構造式(3)における上記L、M、N、O及びPは、それぞれ独立して、0以上であり、被着体との界面により集まりやすく、効果的に接着亢進を抑える観点から、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、さらに好ましくは200以下の整数を表す。
【0045】
上記シリコーン系グラフト共重合体は、重量平均分子量が40万以下であることが好ましい。
シリコーン系グラフト共重合体の分子量が上記範囲であると、シリコーン系グラフト共重合体が粘着剤層中を移動しやすくなり、被着体との界面により集まることができるため、接着亢進をより抑えることができる。接着亢進を更に抑える観点から上記重量平均分子量は、20万以下であることがより好ましく、10万以下であることが更に好ましい。上記重量平均分子量の上限は特に限定されないが、被着体への汚染を抑える観点から5000以上であることが好ましい。
なお、上記重量平均分子量は、例えばGPC法によりポリスチレン標準で求めることができる。具体的には、例えば、測定機器としてWater社製「2690 Separations Module」、カラムとして昭和電工社製「GPC KF-806L」、溶媒として酢酸エチルを用い、サンプル流量1mL/min、カラム温度40℃の条件で測定することができる。
【0046】
上記シリコーン系グラフト共重合体の製造方法は、特に限定されず、上記原料モノマー混合物を溶媒中でラジカル重合することによって得ることができる。上記ラジカル重合の重合方法としては、上記粘着剤成分と同様の方法を用いることができる。
【0047】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物中における上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
粘着剤組成物中における上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量が0.1重量%以上であることで、高温時における接着亢進をより抑えることができる。上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量が20重量%以下であることで、粘着剤組成物の初期粘着力を高めることができ、また、粘着剤組成物の白濁を抑えることができ、粘着剤組成物越しにアライメント等の光を用いた工程を行うことができる。また、シリコーン系グラフト共重合体は被着体の界面に集まりやすいため、従来のシリコーン化合物よりも少ない量で接着亢進を抑えることができる。高温時の接着亢進と白濁をより抑える観点から、粘着剤組成物中における上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は1.5重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることが更に好ましい。上記シリコーン系グラフト共重合体の含有量は15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが更に好ましく、8重量%以下であることが更により好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、架橋剤を含有することが好ましい。
架橋剤により、上記粘着剤成分と上記シリコーン系グラフト共重合体とを充分に架橋させることができる。また、架橋剤を含有することで、粘着剤組成物の凝集力が上がるため、初期粘着力を向上させることができる。
上記架橋剤は特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、より粘着剤成分の凝集力が高まることからエポキシ系架橋剤が好ましい。
【0049】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物中における上記架橋剤の含有量は、0.01~20重量%であることが好ましい。
架橋剤が上記範囲で含有されていることで、上記粘着剤成分と上記シリコーン系グラフト共重合体とを充分に架橋させるとともに、粘着剤成分の凝集力を高めて初期粘着力をより向上させることができる。初期粘着力を更に向上させる観点から、上記架橋剤の含有量のより好ましい下限は0.05重量%、更に好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は10重量%、更に好ましい上限は5重量%である。
【0050】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物は、必要に応じて、刺激により気体を発生する気体発生剤や、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、樹脂、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0051】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記方法で製造した粘着剤成分の溶液に上記方法で製造した上記シリコーン系グラフト共重合体及び必要に応じて他の添加剤を加えて混合することで得ることができる。
【0052】
本発明の一実施態様である粘着剤組成物の用途は特に限定されないが、粘着テープの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物として好適に用いることができる。
このような、基材及び前記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層を有する粘着テープであって、粘着剤層は本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなる、粘着テープもまた、本発明の1つである。
【0053】
本発明の一実施態様である粘着テープは、基材を有する。
上記基材を構成する材料は耐熱性を持つ材料であることが好ましい。上記耐熱性を持つ材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れることからポリイミドが好ましい。
【0054】
上記基材の厚さは特に限定されないが、好ましい下限が25μm、より好ましい下限が50μm、好ましい上限が250μm、より好ましい上限が125μmである。上記基材がこの範囲であることで取り扱い性に優れる粘着テープとすることができる。
【0055】
本発明の一実施態様である粘着テープは、上記基材の少なくとも一方の面に積層された粘着剤層を有する。
上記粘着剤層は、本発明の一実施態様である粘着剤組成物からなるものである。
【0056】
上記粘着剤層のゲル分率は特に限定されないが、90重量%未満であることが好ましい。上記ゲル分率が90重量%未満であることで、貼り付け時により高い粘着力を発揮することができる。初期粘着力を更に高める観点から、上記粘着剤層のゲル分率は80重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが更に好ましい。上記粘着剤層のゲル分率の下限は特に限定されないが、取り扱い性の観点から、20重量%以上であることが好ましい。
上記粘着剤層のゲル分率は、上記粘着剤成分の種類、上記架橋剤の種類及び量等によって調節することができる。
なお、上記粘着剤層が硬化型粘着剤層である場合、上記粘着剤層のゲル分率とは、紫外線等の光の照射又は加熱等による硬化前のゲル分率(初期ゲル分率)を意味する。
【0057】
なお、上記粘着剤層のゲル分率は、具体的には以下の方法で測定することができる。
まず、上記粘着剤層から粘着剤を0.1gこそぎ取ってトルエン50mL中に浸漬し、振とう機で温度23℃、200rpmの条件で24時間振とうする。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、トルエンとトルエンを吸収し膨潤した粘着剤とを分離する。分離後の粘着剤を110℃の条件下で1時間乾燥させる。乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤の重量を測定し、下記式(1)を用いてゲル分率を算出する。
ゲル分率(重量%)=100×(W1-W2)/W0 (1)
(W0:初期粘着剤重量、W1:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤重量、W2:金属メッシュの初期重量)
【0058】
上記粘着剤層の厚さは特に限定されないが、下限が3μm、上限が100μmであることが好ましい。上記粘着剤層の厚みが上記範囲であると充分な粘着力で支持体と接着することができる。同様の観点から、上記粘着剤層の厚さのより好ましい下限は、5μm、より好ましい上限は50μmである。
【0059】
本発明の一実施態様である粘着テープを製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、離型処理を施したフィルム上に本発明の一実施態様である粘着剤組成物の溶液を塗工、乾燥させて粘着剤層を形成し、基材と貼り合わせることで製造することができる。
【0060】
本発明の一実施態様である粘着テープの用途は特に限定されないが、高温下でも接着亢進が起きがたいことから、半導体デバイスの製造等の200℃を超えるような熱処理工程を有する物の製造において部材を保護する粘着テープとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、貼り付け時には高い粘着力を有しながらも、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着剤組成物及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
(粘着剤成分Aの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)79重量部、アクリル酸(AAc)1重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)20重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部、酢酸エチル80重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、官能基含有アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液を得た。その後、得られた官能基含有アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(表中ではMOI)8重量部を加えて反応させることで、粘着剤成分A含有溶液を得た。
【0064】
次いで、得られた粘着剤成分A含有溶液をテトラヒドロフラン(THF)によって50倍に希釈して得られた希釈液を、ポア径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過した。その後、得られた濾液をゲルパミエーションクロマトグラフに供給してGPC測定を行った。粘着剤成分のポリスチレン換算分子量を測定して、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。その結果、Mw:57万、Mw/Mn:6.4であった。なお、測定機器と測定条件は以下の通りとした。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:e2695 Separations Module(Waters社製)
検出器:示差屈折計(2414、Waters社製)
カラム:GPC KF-806L(昭和電工社製)
標準試料:STANDRAD SM-105、昭和電工社製
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
【0065】
(粘着剤成分Bの調製)
2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いなかった以外は粘着剤成分Aと同様にして粘着剤成分B含有溶液を得て、Mw及びMw/Mnを測定した。
【0066】
(シリコーン系グラフト共重合体Aの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2-エチルへキシルアクリレート(2EHA)89重量部、シリコーンマクロモノマー10重量部、アクリル酸(AAc)1重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部と、酢酸エチル80重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、シリコーン系グラフト共重合体Aの酢酸エチル溶液を得た。得られたシリコーン系グラフト共重合体Aについて粘着剤成分Aの調製と同様の方法でMw及びMw/Mnを測定した。なお、シリコーンマクロモノマーは以下のものを用いた。
シリコーンマクロモノマー:KF-2012、片末端メタクリロイル変性PDMS、信越化学社製
【0067】
(シリコーン系グラフト共重合体Bの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)39重量部、シリコーンマクロモノマー60重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)1重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部、酢酸エチル80重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、官能基含有アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液を得た。その後、得られた官能基含有アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(表中ではMOI)0.5重量部を加えて反応させることで、シリコーン系グラフト共重合体B含有溶液を得た。得られたシリコーン系グラフト共重合体Bについて粘着剤成分Aの調製と同様の方法でMw及びMw/Mnを測定した。
【0068】
(シリコーン系グラフト共重合体C~Eの調製)
モノマー組成を表1の通りとした以外はシリコーン系グラフト共重合体Bの調製と同様にして、シリコーン系グラフト共重合体C~Eを得て、Mw及びMw/Mnを測定した。
【0069】
(シリコーン系グラフト共重合体Fの調製)
モノマー組成を表1の通りとした以外はシリコーン系グラフト共重合体Aの調製と同様にして、シリコーン系グラフト共重合体Fを得て、Mw及びMw/Mnを測定した。
【0070】
【0071】
(実施例1)
得られた粘着剤成分A含有溶液の固形分100重量部に対して剥離助剤としてシリコーン系グラフト共重合体A5.0重量部、熱重合開始剤1.0重量部、エポキシ系架橋剤0.1重量部を加えて粘着剤組成物溶液を得た。次いで、粘着剤組成物溶液を表面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムの離型処理面上に乾燥皮膜の厚さが40μmとなるようにドクターナイフで塗工し110℃、5分間加熱乾燥させて粘着剤層を得た。得られた粘着剤層と片面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンナフタレートフィルムのコロナ処理面とを貼り合わせて、粘着テープを得た。なお、熱重合開始剤及び架橋剤としては以下のものを用いた。
熱重合開始剤:パーブチルO、日油社製
エポキシ系架橋剤:テトラッドC、三菱ガス化学社製
【0072】
(実施例2~16、比較例1~5)
用いる粘着剤成分、剥離助剤、重合開始剤及び架橋剤の種類及び配合量を表2、3の通りとした以外は実施例1と同様にして粘着テープを得た。なお、剥離助剤、重合開始剤及び架橋剤としては以下のものを用いた。
シリコーンジアクリレート:EBECRYL350、ダイセル・オルネクス社製
シリコーンオイル:KF-96-10cs、信越化学社製
光重合開始剤:エサキュアワン、日本シイベルヘグナー社製
イソシアネート系架橋剤:コロネートL45、東ソー社製
【0073】
<評価>
実施例及び比較例で得られた粘着テープについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表2、3に示した。
【0074】
(初期ゲル分率)
粘着テープの粘着剤層から粘着剤を0.1gこそぎ取ってトルエン50mL中に浸漬し、振とう機で温度23℃、200rpmの条件で24時間振とうした。振とう後、金属メッシュ(目開き#200メッシュ)を用いて、トルエンとトルエンを吸収し膨潤した粘着剤とを分離した。分離後の粘着剤を110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤の重量を測定し、下記式(1)を用いてゲル分率を算出した。
ゲル分率(重量%)=100×(W1-W2)/W0 (1)
(W0:初期粘着剤重量、W1:乾燥後の金属メッシュを含む粘着剤重量、W2:金属メッシュの初期重量)
【0075】
(初期粘着力及び加熱後粘着力の評価)
粘着テープを25mm幅に切り出して試験片を得た。得られた試験片の粘着層をガラス板(松浪ガラス工業社製、大型スライドガラス白縁磨 No.2)上に載せた。次いで、試験片上に300mm/分の速度で2kgのゴムローラーを一往復させることにより、試験片とガラス板とを貼り合わせた。その後、23℃で1時間静置して試験サンプルを作製した。静置後の試験サンプルについて、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°方向の引張試験を行い、初期粘着力を測定した。
次いで、上記と同様の方法で作成した測定サンプルについて220℃2時間の熱処理を行った。放冷後、上記と同様の方法で180°方向の引張試験を行い、加熱後粘着力を測定した。
なお、比較例2~4の加熱後粘着力については、ガラス板の全面に糊残りしたため、測定できなかった。
【0076】
(汚染性の評価)
加熱後粘着力の測定後のガラス板を目視にて観察し、下記基準で残渣を評価した。
◎:残渣なし
○:一部に残渣あり(貼付面積の10%以下)
△:一部に残渣あり(貼付面積の10%より広範囲かつ30%以下)
×:全面に残渣あり(貼付面積の30%より広範囲)
【0077】
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、貼り付け時には高い粘着力を有しながらも、高温の熱処理工程に供しても接着亢進を抑えることができる粘着剤組成物及び該粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープを提供することができる。