(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075723
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及び方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240528BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240528BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240528BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/1391
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047733
(22)【出願日】2024-03-25
(62)【分割の表示】P 2021556156の分割
【原出願日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2019207241
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三木 健
(72)【発明者】
【氏名】武井 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】刀川 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】充放電による放電容量低下と内部抵抗上昇の両方を抑制するリチウムイオン二次電池用正極の提供。
【解決手段】集電体上に設けられた層状構造体を備えるリチウムイオン二次電池用正極であって、集電体から最も離れた最外層と集電体に最も近い最内層を含み、最外層がLi
1+XM
AO
2(-0.15≦X≦0.15、M
Aは、Ni、Co及びMnを含む元素群を表し、M
Aを構成する全元素中のNi、Co、Mnの割合(mol%)が、それぞれa、b、cであり、0<a/(b+c)≦0.54、1.6≦b/c≦2を満たす)の第一正極活物質を含み、最内層がLi
1+YM
BO
2(-0.15≦Y≦0.15、M
Bは、Ni、Co、並びにMn及びAlの少なくとも一方を含む元素群を表し、M
Bを構成する全元素中のNi、Co、Mn、Alの割合(mol%)がd、e、f及びgであり、1≦d/(e+f+g)≦4を満たす)の第二正極活物質を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
正極集電体上に設けられた層状構造体と、
を備えるリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記層状構造体が、正極集電体から最も離れた最外層、及び正極集電体に最も近い最内層を含み、
前記最外層が、下記式(1):
Li1+XMAO2 (1)
(式中、
Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、
MAは、Ni、Co及びMnを含む元素群を表し、
MAを構成する全元素中のNi,Co及びMnの割合が、それぞれ、a(mol%)、b(mol%)、c(mol%)であり、a、b及びcが、0<a/(b+c)≦0.54、1.6≦b/c≦2を満たす)
で表される第一正極活物質を含み、
前記最内層が、下記式(2):
Li1+YMBO2 (2)
(式中、
Yは、-0.15≦Y≦0.15を満たし、
MBは、Ni、Co、並びにMn及びAlの少なくとも一方を含む元素群を表し、
MBを構成する全元素中のNi、Co、Mn及びAlの割合が、それぞれ、d(mol%)、e(mol%)、f(mol%)及びg(mol%)であり、d、e、f及びgが、1≦d/(e+f+g)≦4を満たす)
で表される第二正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
MAとMBの少なくとも一方が、Zr、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ge、Sn、Mg、Ag、Ta、Nb、B、P、Ca、Sr及びBaの少なくともいずれか一つをさらに含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
a、b及びcが、0<a/(b+c)≦0.43、1.8≦b/c≦2を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
a、b及びcが、0<a/(b+c)≦0.33、1.8<b/c≦2を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記層状構造体が、前記最外層と前記最内層の間に中間層をさらに含み、
前記中間層が、第三正極活物質を含み、
前記最外層、前記最内層、及び前記中間層が、それぞれ、バインダー及び導電剤をさらに含み、
前記中間層における前記導電剤の重量割合が、前記最外層及び前記最内層における前記導電剤の重量割合よりも高く、
前記中間層における前記バインダーの重量割合が、前記最外層及び前記最内層における前記バインダーの重量割合よりも低く、
前記中間層における第三正極活物質の重量割合が、前記最外層における第一正極活物質の重量割合及び前記最内層における第二正極活物質の重量割合よりも低い、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を製造する方法であって、
第一正極活物質を含む第一組成物、及び第二正極活物質を含む第二組成物を、正極集電体上に同時に塗布し、乾燥させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業において、燃費規制及び環境規制が強化されている。これらの規制に準拠するため、電池を動力源とし二酸化炭素を排出しない電気自動車、及び水素を燃料源とする燃料電池車の技術開発が注目されている。しかしながら、電気自動車及び燃料電池車は、インフラ整備が不十分である等の様々な問題がある。そのため、内燃機関エンジンと電池の両方を動力源とし、二酸化炭素の排出量が少ないPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、及びHEV(Hybrid Electric Vehicle)が、燃費規制及び環境規制に対応するための有力候補となっている。
【0003】
PHEV又はHEVで用いられるリチウムイオン二次電池は、長寿命を有することが要求される。特許文献1には、正極集電体にLi XCo 1-YNi YO Z(0<X≦1.3、0≦Y≦1、1.8≦Z≦2.2)で表される正極材料の層が複数積層された正極を使用したリチウム電池が記載されている。特許文献1では、正極集電体に近い正極材料の層中におけるCoの原子比に比べて、正極集電体から離れた正極材料の層中におけるCoの原子比を高くすることで、充放電による放電容量の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池が長寿命を有するためには、充放電による放電容量の低下を抑制するだけではなく、内部抵抗の上昇も抑制する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、リチウムイオン電池の充放電による放電容量の低下の抑制と内部抵抗の上昇の抑制の両方を達成するリチウムイオン二次電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、正極集電体と、正極集電体上に設けられた層状構造体と、を備えるリチウムイオン二次電池用正極であって、前記層状構造体が、正極集電体から最も離れた最外層、及び正極集電体に最も近い最内層を含み、前記最外層が、下記式(1):
Li1+XMAO2 (1)
(式中、Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、MAは、Ni、Co及びMnを含む元素群を表し、MAを構成する全元素中のNi,Co及びMnの割合が、それぞれ、a(mol%)、b(mol%)、c(mol%)であり、a、b及びcが、0<a/(b+c)≦0.54、1.6≦b/c≦2を満たす)
で表される第一正極活物質を含み、前記最内層が、下記式(2):
Li1+YMBO2 (2)
(式中、Yは、-0.15≦Y≦0.15を満たし、MBは、Ni、Co、並びにMn及びAlの少なくとも一方を含む元素群を表し、MBを構成する全元素中のNi、Co、Mn及びAlの割合が、それぞれ、d(mol%)、e(mol%)、f(mol%)及びg(mol%)であり、d、e、f及びgが、1≦d/(e+f+g)≦4を満たす)
で表される第二正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極が提供される。
【0008】
本発明の別の態様に従えば、上記態様のリチウムイオン二次電池用正極を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-207241号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、リチウムイオン電池の充放電による放電容量の低下と内部抵抗の上昇の両方が抑制されたリチウムイオン二次電池用正極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の概略断面図である。
【
図2】
図2は、第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極の概略断面図である。
【
図3】
図3は、リチウムイオン二次電池の外観斜視図である。
【
図4】
図4は、リチウムイオン二次電池の分解斜視図である。
【
図5】
図5は、捲回群の一部を展開した斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例8、比較例1及び比較例4のリチウムイオン二次電池のDCR上昇率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)リチウムイオン二次電池用正極
まず、
図1に示す第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34を説明する。第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34は、正極集電体34aと、正極集電体34a上に設けられた層状構造体34bと、を備える。
【0013】
正極集電体34aは、導電性が高く且つリチウムイオンと合金化しない任意の材料から形成される。
図1において、正極集電体34aは、第一面341及び第一面341の反対面である第二面342を有する板状(シート状)の形状を有するが、正極集電体34aの形状はこれに限定されない。正極集電体34aとして、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。
【0014】
正極集電体34aの第一面341及び第二面342の各々の上に層状構造体34bが設けられる。正極集電体34aの一端には、
図1に示すように、層状構造体34bが設けられていない部分(以後、「正極集電体露出部」と称する)34cが設けられる。
【0015】
以下、正極集電体34aの第一面341上に設けられた層状構造体34bを説明する。同様の説明は、正極集電体34aの第二面342上に設けられた層状構造体34bにも当てはまるため、正極集電体34aの第二面342上に設けられた層状構造体34bの説明は省略する。
【0016】
第一実施形態において、層状構造体34bは、正極集電体34aの第一面341に垂直な方向に積層された二つの層からなる。二つの層のうち、正極集電体34aの第一面341上に直接形成された層を最内層52と呼び、最内層52の上に形成された層を最外層51と呼ぶ。
【0017】
最外層51は、下記式(1):
Li1+XMAO2 (1)
(式中、
Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、
MAは、Ni、Co及びMnを含む元素群を表し、
MAを構成する全元素中のNi、Co及びMnの割合が、それぞれ、a(mol%)、b(mol%)、c(mol%)であり、a、b及びcが、0<a/(b+c)<1、1≦b/c≦2を満たす)
で表される第一正極活物質を含む。
【0018】
-0.15≦X≦0.15であることにより、第一正極活物質は、高い真密度及び高い可逆性を有する。
【0019】
M Aが、Ni及びCoに加えて、Mnを含むことにより、第一正極活物質は、高い熱安定性及び高電位状態における高い安定性を有する。そのため、第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34を用いたリチウムイオン二次電池は、高い安全性を有する。
【0020】
後述する実施例で示すように、第一正極活物質が0<a/(b+c)<1且つ1≦b/cを満たす組成を有することにより、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を抑制できる。この理由を、本発明者は以下のように考えている。0<a/(b+c)<1且つ1≦b/cを満たす第一正極活物質は、充放電反応を円滑に進行させる。充放電反応は、層状構造体34bの正極集電体34aから最も離れた表面(外表面)で優先的に起こる。そのため、上記の組成を有する第一正極活物質が、正極集電体34aから最も離れた最外層51に含まれることにより、より効果的に、充放電反応を円滑に進行させることができる。その結果、リチウムイオン二次電池は、多くの充放電サイクルにわたって放電容量及び直流内部抵抗を維持できる。
【0021】
第一正極活物質がb/c≦2を満たす組成を有することにより、リチウムイオン二次電池用正極のコストが低減するとともに、リチウムイオン二次電池の安全性が向上する。
【0022】
M Aは、Zr、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ge、Sn、Mg、Ag、Ta、Nb、B、P、Ca、Sr及びBaの少なくともいずれか一つをさらに含んでもよい。M AがZrを含む場合、低温時のリチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減する。Zrの含有量は、Ni、Co及びMnの総量に対して、0.1~2.0mol%、特に0.2~1.0mol%であってよい。また、M Aを構成する全元素中のNi、Co及びMn以外の元素の割合は、10mol%以下、特に、3mol%以下であってよい。それにより、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を十分に抑制できる。
【0023】
最外層51は、バインダー及び導電剤をさらに含んでよい。
【0024】
バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化プロピレン、ポリフッ化クロロプレン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリル系樹脂、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0025】
導電剤として、炭素質材料を用いることができる。炭素質材料は、結晶性炭素、無定形炭素、又はこれらの混合物であってよい。結晶性炭素の例として、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば鱗片状黒鉛)、又はこれらの混合物が挙げられる。無定形炭素の例として、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、又はこれらの混合物)が挙げられる。
【0026】
最外層51は、5μm~50μmの厚さを有してよい。それにより、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を十分に抑制できる。
【0027】
最内層52は、下記式(2):
Li1+YMBO2 (2)
(式中、
Yは、-0.15≦Y≦0.15を満たし、
MBは、Ni、Co、並びにMn及びAlの少なくとも一方を含む元素群を表す)
で表される第二正極活物質を含んでよい。
【0028】
-0.15≦Y≦0.15であることにより、第二正極活物質は、高い真密度及び高い可逆性を有する。
【0029】
MBが、Ni及びCoに加えて、Mn及びAlの少なくとも一方を含むことにより、第二正極活物質は、高い熱安定性及び高電位状態における高い安定性を有する。そのため、第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34を用いたリチウムイオン二次電池は、高い安全性を有する。
【0030】
MBを構成する全元素中のNi、Co、Mn及びAlの割合は、それぞれ、d(mol%)、e(mol%)、f(mol%)及びg(mol%)と表される。d、e、f及びgは、0<d、0<e、0≦f、0≦g、0<f+gを満たす。さらに、d、e、f及びgは、1≦d/(e+f+g)≦4を満たしてよい。層状構造体34bの外表面から最も離れた最内層52が1≦d/(e+f+g)≦4を満たす第二正極活物質を含むことで、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を一層抑制できる。
【0031】
MBは、Zr、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ge、Sn、Mg、Ag、Ta、Nb、B、P、Ca、Sr及びBaの少なくともいずれか一つをさらに含んでもよい。MBがZrを含む場合、低温時のリチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減する。Zrの含有量は、Ni、Co、Mn及びAlの総量に対して、0.1~2.0mol%、特に0.2~1.0mol%であってよい。また、MBを構成する全元素中のNi、Co、Mn及びAl以外の元素の割合は、10mol%以下、特に、3mol%以下であってよい。それにより、リチウムイオン二次電池の放電容量の十分な向上が可能となる。
【0032】
最内層52は、最外層51と同様に、バインダー及び導電剤をさらに含んでよい。
【0033】
第一実施形態における層状構造体34bは、例えば以下のようにして形成することができる。第一正極活物質、導電剤及びバインダーを、溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水)中に分散させて、ペースト状又はスラリー状の第一組成物を調製する。同様にして、第二正極活物質、導電剤及びバインダーから、ペースト状又はスラリー状の第二組成物を調製する。第二組成物を、正極集電体34aの第一面341に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、最内層52を形成する。次に、第一組成物を最内層52の上に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、最外層51を形成する。それにより、層状構造体34bが形成される。第二組成物及び第一組成物を順に塗布及び乾燥する代わりに、第一組成物及び第二組成物をスロットダイコート法等により同時に塗布し、乾燥させて、最外層51及び最内層52を形成することもできる。
【0034】
第一正極活物質及び第二正極活物質中の各元素の量は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法により測定することができる。
【0035】
次に、
図2に示す第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34を説明する。第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34は、正極集電体34aと、正極集電体34a上に形成された層状構造体34bとを備える。
【0036】
第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34中の正極集電体34aは、第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34中の正極集電体34aと同様のものであるため、説明を省略する。
【0037】
正極集電体34aの第一面341及び第二面342の各々の上に層状構造体34bが設けられる。正極集電体34aは、層状構造体34bが設けられていない正極集電体露出部34cを有する。
【0038】
以下、正極集電体34aの第一面341上に設けられた層状構造体34bを説明する。同様の説明は、正極集電体34aの第二面342上に設けられた層状構造体34bにも当てはまるため、正極集電体34aの第二面342上に設けられた層状構造体34bの説明は省略する。
【0039】
第二実施形態において、層状構造体34bは、正極集電体34aの第一面341に垂直な方向に積層された三つの層からなる。三つの層のうち、正極集電体34aの第一面341上に直接形成された層を最内層52と呼び、最内層52の上に形成された層を中間層53と呼び、中間層53の上に形成された層を最外層51と呼ぶ。
【0040】
第二実施形態における最外層51及び最内層52は、第一実施形態における最外層51及び最内層52と同様のものであるため、説明を省略する。
【0041】
中間層53は、下記式(3):
Li1+ZMCO2 (3)
(式中、
Zは、-0.15≦Z≦0.15を満たし、
MCは、Ni、Co、並びにMn及びAlの少なくとも一方を含む元素群を表す)
で表される第三正極活物質を含んでよい。
【0042】
-0.15≦Z≦0.15であることにより、第三正極活物質は、高い真密度及び高い可逆性を有する。
【0043】
MCが、Ni及びCoに加えて、Mn及びAlの少なくとも一方を含むことにより、第三正極活物質は、高い熱安定性及び高電位状態における高い安定性を有する。そのため、第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極34を用いたリチウムイオン二次電池は、高い安全性を有する。
【0044】
中間層53の各元素の量は、ICP法により測定することができる。
【0045】
中間層53は、最外層51、最内層52と同様に、バインダー及び導電剤をさらに含んでよい。
【0046】
中間層53は、最外層51及び最内層52における導電剤の重量割合よりも高い重量割合で導電剤を含有してよく、最外層51及び最内層52におけるバインダーの重量割合よりも低い重量割合でバインダーを含有してよく、前記最外層における第一正極活物質の重量割合及び前記最内層における第二正極活物質の重量割合よりも低い重量割合で第三正極活物質を含有してよい。それにより、層状構造体34bにおける電子伝導性が向上する。また、高い重量割合で導電剤を含む中間層53は、最外層51及び最内層52よりも多くの電解液を保持することができ、リチウムイオン二次電池の放電時に最外層51及び最内層52へ電解液を供給することができる。そのため、層状構造体34bにおけるイオン伝導性を向上させることができる。なお、この場合、中間層53は、最外層51及び最内層52よりも小さい厚みを有してよい。
【0047】
第二実施形態における層状構造体34bは、例えば以下のようにして形成することができる。第一正極活物質、導電剤及びバインダーを、溶媒中に分散させて、ペースト状又はスラリー状の第一組成物を調製する。同様にして、第二正極活物質、導電剤及びバインダーから、ペースト状又はスラリー状の第二組成物を調製し、第三正極活物質、導電剤及びバインダーから、ペースト状又はスラリー状の第三組成物を調製する。第二組成物を、正極集電体34aの第一面341に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、最内層52を形成する。次に、第三組成物を最内層52の上に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、中間層53を形成する。さらに、第一組成物を中間層53の上に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、最外層51を形成する。それにより、層状構造体34bが形成される。第二組成物、第三組成物及び第一組成物を順に塗布及び乾燥する代わりに、第一組成物、第二組成物及び第三組成物をスロットダイコート法等により同時に塗布し、乾燥させて、最外層51、最内層52及び中間層53を形成することもできる。
【0048】
第一実施形態及び第二実施形態において、正極集電体34aの第一面341及び第二面342の各々の上に層状構造体34bが設けられているが、正極集電体34aの第一面341及び第二面342の一方のみに層状構造体34bを設けてもよい。すなわち、層状構造体34bは、正極集電体34aの第一面341及び第二面342の少なくとも一方の上に設けられる。
【0049】
第一実施形態及び第二実施形態において層状構造体34bはそれぞれ二つ及び三つの層からなるが、層状構造体34bは四つ以上の層からなってもよい。すなわち、層状構造体34bは、層状構造体34b中で正極集電体34aの第一面341から最も離れた層である最外層51と、層状構造体34b中で正極集電体34aの第一面341に最も近い層である最内層52とを少なくとも含み、また、最外層51と最内層52の間に少なくとも一つの中間層53をさらに含んでもよい。
(2)リチウムイオン二次電池
上記実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、任意のリチウムイオン二次電池に適用可能である。以下、上記実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池の一例を説明する。
【0050】
図3、4に示すリチウムイオン二次電池100は、角型電池である。また、リチウムイオン二次電池100は、電池缶1及び電池蓋6を備える。電池缶1は、矩形の底面1dと、底面1dから立ち上がる相対的に面積の大きい一対の対向する幅広側面1bと相対的に面積の小さい一対の対向する幅狭側面1cとを含む側面と、幅広側面1b及び幅狭側面1cの上端で上方に向かって開放された開口部1aとを有する。なお、ここで、上方とは、
図3、4中のZ方向を意味する。
【0051】
電池缶1の開口部1aは、電池蓋6によって封止される。電池蓋6は略矩形平板状であって、電池缶1の開口部1aを塞ぐように溶接されて電池缶1を封止する。
【0052】
電池蓋6には、ガス排出弁10が一体的に設けられている。電池缶1内の圧力が上昇すると、ガス排出弁10が開裂して電池缶1の内部からガスが排出され、電池缶1内の圧力が減少する。これによって、リチウムイオン二次電池100の安全性が確保される。
【0053】
電池蓋6には、電池缶1内に電解液を注入するための注液口9が穿設される。注液口9は、電解液を電池缶1内に注入した後に注液栓11によって封止される。注液栓11は、レーザ溶接により電池蓋6に接合されて注液口9を封止し、リチウムイオン二次電池100を密閉する。
【0054】
電池蓋6には、さらに、正極側貫通孔46及び負極側貫通孔26が穿設される。
【0055】
電池蓋6の上方に、正極外部端子14及び負極外部端子12が設けられる。電池蓋6の下方であって電池缶1の内部に、正極集電板44及び負極集電板24が設けられる。
【0056】
正極外部端子14及び正極集電板44の形成素材としては、例えばアルミニウム合金が挙げられ、負極外部端子12及び負極集電板24の形成素材としては、例えば銅合金が挙げられる。
【0057】
正極外部端子14、負極外部端子12は、それぞれ、バスバー等に溶接接合される溶接接合部を有する。溶接接合部は、電池蓋6から上方に突出する直方体のブロック形状を有する。溶接接合部の下面は電池蓋6の表面に対向し、溶接接合部の上面は所定高さ位置に位置し、電池蓋6と略平行である。
【0058】
正極集電板44は、電池蓋6の下面に対向する矩形板状の正極集電板基部41と、正極集電板基部41の側端から電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出する正極側接続端部42を有する。同様に、負極集電板24は、電池蓋6の下面に対向する矩形板状の負極集電板基部21と、負極集電板基部21の側端から電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出する負極側接続端部22を有する。正極集電板基部41及び負極集電板基部21には、正極側開口穴43及び負極側開口穴23がそれぞれ形成される。
【0059】
正極外部端子14、負極外部端子12の下面からそれぞれ突出するように、正極接続部14a、負極接続部12aが設けられる。正極接続部14a及び負極接続部12aは、それぞれ、正極外部端子14及び負極外部端子12と一体に形成される。
【0060】
正極接続部14aは、電池蓋6の正極側貫通孔46及び正極集電板基部41の正極側開口穴43に挿入可能な円柱形状を有する。同様に、負極接続部12aは、電池蓋6の負極側貫通孔26及び負極集電板基部21の負極側開口穴23に挿入可能な円柱形状を有する。正極接続部14aは、電池蓋6の正極側貫通孔46及び正極集電板基部41の正極側開口穴43を通るように配置されて、電池蓋6と正極集電板基部41を貫通する。正極接続部14aは、その先端がかしめられて、正極外部端子14と正極集電板44を電池蓋6に一体に固定する。同様に、負極接続部12aは、電池蓋6の負極側貫通孔26及び負極集電板基部21の負極側開口穴23を通るように配置されて、電池蓋6と負極集電板基部21を貫通する。負極接続部12aは、その先端がかしめられて、負極外部端子12と負極集電板24を電池蓋6に一体に固定する。
【0061】
正極外部端子14は、正極接続部14a及び正極集電板44を介して、後述する捲回群3に電気的に接続される。同様に、負極外部端子12は、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、捲回群3に電気的に接続される。リチウムイオン二次電池100の充電時には、正極外部端子14、正極接続部14a及び正極集電板44、並びに負極外部端子12、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、外部電源から捲回群3に電気が供給される。リチウムイオン二次電池100の放電時には、正極外部端子14、正極接続部14a及び正極集電板44、並びに負極外部端子12、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、捲回群3から外部負荷に電気が供給される。
【0062】
正極集電板44、負極集電板24、正極外部端子14及び負極外部端子12を、それぞれ電池蓋6から電気的に絶縁するために、正極外部端子14及び負極外部端子12の各々と電池蓋6との間にガスケット5が設けられ、正極集電板44及び負極集電板24の各々と電池蓋6との間に絶縁板7が設けられる。絶縁板7及びガスケット5の形成素材としては、例えばポリブチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等の絶縁性を有する樹脂材が挙げられる。
【0063】
電池缶1内には、電解液、捲回群3及び絶縁保護フィルム2が収納される。
【0064】
電解液は、注液口9から電池缶1内に注入される。電解液としては、例えばエチレンカーボネート等の炭酸エステル系の有機溶媒中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF 6)等のリチウム塩が溶解された非水電解液を用いることができる。
【0065】
図5に示すように、捲回群3は、負極電極32、正極電極34、及び二個のセパレータ33、35を有する。セパレータ35、負極電極32、セパレータ33及び正極電極34はこの順に重ねられ、扁平状に捲回される。セパレータ35が捲回群3の最外周に位置し、その内側に負極電極32が位置する。二個のセパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32を電気的に絶縁する。
【0066】
捲回群3は、捲回軸に垂直な一対の対向する端面3a、3bと、一対の端面の間の側面3cを有する。側面3cは、断面半円形状の互いに対向する一対の湾曲部と、これら一対の湾曲部の間に連続して形成される平面部とを有する。捲回群3は、側面3cの平面部と電池缶1の幅広側面1bが略平行になるように、電池缶1内に配置される。
【0067】
正極電極34として、上記実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極が用いられる。正極集電体34a(
図1、2参照)の正極集電体露出部34cは、捲回群3の端面3a及びその近傍に設けられる。正極集電体露出部34cは、正極集電板44の正極側接続端部42に対向するともに電気的に接続される。
【0068】
負極電極32は、負極集電体と、負極集電体の両面に形成された負極合剤層32bとを有する。
【0069】
負極集電体は、導電性が高く且つリチウムイオンと合金化しない任意の材料から形成される。負極集電体の一端には、負極合剤層32で被覆されない部分(以後、「負極集電体露出部」と称する)32cが設けられる。負極集電体露出部32cは、捲回群3の端面3b及びその近傍に設けられる。負極集電体露出部32cは、負集電板24の負極側接続端部22に対向するともに電気的に接続される。
【0070】
負極合剤層32bは、負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオンを挿入及び脱離可能な任意の材料から形成される。そのような材料の例として、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等の炭素材料、非晶質炭素で被覆した黒鉛、導電助剤としてのカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック)と黒鉛との混合物、該混合物を非晶質炭素で被覆することにより得られる複合体、黒鉛と難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素又は金属酸化物(例えば、酸化鉄、酸化銅)との混合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
負極合剤層32bは、さらに、バインダーを含む。バインダーとしては、正極電極34の層状構造体34bで用いるバインダーについて例示した材料と同様の材料を用いることができる。負極合剤層32bは、さらに、増粘剤を有する。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースを用いることができる。
【0072】
負極合剤層32bの全体の厚み(すなわち、負極集電体の両面に形成される二個の負極合剤層32bの合計厚み)は、限定されないが、通常50μm~200μmである。
【0073】
セパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32の間の短絡を防止する機能と、非水電解液を保持する機能を有する。セパレータ33、35として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂製の多孔質シート、又はこれらの積層シート(例えば、PP/PE/PPの三層構成のシート)を用いることができる。
【0074】
セパレータ33、35の一方の面又は両面に、無機材料(例えばアルミナ粒子等)及びバインダーを含む層を設けてもよい。これにより、リチウムイオン二次電池100が異常な状態で使用された場合(例えば、過充電や圧壊等でリチウムイオン二次電池の温度が160℃以上に上昇した場合)でも、セパレータ33、35の溶融が防止され、絶縁機能を保持できる。そのため、リチウムイオン二次電池100の安全性が向上する。
【0075】
必要に応じて、捲回群3の最内周に軸芯を配置してもよい。軸芯としては、正極集電体、負極集電体、セパレータ33、35のいずれよりも曲げ剛性の高い樹脂シートを捲回したものを用いることができる。
【0076】
捲回群3の周囲には、絶縁保護フィルム2が捲回される。絶縁保護フィルム2として、例えばポリプロピレン(PP)等の合成樹脂製のシートを用いることができる。絶縁保護フィルム2は、一枚のシートであってよいし、複数枚のシートを積層したシートであってもよい。絶縁保護フィルム2の捲回軸は、捲回群3の捲回軸に垂直、且つ、捲回群3の側面3cの平面部に平行である。
【0077】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
実施例1~11
第一正極活物質としてLi1.0NiaCobMncO2粉末、第二正極活物質としてLi1.0NidCoeMnfAlgO2粉末を用意した。各実施例におけるa~gの値をICP分析により求めた。結果を表1に示す。また、導電剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用意した。
【0079】
第一正極活物質、導電剤及びバインダーを90:5:5の重量比率で混合した。得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて粘度を調整し、第一スラリーを得た。同様に、第二正極活物質、導電剤及びバインダーを90:5:5の重量比率で混合し、得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて粘度を調整し、第二スラリーを得た。
【0080】
正極集電体として、厚さ15μmのアルミニウム箔を用意した。正極集電体の両面上に第二スラリーの層が形成され、該第二スラリーの層上に第一スラリーの層が形成されるように、正極集電体の両面にスロットダイコーティング法により第一スラリー及び第二スラリーを塗布した。次に、第一スラリーの層及び第二スラリーの層を乾燥及びプレスした。それにより、第一正極活物質を含む最外層及び第二正極活物質を含む最内層からなる層状構造体が正極集電体の両面に形成された正極電極(リチウムイオン二次電池用正極)を得た。
【0081】
負極活物質として非晶質炭素被覆を施した天然黒鉛、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)、分散材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用意した。負極活物質、バインダー及び分散剤を98:1:1の重量比率で混合した。得られた混合物にイオン交換水を加えて粘度を調整し、負極スラリーを得た。負極集電体として厚さ10μmの銅箔を用意した。負極集電体の両面に、スロットダイコーティング法により負極スラリーを塗布し、負極合剤層を形成した。そして、負極合剤層を乾燥及びプレスした。それにより、負極電極を得た。
【0082】
セパレータ、負極電極、別のセパレータ及び正極電極をこの順で重ね、捲回した。それにより、
図5に示されるような捲回群を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を1:2の体積比で混合し、得られた混合液にLiPF
6を溶解した。これにより、非水電解液として1.0mol/LのLiPF
6溶液を得た。捲回群と非水電解液を用いて、
図3、4に示されるようなリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
実施例12
第一正極活物質としてLi1.0NiaCobMncO2粉末、第二正極活物質としてLi1.0NidCoeMnfAlgO2粉末を用意した。ICP分析により求めたa~gの値は表1に記載の通りであった。これらの第一正極活物質及び第二正極活物質を用いて、実施例1~11と同様に第一スラリー及び第二スラリーを作製した。また、第三正極活物質としてLi1.0Ni0.6Co0.2Mn0.2O2粉末を用意した。第三正極活物質、導電剤及びバインダーを90:5:5の重量比率で混合した。得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて粘度を調整し、第三スラリーを得た。
【0084】
正極集電体の両面上に第二スラリーの層が形成され、該第二スラリーの層上に第三スラリーの層が形成され、該第三スラリーの層上に第一スラリーの層が形成されるように、正極集電体の両面にスロットダイコーティング法により第一スラリー、第二スラリー及び第三スラリーを塗布した。その後、実施例1~11と同様にして、乾燥及びプレスを行った。それにより、第一正極活物質を含む最外層、第二正極活物質を含む最内層、及び最外層と最内層の間の第三正極活物質を含む中間層とからなる層状構造体が正極集電体の両面に形成された正極電極を得た。
【0085】
得られた正極電極を用いて、実施例1~11と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
実施例13
第三正極活物質、導電剤及びバインダーを45:50:5の重量比率で混合したこと以外は実施例12と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
比較例1~3、6
第一正極活物質としてLi1.0NiaCobMncO2粉末、第二正極活物質としてLi1.0NidCoeMnfAlgO2粉末を用意した。ICP分析により求めたa~gの値は表1に記載の通りであった。これらの第一正極活物質及び第二正極活物質を用いて、実施例1~11と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。
【0088】
比較例4
Li1.0Ni0.33Co0.33Mn0.33O2粉末とLi1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3O2粉末を1:1の重量比率で混合した。得られた混合粉末の組成をICP法により分析したところ、LiとNiとCoとMnのモル比は1.0:0.416:0.267:0.317であった。この混合粉末を第一正極活物質及び第二正極活物質として用いた。また、導電剤として、アセチレンブラック及びグラファイト、バインダーとしてPVdFを用いた。
【0089】
混合粉末、アセチレンブラック、グラファイト、及びPVdFを90:4:3:3の重量比率で混合した。得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて粘度を調整し、第一スラリー及び第二スラリーを作製した。
【0090】
得られた第一スラリー及び第二スラリーを用いて、実施例1~11と同様にリチウムイオン二次電池を作製した。なお、表1中のa~gの値は、上記のように混合粉末をICP法により分析して得た値である。
【0091】
比較例5
第一正極活物質としてLi1.0Co1.0O2粉末、第二正極活物質としてLi1.0Ni1.0O2粉末を用いたこと以外は実施例1~11と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
【0093】
(1)初期電池容量の測定
上記実施例及び比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vになるまで、1CAの定電流で充電し、続いて、4.2Vの定電圧で充電した。充電は合計2.5時間行った。30分間休止した後、リチウムイオン二次電池を、1CAの定電流で電池電圧が2.9Vになるまで放電し、放電容量を求めた。この放電容量を初期電池容量とした。実施例1のリチウムイオン二次電池の初期電池容量で規格化した各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池の初期電池容量を、表2中に示す。
(2)初期直流抵抗(DCR)の測定
リチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。その後、電池容量の5%を放電した。2時間休止した後、リチウムイオン二次電池の開回路電圧(OCV)を測定した。同様にして電池容量の5%の放電とOCVの測定を繰り返し、充電率(SOC)とOCVの関係を求めた。
【0094】
SOCとOCVの関係に基づき、リチウムイオン二次電池を、SOC0%からSOC50%まで、定電流-定電圧(CC-CV)方式で充電した。定電流充電中の充電電流は1CAとした。その後、リチウムイオン電池を10CAの定電流で10秒間放電し、放電による電圧降下値を測定した。さらに、同様の定電流放電を放電電流15CA及び20CAで行った。放電電流を横軸、電圧降下値を縦軸にプロットし、そのグラフの傾きを初期DCRとした。
(3)充放電サイクル試験
45℃の環境温度下で、リチウムイオン二次電池を、SOC80%まで10CAの定電流で充電し、続いてSOC20%まで10CAの定電流で放電した。この充放電サイクルを200時間繰り返した。その後、リチウムイオン二次電池の電池容量及びDCRを、初期電池容量及び初期DCRと同様の方法で測定した。測定した電池容量を初期電池容量で除して容量維持率を求めた。また、測定したDCRを初期DCRで除してDCR上昇率を求めた。
【0095】
上記の200時間の充放電と電池容量及びDCRの測定をさらに6回繰り返した。実施例8、比較例1及び比較例4のリチウムイオン二次電池のDCR上昇率を
図6に示す。また、合計1400時間の充放電サイクル後の各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池の容量維持率とDCR上昇率を表2中に示す。
【0096】
【0097】
通常、リチウムイオン二次電池の初期電池容量と寿命はトレードオフの関係にある。しかし、実施例1~13のリチウムイオン二次電池は、比較例1~6のリチウムイオン二次電池と同等の初期電池容量を有しつつ、比較例1~6よりも容量維持率が高く、且つ、DCR上昇率が低かった。特に、実施例1~5と比較例6の評価結果から、第一正極活物質が0<a/(b+c)<1且つ1≦b/cを満たす組成を有することにより、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を抑制できることが示された。また、実施例1、7~9、11のリチウムイオン二次電池は、実施例10のリチウムイオン二次電池と比べて、放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇がより小さかった。このことから、第二正極活物質が1≦d/(e+f+g)≦4を満たすことにより、充放電によるリチウムイオン二次電池の放電容量の低下及び直流内部抵抗の上昇を一層抑制できることが示された。
【符号の説明】
【0098】
34 リチウムイオン二次電池用正極(正極電極)
34a 正極集電体
34b 層状構造体
51 最外層
52 最内層
53 中間層
100 リチウムイオン二次電池
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。