(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075732
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】二次電池電極用バインダー及びその利用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240528BHJP
C08F 20/04 20060101ALI20240528BHJP
C08F 8/44 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F20/04
C08F8/44
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048407
(22)【出願日】2024-03-25
(62)【分割の表示】P 2020553865の分割
【原出願日】2019-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018203158
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲野 朋子
(72)【発明者】
【氏名】廣本 昌徳
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた特性の二次電池電極を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーとして、前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%以下含有し、前記架橋重合体又はその塩の多価金属イオン含有量は、100ppm以下である、バインダーを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%以下含有し、
前記架橋重合体又はその塩の多価金属イオン含有量は、100ppm以下である、バインダー。
【請求項2】
カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%以下含有し、
前記架橋重合体又はその塩1gあたりの10μm以上100μm以下の金属系粒子含有量が10×103個以下である、バインダー。
【請求項3】
前記架橋重合体又はその塩は、架橋性単量体に由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載のバインダー。
【請求項4】
前記架橋重合体の中和度は50モル%以上100モル%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のバインダー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のバインダー、活物質及び水を含む、二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項6】
集電体表面に、請求項1~4のいずれかに記載のバインダーを含有する電極層を備える、二次電池電極。
【請求項7】
二次電池電極用バインダーの製造方法であって、
架橋重合体又はその塩を準備する工程と、
固体状態の前記架橋重合体又はその塩から金属系粒子を除去する除去工程、を備える、方法。
【請求項8】
前記除去工程は、磁力を利用して前記架橋重合体又はその塩から前記金属系粒子を除去する工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記除去工程は、ドラム型磁選機又は電磁分離機を用いて前記架橋重合体又はその塩から前記金属系粒子を除去する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%含有する、請求項7~9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池電極用バインダー及びその利用に関する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月29日に出願された日本国特許出願である特願2018-203158の関連出願であり、この日本出願に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は、引用により、本明細書に組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
二次電池として、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の様々な蓄電デバイスが実用化されている。これらの二次電池に使用される電極は、活物質及びバインダー等を含む電極合剤層を形成するための組成物を集電体上に塗布・乾燥等することにより作製される。例えばリチウムイオン二次電池では、負極合剤層組成物に用いられるバインダーとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックス及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水系のバインダーが使用されている。
【0003】
ところで、電池内に金属等の異物が混入すると、電池の短絡や発火の原因となるため、これらの混入量の低減および管理が求められている。例えば、蓄電デバイス用バインダー組成物を容器へ充填するに際し、マグネットフィルターによる磁性金属の除去やイオン交換樹脂による金属イオンの除去を行ってもよいことが記載されている(特許文献1)。また、重合体と分散媒とを含む二次電池用バインダー組成物の製造方法であって、重合体と分散媒とを含む混合物から磁力により粒子状金属成分を除去する工程を含む方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-15254号公報
【特許文献2】国際公開第2010/032784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、具体的な金属含有量等については記載されていない。また、特許文献2では、実施例においてジエン系重合体及びアクリル酸エステル系重合体の例が示されるのみであり、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有するアクリル酸系重合体について具体的に開示されているわけではない。
【0006】
すなわち、上記特許文献は、いずれも、重合体と分散媒とを含む分散体(スラリー)から金属異物等を除去する方法について記載されているが、分散媒を含まない状態の粉末状などの固形の重合体から金属異物を除去する点及びその効果については何ら言及されていない。また、いずれも、アクリル酸系重合体の金属異物除去に関する具体的な記載は見られない。
【0007】
本発明者らが、粉末状のアクリル酸系重合体に含まれる金属系異物の影響を確認したところ、重合体中に含まれる金属系異物の量が多い場合、当該重合体を用いて電極スラリーを形成した際に高粘度化し、活物質の分散不良や塗工不良を引き起こすほか、塗工乾燥後に硬く脆くなり、耐屈曲性が低下してしまうということがわかった。上記の現象は、金属系異物に由来する金属イオンによりアクリル酸系重合体が架橋構造を形成することによるものと推察される。上記特許文献に記載の方法により金属系異物の除去を行っても、その効果は十分ではなく、分散体(スラリー)から粉末状などの固体状態のアクリル酸系重合体を得る工程において混入する金属系異物の含有量を十分低減することが必要であった。
【0008】
本明細書は、アクリル酸系重合体に含まれる金属系異物を効果的に低減できる技術及びその利用に関し、電極合剤層用組成物における高粘度化及び電極形成時の屈曲特性の低下を抑制できる、アクリル酸系重合体を含む二次電極用バインダー及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アクリル酸系重合体から多価金属イオンや金属粒子などの金属種を低減する方法とその効果について種々検討したところ、上記の通り、粉末状などの固体状態のアクリル酸系重合体から金属系粒子を除去することで、かかる固体状態のアクリル酸系重合体を再び分散させた際の粘性増大等の不都合を抑制又は回避でき、耐屈曲性に優れる電極を形成できるという知見を得た。本明細書は、かかる知見に基づき以下の手段を提供する。
【0010】
[1]カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%以下含有し、
前記架橋重合体又はその塩の多価金属イオン含有量は、100ppm以下である、バインダー。
[2]カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%以下含有し、
前記架橋重合体又はその塩1gあたりの10μm以上100μm以下の金属系粒子含有量が10×103個以下である、バインダー。
[3]前記架橋重合体又はその塩は、架橋性単量体に由来する構造単位を有する、[1]又は[2]に記載のバインダー。
[4]前記架橋重合体の中和度は50モル%以上100モル%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のバインダー。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のバインダー、活物質及び水を含む、二次電池電極合剤層用組成物。
[6]集電体表面に、[1]~[4]のいずれかに記載のバインダーを含有する電極層を備える、二次電池電極。
[7]二次電池電極用バインダーの製造方法であって、
架橋重合体又はその塩を準備する工程と、
固体状態の前記架橋重合体又はその塩から金属系粒子を除去する除去工程、を備える、方法。
[8]前記除去工程は、磁力を利用して前記架橋重合体又はその塩から前記金属系粒子を除去する工程を含む、[7]に記載の方法。
[9]前記除去工程は、ドラム型磁選機又は電磁分離機を用いて前記架橋重合体又はその塩から前記金属系粒子を除去する工程を含む、[8]に記載の方法。
[10]前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を30質量%以上100質量%含有する、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に開示される二次電池電極用バインダー(以下、単に、本バインダーともいう。)は、カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩(以下、単に、本重合体ともいう。)を含むことができる。本重合体の多価金属イオン含有量は、100ppm以下とすることができる。また、本重合体は、多価金属イオン含有量とは独立して又は多価金属イオン含有量とともに、本重合体又はその塩1gあたりの10μm以上100μm以下の金属系粒子含有量が10×103個以下である、とすることができる。
【0012】
本重合体は、多価金属イオン含有量及び/又は金属系粒子含有量について上記のとおりとなっているため、分散媒を伴うスラリー状態における合剤層組成物の粘性上昇を抑制して良好な塗工性等を確保できる。また、電極形成時の過度な硬化を抑制して、良好な耐屈曲性を有する電極を得ることができる。
【0013】
また、本重合体の製造方法は、固体状態の本重合体から金属系粒子を除去する除去工程を備えているため、優れた特性の二次電池用電極を得ることができる。
【0014】
本バインダーは、本重合体を含有するものであり、活物質及び水と混合することにより電極合剤層組成物(以下、単に、本組成物ともいう。)とすることができる。本組成物は、集電体への塗工が可能なスラリー状態であってもよいし、湿粉状態として調製し、集電体表面へのプレス加工に対応できるようにしてもよい。銅箔又はアルミニウム箔等の集電体表面に本組成物から形成される合剤層を形成することにより、本明細書に開示される二次電池電極(以下、単に、本電極ともいう。)が得られる。
【0015】
以下、二次電池電極用バインダー及びその製造方法等についての本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本開示の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴は、さらに改善された「二次電池電極用バインダー及びその利用」を提供するために、他の特徴や開示とは別に、又は共に用いることができる。
【0016】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0017】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0018】
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0019】
また、本明細書において、単位「ppm」は、ppm(質量/質量)を意味している。
【0020】
<バインダー>
本バインダーは、本重合体、すなわち、カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含むことができる。本バインダーは、本重合体のみを含んでいてもよいし、後述するように他のバインダー成分を含んでいてもよい。好ましくは、本重合体を全バインダー成分の50質量%以上含有し、また例えば60質量%以上含有し、また例えば70質量%以上含有し、また例えば80質量%以上含有し、また例えば90質量%以上含有し、また例えば95質量%以上含有し、また例えば100質量%含有する。
【0021】
本バインダーにおいては、本重合体における多価金属イオン含有量及び/又は10μm以上100μm以下の金属系粒子含有量を規定することができる。本重合体においてこうした金属種の含有量が規制されることで、本重合体を用いた二次電池電極用バインダーや二次電池電極合剤層用組成物においても、本重合体についての金属種の含有量が規制されることになり、本重合体による本来の機能を確実に達成して優れた耐屈曲性などを備えた電極を得ることができる。以下、かかる含有量について説明し、次いで、本重合体の構造単位や架橋重合体としての態様等について説明する。
【0022】
<本重合体における金属種の含有量>
<多価金属イオン含有量>
本重合体に関し、本重合体における多価金属イオン含有量が100ppm以下とすることができる。多価金属イオンは、価数が2価以上の金属イオンである。多価金属イオンの存在により、本重合体中のカルボキシル基との間の相互作用等により金属架橋を形成する可能性があり、スラリー粘性の増大や、電極合剤層の不均一化や電極の硬化や脆化に影響して電極の耐屈曲性を低下させる場合がある。本重合体は、カルボキシル基を有するため、かかる多価金属イオンの存在によって、その量が微量であっても金属架橋の形成が促進されてしまうと考えられる。
【0023】
多価金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、Cu(Cu2+)、Mg(Mg2+)、Ca(Ca2+)、Zn(Zn2+)、Sr(Sr2+)、Ba(Ba2+)、Co(Co2+、Co3+)、Ni(Ni2+)、Ce(Ce2+)、Al(Al3+)、Cr(Cr2+)、Mo(Mo3+)、Mn(Mn2+、Mn3+)、Fe(Fe2+、Fe3+)、Si(Si2+、Si4+)、Zr(Zr4+)等が挙げられる。なかでも、Cu(Cu2+)、Mg(Mg2+)、Ca(Ca2+)、Zn(Zn2+)、Fe(Fe2+、Fe3+)等が挙げられる。なお、()内は、主として想定される価数のイオンを示す。
【0024】
なお、本重合体が有するカルボキシル基等の酸性基が中和されている場合において、その中和に用いられている多価金属イオンは、ここでいう多価金属イオン含有量の測定対象から排除するものとする。
【0025】
多価金属イオンの含有量は、本重合体において100ppm以下である。本重合体において多価金属イオン含有量が100ppm以下であるというとき、固体状態の本重合体が有しうる多価金属イオン含有量が100ppm以下であることの他、本重合体を含む溶液又は分散体(スラリーやペースト等)中の溶質又は分散質としての本重合体であって固体状態としたときの本重合体に対して多価金属イオン濃度が100ppm以下である、との双方を含んでいる。なお、固体状態の本重合体における「固体状態」とは、例えば、なんら形状を限定するものではないが、粉末状あるいはなんらかの3次元形状を有する固形状等を意味している。多価金属イオン含有量は、以下の条件で測定することができる。
【0026】
[1]本重合体が固体状態の場合
本重合体を、例えば、減圧下(50mmHg以下)、80℃で3時間加熱乾燥し、揮発分を除去する。乾燥後の本重合体1gを石英ビーカーに採取し、加熱酸分解による前処理を行った後、超純水で全量を20gに希釈して測定試料を調製する。得られた試料につき、ICP発光分析により、本重合体に対して1ppm以上検出された多価金属イオンの総量に基づき、多価金属イオンの総量を測定し、本重合体1g当たりの前記多価金属イオンの総量を算出する。
【0027】
[2]本重合体が溶液又は分散体の態様で存在する場合
この場合、この溶液又は分散体について、加熱乾燥するなどして媒体を除去する。得られた固体状態の重合体について、上記[1]で説明したようにICP発光分光分析を行い、本重合体に対して1ppm以上検出された多価金属イオンの総量に基づき、多価金属イオンの総量を測定し、本重合体1g当たりの多価金属イオン含有量を算出する。
【0028】
こうして測定された多価金属イオン含有量が本重合体において100ppm以下であれば、本組成物や本組成物用のバインダー組成物の調製時においても、架橋反応等による粘性の増大等を十分に抑制して、スムーズな塗工が可能となり、塗工後及び/又は圧延後の合剤層(電極)の形成時にも筋ムラやブツ等の外観異常を十分に抑制して構造的、組織的及び組成上も良好な層を形成することができる。また、多価金属イオンの存在による金属架橋による電極の過度な硬化を抑制して耐屈曲性を維持できる。これに対して、同含有量が100ppmを超えると、顕著にスラリー粘度が増大し、一挙に外観異常が増大し、耐屈曲性が低下する傾向がある。同含有量は、好ましくは、例えば、90ppm以下であり、また例えば80ppm以下であり、また例えば70ppm以下であり、また例えば60ppm以下であり、また例えば50ppm以下であり、また例えば40ppm以下であり、また例えば30ppm以下である。
【0029】
<金属系粒子含有量>
本重合体に関し、本重合体1gあたりの10μm以上100μm以下のサイズの金属系粒子の含有量が10×103個以下とすることができる。かかる金属系粒子の存在は、それ自体、塗工性を低下させるほか、合剤層(電極層)においてブツなどの表面平滑性の低下や充填性の低下を招くことになる。さらに、電池の短絡や発火などのトラブルの原因となり得る。また、かかる金属系粒子の存在は、多価金属イオンの含有量にも関連してスラリー状態における粘度上昇や合剤層(電極)の耐屈曲性の低下を生じることがある。本重合体は、カルボキシル基を有するため、かかる金属系粒子の存在によっても金属架橋の形成を一層促進されてしまうと考えられる。
【0030】
金属系粒子を構成する金属としては、特に限定するものではないが、製造工程や原料などを考慮すると、Fe、各種ステンレス合金など鉄基合金(Fe、Cr、Ni)等が挙げられる。また、分離を考慮すると磁性金属が挙げられる。金属系粒子は、こうした金属を少なくとも一部に含むものが該当する。金属系粒子は、全体として磁性を呈し、磁力で吸引等されることが好適である。また、金属系粒子の形状は、特に限定されるものでなく、球状、棒状、針状、薄片状、不定形状であってもよい。
【0031】
かかる金属系粒子は、本重合体1gにつき、10×103個以下である。本重合体において金属系粒子が10×103個以下というとき、固体状態の本重合体が有しうる金属系粒子が10×103個以下であることの他、本重合体を含む溶液又は分散体(スラリーやペースト等)中の溶質又は分散質としての本重合体であって固体状態としたときの本重合体に対して金属系粒子が10×103個以下である、との双方を含んでいる。本重合体1gあたりの10μm以上100μm以下のサイズの金属系粒子の個数の測定方法は以下のとおりである。
【0032】
[1]本重合体が固体状態の場合
本重合体を、例えば、減圧下(50mmHg以下)、80℃で3時間加熱乾燥し、揮発分を除去する。乾燥後の本重合体1gをポリエチレン製容器に採取し、適当な分散媒を加えて十分な流動性を有する分散液を調製する。前記分散媒としては、例えば、メタノール又はエタノール等のアルコールを使用することができる。また、前記分散液の濃度としては、例えば約1質量%程度としてもよい。その後、この分散液につき、バー型ネオジム磁石(表面磁束密度2500ガウス以上)を導入して、ミックスローター(回転数80rpm)で30分間以上振とうする。その後、分散媒から磁石を取り出し、風乾する。磁石に吸着した磁性異物をテープに転写し、当該転写表面を透明テープで覆い、光学顕微鏡(総合倍率100倍~200倍)で撮影し、画像解析ソフト(例えば、オリンパスのOLYMPUS Stream)又はその同等物を用いて、10μm以上100μm以下のサイズの粒子数を計測する。なお、「サイズ」とは、「画像で確認できる粒子について、当該粒子の両側から接する二本の平行線の間の最長距離」を意味している。
【0033】
[2]本重合体が溶液又は分散体の態様で存在する場合
この場合、この溶液又は分散液について、加熱乾燥するなどして媒体を除去する。その後、上記[1]と同様にして、十分な流動性を有する分散液を調製し、金属系粒子数の計測を行い、本重合体1g当たりの金属系粒子数を取得する。
【0034】
こうして測定された金属系粒子数が本重合体1gにおいて10×103個以下であれば、本組成物や本組成物用のバインダー組成物(バインダー分散液)の調製時においても、金属系粒子数が架橋反応等による粘性の増大等を十分に抑制して、スムーズな塗工が可能となり、塗工後及び/又は圧延後の合剤層(電極)の形成時にも筋ムラやブツ等の外観異常等を十分に抑制して構造的、組織的及び組成上も良好な層を形成することができる。これに対して、同含有量が10×103個を超えると、顕著にスラリー粘度が増大し、一挙に外観異常が増大する傾向がある。顕著に耐屈曲性の低下を生じるからである。同含有量は、好ましくは、例えば、9.7×103個以下であり、また例えば9.6×103個以下であり、また例えば9.0×103個以下であり、また例えば8.0×103個以下であり、また例えば7.0×103個以下であり、また例えば6.0×103個以下であり、また例えば5.0×103個以下であり、また例えば4.0×103個以下であり、また例えば3.0×103個以下であり、また例えば2.0×103個以下であり、また例えば1.0×103個以下である。
【0035】
<架橋重合体の構造単位>
<エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位>
本重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位(以下、「(a)成分」ともいう)を有することができる。本重合体が、係る構造単位を有することによりカルボキシル基を有する場合、集電体への接着性が向上するとともに、リチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性に優れるため、抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。また、水膨潤性が付与されるため、本組成物中における活物質等の分散安定性を高めることができる。上記(a)成分は、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合することにより本重合体に導入することができる。その他にも、(メタ)アクリル酸エステル単量体を(共)重合した後、加水分解することによっても得られる。また、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル等を重合した後、強アルカリで処理してもよいし、水酸基を有する本重合体に酸無水物を反応させる方法であってもよい。
【0036】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;(メタ)アクリルアミドヘキサン酸及び(メタ)アクリルアミドドデカン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸;コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体またはそれらの(部分)アルカリ中和物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、重合速度が大きいために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点で重合性官能基としてアクリロイル基を有する化合物が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を用いた場合、カルボキシル基含有量の高い重合体を得ることができる。
【0037】
本重合体における(a)成分の含有量は、特に限定するものではないが、例えば、本重合体の全構造単位に対して10質量%以上、100質量%以下含むことができる。かかる範囲で(a)成分を含有することで、集電体に対する優れた接着性を容易に確保することができる。下限は、例えば20質量%以上であり、また例えば30質量%以上であり、また例えば40質量%以上である。下限は、50質量%以上であってもよく、例えば、60質量%以上であり、また例えば70質量%以上であり、また例えば80質量%以上である。30質量%以上であると、集電体への接着性を確保でき、良好なリチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性を備えるため、ハイレート特性に優れた電極が得られる。また、水膨潤性により本組成物中における活物質等の分散安定性を高めることができる。(a)成分の含有量の増大により、こうした効果が向上する傾向がある。
【0038】
また、上限は、100質量%であって、100質量%も好適であり得るが、例えば、99質量%以下であり、また例えば98質量%以下であり、また例えば95質量%以下であり、また例えば90質量%以下である。本重合体が後述する架橋性単量体に由来する構造単位を含む場合、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位の上限は、99.95質量%以下とすることができ、99.9質量%以下であってもよく、99.8質量%以下であってもよく、99.7質量%以下であってもよく、99.0質量%以下であってもよい。
【0039】
(a)成分の範囲としては、こうした下限及び上限を適宜組み合わせた範囲とすることができるが、例えば、10質量%以上、100質量%以下であり、また例えば20質量%以上、100質量%以下であり、また例えば30質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、100質量%以下であり、また例えば60質量%以上、100質量%以下であり、また例えば70質量%以上m100質量%以下などとすることができる。全構造単位に対する(a)成分の割合が10質量%未満の場合、分散安定性、結着性及び電池としての耐久性が不足する場合があり得る。
【0040】
<その他の構造単位>
本重合体は、(a)成分以外に、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「(b)成分」ともいう。)を含むことができる。(b)成分としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、または非イオン性のエチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、または非イオン性のエチレン性不飽和単量体を含む単量体を共重合することにより導入することができる。これらの内でも、(b)成分としては、耐屈曲性良好な電極が得られる観点から非イオン性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましく、バインダーの結着性が優れる点で(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等が好ましい。また、(b)成分として水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を導入した場合、電極材料と強い相互作用を奏することができ、活物質に対して良好な結着性を発揮することができる。これにより、堅固で一体性の良好な電極合剤層を得ることができるため好ましい。特に脂環構造含有エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましい。
【0041】
(b)成分の割合は、本重合体の全構造単位に対し、0質量%以上、90質量%以下とすることができる。(b)成分の割合は、1質量%以上、60質量%以下であってもよく、2質量%以上、50質量%以下であってもよく、5質量%以上、40質量%以下であってもよく、10質量%以上、30質量%以下であってもよい。また、本重合体の全構造単位に対して(b)成分を1質量%以上含む場合、電解液への親和性が向上するため、リチウムイオン電導性が向上する効果も期待できる。本重合体が、(b)成分を有する場合、上記(a)成分の割合は、架橋重合体の全構造単位に対し、好ましくは40~99質量%であり、より好ましくは50~95質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。
【0042】
非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、バインダーの結着性が優れる点で(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等が好ましい。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド化合物;ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
その他に非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。非イオン性のエチレン性不飽和単量体として(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、該(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、本重合体の全構造単位に対し、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、さらに好ましくは10~30質量%である。また、この場合、上記(a)成分の割合は、本重合体の全構造単位に対し、好ましくは70~99質量%であり、より好ましくは70~95質量%であり、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0044】
上記の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、ハイレート特性がより向上する点から、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル及び(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類等、エーテル結合を有する化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルがより好ましい。
【0045】
非イオン性のエチレン性不飽和単量体の中でも、重合速度が速いために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点でアクリロイル基を有する化合物が好ましい。また、非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、得られる電極の耐屈曲性が良好となる点でホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が0℃以下の化合物が好ましい。
【0046】
本重合体は、塩の状態を含んでいる。すなわち、本重合体は、酸性基についてフリーであってもよいし少なくとも一部が塩であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でも電池特性への悪影響が生じにくい点からアルカリ金属塩及びマグネシウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。特に好ましいアルカリ金属塩は、リチウム塩である。
【0047】
<架橋重合体の態様>
本重合体における架橋方法は特に制限されるものではなく、例えば以下の方法による態様が例示される。
1)架橋性単量体の共重合
2)ラジカル重合時のポリマー鎖への連鎖移動を利用
3)反応性官能基を有する重合体を合成後、必要に応じて架橋剤を添加して後架橋
上記の内でも、操作が簡便であり、架橋の程度を制御し易い点から架橋性単量体の共重合による方法が好ましい。
【0048】
<架橋性単量体>
架橋性単量体としては、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体、及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等が挙げられる。
【0049】
上記多官能重合性単量体は、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物であり、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、均一な架橋構造を得やすい点で多官能アルケニル化合物が好ましく、分子内に複数のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物が特に好ましい。
【0050】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類等を挙げることができる。
【0051】
多官能アルケニル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
【0052】
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0053】
上記自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体の具体的な例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、加水分解性シリル基を少なくとも1個有するビニル単量体であれば、特に限定されない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有メタクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。
【0055】
本重合体が架橋性単量体により架橋されたものである場合、上記架橋性単量体の使用量は、架橋性単量体以外の単量体(非架橋性単量体)の総量に対して0.02~0.7モル%であることが好ましく、0.03~0.4モル%であることがより好ましい。架橋性単量体の使用量が0.02モル%以上であれば結着性及び合剤層スラリーの安定性がより良好となる点で好ましい。0.7モル%以下であれば、本重合体の安定性が高くなる傾向がある。
【0056】
また、架橋性単量体の使用量は、本重合体の全構成単量体中、好ましくは0.05~5質量%であり、より好ましくは0.1~4質量%であり、さらに好ましくは0.2~3質量%であり、一層好ましくは0.3~2質量%である。
【0057】
本重合体は、本組成物中において、中和度が20~100モル%となるように、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来のカルボキシル基等の酸基が中和され、塩の態様として用いることが好ましい。上記中和度は50~100モル%であることがより好ましく、例えば60モル%以上、また例えば65モル%以上、また例えば70モル%以上、また例えば75モル%以上、また例えば80モル%以上、また例えば85モル%以上、また例えば90モル%以上、また例えば95モル%以上である。中和度が50モル%以上の場合、水膨潤性が良好となり分散安定化効果が得やすいという点で好ましい。
【0058】
本明細書では、上記中和度は、カルボキシル基等の酸基を有する単量体及び中和に用いる中和剤の仕込み値から計算により算出することができる。なお、中和度は本重合体を、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理後の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸塩のC=O基由来のピークの強度比より確認することができる。
【0059】
<架橋重合体又はその塩の製造方法/二次電池電極用バインダーの製造方法>
本バインダーのバインダー成分である本重合体は、以下の準備工程(重合工程)により製造することができる。以下に説明する本重合体の製造方法は、本バインダーの製造方法としても実施できる。
【0060】
<準備工程>
準備工程は、本重合体を準備する工程である。典型的には、本重合体を重合する工程である。本重合体は、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を使用することが可能であるが、生産性の点で沈殿重合及び懸濁重合(逆相懸濁重合)が好ましい。結着性等に関してより良好な性能が得られる点で、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の不均一系の重合法が好ましく、中でも沈殿重合法がより好ましい。沈殿重合は、原料である不飽和単量体を溶解するが、生成する重合体を実質溶解しない溶媒中で重合反応を行うことにより重合体を製造する方法である。重合の進行とともにポリマー粒子は凝集及び成長により大きくなり、数十nm~数百nmの一次粒子が数μm~数十μmに二次凝集したポリマー粒子の分散液が得られる。ポリマーの粒子サイズを制御するために分散安定剤を使用することもできる。尚、分散安定剤や重合溶剤等を選定することにより上記二次凝集を抑制することもできる。一般に、二次凝集を抑制した沈殿重合は、分散重合とも呼ばれる。
【0061】
沈殿重合の場合、重合溶媒は、使用する単量体の種類等を考慮して水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。より一次鎖長の長い重合体を得るためには、連鎖移動定数の小さい溶媒を使用することが好ましい。
【0062】
具体的な重合溶媒としては、メタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。本明細書において水溶性溶剤とは、20℃における水への溶解度が10g/100mlより大きいものを指す。上記の内、粗大粒子の生成や反応器への付着が小さく重合安定性が良好であること、析出した重合体微粒子が二次凝集しにくい(若しくは二次凝集が生じても水媒体中で解れやすい)こと、連鎖移動定数が小さく重合度(一次鎖長)の大きい重合体が得られること、及び後述する工程中和の際に操作が容易であること等の点で、メチルエチルケトン及びアセトニトリルが好ましい。
【0063】
また、同じく工程中和において中和反応を安定かつ速やかに進行させるため、重合溶媒中に高極性溶媒を少量加えておくことが好ましい。係る高極性溶媒としては、好ましくは水及びメタノールが挙げられる。高極性溶媒の使用量は、媒体の全質量に基づいて好ましくは0.05~10.0質量%であり、より好ましくは0.1~5.0質量%、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。高極性溶媒の割合が0.05質量%以上であれば、上記中和反応への効果が認められ、10.0質量%以下であれば重合反応への悪影響も見られない。また、アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合では、高極性溶媒を加えた場合には重合速度が向上し、一次鎖長の長い重合体を得やすくなる。高極性溶媒の中でも特に水は上記重合速度を向上させる効果が大きく好ましい。
【0064】
本重合体は、有機アミン化合物の存在下、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合することにより得てもよい。このようにして得られた本重合体を含むバインダーは高い結着性を発揮することができる。また、有機アミン化合物の存在下において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合した場合には、重合安定性が向上し、高い単量体濃度であっても本重合体を安定に製造することができる。上記単量体濃度は、例えば10.0質量%以上程度であってもよいが、結着性の観点から好ましくは13.0質量%以上である。単量体濃度はより好ましくは15.0質量%以上であり、更に好ましくは17.0質量%以上であり、一層好ましくは19.0質量%以上である。単量体濃度はなお好ましくは20.0質量%以上であり、より一層好ましくは22.0質量%以上であり、更に一層好ましくは25.0質量%以上である。一般に、重合時の単量体濃度を高くするほど高分子量化が可能であり、一次鎖長の長い重合体を製造することができる。本重合体は、十分に長い一次鎖長を有する重合体に適度な架橋を施した微架橋重合体であるため、その一次鎖長を直接測定することは、分析的に困難である。一般的には、重合体の一次鎖長は溶液粘度と相関することが知られているが、本重合体の場合にはその架橋度によっても溶液粘度は変動する。よって、上記の方法で得られた本重合体を、本重合体の構造又は特性で規定することは非常に困難である。なお、本明細書において「単量体濃度」とは、重合を開始する時点における反応液中の単量体濃度を示す。
【0065】
単量体濃度の上限値は、使用する単量体及び溶媒の種類、並びに、重合方法及び各種重合条件等により異なるが、重合反応熱の除熱が可能であれば、沈殿重合では概ね40%程度、懸濁重合では概ね50%程度、乳化重合では概ね70%程度である。
【0066】
有機アミン化合物としては、アンモニアの他、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン及びトリドデシルアミン等のN-アルキル置換アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN,N-ジメチルエタノールアミン等の(アルキル)アルカノールアミン;ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、モルホリン及びジアザビシクロウンデセン(DBU)等の環状アミン;ジエチレントリアミン、N、N-ジメチルベンジルアミンが挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。これらの内でも、結着性の観点からアンモニアを除く有機アミン化合物が好ましい。また、長鎖アルキル基を有する疎水性アミンを用いた場合、より大きな静電反発及び立体反発が得られることから、単量体濃度の高い場合であっても重合安定性を確保しやすい点で好ましい。具体的には、有機アミン化合物に存在する窒素原子数に対する炭素原子数の比で表される値(C/N)が高い程、立体反発効果による重合安定化効果が高い。上記C/Nの値は、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、一層好ましくは20以上である。
【0067】
本製造方法では、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合する重合工程を備えることが好ましいが、例えば、(a)成分の由来となるエチレン性不飽和カルボン酸単量体を10質量%以上、100質量%以下、及び(b)成分の由来となる他のエチレン性不飽和単量体0質量%以上、90質量%以下を含む単量体成分を重合する重合工程を備えることが好ましい。上記重合工程により、本重合体には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位((a)成分)が10質量%以上、100質量%以下導入される。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、また例えば、20質量%以上、100質量%以下であり、また例えば、30質量%以上、100質量%以下であり、また例えば、50質量%以上、99質量%以下である。均一性に優れた小粒子径の重合体微粒子を得易い点で、上記重合工程は、沈殿重合法によることが好ましい。
【0068】
本製造方法では、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体以外にも、これと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を単量体成分として含んでよい。当該他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、並びに、非イオン性のエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。具体的な化合物としては、上述した(b)成分を導入可能な単量体化合物が挙げられる。上記他のエチレン性不飽和単量体は、単量体成分の全量に対して0質量%以上、90質量%以下含んでもよく、1質量%以上、60質量%以下であってもよく、5質量%以上、50質量%以下であってもよく、10質量%以上、30質量%以下であってもよい。また、同様に上記架橋性単量体を使用してもよい。
【0069】
重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。熱開始、還元剤を併用したレドックス開始、UV開始等、公知の方法で適切なラジカル発生量となるように使用条件を調整することができる。一次鎖長の長い架橋重合体を得るためには、製造時間が許容される範囲内で、ラジカル発生量がより少なくなるように条件を設定することが好ましい。
【0070】
上記アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2-(tert-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0071】
上記有機過酸化物としては、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(日油社製、商品名「パーテトラA」)、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサHC」)、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサC」)、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(同「パーヘキサV」)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(同「パーヘキサ22」)、t-ブチルハイドロパーオキサイド(同「パーブチルH」)、クメンハイドロパーオキサイド(日油社製、商品名「パークミルH」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(同「パーオクタH」)、t-ブチルクミルパーオキサイド(同「パーブチルC」)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(同「パーブチルD」)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(同「パーヘキシルD」)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(同「パーロイル355」)、ジラウロイルパーオキサイド(同「パーロイルL」)、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(同「パーロイルTCP」)、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルOPP」)、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルSBP」)、クミルパーオキシネオデカノエート(同「パークミルND」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーオクタND」)、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート(同「パーヘキシルND」)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーブチルND」)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(同「パーブチルNHP」)、t-ヘキシルパーオキシピバレート(同「パーヘキシルPV」)、t-ブチルパーオキシピバレート(同「パーブチルPV」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)ヘキサン(同「パーヘキサ250」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーオクタO」)、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーヘキシルO」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーブチルO」)、t-ブチルパーオキシラウレート(同「パーブチルL」)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(同「パーブチル355」)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーヘキシルI」)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーブチルI」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(同「パーブチルE」)、t-ブチルパーオキシアセテート(同「パーブチルA」)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(同「パーヘキシルZ」)及びt-ブチルパーオキシベンゾエート(同「パーブチルZ」)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。また、レドックス開始の場合、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、亜硫酸ガス(SO2)、硫酸第一鉄等を還元剤として用いることができる。
【0073】
重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体成分の総量を100質量部としたときに、例えば、0.001~2質量部であり、また例えば、0.005~1質量部であり、また例えば、0.01~0.1質量部である。重合開始剤の使用量が0.001質量部以上であれば重合反応を安定的に行うことができ、2質量部以下であれば一次鎖長の長い重合体を得やすい。
【0074】
重合時の単量体成分の濃度については、より一次鎖長の長い重合体を得る観点から高い方が好ましい。ただし、単量体成分の濃度が高すぎると、重合体粒子の凝集が進行し易い他、重合熱の制御が困難となり重合反応が暴走する虞がある。このため、例えば沈殿重合法の場合、重合開始時の単量体濃度は、2~40質量%程度の範囲が一般的であり、好ましくは5~40質量%の範囲である。本重合体は、重合開始時に13.0質量%以上の単量体濃度で重合して得られたものであることが好ましい。単量体濃度はより好ましくは15.0質量%以上であり、更に好ましくは17.0質量%以上であり、一層好ましくは19.0質量%以上であり、より一層好ましくは20.0質量%以上である。単量体濃度はなお好ましくは22.0質量%以上であり、最も好ましくは25.0質量%以上である。重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましい。重合温度は一定であってもよいし、重合反応の期間において変化するものであってもよい。また、重合時間は1分間~20時間が好ましく、1時間~10時間がより好ましい。
【0075】
<中和工程>
本製造方法では、エチレン性不飽和カルボン酸単量体として未中和又は部分中和塩を用いた場合、重合工程により得られた重合体分散液にアルカリ化合物を添加して重合体を中和(以下、「工程中和」ともいう)する工程を実施した後、後述する乾燥工程で溶媒を除去して固体状態の本重合体を得てもよい。また、未中和若しくは部分中和塩状態のまま乾燥工程を実施して粉末等の固体状態の本重合体を得た後、電極合剤層スラリーを調製する際に塩を形成するためのアルカリ化合物を添加して、重合体を中和(以下、「後中和」ともいう)する工程を実施してもよい。上記の内、工程中和の方が、二次凝集体が解れやすい傾向にあり好ましい。
【0076】
<固液分離工程及び/又は洗浄工程>
なお、重合工程後又は工程中和の中和工程後、乾燥工程に先だって、未反応単量体(及びその塩)、開始剤由来の不純物や多価金属イオン等を除去する目的で、重合工程に引き続き、遠心分離及び濾過等の固液分離工程、水、メタノール又は重合溶媒と同一の溶媒等を用いた洗浄工程を備えていてもよい。固液分離工程を実施する場合、液体中の多価金属イオンが除去されうる。また、洗浄工程を備えた場合も、多価金属イオン等が除去されうる。
【0077】
なお、本重合体粉末中に含まれる残存溶剤及び未反応単量体は、臭気、電池性能及び安全性(ガス化による電池の膨れ等)への懸念等から少ない方が好ましい。具体的には、本重合体粉末中、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、一層好ましくは0.1質量%以下である。
【0078】
<乾燥工程>
重合工程を経て得られた本重合体分散液は、減圧及び/又は加熱処理等を行い溶媒留去する乾燥工程を実施することにより、目的とする本重合体を粉末状態等の固体状態で得ることができる。
【0079】
乾燥工程は、重合工程後の本重合体分散液から、重合溶媒等を留去して、より乾燥した又は固体状態の本重合体を得る工程である。乾燥工程における乾燥方法や乾燥条件は、特に限定するものではなく、公知の方法を用いることができる。用いた重合溶媒の種類や量にもよるが、例えば、50mmHg以下の減圧条件下で、50℃~150℃、1~10時間で乾燥することが好ましい。
【0080】
<粉砕工程>
粉砕工程は、乾燥後の本重合体を粉砕する工程である。粉砕工程は、その後の篩分工程で本重合体についての篩分工程及び/又は金属系粒子の除去工程を良好に実施できるように、必要に応じて実施する。粉砕工程は、公知の粉砕装置を用いて実施すればよい。
【0081】
<篩分工程>
篩分工程は、本重合体の凝集物やあるいは工程で混入した異物を除去するために、一定以上の粒子サイズの粒子を篩操作により分離する工程である。篩分工程は、必須工程ではないが、後述するように、100μm超サイズの金属系粒子を除去する観点及びスラリーの塗工性や合剤層の均一性を向上させる点及び後段の除去工程で効率よく金属系粒子を除去できる点において実施することが好適である。
【0082】
篩分工程における篩分方式については特に限定するものではなく、公知の各種の篩分方式を用いることができる。例えば、超音波などによる振動式、風力を用いる方式、強制撹拌による方式等など適宜選択して用いることができる。
【0083】
篩分工程では、例えば、直径100μm超程度の粒子を分離する程度に行うことができる。典型的には、目開き100μmのメッシュを用いて分離することができる。こうすることで、100μm超のサイズの金属系粒子を本重合体から効率的に除去することができる。篩分工程は、100μm超の金属系粒子も除去できる点において、金属系粒子の除去工程の一態様として実施することもできる。
【0084】
<金属系粒子の除去工程>
金属系粒子の除去工程は、固体状態の本重合体から金属系粒子を除去する工程である。除去工程において金属系粒子を除去する手法は、特に限定するものではないが、例えば、磁力によって金属系粒子を除去する手法を用いる磁選工程として実施することができる。
【0085】
磁力としては、永久磁石などの磁石による方式と、電磁力による方式とが挙げられるが、いずれかに限定するものではない。電磁力による方式は、コンパクトな点、効率的に高磁束密度領域を形成でき高い磁選能力を発揮できる点及び通電を停止してバイブレーションを付与すると異物を除去できる点などにおいて好適である。
【0086】
磁力による金属系粒子の除去は、特に限定することなく、粉体に適用できる公知の磁選機を用いることができる。磁選機としては、例えば、棒磁石、粉体の流通路に配置されて磁選する種々の形態の格子型マグネット(永久磁石);磁束を調節して効率的に磁選する電磁分離機(電磁石);ドラム内に配置した磁性体を利用し回転するドラムに対して粉体を供給することで磁選する装置であるドラム型磁選機(永久磁石);高磁力プーリー、マグネットプーリー等のプーリーに磁性体を用いてベルト上で磁選するプーリー型磁選機;コンベア上に吊り下げて使用する吊り下げ磁選機(永久磁石、電磁石)等、種々の装置が知られている。なかでも、既述のように電磁分離機が好適であるほか、ドラム型磁選機が磁選効率の観点などから好適である。
【0087】
磁力によって金属系粒子を除去するのにあたって、用いる磁石又は電磁石の表面磁束密度は特に限定するものではないが、例えば、5,000ガウス以上とすることができる。5,000ガウス以上であると、効率よく確実に金属系粒子を除去することができる。磁束密度が高いほど、高効率に金属系粒子を捕捉することができ、好ましくは、10,000ガウス以上であり、より好ましくは、12,000ガウス以上である。
【0088】
本製造方法によれば、本重合体を得ることができ、その多価金属イオン含有量は、100ppm以下とすることができる。また、本重合体1gあたり、10μm以上100μm以下の金属系粒子含有量が10×103個以下とすることができる。なお、本重合体における好適な多価金属イオン含有量及び1gあたりの金属系粒子数は既に説明したとおりである。また、乾燥工程に先立って固液分離及び/又は洗浄工程を実施することで、液体中の多価金属イオンも効果的に除去される。
【0089】
なお、本製造方法においては、金属系粒子の除去工程後の本重合体について、多価金属イオン含有量の測定工程及び/又は10μm以上100μm以下の金属系粒子数の測定工程を実施することができる。かかる測定工程を実施することで、多価金属イオンや金属系粒子などの金属種の含有量が抑制された本重合体を確実に得ることができる。
【0090】
<二次電池電極合剤層用組成物>
本組成物は、本重合体を含有するバインダー、活物質及び水を含む。本組成物における本重合体の使用量は、活物質の全量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下である。上記使用量は、また例えば、0.2質量%以上10質量%以下であり、また例えば0.3質量%以上8質量%以下であり、また例えば0.4質量%以上5質量%以下である。本重合体及びその塩の使用量が0.1質量%未満の場合、十分な結着性が得られないことがある。また、活物質等の分散安定性が不十分となり、形成される合剤層の均一性が低下する場合がある。一方、本重合体及びその塩の使用量が20質量%を超える場合、電極合剤層組成物が高粘度となり集電体への塗工性が低下することがある。その結果、得られた合剤層にブツや凹凸が生じて電極特性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0091】
本重合体及びその塩の使用量が上記範囲内であれば、分散安定性に優れた本組成物が得られるとともに、集電体への密着性が高く、耐屈曲性にも優れる合剤層を得ることができ、結果として電池の耐久性が向上する。さらに、本重合体及びその塩は、活物質に対して少量(例えば5質量%以下)でも十分高い結着性を示し、かつ、カルボキシアニオンを有することから、界面抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。
【0092】
上記活物質の内、正極活物質としては主に遷移金属酸化物のリチウム塩が用いられ、例えば、層状岩塩型及びスピネル型のリチウム含有金属酸化物を使用することができる。層状岩塩型の正極活物質の具体的な化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、並びに、三元系と呼ばれるNCM{Li(Nix,Coy,Mnz)、x+y+z=1}及びNCA{Li(Ni1-a-bCoaAlb)}等が挙げられる。また、スピネル型の正極活物質としてはマンガン酸リチウム等が挙げられる。酸化物以外にもリン酸塩、ケイ酸塩及び硫黄等が使用され、リン酸塩としては、オリビン型のリン酸鉄リチウム等が挙げられる。正極活物質としては、上記のうちの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて混合物又は複合物として使用してもよい。
【0093】
尚、層状岩塩型のリチウム含有金属酸化物を含む正極活物質を水に分散させた場合、活物質表面のリチウムイオンと水中の水素イオンとが交換されることにより、分散液がアルカリ性を示す。このため、一般的な正極用集電体材料であるアルミ箔(Al)等が腐食される虞がある。このような場合には、バインダーとして未中和又は部分中和された本重合体を用いることにより、活物質から溶出するアルカリ分を中和することが好ましい。また、未中和又は部分中和された本重合体の使用量は、本重合体の中和されていないカルボキシル基量が活物質から溶出するアルカリ量に対して当量以上となるように用いることが好ましい。
【0094】
正極活物質はいずれも電気伝導性が低いため、導電助剤を添加して使用されるのが一般的である。導電助剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛微粉、炭素繊維等の炭素系材料が挙げられ、これらの内、優れた導電性を得やすい点からカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー、が好ましい。また、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。導電助剤は、上記の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電助剤の使用量は、導電性とエネルギー密度を両立するという観点から活物質の全量に対して、例えば、0.2~20質量%とすることができ、また例えば、0.2~10質量%とすることができる。また正極活物質は導電性を有する炭素系材料で表面コーティングしたものを使用してもよい。
【0095】
一方、負極活物質としては、例えば炭素系材料、リチウム金属、リチウム合金及び金属酸化物等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの内でも、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン及びソフトカーボン等の炭素系材料からなる活物質(以下、「炭素系活物質」ともいう)が好ましく、天然黒鉛及び人造黒鉛等の黒鉛、並びにハードカーボンがより好ましい。また、黒鉛の場合、電池性能の面から球形化黒鉛が好適に用いられ、その粒子サイズの好ましい範囲は、例えば、1~20μmであり、また例えば、5~15μmである。また、エネルギー密度を高くするために、ケイ素やスズなどのリチウムを吸蔵できる金属又は金属酸化物等を負極活物質として使用することもできる。その中でも、ケイ素は黒鉛に比べて高容量であり、ケイ素、ケイ素合金及び一酸化ケイ素(SiO)等のケイ素酸化物のようなケイ素系材料からなる活物質(以下、「ケイ素系活物質」ともいう)を用いることができる。しかし、上記ケイ素系活物質は高容量である反面充放電に伴う体積変化が大きい。このため、上記炭素系活物質と併用するのが好ましい。この場合、ケイ素系活物質の配合量が多いと電極材料の崩壊を招き、サイクル特性(耐久性)が大きく低下する場合がある。このような観点から、ケイ素系活物質を併用する場合、その使用量は炭素系活物質に対して、例えば、60質量%以下であり、また例えば、30質量%以下である。
【0096】
本重合体を含むバインダーは、本重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位((a)成分)を有する。ここで、(a)成分はケイ素系活物質に対する親和性が高く、良好な結着性を示す。このため、本バインダーはケイ素系活物質を含む高容量タイプの活物質を用いた場合にも優れた結着性を示すことから、得られる電極の耐久性向上に対しても有効であるものと考えられる。
【0097】
炭素系活物質は、それ自身が良好な電気伝導性を有するため、必ずしも導電助剤を添加する必要はない。抵抗をより低減する等の目的で導電助剤を添加する場合、エネルギー密度の観点からその使用量は活物質の総量に対して、例えば、10質量%以下であり、また例えば、5重量%以下である。
【0098】
本組成物がスラリー状態の場合、活物質の使用量は、本組成物全量に対して、例えば、10~75質量%の範囲であり、また例えば、30~65質量%の範囲である。活物質の使用量が10質量%以上であればバインダー等のマイグレーションが抑えられるとともに、媒体の乾燥コストの面でも有利となる。一方、75質量%以下であれば本組成物の流動性及び塗工性を確保することができ、均一な合剤層を形成することができる。
【0099】
また、湿粉状態で本組成物を調製する場合、活物質の使用量は、本組成物全量に対して、例えば、60~97質量%の範囲であり、また例えば、70~90質量%の範囲である。また、エネルギー密度の観点から、バインダーや導電助剤等の活物質以外の不揮発成分は、必要な結着性や導電性が担保される範囲内で出来る限り少ない方がよい。
【0100】
本組成物は、媒体として水を使用する。また、本組成物の性状及び乾燥性等を調整する目的で、メタノール及びエタノール等の低級アルコール類、エチレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の水溶性有機溶剤との混合溶媒としてもよい。混合媒体中の水の割合は、例えば、50質量%以上であり、また例えば、70質量%以上である。
【0101】
本組成物を塗工可能なスラリー状態とする場合、組成物全体に占める水を含む媒体の含有量は、スラリーの塗工性、および乾燥に必要なエネルギーコスト、生産性の観点から、例えば、25~90質量%の範囲とすることができ、また例えば、35~70質量%とすることができる。また、プレス可能な湿粉状態とする場合、上記媒体の含有量はプレス後の合剤層の均一性の観点から、例えば、3~40質量%の範囲とすることができ、また例えば、10~30質量%の範囲とすることができる。
【0102】
なお、本組成物に含まれるバインダー成分は、本重合体のみからなるものであってもよいが、これ以外にもスチレン/ブタジエン系ラテックス(SBR)、アクリル系ラテックス及びポリフッ化ビニリデン系ラテックス等の他のバインダー成分を併用してもよい。他のバインダー成分を併用する場合、その使用量は、活物質に対して、例えば、0.1~5質量%以下とすることができ、また例えば、0.1~2質量%以下とすることができ、また例えば、0.1~1質量%以下とすることができる。他のバインダー成分の使用量が5質量%を超えると抵抗が増大し、ハイレート特性が不十分なものとなる場合がある。上記の中でも、結着性及び耐屈曲性のバランスに優れる点で、スチレン/ブタジエン系ラテックスが好ましい。
【0103】
本組成物は、上記の活物質、水及びバインダーを必須の構成成分とするものであり、公知の手段を用いて各成分を混合することにより得られる。各成分の混合方法は特段制限されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、活物質、導電助剤及びバインダーである本重合体等の粉末成分をドライブレンドした後、水等の分散媒と混合し、分散混練する方法が好ましい。本組成物をスラリー状態で得る場合、分散不良や凝集のないスラリーに仕上げることが好ましい。混合手段としては、プラネタリーミキサー、薄膜旋回式ミキサー及び自公転式ミキサー等の公知のミキサーを使用することができるが、短時間で良好な分散状態が得られる点で薄膜旋回式ミキサーを使用して行うことが好ましい。また、薄膜旋回式ミキサーを用いる場合は、予めディスパー等の攪拌機で予備分散を行うことが好ましい。また、上記スラリーの粘度は、60rpmにおけるB型粘度として、例えば、500~100,000mPa・sの範囲とすることができ、また例えば、1,000~50,000mPa・sの範囲とすることができる。また例えば、本組成物のスラリー粘度は、1,000~10,000mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは、同1,000~8,000mPa・s、さらに好ましくは、同1,000~7,000mPa・sとすることができ、なお好ましくは同1,000~6,000mPa・sとすることが、一層好ましくは同1,000~5,000mPa・sとすることができ、より一層好ましくは同1,000~4,000mPa・sとすることができ、さらに一層好ましくは同1,000~3,000mPa・sとすることができる。
【0104】
一方、本組成物を湿粉状態で得る場合、ヘンシェルミキサー、ブレンダ―、プラネタリーミキサー及び2軸混練機等を用いて、濃度ムラのない均一な状態まで混練することが好ましい。
【0105】
本組成物においては、本重合体を含有するが、本組成物中に多量の多価金属イオンが含まれると、本重合体のカルボキシル基と相互作用する結果、スラリーの安定性が低下し、電極合剤層の均一性及び結着性が低下して耐屈曲性が低下する恐れがある。係る観点から、本組成物中の多価金属イオン含有量は、本重合体について既に説明したように、本重合体について100ppm以下であることが好適である。また、本重合体1gあたり、10μm以上100μm以下の金属系粒子の個数は、10×103個以下であることが好適である。
【0106】
なお、本明細書によれば、金属種の含有量が上記のとおり制限された本重合体を製造する準備工程と、本重合体を用いて本組成物を調製する工程と、を備える、本組成物の製造方法も提供される。
【0107】
<二次電池用電極>
本電極は、銅又はアルミニウム等の集電体表面に本組成物から形成される合剤層を備えてなるものである。合剤層は、集電体の表面に本組成物を塗工した後、水等の媒体を乾燥除去することにより形成される。本組成物を塗工する方法は特に限定されず、ドクターブレード法、ディップ法、ロールコート法、コンマコート法、カーテンコート法、グラビアコート法及びエクストルージョン法などの公知の方法を採用することができる。また、上記乾燥は、温風吹付け、減圧、(遠)赤外線、マイクロ波照射等の公知の方法により行うことができる。通常、乾燥後に得られた合剤層には、金型プレス及びロールプレス等による圧縮処理が施される。圧縮することにより活物質及びバインダーを密着させ、合剤層の強度及び集電体への密着性を向上させることができる。圧縮により合剤層の厚みを、例えば、圧縮前の30~80%程度に調整することができ、圧縮後の合剤層の厚みは4~200μm程度が一般的である。
【0108】
なお、本明細書によれば、金属種の含有量が上記のとおり制限された本重合体を製造する準備工程と、本重合体を用いて本組成物を調製する工程と、本組成物を用いて本電極を調製する工程と、を備える、本電極の製造方法も提供される。
【0109】
本電極にセパレータ及び非水電解液を備えることにより、非水電解質二次電池を作製することができる。セパレータは電池の正極及び負極間に配され、両極の接触による短絡の防止や電解液を保持してイオン導電性を確保する役割を担う。セパレータにはフィルム状の絶縁性微多孔膜であって、良好なイオン透過性及び機械的強度を有するものが好ましい。具体的な素材としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等を使用することができる。
【0110】
非水電解液は、非水電解質二次電池に一般的に使用される公知のものを用いることができる。具体的な溶媒としては、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネート等の高誘電率で電解質の溶解能力の高い環状カーボネート、並びに、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の粘性の低い鎖状カーボネート等が挙げられ、これらを単独で又は混合溶媒として使用することができる。非水電解液は、これらの溶媒にLiPF6、LiSbF6、LiBF4、LiClO4、LiAlO4等のリチウム塩を溶解して使用される。非水電解質二次電池は、セパレータで仕切られた正極板及び負極板を渦巻き状又は積層構造にしてケース等に収納することにより得られる。
【0111】
以上説明したように、本明細書に開示される非水電解質二次電池電極用バインダーは、水などの分散媒を伴う合剤組成物の状態において粘性の増大を抑制又は回避できるとともに、電極作成時においては、優れた耐屈曲性を示す。このため、上記バインダーを使用して得られた電極を備えた非水電解質二次電池は、良好な一体性を確保でき、充放電を繰り返しても良好な耐久性(サイクル特性)を示すと予想され、例えば、車載用二次電池等に好適である。
【実施例0112】
以下、本明細書に開示される本重合体の製造及び使用について具体的に例示して説明するが、本明細書の開示は、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下において、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は、特に断りの無い限り、質量部及び質量%を意味するものとする。
【0113】
<本重合体の製造例>
<製造例1:架橋重合体塩R-1の製造>
重合には、攪拌翼、温度計、コンデンサー及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。反応器内にアセトニトリル567部、イオン交換水2.20部、アクリル酸(以下、「AA」という)100部、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルP-30」)0.60部及び上記AAに対して1.0モル%に相当するトリエチルアミンを仕込んだ。
【0114】
反応器内を十分に窒素置換した後、加温して内温を55℃まで昇温した。内温が55℃で安定したことを確認した後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-65」)0.040部を添加したところ、反応液に白濁が認められたため、この点を重合開始点とした。単量体濃度は15.0%と算出された。外温を調整して内温を55℃に維持しながら重合反応を継続し、重合開始点から6時間経過した時点で内温を65℃まで昇温した。内温を65℃で維持し、反応開始点から12時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物(以下、「LiOH・H2O」という)の粉末52.5部を添加した。添加後室温下12時間撹拌を継続して、架橋重合体塩R-1(Li塩、中和度90モル%)の粒子が媒体に分散したスラリー状の重合反応液を得た。得られた重合反応液を遠心分離して重合体粒子を沈降させた後、上澄みを除去した。その後、沈降物を回収し、減圧条件下、80℃で乾燥処理を行い、揮発分を除去することにより、架橋重合体塩の粉末を得た。
【0115】
上記で得られた架橋重合体塩の粉末100kgを粉砕機により粉砕処理した後、超音波振動篩機(目開き100μm)により篩分処理した。次いで、ドラム型磁選機(セイホー社製、ノンベルトIIレナスター NBII・LNS504型、マグネット表面の表面磁束密度13,000ガウスである。)へ50kg/hrで投入し、磁選処理を行い、架橋重合体塩R-1の粉末を得た。架橋重合体塩R-1は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-1の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-1の粉末中に含まれる多価金属イオン含有量及び10μm以上100μm以下の金属系粒子個数を以下の方法で測定したところ、多価金属イオン含有量30ppmであり、金属系粒子数は538個/gであった。
【0116】
<多価金属イオン含有量>
石英ビーカーに架橋重合体塩1gを採取し、硫酸、硝酸及び過酸化水素を用いた加熱酸分解による前処理を行った後、超純水で全量を20gに希釈して測定試料を調製した。得られた試料につき、ICP発光分析装置(SPECTRO ARCOS/SPECTRO Analytical Instruments社製)を用いて定量した。
なお、架橋重合体塩1ppm以上の多価イオン濃度の合計値を算出した。
【0117】
<金属系粒子の個数>
ポリビンに架橋重合体塩1gとメタノール100gを加え分散液を作製した。この分散液に対して、バー型ネオジム磁石(5φ×10mm、表面磁束密度4,000ガウス)を投入し、ミックスローターで30分間振とうした。振とう後、分散媒から磁石を取り出し、風乾した。磁石に吸着した磁性異物をテープに転写し、透明テープで転写部分を覆った。転写部分を光学顕微鏡『DSX110』で撮影し、画像解析ソフト『OLYMPUS Stream』を使用して、10~100μmの金属異物の個数を計測した。
【0118】
<製造例2:架橋重合体塩R-2の製造>
各原料の種類及び仕込み量を表1の通り用いた以外は、製造例1と同様の操作により架橋重合体塩R-2の粉末を得た。架橋重合体塩R-2は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-2の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-2の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は34ppmであり、金属異物は642個/gであった。
【0119】
<製造例3:架橋重合体塩R-3の製造>
磁選機に電磁分離機(日本マグネティックス社製、AT-CG-150HHH型、有芯磁束密度15,500ガウスである。)を用いた以外は、製造例1と同様の操作により架橋重合体塩R-3の粉末を得た。架橋重合体塩R-3は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-3の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-3の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は48ppmであり、金属異物は2,196個/gであった。
【0120】
<製造例4:架橋重合体塩R-4の製造>
磁選機に格子型マグネット(マグネテックジャパン社製、丸棒型、表面磁束密度15,000ガウス、マグネットφ25mm、4本組と5本組とを交互に2段ずつ設置)を用いた以外は、製造例1と同様の操作により架橋重合体塩R-4の粉末を得た。架橋重合体塩R-4は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-4の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-4の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は75ppmであり、金属異物は5,833個/gであった。
【0121】
<製造例5:架橋重合体塩R-5の製造>
磁選機に格子型マグネット(マグネテックジャパン社製、丸棒型、表面磁束密度15,000ガウス、マグネットφ25mm、4本組)を用いた以外は、製造例1と同様の操作により架橋重合体塩R-5の粉末を得た。架橋重合体塩R-5は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-5の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-5の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は98ppmであり、金属異物は9,649個/gであった。
【0122】
<製造例6:架橋重合体塩R-6の製造>
磁選処理をしなかった以外は、製造例1と同様の操作により架橋重合体塩R-6の粉末を得た。架橋重合体塩R-6は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-6の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-6の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は181ppmであり、金属異物は14,985個/gであった。
【0123】
<製造例7:架橋重合体塩R-7の製造>
磁選処理をしなかった以外は、製造例2と同様の操作により架橋重合体塩R-7の粉末を得た。架橋重合体塩R-7は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-7の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。架橋重合体塩R-7の粉末中に含まれる多価金属イオン濃度は163ppmであり、金属異物は12,436個/gであった。
【0124】
【0125】
以下に、表1における表記について説明する。
AA:アクリル酸
DMAA:ジメチルアクリルアミド
P-30:ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルP-30」)
AcCN:アセトニトリル
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-65」)
【0126】
<二次電池電極合剤層組成物、電極の作製及び評価>
<実施例1>
天然黒鉛100部に粉末状の架橋重合体Li塩R-1を3.2部秤量し、予めよく混合した後、イオン交換水160部を加えてディスパーで予備分散を行った後、薄膜旋回式ミキサー(プライミクス社製、FM-56-30)を用いて周速度20m/秒の条件で本分散を15秒間行うことにより、スラリー状の負極合剤層用組成物を得た。スラリー濃度(固形分)は、39.2%と算出された。
【0127】
<電極スラリーの粘度測定>
上記で得られた負極合剤層用組成物(スラリー)について、アントンパール社製レオメーター(Physica MCR301)を用い、CP25-5のコーンプレート(直径25mm、コーン角度5°)にて、せん断速度60s-1のスラリー粘度を測定したところ、2,420mPa・sであった。
【0128】
<塗工性評価>
可変式アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔(日本製箔社製)上に上記合剤層用組成物を塗布し、通風乾燥機内で100℃×15分間の乾燥を行うことにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが50±5μm、充填密度が1.70±0.20g/cm3になるよう圧延した。得られた合剤層(15cm×15cm)の外観を目視により観察し、以下の基準に基づいて塗工性を評価した結果、「A」と判断された。なお、以下のA~Cは、製品評価として合格レベルであるが、D、Eは、不合格レベルである。
A:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常がまったく認められない。
B:表面に筋ムラがわずかに認められるが、ブツは認められない。
C:表面に筋ムラ及びブツがわずかに認められる。
D:表面に筋ムラ及びブツが全体的に認められる。
E:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常が顕著に認められる。
【0129】
<耐屈曲性評価>
上記で得られた負極電極を25mm幅の短冊状に裁断した後、φ2.0mmのSUS棒に1回巻き付け、湾曲した合剤層の様子を観察し、以下の基準に基づいて耐屈曲性を評価した結果、「A」と判断された。なお、以下のA~Cは、製品評価として合格レベルであるが、D、Eは、不合格レベルである。
A:合剤層に外観異常がまったく認められない。
B:合剤層に微細なクラックが認められるが、銅箔は露出してない。
C:合剤層に割れが観察されるが、合剤層の剥がれは認められない。
D:合剤層に割れが観察され、合剤層が僅かに剥がれ落ちる。
E:合剤層に割れが観察され、合剤層の剥がれ落ちが顕著に認められる。
【0130】
<実施例2~5、比較例1~2>
架橋重合体塩を表2に記載の通り使用した以外は実施例1と同様の操作により負極合剤層用組成物を得た。電極合剤層の粘度、塗工性及び耐屈曲性の評価を行い、結果を表2に記載した。
【0131】
【0132】
表2に示すように、架橋重合体塩の多価金属イオン含有量が100ppm以下であり、10μm以上100μm以下の金属系粒子数が10×103個/g以下であると、良好なスラリー粘度を確保できるほか、塗工性及び耐屈曲性も良好であることがわかった。これに対して、多価金属イオン含有量が100ppmを超え、金属系粒子数が10×103個/gを超えると、塗工性及び耐屈曲性が顕著に低下することがわかった。
【0133】
また、こうした架橋重合体塩中の多価金属イオン含有量及び金属系粒子数が、合剤層用スラリー粘度に影響することがわかった。すなわち、多価金属イオン含有量が100ppmを超え、10μm以上100μm以下の金属系粒子数が10×103個/gを超えると、スラリー粘度が8,000mPa・sを超えてしまい塗工性の顕著な低下を招くとともに耐屈曲性も顕著に低下することがわかった。