(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007578
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240112BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20240112BHJP
C08L 27/08 20060101ALI20240112BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08J5/18
B65D65/02 E
C08L27/08
C08K5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108729
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 利采
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AA02
3E086AB01
3E086AD17
3E086BA02
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB90
3E086CA01
3E086DA06
4F071AA25
4F071AA81
4F071AC10
4F071AE04
4F071AG28
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4J002BD101
4J002EH096
4J002FD026
4J002GG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らず、また、低温での取扱性にも優れるラップフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニリデン系樹脂を含有するラップフィルムであって、指定される化合物のラップフィルム中の含有量が40ppm以上200ppm以下である、ラップフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂を含有するラップフィルムであって、
下記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が40ppm以上200ppm以下である、ラップフィルム。
【化1】
(式(1)中、R
1は、各々独立してアルキル基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物の含有量が、ラップフィルムの総量に対して、2質量%以上8質量%未満である、請求項1に記載のラップフィルム。
【化2】
(式(2)中、R
2は、各々独立してアルキル基を表す。)
【請求項3】
厚みが6μm~18μmである、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂は、透明性、耐水性及びガスバリア性等の特性に優れているため、ラップフィルム等の食品包装用材料として使用されている。近年、食品包装用材料は、上記特性だけでなく、密着性等の特性も向上させたラップフィルムも提案されている。このようなラップフィルムとして、例えば、特許文献1には、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、前記共重合体において、塩化ビニリデン由来の構成単位1個と塩化ビニル由来の構成単位1個とが連続する二連子部位のモル分率が、全構成単位に対し、25.3モル%以上26.5モル%以下である樹脂フィルムからなるラップフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、食品包装用材料は、さらに成形加工性及び熱安定性等の特性も向上させ、一層高機能化させることが求められている。食品包装用材料を高機能化させる方法としては、例えば、可塑剤や熱安定剤等の添加剤を配合する方法が挙げられる。このような添加剤としては、アセチル化クエン酸トリブチルなどが使用されている。
【0005】
ところで、ラップフィルムを用いて、例えば、おにぎりや寿司などの握り米飯を調理することは一般的に行われていることである。具体的には、例えば、ラップフィルムを広げ、その上に食塩を振り、米飯と具をその上にのせ、四方からラップフィルムで包み、ラップを握っておにぎりを調理する。このときラップフィルムを用いることで、おにぎりに直接触れることがないので衛生的であるという利点がある。
【0006】
しかし、上述したような高機能化させるために添加剤を含むラップフィルムは、例えば、ラップフィルムに微量含まれる、臭い成分や、苦み成分などが、ラップフィルムから滲み出し、米飯に移って、米飯の香りや味に影響を及ぼすことがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らず、また、低温での取扱性にも優れるラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、塩化ビニリデン系樹脂を含有するラップフィルムにおいて、特定の化合物の量を特定範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
[1]
塩化ビニリデン系樹脂を含有するラップフィルムであって、
下記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が40ppm以上200ppm以下である、ラップフィルム。
【化1】
(式(1)中、R
1は、各々独立してアルキル基を表す。)
[2]
下記式(2)で表される化合物の含有量が、ラップフィルムの総量に対して、2質量%以上8質量%未満である、[1]に記載のラップフィルム。
【化2】
(式(2)中、R
2は、各々独立してアルキル基を表す。)
[3]
厚みが6μm~18μmである、[1]又は[2]に記載のラップフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らず、また、低温での取扱性にも優れるラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0014】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、下記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が40ppm以上200ppm以下である。
【化3】
(式(1)中、R
1は、各々独立してアルキル基を表す。)
本実施形態のラップフィルムは、上記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量を40ppm以上200ppm以下とすることにより、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らず、また、低温での取扱性にも優れる。
【0015】
(塩化ビニリデン系樹脂)
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、塩化ビニリデンと重合可能な単量体とを含む塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0016】
塩化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル;メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリロニトリル;酢酸ビニル等が挙げられる。これら単量体は一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。このなかでも、塩化ビニルがより好ましい。
【0017】
塩化ビニリデンの含有量は、塩化ビニリデン系樹脂の総量に対して、72mol%~93mol%であることが好ましく、より好ましくは75mol%~87mol%であり、さらに好ましくは79mol%~85mol%である。塩化ビニリデンの含有量が72mol%以上であることにより、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低く、ラップフィルムが軟らかくなる傾向にある。これにより、例えば、冬場等の低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けを低減できる。一方、塩化ビニリデンの含有量が93mol%以下であることにより、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化が抑制される傾向にある。
【0018】
塩化ビニリデンの含有量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置(400MHz以上)を用いて測定することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
また、塩化ビニリデン系樹脂において、塩化ビニリデンと重合可能な単量体の含有量は、好ましくは7~28mol%であり、より好ましくは13~25mol%であり、さらに好ましくは15~21mol%である。塩化ビニリデンと重合可能な単量体の含有量が上記範囲内であることにより、低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けが低減され、フィルム延伸時の成形加工性の悪化がより抑制される傾向にある。
【0020】
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000~250,000であり、より好ましくは60,000~230,000であり、さらに好ましくは80,000~200,000である。塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、ラップフィルムの機械強度がより向上する傾向にある。重量平均分子量が上記範囲内である塩化ビニリデン系樹脂は、例えば、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニルモノマーの仕込み比率や、重合開始剤の量、又は重合温度を制御することにより得ることができる。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0021】
塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは79質量%~96質量%である。塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、添加剤等による可塑化効果によって、溶融押し出しのシェアが小さくなるため異物の発生がより抑制される傾向にある。また、塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、フィルムが伸びやすくなるのを抑制でき、フィルムのカット性が一層向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、試料0.5gをTHF(テトラヒドロフラン)10mLに溶解し、メタノール約30mLを加えて樹脂分を析出した後、遠心分離にて析出物を分離、乾燥し、重量測定して得ることができる。
【0022】
(添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、上述した塩化ビニリデン系樹脂以外に各種添加剤を含んでいてもよい。上述したとおり、例えば、各種添加剤を適宜調整することで、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上したり、手触り感がより向上したりする。
以下各種添加剤について詳細に説明する。
【0023】
本実施形態のラップフィルムは、下記式(2)で表される化合物を含んでいてもよい。
【化4】
(式(2)中、R
2は、各々独立してアルキル基を表す。)
本実施形態のラップフィルムは、より優れた成形加工性の付与、及び添加剤高含有時のラップフィルムの過剰な密着性防止等の点から、上記式(2)で表される化合物の含有量が、ラップフィルムの総量に対して、2質量%以上8質量%未満であることが好ましく、3.5質量%~7質量%がより好ましい。
【0024】
上記式(2)中、R2は、各々独立してアルキル基を表し、該アルキル基の炭素数としては、1以上12以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましい。上記式(2)で表される化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0025】
これらのなかでも、アセチルクエン酸トリブチルが好ましい。このような上記式(2)で表される化合物を用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0026】
(その他の添加剤)
本実施形態のラップフィルムは、その他の添加剤として、特に限定されないが、例えば、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことができる。
【0027】
(二塩基酸エステル)
二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル;フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルが挙げられる。
【0028】
これらのなかでも、脂肪族二塩基酸エステルが好ましく、セバシン酸ジブチルがより好ましい。このような二塩基酸エステルを用いることにより、塩化ビニリデン系樹脂が可塑化され、成形加工性がより向上し、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0029】
(アセチル化脂肪酸グリセライド)
アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に制限されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0030】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。このなかでも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。このような、アセチル化脂肪酸グリセライドを用いることにより、ラップフィルムに柔軟性を付与することで、密着性が向上するほか、手触り感がより向上する傾向にある。
【0031】
上記式(2)で表される化合物、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、ヘキサン等が挙げられる。中でも、各成分をよく溶かし、反応を起こさない溶媒が好ましい。その中でもアセトンがより好適である。
【0032】
上記式(2)で表される化合物、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の合計含有量は、ラップフィルムの総量に対して、より優れた成形加工性の付与、及び添加剤高含有時のラップフィルムの過剰な密着性防止等の点から、2質量%~8質量%が好ましく、3.5質量%~7質量%がより好ましい。特に、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが、上記式(2)で表される化合物や二塩基酸エステルを2質量%以上含有する場合、塩化ビニリデン系樹脂の分子鎖の運動性が高くなるため、微結晶の形成や成長等の再配列が発生しやすく、高温下に晒されると物理的に劣化しやすくなり、また、フィルムが伸びやすくなるため切断刃がフィルムに食い込みにくくなり、カット性が低下する傾向にあるため、本発明の構成による効果が顕著である。
【0033】
(エポキシ化植物油)
本実施形態のラップフィルムは、エポキシ化植物油を含有してもよい。エポキシ化植物油は、塩化ビニリデン系樹脂押出加工用安定剤として作用し得る。エポキシ化植物油としては、特に限定されないが、一般的に、食用油脂をエポキシ化して製造されるものが挙げられる。具体的には、エポキシ化植物油は、例えば、特に限定されないが、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化アマニ油が挙げられる。これらのなかでも、エポキシ化大豆油が好ましい。このようなエポキシ化植物油を用いることにより、ラップフィルムの手触り感がより向上し、化粧箱からのフィルムの引出性もより向上する傾向にある。
【0034】
本実施形態に用いるエポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは0.5質量%~3質量%であり、より好ましくは1質量%~2.5質量%であり、さらに好ましくは1質量%~2質量%である。エポキシ化植物油の含有量が0.5質量%以上であることにより、ラップフィルムの品質変化がより抑制される傾向にある。また、エポキシ化植物油の含有量が3質量%以下であることにより、ラップフィルムの色調変化がより抑制され、ブリードによるべたつきが抑制される傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、エポキシ化植物油の含有量は、ラップフィルムの再沈濾液をNMRで分析して得ることができる。
【0035】
具体的には、サンプルを50mg秤量し、重溶媒(溶媒:重水素化テトラヒドロフラン、内部標準:テレフタル酸ジメチル、容量:0.7mL)に溶かし、400MHzプロトンNMR(積算回数:512回)測定し、8.05~8.11ppmの積分値に対する2.23~2.33ppmの積分値の比を積分比とし、絶対検量線法で定量値を計算することで、得ることができる。
積分比 = 積分値(2.23~2.33ppm)/積分値(8.05~8.11ppm)
【0036】
本実施形態のラップフィルムは、上記以外の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、上記以外の可塑剤、上記以外の安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)等のポリマー等が挙げられる。
【0037】
エポキシ化植物油以外の安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、2,5-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0038】
耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。耐候性向上剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0039】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0040】
防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。防曇剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0041】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。抗菌剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0042】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。滑剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0043】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。核剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0044】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、好ましくは6μm~18μmであり、より好ましくは9μm~12μmである。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0045】
より具体的には、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引裂強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0046】
一方、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。
【0047】
(引裂強度)
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、好ましくは2.0cN~6.0cNであり、より好ましくは2.0cN~4.0cNであり、さらに好ましくは2.2cN~3.0cNである。TD方向の引裂強度が2.0cN以上であることにより、特に巻回体からラップフィルムを引き出す際の裂けを低減でき、また、ラップフィルム使用時の意図しない裂けトラブルを抑制できる。一方、TD方向の引裂強度が6.0cN以下であることにより、化粧箱に付帯する切断刃でフィルムをTD方向にカットする際に裂きやすく、カット性が向上する。
【0048】
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度、及びフィルムの厚み等によって調整することができる。特に限定されないが、例えば、TD方向の引裂強度はTD方向の延伸倍率を低くしたり、ラップフィルムを厚くすることによって、向上する傾向にあり、TD方向の延伸倍率を高くしたり、ラップフィルムを薄くすることによって、低下する傾向にある。
【0049】
本実施形態のラップフィルムは、下記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が40ppm以上200ppm以下である。
【化5】
(式(1)中、R
1は、各々独立してアルキル基を表す。)
本実施形態のラップフィルムは、上記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が、40ppm以上200ppm以下であることで、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に臭いや苦みが移らないという効果を奏する。
【0050】
上記式(1)中、R1は、各々独立してアルキル基を表し、該アルキル基の炭素数としては、1以上12以下であることが好ましく、1以上8以下であることがより好ましい。上記式(1)で表される化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0051】
本実施形態のラップフィルムは、上記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が、40ppm以上であり、45ppm以上であることが好ましく、50ppm以上であることがより好ましく、60ppm以上であることがさらに好ましい。上記式(1)で表される化合物は塩化ビニリデン系樹脂に対する低温下での可塑化効果が高く、ラップフィルムに添加した際に低温での使い勝手に優れる点で好ましい。
【0052】
本実施形態のラップフィルムは、上記式(1)で表される化合物のラップフィルム中の含有量が、200ppm以下であり、160ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましく、120ppm以下であることがさらに好ましい。これにより、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に臭いや苦みが移らず好ましい。
当該効果を奏するメカニズムは、明らかではないが、本発明者は以下のとおり推定している。苦み成分について検討したところ、特に上記式(1)で表される化合物が、少量でも強い苦みを生じることがわかった。そこで、鋭意検討したところ、ラップフィルム中に含まれる上記式(1)で表される化合物をある程度低減することで、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らないことが判明した。
【0053】
ラップフィルム中の上記式(1)で表される化合物の含有量を調整する方法としては、特に限定されないが、ラップフィルム中に含まれる上記式(1)で表される化合物が、例えば、可塑剤として用いられる上記式(2)で表される化合物が分解して生じることを考えると、上記式(2)で表される化合物の添加量を調整する方法や、上記式(2)で表される化合物が分解しないような条件でラップフィルムを製造する方法が挙げられる。
例えば、上記式(2)で表される化合物を精製してから用いる方法や、添加剤中に含まれる金属不純物を除去する方法などが挙げられる。
また、後述する、溶融押し出し工程の温度を低減する方法などが挙げられる。
【0054】
上記式(1)で表される化合物の含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いて、抽出溶媒の沸点より5~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、ヘキサン等が挙げられる。中でも、各成分をよく溶かし、反応を起こさない溶媒が好ましい。その中でもアセトンがより好適である。
【0055】
〔ラップフィルムの製造方法〕
本実施形態のラップフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデンを72mol%~93mol%含有する塩化ビニリデン系樹脂と、各種添加剤とを含む組成物を溶融押し出しして、フィルム状にする工程と、得られたフィルムをMD方向及びTD方向に延伸する工程と、を有する方法が挙げられる。以下、詳説する。
【0056】
(混合工程)
図1に、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図を示す。まず、混合機により、塩化ビニリデン系樹脂と、各種添加剤とを混合して組成物を得る。この際、必要に応じて各種添加剤を混合してもよい。混合機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0057】
(溶融押出工程)
次いで、得られた組成物を押出機1により溶融し、ダイ2のダイ口3から管状のフィルムを押出し、ソック4(パイルとも呼ぶ)を形成する。
ここで、溶融押出温度としては165℃~175℃が好ましい。溶融押出温度を前記範囲のように低い温度に設定することにより、ラップフィルム中の上記式(1)で表される化合物の含有量を低減できる傾向にある。ラップフィルム中の上記式(1)で表される化合物の含有量を上述した所定の範囲に調整するためには、上述したとおり、上記式(2)で表される化合物の添加量を調整する方法、上記式(2)で表される化合物を精製してから用いる方法、及び添加剤中に含まれる金属不純物を除去する方法と共に、溶融押出温度を前記範囲に調整する方法を行うことが有効である。
【0058】
(冷却工程)
ソック4の内側にソック液5を注入し、ソック4の外側は冷水槽6の冷水に接触させる。これにより、ソック4は、内側と外側との両方から冷却され、ソック4を構成するフィルムは固化する。固化したソック4は、第1ピンチロール7により折り畳まれ、パリソン8を成形する。
【0059】
(延伸工程)
続いて、パリソン8の内側にエアを注入することにより、パリソン8を開口し、筒状のフィルムを形成する。このとき、ソック4の内面に当たる部分に塗布されたソック液5はパリソン8の開口剤としての効果を発揮する。次いで、パリソン8は、開口した状態で、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン8の外側に付着した温水は、第2ピンチロール9にて搾り取られる。
【0060】
上記のようにして適温まで加熱されたパリソン8の内側にエアを注入してバブル10を成形する。このエアが内側からパリソンを押し広げることで、フィルムが延伸され、延伸フィルムが得られる。主にTD方向のフィルムの延伸は、エアの量により行われ、MD方向のフィルムの延伸は、第2ピンチロール9と第3ピンチロール11等とを用いてフィルムの流れ方向に張力を掛けることにより行われる。
【0061】
第1ピンチロール7から第3ピンチロール11までの工程を延伸工程という。延伸速度を遅くするとパリソン8の延伸性が向上するため、従来のラップフィルムの製造方法においては、MD方向の延伸速度を0.08倍/秒以下に調整し、TD方向の延伸速度を3.0倍/秒以下に調整していた。これに対して、本実施形態のラップフィルムの製造方法では、MD方向及びTD方向の延伸倍率と、MD方向及びTD方向の延伸速度を所定の範囲に調整することが好ましい。
【0062】
具体的には、本実施形態に用いる延伸工程におけるMD方向及びTD方向の延伸倍率は、各々独立して、好ましくは4倍~6倍であり、より好ましくは4.1倍~5.6倍である。ここで、MD方向の延伸倍率は、パリソン8をMD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、
図1においては、第1ピンチロール7の回転速度に対する第3ピンチロール11の回転速度の比によって算出することができる。TD方向の延伸倍率は、パリソン8をTD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、
図1においては、パリソン8の幅の長さに対するダブルプライフィルム12の幅の長さの比によって算出することができる。MD方向の延伸倍率は、例えば、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の回転速度比により調整することができ、TD方向の延伸倍率は、例えば、パリソン8の延伸温度やバブル10の大きさで調整することができる。
【0063】
また、本実施形態に用いる延伸工程におけるMD方向の延伸速度は、好ましくは0.09倍/秒~0.12倍/秒である。MD方向の平均延伸速度は、パリソンが第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間を通過する時間に対するMD方向への延伸倍率をいい、例えば、
図1においては、第1ピンチロール7の回転速度、第3ピンチロール11の回転速度、及びパリソン8が第1ピンチロール7と第3ピンチロール11間を通過するのに要する時間によって算出することができる。MD方向の延伸速度は、例えば、第1ピンチロール7や第3ピンチロール11の回転速度、又は、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間の距離により、調整することができる。
【0064】
さらに、本実施形態に用いる延伸工程におけるTD方向の延伸速度は、好ましくは3.1倍/秒~4.0倍/秒である。TD方向の平均延伸速度は、パリソン8がバブル10まで膨らむのに要する時間に対するTD方向への延伸倍率をいい、例えば、
図1においては、パリソン8及びバブル10の静止画像を利用して測定した延伸長と第3ピンチロール11の回転速度から算出したTD方向の延伸に要する時間と、TD方向の延伸倍率から算出できる。TD方向の延伸速度は、例えば、第3ピンチロール11の回転速度により調整することができる。
【0065】
延伸温度は、特に限定されないが、好ましくは30℃~45℃である。
【0066】
上記延伸工程後、延伸フィルムは、第3ピンチロール11で折り畳まれ、ダブルプライフィルム12となる。ダブルプライフィルム12は、巻き取りロール13にて巻き取られる。
【0067】
(緩和工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、延伸直後のラップフィルムを緩和する緩和工程を有することが好ましい。ラップフィルムの製造方法において比較的一般に行われる緩和方法は、延伸後に赤外ヒーター等の熱を利用してフィルムを緩和させるものである。しかしながら、本実施形態においては、この緩和工程に代えて、第3ピンチロール11より巻き取りロール13の回転速度を遅くすることで、延伸フィルムを緩和させる方法を用いることが好ましい。これは、本実施形態において、従来の熱を利用した緩和方法を利用した場合、熱によりフィルムの裂けの原因である微結晶の形成及び成長が起こるおそれがあるためである。
【0068】
第3ピンチロール11と巻き取りロール13とを用いた緩和工程における緩和比率は、好ましくは7%~15%であり、より好ましくは9%~13%である。緩和比率が15%以下であることにより、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でフィルムの弛みの発生により、シワの発生をより抑制できる傾向にある。また、緩和比率が7%以上であることにより、ラップフィルムを十分に緩和させることができ、高温に晒された場合であっても、分子鎖の再配列が発生することができる。またこれにより、裂けトラブルを低減できる傾向にある。ここで、「緩和比率」とは、第3ピンチロール11と巻き取りロール13間でダブルプライフィルム12を収縮させた比率をいい、例えば
図1の場合、第3ピンチロール11の回転速度に対する巻き取りロール13の比率を利用して算出できる。
【0069】
また、第3ピンチロール11と巻き取りロール13を用いた緩和工程の雰囲気温度は、好ましくは25℃~32℃である。雰囲気温度が上記範囲内であることにより、微結晶の形成及び成長が抑制される傾向にある。
【0070】
(スリット工程)
上記のようにして巻き取られたラップフィルムは、スリットされて、1枚のラップフィルムになるように剥がしながら巻き取られ、一時的に1~3日間原反の状態で保管される。最終的には原反から紙管に巻き返され、化粧箱に詰められることで、化粧箱に収納されたラップフィルム巻回体が得られる。
【0071】
(保管工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、ラップフィルムをスリットした後、原反の状態で保管する保管工程を行ってもよい。保管温度は、好ましくは19℃以下であり、より好ましくは5℃~19℃であり、さらに好ましくは5℃~15℃である。また、保管時間は、好ましくは20時間~50時間であり、より好ましくは24時間~40時間である。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
[塩化ビニリデンの含有量]
塩化ビニリデン由来の構成単位及び塩化ビニル由来の構成単位の含有量は、高分解のプロトン核磁気共鳴(以下「H-NMR」とも記す)測定装置を用いて以下のとおり測定した(積算回数:512回)。ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、5質量%になるように重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気23±2℃、50±10%RHにてH-NMR測定した。
例えば、塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)をA、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属した。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属した。
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)をAAの片方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属した。
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属した。
【0074】
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位のモル分率を求めた。なお、各モル分率を以下の通り表記する。
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
【0075】
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てた。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)の積分値をBの1H1個分
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)の積分値をAの1H2個分
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)の積分値をAの1H4個分
【0076】
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算した。
・P(A) + P(B) = 100
【0077】
P(A)及びP(B)を次式により求めた。
・P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
・P(A)=100-P(B)
【0078】
塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)であるAの分子量を97.0とし、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)であるBの分子量を62.5として、下記の式が成り立つのを用いて、各質量分率を計算した。なお、各質量分率を以下の通り表記する。
・Aの質量分率(質量%):Q(A)
・Bの質量分率(質量%):Q(B)
・Q(A) =
(P(A) × 97.0) /
(P(A) × 97.0 + P(B) × 62.5 ) × 100
・Q(B) = 100 - Q(A)
【0079】
[塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)]
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた。
【0080】
[フィルムの厚み]
ダイヤルゲージ(テクロック社製)を利用し、23℃、50%RHの雰囲気中で、ラップフィルムの厚みの測定を行った。
【0081】
[苦み測定]
苦み測定には味覚認識装置TS-5000Z(インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いた。味覚センサーにはCA0,C00,AE1,AAE,CT0(インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いて、室温(23℃)で以下のとおり苦味の測定を行った。
後述の実施例及び比較例で作製したラップフィルムを220mm×220mm四方にカットし、測定検体を包んだ。測定検体には、お粥(GreenMind製/12か月以上用)を用いた。お粥80gをラップフィルムで8cm×7cmの板状に包んだものをサンプルとした。得られたサンプルを、家庭用冷凍庫で24時間冷凍した後、電子レンジ(三菱電機ホーム機器者製/R0-S5A)で500W、1分50秒で加熱して解凍した。ブランクには耐熱容器中で上記と同様に冷凍及び解凍したお粥を用いた。解凍後の検体を均一化し、3倍希釈基準液を5倍量加えて食品用ミルで1分間攪拌した。攪拌後、濾紙でろ過したものを試験溶液とした。なお、基準液は30mmol/L塩化カリウム含有0.3mmol/L酒石酸溶液を使用した。
各味覚センサーの基準液中での測定電位をゼロとし、試験溶液中での測定電位との差を先味とした。その後、各味覚センサーを基準液で洗浄し、再度基準液を測定したときの電位を後味とした。各々の試験溶液とブランクとの測定値を比較し、味覚センサーの電位出力値の差が1を超えた場合、味に差ありと判断し、また、当該差が1以下の場合、味に差なし(苦みが移っていない)と判断した。
【0082】
[低温での取扱性評価]
低温でのラップフィルムの取扱性評価は以下の手順で行った。
後述の実施例及び比較例で作製したラップフィルムを220mm×220mm四方にカットし、測定検体を包んだ。
測定検体には、白飯を用いた。白飯150gをラップフィルムで8cm×7cmの板状に包み、サンプルとした。このサンプルを10個作製した。作製したサンプルを、家庭用冷凍庫(-18℃)で24時間冷凍した後、冷凍庫から取り出し、直後にフィルムを開いて、低温でのラップフィルムの取扱性を以下の基準で評価した。なお、ここで言う「スムーズな開封」とは、開封時のラップフィルムの裂けや割れがないこと、ラップフィルムが低温であっても適度な硬さを維持していて、過度な力を加えなくても開封が可能である状態である。
(評価基準)
◎:8~10個のサンプルを、スムーズに開封できた。
○:4~7個のサンプルを、スムーズに開封できた。
△:スムーズに開封できたサンプルが3個以下だった。
【0083】
[式(1)で表される化合物の含有量の測定]
ラップフィルム中の下記式(1)で表される化合物の含有量(ppm)は、アセトンを用いて、抽出溶媒の沸点より5~10℃低い温度にてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して求めた。
【化6】
(式(1)中、R
1は、各々独立してアルキル基を表す。)
【0084】
[実施例1]
重量平均分子量120,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン繰り返し単位が85mol%、塩化ビニル繰り返し単位が15mol%)93.4質量%に、式(2)で表される化合物として、アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株))5.5質量%、エポキシ化大豆油(ニューサイザー510R、日本油脂(株))1.1質量%、をヘンシェルミキサーにて5分間混合した。その際、アセチルクエン酸トリブチルはカラムクロマトグラフィーにて精製を行ってから混合を行った。混合後、24時間以上熟成して組成物を得た。
【0085】
得られた組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイから溶融押出してソック(管状のフィルム)を形成した。この際、環状ダイのスリット出口における溶融樹脂温度(溶融押出温度)が168℃になるように押出機の加熱条件を調節し、環状に10kg/時間の押出速度で押出した。
【0086】
ソックをソック液及び冷水槽で冷却した後、パリソンを開口してバブルを形成し、インフレーション延伸を行った。この際、MD方向は4.1倍に延伸し、TD方向は5.6倍に延伸して、筒状フィルム(バブル)を形成した。なお、延伸温度は35℃とした。
【0087】
得られた筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んだ後、ピンチロールと巻き取りロールの速度比の制御によって、MD方向にフィルムを緩和(緩和比率10%)させ、ダブルプライフィルムの幅280mmの2枚重ねのフィルムを巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径92mmの紙管に巻き直した。その後、外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルム(厚さ:10μm)の巻回体を得た。得られたラップフィルムの巻回体を15℃、30時間保管し、これを用いて上記方法により各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
使用するアセチルクエン酸トリブチルの精製を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてラップフィルムの巻回体を作製し、上記方法により各評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例3、4及び比較例1、2]
添加剤の種類及び量、並びに、フィルムの溶融押出温度を表1のとおり変更した以外は実施例1と同様にしてラップフィルムの巻回体を作製し、上記方法により各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0089】
本発明のラップフィルムは、例えば、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、ラップフィルムを用いて握り米飯を調理した際に、握り飯に苦みが移らず、また、低温での取扱性にも優れるラップフィルムとして有効に利用可能である。