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  • 特開-ラップフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007579
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/02 20060101AFI20240112BHJP
   B65D 25/52 20060101ALI20240112BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240112BHJP
   C08L 27/08 20060101ALI20240112BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B65D65/02 E
B65D25/52 C
C08J5/18
C08L27/08
C08K5/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108730
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 利采
【テーマコード(参考)】
3E062
3E086
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
3E062AA01
3E062AB14
3E062AC02
3E062LA01
3E062LA25
3E086AA02
3E086AB02
3E086AD17
3E086BA02
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB41
3E086BB85
3E086CA01
3E086DA06
4F071AA25
4F071AA81
4F071AC10
4F071AE04
4F071AF16Y
4F071AF20Y
4F071AF39Y
4F071AG28
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4J002BD101
4J002EW046
4J002FD026
4J002FD106
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】本発明は、例えば、巻回体とした場合の表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時にラップフィルムの裂けが生じにくいラップフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニリデン系樹脂を含有し、表面抵抗率が1×1011~1×1017Ωである、ラップフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
表面抵抗率が1×1011~1×1017Ωである、ラップフィルム。
【請求項2】
分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物を含有する、請求項1に記載のラップフィルム。
【請求項3】
前記分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物がリン脂質である、請求項2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
厚みが6~18μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【請求項5】
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン繰り返し単位72~93mol%と、塩化ビニル繰り返し単位18~7mol%とからなる共重合体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【請求項6】
TD方向の引裂強度が、2.0~6.0cNである、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【請求項7】
MD方向の引張弾性率が250~600MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン系樹脂から形成されるラップフィルムは、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性(防湿性)及び透明性に優れ、更に電子レンジ加熱が可能であることから、鮮魚、生肉、加工肉、新鮮野菜、惣菜類等の包装に、酸素遮断、防湿等の目的で広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ASTM D6866-12に規定されるモダン炭素比率が10~118pMCである塩化ビニリデン共重合体を含有することを特徴とする植物由来の塩化ビニリデン共重合体組成物であることによって、カーボンオフセット性を有するとともに、化石燃料由来の樹脂を含有する樹脂組成物と遜色がないガスバリア性、成形加工性及び優れた包装性能、すなわち、ラップ用フィルムとしても、また、自動充填包装用フィルムとしても、優れた実用特性を有する熱収縮性フィルムを形成することができる塩化ビニリデン共重合体組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-125561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、塩化ビニリデン系樹脂は、透明性、耐水性及びガスバリア性等の特性に優れているため、ラップフィルム等の食品包装用材料として使用されている。
【0006】
ラップフィルムを形成する塩化ビニリデン系樹脂としては、フィルムの押出加工性、結晶性、透明性、軟化温度等の観点から、通常、塩化ビニリデンと、塩化ビニルなど塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体とを共重合させて得られる塩化ビニリデン共重合体が使用されている。
【0007】
塩化ビニリデン系樹脂から形成されるラップフィルムは、通常、塩化ビニリデン系樹脂を、溶融押出し、次いで延伸を行うことにより製造され、紙管に巻き取られ化粧箱(カートン)中で保管される。
【0008】
化粧箱に箱詰めされた製品は、通常、段ボールに梱包されトラック等の交通手段で輸送されるが、その際に、輸送による振動でラップフィルム巻回体と化粧箱の板紙内面とがこすれ、巻回体表面に切れ傷が生じることがある。
【0009】
巻回体表面の切れ傷は、ユーザーが化粧箱を開封し、初めてラップフィルムを引き出す際(以下「初引出時」とも記す)にラップフィルムが裂ける原因となる。このような初引出時のラップフィルムの裂けは、著しくユーザーの満足度を低下させる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みになされたものであり、例えば、巻回体とした場合の表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時にラップフィルムの裂けが生じにくいラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ラップフィルムの表面抵抗率を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、下記のとおりである。
[1]
塩化ビニリデン系樹脂を含有し、
表面抵抗率が1×1011~1×1017Ωである、ラップフィルム。
[2]
分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物を含有する、[1]に記載のラップフィルム。
[3]
前記分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物がリン脂質である、[2]に記載のラップフィルム。
[4]
厚みが6~18μmである、[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
[5]
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン繰り返し単位72~93mol%と、塩化ビニル繰り返し単位18~7mol%とからなる共重合体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
[6]
TD方向の引裂強度が、2.0~6.0cNである、請求項1~3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
[7]
MD方向の引張弾性率が250~600MPaである、[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
[8]
[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、巻回体とした場合の表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時にラップフィルムの裂けが生じにくいラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の製膜プロセスで使用された装置の一例の概略図である。
図2】本発明のフィルムの利用形態の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0017】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、表面抵抗率が1×1011~1×1017Ωである。本実施形態のラップフィルムは、表面抵抗率を前記範囲とすることで、例えば、巻回体とした場合の表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時にラップフィルムの裂けが生じにくいという効果を奏する。
本実施形態のラップフィルムは、表面抵抗率が1×1016Ω以下であること好ましく、1×1015Ω以下であることがより好ましく、1×1014Ω以下であることがさらに好ましい。これにより、ラップフィルム巻回体表面への切れ傷を防ぐことができる。
ラップフィルムの表面抵抗率を前記範囲とする方法としては、特に限定されないが、例えば、ラップフィルムに含有させる添加剤の種類及び量を適宜調整する方法が挙げられ、特に長鎖アルキル基を有するリン化合物を添加することが挙げられる。
なお、本実施形態において、ラップフィルムの表面抵抗率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0018】
<塩化ビニリデン系樹脂>
本実施形態のラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有する。
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン繰り返し単位を含むものであれば特に限定されず、塩化ビニリデン繰り返し単位以外に、例えば塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリロニトリル;酢酸ビニル等、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体が一種又は二種以上共重合されていてもよい。
【0019】
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは80.000~200,000であり、より好ましくは90,000~180,000であり、さらに好ましくは100,000~170,000である。塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、ラップフィルムの機械強度がより向上する傾向にある。重量平均分子量が上記範囲内である塩化ビニリデン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデンモノマーと塩化ビニルモノマーの仕込み比率や、重合開始剤の量、又は重合温度を制御することにより得ることができる。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めることができる。
【0020】
塩化ビニリデン系樹脂が共重合樹脂である場合、塩化ビニリデン繰り返し単位の比率は、特に限定されないが、塩化ビニリデン繰り返し単位を72~93mol%含むものが好ましく、81~90mol%含むものがより好ましい。塩化ビニリデン繰り返し単位が72mol%以上である場合、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低くフィルムが軟らかくなるため、冬場等の低温環境下での使用時にもフィルムの裂けを低減できる傾向にある。一方、塩化ビニリデン繰り返し単位が93mol%以下である場合、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化を抑制できる傾向にある。
特に、塩化ビニリデン繰り返し単位を72%以上含む塩化ビニリデン系樹脂からなるラップフィルムは、夏場等の高温下で保管・流通する際、熱を受けて微結晶が形成及び成長し、物理的な劣化が起こりやすく、結果としてフィルム使用時の裂けトラブルが発生しやすい傾向にあるため、本発明の効果がより顕著となる。
【0021】
塩化ビニリデン系樹脂が共重合樹脂である場合、塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン繰り返し単位72~93mol%と、塩化ビニル繰り返し単位18~7mol%と、からなる共重合体を含むことが好ましい。塩化ビニリデン繰り返し単位比率を72mol%以上とすることで、酸素及び水バリア性やフィルムカット性をさらに向上させることができる傾向にあり、塩化ビニリデン繰り返し単位比率を93mol%以下とすることで、加工性をさらに向上させることができる傾向にある。
【0022】
塩化ビニリデン繰り返し単位及び塩化ビニル繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、例えば、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置(400MHz以上)を用いて測定することができる。より具体的には、ラップフィルムの再沈濾過物を、下記の手順に従って得る。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは77~94質量%であり、より好ましくは85~94質量%である。塩化ビニリデン系樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、添加剤等による可塑化効果によってフィルムが伸びやすくなるのを抑制でき、フィルムのカット性が一層高くなる傾向にある。
【0024】
ラップフィルム中の各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。例えば、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、重量測定して得ることができる。一方、後述するエポキシ化植物油の含有量は、例えば、ラップフィルムの再沈濾液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析して得る方法や、NMRを使用する方法がある。また、クエン酸エステル及び二塩基酸エステルの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、ヘキサン等が挙げられる。中でも、各成分をよく溶かし、反応を起こさない溶媒が好ましい。その中でもアセトンがより好適である。
【0025】
本実施形態のラップフィルムは、前記塩化ビニリデン系樹脂に加えて、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。上述したとおり、例えば、各種添加剤を適宜調整することで、ラップフィルムの表面抵抗率を適宜調整することができる。以下、各種添加剤について詳細に説明する。
【0026】
(有機リン化合物)
本実施形態のラップフィルムは、分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物を含有することが好ましい。これにより、ラップフィルムの柔軟性を維持しつつ、表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができる。
本実施形態のラップフィルムは、長鎖アルキル基を有するリン酸エステル系有機リン化合物を添加剤として含有することがより好ましい。これにより、より一層、ラップフィルムの柔軟性を維持しつつ、表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができる。本実施形態に用いられる長鎖アルキル基を有するリン酸エステル系有機リン化合物としては、特に制限はないが、例えば、リン酸エステル及び亜リン酸エステルが挙げられる。中でも、炭素数8~24の長鎖アルキル基構造を有するリン酸エステル系有機リン化合物がより好ましい。これらのリン酸エステル系有機リン化合物は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
炭素数8~24の長鎖アルキル基を有するリン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、モノ-又はジ-ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノn-ラウリルホスフェート、ジエチレングリコールモノラウリルエーテルアシッドホスフェート、ジエチレングリコールモノオレイルエーテルアシッドホスフェート、などが挙げられる。
炭素数8~24の長鎖アルキル基構造としては、特に限定されないが、分岐構造を有さなくても、分岐構造を有していてもよい。また、飽和構造のみからなってもよいし、不飽和構造を有していてもよい。
【0027】
上記長鎖アルキル基を有するリン酸エステルや亜リン酸エステルを添加することにより、ラップフィルムの柔軟性を維持しつつ、表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができ、その結果、巻回体表面に切れ傷が発生しにくくなる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。他の添加剤と比較して、長鎖アルキル基を有するリン酸エステルや亜リン酸エステルは、分子内にリン酸部分という、水との親和性が高い部分、及び、長鎖アルキル部分という、塩化ビニリデン系樹脂と親和性が高い部分を有している。そのため、長鎖アルキル基を有するリン酸エステルや亜リン酸エステルはラップフィルム表面にブリードした際に、長鎖アルキル部分が塩化ビニリデン系樹脂と相互作用し、表面にリン酸部分が突き出したような構造をとると考えられる。このように、塩化ビニリデン系樹脂の表面に、極性部分が並ぶ構造をとることにより、ラップフィルムの柔軟性を維持しつつ、表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができ、その結果、巻回体表面の切れ傷が防止できると考えられる。
【0028】
本実施形態のラップフィルムが長鎖アルキル基を有するリン酸エステル系有機リン化合物を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ラップフィルムの総量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
【0029】
(リン脂質)
本実施形態のラップフィルムは、リン脂質を添加剤として含有することが好ましく、前記分子内に長鎖アルキル基を有するリン化合物がリン脂質であることがより好ましい。これにより、ラップフィルムの表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができる。本実施形態に用いられるリン脂質としては、特に限定されないが、例えば、レシチン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジル酸及びそれらのリゾ体から選択されるものが挙げられる。ここで、レシチンとは、ホスファチジルコリンを主成分とするリン脂質の慣用名であり、レシチンに換えて、主成分であるホスファチジルコリンを用いることもできる。その基源としては、大豆や卵黄などが好適に例示でき、大豆が特に好ましく例示できる。本実施形態で用いることができる市販のリン脂質としては、特に限定されないが、例えば、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)(東京化成工業株式会社(TCI)製)、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-4-phosphocholine(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-4-ホスホコリン)(東京化成工業株式会社(TCI)製)が挙げられる。本実施形態においては、かかるリン脂質は一種単独で含有させることもできるし、二種以上を組み合わせて含有させることもできる。
【0030】
上記リン脂質を添加することにより、ラップフィルムの表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができ、その結果、巻回体表面の切れ傷が防止できる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。他の添加剤と比較して、リン脂質は、分子内にリン酸部分という、水との親和性が高い部分、及び、長鎖アルキル部分という、塩化ビニリデン系樹脂と親和性が高い部分を有している。そのため、リン脂質はラップフィルム表面にブリードした際に、長鎖アルキル部分が塩化ビニリデン系樹脂と相互作用し、表面にリン酸部分が突き出したような構造をとると考えられる。このように、塩化ビニリデン系樹脂の表面に、極性部分が並ぶ構造をとることにより、ラップフィルムの表面抵抗率を適宜好ましい範囲に調整することができ、その結果、巻回体表面の切れ傷が防止できると考えられる。
【0031】
本実施形態のラップフィルムがリン脂質を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ラップフィルムの総量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましく、0.1~1.5質量%がさらに好ましい。
【0032】
本実施形態において、前記有機リン化合物はNMR、GC/MS、蛍光X線分析等を用いて同定することができる。
【0033】
<エポキシ化植物油>
本実施形態のラップフィルムは、ラップフィルムの色調変化の抑制の観点から、エポキシ化植物油を含有することが好ましい。エポキシ化植物油は、塩化ビニリデン系樹脂押出加工用安定剤としても作用する。
【0034】
エポキシ化植物油としては、特に限定されないが、一般的に、食用油脂をエポキシ化して製造されるものが挙げられる。具体的には、例えば、エポキシ化大豆油(ESO)、エポキシ化アマニ油が挙げられるが、これらの中でも、高温下にラップフィルムを保管した際、化粧箱からのフィルムの引出性悪化を抑制できる傾向にあるため、ESOが好ましい。
【0035】
本実施形態のラップフィルムがエポキシ化植物油を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ラップフィルムの色調変化の抑制、ブリードによるべたつき防止等の観点から、ラップフィルムの総量に対し、0.5~3質量%が好ましく、1~2質量%がより好ましい。
【0036】
前記エポキシ化植物油含有量のNMRを使用した測定方法は下記の手順に従う。
サンプルを50mg秤量し、重溶媒(溶媒:重水素化THF、内部標準:テレフタル酸ジメチル、容量:0.7mL)に溶かし、400MHzプロトンNMR(積算回数:512回)測定する。8.05~8.11ppmの積分値に対する2.23~2.33ppmの積分値の比を積分比とし、絶対検量線法で定量値を計算する。
積分比=積分値(2.23~2.33ppm)/積分値(8.05~8.11ppm)
【0037】
また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用した前記エポキシ化植物油含有量の測定方法は下記の手順に従う。
サンプルをトールビーカーに3g秤量し、THF30mLを加え、スターラーで攪拌、加温(50℃×4分)し完全に溶かす。
スターラーで攪拌しながら、メタノール(170mL)をゆっくり滴下して再沈させる。メタノールを全量滴下終わったら、ガラスフィルターに吸引濾過する。濾液を濃縮、真空乾燥したのち、メスフラスコ10mLに入れてクロロホルムでメスアップする。クロロホルム溶液をシリンジフィルター(材質PTFE、孔径0.45μm)でろ過し、GPC分析する。標準試料はESOをメスフラスコに秤量し、クロロホルムでメスアップしたものを3水準作成する。サンプルと同様にシリンジフィルターでろ過して、GPC分析する。GPC分析と標準試料濃度をプロットして検量線を作成する。
サンプルのGPC面積を検量線に当てはめて、濃度を計算し、ESO定量値を計算する。
【0038】
<クエン酸エステル及び二塩基酸エステル>
本実施形態のラップフィルムは、成形加工性等の観点から、クエン酸エステル及び二塩基酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。
【0039】
本実施形態のラップフィルムに用いられるクエン酸エステルは、特に限定されないが、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アセチルクエン酸トリ-n-(2-エチルヘキシル)などが挙げられる。これらの中でも、塩化ビニリデン系樹脂に対する可塑化効果が高く、少量でも十分に樹脂を可塑化し、成形加工性を向上させる傾向にあるため、ATBCが好ましい。
【0040】
本実施形態のラップフィルムに含まれる二塩基酸エステルとしては、特に限定されないが、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジn-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル系;アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル系;セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル系などが挙げられる。これらの中でも、塩化ビニリデン系樹脂に対する可塑化効果が高く、少量でも十分に樹脂を可塑化し、成形加工性を向上させる傾向にあるため、DBSが好ましい。
【0041】
前記クエン酸エステルや二塩基酸エステルの合計含有量は、特に限定されないが、より優れた成形加工性の付与、及び添加剤高含有時のラップフィルムの過剰な密着性防止等の観点から、ラップフィルムの総量に対し、3~8質量%が好ましく、3~7質量%がより好ましく、3~5質量%がさらに好ましく、3.5~5質量%が特に好ましい。
【0042】
<アセチル化脂肪酸グリセライド>
本実施形態のラップフィルムには、可塑剤としてアセチル化脂肪酸グリセライドが含まれていてもよい。アセチル化脂肪酸グリセライドとしては、特に制限されないが、例えば、アセチル化カプリル酸グリセライド、アセチル化カプリン酸グリセライド、アセチル化ラウリン酸グリセライド、アセチル化ミリスチン酸グリセライド、アセチル化パーム核油グリセライド、アセチル化ヤシ油グリセライド、アセチル化ヒマシ油グリセライド、アセチル化硬化ヒマシ油グリセライドが挙げられる。
【0043】
上記アセチル化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸のアセチル化モノグリセライド、脂肪酸のアセチル化ジグリセライド、脂肪酸のアセチル化トリグリセライドのいずれであってもよい。例えば、上記アセチル化ラウリン酸グリセライドには、ラウリン酸のアセチル化モノグリセライド、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライド(DALG:ジアセチルラウロイルグリセロール)、ラウリン酸のアセチル化トリグリセライドが含まれる。この中でも、アセチル化ラウリン酸グリセライドが好ましく、ラウリン酸のアセチル化ジグリセライドがより好ましい。
【0044】
アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8質量%であり、より好ましくは3.5~7質量%であり、さらに好ましくは4~6質量%である。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なる。アセチル化脂肪酸グリセライドの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0045】
クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の合計含有量は、ラップフィルムの総量に対して、好ましくは3~8質量%であり、より好ましくは3.5~7質量%であり、さらに好ましくは4~6質量%である。クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライドの合計含有量が上記範囲内であることにより、成形加工性がより向上し、エポキシ化植物油を高含有した時のラップフィルムのブリードによる過度なべたつきが抑制される傾向にある。
【0046】
<その他の配合物>
本実施形態のラップフィルムは、前記エポキシ化植物油、クエン酸エステル、二塩基酸エステル、及びアセチル化脂肪酸グリセライド以外の配合物(以下、「その他の配合物」という。)として、特に限定されないが、例えば、可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、滑剤、核剤、二酸化炭素吸収剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)等のポリマー等を含有してもよい。
【0047】
前記可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、グリセリン、グリセリンエステル、ワックス、流動パラフィン、及びリン酸エステル等が挙げられる。
【0048】
前記安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、2,5-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-
(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-
ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒド
ロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノ
ール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2-エチル-ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。
【0049】
前記耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メ
チルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-
5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキ
シベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等の紫
外線吸収剤が挙げられる。
【0050】
前記染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。
【0051】
前記防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0052】
前記抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。
【0053】
前記滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。
【0054】
前記核剤としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。
【0055】
前記その他の配合物の含有量は、ラップフィルムに対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0056】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、好ましくは6μm~18μmであり、より好ましくは9μm~12μmである。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0057】
より具体的には、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引裂強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0058】
一方、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、ラップフィルムの厚みが18μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。なお、本実施形態において、ラップフィルムの厚みは、実施例に記載の方法によって測定される。
【0059】
(引裂強度)
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、好ましくは2.0cN~6.0cNであり、より好ましくは2.0cN~4.0cNであり、さらに好ましくは2.2cN~3.0cNである。TD方向の引裂強度が2.0cN以上であることにより、特に巻回体からラップフィルムを引き出す際の裂けを低減でき、また、ラップフィルム使用時の意図しない裂けトラブルを抑制できる。一方、TD方向の引裂強度が6.0cN以下であることにより、化粧箱に付帯する切断刃でフィルムをTD方向にカットする際に裂きやすく、カット性が向上する。
【0060】
本実施形態のラップフィルムのTD方向の引裂強度は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、延伸速度、及びフィルムの厚み等によって調整することができる。特に限定されないが、例えば、TD方向の引裂強度はTD方向の延伸倍率を低くしたり、ラップフィルムを厚くすることによって、向上する傾向にあり、TD方向の延伸倍率を高くしたり、ラップフィルムを薄くすることによって、低下する傾向にある。なお、本実施形態において、TD方向の引裂強度は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0061】
(引張弾性率)
本実施形態のラップフィルムにおいて、フィルムのMD方向の引張弾性率は、好ましくは250~600MPaであり、より好ましくは350~500MPaであり、さらに好ましくは350~470MPaである。MD方向の引張弾性率が250MPa以上であることにより、切断刃でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延びを抑制でき、切断刃がフィルムに食い込みやすくでき、カット性が向上する傾向にある。一方、MD方向の引張弾性率が600MPa以下であることにより、フィルムが軟らかく、切断刃の形状に沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生するのを抑制できる傾向にある。その結果、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際、切断端面からフィルムが裂けるトラブルが発生するのを抑制できる傾向にある。
【0062】
本実施形態において、ラップフィルムのMD方向の引張弾性率は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、及び延伸速度等によって調整できる。特に限定されないが、例えば、MD方向の引張弾性率は、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある。なお、本実施形態において、MD方向の引張弾性率は、実施例に記載の方法によって測定される。
【0063】
[巻回体]
本実施形態の巻回体は、上述したラップフィルムと、巻芯と、を含み、当該ラップフィルムが巻芯に巻き取られたものである。巻回体は、例えば、後述する製造方法に従って製造することができる。
【0064】
〔ラップフィルムの製造方法〕
本実施形態のラップフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、塩化ビニリデン系樹脂と、リン酸エステル系有機リン化合物と、エポキシ化植物油と、クエン酸エステル及び二塩基酸エステル及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む組成物を溶融押し出しして、フィルム状にする工程と、得られたフィルムをMD方向及びTD方向に延伸する工程と、を含む方法が挙げられる。以下、詳説する。
【0065】
(混合工程)
図1に、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図を示す。まず、混合器により、塩化ビニリデン系樹脂と、リン酸エステル系有機リン化合物と、エポキシ化植物油、クエン酸エステル及び二塩基酸エステル及びアセチル化脂肪酸グリセライドからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を混合して組成物を得る。この際、必要に応じて各種添加剤を混合してもよい。混合機は、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー又はヘンシェルミキサー等を用いることができる。得られた組成物は、1~30時間程度熟成させて次の工程に用いることが好ましい。
【0066】
(溶融押出工程)
次いで、得られた組成物を押出機1により溶融し、ダイ2のダイ口3から管状のフィルムを押出し、ソック4(パイルとも呼ぶ)を形成する。
【0067】
(冷却工程)
ソック4の内側にソック液5を注入し、ソック4の外側は冷水槽6の冷水に接触させる。これにより、ソック4は、内側と外側との両方から冷却され、ソック4を構成するフィルムは固化する。固化したソック4は、第1ピンチロール7により折り畳まれ、パリソン8を成形する。このとき、ダイ口3から冷水槽6までの距離をホットディスタンスという。このホットディスタンスの距離を調整することにより、ラップフィルムを引っ張った際の結晶長周期を調整することが可能である。
【0068】
(延伸工程)
続いて、パリソン8の内側にエアを注入することにより、パリソン8を開口し、筒状のフィルムを形成する。このとき、ソック4の内面に当たる部分に塗布されたソック液5はパリソン8の開口剤としての効果を発揮する。次いで、パリソン8は、開口した状態で、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン8の外側に付着した温水は、第2ピンチロール9にて搾り取られる。
【0069】
上記のようにして適温まで加熱されたパリソン8の内側にエアを注入してバブル10を成形する。このエアが内側からパリソンを押し広げることで、フィルムが延伸され、延伸フィルムが得られる。主にTD方向のフィルムの延伸は、エアの量により行われ、MD方向のフィルムの延伸は、第2ピンチロール9と第3ピンチロール11等を用いてフィルムの流れ方向に張力を掛けることにより行われる。
【0070】
第1ピンチロール7から第3ピンチロール11までの工程を延伸工程という。
具体的には、本実施形態に用いる延伸工程におけるMD方向及びTD方向の延伸倍率は、各々独立して、好ましくは4~6倍である。ここで、MD方向の延伸倍率は、パリソン8をMD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度に対する第3ピンチロール11の回転速度の比によって算出することができる。TD方向の延伸倍率は、パリソン8をTD方向に伸ばした延伸比をいい、例えば、図1においては、パリソン8の幅の長さに対するダブルプライフィルム12の幅の長さの比によって算出することができる。MD方向の延伸倍率は、例えば、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の回転速度比により調整することができ、TD方向の延伸倍率は、例えば、パリソン8の延伸温度やバブル10の大きさで調整することができる。
【0071】
また、本実施形態に用いる延伸工程におけるMD方向の平均延伸速度は、好ましくは0.09~0.12倍/秒である。MD方向の平均延伸速度は、パリソンが第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間を通過する時間に対するMD方向への延伸倍率をいい、例えば、図1においては、第1ピンチロール7の回転速度、第3ピンチロール11の回転速度、及びパリソン8が第1ピンチロール7と第3ピンチロール11間を通過するのに要する時間によって算出することができる。MD方向の平均延伸速度は、例えば、第1ピンチロール7や第3ピンチロール11の回転速度、又は、第1ピンチロール7と第3ピンチロール11の間の距離により、調整することができる。
【0072】
延伸温度は、特に限定されないが、好ましくは25~45℃である。
【0073】
上記延伸工程後、延伸フィルムは、第3ピンチロール11で折り畳まれ、ダブルプライフィルム12となる。ダブルプライフィルム12は、巻き取りロール13にて巻き取られる。
【0074】
(緩和工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、延伸直後のラップフィルムを緩和する緩和工程を有してもよい。緩和の方法としては、延伸後に赤外ヒーター等の熱を利用してフィルムを緩和させる方法や、巻取ロールの回転速度を遅くすることでフィルムを緩和させる方法があるが、これに限定はされない。
【0075】
(スリット工程)
上記のようにして巻き取られたラップフィルムは、スリットされて、1枚のラップフィルムになるように剥がしながら巻き取られ、一時的に1~3日間原反の状態で保管される。最終的には原反から紙管に巻き返され、化粧箱に詰められることで、化粧箱に収納されたラップフィルム巻回体が得られる。具体的には、例えば、特に限定されないが、図2に示すように、巻回体16として、フィルム切断刃15を備える化粧箱14に収納される。図2に例示するように、ラップフィルム(単層フィルム)17は、使用時に引き出されて使用される。
【0076】
(保管工程)
本実施形態のラップフィルムの製造方法においては、ラップフィルムをスリットした後、原反の状態で保管する保管工程を行ってもよい。保管温度は、好ましくは19℃以下であり、より好ましくは5℃~19℃であり、さらに好ましくは5℃~15℃である。また、保管時間は、好ましくは20時間~50時間であり、より好ましくは24時間~40時間である。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0078】
[塩化ビニリデンの含有量]
塩化ビニリデン由来の構成単位及び塩化ビニル由来の構成単位の含有量は、高分解のプロトン核磁気共鳴(以下「H-NMR」とも記す)測定装置を用いて以下のとおり測定した(積算回数:512回)。ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、5質量%になるように重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気23±2℃、50±10%RHにてH-NMR測定した。
例えば、塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)をA、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属した。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属した。
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)をAAの片方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属した。
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCH2シグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH2)基)に帰属した。
【0079】
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位のモル分率を求めた。なお、各モル分率を以下の通り表記する。
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
【0080】
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てた。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)の積分値をBの1H1個分
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)の積分値をAの1H2個分
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)の積分値をAの1H4個分
【0081】
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算した。
・P(A) + P(B) = 100
【0082】
P(A)及びP(B)を次式により求めた。
・P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
・P(A)=100-P(B)
【0083】
塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH2-CCl2-)であるAの分子量を97.0とし、塩化ビニル由来の構成単位(-CH2-CHCl-)であるBの分子量を62.5として、下記の式が成り立つのを用いて、各質量分率を計算した。なお、各質量分率を以下の通り表記する。
・Aの質量分率(質量%):Q(A)
・Bの質量分率(質量%):Q(B)
・Q(A) =
(P(A) × 97.0) /
(P(A) × 97.0 + P(B) × 62.5 ) × 100
・Q(B) = 100 - Q(A)
【0084】
[塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)]
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法(GPC法)により、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた。
【0085】
[フィルムの厚み]
ダイヤルゲージ(テクロック社製)を利用し、23℃、50%RHの雰囲気中で、ラップフィルムの厚みの測定を行った。
【0086】
[引裂強度]
ラップフィルムの引裂強度測定には軽荷重引裂試験機 D型(東洋精機製)を使用した。23℃、50%RHの雰囲気中にて引裂強度の測定を行った。ラップフィルムの引裂強度測定は、ラップフィルム1枚のみで行った。引裂方向のサンプル長さは63.5mmとし、サンプル幅は50.0mmとした。測定の際には、振り子を持ち上げてから止めた後、試験片を注意深くつまみ具に取り付け、スリットを入れる位置がフィルム幅の中央となるように、クランプをしっかりと締め付けた。その後、装置に取り付けられたナイフでフィルムにスリットを入れた。この際に、フィルムの切り込み長さが12.7mm±0.5mmになるよう、ナイフの刃位置を調整した。スリットを入れた後、振り子を注意深く解放し、試験片を引き裂くのに要した力の値を読み取った。当該読み取った値をTD方向の引裂強度とした。引裂線がスリットの延長線より10mm以上それた試験は除外し、代わりに追加の試験片の試験を行った。また、測定結果は小数点第2位の値を四捨五入した。サンプルを変えて計5回測定し、5回の平均値を測定値とした。
【0087】
[引張弾性率]
ラップフィルムの引張弾性率測定にはオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用した。23℃、50%RHの雰囲気中にて引張弾性率を評価した。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件で2%伸長時の荷重を測定し、測定サンプルの断面積で割り返してから、50倍にしてMD方向の引張弾性率を測定した。測定の際には、試験機の軸に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付けた。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締めた。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、及び、圧延が起きてはならない。また、測定結果は有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入した。
【0088】
[傷つき性]
後述の実施例及び比較例で得られた巻回体を、図2に示すように、フィルム切断刃を備える化粧箱に収納した。
アイデックス株式会社製振動試験機(BF-50UT)を用い、前記化粧箱を梱包した段ボールケースに対し、天板に相当する面を上にし、側板に相当する面が当該試験機の正面に来るようにした状態で、以下の条件で振動を加えて振動試験を行った。
Lo-周波数:5Hz、Hi-周波数:30Hz、掃引時間:30秒、掃引回数:40回
試験後、段ボールケースを開封して化粧箱を取出し、化粧箱を開封して内容物の傷つき状況を記録した。具体的には、化粧箱60箱中、ラップフィルムに対し長手方向に1mm以上の切断面又はめくれが生じた化粧箱の数をカウントし、1箱以内であれば◎、2箱以上5箱以内であれば○、6箱以上10箱以内なら△、11箱以上であれば×と評価した。なお、当該箱の数が少ないほど、巻回体表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時にラップフィルムの裂けが生じにくいと評価した。
【0089】
[表面抵抗率]
ラップフィルムの表面抵抗率は、JISK6911を参考に、装置・電極の選定、装置プログラムの設定を行って以下のとおり測定した。
ラップフィルムを、温度23℃、湿度50%RHの環境下で90時間保管した。ラップフィルムが巻回体としてロール状になっている場合は巻回体から引き出して枚葉の状態で保管した。その後、エーディーシー社製デジタル超高抵抗/微小電流計5450型を用いて、ラップフィルムの表面抵抗率を測定した。この際、装置内での設定はアプリケーションE:JISK6911に準拠した自動設定プログラムを利用した。また、ラップフィルムの表裏に関しては、巻回体の時に紙管に近い面(内側)に電極を接触させて測定を行った。
電極のサイズは主電極50mmΦ、ガード電極内径70mmΦ、外径80mmΦを用いた。試験片は100mm×100mmで作成し、n=3でその平均値を算出した。電極の処理には導電性ゴムを用いた。測定条件は、印加電圧500V、印加時間60秒、温度23℃、湿度50%RHとした。
【0090】
[実施例1]
重量平均分子量90,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン繰り返し単位が88mol%、塩化ビニル繰り返し単位が12mol%)91.3質量部、1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(東京化成工業株式会社(TCI)製、表中「P-1」と記す)0.7質量部、アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株)製、表中「ATBC」と記す)5.0質量部、エポキシ化大豆油(ニューサイザー510R、日本油脂(株)製、表中「ESO」と記す)1.5質量部を、ヘンシェルミキサーにて5分間混合した。混合後、24時間以上熟成して組成物を得た。
【0091】
得られた組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイから溶融押出してソック(管状のフィルム)を形成した。この際、環状ダイのスリット出口における溶融樹脂温度(溶融押出温度)は170℃になるように押出機の加熱条件を調節し、環状に10kg/時間の押出速度で押出した。
【0092】
ソックをソック液及び冷水槽で冷却した後、パリソンを開口してバブルを形成し、インフレーション延伸を行った。この際、MD方向は平均延伸速度0.11倍/秒で4.1倍に延伸し、TD方向は平均延伸速度3.5倍/秒で5.8倍に延伸して、筒状フィルム(バブル)を形成した。
【0093】
得られた筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んだ後、ピンチロールと巻き取りロールの速度比の制御によって、MD方向にフィルムを10%緩和させ、折幅280mmの2枚重ねのフィルムを巻取速度18m/分にて巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径92mmの紙管に巻き直した。その後、17℃で保管し、外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルム巻回体を得た。得られたラップフィルム巻回体を用いて上記方法により各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2~4及び比較例1、2]
各添加剤の種類及び量を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてラップフィルムの巻回体を作製し、上記方法により各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のラップフィルムは、例えば、巻回体とした場合の表面に切れ傷が発生しにくく、初引出時に裂けが生じにくく有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 押出機
2 ダイ
3 ダイ口
4 ソック(管状のフィルム)
5 ソック液(インフレーション成形用剥離剤)
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻き取りロール
14 化粧箱
15 フィルム切断刃
16 巻回体
17 ラップフィルム
図1
図2