(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075792
(43)【公開日】2024-06-04
(54)【発明の名称】輸液バッグ
(51)【国際特許分類】
A61J 1/10 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
A61J1/10 331A
A61J1/10 331C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060692
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2021503595の分割
【原出願日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】18189930.3
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509063694
【氏名又は名称】フレゼニウス カービ ドイチュラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ブランデンブルガー, トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ホイエル-ヘーメン, ベアトリクス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶着継ぎ目の領域に高い可撓性を有し、溶着継ぎ目が引き裂かれることがない多層PPフィルムで作製された輸液バッグを提供する。
【解決手段】互いに溶着された複数の層を備えるフィルム8で作られ、溶着継ぎ目6、7を有し、薬液で満たされた輸液バッグ1であって、多層フィルムは、マトリックス相ポリマー系の内層と、中間層と、外層とを有する。内層、中間層及び外層のマトリックスポリマーは、ポリプロピレンポリマー(PP)を含み、内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含む。該フィルムは、中間層のSEBSが、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EB
M)を有し、外層のSEBSが、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EB
A)を有し、S/EB
A>S/EB
Mであることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液バッグ(1)として設計された医療用パッケージであって、互いに溶着された複数の層を備えるフィルム(8)で作製され、少なくとも1つの溶着継ぎ目(6、7)を有し、薬液で満たされており、
前記多層フィルム(8)は、マトリックス相ポリマー系で作製される少なくとも1つの内層(9c)と、マトリックス相ポリマー系で作製される中間層(9b)と、マトリックス相ポリマー系で作製される外層(9a)とを有し、
前記内層(9c)の前記マトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、70重量%~90重量%の範囲の重量割合GIMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
前記内層(9c)の前記マトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、10重量%~30重量%の範囲の重量割合GIPでスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
前記中間層(9b)の前記マトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、40重量%~60重量%の範囲の重量割合GMMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
前記中間層(9b)の前記マトリックス相ポリマー系の相ポリマーの重量割合GMPは、40重量%~60重量%の範囲であり、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
前記外層(9a)の前記マトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、75重量%~95重量%の範囲の重量割合GAMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
前記外層(9a)の前記マトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、5重量%~25重量%の範囲の相ポリマーの重量割合GAPでスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
前記中間層(9b)の前記スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBMを有し、前記外層(9a)の前記スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBAを有し、S/EBA>S/EBMである、輸液バッグとして設計された医療用パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液バッグとして設計された医療用パッケージに関し、該医療用パッケージは、互いに溶着された複数の層を備えたフィルムから作製されており、輸液又は非経口栄養のための薬液で満たされている。
【背景技術】
【0002】
互いに溶着された複数の層を備えたフィルムからなる輸液バッグが知られている。それらの輸液バッグは、互いに直接溶着されたフィルムからなり、少なくとも1つの導出ポートを含む。輸液バッグの要件は高度である。そのため、輸液バッグは、機械的負荷にかなりの程度耐えなければならない。同時に、この目的のために使用されるフィルムには汚染物質があってはならない。一般に、典型的には121℃の温度の加熱殺菌に輸液バッグを供することができるという要件もある。
【0003】
数あるなかでも、PVCフィルムが使用される。しかしながら、PP(ポリプロピレン)の多層フィルムが特に適している。引き裂き抵抗は、特に、PPの異なる層により、すなわち、多層PPフィルムを提供することにより高めることができる。多層可撓性フィルムで作製された輸液バッグは、フィルムが機械的負荷の場合に撓むことができるため、フィルムの引き裂きに関して高い機械的安定性を有する。しかしながら、そうすると、可撓性フィルムの場合、溶着継ぎ目の領域で高い機械的安定性を確保することはより困難である。
【0004】
また、マトリックス相ポリマー系を提供することで、PPフィルムの機械的特性を改善することができることも知られている。この場合、熱可塑性エラストマーをPPマトリックス等に分布させことができる。これにより、材料の衝撃強度が向上して、多層複合材料の引き裂き抵抗が改善する。
【0005】
例えば、特許文献1(Fresenius AG)は、多層PPフィルムを提示する。このフィルムの層は、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)又はスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)を含み得る。このようにして、衝撃荷重及び引張荷重の場合の安定性を改善することができる。SEBSを含む多層PPフィルムは、特許文献2及び特許文献3の2つの特許出願にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,783,269号
【特許文献2】国際公開第2011/128185号
【特許文献3】韓国特許出願公開第2003 046120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底にある目的は、ポリプロピレンをベースにした輸液バッグとして設計された医療用パッケージの機械的特性を改善することとである。
【0008】
特に、本発明の目的は、多層PPフィルムで作製された輸液バッグを提供することであり、該フィルムは溶着継ぎ目の領域に高い可撓性を有し、溶着継ぎ目が引き裂かれることがない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、請求項1に記載される輸液バッグとして設計された医療用パッケージによって既に達成されている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態は、従属項の主題、明細書及び図面から推論することができる。
【0011】
本発明は、概して、輸液バッグとして設計された医療用パッケージであって、互いに溶着された複数の層を備えるフィルムで作製され、少なくとも一つの溶着継ぎ目、好ましくは縦方向及び横方向の溶着継ぎ目を有し、薬液で満たされており、
多層フィルムはマトリックス相ポリマー系の少なくとも1つの内層と、マトリックス相ポリマー系の中間層と、マトリックス相ポリマー系の外層とを有し、内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーはそれぞれ、ポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーはそれぞれ、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
中間層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EBM)を有し、外層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EBA)を有し、特にS/EBA>S/EBMである、医療用パッケージによって説明される。
【0012】
請求項1によれば、本発明は、輸液バッグとして設計された医療用パッケージであって、互いに溶着された複数の層を備えるフィルムで作製され、少なくとも1つの溶着継ぎ目を有し、薬液で満たされており、
多層フィルムは、マトリックス相ポリマー系の少なくとも1つの内層と、マトリックス相ポリマー系の中間層と、マトリックス相ポリマー系の外層とを有し、
内層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、70重量%~90重量%の範囲の重量割合GIMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
内層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、10重量%~30重量%の範囲の重量割合GIPでスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
中間層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、40重量%~60重量%の範囲の重量割合GMMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
中間層(9b)のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーの重量割合GMPは、40重量%~60重量%の範囲であり、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
外層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、75重量%~95重量%の範囲の重量割合GAMでポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、5重量%~25重量%の範囲の相ポリマーの重量割合GAPでスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、中間層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EBM)を有し、外層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比(S/EBA)を有し、
S/EBA>S/EBMである、医療用パッケージによって説明される。
【0013】
輸液バッグとして設計された医療用パッケージは、互いに溶着された複数の層を備えるフィルムで作製されており、少なくとも1つの溶着継ぎ目、好ましくは少なくとも1つの縦方向及び少なくとも1つの横方向の溶着継ぎ目を有し、それらの継ぎ目に沿って2つの多層フィルムが互いに溶着されている。
【0014】
特に、パッケージは、2つの縦方向の溶着継ぎ目と、2つの横方向の溶着継ぎ目とを備える。
【0015】
さらに、輸液バッグとして設計されたパッケージは、薬液を導出するための少なくとも1つのポートを更に備えることができる。ポートは、特に、その下部が溶着継ぎ目又は溶着継ぎ目の1つ、特に横方向の溶着継ぎ目に溶着されている。ポートの下部を、例えばシャトルの形状に作ることができる。ポートは、特に封止要素が配置されているコネクタの一部であり得る。例えば、針、スパイク又はルアーロックコネクタをコネクタに接続することができる。
【0016】
医療用パッケージは、ラック又は点滴スタンドに取り付けるためのハンガーを更に備えることもできる。ハンガーを、特に、ポートの反対側の横方向の溶着継ぎ目の凹部又はくぼみとして設計することができる。
【0017】
本発明によるパッケージは、薬液で、例えば生理食塩水で満たされる。パッケージは、好ましくは、特にチャンバー当たり、50ml~1000mlの貯蔵容量を備える。
【0018】
パッケージに使用される多層フィルムは、ポリプロピレンをベースにしたフィルムである。これは、ポリプロピレンを主成分として含むフィルムであり、特に、後述するように、PPマトリックスを形成する。フィルムは好ましくはPVCを含まない。
【0019】
多層フィルムは、少なくとも3つ、好ましくは正確に3つの層を有する。層は、物質的な結合様式(materially-bonded manner)で互いに接合されている。これらの層は、特に高温状態で共押出しを行ってつなぎ合わせることにより、互いに接合されている。
【0020】
多層フィルムは、マトリックス相ポリマー系で作製された少なくとも1つの内層と、マトリックス相ポリマー系で作製された中間層と、マトリックス相ポリマー系で作製された外層とを備える。
【0021】
内層は薬液と接触している。外層は、輸液バッグとして設計された医療用パッケージの表面となる。
【0022】
マトリックス相ポリマー系の場合、少なくとも2つの異なるポリマーが存在し、一方のポリマーが分離されて、特に分散分布したリジッドドロップ(rigid drop)として、他のポリマーのマトリックス中に存在する。
【0023】
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、それぞれポリプロピレンポリマーを含む。マトリックスは、特にポリプロピレンからなる。
【0024】
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーはそれぞれ、相ポリマーとして少なくとも1つのスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含む。
【0025】
SEBSは、スチレン部分と、ブチレン部分と、エチレン部分とで構成され、スチレン基が隣接する水素化ブタジエン部分を含む、ブロックコポリマーである。これは特に、スチレン及びブタジエンのモノマーの重合、及び予め重合されたSBSのその後の水素化によって生成される。水素化(hydrated)ブタジエンは、スチレンブロック間に軟質の中間ブロックを形成する。SEBSは、PPマトリックスポリマーと良好に結合する。
【0026】
中間層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBMを有する。外層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBAを有する。スチレン-エチレン/ブチレン比は、それぞれの場合で、スチレンの重量割合をエチレンとブチレンとの和の重量割合で割ったものである。
【0027】
エチレンとブチレンとの和に対するスチレンの重量比は、重合に使用されるスチレン及びブタジエンのモノマーの重量を求めることによって求められ得る。重合後、UV分光法を用いてスチレンの含有量を求めることができる。サンプルを抽出して溶解した後、UV分光器で測定を行うことができる。結合したスチレンの割合は、検量線を使用して、スチレン成分に割り当てられた吸収波長でのピーク吸収によって計算される。
【0028】
本発明によれば、S/EBA>S/EBMである。そのため、中間層は、外層よりも高いブチレン/エチレンの割合を有する。
【0029】
このようにして、多層フィルムの機械的特性は、特に溶着継ぎ目の領域における多層フィルムの伸長の場合に、顕著に改善され得ることが示された。
【0030】
特に、滅菌多層フィルムの場合、溶着継ぎ目の領域でフィルムを断裂することなく、その溶着継ぎ目、好ましくはその縦方向の溶着継ぎ目の領域で、その長さの少なくとも150%、好ましくは少なくとも200%まで伸長することも可能であった。
【0031】
滅菌していない無溶着の多層フィルム単独の最大伸長(DIN EN ISO 527(バージョン2012-06)による破断伸び)は、好ましくは500%超、特に好ましくは600%超及び/又は800%未満である。滅菌していない多層フィルム単独の引張強度は、好ましくは20N/mm2超及び/又は40N/mm2未満である。
【0032】
多層の滅菌していないフィルムは、測定可能な降伏強度を有する。降伏強度(DIN EN ISO 527に従って測定)は、好ましくは5N/mm2超、特に好ましくは6N/mm2超及び/又は15N/mm2未満である。降伏強度に達した際の伸びは、好ましくは10%超、特に好ましくは15%超及び/又は30%未満である。
【0033】
加熱殺菌後、輸液バッグとして設計されたパッケージのフィルムに対して降伏強度を求めることはできない。滅菌多層フィルム単独の最大伸び(DIN EN ISO 527(バージョン2012-06)による破断伸び)は、好ましくは400%超、特に好ましくは500%超及び/又は700%未満である。滅菌多層フィルムの引張強度は、好ましくは20N/mm2超及び/又は40N/mm2未満である。滅菌バッグに対する改善された機械的特性は、室温及び4℃までの低温のいずれでも現れる。
【0034】
中間層の軟質の材料に加えて、PPマトリックス内のSEBSの分布は、理論に拘束されるものではないが、改善された機械的特性を担う可能性がある。
【0035】
本発明の一実施の形態の場合、内層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマーは、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBIを有し、S/EBI>S/EBMである。そのため、中間層に比べて低いブチレン/エチレン割合を有する内層も提供される。
【0036】
本発明の一実施の形態によれば、S/EBA>1.2S/EBM、好ましくはS/EBA>1.5S/EBM、及び/又はS/EBI>1.2S/EBM、好ましくはS/EBI>1.5S/EBM、及び/又はS/EBI=S/EBAである。好ましくは、S/EBA<2.0S/EBM及び/又はS/EBI<2.0S/EBMである。
【0037】
中間層に使用されるSEBSは、内層及び/又は外層に使用されるSEBSよりも軟質であることが好ましい。特に、中間層又は中間層のSEBSは、ショア硬度A(DIN EN ISO 868(バージョン2003-10)及びDIN ISO 7619-1(バージョン2012-02)に従って測定)50未満、好ましくは45未満及び/又は30超を有する。
【0038】
内層及び/又は外層に使用されるSEBSは、55超、好ましくは62超及び/又は80未満のショア硬度Aを有し得る。
【0039】
中間層の比S/EBMは、本発明の一実施の形態の場合、0.16未満、好ましくは0.14未満及び/又は0.10超、好ましくは0.13超である。例えば、かかる特性を有するSEBSポリマーは、例えば、Asahi Tuftec(商標)H1221という商品表示で入手可能である。
【0040】
内層のS/EB比及び/又は外層のS/EBA比は、本発明の一実施の形態の場合、0.18超、好ましくは0.20超及び/又は0.28未満、好ましくは0.24未満である。例えば、かかる特性を有するSEBSポリマーは、Asahi Tuftec(商標)H1062という商品表示で入手可能である。
【0041】
本発明の更なる発展形態の場合、中間層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーは、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)も含む。
【0042】
特に、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)が重量割合GMP1で提供され、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)が重量割合GMP2で提供され、GMP1>3GMP2及び/又はGMP1<5GMP2である。
【0043】
中間層のマトリックスポリマーは、本発明の更なる実施の形態によれば、ポリプロピレンランダムコポリマーである。このポリプロピレンランダムコポリマーは、ブチレン/エチレンの割合が高い、使用されるSEBSと良好に結合し、軟質の中間層に寄与する。
【0044】
一実施の形態によれば、マトリックスポリマーは、中間層では、相ポリマーのGMP又は相ポリマーのGMP1+2の重量割合に実質的に対応する重量割合GMMを有する。特に、GMM=0.9~1.1*GMP1+2又はGMM=0.9~1.1*GMPである。GMPは、特にGMP1とGMP2との和である。
【0045】
外層のマトリックスポリマーは、本発明の一実施の形態によれば、PPランダムコポリマーではなく、むしろポリプロピレンホモポリマーである。このようにして、固定された、レイヤーパケットの外層が達成される。
【0046】
外層に使用されるポリプロピレンの軟化温度(ビカット軟化温度A/50/N)は、好ましくは中間層及び/又は内層に使用されるポリプロピレンよりも高い。特に、外層のポリプロピレンは、中間層のポリプロピレンよりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも15℃高い軟化温度を有する。
【0047】
外層のPPのビカット軟化温度A/50/Nは、好ましくは140℃超、特に好ましくは150℃超及び/又は170℃未満(DIN EN ISO 306(バージョン2014-03)に従って測定)である。
【0048】
本発明によるフィルムは、加熱滅菌の場合、特にオートクレーブの場合に良好な溶着性及び良好な抵抗性を提示する。
【0049】
外層に使用されるPPポリマーは、好ましくは、少なくとも中間層に使用されるPPポリマーよりも硬い。本発明の一実施の形態によれば、外層に使用されるPPポリマーは、55MPa超、好ましくは60MPa超及び/又は80MPa未満のボールインプレッション(ball impression)硬度H358/30(DIN 53 505(バージョン2000-08)/ISO 2039(バージョン2003-06)による)を有する。中間層及び/又は内層に使用されるPPは、60MPa未満、好ましくは50未満及び/又は35MPa超のボールインプレッション硬度H358/30を有し得る。
【0050】
外層において、マトリックスポリマーは、好ましくは重量割合GAMを有し、相ポリマーは重量割合GAPを有し、GAM>4GAPである。
【0051】
本発明の一実施の形態によれば、内層において、マトリックスポリマーは重量割合GIMを有し、相ポリマーは重量割合GIPを有し、GIM>3GIPである。特に、内層では、マトリックスポリマーの重量割合GIMは70重量%~90重量%の範囲であり、相ポリマーの重量割合GIPは10重量%~30重量%の範囲である。
【0052】
内層のマトリックスポリマーは、好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーでもある。
【0053】
外層において、マトリックスポリマーは、重量割合GAMを有し、相ポリマーは重量割合GAPを有し、好ましくはGAM>4GAPである。
【0054】
外層では、マトリックスポリマーの重量割合GAMは、好ましくは75重量%~95重量%の範囲であり、相ポリマーの重量割合GAPは5重量%~25重量%の範囲である。
【0055】
中間層における相ポリマーの重量割合GMP1+2は、外層における相ポリマーの重量割合GAPと比較して高く、GMP1+2>3GAP及び/又はGMP1+2<5GAPであることが好ましい。
【0056】
中間層では、マトリックスポリマーの重量割合GMMは、好ましくは40重量%~60重量%の範囲であり、及び/又は相ポリマーの重量割合GMP若しくは相ポリマーの重量割合GMP1+2は40重量%~60重量%の範囲である。一実施の形態では、GMPは、好ましくは少なくともGMP1及びGMP2で構成される。
【0057】
特に、中間層では、相ポリマーとしてのスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)の重量割合GMP1は、30重量%~55重量%の範囲であり、及び/又は更なる相ポリマーとしてのスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)の重量割合GMP2は0重量%以上~20重量%の範囲である。
【0058】
本発明の一実施の形態によれば、内層が厚さDIを有し、中間層が厚さDMを有し、外層が厚さDAを有し、4DI<DM<5DA及び/又は4DA<DM<5DIである。
【0059】
パッケージに使用される多層フィルムは、好ましくは150μm超、特に好ましくは180μm超及び/又は250μm未満、特に好ましくは220μm未満の総厚みを有する。
【0060】
多層フィルムの内層及び/又は外層は、好ましくは15μm超、特に好ましくは25μm超及び/又は45μm未満、特に好ましくは35μm未満の厚みを有する。
【0061】
中間層は、好ましくは100μm超、特に好ましくは120μm超及び/又は170μm未満、特に好ましくは150μm未満、特に125μm~145μmの厚みを有する。
【0062】
本発明によれば、医療用パッケージは、薬液で満たされた輸液バッグとして設計される。薬液は、医療目的で使用され、ここでは、好ましくは静脈内に投与される液体である。したがって、好ましい実施の形態では、薬液は輸液である。かかる輸液の可能性のある例として、以下が挙げられる:
滅菌水;
生理食塩水、特にNaCl-、KCl-、CaCl-及び/又はMgを含む溶液;
糖を含む溶液、特にグルコース溶液;
非経口栄養のための栄養素、特に脂質、アミノ酸及び/又はグルコースを含む溶液、エマルション及び/又は懸濁液;
コロイド溶液、特に血液補充療法のためのコロイド溶液(例えば、Voluven(商標));及び/又は;
有効成分、例えばパラセタモールが既に薬液に添加されているいわゆるプレミックスシステム。
【0063】
医療用パッケージに薬液を充填した輸液バッグとして設計された医療用パッケージは、医薬品としても指定され得る。
【0064】
輸液バッグとして設計された医療用パッケージは、好ましくは50ml~1000mlの貯蔵容量を有する。
【0065】
輸液バッグが、例えばマルチチャンバーバッグとして設計されている場合であれば、輸液バッグは、3000mlまでの総貯蔵容量を備えることもできる。そのため、1つの例示的な実施の形態によれば、輸液バッグを非経口栄養のための3チャンバーバッグとして構成することができる。それぞれの場合で各チャンバーは、構成成分(脂質、アミノ酸又はグルコース)を含む。3つのチャンバーを、まず、例えば、内側の裂けやすい継ぎ目によって、互いに分離しなければならない。栄養組成物を適用する前に、これらの内側の分離継ぎ目を引き裂いて、構成成分を一緒に混合しなければならない。
【0066】
本明細書において上で言及される輸液バッグとして設計された医療用パッケージの特徴は、該医療用パッケージが、互いに溶着された複数の層を備えたフィルムで作製されており、少なくとも1つの溶着継ぎ目を有し、薬液で満たされていることであり、特許請求の範囲に記載される特徴は、以下に記載される溶着可能なフィルム及び/又は以下に記載される溶着法の特徴でもある。
【0067】
本発明を、溶着可能なフィルム、特に、上に記載され、輸液バッグとして設計されている医療用パッケージのための溶着可能なフィルムによって説明することもできる。フィルムは多層フィルムであり、該多層フィルムは、マトリックス相ポリマー系で作製された少なくとも1つの内層と、マトリックス相ポリマー系で作製された中間層と、マトリックス相ポリマー系で作製された外層とを有し、
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、それぞれポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーはそれぞれ、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
中間層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBMを有し、外層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBAを有し、S/EBA>S/EBMであることを特徴とする。
【0068】
フィルムは、輸液バッグとして設計され、多層フィルムで作製される医療用パッケージを製造するために、溶着法を用いて、例えばインパルス溶着法を用いて加工され、
多層フィルムは、マトリックス相ポリマー系で作製された少なくとも1つの内層と、マトリックス相ポリマー系で作製された中間層と、マトリックス相ポリマー系で作製された外層とを有し、
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系のマトリックスポリマーは、それぞれポリプロピレンポリマー(PP)を含み、
内層、中間層及び外層のマトリックス相ポリマー系の相ポリマーはそれぞれ、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を含み、
中間層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBMを有し、外層のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)は、スチレン-エチレン/ブチレン比S/EBAを有し、S/EBA>S/EBMであることを特徴とする。
【0069】
多層PPフィルムで作製された改良されたパッケージが、本発明によって提供され得る。該フィルムは、溶着継ぎ目の領域に高い伸長性を有し、溶着継ぎ目が引き裂かれることがなく、溶着継ぎ目の領域で断裂が生じることもない。
【0070】
多層フィルムのPPの割合は、好ましくは55重量%超、特に好ましくは60重量%超及び/又は70重量%未満、特に好ましくは65重量%未満である。
【0071】
本発明の主題は、
図1および
図2に基づいて概略的に表現された例示的な実施形態を参照して、以下に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】輸液バッグとして設計された医療用パッケージを示す図である。
【
図2】輸液バッグに使用される多層PPフィルムの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1は、輸液バッグ1として設計された医療用パッケージを示す。
【0074】
輸液バッグ1は、互いに溶着された2つの多層フィルム8からなる。多層フィルム8は、縦方向の溶着継ぎ目7及び横方向の溶着継ぎ目6を介して互いに接合されてバッグが形成され、薬液で満たされている。バッグ1は、ここではシングルチャンバーバッグである。
【0075】
多層フィルム8は、例えば、インパルス溶着法によって互いに接合されている。この場合、フィルム8は、封止帯の間にクランプされたフィルムが少なくともセクションで溶融されて溶着されるように、一時的に加熱されている封止帯によって、フィルムと接触する加熱可能な封止帯を備えた溶着用具により溶着される。インパルス溶着法は、例えば、公開済みの特許出願である欧州特許出願公開第0 911 141号(Fresenius Medical Care Deutschland GmbH)において説明されている。
【0076】
輸液バッグ1は、少なくとも1つのポートを備え、この例示的な実施形態では、2つのポート2a、3aのうち1つのポート2aは、例えば、医薬を投与するために、液体を充填する役割を果たし、別のポート3aは薬液を導出する。
【0077】
ポート2a、3aは、この例示的な実施形態において、溶着シャトル(weld-in shuttle)を備え、それによってポート2a、3aは横方向の溶着継ぎ目6の領域5に溶着される。
【0078】
ここで2つのポート2a及び3aは、それぞれコネクタ2及び3の下部を提供する。2つのコネクタ2及び3は、それぞれ言及される2つの下部2a及び3a、並びに上部2b及び3bによって形成される。上部2b、3bは、好ましくは下部2a、3a上に配置され、特にスナップオン(snapped-on)される。ポート2a、3a又はコネクタ2、3の通路をバッグ容量に溶着する封止要素(図中には表されない)は、好ましくは、それぞれの下部2a、3a及び上部2b、3bとの間に正ロック方式で封入される。上述の封止要素は、液体を導出するか又は供給するために、スパイク及び/又は更には針を用いて穿通することができる自己閉鎖、再封止可能なエラストマー要素である。スパイク及び/又は針を取り外した後、封止要素は自動的に閉じる。例えば、ポリイソプレンをエラストマー材料として使用することができる。コネクタ2、3の上部2b、3bはまた、それぞれの場合に、封止要素を覆うカバー、好ましくは易破断キャップ2c、3cを備える。したがって、それぞれの封止要素は、キャップ2c、3cを取り外すか切断した後にのみアクセス可能である。
【0079】
輸液バッグ1はまた、少なくとも1つのポート2a、3aと反対側に、輸液バッグを点滴スタンド又はラックに取り付けるためのハンガー4も備えている。ハンガー4を、横方向の溶着継ぎ目6にくぼみ又は打ち抜きスロットとして設計することができる。
【0080】
図2は、輸液バッグ1に使用される多層フィルム8の概略図である。
【0081】
フィルム8は、薬液と接触する内層9cと、中間層9bと、外層9aとからなる。フィルム8が溶着されると、層9a、9b、9cは溶融する。この場合、溶着継ぎ目の領域内の全ての材料は、インパルス溶着中に溶融状態に移行する。
【0082】
内層9c及び外層9aはそれぞれ25μm~45μmの厚さである。中間層9bは、125μm~145μmの厚さを有する。
【0083】
外層9aは、機械的特性を改善するためにSEBSを加えたPPホモポリマーからなる。PPホモポリマーの重量割合GAMは、82重量%~88重量%の範囲である。SEBSの重量割合GAPは、12重量%~18重量%の範囲である。
【0084】
内層9cは、機械的特性を改善するためにSEBSを加えたPPランダムコポリマーからなる。PPランダムコポリマーの重量割合GIMは、77重量%~83重量%の範囲である。SEBSの重量割合GIPは、17重量%~23重量%の範囲である。
【0085】
中間層9bは、少なくとも外層9aよりも軟質である。また、内層9cよりも軟質であることが好ましい。中間層9bは、外層9aのPPに比べて軟質のPPランダムコポリマーからなり、そこにSEBS及び任意にSISが加えられる。PPランダムコポリマーの重量割合GMMは、47重量%~53重量%の範囲である。SEBSの重量割合GMP1は、37重量%~43重量%の範囲である。第2の熱可塑性エラストマーSISの重量割合GMP2は、7重量%~13重量%の範囲である。熱可塑性エラストマー(すなわち、SEBS及び任意にSIS)の重量割合は、中間層9bにおいて、内層9c及び外層9aよりも高い。
【0086】
中間層9bのSEBSはまた、内層9c及び外層9a中SEBSよりもエチレン/ブチレンの重量割合が高い。中間層9bにおけるS/EBM比は12/88である。外層9a及び/又は内層9cにおけるS/EBA比は、対照的に、18/82である。
【0087】
このようにして、軟質の中間層9bは、内層9c及び外層9aに比べてより細かく分布したSEBSを備え、これは、特に落下試験の場合、輸液バッグの機械的特性を大幅に改善する。これらの改善された機械的特性は、室温及び4℃までの低温のいずれでも現れる。
【0088】
フィルム8は、個々の層9a~9cの共押出しによって製造される。
【0089】
輸液バッグ1の機械的特性は、特に溶着継ぎ目6、7の領域において及び幅広い温度範囲にわたって、本発明によって容易に改善され得る。
【符号の説明】
【0090】
1 輸液バッグ
2 添加剤又は薬剤を供給するためのコネクタ
2a コネクタの下部又はポート
2b コネクタの上部
2c 上部の切断部
3 薬液を導出するためのコネクタ
3a コネクタの下部又はポート
3b コネクタの上部
3c 上部の切断部
4 ハンガー
5 溶着シャトルの領域
6 横方向の溶着継ぎ目
7 縦方向の溶着継ぎ目
8 フィルム
9a 外層
9b 中間層
9c 内層