IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-衝撃吸収部材 図1
  • 特開-衝撃吸収部材 図2
  • 特開-衝撃吸収部材 図3
  • 特開-衝撃吸収部材 図4
  • 特開-衝撃吸収部材 図5
  • 特開-衝撃吸収部材 図6
  • 特開-衝撃吸収部材 図7
  • 特開-衝撃吸収部材 図8
  • 特開-衝撃吸収部材 図9
  • 特開-衝撃吸収部材 図10
  • 特開-衝撃吸収部材 図11
  • 特開-衝撃吸収部材 図12
  • 特開-衝撃吸収部材 図13
  • 特開-衝撃吸収部材 図14
  • 特開-衝撃吸収部材 図15
  • 特開-衝撃吸収部材 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075795
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/12 20060101AFI20240529BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20240529BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240529BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240529BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240529BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240529BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
F16F7/12
B60J5/00 Q
F16F7/00 B
F16F7/00 J
F16F15/02 Z
B29C70/06
B29C70/42
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022629
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】淺田 佳晴
(72)【発明者】
【氏名】八木 穣
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
4F205
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AB01
3J048AC06
3J048AD05
3J048BC09
3J048BD03
3J048EA36
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC03
3J066BD05
3J066BF01
4F205AC03
4F205AD16
4F205AE07
4F205AG28
4F205AH17
4F205HA08
4F205HA35
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】衝撃を受けた場合に破壊されない延性材料を用いるとともに、該延性材料の形状剛性を確保することで、高い反力と仕事量を両立する衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】アウタービーム101とインナービーム102とを備えた衝撃吸収部材であって、前記インナービームは繊維強化プラスチックAであり、下記式を満たす衝撃吸収部材。Ba<Bb、R1×0.1<R2、ただし、Ba:インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み、Bb:アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み、R1:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、反力のピーク値、R2:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、撓み値がBa×2となるときの反力
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタービームとインナービームとを備えた衝撃吸収部材であって、
前記インナービームは繊維強化プラスチックAであり、
下記式を満たす衝撃吸収部材。
Ba<Bb
R1×0.1<R2
ただし、
Ba:インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
Bb:アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
R1:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、反力のピーク値
R2:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、撓み値がBa×2となるときの反力
【請求項2】
前記Baは100mm未満である、請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記インナービームは開断面形状を備える、請求項1又は2のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記インナービームは衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備える、請求項3に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記アウタービームは開断面形状を備え、前記アウタービームは前記インナービームの少なくとも一部を覆っている請求項3又は4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記アウタービームは衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備える、請求項5に記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
衝撃を受けたとき、前記インナービームの開断面が開く速度よりも、前記アウタービームの開断面が開く速度の方が大きい、請求項6に記載の衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記インナービームと前記アウタービームとの間に、隙間を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項9】
前記アウタービームは断面ハット形状であって、及び前記インナービームは断面略コ字状である、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項10】
前記インナービーム、及び前記アウタービームは、一対の側壁と、当該側壁を連結する連結壁を備えた、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項11】
衝撃吸収部材を長手方向に向けて断面観察したとき、前記インナービームの側壁と連結壁とのなす角αと、前記アウタービームの側壁と連結壁とのなす角βとの関係が、α<βを満たす、請求項10に記載の衝撃吸収部材。
【請求項12】
前記インナービームは連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項13】
前記インナービームに含まれる連続繊維は少なくともインナービームの長手方向に配向し、
前記アウタービームは連続繊維で補強された繊維強化プラスチックBであって、アウタービームの長手方向に対して、アウタービームに含まれる連続繊維の配向角度が+10度以上+80度以下である、請求項12に記載の衝撃吸収部材。
【請求項14】
前記アウタービーム及び前記インナービームは圧縮成形体である、請求項13に記載の衝撃吸収部材。
【請求項15】
前記インナービームは不連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項16】
前記アウタービームは金属である、請求項15に記載の衝撃吸収部材。
【請求項17】
前記衝撃吸収部材は、車両前後方向に延在する車両用の衝撃吸収部材である、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項18】
車幅方向における、前記アウタービームの長さL1と、前記インナービームの長さL2との関係が、
L1×0.5< L2 < L1×2
である、請求項17に記載の衝撃吸収部材。
【請求項19】
アウタービームとインナービームとを備えた衝撃吸収部材であって、
前記インナービームは繊維強化プラスチックAであり、
前記インナービーム、及び前記アウタービームは開断面形状を備え、前記アウタービームは前記インナービームの少なくとも一部を覆う、
衝撃吸収部材。
【請求項20】
前記インナービームと前記アウタービームとの間に、隙間を有する、請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタービームとインナービームとを備えた衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、輸送、航空宇宙、および物流ベースの産業における軽量化は、地上および航空輸送の両方でより燃料効率の高い車両を作るためにより重要となっている。特に、強化繊維と樹脂を含んだ材料は、機械物性に優れており、自動車等の構造部材として注目されている。
【0003】
特許文献1には、プラスチック材料部品に、該プラスチック材料部品のヤング率よりも低く、かつ破断時の伸び率が高い熱可塑性プラスチックの補強部材を取り付けた部品が開示されている。この構造により、通常使用時にはプラスチック材料部品が剛性を保持し、衝撃を受けた場合には、プラスチック材料部品は破断するものの補強部材は破断せずに部品間の連続性を保持している。
【0004】
特許文献2には、自動車の側面衝突から乗員を保護するための繊維強化樹脂が記載されている。塑性変形しにくい繊維強化樹脂は、変形すると急激に破断するため、可撓性を有する耐引張部材を繊維強化樹脂に取り付けることで、該耐引張部材を介してエネルギの分散が図っている。
【0005】
特許文献3には、自動車の燃費性能と衝突安全性を向上させるために、アウタパネルとレインフォースメントとの間を、発泡材で充填させることによって、衝撃荷重を荷重入力点からその周囲の閉断面部材に分散させることが検討されている。
【0006】
特許文献4には、車両用ドアのベルトライン部の剛性を向上させるために、アウタパネル部材とインナパネル部材とで形成された閉断面構造部が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2019-518657号公報
【特許文献2】実公平6-32415号公報
【特許文献3】特開2001-088740号公報
【特許文献4】特開2015-147473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1、2に記載の構造では、プラスチック材料部品や繊維強化樹脂が破断した後に、一定の反力を得ることが困難である。これは、破断後に延性を担保する材料が平板形状であるため、破壊後の形状剛性が低いことが原因である。
【0009】
特許文献3に記載の構造では、衝撃を受けたときに延性を確保するのが困難である。発泡材を混ぜ合わせて反力は向上するが、延性が不足しているため、曲げ撓み距離が短すぎる。
【0010】
特許文献4に記載の発明は、金属を用いているため、車体の軽量化が困難である。更に、インナービームに繊維強化プラスチックを用いた場合には、アウタービームに比べて高さ(長さ)が高すぎるため、剛性が高すぎて応力が大きくなり、破断しやすい。
【0011】
そこで本発明の目的は、衝撃を受けた場合に破壊されない延性材料を用いるとともに、該延性材料の形状剛性を確保することで、高い反力と仕事量を両立する衝撃吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
1.アウタービームとインナービームとを備えた衝撃吸収部材であって、
前記インナービームは繊維強化プラスチックAであり、
下記式を満たす衝撃吸収部材。
Ba<Bb
R1×0.1<R2
ただし、
Ba:インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
Bb:アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
R1:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、反力のピーク値
R2:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、撓み値がBa×2となるときの反力
【0013】
2.前記Baは100mm未満である、前記1に記載の衝撃吸収部材。
3.前記インナービームは開断面形状を備える、前記1又は2のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
4.前記インナービームは衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備える、前記3に記載の衝撃吸収部材。
5.前記アウタービームは開断面形状を備え、前記アウタービームは前記インナービームの少なくとも一部を覆っている前記3又は4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
6.前記アウタービームは衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備える、前記5に記載の衝撃吸収部材。
7.衝撃を受けたとき、前記インナービームの開断面が開く速度よりも、前記アウタービームの開断面が開く速度の方が大きい、前記6に記載の衝撃吸収部材。
8.前記インナービームと前記アウタービームとの間に、隙間を有する、前記1乃至7のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
9.前記アウタービームは断面ハット形状であって、及び前記インナービームは断面略コ字状である、前記5乃至8のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
10.前記インナービーム、及び前記アウタービームは、一対の側壁と、当該側壁を連結する連結壁を備えた、前記1乃至9のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
11.衝撃吸収部材を長手方向に向けて断面観察したとき、前記インナービームの側壁と連結壁とのなす角αと、前記アウタービームの側壁と連結壁とのなす角βとの関係が、α<βを満たす、前記10に記載の衝撃吸収部材。
12.前記インナービームは連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAである、前記1乃至11のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【0014】
13.前記インナービームに含まれる連続繊維は少なくともインナービームの長手方向に配向し、
前記アウタービームは連続繊維で補強された繊維強化プラスチックBであって、アウタービームの長手方向に対して、アウタービームに含まれる連続繊維の配向角度が+10度以上+80度以下である、前記12に記載の衝撃吸収部材。
14.前記アウタービーム及び前記インナービームは圧縮成形体である、前記13に記載の衝撃吸収部材。
15.前記インナービームは不連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAである、前記1乃至11のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
16.前記アウタービームは金属である、前記15に記載の衝撃吸収部材。
17.前記衝撃吸収部材は、車両前後方向に延在する車両用の衝撃吸収部材である、前記1乃至16のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【0015】
18.車幅方向における、前記アウタービームの長さL1と、前記インナービームの長さL2との関係が、
L1×0.5< L2 < L1×2
である、前記17に記載の衝撃吸収部材。
19.アウタービームとインナービームとを備えた衝撃吸収部材であって、
前記インナービームは繊維強化プラスチックAであり、
前記インナービーム、及び前記アウタービームは開断面形状を備え、前記アウタービームは前記インナービームの少なくとも一部を覆う、
衝撃吸収部材。
20.前記インナービームと前記アウタービームとの間に、隙間を有する、前記1に記載の衝撃吸収部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明の衝撃吸収部材は軽量であり、(i)インナービームを破壊させることで衝撃を受けた際の初期反力を高くして剛性を確保し、かつ(ii)形状剛性を有するアウタービームを破壊させないことで、衝撃後の撓みが拡大したときの延性と剛性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の衝撃吸収部材の一例を示す模式図。
図2】衝撃吸収部材を3点曲げ撓み試験した際の、変位(Displacement)と反力(Reaction force)の一例を示すグラフ。
図3】従来の衝撃吸収部材の一例を示す模式図。連続繊維は、ビームの長手方向及び長手方向に対して90度方向(0/90deg)に配向している。
図4図3に描かれた従来の衝撃吸収部材を、3点曲げ撓み試験した際の、変位(Displacement)と反力(Reaction force)の一例を示すグラフ。
図5】(a)連続繊維で補強されたアウタービーム(繊維強化プラスチックB)に含まれる繊維の配向方向を示す模式図。(b)連続繊維で補強されたインナービーム(繊維強化プラスチックA)に含まれる連続繊維の配向方向を示す模式図。
図6】(a)アウタービームの長手方向へ観察し、アウタービームの長さL1を示した模式図。(b)インナービームの長手方向へ観察し、インナービームの長さL2を示した模式図。
図7】アウタービームの3点曲げ撓み試験を示す模式図。
図8】インナービームの3点曲げ撓み試験の図面。
図9】衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験の図面。
図10】(a)アウタービームの長手方向へ観察し、アウタービームの側壁と連結壁とのなす角βを示す模式図。(b)インナービームの長手方向へ観察し、インナービームの側壁と連結壁とのなす角αをしめす模式図。
図11】インナービームとアウタービームの間にある隙間を示した模式図。
図12】衝撃吸収部材へ衝撃を受けた時に、インナービーム及びアウタービームの開断面が開く方向を示した模式図。
図13】アウタービームが、インナービームの一部を覆っていることを示した模式図。
図14】(a)アウタービームがインナービームを囲っていることを示した模式図。インナービームよりも内側まで、アウタービームが存在する。このとき、アウタービームが金属であることが好ましい。(b)(a)の部品を衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験するときの模式図。
図15】(a)アウタービームの締結孔を描いた模式図。(b)インナービームの締結孔を描いた模式図。(c)アウタービームの締結孔を描いた模式図(拡大図)。(d)インナービームの締結孔を描いた模式図。(e)アウタービームの内側にインナービームを配置し、締結孔を重ねた模式図。
図16】(a)アウタービームの具体的な寸法を説明するための模式図。(b)インナービームの具体的な寸法を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[インナービーム:繊維強化プラスチックA]
インナービームは繊維強化されており、繊維強化プラスチックAは樹脂と強化繊維を含む。繊維強化プラスチックAは、成形された成形体である。
【0019】
1.樹脂
繊維強化プラスチックAに含まれる樹脂の種類に特に限定は無く、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。
1.1 熱可塑性樹脂
繊維強化プラスチックAに含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂の場合、その種類は特に限定されるものではなく、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃~350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0020】
1.2 熱硬化性樹脂
繊維強化プラスチックAに含まれる樹脂として、熱硬化性樹脂を用いる場合、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系の樹脂であることが好ましい。樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
2.強化繊維
2.1 強化繊維の種類
繊維強化プラスチックAに含まれる連続繊維は強化繊維である。強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。強化繊維はガラス繊維であることがより好ましい。強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が大きいと樹脂の繊維への含浸性が容易となり、上限以下であれば成形性や加工性が良好となる。
【0022】
2.2 連続繊維
インナービームは連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAであっても良い。連続繊維は、織編物、ストランドの一方向配列シート状物及び多軸織物等のシート状、または不織布状でマトリクス樹脂中に含有されていることも好ましい。なお、多軸織物とは、一般に、一方向に引き揃えた繊維強化材の束をシート状にして角度を変えて積層したもの(多軸織物基材)を、ポリアミド糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物をいう。
【0023】
繊維強化プラスチックAに含まれる連続繊維の配向方向に特に限定は無く、複数方向へ配向していても良いが、一軸配向、又は二軸配向した連続繊維であることがより好ましく、二軸方向へ配向した連続繊維であることが更に好ましい。一軸配向した連続繊維とは、配向方向が一つのみであり、他の方向には配向していないことを意味する。二軸配向とは、繊維が繊維強化プラスチックAの面内で異なる二方向に配向していることをいう。
【0024】
本発明のインナービームに含まれる連続繊維は、少なくともインナービームの長手方向に配向していることが好ましく、インナービームの長手方向、及びインナービームの短手方向の2軸方向へ少なくとも配向しているとより好ましい。
【0025】
2.3 インナービームの長手方向と短手方向
インナービームの長手方向とは例えば図5のX軸方向である。インナービームが図5のように直線ではなく、曲線になっている場合は、インナービームの平面図を描いたとき、ビームの中央線を長手方向とする。平面図は、衝撃を受ける方向からインナービームを観察して描く。
【0026】
インナービームの短手方向とは、例えば図5のY軸方向であり、開断面形状(例えばハット形状又は断面略コ字形状)が開く方向である。インナービームが図5のように直線ではなく曲線になっている場合は、インナービームの平面図を描いたとき、ビームの中央線の中点において、中央線の接線に対して平面図面内の垂直方向を短手方向とする。
【0027】
インナービームの長手方向と、短手方向に連続繊維を配向することで、衝撃を受けた時の開断面の開き(ハットの開き、図12の矢印方向)を抑制できる。
【0028】
2.4 不連続繊維
インナービームは不連続繊維で強化された繊維強化プラスチックAであっても良い。不連続繊維を用いた場合、連続繊維のみを用いた場合に比べて賦形性が向上し、複雑な成形体を作成することが容易となる。この場合、強化繊維の重量平均繊維長は、1mm以上100mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は1mm~70mmがより好ましく、1mm~50mmがさらに好ましい。また、繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる不連続強化繊維は、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0029】
樹脂が熱硬化性樹脂であり、強化繊維が不連続繊維の場合、シートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を用いても良い。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、複雑形状であっても、容易に成形することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。
【0030】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、例えばWO2007/097436パンフレットに記載の不連続繊維からなる抄造シート、米国特許第8829103号公報、米国特許第9193840号公報、米国特許公開公報第2015/292145号、WO2012/105080パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットに記載のランダムマットや繊維強化複合材料など等に基づいて、繊維強化プラスチックBを得ることができる。
【0031】
3.繊維体積割合
繊維強化プラスチックAに含まれる連続繊維の繊維体積割合Vfに特に限定は無いが、10~60%が好ましく、30~60%がより好ましく、40~60%が更に好ましい。なお、繊維体積割合(Vf 単位:体積%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた全体の体積に対する強化繊維の体積の割合である。
【0032】
4.その他の剤
繊維強化プラスチックAには、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、無機充填剤、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、増粘剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤などを用いてもよい。添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、衝撃を吸収する役割として例えば、制振ゴム、エラストマー、或いはこれに類する素材のものを添加しても良い。
【0033】
[アウタービーム:金属]
アウタービームは金属であっても良い。金属とは、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、ステンレス、又はこれらの組み合わせ等あれば良い。
【0034】
[アウタービーム:繊維強化プラスチックB]
アウタービームは強化繊維で補強された繊維強化プラスチックBであって、繊維強化プラスチックBは樹脂と強化繊維を含むことが好ましい。繊維強化プラスチックBは、成形された成形体である。
【0035】
1.樹脂
繊維強化プラスチックBに含まれる樹脂の種類に特に限定は無く、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。
1.1 熱可塑性樹脂
繊維強化プラスチックBに含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂を用いる場合、その種類は特に限定されるものではなく、所望の軟化点又は融点を有するものを適宜選択して用いることができる。上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化点が180℃~350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0036】
1.2 熱硬化性樹脂
繊維強化プラスチックBに含まれる樹脂として、熱硬化性樹脂を用いる場合、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系の樹脂であることが好ましい。樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
2.強化繊維
2.1 強化繊維の種類
繊維強化プラスチックBに連続繊維が含まれる場合、これは強化繊維である。強化繊維に特に限定は無いが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であることが好ましい。強化繊維はガラス繊維であることがより好ましい。強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、ガラス繊維の平均繊維直径は、1μm~50μmが好ましく、5μm~20μmがより好ましい。平均繊維径が大きいと樹脂の繊維への含浸性が容易となり、上限以下であれば成形性や加工性が良好となる。
【0038】
2.2 連続繊維
繊維強化プラスチックBに連続繊維が含まれる場合、連続繊維は織編物、ストランドの一方向配列シート状物及び多軸織物等のシート状、または不織布状でマトリクス樹脂中に含有されていることも好ましい。なお、多軸織物とは、一般に、一方向に引き揃えた繊維強化材の束をシート状にして角度を変えて積層したもの(多軸織物基材)を、ポリアミド糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物をいう。
【0039】
繊維強化プラスチックBに含まれる連続繊維の配向方向に特に限定は無く、複数方向へ配向していても良いが、一軸配向、又は二軸配向した連続繊維であることがより好ましく、二軸方向へ配向した連続繊維であることが更に好ましい。一軸配向した連続繊維とは、配向方向が一つのみであり、他の方向には配向していないことを意味する。二軸配向とは、繊維が繊維強化プラスチックAの面内で異なる二方向に配向していることをいう。
【0040】
2.3 インナービームに含まれる連続繊維との配向関係
アウタービームが連続繊維で補強された繊維強化プラスチックBである場合、アウタービームの長手方向に対して、アウタービームの連続繊維の配向角度が+10度以上+80度以下であることが好ましい。アウタービームの連続繊維の配向角度は、例えば図5のθで示される。好ましい配向角度は+10度以上+45度以下であり、より好ましくは+15度以上45度以下であり、更に好ましくは+20度以上+45度以下である。アウタービームの長手方向に対して、アウタービームの連続繊維の配向角度が+10度以上+80度以下であれば、衝撃の応力を分散しやすい。分散することで局所応力を発生させにくい。
【0041】
アウタービームが連続繊維で補強された繊維強化プラスチックBである場合、連続繊維が2軸方向へ配向し、アウタービームの平面図を描いたとき、アウタービームの中央線に対して面対称に連続繊維が二軸方向へ配向していると好ましい(例えば図5(a))。このとき、それぞれの繊維が、アウタービームの長手方向に対して+10度以上+80度以下で配向していると良い。
【0042】
2.4 アウタービームの長手方向と短手方向
アウタービームの長手方向とは例えば図5のX軸方向である。アウタービームが図5のように直線ではなく、曲線になっている場合は、アウタービームの平面図を描いたとき、ビームの中央線を長手方向とする。平面図は、衝撃を受ける方向からアウタービームを観察して描く。
【0043】
アウタービームの短手方向とは、例えば図5のY軸方向であり、開断面形状(例えばハット形状又は断面略コ字形状)が開く方向である。アウタービームが図5のように直線ではなく、曲線になっている場合は、アウタービームの平面図を描いたとき、ビームの中央線の中点において、中央線の接線に対して平面図面内の垂直方向を短手方向とする。
【0044】
2.5 不連続繊維
繊維強化プラスチックBに含まれる強化繊維は不連続繊維を含でも良い。不連続繊維を用いた場合、連続繊維のみを用いた場合に比べて賦形性が向上し、複雑な成形体を作成することが容易となる。この場合、強化繊維の重量平均繊維長は、1mm以上100mm以下であることが好ましい。重量平均繊維長は1mm~70mmがより好ましく、1mm~50mmがさらに好ましい。また、繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる不連続強化繊維は、重量平均繊維長の分布において単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0045】
樹脂が熱硬化性樹脂であり、強化繊維が不連続繊維の場合、シートモールディングコンパウンド(SMCと呼ぶ場合がある)を用いても良い。シートモールディングコンパウンドはその成形性の高さから、複雑形状であっても、容易に成形することができる。シートモールディングコンパウンドは、流動性や賦形性が連続繊維に比べて高く、容易にリブやボスの作成ができる。
【0046】
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、例えば米国WO2007/097436パンフレットに記載の不連続繊維からなる抄造シート、米国特許第8829103号公報、米国特許第9193840号公報、米国特許公開公報第2015/292145号、WO2012/105080パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットに記載のランダムマットや繊維強化複合材料など等に基づいて、繊維強化プラスチックBを得ることができる。
【0047】
3.繊維体積割合
繊維強化プラスチックBに含まれる連続繊維の繊維体積割合Vfに特に限定は無いが、10~60%が好ましく、30~60%がより好ましく、40~60%が更に好ましい。なお、繊維体積割合(Vf 単位:体積%)とは、強化繊維とマトリクス樹脂だけではなく、その他の添加剤等も含めた全体の体積に対する強化繊維の体積の割合である。
【0048】
4.その他の剤
繊維強化プラスチックBには、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、無機充填剤、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、増粘剤、硬化剤、重合開始剤、重合禁止剤などを含有してもよい。添加剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、衝撃を吸収する役割として例えば、制振ゴム、エラストマー、或いはこれに類する素材のものを添加しても良い。
【0049】
[その他の材料]
繊維強化プラスチックA、及び繊維強化プラスチックB以外に、その他の材料を用いていても良い。その他のは繊維、コンポジット、スチール、アルミニウム、並びにこれらの組み合わせであっても良い。
【0050】
[衝撃吸収部材の形状]
本発明のアウタービームと、インナービームは下記式を満たすことにより、衝撃吸収部材となる。
Ba<Bb
R1×0.1<R2
ただし、
Ba:インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
Bb:アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み
R1:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、反力のピーク値
R2:衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、撓み値がBa×2となるときの反力
である。
【0051】
1.Ba<Bb
インナービームは高い初期反力を発現し(例えば図2の201)、衝突初期の衝撃を吸収する機能を保有する。Ba<Bbであれば、インナービームはアウタービームよりも先に破断する。すなわち、インナービームは衝突初期のエネルギー吸収により破断するが、アウタービームは変形を伴いながら、インナービームの破断以降の衝撃を吸収する(図2の203)。アウタービームは破断することなく、搭乗者の安全空間を確保できる。インナービームの破断点は、例えば図2の202で示される。横軸は曲げ撓み試験における変位を示し、撓み値の単位は、図2に示すようにmmであることが好ましい。
【0052】
インナービームは、衝撃を吸収して破壊されるが、アウタービームは搭乗者の安全空間の確保を優先し、インナービームとはとは逆に、衝突時に大変形しない設計となっている

衝撃吸収部材とは、衝撃を緩和させる緩衝部材とも呼べる。
Ba×1.1<Bbであればより好ましく、Ba×1.3<Bbであれば更に好ましく、Ba×1.4<Bbであるとより一層好ましい。
【0053】
2.R1×0.1<R2
R1×0.1<R2を満たすことにより、衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、インナービーム破壊後に撓み値がBa×2に達しても、アウタービームが破壊されないことを意味し、衝撃吸収部材が高い反力を維持していることを意味する。例えばBaの値が40mmの場合、衝撃吸収部材の反力R2の値は、衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験において、撓み値80mm(Ba×2)のときに測定する。
R1×0.2<R2であればより好ましく、R1×0.3<R2であれば更に好ましく、R1×0.4<R2であるとより一層好ましい。
反力R1、R2の単位は[N]であることが好ましい。
【0054】
[Ba:インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓み]
インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBaは、100mm未満であることが好ましい。100mm以下の破壊撓みであるインナービームであれば、高い初期反力を得ることが容易になる。「初期反力の高さ」と「100mm以上の破壊撓み」はトレードオフの関係にある。初期反力を高めた部品は、剛直になり延びることができず、局所応力が発生しやすくなって破断する。
【0055】
インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBaは、100mm未満がより好ましく、50mm未満が更に好ましく、40mm以下がより一層好ましい。
なお、インナービームとアウタービームの間に空間(例えば図11の1101)がある場合、衝撃を受けた時、衝撃吸収部材の撓みが100mmに達するときと、インナービームの撓みが100mmに達するときとは、空間分のズレは生じる。
【0056】
[インナービーム:開断面形状]
インナービームは開断面形状を備えているのが好ましく、衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備えるとより好ましい。
開断面形状とは断面が開いた形状のものであり、ハット形状、U字形状、V字形状などが挙げられ、例えば図1の長手方向(X方向)に観察したときの断面図で示される。インナービームの開断面形状は、断面略コ字状であることが好ましい。衝撃を受ける側はアウタービームの外側である(図1のZ側)。アウタービームと比べて、インナービームの開断面は開きにくいことが好ましい。言い換えると、衝撃を受けたとき、インナービームの開断面が開く速度よりも、アウタービームの開断面が開く速度の方が大きいことが好ましい。
【0057】
[アウタービーム:開断面形状]
アウタービームは開断面形状を備えているのが好ましく、衝撃を受ける側とは反対側に開口する開断面形状を備えているとより好ましい。
開断面形状とは断面が開いた形状のものであり、ハット形状、U字形状、V字形状などが挙げられ、例えば図1の長手方向(X方向)に観察したときの断面図で示される。アウタービームの開段面形状は、ハット形状であることが好ましい。衝撃を受ける側はアウタービームの外側である(図1のZ側)。
アウタービームが断面ハット形状であり、インナービームが断面略コ字状であれば、衝撃を受けたときにアウタービーム開断面(ハット)が開き、延性材料として働きやすくなる。
【0058】
[アウタービームはインナービームの少なくとも一部を覆う]
アウタービームは開断面形状を備え、アウタービームはインナービームの少なくとも一部を覆っていることが好ましい。例えば、図13は衝撃吸収部材を長手方向へ見た断面図であるが、アウタービームはインナービームの一部を覆っている。
また、図1に描かれているように、インナービームは完全にアウタービームに覆われていると、より好ましい。完全に覆われていれば、例えば衝撃吸収部材を自動車に搭載した場合、自動車設計の空間の利用効率が向上する。
【0059】
アウタービームは、その一部がインナービームよりも外側にあればよく、インナービームよりも内側にまで存在していても良い。特に、アウタービームが金属である場合、図14のようにインナービームを囲ってしまっても良く、衝撃吸収部材をドアに配置したときは、乗客側までアウタービームが存在しても良い。
なお、図1の衝撃吸収部材では、アウタービームはインナービームを囲っていない。
【0060】
[角αと角β]
インナービーム、及びアウタービームは、一対の側壁と、当該側壁を連結する連結壁を備えていることが好ましい。インナービームの側壁は図10の1004、連結壁は図10の1005で例示される。アウタービームの側壁は図10の1001、連結壁は図10の1002で例示される。図10の1002、1005で描かれる連結壁は、天面と呼ぶ場合もある。図10の1003、1006は、それぞれアウタービームのフランジ、インナービームのフランジと呼ぶ場合がある。
【0061】
衝撃吸収部材を長手方向に向けて断面観察したとき、インナービームの側壁と連結壁とのなす角αと、アウタービームの側壁と連結壁とのなす角βとの関係が、α<βを満たすことが好ましい。
【0062】
衝撃吸収部材を長手方向に向けて断面観察したとき、全ての断面でα<βを満たす必要はなく、α<βを満たす断面が1か所あれば良い。衝撃吸収部材を長手方向に向けて断面観察したとき、α<βを満たす断面が全体の50%以上であるとより好ましい。
α×1.01<βがより好ましく、α×1.1<βが更に好ましく、α×1.2<βがより一層好ましい。
【0063】
α<βであると、衝撃を受けたときに、アウタービームが図12の矢印方向に開きやすくなる。α<βとすることで、アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBbを、インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBaよりも大きく設計できやすい。更には、インナービームを破壊させやすくし、衝撃吸収部材の初期反力を高めやすい。
【0064】
言い換えると、衝撃を受けたとき、インナービームの開断面が開く速度よりも、アウタービームの開断面が開く速度の方が大きいことが好ましい。
【0065】
インナービーム、及びアウタービームが開断面形状を備えている場合、インナービームの開断面が開く速度よりも、アウタービームの開断面が開く速度を大きくするためには、インナービームの天面部と、アウタービームの天面部は接合されていないことが好ましい。同様に、インナービームのフランジ部と、アウタービームのフランジ部は接合されていないことが好ましい。インナービームのフランジ部と、アウタービームのフランジ部が接合されないことにより、衝撃を受けたときに各々が独立して開断面を開くことができる。言い換えると、アウタービームはインナービームからの干渉を受けずに、衝撃を受けたときに開断面を開くことができる。開断面が開くとは、図12の矢印方向にインナービームとアウタービームが開くことを意味する。
【0066】
更に、インナービームとアウタービームの天面やフランジ部の接合を省略することで、組み立て工数を削減できる。
【0067】
より具体的には、αは90度超えとすることが好ましく、91度以上であるとより好ましい。90度を超えることで、繊維強化プラスチックAを圧縮成形によって作成できるため、インナービームを作成しやすくなる。角度βは110度以上であることが好ましく、120度以上であることがより好ましく、130度以上であると更に好ましい。角度βが120度以上であれば、衝撃を受けたときに開断面(ハット)が開き、延性材料として働きやすくなる。
【0068】
[インナービームとアウタービームの接合]
インナービームの連結壁と、アウタービームの連結壁は、接触していても、接触していなくても良く、図11の1101のように隙間があっても良い。図11の1101のように隙間がある場合、インナービームの連結壁と、アウタービームの連結壁は接触していない。更に、アウタービームがインナービームに嵌合していないことが好ましい。アウタービームがインナービームに嵌合していないことによって、アウタービームが変形しやすくなり、延性向上という効果を生じる。
【0069】
言い換えると、図11の1101のように、インナービームとアウタービームの間に隙間を有することで、アウタービームは図12の矢印方向に開きやすくなる。
【0070】
衝撃吸収部材をドアに固定する際には、アウタービームとインナービームの末端を、それぞれドアに接合すれば良い。例えば図15の(a)(b)の1501で示される締結孔を重ね、図15(e)に描かれているように重ね合わせて、締結孔を用いて締結すると良い。
【0071】
[圧縮成形体]
繊維強化プラスチックAは圧縮成形体であることが好ましい。同様に、アウタービームが繊維強化プラスチックBである場合、圧縮成形体であることが好ましい。圧縮成形体は圧縮成形(プレス成形とも呼ぶ)によって製造された成形体を指す。それぞれの圧縮成形体は一体成形されたものが好ましく、一体成形とは、継ぎ目を有さずに連続的に成形されており、別体の部材同士を接合して成形したものではないことをいう。このような一体成形によって、一度の成形でアウタービーム又はインナービームが作成される。
【0072】
一体成形によって作成することで、別々の部品を1つの部品として加工することができ、部品単価を引き下げることが可能となる。また、組付け工程数が減少するし、部品数減少により在庫に係る費用の削減も可能である。
【0073】
圧縮成形(プレス成形)を利用する場合、ホットプレス成形やコールドプレス成形などの成形方法を利用できる。繊維強化プラスチックA又は繊維強化プラスチックBに含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合、とりわけコールドプレスを用いたプレス成形が好ましい。コールドプレス法は、例えば、第1の所定温度に加熱した複合材料を第2の所定温度に設定された成形型内に投入した後、加圧・冷却を行う。具体的には、熱可塑性樹脂が結晶性である場合、第1の所定温度は融点以上であり、第2の所定温度は融点未満である。熱可塑性樹脂が非晶性である場合、第1の所定温度はガラス転移温度以上であり、第2の所定温度はガラス転移温度未満である。なお、本明細書において、複合材料とは、成形して繊維強化プラスチックAや繊維強化プラスチックBなどの成形体を製造するための材料である。
【0074】
SMC(シートモールディングコンパウンド)を用いて繊維強化プラスチックA、又は繊維強化プラスチックBを製造する場合、プレス成形方法を用いる。すなわち、目的の成形品形状をなした上下分離可能な金型を準備し、成形型に強化繊維と樹脂とを含むSMCを所定量投入し、加熱加圧し、その後金型を開き目的の成形体を取り出す方法である。なお、成形温度、成形圧力はSMCに含まれる樹脂の種類や目的とする成形品の形状等にあわせて選択することができる。
【0075】
[用途]
衝撃吸収部材は、車両前後方向に延在する車両用の衝撃吸収部材であることが好ましく、自動車のドアに備え付けられていることがより好ましい。
【0076】
衝撃吸収部材が自動車のドアに備えられた場合、衝撃を受ける側とは、ドアの外側である。この場合、衝撃を受ける側とは反対側とは、自動車居住空間内に向かうという意味である。より具体的には、図1のz軸方向から衝撃を受ける。
【0077】
[車幅方向におけるL1とL2]
車幅方向における、前記アウタービームの長さL1と、前記インナービームの長さL2との関係が、L1×0.5<L2<L1×2であることが好ましい。
【0078】
より好ましい下限は、L1×0.7<L2であり、更に好ましい下限はL1×0.9<L2であり、より一層好ましい下限はL1×1.0<L2である。
【0079】
より好ましい上限は、L2<L1×1.8であり、更に好ましい上限はL2<L1×1.6であり、より一層好ましい上限はL2<L1×1.5である。
【実施例0080】
以下に発明の実施態様を説明するが、本発明はこれに限ったものではない。
1.複合材料(一方向性テープ)
DSM社製のEcoPaXX(登録商標)UDea PA410 CF60
樹脂:ポリアミド610
繊維:炭素繊維(繊維体積割合47%)
厚み:0.25mm
【0081】
2.インナービームとアウタービームの作成
2.1 インナービーム
上記DSM社製のEcoPaXX(登録商標)UDea PA410 CF60の複合材料(一方向性テープ)をカットして9枚積層し、プレス成形してインナービーム(繊維強化プラスチックA)を作成した。一方向性テープの繊維の配向角度は、表1に示すように積層した。表1の配向角度とは、インナービームとなったときの長手方向に対する連続繊維の配向角度である。
【0082】
【表1】
【0083】
2.2 アウタービーム
上記DSM社製のEcoPaXX(登録商標)UDea PA410 CF60の複合材料(一方向性テープ)をカットして22枚積層し、プレス成形してアウタービーム(繊維強化プラスチックB)を作成した。一方向性テープの繊維の配向角度は、表2に示すように積層した。表2の配向角度とは、アウタービームとなったときの長手方向に対する連続繊維の配向角度である。
【0084】
アウタービームの連続繊維は2軸方向へ配向し、アウタービームの長手方向に引いたアウタービームの中央線に対して、線対称に連続繊維が二軸方向へ配向している。
【0085】
【表2】
【0086】
3.図16に、衝撃吸収試験に利用したアウタービームとインナービームの寸法を示す。
【0087】
3.1 インナービーム
インナービームの長手方向長さ1605は1000mm、天面幅1606は30mm、フランジ幅1607は10mm、立ち面高さ1608は25mmとした。
厚みは1.8mmと均一厚みとした。複合材料(一方向性テープ)の厚みは0.25mmであるが、成形すると樹脂が流れて薄くなる。
【0088】
3.2 アウタービーム
長手方向長さ1601は1000mm、天面幅1602は50mm、フランジ幅1603は10mm、立ち面高さ1604は25mmとし、短手方向の長さ(天面幅+2つのフランジ幅+ハットの開き分)は100mmとした。
厚みは4.4mmの均一厚みとした。複合材料(一方向性テープ)の厚みは0.25mmであるが、成形すると樹脂が流れて薄くなる。
【0089】
3.3 角α、角β
インナービームの側壁と連結壁とのなす角αは90度であり、アウタービームの側壁と連結壁とのなす角βは120度である。
【0090】
4.衝撃吸収部材
アウタービームとインナービームとは、図15の1501に示す締結孔を用いて締結し、衝撃吸収部材を作成した。このとき、アウタービームとインナービームのフランジ部、天面部は接合しなかった。
【0091】
衝撃吸収部材は図1に描かれた形状であり、断面ハット形状のアウタービーム101が、断面略コ字状のインナービーム102に覆い被さっている。衝撃を受けるのは図1のアウタービームの天面であり、インナービーム、及びアウタービームの開断面は、衝撃を受ける側とは反対側に開口している。
【0092】
[3点曲げ撓み試験における破壊撓み]
上記得られた図1に描かれている衝撃吸収部材を3点曲げ撓み試験した。3点曲げ撓み試験における破壊撓みは、万能材料試験機(インストロン社製、インストロン5892)を使用し、3点曲げスパンが500mm(図7の701)、幅100mm(アウタービームの短手方向長さ)で試験した。試験片を室温下で速度2mm/minで3点曲げ撓み試験を行い、得られた応力-歪線図から破壊撓みを求めた。
【0093】
1.インナービームの3点曲げ撓み試験
インナービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBaは、40mmであった。
2.アウタービームの3点曲げ撓み試験
アウタービームの3点曲げ撓み試験における破壊撓みBbは、155mmであった。
3.衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験
衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、反力のピーク値R1は、21kNであり、衝撃吸収部材の3点曲げ撓み試験における、(撓み値がBa×2である)撓み80mmのときの反力R2は、8.5kNであった。結果を、図2に示す。
なお、図2の衝撃吸収部材のインナービームが破壊された撓み値は35mmであり、Baの値(40mm)よりも小さい値である。これは、インナービームがアウタービームに覆われたため、インナービームの中央部に応力が集中したためである。
【符号の説明】
【0094】
101:アウタービーム
102:インナービーム
201:初期反力
202:インナービームの破断点
203:アウタービームは破断することなく、衝撃を吸収している。
θ:アウタービームの連続繊維の配向角度
L1:車幅方向における、アウタービームの長さL1
L2:車幅方向における、インナービームの長さL2
701:3点曲げ撓み試験における支点間距離
801:3点曲げ撓み試験における支点間距離
901:3点曲げ撓み試験における支点間距離
1001:アウタービームの側壁
1002:アウタービームの連結壁
1003:アウタービームのフランジ
1004:インナービームの側壁
1005:インナービームの連結壁
1006:アウタービームのフランジ
α:インナービームの側壁と連結壁とのなす角
β:アウタービームの側壁と連結壁とのなす角
1101:インナービームとアウタービームの間にある隙間
1501:締結孔
1601:1000mm
1602:50mm
1603:10mm
1604:25mm
1605:1000mm
1606:30mm
1607:10mm
1608:25mm
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16