(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007580
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】抗ピロリ菌剤及びピロリ菌抑制用組成物並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/15 20060101AFI20240112BHJP
A61K 36/13 20060101ALI20240112BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61K36/15
A61K36/13
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108731
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】509136105
【氏名又は名称】株式会社 AEI INTER WORLD
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】横田 博
(72)【発明者】
【氏名】山口 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 景
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB03
4C088AC05
4C088BA08
4C088CA15
4C088NA14
4C088ZB35
(57)【要約】
【課題】従来、副産物として廃棄されていたマツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とし、植物由来であるため副作用が少なく日常的に摂取可能な抗ピロリ菌及びピロリ菌抑制用組成物、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】抗ピロリ菌剤は、マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする抗ピロリ菌剤。
【請求項2】
マツは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ及びハイマツからなる群より少なくとも1つ選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項3】
マツは、アカエゾマツである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の抗ピロリ菌剤。
【請求項4】
マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とするピロリ菌抑制用組成物。
【請求項5】
マツは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ及びハイマツからなる群より少なくとも1つ選択される、
ことを特徴とする請求項4に記載のピロリ菌抑制用組成物。
【請求項6】
マツは、アカエゾマツである、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のピロリ菌抑制用組成物。
【請求項7】
マツ及びイチイからなる群より少なくとも1つ選択される植物を蒸留することで、蒸留液を得る工程を含む、抗ピロリ菌剤の製造方法。
【請求項8】
マツ及びイチイからなる群より少なくとも1つ選択される植物を蒸留することで、蒸留液を得る工程を含む、ピロリ菌抑制用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ピロリ菌剤及びピロリ菌抑制用組成物並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Helicobacter pylori(H.pylori、ピロリ菌)は多くのヒトの胃に生存するグラム陰性桿菌であり、至適pHは7.0の中性である。髄鞘により保護されている鞭毛を使い胃粘膜下に潜り込み、プロテアーゼやエフェクター分子であるCagA(cytotoxin associated gene A)、細胞空胞化毒素VacA(vacuolating toxin A)などの病原因子を分泌し、胃粘膜を傷害することで急性胃炎を発症することが知られている。ピロリ菌感染により、慢性胃炎や消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)に進展することがあり、胃がんのリスクを高めることも知られている。
【0003】
ピロリ菌の除菌には、複数の薬剤を組み合わせて1週間程度、服用する治療法が一般的であるが、脱水や下痢の副作用が伴うことが知られている。
【0004】
そこで、副作用の軽減の観点から、食材を用いたピロリ菌の制御について、いくつか提案がなされてきた。
【0005】
食材によるピロリ菌の抗菌作用について、非特許文献1にはブロッコリースプラウト、非特許文献2にはコーヒー、非特許文献3には梅肉エキスに関する報告が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Akinori Y.,Fahey JW.,Atsushi F.,Mari N.,Souta I.,Songhua Z.,Masafumi T.,Hideo S.,Ichinosuke H.,Masayuki Y.(2009).Dietary sulforaphane-rich broccoli sprouts reduce colonization and attenuate gastritis in Helicobacter pylori-infected mice and humans.Cancer Prevention Research,2,353-360.
【非特許文献2】Yuki O.,Yukata Y.,Kayo Y.,Kazunori H.,Katsumi K.,Naoaki I.(2003).The antibacterial effects of coffee on Escherichia coli and Helicobacter pylori.J.Clin.Biochem.Nutr.,34,85-87.
【非特許文献3】Kimie F.,Miyuki H.,Mari F.,Intetsu K.,Kotaro O.,Yoshiaki W.(2002).Anti-Helicobacter pylori effects of bainiku-ekisu(concentrate of Japanese apricot juice).Nihon Shokakibyo Gakkai Zasshi.,99,379-385.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ピロリ菌は、胃がんの前段階の慢性胃炎や胃潰瘍の危険性を高め、特に日本ではピロリ菌の感染率の高いことが知られている。したがって、抗ピロリ菌作用を有する物質は依然として必要とされており、特に、日常的に摂取が可能な天然由来の新たな抗ピロリ菌剤の開発が待たれている状況にあった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来、副産物として廃棄されていたマツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とし、植物由来であるため副作用が少なく日常的に摂取可能な抗ピロリ菌剤及びピロリ菌抑制用組成物、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る抗ピロリ菌剤は、
マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。
【0010】
例えば、マツは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ及びハイマツからなる群より少なくとも1つ選択される。
【0011】
例えば、マツは、アカエゾマツである。
【0012】
本発明の第2の観点に係るピロリ菌抑制用組成物は、
マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。
【0013】
例えば、マツは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ及びハイマツからなる群より少なくとも1つ選択される。
【0014】
例えば、マツは、アカエゾマツである。
【0015】
本発明の第3の観点に係る抗ピロリ菌剤の製造方法は、
マツ及びイチイからなる群より少なくとも1つ選択される植物を蒸留することで、蒸留液を得る工程を含む。
【0016】
本発明の第4の観点に係るピロリ菌抑制用組成物の製造方法は、
マツ及びイチイからなる群より少なくとも1つ選択される植物を蒸留することで、蒸留液を得る工程を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来、副産物として廃棄されていたマツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とし、植物由来であるため副作用が少なく日常的に摂取可能な抗ピロリ菌剤及びピロリ菌抑制用組成物、並びにそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施例におけるH.pyloriの復元培養方法のスキーム図である。
【
図2】本実施例におけるマイクロプレート抗菌試験方法のスキーム図である。
【
図3】本実施例におけるアカエゾマツ蒸留液の抗ピロリ菌作用を示すグラフ図である。
【
図4】本実施例におけるマツ蒸留液及びイチイ蒸留液の抗ピロリ菌作用を示すグラフ図である。
【
図5】本実施例におけるアカエゾマツ蒸留液の分子量画分ごとの抗ピロリ菌作用を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1.抗ピロリ菌剤)
本発明による抗ピロリ菌剤は、マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。
【0020】
本発明で使用されるマツは、マツ科に属する樹木であれば特に制限なく採用され得る。例えば、マツ科トウヒ属の樹木としては、アカエゾマツ、トウヒ等が挙げられる。マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。マツ科マツ属の樹木としては、アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、ハイマツ等が挙げられる。マツ科カラマツ属の樹木としては、カラマツ等が挙げられる。マツ科ツガ属の樹木としては、ツガ等が挙げられる。なお、2又は3以上の異なる種類のマツを混合して使用してもよい。
【0021】
本発明で使用されるマツは、好ましくは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ、ハイマツからなる群から少なくとも1種が選択され、さらに好ましくは、アカエゾマツが使用される。
【0022】
本発明で使用されるイチイ(学名:Taxus cuspidata)は、イチイ科イチイ属に属する樹木であれば特に制限なく採用され得る。本発明において、イチイには、ver.Cuspidata(f.luteobaccata:キミノオンコ)及びver.Nana(キャラボク)(Aurescens:オウゴンキャラ)も含まれる。
【0023】
マツ及びイチイの使用部位については、枝、葉、幹、根、花、実等、マツ及びイチイのあらゆる部位を使用することができるが、好ましくは、マツ及びイチイの枝及び葉の部位が用いられる。
【0024】
マツ蒸留液とは、マツに蒸留処理を加えて得られる蒸留液であって、マツ精油(パイン油)ではない。マツの蒸留処理により、マツ精油及びマツ蒸留液が得られる。通常、マツ精油のほうが化粧品、香料等に使用され、マツ蒸留液は副産物として扱われ、利用されることはないが、本発明においては、従来廃棄されていたマツ蒸留液が用いられる。蒸留方法としては、例えば、水蒸気蒸留、常圧蒸留、低圧蒸留、減圧蒸留、分子蒸留、単蒸留、精留、連続蒸留、回分蒸留等が挙げられるが、好ましくは水蒸気蒸留である。水蒸気蒸留の方法として、より具体的には、例えば、マツを蒸留釜に仕込み、水を加えて加熱することによってマツの成分を気化させた蒸気を発生させ、当該蒸気を冷却管等に通過させることで当該蒸気を凝縮し、マツ精油(上層)及びマツ蒸留液(下層)を得る方法が挙げられる。
【0025】
イチイ蒸留液とは、上記同様にイチイに蒸留処理を加えて得られる蒸留液である。蒸留方法の詳細については上記同様である。
【0026】
マツ蒸留液の製造方法(水蒸気蒸留)について、アカエゾマツを例に挙げて説明する。アカエゾマツの枝葉をハサミで裁断し、粉砕した後、所定量の水を加え、公知の水蒸気蒸留装置に仕込み、数時間、加熱することによってアカエゾマツの成分を気化させた蒸気を発生させ、当該蒸気を冷却管等に通過させることで当該蒸気を凝縮し、マツ精油(上層)及びマツ蒸留液(下層)を得る。このうち、マツ蒸留液のほうを公知の方法により分離することで、アカエゾマツ蒸留液を得ることができる。
【0027】
本発明による抗ピロリ菌剤は、マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。本発明による抗ピロリ菌剤は、例えば、マツ蒸留液のみを含んでいてもよく、マツ蒸留液及びイチイ蒸留液の2種の混合液を含んでいてもよく、イチイ蒸留液のみを含んでいてもよい。
【0028】
本発明による抗ピロリ菌剤は、抗ピロリ菌活性を有することから、ピロリ菌の抑制・殺菌・除去に有効であり、ピロリ菌関連疾患(例えば、胃潰瘍、慢性胃炎、急性胃炎、十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫など)の予防又は治療に有用である。なお、本明細書において、疾患の「予防」には、該疾患の発症を抑制する又は遅延させ、またその再発を抑制することが含まれ、疾患の「治療」には、該疾患を完全に治療することの他、症状を緩和し、またその進行を抑制することも含まれる。本発明による抗ピロリ菌剤は、植物由来であるマツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分として含むため、副作用が少なく日常的に摂取可能であり、効果的にピロリ菌を抑制・殺菌・除去することができる。
【0029】
本発明による抗ピロリ菌剤は、ピロリ菌の抑制・殺菌・除去を必要とする対象、例えば、ヒト、チンパンジー、アカゲザルを含む霊長類、イヌ、ネコを含む愛玩動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジを含む家畜、マウス、ラット、ハムスター、モルモットを含むげっ歯類といった哺乳動物に投与される。好ましい対象は、ヒトである。
【0030】
本発明による抗ピロリ菌剤の投与方法は、経口投与、局所投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。投与剤型も任意であってよく、また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。これらの剤形は、有効成分を常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択でき、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0031】
本発明による抗ピロリ菌剤は、好ましくは、経口剤(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、チュアブル、トローチ等の固形製剤や、液剤、シロップ剤等の液体製剤)として用いられる。本発明による抗ピロリ菌剤を経口剤として日常的に摂取することで、効果的にピロリ菌を抑制・殺菌・除去することができる。
【0032】
本発明による抗ピロリ菌剤の投与量及び投与回数は、有効量が患者に投与されるように、ピロリ菌の感染状態、ピロリ菌関連疾患の状態、患者の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。
【0033】
(2.ピロリ菌抑制用組成物)
本発明によるピロリ菌抑制用組成物は、マツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分とする。マツ、イチイ、蒸留液等の詳細については、上記同様である。
【0034】
本発明で使用されるマツは、マツ科に属する樹木であれば特に制限なく採用され得るが、例えば、上記同様のマツの種類が挙げられる。好ましくは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ、ハイマツからなる群から少なくとも1種が選択され、さらに好ましくは、アカエゾマツが使用される。また、本発明で使用されるイチイは、上記同様である。各植物の使用部位については、上記同様である。
【0035】
本発明によるピロリ菌抑制用組成物は、抗ピロリ菌活性を有することから、ピロリ菌の抑制・殺菌・除去に有効であり、ピロリ菌関連疾患(例えば、胃潰瘍、慢性胃炎、急性胃炎、十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫など)の予防又は治療に有用である。その適用対象や投与量及び投与回数については上記同様である。
【0036】
本発明によるピロリ菌抑制用組成物の投与方法は、上記同様、任意であるが、飲食品などによる経口摂取が好ましい。飲食品の具体例としては、清涼飲料、ドリンク剤、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、機能活性型食品、栄養補助食品、サプリメント、飼料、飼料添加物などと一般に呼称される、飲料を含む健康食品又は補助食品が挙げられる。本発明によるピロリ菌抑制用組成物を日常的に経口摂取することで、効果的にピロリ菌を抑制・殺菌・除去することができる。
【0037】
(3.抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物の製造方法)
本発明の抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物の製造方法は、マツ及びイチイからなる群より少なくとも1つ選択される植物を蒸留することで、蒸留液を得る工程を含む。抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物の詳細については、前述同様である。
【0038】
本発明で使用されるマツは、マツ科に属する樹木であれば特に制限なく採用され得るが、例えば、上記同様のマツの種類が挙げられる。好ましくは、アカエゾマツ、トドマツ、カラマツ、ハイマツからなる群から少なくとも1種が選択され、さらに好ましくは、アカエゾマツが使用される。
【0039】
本発明で使用されるイチイ(学名:Taxus cuspidata)は、イチイ科イチイ属に属する樹木であれば特に制限なく採用され得る。本発明において、イチイには、ver.Cuspidata(f.luteobaccata:キミノオンコ)及びver.Nana(キャラボク)(Aurescens:オウゴンキャラ)も含まれる。
【0040】
マツ及びイチイの使用部位については、枝、葉、幹、根、花、実等、マツ及びイチイのあらゆる部位を使用することができるが、好ましくは、マツ及びイチイの枝及び葉の部位が用いられる。
【0041】
本発明において、蒸留の方法として、例えば、水蒸気蒸留、常圧蒸留、低圧蒸留、減圧蒸留、分子蒸留、単蒸留、精留、連続蒸留、回分蒸留等が挙げられるが、好ましくは水蒸気蒸留である。例えば、マツを用いる場合、マツを蒸留処理することで、マツ精油とマツ蒸留液とが得られるが、本発明においては、精油は用いられず、水溶性のマツ蒸留液のほうが抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物として用いられる(同様に、イチイ精油は用いられず、イチイ蒸留液のほうが用いられる)。なお、水蒸気蒸留の方法として、より具体的には、例えば、マツを蒸留釜に仕込み、水を加えて加熱することによってマツの成分を気化させた蒸気を発生させ、当該蒸気を冷却管等に通過させることで当該蒸気を凝縮し、マツ精油(上層)及びマツ蒸留液(下層)を得る方法が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法について、アカエゾマツを用いた方法(水蒸気蒸留)を例に挙げて説明する。アカエゾマツの枝葉をハサミで裁断し、粉砕した後、所定量の水を加え、公知の水蒸気蒸留装置に仕込み、数時間、加熱することによってアカエゾマツの成分を気化させた蒸気を発生させ、当該蒸気を冷却管等に通過させることで当該蒸気を凝縮し、精油(上層)及び蒸留液(下層)を得る。このうち、蒸留液のほうを公知の方法により分離することで、アカエゾマツ蒸留液を得ることができ、該アカエゾマツ蒸留液を抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物として用いる。
【0043】
なお、本発明には、上述の製造方法で得られた抗ピロリ菌剤又はピロリ菌抑制用組成物が包含される。
【0044】
(4.まとめ)
以上説明したように、本発明による抗ピロリ菌剤及びピロリ菌抑制用組成物は、従来、副産物として廃棄されていたマツ蒸留液及びイチイ蒸留液からなる群より少なくとも1つ選択される蒸留液を有効成分として含むため、低コストで生産することができる。これらの蒸留液は、植物由来であるため、化学物質とは異なり、副作用が軽減され、日常的に摂取可能であり、効果的にピロリ菌を抑制・殺菌・除去することができる。また、近年の、自然素材への関心の高まりに鑑み、特に、日常的に摂取可能な経口剤又は飲食品として、ピロリ菌の抑制・殺菌・除去が必要なユーザーに好適に使用され得る。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
マツ蒸留液及びイチイ蒸留液の抗ピロリ菌作用を検証した。
【0047】
(試料)
(蒸留液の調製)
北海道江別市に植栽されているアカエゾマツ、ハイマツ、トドマツ、カラマツ及びイチイの各樹木から採取した枝葉をミルサー(IFM-C20G,Iwatani)で粉砕した。粉砕枝葉600gに対して水400mLを加え、水蒸気蒸留装置(Pure Stiller,黄河)により2時間蒸留し、その際に得られた蒸留液を試料とした。
【0048】
(アカエゾマツ蒸留液の分子量分画)
アカエゾマツ蒸留液を限外ろ過 (Amicon Ultra,Merck)により[10kDa以上]、[3~10kDa]及び[3kDa以下]の分子量3画分を調製した。また、各画分をヘキサン抽出した後の水層についても抗菌作用を評価した。
【0049】
(ピロリ菌(H.pylori)の菌株)
Helicobacter pylori 12093株(理研バンク)については、-80℃凍結保存株を用いた。なお、操作はコンタミネーションを防ぐために安全キャビネット(SDV-ECIIB,Hitachi)内で行い、H.pylori菌液の分注作業には滅菌フィルターチップを用いた。
【0050】
(培地調製)
(Nutrient Broth-Horse Serum(NBhs)培地の調製)
蒸留液400mLにNutrient Broth(CM0067,Oxoid)10.0gを加え均一に分散させた後、オートクレーブ(BS-245,Tomy)を用いて120℃で20分間、滅菌、溶解した。流水で急冷後、無菌状態で馬血清(H1138,Sigma)20mLを添加、かくはんし、H.pylori増殖培地(NBhs培地)を調製した。NBhs培地30mLを50mL滅菌チューブ(91050,BMBio)に分注し、4℃で保存した。
【0051】
(SCDLPブイヨン培地の調製)
SCDLPブイヨン培地(E-MC72,栄研)7.6gを水200mLに加え溶解後、オートクレーブを用いて120℃で20分間滅菌、溶解した。
【0052】
(H.pyloriの復元培養)
解凍したH.pylori保存菌液0.5mLをNBhs培地25mLに添加し、アネロパック・微好気(A-28)と角形ジャー標準型(三菱化学)を用いて微好気条件下37℃で72時間培養した(
図1)。
【0053】
(菌量測定)
菌量は、McFarland比濁法(McFarland J.(1907).An instrument for estimating the number of bacteria.JAMA,49,1176-1178.)により測定した。McFarland濁度標準液を、1%(w/w)塩化バリウム溶液と1%(w/w)硫酸溶液の比率を変えて混合調製した。NBhs培地で復元培養した菌液の菌数を以下の手順により求めた。濁度標準液と復元培養菌液を96ウェル平底プレート(655101,Greiner)に各200μL分注後、マイクロプレートリーダ(Emax,Molecular Devices)を用いて650nmにおける濁度を測定し、検量線から菌数を求めた。H.pyloriについては、菌量が抗菌試験実施の規定数(2.0×108cfu/mL)未満の場合、さらに24~48時間培養を行った。
【0054】
(抗菌試験)
抗菌試験はマイクロプレート比濁法により実施した(
図2)。
【0055】
(陽性対照)
オスバン10%(w/w)(日水)を水で10倍希釈した10mg/mL塩化ベンザルコニウム保存溶液を調製した。用時、この保存液をNBhs培地で更に2,000倍希釈した5μg/mL塩化ベンザルコニウム溶液を調製した。
【0056】
(抗ピロリ菌作用の測定操作)
NBhs培地と各試料を2mLチューブにボルテックス混合後、順次NBhs培地を用いて2.5~40倍希釈液系列を調製した。マルチチャンネルマイクロピペットを用いて滅菌96ウェル平底プレート(22216019,Costar)の列2に比較対照としてNBhs培地、列3に陽性対照として5μg/mL塩化ベンザルコニウム、列4~12に2.5~40倍希釈した各試料を50μLずつ分注した。その後、行A~FにNBhs培地で菌数2.0×108cfu/mLに調整したH.pylori菌液50μLを分注した。行G及び行Hには菌液の代わりにNBhs培地を50μL分注し、試料の着色を補正するためのブランクとした。アネロパック・微好気とアネロパック角形ジャー標準型を使用し微好気条件下37℃で72時間培養後、超音波(Ultrasonic Steri-Cleaner,Leo)5分間、プレートミキサー(MS3 digital,Ika)1分間かくはん後、マイクロプレートリーダで650nmにおける濁度を測定した。
【0057】
(統計処理)
比較対照を基準として、Dunnett検定(R,The R project for statistical computing)を用いて1%又は5%水準の有意差検定を実施した。
【0058】
(結果)
アカエゾマツ蒸留液のH.pyloriに対する抗菌試験結果を
図3に示す。
図3において、「210806採取」は2021年8月6日に採取したアカエゾマツ、「210811採取」は2021年8月11日に採取したアカエゾマツ、「210814採取」は2021年8月14日に採取したアカエゾマツから得られた蒸留液を表す。採取日の異なるアカエゾマツの枝葉から得られた蒸留液は3試料いずれも、濃度依存的な抗H.pylori活性が認められた(
図3)。
【0059】
他のマツ科樹木4種(ハイマツ、トドマツ、カラマツ)及びイチイの蒸留液のH.pyloriに対する抗菌試験結果を
図4に示す。アカエゾマツ蒸留液と同様に、いずれの蒸留液でも、濃度依存的な抗H.pylori活性を示す傾向が見られた(
図4)。
【0060】
アカエゾマツ蒸留液の分子量画分のH.pyloriに対する抗菌試験結果を
図5に示す。アカエゾマツ蒸留液の限外ろ過による分子量画分の比較において、分子量サイズに関係なく、ほぼ一定の抗H.pylori活性を示した(
図5)。親油性香気成分の関与を調べるためヘキサン抽出を行った後の水層についても測定したところ、すべての画分において元の蒸留液よりも抗菌作用は弱まる傾向にあった(
図5)。
【0061】
以上より、本実施例のマツ蒸留液及びイチイ蒸留液による強い抗ピロリ菌活性が確認された。本実施例のマツ蒸留液及びイチイ蒸留液は、ピロリ菌の抑制・殺菌・除去に効果的で、かつ、天然由来の安心安全な医薬品や飲食品への応用が期待できる。