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特開2024-75809樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板および樹脂シート
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  • 特開-樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板および樹脂シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075809
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板および樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20240529BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C08G59/62
B32B27/00 103
B32B27/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060812
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛史
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 尭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彩乃
【テーマコード(参考)】
4F100
4J036
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK53
4F100AK53C
4F100AK54
4F100AK54C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA02
4F100GB41
4F100JA05
4F100JB12C
4F100JD10
4F100JD10C
4F100JD14
4F100JD14C
4F100JJ01
4F100YY00C
4J036AD07
4J036AD08
4J036AF06
4J036AH02
4J036AH07
4J036AJ18
4J036DB05
4J036DC41
4J036HA11
4J036HA12
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板、樹脂シートを提供する。
【解決手段】樹脂硬化物は、特定の構造を有する基を有し、かつ590℃で加熱したときに生成する熱分解生成物が、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、特定の物質とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される基を有し、
【化1】
(ただし、一般式(1)において、nは、1以上の自然数を表す。)
下記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、下記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、下記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び下記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される樹脂硬化物。
【化2】
(熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析の測定条件)
熱分解工程の条件
試料量:0.1mg
試料の熱分解条件:590℃で6秒間
オーブン温度:300℃、ニードル温度:300℃
ガスクロマトグラフィー工程の条件
キャリアガス:He
カラム流量:1.0ml/分、スプリット比:100:1
カラム:DB-1(内径0.25mm×長さ30m、厚み0.25μm)
温度プロファイル:40℃で2分間保持した後、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持
質量分析工程の条件
イオン源温度:250℃、インターフェース温度300℃
測定質量範囲:m/z=33からm/z=500までの範囲
【請求項2】
ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内及び波長1685±2cm-1の範囲内のそれぞれに赤外吸収ピークを示す請求項1に記載の樹脂硬化物。
【請求項3】
ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示し、前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある請求項2に記載の樹脂硬化物。
【請求項4】
前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.1以上2.0以下の範囲内にある請求項3に記載の樹脂硬化物。
【請求項5】
前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.30以上1.0以下の範囲内にある請求項4に記載の樹脂硬化物。
【請求項6】
エポキシ樹脂と、下記の一般式(2)で表される化合物を含有する液晶性硬化剤とを含み、
【化3】
(ただし、一般式(2)において、nは、1以上の自然数を表す。)
下記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、下記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、下記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び下記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される樹脂組成物。
【化4】
(熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析の測定条件)
熱分解工程の条件
試料量:0.1mg
試料の熱分解条件:590℃で6秒間
オーブン温度:300℃、ニードル温度:300℃
ガスクロマトグラフィー工程の条件
キャリアガス:He
カラム流量:1.0ml/分、スプリット比:100:1
カラム:DB-1(内径0.25mm×長さ30m、厚み0.25μm)
温度プロファイル:40℃で2分間保持した後、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持
質量分析工程の条件
イオン源温度:250℃、インターフェース温度300℃
測定質量範囲:m/z=33からm/z=500までの範囲
【請求項7】
ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内及び波長1685±2cm-1の範囲内のそれぞれに赤外吸収ピークを示す請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示し、前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.1以上2.0以下の範囲内にある請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.30以上1.0以下の範囲内にある請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂硬化物を含む樹脂基板。
【請求項12】
複数の樹脂基板が積層されてなり、前記複数の樹脂基板のうち、少なくとも一つが請求項11に記載の樹脂基板である積層基板。
【請求項13】
請求項6~請求項10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板および樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の放熱性を向上させる方法として、電子部品の絶縁材料として用いられている樹脂材料の熱伝導率を高める方法が挙げられる。樹脂材料の熱伝導率を高める方法として、樹脂材料に熱伝導性の高いフィラーを分散させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、高分子マトリクス中に熱伝導性微粒子が分散されている構造の熱伝導材料が開示されている。また、樹脂材料の熱伝導率を高める方法として、液晶性樹脂を用いることが提案されている。例えば、特許文献2には、メソゲン基を有するモノマーを含む樹脂組成物を重合させた液晶性樹脂を含む絶縁組成物が開示されている。
【0003】
また、電子部品に用いられる樹脂材料には、電子部品の発熱時の電気特性や耐熱信頼性が合わせて要求される。これらの要求に対応するためには、樹脂材料の耐熱性を向上させることが有効である。樹脂材料の耐熱性を向上させる手法として、使用する樹脂の構造に剛直な骨格を導入したり、樹脂の架橋密度を増やすことにより、ガラス転移温度を向上させたりする手法が一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-65064号公報
【特許文献2】特開平11-323162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のエレクトロニクスデバイスの小型化や高出力化の要求に伴って、電子部品の出力時の発熱量が増大する傾向にあり、電子部品から発生する熱の処理や電子部品の耐熱性がさらに重要となっている。したがって、電子部品で用いられる樹脂材料においては、さらなる熱伝導率の向上が望まれている。また、樹脂材料の耐熱性の向上のため、ガラス転移温度を高めることも望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板、樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、特定の構造を有する基を有し、かつ590℃で加熱したときに生成する熱分解生成物が、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、特定の物質とを含む樹脂硬化物は、高い熱伝導率とガラス転移温度を有することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の発明に関わる。
【0008】
[1]下記の一般式(1)で表される基を有し、
【0009】
【化1】
【0010】
(ただし、一般式(1)において、nは、1以上の自然数を表す。)
下記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、下記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、下記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び下記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される樹脂硬化物。
【0011】
【化2】
【0012】
(熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析の測定条件)
熱分解工程の条件
試料量:0.1mg
試料の熱分解条件:590℃で6秒間
オーブン温度:300℃、ニードル温度:300℃
ガスクロマトグラフィー工程の条件
キャリアガス:He
カラム流量:1.0ml/分、スプリット比:100:1
カラム:DB-1(内径0.25mm×長さ30m、厚み0.25μm)
温度プロファイル:40℃で2分間保持した後、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持
質量分析工程の条件
イオン源温度:250℃、インターフェース温度300℃
測定質量範囲:m/z=33からm/z=500までの範囲
【0013】
[2]ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内及び波長1685±2cm-1の範囲内のそれぞれに赤外吸収ピークを示す上記[1]に記載の樹脂硬化物。
【0014】
[3]ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示し、前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある上記[2]に記載の樹脂硬化物。
【0015】
[4]前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.1以上2.0以下の範囲内にある上記[3]に記載の樹脂硬化物。
【0016】
[5]前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.30以上1.0以下の範囲内にある上記[4]に記載の樹脂硬化物。
【0017】
[6]エポキシ樹脂と、下記の一般式(2)で表される化合物を含有する液晶性硬化剤とを含み、
【0018】
【化3】
【0019】
(ただし、一般式(2)において、nは、1以上の自然数を表す。)
下記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、下記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、下記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び下記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される樹脂組成物。
【0020】
【化4】
【0021】
(熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析の測定条件)
熱分解工程の条件
試料量:0.1mg
試料の熱分解条件:590℃で6秒間
オーブン温度:300℃、ニードル温度:300℃
ガスクロマトグラフィー工程の条件
キャリアガス:He
カラム流量:1.0ml/分、スプリット比:100:1
カラム:DB-1(内径0.25mm×長さ30m、厚み0.25μm)
温度プロファイル:40℃で2分間保持した後、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持
質量分析工程の条件
イオン源温度:250℃、インターフェース温度300℃
測定質量範囲:m/z=33からm/z=500までの範囲
【0022】
[7]ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内及び波長1685±2cm-1の範囲内のそれぞれに赤外吸収ピークを示す上記[6]に記載の樹脂組成物。
【0023】
[8]ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示し、前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある上記[7]に記載の樹脂組成物。
【0024】
[9]前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.10以上2.0以下の範囲内にある上記[8]に記載の樹脂組成物。
【0025】
[10]前記波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する前記波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.30以上1.0以下の範囲内にある上記[9]に記載の樹脂組成物。
【0026】
[11]上記[1]~[5]に記載の樹脂硬化物を含む樹脂基板。
【0027】
[12]複数の樹脂基板が積層されてなり、前記複数の樹脂基板のうち、少なくとも一つが上記[11]に記載の樹脂基板である積層基板。
【0028】
[13]上記[6]~[10]に記載の樹脂組成物を含む樹脂シート。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物、樹脂組成物、樹脂基板、積層基板、樹脂シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の樹脂シートおよび樹脂基板一例を示した斜視図である。
図2図2は、図1に示す樹脂シートおよび樹脂基板のII-II線断面図である。
図3図3は、本発明の積層基板の一例を示した斜視図である。
図4図4は、図3に示す積層基板のIV-IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施可能である。
【0032】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、下記の一般式(2)で表される化合物を含有する液晶性硬化剤とを含む。一般式(2)で表される化合物中のメチルヒドロキノンとp-キシレンおよびエーテルを結合した繰り返し単位は、メソゲン基である。
【0033】
【化5】
【0034】
ただし、一般式(2)において、nは、1以上の自然数を表す。nは、2以上の自然数であることが好ましい。nは、40以下であってもよい。液晶性硬化剤は、式(1)のnが互いに異なる自然数である化合物を2種以上含んでいてもよい。
【0035】
エポキシ樹脂としては、例えば、4,4’-ビフェノールジグリシジルエーテル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビス(グリシジルオキシ)-1,1’-ビフェニル、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジル-p-アミノフェノール、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂など公知のエポキシ化合物を用いることができ、市販のエポキシ樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂は、1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び液晶性硬化剤とともに、必要に応じて、他の樹脂成分を含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、p-フェニレンジアミン等のアミノ基を有する化合物、スルファニルアミド等のアミド基を有する化合物、フェノール樹脂などの化合物が挙げられる。これらの他の樹脂成分は、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含有していてもよい。硬化促進剤としては、例えば、高沸点の塩基性の有機化合物などを用いることができる。具体的には、硬化促進剤として、3級アミン類、3級ホスフィン類、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、イミダゾール類などから選ばれる沸点が200℃以上のものなどが挙げられる。これらの中でも特に、取り扱いのしやすさから硬化促進剤として、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤である2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)、1-(2-シアノエチル)-2-フェニルイミダゾールを用いることが好ましい。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、セラミックフィラーを含んでいてもよい。セラミックフィラーとしては、窒化ホウ素粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、水酸化アルミニウム粒子、ベーマイト粒子、窒化アルミニウム粒子、及びシリカ粒子などの無機物粒子を用いることができる。これらの無機物粒子は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
セラミックフィラーの含有量は、例えば、80体積%以下であってもよく、30体積%以上80体積%以下の範囲内にあることが好ましく、40体積%以上75体積%以下の範囲内にあることがより好ましい。セラミックフィラーを含有することによって、樹脂組成物の硬化物における熱伝導性向上効果が顕著となる。また、セラミックフィラーの含有量が80体積%以下であると、樹脂組成物の硬化物を用いて樹脂基板を成形する際に十分な成形加工性が得られる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン等のエーテル類、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン等のアミド類などが挙げられる。溶媒としては、これらのうち1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤、ハロゲン等の難燃剤、可塑剤、並びに滑剤等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、所定の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、下記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、下記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び下記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される。
【0043】
【化6】
【0044】
熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析は、熱分解工程と、ガスクロマトグラフィー工程と、質量分析工程とを含む。熱分解工程は、試料を熱分解して熱分解生成物ガスする工程である。ガスクロマトグラフィー工程は、熱分解生成物ガスに含まれる物質を分離する工程である。質量分析工程は、分離された各物質をイオン化し、そのm/zを測定することによってイオンや分子の質量を得る工程である。熱分解工程は、例えば、熱分析装置により行なわれる。ガスクロマトグラフィー工程と質量分析工程は、ガスクロマトグラフィー質量分析計により行なわれる。本実施形態では、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析は、下記の条件で行なわれる。
【0045】
熱分解工程の条件
試料量:0.1mg
試料の熱分解条件:590℃で6秒間
オーブン温度:300℃、ニードル温度:300℃
ガスクロマトグラフィー工程の条件
キャリアガス:He
カラム流量:1.0ml/分、スプリット比:100:1
カラム:DB-1(内径0.25mm×長さ30m、厚み0.25μm)
温度プロファイル:40℃で2分間保持した後、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持
質量分析工程の条件
イオン源温度:250℃、インターフェース温度300℃
測定質量範囲:m/z=33からm/z=500までの範囲
【0046】
上記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに検出されるキシレン、メチルベンゾキノン、メチルベンズアルデヒド、メチルヒドロキノン、第1物質、第2物質及び第3物質は、液晶性硬化剤のメソゲン基(メチルヒドロキノンとp-キシレンおよびエーテルを結合した繰り返し単位)の熱分解によって生成した熱分解生成物である。なお、本実施形態において、検出されるとは、熱分解生成物ガスのガスクロマトグラフィーで得られるクロマトグラムにおいて、S/N比の10倍以上ピークが表れること意味する。また、樹脂組成物がセラミックフィラーを含む場合、試料量は、セラミックフィラー分を除いた樹脂分が0.1mgとなる量である。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内と、波長1685±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示すことが好ましい。これらの赤外吸収ピークは、エポキシ樹脂のイソシアヌル酸構造に起因するピークである。なお、本実施形態において、赤外吸収ピークを示すとは、赤外吸収スペクトルにおいてS/N比の10倍以上ピークが表れること意味する。
【0048】
また、本実施形態の樹脂組成物は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示すことが好ましい。これらの赤外吸収ピークは、液晶性硬化剤のメソゲン基に起因するピークである。
【0049】
また、本実施形態の樹脂組成物は、波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比(最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1))が0.05以上4.0以下の範囲内にあることが好ましい。最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1)は、エポキシ樹脂のイソシアヌル酸構造と液晶性硬化剤のメソゲン基との割合を指標する。最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1)は、0.1以上2.0以下の範囲内にあることがより好ましく、0.30以上1.0以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂と、上記のメソゲン基を有する液晶性硬化剤と、必要に応じて含有されるその他の成分を混合する方法により製造できる。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物は、上述したエポキシ樹脂と、上記のメソゲン基を有する液晶性硬化剤とを含み、試料量0.1mgで熱分解させたときにメソゲン基に由来する熱分解生成物が検出できる量で液晶性硬化剤を含有する。このため、本実施形態の樹脂組成物を用いることによって、メソゲン基自体の適度な運動性によってスメクチック液晶相が形成された樹脂硬化物を得ることができる。スメクチック液晶相が形成された樹脂硬化物は、フォノンの散乱が抑制されるので、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する。
【0052】
また、本実施形態の樹脂組成物において、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルが、波長1466±2cm-1の範囲内と、波長1685±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示す場合、すなわちイソシアヌル酸構造を有するエポキシ樹脂を含む場合は、メソゲン基のスメクチック相形成を阻害せず架橋密度を向上させることができる。このため、この樹脂組成物を用いることによって、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の樹脂組成物において、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルが、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示す場合は、赤外吸収スペクトルによっても、メソゲン基を検出できる量で液晶性硬化剤を含有するので、この樹脂組成物を用いることによって、より高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物を得ることができる。特に、樹脂組成物におけるエポキシ樹脂のイソシアヌル酸構造と液晶性硬化剤のメソゲン基との割合を指標する、波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある場合は、さらに高い熱伝導率とガラス転移温度を有する樹脂硬化物を得ることができる。
【0054】
「樹脂シート」
図1は、本発明の樹脂シートの一例を示した斜視図である。図1に示す樹脂シート10は、本実施形態の樹脂組成物を成形したシートである。樹脂シート10は、樹脂組成物をそのまま含有していてもよいし、樹脂組成物の一部または全部がBステージ(半硬化)とされた状態で含有していてもよい。
【0055】
図2は、図1に示す樹脂シートのII-II線断面図である。図2は、樹脂シート10を厚さ方向に沿って切断したときの断面を示している。樹脂シート10は、芯材30と、芯材30に含浸されるとともに芯材30の両面を被覆する樹脂組成物12とを含有する。
樹脂組成物12は、未硬化であってもよいし、一部または全部が樹脂組成物の半硬化物であってもよい。
【0056】
図2において、芯材30は、縦糸31と横糸32とを編み込んだ織布とされている。芯材30は、織布に限定されるものではなく、例えば、不織布を用いてもよい。織布および不織布の材料としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、及び、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維等の合成繊維等から選ばれる少なくとも1種の繊維などが挙げられる。
【0057】
樹脂シート10は、次のようにして製造できる。
芯材30に、塗布または浸漬などの手法によって、樹脂組成物12を含浸させる。樹脂組成物12が溶媒を含む場合、芯材30に樹脂組成物を含浸させた後に加熱して乾燥させ、溶媒を除去する。樹脂組成物12中の溶媒を除去するための加熱条件は、例えば、60~150℃で1~120分間程度とすることができ、70~120℃で3~90分間程度とすることが好ましい。
【0058】
樹脂シート10に含まれる樹脂組成物12の一部または全部が、樹脂組成物の半硬化物である場合、樹脂組成物12中の溶媒を除去するための加熱と同時に、芯材30に含浸させた樹脂組成物12の一部または全部を硬化させて半硬化状態とする。また、樹脂組成物中の溶媒を除去するための加熱の後に、樹脂組成物12中の溶媒を除去するための加熱と同様の条件で、芯材30に含浸させた樹脂組成物12の一部または全部を硬化させて半硬化状態としてもよい。
以上の工程により、未硬化または少なくとも一部が半硬化された樹脂組成物12を有する樹脂シート10が得られる。
【0059】
図1に示す樹脂シート10は、本実施形態の樹脂組成物を成形したものであるため、これを熱処理して樹脂組成物12を硬化させることにより、高い熱伝導率を有する樹脂硬化物が得られる。したがって、図1に示す樹脂シート10は、樹脂基板の材料として好適である。
本実施形態の樹脂シート10は、樹脂組成物の硬化物を含む樹脂基板(樹脂硬化物)の前駆体として用いることができる。
【0060】
なお、本実施形態においては、樹脂シート10として、図2に示すように、芯材30を有するものを例に挙げて説明したが、本実施形態の樹脂シートは10、芯材30を有さずに、樹脂組成物12のみで形成されているものであってもよい。
また、樹脂シート10の表面上には、銅箔などの金属箔が積層されていてもよい。
【0061】
[樹脂硬化物]
樹脂硬化物は、下記の一般式(1)で表される基を有する。また、上記の条件で熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析を行なったときに、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、上記の式(A1)で表される第1物質(m/z=226.2±0.5)と、上記の式(A2)で表される第2物質(m/z=228.1±0.5)及び上記の式(A3)で表される第3物質(m/z=228.1±0.5)の一方又は両方が検出される。
【0062】
【化7】
【0063】
(ただし、一般式(1)において、nは、1以上の自然数を表す。)
【0064】
本実施形態の樹脂硬化物は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長1466±2cm-1の範囲内と、波長1685±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示すことが好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物は、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルにおいて、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示すことが好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物は、波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比(最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1))が0.05以上4.0以下の範囲内にあることが好ましい。最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1)は、0.1以上2.0以下の範囲内にあることがより好ましく、0.30以上1.0以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0065】
本実施形態の樹脂硬化物は、必要に応じて、セラミックフィラーを含んでいてもよい。セラミックフィラーとして用いる無機物粒子の種類及びセラミックフィラーの含有量は、上述の樹脂組成物の場合と同様である。
【0066】
本実施形態の樹脂硬化物は、前述の樹脂組成物を硬化させることによって製造することができる。樹脂組成物を硬化させるときの加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度とすることが好ましい。樹脂組成物を硬化させるための加熱は、必要に応じて、加圧または減圧下で行ってもよい。
【0067】
本実施形態の樹脂硬化物は、試料量0.1mgで熱分解させたときに、熱分解生成物として検出できる量でメソゲン基を含有する。このため、本実施形態の樹脂硬化物は、メソゲン基自体の適度な運動性によってスメクチック液晶相が形成されていて、フォノンの散乱が抑制されるので、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する。本実施形態の樹脂硬化物は、高いガラス転移温度を有するため、耐熱性に優れる。
【0068】
また、本実施形態の樹脂組成物において、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルが、波長1466±2cm-1の範囲内及び波長1685±2cm-1の範囲内のそれぞれに赤外吸収ピークを示す場合、すなわちイソシアヌル酸構造を有するエポキシ樹脂を含む場合は、メソゲン基のスメクチック相形成を阻害せず架橋密度を向上させることができる。このため、この樹脂硬化物は、高い熱伝導率とガラス転移温度を有する。
【0069】
また、本実施形態の樹脂組成物において、ATR法により測定された赤外吸収スペクトルが、波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内とのそれぞれの範囲内において赤外吸収ピークを示す場合は、赤外吸収スペクトルによっても、検出できる量でメソゲン基を含有するので、より高い熱伝導率とガラス転移温度を有する。特に、樹脂組成物におけるエポキシ樹脂のイソシアヌル酸構造と液晶性硬化剤のメソゲン基との割合を指標する、波長1685±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度に対する波長1207±2cm-1の範囲内にある赤外吸収ピークの最大吸光度の比が0.05以上4.0以下の範囲内にある場合は、さらに高い熱伝導率とガラス転移温度を有する。
【0070】
[樹脂基板]
樹脂基板は、上記の樹脂硬化物を含む。樹脂基板は、例えば、前述の樹脂シート10の樹脂組成物12を硬化させることによって製造することができる。樹脂シート10の樹脂組成物12を硬化させるときの加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度とすることが好ましい。樹脂組成物12を硬化させるための加熱は、必要に応じて、加圧または減圧下で行ってもよい。
【0071】
本実施形態の樹脂基板は、本実施形態の樹脂硬化物を含むので、高い熱伝導率と耐熱性とを有する。
【0072】
「積層基板」
図3は、一実施形態に係る積層基板の斜視図である。図4は、図3のIV-IV線断面図である。図4は、積層基板の積層方向に沿って切断したときの断面を示している。図3及び図4に示されるように、積層基板50は、樹脂基板20が複数積層されて一体化されている。樹脂基板20は、芯材30と、芯材30に含浸されるとともに芯材30の両面を被覆する樹脂硬化物22とを含有する。樹脂基板20は、図1及び図2に示す樹脂シートを硬化させたものとされている。
【0073】
積層基板50は、例えば、複数枚の樹脂基板20を重ね合わせた状態で、加熱する方法により製造できる。積層基板50は、複数枚の樹脂シート10を重ね合わせた状態で、加熱することにより、未硬化状態または半硬化状態にある樹脂成分を熱硬化させて、樹脂硬化物22とする方法により製造してもよい。複数枚の樹脂基板20の加熱条件および複数枚の樹脂シート10の加熱条件は、例えば、100~250℃で1~300分間程度とすることができる。
【0074】
複数枚の樹脂基板20または複数枚の樹脂シート10を加熱する際には、必要に応じて加圧してもよい。加圧条件は、例えば、0.1~10MPa程度とすることができる。複数枚の樹脂基板20または複数枚の樹脂シート10を加熱する際に、加圧は必須ではなく、減圧又は真空下で加熱してもよい。
【0075】
本実施形態の積層基板50は、樹脂基板20が積層されたものであるため、高い熱伝導率と耐熱性とを有する。
【実施例0076】
[実施例1~9、比較例1、2(樹脂組成物)]
液晶性硬化剤とエポキシ樹脂と硬化促進剤とをそれぞれ表1に示す配合量で秤量した。秤量した各材料を、混練機(ラボプラストミル、株式会社東洋精機製作所製)を用いて、回転数50rpm、90℃で10分間混錬した。得られた混練物を室温まで空冷した後、粉砕して、粒状の樹脂組成物を得た。
液晶性硬化剤としては、上記の式(2)で表される化合物(数平均分子量(Mn):2500、質量平均分子量(Mw):5800)を用いた。なお、液晶性硬化剤は、下記のようにして合成した。エポキシ樹脂としては、TEPIC(日産化学株式会社製)と、jER630(三菱ケミカル株式会社製)とを用いた。硬化促進剤としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)を用いた。硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂と液晶性硬化剤の合計含有量を100質量部として5.00質量部となる量とした。
【0077】
(液晶性硬化剤の合成方法)
メチルヒドロキノン0.405モルと、α、α‘-ジクロロ-p-キシレン0.345モルとを、3口フラスコに量りとり、テトラヒドロフラン(THF)1Lに溶解させて混合溶液を得た。混合溶液を窒素気流中でリフラックス(還流)させて、混合溶液中の溶存酸素を除去した。次いで、混合溶液に、α、α‘-ジクロロ-p-キシレンの2倍の物質量(モル数)の水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム50%水溶液を加え、12時間リフラックス状態を保ち反応させた後、室温まで放冷した。反応終了後、得られた反応溶液に塩酸を加えて、反応溶液をpH4~6に調整した。その後、反応液に水を注いで30分間撹拌し、生成した沈殿物をろ過で回収した。回収した沈殿物をメチルエチルケトン(МEK)1Lで洗浄、ろ過して不溶分を回収し、12時間以上真空乾燥し、一般式(1)の化合物を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
[実施例10~18、比較例3、4(樹脂硬化物)]
実施例1~9及び比較例1で得られた粒状の樹脂組成物を、錠剤成型器を用いて、樹脂ペレットを作製した。得られた樹脂ペレットを、200℃で2時間加熱して硬化させ、ペレット状の樹脂硬化物を得た。
【0080】
[評価]
実施例1~9と比較例1、2で得られた粒状樹脂組成物、及び実施例10~18、比較例3、4で得られたペレット状樹脂硬化物について、下記の評価を行なった。粒状樹脂組成物の評価結果を下記の表2に示し、ペレット状樹脂硬化物の評価結果を表3に示す。
【0081】
(熱分解生成物)
粒状樹脂組成物及びペレット状樹脂硬化物の熱分解生成物を、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置を用い、前述の条件で測定した。熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置の熱分解部は、JHP-5(日本分析工業株式会社製)を用い、ガスクロマトグラフィー部と質量分析部は、GCMS-QP2010Plus(株式会社島津製作所製)を用いた。表2及び表3には、キシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンと、TEPICと、アミノフェノールとについて検出された場合を〇とし、検出されなかった場合を×として示した。
【0082】
(赤外吸収スペクトル)
赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IRThermo Scientific Nicolet iS10 FT-IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定した。赤外吸収スペクトルの測定は、ATR法(全反射法)を用い、測定波数範囲:500cm-1~4000cm-1、分解能:1.0cm-1、積算回数:10回の条件で行なった。得られた赤外吸収スペクトルから波長763±2cm-1の範囲内と、波長1018±2cm-1の範囲内と、波長1041±2cm-1の範囲内と、波長1207±2cm-1の範囲内と、波長1466±2cm-1の範囲内と、波長1500±2cm-1の範囲内と、波長1685±2cm-1の範囲内の赤外吸収ピークの有無を確認した。表2及び表3には、これらの物質の赤外吸収スペクトルが確認された場合を〇とし、確認されなかった場合を×として示した。また、液晶性硬化剤の芳香族-エーテル逆対称収縮に起因する1207±2cm-1の赤外吸収ピークの最大吸光度、及びTEPICのイソシアヌル酸構造に起因する1685±2cm-1の赤外吸収ピークの最大吸光度を読み取り、それらの最大吸光度の比(最大吸光度(1207±2cm-1)/最大吸光度(1685±2cm-1))を求めた。なお、赤外吸収スペクトルは、実施例1~6で得られた粒状樹脂組成物、及び実施例10~15で得られたペレット状樹脂硬化物について行なった。
【0083】
(熱伝導率)
熱伝導率は、樹脂硬化物のみ測定した。熱伝導率は、樹脂硬化物の密度と、比熱と、熱拡散率とを以下に示す方法によりそれぞれ測定し、得られた値を乗じることにより算出した。
密度は、アルキメデス法を用いて求めた。
比熱は、示差走査熱量計(DSC)(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いて求めた。
熱拡散率は、キセノンフラッシュ熱拡散率測定装置(アドバンス理工株式会社製)を用いて求めた。
【0084】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、樹脂硬化物のみ測定した。ガラス転移温度の測定は、動的粘弾性測定装置(Rheogel-E4000、株式会社ユービーエム製)を用い、歪み:0.025%、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、25℃から250℃の条件で行なった。損失正接(tanδ)の主分散のピーク温度をガラス転移温度(Tg)と定義した。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表3の結果から、熱分解生成物からキシレンと、メチルベンゾキノンと、メチルベンズアルデヒドと、メチルヒドロキノンとが検出された実施例10~18で得られた樹脂組成物は、これらの物質が検出されなかった比較例3、4で得られた樹脂硬化物と比較して、熱伝導率が高く、ガラス転移温度が低くなることがわかる。
【0088】
[実施例19~25(フィラー含有樹脂組成物シート)]
実施例4で得られた粒状樹脂組成物と、下記の表3に記載したセラミックフィラーとを体積比で50:50となるように秤量し、両者を混合して混合物を得た。得られた混合物をメチルエチルケトンで希釈してワニスを得た。得られたワニスを基板の上に塗布し、得られた塗布膜を100℃で10分間乾燥して、厚さ100μmのフィラー含有樹脂組成物シートを得た。得られたフィラー含有樹脂組成物シートについて、熱分解生成物を上記の方法により測定した結果、実施例4で得られた樹脂組成物の結果と同様となった。
【0089】
【表4】
【0090】
[実施例26~32(樹脂基板)]
実施例19~25で得られたフィラー含有樹脂組成物シートの両側表面に銅箔を積層し、3.0MPaの加圧下、200℃、2時間の加熱条件で加熱して、フィラー含有樹脂組成物シートを硬化させて、樹脂基板を得た。
【0091】
得られた樹脂基板の熱伝導率と、ガラス転移温度を測定した。その結果を、下記の表5に示す。
熱伝導率は、樹脂基板の密度と、比熱と、熱拡散率とを以下に示す方法によりそれぞれ測定し、得られた値を乗じることにより算出した。密度は、アルキメデス法を用いて求めた。比熱は、示差走査熱量計(DSC)を用いて求めた。熱拡散率は、キセノンフラッシュ熱拡散率測定装置を用いて求めた。
ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(Rheogel-E4000、株式会社ユービーエム製)を用い、歪み:0.025%、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、25℃から250℃の条件で行なった。損失正接(tanδ)の主分散のピーク温度をガラス転移温度(Tg)と定義した。
【0092】
[実施例33~39(積層基板)]
実施例19~25で得られたフィラー含有樹脂組成物シート10枚を積層した。得られた積層体を、ハンドプレス機を用いて、圧力3.0MPa、温度200℃、2時間の加熱条件で加熱して、フィラー含有樹脂組成物シートを硬化させて、フィラー含有樹脂組成物シート硬化物の積層体を得た。
得られた積層体の熱伝導率と、ガラス転移温度を、上記の方法により測定した。その結果を、下記の表5に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
表5の結果から、実施例26~32で得られた樹脂基板及び実施例33~39で得られた積層基板は、それぞれ熱導電率が高いことがわかる。また、ガラス転移温度が高いので、耐熱性に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0095】
10…樹脂シート、12…樹脂組成物、20…樹脂基板、22…樹脂硬化物、30…芯材、31…縦糸、32…横糸、50…積層基板
図1
図2
図3
図4