(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075815
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電極、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240529BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20240529BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240529BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/18
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M4/90 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063777
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康一
(72)【発明者】
【氏名】池上 雄大
(72)【発明者】
【氏名】大矢 正幸
(72)【発明者】
【氏名】董 雍容
(72)【発明者】
【氏名】川越 吉恭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴
(72)【発明者】
【氏名】岩原 良平
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA08
5H018BB01
5H018BB17
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE05
5H018HH02
5H018HH05
5H126BB10
(57)【要約】
【課題】電池反応性と耐久性に優れる電極を提供する。
【解決手段】多孔質の基材を備える電極であって、BET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合が40%以上であり、前記メソ孔比表面積が1.0m
2/g以上30m
2/g未満である、電極。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の基材を備える電極であって、
BET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合が40%以上であり、
前記メソ孔比表面積が1.0m2/g以上30m2/g未満である、
電極。
【請求項2】
前記BET比表面積が40m2/g未満である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
レドックスフロー電池の正極に用いられる請求項1又は請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記基材は、導電材料として、カーボン、チタン、及びタングステンからなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記基材は、カーボン繊維、カーボン粒子、及びカーボンバインダー残渣からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記基材に保持される触媒を備え、
前記触媒は、非カーボン系の材質によって構成される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記触媒は、金属酸化物又は金属炭化物である請求項6に記載の電極。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電極を備える、
電池セル。
【請求項9】
請求項8に記載の電池セルを備える、
セルスタック。
【請求項10】
請求項9に記載のセルスタックを備える、
レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の蓄電池として、レドックスフロー電池が知られている。例えば特許文献1に示されるレドックスフロー電池は、複数の電池セルを積層したセルスタックを備える。電池セルに正極電解液と負極電解液とが循環されることで、充放電が行われる。
【0003】
電池セルに備わる電極には、導電性を有し、かつ通液性を有する多孔質体が用いられる。例えば、特許文献1には、炭素繊維の集合体によって構成された電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極における電池反応を向上させるためには、電解液と接触する電極の表面積が大きいことが好ましい。しかし、酸化力が高い電解液中では、電解液の酸化力によって電極が徐々に消耗する。特に、高い酸化力を有する正極電解液においては、電解液との接触面積が大きい電極は消耗し易い。電極が消耗すると、その電極を備える電池セルの電池性能が低下する。
【0006】
そこで、本開示は、電池反応性と耐久性に優れる電極を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、運転に伴う電池性能の低下を抑制できる電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電極は、
多孔質の基材を備える電極であって、
BET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合が40%以上であり、
前記メソ孔比表面積が1.0m2/g以上30m2/g未満である。
【0008】
本開示の電池セルは、
本開示の電極を備える。
【0009】
本開示のセルスタックは、
本開示の電池セルを備える。
【0010】
本開示のレドックスフロー電池は、
本開示のセルスタックを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電極は、電池反応性と耐久性に優れる。
【0012】
本開示の電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池は、長期にわたって優れた電池性能を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレドックスフロー電池の動作原理図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
【
図3】
図3は、セルスタックの一例を示す概略構成図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る電極の模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る電極の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、電池反応性と耐久性に優れる電池の構成について鋭意検討した。既に説明したように、電極における電池反応性の向上と耐久性とはトレードオフの関係にある。この点を考慮し、本発明者らは、電極に占めるメソ孔比表面積の割合、及びメソ孔比表面積の上限を規定する技術思想に想到した。この技術思想に基づき、本発明者らは、以下に示す本開示の電極、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池を完成させた。以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0015】
<1>実施形態に係る電極は、
多孔質の基材を備える電極であって、
BET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合が40%以上であり、
前記メソ孔比表面積が1.0m2/g以上30m2/g未満である。
【0016】
多孔質体に形成される細孔は、マイクロ孔、メソ孔、及びマクロ孔に分類される。メソ孔は、直径2nm以上50nm以下の細孔のことである。マイクロ孔は、メソ孔よりも細い孔のことである。マクロ孔は、メソ孔よりも太い孔のことである。この定義は、International Union of Pure and Applied Chemistryの定義に準拠している。メソ孔は、マクロ孔及びマイクロ孔に比べて、電池反応を向上させる効果が高い。なぜなら、メソ孔には電解液が入り込み易く、メソ孔の内周面と電解液との接触面積が大きいからである。メソ孔よりも細いマイクロ孔には電解液が入り込み難い。メソ孔よりも太いマクロ孔には電解液が入り込み易いが、単位体積当たりの電解液に対するマクロ孔の接触面積が小さい。
【0017】
実施形態に係る電極では、BET比表面積に占めるメソ孔比表面積の割合と、メソ孔比表面積の上限値が規定されている。そのため、実施形態の電極では、電池反応を向上させるメソ孔の割合が高いにもかかわらず、電解液との接触面積が大きくなり過ぎない。従って、実施形態に係る電極は、電池反応性と耐久性に優れる。
【0018】
<2>実施形態に係る電極の一形態として、
前記BET比表面積が40m2/g未満である形態が挙げられる。
【0019】
上記形態<2>の構成では、BET比表面積が大きくなり過ぎない。つまり、電極と電解液との接触面積が大きくなり過ぎない。従って、長期にわたって電極が電解液にさらされても、電極が極端に消耗することが抑制される。
【0020】
<3>実施形態に係る電極の一形態として、
レドックスフロー電池の正極に用いられる形態が挙げられる。
【0021】
一般に、正極電解液の酸化力は、負極電解液の酸化力よりも高い。既に述べたように、実施形態に係る電極は耐久性に優れる。従って、実施形態に係る電極は、酸化力が高い正極電解液にさらされる正極の電極として好適である。
【0022】
<4>実施形態に係る電極の一形態として、
前記基材は、導電材料として、カーボン、チタン、及びタングステンからなる群から選択される1種以上の元素を含む形態が挙げられる。
【0023】
カーボン、チタン、及びタングステンは、導電性及び耐食性に優れる。従ってこれらの元素は、電極の基材として好適である。
【0024】
<5>実施形態に係る電極の一形態として、
前記基材は、カーボン繊維、カーボン粒子、及びカーボンバインダー残渣からなる群から選択される少なくとも1種を含む形態が挙げられる。
【0025】
カーボン繊維及びカーボン粒子の少なくとも一方を原料として使用して電極を作製することによって、電極のBET比表面積とメソ孔比表面積の調整が容易になる。例えば、カーボン繊維の繊維長及び繊維径などを限定することで、電極のBET比表面積とメソ孔比表面積が調整される。また、カーボン粒子の粒径などを限定することで、電極のBET比表面積とメソ孔比表面積が調整される。ここで、カーボンバインダー残渣は、バインダーが炭化したものである。バインダーは、電極の製造時に、カーボン繊維同士を結合する、カーボン繊維とカーボン粒子とを結合する、あるいはカーボン粒子同士を結合する。
【0026】
<6>実施形態に係る電極の一形態として、
前記基材に保持される触媒を備え、
前記触媒は、非カーボン系の材質によって構成される形態が挙げられる。
【0027】
触媒は電池反応を促進する。従って、基材に触媒が保持されていることで、電極の電池反応性が向上する。
【0028】
<7>上記形態<6>の電極の一形態として、
前記触媒は、金属酸化物又は金属炭化物である形態が挙げられる。
【0029】
金属酸化物又は金属炭化物の触媒は、酸化され難い。そのため、電極が長期にわたって優れた電池反応性を維持し易い。
【0030】
<8>実施形態に係る電池セルは、
上記形態<1>から形態<7>のいずれかの電極を備える。
【0031】
実施形態に係る電池セルは、長期にわたって優れた電池性能を維持し易い。なぜなら、電池セルに備わる実施形態の電極が消耗し難いからである。
【0032】
<9>実施形態に係るセルスタックは、
上記形態<8>の電池セルを備える。
【0033】
実施形態に係るセルスタックは、長期にわたって優れた電池性能を維持し易い。なぜなら、セルスタックを構成する電池セルに備わる実施形態の電極が消耗し難いからである。
【0034】
<10>実施形態に係るレドックスフロー電池は、
上記形態<9>のセルスタックを備える。
【0035】
実施形態に係るレドックスフロー電池は、長期にわたって優れた電池性能を維持し易い。なぜなら、レドックスフロー電池に備わる実施形態の電極が消耗し難いからである。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の電極、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池の具体例を、図面を参照して説明する。以下、レドックスフロー電池を「RF電池」と呼ぶ場合がある。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0037】
<実施例1>
≪RF電池の概要≫
図1から
図3を参照して、実施形態に係るRF電池1を説明する。
図1に示されるRF電池1は、正極活物質を含有する正極電解液と、負極活物質を含有する負極電解液とで充放電を行う。正極活物質及び負極活物質は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンである。
図1に示す正極電解液及び負極電解液に含有される金属イオンは一例である。
図1では、正極活物質としてMnイオンを含み、負極活物質としてTiイオンを含むTi-Mn系RF電池が例示されている。
図1において、実線矢印は充電反応、破線矢印は放電反応をそれぞれ示している。
【0038】
RF電池1は、代表的には、交流/直流変換器80や変電設備81を介して電力系統90に接続される。RF電池1は、発電部91で発電された電力を充電する、あるいは充電した電力を負荷92に放電する。発電部91は、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを利用した発電設備、及び一般の発電所などである。RF電池1は、例えば、負荷平準化用途、瞬低補償、非常用電源などの用途、自然エネルギー発電の出力平滑化用途に利用される。
【0039】
≪RF電池の構成≫
RF電池1は、電池セル10、正極タンク12、及び負極タンク13を備える。電池セル10は充放電を担う。正極タンク12は、正極電解液を貯留する。負極タンク13は、負極電解液を貯留する。
【0040】
(電池セル)
電池セル10は、隔膜101によって正極セル102と負極セル103とに分離されている。隔膜101は、電子を透過しないが、例えば水素イオンを透過するイオン交換膜である。正極セル102には正極電極2が内蔵されている。負極セル103には負極電極3が内蔵されている。
【0041】
電池セル10を構成する正極セル102及び負極セル103には、正極電解液及び負極電解液がそれぞれ供給される。本例のRF電池1は、電池セル10と正極タンク12との間を接続する往路配管108及び復路配管110を備える。本例のRF電池1は、電池セル10と負極タンク13との間を接続する往路配管109及び復路配管111を備える。各往路配管108,109には、ポンプ112,113が設けられている。正極電解液は、正極タンク12からポンプ112によって往路配管108を通って正極セル102に供給される。正極セル102を通り正極セル102から排出された正極電解液は、復路配管110を通って正極タンク12に戻される。負極電解液は、負極タンク13からポンプ113によって往路配管109を通って負極セル103に供給される。負極セル103を通り負極セル103から排出された負極電解液は、復路配管111を通って負極タンク13に戻される。つまり、往路配管108,109及び復路配管110,111によって循環流路が構成されている。
【0042】
RF電池1は通常、
図2,3に示されるように、複数の電池セル10が積層されたセルスタック100と呼ばれる形態で利用される。セルスタック100は、
図3に示されるサブスタック200をその両側から2枚のエンドプレート220で挟み込む構成を備える。2枚のエンドプレート220は、締付機構230によって互いに近づく方向に締め付けられている。
図3は、複数のサブスタック200を備えるセルスタック100を示している。サブスタック200は、セルフレーム30、正極電極2、隔膜101、負極電極3の順に繰り返し積層された積層体を備える。その積層体の両端には給排板210が配置されている。給排板210には、上述した循環流路を構成する
図1,2に示す往路配管108、109及び復路配管110、111が接続される。セルスタック100における電池セル10の積層数は適宜選択できる。
【0043】
セルフレーム30は、正極電極2と負極電極3との間に配置される双極板31と、双極板31の周囲に設けられる枠体32とを有する。双極板31の一面側には、正極電極2が対向するように配置される。双極板31の他面側には、負極電極3が対向するように配置される。枠体32の内側には、正極電極2及び負極電極3が双極板31を挟んで収納される。隣り合う各セルフレーム30の双極板31の間に、隔膜101を挟んで正極電極2及び負極電極3が配置されることにより、1つの電池セル10が形成される。
【0044】
セルフレーム30の枠体32には、給液マニホールド33,34及び排液マニホールド35,36と、給液スリット33s,34s及び排液スリット35s,36sが形成されている。本例では、正極電解液が、給液マニホールド33から給液スリット33sを介して正極電極2に供給される。正極電極2に供給された正極電解液は、排液スリット35sを介して排液マニホールド35に排出される。同様に、負極電解液は、給液マニホールド34から給液スリット34sを介して負極電極3に供給される。負極電極3に供給された負極電解液は、排液スリット36sを介して排液マニホールド36に排出される。給液マニホールド33、34及び排液マニホールド35、36は、枠体32に貫通して設けられており、セルフレーム30が積層されることによって各電解液の流路を構成する。これら各流路は、給排板210を介して
図1に示す往路配管108、109及び復路配管110、111にそれぞれ連通している。セルスタック100は、上記各流路によって、電池セル10に正極電解液及び負極電解液を流通させることが可能である。
【0045】
(電解液)
電池セル10に循環される正極電解液は正極活物質を含有する。正極活物質としては、代表的には、バナジウム(V)イオン、鉄(Fe)イオン、銅(Cu)イオン、又はマンガン(Mn)イオンが挙げられる。負極電解液は負極活物質を含有する。負極活物質としては、代表的には、Vイオン、クロム(Cr)イオン、チタン(Ti)イオン、コバルト(Co)イオン、Cuイオン、又は亜鉛(Zn)イオンが挙げられる。
【0046】
正極活物質と負極活物質とはイオンとなる金属の種類が異なっていてもよいし、同じであってもよい。正極活物質と負極活物質の代表的な組み合わせを以下に示す。
1.正極活物質:Vイオン(V4+/V5+)、負極活物質:Vイオン(V2+/V3+)
2.正極活物質:Feイオン(Fe2+/Fe3+)、負極活物質:Crイオン(Cr2+/Cr3+)
3.正極活物質:Mnイオン(Mn2+/Mn3+)、負極活物質:Tiイオン(Ti3+/Ti4+)
4.正極活物質:Feイオン(Fe2+/Fe3+)、負極活物質:Tiイオン(Ti3+/Ti4+)
5.正極活物質:Mnイオン(Mn2+/Mn3+)、負極活物質:Znイオン(Zn2+/Zn)
6.正極活物質:Feイオン(Fe2+/Fe3+)、負極活物質:Coイオン(Co+/Co2+)
7.正極活物質:Cuイオン(Cu+/Cu2+)、負極活物質:Cuイオン(Cu+/Cu)
特に、正極活物質がMnイオンを含み、負極活物質がTiイオンを含む形態は、高い起電力が得られる。
【0047】
図1,2に示されるRF電池1の電解液は、既に説明したように、上記3.に示される活物質を含むMn-Ti系電解液である。この場合、正極電解液及び負極電解液が共に、Mnイオン及びTiイオンを含有していても良い。正極電解液ではMnイオンが正極活物質として機能する。負極電解液ではTiイオンが負極活物質として機能する。正極活物質としてMnイオンを用いると、3価のMnイオン(Mn
3+)は不安定であるため、充電時に正極電解液中のMn
3+がMnO
2として析出することがある。正極電解液がTiイオンを含有すると、TiイオンによってMnイオンの析出を抑制することができる。正極電解液に含有するTiイオン及び負極電解液に含有するMnイオンは、それぞれ活物質として機能しない。負極電解液に含有するMnイオンは、主として、両電解液における金属イオン種を等しくするためのものである。
【0048】
正極電解液及び負極電解液の溶媒は、酸性の水溶液であることが好ましい。溶媒としては、例えば、硫酸(H2SO4)水溶液、及びリン酸(H3PO4)水溶液などが挙げられる。特に、硫酸水溶液が好適である。硫酸水溶液にリン酸が含有されていても良い。
【0049】
(電極)
本例では、代表して正極電極2の構造を
図4に基づいて説明する。
図4は、正極電極2の断面を模式的に示した図である。本例の負極電極3は、正極電極2と同じ構成を備える。本例とは異なり、負極電極3は、正極電極2と異なる構成を備えていても良い。以降の説明では、正極電極2を単に電極2と呼ぶ。
【0050】
本例の電極2は、多孔質の基材20を備える。電極2は更に、基材20に保持される触媒22を備えていても良い。多孔質の基材20は、メソ孔21と、マイクロ孔25と、マクロ孔26とを備える。メソ孔21は、直径が2nm以上50nm以下の細孔である。マイクロ孔25は、メソ孔21よりも細い細孔である。マクロ孔26は、メソ孔21よりも太い細孔である。
図4では、これらの細孔を誇張して示している。また、
図4の模式図では、各孔21,25,26を個別に示しているが、実際には一つの細孔においてメソ孔21、マイクロ孔25、及びマクロ孔26が混在している場合がある。
【0051】
電極2と電解液との反応性を向上させるには、電極2の表面積を大きくすることが好ましい。反面、電極2の表面積が大きくなると、電解液によって電極2が消耗し易くなる。電極2が消耗するのは、活物質を含む電解液が酸化力を有するからである。正極電解液の酸化力、特に活物質としてMnを含む正極電解液の酸化力は、負極電解液の酸化力よりも高い。そのため、正極セル102(
図1,2)に用いられる電極2は、負極セル103に用いられる負極電極3よりも消耗し易い。
【0052】
本例の電極2は、Y/Xが40%以上であり、かつYが1.0m2/g以上30m2/g未満を満たす。XはBET比表面積(m2/g)である。BET比表面積は、基材20の外周面の表面積と、メソ孔21を含む全孔21,25,26の内周面との合計面積(m2)を、電極2の質量(g)で割ったものである。基材20の外周面の表面積に、孔21,25,26の開口は含まれない。一方、Yはメソ孔比表面積(m2/g)である。メソ孔比表面積は、メソ孔21の内周面の合計面積(m2)を、電極2の質量(g)で割ったものである。これらの比表面積は、市販の比表面積測定装置によって求められる。Y/XはBET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合である。
【0053】
Y/Xが40%以上であれば、BET比表面積に占めるメソ孔比表面積の割合が高いといえる。メソ孔21は、マイクロ孔25及びマクロ孔26に比べて、電極2の電池反応性を向上させる効果が高い。従って、Y/Xが40%以上である電極2は電池反応性に優れる。ここで、本例の電極2では、メソ孔比表面積の上限値も規定されているため、Y/XにおけるBET比表面積の上限値もある程度限定される。BET比表面積の上限値が限定されることで、BET比表面積が大きくなり過ぎない。従って、電極2の消耗を抑制しつつ、電極2の電池反応性を向上させる効果が得られる。
【0054】
Y/Xが大きくなると、BET比表面積に占めるメソ孔比表面積が大きくなる。メソ孔21は、電池反応を向上させることに寄与する。従って、Y/Xは大きいことが好ましい。好ましいY/Xは60%以上である。より好ましいY/Xは70%以上である。
【0055】
本例の電極2におけるメソ孔比表面積は、1.0m2/g以上30m2/g未満である。メソ孔比表面積が小さくなると、電池反応の向上に寄与するメソ孔21が少なくなる。メソ孔比表面積が大きいと、メソ孔21を含む電極2の表面積が大きくなる。電池反応の向上と、耐久性とのバランスを考慮し、メソ孔比表面積は2.0m2/g以上28m2/g以下、3.0m2/g以上27m2/g以下、又は5.0m2/g以上25m2/g以下であることが挙げられる。
【0056】
電極2の耐久性を確保するために、電極2のBET比表面積は40m2/g未満であることが好ましい。電解液に接触する電極2の表面積が大きくなるほど、電極2が消耗し易い。電極2のBET比表面積が40m2/g未満であれば、電極2における電解液との接触面積が大きくなり過ぎない。より好ましいBET比表面積は35m2/g以下である。更に好ましいBET比表面積は30m2/g以下である。BET比表面積が小さ過ぎると、電極2における電解液との接触面積が小さくなり過ぎる。BET比表面積は2.0m2/g以上、又は5.0m2/g以上である。BET比表面積の範囲は、5.0m2/g以上30m2/g以下であることが挙げられる。
【0057】
基材20は電池反応に寄与する。基材20の材質は、導電性を有するものであれば特に限定されない。基材20の材質は、例えば、炭素(C)、チタン(Ti)、及びタングステン(W)からなる群から選択される1種以上の元素を含む。基材20は、単一元素によって構成されていても良いし、上記元素の化合物によって構成されていても良い。基材20の材質は、例えばX線回折によって求められる。
【0058】
炭素を含む基材20として、例えばカーボン繊維、カーボン粒子、及びカーボンバインダー残渣からなる群から選択される少なくとも1種を含む基材20が挙げられる。
図5は、基材20を構成する1本のカーボン繊維4の一部を拡大して示す断面図である。この
図5に示されるように、炭素を含む基材20として、カーボン繊維4とカーボン粒子5とがカーボンバインダー残渣6によって結着された基材20が好ましい。
図5に示す基材20では、カーボン粒子5が付着したカーボン繊維4の隙間によって細孔が形成される。
【0059】
カーボン繊維4は、電極2の3次元構造を維持する役割を持っている。カーボン繊維4は、例えば、有機繊維によって構成される前駆体を炭化させることで得られる繊維である。有機繊維としては、アクリル繊維、フェノール繊維、セルロース繊維、等方性ピッチ繊維、又は異方性ピッチ繊維などが挙げられる。アクリル繊維としては、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0060】
カーボン粒子5は、電極2における表面積を増加させ、電極2の電池反応性を向上させる役割を持っている。カーボン粒子5は、天然黒鉛であっても良いし、人造黒鉛であっても良い。
【0061】
カーボンバインダー残渣6は、カーボン繊維4とカーボン粒子5とを結着させる役割を持っている。カーボンバインダー残渣6は、カーボン繊維4とカーボン粒子5とを結着させるバインダーが、電極2の製造時の熱処理によって炭化したものである。バインダーとしては、例えば、コールタールピッチ、又は石炭系ピッチなどのピッチ類が挙げられる。その他、バインダーとしては、ポリアクリロニトリルなどの樹脂、又はアクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのゴムなどが挙げられる。
【0062】
図5に示す基材20は、例えば、カーボン繊維4に、カーボン粒子5及びバインダーを付着させた後、炭素化工程、黒鉛化工程、及び酸化処理工程を経て製造することができる。各工程では、公知の方法を任意に適用することができる。
【0063】
カーボン繊維4にカーボン粒子5及びバインダーを付着させるには、例えば以下の方法が挙げられる。バインダーを加熱して溶融させ、得られた溶融液中にカーボン粒子5を分散させる。カーボン粒子5が分散した溶融液にカーボン繊維4を浸漬する。そして、バインダーを固化させる。ここで、カーボン繊維4とカーボン粒子5とバインダーの重量比を制御することで、Y/Xが40%以上であり、かつYが1.0m2/g以上30m2/g未満を満たす電極2が得られる。
【0064】
炭素化工程は、上記工程で得られた製造物を焼成するために行なわれる。炭素化工程では、窒素雰囲気などの不活性雰囲気で行うことが好ましい。炭素化工程の温度は、例えば800℃以上2000℃以下である。炭素化工程によって、バインダーが炭化し、カーボンバインダー残渣6となる。
【0065】
黒鉛化工程は、カーボンバインダー残渣6などの結晶性を高めるために行われる。炭素化工程よりも高温で加熱する工程である。黒鉛化工程は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気で行うことが好ましい。
【0066】
酸化処理工程は、基材20の表面に酸素官能基を導入するために行われる。酸素官能基としては、ヒドロキシル基、カルボニル基、キノン基、ラクトン基、フリーラジカル的な酸化物などが挙げられる。酸素官能基は、基材20の電池反応を向上させることに寄与する。また、電解液に対する基材20の濡れ性が良くなる。酸化処理としては、例えば湿式の化学酸化、電解酸化、乾式酸化などが挙げられる。
【0067】
上記基材20には、
図4に示されるように、電池反応を促進する触媒22が保持されていても良い。
図4では触媒22が誇張して示されている。触媒22は例えば粒状体である。触媒22は非炭素系の物質である。例えば、触媒22としては、金属酸化物、金属炭化物などが挙げられる。金属酸化物としては、下記第一元素と第二元素の複合酸化物が挙げられる。
【0068】
第一元素と第二元素とは、互いに異種の元素である。第一元素は、Ti、スズ(Sn)、セリウム(Ce)、W、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、及びニオブ(Nb)からなる群より選択される1種の元素である。第二元素は、Nb、Mn、Fe、Cu、Ti、Sn、及びCeからなる群より選択される1種の元素である。第一元素は、耐酸化性の向上に寄与する。即ち、第一元素は、電解液に溶解し難いため、長期にわたって存在することができる。第二元素は、電極2の電池反応の向上に寄与する。触媒22の組成は、X線回折によって求められる。
【0069】
<作用効果>
Y/Xが40%以上で、かつYが1.0m
2/g以上30m
2/g未満である電極2は、電池反応性及び耐久性に優れる。従って、この電極2を備える電池セル10(
図1)、セルスタック100(
図3)、及びRF電池1は、長期にわたって優れた電池性能を維持する。
【0070】
<試験例>
≪試験例1≫
試験例1では、電極におけるメソ孔比表面積の割合及びメソ孔比表面積の大きさが、電極の電池反応性及び耐久性に及ぼす影響を調べた。
【0071】
BET比表面積及びメソ孔比表面積が異なる試料No.1から試料No.9の正極電極と負極電極を用意した。正極電極と負極電極は同じものである。両電極は、カーボン繊維とカーボン粒子とカーボンバインダー残渣とを含む炭素電極であった。以下、単に『電極』と示される場合、正極電極と負極電極の両方を意味する。
【0072】
各試料のBET比表面積は、以下のようにして測定した。試料約500mgを測り採り、これを200℃で数時間真空乾燥した。得られた乾燥後の試料について、比表面積測定装置(マイクロトラック・ベル製;BELSORP MINI II)を用いてBET比表面積(m2/g)を測定した。比表面積測定装置は、窒素ガスを用いたガス吸着法により窒素吸着量を測定する装置である。比表面積測定装置は、BET法に基づく多点法によって測定結果を分析し、BET比表面積(m2/g)を自動で求める。各試料のBET比表面積は表1に示される。以下の説明においてBET比表面積を『X』と表記する場合がある。
【0073】
各試料のメソ孔比表面積は、上記比表面積測定装置によって測定した。メソ孔比表面積は、BET比表面積を得る過程で得られる。比表面積測定装置は、窒素の吸着過程において得られる窒素吸着等温線をBJH法によって解析することでメソ孔比表面積を求める。BJH法による解析では、測定装置に記憶される標準等温線が用いられる。解析にあたっては、試料の表面の化学的性質に類似する物質の標準等温線が用いられる。本例において使用した標準等温線は、グラファイト化カーボンブラックの標準等温線である。各試料のメソ孔比表面積は表1に示される。以下の説明においてメソ孔比表面積を『Y』と表記する場合がある。表1には、BET比表面積に対するメソ孔比表面積の割合を百分率(%)で示す。以下の説明において前記割合は『Y/X』と表記する。
【0074】
試料No.1から試料No.9の電極を用いて、単セル構造のRF電池を作製した。RF電池の正極電極と負極電極は同じものであった。RF電池に用いられる電解液は、マンガン-チタン系電解液であった。
【0075】
各試料の電極の電池反応性を評価するために、RF電池のセル抵抗率(Ω・cm2)を測定した。セル抵抗率が低いということは、電極の電池反応性が良いということである。セル抵抗率の測定手順は以下の通りである。各試料のRF電池を用いて、電流密度が256mA/cm2の定電流で充放電を行った。この試験では、複数サイクルの充放電を行った。試験では、切替電圧の上限と下限を設定し、充電時に電圧が上限に達したら放電に切り替え、放電時に電圧が下限に達したら充電に切り替えた。各サイクルの充放電後、各試料についてセル抵抗率(Ω・cm2)を求めた。セル抵抗率は、複数サイクルのうち、任意の1サイクルにおける充電時平均電圧及び放電時平均電圧を求め、{(充電時平均電圧と放電時平均電圧の差)/(平均電流/2)}×セル有効面積によって求めた。電解液の温度は35℃であった。ここで、メソ孔比表面積が大きくなると、電解液の流通抵抗に由来する抵抗成分が増加することで、セル抵抗率が減少し難くなる。本試験では、BET比表面積、メソ孔比表面積、及びY/Xの大小に基づくセル抵抗率の低減度合いを適切に評価できるように、実測したセル抵抗率から流通抵抗の影響を排除したセル抵抗率を求めた。そのセル抵抗率を表1に示す。
【0076】
各試料の電極の耐久性を評価するために、以下の手順に従って電極重量減少率(%/年)を求めた。まず、セル抵抗率を測定した後のRF電池を分解し、正極電極と負極電極を取り出した。正極電極の方が、負極電極よりも消耗していた。従って、消耗の激しい正極電極の電極重量減少率を、各試料における電極の耐久性の指標とする。電極重量減少率を求めるにあたり、充放電後の正極電極の重量の減少割合を求めた。前記減少割合は、(W1-W2)/W1を百分率(%)で示したものである。W1は、RF電池に組み込む前に測定しておいた正極電極の重量である。W2は、取り出した正極電極を洗浄し、乾燥させた後に測定した正極電極の重量である。その減少割合を年換算した値が、電極重量減少率である。電極重量減少率の値を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1に示されるように、Y/Xが40%以上で、かつYが1.0m2/g以上30m2/g未満である電極を用いた試料No.1から試料No.9のRF電池のセル抵抗率は0.93Ω・cm2以下であった。このセル抵抗率の値は、BET比表面積が大きい試料No.10及び試料No.11のRF電池1のセル抵抗率に匹敵するものであった。従って、試料No.1から試料No.9の電極は電池反応性に優れることが分かった。
【0079】
試料No.1から試料No.9における電極重量減少率は、試料No.10及び試料No.11における電極重量減少率よりも格段に小さかった。従って、電極のY/Xが40%以上で、かつYが1.0m2/g以上30m2/g未満であれば、電極の消耗が大幅に抑制されることが分かった。
【0080】
試料No.1から試料No.9のRF電池を比較すると、BET比表面積が40m2/g以下の試料No.1から試料No.8のRF電池における電極重量減少率は、試料No.9のRF電池における電極重量減少率よりも有意に低かった。従って、Y/XとYの限定に加えて、Xを限定することも電極の耐久性に重要な影響を与えることが分かった。
【0081】
試料No.1から試料No.9のRF電池を比較すると、メソ孔比表面積が15m2/g以下、更には10m2/g以下であれば、電極重量減少率が低くなり易いことが分かった。但し、メソ孔比表面積が小さくなると、セル抵抗率が大きくなり易い。RF電池を作製する場合、電池反応性と耐久性とのバランスを考慮すべきである。
【0082】
Y/Xが40%未満である試料No.10のRF電池のセル抵抗率は低かった。試料No.10のRF電池のセル抵抗率が低い理由は、試料No.10の電極におけるBET比表面積及びメソ孔比表面積が大きいからであると推察される。BET比表面積及びメソ孔比表面積が大きければ、電極と電解液との接触面積が大きくなる。しかし、接触面積が大き過ぎるため、試料No.10の電極の重量減少率は100%/年以上であった。
【0083】
Y/Xが40%以上であるが、Yが30m2/g以上である試料No.11のRF電池のセル抵抗率は低かった。試料No.11のRF電池のセル抵抗率が低い理由は、試料No.11の電極におけるBET比表面積及びメソ孔比表面積が大きいからであると推察される。しかし、上述のように電極と電解液との接触面積が大き過ぎるため、試料No.11の電極の重量減少率は88%/年以上であった。
【符号の説明】
【0084】
1 レドックスフロー電池(RF電池)
2 正極電極
3 負極電極
4 カーボン繊維
5 カーボン粒子
6 カーボンバインダー残渣
10 電池セル
12 正極タンク、13 負極タンク
20 基材
21 メソ孔、22 触媒、25 マイクロ孔、26 マクロ孔
30 セルフレーム
31 双極板、32 枠体
33,34 給液マニホールド、35,36 排液マニホールド
33s,34s 給液スリット、35s,36s 排液スリット
80 交流/直流変換器、81 変電設備
90 電力系統、91 発電部、92 負荷
100 セルスタック
101 隔膜、102 正極セル、103 負極セル
108,109 往路配管、110,111 復路配管
112,113 ポンプ
200 サブスタック
210 給排板、220 エンドプレート、230 締付機構