(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075826
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】透明導電性膜の製造方法、及び透明導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240529BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240529BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C23C14/08 D
C23C14/34
C23C14/56 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187008
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】中島耕平
(72)【発明者】
【氏名】春野颯
(72)【発明者】
【氏名】橋本岳人
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA15
4K029BA43
4K029BA47
4K029BC03
4K029CA06
4K029DA04
4K029DC05
4K029DC16
4K029DC35
4K029JA10
4K029KA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】弗素ドープ酸化錫(FTO)からなる導電性膜の製造方法、及び該導電性膜を有する透明導電性フィルムの製造方法。
【解決手段】弗素ドープ酸化錫膜の製造方法であって、スパッタリング装置を使用し、酸化錫のターゲット、有機弗素化合物の気体、不活性ガス及び酸素を用い、(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記酸化錫のターゲットを装着する工程;(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を第1の所定の圧力に減圧する工程;(3)上記有機弗素化合物の気体、上記不活性ガス及び上記酸素の混合気体を上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が上記第1の所定圧力以上である第2の所定圧力となるように導入する工程;(4)上記ターゲットに電力を投入しスパッタリングにより基材面上に上記弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程を含み、上記混合気体の混合割合を特定の割合に制御する、製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弗素ドープ酸化錫膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し
(A)酸化錫のターゲット、(B)有機弗素化合物の気体、(C)不活性ガス、及び(D)酸素を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)酸化錫のターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を第1の所定の圧力に減圧する工程;
(3)上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C)不活性ガス、及び上記(D)酸素の混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が上記第1の所定の圧力以上である第2の所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程
を含み、ここで、上記混合気体の混合割合が、
上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C)不活性ガス、及び上記(D)酸素の合計の体積を100%として、
上記(B)有機弗素化合物の気体 0.01~2.5%、
上記(C)不活性ガス 99.98~95.5%、及び
上記(D)酸素 0.01~2.0%
である上記製造方法。
【請求項2】
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記(A)酸化錫のターゲットが、純度3N以上の酸化錫(IV)のターゲットである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記工程(4)において、上記(A)ターゲットに投入する電力が交流電力である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
上記(C)不活性ガスが(C-1)貴ガスである請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
透明導電性フィルムの製造方法であって、上記基材としてフィルム又はシートを用い、該基材の少なくとも一方の面の上に、請求項1~5の何れか1項に記載の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法を使用して弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程を含む、上記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性膜の製造方法、及び透明導電性フィルムの製造方法に関する。更に詳しくは、弗素ドープ酸化錫(FTO)からなる導電性膜の製造方法、及び該導電性膜を有する透明導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性フィルムは、絶縁性の透明フィルムの少なくとも一方の面、通常は片面の上に、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や酸化錫(TO)などの半導体セラミックスの薄膜を形成することにより、導電性を有し、かつ光学的に透明なフィルムである。これらの中でも、錫ドープ酸化インジウム(ITO)を用いた透明導電性フィルムが、導電性と透明性とのバランスに優れることから、タッチパネルや太陽電池などの透明電極に広く使用されている。一方、錫ドープ酸化インジウム(ITO)には、資源として希少なインジウムを主原料としているという事業の持続性に係る不都合がある。そこで、錫ドープ酸化インジウム(ITO)の替わりに弗素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。しかし、弗素ドープ酸化錫(FTO)を用いた透明導電性膜には、錫ドープ酸化インジウム(ITO)のものと比較して、透明性が不十分であり、導電性と透明性とのバランスに劣るという不都合がある。また、弗素ドープ酸化錫(FTO)を用いた透明導電性膜では、アニール処理によりキャリア電子密度を高くし、導電性を高めることが広く行われている。一方、アニール処理によりキャリア電子密度を高めることで、光学吸収も高まるため、透明性は低下してしまうという不都合があった。そこで、非常に高い温度(例えば、500℃)でアニール処理を行うことにより、酸化錫の酸素の一部を脱離させてキャリア電子の移動度を高め、透明性と導電性とを両立させることが提案されている(非特許文献1)。しかし、この方法には、耐熱性の高い基材を使用する必要があるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-242340号公報
【特許文献2】特開2013-060632号公報
【特許文献3】特表2014-529185号公報
【特許文献4】特表平06-506266号公報
【特許文献5】特開2019-059027号公報
【特許文献6】特開2019-142761号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ダイキン工業ホームページのWEBマガジンに掲載された内容の紹介記事ft―net.co.jp/topic/?p=684
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、弗素ドープ酸化錫(FTO)からなる導電性膜の新規な製造方法、及び該導電性膜を有する透明導電性フィルムの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の製造方法により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1].
弗素ドープ酸化錫膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し
(A)酸化錫のターゲット、(B)有機弗素化合物の気体、(C)不活性ガス、及び(D)酸素を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)酸化錫のターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を第1の所定の圧力に減圧する工程;
(3)上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C)不活性ガス、及び上記(D)酸素の混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が上記第1の所定の圧力以上である第2の所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程
を含み、ここで、上記混合気体の混合割合が、
上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C)不活性ガス、及び上記(D)酸素の合計の体積を100%として、
上記(B)有機弗素化合物の気体 0.01~2.5%、
上記(C)不活性ガス 99.98~95.5%、及び
上記(D)酸素 0.01~2.0%
である上記製造方法。
[2].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である[1]項に記載の製造方法。
[3].
上記(A)酸化錫のターゲットが、純度3N以上の酸化錫(IV)のターゲットである[1]項に記載の製造方法。
[4].
上記工程(4)において、上記(A)ターゲットに投入する電力が交流電力である[1]項に記載の製造方法。
[5].
上記(C)不活性ガスが(C-1)貴ガスである[1]項に記載の製造方法。
[6].
透明導電性フィルムの製造方法であって、上記基材としてフィルム又はシートを用い、該基材の少なくとも一方の面の上に、[1]~[5]項の何れか1項に記載の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法を使用して弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程を含む、上記製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法を使用することにより、導電性と透明性とのバランスが高い弗素ドープ酸化錫(FTO)からなる透明導電性膜、及び該導電性膜を有する透明導電性フィルムを生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「無機物質」の用語は、2種以上の無機物質を含む混合物をも含む用語として使用する。「有機化合物」の用語は、2種以上の有機化合物を含む混合物をも含む用語として使用する。「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。
【0010】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0011】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0012】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0013】
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行、直交、及び垂直などの用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0014】
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、スパッタリング装置を使用し、(A)酸化錫のターゲット、(B)有機弗素化合物の気体、及びスパッタガスを用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)酸化錫のターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を第1の所定の圧力に減圧する工程;
(3)上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記スパッタガスの混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が前記第1の所定の圧力以上である第2の所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程を含む。
【0015】
本発明の製造方法により形成される弗素ドープ酸化錫膜は、上記(A)酸化錫、及び上記(B)有機弗素化合物の気体に由来する原子を含む。本発明の製造方法により形成される弗素ドープ酸化錫膜は、通常は、上記(A)酸化錫、及び上記(B)有機弗素化合物の気体に由来する原子を含み、かつ上記(A)酸化錫が上記(B)有機弗素化合物の気体により変性された化合物を含む。
【0016】
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、上記スパッタガスとして(C)不活性ガスと(D)酸素との混合気体を用いる。本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、典型的な一実施形態において、上記スパッタガスとして(C-1)貴ガスと(D)酸素との混合気体を用いる。
【0017】
本発明の製造方法により形成される弗素ドープ酸化錫膜は、典型的な一実施形態において、上記(A)酸化錫、上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記(D)酸素に由来する原子を含むと考えられる。本発明の製造方法により形成される弗素ドープ酸化錫膜は、典型的な一実施形態において、上記(A)酸化錫、上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記(D)酸素に由来する原子を含み、かつ上記(A)酸化錫が上記(B)有機弗素化合物の気体、及び/又は上記(D)酸素により変性された化合物を含むと考えられる。
【0018】
1.スパッタリング装置:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、スパッタリング装置を使用する。該スパッタリング装置としては、特に制限されず、公知のスパッタリング装置を使用することができる。上記スパッタリング装置としては、フッ素ドープ酸化錫膜を生産性良く形成する観点から、フィルムロールからフィルム基材を繰り出し、該フィルム基材の面の上にフッ素ドープ酸化錫膜を形成した後、フィルムロールとして巻き取る機構を有するスパッタリング装置(以下、「ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置」と言うことがある)が好ましい。
【0019】
図1はロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置の一例を示す概念図である。以下、
図1を適宜参照しながらロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置について説明する。
図1の装置は、スパッタ室1内に、繰り出しロール2、移送ロール3、スパッタロール4、移送ロール3’、及び巻き取りロール5を有し、これらにより、フィルムロール12からフィルム基材10を繰り出し、フィルム基材10の面の上に弗素ドープ酸化錫膜(図示せず)を形成した後、フィルム基材10の面の上に該フッ素ドープ酸化錫膜(図示せず)を有する積層体11をフィルムロール12’として巻き取ることができるようになっている。
【0020】
ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置としては、2個以上のスパッタロールを有する装置を使用してもよい。2個以上のターゲット設置冶具を容易に設置できるようになり、これにより2個以上のターゲットを使用して成膜速度を高め、ライン速度(生産性)を高めることができるようになる。また1個目のスパッタロールにおいて、フィルム基材の面の上にアンカー膜(フィルム基材と弗素ドープ酸化錫膜との層間密着強度を高めるためのアンカーとして機能する膜)を形成した後、2個目以後のスパッタロールにおいて、該アンカー膜の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成することにより、1回のパスで、上記フィルム基材、上記アンカー膜、及び上記弗素ドープ酸化錫膜を有する積層体を得ることができるようになる。
【0021】
スパッタ室1はスパッタガス導入口6を有し、気体をスパッタガス導入口6からスパッタ室1内に導入することができるようになっている。
【0022】
スパッタ室1は排気口7を有し、排気装置(図示せず)を使用して排気口7から排気し、所定の圧力に保つことができるようになっている。上記排気装置としては、上記所定の圧力を保つことのできる能力を有するものであれば、特に制限されない。上記排気装置としては、例えば、油回転ポンプなどの容積移送式真空ポンプ、ターボ分子ポンプなどの運動量輸送式真空ポンプ、クライオポンプなどの気体溜め込み式真空ポンプ、及びこれらの組み合わせなどをあげることができる。
【0023】
図1の装置は、2個のターゲット設置冶具8、8’を有し、各1個(合計2個)のターゲット9、9’を装着することができるようになっている。そして、ターゲット設置冶具8、8’に装着されたターゲット9、9’には、成膜条件を適宜調整することができるようにするため、それぞれ別のインピーダンス整合装置(図示せず)、高周波電源(図示せず)が接続されており、ターゲット9、9’への投入電力を個別に制御することができるようになっている。またターゲット設置冶具8、8’の内部には、水などの媒体の流路が設けられており、ターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御できるようになっている。
【0024】
ターゲット設置冶具8、8’に装着されたターゲット9、9’はスパッタロール4に対向配置されている。ターゲット9とスパッタロール4との距離(ターゲット9’とスパッタロール4との距離)は、特に制限されないが、通常1~20cm、好ましくは3~15cm、より好ましくは5~12cm程度であってよい。
【0025】
2.(A)酸化錫のターゲット:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、上記(A)酸化錫のターゲットを用いる。上記(A)酸化錫は、典型的な一実施形態において、高純度の酸化錫(IV)(SnO2)であってよい。ここで高純度とは、純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上であることを意味する。
【0026】
また上記(A)酸化錫は、その他の一実施形態において、酸化錫(IV)(SnO2)、酸化錫(II)(SnO)、三酸化二錫(Sn2O3)、及び四酸化三錫(Sn3O4)からなる群から選択される1種以上の混合物であってよい。
【0027】
上記(A)酸化錫は、取扱性の観点から、予め焼結などの公知の方法により成形し、焼結体などの成形体をターゲットとして用いることが好ましい。上記(A)酸化錫のターゲットの形状(上記成形体の形状)は、使用するスパッタリング装置の仕様を勘案し、上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚が均一になるようにする観点から適宜選択することができる。
【0028】
上記スパッタリング装置としてロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する場合、上記(A)酸化錫のターゲットの形状は、該ターゲットと対向配置されるスパッタロールの仕様(幅、直径)、上記ターゲットと上記スパッタロールとの距離、使用するフィルム基材の幅、及び該フィルム基材の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を有する積層体の有効幅(該積層体の製品としての幅)を勘案し、上記積層体の有効幅内において、上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚や組成が均一になるように、特に該膜厚や該組成の横方向の振れが生じないようにする観点、及び上記スパッタロールの汚染を抑制する観点から適宜選択することができる。
【0029】
上記スパッタリング装置としてロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する場合、上記(A)酸化錫のターゲットの形状は直方体であってよい。該直方体の横の長さ(該直方体の縦横面において、スパッタロールと対向配置したとき、該スパッタロールの幅方向に対応する辺の長さ)は、上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚や組成の均一性を高めて上記積層体の有効幅を広くする観点から、通常、上記積層体の有効幅以上の長さ、好ましくは上記フィルム基材の幅以上の長さ、より好ましくは上記フィルム基材の幅+3cm以上の長さであってよい。
【0030】
ターゲットとスパッタロールとの間に、スパッタロールの汚染を抑制する観点から、スパッタロールの脇をマスクする形状の防着板を、スパッタロールの両方の脇のそれぞれに対向する位置に設けるのは、好ましい実施形態の1つである。ここで、「スパッタロールの脇」とは、スパッタロールにフィルム基材を抱かせたとき、該フィルム基材に覆われている部分の脇のスパッタロールが露出している部分を意味する。
図2は防着板を設けたロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置の1例を示す写真である。
図2の装置では、スパッタロール4の脇をマスクする形状の防着板13が、防着板取付冶具14により、スパッタロール4の脇と対向する位置に取り付けられている。そして、上記(A)酸化錫のターゲットは、防着板13、防着板取付冶具14、写真で示した側とは反対側の防着板、写真で示した側とは反対側の防着板取付冶具で構成される空間内に、スパッタロール4と対向するように設置されている。
【0031】
上記(A)酸化錫のターゲットの形状は、例えば、上記スパッタロールが幅70cm、直径40cm、上記ターゲットと上記スパッタロールとの距離8cm、上記フィルム基材の幅50cm、上記積層体の有効幅40cmである場合には、縦の長さが通常1~30cm、好ましくは5~20cm、横の長さが通常40~60cm、好ましくは53~58cm、及び高さが通常0.1~5cm、好ましくは0.2~2cm程度の直方体であってよい。
【0032】
3.(B)有機弗素化合物の気体:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、上記(A)酸化錫に弗素をドープするのに上記(B)有機弗素化合物の気体を用いる。上記(B)有機弗素化合物は、弗素・炭素結合を有する化合物であり、典型的には炭化水素などの有機化合物の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物である。
【0033】
上記(B)有機弗素化合物は、上記弗素ドープ酸化錫膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に気体の状態を保つことのできる有機弗素化合物であること以外は特に制限されない。上記(B)有機弗素化合物は、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機弗素化合物に限定されない。上記(B)有機弗素化合物は、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる有機弗素化合物であってよい。上記(B)有機弗素化合物は、上記スパッタガスと上記(B)有機弗素化合物の気体とを混合し、両者の混合気体を調製する際の作業性の観点から、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機弗素化合物であってよい。
【0034】
上記(B)有機弗素化合物としては、例えば、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロメタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどの飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;並びに、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、弗化ビニリデン、弗化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレン等のα-オレフィンの1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物などの不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物などをあげることができる。
【0035】
上記(B)有機弗素化合物の気体としては、これらの1種又は2種以上の混合物の気体を用いることができる。
【0036】
4.スパッタガス
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、上記スパッタガスとして上記(C)不活性ガスと上記(D)酸素との混合ガスを用いる。
【0037】
上記(C)不活性ガスは、典型的な一実施形態において、上記(C-1)貴ガスであってよい。上記(C)不活性ガスは、上記(C-1)貴ガスと窒素との混合気体であってよい。上記(C-1)貴ガスは18族元素の総称である。上記(C-1)貴ガスは、スパッタガスとして用いる観点から、好ましくはアルゴン、クリプトンであってよい。
【0038】
上記工程(3)において、上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記スパッタガスの混合気体を、上記スパッタ室内が第2の所定の圧力となるように導入する際における、上記混合気体の混合割合は、通常、上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記スパッタガス(上記(C)不活性ガスと上記(D)酸素との混合気体)の合計の体積を100%として、上記(B)有機弗素化合物の気体 0.01~2.5%、上記(C)不活性ガス 99.98~95.5%、及び上記(D)酸素 0.01~2.0%であってよい。ここで、上記(B)有機弗素化合物の気体の割合は、導電性と透明性とのバランスの観点から、好ましくは0.05~2.0%、より好ましくは0.1~1.5%であってよい。上記(D)酸素の割合は、導電性と透明性とのバランスの観点から、好ましくは0.05~1.6%、より好ましくは0.1~1.2%であってよい。導電性と透明性とのバランスの観点から、更に好ましくは上記(B)有機弗素化合物の気体の割合が0.1~1.5%であり、かつ上記(D)酸素の割合が0.1~1.2%であってよい。
【0039】
上記工程(3)において、上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C-1)貴ガス、及び上記(D)酸素の混合気体を、上記スパッタ室内が第2の所定の圧力となるように導入する際における、上記混合気体の混合割合は、通常、上記(B)有機弗素化合物の気体、上記(C-1)貴ガス、及び上記(D)酸素の合計の体積を100%として、上記(B)有機弗素化合物の気体 0.01~2.5%、上記(C-1)貴ガス 99.98~95.5%、及び上記(D)酸素 0.01~2.0%であってよい。ここで、上記(B)有機弗素化合物の気体の割合は、導電性と透明性とのバランスの観点から、好ましくは0.05~2.0%、より好ましくは0.1~1.5%であってよい。上記(D)酸素の割合は、導電性と透明性とのバランスの観点から、好ましくは0.05~1.6%、より好ましくは0.1~1.2%であってよい。導電性と透明性とのバランスの観点から、更に好ましくは上記(B)有機弗素化合物の気体の割合が0.1~1.5%であり、かつ上記(D)酸素の割合が0.1~1.2%であってよい。
【0040】
5.基材:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法は、基材の少なくとも一方の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成する。上記基材は、該基材の少なくとも一方の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を有する積層体又は成形体(以下、上記基材の少なくとも一方の面の上に上記弗素ドープ酸化錫膜を有する上記積層体又は上記成形体の意味で単に「上記積層体」ということがある)の用途に応じて適宜選択することができる。
【0041】
上記基材の上記弗素ドープ酸化錫膜形成面は、典型的な一実施形態において、高度に平滑なものであってよい。上記基材の上記弗素ドープ酸化錫膜形成面は、その他の一実施形態において、凹凸などの三次元形状を有するものであってもよい。ここで、「三次元形状」とは、凹凸などの非平面形状を少なくともその一部に含む形状を意味する。上記基材は、典型的な一実施形態において、フィルム、シート、又は板である。
【0042】
上記基材としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、及び石英ガラスなどの無機ガラスフィルム、無機ガラスシート又は無機ガラス板をあげることができる。
【0043】
上記基材としては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂;などの樹脂フィルム、樹脂シート、又は樹脂板をあげることができる。これらの樹脂フィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらの樹脂フィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂フィルムを包含する。これらの樹脂シートは無延伸シート、一軸延伸シート、及び二軸延伸シートを包含する。またこれらの樹脂シートは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂シートを包含する。これらの樹脂板は、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂板を包含する。
【0044】
上記基材としては、その少なくとも一方の面の上に、機能層を有するものを用いてもよい。この場合、上記弗素ドープ酸化錫膜の形成面は該機能層側の面であってもよく、上記機能層とは反対側の面であってもよい。上記基材として、上記樹脂フィルム、上記樹脂シート、又は上記樹脂板の少なくとも一方の面の上に、機能層を有するものを用い、該機能層側の面、又は上記機能層とは反対側の面を上記弗素ドープ酸化錫膜の形成面としてもよい。
【0045】
上記機能層としては、例えば、硬度向上機能、アンカー機能、低屈折率、高屈折率、赤外線遮蔽、赤外線反射、紫外線遮蔽、電磁波遮蔽、電磁波反射、視界制御(目隠し)、及び視野角制御などの機能を有するものをあげることができる。上記機能層は、塗料を用いて形成される塗膜(ハードコートを含む)であってもよく、スパッタリング法、真空蒸着法、及び化学気相成長法などのドライコーティング法で形成される膜であってもよい。
【0046】
上記基材として無機ガラスを用いる場合、無機ガラスフィルム、無機ガラスシート又は無機ガラス板の厚みは特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記積層体の取扱性の観点からは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。また無機ガラスの耐衝撃性の観点からは、通常0.8mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上であってよい。上記積層体を使用された物品の軽量化の観点から、通常6mm以下、好ましくは4.5mm以下、より好ましくは3mm以下であってよい。
【0047】
上記基材として樹脂を用いる場合、樹脂フィルム、樹脂シート、又は樹脂板の厚みは、特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記積層体の取扱性の観点からは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。上記積層体を高い剛性を必要としない用途に用いる場合には、経済性の観点から、通常250μm以下、好ましくは150μm以下であってよい。上記積層体を高い剛性を必要とする用途に用いる場合には、剛性を保持する観点から、通常300μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上であってよい。また上記積層体を使用された物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは1200μm以下、より好ましくは1000μm以下であってよい。
【0048】
上記基材は、弗素ドープ酸化錫膜の高い透明性を活用する観点から、高い透明性を有するものが好ましい。上記基材の全光線透過率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上であってよい。ここで、全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠し、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH4000(商品名)」を使用して測定することができる。
【0049】
上記弗素ドープ酸化錫膜の厚みは、導電性、透明性の所望のレベル、及び上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記弗素ドープ酸化錫膜の厚みは、透明性、耐クラック性の観点から、通常2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.2μm以下であってよい。一方、上記弗素ドープ酸化錫膜の厚みは、導電性の観点から、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であってよい。
【0050】
6.第1の実施形態:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法であって、
図1に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0051】
先ず、(A)酸化錫のターゲット9、9’をターゲット設置冶具8、8’にそれぞれ装着する。(A)酸化錫のターゲット9と(A)酸化錫のターゲット9’とは同一のターゲットであってもよく、互いに異なる組成のターゲットであってもよい。(A)酸化錫のターゲット9と(A)酸化錫のターゲット9’とは、弗素ドープ酸化錫膜の組成の均一性の観点から、好ましくは同一組成のターゲットであってよい。
【0052】
次に、フィルム基材10を通紙する。即ち、繰り出しロール2にフィルム基材10のフィルムロール12を、巻き取りロール5に巻き取り管(図示せず)をセットし、フィルム基材10をフィルムロール12から繰り出し、移送ロール3を介してスパッタロール4に抱かせ、移送ロール3’を介して、巻き取りロール5にセットした上記巻き取り管で巻き取ることができるようにする。なお、フィルム基材10の通紙は、(A)酸化錫のターゲット9、9’をターゲット設置冶具8、8’にそれぞれ装着する前に行ってもよい。
【0053】
次に、スパッタ室1内を、排気装置により排気口7から排気して、成膜時のスパッタ室1内の第2の所定の圧力以下の第1の所定圧力に減圧する。上記第1の所定の圧力は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~6×10-3Pa程度であってよい。
【0054】
次に、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合気体を、スパッタガス導入口6からスパッタ室1内に、成膜時にスパッタ室1内が第2の所定の圧力となるように導入する。このとき、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスをそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口7の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力(第2の所定の圧力)を一定にしてもよい。
【0055】
上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合比については上述した。
【0056】
上記(B)有機弗素化合物として、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる化合物を用いる場合には、予め所定の温度、圧力にし、気体の状態にして用いることは言うまでもない。この場合、スパッタ室1内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0057】
上記成膜時のスパッタ室1内の第2の所定の圧力(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0058】
続いて、(A)酸化錫のターゲット9、9’にそれぞれ所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところで、フィルム基材10を所定のライン速度で走行させながら、フィルム基材10の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成する。このとき、ターゲット設置冶具8、8’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、(A)酸化錫のターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御する。ここで、投入する電力は、直流電流を使用するにはターゲットが十分に高い導電性を有するものである必要のあることから、通常は交流電力、好ましくは高周波数の交流電力である。
【0059】
上記弗素ドープ酸化錫膜の組成は、(A)酸化錫のターゲット9、9’に投入する電力、及び上記混合気体の混合比を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量及び混合比と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0060】
上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚は、(A)酸化錫のターゲット9、9’に投入する電力、上記混合気体の混合比及び流量(成膜時のスパッタ室1内の圧力(第2の所定の圧力))、並びにライン速度(フィルム基材10の走行速度)を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合気体の混合比及び流量、並びにライン速度と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。またフィルム基材10を所定距離で往復させて、スパッタロール4の(A)酸化錫のターゲット9、9’ に対向する位置(即ち、上記弗素ドープ酸化錫膜が形成される位置)を2回以上通過させてもよい。ライン速度(フィルム基材10の走行速度)を速めて、フィルム基材10が熱により撓む、フィルム基材10が撓むことにより上記弗素ドープ酸化錫膜が割れるなどのトラブルを抑制することができる。また上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚を厚くしようとする場合においても、安定したライン速度を確保することが容易になる。
【0061】
上記弗素ドープ酸化錫膜の厚みについては上述した。
【0062】
上記弗素ドープ酸化錫膜を形成後、透明性、導電性の観点から、フィルム基材10の耐熱性を勘案した温度以下において、アニール処理をしてもよい。
【0063】
7.第2の実施形態:
本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法であって、
図3に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0064】
先ず、(A)酸化錫のターゲット16、16’をターゲット設置冶具15、15’にそれぞれ装着する。(A)酸化錫のターゲット16と(A)酸化錫のターゲット16’とは同一のターゲットであってもよく、互いに異なる組成のターゲットであってもよい。(A)酸化錫のターゲット16と(A)酸化錫のターゲット16’とは、弗素ドープ酸化錫膜の組成の均一性の観点から、好ましくは同一組成のターゲットであってよい。
【0065】
次に、スパッタテーブル18に基材19を取り付け、所定の回転速度で回転させる。スパッタテーブル18の上記所定の回転速度は、通常1~1000回転/分、好ましくは2~50回転/分であってよい。また上記弗素ドープ酸化錫膜の成膜中、一定の回転速度であってもよく、所望により、回転速度を変化させてもよい。
【0066】
次に、スパッタ室20内を、排気装置により排気口21から排気して、成膜時のスパッタ室20内の第2の所定の圧力以下の第1の所定の圧力にする。上記第1の所定の圧力は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~5×10-3Pa程度であってよい。
【0067】
次に、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合気体を、スパッタガス導入口22からスパッタ室20内に、成膜時にスパッタ室20内が第2の所定の圧力となるように導入する。このとき、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスをそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口21の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力(第2の所定の圧力)を一定にしてもよい。
【0068】
上記(B)有機弗素化合物の気体と上記スパッタガスとの混合比については上述した。
【0069】
上記(B)有機弗素化合物として、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる化合物を用いる場合には、予め所定の温度、圧力にし、気体の状態にして用いることは言うまでもない。この場合、スパッタ室20内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0070】
上記成膜時のスパッタ室12内の第2の所定の圧力(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0071】
続いて、(A)酸化錫のターゲット16、16’にそれぞれ所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところでシャッター17、17’を開き、各ターゲットをスパッタリングし、基材19の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を成膜する。このとき、ターゲット設置冶具15、15’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、(A)酸化錫のターゲット16、16’の温度を所定の温度に制御する。また放電状態が安定するまでシャッター17、17’を閉じておくことにより、プリスパッタ(ターゲット16、16’表面の汚れや水などの汚染物を除去する(電力を投入することにより飛ばす)操作)の際に、基材19の面の上に上記汚染物が付着しないようにすることができる。ここで、投入する電力は、直流電流を使用するにはターゲットが十分に高い導電性を有するものである必要のあることから、通常は交流電力、好ましくは高周波数の交流電力である。
【0072】
上記弗素ドープ酸化錫膜の組成は、(A)酸化錫のターゲット16、16’に投入する電力、及び上記混合気体の混合比を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量及び混合比と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0073】
上記弗素ドープ酸化錫膜の膜厚は、(A)酸化錫のターゲット16、16’に投入する電力、並びに上記混合気体の混合比及び流量(成膜時のスパッタ室1内の圧力(第2の所定の圧力))を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、並びに混合気体の混合比及び流量と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0074】
上記弗素ドープ酸化錫膜の厚みについては上述した。
【0075】
上記弗素ドープ酸化錫膜を形成後、透明性、導電性の観点から、基材19の耐熱性を勘案した温度以下において、アニール処理をしてもよい。
【0076】
上記弗素ドープ酸化錫膜中において、原材料として用いた上記(A)酸化錫、上記(B)有機弗素化合物の気体、及び上記(D)酸素により、どのような化合物が形成されているかは、エックス線光電子分光法(以下、「XPS分析」と略すことがある。)により確認することができる。XPS分析は、例えば、XPS分析装置を使用し、エックス線としてアルミニウムのKα線、又はマグネシウムのKα線を用いて行うことができる。XPS分析については、下記の参考文献などを参照することができる。
参考文献:M.P.Seah and W.A.Derch,Surface and Interface Analysis 1,2(1979)
【0077】
7.透明導電性フィルム:
本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、上記基材としてフィルム又はシートを用い、該基材の少なくとも一方の面の上に、本発明の弗素ドープ酸化錫膜の製造方法を使用して弗素ドープ酸化錫膜を形成する工程を含む。該弗素ドープ酸化錫膜の製造方法としては、6.第1の実施形態として上述した方法が好ましく適用される。フィルム又はシートの基材については、5.基材において上述した。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
測定方法
(イ)膜厚:
弗素ドープ酸化錫膜の膜厚は予備実験により求めた。先ず、予め基材に耐熱性・低アウトガス性の粘着テープ(日東電工株式会社製「カプトンテープ P-221(商品名)」)を部分的に貼り付けておき、スパッタリング後にそれを剥離して膜厚分の段差を形成した。株式会社ミツトヨ製の小型表面粗さ測定機「SJ-411(商品名)」を用いて測定速度:0.5mm/s、測定距離:1.5mmで段差部の形状プロファイルを測定し、そこから読み取った段差を膜厚とした。
【0080】
(ロ)表面抵抗率:
JIS K7194-1994導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法に、下記の変更点を除いて準拠し、試験片を温度23±2℃及び相対湿度50±5%の環境下で24時間以上状態調節をした後、同環境下において、日東精工アナリテック株式会社の抵抗率計「ロレスタGP MCP-T610型(商品名)」、及び該装置付属のASP探針を使用し、積層体の弗素ドープ酸化錫膜面について抵抗(単位:Ω)を測定した。表面抵抗率は、測定された抵抗と補正係数Fとの積として算出した。なお、表面抵抗率の単位は「Ω」であるが、混同を避けるため慣例に従い、「Ω/□」と表記した。また、表中では6.8×102を、6.8E+02と表記した。
【0081】
(ロ-1)変更点(測定位置等)
下記例1-1~12では、下記基材(P-1)の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成したものをそのまま試験片とし、その中央と10mm左右の3か所を測定位置とした。試験片数は1個とした。ここで、補正係数Fは、JIS K7194-1994の「参考 補正係数Fの計算方法」に従い算出した。
【0082】
なお例2(フィルム基材の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成したもの)では、フィルムのマシン方向に80mm×フィルムの幅方向に50mmの大きさに切り出して試験片とし、上記JIS規格の規定に準拠した位置(即ち、上記JIS規格
図5の丸数字の1~5(試験片の中央と四隅))で測定した。試験片数は3個とした。
【0083】
(ハ)透明性:
JIS K7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH4000(商品名)」を使用し、積層体の弗素ドープ酸化錫膜面から光を入射する条件で全光線透過率とヘーズを測定した。
【0084】
使用した原材料
(A)酸化錫のターゲット:
(A-1)株式会社豊島製作所の酸化錫(IV)を焼結して得た直径76.2mm、厚み5mmの円盤形状のターゲット。純度4N。
(A-2)株式会社豊島製作所の酸化錫(IV)を焼結して得た縦127mm、横380mm、厚み5mmの直方体形状のターゲット。純度4N。
【0085】
(B)有機弗素化合物の気体:
(B-1)テトラフルオロメタン(純度99.999%以上のグレード)。
【0086】
(C)不活性ガス:
(C-1)アルゴン(純度99.999%以上のグレード)
【0087】
(D)酸素:
(D-1)酸素(純度99.999%以上のグレード)
【0088】
(P)基材:
(P-1)松浪硝子工業株式会社の平滑なソーダ石灰ガラス板(品名:マイクロスライドガラス、水縁磨品、厚み:1.0mm、寸法:40×40mm)。
(P-2)東レ株式会社の厚み125μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー(商品名)」。
【0089】
例1-1
バッチ方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-1)、上記(B-1)、上記(C-1)、及び上記(D-1)を用い、上記(P-1)の一方の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成した。
(1)先ず、上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A-1)を装着した。
(2)次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内を、圧力3.0×10-3Paに減圧した。
(3)次に、上記(B-1)の気体流(体積流量0.05sccm)、上記(C-1)の気体流(体積流量19.75sccm)、及び上記(D-1)の気体流(体積流量0.20sccm)を合流、混合させながら上記スパッタ室内に導入し、該スパッタ室内の圧力が0.4Paとなるように排気配管部のシャッター開度を調整した。
(4)続いて、上記(A-1)に高周波数の交流電力を、投入電力200W(単位面積当たりの投入電力量4.4W/cm2)の条件で投入して、スパッタリングを行い、上記(P-1)の一方の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成した。このとき成膜時間は500秒間であり、該弗素ドープ酸化錫膜の膜厚は210nmとなる成膜条件であった。
【0090】
ギヤオーブンにて100℃で60分間のアニール処理を行った後、上記試験(ロ)、(ハ)を行った。結果を表1に示す。
【0091】
本明細書において、体積流量の単位「sccm」は、標準状態(温度0℃、1気圧)で規格化した1分間に流れる気体の体積(単位:cc)である。
【0092】
例1-2~11
例1-1工程(3)における上記(B-1)の気体流、上記(C-1)の気体流、及び上記(D-1)の気体流を合流、混合させる際の体積流量を、表1に示すように変更したこと以外は、例1-1と同様にして弗素ドープ酸化錫膜を形成した。ギヤオーブンにて100℃で60分間のアニール処理を行った後、上記試験(ロ)、(ハ)を行った。結果を表1に示す。
【0093】
例2
図1に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-2)、上記(B-1)、上記(C-1)、及び上記(D-1)を用い、上記(P-2)の一方の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成した。
(1)先ず、上記(P-2)を該スパッタリング装置に通紙した後、上記(A-2)(ターゲット9)をターゲット設置冶具8に装着した。なお、ターゲット設置冶具8’は使用しなかった。即ち、使用した上記(A-2)は1個である。
(2)次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内1を、圧力5.0×10
-3Paに減圧した。
(3)次に、上記(B-1)の気体流(体積流量1.00sccm)、上記(C-1)の気体流(体積流量197.00sccm)、及び上記(D-1)の気体流(体積流量2.00sccm)を合流、混合させながら上記スパッタ室内1に導入し、該スパッタ室内1の圧力が0.4Paとなるように排気口7のシャッター開度を調整した。
(4)続いて、上記(P-2)をライン速度1.0m/分の速度で引巻取りしながら、上記(A-2)(ターゲット9)に投入電力1500W(単位面積当たりの投入電力量3.1W/cm
2)の条件で電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(P-2)の一方の面の上に弗素ドープ酸化錫膜を形成した。またこのとき上記(C-2)を所定距離で往復させて、スパッタロール4の上記(A-2)(ターゲット9)に対向する位置を6回通過するようにした。上記スパッタ膜の厚みが220nmとなる成膜条件であった。
【0094】
上記試験(ロ)、(ハ)を行った。結果を表1に示す。なおアニール処理は行わなかった。
【0095】
【0096】
本発明の製造方法を使用することにより、弗素ドープ酸化錫(FTO)からなる透明導電性膜の導電性と透明性とのバランスを高めることができることが確認された。