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特開2024-75837ガイドワイヤおよびガイドワイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075837
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ガイドワイヤおよびガイドワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
A61M25/09 510
A61M25/09 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187026
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】桑原 里佳
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA28
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB06
4C267BB07
4C267BB11
4C267BB38
4C267CC08
4C267FF03
4C267GG23
4C267GG24
4C267HH01
4C267HH17
(57)【要約】
【課題】コアワイヤの先端部の高い柔軟性および基端部の高い剛性を確保しつつ、引張強度に優れたコアワイヤを有するガイドワイヤを提供する。
【解決手段】ガイドワイヤは、コアワイヤを備える。コアワイヤは、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤと、先端が第1のワイヤの基端に接合され、かつ、コバルトクロム合金からなる第2のワイヤとを有する。コアワイヤは、第1のワイヤと第2のワイヤとの接合面を含む縦断面において、接合面からコアワイヤの先端側に向かって突出する突起を有する。突起は、ニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素とコバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤと、先端が前記第1のワイヤの基端に接合され、かつ、コバルトクロム合金からなる第2のワイヤと、を有するコアワイヤを備え、
前記コアワイヤは、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤとの接合面を含む縦断面において、前記接合面から前記コアワイヤの先端側に向かって突出し、前記ニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と前記コバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる突起を有する、ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記コアワイヤの軸方向に沿った長さが2μm以上である前記突起を有する、ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤであって、
前記突起を構成する前記合金は、Ni、Ti、CoおよびCrを含む、ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記突起の輪郭線が前記コアワイヤの先端側に向かうにつれて前記突起の外周側に向かうように延伸する部分を含むような前記突起を有する、ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記突起を構成する前記合金によって実質的に互いに連続していない2つ以上の前記突起を有する、ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記突起を構成する前記合金は、前記ニッケルチタン合金および前記コバルトクロム合金よりも硬い材料である、ガイドワイヤ。
【請求項7】
ガイドワイヤの製造方法であって、
ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤの端面の粗さを、算術平均高さSaが0.01μm以上、0.5μm以下になるように制御する工程と、
前記第1のワイヤの前記端面と第2のワイヤの端面とを突き合わせて互いに接合することにより、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤとを有するコアワイヤを作製する工程と、
を備える、ガイドワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ガイドワイヤおよびガイドワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体管腔内に挿入されるガイドワイヤにおいて、コアワイヤの先端部の柔軟性を高め、かつ、基端部の剛性を高めるために、形成材料が互いに異なる2種のワイヤを接合してコアワイヤを構成する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ガイドワイヤにおいて、比較的柔軟なNi-Ti系合金からなる先端側ワイヤと、比較的硬いCo-Cr-Ni系合金からなる基端側ワイヤとを、互いに接合してコアワイヤを構成することが開示されている。特許文献1には、異なる金属材料同士を各金属材料が溶融するような熱履歴を経て接合すると、両者の接合部に金属間化合物が形成されて脆くなることから、先端側ワイヤと基端側ワイヤとの接合部の厚みは1μm以下であることが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-113267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ガイドワイヤを構成するコアワイヤの引張強度について十分な検討がなされておらず、改善の余地があった。本明細書に開示された技術は、コアワイヤの先端部の高い柔軟性および基端部の高い剛性を確保しつつ、引張強度に優れたコアワイヤを有するガイドワイヤを提供することを目的とする。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示されるガイドワイヤは、コアワイヤを備える。コアワイヤは、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤと、先端が前記第1のワイヤの基端に接合され、かつ、コバルトクロム合金からなる第2のワイヤとを有する。コアワイヤは、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤとの接合面を含む縦断面において、前記接合面から前記コアワイヤの先端側に向かって突出する突起を有する。突起は、前記ニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と前記コバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる。
【0008】
従来、異なる金属材料同士を各金属材料が溶融するような熱履歴を経て接合すると、両者の接合部に金属間化合物が形成され、接合部が脆くなったり、接合強度が低下したりすると考えられていた。しかしながら、本願発明者は、鋭意研究を行い、コアワイヤが、第1のワイヤと第2のワイヤとの接合部において、第1のワイヤの形成材料であるニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と、第2のワイヤの形成材料であるコバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる突起を有すると、接合部の引張強度が向上することを新たに見出した。これは、突起がニッケルチタン合金側に部分的に入り込むことによって接触面積が大きくなると共にアンカー効果が生じるためであると考えられる。そのため、本ガイドワイヤによれば、コアワイヤの先端部(第1のワイヤにより構成された部分)の高い柔軟性および基端部(第2のワイヤにより構成された部分)の高い剛性を確保しつつ、引張強度に優れたコアワイヤを有するガイドワイヤを提供することができる。
【0009】
(2)上記ガイドワイヤにおいて、前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記コアワイヤの軸方向に沿った長さが2μm以上である前記突起を有する構成としてもよい。本構成を採用すれば、突起によるアンカー効果を大きくすることができ、コアワイヤの引張強度を効果的に向上させることができる。
【0010】
(3)上記ガイドワイヤにおいて、前記突起を構成する前記合金は、Ni、Ti、CoおよびCrを含む構成としてもよい。本構成を採用すれば、突起とニッケルチタン合金およびコバルトクロム合金との接合性を向上させることができ、コアワイヤの引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0011】
(4)上記ガイドワイヤにおいて、前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記突起の輪郭線が前記コアワイヤの先端側に向かうにつれて前記突起の外周側に向かうように延伸する部分を含むような前記突起を有する構成としてもよい。本構成を採用すれば、突起によるアンカー効果をさらに大きくすることができ、コアワイヤの引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0012】
(5)上記ガイドワイヤにおいて、前記コアワイヤは、前記縦断面において、前記突起を構成する前記合金によって実質的に互いに連続していない2つ以上の前記突起を有する構成としてもよい。本構成を採用すれば、実質的に互いに連続していない2つ以上の突起の存在により、コアワイヤの引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0013】
(6)上記ガイドワイヤにおいて、前記突起を構成する前記合金は、前記ニッケルチタン合金および前記コバルトクロム合金よりも硬い材料である構成としてもよい。本構成を採用すれば、比較的硬い突起によってアンカー効果を大きくすることができ、コアワイヤの引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0014】
(7)本明細書に開示されるガイドワイヤの製造方法は、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤの端面の粗さを、算術平均高さSaが0.01μm以上、0.5μm以下になるように制御する工程と、前記第1のワイヤの前記端面と第2のワイヤの端面とを突き合わせて互いに接合することにより、前記第1のワイヤと前記第2のワイヤとを有するコアワイヤを作製する工程とを備える。本ガイドワイヤの製造方法によれば、第1のワイヤと第2のワイヤとの接合部に突起を形成することができ、引張強度に優れたコアワイヤを有するガイドワイヤを製造することができる。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤ、ガイドワイヤを含む医療用システム、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図
図2】第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の構成を示す説明図
図3】第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の構成を示す説明図
図4】ガイドワイヤ100の製造方法の一例を示すフローチャート
図5】ガイドワイヤ100を構成するコアワイヤ10の実施例および比較例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A-1.ガイドワイヤ100の構成:
図1は、本実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図である。図1には、ガイドワイヤ100の縦断面(YZ断面)を示している。図1において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。図1では、ガイドワイヤ100の一部の図示が省略されている。また、図1では、ガイドワイヤ100の後述するコアワイヤ10の中心軸AXがZ軸方向に平行な直線状となった状態を示しているが、ガイドワイヤ100は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。これらの点は、以降の図においても同様である。
【0018】
本明細書では、ガイドワイヤ100およびその各構成部材について、先端側の端を「先端」といい、先端およびその近傍を「先端部」といい、基端側の端を「基端」といい、基端およびその近傍を「基端部」という。また、ガイドワイヤ100およびその各構成部材の外径とは、中心軸AXに直交する方向に沿った大きさを意味する。また、ガイドワイヤ100およびその各構成部材の縦断面とは、中心軸AXを含む断面を意味し、ガイドワイヤ100およびその各構成部材の横断面とは、中心軸AXに直交する断面を意味する。
【0019】
ガイドワイヤ100は、血管等の生体管腔内に挿入される医療用デバイスである。ガイドワイヤ100は、例えば、生体管腔内の所望の位置にカテーテル等の他の医療用デバイスを案内するために用いられる。ガイドワイヤ100の全長は、例えば1500mm~2000mm程度である。
【0020】
ガイドワイヤ100は、コアワイヤ10と、コイル体20と、先端側接合部30と、基端側接合部40とを備える。ガイドワイヤ100の少なくとも一部は、例えば親水性の樹脂によりコーティングされていてもよい。
【0021】
コアワイヤ10は、中心軸AXに沿って延びる長尺状の部材であり、金属線材により構成されている。コアワイヤ10は、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤ11と、コバルトクロム合金からなる第2のワイヤ12とを有する。第2のワイヤ12の先端は、第1のワイヤ11の基端に、例えば溶接により接合されている。中心軸AXに沿って、コアワイヤ10の先端から第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1までの距離は、例えば、50mm~500mm程度である。本実施形態では、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1は、コイル体20の基端よりも基端側に位置する。第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の構成については、後に詳述する。
【0022】
第1のワイヤ11の形成材料であるニッケルチタン合金は、少なくともNiとTiとを含有する合金である。ニッケルチタン合金は、第2のワイヤ12の形成材料であるコバルトクロム合金と比較して、柔軟な材料である。ニッケルチタン合金は、Niを40質量%以上、60質量%以下含有し、かつ、Tiを40質量%以上、60質量%以下含有するものであることが好ましい。
【0023】
第2のワイヤ12の形成材料であるコバルトクロム合金は、少なくともCoとCrとを含有する合金である。コバルトクロム合金は、例えば、Co-Ni-Cr系合金、Co-Cr-Ni-Mo系合金、Co-Cr-W-Ni系合金、Co-Cr-Mo系合金、Co-Ni-Cr-Mo-W-Fe系合金等である。コバルトクロム合金は、少なくともCoとCrとNiとを含有する合金であることが好ましい。例えば、コバルトクロム合金は、9~40質量%Ni-10~30質量%Cr-残部Coという組成の合金や、該組成における残部Coの一部が他の元素で置換された組成の合金であることが好ましい。Coの含有量は、例えば、20~78質量%であってよい。コバルトクロム合金がCo、Cr、Ni以外の元素を含有する場合、Co、Cr、Ni以外の元素の合計含有量は30質量%以下であることが好ましい。また、Co、Cr、Ni以外の元素としてMoを含むことも好ましく、Moの含有量は、例えば、3~15質量%である。
【0024】
図1に示すように、第1のワイヤ11は、細径部13と、テーパ部14と、太径部15とを有している。細径部13は、コアワイヤ10の先端を含む部分である。太径部15は、細径部13に対して基端側に位置する。太径部15の外径は、細径部13の外径より大きく、例えば0.1mm~1.0mm程度である。テーパ部14は、細径部13と太径部15との間に位置している。テーパ部14の外径は、細径部13との境界位置から太径部15との境界位置に向けて徐々に大きくなっている。また、第2のワイヤ12は、略一定の外径を有している。第2のワイヤ12の外径は、第1のワイヤ11の太径部15の外径と略同一である。コアワイヤ10の各位置における横断面の形状は、任意の形状を取り得るが、例えば、円形や矩形である。
【0025】
コイル体20は、1本以上の線材が螺旋状に巻き回された中空円筒状のコイル状部材である。コイル体20を構成する各線材は、単一の素線から構成されていてもよいし、複数の素線が撚り合わされた撚り線であってもよい。コイル体20は、コアワイヤ10の先端部(具体的には、第1のワイヤ11の細径部13、テーパ部14、および、太径部15の一部)の外周を取り囲むように配置されている。コイル体20の全長は、例えば10mm~500mm程度であり、コイル体20の外径は、例えば0.2mm~1.2mm程度である。
【0026】
コイル体20を形成する材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金、ピアノ線といった放射線透過材料や、白金、金、タングステン、またはこれらの合金といった放射線不透過材料が用いられる。
【0027】
先端側接合部30(先端チップ)は、コアワイヤ10の先端とコイル体20の先端とを接合している。先端側接合部30の先端側の外周面は、滑らかな面(例えば、略半球面)となっている。また、基端側接合部40は、コアワイヤ10とコイル体20の基端とを接合している。先端側接合部30および基端側接合部40を形成する材料としては、例えば、金属ハンダ(Au-Sn合金、Sn-Ag合金、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金等)、ロウ材(アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ等)、接着剤(エポキシ系接着剤等)等が用いられる。
【0028】
次に、コアワイヤ10の第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の詳細構成を説明する。図2および図3は、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の構成を示す説明図である。図2には、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1の縦断面のSEM写真(1000倍)を示しており、図3には、接合部X1の構成を模式的に示している。
【0029】
図2および図3に示すように、コアワイヤ10は、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合面S1からコアワイヤ10の先端側(第1のワイヤ11の側)に向かって突出する複数の突起16を有する。
【0030】
突起16は、第1のワイヤ11の形成材料であるニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と、第2のワイヤ12の形成材料であるコバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金により構成されている。突起16を構成する合金は、Ni、Ti、CoおよびCrを含む合金であることが好ましい。突起16を構成する合金は、例えば、上記コバルトクロム合金の結晶構造に上記ニッケルチタン合金を構成する元素が固溶した合金であってもよいし、反対に、上記ニッケルチタン合金の結晶構造に上記コバルトクロム合金を構成する元素が固溶した合金であってもよいし、上記ニッケルチタン合金および上記コバルトクロム合金を構成する元素により構成された金属間化合物であってもよい。突起16を構成する合金におけるNiの含有割合は、上記コバルトクロム合金におけるNiの含有割合より高いことが好ましい。突起16を構成する合金の組成は、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による組成分析により確認することができる。
【0031】
突起16を構成する合金は、上記ニッケルチタン合金および上記コバルトクロム合金よりも硬い材料であることが好ましい。各合金の硬さは、例えば、KLA社製のナノインデンター(iMicro)により、ダイヤモンド製のバーコビッチ(Berkovich)圧子を用いて、最大押し込み荷重30mNの条件にてナノインデンテーション硬さを測定することにより行う。
【0032】
コアワイヤ10が、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に突起16を有することにより、突起16がニッケルチタン合金側に部分的に入り込むことによってニッケルチタン合金との接触面積が大きくなると共にアンカー効果が生じ、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1における引張強度が向上するものと考えられる。接合部X1における引張強度を効果的に向上させる観点から、コアワイヤ10は、長さLが2μm以上である突起16を有することが好ましく、長さLが3μm以上である突起16を有することがより好ましく、長さLが5μm以上である突起16を有することがさらに好ましい。また、突起16は破壊の起点になり得ることから、コアワイヤ10は、長さLが100μm超の突起16を有しないことが好ましく、長さLが50μm超の突起16を有しないことがより好ましい。
【0033】
突起16の長さLは、コアワイヤ10の中心軸AXの方向に沿った長さである。突起16の長さLは、以下のように特定する。コアワイヤ10の縦断面においてEDXによる組成の面分析を行い、第1のワイヤ11から中心軸AXに沿って基端側に向かうときにニッケルチタン合金に含まれる元素(例えば、Ti)が初めて検出されなくなる界面を接合面S1とする。各突起16について、接合面S1から中心軸AXに沿って先端側に向かうときにコバルトクロム合金に含まれる元素(例えば、Co)が初めて検出されなくなる界面を突起16とニッケルチタン合金との境界面とする。接合面S1から該境界面までの中心軸AXに沿った長さを、突起16の長さLとする。
【0034】
また、本明細書において、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合面S1から先端側に向かって突出する凸部のうち、長さLに対する幅Wの比(W/L)が3.0以上である部分(非常になだらかな凸部)は、突起16には該当しない。
【0035】
図3には、突起16の形状の種類の例を示している。図3に示す突起16aは、輪郭線18が、コアワイヤ10の先端側(図中左側)に向かうにつれて突起16の外周側に向かうように延伸する部分を含まない。一方、図3に示す突起16b,16c,16dは、輪郭線18が、コアワイヤ10の先端側に向かうにつれて突起16の外周側に向かうように延伸する部分(以下、「返し部18X」という。)を含む。突起16による強いアンカー効果を生じさせるために、コアワイヤ10は、輪郭線18が返し部18Xを含むような突起16を有することが好ましい。
【0036】
コアワイヤ10は、上記縦断面において、突起16を構成する合金によって実質的に互いに連続していない2つ以上の突起16を有することが好ましい。本明細書において、2つの突起16が上記合金によって実質的に互いに連続していないとは、2つの突起16の間に存在する上記合金の層の厚みが1μm以下であることを意味する。すなわち、2つの突起16が上記合金によって実質的に互いに連続していない構成は、2つの突起16の間に上記合金の層が存在しない形態に加えて、2つの突起16の間に上記合金の層が存在するものの、その厚みが1μm以下である形態を含む。2つの突起16の間に存在する上記合金の層の厚みは、0.5μm以下であることが好ましい。
【0037】
A-2.ガイドワイヤ100の製造方法:
本実施形態のガイドワイヤ100は、例えば以下の方法により製造することができる。図4は、ガイドワイヤ100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0038】
はじめに、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤ11を準備し、第1のワイヤ11の基端側の端面の粗さを制御する(S110)。より具体的には、第1のワイヤ11の基端側の端面の算術平均高さSaを、0.01μm以上、0.5μm以下とする。表面粗さの制御は、例えば、研磨処理、ブラスト処理、めっき処理、エッチング処理、電解研磨処理、溶射処理等により実現することができる。例えば、研磨材を用いた研磨処理を行うことにより、第1のワイヤ11の端面の粗さを制御することができる。このとき、粒度の細かい研磨材による研磨を行った後、粒度の粗い研磨材による研磨を行ってもよい。また、第1のワイヤ11の端面の粗さの制御は、第1のワイヤ11の切断加工と同時に行ってもよい。例えば、ワイヤの切断と研磨を同時に実行可能な切断機を用いて、第1のワイヤ11の切断加工と端面の研磨処理とを同時に行ってもよい。
【0039】
次に、第1のワイヤ11の基端に第2のワイヤ12の先端を接合して、コアワイヤ10を作製する(S120)。例えば、左右一対のクランプにより、第1のワイヤ11および第2のワイヤ12を、第1のワイヤ11の基端側の端面と第2のワイヤ12の先端側の端面とが対向するように把持する。このとき、第1のワイヤ11および第2のワイヤ12における各端面から所定距離だけ離れた位置をクランプにより把持する。クランプ同士を接近する方向に移動させて、第1のワイヤ11の基端側の端面と第2のワイヤ12の先端側の端面とを突き合わせる。左右一対のクランプのうち、一方のクランプを固定し、他方のクランプを固定されたクランプに対して移動自在とすることで、第1のワイヤ11および第2のワイヤ12の端面同士を精度よく突き合わせることができる。次に、クランプにより把持した第1のワイヤ11および第2のワイヤ12に加圧しながら通電(加熱)する。通電条件(電流、時間等)は、第1のワイヤ11および第2のワイヤ12の端面のうち少なくとも一方が溶融する条件を適宜選択する。第1のワイヤ11および第2のワイヤ12の端面の全体が溶融してもいし、端面の一部が溶融してもよい。第1のワイヤ11および第2のワイヤ12に加圧しながら通電することにより、両ワイヤの端面が軟化・溶融し、両ワイヤの端面が互いに押し合うことで外周側に広がるように変形し、両ワイヤの端面同士が接合される。このような接合を行うことにより、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に、上述した突起16が形成される。
【0040】
その後、コアワイヤ10に他の部材を組み付ける(S130)。例えば、コアワイヤ10にコイル体20を接合する。主として以上の工程により、本実施形態のガイドワイヤ100を作製することができる。
【0041】
なお、第1のワイヤ11の基端側の端面の粗さを調整することにより、形成される突起16の長さLを調整することができる。例えば、第1のワイヤ11の端面を粗いサンドペーパーで研磨すると突起16の長さLは短くなりやすく、細かいサンドペーパーで研磨すると突起16の長さLは長くなりやすい。
【0042】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のガイドワイヤ100は、コアワイヤ10を備える。コアワイヤ10は、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤ11と、先端が第1のワイヤ11の基端に接合され、かつ、コバルトクロム合金からなる第2のワイヤ12とを有する。コアワイヤ10は、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合面S1を含む縦断面において、突起16を有する。突起16は、接合面S1からコアワイヤ10の先端側に向かって突出する部分であり、第1のワイヤ11の形成材料であるニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と、第2のワイヤ12の形成材料であるコバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる。
【0043】
従来、異なる金属材料同士を各金属材料が溶融するような熱履歴を経て接合すると、両者の接合部に金属間化合物が形成され、接合部が脆くなったり、接合強度が低下したりすると考えられていた。しかしながら、本願発明者は、鋭意研究を行い、コアワイヤ10が、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1において、第1のワイヤ11の形成材料であるニッケルチタン合金を構成する少なくとも1つの元素と、第2のワイヤ12の形成材料であるコバルトクロム合金を構成する少なくとも1つの元素とを含む合金からなる突起16を有すると、接合部X1の引張強度が向上することを新たに見出した。これは、突起16がニッケルチタン合金側に部分的に入り込むことによって接触面積が大きくなると共にアンカー効果が生じるためであると考えられる。そのため、本実施形態のガイドワイヤ100によれば、コアワイヤ10の先端部(第1のワイヤ11により構成された部分)の高い柔軟性および基端部(第2のワイヤ12により構成された部分)の高い剛性を確保しつつ、引張強度に優れたコアワイヤ10を有するガイドワイヤ100を提供することができる。
【0044】
また、本実施形態のガイドワイヤ100において、コアワイヤ10は、上記縦断面において、コアワイヤ10の中心軸AXの方向に沿った長さLが2μm以上である突起16を有することが好ましい。このような構成を採用すれば、突起16によるアンカー効果を大きくすることができ、コアワイヤ10の引張強度を効果的に向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態のガイドワイヤ100において、突起16を構成する合金は、Ni、Ti、CoおよびCrを含むことが好ましい。このような構成を採用すれば、突起16とニッケルチタン合金およびコバルトクロム合金との接合性を向上させることができ、コアワイヤ10の引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態のガイドワイヤ100において、コアワイヤ10は、上記縦断面において、突起16の輪郭線18がコアワイヤ10の先端側に向かうにつれて突起16の外周側に向かうように延伸する返し部18Xを含むような突起16を有することが好ましい。このような構成を採用すれば、突起16によるアンカー効果をさらに大きくすることができ、コアワイヤ10の引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態のガイドワイヤ100において、コアワイヤ10は、上記縦断面において、突起16を構成する合金によって実質的に互いに連続していない2つ以上の突起16を有することが好ましい。このような構成を採用すれば、2つ以上の突起16の存在により、コアワイヤ10の引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態のガイドワイヤ100において、突起16を構成する合金は、ニッケルチタン合金およびコバルトクロム合金よりも硬い材料であることが好ましい。このような構成を採用すれば、比較的硬い突起16によるアンカー効果を大きくすることができ、コアワイヤ10の引張強度をさらに効果的に向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態のガイドワイヤ100の製造方法は、ニッケルチタン合金からなる第1のワイヤ11の端面の粗さを、算術平均高さSaが0.01μm以上、0.5μm以下になるように制御する工程と、第1のワイヤ11の端面と第2のワイヤ12の端面とを突き合わせて互いに接合することにより、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12とを有するコアワイヤ10を作製する工程とを備える。本実施形態のガイドワイヤ100の製造方法によれば、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に突起16を形成することができ、引張強度に優れたコアワイヤ10を有するガイドワイヤ100を製造することができる。
【実施例0050】
図5は、ガイドワイヤ100を構成するコアワイヤ10の実施例および比較例を示す説明図である。実施例および比較例のコアワイヤ10の作製の際には、まず、第1のワイヤ11として、直径0.42mmのニッケルチタン合金線(組成(質量%):Ni:56.1%、C:0.032%、O:0.025%、Ti:残部)を準備し、第2のワイヤ12として、直径0.42mmのコバルトクロム合金線(組成(質量%):Cr:20%、Ni:36.5%、Mo:10%、Mn:<0.01%、C:0.002%、Co残部)を準備した。ニッケルチタン合金線の端面を図5に示す粒度の研磨材により研磨することにより、図5に示す表面粗さ(算術平均高さSa)の端面を有するニッケルチタン合金線を得た。その後、上述した実施形態に記載した方法により、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12とを接合してコアワイヤ10を作製し、コアワイヤ10の引張強度を評価した。コアワイヤ10の引張強度の評価としては、チャック間隔100mmで中心部に接合部が来るようにサンプルをセットし、速度10mm/分で引っ張った時の破断荷重を測定した。また、同条件で作製したコアワイヤ10を、コアワイヤ10の中心軸AXを通る面で切断して縦断面を表し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて縦断面観察を行い、第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1における突起16の有無を確認すると共に、突起16の長さLを測定した。
【0051】
図5に示すように、コアワイヤ10の第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に突起16が確認された実施例1~3では、コアワイヤ10の破断荷重が168.4N以上と比較的高かった。一方、コアワイヤ10の第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に突起16が確認されなかった比較例では、破断荷重が155.3Nと比較的低かった。実施例1~3では、コアワイヤ10の第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1に形成された突起16がニッケルチタン合金側に部分的に入り込むことによって接触面積が大きくなると共にアンカー効果が生じ、コアワイヤ10の引張強度が向上したものと考えられる。
【0052】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
上記実施形態では、コアワイヤ10が第1のワイヤ11と第2のワイヤ12とから構成されているが、コアワイヤ10が第2のワイヤ12の基端側に配置された他のワイヤを有していてもよい。
【0054】
上記実施形態では、コアワイヤ10が複数の突起16を有しているが、コアワイヤ10が単一の突起16を有するとしてもよい。
【0055】
上記実施形態では、コアワイヤ10の第1のワイヤ11と第2のワイヤ12との接合部X1はコイル体20の基端よりも基端側に位置するが、接合部X1がコイル体20の基端よりも先端側に位置してもよい。
【0056】
上記実施形態における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。また、上記実施形態におけるガイドワイヤ100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0057】
10:コアワイヤ 11:第1のワイヤ 12:第2のワイヤ 13:細径部 14:テーパ部 15:太径部 16:突起 18:輪郭線 18X:返し部 20:コイル体 30:先端側接合部 40:基端側接合部 100:ガイドワイヤ AX:中心軸 S1:接合面 X1:接合部
図1
図2
図3
図4
図5