(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075842
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】凸版印刷版のインキ洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B41F 35/02 20060101AFI20240529BHJP
B41N 1/06 20060101ALI20240529BHJP
B08B 1/00 20240101ALI20240529BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B41F35/02
B41N1/06
B08B1/00
B08B3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187035
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井戸 健二
【テーマコード(参考)】
2C250
2H114
3B116
3B201
【Fターム(参考)】
2C250FA02
2C250FB18
2H114AA00
2H114GA27
3B116AA47
3B116AB51
3B116BA02
3B201AA47
3B201AB51
3B201BA02
3B201BB01
3B201BB92
(57)【要約】
【課題】凹部のインキの除去性に優れ、微細レリーフの欠けを抑制することができるインキ洗浄方法を提供すること。
【解決手段】印刷後の凸版印刷版に、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを接触させる工程を有する、凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷後の凸版印刷版に、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを接触させる工程を有する、凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項2】
前記ブラシの毛束の長さが10mm~50mmである請求項1に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項3】
前記印刷後の凸版印刷版にUV硬化型インキおよび/または電子線硬化型インキが付着されてなる請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項4】
前記UV硬化型インキおよび/または電子線硬化型インキの粘度が10Pa・s以下である請求項3に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項5】
前記凸版印刷版のレリーフのショアA硬度が90度以下である請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項6】
前記凸版印刷版のレリーフが頂点径50μm以下の網点を含む請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項7】
インキ洗浄剤の存在下、凸版印刷版に前記ブラシを接触させる請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項8】
前記インキ洗浄剤が、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ケトン類、エーテル類、低級アルコール類、多価アルコール、グリコールエーテル系化合物および/またはグリコールアセテート系化合物を含む請求項7に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項9】
前記凸版印刷版がフレキソ印刷版である請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項10】
さらにリンス工程を有する請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【請求項11】
さらに乾燥工程を有する請求項1または2に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版印刷版のインキ洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂凸版印刷版やフレキソ印刷版などの凸版印刷版は、その汎用性の広さから、ラベル、紙器、軟包装などのパッケージ用途やエレクトロニクス用途に用いられている。近年では、意匠性向上やセキュリティ用途の面から高精細再現の要望が高く、150lpi以上の高線数におけるハイライト部や細かな文字が印刷物として表現できるような印刷版が開発されている。
【0003】
凸版印刷版は、凹凸形状を有するレリーフを有し、凸部頂面でインキを授受することによりインキを被印刷物に転写するが、凸部と凸部の間にある窪み部分(凹部)にインキが入り込むと、本来不要な箇所にインキが転写され、印刷欠点となる。このため、インキが付着した印刷版のインキ洗浄方法に関して、例えば、乾燥パッドをフレキソグラフ印刷版の方向に押し付けることで、インクやゴミをフレキソグラフ印刷版の表面から取り除く乾式清掃装置(例えば、特許文献1参照)、印刷プレートを担持する回転式のプレートシリンダと、前記プレートシリンダに隣接する回転式の印刷シリンダと、印刷インクを前記印刷プレートに供給するためのインク供給装置と、前記印刷プレートを前記プレートシリンダから取り外すことなく、集積した残さを除去して前記印刷プレートを清掃するために選択的に作動することが可能な清掃装置と、を備え、前記清掃装置が、回転式のブラシローラーを有するスクラブ洗浄ユニットを含む印刷機(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-214155号公報
【特許文献2】特表2000-511835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように乾燥パッドによる洗浄方法は、凸部表面に付着したインキを効率よく洗浄できるものの、凹部に付着したインキの除去性が不十分である課題があった。一方、特許文献2には、洗浄具として円筒コアから放射状にのびるブラシが記載されているが、本発明者らの検討により、ブラシの太さや硬さによっては、高精細画像を再現するための微細なレリーフに対しては欠けが発生する課題が明らかになった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、凹部のインキの除去性に優れ、微細レリーフの欠けを抑制することができるインキ洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、主として次の方法を有する。
(1)印刷後の凸版印刷版に、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを接触させる工程を有する、凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(2)前記ブラシの毛束の長さが10mm~50mmである(1)に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(3)前記印刷後の凸版印刷版にUV硬化型インキおよび/または電子線硬化型インキが付着されてなる(1)または(2)に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(4)前記UV硬化型インキおよび/または電子線硬化型インキの粘度が10Pa・s以下である(3)に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(5)前記凸版印刷版のレリーフのショアA硬度が90度以下である(1)~(4)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(6)前記凸版印刷版のレリーフが頂点径50μm以下の網点を含む(1)~(5)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(7)インキ洗浄剤の存在下、凸版印刷版に前記ブラシを接触させる(1)~(6)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(8)前記インキ洗浄剤が、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ケトン類、エーテル類、低級アルコール類、多価アルコール、グリコールエーテル系化合物および/またはグリコールアセテート系化合物を含む(7)に記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(9)前記凸版印刷版がフレキソ印刷版である(1)~(8)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(10)さらにリンス工程を有する(1)~(9)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
(11)さらに乾燥工程を有する(1)~(10)のいずれかに記載の凸版印刷版のインキ洗浄方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインキ洗浄方法は、凹部のインキの除去性に優れ、微細レリーフ欠けを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の凸版印刷版のインキ洗浄方法(以下、「インキ洗浄方法」と略記する場合がある)は、印刷後の凸版印刷版に、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを接触させる工程を有する。さらに、リンス工程および/または乾燥工程を有することが好ましい。凸版印刷版は、凹凸形状を有するレリーフを有し、凸部頂面でインキを授受することによりインキを被印刷物に転写する。レリーフは、印刷画像に応じて凸部の面積や表面形状が定まり、印刷画像ではない部分や、諧調再現に用いられる多数の網点間に対応する凹部を有する。前述のとおり、高精細画像の再現が求められることから、レリーフ形状も微細化する傾向にあり、凹部に付着したインキの除去と、微細レリーフの欠けの抑制を両立することは、その形状が微細化するほど困難となる。そこで、本発明においては、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを用いてインキを洗浄する。
【0011】
凸版印刷版としては、樹脂凸版印刷版やフレキソ印刷版などが挙げられる。これらの中でも、本発明のインキ洗浄方法は、フレキソ印刷版のインキ洗浄に用いることが好ましい。樹脂凸版印刷用インキの粘度が一般的に100Pa・s程度である一方、フレキソ印刷用インキの粘度は1Pa・s程度であり、凹部にインキが流れ込みやすい傾向にある。また、樹脂凸版印刷版に比べてフレキソ印刷版は一般的にレリーフが柔軟であることから、インキ洗浄において強い負荷がかかると、微細レリーフが欠けやすい傾向にある。このため、フレキソ印刷版のインキ洗浄に本発明のインキ洗浄方法を適用することにより、前述の効果を顕著に奏することができる。
【0012】
凸版印刷版のレリーフのショアA硬度は、90度以下が好ましい。かかる柔軟なレリーフは、インキ洗浄において強い負荷がかかると、微細レリーフが欠けやすい傾向にあるが、本発明のインキ洗浄方法を適用することにより、微細レリーフの欠けを抑制することができる。一般的に、フレキソ印刷版のレリーフのショアA硬度は、90度以下である。ここで、レリーフのショアA硬度は、ショアAのデュロメーター硬度を指し、ベタ画像に対応するレリーフから無作為に選択した3箇所について、温度23℃、湿度50%の環境下、デュロメーターA硬度計GS-709N((株)テクロック製)を用いてショアA硬度を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0013】
凸版印刷版のレリーフは、頂点径50μm以下の網点を含むことが好ましい。かかる微細なレリーフは、インキ洗浄において強い負荷がかかると、欠けやすい傾向にあるが、本発明のインキ洗浄方法を適用することにより、微細レリーフの欠けを抑制することができる。ここで、網点の頂点径は、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ250、1000倍の条件で凸版印刷版のレリーフ面から撮影した撮像から、無作為に選択した5個の網点について、画面上の計測ツールを用いて網点直径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0014】
凸版印刷版は、切削やレーザー照射による彫刻などによりレリーフに凹凸形状を形成したものであってもよいし、活性光線によって感光性樹脂層を選択的に硬化させ、未硬化部分を除去するフォトリソグラフィーによりレリーフに凹凸形状を形成したものであってもよい。微細なレリーフをより簡便に形成する観点から、フォトリソグラフィーによりレリーフに凹凸形状を形成したものが好ましく用いられる。
【0015】
次に、印刷後の凸版印刷版に、単糸径が30μm~300μmであり、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nであるブラシを接触させる工程(以下、「インキ除去工程」と記載する場合がある)について説明する。かかる工程により、凹部にブラシの毛束先端が行き届き、インキを掻き出すことができる。
【0016】
インキ除去工程において使用するブラシの単糸径は、30μm~300μmである。単糸径が30μm未満であると、剛性が低いことから、凹部のインキの除去が困難となる。一方、単糸径が300μmを超えると、網点間などの微細な凹部に入り込みにくいことから、微細な凹部のインキの除去が困難となる。網点濃度5%の網点間の距離は、例えば150lpiであれば169μmであることから、網点間の微細な凹部のインキを効果的に除去する観点から、単糸径は165μm以下が好ましい。ここで、単糸径は、毛束から単糸を採取し、無作為に選択した5本について、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ20、50倍の条件で単糸側面から撮影した撮像から、画面上の計測ツールを用いて単糸径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0017】
インキ除去工程において使用するブラシは、1cm2当たりの毛束の反発力が0.01N~1.0Nである。1cm2当たりの毛束の反発力は、剛性の指標であり、0.01N未満であると、剛性が低いことから、凹部に付着したインキの除去が困難となる。一方、反発力が1.0Nを超えると、剛性が高く、微細レリーフが欠けやすい。また、凹凸形状に追従しにくいことから、微細な凹部のインキの除去が困難となる。ここで、1cm2当たりの毛束の反発力は、ブラシの毛束の先端面に対して、斜め45度から1cmの深さ分押し付けた時の抵抗力とする。具体的には、温度23℃、湿度50%の環境下、一定面積の平面部がついた圧子を持つデジタルフォースゲージを用い、ブラシ毛束面から角度45度浮かせた方向から、デジタルフォースゲージをブラシに対して侵入させる。0.01N荷重検知した地点を基準として1cm分の長さをそのままの角度で侵入した後の数値を読み取る。デジタルフォースゲージは0.01Nの精度で測定可能な市販のものを使用することができ、例えばDST-50N(株式会社イマダ製)などを用いることができる。
【0018】
インキ除去工程において使用するブラシの毛束長さは、10mm以上50mm以下が好ましい。毛束長さを10mm以上とすることにより、ブラシ植え込み部とレリーフとの接触を回避することができる。一方、毛束長さを50mm以下とすることにより、洗浄の為の力を加えやすくなり、インキをより効果的に除去することができる。ここで、毛束長さは、毛束が植え込まれている柄から、ブラシの最先端までの長さを指し、JIS1級金尺を用いて測定することができる。
【0019】
凸版印刷版にブラシを接触させる方法としては、ブラシの毛束先端がレリーフ凹部の底面に届くように押し込んだ状態になるように加圧することが好ましい。ブラシの毛束先端がレリーフ凹部の底面に届くようにすることにより、凹部に付着したインキを効果的に掻き出すことができる。また、ブラシを凸版印刷版に接触させた状態で、凸版印刷版の面に対して平行に直線的な動作や円運動をさせてもよいし、振動させてもよいし、これらを組み合わせてもよい。
【0020】
インキ除去工程において、インキ洗浄剤の存在下、凸版印刷版にブラシを接触させることが好ましい。インキ洗浄剤の存在下でブラシを接触させることにより、凸版印刷版の表面に付着したインキ洗浄剤が、凸版印刷版に付着したインキや掻き出されたインキを溶解または分散させ、除去しやすい状態にすることができ、インキをより効果的に除去することができる。
【0021】
インキ洗浄剤はとしては、印刷に使用したインキに応じて公知の洗浄剤を使用できる。例えば、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ケトン類、エーテル類、低級アルコール類、多価アルコール、グリコールエーテル系化合物、グリコールアセテート系化合物が挙げられ、これらを2種以上含んでもよい。具体的には例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、メチルナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレンジグリコールモノブチルエーテル、ポリ(オキシエチレン)トリデシルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
インキ洗浄剤の凸版印刷版への付着方法としては、例えば、直接付着させる方法、スポイトやシリンジを用いてインキ洗浄剤を滴下する方法、凸版印刷版をインキ洗浄剤へ浸漬させる方法などが挙げられる。インキを洗浄したい面積全体が覆われる量を付着させることが好ましい。
【0023】
本発明の洗浄方法は、さらに、リンス工程を有することが好ましい。リンス工程において、液体を凸版印刷版に流すことにより、インキ洗浄剤残渣や掻き出されたインキを除去することができる。リンス液としては、上記インキ洗浄剤として例示したものが挙げられ、インキ除去工程にインキ洗浄剤を用いた場合には、同じものをリンス液として用いることが好ましい。
【0024】
本発明の洗浄方法は、さらに、乾燥工程を有することが好ましい。リンス工程を有する場合は、リンス工程の後に乾燥工程を有することが好ましい。乾燥工程において、インキ洗浄液やリンス液を凸版印刷版から除去することができる。
【0025】
本発明の洗浄方法は、UVインキや電子線硬化インキ(EBインキ)の洗浄に好ましく用いられる。UVインキや電子線硬化インキは、乾燥性インキと異なり、紫外線や電子線の照射により硬化するため、凹部にインキが入り込んだ場合、液状のまま残り続ける。凹部に残った液状インキが被印刷物に転写すると印刷欠点となることから、これらのインキに対して本発明のインキ洗浄方法を適用することにより、印刷欠点をより抑制することができる。
【0026】
本発明の洗浄方法は、UV硬化型インキおよび/または電子線硬化型インキの中でも、粘度10Pa・s以下のインキの洗浄に好ましく用いられる。かかる低粘度のインキは凹部に流れ込みやすい傾向にあることから、これらのインキに対して本発明のインキ洗浄方法を適用することにより、インキをより効果的に除去することができる。なお、UV硬化型フレキソインキおよび電子線硬化型フレキソインキの粘度は、10Pa・s以下が一般的であり、本発明の洗浄方法は、UV硬化型フレキソインキおよび/または電子線硬化型フレキソインキの洗浄に好ましく用いられる。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。まず、実施例および比較例において用いた凸版印刷版について説明する。
【0028】
東レ(株)製フレキソ印刷版原版DF114HR2を10cm×10cmに切り出し、PET基板側から、高輝度ケミカル灯(Philips社製TL-K 40W/10R)を用いて、積算光量が700mJ/cm2程度になるように裏露光を行った。次いで、カバーフィルムを剥離し、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム式プレートセッター(エスコ・グラフィックス(株)製CDI SPARK2530)に、PET基板側がドラムに接するように装着し、テストパターン(150線5%網点、ベタ部を有する)を、出力2.4J/cm2のレーザーで描画し、感熱マスク層から画像マスクを形成した。その後、大気下において、裏露光と同じく高輝度ケミカル灯TL-K 40W/10Rを用いて、積算光量が12,000mJ/cm2程度になるように、画像マスク側から主露光を行った。その後、バッチ式露光現像機(Inglese, s.r.l. 製Inglese W43)を用いて、25℃に温度調整した水道水で80秒間現像し、60℃のオーブン中において10分間乾燥し、次いで高輝度ケミカル灯TL-K 40W/10Rを用いて、積算光量が12,000mJ/cm2程度になるように後露光を行い、フレキソ印刷版を得た。
【0029】
得られたフレキソ印刷版の150線5%網点を、ルーペを用いて観察したところ、網点100個中100個再現できていた。また、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ250、1000倍の条件で凸版印刷版のレリーフ面から撮影した撮像から、無作為に選択した5個の網点について、画面上の計測ツールを用いて網点直径を測定した。その平均値は31μmであった。また、得られたフレキソ印刷版のベタ部を、5mm厚のガラス板の上に、PET基板側が下になるように静置し、温度23℃、湿度50%の環境下、デュロメーターA硬度計GS-709N((株)テクロック製)の針を静かに押し当て、針の指す硬度を読み取った。無作為に選択した3箇所について硬度を測定した平均値は84°であった。
【0030】
得られたフレキソ印刷版を、0.38μm厚のクッションテープ(TESA社製tesa“Softprint”(登録商標)52017)を用いて、600線のアニロックスロールを具備したフレキソ印刷機(MPS)の版胴に密着させた。フレキソインキ((株)T&K TOKA製 UVフレキソ紅PHA-LO3)を用い、70m/分の速さでアート紙に印刷した。印圧を徐々に印加し、ベタ部のかすれがなくなる印圧から60μm押し込んだ条件で固定した。1000m印刷した状態で印刷を終了し、版胴からフレキソ印刷版を剥がして、洗浄前のフレキソ印刷版とした。
【0031】
次に、実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0032】
(1)1cm2当たりの毛束の反発力
各実施例および比較例に用いたブラシについて、ブラシ毛束の先端面を水平にしたときの角度を0°としたとき、45°になるように傾けて台座に固定した。次に、ブラシを固定した台座ごと、(株)イマダ製手動計測スタンドSVH-1000Nの固定台上に静置させた。反発力の測定器としては、面積1.39cm2である平型アタッチメントA-2測定子を取り付けたデジタルフォースゲージDST-50N((株)イマダ製)を用い、前記手動計測スタンドに測定子が下を向くようにセットした。手動計測スタンドのハンドルを回しフォースゲージを45°傾けたブラシに対して降下させ、抵抗力が0.01Nを示した地点を基準にして、さらに1cm降下させたときの抵抗力を読み取った。同様の操作を3回繰り返し、平均値を測定子の面積である1.39で割った数値をブラシ毛束の反発力とした。なお、測定環境は、温度23℃、湿度50%とした。
【0033】
(2)ブラシ毛束の長さ
各実施例および比較例に用いたブラシについて、毛束が植え込まれている柄から、ブラシの最先端までの長さをJIS1級金尺を用いて読み取り、毛束の長さとした。
【0034】
(3)ブラシ単糸径
各実施例および比較例に用いたブラシについて、毛束から単糸を採取し、無作為に5本選択し、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ20、50倍の条件で単糸側面から撮影した。画面上の計測ツールを用いて5本の単糸径を測定し、平均値を採用した。
【0035】
(4)レリーフ欠けおよびインキ除去性
各実施例および比較例において掻き取り回数10回、20回で洗浄した後の各フレキソ印刷版について、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ20、200倍の条件で、150lpi網点5%の領域から無作為に選んだ3視野分を撮影した。
【0036】
1視野内で観察可能な70個の網点に対して、先端部が欠如している欠け個数を画面上で計測し、同様の計測を合計3視野で実施した。3視野分の欠け個数の合計値を3で割ったときの個数が0個であれば5点、1個から5個であれば3点、6個以上であれば1点としてレリーフ欠けを評価した。
【0037】
また、1視野内で観察可能な70個の網点間の凹部に対して、インキ残渣による着色の有無を観察した。合計3視野観察のうち、一部でも着色が認められる場合を「洗浄不足」、すべての凹部において着色が認められない場合を「洗浄完了」とした。
【0038】
[実施例1]
準備した洗浄前のフレキソ印刷版を電子天秤AJ-4200(新光電子(株)製)の天板上に乗せ、150lpi網点5%部分の表面に、インキ洗浄剤として0.2gのジプロピレングリコールモノメチルエーテル(以降、および表1中において洗浄剤Aと記載する)を、スポイトで滴下した。その後、網点部分を、1cm2当たりの毛束の反発力0.3N、単糸径164μmの豚毛ブラシ((株)インダストリーコーワ製、No.11586竹ブラシ)を用いて、300gの荷重がかかる強さで10回掻き出した。また、10回掻き出した部分とは別の領域を、同じ強さで30回掻き出した。その後、ワイパー((株)クラレ製“クラクリーン”(登録商標)ワイパーFF-390C)を上から押さえてインキ洗浄剤を拭き取った。さらにその後、リンスとして0.5gの洗浄剤Aをスポイトで滴下し、前述と同様にワイパーを上から押さえて拭き取り、インキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0039】
[実施例2]
洗浄剤として実施例1で用いた洗浄剤Aに代えて、イソプロピルアルコール(以降、および表1中において洗浄剤Bと記載する)を用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0040】
[実施例3]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力0.1N、単糸径108μmの化繊刷毛((株)ハンディ・クラウン製、HCHPK-001)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0041】
[実施例4]
洗浄剤として実施例3で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は実施例3と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0042】
[実施例5]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力0.5N、単糸径95μmのPBTブラシ((株)オーエ製、濃密泡ボディブラシ)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0043】
[実施例6]
洗浄剤として実施例5で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0044】
[実施例7]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力0.8N、単糸径207μmの飽和ポリエステルブラシ(DCMホールディングス(株)製、歯ブラシフラットカットB7450)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0045】
[実施例8]
洗浄剤として実施例7で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は実施例7と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0046】
[比較例1]
インキ洗浄でブラシを用いる代わりに、ワイパー((株)クラレ製“クラクリーン”(登録商標)ワイパーFF-390C)を用いて印刷後フレキソ印刷版の表面を300gの荷重がかかる力でこすりながら拭き取ったこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0047】
[比較例2]
洗浄剤として比較例1で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は比較例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0048】
[比較例3]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力1.5N、単糸径163μmの真鍮ブラシ((株)ハンディ・クラウン製、真鍮ブラシ3行309227 0002)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0049】
[比較例4]
洗浄剤として比較例3で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は比較例3と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0050】
[比較例5]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力2.3N、単糸径339μmのスチールブラシ((株)ハンディ・クラウン製、ワイヤーブラシ3行309227 0001)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0051】
[比較例6]
洗浄剤として比較例5で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は比較例5と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0052】
[比較例7]
インキ洗浄で使用するブラシを、1cm2当たりの毛束の反発力0.8N、単糸径500μmのナイロンブラシ((株)高儀製、DCMソフトグリップブラシ幅広へら付き)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0053】
[比較例8]
洗浄剤として比較例7で用いた洗浄剤Aに代えて、洗浄剤Bを用い、また、リンスとして洗浄剤Aに代えて洗浄剤Bを用いたこと以外は比較例7と同様にしてインキ洗浄後のフレキソ印刷版を得た。
【0054】
各実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0055】