(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075872
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】積層構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20240529BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20240529BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240529BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20240529BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20240529BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240529BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240529BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240529BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20240529BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240529BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B32B5/02 C
D01D5/04
D04H1/728
B32B5/28 101
A61L15/42 310
A61L31/04 120
A61L27/22
A61P17/02
A61L15/32 110
A61L31/14 400
A61L27/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187086
(22)【出願日】2022-11-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月24日にhttps://www.esbbordeaux2022.org/en/program/program/36にて発表 令和4年8月25日にhttps://biojapan2022.jcdbizmatch.jp/Lookup/jp/Presentation/u0?ke=%u540C%u5FD7%u793E&np=2&ob=5にて発表 令和4年9月4日にESB2022にて発表 令和4年9月5日にESB2022にて発表 令和4年10月12日にバイオジャパンにて発表 令和4年10月13日にバイオジャパンにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 有亮
【テーマコード(参考)】
4C081
4F100
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AA14
4C081AB00
4C081AC06
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4C081BA16
4C081BB07
4C081CD151
4C081DA02
4C081DB03
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4F100AJ04B
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4F100AK12B
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4F100AR00A
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4L045CB08
4L045DA60
4L047AB08
4L047CA07
4L047CC03
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されている新規な積層構造体を提供する。
【解決手段】非誘電体基材の裏面に電圧を印加することで非誘電体基材を分極させて非誘電体基材の表面を第1の電荷に帯電させ、ファイバー形成材料溶液に電圧を印加した状態で、ファイバー形成材料溶液を非誘電体基材の表面に向けて第2の電荷に帯電したファイバーをエレクトロスピニングにより吐出させ、電気引力作用により、非誘電体基材とシート状ファイバー層とが一体的に積層されている積層構造体を製造する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されている積層構造体。
【請求項2】
前記シート状ファイバー層を形成するファイバーの高分子材料は、コラーゲン.ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ポリアミド、ポリウレタン、又は、ポリビニルアルコールである請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記非誘電体基材は多孔質体である請求項1又は2に記載の積層構造体。
【請求項4】
ゼラチンスポンジとシート状ゼラチン不織布層とが一体的に積層されている積層構造体。
【請求項5】
組織再生用スキャホールド、創傷の治癒用、傷跡の治療用又は瘢痕・ケロイド形成予防用である請求項4に記載の積層構造体。
【請求項6】
非誘電体基材の裏面に電圧を印加することで前記非誘電体基材を分極させて前記非誘電体基材の表面を第1の電荷に帯電させ、
ファイバー形成材料溶液に電圧を印加した状態で、前記ファイバー形成材料溶液を前記非誘電体基材の表面に向けて第2の電荷に帯電したファイバーをエレクトロスピニングにより吐出させ、
電気引力作用により、前記非誘電体基材とシート状ファイバー層とが一体的に積層されている積層構造体を製造する積層構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第1の電荷は負電荷であり、前記第2の電荷は正電荷である請求項6記載の積層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記非誘電体基材の表面に積層されたシート状ファイバー層の第2の電荷量が高くなった場合、帯電した第2の電荷量を中和することを特徴とする請求項6又は7に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項9】
非誘電体基材であるゼラチンスポンジの裏面に電圧を印加することで前記ゼラチンスポンジを分極させて前記ゼラチンスポンジの表面を負電荷に帯電させ、
ゼラチンファイバー溶液に電圧を印加し、ゼラチンファイバーを正電荷に帯電させて前記ゼラチンファイバー溶液を前記ゼラチンスポンジの表面に向けてエレクトロスピニングにより吐出させ、
電気引力作用により、前記ゼラチンスポンジとシート状ゼラチン不織布層とが一体的に積層されている積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規医療材料、物質吸着膜等に利用できる積層構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバーを作製する手法としてエレクトロスピニング法は公知である。エレクトロスピニング法は、例えば原料溶液をシリンジに充填し、ナノファイバーを堆積・捕集させる部位(コレクターとも言われる。)とノズルとの間に電圧を印加し、原料溶液をノズルから引き出してナノファイバー化し、コレクター上にナノファイバーを生成する方法である(特許文献1,2,3)。
【0003】
ところで再生医療の分野では、ポリ乳酸、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体等の生体適
合性高分子をマトリクス樹脂として組織形成因子を含有させて作製した創傷治療用被覆材で組織欠損部を被覆する方法が実施されている。組織再生用材料として生体適合性高分子を用いることが盛んに行われており、そのような生体適合性高分子のファイバーを作製する方法としてエレクトロスピニング法が用いられている(非特許文献1)。
【0004】
エレクトロスピニング法で紡糸したナノファイバーは、例えば、様々な組織再生用スキャホールド、創傷被覆材、癒着防止膜等の素材のエンジニアリングにおいて有望視される。
【0005】
エレクトロスピニング法で紡糸したナノファイバーの構造は生体組織の細胞外マトリックス(ECM)のコラーゲン構造(直径50~500nmのコラーゲンナノファイバーの3
次元ネットワーク)に類似している。さらに、エレクトロスピニング法で紡糸したナノファイバーは、正確な形状特徴(3次元多孔性、ナノスケールサイズ、配向)、成長因子の封入及び局所的な緩徐放出、表面官能化(官能基の導入等)といった、組織再生に有用な特徴を備えている(特許文献4)。
【0006】
エレクトロスピニング法はゼラチンファイバーの製造にも利用される。例えばヘキサフルオロイソプロパノールと水との混合溶液は、エレクトロスピニングを応用してゼラチンファイバーを製造するための優れた溶媒であり、ゼラチンをこの混合溶液に溶解させてエレクトロスピニングした場合には、μmオーダーの均一なファイバー径を有するゼラチンファイバーが得られることが報告されている(特許文献5)。
【0007】
具体的には下記である。即ち、ノズルを有するシリンジ内には原料溶液であるゼラチン溶液が満たされている。コレクターにはアースが施されている。高圧電源をONにするとノズルに高電圧が印加される。このとき高電圧によってノズル内を流れるゼラチン溶液に電荷が誘発、蓄積される。ノズルから噴出された後、ゼラチン溶液は、プラスに帯電するために互いに反発する。この反発力は、ゼラチン溶液の表面張力に対抗し、荷電臨界を超えるとゼラチン溶液は帯電ミストになる。この帯電ミストの表面積は、体積に対して非常に大きいため、溶媒が効率良く蒸発し、さらに体積の減少により電荷密度が高くなるため、ゼラチン溶液は帯電微少ミストへと分裂していく。ノズルは高電圧を印加されているが、コレクターはアースされているので、ノズルとコレクターとの間には、強い電界が形成されている。帯電微少ミストは、互いに反発しながら、形成された電界によりコレクターに向かって進行するが、途中で溶媒が揮散しゼラチンファイバーとしてコレクター上に捕集されるのである。
【0008】
このように、コレクターはファイバーを捕集するための部材として利用されるにすぎず、エレクトロスピニング法のコレクターをファイバーと一体的に利用する発想は従来存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2013-503661号公報
【特許文献2】特表2013-519805号公報
【特許文献3】特開2012-72514号公報
【特許文献4】特許第5855783号公報
【特許文献5】特開2007-138364号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】In vivo and in vitro evaluation of flexible, cottonwool-like nanocomposite as bone substitute material for complex defects Acta Biomaterialia 5 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エレクトロスピニング法を用いて新規な積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる積層構造体は、非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されている新規な積層構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の積層構造体の一具体例の写真図である。
【
図2】本発明の積層構造体の製造装置の概略を示す図である。
【
図3】イオナイザーが付加された本発明の積層構造体の製造装置の概略を示す図である。
【
図4】積層構造体の写真図であり、(A)は比較例であり、(B)はイオナイザーを使用せずに製造した本発明にかかる積層構造体であり、(C)はイオナイザーを使用して製造した本発明にかかる積層構造体である。
【
図5】ゼラチンファイバーのSEM画像であり、(A)は比較例であり、(B)は実施例1であり、(C)は実施例3である。
【
図6】イオナイザーの照射時間間隔を変更させた場合におけるシート状ファイバー層の正電荷量を中和の程度を示す図であり、(A)は紡糸1minごと、(B)は紡糸2minごと、(C)は紡糸3minごとである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明にかかる積層構造体は、
図1に示されるように、非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されている。なお本発明において積層とはシート状ファイバー層が1層積層されていることのみを意味するのではなく、複数層が積層されていることも包含される。
【0017】
シート状ファイバー層を形成するファイバーの高分子材料は、特に限定されるものではなく、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ポリアミド、ポリウレタン、又は、ポリビニルアルコールである。好ましくは、高分子材料は生体適合性高分子材料であり、更に好ましくはゼラチンである。
【0018】
シート状ファイバー層は、ナノファイバー又はマイクロファイバーがシート状に形成された層状構造体である。
【0019】
本発明においては、電気引力の作用により、分極した非誘電体基材にシート状ファイバー層が一体的に積層されているため、シート状ファイバー層は密度が大きい。即ち、ファイバー同士が密な状態でシートを構成しそのシートが非誘電体基材と密着性が良く接着剤等を使用しなくとも(即ち接着層を介さずに)一体となっている。
【0020】
シート状ファイバー層を構成するファイバーは、平均ファイバー径が1nm~400μmであることが好ましく、より好ましくは10nm~200μmである。ファイバーの平均ファイバー径が上記範囲内であると、例えば積層構造体を医療材料として利用した場合に細胞がシート状ファイバー層から侵入しやすいからである。
【0021】
シート状ファイバー層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば1μm~1mmであり、好ましくは5μm~500μmである。
【0022】
非誘電体基材は、特に限定されるものではなく、非金属材料、高分子材料等の種々の素材を使用することができ、また、非誘電体基材の材質はシート状ファイバー層の材質と同一又は異なるものの何れのものとすることが可能である。
【0023】
非誘電体基材は、例えば多孔質体とすることが可能である。多孔質体としては特に限定されるものではなく、例えばゼラチンスポンジとすることができる。
【0024】
本発明にかかる積層構造体の一具体例は、ゼラチンスポンジとシート状ゼラチン不織布層とが一体的に積層されている積層構造体であり、
図1に示されている。
【0025】
ゼラチンスポンジは、例えば30~85%の気孔率、30~600μmの気孔径を有している。このゼラチンスポンジ内においては、各気孔は相互に連通している。
【0026】
ゼラチンスポンジの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、まず、ゼラチンを秤量し容器に移して精製水を加えゼラチン溶液とする。次いで、ゼラチン溶液をチューブに移し、冷蔵庫で放置してゼラチンをゲル化させる。ゲル化したゼラチン溶液を凍結乾燥し、乾燥終了後にチューブからゼラチンスポンジを取り出して熱架橋する。これによりゼラチンスポンジを製造することができる。
【0027】
本発明にかかる積層構造体は下記に示すようにエレクトロスピニング法により製造することができる。
【0028】
前述のように、コレクターは単にファイバーを堆積させる対象にすぎず、エレクトロスピニング法のコレクターをも医療材料等として利用する発想は存在しなかった。しかしながら医療材料等に利用される基材は非誘電体であり、エレクトロスピニング法をそのまま適用したのでは基材とファイバーとを一体的に利用することは困難である。
【0029】
そこで、本発明者は鋭意研究の結果、非誘電体基材を分極させてエレクトロスピニング法のコレクターに適用することにより、非誘電体基材と、シート状ファイバー層と、が一体的に積層されている積層構造体を得るという新知見に基づいて本発明を完成させた。即ち、非誘電体基材の裏面に電圧を印加することで前記非誘電体基材を分極させて前記非誘電体基材の表面を第1の電荷に帯電させ、ファイバー形成材料溶液に電圧を印加した状態で、前記ファイバー形成材料溶液を前記非誘電体基材の表面に向けて第2の電荷に帯電したファイバーをエレクトロスピニングにより吐出させ、電気引力作用により、前記非誘電体基材とシート状ファイバー層とが一体的に積層されている積層構造体を製造する。
【0030】
非誘電体基材を分極させる分極手段としては、特に限定されるものではなく、例えば非誘電体基材の裏面と表面との間に電荷分極電界を作用させ、この電荷分極電界作用下にて電荷分極させるものであればあればよい。
【0031】
本実施例にかかる積層構造体の製造装置は、
図2に概略が示される。即ち、ファイバー形成材料溶液を入れたシリンジと、シリンジ内の原料と溶媒との溶液を押し出すシリンジポンプと、ファイバー形成材料溶液を供給する溶液供給部と、紡糸口を有するノズルと、裏面に電圧が印加されることで分極することで表面が第1の電荷に帯電した非誘電体基材と、ノズルと非誘電体基材との間に高電圧を印加する高圧電源と、備えた構成である。なお
図2には本発明をわかりやすく説明するため、各構成の全てを記載しない。
【0032】
本発明においては、非誘電体基材の表面に積層されたシート状ファイバー層の第2の電荷量が高くなった場合、イオナイザーにより帯電した第2の電荷量を中和することが好ましい。つまり、非誘電体基材の表面にファイバーの堆積が継続すると、ファイバ-同士の間には斥力(反発し合う力)が生じるが、除電により斥力を抑える(小さくする)ことで、厚み及び孔径を小さく抑えることができる。即ちイオナイザーによる中和により、高い密度のシート状ファイバー層の厚みを増すことが可能となる。
【0033】
かかる場合、
図3に示されるように、非誘電体基材の表面に対して除電イオンを照射して、非誘電体基材の表面に積層されたシート状ファイバー層の第2の電荷量を中和する静電除去装置であるイオナイザーが設けられる。
【0034】
イオナイザーとしては、紡糸口が+の高電圧に帯電しているときは、マイナスイオンを照射するマイナスイオン発生器を用いる。逆に、紡糸口が-の高電圧に帯電しているときは、プラスイオンを照射するプラスイオン発生器を用いる。
【0035】
ノズルと非誘電体基材との間に高電圧が印加されていない状態では、ファイバー形成材料溶液は、ノズルの先端の紡糸口の先端部において表面張力で留まっている。
【0036】
紡糸口と非誘電体基材との間に例えば数kV~30kVの高電圧を印加すると、紡糸口先端のファイバー形成材料溶液は+に帯電し、異極(またはアース電位)に帯電している非誘電体基材の表面により吸引される。
【0037】
上述したように、非誘電体基材の表面に+に帯電しているファイバーが堆積していくと、+電荷は完全には消失せずに残留するため、先に非誘電体基材に堆積したファイバーと
新たに堆積されたファイバーとが反発しあう。かかる場合、静電除去装置であるイオナイザーが設けられることにより、マイナスイオンが照射されることでファイバーの+電荷が中和され、同極性の電荷の反発は発生せず、厚みのあるシート状ファイバー層が得られる。またイオナイザーの効果として、紡糸により電荷が蓄積した場合にイオナイザーによる除電が行われると、非誘電体基材の分極状態がリセットされて最初の紡糸状態に戻ることで、継続的な紡糸が可能となる。
【0038】
本発明にかかる積層構造体の用途は特に限定されるものではなく、例えば医療材料として利用でき、医療材料は具体的には創傷治療用被覆材、再生医療用スキャホールド等である。また本発明にかかる積層構造体の用途は医療材料に限定されるものではなく、例えば物質吸着膜・フィルター、電池用セパレーター等にも適用可能である。
【0039】
ゼラチンスポンジとシート状ゼラチン不織布層とが一体的に積層されている積層構造体は、例えば組織再生用スキャホールド、創傷の治癒用、傷跡の治療用又は瘢痕・ケロイド形成予防用として好適に利用される。創傷の治療用として使用される場合は身体の損傷部に適用される。
【0040】
適用される際は、例えば、シート状ゼラチン不織布層が損傷部に向かうようにして適用される。これにより、シート状ゼラチン不織布層が損傷部に接触し、不織布を構成するファイバーの効果として生体から供給される細胞の接着・遊走、増殖が促進される。損傷部は、血流や体液等の湿潤液により湿潤状態となっている。そのような損傷部に適用すると、ゼラチンスポンジが豊潤されることで損傷部の治癒が促進される。
【実施例0041】
《非誘電体基材の製造》
ゼラチンスポンジは下記のように作製した。即ち、まず、ゼラチンを秤量し容器に移して精製水を加え2w/v%のゼラチン溶液とした。次いで、ゼラチン溶液をチューブに移し、4℃の冷蔵庫で1時間放置し、ゼラチンをゲル化させた。ゲル化したゼラチン溶液を-25℃、24時間で凍結させたのちに凍結乾燥を施し、乾燥終了後に、チューブよりゼ
ラチンスポンジを取り出して140℃で48時間にて熱架橋した。これによりゼラチンスポン
ジを製造した。
【0042】
《積層構造体の製造》
本実施例にかかる積層構造体の製造装置は、
図3に概略が示されるように、7w/v%のゼラチン溶液を入れたシリンジと、ゼラチン溶液を押し出すシリンジポンプと、ゼラチン溶液を供給する溶液供給部と、紡糸口を有するノズルと、裏面に正電圧が印加されることで分極することで表面が負電荷に帯電したゼラチンスポンジと、ノズルとゼラチンスポンジとの間に高電圧を印加する高圧電源と、ゼラチンスポンジの表面に対して除電イオンを照射して、ゼラチンスポンジの表面に積層されたシート状ファイバー層の正電荷量を中和する静電除去装置であるイオナイザーと、を備えた構成であった。
【0043】
ゼラチン溶液に使用された溶媒はヘキサフルオロイソプロパノールであった。紡糸口とゼラチンスポンジとの間に印加された電圧は6~7kVであった。シリンジポンプから押し出されるゼラチン溶液のflow rateは20μL/minであった。紡糸口とゼラチンス
ポンジとの間の距離は80mmであった。
【0044】
実施例1としては、イオナイザーを作動させずに積層構造体を作製した。実施例2としては、イオナイザーを作動させて積層構造体を作製した。イオナイザーの照射時間の間隔は紡糸1minごととし、イオナイザーの照射時間は10秒に固定させた。また実施例3として、ゼラチン溶液ではなくPLLA溶液にてシート状不織布層を作製した。即ち、PLLAを
1,3-dioxolane (DOL) とHFIPを混合した溶液(DOL:HFIPはwt%比で70:30であった。)に溶
かし、8 w/v%のPLLA溶液を調製した。更にファイバーを細くするために5 w/v%のBenzyltriethylammonium chlorideを溶液に加えた。この溶液をシリンジに入れ、その他の条件は
実施例2と同じくして上述の装置にて積層構造体を作製した。これによりゼラチンスポンジスポンジ上に170±29nmのシート状PLLA不織布層が作製できた。比較例として、ゼラチ
ンスポンジを分極させず、他の条件は本実施例1と同じくして積層体を形成させた。
【0045】
実施例1、実施例2及び比較例のファイバー作製法で得られた積層構造体のそれぞれについて、中央で半分に切断し、電子顕微鏡用試験体を作製した。その後、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社JSM-6309LT型、以下、「SEM」と記す)を用いて各電子
顕微鏡用試験体の断面を観察、撮影した。
【0046】
比較例にかかる積層構造体は、
図4(A)に示されるように、ゼラチンスポンジに積層されたゼラチンファイバーはファイバー間隔が大きくシート状ではなく、わた状に堆積していた。
【0047】
実施例1にかかる積層構造体は、
図4(B)に示されるように、ゼラチンスポンジにシート状ゼラチン不織布層が一体的に積層していた。シート状ゼラチン不織布層の厚みは10μmであった。
【0048】
実施例2にかかる積層構造体は、
図4(C)に示されるように、ゼラチンスポンジにシート状ゼラチン不織布層が一体的に積層していた。実施例2においては実施例1よりもシート状ゼラチン不織布層の厚みは増大しており、120μmであった。
【0049】
実施例1、実施例3及び比較例のファイバー作製法で得られた積層構造体のそれぞれについて、前述の走査型電子顕微鏡を用いて各電子顕微鏡用試験体表面の中央の形態を観察、撮影した。
図5に比較例のゼラチンファイバー作製法、実施例1のゼラチンファイバー作製法で得られたゼラチンファイバー及び実施例3の作製法で得られたPLLAファイバーの各SEM画像を示す。
図5において各SEM画像の右下のバーはスケールバーである。また、画像解析ソフト(株式会社フューリンクスSigma scan pro)を用いた画像解析によりファイバー径を測定した。実施例3のファイバー経は170±29nmであった。比較例及び実施例1はともにファイバー経は465±75nmであった。
図5(A)に示されるように、比較例にかかるゼラチンファイバーは、隙間が多く密度が小さいが、
図5(B)及び(C)に示されるように、実施例にかかるゼラチンファイバーおよびPLLAファイバーは、隙間が少なく密度が大きいものであった。
【0050】
《イオナイザーの照射時間間隔の変更》
前述のように、シリンジポンプから押し出されるゼラチン溶液のflow rateは20μL
/minであった。イオナイザーを照射する時間は10秒固定とするが、イオナイザーの照射時間の間隔を変更させる実験を行った。
【0051】
即ち、イオナイザーの照射時間の間隔を紡糸1minごと、紡糸2minごと、紡糸3minごとと変更させた。
【0052】
図6において、横軸は時間(分)であり、縦軸は非誘電体基材の表面に堆積されたファイバーの電圧(kV)である。
図6に示されるようにイオナイザーの照射時間を固定させた場合、イオナイザーの照射時間の間隔は短いほうが非誘電体基材の表面に積層されたシート状ファイバー層の正電荷量を中和させるのに好適であり、その結果シート状ファイバー層の厚みをより向上させることができた。
【0053】
なおイオナイザーを照射する時間を60秒固定とし、イオナイザーの照射時間の間隔を変更させる実験を行ったが、やはり、イオナイザーの照射時間の間隔は短いほうが非誘電体基材の表面に積層されたシート状ファイバー層の正電荷量を中和させるのに好適であり、その結果シート状ファイバー層の厚みをより向上させることができた。