(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075880
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】ヨーク組立体、及びトルク検出装置、並びにヨーク組立体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
G01L3/10 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187120
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 寿哉
(72)【発明者】
【氏名】外山 祐一
(72)【発明者】
【氏名】野々山 俊男
(72)【発明者】
【氏名】宮津 隆一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 祐也
(72)【発明者】
【氏名】岡 伸政
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健
(57)【要約】
【課題】トルク検出装置の部品であるヨーク組立体において、ヨークリングの周方向位置決めを確実に行いながら、コンパクトな形状で製品精度を維持しつつ製造コストが増大しないようにする。
【解決手段】第1ヨークリング1,第2ヨークリング2は、円環部1A,2Aと、円環部1A,2Aに対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪5,6とからなる。カラー3の径方向外方ROにメインギヤ7がある。保持筒4のカラー3から離れた軸方向Jの端面4Aには、第1ヨークリング1を周方向に位置決めする円柱状第1位置決めピンの痕跡である第1ピン穴D1の複数が、磁極爪5の内方延出部の側面に繋がるように形成され、第2ヨークリング2を周方向に位置決めする円柱状第2位置決めピンの痕跡である第2ピン穴D2の複数が、磁極爪6の内方延出部の側面に繋がるように形成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク検出装置の部品であり、2個一組の第1ヨークリング及び第2ヨークリング、並びに樹脂製保持筒からなるヨーク組立体であって、
前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングは、
円環部と、
前記円環部に対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪と、
からなり、
前記磁極爪は、
前記円環部の内周縁から径方向内方へ延びる内方延出部と、
前記内方延出部の径方向内方の端部から軸方向へ延びる爪部と、
からなり、
前記保持筒の軸方向の一端面には、
前記第1ヨークリングを周方向に位置決めする円柱状第1位置決めピンを抜き出した後に残る第1ピン穴の複数が、前記第1ヨークリングの前記内方延出部の側面に繋がるように形成されるとともに、
前記第2ヨークリングを周方向に位置決めする円柱状第2位置決めピンを抜き出した後に残る第2ピン穴の複数が、前記第2ヨークリングの前記内方延出部の側面に繋がるように形成されている、
ヨーク組立体。
【請求項2】
請求項1に記載のヨーク組立体であって、
さらに、固定用金属製カラー、及び前記保持筒に形成される舵角検出装置のメインギヤを備え、
前記カラーの径方向外方に前記メインギヤがあり、
前記保持筒の前記カラーから離れた軸方向の端面に、前記第1ピン穴の複数及び前記第2ピン穴の複数が形成されている、
ヨーク組立体。
【請求項3】
同軸上に連結された第1軸及び第2軸に対し、円筒磁石を前記第1軸に固定し、
請求項1又は2に記載のヨーク組立体を前記第2軸に固定し、
前記円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組の前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングに夫々生じる磁束の変化により、前記第1軸及び前記第2軸に加わる回転トルクを検出する、
トルク検出装置。
【請求項4】
トルク検出装置の部品であるヨーク組立体の製造方法であって、
前記トルク検出装置は、
同軸上に連結された第1軸及び第2軸に対し、円筒磁石を前記第1軸に固定し、前記ヨーク組立体を前記第2軸に固定し、前記円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組の第1ヨークリング及び第2ヨークリングに夫々生じる磁束の変化により、前記第1軸及び前記第2軸に加わる回転トルクを検出するものであり、
前記ヨーク組立体は、
前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリング、並びに樹脂製保持筒からなり、
前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングは、
円環部と、
前記円環部に対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪と、
からなり、
前記磁極爪は、
前記円環部の内周縁から径方向内方へ延びる内方延出部と、
前記内方延出部の径方向内方の端部から軸方向へ延びる爪部と、
からなり、
成形型の下型には、円柱状の中芯が垂直に立設され、
前記下型の前記中芯の周囲には、複数の円柱状第1位置決めピン、及び複数の円柱状第2位置決めピンが立設され、
前記第1位置決めピンの側面に、前記中芯に外嵌した状態の前記第1ヨークリングの前記内方延出部の側面を当接することで、前記第1ヨークリングは周方向に位置決めされ、
前記第2位置決めピンの側面に、前記中芯に外嵌した状態の前記第2ヨークリングの前記内方延出部の側面を当接することで、前記第2ヨークリングは周方向に位置決めされ、
前記成形型を開いて、インサート品である、前記第1ヨークリング、及び前記第2ヨークリングを前記成形型にセットする工程と、
前記成形型を閉じて、前記成形型のキャビティ内へ溶融樹脂材料を射出して前記保持筒を射出成形する工程と、
を含むヨーク組立体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のヨーク組立体の製造方法であって、
前記ヨーク組立体は、さらに、前記第2軸が圧入される金属製カラー、及び前記保持筒に形成される舵角検出用のメインギヤを備え、
前記中芯の上部には、縮径した段部があり、
前記段部は、前記カラーを保持し、
前記インサート品として、さらに、前記カラーを含む、
ヨーク組立体に舵角検出用のメインギヤを射出成形により一体成形するヨーク組立体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出装置の部品であるヨーク組立体、特に、樹脂製保持筒に舵角検出装置のメインギヤを一体成形してなるヨーク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の負担を軽減するために、自動車等の車両には電動パワーステアリング装置が広く用いられている。電動パワーステアリング装置は、操舵補助用のモータの駆動制御に用いるトルク検出装置を備える(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【0003】
前記トルク検出装置は、2個一組のヨークリング、固定用金属製カラー、及び樹脂製保持筒からなるヨーク組立体を有する(例えば、特許文献1のヨーク組立体5、特許文献2のヨークユニット50、特許文献3のヨーク組立体26参照)。
【0004】
一方、横滑り防止装置、後退駐車支援システム、及び車線維持支援システム等には、ステアリングホイールの操舵角度を検出する舵角検出装置が必要になる(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
電動パワーステアリング装置に備えるトルク検出装置及び舵角検出装置において、トルク検出装置の部品である前記ヨーク組立体の樹脂製保持筒に舵角検出装置のメインギヤを一体成形し、部品点数削減等により製造コストを低減したものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
トルク検出装置は、回転トルクを検出する軸に前記ヨーク組立体を固定し、円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組のヨークリングに夫々生じる磁束の変化により回転トルクを検出するものである。したがって、前記ヨーク組立体を製造する際には、2個一組のヨークリングを夫々の内周側に等配された複数の磁極爪が交互に並ぶように成形型内で周方向の位置決め(以下、「ヨークリングの周方向位置決め」という)をする必要がある(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【0007】
特許文献1ないし3のヨーク組立体の製造方法では、ヨークリングの周方向位置決めを行うために、以下の成形型を採用している。
【0008】
特許文献1の成形型では、ヨークリング50の幅方向略中央に位置決め孔を形成し、前記位置決め孔である、一方のヨークリング50の第1の位置決め孔54及び他方のヨークリング50の第2の位置決め孔55に、下型80に立設した共通の位置決めピン82を通している。
【0009】
特許文献2の成形型では、下型110の凸部114の支持面116に第1ヨークリング60の第1磁極歯61を接触させるとともに、下型110の凸部114の側面115に第2ヨークリング70の第2磁極歯71を接触させている。
【0010】
特許文献3の成形型では、下型80に立設した位置決めピン82,83の周方向の長さを、2個一組のヨークリング34,35における隣り合う磁極爪37,38の側面の一部の周方向の間隔に設定し、共通の位置決めピン82,83を前記側面の一部に当接させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5183036号公報
【特許文献2】特許第5844387号公報
【特許文献3】特許第5871151号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Y. MURAKOSHI, M. NAKAMURA, “Development of Steering Angle Sensor for EPS Integration”, JTEKT ENGINEERING JOURNAL No.1009E 2012 Automotive Technology Special Edition, p.72-76[令和4年11月21日検索]、インターネット<URL:http://eb-cat.ds-navi.co.jp/enu/jtekt/tech/ej/img/no1009e/1009e_13.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1のようなトルク検出装置の部品であるヨーク組立体の樹脂製保持筒に舵角検出装置のメインギヤを一体成形してなるヨーク組立体において、ヨークリングに対して軸方向の同じ側に固定用金属製カラー及びメインギヤを配置し、すなわち固定用金属製カラーの径方向外方にメインギヤを配置すれば、ヨークリングに対して軸方向の反対側に固定用金属製カラー及びメインギヤを配置するものよりも樹脂製保持筒の軸方向の長さを短くできる。
【0014】
したがって、固定用金属製カラーの径方向外方にメインギヤを配置することで、前記ヨーク組立体がコンパクトになるので、メインギヤを有する樹脂製保持筒を成形するための樹脂材料を節約できるとともに、トルク検出装置及び舵角検出装置を備えた電動パワーステアリング装置の設計の自由度が高くなる。その上、高い精度が要求されるメインギヤの径方向内方に強度及び剛性が高い金属製カラーが配置されているので、樹脂製メインギヤの精度を長期間にわたって維持することができる。
【0015】
トルク検出装置の部品であるヨーク組立体におけるヨークリングの周方向位置決めを、特許文献1の前記成形型で行う場合、下型80に立設した共通の位置決めピン82を、ヨークリング50の幅方向略中央に形成した位置決め孔54,55に通す必要がある。
【0016】
したがって、上下のヨークリング50の円環部間の樹脂製保持筒52の径方向の肉厚を大きくし、保持筒52に位置決めピン82の抜き出し後に残るピン孔56を形成するようにする必要があるので、樹脂製保持筒52を成形するための樹脂材料が嵩む。その上、ヨークリングにあけた位置決め孔54,55が磁気特性の乱れの一因となっている。その上、位置決めピン82の先端側に位置する前記メインギヤと位置決めピン82とが干渉する場合がある。
【0017】
前記ヨーク組立体におけるヨークリングの周方向位置決めを、特許文献2の前記成形型で行う場合、支持面116に接触させた第1ヨークリング60の第1磁極歯61の側面は樹脂で覆われない。
【0018】
したがって、側面が樹脂で覆われる第1磁極歯61と側面が樹脂で覆われない第1磁極歯61が存在するため、樹脂の流動及び収縮がアンバランスになって製品精度に影響するおそれがある。
【0019】
前記ヨーク組立体におけるヨークリングの周方向位置決めを、特許文献3の前記成形型で行う場合、位置決めピン82,83の周方向の長さを、2個一組のヨークリング34,35における隣り合う磁極爪37,38の側面の一部の周方向の間隔に設定する必要がある。そのため、前記周方向の間隔が大きい場合には、前記位置決めピンの周方向の長さを大きくする必要があるのに対して、径方向のスペース上の制約から前記位置決めピンの径方向の長さを大きくすることができない。
【0020】
したがって、前記位置決めピンの断面形状を、周方向が長い長方形状又は扁平形状等の特殊な形状にする必要があるとともに、そのような断面形状である前記位置決めピンの周方向の長さの精度を出す必要があるので、成形型の製造コストが増大する。
【0021】
本発明は、トルク検出装置の部品であるヨーク組立体において、ヨークリングの周方向位置決めを確実に行いながら、コンパクトな形状で製品精度を維持しつつ製造コストが増大しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るヨーク組立体は、トルク検出装置の部品であり、2個一組の第1ヨークリング及び第2ヨークリング、並びに樹脂製保持筒からなる。前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングは、円環部と、前記円環部に対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪とからなる。前記磁極爪は、前記円環部の内周縁から径方向内方へ延びる内方延出部と、前記内方延出部の径方向内方の端部から軸方向へ延びる爪部とからなる。前記保持筒の軸方向の一端面には、前記第1ヨークリングを周方向に位置決めする円柱状第1位置決めピンを抜き出した後に残る第1ピン穴の複数が、前記第1ヨークリングの前記内方延出部の側面に繋がるように形成されるとともに、前記第2ヨークリングを周方向に位置決めする円柱状第2位置決めピンを抜き出した後に残る第2ピン穴の複数が、前記第2ヨークリングの前記内方延出部の側面に繋がるように形成されている。
【0023】
ここで、前記ヨーク組立体は、さらに、固定用金属製カラー、及び前記保持筒に形成される舵角検出装置のメインギヤを備え、前記カラーの径方向外方に前記メインギヤがあり、前記保持筒の前記カラーから離れた軸方向の端面に、前記第1ピン穴の複数及び前記第2ピン穴の複数が形成されているのが好ましい実施態様である。
【0024】
本発明に係るトルク検出装置は、同軸上に連結された第1軸及び第2軸に対し、円筒磁石を前記第1軸に固定し、前記ヨーク組立体を前記第2軸に固定する。前記円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組の前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングに夫々生じる磁束の変化により、前記第1軸及び前記第2軸に加わる回転トルクを検出する。
【0025】
本発明に係るヨーク組立体の製造方法は、トルク検出装置の部品であるヨーク組立体の製造方法である。前記トルク検出装置は、同軸上に連結された第1軸及び第2軸に対し、円筒磁石を前記第1軸に固定し、前記ヨーク組立体を前記第2軸に固定し、前記円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組の第1ヨークリング及び第2ヨークリングに夫々生じる磁束の変化により、前記第1軸及び前記第2軸に加わる回転トルクを検出する。
【0026】
前記ヨーク組立体は、前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリング、並びに樹脂製保持筒からなる。前記第1ヨークリング及び前記第2ヨークリングは、円環部と、前記円環部に対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪とからなる。前記磁極爪は、前記円環部の内周縁から径方向内方へ延びる内方延出部と、前記内方延出部の径方向内方の端部から軸方向へ延びる爪部とからなる。
【0027】
前記製造方法に用いる成形型の下型には、円柱状の中芯が垂直に立設され、前記下型の前記中芯の周囲には、複数の円柱状第1位置決めピン、及び複数の円柱状第2位置決めピンが立設される。前記第1位置決めピンの側面に、前記中芯に外嵌した状態の前記第1ヨークリングの前記内方延出部の側面を当接することで、前記第1ヨークリングは周方向に位置決めされる。前記第2位置決めピンの側面に、前記中芯に外嵌した状態の前記第2ヨークリングの前記内方延出部の側面を当接することで、前記第2ヨークリングは周方向に位置決めされる。
【0028】
前記製造方法は、前記成形型を開いて、インサート品である、前記第1ヨークリング、及び前記第2ヨークリングを前記成形型にセットする工程と、前記成形型を閉じて、前記成形型のキャビティ内へ溶融樹脂材料を射出して前記保持筒を射出成形する工程とを含む。
【0029】
ここで、前記ヨーク組立体は、さらに、前記第2軸が圧入される金属製カラー、及び前記保持筒に形成される舵角検出用のメインギヤを備え、前記中芯の上部には、縮径した段部があり、前記段部は、前記カラーを保持し、前記インサート品として、さらに、前記カラーを含み、前記製造方法は、ヨーク組立体に舵角検出用のメインギヤを射出成形により一体成形するヨーク組立体の製造方法であるのが好ましい実施態様である。
【0030】
このような本発明のヨーク組立体の製造方法によれば、第1ヨークリングの磁極爪の内方延出部の側面に円柱状第1位置決めピンを当接することで第1ヨークリングの周方向位置決めを行うとともに、第2ヨークリングの磁極爪の内方延出部の側面に円柱状第2位置決めピンを当接することで第2ヨークリングの周方向位置決めを行う。したがって、本発明の前記ヨークリングの周方向位置決めにより、ヨークリングの周方向位置決めを確実に行いながら、特許文献3のヨークリングの周方向位置決めと比較して、成形型の製造コストを低減できる。
【0031】
また、本発明の前記ヨークリングの周方向位置決めによれば、第1位置決めピン及び第2位置決めピンの径方向外方の樹脂製保持筒の外径を、特許文献1のヨークリングの周方向位置決めを行う位置決めピンの径方向外方の樹脂製保持筒の外径よりも小さくできる。その上、ヨークリング組立体が固定用金属製カラーの径方向外方にメインギヤを配置していることから、ヨークリングに対して軸方向の反対側に固定用金属製カラー及びメインギヤを配置するものよりも樹脂製保持筒の軸方向の長さを短くできる。したがって、ヨーク組立体の樹脂製保持筒がコンパクトになるので、メインギヤを有する樹脂製保持筒を成形するための樹脂材料を節約できる。その上、ヨークリングに位置決め孔をあけないので、磁気特性が乱れない。その上、本発明の前記ヨークリングの周方向位置決めは、特許文献1のヨークリングの周方向位置決めと比較して、メインギヤと位置決めピンが干渉しない。
【0032】
また、本発明のヨーク組立体の製造方法で製造したヨーク組立体は、側面が樹脂で覆われる磁極爪と側面が樹脂で覆われない磁極爪が存在しないので、特許文献2のヨークリング組立体のように樹脂の流動及び収縮がアンバランスになって製品精度に影響するおそれがない。
【発明の効果】
【0033】
以上のような本発明に係るヨーク組立体、及びトルク検出装置、並びにヨーク組立体の製造方法によれば、ヨークリングの周方向位置決めを確実に行いながら、ヨーク組立体がコンパクトな形状となり、製品精度を維持しつつ製造コストが増大しない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A】本発明の実施の形態に係るヨーク組立体の斜視図である。
【
図2A】
図1Aのヨーク組立体の上下を反転させた斜視図である。
【
図3】インサート品である第1ヨークリング、第2ヨークリング、及びカラーと、成形型の下型とを示す分解斜視図である。
【
図4】前記インサート品及び成形型を示す縦断面図である。
【
図5】前記インサート品を成形型にセットした状態を中間型及び上型を省略して示す斜視図である。
【
図6】第1位置決めピンにより第1ヨークリングを周方向に位置決めした状態を示す概略平面図である。
【
図7】第2位置決めピンにより第2ヨークリングを周方向に位置決めした状態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
本発明のヨーク組立体は、トルク検出装置の部品である。トルク検出装置は、同軸上に連結された第1軸及び第2軸に対し、外周に複数の磁極を並設した円筒磁石を前記第1軸に固定し、前記ヨーク組立体を前記第2軸に固定し、前記円筒磁石が形成する磁界内での相対角変位に応じて前記ヨーク組立体の2個一組のヨークリングに夫々生じる磁束の変化により前記第1軸及び第2軸に加わる回転トルクを検出する。
【0037】
本明細書において、トルク検出装置が検出する回転トルクの回転軸(例えば、
図1Aの符号O参照)に平行な方向を「軸方向」(例えば、
図1Aの矢印J参照)、前記回転軸に直交する方向を「径方向」(例えば、
図1Aの矢印R参照)という。また、本明細書において、前記回転軸に近づく径方向を「径方向内方」(例えば、
図1Aの矢印RI参照)、前記回転軸から遠ざかる径方向を「径方向外方」(例えば、
図1Aの矢印RO参照)という。前記回転軸の方向に対して「周方向」を定義する。
【0038】
以下の実施形態におけるヨーク組立体Aは固定用金属製カラー3を有するとともに、ヨーク組立体Aの保持筒4には舵角検出装置のメインギヤ7が形成されている。本発明は、このような構成に限定されるものではなく、本発明のヨークリングの周方向位置決めは、前記金属製カラー3及び前記メインギヤ7を有さないヨーク組立体に対しても有効である。
【0039】
<ヨーク組立体>
図1A、
図1B、
図2A及び
図2Bに示すように、本発明の実施の形態に係るヨーク組立体Aは、第1ヨークリング1及び第2ヨークリング2、前記第2軸が圧入される金属製カラー3、並びに樹脂製保持筒4を備える。
【0040】
保持筒4は、2個一組の第1ヨークリング1及び第2ヨークリング2を夫々の内周側に等配された複数の磁極爪5及び6が交互に並ぶように位置決めした状態で、第1ヨークリング1、第2ヨークリング2、及びカラー3を一体に保持するとともに、舵角検出装置のメインギヤ7を備える。メインギヤ7はカラー3の径方向外方ROにある。
【0041】
図3に示すように、第1ヨークリング1は、円環部1Aと、円環部1Aに対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪5とからなる。磁極爪5は、円環部1Aの内周縁から径方向内方RIへ延びる内方延出部5Aと、内方延出部5Aの径方向内方RIの端部から軸方向Jへ延びる爪部5Bとからなる。
【0042】
図3に示すように、第2ヨークリング2は、円環部2Aと、円環部2Aに対して周方向へ等間隔に並ぶように配置された磁極爪6とからなる。磁極爪6は、円環部2Aの内周縁から径方向内方RIへ延びる内方延出部6Aと、内方延出部6Aの径方向内方RIの端部から軸方向Jへ延びる爪部6Bとからなる。
【0043】
図1Aに示すように、保持筒4のカラー3から離れた軸方向Jの端面4Aには、2個のピン穴D1、及び2個のピン穴D2がある。ピン穴D1,D2は、後述する製造方法でヨーク組立体Aを製造することにより形成され、ピン穴D1は
図3の円柱状第1位置決めピン11の痕跡であり、ピン穴D2は
図3の円柱状第2位置決めピン12の痕跡である。
【0044】
ピン穴D1は、第1ヨークリング1の内方延出部5Aの側面5a(
図3及び
図6参照)に繋がり、ピン穴D2は、第2ヨークリング2の内方延出部6Aの側面6a(
図3及び
図7参照)に繋がる。
【0045】
<ヨーク組立体の製造方法>
(成形型)
図4に示すように、ヨーク組立体Aの樹脂製の保持筒4を成形する成形型8は、下型9、中間型13、及び上型14からなる。中間型13は、下型9と上型14との間で径方向Rに分離可能な一対の金型である。
【0046】
図3に示すように、下型9には、成形対象となる
図2A及び
図2Bの保持筒4の内径と略等しい外径を有する円柱状の中芯10が垂直に立設される。中芯10の上部には、カラー3を保持するように縮径した段部10Aがある。下型9の中芯10の周囲には、複数の円柱状第1位置決めピン11、及び複数の円柱状第2位置決めピン12が立設される。第1位置決めピン11及び第2位置決めピン12は、夫々2個ずつ設けるのが好ましい実施態様である。
【0047】
第1位置決めピン11は、円柱状であるので、その円形断面の精度を出すことで、第1ヨークリング1の周方向位置決めに必要な第1位置決めピン11の周方向の長さの精度を容易に出すことができる。同様に、第2位置決めピン12は、円柱状であるので、その円形断面の精度を出すことで、第2ヨークリング2の周方向位置決めに必要な第2位置決めピン12の周方向の長さの精度を容易に出すことができる。
【0048】
(インサート品セット工程)
成形型8を開いて、インサート品である、第1ヨークリング1、第2ヨークリング2、及びカラー3を、下型9の中芯10に外嵌するようにセットするインサート品セット工程を行う。
図4は、インサート品セット工程を行った後に成形型8を閉じた状態を示している。
図5は、インサート品セット工程を行った後の状態を、中間型13及び上型14を省略して示している。
【0049】
図4及び
図5に示すように、第1ヨークリング1、第2ヨークリング2、及びカラー3は、下型9の中芯10に外嵌される。その状態では、第1ヨークリング1の爪部5B、及び第2ヨークリング2の爪部6Bが、中芯10の外周面に接触し、カラー3の鍔部3Aの内周面3Bが、先端円筒部の外周面10Bに接触する。したがって、第1ヨークリング1、第2ヨークリング2、及びカラー3は、径方向Rに位置決めされる。
【0050】
図4に示すように、円環部1Aは下型9及び中間型13により挟まれ、円環部2Aは中間型13及び上型14により挟まれ、カラー3は下型9の段部10A及び上型14により挟まれる。したがって、第1ヨークリング1、第2ヨークリング2、及びカラー3は、軸方向Jに位置決めされる。
【0051】
図6において、平面Bは、第1ヨークリング1の対向する2個の磁極爪5の周方向中央と回転軸Oを通る。平面Bに対して同じ側に位置する2個の円柱状第1位置決めピン11が、第1ヨークリング1の2個の対向する磁極爪5の内方延出部5Aの側面5aに当接するように、
図6に示す角度αだけ回転軸Oまわりに回動させた位置に配置される。それにより、第1ヨークリング1は、
図6において、回転軸Oに対して時計回り及び反時計回りの両方向へ移動できないので、第1ヨークリング1は周方向に位置決めされる。
【0052】
図7に示すように、平面Bに対して回転軸Oまわりに
図6の角度αと逆方向へ角度β回動させた、平面Bに対して同じ側に位置する2個の円柱状第2位置決めピン12が、第2ヨークリング2の2個の磁極爪6の内方延出部6Aの側面6aに当接するように配置される。それにより、第2ヨークリング2は、
図7において、回転軸Oに対して時計回り及び反時計回りの両方向へ移動できないので、第2ヨークリング2は周方向に位置決めされる。
【0053】
第1位置決めピン11は、第1ヨークリング1の磁極爪5の爪部5Bを曲げ加工した際に周方向に膨らむ方向へ変形した曲げ部には当接せず、抜き加工で寸法が安定する内方延出部5Aの側面5aに当接する。また、第2位置決めピン12は、第2ヨークリング2の磁極爪6の爪部6Bを曲げ加工した際に周方向に膨らむ方向へ変形した曲げ部には当接せず、抜き加工で寸法が安定する内方延出部6Aの側面6aに当接する。したがって、第1ヨークリング1及び第2ヨークリング2の周方向の位置決め精度が高くなる。
【0054】
(射出成形工程)
図4に示すように成形型8を閉じて、成形型8のキャビティC内へ溶融樹脂材料を射出して保持筒4を射出成形する工程を行う。
【0055】
(成形品取出し工程)
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、成形型8を開いて、エジェクタピンにより突き出すことにより、インサート成形品であるヨーク組立体Aを取り出す成形品取出し工程を行う。
【0056】
成形したヨーク組立体Aには、
図1Aのように、保持筒4のカラー3から離れた軸方向Jの端面4Aに、円柱状第1位置決めピン11を抜いた痕跡である2個のピン穴D1、及び円柱状第2位置決めピン12を抜いた痕跡である2個のピン穴D2が形成される。
【0057】
<作用効果>
以上のような本発明の実施の形態に係るヨーク組立体の製造方法によれば、第1ヨークリング1の磁極爪5の内方延出部5Aの側面5aに円柱状第1位置決めピン11を当接することで第1ヨークリング1の周方向位置決めを行うとともに、第2ヨークリング2の磁極爪6の内方延出部6Aの側面6aに円柱状第2位置決めピン12を当接することで第2ヨークリング2の周方向位置決めを行う。
【0058】
したがって、前記周方向位置決めにより第1ヨークリング1及び第2ヨークリング2の周方向位置決めを確実に行いながら、特許文献3の
図5のように、隣り合う磁極爪の周方向の間隔が大きい場合に、2個一組のヨークリングにおける隣り合う磁極爪の側面の一部の周方向の間隔に設定した周方向長さを有する、周方向が長い長方形状又は扁平形状等の特殊な形状の共通の位置決めピンによりヨークリングの周方向位置決めを行うものと比較して、本発明は、一般的な円柱状の位置決めピンを使用するので、成形型の製造コストを低減できる。
【0059】
また、本発明の実施の形態に係る前記ヨークリングの周方向位置決めによれば、第1位置決めピン11及び第2位置決めピン12の径方向外方ROの樹脂製保持筒4の外径を、特許文献1のヨークリングの周方向位置決めを行う位置決めピンの径方向外方の樹脂製保持筒の外径よりも小さくできる。その上、ヨークリング組立体Aが固定用金属製カラー3の径方向外方ROにメインギヤ7を配置していることから、ヨークリングに対して軸方向Jの反対側に固定用金属製カラー3及びメインギヤ7を配置するものよりも樹脂製保持筒4の軸方向Jの長さを短くできる。したがって、ヨーク組立体Aの樹脂製保持筒4がコンパクトになるので、メインギヤ7を有する樹脂製保持筒4を成形するための樹脂材料を節約できる。その上、ヨークリング1,2に位置決め孔をあけないので、磁気特性が乱れない。その上、本発明の実施の形態に係る前記ヨークリングの周方向位置決めは、特許文献1のヨークリングの周方向位置決めと比較して、メインギヤと位置決めピンが干渉しない。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係るヨーク組立体Aの製造方法で製造したヨーク組立体Aの磁極爪5,6は、側面が樹脂で覆われる磁極爪と側面が樹脂で覆われない磁極爪が存在しないので、特許文献2のヨークリング組立体のように樹脂の流動及び収縮がアンバランスになって製品精度に影響するおそれがない。
【0061】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0062】
1 第1ヨークリング
1A 円環部
2 第2ヨークリング
2A 円環部
3 カラー
3A 鍔部
3B 内周面
4 保持筒
4A 端面
5 磁極爪
5A 内方延出部
5a 側面
5B 爪部
6 磁極爪
6A 内方延出部
6a 側面
6B 爪部
7 メインギヤ
8 成形型
9 下型
10 中芯
10A 段部
10B 先端円筒部の外周面
11 第1位置決めピン
12 第2位置決めピン
13 中間型
14 上型
A ヨーク組立体
B 第1ヨークリングの対向する2個の磁極爪の周方向中央と回転軸を通る平面
C キャビティ
D1 第1ピン穴
D2 第2ピン穴
J 軸方向
O 回転軸
R 径方向
RI 径方向内方
RO 径方向外方