IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三井ハイテックの特許一覧

特開2024-75885積層鉄心の製造方法および積層鉄心の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075885
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法および積層鉄心の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20240529BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20240529BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H02K15/02 D
B23K9/167 A
B23K9/00 501N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187129
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 耕介
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆文
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 風人
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
5H615
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB08
4E001BB09
4E001BB11
4E001CA01
4E001DD02
4E001DD03
4E081YN10
4E081YX02
4E081YX13
5H615AA01
5H615BB05
5H615PP01
5H615PP06
5H615SS03
5H615SS05
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】積層鉄心の溶接品質を向上させること。
【解決手段】積層鉄心の製造方法は、積層体形成工程と、溶接工程と、を含む。積層体形成工程は、複数の鉄心片を積層して積層体を形成する。溶接工程は、積層体内で互いに隣接する鉄心片同士を溶接する。また、積層体には、凸部と、凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、凸部および一対の凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成される。また、溶接工程は、電極の先端と角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、電極に通電して凸部を溶接する。
【選択図】図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鉄心片を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する溶接工程と、
を含み、
前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成され、
前記溶接工程は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する
積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程は、前記カバーと前記積層体の外周との間を離間させながら前記凸部を溶接する
請求項1に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項3】
前記溶接工程は、前記電極と前記カバーとが一体となった溶接装置によって行われる
請求項1または2に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程は、前記積層体の一部を局所的に溶接する点溶接で行われる
請求項1または2に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項5】
前記溶接工程は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接で行われる
請求項1または2に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項6】
前記電極の先端から一対の前記角部をそれぞれ遮る前記カバーの間の距離は、前記電極の直径よりも大きい
請求項1または2に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項7】
前記電極の先端から一対の前記角部をそれぞれ遮る前記カバーの間の距離は、一対の前記角部の間の距離よりも小さい
請求項1または2に記載の積層鉄心の製造方法。
【請求項8】
複数の鉄心片を積層して積層体を形成する積層体形成装置と、
前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する溶接装置と、
を備え、
前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成され、
前記溶接装置は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する
積層鉄心の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、積層鉄心の製造方法および積層鉄心の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、モータのステータやロータを構成する積層鉄心は、帯状の金属板を金型装置に順送りし、金属板の送り方向に沿って並んで位置する加工ステーションで順次打ち抜き加工を行って所望形状の鉄心片を形成し、得られた鉄心片を積層することで製造される。
【0003】
また、積層鉄心では、隣接する鉄心片同士を締結させるため、積層体の側面を溶接する技術が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-125998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、この溶接工程では、電極の先端から発生したアークが、積層体の側面における所望の箇所ではなく、周囲に誤って飛散する場合があった。これにより、積層鉄心の溶接品質が低下してしまう恐れがあった。
【0006】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、積層鉄心の溶接品質を向上させることができる積層鉄心の製造方法および積層鉄心の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る積層鉄心の製造方法は、積層体形成工程と、溶接工程と、を含む。積層体形成工程は、複数の鉄心片を積層して積層体を形成する。溶接工程は、前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する。また、前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成される。また、前記溶接工程は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する。
【0008】
実施形態の一態様に係る積層鉄心の製造装置は、積層体形成装置と、溶接装置と、を備える。積層体形成装置は、複数の鉄心片を積層して積層体を形成する。溶接装置は、前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する。また、前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成される。また、前記溶接装置は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する。
【発明の効果】
【0009】
実施形態の一態様によれば、積層鉄心の溶接品質を向上させることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、実施形態に係る積層鉄心の一例を示す模式図である。
図1B図1Bは、実施形態に係る積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
図2A図2Aは、実施形態に係る積層鉄心の製造装置が実行する各製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。
図2B図2Bは、実施形態に係る積層体形成工程で形成された積層体の一例について説明するための図である。
図3A図3Aは、実施形態に係る溶接装置の一例を示す概略図である。
図3B図3Bは、実施形態に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
図3C図3Cは、実施形態に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
図4A図4Aは、実施形態に係る溶接工程の別の一例について説明するための図である。
図4B図4Bは、実施形態に係る溶接工程の別の一例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する積層鉄心の製造方法および積層鉄心の製造装置について説明する。なお、以下に示す実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0012】
また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0013】
<積層鉄心>
最初に、実施形態に係る積層鉄心1の構成について、図1Aを参照しながら説明する。図1Aは、実施形態に係る積層鉄心1の一例を示す模式図である。
【0014】
積層鉄心1は、たとえば、固定子積層鉄心であり、固定子(ステータ)の一部である。なお、固定子は、積層鉄心1に巻線が取り付けられたものである。この固定子に回転子(ロータ)が組み合わされることによって、モータが構成される。
【0015】
図1Aに示すように、積層鉄心1は、円筒形状を呈している。すなわち、積層鉄心1の中央部分には、中心軸Axに沿って延びる貫通孔1a(中心孔)が設けられている。貫通孔1a内には、回転子が配置可能である。
【0016】
積層鉄心1は、複数の鉄心片Wが積み重ねられた積層体である。鉄心片Wは、帯状の電磁鋼板MS(図1B参照)が所定形状に打ち抜かれた板状体である。
【0017】
なお、実施形態に係る積層鉄心1は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。この「転積」とは、鉄心片W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の鉄心片Wを積層することをいう。転積は、主に積層鉄心1の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0018】
積層鉄心1は、ヨーク部2と、複数のティース部3と、複数の耳金部4と、複数の溶接部5と、複数のカシメ部6とを含む。ヨーク部2は、円環状を呈しており、中心軸Axを囲むように延びている。ヨーク部2の径方向における幅、内径、外径および厚さはそれぞれ、モータの用途および性能に応じて種々の大きさに設定し得る。
【0019】
各ティース部3は、ヨーク部2の内縁から中心軸Ax側に向かうようにヨーク部2の径方向に沿って延びている。すなわち、各ティース部3は、ヨーク部2の内縁から中心軸Ax側に向けて突出している。
【0020】
たとえば、図1Aの例では、6個のティース部3がヨーク部2に一体的に形成されている。各ティース部3は、ヨーク部2の周方向において、略等間隔で並んでいる。隣り合うティース部3の間には、巻線(図示せず)を配置するための空間として機能するスロット部1bが画定されている。
【0021】
耳金部4は、中心軸Axから離れるように、ヨーク部2の外縁から径方向外側に向けて突出する。耳金部4は、積層方向において、積層鉄心1の上面から下面にかけて直線状に延びている。複数の耳金部4は、たとえば、周方向において略等間隔で並んでいる。
【0022】
耳金部4には、積層方向において耳金部4を貫通する貫通孔4aが設けられる。かかる貫通孔4aは、たとえば、積層鉄心1を電動機のハウジング(図示せず)に固定するためのボルトの挿通孔として機能する。
【0023】
溶接部5は、後述する溶接工程が施される部位である。溶接部5は、ヨーク部2の外周縁に位置する。溶接部5は、積層方向において、積層鉄心1の上面から下面にかけて直線状に延びている。複数の溶接部5は、たとえば、周方向において略等間隔で並んでいる。かかる溶接部5の詳細な構成については後述する。
【0024】
カシメ部6は、ヨーク部2に設けられていてもよいし、各ティース部3に設けられていてもよいし、ヨーク部2および各ティース部3の双方に設けられていてもよい。実施形態では、高さ方向において互いに隣接する鉄心片W同士の一部が、カシメ部6によって締結されている。
【0025】
具体的には、カシメ部6は、積層体10a(図2B参照)の最下層以外をなす鉄心片Wに形成されたカシメと、積層体10aの最下層をなす鉄心片Wに形成されたカシメ貫通孔とを含む。
【0026】
カシメの凸部は、隣り合う他のカシメの凹部またはカシメ貫通孔と接合される。カシメ貫通孔は、積層体10aを連続して製造する際、すでに製造された積層体10aに対し、続いて形成された鉄心片Wがカシメによって締結されるのを防ぐ機能を有する。
【0027】
なお、実施形態に係る積層鉄心1において、互いに隣接する鉄心片W同士は、カシメ部6に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。たとえば、互いに隣接する鉄心片W同士が、接着剤または樹脂材料を用いて互いに接合されてもよいし、溶接によって互いに接合されてもよい。
【0028】
あるいは、鉄心片Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の鉄心片Wを締結して積層体10aを得た後、仮カシメをこの積層体10aから除去することによって、積層体10(図1B参照)を得てもよい。この「仮カシメ」とは、複数の鉄心片Wを一時的に一体化させるのに使用され、かつ製品(積層鉄心1または固定子)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0029】
なお、本開示では、積層鉄心1の製造工程で形成される積層体10において、上述のヨーク部2、ティース部3、耳金部4、溶接部5及びカシメ部6に対応する部位についても、同様にヨーク部2、ティース部3、耳金部4、溶接部5及びカシメ部6と呼称する。
【0030】
<製造装置>
つづいて、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100について、図1Bを参照しながら説明する。図1Bは、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100の一例を示す概略図である。実施形態に係る製造装置100は、帯状の電磁鋼板MSから鉄心片W(図1A参照)の積層体10を製造し、かかる積層体10から積層鉄心1(図1A参照)を製造するように構成される。
【0031】
図1Bに示すように、製造装置100は、打ち抜き装置200と、溶接装置300と、コントローラCtr(制御部)とを備える。打ち抜き装置200は、積層体形成装置の一例である。
【0032】
打ち抜き装置200は、アンコイラー210と、送出装置220と、プレス加工装置230とを備える。アンコイラー210は、コイル材211を回転自在に保持するように構成される。コイル材211は、電磁鋼板MSがコイル状(渦巻状)に巻回されたものである。
【0033】
送出装置220は、電磁鋼板MSを上下から挟み込む一対のローラ221、222を含む。一対のローラ221、222は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転および停止し、電磁鋼板MSをプレス加工装置230に向けて間欠的に順次送り出すように構成されている。すなわち、一対のローラ221、222は、電磁鋼板MSを搬送するための搬送手段としての機能を有する。
【0034】
プレス加工装置230は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作するように構成される。プレス加工装置230は、たとえば、送出装置220によって間欠的に送り出される金属板MSを順次打ち抜き加工して鉄心片Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた鉄心片Wを順次積層して積層体10を製造する機能とを有する。
【0035】
積層体10は、互いに隣接する鉄心片W同士の一部がカシメ部6などにより互いに締結された状態で積み重ねられたものである。
【0036】
溶接装置300は、コントローラCtrからの指示に基づいて動作し、打ち抜き装置200からコンベアCvなどによって搬送された積層体10の溶接部5(図1A参照)を溶接する機能を有する。この溶接装置300での溶接工程の詳細については後述する。
【0037】
コントローラCtrは、たとえば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラムまたはオペレータからの操作入力などに基づいて、製造装置100内の各装置を動作させるための指示信号を生成するように構成されている。コントローラCtrは、製造装置100内の各装置にこの指示信号を送信するように構成されている。
【0038】
<製造工程>
つづいて、実施形態に係る積層鉄心1の製造工程の詳細について、図2A図3Cを参照しながら説明する。図2Aは、実施形態に係る積層鉄心1の製造装置100が実行する各製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。
【0039】
図2Aに示すように、コントローラCtrは、まず、打ち抜き装置200を制御して、電磁鋼板MSに打ち抜き加工を行い、かかる打ち抜き加工で形成された鉄心片Wを積層して積層体10を形成する(ステップS101)。
【0040】
図2Bは、実施形態に係る積層体形成工程で形成された積層体10の一例について説明するための図である。図2Bに示すように、実施形態に係る積層体形成工程では、積層体10aが複数(図では4つ)積層されて、積層体10が形成される。
【0041】
積層体10aは、複数の鉄心片W(図1A参照)が積層されて形成される。さらに、積層体10aの内部では、互いに隣接する鉄心片W(図1A参照)同士の間が、カシメ部6(図1A参照)や接着剤などによってすべて締結されている。
【0042】
一方で、積層体10において、互いに隣接する積層体10a同士の間は、積層体形成工程では締結されない。そのため、実施形態に係る積層体10では、互いに隣接する積層体10a同士が離間可能となっている。
【0043】
そこで、実施形態では、図2Aに示す溶接工程(ステップS102)において、互いに隣接する積層体10a同士を溶接する。具体的には、図2Bに示すように、溶接部5において互いに隣接する積層体10a同士が接する溶接部5Aを溶接する。これにより、互いに隣接する積層体10a同士の間が締結される。
【0044】
図3Aは、実施形態に係る溶接装置300の一例を示す概略図であり、溶接装置300を上方からみた場合の概略図である。実施形態では、たとえば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接によって互いに隣接する積層体10a同士が溶接される。
【0045】
図3Aに示すように、実施形態に係る溶接装置300は、電極310と、ガス供給部320と、一対のカバー330と、一対の支持部340と、移動部350とを有する。
【0046】
電極310は、たとえばタングステンなどの融点の高い金属材料を用いて形成された長尺状の電極棒で構成される。なお、電極310には、タングステンの他に、たとえば酸化トリウムや酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物を添加したものを用いることができる。
【0047】
ガス供給部320は、電極310を支持するとともに、かかる電極310の周囲にアルゴンガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを供給する。これにより、大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。また、ガス供給部320には、溶接装置300に設けられる電源(図示せず)から電極310に電力を供給する配線部(図示せず)が位置する。
【0048】
一対のカバー330は、たとえば板状であり、電極310の先端311(図3C参照)よりも前方(図3Aでは右方向)かつ両側の側方(図3Aでは上下方向)にそれぞれ位置する。カバー330は絶縁体で構成され、たとえばジルコニアやマイカなどの耐アーク特性の高いセラミックスなどで構成される。
【0049】
一対の支持部340は、一対のカバー330をそれぞれ支持する。移動部350は、コントローラCtr(図1B参照)からの指示に応じて、ガス供給部320を介して電極310を所望の位置に移動させるとともに、支持部340を介してカバー330を所望の位置に移動させる。すなわち、実施形態に係る溶接装置300では、電極310とカバー330とが一体となって移動する。
【0050】
つづいて、ここまで説明した溶接装置300を用いた溶接工程について、図3Bおよび図3Cを参照しながら説明する。図3Bおよぶ図3Cは、実施形態に係る溶接工程の一例について説明するための図である。
【0051】
まず、図3Bに示すように、コントローラCtr(図1B参照)は、溶接装置300を制御して、電極310および一対のカバー330を溶接部5Aに近づける。ここで、溶接部5(溶接部5A)は、平面視で略W字形状であり、凸部5aと、一対の凹部5bと、一対の角部5cとを有する。
【0052】
凸部5aは、凸形状を有し、溶接部5の中央部に位置する。一対の凹部5bは、凹形状を有し、凸部5aの両側にそれぞれ位置する。一対の角部5cは、並んで位置する凸部5aおよび一対の凹部5bの外側にそれぞれ位置し、曲率半径が小さい角形状の部位である。
【0053】
そして、図3Cに示すように、コントローラCtr(図1B参照)は、電極310の先端311が溶接部5Aの凸部5aに向かい合うとともに、電極310の先端311と溶接部5Aの角部5cとの間がカバー330で遮られる位置に溶接装置300を配置する。
【0054】
次に、コントローラCtrは、電極310と積層体10との間に所定の電圧を印加する。すると、電極310の先端311から溶接部5Aの凸部5aに向かうアークAが発生する。そして、このアークAによって凸部5aが溶融し、さらに冷えて固化することで、隣接する積層体10a(図2B参照)同士の間が溶接される。
【0055】
ここで、実施形態では、電極310に通電された際に、電極310の先端311と溶接部5Aの角部5cとの間がカバー330で遮られるとよい。これにより、アークAが所望の凸部5aではなく、角部5cに飛ぶこと(図3Cの破線矢印参照)を抑制することができる。
【0056】
したがって、実施形態によれば、角部5cが誤って溶接されることを抑制できるため、積層鉄心1の溶接品質を向上させることができる。
【0057】
また、実施形態では、カバー330が絶縁体で構成されるとよい。仮に、カバー330が金属などの導電体で構成された場合、凸部5aではなくカバー330にアークAが飛ぶ可能性があるため、凸部5aを良好に溶接できない恐れがある。
【0058】
一方で、実施形態では、カバー330が絶縁体で構成されるため、アークAがカバー330に飛ぶことはない。したがって、実施形態によれば、凸部5aを良好に溶接することができる。
【0059】
また、実施形態では、溶接工程において、カバー330と積層体10の外周との間を離間させながら凸部5aを溶接してもよい。すなわち、実施形態では、溶接工程において、カバー330と積層体10の外周との間にギャップGが設けられてもよい。
【0060】
これにより、カバー330が接触することで積層体10の外周に傷が付くことを抑制できる。したがって、実施形態によれば、積層鉄心1の品質を向上させることができる。
【0061】
なお、本開示では、溶接工程において、カバー330と積層体10の外周との間を離間させながら凸部5aを溶接する場合に限られず、カバー330と積層体10の外周とを接触させながら凸部5aを溶接してもよい。
【0062】
また、実施形態では、溶接工程が、電極310とカバー330とが一体となった溶接装置300によって行われてもよい。これにより、カバー330を溶接部5Aに配置する工程と電極310を溶接部5Aに近づける工程とを同時に実施することができる。したがって、実施形態によれば、積層鉄心1の生産性を向上させることができる。
【0063】
なお、本開示では、溶接工程が電極310とカバー330とが一体となった溶接装置300によって行われる場合に限られず、電極310とカバー330とが独立して動作する溶接装置300によって行われてもよい。
【0064】
また、実施形態では、溶接工程が、積層体10の一部(ここでは溶接部5A)を局所的に溶接する点溶接で行われてもよい。これにより、溶接部5の一方の端部から他方の端部まで線状に溶接する場合と比べて、溶接時間を短縮することができる。したがって、実施形態によれば、積層鉄心1の生産性を向上させることができる。
【0065】
なお、本開示では、溶接工程が点溶接で行われる場合に限られず、溶接部5の一方の端部から他方の端部まで線状に溶接してもよい。
【0066】
またこの場合、カバー330は溶接部5の一方の端部から他方の端部まで全域にわたって配置される必要は無く、溶接工程が開始される箇所にのみ配置されればよい。なぜなら、アークAが一度凸部5aに飛んだ後には、電極310を上下に移動させたとして、アークAが角部5cに逸れることはほとんど無いからである。
【0067】
また、実施形態では、溶接工程がTIG溶接で行われてもよい。これにより、複雑な形状の溶接部5を有する積層鉄心1を精密に溶接することができる。したがって、実施形態によれば、積層鉄心1の溶接品質を向上させることができる。
【0068】
なお、本開示では、溶接工程がTIG溶接で行われる場合に限られず、プラズマ溶接、溶融式のガスシールドアーク溶接などのその他の溶接手法に本開示の技術が適用されてもよい。本開示の技術が適用可能な溶融式のガスシールドアーク溶接としては、たとえば、COアーク溶接、MAGアーク溶接、MIGアーク溶接などが挙げられる。
【0069】
また、実施形態では、一対のカバー330の間の距離L2が、電極310の直径L1よりも大きくてもよい(すなわち、L2>L1)。これにより、電極310の周囲を流れる不活性ガスを、カバー330の間を通じて溶接部5Aに円滑に流すことができる。
【0070】
したがって、実施形態によれば、積層鉄心1の溶接品質を向上させることができる。実施形態では、たとえば、距離L2が直径L1の2倍以上であるとよい。
【0071】
また、実施形態では、一対のカバー330の間の距離L2が、一対の角部5cの間の距離L3よりも小さくてもよい(すなわち、L2<L3)。これにより、電極310の先端311と溶接部5Aの角部5cとの間をカバー330で良好に遮ることができる。
【0072】
したがって、実施形態によれば、角部5cにアークAが飛ぶことを抑制できるため、積層鉄心1の溶接品質を向上させることができる。実施形態では、たとえば、距離L2が距離L3の10(%)~98(%)であるとよく、距離L2が距離L3の20(%)~90(%)であると好ましい。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。たとえば、上記の実施形態では、溶接装置300にカバー330が一対(すなわち2つ)設けられる例について示したが、本開示はかかる例に限られず、カバー330が一体で構成されていてもよい。
【0074】
この場合、たとえば、一体のカバー330に孔部が形成され、かかる孔部を介して電極310と溶接部5の凸部5aとが向かい合うように位置しながら溶接が行われてもよい。
【0075】
また、実施形態では、一対の角部5cを両方ともカバー330で遮る例について示したが、本開示はかかる例に限られず、一対の角部5cの少なくとも一方がカバー330で遮られてもよい。
【0076】
また、実施形態では、角部5cが断面視で曲率半径の小さい角形状を有する場合について示したが、本開示はかかる例に限られない。たとえば、図4Aに示すように、角部5cは断面視で曲率半径の大きい円弧状であってもよいし、図4Bに示すように、角部5cは面取りされた形状であってもよい。
【0077】
なおこれらの場合、たとえば、凹部5bと積層体10の外周との間で、電極310の先端311に対して最短距離となる部位を、角部5cとみなすことができる。
【0078】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【0079】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)
複数の鉄心片を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する溶接工程と、
を含み、
前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成され、
前記溶接工程は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する
積層鉄心の製造方法。
(2)
前記溶接工程は、前記カバーと前記積層体の外周との間を離間させながら前記凸部を溶接する
前記(1)に記載の積層鉄心の製造方法。
(3)
前記溶接工程は、前記電極と前記カバーとが一体となった溶接装置によって行われる
前記(1)または(2)に記載の積層鉄心の製造方法。
(4)
前記溶接工程は、前記積層体の一部を局所的に溶接する点溶接で行われる
前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の積層鉄心の製造方法。
(5)
前記溶接工程は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接で行われる
前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の積層鉄心の製造方法。
(6)
前記電極の先端から一対の前記角部をそれぞれ遮る前記カバーの間の距離は、前記電極の直径よりも大きい
前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の積層鉄心の製造方法。
(7)
前記電極の先端から一対の前記角部をそれぞれ遮る前記カバーの間の距離は、一対の前記角部の間の距離よりも小さい
前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の積層鉄心の製造方法。
(8)
複数の鉄心片を積層して積層体を形成する積層体形成装置と、
前記積層体内で互いに隣接する前記鉄心片同士を溶接する溶接装置と、
を備え、
前記積層体には、凸部と、前記凸部の両側にそれぞれ位置する一対の凹部と、前記凸部および一対の前記凹部の外側にそれぞれ位置する一対の角部とを有する溶接部が外周に形成され、
前記溶接装置は、電極の先端と前記角部との間を絶縁体のカバーで遮りながら、前記電極に通電して前記凸部を溶接する
積層鉄心の製造装置。
【符号の説明】
【0080】
1 積層鉄心
5、5A 溶接部
5a 凸部
5b 凹部
5c 角部
10、10a 積層体
100 製造装置
200 打ち抜き装置(積層体形成装置の一例)
300 溶接装置
310 電極
311 先端
330 カバー
L1 直径
L2、L3 距離
W 鉄心片
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B