(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075902
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】紫外光照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 65/00 20060101AFI20240529BHJP
H01J 61/16 20060101ALI20240529BHJP
H01J 61/22 20060101ALI20240529BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240529BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01J65/00 D
H01J61/16 Z
H01J61/22 Z
G02B5/26
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187157
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 繁樹
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA18
2H148FA24
2H148GA04
2H148GA09
2H148GA12
2H148GA33
2H148GA61
(57)【要約】
【課題】改善した紫外光照射装置を提供する。
【解決手段】紫外光照射装置は、発光ガスとしてクリプトンと塩素が封入された発光管を備える光源と、前記光源を収容する筐体と、光学フィルタと、を備え、前記光源の放射スペクトルは、221nm~223nmにおいて、前記放射スペクトルにおける最大強度を有する第一ピークと、197nm~199nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第二ピークと、256nm~258nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第三ピークと、を有し、第二ピークの強度をXとし、第三ピークの強度をYとするとき、Y/X > 1.4 を満たす。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光照射装置であって、
発光ガスとしてクリプトンと塩素が封入された発光管に電圧を印加することで、190nm以上260nm以下の波長帯域に属する光を放射する光源と、
前記光源を収容し、前記光源から放射される前記光を外に取り出すための取出し部を有する筐体と、
前記取出し部を塞ぐように配置され、190nm以上235nm以下の波長帯域に属する紫外光を透過し、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光の透過を5%以下に制限する、光学フィルタと、を備え、
前記光源の放射スペクトルは、
221nm~223nmにおいて、前記放射スペクトルにおける最大強度を有する第一ピークと、
197nm~199nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第二ピークと、
256nm~258nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第三ピークと、を有し、
第二ピークの強度をXとし、第三ピークの強度をYとするとき、
Y/X > 1.4
を満たすことを特徴とする、紫外光照射装置。
【請求項2】
2.89 < Y/X < 3.58
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の紫外光照射装置。
【請求項3】
前記光源は前記筐体の外から隔離されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項4】
前記発光管は、緩衝ガスとしてネオンを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【請求項5】
前記光源は、前記発光管の外壁に接する一対の電極を備え、前記一対の電極により前記発光管に電圧を印加するともに、
前記一対の電極の表面が前記発光管から放射される前記光の一部を反射することを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長が235nmより短い波長帯域の紫外光を使用して、細菌、真菌及びウイルス等の病原体を不活化させる紫外光照射装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、190nm~235nmの紫外光を放射する光源と、前記光源を収容する筐体と、前記光源より放射された前記紫外光を前記筐体の外へ取り出す取出し部と、取出し部に配置された光学フィルタと、を備える紫外光照射装置が記載されている。当該光学フィルタは、病原体を不活化させる目的に使用される200nm以上230nm以下の波長帯域の紫外光を透過し、かつ、人体に対して影響を及ぼすおそれのある240nm以上280nm以下の波長帯域の紫外光を実質的に透過しない特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあり、細菌やウイルス等の病原体を紫外光で不活化するニーズが高まっている。市場は、病原体を不活化する紫外光照射装置のさらなる改善を要請している。
【0006】
本発明は、市場の要請に応え、改善した紫外光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、紫外光照射装置を使用し続けると、紫外光照射装置から出射する光の照度が徐々に低下することに着目した。本発明者の分析によれば、このような照度低下の原因の一つには、紫外光照射装置の内部にある紫外光反射面の反射率の低下があることが判明した。詳細は後述するが、光源から放射される、205nm以下の波長の光を含んでいる。205nm以下の波長の光が、酸素分子からオゾンを生成する。生成されたオゾンが紫外光の反射面を酸化し、当該反射面の紫外光反射率を低下させる。そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、以下の紫外光照射装置を案出した。
【0008】
紫外光照射装置は、
発光ガスとしてクリプトンと塩素が封入された発光管に電圧を印加することで、190nm以上260nm以下の波長帯域に属する光を放射する光源と、
前記光源を収容し、前記光源から放射される前記光を外に取り出すための取出し部を有する筐体と、
前記取出し部を塞ぐように配置され、190nm以上235nm以下の波長帯域に属する紫外光を透過し、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光の透過を5%以下に制限する、光学フィルタと、を備え、
前記光源の放射スペクトルは、
221nm~223nmにおいて、前記放射スペクトルにおける最大強度を有する第一ピークと、
197nm~199nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第二ピークと、
256nm~258nmにおいて、前記最大強度より小さい強度を有する第三ピークと、を有し、
第二ピークの強度をXとし、第三ピークの強度をYとするとき、
Y/X > 1.4
を満たす。
【0009】
前記紫外光照射装置の要点を説明する。「発光ガスとしてクリプトンと塩素が封入された発光管に電圧を印加することで、190nm以上260nm以下の波長帯域に属する光を放射する光源」の放射スペクトルは、221nm~223nmに最大強度を有する第一ピークと、197nm~199nmに強度を有する第二ピークと、256nm~258nmに強度を有する第三ピークと、を有する。第一ピークの光は、病原体の不活化に使用される。第二ピークの光は、オゾンを生成する。第三ピークの光は、オゾンを分解する。そして、第三ピークの強度Yは、第二ピークの強度Xの1.4倍を超える大きさを有する。そのため、前記紫外光照射装置では、第二ピークの光によりオゾンが生成されたとしても、生成されたオゾンは、第三ピークの光により速やかに分解される。その結果、オゾン濃度が紫外光照射装置の筐体の内部で低く維持される。オゾン濃度が低く維持されると、紫外光照射装置の筐体の内部にある紫外光反射面が酸化されにくく、当該反射面の反射率が維持される。反射率が維持されると、高い照度を維持できる。なお、第三ピークの光は人体に影響を及ぼすとされる波長帯域の光である。しかし、第三ピークの光の大部分は、光学フィルタを透過しないため、第三ピークの光による人体への影響に対する問題を考慮しなくてよい。
【0010】
本明細書で使用される用語とその使用方法を説明する。
「光源の放射スペクトル」とは、発光管から出射する光を波長ごとに分解し、波長ごとの強度を示した分光分布図である。放射スペクトルは、波長を横軸にして、放射強度を縦軸にして表される。
「ピーク」とは、放射スペクトルにおいて最大値又は極大値を示す部分の放射スペクトルをいう。
光源が放射する「190nm以上260nm以下の波長帯域に属する光」とは、光源が放射する光の放射スペクトルの少なくとも一部が、190nm以上260nm以下の波長帯域において強度を示すことを表す。この光源は、必ずしも、190nm以上260nm未満の波長全域において強度を示さなくてもよい。
「190nm以上235nm以下の波長帯域に属する紫外光を透過し、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光の透過を5%以下に制限する、光学フィルタ」は、光学フィルタに直角に入射する紫外光のうち、「240nm以上260nm以下の波長帯域」の紫外光について、(フィルタ出射強度/フィルタ入射強度)×100の値が5(%)以下に制限されることを表す。また、光学フィルタに直角に入射する紫外光のうち、「190nm以上235nm未満の波長帯域」の紫外光については、(フィルタ出射強度/フィルタ入射強度)×100の値が90(%)以上であるとよく、95(%)以上であると好ましい。
【0011】
第三ピークの強度Yが、第二ピークの強度Xに比べて相対的に大きいことで、高い照度を維持できることを上述した。しかしながら、第三ピークの強度Yが、第二ピークの強度Xに比べて相対的に大きくなればなるほど、照度がより高くなるわけではない。前記紫外光照射装置は、
2.89 < Y/X < 3.58
を満たしても構わない。この数値範囲を満たす光源を備える紫外光照射装置は、特に高い照度を維持できる。
【0012】
前記光源は前記筐体の外から隔離されていても構わない。隔離とは、気体が、筐体の内外でほとんど流通しないか、ごく僅かしか流通できない状態を指す。筐体の外から光源が隔離されることにより、光源が放射する光により生成されたオゾンが、紫外光照射装置の外に漏出しにくくなる。オゾンは人体に影響を及ぼし得る。そのため、前記光源を前記筐体の外から隔離すると、オゾンが紫外光照射装置の外に漏出するリスクを抑えることができ、安全性が向上する。
【0013】
前記光源は、発光ガスの他に、緩衝ガスを含んでいても構わない。緩衝ガスとして、クリプトンよりも原子数の小さい不活性ガス、例えば、ヘリウム、アルゴン又はネオンが使用できる。緩衝ガスとして、一種類のガスから構成されても構わないし、複数種類のガスから構成されても構わない。前記緩衝ガスはネオンを含んでも構わない。前記緩衝ガスは、実質的にネオンのみから構成されても構わない。ネオンは、他の発光ガス(特に塩素)に影響を与えにくく、放射光の特性に影響を与えにくい。
【0014】
前記発光管の外壁に接する一対の電極を備え、前記一対の電極により前記発光管に電圧を印加しても構わない。前記一対の電極の表面が、前記発光管から放射される前記光の一部を反射しても構わない。
【発明の効果】
【0015】
反射率の低下が抑制され、長時間に亘って高い照度を維持できる。よって、病原体を不活化する能力を長期にわたって維持できる、改善した紫外光照射装置を提供できる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】紫外光照射装置の一実施形態の外観を示す図である。
【
図2】紫外光照射装置の一実施形態の外観を示す図である。
【
図4】紫外光照射装置のXZ平面での断面図である。
【
図5A】比較形態の光源の放射スペクトルの全体図である。
【
図5B】比較形態の光源の放射スペクトルの部分拡大図である。
【
図6A】本実施形態の光源の放射スペクトルの全体図である。
【
図6B】本実施形態の光源の放射スペクトルの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照しながら紫外光照射装置の一実施形態を説明する。各図は、グラフ(放射スペクトル)を除いて、模式的に示されている。図面上の寸法比や部品の個数は、実際の寸法比や部品の個数と必ずしも一致していない。
【0018】
図は、適宜、XYZ座標系を用いて示されている。明細書は、適宜、XYZ座標系を参照しながら説明される。本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0019】
[紫外光照射装置の概要]
図1及び
図2は、紫外光照射装置1の一実施形態の外観を模式的に示す図面である。
図3は、光源3の構成を示す図面である。
図2に示されるように、紫外光照射装置1は、筐体2と、筐体2の内部に収容される光源3とを備える。
【0020】
図3に示されるように、光源3は複数の発光管30と電極(31a,31b)を備える。以下では、複数の発光管30が配列されている方向をZ方向として、当該発光管30が延伸する方向をY方向として、Y方向とZ方向とに直交する方向をX方向として説明する。
【0021】
図1及び
図2に示されるように、紫外光照射装置1は、筐体2と、光源3と、一対の給電線(7a,7b)とを備える。筐体2は、本体2aとカバー部材2bとを備え、本体2aとカバー部材2bとが組み合わせられて筐体2を構成する。なお、筐体2は、カバー部材2bと本体2aとが連結されて、一体的に構成されていても構わない。光源3は筐体2に収容されている。光源3は、筐体2の外から隔離されている。そのため、筐体2の内部に存在する気体が筐体2の外に漏出することは、ほとんどないか、又は、ごく僅かな量である。筐体2の内部で生成されたオゾンの多くは、筐体2の外に漏出せず、筐体2の内部に留まり、分解される。
【0022】
図1に示されるように、カバー部材2bは、内側に収容される光源3で発生する紫外光を、外側に取り出すための取出し部4を備える。
図2に示されるように、紫外光照射装置1は、本体2aの外面に、一対の給電端子(8a,8b)を備えている。一対の給電端子(8a,8b)は、給電線(7a,7b)を介して外部電源(不図示)と電気的に接続される。一対の給電端子(8a,8b)は、それぞれ、本体2aを貫通して、一対の電極(31a,31b)と電気的に接続されている。
【0023】
図3に示される光源3は、一対の電極(31a,31b)と、発光管30とを備える、エキシマランプである。当該エキシマランプは、発光管30内に、発光ガスとして、クリプトン(Kr)ガスと塩素(Cl)ガスが封入されている、KrClエキシマランプである。発光管30内には、発光ガスの他に、不活性ガスが封入されている。本実施形態では、不活性ガスとして、ネオンを使用している。ネオンは、他の発光ガス(特に塩素)に影響を与えにくく、放射光の特性に影響を与えにくい。
【0024】
図4は、紫外光照射装置1のXZ平面での断面図である。発光管30から放射される光の多くは、直接取出し部4に向かうか、又は、電極(31a,31b)の表面で反射された後に取出し部4に向かう。電極(31a,31b)の表面は、光源3から放射される光を反射する反射面、すなわち、反射鏡として機能する。取出し部4は、筐体2に設けられた開口である。そして、この開口を塞ぐように光学フィルタ6が配置されている。光学フィルタ6は、190nm以上235nm以下の波長帯域に属する紫外光を透過し、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光の透過を5%以下に制限する。光源3から放射する紫外光の多くは、光学フィルタ6を透過して、筐体2の外側へ出射される。光学フィルタ6の詳細は後述する。
図1、
図2及び
図4において、L1と付された矢印は、紫外光照射装置1から出射した紫外光L1の光軸上の光線が進行する方向(+X方向)を表す。
【0025】
[放射スペクトル]
図5A及び
図5Bは比較形態である光源3の放射スペクトルである。当該放射スペクトルの発光特性を説明する。
図5A及び
図5Bに示される放射スペクトルを有する光源3は、発光ガスとしてのクリプトン、発光ガスとしての塩素、および緩衝ガスとしてのネオンが封入された、未使用のKrClエキシマランプである。これらのガスが封入された発光管30全体のガスの圧力(全圧)は、いずれも0.1kPaである。放射スペクトルは、光源3を備える紫外光照射装置1を、光学フィルタ6を外した状態で、窒素雰囲気下に配置し、分光器で測定することにより得られた。縦軸に示される放射強度は、放射スペクトルにおける相対的な値として表現される。放射強度が大きくなるほど、放射スペクトルは0から離れる。電極(31a,31b)の表面は、未だ酸化しておらず、高反射率を有する表面である。分光器は、AVANTES社製のAvaSpec-2048Lを使用した。測定のインターバル時間は100msとして、10回の分光強度測定を行い、10回の測定の平均値を放射スペクトルに使用した。
【0026】
図5Aに示されるように、発光管30の放射スペクトルは、約222nm(221nm~223nm)において、放射スペクトル全体の最大強度の第一ピークP1を含む。第一ピークP1を示す波長の光が、病原体の不活化のために使用される。
【0027】
第一ピークP1に比べると微量ではあるが、放射スペクトルは、第一ピークP1より短波長の第二ピークP2と、第一ピークP1より長波長の第三ピークP3を有する。第二ピークP2及び第三ピークP3は、いずれも、放射スペクトルの極大値である。第二ピークP2及び第三ピークP3の放射強度は、いずれも、第一ピークP1の放射強度より低い。第二ピークP2は、放射スペクトルの205nm以下の中で最も高い放射強度を示す。第三ピークP3は、放射スペクトルの240nm以上260nm以下の中で最も高い放射強度を示す。
【0028】
図5Bは、
図5Aの縦軸の放射強度のスケールを下げた部分拡大図である。
図5Bでは、第二ピークP2及び第三ピークP3それぞれの強度の高低が認識され得る。
図5Bでは、第一ピークP1について裾野部分のみが表示され、第一ピークP1の先端が表示されない。
図5Bより、第二ピークP2は、約198nm(197nm~199nm)に存在し、第三ピークP3は、約257nm(256nm~258nm)に存在することがわかる。
【0029】
約198nm(197nm~199nm)に表れる第二ピークP2の光は、以下の化学反応式(1)に示すように、酸素分子O2を分解して、活性状態の酸素原子O(1D)と、非活性状態の酸素原子O(3P)を生成する。
hν(198nm)+O2 → O(1D)+O(3P) ・・・(1)
【0030】
そして、化学反応式(2)に示すように、非活性状態の酸素原子O(3P)は、第三体Mの介在により、酸素分子O2と結合してオゾンO3を生成する。
O(3P)+O2+M → O3+M ・・・(2)
【0031】
なお、酸素分子の結合を切断する能力のある波長が205nm以下の光であれば、化学反応式(1)及び(2)が進行する。上述のKrClエキシマランプにおいては、205nm以下の光のうち、放射強度の高い第二ピークP2で示される波長の光により、化学反応式(1)及び(2)が進行することになる。
【0032】
オゾンO3は、電極の表面を徐々に酸化し、電極の表面に酸化膜を形成する。酸化膜の、光源3から放射される光に対する反射率は、電極の母材を構成する当該光に対する反射率に比べて、低い。第二ピークP2の強度は、第一ピークP1の強度と比べると僅かな強度である。そのため、化学反応式(1)及び(2)を経て生成されるオゾンは微量である。しかしながら、紫外光照射装置1を長時間使用する場合、オゾンによる電極の反射率の低下が無視できない。
【0033】
約257nm(256nm~258nm)の第三ピークP3の光は、以下の化学反応式(3)に示すように、オゾンO3を、非活性状態の酸素原子O(3P)と酸素分子O2に分解する。
O3+hν(257nm) → O(3P)+O2 ・・・(3)
【0034】
第三ピークP3のオゾン分解作用は、第二ピークP2の光によるオゾン生成作用によるオゾンO
3の濃度上昇を妨げる。その結果、電極の表面の酸化を防ぎ、反射率の低下の抑制効果を期待できる。ただし、第二ピークP2の放射強度をXとし、第三ピークP3の放射強度をYとするとき、
図5Bのように、YがXより僅かに大きく、YとXが後述する(4)式を満たさない場合には、第三ピークP3は、照度低下の抑制に十分寄与しない。
【0035】
図6A及び
図6Bは本実施形態である光源3の放射スペクトルである。
図5A及び
図5Bに示される比較形態の光源3では、発光管30の全圧が0.1kPaであるのに対し、
図6A及び
図6Bに示される本実施形態の光源3では、発光管30の全圧が、いずれも15kPaである点のみが異なる。他の点(光源3の寸法、形状及び発光ガス種、並びに測定条件等)は、本実施形態と比較形態との間で共通している。
【0036】
図6Aに示されるように、本実施形態の発光管30の放射スペクトルは、約222nm(221nm~223nm)において、放射スペクトルの最大強度の第一ピークP1を含む。そして、当該放射スペクトルは、第一ピークP1に比べると微量ではあるが、第一ピークP1より短波長の第二ピークP2と、第一ピークP1より長波長の第三ピークP3を有する。第二ピークP2及び第三ピークP3は、放射スペクトルの極大値である。
【0037】
図6Bは、
図6Aの縦軸の放射強度のスケールを下げた部分拡大図である。
図6Bでは、第一ピークP1について裾野部分のみが表示され、先端が表示されない。
図6Bより、
図5Bと同様に、第二ピークP2は、約198nm(197nm~199nm)に存在し、第三ピークP3は、約257nm(256nm~258nm)に存在することがわかる。
【0038】
第二ピークP2の放射強度をXとし、第三ピークP3の放射強度をYとするとき、
図6Bでは、以下の(4)式を満たす。
Y/X > 1.4 ・・・(4)
(4)式を満たすとき、第三ピークP3が照度低下の抑制に十分寄与する。即ち、紫外光照射装置を使用し続ける場合に、反射率の低下を効果的に抑制し、大幅な照度低下を防ぐことができる。
【0039】
[実験]
詳細を実験結果とともに説明する。本発明者の鋭意研究の結果、第二ピークP2の放射強度をXとし、第三ピークP3の放射強度をYとするとき、Y/Xの値の変化要因の一つは、発光管30に封入されたガス全体の圧力値(全圧)であると判明した。
【0040】
発光管30の全圧による照度変化を確認するために、それぞれ全圧の異なる発光管30である試料S1~S9について、以下の実験を行った。試料S1~S9は、いずれも、KrClエキシマランプであり、クリプトン、塩素、およびネオンが同じ封入比率で封入された発光管30である。しかしながら、試料S1~S9の全圧が0.1kPa~28kPaの間で異なっている。
【0041】
試料S1~S9のそれぞれを有する光源3を紫外光照射装置1にセットし、光学フィルタ6を外した状態で、窒素雰囲気下に配置して分光器で測定し、放射スペクトルを得た。放射スペクトルの測定条件は、上述した測定条件と同様である。即ち、電極(31a,31b)の表面は、未だ酸化しておらず、高反射率を有する表面である。分光器は、AVANTES社製のAvaSpec-2048Lを使用した。測定のインターバル時間は100msとして、10回の分光強度測定を行い、10回の測定の平均値を放射スペクトルに使用した。
【0042】
3000時間照射した後の、紫外光照射装置1の照度を測定した。紫外光照射装置1の取出し部4から5cm離れた場所に、照度計の受光センサを配置して照度を測定した。照度計は、ウシオ電機株式会社製のUVD-S222を使用した。紫外光照射装置が配置される環境は、周囲温度が25℃で、相対湿度が40%の大気中である。測定した照度を、優れた方からS,A及びBの三段階でランク付けすることにより、照度を評価した。
【0043】
3000時間照射した後の紫外光照射装置1における、電極の反射面を目視点検した。本実施形態では、電極にアルミニウム系金属が使用されている。そのため、電極表面は、酸化されていない状態であれば金属光沢を有する。3000時間照射した後の電極を目視した結果、金属光沢が未だ失われていなければ、A評価とし、金属光沢が失われていればB評価とした。なお、電極表面の目視検査は、可視光を使用した反射率の感性評価であるが、斯かる感性評価は、光源3より放射される紫外光の反射率と正の相関関係を有する。
【0044】
表1に実験結果を示す。表1は、各試料S1~S9の発光管30の全圧と、放射スペクトルから得られた値(第二ピークP2の強度X、第三ピークP3の強度Y、及びピーク強度比Y/X)と、照度計による照度と、照度評価と、電極の反射面の目視点検結果による電極評価と、を示す。
【0045】
【0046】
試料S1は、
図5A及び
図5Bで示した放射スペクトルを示す、比較形態の発光管30に対応する。試料S5は、
図6A及び
図6Bで示した放射スペクトルを示す、本実施形態の一つの発光管30に対応する。
【0047】
試料S1と試料S2~S9との比較により、発光管30の全圧を1kPa以上にすると、ピーク強度比Y/Xが1.4より大きくなり、その結果、1.9mW以上の照度(照度評価がA又はS)を得られることが分かった。
【0048】
電極の評価結果について、試料S1を使用した紫外光照射装置の電極の表面が白濁し、金属光沢が失われて反射率が低下していた(電極評価がB)。これに対し、試料S2を使用した紫外光照射装置の電極表面は金属光沢が失われず、良好な反射率が得られた(電極評価がA)。
【0049】
試料S1~S2と試料S3~S9との比較により、発光管30の全圧を5kPa以上にすると、ピーク強度比Y/Xが2.3以上となり、その結果、3mW以上の照度を得られることが分かった。
【0050】
試料S1~S9より、発光管30の全圧を高くするほど、ピーク強度比Y/Xが大きくなることが判明した。しかしながら、ピーク強度比Y/Xが大きければ大きいほど、照度が向上することに繋がらなかった。なお、ピーク強度比Y/Xが大きければ大きいほど、照度が向上することに繋がらなかった理由は、発光管30の全圧が高くなりすぎると、クリプトンと塩素の衝突が増加するだけでなく、塩素同士の衝突が増加する機会が増えたため、クリプトンと塩素の衝突によるエキシマ光の生成の増加に寄与しなかったものと考えられる。
【0051】
照度を向上させるためのピーク強度比Y/Xには、好適な数値範囲があることが判った。試料S1~S3,S8~S9と試料S4~S7との比較から、発光管30の全圧を規定の数値範囲にすると、ピーク強度比Y/Xを、以下の(5)式の数値範囲にすることができ、その結果、4(mW/cm2)以上の照度を得ることができた(照度評価がS)。
2.89 < Y/X < 3.58 ・・・(5)
【0052】
4(mW/cm2)以上の照度が得られると、空間に存在する病原体の不活化だけでなく、物の表面に留まる病原体の不活化にも役立つ。例えば、病原体の一つであるMRSAを不活化するとき、1log(90%)の不活化のためには、5mJ/cm2の照射量が必要であるが、4(mW/cm2)以上の照度が得られる場合、1.3秒の照射で5mJ/cm2の1log不活化を達成できる。
【0053】
上記では、オゾンが与える影響として、紫外光反射面の反射率低下による照度低下のみを採り上げた。しかしながら、オゾンが与える影響は他にもある。例えば、筐体2の少なくとも一部に樹脂が使用される場合、オゾンは樹脂を劣化させ、樹脂から微粒子を発生させ得る。発生した微粒子が光学フィルタ6の表面に付着すると、紫外光照射装置の出射光の強度を低下させるおそれがある。発生した微粒子が紫外光反射面に付着すると、紫外光を散乱させて、紫外光照射装置の出射光の強度を低下させるおそれがある。斯かる照度低下要因に対してもオゾン濃度の抑制は有効である。
【0054】
以上で、紫外光照射装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えることができる。
【0055】
緩衝ガスとして、ネオン以外のガス(例えば、アルゴン)を使用してもよい。緩衝ガスとして、複数のガス(例えば、ネオンとアルゴンの両方)を含んでもよい。
【0056】
電極として、アルミニウム系金属材料を使用したが、他の金属材料でも構わない。例えば、電極材料に、アルミナ、ステンレス鋼又はチタンを使用しても構わない。電極材料がアルミナの場合、アルミニウムの純度が97%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましく、99%以上であるとさらに好ましい。アルミニウムの純度が99%以上であると、オゾンによる腐食をより防ぐことができる。
【0057】
光学フィルタ6は、紫外光を透過する基材と、基材に積層される誘電体多層膜を含む。基材は、紫外光を透過し易い材料であるとよく、例えば、190nm以上235nm以下の波長帯域の紫外光に対して高透過率を示す石英ガラスを使用してもよい。
【0058】
誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層された積層体で構成される。積層体は、HfO2層及びSiO2層が交互に積層されたものでもよい。この場合、HfO2は高屈折率層として機能し、SiO2は低屈折率層として機能する。これにより、光学フィルタ6は、190nm以上235nm以下の波長帯域の紫外光を透過し、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光の透過を制限する。上述した光学フィルタ6は、光学フィルタ6に直角に入射する、240nm以上260nm以下の波長帯域の紫外光を5%以下に制限するが、好ましくは3%以下に制限するとよく、より好ましくは1%以下に制限するとよい。
【0059】
光学フィルタ6の出射側に、出射光を拡散させる光拡散部材を配置しても構わない。光学フィルタ6自体が拡散機能を有するか、又は、光学フィルタ6の内部に拡散部材を配置しても構わない。
【符号の説明】
【0060】
1 :紫外光照射装置
2 :筐体
2a :本体
2b :カバー部材
3 :光源
4 :取出し部
6 :光学フィルタ
30 :発光管
L1 :紫外光
P1 :第一ピーク
P2 :第二ピーク
P3 :第三ピーク