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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075913
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電極シート乾燥装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240529BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20240529BHJP
   G01J 5/0802 20220101ALI20240529BHJP
   G01J 5/061 20220101ALI20240529BHJP
   G01J 5/70 20220101ALI20240529BHJP
   F27B 9/40 20060101ALI20240529BHJP
   F27D 11/02 20060101ALI20240529BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20240529BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240529BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20240529BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01M4/139
G01J5/00 101B
G01J5/0802
G01J5/061
G01J5/70 Z
F27B9/40
F27D11/02 A
F27D21/00 G
H01M4/04 Z
B05C11/00
B05C9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187176
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】大野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】都築 克尚
(72)【発明者】
【氏名】浅井 真也
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐良
【テーマコード(参考)】
2G066
4F042
4K050
4K056
4K063
5H050
【Fターム(参考)】
2G066AC16
2G066BA23
2G066BA42
2G066BB01
2G066BC11
2G066CA15
4F042AA22
4F042BA04
4F042BA19
4F042DB02
4F042DB06
4F042DB18
4F042DB39
4F042DF23
4F042DH09
4K050AA05
4K050BA16
4K050CC10
4K050CD13
4K050CD22
4K050CG01
4K050CG28
4K050EA05
4K050EA08
4K056AA14
4K056BB06
4K056CA18
4K056FA04
4K056FA12
4K056FA22
4K063AA09
4K063AA12
4K063BA12
4K063BA16
4K063CA03
4K063FA13
4K063FA29
5H050AA19
5H050BA17
5H050GA02
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】電極シートの温度を連続的に正確に検出する。
【解決手段】搬送経路に沿って搬送される電極シート(2)の一側に赤外線ヒータ(6a)を配置し、電極シート(2)の他側に放射温度センサ(11)を配置し、赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面の温度を放射温度センサ(11)により計測する。赤外線ヒータにより電極シート表面に照射される赤外線のピーク波長が放射温度センサ(11)により検出される赤外線の検出波長範囲に含まれないように構成する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路に沿って搬送される電極シートを乾燥させるための電極シート乾燥装置において、電極シートの一側に配置された赤外線ヒータと、前記電極シートの他側に配置された放射温度センサとを具備し、前記放射温度センサが、前記赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面の温度を放射温度センサにより計測可能に配置され、前記赤外線ヒータにより電極シート表面に照射される赤外線のピーク波長が前記放射温度センサにより検出される赤外線の検出波長範囲に含まれないように構成した電極シート乾燥装置。
【請求項2】
前記赤外線ヒータおよび前記放射温度センサが、電極シート表面に対し垂直をなす同一垂線上に配置されている請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項3】
前記赤外線ヒータから放射される赤外線のピーク波長が4μm以下であり、前記放射温度センサにより検出される赤外線の検出波長範囲が8μmから14μmの範囲である請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項4】
前記赤外線ヒータが、前記電極シートの巾方向に延びる中空円筒状の石英ガラス管と、前記石英ガラス管内に配置されかつ赤外線を放射するフィラメントを有しており、前記赤外線ヒータと前記電極シートとの間に、前記赤外線ヒータから放射される赤外線のピーク波長よりも大きい波長の赤外線をカットする平板状又は湾曲形状の窓材が配置されており、前記窓材が、前記赤外線ヒータから前記電極シートの搬送方向および逆方向に一定巾に亘って延びている請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項5】
前記電極シートの表面に沿って乾燥空気を流すための送風装置を具備しており、前記乾燥空気により前記窓材を冷却する請求項4に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項6】
前記放射温度センサが、赤外線を透過させない周囲壁を有するハウジング内に配置されており、前記ハウジングが、前記赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面から放射された赤外線を前記放射温度センサに入射させるための開口を有している請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項7】
前記開口と前記電極シートとの間に、前記放射温度センサにより検出される赤外線の検出波長範囲より短い波長の赤外線をカットする赤外線フィルタを配置した請求項6に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項8】
前記放射温度センサを冷却するための冷却装置を具備した請求項6に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項9】
前記電極シートの両側に、夫々、複数個の赤外線ヒータを前記電極シートの搬送経路に沿って間隔を隔てて配置すると共に、前記電極シートの搬送方向において、前記電極シートの一側に配置された赤外線ヒータを、前記電極シートの他側に配置された赤外線ヒータの間に配置した請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【請求項10】
前記放射温度センサによる計測値に影響を与える放射温度センサ周りの構造体の温度を含む種々の温度を検出し、前記放射温度センサ周りの構造体の温度を含む種々の温度の検出値に基づいて、前記赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面の温度を推定する請求項1に記載の電極シート乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シート乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を製造する際に、リチウムイオン電池用のワーク、例えば、電極シートの加熱が必要となる場合があり、この加熱作用を移動している電極シートに対して赤外線ヒータにより行う場合がある。この場合、赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の温度が最も高くなり、温度が最も高くなる電極シート表面領域、即ち、電極シートの最高温度領域における温度の検出が必要となる場合が多々ある。そこで、移動している電極シートの最高温度領域における温度を、放射温度センサを用いて推定するようにした温度管理システムが公知である(例えば特許文献1を参照)。この放射温度センサは、放射温度センサに入射する赤外線を検出して赤外線を放射した物体表面の温度を計測するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-37762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、放射温度センサにより電極シートの最高温度領域における温度を計測する場合、例えば、電極シート周りの構造体から放射された赤外線が放射温度センサに入射すると、この赤外線が外乱となって、電極シートの最高温度領域における温度を正確に検出できなくなる。そこで、上述の温度管理システムでは、電極シートの移動方向において赤外線ヒータの下流に間隔を隔てて放射温度センサを配置すると共に、赤外線ヒータと放射温度センサとの間に、外乱となる赤外線が放射温度センサに入射するのを阻止するための隔壁を配置し、最高温度から温度低下した電極シートの温度を放射温度センサにより計測すると共に最高温度からの温度低下量を算出し、この算出された温度低下量に基づいて電極シートの最高温度を予測するようにしている。
しかしながら、このように算出値に基づいて電極シートの最高温度を予測しても、電極シートの最高温度を正確に求めることができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような問題を解決するために、本発明によれば、搬送経路に沿って搬送される電極シートを乾燥させるための電極シート乾燥装置において、電極シートの一側に配置された赤外線ヒータと、電極シートの他側に配置された放射温度センサとを具備し、放射温度センサが、赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面の温度を放射温度センサにより計測可能に配置され、赤外線ヒータにより電極シート表面に照射される赤外線のピーク波長が放射温度センサにより検出される赤外線の検出波長範囲に含まれないように構成した電極シート乾燥装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
放射温度センサにより、電極シートの最高温度領域における温度を連続的に正確に求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、電極シート乾燥装置の第1実施例を図解的に示す側面図である。
図2図2は、図1に示される電極シート乾燥装置の部分平面図である。
図3図3は、赤外線ヒータの一部断面側面図である。
図4図4は、電極シート乾燥装置の第2実施例を図解的に示す側面図である。
図5図5は、電極シート乾燥装置の第3実施例を図解的に示す側面図である。
図6図6は、図5に示される電極シート乾燥装置の部分平面図である。
図7図7は、図5に示される電極シート乾燥装置の変形例を示す側面図である。
図8図8は、図5に示される電極シート乾燥装置の変形例を示す側面図である。
図9図9は、補正値ΔTの一例を示す図である。
図10図10は、補正値ΔTのリストを示す図である。
図11図11は、乾燥処理手順を説明するための図である。
図12図12は、乾燥制御を行うためのフローチャートである。
図13図13は、ニューラルネットワークを示す図である。
図14図14は、訓練データセットの一覧表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、電極シート乾燥装置の第1実施例の全体を図解的に示している。図1を参照すると、1は乾燥炉、2は電極シート、3は電極シート2の巻き出しロール、4は電極シート2の巻き取りロール、5は巻き取りロール4を回転駆動するための駆動装置を夫々示す。駆動装置5により巻き取りロール4が回転駆動せしめられると、電極シート2が巻き出しロール3から巻き取りロール4に向けて乾燥炉1内を連続的に搬送される。そして、電極シート2が乾燥炉1内を連続的に搬送されている間に乾燥炉1内において電極シート2の乾燥作業が連続的に行われる。なお、図1には示されていないが、電極シート2を案内するためのローラや電極シート2に張力を付与するためのローラ等が、必要に応じて設置される。また、この場合、他の方法により、電極シート2を搬送させることもできる。
【0009】
図1および乾燥炉1内の平面図を示す図2からわかるように、電極シート2は一様な巾でもって搬送方向に帯状に延びている。図1および図2に示される実施例では、この電極シート2はリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等を製造するために用いられる電極シートからなる。これら電池の製造時には、種々の段階で、乾燥作業が必要とされ、従って、乾燥すべき電極シート2としては、製造段階に応じて種々の形態の電極シート2が存在する。本発明による実施例では、これら種々の形態の電極シート2を総称して電極シート2と称している。
【0010】
即ち、図1および図2に示される電極シート2は、例えば、その両面に電極材料が塗布されていない金属箔や、一側面上に正極活物質或いは負極活物質からなる電極材料が塗布されており他側面上に電極材料が塗布されていない金属箔や、一側面上に正極活物質からなる電極材料が塗布されていると共に他側面上に負極活物質からなる電極材料が塗布されている金属箔などである。いずれの場合でも、金属箔上に水分が付着し、或いは、電極材料内に水分が含まれていると、製造された電池の性能が著しく低下してしまう。従って、電池の製造時には、水分を除去するために、電極シート2の乾燥作業が必要となり、この電極シート2の乾燥作業のために図1および図2に示される乾燥炉1が用いられている。
【0011】
図1および図2を参照すると、乾燥炉1は、電極シート2の両側に配置された複数個の赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eを具備している。電極シート2の上方に配置された赤外線ヒータ6a、6b、6cおよび電極シート2の下方に配置された赤外線ヒータ6d、6eは電極シート2の搬送経路に沿って間隔を隔てて配置されている。この場合、図1および図2に示される例では、電極シート2の搬送経路に沿って見たときに、電極シート2の下方に配置された各赤外線ヒータ6d、6eが、電極シート2の上方に配置された赤外線ヒータ6a、6b、6cの中間に位置するように、電極シート2の上方に配置された赤外線ヒータ6a、6b、6cと電極シート2の下方に配置された赤外線ヒータ6d、6eとが電極シート2の搬送経路に沿って互い違いに配置されている。
【0012】
なお、電極シート乾燥装置によっては、電極シート2が縦方向に延びるように配置される場合があり、この場合には、夫々複数個の赤外線ヒータが、電極シート2の両側に、電極シート2から横方向に間隔を隔てて配置される。また、図1および図2に示される例では、電極シート乾燥装置を上方から見たときに、上方赤外線ヒータ6a、6bおよび赤外線ヒータ6b、6cの間に、夫々一個の下方赤外線ヒータ6d、6eが配置されている。しかしながら、この場合、電極シート乾燥装置を上方から見たときに、上方赤外線ヒータ6a、6bおよび赤外線ヒータ6b、6cの間に、夫々複数個の下方赤外線ヒータを配置することも可能であるし、電極シート乾燥装置を上方から見たときに、下方赤外線ヒータ6d、6eの間に、複数個の上方赤外線ヒータを配置することも可能である。
【0013】
図3は、図1および図2に示される赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eの一部断面側面図を示している。図3を参照すると、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eは、中空円筒状の石英管7と、石英管7の両端部に取り付けられた端部ケーシング8と、石英管7内に配置されて一方の端部ケーシング8から他方の端部ケーシング8まで伸びるフィラメント9とを具備する。このフィラメント9としては、ピーク波長が4μm以下の赤外線を放射するフィラメントが用いられており、このフィラメント9は、タングステン、カーボン、カンタル等から形成されている。一方、石英管7としては、波長が5μm以上の赤外線を透過しない石英管が用いられている。なお、図3に示される赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eは一例を示すものであって、他の構造の赤外線ヒータを用いることもできる。
【0014】
一方、図1に示されるように、電極シート乾燥装置は、ROMおよびRAMからなるメモリおよびマイクロプロセッサを有する電子制御ユニット10を具備している。駆動装置5および赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eはこの電子制御ユニット10に接続されており、駆動装置5および赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eは電子制御ユニット10の出力信号により制御される。赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eに電力が供給されると、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eからは赤外線が放射され、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eから放射された赤外線により、巻き出しロール3から巻き取りロール4に向けて乾燥炉1内を連続的に搬送される電極シート2が加熱される。この赤外線による加熱作用によって、電極シート2に付着或いは保持されている水分が除去され、電極シート2の乾燥作業が行われる。各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eから赤外線が放射されると、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eに最も近接した電極シート2の表面領域の温度が最も高くなる。この場合、この電極シート2の温度が高くなるほど電極シート2を効果的に乾燥させることができるが、電極シート2の温度が高くなり過ぎると熱劣化を引き起こす等の問題があり、従って、電極シート2の最高温度領域における温度には最適値が存在する。
【0015】
図1に示される例では、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eのフィラメント9は2100℃程度の高温となり、電極シート2の最高温度領域における最適温度Tは、例えば、150℃程度である。この最適温度Tは、電極シート2の形態および乾燥段階に応じて夫々異なる。ところで、電極シート2を、問題を生ずることなく効果的に乾燥させるには、電極シート2の最高温度領域における温度を最適温度T に制御する必要があり、そのためには、電極シート2の最高温度領域における温度を正確に計測する必要がある。この場合、移動している電極シート2の最高温度領域における温度を電極シート2に直接接触する形式の温度センサを用いて計測するのは、実際問題として難しく、電極シート2の最高温度領域における温度は非接触で計測することが必要となる。
【0016】
一方、150℃程度の温度を非接触で適切に計測することのできるセンサとして、波長が8μmから14μmの範囲の赤外線を検出して温度を計測する低温測定用放射温度センサが知られており、既に市販されている。そこで本発明による実施例では、このように波長が8μmから14μmの範囲の赤外線を検出して温度を計測可能な放射温度センサを用いて、電極シート2の最高温度領域における温度を検出するようにしている。この放射温度センサは、例えば、赤外線を吸収すると温度上昇して温度に応じた電気信号を発生する検出素子を内蔵しており、この検出素子により、赤外線を放射している物体表面の温度が計測される。即ち、この放射温度センサは、放射温度センサに入射する赤外線を検出して赤外線を放射した物体表面の温度を計測するように構成されている。
【0017】
ところで、電極シート2を構成している金属箔の熱伝導率は高く、電極シート2の厚みは薄いので、電極シート2の最高温度領域における温度は、上表面でも下表面でもほぼ等しくなる。そこで本発明による実施例では、例えば、赤外線ヒータ6bの加熱作用による電極シート2の最高温度領域における温度を計測する場合には、赤外線ヒータ6bの真下であって電極シート2の下方に、即ち、電極シート2に対し赤外線ヒータ6bと反対側に上述の放射温度センサ11が配置されている。このように放射温度センサ11を配置することができるのは、電極シート2の上方に配置された赤外線ヒータ6a、6b、6cと電極シート2の下方に配置された赤外線ヒータ6d、6eとが電極シート2の搬送経路に沿って互い違いに配置されているからである。なお、図1に示される例では、赤外線ヒータ6bおよび放射温度センサ11が、電極シート2の表面に対し垂直をなす同一垂線上に配置されている。この場合、放射温度センサ11の上面が赤外線取入れ口11aとなっている。このように放射温度センサ11を配置すると、電極シート2がたとえ上下方向に変動しても、赤外線ヒータ6bに最も近接した電極シート2表面部分の裏側に当たる電極シート2の裏面の温度を確実に計測することが可能となる。
【0018】
一方、前述したように各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eのフィラメント9を包囲している石英管7として、波長が5μm以上の赤外線を透過しない石英管7が用いられている。従って、フィラメント9から放射されて石英管7を通り抜ける赤外線は、波長が5μm以下の赤外線となる。ところが、前述したように各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eのフィラメント9は2100℃程度の高温となり、このとき、石英管7の温度は700℃程度となる。このように石英管7の温度が高温になると、石英管7自体から赤外線が放射され、このとき石英管7からは波長が5μm以上の赤外線が放射される。この赤外線が放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射すると、この赤外線が外乱となって放射温度センサ11が誤検出を生ずることになる。
【0019】
また、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eから放射された赤外線が乾燥炉1の炉壁や電極シート2の表面において反射し、反射した赤外線が放射温度センサ11に入射すると、この赤外線が外乱となって放射温度センサ11が誤検出を生ずることになる。従って、このような誤検出ができるだけ生じないように、本発明による実施例では、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eにより電極シート2表面に照射される赤外線のピーク波長と、放射温度センサ11により検出される赤外線の検出波長範囲とを、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eにより電極シート2表面に照射される赤外線のピーク波長が放射温度センサ11により検出される赤外線の検出波長範囲に含まれないように設定している。この場合、本発明による実施例では、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eから放射される赤外線のピーク波長が4μm以下に設定されており、赤外線の検出波長範囲が8μmから14μmの範囲に設定されている。
【0020】
このように、本発明による実施例では、搬送経路に沿って搬送される電極シート2を乾燥させるための電極シート乾燥装置において、電極シート2の一側に配置された赤外線ヒータ6bと、電極シート2の他側に配置された放射温度センサ11とを具備し、放射温度センサ11が、赤外線ヒータ6bに最も近接した電極シート2表面部分の裏側に当たる電極シート2の裏面の温度を計測可能に配置され、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eにより電極シート2表面に照射される赤外線のピーク波長が放射温度センサ11により検出される赤外線の検出波長範囲に含まれないように構成されている。
【0021】
次に、図4を参照しつつ、電極シート乾燥装置の第2実施例について説明する。図4を参照すると、この第2実施例では、炉壁や電極シート2の表面において反射した赤外線が放射温度センサ11に入射するのを更に回避するために、放射温度センサ11が、赤外線を透過させない周囲壁で覆われたハウジング12内に配置されている。このハウジング12は、赤外線ヒータ6bに最も近接した電極シート2の表面部分の裏側に当たる電極シート2の裏面から放射された赤外線を放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射させるために上部が解放されている。なお、ハウジング12の周囲壁は断熱材料から形成することが好ましい。
【0022】
このように放射温度センサ11をハウジング12内に配置すると、炉壁や電極シート2の表面において反射した赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するが抑制される。即ち、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するが抑制される。その結果、移動する電極シート2の最高温度領域における温度を連続的に適切に計測することが可能となる。
【0023】
次に、図5および図6を参照しつつ、電極シート乾燥装置の第3実施例について説明する。この第3実施例では、炉壁や電極シート2の表面において反射した赤外線が放射温度センサ11に入射するのを更に回避するために、更に種々の工夫が施されている。図5および図6を参照すると、この第3実施例では、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eと電極シート2との間には夫々、波長が5μm以上の赤外線を透過しない窓材13a、13b、13c、13d、13eが配置されている。これらの窓材13a、13b、13c、13d、13eは、波長が5μm以上の赤外線を透過しない石英ガラス、或いは、強化ガラスから形成される。
【0024】
図5に示される例では、窓材13a、13b、13c、13d、13eは、電極シート2から間隔を隔てて電極シート2と平行に配置された薄肉平板状をなしており、各窓材13a、13b、13c、13d、13eは、電極シート2の巾方向全長に亘って延びる共に対応する赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eから電極シート2の搬送方向および逆方向に同一長さだけ延びる矩形状をなしている。なお、これらの窓材13a、13b、13c、13d、13eは、電極シート2が赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eに接触するのを防止する役目も果たしている。
【0025】
一方、図5に示されるように、乾燥炉1は。露点が例えば、ー40℃以下の乾燥空気を電極シート2の上側面および下側面に沿って流すための送風装置14を具備している。図5に示される実施例では、この送風装置14は、乾燥炉1内における電極シート2の下流側端部に、夫々、電極シート2の上側面および下側面に沿って電極シート2の上流に向け乾燥空気を吹き出す一対のノズル14aおよびノズル14bと、各ノズル14aおよびノズル14bに乾燥空気を送り込む送風機15と具備している。また、図6に示されるように、ノズル14aは電極シート2の巾方向全長に亘って伸びている。なお、ノズル14bも同様に電極シート2の巾方向全長に亘って伸びている。この送風機15は、電子制御ユニット10に接続され、送風機15の作動は電子制御ユニット10の出力信号により制御される。
【0026】
各ノズル14aおよびノズル14bから電極シート2の上側面および下側面に沿って電極シート2の上流に向け流通せしめられる乾燥空気によって、電極シート2から除去された水分が持ち去られると共に各窓材13a、13b、13c、13d、13eの冷却が行われる。なお、図1に示される第1実施例および図4に示される第2実施例では、このような送風装置14が設けられていないが、これら図1に示される第1実施例および図4に示される第2実施例においても、図5に示されるような送風装置14を設けることができる。
【0027】
一方、図5に示される例では、ハウジング12の上部が頂壁により覆われており、この頂壁に、赤外線ヒータ6bに最も近接した電極シート2の表面部分の裏側に当たる電極シート2の裏面から放射された赤外線を放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するための開口16が形成されている。即ち、図5に示される例では、赤外線ヒータ6bおよび放射温度センサ11に加えて、開口16が、電極シート2の表面に対し垂直をなす同一垂線上に配置されている。また、図5に示される例では、ハウジング12内に、ハウジング12の内壁面および放射温度センサ11を冷却するための冷却風を送り込むための冷却装置17が設置されている。この冷却装置17は、ハウジング12内への冷却風流入口18と、冷却風流入口18に冷却風を送り込む送風機19と具備しており、冷却風流入口18からハウジング12内に送り込まれた冷却風によって、ハウジング12の内壁面および放射温度センサ11の冷却が行われる。この送風機19は、電子制御ユニット10に接続され、この送風機19の作動は電子制御ユニット10の出力信号により制御される
【0028】
一方、ハウジング12の頂壁に形成された開口16と電極シート2との間には、放射温度センサ11による検出波長範囲より短い波長の赤外線、例えば、5μm 以下の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ20が配置されている。この赤外線カットフィルタ20は、CaF2 , BaF2 等を用いて作成される。図5に示される例では、この赤外線カットフィルタ20も、電極シート2から間隔を隔てて電極シート2と平行に配置された薄肉平板状をなしており、赤外線カットフィルタ20は、電極シート2の巾方向全長の亘って延びると共に開口16から電極シート2の搬送方向および逆方向に同一長さだけ延びる矩形状をなしている。なお、図5に示される赤外線カットフィルタ20は一例を示しているだけであって、この赤外線カットフィルタ20は、少なくともハウジング12の開口16を覆っていれば十分である。
【0029】
図5および図6に示される第3実施例では、石英管7自体から放射された波長が5μm以上の赤外線が各窓材13a、13b、13c、13d、13eにおいて遮断される。また、各窓材13a、13b、13c、13d、13eは乾燥空気により冷却されているので、各窓材13a、13b、13c、13d、13e自体が、波長が5μm以上の強い赤外線を放射することがない。従って、波長が5μm以上の赤外線が電極シート2の表面において反射するのが抑制され、電極シート2の表面において反射した波長が5μm以上の赤外線、即ち、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するのが抑制される。
【0030】
一方、電極シート2の表面に到達した波長が5μm以下の赤外線の一部は、電極シート2の表面で反射して炉壁等の周囲の構造物を加熱する。しかしながら、乾燥空気によって乾燥炉1内が冷却されているので、炉壁等の周囲の構造物から、波長が5μm以上の強い赤外線が放射されることがなく、従って、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するのが抑制される。
【0031】
また、電極シート2の表面において反射した5μm以下の波長の赤外線が、ハウジング12の頂壁に形成された開口16からハウジング12内に入射すると、この赤外線によりハウジング12の内壁面が加熱されてしまう。しかしながら、開口16と電極シート2との間には、放射温度センサ11による検出波長範囲より短い波長の赤外線、例えば、5μm以下の赤外線をカットする赤外線カットフィルタ20が配置されているので、電極シート2の表面において反射した5μm以下の波長の赤外線が、ハウジング12内に入射するのが阻止される。更に、ハウジング12の内壁面は、冷却風流入口18から流入する冷却風により冷却されている。従って、ハウジング12の内壁面から、波長が5μm以上の強い赤外線が放射されることがなく、従って、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するが抑制される。また、赤外線カットフィルタ20は、開口16から流出する冷却風により冷却されている。従って、赤外線カットフィルタ20から、波長が5μm以上の強い赤外線が放射されることがなく、従って、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するが抑制される。なお、電極シート2として金属箔が用いられる場合には、電極シート2の表面における赤外線の反射を抑制するために、金属箔上にカーボンコート層を形成することもできる。
【0032】
このように、第3実施例では、放射温度センサ11による検出波長範囲の外乱となる赤外線が、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aに入射するのが抑制される。従って、この第3実施例では、放射温度センサ11によって、移動する電極シート2の最高温度領域における温度を連続的により正確に計測することが可能となる。
【0033】
図7および図8は、図5に示される第3実施例の変形例を示している。最初に図7に示される変形例を参照すると、この変形例では、図5に示される第3実施例と同様な、放射温度センサ11、ハウジング12、開口16、冷却風流入口18および赤外線カットフィルタ20からなる温度検出器Aに加えて、電極シート2の上方に温度検出器Bおよび温度検出器Cが設置されている。図7からわかるように、温度検出器Bおよび温度検出器Cは、温度検出器Aと同じ構造を有しており、開口16を覆うように赤外線カットフィルタ20が配置されている。
【0034】
また、図7に示される変形例では、温度検出器Bは、赤外線ヒータ6eに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シート2の上面の温度を放射温度センサ11により計測するように配置されており、温度検出器Cは、赤外線ヒータ6dに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シート2の上面の温度を放射温度センサ11により計測するように配置されている。この場合、温度検出器Bでは、赤外線ヒータ6eおよび放射温度センサ11が、電極シート2の表面に対し垂直をなす同一垂線上に配置されている。これに対し、温度検出器Cでは、ハウジング12が、電極シート2の最高温度を計測し得るように、電極シート2の表面に対し垂直をなす垂線に対して傾斜して配置されている。即ち、この温度検出器Cでは、放射温度センサ11の赤外線取入れ口11aとハウジング12の開口16を通る線Qが電極シート2の上面の最高温度点Pを通るように、ハウジング12が傾斜配置されている。このように電極シート2の両側に必要に応じて複数個の温度検出器A,B、Cが配置される。
【0035】
次に図8に示される変形例を参照すると、この変形例では、各赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eと電極シート2との間に配置された窓材13a、13b、13c、13d、13eが、夫々対応する赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6e回りで湾曲する湾曲形状をなしている。これらの窓材13a、13b、13c、13d、13eも、電極シート2の巾方向全長に亘って延びており、各窓材13a、13b、13c、13d、13eは、波長が5μm以上の赤外線を透過しない石英ガラス、或いは、強化ガラスから形成されている。
【0036】
ところで、このように放射温度センサ11によって、移動する電極シート2の最高温度領域における温度を連続的に計測するようにしても、実際には、計測された温度と実際の温度との間にずれを生じてしまう。この場合、ずれ量が小さいときには特に問題にならないが、ずれ量が大きいときには問題となる。そこで次に、図5に示される電極シート乾燥装置を用いた場合を例にとって、計測された温度と実際の温度との間のずれを解消するようにした温度推定方法と、この温度推定方法に基づく電極シート2の乾燥制御について説明する。
【0037】
図9および図10は、計測された温度と実際の温度との間のずれ量を示す補正値ΔTを予め求めておき、この補正値ΔTを用いて電極シート2の最高温度領域における温度を推定するようにした温度推定方法の一例を示している。図9には、電極シート2の最高温度領域における実際の温度と放射温度センサ11により計測した温度との温度差を示す補正値ΔT(縦軸)と、放射温度センサ11周りの各種部材や炉壁等の構造体の平均温度(横軸)との関係が示されている。この関係を取得するにあたり、電極シート2の最高温度領域における温度は、例えば、直接接触の熱電対により計測される。なお、図9において、×印は電極シート2が無垢の金属箔からなる場合を示しており、三角印は金属箔上にカーボンコート層が形成されている場合を示しており、丸印は金属箔上に電極材料層が形成されている場合を示している。
【0038】
図9から、電極シート2の形態(無垢の金属箔、カーボンコート層を有する金属箔、或いは電極材料層を有する金属箔等)と、放射温度センサ11周りの各種部材や炉壁等の構造体の温度に応じて、実際の温度と放射温度センサ11により計測した温度との温度差を示す補正値ΔTが変化することがわかる。そこでこの温度推定方法では、電極シート2の各形態に対し、例えば、炉壁の温度TXにおける各温度範囲(T-T,T-T,・・・)と、窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度TYにおける各温度範囲(T-T,T-T,・・・)とに対する各補正値ΔT11,ΔT12・・・を予め実験により求め、それにより図10に示されるようなリストが作成される。
【0039】
なお、図10には、補正値ΔTに影響を与える温度因子として炉壁の温度TXおよび窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度TYが用いられているが、補正値ΔTに影響を与える温度因子は他にも存在する。従って、実際には、炉壁の温度TXおよび窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度TYを含む多数の温度因子の関数の形で補正値ΔTの多次元リストが作成され、この補正値ΔTの多次元リストを用いて、移動する電極シート2の最高温度領域における温度が推定される。この補正値ΔTの多次元リストは、電子制御ユニット10のメモリ内に記憶される。
【0040】
次に、図11を参照しつつ、電極シート乾燥装置による電極シート2の乾燥処理手順について説明する。図11を参照すると、S1で示されるように、乾燥対象物、即ち、電極シート2の形態が電子制御ユニット10に入力される。乾燥対象物が電子制御ユニット10に入力されると、S2で示されるように、電極シート2の乾燥処理が開始される。電極シート2の乾燥処理が開始されると、電子制御ユニット10において、図12に示される電極シート2の乾燥制御ルーチンが一定時間毎の割り込みによって実行される。
【0041】
図12を参照すると、まず初めに、ステップ50において、炉壁の温度TXおよび窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度TYを含む多数の温度因子が温度センサにより検出される。次いで、ステップ51では、電子制御ユニット10のメモリ内に記憶されている補正値ΔTの多次元リストに基づいて、炉壁の温度TXおよび窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度TYを含む多数の温度因子から補正値ΔTが算出される。次いで、ステップ52では、放射温度センサ11により計測されたセンサ検出温度Ts が読み込まれる。次いで、ステップ53では、センサ検出温度Tsから補正値ΔTを減算することにより、電極シート2の最高温度領域における推定温度Ttが算出される。
【0042】
次いで、ステップ54では、電極シート2の最高温度領域における推定温度Ttが、電極シート2の最高温度領域における最適温度To に小さな一定値αを加算した値To +αよりも大きいか否かが判別される。推定温度TtがTo +αよりも大きいと判別されたときには、ステップ56に進んで、電極シート2の搬送速度VがΔVだけ増大するように駆動装置5の駆動制御が行われる。電極シート2の搬送速度Vが増大せしめられると電極シート2の最高温度領域における温度が低下する。
【0043】
一方、ステップ54において、推定温度TtがTo +αよりも大きくないと判別されたときには、ステップ55に進んで、電極シート2の最高温度領域における推定温度Ttが、電極シート2の最高温度領域における最適温度To から一定値αを減算した値To ―αよりも小さいか否かが判別される。推定温度TtがTo ―αよりも小さいと判別されたときには、ステップ57に進んで、電極シート2の搬送速度VがΔVだけ減少するように駆動装置5の駆動制御が行われる。電極シート2の搬送速度Vが減少せしめられると電極シート2の最高温度領域における温度が上昇する。このようにして、電極シート2の最高温度領域における温度が最適温度To に制御される。
【0044】
図13および図14は、ニューラルネットワークを用いて、放射温度センサ11により計測された温度、および炉壁や窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度を含む多数の温度因子等に基づき、電極シート2の最高温度領域における温度を推定するようにした温度推定方法の他の例を示している。図13は、ニューラルネットワーク60を示している。図13を参照すると、ニューラルネットワーク60において、L=1は入力層、L=2および L=3は隠れ層、L=4は出力層を夫々示している。また、図13には、入力層 ( L=1) の各ノードに入力される入力パラメータの入力値x、x2・・・n-1、nと、出力層 ( L=4) のノードから出力される出力値yが示されている。
【0045】
一方、図14は、ニューラルネットワーク60の重みの学習を行うために、各入力パラメータの入力値x、x2・・・n-1、nと、教師データ、即ち、正解ラベルytとを用いて作成された訓練データセットを示している。図14に示される訓練データセットには、No.1 から No.m までの m 個のデータが列挙されており、この訓練データセットは、電極シート2の形態(無垢の金属箔、カーボンコート層を有する金属箔、或いは電極材料層を有する金属箔等)毎に夫々作成される。入力パラメータとしては、炉壁や窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度を含む多数の温度因子等に加えて、放射温度センサ11により計測された温度が用いられ、電極シート2の最高温度領域における温度の推定値が出力値yとなる。
【0046】
一例を挙げると、訓練データセットにおけるNo.1 から No.m までの各入力パラメータの入力値x、x2・・・n-1、nは、例えば、ノズル14aおよびノズル14bから吹き出す乾燥空気の温度、および冷却風流入口18からシェード12内へ送り込まれる冷却風の温度を種々に変化させたときの炉壁の温度の実測値、窓材13a、13b、13c、13d又は13eの温度の実測値、赤外線ヒータ6a、6b、6c、6d、6eの石英管7の温度の実測値、ハウジング12の内壁面の温度の実測値、ノズル14aおよびノズル14bから吹き出す乾燥空気の温度の実測値、冷却風流入口18からハウジング12内へ送り込まれる冷却風の温度の実測値、赤外線カットフィルタ20の温度の実測値、電極シート2の搬送速度の実測値、乾燥炉1内の温度の実測値、乾燥炉1内の湿度の実測値、大気圧の実測値および放射温度センサ11による計測値であり、訓練データセットにおけるNo.1 から No.m までの教師データ、即ち、正解ラベルytは、このときの電極シート2の最高温度領域における温度の実測値である。
【0047】
次に、この訓練データセットを用いたニューラルネットワーク60の重みの学習方法について簡単に説明する。このニューラルネットワーク60は電子制御ユニット10内において作成されており、ニューラルネットワーク60の重みの学習は電子制御ユニット10内において行われる。例えば、最初に、訓練データセットの1番目(No. 1)の入力値x・・・xが、ニューラルネットワーク60の入力層 ( L=1) の各ノードに入力される。このときニューラルネットワーク60の出力層( L=4)のノードからは出力値yが出力される。次いで、この出力値yと、正解ラベルytとの間の誤差を表す二乗誤差E=1/2(y-yt)2 が算出され、この二乗誤差Eが小さくなるように、誤差逆伝播法を用いて、ニューラルネットワーク60の重みの学習が行われる。
【0048】
訓練データセットの1番目(No. 1)のデータに基づくニューラルネットワーク60の重みの学習が完了すると、次に、訓練データセットの2番目(No. 2)のデータに基づくニューラルネットワーク60の重みの学習が、誤差逆伝播法を用いて行われる。同様にして、訓練データセットのm番目(No. m)まで順次、ニューラルネットワーク60の重みの学習が行われる。このニューラルネットワーク60の重みの学習は、二乗誤差Eが、予め設定された設定誤差以下になるまで、繰り返し行われ、最終的に、電極シート2の最高温度領域における温度を推定する最高温度モデルが、電子制御ユニット10内のニューラルネットワーク60により作成される。電極シート2の乾燥作業時に、実測された各入力パラメータの入力値x、x2・・・n-1、nが電子制御ユニット10に入力されると、この最高温度モデルを用いて、電極シート2の最高温度領域における温度の推定値が出力される。ニューラルネットワーク60を用いた場合には、この推定値が、図12に示される電極シート2の乾燥制御ルーチンにおける推定温度Ttとされる。
【0049】
このように、図9および図10に示される電極シート2の最高温度領域における温度の推定方法、および図13および図14に示される電極シート2の最高温度領域における温度の推定方法では、放射温度センサ11による計測値に影響を与える放射温度センサ11周りの構造体の温度を含む種々の温度を検出し、放射温度センサ11周りの構造体の温度を含む種々の温度の検出値に基づいて、赤外線ヒータに最も近接した電極シート表面部分の裏側に当たる電極シートの裏面の温度が推定される。
【符号の説明】
【0050】
1 乾燥炉
2 電極シート
6a、6b、6c、6d、6e 赤外線ヒータ
11 放射温度センサ
12 ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14