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特開2024-75929付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075929
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/08 20060101AFI20240529BHJP
   E04F 21/16 20060101ALI20240529BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
E04F21/08
E04F21/16 L
E04F21/16 Z
E04F13/02 G
E04F13/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187203
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(57)【要約】
【課題】意匠性を維持しつつ、作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる。
【解決手段】噴射口11を備えたノズル本体10が任意の吹き付け姿勢となるように制御され、噴射口11から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射する付加製造装置1Aに設けられている。ノズル本体10には、ノズル本体10とともに移動しながら噴射した水硬性混合物表面に接触させて任意の表面形状に仕上げる表面仕上げ機能部40が設けられた構成の付加製造装置用の噴射ノズルを提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射口を備えたノズル本体が任意の吹き付け姿勢となるように制御され、前記噴射口から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射する付加製造装置用の噴射ノズルであって、
前記ノズル本体には、前記ノズル本体とともに移動しながら噴射した水硬性混合物の表面に接触させて任意の表面形状に仕上げる表面仕上げ機能部が設けられていることを特徴とする付加製造装置用の噴射ノズル。
【請求項2】
前記ノズル本体は、前記表面仕上げ機能部に対するノズル軸の傾斜角度を相対的に変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の付加製造装置用の噴射ノズル。
【請求項3】
前記表面仕上げ機能部は、前記ノズル本体の少なくとも一部に設けられ、ノズル軸回りに回転可能であることを特徴とする請求項2に記載の付加製造装置用の噴射ノズル。
【請求項4】
前記表面仕上げ機能部は、コテ均し機能を有するコテ均し板を有し、
前記コテ均し板の中央部には、前記噴射口を露出する開口穴が形成され、
前記噴射口は、前記コテ均し板の均し面と面一、あるいは前記均し面より後退した位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の付加製造装置用の噴射ノズル。
【請求項5】
前記表面仕上げ機能部は、コテ、ブラシ、ヘラ、刷毛およびローラーのうち少なくとも一つの仕上げ工具を有することを特徴とする請求項1に記載の付加製造装置用の噴射ノズル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の付加製造装置用の噴射ノズルを用いて構造部材を構築する構造部材構築方法であって、
前記噴射口を備えたノズル本体を所定の吹き付け姿勢となるように制御する工程と、
前記噴射口から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射する工程と、
前記ノズル本体とともに移動しながら、噴射した前記水硬性混合物が凝結する前に、前記水硬性混合物の表面に前記表面仕上げ機能部を接触させて任意の表面形状に仕上げる工程と、
を有することを特徴とする構造部材構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物やコンクリート部材を製造する方法として、付加製造装置でノズルからコンクリートを吐出して製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4527107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の付加製造装置として材料吹付け(噴射)方式の3Dプリンタがあり、このような3Dプリンタによるコンクリート構造物を施工することが検討されているが、製造後の造形物の美観の点で課題があった。つまり、一般的には、吹き付け後のコンクリート等の材料の表面を人力によって左官仕上げ(コテ均し)することが多いが、作業に手間がかかるという問題があった。
【0005】
左官仕上げは、吹き付け直後でセメント系材料が凝結する前に実施した方が綺麗に仕上げることができるが、付加製造装置と同時並行で人力によって作業する場合、付加製造装置と人が干渉することから困難である。また、コテ均しロボット等を付加製造装置と共に用いる場合には、吹き付け作業後に別の吹き付けロボットと別のコテ均しロボットを動作させる必要があることから、吹付け作業と同時に動作させることは難しい。
このように、噴射ノズルを使用した吹き付けと同時、あるいは直後に表面仕上げを精度よくできることが求められており、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、意匠性を維持しつつ、作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る付加製造装置用の噴射ノズルは、噴射口を備えたノズル本体が任意の吹き付け姿勢となるように制御され、前記噴射口から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射する付加製造装置用の噴射ノズルであって、前記ノズル本体には、前記ノズル本体とともに移動しながら噴射した水硬性混合物の表面に接触させて任意の表面形状に仕上げる表面仕上げ機能部が設けられていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る構造部材構築方法は、上述した付加製造装置用の噴射ノズルを用いて構造部材を構築する構造部材構築方法であって、前記噴射口を備えたノズル本体を所定の吹き付け姿勢となるように制御する工程と、前記噴射口から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射する工程と、前記ノズル本体とともに移動しながら、噴射した前記水硬性混合物が凝結する前に、前記水硬性混合物の表面に前記表面仕上げ機能部を接触させて任意の表面形状に仕上げる工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
本発明では、所定の吹き付け姿勢となるように制御される噴射ノズルのノズル本体から水硬性混合物を定着部材に向けて噴射することにより、所望の形状の構造部材を構築できる。このとき、水硬性混合物が凝結する前に、ノズル本体の噴射口近傍に設けられる表面仕上げ機能部によって、吹き付けと同時に、あるいは吹き付け直後に水硬性混合物表面の凹凸を平らに均したり、所望の表面形状に仕上げたりすることができる。
このように本発明では、表面仕上げ機能部によって吹き付けた水硬性混合物表面の意匠性を維持しつつ吹き付け作業が行え、従来のような人力による左官作業が不要となり、このような左官作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる。
【0010】
また、本発明に係る付加製造装置用の噴射ノズルは、前記ノズル本体は、前記表面仕上げ機能部に対するノズル軸の傾斜角度を相対的に変更可能であることが好ましい。
【0011】
この場合、噴射ノズルのノズル本体の傾斜角度を作業状況に合わせて変更した吹き付け姿勢にして吹き付けることができる。そのため、表面仕上げ機能部の姿勢を水硬性混合物表面に合わせて一定に保つことができるので、水硬性混合物表面を吹き付け作業と同時に所望の形状に仕上げることができる。
【0012】
また、本発明に係る付加製造装置用の噴射ノズルは、前記表面仕上げ機能部は、前記ノズル本体の少なくとも一部に設けられ、ノズル軸回りに回転可能であることが好ましい。
【0013】
この場合には、噴射ノズルのノズル本体を表面仕上げ機能部に対して回転させ、傾斜角度を作業状況に合わせて変更した吹き付け姿勢にして吹き付けることができる。そのため、表面仕上げ機能部の姿勢を水硬性混合物表面に合わせて一定に保つことができるので、水硬性混合物表面を吹き付け作業と同時に所望の形状に仕上げることができる。
【0014】
また、本発明に係る付加製造装置用の噴射ノズルは、前記表面仕上げ機能部は、コテ均し機能を有するコテ均し板を有し、前記コテ均し板の中央部には、前記噴射口を露出する開口穴が形成され、前記噴射口は、前記コテ均し板の均し面と面一、あるいは前記均し面より後退した位置に設けられていることが好ましい。
【0015】
このような構成にすることにより、ノズル本体の噴射口から噴射された直後の水硬性混合物表面を、噴射口の周囲のコテ均し板によって平らに均すことができる。このとき、コテ均し板の均し面が噴射口よりも造形物の表面側に位置しているので、コテ均し板による均し作業において噴射口から噴射される水硬性混合物の影響を少なくすることができる。
【0016】
また、本発明に係る付加製造装置用の噴射ノズルは、前記表面仕上げ機能部は、コテ、ブラシ、ヘラ、刷毛およびローラーのうち少なくとも一つの仕上げ工具を有することを特徴としてもよい。
【0017】
この場合には、ノズル本体の噴射口から噴射された直後の水硬性混合物表面を、コテ、ブラシ、ヘラ、刷毛およびローラーのうち少なくとも一つの仕上げ工具によって任意の表面形状に仕上げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法によれば、意匠性を維持しつつ、作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態による付加製造装置用の噴射ノズルによる吹き付け状態を示す斜視図である。
図2】付加製造装置の構成を示す斜視図である。
図3】付加製造装置の構成を示す一部破断した側面図である。
図4】噴射ノズルをコテ均し板に対して傾斜させた状態を示す側面図である。
図5】付加製造装置を使用した吹き付け状態を示す断面図である。
図6】第2実施形態による付加製造装置の構成を示す斜視図である。
図7】第3実施形態による付加製造装置の構成を示す側面図である。
図8】変形例による表面仕上げ機能部の構成を示す一部破断した側面図である。
図9】(a)、(b)は変形例による表面形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態による付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法について、図面に基づいて説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1及び図2に示すように、本実施形態の付加製造装置1A用の噴射ノズル10Aは、噴射口11を備えたノズル本体10が任意の吹き付け姿勢となるように制御され、噴射口11から水硬性混合物C(図5参照)を定着部材に向けて噴射する際に使用される。
【0022】
付加製造装置1Aは、壁や柱等の構造部材K(造形物)を製造する際に使用され、噴射ノズル10Aのノズル本体10から水硬性混合物Cを吹き付けることにより所定の形状に構築するものである。すなわち、付加製造装置1Aでは、水硬性混合物吹き付け工程と、構造部材Kの表面を仕上げる表面仕上げ工程と、を同時に実施できる。
【0023】
図2及び図3に示すように、付加製造装置1Aは、噴射ノズル10A、ロボットアーム20を備えている。噴射ノズル10Aは、ノズル本体10と、表面仕上げ機能部40と、を備えている。
【0024】
噴射ノズル10Aは、ロボットアーム20の先端部20aに支持されている。噴射ノズル10Aは、不図示のホースに接続され、ホース内を流動する水硬性混合物Cが噴射口11から噴射される。ホースは、ロボットアーム20の外側に沿って配設されていてもよいし、ロボットアーム20内を通過して設けられていてもよい。ホースは、未硬化(未凝結)状態の水硬性混合物Cをノズル本体10へ供給する材料圧送ポンプ(図示省略)に接続されている。水硬性混合物Cは、噴射ノズル10Aのノズル本体10から噴射されていてもよいし、押し出されるようにしてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態では、噴射される水硬性混合物Cは、種々のセメント系材料(例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリートなど)、ジオポリマー組成物、およびそれらを短繊維で補強した繊維補強複合材料を含む材料を総称している。短繊維の材質は、化学的に合成された高分子からなる合成繊維、又は無機物からなる繊維が挙げられる。前者としては、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。後者としては、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維、岩石繊維(バサルトなど)、セラミック繊維、シリカ繊維等が挙げられる。
【0026】
図2及び図3に示すように、ロボットアーム20は、例えば6軸ロボットであり、例えば制御部(図示省略)によって例えば予めプログラムされた動作情報に基づいて高精度の動作で制御される。すなわち、ロボットアーム20は、複数のアーム部21が、回転自在な接続部を介して連結されている。ロボットアーム20は、例えば不図示の自走部に搭載されていてもよい。自走部としては、昇降可能(或いは上下移動可能)で、かつ接地面に沿って所定箇所に自走して噴射ノズル10Aを備えたロボットアーム20を移動可能に設けられている。なお、ロボットアーム20は、遠隔操作によって駆動されるものであってもよい。
【0027】
ノズル本体10は、ノズル先端部10aに噴射口11を有する。噴射口11には、ノズル本体10とともに移動しながら噴射した水硬性混合物表面Ca(図5参照)に接触させて任意の表面形状に仕上げる表面仕上げ機能部40が設けられている。
図4に示すように、ノズル本体10は、表面仕上げ機能部40に対するノズル軸Oの傾斜角度θを相対的に変更可能に設けられている。
【0028】
表面仕上げ機能部40は、ノズル本体10の噴射口11に一体的に設けられ、ノズル本体10の動作に連動させて使用する。表面仕上げ機能部40は、ノズル軸O方向から見てノズル先端部10aの少なくとも一部に設けられている。
【0029】
なお、表面仕上げ機能部40は、後述するコテ均し板41のようなコテ均しの機能に限定されることはなく、ノズル本体10に対して機能の異なる表面仕上げ機能部に付け替えることも可能である。表面仕上げ機能部を付け替え作業は、人力でもよいし、例えばツールチェンジャー等のロボットによって自動で行うことも可能である。
【0030】
図2に示すように、表面仕上げ機能部40は、コテ均し機能を有するコテ均し板41を有する。コテ均し板41は、平面視して矩形状に形成されている。コテ均し板41の中央部には、噴射口11を露出する開口穴41aが形成されている。なお、コテ均し板41の形状は、矩形であることに限定されることはなく、平面視して円形あるいは他の形状を採用できる。コテ均し板41は、ノズル本体10から噴射された凝結前の水硬性混合物表面Caを噴射直後に平らに均すために使用される。
ここで、水硬性混合物Cにおける凝結前とは、JISA1147:2019(コンクリートの凝結時間試験方法)における貫入抵抗試験装置で測定した貫入抵抗値が10N/mm以下の状態である。
【0031】
コテ均し板41の寸法としては、例えば直径20mm~300mm程度であることが好ましい。構造部材Kの造形体が図1に示すように曲面を有する場合には、コテ均し板41の寸法はなるべく小さな平面形状の方が精度よく均すことができるので好ましい。また、作業スピードが要求される場合には、コテ均し板41の寸法は大きい平面形状である方が好ましい。また、コテ均し板の中央部に噴射口開口穴を設ける代わりに、例えばノズルの下方のみにコテ均し板を設ける形態としてもよい。
【0032】
コテ均し板41の材料としては、金属製、プラスチック、FRP、セメント系材料、木材等が挙げられる。また、コテ均し板41の均し面(均し面41c)には、水硬性混合物Cが付着しにくくなる表面処理を施してもよい。
【0033】
また、図3及び図4に示すように、コテ均し板41の外周縁は、均し面41c側と反対側に向けて折り曲げられた折曲部41bを有する。折曲部41bが形成されることにより、コテ均し板41で水硬性混合物表面Caを均す際に移動させても、吹き付けた水硬性混合物表面Caを傷つけることなく平坦化することができる。
【0034】
図5に示すように、噴射口11は、コテ均し板41の均し面41cと面一、あるいは均し面41cよりも後方に位置する。
【0035】
図3及び図4に示すように、コテ均し板41には、ノズル本体10のノズル先端部10aに対して角度調整可能な球面滑り軸受42がノズル先端部10aと同軸に設けられている。球面滑り軸受42は、内輪421と、外輪422と、を有する。内輪421は、中央穴にノズル先端部10aを貫通させて固定している。外輪422は、外周部をコテ均し板41に固定している。球面滑り軸受42の軸受面42aは、側面視で外側に突となる凸曲面(球面)を形成している。内輪421と外輪422とは、軸受面42aの球面に沿って相対的に回動可能である。すなわち、外輪422に固定されるコテ均し板41は、球面滑り軸受42を中心に任意の傾斜角度θで回動可能に設けられている。
【0036】
次に、上述した付加製造装置用の噴射ノズル10Aを用いた構造部材Kの製造方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
図5に示すように、構造部材Kの形状に沿う外殻部に鉄筋61やメッシュ筋62等の定着部材60を設置する。これら定着部材60は、構造部材Kに埋設される芯材として機能するものであってもよい。噴射ノズル10Aは、例えば遠隔操作による移動や自動走行が可能なロボットアーム20に装着されている。
【0037】
そして、定着部材に向けてノズル本体10から未硬化状態の水硬性混合物Cを噴射して、下方から上方に積層することによって、定着部材に水硬性混合物Cを定着させることで、所定の形状の造形物をなす構造部材Kが構築される。なお、水硬性混合物Cが噴射される対象面は水平面でも鉛直面でも勾配を持った面でも構わない。
【0038】
具体的には、噴射ノズル10Aを略水平方向X(図1及び図5参照)に予め設定された移動速度で図5の矢印E方向に移動させて一定の高さの噴射水硬性混合物部を形成し、さらにその直近で形成した噴射水硬性混合物部の上部において噴射ノズル10Aを略水平方向Xに移動させて次の噴射水硬性混合物部を積層させることにより形成する。そして、コテ均し板41とともに通過したノズル本体10の通過後の水硬性混合物Cはそのまま硬化させる。このように噴射ノズル10Aの動作を繰り返すことにより所望の形状の構造部材Kが構築される。
【0039】
ノズル本体10から水硬性混合物Cを噴射すると同時に、ノズル本体10のノズル先端部10aに装着されているコテ均し板41の均し面41cを凝結前の水硬性混合物Cに押し付けながら、造形体表面に沿って移動させることで、水硬性混合物表面Caの凸凹を均し、所定寸法に整形する均し作業を水硬性混合物噴射と同時に行う。
【0040】
次に、上述した付加製造装置用の噴射ノズル10Aおよび構造部材構築方法の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0041】
図1図5に示すように、本実施形態による付加製造装置用の噴射ノズル10Aでは、噴射口11を備えたノズル本体10が任意の吹き付け姿勢となるように制御され、噴射口11から水硬性混合物Cを定着部材に向けて噴射する付加製造装置1Aに設けられている。ノズル本体10には、ノズル本体10とともに移動しながら噴射した水硬性混合物表面Caに接触させて任意の表面形状に仕上げる表面仕上げ機能部40が設けられている。
【0042】
このように、本実施形態では、所定の吹き付け姿勢となるように制御される噴射ノズル10Aのノズル本体10から水硬性混合物Cを定着部材に向けて噴射することにより、所望の形状の構造部材Kを構築できる。このとき、水硬性混合物Cが凝結する前に、ノズル本体10の噴射口11に設けられるコテ均し板41を備えた表面仕上げ機能部40によって、吹き付けと同時に、あるいは吹き付け直後に水硬性混合物表面Caの凹凸を平らに均したり、所望の表面形状に仕上げたりすることができる。
また、吹き付け直後に、吹付け造形工程、均し工程、吹付け造形工程、均し工程・・・というように、吹付け造形工程と均し工程と繰り返すことにより、造形体の形状を整えながら造形体を形成してもよい。
このように本実施形態では、表面仕上げ機能部40によって吹き付けた水硬性混合物表面Caの意匠性を維持しつつ吹き付け作業が行え、従来のような人力による左官作業が不要となり、このような左官作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる。
【0043】
また、本実施形態では、ノズル本体10は、表面仕上げ機能部40に対するノズル軸Oの傾斜角度θを相対的に変更可能である。この場合には、ノズル本体10の傾斜角度θを作業状況に合わせて変更した吹き付け姿勢にして吹き付けることができる。
【0044】
そのため、表面仕上げ機能部40の姿勢を水硬性混合物表面Caに合わせて一定に保つことができるので、水硬性混合物表面Caを吹き付け作業と同時に所望の形状に仕上げることができる。
【0045】
また、本実施形態では、表面仕上げ機能部40は、ノズル本体10の少なくとも一部に設けられ、ノズル軸O回りに回転可能である。
【0046】
この場合には、噴射ノズル10Aのノズル本体10を表面仕上げ機能部40に対して回転させ、傾斜角度θを作業状況に合わせて変更した吹き付け姿勢にして吹き付けることができる。そのため、表面仕上げ機能部40の姿勢を水硬性混合物表面Caに合わせて一定に保つことができるので、水硬性混合物表面Caを吹き付け作業と同時に所望の形状に仕上げることができる。
【0047】
また、本実施形態では、表面仕上げ機能部40は、コテ均し機能を有するコテ均し板41を有している。コテ均し板41の中央部には、噴射口11を露出する開口穴41aが形成されている。噴射口11は、コテ均し板41の均し面41cと面一、あるいは均し面41cより後退した位置に設けられている。
【0048】
この場合には、ノズル本体10の噴射口11から噴射された直後の水硬性混合物表面Caを、噴射口11の周囲のコテ均し板41によって平らに均すことができる。このとき、コテ均し板41の均し面41cが噴射口11よりも造形物の表面側に位置しているので、コテ均し板41による均し作業において噴射口11から噴射される水硬性混合物Cの影響を少なくすることができる。
【0049】
上述のように本実施形態による付加製造装置用の噴射ノズル10Aおよび構造部材構築方法では、意匠性を維持しつつ、作業にかかる手間を低減することができ、作業効率を向上できる。
【0050】
次に、実施形態による付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法の他の実施形態および変形例について説明する。なお、上述した第1実施形態の構成要素と同一機能を有する構成要素には同一符号を付し、これらについては、説明が重複するので詳しい説明は省略する。
【0051】
(第2実施形態)
図6に示すように、第2実施形態による付加製造装置1Bの噴射ノズル10Bの表面仕上げ機能部40Aは、複数のコテ均し板45がノズル軸Oを中心にして回転可能に設けられた構成のものである。具体的には、ノズル先端部10aの外側に嵌合された回転駆動部44と、回転駆動部44の回転駆動力によってノズル本体10のノズル軸O回りに回転する羽根形状の複数(ここでは3つ)のコテ均し板45と、コテ均し板45を覆うカバー体46と、を備えている。3つのコテ均し板45は、ノズル軸O回りの周方向に均等の間隔をあけて配置されている。表面仕上げ機能部40Aでは、3つのコテ均し板45の中心部の噴射口11から水硬性混合物が噴射される。
【0052】
第2実施形態による表面仕上げ機能部40Aでは、3つのコテ均し板45が噴射口11を中心として回転するので、噴射口11から噴射された直後の水硬性混合物を平らに形成することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図7に示す第3実施形態による付加製造装置1Cの噴射ノズル10Cの表面仕上げ機能部40Bは、ノズル本体10のノズル先端部10aに回転可能に支持されたコテ均し板47と、コテ均し板47をノズル本体10の支持部を中心にして回転させるリングガイド48と、リングガイド48を案内する案内ギア49と、を備えている。
【0054】
コテ均し板47は、ノズル軸Oに直交する方向の回転軸471aを有する回転支持部471を介して回転移動する。回転支持部471は、例えば蝶番等の部材を採用できる。リングガイド48は、円弧状のリング形状であり、内周面にラックギア48aが形成されている。リングガイド48の中心は、回転支持部471の回転軸471aとなっている。
リングガイド48の一端がコテ均し板47の裏面47bに固定されている。案内ギア49は、回転支持部471の回転軸471aの軸方向に平行な方向を中心にして回転可能にノズル本体10の周面に支持され、かつリングガイド48内周のラックギア48aに噛合している。なお、案内ギア49は、不図示のモータの駆動によるピニオンギアを採用してもよい。また、表面仕上げ機能部40Bは、上方から見た平面視で、ノズル本体10の両側にコテ均し板47とリングガイド48が設けられる構成であってもよい。
【0055】
リングガイド48は、手動又は自動により回転軸471aを中心に回転させることで、コテ均し板47を所望の角度で傾斜させることができる。図7の二点鎖線は、コテ均し板47を傾斜させた状態を示している。あるいは、コテ均し板47の均し面47cを被噴射面である構造部材の表面に平行に向けた姿勢で維持し、ノズル本体10をコテ均し板47に対して適宜な角度に傾斜させて施工することや作業中に角度変更することもできる。
【0056】
また、噴射ノズル10を使用した吹き付け作業中において、吹き付けと同時にコテ均し板47を使用して水硬性混合物を均す作業を行わない場合には、コテ均し板47を吹き付け面から外した位置にずらして格納した状態に移動させることも可能である。
【0057】
(第1変形例)
次に、図8に示す第1変形例による表面仕上げ機能部40Cについて説明する。表面仕上げ機能部40Cとして、上述した実施形態のようなコテ均し板41、45、47であることに限定されることはなく、図8に示すようなブラシ51やヘラ52、あるいは不図示の刷毛、ローラー等の仕上げ工具で水硬性混合物表面を適宜な形状に加工することが可能な機能を有するものを採用することができる。この場合には、吹き付けた水硬性混合物表面に均しの機能とともに、取り付けた仕上げ工具による別の機能を有している。
図8に示す表面仕上げ機能部40Cは、第1実施形態のコテ均し板41の均し面41cにブラシ51とヘラ52が固定されている。
なお、均し面41cには、例えば単数又は複数のブラシ51のみ、あるいは単数又は複数のヘラ52のみが設けられていてもよい。これらの工具により、左官職人のように表面を任意の形状に仕上げることが可能となる。
【0058】
(第2変形例)
図9(a)、(b)に示す第2変形例は、表面仕上げ機能部40Dのローラー53A、53Bの表面に凹凸模様が形成され、このローラー53A、53Bを使用することにより、表面立体仕上げを行うものである。
図9(a)に示すローラー53Aは、木材の樹皮の表面を表現した凹凸模様Kaが形成されている。図9(b)に示すローラー53Bは、石材を積み上げた表面を表現した凹凸模様Kbが形成されている。
このような表面仕上げ機能部40Dを使用した立体仕上げ作業は、吹き付けた水硬性混合物を均した後であってもよい。
【0059】
以上、本発明による付加製造装置用の噴射ノズルおよび構造部材構築方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0060】
例えば、上述した実施形態では、ノズル本体10から水硬性混合物Cを吹き付けているが、吹き付けであることに限定されることはなく、水硬性混合物Cの噴射圧を小さくして造形物に対して塗り付けるように吐出させる噴射であってもよい。
【0061】
また、上記第1実施形態では、表面仕上げ機能部40に対するノズル軸Oの傾斜角度θを相対的に変更可能に設けられている。すなわち、本実施形態では、表面仕上げ機能部40がノズル軸O方向からみて噴射口11の周囲の周方向の少なくとも一部に設けられ、ノズル軸O回りに回転可能な構成となっているが、このような傾斜角度θを設ける構成に限定されることはなく、上記の第2実施形態のようなノズル軸Oを中心に回転するような構成であってもよい。また、表面仕上げ機能部40に対するノズル軸Oの傾斜角度θを相対的に変更する構成についても、上記の実施形態に限定されることはなく、他の構成を採用することも可能である。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0063】
1A、1B、1C、1D 付加製造装置
10A~10D 噴射ノズル
10 ノズル本体
10a ノズル先端部
11 噴射口
20 ロボットアーム
30 制御部
40、40A、40B、40C、40D 表面仕上げ機能部
41、45、47 コテ均し板
41c、47c 均し面
C 水硬性混合物
Ca 水硬性混合物表面
K 構造部材
O ノズル軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9