(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075934
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】複合体、複合体の製造方法、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240529BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240529BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240529BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187213
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 明
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB12
5H018BB16
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高性能な燃料電池を提供する。
【解決手段】金属触媒3が担持された導電体5と、高分子電解質7と、を備えた複合体1である。金属触媒が担持された導電体5には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が存在している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒が担持された導電体と、高分子電解質と、を備えた複合体であって、
前記金属触媒が担持された前記導電体には、前記高分子電解質によって被覆された被覆部と、前記高分子電解質によって被覆されていない非被覆部と、が存在している、複合体。
【請求項2】
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始し、
重合反応の開始後、前記モノマー群の少なくとも1種が残留している前記溶媒中に、前記金属触媒が担持された前記導電体を投入し、重合反応を更に進めて得られる、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
金属触媒が担持された導電体と、高分子電解質と、を備えた複合体の製造方法であって、
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始し、
重合反応の開始後、前記モノマー群の少なくとも1種が残留している前記溶媒中に、前記金属触媒が担持された前記導電体を投入し、重合反応を更に進めることで、
前記金属触媒が担持された前記導電体に、前記高分子電解質によって被覆された被覆部と、前記高分子電解質によって被覆されていない非被覆部と、を形成する複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の複合体を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合体、複合体の製造方法、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(固体高分子形燃料電池)のアイオノマー(高分子電解質)としてパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー(ナフィオン(登録商標))が知られている。ナフィオンは、その合成原料が高い。また、ナフィオンは、複雑な製造工程を経る。よって、ナフィオンは、非常に高価という問題点がある。
また、金属触媒を担持した導電体(例えば、白金(Pt)担持カーボン)が高分子電解質で覆われた複合体では、高分子電解質によってPt等へのガスの拡散が低下することが知られている。よって、燃料電池の性能向上のためには、導電体上における高分子電解質の分布を制御することが重要である。
これまでに新たな高分子電解質を用いた複合体が種々検討されている。例えば特許文献1では、ポリフェニレンエーテルを主鎖とする炭化水素系高分子電解質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、金属触媒を担持した導電体上における高分子電解質の分布を制御できておらず、燃料電池に用いた場合に、必ずしも十分な性能を得ることはできなかった。
本開示は、導電体上における高分子電解質の分布を制御し、高性能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の手段を以下に示す。
[1]金属触媒が担持された導電体と、高分子電解質と、を備えた複合体であって、
前記金属触媒が担持された前記導電体には、前記高分子電解質によって被覆された被覆部と、前記高分子電解質によって被覆されていない非被覆部と、が存在している、複合体。
【発明の効果】
【0006】
本開示の複合体は、導電体上における高分子電解質の分布が制御されているので、この複合体を用いると高性能な燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の複合体の一例を説明する模式図である。
【
図2】従来の複合体の一例を説明する模式図である。
【
図3】燃料電池(固体高分子形燃料電池)の一例の模式図である。
【
図5】酸素還元反応(ORR)の活性を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の他の例を示す。
[2]
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始し、
重合反応の開始後、前記モノマー群の少なくとも1種が残留している前記溶媒中に、前記金属触媒が担持された前記導電体を投入し、重合反応を更に進めて得られる、[1]に記載の複合体。
[3]
金属触媒が担持された導電体と、高分子電解質と、を備えた複合体の製造方法であって、
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始し、
重合反応の開始後、前記モノマー群の少なくとも1種が残留している前記溶媒中に、前記金属触媒が担持された前記導電体を投入し、重合反応を更に進めることで、
前記金属触媒が担持された前記導電体に、前記高分子電解質によって被覆された被覆部と、前記高分子電解質によって被覆されていない非被覆部と、を形成する複合体の製造方法。
[4]
[1]又は[2]に記載の複合体を備える、燃料電池。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.複合体1
本開示の複合体1は、金属触媒3が担持された導電体5と、高分子電解質7と、を備える。金属触媒3が担持された導電体5には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が存在している。被覆部9では、金属触媒3が高分子電解質7に覆われている。他方、非被覆部11では、金属触媒3が高分子電解質7に覆われていない。非被覆部11では、金属触媒3が高分子電解質7に覆われていないから、ガスの拡散がよい。また、非被覆部11では、金属触媒3が高分子電解質7に覆われていないから、触媒被毒が小さい。
【0011】
(1)金属触媒3
金属触媒3(触媒粒子)としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、金、銀、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、インジウム、カドミウム、亜鉛、タングステン、タンタル、銅、コバルト、ニッケル、クロム、鉄、バナジウム、マンガン、イットリウム、テクネチウム、ガリウム、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、レニウム、アルミニウム、チタン等の金属又はこれらの合金等が使用できる。触媒の粒径は、特に限定されない。触媒の粒径は、触媒の活性の向上、触媒の安定性の観点から、0.3nm以上30nm以下が好ましく、0.5nm以上10nm以下がより好ましい。触媒が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選択される少なくとも1種の貴金属を含むと、電極反応性に優れ、電極反応を効率よく安定して行うことができる。
触媒の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により触媒を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、触媒(黒い円形の像)を球形とみなして、触媒の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
【0012】
(2)導電体5
導電体5は、金属触媒3を担持する電子伝導性の物質(触媒担持粒子)である。導電体5は、特に限定されない。導電体5として、カーボン粒子が好ましく用いられる。カーボン粒子の種類は、限定されない。カーボン粒子として、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が好適に用いられる。カーボン粒子の粒径は、特に限定されない。カーボン粒子の粒径は、良好な電子伝導パスの形成の観点、触媒層のガス拡散性確保の観点から、10nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
導電体5の粒径は、例えば、次の方法で求めることができる。透過型電子顕微鏡(TEM)により導電体5を観察する。TEM写真を用紙にプリントアウトし、導電体5を球形とみなして、導電体5の端から端までを直径とみなして、合計300粒子を数視野(3視野-5視野)の画像から無作為に測定する。300個数えた直径の平均を粒径とする。
【0013】
(3)高分子電解質7
高分子電解質7は、プロトン伝導性を有する。高分子電解質7を構成する重合体は特に限定されない。
高分子電解質7を構成する重合体として、重合性基を有する化合物Aに由来する繰り返し単位と、イオン性モノマーに由来する繰り返し単位と、複数の重合性基を有する化合物Bに由来する繰り返し単位と、を含有する重合体を好適に例示することができる。
本明細書において、「重合性基を有する化合物A」とは、単一の重合性基を有する化合物のことを指し、後述する「複数の重合性基を有する化合物B(架橋性モノマー)」を除外する概念である。
重合性基を有する化合物Aとしては、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等が挙げられる。コストの観点から、スチレンが好ましい。重合性基を有する化合物Aは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
イオン性モノマーとしては、例えば、スルホン酸ナトリウム基を有するビニルモノマー、アミノ基を有するビニルモノマー等が挙げられる。スルホン酸ナトリウム基を有するビニルモノマーとしては、例えば、4-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-スルホエチルメタクリレートナトリウム、β-スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。コストの観点から、4-スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。イオン性モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
複数の重合性基を有する化合物Bは、架橋性モノマーとして機能する。複数の重合性基を有する化合物Bとしては、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等が挙げられる。コストの観点から、ジビニルベンゼンが好ましい。複数の重合性基を有する化合物Bは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
高分子電解質7を構成する重合体中に含まれる各繰り返し単位の含有割合は特に限定されない。
【0014】
2.複合体1の製造方法
複合体1の製造方法は、特に限定されない。以下、好ましい製造方法を記載する。この製造方法を用いると、高性能な複合体1が得られる。
好ましい製造方法では、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群と、開始剤とを用いて溶媒中で重合反応を開始する。
重合反応の開始後、モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒3が担持された導電体5を投入し、重合反応を更に進める。この製造方法によって、金属触媒3が担持された導電体5には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が形成される。
【0015】
(1)モノマー群
モノマー群には、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bが含まれる。「重合性基を有する化合物A」、「イオン性モノマー」、「複数の重合性基を有する化合物B」については、「1.複合体1」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「1.複合体1」の項目で説明した「重合性基を有する化合物A」、「イオン性モノマー」、「複数の重合性基を有する化合物B」をそのまま適用する。
各モノマー(重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物B)の使用量は、使用するモノマーの種類、使用する開始剤の種類、開始剤の量、重合温度、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0016】
(2)開始剤
開始剤(重合開始剤)
開始剤は、ラジカル、アニオン又はカチオンを発生する等して重合開始可能なものであれば特に限定されない。開始剤として、例えば、過酸化物、アゾ化合物が好適に例示される。開始剤は、重合温度、溶媒、モノマーの種類等に応じて、適宜選択できる。
開始剤のうち過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ペルオキシ酢酸t-ブチル、ペルオキシ安息香酸t-ブチル、ペルオキシオクタン酸t-ブチル、ペルオキシネオデカン酸t-ブチル、ペルオキシイソ酪酸t-ブチル、過酸化ラウロイル、ペルオキシピバリン酸t-アミル、ペルオキシピバリン酸t-ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0017】
アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド]などの油溶性アゾ化合物;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)二水和物、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミド)四水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン]二塩酸塩などの水溶性アゾ化合物等が挙げられる。開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
開始剤の使用量は、使用するモノマーの種類、モノマーの量、使用する開始剤の種類、重合温度、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0019】
(3)溶媒
溶媒は、特に限定されない。溶媒には、モノマーを溶解可能な溶媒が少なくとも含まれることが好ましい。そのような溶媒としては、アルコール、水、ケトン、及び、エーテルからなる群より選択される少なくとも1種を好適に使用できる。
アルコールとしては、炭素数1-5のアルコールが好適に用いられる。炭素数1-5のアルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1-ペンタノール、及び、3-ペンタノールからなる群より選択される少なくとも1種を好適に使用できる。これらの中でも、環境負荷を低減する観点から、エタノールを用いることが好ましい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンが好適に例示される。
エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルが好適に例示される。
溶媒としては、上記に記載された以外に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等の極性溶剤も使用できる。
溶媒は、2種以上を混合して用いても、単独で用いてもよい。高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、有機溶媒と水とを混合した混合溶媒が好ましい。有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合には、有機溶媒の量と、水の量の割合は特に限定されない。有機溶媒と水の混合比率(体積比)は、高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、有機溶媒:水で、1:1000-1000:1が好ましく、1:100-100:1がより好ましく、1:10―10:1が更に好ましい。
溶媒の量は、特に限定されない。溶媒の量は、高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、例えば、モノマーの総量100質量部に対して、10質量部以上5000000質量部以下が好ましく、100質量部以上500000質量部以下がより好ましく、1000質量部以上50000質量部以下が更に好ましい。
【0020】
(4)重合温度
重合温度は、特に限定されない。重合温度は、開始剤の種類、モノマーの種類、開始剤の量、モノマーの量、重合濃度等の重合条件等に応じて適宜設定される。開始剤として過酸化物を用いた場合には、例えば40℃以上100℃以下の重合温度で好適な重合反応が進行する。
【0021】
(5)金属触媒3が担持された導電体5
「金属触媒3が担持された導電体5」については、「1.複合体1」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「1.複合体1」の項目で説明した「(1)金属触媒3」、「導電体5」をそのまま適用する。
本開示の製造方法において投入される金属触媒3が担持された導電体5の量は、特に限定されない。金属触媒3が担持された導電体5の量は、高分子電解質の分布制御を容易にする観点から、例えば、モノマーの総量100質量部に対して、0.001質量部以上50000質量部以下が好ましく、0.01質量部以上5000質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上500質量部以下が更に好ましい。
【0022】
(6)重合反応の開始
反応容器中に、モノマー(重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを含むモノマー群から選ばれる少なくとも1種)及び開始剤を入れ、昇温することにより重合を開始できる。
重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bを溶媒に入れるタイミングは特に限定されない。重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、及び複数の重合性基を有する化合物Bをそれぞれ別々に投入してもよいし、これらのうちの1種を加えた後に2種を加えてもよいし、これらのうちの2種を加えた後に1種を加えてもよいし、3種を同時に投入してもよい。
【0023】
(7)金属触媒3が担持された導電体5の投入及び更なる重合反応
本開示の複合体1の製造方法では、重合反応の開始後、モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒3が担持された導電体5を投入し、重合反応を更に進める。ここで、モノマー群の少なくとも1種とは、重合性基を有する化合物A、イオン性モノマー、複数の重合性基を有する化合物Bの内の少なくとも1種である。モノマー群の少なくとも1種が残留しているとは、言い換えれば、重合反応の途中を意味する。重合反応の途中では、重合体は比較的短く、丸まっていない状態であると考えられる。すなわち、鎖状のオリゴマーのような状態で存在すると推測される。この状態において、金属触媒3が担持された導電体5が溶媒中に存在すると、鎖状のオリゴマーのような重合体が、金属触媒3が担持された導電体5に吸着すると考えられる。そして、鎖状のオリゴマーのような重合体に対して、溶媒中に残存するモノマーが反応することで、重合体が成長していき、高分子電解質7となると考えられる。本開示の製造方法によれば、上述の鎖状のオリゴマーのような重合体が、金属触媒3が担持された導電体5に吸着し、この重合体が成長する過程を経ることで、導電体5には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が形成すると推測される。
モノマー群の少なくとも1種が残留している溶媒中に、金属触媒3が担持された導電体5を投入するタイミングは、特に限定されない。このタイミングは、例えば重合開始から10秒経過後から1時間経過後を採用することができる。
金属触媒3が担持された導電体5が投入された後の更なる重合反応の反応時間は特に限定されない。反応時間は、例えば1分以上200時間以内である。
【0024】
(8)重合反応後の処理
重合反応後に後処理をしてもよい。例えば、導電体5を洗浄してもよい。洗浄には、例えば炭素数1-5のアルコール、水を使用してもよい。「炭素数1-5のアルコール」については、「1.複合体1」の欄における説明をそのまま適用し、その記載は省略する。すなわち、「1.複合体1」の項目で説明した「炭素数1-5のアルコール」の説明をそのまま適用する。
【0025】
3.燃料電池10
燃料電池10は、複合体1を備える。燃料電池10としては、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)を挙げることができる。本開示の燃料電池10は、金属触媒3が担持された導電体5には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が存在しているから、ガスの拡散がよく、高性能である。
燃料電池10の構成例について説明する。この燃料電池10は、好適例たる固体高分子形燃料電池である。
図3に示すように、燃料電池10は、電解質膜たる固体高分子電解質膜12を備えている。固体高分子電解質膜12は例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂から構成されている。固体高分子電解質膜12の両側には、これを挟むようにアノード電極14、カソード電極16が設けられている。固体高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極14、カソード電極16とにより、膜電極接合体18が構成される。
【0026】
アノード電極14の外側には、ガス拡散層20が設けられている。ガス拡散層20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体等の多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスをアノード電極14に均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソード電極16の外側には、ガス拡散層24が設けられている。ガス拡散層24は、セパレータ26側から供給されたガスをカソード電極16に均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成された膜電極接合体18、ガス拡散層20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の燃料電池10は、膜電極接合体18、ガス拡散層20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している場合もある。
【実施例0027】
1.実施例の複合体1の作製
実施例の複合体1の製造方法を説明する。
まず、4-スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS,11mg)、過硫酸カリウム(KPS,98mg)、エタノール(33.0mL)、水(Milli-Q水(登録商標),9.0mL)を混合した。
この混合物を70℃に加熱した。そして、スチレン及びジビニルベンゼン(DVB)の混合物(0.4mL、99:1、wt/wt)を添加した。
その2分後にPt担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属(株))の水分散液(6.0mL、Pt担持カーボン1.5mg含有)を更に添加し8分間、更に70℃にて反応させた。
この液を室温まで自然に冷却後、エタノール及び水(Milli-Q水(登録商標)で洗浄して複合体1を得た。
【0028】
2.複合体1の評価
(1)透過型電子顕微鏡による評価
複合体1の透過型電子顕微鏡(TEM)像を
図4に示す。複合体1には、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が存在していた。
【0029】
(2)酸素還元反応(ORR)の質量活性及び面積比活性
図5は、酸素飽和した0.1M HClO
4水溶液(30℃)中で測定した酸素還元反応(ORR)の質量活性及び面積比活性の結果を示している。比較対象は、Pt担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属(株))の表面をナフィオンで覆った従来の複合体1とした。
まず、質量活性(
図5左図)について説明する。質量活性は、従来の複合体1に比べて、実施例の複合体1が約1.8倍高いことが分かった。
次に、面積比活性(
図5右図)について説明する。面積比活性は、従来の複合体1に比べて、実施例の複合体1が約4.1倍高いことが分かった。
【0030】
(3)考察及び実施例の効果
実施例の複合体1では、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、が存在しており、質量活性及び面積比活性が高くなっている。
実施例の複合体1における高分子電解質7は、ナフィオンと比べて、原料が安く、しかも簡易な製造方法によって調製できる。また、従来例では、ナフィオンが導電体5の表面を被覆しているが、実施例では高分子電解質7が導電体5の一部を被覆していないので、高分子電解質7の使用量を少なくできる。よって、実施例の複合体1における高分子電解質7は、例えばナフィオンと比べて1000分の1以下のコストとなる。従って、実施例の複合体1は、安価に製造できる。しかも、実施例の複合体1は、ナフィオン等の高価な高分子電解質7を用いた従来の複合体1よりも高性能であるため、貴金属の使用量も削減でき、この観点からもコストの低減を期待できる。
また、実施例の複合体1は、ジクロロメタン等の有機溶媒を使用していないため、環境負荷が少ない。
また、従来は、高分子電解質7の合成後に、高分子電解質7と導電体5とを混合する混合工程を設けて複合体1を製造しているが、本開示の製造方法では、混合工程は不要となるのでコスト等に有利である。また、従来の混合工程では、導電体5における高分子電解質7の分布状態を制御できない。本開示の製造方法では、導電体5における高分子電解質7の分布状態を制御して、高分子電解質7によって被覆された被覆部9と、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11と、を形成する。複合体1において、高分子電解質7によって被覆された被覆部9では、プロトン(H+)の移動性が担保され、高分子電解質7によって被覆されていない非被覆部11では、金属触媒3へのガスの拡散性が担保される。よって、この製造方法で製造された複合体1を用いると高性能な燃料電池10を提供できる。
また、本開示の複合体1は、ナフィオン等を用いた従来の複合体1よりも高性能であるため、結果として、貴金属の使用量も削減でき、この観点からもコストの低減を期待できる。
【0031】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本開示を限定するものと解釈されるものではない。本開示を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本開示の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本開示の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本開示の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本開示をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本開示は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0032】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。