(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007594
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】転造盤
(51)【国際特許分類】
B21H 3/04 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B21H3/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108756
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】522259038
【氏名又は名称】有限会社三嶋商事
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 章嗣
(57)【要約】
【課題】三個の丸ダイスを用いて転造する転造盤にあって、小径のねじを好適に転造可能な構成を提供する。
【解決手段】
丸ダイス20を、外周面に加工刃38が形成された円柱状のダイス本体30と、ダイス本体30の中心から軸方向両側に延びる主軸31とが一体成形された構成とし、丸ダイス20の両側の主軸31を回転可能に保持可能な主軸保持構造25と、丸ダイス20の端部に脱着可能に連結されて、丸ダイス20を回転駆動するダイス駆動機構と、ワークを配置するワーク配置部に対して、丸ダイス20を離近移動させるダイス進退機構とを配設する。かかる構成とすれば、小径のねじの転造に必要な強度を確保しつつ、丸ダイス20の相互干渉を容易に回避可能となる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三個の丸ダイスを三方からワークに押し込んで転造する転造盤であって、
前記丸ダイスは、外周面に加工刃が形成された円柱状のダイス本体と、前記ダイス本体の中心から軸方向両側に延びる主軸とが一体成形されてなるものであり、
前記丸ダイスの両側の前記主軸を回転可能に保持可能な主軸保持構造と、
前記丸ダイスの端部に脱着可能に連結されて、前記丸ダイスを回転駆動するダイス駆動機構と、
ワークを配置するワーク配置部に対して、前記丸ダイスを離近移動させるダイス進退機構と
を備えることを特徴とする転造盤。
【請求項2】
前記主軸保持構造は、保持可能な前記主軸の太さが相違する複数種類のダイスホルダを備え、
前記主軸の太さに応じた種類の前記ダイスホルダに前記丸ダイスを保持するよう構成されており、
複数種類の前記ダイスホルダは、前記ダイス進退機構に選択的に装着可能であることを特徴とする請求項1に記載の転造盤。
【請求項3】
前記ダイスホルダは、前記丸ダイスを保持した状態で、一体のユニットとして前記ダイス進退機構に脱着可能であることを特徴とする請求項2に記載の転造盤。
【請求項4】
前記ダイスホルダの前記ダイス進退機構への装着時に、前記ダイスホルダに宛がう複数種類の傾斜角度調整ブロックを備え、
前記ダイスホルダに宛がう前記傾斜角度調整ブロックの種類に応じて、前記ダイス進退機構に対する前記ダイスユニットの角度を変更可能となっていることを特徴とする請求項3に記載の転造盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三個の丸ダイスを用いる転造盤に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじを転造するための転造盤は、平ダイスを使用して転造する平ダイス転造盤と、丸ダイスを使用して転造する丸ダイス転造盤に大別される。丸ダイス転造盤は、回転可能に保持した丸ダイスを回転駆動しながら、棒状のワークを挟圧することにより、ワークの外周面にねじ山を形成する(特許文献1参照)。従来の丸ダイス転造盤では、丸ダイスは、外周面に加工刃が形成された円筒形状をなしており、丸ダイス転造盤に備え付けられた主軸に丸ダイスを選択的に嵌着して、主軸と丸ダイスをキーで締結している(特許文献2参照)。また、丸ダイス転造盤には、ワークを2個の丸ダイスで挟圧する2ダイス方式と、ワークを三個の丸ダイスで挟圧する3ダイス方式がある。3ダイス方式は、丸ダイスをワークに押し込む力を三方に分散できるため、潰れやすい薄肉中空部品にねじを転造するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-285766号公報
【特許文献2】特開2000-084703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
丸ダイス転造盤は、丸ダイスを適宜選択することにより、外径の異なるねじを転造できる。しかしながら、3ダイス方式は、構造上、小径のねじの転造には不向きである。
図16に示すように、3ダイス方式では、丸ダイス100の外径に対してワークWの外径が小さすぎると、丸ダイス100がワークWに当接する前に、丸ダイス100が相互干渉してしまい、ワークWを挟圧できないためである。
【0005】
かかる問題に対して、既存の丸ダイス100の外径を小さくすれば、丸ダイス100を相互干渉させることなく、小径のワークWを挟圧可能となるが、丸ダイス100を小径にすると、転造に耐え得る強度を確保困難となる。このため、従来の3ダイス方式の転造盤は、M6(呼び径6mm)以下の小径のねじの転造には用いられていない。
【0006】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、三個の丸ダイスを用いる転造盤にあって、小径のねじの転造に適する構成の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、三個の丸ダイスを三方からワークに押し込んで転造する転造盤であって、前記丸ダイスは、外周面に加工刃が形成された円柱状のダイス本体と、前記ダイス本体の中心から軸方向両側に延びる主軸とが一体成形されてなるものであり、前記丸ダイスの両側の前記主軸を回転可能に保持可能な主軸保持構造と、前記丸ダイスの端部に脱着可能に連結されて、前記丸ダイスを回転駆動するダイス駆動機構と、ワークを配置するワーク配置部に対して、前記丸ダイスを離近移動させるダイス進退機構とを備えることを特徴とする転造盤である。
【0008】
かかる構成にあっては、丸ダイスが中実材となり、また、丸ダイスと主軸の締結機構も不要となるため、主軸に嵌着してキーで締結する従来構成に比べて、丸ダイスが耐荷重性に優れたものとなる。このように、本発明の転造盤は、従来構成に比べて強度に優れた丸ダイスを使用できるため、小径な丸ダイスを使用して、丸ダイスを相互干渉させることなく、小径のねじを転造するのに適する。
【0009】
本発明にあって、前記主軸保持構造は、保持可能な前記主軸の太さが相違する複数種類のダイスホルダを備え、前記主軸の太さに応じた種類の前記ダイスホルダに前記丸ダイスを保持するよう構成されており、複数種類の前記ダイスホルダは、前記ダイス進退機構に選択的に装着可能である構成が提案される。
【0010】
図16に示すように、従来の転造盤は、転造盤に備え付けられた主軸101に、丸ダイス100を選択的に取り付ける構成であり、主軸101や主軸保持構造102は損耗しない限り交換されないため、主軸101は最大荷重に耐え得る太さで形成され、主軸保持構造102は当該主軸101を支持可能なサイズに形成される。このため、従来の3ダイス方式の転造盤では、丸ダイス100の外径を小さくして、丸ダイス100の相互干渉を回避したとしても、主軸保持構造102が相互干渉して、丸ダイス100を、小径のワークWを挟持可能な間隔まで狭められない可能性がある。
これに対して、かかる構成では、丸ダイスごとに主軸の太さを変更可能となり、ダイスホルダも主軸に合わせて変更可能となるため、小径のねじを転造する場合は、主軸を細くして、ダイスホルダを細い主軸に合わせた形状にすることで、主軸保持構造の相互干渉を回避できる。なお、一般的に、加工対象のねじの呼び径が小さい場合ほど、主軸に加わる荷重が小さくなるため、小径のねじを転造する場合は、主軸に求められる強度を確保しつつ、太径のねじを転造する場合よりも主軸を細くしても支障は生じない。
このように、かかる構成によれば、主軸保持構造を、丸ダイスを近接させた際に相互干渉し難い構造にできるため、小径のねじの転造に一層適したものとなる。
【0011】
上記構成にあって、前記ダイスホルダは、前記丸ダイスを保持した状態で、一体のユニットとして前記ダイス進退機構に脱着可能である構成が提案される。
【0012】
上記構成では、主軸の太さの異なる丸ダイスに交換する際に、ダイスホルダの交換も必要となるが、かかる構成とすれは、丸ダイスとダイスホルダを一体のユニットとして一度に交換できるため、丸ダイスの交換に要する作業時間を短縮可能となる。
【0013】
上記構成にあって、前記ダイスホルダの前記ダイス進退機構への装着時に、前記ダイスホルダに宛がう複数種類の傾斜角度調整ブロックを備え、前記ダイスホルダに宛がう前記傾斜角度調整ブロックの種類に応じて、前記ダイス進退機構に対する前記ダイスユニットの角度を変更可能となっている構成が提案される。
【0014】
インフィード方式の転造では、各丸ダイスの軸線を平行に保持する必要があり、スルーフィード方式の転造では、各丸ダイスの軸線を相互に傾斜させる必要がある。従来の転造盤(特許文献1参照)では、両方式に対応させるために、サーボモータとギアを使用して、丸ダイスの保持角度を目視で調整するよう構成されている。これに対して、かかる構成では、ダイスホルダに宛がう傾斜角度調整ブロックによって丸ダイスの保持角度を所要の角度に容易に調整できるため、簡素な構成によって、インフィード方式とスルーフィード方式の両方式に対応可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上に述べたように、本発明によれば、三個の丸ダイスを用いる転造盤にあって、小径のねじを適切に転造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】ダイスユニット15の間隔を拡げた状態の転造装置3の正面図である。
【
図5】ダイスユニット15の間隔を狭めた状態の転造装置3の正面図である。
【
図10】ダイスユニット15を傾動ブロック60へ装着した状態の斜視図である。
【
図11】ダイスユニット15等を傾動ブロック60から分離して示す斜視図である。
【
図12】傾斜角度調整ブロック47a,47bによって、ダイスユニット15の回動角度を固定する態様を示す説明図であり、(A)は、丸ダイス20の軸線が前後方向に向くように保持する場合を示し、(B)は、丸ダイス20の軸線が前後方向に対して傾斜するように保持する場合を示す。
【
図13】(A)はM6用丸ダイス20aの側面図、(B)は同正面図、(C)はM5用丸ダイス20bの側面図、(D)は同正面図、(E)はM4用丸ダイス20cの側面図、(F)は同正面図、(G)はM3用丸ダイス20dの側面図、(H)は同正面図である。
【
図14】(A)はM6用ダイスユニット15aの側面図、(B)はM5用ダイスユニット15bの側面図、(C)はM4用ダイスユニット15cの側面図、(D)はM3用ダイスユニット15dの側面図である。
【
図15】(A)はM6用ダイスユニット15aの正面図、(B)はM5用ダイスユニット15bの正面図、(C)はM4用ダイスユニット15cの正面図、(D)はM3用ダイスユニット15dの正面図である。
【
図16】従来の3ダイス方式の転造盤における問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を、以下の実施例に従って説明する。なお、以下の実施例において、4種類のダイスホルダ25(25a~25d)が、本発明に係る主軸保持構造に相当する。
に相当する。
【0018】
図1~3に示すように、本実施例の転造盤1は、機器を据え付ける据付部2と、ワークを転造する転造装置3と、転造装置3の潤滑と冷却を行う冷却潤滑装置4と、転造装置3の作動を制御する制御装置5とを備えている。かかる転造盤1は、3ダイス方式の転造盤であって、三個の丸ダイスを使用して、円柱又は円筒状のワークの外周面にねじ山を形成するのに用いられる。後述するように、本実施例の転造盤1は、従来の3ダイス方式の転造盤では転造困難な、M3~M6(呼び径3mm~6mm)のねじを転造可能なものである。
【0019】
据付部2は、テーブル状の基台8と、基台8の上に立設された前後一対の取付板9,9を備えてなる。転造装置3は取付板9に取り付けられ、制御装置5は、取付板9,9の上端に固定される。
【0020】
冷却潤滑装置4は、冷却用兼潤滑用の加工油を貯蔵するクーラントタンク11と、加工油を汲み上げて転造装置3に供給するクーラントポンプ12と、転造装置3から流下する加工油を回収するクーラント回収皿13とを備えている。
【0021】
図4,5に示すように、転造装置3には、三組のダイスユニット15が装着される。ダイスユニット15は、丸ダイス20をダイスホルダ25に回転可能に保持してユニット化したものである。三組のダイスユニット15は略同一構成である。転造装置3は、中央のワーク配置部22に、ワークWを前後方向に沿って配置するよう構成され、三組のダイスユニット15は、ワーク配置部22の周囲に配設される。
【0022】
各ダイスユニット15は、ダイス進退機構16によって、ワーク配置部22に対して離近移動可能に保持される。具体的には、ダイス進退機構16は、リニアアクチュエータ61(
図1~3参照)の作動によって傾動角度を変化させる三組の傾動ブロック60を備えている。三組の傾動ブロック60は、ワーク配置部22を三方から囲むように、ワーク配置部22を中心に120°回転対称位置に配置される。ダイスユニット15は、夫々の傾動ブロック60に1つずつ取り付けられており、傾動ブロック60の傾動に伴って、ワーク配置部22に対して離近移動するよう構成される。
【0023】
より具体的には、
図6に示すように、ダイス進退機構16は、取付板9の正面側に回動可能に保持された可動環62と、可動環62の内側に回動不能に固定された固定環63とを備えている。各傾動ブロック60は、固定環63の正面側に回動可能に軸支されるとともに、アーム64を介して可動環62と連結されており、リニアアクチュエータ61によって可動環62を回動させると、三組の傾動ブロック60が同調的に傾動して、三組のダイスユニット15がワーク配置部22に対して同調的に離近移動するよう構成される。なお、かかるダイス進退機構16は、一例に過ぎず、本発明に係るダイス進退機構は、ダイスユニット15をワーク配置部22に対して離近移動させるものであればよい。
【0024】
各ダイスユニット15に保持された各丸ダイス20は、ダイス駆動機構17によって回転駆動される。
図3に示すように、ダイス駆動機構17は、サーボモータ50と伝動軸51を備えている。サーボモータ50は、背面側の取付板9に固定される。伝動軸51は、基端部をサーボモータ50の駆動軸(図示省略)と連結し、
図7,8に示すように、先端部を丸ダイス20の後端部と連結することにより、サーボモータ50の駆動力を丸ダイス20に伝達する。サーボモータ50及び伝動軸51は、丸ダイス20ごとに一組配設されており、個々のサーボモータ50の作動によって、丸ダイス20の回転角度や回転速度を個別に制御可能となっている。伝動軸51は、丸ダイス20のワーク配置部22に対する離近移動に追従し得るように、ユニバーサルジョイント52を介して、サーボモータ50及び丸ダイス20と連結される。また、後述するように、ダイスユニット15は丸ダイス20に応じて交換され得るものであるため、伝動軸51は丸ダイス20に対して脱着可能に連結される。
【0025】
本実施例の転造盤1は、主軸31が一体成形された丸ダイス20を使用する。具体的には、
図7~9に示すように、丸ダイス20は、外周面に加工刃38が形成された円柱状のダイス本体30と、ダイス本体30の中心から軸方向両側に延びる主軸31とを備えている。丸ダイス20は、金属を切削加工してなるものであり、ダイス本体30と主軸31は一体成形される。加工刃38は、ワークWの外周面に転写する山形状をなすものであり、加工対象のねじのねじ山に応じた形状に形成される。主軸31の後端部には、Dカット加工された連結部35が形成され、かかる連結部35に、ユニバーサルジョイント52を介してダイス駆動機構17の伝動軸51が脱着可能に連結される。
【0026】
このように、かかる丸ダイス20は中実材であり、また、ダイス本体30と主軸31の締結機構が存在しないため、同じ外径でも、キーを介して主軸と締結する円筒形状の丸ダイスに比べて強度に優れる。このため、本実施例の転造盤1は、転造に必要な強度を確保しつつ、M3~M6のねじを転造する丸ダイス20(ダイス本体30)の外径を、丸ダイス20が相互干渉しないサイズまで容易に縮小できる。
【0027】
本実施例の転造盤1は、
図7~9に示すように、丸ダイス20の両側の主軸31を、ダイスホルダ25に回転可能に保持することにより、ダイスユニット15としてユニット化する。ダイスホルダ25は、側面視コ字状をなすホルダブロック26と、複数の軸受32,33と、皿ばね34により構成される。ホルダブロック26は、矩形板状のベース板36と、前後一対の側板37,37を、位置決めピン41とボルト42によって、側面視コ字状に組み付けてなるものである。側板37,37には、主軸31を挿通する軸保持孔39が形成され、各軸保持孔39に、ラジアル軸受32,32が保持される。また、側板37とダイス本体30の間には、スラスト軸受33と皿ばね34が介装される。
【0028】
ダイスユニット15は、
図9に示すように、側板37をベース板36から分離した状態で、側板37,37の間に、丸ダイス20、軸受32,33、及び皿ばね34を組み付けて、しかる後に、側板37,37を両側から挟圧して、ベース板36に組み付けることによってユニット化される。
【0029】
ダイスユニット15は、傾動ブロック60に対してユニット単位で脱着可能となっている。具体的には、
図10,11に示すように、ダイスユニット15は、傾動ブロック60に取り付けられた支軸48に嵌着され、かかる状態で、押さえ板46と傾動ブロック60の間にベース板36を挟持されることにより、傾動ブロック60に固定される。押さえ板46とベース板36の間には、傾斜角度調整ブロック47が介装される。ダイスユニット15そのものは、傾動ブロック60の支軸48に回動可能に保持されるが、ダイスユニット15の装着時に、傾斜角度調整ブロック47を側板37に宛がうことにより、傾動ブロック60に対するダイスユニット15の回動角度が固定される。押さえ板46は、傾動ブロック60に対してボルト45で締結されており、当該ボルト45を緊締することにより、ダイスユニット15が傾動ブロック60に固定され、当該ボルト45を緩めることにより、傾動ブロック60に対して、傾斜角度調整ブロック47やダイスユニット15を脱着可能となる。
【0030】
本実施例の転造盤1は、ワークWを軸線方向に移動させずに転造するインフィード方式と、ワークWを軸線方向に移動させながら転造するスルーフィード方式に対応可能である。インフィード方式では、各丸ダイス20の軸線を平行に保持し、スルーフィード方式では、各丸ダイス20の軸線を相互に傾けて保持する。このため、転造盤1は、ダイスユニット15を、傾動ブロック60に対して、二通りの回動角度で固定可能となっている。具体的には、
図12に示すように、転造盤1は、形状の異なる二種類の傾斜角度調整ブロック47を備え、ダイスユニット15に宛がう傾斜角度調整ブロック47の種類に応じて、ダイスユニット15を二通りの回動角度で固定可能となっている。より具体的には、インフィード方式で転造する場合は、
図12(A)に示すように、直方体形状の傾斜角度調整ブロック47aを各ダイスユニット15に宛がう。これにより、各丸ダイス20の軸線方向が前後方向を向くように各ダイスユニット15が固定されて、各丸ダイス20の軸線が平行に保持される。一方、スルーフィード方式で転造する場合は、
図12(B)に示すように、一側面が傾斜した傾斜角度調整ブロック47bを各ダイスユニット15に宛がう。これにより、各丸ダイス20の軸線が前後方向に対して傾斜するよう各ダイスユニット15を固定されて、各丸ダイス20の軸線が相互に傾いた状態で保持される。
【0031】
このように、本実施例では、二種類の傾斜角度調整ブロック47a,47bをダイスユニット15に選択的に宛がうことによって、丸ダイス20の保持角度を容易に調整できるため、簡素な構成によって、インフィード方式とスルーフィード方式の両方式に対応できる。なお、本実施例では、丸ダイス20を二種類の角度で保持可能としているが、三種類以上の角度で保持する場合には、夫々の保持角度に応じた形状の傾斜角度調整ブロック47を追加すればよい。本実施例の転造盤1のように、加工対象のねじが小径である場合には、丸ダイス20の保持角度は、インフィード方式とスルーフィード方式の二種類で足りる。
【0032】
本実施例の転造盤1は、従来の3ダイス方式の転造盤では転造困難な小径のねじを転造できる。具体的には、本実施例の転造盤1は、M3~M6のねじの転造に対応している。本実施例では、小径のねじを転造する際に、丸ダイス20が相互干渉するのを避けるため、小径の丸ダイス20(ダイス本体30)を使用する。そして、上述のように、本実施例では、丸ダイス20の小径化による強度不足を補うために、ダイス本体30と主軸31を一体成形した丸ダイス20を使用する。
【0033】
本実施例の転造盤1は、加工対象のねじの呼び径に応じて、4種類のサイズの丸ダイス20a~20dを選択的に使用する。
図13は、M3~M6のねじを転造する丸ダイス20a~20dの形状を、同じ縮尺で比較したものである。加工刃38の形状は加工対象のねじ山形状に応じて相違するものの、基本的に、M6のねじを転造する場合は、
図13(A),13(B)に示す形状のM6用丸ダイス20aが使用される。同様に、M5のねじを転造する場合は、
図13(C),13(D)に示す形状のM5用丸ダイス20bが使用され、M4のねじを転造する場合は、
図13(E),13(F)に示すM4用丸ダイス20cが使用され、M3のねじを転造する場合は、
図13(G),13(H)に示すM3用丸ダイス20dが使用される。
【0034】
図13に示すように、使用する丸ダイス20a~20dのサイズは、加工対象のねじの呼び径が小さいものほど小さくなる。具体的には、ダイス本体30a~30dの外径は、加工対象のねじの呼び径が小さいものほど小径となる。これは、加工対象のねじの呼び径が小さい場合ほど、ダイス本体30a~30dを相互干渉させることなく、ダイス本体30a~30dの間隔を狭める必要があるためである。
【0035】
また、主軸31a~31dの太さについても、加工対象のねじの呼び径が小さいものほど細くなっている。加工対象のねじの呼び径が小さい場合ほど、主軸31a~31dの間隔を狭める必要があるが、後述するように、主軸31a~31dを細くするほど、ダイスホルダ25の相互干渉を回避し易くなるためである。
【0036】
また、夫々のダイス本体30a~30dは、加工対象のねじの呼び径が小さいものほど、幅(軸線方向の長さ)が狭くなっている。これは、ダイス本体30a~30dを幅狭とすることで、丸ダイス20a~20dに加わる荷重が低減されるため、転造に必要な強度を確保し易くなるためである。
【0037】
また、各丸ダイス20a~20dは、伝動軸51が連結される連結部35に関しては同一形状となっている。全ての丸ダイス20a~20dを、共通のユニバーサルジョイント52を介して伝動軸51と連結するためである。
【0038】
4種類の丸ダイス20a~20dは、夫々異なるダイスホルダ25a~25dに保持されることにより、M3~M6のねじに応じた4種類のダイスユニット15a~15dを構成する。具体的には、
図14(A)に示すように、M6用丸ダイス20aは、M6用ダイスホルダ25aに保持されて、M6用ダイスユニット15aを構成する。また、
図14(B)に示すように、M5用丸ダイス20bは、M5用ダイスホルダ25bに保持されて、M5用ダイスユニット15bを構成する。また、
図14(C)に示すように、M4用丸ダイス20cは、M4用ダイスホルダ25cに保持されて、M4用ダイスユニット15cを構成する。また、
図14(D)に示すように、M3用丸ダイス20dは、M3用ダイスホルダ25cに保持されて、M3用ダイスユニット15dを構成する。
【0039】
図14に示すように、各ダイスホルダ25a~25dは、保持する丸ダイス20a~20dのサイズに合わせた形状となっている。具体的には、各ダイスホルダ25a~25dの軸保持孔39や軸受32,33は、保持する主軸31a~31dの太さに応じた大きさに形成される。また、各ダイスホルダ25a~25dの側板37,37は、保持する丸ダイス20a~20dの幅に応じた間隔で配設される。
【0040】
また、加工対象のねじの呼び径が小さい場合ほど、主軸31a~31dを近接させる必要があるため、
図15に示すように、加工対象のねじの呼び径が小さいダイスホルダ25a~25dほど、軸保持孔39を、側板37の端部近く(ワーク配置部22寄り)に形成して、側板37,37が相互干渉しないよう構成される。主軸31a~31dが太径であると、軸保持孔39が大きくなって、側板37の端部近くに形成しづらくなるため、本実施例では、加工対象のねじの呼び径が小さい丸ダイス20a~20dほど主軸31a~31dを細くすることで、軸保持孔39を側板37の端部近くに形成している。
【0041】
一方、各ダイスホルダ25a~25dは、ベース板36の厚みや嵌合孔40の大きさなど、傾動ブロック60に装着するための構成は共通しており、全てのダイスユニット15a~15dは、傾動ブロック60に対して、同じように脱着可能となっている。このため、本実施例にあっては、加工対象に応じて、4種類のダイスユニット15a~15dを傾動ブロック60に選択的に装着して転造できる。
【0042】
具体的には、M6のねじを転造する場合には、3組のM6用ダイスユニット15aを傾動ブロック60に夫々装着して、
図15(A)に示すように、三個のM6用丸ダイス20aを三方からワークWに押し込んで転造する。同様に、M5のねじを転造する場合は、
図15(B)に示すように、3組のM5用ダイスユニット15bを装着して転造し、M4のねじを転造する場合は、
図15(C)に示すように、3組のM4用ダイスユニット15cを装着して転造し、M3のねじを転造する場合は、
図15(D)に示すように、3組のM3用ダイスユニット15dを装着して転造する。
【0043】
以上のように、本実施例では、サイズの相違する4種類の丸ダイス20a~20dを、サイズの相違する4種類のダイスホルダ25a~25dに保持してダイスユニット15a~15dを構成する。ここで、各丸ダイス20a~20dは中実材であり、ダイス本体30a~30dと主軸31a~31dの締結機構も存在しないため、転造に必要な強度を確保しつつ、M3~M6のねじを転造する際に、相互干渉しないサイズまでダイス本体30a~30dを容易に縮小できる。
【0044】
また、本実施例では、加工対象のねじの呼び径の小さい丸ダイス20a~20dほど、主軸31a~31dが細くなっており、主軸31a~31dを保持する軸保持孔39が側板37の端部近くに形成されるため、
図15に示すように、ダイスホルダ25a~25dを相互干渉させることなく、小径のねじを転造できる。なお、加工対象のねじの呼び径が小さい場合ほど、主軸31a~31dに加わる荷重が小さくなり、主軸31a~31dに必要な強度が低くなるため、加工対象のねじの呼び径に合わせて、主軸31a~31dを細くしても、主軸31a~31dに必要な強度は確保される。
したがって、本実施例の転造盤1は、転造に耐え得る強度を確保しつつ、丸ダイス20a~20dや、ダイスホルダ25a~25dを相互干渉させることなく、小径のねじを転造できる。
【0045】
また、本実施例の転造盤1は、丸ダイス20a~20dのサイズに応じて、ダイスホルダ25a~25dを使い分ける必要があるが、丸ダイス20a~20dとダイスホルダ25a~25dは、一体のダイスユニット15a~15dとして傾動ブロック60に脱着できるため、丸ダイス20a~20dを短時間で交換できるという利点がある。
【0046】
なお、上記実施例の転造盤1は、主にねじの転造に用い得るものであるが、ねじの転造以外の用途にも使用可能である。例えば、上記実施例の転造盤1は、適当な形状の加工刃38の丸ダイス20を用いることにより、ローレットの転造に用いることもできる。また、上記実施例の転造盤1は、メッキ加工したねじの再転造(さらえ加工)に用いることもできる。
【0047】
以上に、本発明の実施例を説明したが、本発明は、上記実施例の形態に限らず本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【0048】
例えば、上記実施例の転造盤1は、M3~M6のねじを転造可能であるが、本発明の転造盤は、M3未満のねじを転造可能なものであってもよいし、M7以上のねじを転造可能なものであってもよい。ここで、小径のねじを転造する場合には、本実施例のように、丸ダイス20を中実材にして強度を確保する必要があるが、大径のねじを転造する場合は、丸ダイスが中実材でなくても強度を確保可能であるため、本発明にあって、小径のねじと大径のねじの双方を転造可能とする場合は、大径のねじ用の丸ダイスについては、ダイス本体と主軸を別体としても構わない。
【符号の説明】
【0049】
1 転造盤
2 据付部
3 転造装置
4 冷却潤滑装置
5 制御装置
8 基台
9 取付板
11 クーラントタンク
12 クーラントポンプ
13 クーラント回収皿
15,15a~15d ダイスユニット
16 ダイス進退機構
17 ダイス駆動機構
20,20a~20d 丸ダイス
22 ワーク配置部
25,25a~25d ダイスホルダ(主軸保持構造)
26 ホルダブロック
30,30a~30d ダイス本体
31,31a~31d 主軸
32 ラジアル軸受
33 スラスト軸受
34 皿ばね
35 連結部
36 ベース板
37 側板
39 軸保持孔
40 嵌合孔
41 位置決めピン
42 ボルト
45 ボルト
46 押さえ板
47,47a,47b 傾斜角度調整ブロック
48 支軸
50 サーボモータ
51 伝動軸
52 ユニバーサルジョイント
60 傾動ブロック
61 リニアアクチュエータ
62 可動環
63 固定環
64 アーム
100 丸ダイス
101 主軸
102 主軸保持構造