(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075946
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】酸化グラフェン及びガス分離膜
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20240529BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240529BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240529BHJP
C01B 39/36 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C01B32/198
B01D71/02 500
B01D69/12
C01B39/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187231
(22)【出願日】2022-11-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載アドレス:https://carbon2022.org 掲載日:令和4年6月13日 2.研究集会名:Carbon2022 開催日:令和4年7月4日(開催期間:令和4年7月3日~8日) 3.掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/colloid2022/top 掲載日:令和4年9月6日 4.研究集会名:第73回コロイドおよび界面化学討論会 開催日:令和4年9月20日(開催期間:令和4年9月20日~22日)
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 信孝
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隼人
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA06
4D006MB19
4D006MB20
4D006MC03X
4D006MC05X
4D006NA45
4D006NA50
4D006NA54
4D006PA05
4D006PB62
4D006PB63
4G073BA62
4G073BD15
4G073BD18
4G073CZ13
4G073CZ50
4G073DZ02
4G073DZ08
4G073GA02
4G073GA06
4G073GA40
4G073GB03
4G073UA06
4G073UB40
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC11A
4G146AC11B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD12
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、特定の酸化グラフェン及び該酸化グラフェンを用いたガス分離膜を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、下記要件(2)を満たす酸化グラフェンである。
(2)X線回折法によって測定される層間距離(d
001)が0.88~0.94nmである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(2)を満たす酸化グラフェン。
(2)X線回折法によって測定される層間距離(d001)が0.88~0.94nmである。
【請求項2】
下記要件(1)を満たす、請求項1に記載の酸化グラフェン。
(1)π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、229.5~231.2nmである。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化グラフェンを用いて作製されたガス分離膜。
【請求項4】
前記ガス分離膜が、さらにゼオライト微結晶体を用いて作製されたゼオライトガス分離膜である、請求項3に記載のガス分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化グラフェン及びガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から酸化グラフェンに関して様々な検討が行われている。例えば、特許文献1には、極性溶媒を溶媒とし、分散用添加剤を含有せず、少なくとも1か月間、波長330nmの可視光吸収が完全分散状態の50%以上である酸化グラフェン分散液が開示されており、このような酸化グラフェン分散液を製造する方法として、次の(1)~(3)の工程を含む酸化グラフェン分散液の調製方法が開示されている。
【0003】
(1)水中の酸化グラファイトを単層剥離処理して、単層酸化グラフェンを含む酸化グラファイト水分散液を得る工程。
(2)前記酸化グラファイト水分散液を遠心処理して、沈殿物を除去、上澄みを回収し、単層酸化グラフェン水分散液を得る工程。
(3)単層酸化グラフェン水分散液を水又は有機溶媒で溶媒置換処理を行う溶媒置換工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、分散用添加剤を用いることなく高い安定性を有する酸化グラフェン分散液や、その調製方法が開示されている。しかしながら、酸化グラフェンの常温又は加熱下における経時変化については、従来十分な検討が行われていなかった。
【0006】
そこで、本開示は、特定の酸化グラフェン及び該酸化グラフェンを用いたガス分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、従来知られていなかった特定の酸化グラフェンを見出した。また、該酸化グラフェンを用いて作製したガス分離膜は、酸素と比較して窒素の透過性に優れることを見出し、本開示に至った。
【0008】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0009】
[1] 下記要件(2)を満たす酸化グラフェン。
(2)X線回折法によって測定される層間距離(d001)が0.88~0.94nmである。
[2] 下記要件(1)を満たす、[1]に記載の酸化グラフェン。
(1)π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、229.5~231.2nmである。
[3] [1]又は[2]に記載の酸化グラフェンを用いて作製されたガス分離膜。
[4] 前記ガス分離膜が、さらにゼオライト微結晶体を用いて作製されたゼオライトガス分離膜である、[3]に記載のガス分離膜。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、従来知られていなかった特定の酸化グラフェン及び該酸化グラフェンを用いて作製されたガス分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は298K又は348Kでのエージング加速試験によるUV-Vis吸光度測定の結果である。
【
図2】
図2は348Kでのエージング加速試験によるUV-Vis吸光度測定の230nm付近のピークトップ(極大吸収波長)の変化及び348Kでのエージング加速試験におけるピークトップが229.6nmへ変化する時間を1として規格化した、298K、308K、及び333Kでのエージング加速試験の230nm付近のピークトップの変化を示す。
【
図3】
図3は348Kでのエージング加速試験を行ったGO分散液から得た測定サンプルのX線回折測定の結果(層間距離(Interlayer distance、d
001)、及び結晶子径(Crystallite size、L
c))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態の酸化グラフェン及びガス分離膜について詳細に説明する。
【0013】
(酸化グラフェン)
本実施形態の酸化グラフェンは、下記要件(2)を満たす。また、本実施形態の酸化グラフェンは要件(1)を満たすことが好ましい。
(1)π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、229.5~231.2nmである。
(2)X線回折法によって測定される層間距離(d001)が0.88~0.94nmである。
【0014】
本実施形態の酸化グラフェンは、要件(2)を満たし、好ましくはさらに要件(1)を満たす。本発明者らの検討によると、要件(2)を満たす酸化グラフェンを用いて作製したガス分離膜は、酸素と比較して窒素の透過性に優れる。要件(2)を満たすが、要件(1)を満たさない酸化グラフェンは、僅かな時間の経過や、加熱によって要件(2)を満たさなくなる場合がある。一方で、要件(1)及び要件(2)を満たす酸化グラフェンは、時間の経過や加熱によって要件(2)を満たさなくなることが、前者の酸化グラフェン(要件(2)を満たすが、要件(1)を満たさない酸化グラフェン)と比べて少ないため好ましい。
【0015】
要件(1)における、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値は、229.5~231.2nmであるが、好ましくは230.0~231.0nmである。なお、酸化グラフェンはπ‐π*遷移に伴う吸光ピークと、n‐π*遷移に伴う吸光ピークが存在し、通常両者のピークが重なった状態で、吸収スペクトルが観察される。π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値は、該吸収スペクトルに対して、ガウス関数に基づきピークフィッティングを行い、ピーク分離を行い、個々の吸収ピークスペクトルを算出することにより、求めることができる。また、要件(2)における層間距離(d001)は0.88~0.94nmであるが、好ましくは0.89~0.94nmである。前記範囲では、本実施形態の酸化グラフェンを用いて作製されたガス分離膜において、酸素と比較して窒素の透過性に優れる、すなわち、窒素選択性に優れるため好ましい。
【0016】
本実施形態の酸化グラフェンとしては、改良ハマーズ法、例えば「Daniela C. Marcano, Dmitry V. Kosynkin, Jacob M. Berlin, Alexander Sinitskii, Zhengzong Sun, Alexander Slesarev, Lawrence B. Alemany, Wei Lu, and James M. Tour Improved Synthesis of Graphene Oxide. ACS Nano 2010, 4, 8, 4806-4814」に開示されている方法や、実施例に開示されている方法で作製されたものが挙げられる。なお、本発明者らの検討によると、一般的に製造直後の酸化グラフェンは、要件(2)を満たし、好ましくは要件(1)及び要件(2)を満たす傾向があるが、時間の経過や、加熱により、要件(1)を満たさなくなり、次いで要件(2)を満たさなくなる傾向があることを見出した。
【0017】
(ガス分離膜)
本実施形態のガス分離膜は、前述の酸化グラフェン、すなわち前記要件(2)を満たす、好ましくは要件(1)及び要件(2)を満たす酸化グラフェンを用いて作製されたガス分離膜である。本実施形態のガス分離膜は、材料(原材料)として、少なくとも前記酸化グラフェンを用い、さらにゼオライト微結晶体を用いることが好ましい。ガス分離膜としては、ゼオライト微結晶体を用いて作製されたゼオライトガス分離膜であることが好ましい。本実施形態に用いられるゼオライト微結晶体を構成するゼオライトとしては、特に制限はなく、MFI、BEA、F9、13X等のゼオライトであればよい。ゼオライト微結晶体の粒子径としては、特に制限されるものではないが、複数枚のグラフェン(10nm~数十nm程度の大きさ)で包接できるものであればよい。ゼオライト微結晶体の粒子径としては、一次粒子径が、例えば0.1μm~3μm、好ましくは1μm~2μmである。前記ゼオライトガス分離膜は、通常ゼオライト微結晶体がグラフェンに包接された構造を有する。ゼオライト微結晶体を包接するグラフェンは、通常はゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで包接し、包接後に酸化グラフェンを還元することにより得られる。
【0018】
以下ガス分離膜が、ゼオライトガス分離膜である場合を中心に説明する。本実施形態のゼオライトガス分離膜は、例えば後述のゼオライトガス分離膜の製造方法により製造される。本実施形態のゼオライトガス分離膜は、通常ゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合された構造を有する。本実施形態のゼオライトガス分離膜は、酸素と比較して窒素の透過性に優れるため、酸素及び窒素を含む混合ガス、例えば大気、から酸素と窒素とを分離するために用いることが可能である。また、後述のゼオライトガス分離膜の製造方法により製造した場合には、ゼオライトガス分離膜にはクラック等の欠陥がなく、好ましい。
【0019】
分子サイズの近い酸素と窒素とを分離可能な膜、しかも分子サイズの大きい窒素を透過させることにより分離することが可能な膜は、従来技術では極めて実現が困難であり、本実施形態のゼオライトガス分離膜は、有用性が高い。この理由は明らかではないが、本発明者らは、前述の酸化グラフェンを還元させて得られた被覆グラフェンは多数のホール(ナノウインドウ)が存在するが、ホールの周囲(エッジ部)に存在する極性官能基によってホール内には電荷の偏りが存在する。窒素分子と、酸素分子とでは、瞬間的な分極(瞬間双極子)が窒素分子の方が大きく、このため、窒素分子の方がグラフェンの電荷の偏りが存在するホールを透過することが容易であるためと推測した。
【0020】
本実施形態のゼオライトガス分離膜のガス透過性は、例えば、平板状に成形したゼオライトガス分離膜を用いてガス透過量測定を行うことにより評価することができる。分離膜に窒素及び酸素をそれぞれ単独で流し、単位量のガスが分離膜を透過したときの透過時間を計測することにより、各ガス種の透過速度(例えば、透過率、透過係数)を算出することができる。
【0021】
また、本実施形態のゼオライトガス分離膜の透過ガスの選択率は下記式により算出することができる。なお、透過ガスの選択率を、「ガス選択率」、又は単に「選択率」とも記す。
ゼオライトガス分離膜のガス選択率(N2/O2)=[窒素の透過率]/[酸素の透過率]
【0022】
(ゼオライトガス分離膜の製造方法)
前記ゼオライトガス分離膜の製造方法としては、特に制限はないが、例えば以下の方法が挙げられる。ゼオライトガス分離膜の製造方法の一態様として、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有し、前記水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位が-25mV以上である、ゼオライトガス分離膜の製造方法が好ましい。
【0023】
前記ゼオライトガス分離膜の製造方法では、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を行うが、水分散液(I)における酸化グラフェンと電荷調整剤との量(濃度)を調整することにより、水分散液(II)のゼータ電位を-25mV以上とすることに特徴がある。本発明者らの検討によると、水分散液(II)のゼータ電位が前記範囲となる場合には、酸素と比較して窒素の透過性に優れるゼオライトガス分離膜が得られることが見出された。なお、本実施形態において、別に規定した場合を除き、酸素は酸素ガスと同義であり、窒素は窒素ガスと同義である。また、酸素又は窒素の分子に着目する場合には、それぞれ酸素分子又は窒素分子と記す。
【0024】
水分散液(II)は、水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び同濃度の電荷調整剤を含む水分散液であり、水、酸化グラフェン、電荷調整剤以外の成分を意図的に添加することなく、調製された水分散液である。なお、水分散液(II)に含まれる酸化グラフェン、電荷調整剤としては、水分散液(I)と同種のものが使用される。また、水分散液(II)は、水、酸化グラフェン、電荷調整剤以外の成分を不純物として少量含むことは許容される。
【0025】
(電荷調整剤)
本実施形態に用いられる電荷調整剤は、共に負の帯電を有するゼオライト微結晶体と、酸化グラフェン又はグラフェンとの静電反発を防ぎ、ゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェン又はグラフェンが被覆されやすいようにする役割がある。電荷調整剤としては、水に可溶な塩がよく、具体的には塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウム等の有機塩が好ましい。
【0026】
(ゼータ電位)
ゼータ電位は例えば、Malvern Instruments社製 Zetasizer nano ZS90を用い電気泳動法にて測定することができる。水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位は、水分散液(I)を調製する度に、水分散液(II)を調製し、測定してもよい。また、酸化グラフェンの濃度を一定にし、電荷調整剤の濃度を変化させた水分散液を複数調製し、各水分散液のゼータ電位を測定することにより、ある酸化グラフェン濃度における、電荷調整剤の濃度とゼータ電位との関係を求めた検量線を作成し、該検量線を、複数の酸化グラフェン濃度について作成することにより、計算により、水分散液(II)のゼータ電位を算定してもよい。
【0027】
水分散液(II)のゼータ電位は、-25mV以上であり、好ましくは-25mV~-15mVであり、より好ましくは-22mV~-18mVである。ゼータ電位が前記範囲内であると窒素分離能向上の観点で好ましい。
【0028】
(被覆工程)
前記ゼオライトガス分離膜の製造方法は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有する。
被覆工程に用いるゼオライト微結晶体、酸化グラフェン、電荷調整剤及び水の量としては、水分散液(II)のゼータ電位が、前記範囲内になる量であればよく、特に制限はない。
【0029】
ゼオライトの重量に応じて、0.1wt%程度の酸化グラフェンの水分散液の量を決定し、また適切なゼータ電位に合わせるように電荷調整剤の量を水溶液として0.0001~1mol/L(Mとも記す。)、例えば0.03mol/L~0.1mol/Lの範囲で調整して混合させることにより被覆工程を行うことが好ましい。なお、被覆工程を行う前に、ゼオライト微結晶体の凝集を解消する工程を設けてもよい。
【0030】
被覆工程は、例えば上述の超音波処理により得られたゼオライト微結晶体分散液に、所定濃度の電荷調整剤及び酸化グラフェンを添加することにより行うことができる。添加から時間が経つと電荷調整剤の効果によりゼオライト微結晶体の周りに酸化グラフェンが被覆されていく。
【0031】
(還元工程)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、通常被覆工程の後に、酸化グラフェンをグラフェンへ還元する還元工程を有する。還元工程を行うことにより、グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体(グラフェン包接ゼオライト微結晶体)を得ることができる。
【0032】
酸化グラフェンをグラフェンへ還元する方法としては、例えばドライ法及びウエット法が挙げられ、いずれも酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体を、還元雰囲気下に晒すことで、グラフェンの還元を行うことができる。
【0033】
ドライ法では被覆工程で得られた酸化グラフェン包接ゼオライト微結晶体(酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体)を乾燥させ、その後加熱処理することにより還元を行う。加熱処理時の雰囲気は真空又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)が好ましいが、酸素が少ない状態ならば特に問題なく、グラフェンが燃焼・消失しないように乾燥空気を流しながら加熱してもよい。加熱温度は300℃~400℃(573K~673K)が好ましく、更に好ましくは340℃~380℃(613K~653K)である。また還元前の乾燥処理は、還元処理における還元作用が進行しやすいように嵩密度が低い方がよく、例えばフリーズドライ法やスプレードライ法が好ましい。
【0034】
ウエット法では被覆工程で得られた酸化グラフェン包接ゼオライト微結晶体の分散液中に還元剤を添加する。分散液中に投入する還元剤は例えばヒドラジン、ギ酸、シュウ酸、没食子酸等の有機物、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の無機物を使用することができる。
【0035】
(成形工程)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、通常還元工程の後に、グラフェン包接ゼオライト微結晶体を成形し、ゼオライトガス分離膜を得る工程を有する。
【0036】
グラフェン包接ゼオライト微結晶体を成形する方法としては、特に制限はなく、各種成形方法により所望の形状に成形することができる。例えば、乾燥後のグラフェン包接ゼオライト微結晶体をそのまま圧縮して平板状に成形したり、又は、ろ紙などのポーラス状の担持物(フィルタ)で分散体をろ過することでシート状に成形したりすることが可能である。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。なお、酸化グラフェンをGOとも記す。また、実験例において、分散液と記載した場合には、水分散液を意味する。
【0038】
[実験例1]
(酸化グラフェンの作製)
酸化グラフェンは、マダガスカル産のグラファイトを使用し、改良ハマーズ法により以下の方法で作製した。
【0039】
1. ビーカーにグラファイト(2g)を入れた。
2. ビーカーに硫酸(98%、80mL)とリン酸(9mL)を加えた。
3. ビーカーに過マンガン酸カリウム(10g)を加えた。
4. 約38℃(311K)で4~5時間、250rpmで攪拌した。
5. 4~5時間攪拌後、水で希釈した。
6. 過酸化水素(15%、40mL)を添加した。
7. 遠心分離して上澄み液を取り除いた。
8. 5%塩酸水で5回洗浄した。
9. 水で5回洗浄した。
10. 上澄み液中の酸化グラフェン水分散液(GO分散液)を回収した。
【0040】
(酸化グラフェン水分散液の濃度)
GO分散液の一部を100℃(373K)で加熱し、水分を飛ばした。加熱の前後の重量を測定し、GO分散液に含まれる酸化グラフェンの濃度を算出した。
【0041】
(UV-Vis吸光度測定)
GO分散液を、ピークトップの吸収強度が1程度になるように水を用いて濃度調整を行った。
JASCO製V670を用いて、濃度調整後のGO分散液の波長200~600nmの範囲における吸光度を、0.1nmステップで測定した。
【0042】
酸化グラフェンは230nm付近にπ‐π*遷移に伴う吸光ピークと、n‐π*遷移に伴う吸光ピークが存在するため、吸光強度が重なって見えている。ガウス関数に基づきピークフィッティングを行い、ピーク分離を行い、個々の吸収ピークスペクトルから、各波長における強度(吸光度)を求めた。
【0043】
(X線回折測定)
リガク社製のX線回折装置(SmartLab)にてX線回折測定を行った。測定サンプルとしてGO分散液の一部を凍結乾燥法にて乾燥させることにより得られたGOを使用した。
【0044】
(酸化グラフェンのエージング)
合成直後のGO分散液は、黄褐色だが時間が経つと濃い褐色に変化することが知られている。経時変化による状態変化を観察するために、酸化グラフェンの濃度が0.065wt%となるように、水を用いて濃度調整を行ったGO分散液に対して、加熱によるエージング加速試験を行った。なお、加熱は298K、308K、333K、又は348Kで行った。加熱温度が高いほど、GO分散液が濃い褐色に変化する速度が速かった。エージング加速試験を行いながら、所定時間ごとに、上述の方法でUV-Vis吸光度測定、及びX線回折測定を行った。
【0045】
298K又は348Kでのエージング加速試験によるUV-Vis吸光度測定の結果を
図1に示す。なお、時間の経過とともに230nm付近のπ‐π
*遷移に伴う吸光ピークの吸光度は298K、308Kでは大きな変化はないが、333K、348Kでは吸光度は単調に減少し、348Kでは48時間以降、急峻に減少した。300nm付近のn‐π
*遷移に伴う吸光ピークの吸光度は増加する傾向があり、該傾向は加熱温度が高いほど顕著であった。348Kでのエージングでは48時間以降、n‐π
*遷移に伴う吸光ピークの吸光度は減少した。
【0046】
前述のピーク分離を行うことにより得られた、π‐π*遷移に伴う吸光に基づく、吸収ピークスペクトルから、各加熱温度、各経過時間における、230nm付近のピークトップ(極大吸収波長)を求めた。当初(0h、酸化グラフェン調製直後、エージング加速試験前)のピークトップは、約230.2~230.8nmであるが、ピークトップが229.6nmへ変化する時間を、加熱温度毎に求めた結果を表1に示す。また、加熱温度348Kにおけるピークトップが229.6nmへ変化する時間を1として規格化する際の時間圧縮割合を表1に合わせて示す。
【0047】
【0048】
348Kでのエージング加速試験によるUV-Vis吸光度測定の230nm付近のピークトップ(極大吸収波長)の変化を
図2に示す。
図2では合わせて、348Kでのエージング加速試験におけるピークトップが229.6nmへ変化する時間を1として、前述の時間圧縮割合を基に規格化した、298K、308K、及び333Kでの230nm付近のピークトップの変化を示す。
【0049】
図2より、調製直後の酸化グラフェンは、極大吸収波長が、約230.2~230.8nmであり、時間経過及び加熱の初期においては、極大吸収波長に大きな変化はないか、又は、極大吸収波長の長波長へのシフトが観察されたが、時間の経過及び加熱により、徐々に極大吸収波長が、短波長側にシフトすることが観察された。このような現象に基づき、本発明者らは、初期の酸化グラフェン(極大吸収波長が、230.2~231.2nmの酸化グラフェン)を、intrinsic 酸化グラフェン(iGO)と命名し、極大吸収波長が短波長側にシフトして行く段階の酸化グラフェンを、metastable 酸化グラフェン(mGO)と命名し、極大吸収波長の短波長側へのシフトが終了し、再度極大吸収波長が長波長側へシフトして行く段階の酸化グラフェンを、transient 酸化グラフェン(tGO)と命名した。なお、本発明者らの検討によると、従来から市場において入手可能な酸化グラフェンは、mGOの一部(tGOとなる直前のmGO)及びtGOであり、iGOを入手することは一般に困難であった。このため、本発明者らの検討によると、従来の酸化グラフェンを使用した各用途は、前述のmGOの一部又はtGOを使用したものであった。
【0050】
348Kでのエージング加速試験を行ったGO分散液から得た測定サンプルのX線回折測定の結果(層間距離(Interlayer distance、d
001)、及び結晶子径(Crystallite size、L
c))を
図3に示す。
【0051】
図3より、層間距離(d
001)については、一定の間0.88~0.94nmを維持しているが、その後急速に減少することが示唆された。また、結晶子径については、一貫して減少することが示唆された。
【0052】
[実験例2]
(ゼオライトガス分離膜(グラフェン包接ゼオライトから形成される分離膜)の製造)
1. ゼオライト(東ソー製MFI)50mgを水4mlに分散させ、150Wで1分間超音波洗浄した。
2. 超音波処理したゼオライト分散液(ゼオライト微結晶体分散液)に、NH4Clを加えた。
3. GO分散液を加え、速やかに激しく振った。
4. 数日間放置した。
5. 析出物をデカンテーションにより回収し、フリーズドライを行った。
6. フリーズドライを行った析出物中の酸化グラフェンを、熱還元(昇温速度1℃/min(1K/min)、350℃(623K)で30分間保持、アルゴン雰囲気)した。
7. グラフェン/ゼオライト微結晶体10mgを18kNでプレス(φ=5mm)し、ゼオライトガス分離膜を得た。
8. ゼオライトガス分離膜を孔が開いたアクリル板に載せ、ゼオライトガス分離膜の周囲をエポキシ系接着剤で固定した。
【0053】
(ガス透過速度、選択率量測定)
ゼオライトガス分離膜をアクリル板に接着剤で固定したものを測定サンプルとして使用した。ゼオライトガス分離膜の上側に測定ガスで圧力をかけ、透過側の圧力(大気圧)との差圧を算出しΔPとした。膜を透過したガスはアクリル板の孔を通じ、流量計へと流れ透過することでガス透過測定を行った。
【0054】
分離膜に窒素および酸素をそれぞれ単独で流し、単位量のガスが分離膜を透過したときの透過時間を計測して各ガス種のR(透過率)を算出した。なお、測定雰囲気の温度(実施例は15~25℃(288~298K)で実施)、気圧を測定し、更にゼオライトガス分離膜の面積を測定し、これらからRを算出した。透過ガスの選択率は下記式により算出した。
ゼオライトガス分離膜のガス選択率(N2/O2)=[窒素の透過率]/[酸素の透過率]
【0055】
ゼオライトガス分離膜の製造では、実験例1で得た酸化グラフェンの濃度が0.065wt%となるように、水を用いて濃度調整を行ったGO分散液を、298K、308K、333K、又は348Kで48時間加熱したものをGO分散液として使用した。また、NH4Clは、0.1Mとなる量使用した。なお、298K、又は308Kで48時間加熱したGO分散液中のGOは、iGOに該当し、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、229.5~231.2nmの範囲にあり、層間(d001)が0.88~0.94nmであった。333Kで48時間加熱したGO分散液中のGOは、mGOに該当し、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、228.6~229.0nmの範囲にあり、層間距離(d001)が0.88~0.94nmであった。また、348Kで48時間加熱したGO分散液中のGOは、mGOに該当し、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、228.8~229.2nmの範囲にあり、層間距離(d001)が0.87nm以下であった。298K、308K又は333Kで48時間加熱したGO分散液中のGOは本実施形態の酸化グラフェンに該当し、348Kで48時間加熱したGO分散液中のGOは本実施形態の酸化グラフェンに該当しなかった。GO分散液の加熱温度と、得られたゼオライトガス分離膜の物性を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2より、本実施形態の酸化グラフェンを使用した場合には、ゼオライトガス分離膜の選択率(N2/O2)が、1を大きく上回り、窒素選択性を有することが示された。
【0058】
[実験例3]
実験例1で得た酸化グラフェンの濃度が0.065wt%となるように、水を用いて濃度調整を行ったGO分散液を、333Kで7日間加熱したものをGO分散液として使用した以外は実験例2と同様に行い、ゼオライトガス分離膜を製造し、評価した。ゼオライトガス分離膜の製造、評価は二度行った。
【0059】
333Kで7日間加熱したGO分散液中のGOは、mGOに該当し、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、228.4~228.8nmの範囲にあり、層間距離(d001)が0.87nm以下であった。333Kで7日間間加熱したGO分散液中のGOは本実施形態の酸化グラフェンに該当しなかった。GO分散液の加熱温度と、得られたゼオライトガス分離膜の物性を表3に示す。
【0060】
【0061】
[実験例4]
実験例1で得た酸化グラフェンの濃度が0.065wt%となるように、水を用いて濃度調整を行ったGO分散液を、室温(約298K)で4か月保存したものをGO分散液として使用し、NH4Clを、0.08M又は0.25Mとなる量使用した以外は実験例2と同様に行い、ゼオライトガス分離膜を製造し、評価した。
【0062】
室温(約298K)で4か月保存したGO分散液中のGOは、mGOに該当し、π‐π*遷移に伴う紫外線吸収波長のピークトップ値が、228.6~229.0nmの範囲にあり、層間距離(d001)が0.87nm以下であった。室温(約298K)で4か月保存したGO分散液中のGOは本実施形態の酸化グラフェンに該当しなかった。NH4Clの濃度と、得られたゼオライトガス分離膜の物性を表4に示す。
【0063】
【0064】
表2~4より、本実施形態の酸化グラフェンに該当しない酸化グラフェンを使用した場合には、ゼオライトガス分離膜の選択率(N2/O2)が、1.1程度であり、十分な窒素選択性を示さないことが示された。
【0065】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0066】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。