(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007595
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マグネシウム金属表面処理方法、電池用マグネシウム電極の製造方法およびマグネシウム金属二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/02 20060101AFI20240112BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240112BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240112BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C23C22/02
H01M4/46
H01M10/054
C23C22/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108757
(22)【出願日】2022-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)委託事業「先進蓄電池研究開発拠点に関する国立研究開発法人物質・材料研究機構による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】万代 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K026
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4K026AA01
4K026BB10
4K026CA02
4K026DA03
4K026EA01
4K026EA07
5H029AJ14
5H029AL11
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA19
5H050BA15
5H050CB11
5H050GA12
5H050GA21
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、マグネシウム金属の電気化学的活性を損なうことなく、乾燥空気中で取り扱うことを可能とするマグネシウム金属表面処理方法を提供することである。
【解決手段】
被表面処理対象物の表面にマグネシウム金属を露出させる前処理工程と、マグネシウム金属の露出面と亜鉛化合物有機溶液とを接触させる表面処理工程と、洗浄工程からなり、
亜鉛化合物有機溶液は0を超えて10以下の比誘電率をもつ非プロトン性の有機溶媒に亜鉛化合物が溶解されたものであり、亜鉛化合物は有機溶液にイオン伝導性を与える亜鉛化合物とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被表面処理対象物の表面にマグネシウム金属を露出させる前処理工程と、
前記マグネシウム金属の露出面と亜鉛化合物有機溶液とを接触させる表面処理工程と、
洗浄工程からなり、
前記亜鉛化合物有機溶液は、0を超えて10以下の比誘電率をもつ非プロトン性の有機溶媒に亜鉛化合物が溶解されたものであり、
前記亜鉛化合物は、前記有機溶液にイオン伝導性を与える亜鉛化合物である、マグネシウム金属表面処理方法。
【請求項2】
前記亜鉛化合物有機溶液のイオン伝導度は10μS/cm以上50mS/cm以下である、請求項1記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項3】
前記亜鉛化合物は、ZnR1R2(R1およびR2はアルキル基を表す)、塩化亜鉛(ZnCl2)およびビストリフルオロメタンスルホニルアミド亜鉛(Zn(TFSA)2)からなる群より選ばれる1以上からなる、請求項1または2記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項4】
前記亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)からなる、請求項1または2記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上である、請求項1から4の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項6】
前記有機溶液における前記亜鉛化合物の含有量は、0.01mol/L以上1mol/L以下である、請求項1から5の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項7】
前記前処理工程は、研磨による、請求項1から6の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項8】
前記前処理工程は、ウェットエッチングによる、請求項1から6の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項9】
前記洗浄工程は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上による、請求項1から8の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
【請求項10】
マグネシウム電極に対して請求項1から9の何れか一の表面処理を施した、電池用マグネシウム電極の製造方法。
【請求項11】
負極の活物質および電極として、請求項10記載の製造方法によって製造されたマグネシウム電極を用いた、マグネシウム金属二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム金属表面処理方法、電池用マグネシウム電極の製造方法およびマグネシウム金属二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代二次電池としてマグネシウム金属二次電池が注目されており、例えば特許文献1に開示がある。これは、質量、体積当たりのエネルギー密度がリチウムイオン二次電池同等に高く、資源の豊富性、他材料と比較したときの材料の安全性および材料価格といった観点でも優れているためである。
【0003】
一方で、マグネシウム金属は空気中の酸素や水分と反応し、表面に絶縁性の被膜を生じる。そのため、マグネシウム金属二次電池の材料開発研究では、電池材料の保管から電池作製、評価までアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気下という作業環境が必須であった。
電池材料の保管および作業雰囲気許容性は電池製造工程に大きな影響を及ぼす。これは電池の生産性はもとより、電池の実現可能性にまで波及する。作業環境をアルゴンや窒素のみで構成された雰囲気に制御するためには、グローブボックスなど外界と遮断された空間が必須であり、これが作業効率の著しい低下を招いていた。
したがって、マグネシウム金属二次電池を実用化するためには、乾燥空気中でもマグネシウム金属の電気化学的活性を保持することが可能な技術が必須の状況になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、マグネシウム金属の電気化学的活性を損なうことなく、乾燥空気中で取り扱うことを可能とするマグネシウム金属表面処理方法、その表面処理方法を適用した電池用マグネシウム電極の製造方法およびマグネシウム金属二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
被表面処理対象物の表面にマグネシウム金属を露出させる前処理工程と、
前記マグネシウム金属の露出面と亜鉛化合物有機溶液とを接触させる表面処理工程と、
洗浄工程からなり、
前記亜鉛化合物有機溶液は、0を超えて10以下の比誘電率をもつ非プロトン性の有機溶媒に亜鉛化合物が溶解されたものであり、
前記亜鉛化合物は、前記有機溶液にイオン伝導性を与える亜鉛化合物である、マグネシウム金属表面処理方法。
(構成2)
前記亜鉛化合物有機溶液のイオン伝導度は10μS/cm以上50mS/cm以下である、構成1記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成3)
前記亜鉛化合物は、ZnR1R2(R1およびR2はアルキル基を表す)、塩化亜鉛(ZnCl2)およびビストリフルオロメタンスルホニルアミド亜鉛(Zn(TFSA)2)からなる群より選ばれる1以上からなる、構成1または2記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成4)
前記亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)からなる、構成1または2記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成5)
前記有機溶媒は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上である、構成1から4の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成6)
前記有機溶液における前記亜鉛化合物の含有量は、0.01mol/L以上1mol/L以下である、構成1から5の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成7)
前記前処理工程は、研磨による、構成1から6の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成8)
前記前処理工程は、ウェットエッチングによる、構成1から6の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成9)
前記洗浄工程は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上による、構成1から8の何れか一記載のマグネシウム金属表面処理方法。
(構成10)
マグネシウム電極に対して構成1から9の何れか一の表面処理を施した、電池用マグネシウム電極の製造方法。
(構成11)
負極の活物質および電極として、構成10記載の製造方法によって製造されたマグネシウム電極を用いた、マグネシウム金属二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マグネシウム金属の電気化学的活性を損なうことなく、乾燥空気中で取り扱うことを可能とするマグネシウム金属表面処理方法、その表面処理方法を適用した電池用マグネシウム電極の製造方法およびマグネシウム金属二次電池の製造方法が提供される。
この特性により、マグネシウム金属二次電池を空気中で製造可能になり、取り扱い上も製造装置も大幅に簡便化されて、マグネシウム金属二次電池の生産性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のマグネシウム金属電極の製造工程を示すフローチャート図である。
【
図2】マグネシウム金属二次電池の概要構成を示す断面図である。
【
図3】本発明における電極の評価に用いた装置の概要を説明する説明図である。
【
図4】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図5】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図6】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図7】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図8】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図9】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図10】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図11】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図12】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図13】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図14】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図15】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図16】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図17】電極に印加した電圧とそのとき電解質を介して電極間に流れる電流の関係を示した特性図である。
【
図18】電流特性(電流/電圧で定義される傾き)のサイクル数依存性を示す特性図である。
【
図19】定電流溶解析出試験結果を示す特性図である。
【
図20】定電流溶解析出試験結果を示す特性図である。
【
図21】定電流溶解析出試験結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
本発明のマグネシウム金属表面処理方法は、フローチャート図である
図1に示すように、マグネシウム金属を準備する工程(工程S11)と、被表面処理対象物の表面にマグネシウム金属を露出させる前処理工程(工程S12)と、浸漬などにより前記マグネシウム金属の露出面を亜鉛化合物有機溶液に接触させる表面処理工程(工程S13)と、洗浄工程(工程S14)からなる。
【0010】
マグネシウム金属の形態は、板状、粒子状のいずれでも構わないが、二次電池の負極活物質として用いる場合は、加工性の観点から板状が好ましい。
【0011】
マグネシウム金属を露出させる前処理工程としては、サンドブラストなどの研磨、ウェットエッチング、スパッタリング法およびイオンミリング法を挙げることができる。この中で、コストや取り扱いの容易さの観点から、研磨およびウェットエッチングを特に好んで用いることができる。
【0012】
亜鉛化合物有機溶液は、0を超えて10以下の比誘電率をもつ非プロトン性の有機溶媒に亜鉛化合物が溶解されたものであり、亜鉛化合物は、有機溶液にイオン伝導性を与える亜鉛化合物である。この数値範囲内の比誘電率をもつ非プロトン性の有機溶媒は、マグネシウム金属と副反応を起こしにくく、マグネシウム金属の活性低下が少ないため好んで用いることができる。
【0013】
亜鉛化合物は、ZnR1R2(R1およびR2はアルキル基を表す)、ZnCl2(塩化亜鉛)およびZn(TFSA)2(ビストリフルオロメタンスルホニルアミド亜鉛)からなる群より選ばれる1以上が、マグネシウム金属表面の電気化学的活性を確保する処理材料として好ましい。特に好ましい亜鉛化合物としては、ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)を挙げることができる。ジエチル亜鉛は、実施例で立証されているように、不活性ガスのアルゴン雰囲気下で処理したときと同等の電気化学的特性をもった負極活物質用マグネシウム金属を得ることができる。
【0014】
有機溶媒は、例えば、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。これらの材料は取り扱いが容易で亜鉛化合物の溶解性も高く好んで用いることができる。
【0015】
これらの有機溶液における前記亜鉛化合物の含有量は、0.01mol/L以上1mol/L以下が好ましい。0.01mol/L以上とすることにより、表面反応が促進される効果があり、1mol/L以下とすることにより析出、異物の発生を抑制することが容易になる。
溶液のイオン伝導度としては、10μS/cm以上50mS/cm以下であることが好ましい。10μS/cm以上であると表面反応が促進されるという効果がある。上限は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上の有機溶媒を使用していれば特に制限はないが、他の材料を含めた溶液としては、有機溶媒なので、50mS/cm以下が事実上の上限になる。
【0016】
洗浄工程は、エーテル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1以上による洗浄液処理が好ましい。これらの洗浄液は取り扱いが容易な上に洗浄力が高くマグネシウム金属表面に汚染物質や異物を残しにくい。これらの洗浄液を用いて洗浄を行うと、十分な電気化学的溶解析出活性が得られる。
【0017】
以上の構成により、マグネシウムイオンは伝導可能な一方で酸素をブロックする。
このため、マグネシウム金属に本発明の表面処理を施すと、亜鉛とマグネシウムからなる被膜が表面に形成されることで、乾燥空気中でも活性を保持できるようになる。
【0018】
マグネシウム電極の製造工程においてマグネシウム金属に上記表面処理を施すと、乾燥空気環境下でマグネシウム電極を製造することができる。このため、作業性が飛躍的に向上し、また設備およびその環境への投資も大変軽くなる。
【0019】
マグネシウム金属二次電池の製造において、本発明の表面処理方法を適用して作製したマグネシウム金属を用いると、マグネシウム金属二次電池を乾燥空気中で製造可能になり、取り扱い上も製造装置も大幅に簡便化されて、マグネシウム金属二次電池の生産性が大幅に向上する。
【0020】
マグネシウム金属二次電池101は、
図2に示すように、正極電極を構成する正極活物質21と正極集電体22、負極電極を構成する負極活物質23と負極集電体24、セパレータ25および電解質26を主たる構成材料とし、一般には、これらのパーツが筐体(図示なし)にパッケージされる。
【0021】
マグネシウム金属電極に対して上記表面処理を行うと、マグネシウム金属電極は乾燥空気中で取り扱っても電気化学的活性が維持される。このことにより、電極、特に負極活物質23の製造工程、および正極活物質21、正極集電体22、負極活物質23、負極集電体24、セパレータ25および電解質26を筐体に組み込む組み込み工程を、真空や不活性ガス環境ではなく、乾燥空気環境で行うことができるので、マグネシウム金属二次電池101の生産性が大幅に向上する。
【実施例0022】
(実施例1)
<試料の作製>
最初に、マグネシウム金属板(ニラコ製)を準備した。マグネシウム金属の純度は99.9%である。
次に、準備したマグネシウム金属板を0.1mol/dm3に調製したジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)/エチレングリコールジメチルエーテル溶液に1時間浸漬した。
1時間後、溶液からマグネシウム金属板を取り出し、表面に残存する溶液をテトラヒドロフランにより洗い流した後、室温で乾燥することで表面処理マグネシウム金属板を得た。ここで、ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)/エチレングリコールジメチルエーテル溶液のイオン伝導度は12μS/cmであり、エチレングリコールジメチルエーテルの比誘電率は7.2である。
【0023】
<評価>
上記表面処理したマグネシウム金属板を作用極35、コイル状白金線を対極34、銀線を参照極33、0.3mol/dm
3に調製したテトラキス(ヘキサフルオロイソプロポキシル)アルミネート/ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液(Mg[Al(HFIP)
4]
2/G2)を電解質31とした三極式ビーカーセル102を乾燥空気中(露点-79.8℃)で使用し(
図3参照)、サイクリックボルタンメトリーにより電気化学的溶解析出活性を評価した。ここで、電圧印加のレートは10mV/sであり、環境温度は30℃とした。
その結果、
図4に示されるように、乾燥空気中でもマグネシウムの電気化学的溶解析出に対応する電流応答が確認された。ここで、
図4(a)から(d)は、それぞれ1,10,50および100サイクル時の測定データである。サイクルが増すごとに電池の電極としての電位化学的活性を示す曲線の傾きが緩くなって電流応答が弱まっていくが、二次電池でこの電極が使用される環境は密封環境なのでオーバースペックな評価になっており、十分な実用性を有する。経験に基づけば、10サイクルで電流応答が確認されれば二次電池の電極として十分に電気化学的活性を有する。
【0024】
(実施例2)
実施例2では、ジエチル亜鉛を塩化亜鉛(ZnCl
2)に変えた以外は実施例1と同様にしてこの電極の電気化学的評価を行った。ここで、ZnCl
2/エチレングリコールジメチルエーテル溶液のイオン伝導度は57μS/cmである。その結果を
図5に示す。10回サイクル時でも十分な傾きを有しており、二次電池の電極として十分に電気化学的活性を有することがわかる。
【0025】
(実施例3)
実施例3では、ジエチル亜鉛をビス(トリフルオロメタンスルホニル)亜鉛(Zn(TFSA)
2)に変えた以外は実施例1と同様にしてこの電極の電気化学的評価を行った。ここで、Zn(TFSA)
2/エチレングリコールジメチルエーテル溶液のイオン伝導度は98μS/cmである。その結果を
図6に示す。10回サイクル時でも有効な傾きを有しており、二次電池の電極として十分に電気化学的活性を有することがわかる。
【0026】
(参考例1)
参考例1では、実施例1と同様のマグネシウム金属板を用意し、グローブボックス中のアルゴン雰囲気の中で金属表面前処理なしの状態で、実施例1と同様の電気化学的活性評価をこの試料に対して行った。その結果を
図7に示す。二次電池の電極として十分に電気化学的活性を有するが、この特性曲線は実施例1のジエチル亜鉛(Zn(C
2H
5)
2)/エチレングリコールジメチルエーテル溶液処理を行った結果と、少なくとも10サイクルまでは有意な差は小さいことがわかる。
【0027】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様のマグネシウム金属板を用意し、実施例1と同様の乾燥空気下、金属表面前処理なしの状態で、実施例1と同様の電気化学的活性評価をこの試料に対して行った。その結果を
図8に示す。
その結果、比較例1は、特性曲線に有意な傾きが認められず、二次電池の電極として十分な電気化学的活性、すなわちマグネシウム溶解析出に対応する電流応答が観測されず、水分および酸素ブロック能がないか極めて小さいことが示された。
【0028】
(比較例2)
比較例2では、ジエチル亜鉛をジフェニル亜鉛(Zn(Ph)
2)に変えた以外は実施例1と同様にしてこの電極の電気化学的評価を行った。ここで、Zn(Ph)
2/エチレングリコールジメチルエーテル溶液のイオン伝導度は77μS/cmである。その結果を
図9に示す。
その結果、特性曲線に有意な傾きが認められず、二次電池の電極として十分な電気化学的活性、すなわちマグネシウム溶解析出に対応する電流応答が観測されず、これらの被膜は水分および酸素ブロック能がないか極めて小さいことが示された。
なお、サイクル数に対するZnを含む各溶液で処理したときの特性曲線の傾きを
図18に示す。なお、Zn(C
2H
5)
2において、50サイクルと51サイクルにおいて不連続が認められるのは測定間のインターバルによるものと考えられる。
【0029】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で、それぞれ0.1mol/dm
3となるようノルマルブチルリチウム、水素化ホウ素カルシウム、トリメチルアルミニウム、トリフェニルビスマス、テトラメチルゲルマニウム、ビス(シクロペンタジエニル)マンガン、テトラメチルスズ、およびエチルマグネシウムクロリドをエチレングリコールジメチルエーテルに溶解した溶液を調製し、マグネシウム金属板をそれぞれの溶液に1時間浸漬した。ここで、ノルマルブチルリチウム、水素化ホウ素カルシウム、トリメチルアルミニウム、トリフェニルビスマス、テトラメチルゲルマニウム、ビス(シクロペンタジエニル)マンガン、およびテトラメチルスズエチルマグネシウムクロリドは、それぞれLi、Ca、Al、Bi、Ge、MnおよびSn溶液の代表と位置付けている。
そして、上記溶液を変えた以外は実施例1と同様にして、三極式ビーカーセル102を用いて、サイクリックボルタンメトリーにより電気化学的溶解析出活性を評価した。
その結果、Li/Ca/Al/Bi/Ge/Mn/Sn溶液で処理したマグネシウム金属板を作用極とした場合には、
図10から16に示されるように、マグネシウム溶解析出に対応する電流応答が観測されず、これらの被膜は水分および酸素ブロック能がないあるいは極めて小さいことが示された。
【0030】
(比較例4)
比較例4では、板状のMg-Al-Zn合金を用意し、比較例1と同様の乾燥空気下、金属表面前処理なしの状態で、実施例1と同様の電気化学的活性評価をこの試料に対して行った。ここで、Mg-Al-Zn合金の詳細は、元素数比Mg96%、Al3%、Zn1%で構成される合金である。
図17にその結果を示すが、比較例4では、特性曲線に有意な傾きが認められず、二次電池の電極として十分な電気化学的活性、すなわちマグネシウム溶解析出に対応する電流応答が観測されず、水分および酸素ブロック能がないか極めて小さいことが示された。
【0031】
(実施例5)
実施例5では、実施例1で処理、作製したマグネシウム金属電極を負極(負極活物質23)に用いたマグネシウム金属二次電池を作製してその電気特性を評価した。ここで、正極活物質21としては銅箔を、負極集電体24としてはステンレススチールを、正極集電体22としてはアルミニウムを、電解質26としては0.3mol/dm
3に調製したテトラキス(ヘキサフルオロイソプロポキシル)アルミネート/ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液(Mg[Al(HFIP)
4]
2/G2)を、そしてセパレータとしてはガラスフィルターを用いた。この評価は密閉系であり、乾燥空気下で電池が作製されるが、動作時は電池に封入された酸素のみが影響を与える。
定電流析出溶解評価試験を行い、その条件は、電流密度1mA/cm
2、1サイクル/h当たりの電荷量0.5mAh/cm
2、およびサイクル数300とした。
サイクル動作をさせたときの経過時間に対する電圧の変化を
図19、20に示す。ここで、
図19は300サイクル、すなわち300時間での電圧変化を、
図20は100時間から110時間にかけての10時間での電圧変化を示す。
実施例5では、マグネシウム金属負極活物質の表面処理剤として亜鉛化合物として、有機亜鉛であるジエチル亜鉛が用いられているが、良好な動作が認められる。
【0032】
(比較例5)
比較例5では、比較例1で作製したマグネシウム金属電極を負極(負極活物質23)に用いたマグネシウム金属二次電池を作製してその電気特性を評価した。すなわち、乾燥空気下、金属表面前処理なしの状態で作製した負極活物質23を用いた場合で、負極活物質23以外は実施例5に準拠させて評価を行った。
その結果を
図21に示す。金属表面前処理なしの未処理品はMg析出溶解を起こすための過電圧が高く、電圧規制値に即座に到達して次のサイクルに移行することを繰り返し、0.05時間以内に300サイクルの測定が終了し、不活性であることがわかる。
上述のように、本発明によりマグネシウム金属二次電池を空気中で製造可能になり、取り扱い上も製造装置も大幅に簡便化されて、マグネシウム金属二次電池の生産性が大幅に向上する。
マグネシウム金属二次電池は、そのエネルギー密度がリチウムイオン二次電池同等に高く、資源の豊富性、他材料と比較したときの材料の安全性および材料価格といった観点でも優れている将来性を嘱望されている二次電池である。
高エネルギー密度の二次電池は、スマート社会実現に欠かせないデバイス、装置、および設備と位置付けられており、本発明は、社会的に大きなインパクトを有し、産業に与える影響も大きいと考える。