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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075956
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】皮膚用感温性粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20240529BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20240529BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240529BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J133/04
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187245
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004CA06
4J004CC02
4J004CE01
4J004FA08
4J040DF001
4J040DF002
4J040JB09
4J040LA01
4J040LA08
4J040NA02
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立することが可能な皮膚用感温性粘着剤を提供することである。
【解決手段】本発明の皮膚用感温性粘着剤は、感圧性接着剤と、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む側鎖結晶性ポリマーと、を含有し、皮膚に対する粘着力が、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で低下する。25℃の雰囲気温度における皮膚に対する粘着力が、第1粘着力であり、40℃の水中における皮膚に対する粘着力が、第2粘着力であり、前記第2粘着力が、0.7N/25mm以下であり、式:{1-(第2粘着力/第1粘着力)}×100から算出される粘着力の低下率が、50%以上であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧性接着剤と、
炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む側鎖結晶性ポリマーと、を含有し、
皮膚に対する粘着力が、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で低下する、皮膚用感温性粘着剤。
【請求項2】
25℃の雰囲気温度における皮膚に対する粘着力が、第1粘着力であり、
40℃の水中における皮膚に対する粘着力が、第2粘着力であり、
前記第2粘着力が、0.7N/25mm以下であり、
式:{1-(第2粘着力/第1粘着力)}×100から算出される粘着力の低下率が、50%以上である、請求項1に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項3】
前記第1粘着力が、1.5N/25mm以上である、請求項2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項4】
前記側鎖結晶性ポリマーは、
前記融点が40℃以下であり、
重量平均分子量が160000以下であり、
含有量が感圧性接着剤100重量部に対して10重量部以下である、請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項5】
前記感圧性接着剤が、親水性を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項6】
体表面の温度以上で剥離する、請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項7】
体表面の温度以上の水中で剥離する、請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項8】
38℃以上の水中で剥離する、請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤。
【請求項9】
請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤を含む、皮膚用感温性粘着シート。
【請求項10】
フィルム状の基材と、
前記基材の少なくとも片面に積層されており請求項1または2に記載の皮膚用感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、皮膚用感温性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚用の感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、皮膚粘着性が良好であるとともに、剥離時に皮膚の痛みなどの刺激がなく、糊残りもなく、しかも高い透湿性を有し、医療用として好適なアクリル系の感圧接着剤組成物が記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の感圧接着剤組成物は、皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-8013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立することが可能な皮膚用感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)感圧性接着剤と、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む側鎖結晶性ポリマーと、を含有し、皮膚に対する粘着力が、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で低下する、皮膚用感温性粘着剤。
(2)25℃の雰囲気温度における皮膚に対する粘着力が、第1粘着力であり、40℃の水中における皮膚に対する粘着力が、第2粘着力であり、前記第2粘着力が、0.7N/25mm以下であり、式:{1-(第2粘着力/第1粘着力)}×100から算出される粘着力の低下率が、50%以上である、前記(1)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(3)前記第1粘着力が、1.5N/25mm以上である、前記(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(4)前記側鎖結晶性ポリマーは、前記融点が40℃以下であり、重量平均分子量が160000以下であり、含有量が感圧性接着剤100重量部に対して10重量部以下である、前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(5)前記感圧性接着剤が、親水性を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(6)体表面の温度以上で剥離する、前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(7)体表面の温度以上の水中で剥離する、前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(8)38℃以上の水中で剥離する、前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤。
(9)前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤を含む、皮膚用感温性粘着シート。
(10)フィルム状の基材と、前記基材の少なくとも片面に積層されており前記(1)または(2)に記載の皮膚用感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、皮膚用感温性粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<皮膚用感温性粘着剤>
以下、本発明の一実施形態に係る皮膚用感温性粘着剤(以下、単に「感温性粘着剤」ということがある。)について詳細に説明する。
【0009】
感温性粘着剤は、温度変化に対応して粘着力が変化する粘着剤である。本実施形態の感温性粘着剤は、皮膚用であって、感圧性接着剤および側鎖結晶性ポリマーを含有する。
【0010】
感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーである。
【0011】
側鎖結晶性ポリマーは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む。炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、その炭素数12~30の直鎖状アルキル基が側鎖結晶性ポリマーにおける側鎖結晶性部位として機能する。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、側鎖に炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力などによって秩序ある配列に整合されることにより結晶化する。
【0012】
また、側鎖結晶性ポリマーは、融点を有するポリマーである。融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)を使用して、昇温速度10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことである。
【0013】
側鎖結晶性ポリマーは、上述した融点未満の温度で結晶化し、且つ、融点以上の温度で相転移して流動性を示す。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす感温性を有する。これにより、融点未満の温度では、側鎖結晶性ポリマーが結晶状態にあるため、感温性粘着剤が皮膚に対する粘着力を十分に有する。それゆえ、感温性粘着剤は、融点未満の温度において、皮膚に対して高い固定性を発揮する。
【0014】
また、融点以上の温度では、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって、上述した感圧性接着剤の粘着性が阻害される。その結果、感温性粘着剤の皮膚に対する粘着力が低下する。すなわち、感温性粘着剤は、皮膚に対する粘着力が、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で低下する。それゆえ、感温性粘着剤は、融点以上の温度において、皮膚に対して易剥離性を発揮する。したがって、本実施形態の感温性粘着剤によれば、皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立することが可能となる。
【0015】
本実施形態の感温性粘着剤は、常温(例えば、25℃)時の粘着力(固定性)に優れる。また、本実施形態の感温性粘着剤は、常温時と水中加温時において、皮膚に対する粘着力の変化が高く、常温時に強固定、水中で易剥離可能である。
【0016】
炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことを意味するものとする。
【0017】
炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、ステアリル(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートであってもよい。このとき、ステアリル(メタ)アクリレートの含有量が、ベヘニル(メタ)アクリレートの含有量よりも多くてもよい。
【0018】
側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分には、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合し得る他のモノマーが含まれてもよい。他のモノマーとしては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分には、反応性フッ素化合物がさらに含まれてもよい。これにより、感温性粘着剤を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度にすれば、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによる粘着力の低下に加えて、フッ素化合物に起因する離型性も加わるので、皮膚に対する粘着力を大きく低下させることができる。
【0021】
反応性フッ素化合物とは、反応性を示す官能基を有するフッ素化合物のことである。反応性を示す官能基としては、例えば、エポキシ基(グリシジル基およびエポキシシクロアルキル基を含む)、メルカプト基、カルビノール基(メチロール基)、カルボキシル基、シラノール基、フェノール基、アミノ基、水酸基、エチレン性不飽和二重結合を有する基などが挙げられる。エチレン性不飽和二重結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。
【0022】
反応性フッ素化合物の具体例としては、下記一般式(I)で表される化合物などが挙げられる。
【0023】
【化1】
[式中、R1は基:CH2=CHCOOR2-またはCH2=C(CH3)COOR2-(式中、R2はアルキレン基を示す。)を示す。]
【0024】
2が示すアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキレン基などが挙げられる。
【0025】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、下記式(Ia)で表される2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、式(Ib)で表される2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
上述した反応性フッ素化合物は、市販品を使用することができる。市販の反応性フッ素化合物としては、例えば、いずれも大阪有機化学工業社製の「ビスコート3F」、「ビスコート3FM」、「ビスコート4F」、「ビスコート8F」、「ビスコート8FM」、共栄社化学社製の「ライトエステルM-3F」などが挙げられる。なお、反応性フッ素化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
反応性フッ素化合物をモノマー成分に含む場合の側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが30~80重量%、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが10~40重量%、および反応性フッ素化合物が10~30重量%である。
【0029】
反応性フッ素化合物をモノマー成分に含まない場合の側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが30~80重量%、および炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが20~70重量%である。
【0030】
モノマー成分の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。溶液重合法を採用する場合には、モノマー成分と溶媒(溶剤)とを混合し、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して、撹拌しながら40~90℃程度で2~10時間程度反応させればよい。
【0031】
側鎖結晶性ポリマーの融点は、55℃以下であってもよい。ここで、側鎖結晶性ポリマーの融点は、好ましくは40℃以下、より好ましくは30~40℃である。この場合には、常温(例えば、25℃)時において、皮膚に対して高い固定性を発揮できる。また、剥離時に温度による皮膚への刺激が少ない。融点は、例えば、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分の組成などを変えることによって調整することができる。
【0032】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは160000以下、より好ましくは4000~160000である。この場合には、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示した際に粘着力を十分に低下させることができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0033】
側鎖結晶性ポリマーの含有量は、感圧性接着剤100重量部に対して、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5~10重量部である。この場合には、皮膚に対する高い固定性と易剥離性とをバランスよく発揮させることができる。また、剥離時に糊残りが生じにくい。
【0034】
感圧性接着剤は、アクリル系であってもよい。アクリル系の感圧性接着剤を構成するモノマー成分としては、例えば、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
感圧性接着剤は、極性モノマーをモノマー成分として含んでもよい。極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。例示した極性モノマーは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
感圧性接着剤は、親水性を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含んでもよい。この場合には、水中で剥離する際の剥離性を向上させることができる。
【0037】
親水性を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコール基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。エチレングリコール基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、親水性を有する(メタ)アクリレートは、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、大阪有機化学工業社製の「MPE-400A」などが挙げられる。
【0038】
感圧性接着剤の具体的な組成としては、以下の組成A、Bなどが挙げられる。
組成A:炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび極性モノマーをモノマー成分として含む。
組成B:炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと親水性を有する(メタ)アクリレートと極性モノマーとをモノマー成分として含む。
【0039】
組成Aにおいて、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが90~99重量%、および極性モノマーが1~10重量%であってもよい。また、組成Bにおいて、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが50~89重量%、親水性を有する(メタ)アクリレートが10~40重量%、および極性モノマーが1~10重量%であってもよい。
【0040】
モノマー成分の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。溶液重合法を採用する場合には、モノマー成分と溶媒(溶剤)とを混合し、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して、撹拌しながら40~90℃程度で2~10時間程度反応させればよい。
【0041】
上述したモノマー成分の重合体である感圧性接着剤の重量平均分子量は、好ましくは20万~50万である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0042】
25℃の雰囲気温度における皮膚に対する粘着力が、第1粘着力である。また、40℃の水中における皮膚に対する粘着力が、第2粘着力である。このとき、第2粘着力が、好ましくは0.7N/25mm以下、より好ましくは0.3N/25mm以下である。また、式:{1-(第2粘着力/第1粘着力)}×100から算出される粘着力の低下率が、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。これらの場合には、常温時と水中加温時において、皮膚に対する粘着力の変化が高く、水中で易剥離可能である。なお、粘着力の低下率は、値が大きいほど易剥離性に優れることを意味する。粘着力の低下率の上限値は、96%であってもよい。第2粘着力の下限値は、0.1N/25mmであってもよい。
【0043】
第1粘着力は、好ましくは1.5N/25mm以上、より好ましくは2.0N/25mm以上である。この場合には、皮膚に対する常温時の粘着力(固定性)に優れる。そのため、皮膚に対して常温時に強固定可能である。なお、第1粘着力の上限値は、2.5N/25mmであってもよい。
【0044】
粘着力は、以下の条件で測定される値である。
剥離方法:180°剥離
剥離速度:300mm/秒
なお、上記以外の測定条件については、後述する実施例で説明する。
【0045】
感温性粘着剤は、架橋剤をさらに含有してもよい。架橋剤としては、例えば、アジリジン化合物、イソシアネート化合物などが挙げられる。架橋条件としては、加熱温度が90~120℃程度であり、加熱時間が1分~20分程度である。架橋剤の含有量は、感圧性接着剤100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0046】
感温性粘着剤は、体表面の温度以上で剥離してもよい。より具体的には、感温性粘着剤は、融点以上であり、且つ、体表面の温度以上で剥離してもよい。この場合には、皮膚にダメージを与えにくい。なお、体表面の温度以上に感温性粘着剤を加熱する際には、ドライヤーなどを用いてもよい。
【0047】
感温性粘着剤は、体表面の温度以上の水中で剥離してもよい。より具体的には、感温性粘着剤は、融点以上であり、且つ、体表面の温度以上の水中で剥離してもよい。この場合には、皮膚にダメージを与えにくい。また、このような温水中での剥離は、ドライヤーなどによる加熱が熱いと感じるケースに好適である。
【0048】
感温性粘着剤は、38℃以上の水中で剥離してもよい。より具体的には、感温性粘着剤は、融点以上であり、且つ、38℃以上の水中で剥離してもよい。この場合には、皮膚にダメージを与えにくい。また、このような温水中での剥離は、ドライヤーなどによる加熱が熱いと感じるケースに好適である。
【0049】
上述した感温性粘着剤の使用形態は、特に限定されず、例えば、そのまま使用してもよいし、下記で説明するように、粘着シート、粘着テープなどの形態で使用してもよい。
【0050】
<皮膚用感温性粘着シート>
本実施形態の皮膚用感温性粘着シート(以下、単に「感温性粘着シート」ということがある。)は、上述した皮膚用感温性粘着剤を含むものであり、基材レスのシート状である。感温性粘着シートの厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μmである。
【0051】
感温性粘着シートは、皮膚用感温性粘着剤を主成分として含む。「主成分」とは、他の成分と比較して重量比で最も多く含まれる成分のことである。主成分は、例えば、80重量%以上であってもよい。感温性粘着シートにおける感温性粘着剤の含有量は、80~100重量%であってもよい。
【0052】
感温性粘着シートの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどからなるフィルムの表面に、シリコーンなどの離型剤を塗布したものが挙げられる。離型フィルムの厚さは、好ましくは5~500μm、より好ましくは25~250μmである。離型フィルムは、感温性粘着シートの使用時に剥離される。
【0053】
<皮膚用感温性粘着テープ>
本実施形態の皮膚用感温性粘着テープ(以下、単に「感温性粘着テープ」ということがある。)は、フィルム状の基材と、基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層とを備えている。フィルム状とは、フィルム状のみに限定されず、本実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルム状ないしシート状をも含む概念である。
【0054】
基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂が挙げられる。
【0055】
基材の構造は、単層構造または多層構造のいずれであってもよい。基材の厚さは、好ましくは5~500μm、より好ましくは25~250μmである。基材は、粘着剤層に対する密着性を高めるうえで、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0056】
基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層は、上述した皮膚用感温性粘着剤を含んでいる。粘着剤層は、感温性粘着剤を主成分として含む。粘着剤層における感温性粘着剤の含有量は、80~100重量%であってもよい。
【0057】
粘着剤層を基材の少なくとも片面に積層するには、例えば、感温性粘着剤に溶剤を加えて塗布液を調製し、得られた塗布液をコーターなどで基材の片面または両面に塗布して乾燥させればよい。コーターとしては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。
【0058】
粘着剤層の厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは5~50μmである。
【0059】
基材の両面に粘着剤層を積層する場合には、片面の粘着剤層と他面の粘着剤層は、互いの厚さ、組成などが、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、片面の粘着剤層が上述した皮膚用感温性粘着剤を含む限り、他面の粘着剤層は特に限定されない。
【0060】
感温性粘着テープの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、上述した感温性粘着シートで例示したのと同じものが挙げられる。離型フィルムは感温性粘着テープの使用時に剥離される。
【0061】
上述した本実施形態の皮膚用感温性粘着剤、皮膚用感温性粘着シートおよび皮膚用感温性粘着テープは、主に医療用途や美容用途、研究用途などで皮膚に貼付されてもよい。
【0062】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されない。
【0063】
(合成例A~C:感圧性接着剤)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加え、モノマー混合物を得た。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
AA:アクリル酸
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
MPE-400A:大阪有機化学工業社製のメトキシポリエチレングリコールアクリレート
【0064】
次に、固形分濃度が表1に示す割合となるように表1に示す溶剤を反応容器に加え、混合液を得た。表1に示す溶剤は、以下のとおりである。
EtAc:酢酸エチル
tol:トルエン
hep:ヘプタン
【0065】
得られた混合液を窒素ガスで脱気した。脱気時間は、30分以上にした。その後、混合液を55℃に加温し、日油社製の過酸化物「パーブチルND」をモノマー混合物100重量部に対して0.3重量部(固形分換算)の割合で添加し、4時間反応させた。
【0066】
そして、混合液を80℃に加温し、日油社製の過酸化物「パーヘキシルPV」をモノマー混合物100重量部に対して0.5重量部(固形分換算)の割合で添加し、2時間反応させて感圧性接着剤を得た。
【0067】
(合成例D~H:側鎖結晶性ポリマー)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加え、モノマー混合物を得た。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
C22A:ベヘニルアクリレート
C18A:ステアリルアクリレート
C1A:メチルアクリレート
V3F:上述した式(Ia)で表される2,2,2-トリフルオロエチルアクリレートである大阪有機化学工業社製の反応性フッ素化合物「ビスコート3F」
【0068】
次に、連鎖移動剤を表1に示す添加量でモノマー混合物に添加した。表1に示す添加量は、モノマー混合物100重量部に対する固形分換算での値である。連鎖移動剤は、ドデシルメルカプタンを用いた。
【0069】
次に、固形分濃度が表1に示す割合となるように表1に示す溶剤を反応容器に加え、混合液を得た。そして、得られた混合液を窒素ガスで脱気した。脱気時間は、30分以上にした。
【0070】
その後、混合液を70℃に加温し、日油社製の過酸化物「パーヘキシルPV」をモノマー混合物100重量部に対して0.5重量部(固形分換算)の割合で添加し、1時間反応させた。そして、混合液を80℃に加温し、4時間反応させて側鎖結晶性ポリマーを得た。
【0071】
得られた感圧性接着剤の重量平均分子量を表1に示す。また、得られた側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量および融点を表1に示す。重量平均分子量は、GPCで測定して得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを用いて昇温速度10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例1~9]
<感温性粘着テープの作製>
まず、合成例で得られた感圧性接着剤に対し、表2に示す架橋剤と、合成例で得られた側鎖結晶性ポリマーとを表2に示す組み合わせと添加量で添加し、塗布液を得た。なお、表2に示す添加量は、感圧性接着剤100重量部に対する固形分換算での値である。
【0074】
表2に示す架橋剤は、以下のとおりである。
PZ33:日本触媒社製のアジリジン化合物「ケミタイトPZ-33」
L45:日本ポリウレタン工業社製のイソシアネート化合物「コロネートL-45E」
【0075】
次に、得られた塗布液を離型フィルム上に塗布し、90℃×5分の条件で架橋反応を行い、厚さ30μmの感温性粘着シートを得た。なお、離型フィルムは、表面にシリコーンが塗布された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0076】
次に、常温(25℃)において、感温性粘着シートをフィルム状の基材に貼合し、感温性粘着テープを得た。基材は、コロナ放電処理が表面に施された厚さ100μmのポリエチレンフィルムを用いた。
【0077】
<評価>
得られた感温性粘着テープについて、皮膚に対する粘着力、固定性、パッチテスト、剥離時の皮膚負担、および糊残りを評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表2に示す。
【0078】
(皮膚に対する粘着力)
第1粘着力および第2粘着力を測定した。具体的には、まず、感温性粘着テープの離型フィルムを剥離した。次に、事前にアルコールでふき取り洗浄をした前腕内側に感温性粘着テープを常温(25℃)にて圧着し、貼付した。そして、株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージ「ZTS-50N」を用いて、300mm/秒の速度で感温性粘着テープを180°剥離する際の粘着力を測定した。
【0079】
25℃の雰囲気温度における皮膚に対する粘着力である第1粘着力は、感温性粘着テープを貼付した前腕部を25℃の雰囲気温度に1分間静置した後に粘着力を測定した。第1粘着力の判定基準は、以下のように設定した。
◎:2.0N/25mm以上
〇:1.5N/25mm以上2.0N/25mm未満
×:1.5N/25mm未満
【0080】
40℃の水中における皮膚に対する粘着力である第2粘着力は、感温性粘着テープを貼付した前腕部を40℃の水中に1分間浸漬した後、前腕部を浸漬した状態で粘着力を測定した。第2粘着力の判定基準は、以下のように設定した。
◎:0.3N/25mm以下
〇:0.3N/25mmよりも大きく0.7N/25mm以下
×:0.7N/25mmよりも大きい
【0081】
測定された第1粘着力および第2粘着力を、式:{1-(第2粘着力/第1粘着力)}×100に当てはめて、粘着力の低下率を算出した。粘着力の低下率の判定基準は、以下のように設定した。
◎:70%以上
〇:50%以上70%未満
×:50%未満
【0082】
(固定性)
上述した「皮膚に対する粘着力」の測定と同じようにして前腕内側に感温性粘着テープを貼付した。そして、貼付した感温性粘着テープの状態を目視観察することによって、感温性粘着テープの剥がれの発生の有無を評価した。評価基準は、以下のように設定した。
〇:貼付して12時間経過後に剥がれなし
×:貼付して12時間以内に剥がれ発生
【0083】
(パッチテスト)
24時間閉塞パッチテストを実施した。評価基準は、以下のように設定した。
〇:湿疹などの皮膚異常なし
×:湿疹などの皮膚異常有り
【0084】
(剥離時の皮膚負担)
上述した「皮膚に対する粘着力」において、40℃の水中における皮膚に対する粘着力である第2粘着力を測定する際の皮膚負担を評価した。評価基準は、以下のように設定した。
〇:痛みをほとんど感じない
△:やや痛みを感じる
×:明確に痛みを感じたり、体毛や角質の剥がれがある
【0085】
(糊残り)
上述した「剥離時の皮膚負担」において、感温性粘着テープを剥離した後の皮膚の状態を評価した。評価基準は、以下のように設定した。
〇:テープ剥離後に皮膚にべたつきなし
×:テープ剥離後に皮膚にべたつき有り
【0086】
[比較例1~2]
合成例で得られた感圧性接着剤に対し、表2に示す架橋剤を表2に示す組み合わせと添加量で添加し、塗布液を得た以外は、実施例1~9と同じようにして粘着テープを得た。そして、この粘着テープを用いた以外は、実施例1~9と同じ条件で各評価を行った。その結果を表2に示す。
【0087】
[比較例3~4]
以下に示す市販の粘着テープを用いた以外は、実施例1~9と同じ条件で各評価を行った。その結果を表2に示す。
比較例3:ジョンソンアンドジョンソン社製のバンドエイド
比較例4:3M社製のネクスケア トランスポアテープ
【0088】
【表2】
【0089】
表2から明らかなように、実施例1~9は、皮膚に対して高い固定性と易剥離性とを両立できていることがわかる。