(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075966
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】発光素子の製造方法および発光素子修復装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20240529BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240529BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187258
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】504221107
【氏名又は名称】株式会社レーザーシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 知己
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮
(72)【発明者】
【氏名】内藤 恵介
(72)【発明者】
【氏名】廣川 昌利
(72)【発明者】
【氏名】境野 哲雄
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC45
3K107FF06
3K107GG14
3K107GG28
3K107GG56
3K107GG57
(57)【要約】
【課題】滅点が生じた箇所を、極めて短時間で、発光素子を分解することなく修復可能な発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決する発光素子の製造方法は、発光素子を準備する工程と、発光に不具合がある欠陥画素にレーザ光を照射して、不具合を修復する工程と、を有する発光素子の製造方法である。当該方法は、レーザ光を照射する工程の前に、欠陥画素内の異物を確認する工程と、異物に合わせてレーザ光の照射パターンを決定し、かつ発光素子に合わせて、レーザ光の照射スポットの光強度分布を決定する工程と、をさらに有する。上記照射パターンとして、異物上に照射スポットを配置するスポット照射、および異物を囲むように照射スポットを走査するくり抜き照射からいずれかを選択し、上記照射スポットの光強度分布として、ガウシアン分布およびトップハット分布からいずれかを選択する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光画素を有する、発光素子を準備する工程と、
前記複数の発光画素のうち、発光に不具合がある欠陥画素にレーザ光を照射して、前記不具合を修復する工程と、
を有する発光素子の製造方法であり、
前記レーザ光を照射する工程の前に、
前記欠陥画素内の異物を確認する工程と、
確認された前記異物に合わせて前記レーザ光の照射パターンを決定し、かつ前記発光素子に合わせて、前記レーザ光の照射スポットの光強度分布を決定する工程と、
をさらに有し、
前記照射パターンおよび前記照射スポットの光強度分布を決定する工程において、
前記照射パターンとして、前記異物上に照射スポットを配置するスポット照射、および前記異物を囲むように照射スポットを走査するくり抜き照射からいずれか一方を選択し、
前記照射スポットの光強度分布として、ガウシアン分布およびトップハット分布からいずれか一方を選択する、
発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光は、パルス幅が200フェムト秒以上100ピコ秒以下のパルス発振型レーザ光である、
請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記異物を確認する工程において、前記異物の最大長さを測定し、
前記照射パターンおよび前記照射スポットの光強度分布を決定する工程において、前記異物の最大長さが閾値以上である場合に、前記照射パターンとして前記くり抜き照射を選択し、前記異物の最大長さが閾値未満である場合に、前記照射パターンとして前記スポット照射を選択する、
請求項1または2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記閾値を、8μm以上12μm以下から選択する、
請求項3に記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
複数の発光画素を有する発光素子の、発光に不具合が生じた欠陥画素にレーザ光を照射し、前記不具合を修復するための発光素子修復装置であって、
前記発光素子を載置するためのステージと、
前記欠陥画素内の異物を確認する撮像部と、
前記レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光を、前記レーザ光源から前記欠陥画素に導く光学系と、
前記撮像部により特定された前記異物、および前記発光素子に合わせて、前記光学系を制御し、前記レーザ光の照射パターンおよび前記レーザ光の照射スポットの光強度分布を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記レーザ光の照射パターンとして、前記異物上に照射スポットを配置するスポット照射、および前記異物を囲むように照射スポットを走査するくり抜き照射のいずれか一方を選択し、前記レーザ光の照射スポットの光強度分布として、ガウシアン分布およびトップハット分布からいずれか一方を選択する、
発光素子修復装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記レーザ光の光路上にスリットマスクを有する、
請求項5に記載の発光素子修復装置。
【請求項7】
前記撮像部は、対物レンズと、前記対物レンズの周囲に配置される、赤外光および可視光を出射するリング状照明と、を有する、
請求項5または6に記載の発光素子修復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法および発光素子修復装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ディスプレイ(本明細書では「発光素子」とも称する)では、多数の発光可能な画素(本明細書では「発光画素」とも称する)が二次元に集積されており、これらの発光画素が、それぞれ独立に明るく発光することで、所望の画像がディスプレイに表示される。
【0003】
ここで、発光素子の1つに、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」とも称する)がある。一般的な有機EL素子の模式的な平面図を
図1Aに示し、
図1Aの破線で囲んだ部分の模式的な断面図を
図1Bに示す。通常、有機EL素子1は、複数の発光画素3を有し、これらが隔壁4によって隔てられている(
図1A参照)。また、各発光画素3には、陽極6a、有機層6b、および陰極6cがこの順に配置されており、これらは通常一対の基板5a、5bによって挟持されている。当該有機EL素子1では、陽極6a側から供給される電子と、陰極6c側から供給される正孔とが、有機層6b(発光層)にて結合することで、発光が生じる。
【0004】
有機EL素子1では、製造時に陽極6aや陰極6c由来の金属が、有機層6bに入りこんだり、有機層6bの形成時に凝集が生じたりして、これらが異物となり、発光に不具合が生じることがある(
図1A参照)。例えば、
図1Bの左側の発光画素3のように、有機層6b内に、陰極陽極6aおよび陰極6cの両方に接触する異物9aが存在すると、陽極6aと陰極6cとが電気的に導通し、有機層6b(発光層)に電荷(電子および正孔)が注入され難くなる。また、
図1Bの中央の発光画素3のように、比較的小さな異物9bが存在する場合にも、異物9bによって絶縁破壊が生じて陽極6aと陰極6cとが電気的に導通し、発光が生じ難くなる。つまり、異物9bが存在すると、複数の発光画素の一部に、十分に発光しない点(以下、「滅点」とも称する)が生じ、有機EL素子1としての機能が損なわれる。
【0005】
そのため、異物による滅点の抑制方法として、種々の方法が提案されている。例えば特許文献1では、異物やその周囲に非導電性の液体材料を塗布して絶縁膜を形成し、異物近傍に電流が流れないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、発光素子を高画素化することが求められており、各発光画素はサブミリメートルと非常に小さくなっている。したがって、発光画素が多数集積された発光素子において、特許文献1のように、異物1つ1つに非導電性の液体材料を塗布することは容易ではない。また、上述の特許文献1の方法では、発光素子の組み立て後、滅点(異物)を発見した場合に、発光素子を分解して修復する必要があり、非常に作業が煩雑であり、生産性を高めることが難しい。つまり、滅点(異物)の発見後、発光素子に触れることなく、さらに発光素子を別の箇所に移動させたり、分解したりすることなく、その場で修復可能であることが求められる。
【0008】
本発明は、滅点が生じた箇所を、極めて短時間で、かつ発光素子を分解することなく修復可能な発光素子の製造方法、およびこれに用いる発光素子修復装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の発光画素を有する、発光素子を準備する工程と、前記複数の発光画素のうち、発光に不具合がある欠陥画素にレーザ光を照射して、前記不具合を修復する工程と、を有する発光素子の製造方法であり、前記レーザ光を照射する工程の前に、前記欠陥画素内の異物を確認する工程と、確認された前記異物に合わせて前記レーザ光の照射パターンを決定し、かつ前記発光素子に合わせて、前記レーザ光の照射スポットの光強度分布を決定する工程と、をさらに有し、前記照射パターンおよび前記照射スポットの光強度分布を決定する工程において、前記照射パターンとして、前記異物上に照射スポットを配置するスポット照射、および前記異物を囲むように照射スポットを走査するくり抜き照射からいずれか一方を選択し、前記照射スポットの光強度分布として、ガウシアン分布およびトップハット分布からいずれか一方を選択する、発光素子の製造方法を提供する。
【0010】
本発明はさらに、複数の発光画素を有する発光素子の、発光に不具合が生じた欠陥画素にレーザ光を照射し、前記不具合を修復するための発光素子修復装置であって、前記発光素子を載置するためのステージと、前記欠陥画素内の異物を確認する撮像部と、前記レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光を、前記レーザ光源から前記欠陥画素に導く光学系と、前記撮像部により特定された前記異物、および前記発光素子に合わせて、前記光学系を制御し、前記レーザ光の照射パターンおよび前記レーザ光の照射スポットの光強度分布を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記レーザ光の照射パターンとして、前記異物上に照射スポットを配置するスポット照射、および前記異物を囲むように照射スポットを走査するくり抜き照射のいずれか一方を選択し、前記レーザ光の照射スポットの光強度分布として、ガウシアン分布およびトップハット分布からいずれか一方を選択する、発光素子修復装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発光素子の製造方法や、発光素子修復装置によれば、滅点が生じた箇所を、極めて短時間で、かつ分解することなく修復可能である。したがって、これらによれば、高品質な発光素子を効率よく製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る発光素子の製造方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る発光素子の製造方法のより詳しいフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3に示すフローチャートの一部を詳しく示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る発光素子修復装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、発光素子に生じた欠陥画素を、レーザ光照射によって修復する工程を含む、発光素子の製造方法、およびこれに用いる発光素子修復装置に関する。以下、それぞれについて、一実施形態を例に詳細に説明する。ただし、本発明の発光素子の製造方法や、発光素子修復装置は、これらの実施形態に限定されない。
【0014】
1.発光素子の製造方法
本発明の一実施形態に係る発光素子の製造方法は、
図2のフローチャートに示すように、発光素子を準備する工程(S10)と、欠陥画素内の異物を確認する工程(S30)と、異物に合わせて、レーザ光の照射パターンを決定するとともに、発光素子に合わせてレーザ光の照射スポットの光強度分布を決定する工程(S40)と、上記工程(S40)で決定された事項に基づき、欠陥画素にレーザ光を照射する工程(S50)と、を主に有する。ただし、これら以外の工程をさらに含んでいてもよい。本実施形態の発光素子の製造方法のより詳しいフローチャートを
図3に示す。
【0015】
本実施形態では、まず、発光素子の準備工程(S10)を行う。準備する発光素子の種類は、複数の発光画素を有する素子であれば特に制限されず、本実施形態では、
図1Aおよび
図1Bに示す有機EL素子である。当該有機EL素子1の各発光画素3には、上述のように、陽極6a、有機層6b、および陰極6cがこの順に積層されており、これらが一対の基板5a、5bの間に挟まれている。また、本実施形態の有機層6bは、電子注入層や発光層、正孔注入層等、複数の層(図示せず)で構成されており、陰極6cと一方の基板5bとの間には、封止膜(図示せず)が配置されている。さらに、当該有機EL素子1では、陰極6c側が視認側である。なお、陰極6cおよび陰極6c側の基板5bは可視光透過性を有し、陰極6cは、ITO等の透明金属で構成されている。また、
図1Bにおいて、隣り合う発光画素3は、異なる色を発するように構成されている。
【0016】
発光素子の準備工程(S10)では、必要に応じて、各種検査装置によって発光素子が欠陥画素を有するか否かを検査し、欠陥画素を有する発光素子のみを選別してもよい。またこのとき、欠陥画素の位置情報データを取得し、位置情報データを記憶媒体に記憶させてもよい。
【0017】
続いて、上記発光素子の準備工程(S10)で準備した発光素子を観察し、その画像を取得する工程(低倍率画像取得工程(S20))を行い、その評価を行う。具体的には、上述の発光素子(本実施形態では有機EL素子)を駆動し、複数の発光画素をラスター点灯させて、発光素子の発光状態に関する画像を取得する。複数の発光画素の点灯パターンは特に制限されず、例えば、全ての発光画素を一度に発光させてもよい。また、上述の発光素子の準備工程(S10)で、欠陥画素の位置情報データを取得している場合には、当該位置情報データを読み出し、当該欠陥画素を含む一部領域の発光画素のみ発光させて、画像を取得してもよい。
【0018】
画像の取得は、倍率が5倍以上10倍以下であるの対物レンズを介して行うことが好ましい。比較的低倍率の対物レンズを用いて画像を取得することにより、複数の発光画素の発光状態を同時に評価できる。また、画像の取得方法は特に制限されず、例えば上記対物レンズを介して取得した画像をCCDカメラ等によって撮像してもよい。撮像した画像に対し、直接以下の評価を行ってもよいが、当該画像を一度、記憶媒体に保存し、その後、以下の評価を行ってもよい。
【0019】
上記低倍率画像の評価は以下のように行う。上記で得られた低倍率画像内に滅点があるか否かを確認し、欠陥画素の有無を判定する(S22)。滅点の確認方法は特に制限されず、ラスター点灯させた発光画素に対応する画像の輝度を解析し、輝度が閾値より低い場合に、滅点と判定する手法が挙げられる。なお、滅点(欠陥画素)が確認されない場合には、修復の必要がないため、処理を終了する。
【0020】
一方、上記判定(S22)によって、滅点(欠陥画素)が認められた場合には、当該発光素子を修復可能であるか否かを判定する(S24)。具体的には、画像内の欠陥画素の数をカウントし、欠陥画素の数が閾値を超える場合には、発光素子の修復が不可能と判定し、処理を終了する。欠陥画素の数が著しく多い場合には、作業が煩雑となり、コストや製造効率の観点で好ましくない。また、発光素子に明らかな破損や変形等が認められ、これらによって欠陥画素が生じている場合には、レーザ光による修復が困難であるため、この場合も修復が不可能であると判定し、処理を終了する。
【0021】
修復可能と判定された発光素子の欠陥画素については、高倍率で欠陥画素を観察し、その画像を取得する工程(高倍率画像取得工程(S30))を行い、さらなる評価(S32)を行う。なお、上記低倍率画像取得工程(S20)で、複数の欠陥画素が確認された場合には、全ての欠陥画素について、それぞれ高倍率画像取得工程(S30)以降の工程を行う。
【0022】
高倍率画像取得工程(S30)では、欠陥画素に外部から光を照射し、欠陥画素内の異物の画像を取得する。当該工程における光の照射方法は特に制限されないが、例えば欠陥画素を観察するための対物レンズの周囲に、リング状の照明を配置し、可視光や紫外光、赤外光等を照射することが好ましい。なお、照射する光の種類は、異物の観察しやすさに応じて適宜選択され、異物の種類や大きさ、発光素子の構造等に応じて、赤外光および可視光を使い分けることがより好ましい。例えば、欠陥画素上にカラーフィルタが配置されている場合、可視光の照射によって欠陥画素内の異物を観察し難いことがある。その場合、欠陥画素に対して赤外光を照射し、異物の画像を取得することが好ましい。一方で、赤外光は波長が比較的長いため、異物のサイズが非常に小さい場合には、異物を視認し難い。したがって、この場合可視光を照射し、異物の画像を取得することが好ましい。また、赤外光を照射した画像および可視光を照射した画像の両方を取得してもよい。
【0023】
なお、異物(欠陥画素)に光を照射する際、当該光を、発光素子(欠陥画素)の表面に対して、15°以上60°以下の角度をもって入射させることが好ましく、当該角度は25°以上35°以下がより好ましい。このような角度で、光を入射させると、欠陥画素内の異物の形状を観察しやすくなる。
【0024】
また、画像の取得は、倍率が20倍以上100倍以下である対物レンズを介して行うことが好ましい。比較的高倍率の対物レンズを用いて画像を取得することにより、欠陥画素内の異物の形状やサイズ等を、詳細に確認できる。また、画像の取得方法は特に制限されず、例えば上記対物レンズを介して取得した画像をCCDカメラ等によって撮像してもよい。取得した画像を、以下の工程で直接評価してもよいが、当該画像を一度、記憶媒体に保存してから、以下の評価を行ってもよい。
【0025】
上記高倍率画像取得工程(S30)で取得した画像について、以下のように評価する(S32)。まず、欠陥画素内に異物があるか否かを確認する。欠陥画素内に異物が確認されない場合、異物以外の要因で滅点が生じているため、修復不可能と判定し、処理を終了する。異物が確認された場合には、異物に関する情報を取得(本実施形態では最大長さを測定)し、評価する。本実施形態では、最大長さが閾値内であるかを判定する。最大長さが閾値を超える場合には、レーザ光による修復を行っても、当該欠陥画素の発光強度を十分に回復させることが難しい。したがって、異物の最大長さが閾値を超える場合にも、修復が不可能と判定し、処理を終了する。併せて、異物の位置も確認し、異物が1つの欠陥画素内に収まっているか否かも判定する。1つの異物が、複数の発光画素に跨っている場合にも、レーザ光による修復が難しい。したがってこの場合にも、修復不可能と判定し、処理を終了する。
【0026】
上記評価(S32)により、欠陥画素の修復が可能であると判定された場合には、異物の情報(例えば、大きさや形状、位置等の情報)を記憶媒体に記録する。なお、本明細書における「異物の大きさや形状」とは、異物を平面視したときの大きさや形状をいう。
【0027】
続いて、上記で特定された異物の情報を読み出し、レーザ光の照射条件を決定する工程(S40)を行う。当該レーザ光照射条件の決定工程(S40)のフローを
図4に示す。本実施形態の工程(S40)では、まず、異物の最大長さが閾値(本実施形態では10μm)以上であるか否かを判定する(S402)。そして、異物の最大長さが閾値(10μm)以上である場合には、レーザ光の照射パターンを、くり抜き照射に決定する(S403)。一方、異物の最大長さが閾値(10μm)未満である場合には、異物を覆うように、照射スポットを配置するパターン、すなわちスポット照射に決定する(S404)。なお、閾値は、照射スポットのスポット径により適宜選択されるが、本実施形態では、閾値を8~12μmから適宜選択することが好ましい。また、本明細書における「照射スポット」とはレーザ光によって、発光素子(本実施形態では陰極)表面に形成されるスポットをいう。
【0028】
また、本明細書における「くり抜き照射」とは、欠陥画素(発光画素)3に
図5A(平面図)に示すような異物9が存在する場合に、
図5Bまたは
図5Cに示すように、当該異物9を囲むように(例えば、符号8で示す領域に)、照射スポットを走査することをいう。このとき、
図5Bに示すように、異物9を含む領域の周囲に、環状に照射スポットを走査してもよい。一方で、照射スポットのスポット径を大きくし、
図5Cに示すように、異物9を含む領域を覆うように、照射スポットを走査してもよい。なお、本実施形態では、
図5Cに示すように、異物9の最大長さ以上の直径を有する円形状に照射スポットを走査することが特に好ましい。照射スポットを走査して形成される領域の最大長さは、可能な限り小さいことが好ましく、異物9の形状にも依るが、異物9の最大長さの1.3倍以下が好ましく、異物9の最大長さの等倍程度がより好ましい。また、「くり抜き照射」の面積は、画素面積の1/2以下になることが好ましい。
【0029】
一方、本明細書における「スポット照射」とは、欠陥画素(発光画素)3に
図5D(平面図)に示すような異物9が存在する場合に、
図5Eに示すように、当該異物9を全て覆うように照射スポットを配置し、当該照射スポットを走査せずに円形状(図中、符号8で示す領域)にレーザ光を照射することをいう。
【0030】
上記レーザ光の照射パターンの決定後、さらに、発光素子(本実施形態では陰極の材料)に関する情報を照会し、当該発光素子(陰極)が、所定の種類であるか否かを判定する(S405)。本実施形態では、陰極の材料が所定の種類である場合(例えば、レーザ光に対する耐性が高い材料である場合)、照射スポットの光強度分布をガウシアン分布に決定する(S406)。一方、陰極の材料が、所定の種類以外である場合(例えば、レーザ光に対する耐性が低い材料からなる場合)、照射スポットの光強度分布をトップハット分布に決定する(S407)。なお、陰極の材料ではなく、陰極の厚み等に応じて、照射スポットの光強度分布の態様を決定してもよい。
【0031】
なお、本明細書における「照射スポットの光強度分布が、ガウシアン分布である」とは、照射スポットの中心における光強度が最も高く、照射スポットの中心から離れるほど、光強度が低くなることをいう。一方、「照射スポットの光強度分布が、トップハット分布である」とは、照射スポット内の光強度分布が略一定であることをいう。例えばスリットマスク等を用いて、レーザ光の一部の光のみを取り出すことで、照射スポットがトップハット分布となる。
【0032】
上記レーザ光照射条件の決定工程(S40)では、決定した条件を、記憶媒体に記録する。そして、レーザ光の照射工程(S50)において、当該条件を読み出し、これに基づいて欠陥画素に対してレーザ光を照射する。レーザ光の照射工程(S50)で照射するレーザ光は、発光素子(本実施形態では陰極)を変質させ、異物が存在する領域の陰極および陰極間の電気的導通を抑制可能であれば特に制限されない。当該レーザ光は、連続発振型レーザ光であってもよく、パルス発振型レーザ光であってもよいが、パルス発振型レーザ光が好ましく、超短パルス発振型レーザ光がより好ましい。超短パルス発振型レーザ光によれば、発光素子の電極(本実施形態では陰極)を容易に高抵抗化できる。本明細書における超短パルス発振型のレーザ光とは、パルス幅が200フェムト秒以上100ピコ秒以下のパルス発振型レーザ光を指し、パルス幅は、10ピコ秒以上30ピコ秒以下がより好ましい。レーザ光が上記パルス幅のパルス発振型レーザ光であると、発光素子の電極(本実施形態では陰極)に隣接する有機層や、封止膜等に熱ダメージ等の影響が生じ難い。
【0033】
また、レーザ光の波長は、発光素子の電極(本実施形態では陰極)を加工可能な波長の光であればよく、基板5b(例えばガラス基板)の透過性が高い波長が好ましい。例えばITO等の透明電極に照射する場合には、その波長は300nm以上3000nm以下が好ましく、500nm以上1500nm以下がより好ましい。
【0034】
ここで、レーザ光の照射スポットの光強度分布をガウシアン分布とする場合、その焦点位置は、照射対象(陰極)の表面であってもよく、照射対象(陰極)の内部(例えば、陰極と有機層との界面や、陰極層内)であってもよい。また、レーザ光の照射スポットの光強度分布をトップハット分布とする場合、その結像位置は、例えば照射対象(陰極)の表面であってもよく、その内部であってもよい。また、照射パターンをくり抜き照射とする場合、およびスポット照射とする場合のいずれにおいても、レーザ光が、発光素子に対して垂直に入射するように、発光素子およびレーザ光の位置調整を行うことが好ましい。また、レーザ光は、発光素子の視認側から入射させることが好ましい。
【0035】
レーザ光の照射工程(S50)後、上記滅点(欠陥画素)が修復されたか、修復箇所を確認する工程(S60)を行う。当該工程(S60)では、上述の低倍率画像取得工程(S20)と同様に、発光素子を駆動し、発光画素をラスター点灯させて画像を取得する。発光画素を発光させるパターンは特に制限されず、例えば、全ての発光画素を一度に発光させてもよい。また、レーザ光を照射した欠陥画素のみ、またはこれを含む一部領域のみを発光させてもよい。また、画像の取得方法は特に制限されず、上述の低倍率画像取得工程(S20)と同様に、対物レンズを介して観察した画像をCCDカメラ等によって撮像してもよい。本工程(S60)においても、取得した画像を、直接評価してもよく、当該画像を一度、記憶媒体に保存してから評価してもよい。
【0036】
上記修復箇所確認工程(S60)で取得した画像について、以下のように評価する(S62)。ラスター点灯させた発光画素に対応する画像の輝度を解析し、輝度が閾値以上であれば、欠陥画素が修復されたと判定して、処理を終了する。一方、輝度が閾値未満である場合には、欠陥画素が修復されなかったと判定する。そして、予め設定されたリトライ回数を参照し、リトライ回数以下であるかを判定する(S63)。リトライ回数以下である場合には、再度同じ条件で、レーザ光照射工程(S50)および修復箇所確認工程(S60)を行う。一方、リトライ回数を超える場合には、当該表示素子の修復は不可能と判定し、処理を終了する。繰り返しレーザ光の照射を行うと、照射対象(本実施形態では陰極)だけでなく、照射対象の周囲の部材がダメージを受ける可能性があり、修復を行っても無駄になる可能性がある。リトライ回数は、通常、10回以下で設定しておくことが好ましい。
【0037】
(その他)
上記では、発光素子の製造方法において、低倍率画像の取得工程(S20)や、当該工程によって得られた画像の評価(S22、S24)を行うことを説明した。しかしながら、上記発光素子の準備工程(S10)や、その前後に各種検査装置等によって発光素子が欠陥画素を有するか検査し、欠陥画素の位置情報データを取得した場合には、これらの工程や評価を行わなくてもよい。
【0038】
また、本発明の発光素子の製造方法を適用可能な発光素子の構成は、上述の有機EL素子に限定されない。例えば隣り合う発光画素が同一の色を発するように構成された有機EL素子に、上記方法を適用してもよい。また、陰極もしくは封止膜と一方の基板との間にカラーフィルタ等を有する有機EL素子の製造方法に、上記方法を適用してもよい。
【0039】
さらに、上記では、有機EL素子の陰極に対してレーザ光を照射する場合を例に説明したが、陰極より陽極が、視認側に位置する場合等には、陽極に対してレーザ光を照射してもよい。
【0040】
(効果)
上述の発光素子の製造方法では、発光素子の発光画素に異物由来の滅点が生じた場合に、異物近傍にレーザ光を照射し、発光素子を変質(上記では陰極を高抵抗化)させる。その結果、異物を介して陽極および陰極間で電流が流れ難くなり、当該発光画素が発光するようになる。またこのとき、発光素子の材料に合わせて、照射するレーザ光を適切に選択するため、レーザ光照射によって、他の層が劣化し難く、発光素子にダメージを与え難い。さらに、当該方法では、発光素子を分解することなく、滅点を効率よく修復できる。
【0041】
2.発光素子修復装置
本発明の一実施形態に係る発光素子修復装置について、以下説明する。当該発光素子修復装置は、上述の発光素子の製造方法の低倍率取得工程(S20)から、修復箇所確認工程(S62)を行うことが可能な装置である。
【0042】
当該発光素子修復装置の一例を
図6に示す。当該発光素子修復装置200は、発光素子1を載置するためのXYステージ210と、欠陥画素内の異物を確認するための撮像部220と、レーザ光源230と、レーザ光をレーザ光源230から欠陥画素まで導くための光学系240と、XYステージ210や光学系240を制御するための制御部250と、を有する。
【0043】
XYステージ210は、発光素子を支持し、レーザ光の照射パターン等に合わせて、XY方向に移動可能に構成されたステージである。当該XYステージ110は、後述の制御部250(コンピュータ)と接続されており、当該制御部250によってその位置制御が行われる。
【0044】
撮像部220は、上述の低倍率画像の取得工程(S20)および異物の確認(高倍率画像の取得)工程(S30)にて、発光素子、または欠陥画素(異物)の撮像を行うための構成である。撮像部220は、欠陥画素内の異物を確認するための構成を有していればよいが、本実施形態では、低倍率の第1レンズ221、第1レンズ221と切り替え可能に配置された、高倍率の第2レンズ222、第2レンズ222の周囲に配置されたリング状照明223、ミラー(ダイクロイックミラー)224a、224b、224c、ならびに第1レンズ221および第2レンズ222にそれぞれ光学的に接続されたカラーカメラ225および赤外モノクロカメラ226を含む。
【0045】
上記第1レンズ221は、発光素子の発光状態を確認する際に使用される対物レンズであり、その倍率は、5倍以上10倍以下が好ましい。また、第2レンズ222は、欠陥画素の異物を確認する際に使用される対物レンズであり、その倍率は、20倍以上100倍以下が好ましい。第1レンズ221および第2レンズ222は、切り替え可能に構成されている。具体的には、上述の低倍率画像の取得工程(S20)を行う場合には、第1レンズ221が発光素子1上に配置され、上述の高倍率画像の取得工程(S30)や、レーザ光の照射工程(S50)を行う場合には、第2レンズ222が発光素子1上に配置されるように構成されている。第1レンズ221および第2レンズ222の切り替えは、制御部250(コンピュータ)からの信号に基づいて行われる。
【0046】
また、リング状照明223は、第2レンズ222を介して欠陥画素中の異物を確認する際に使用される照明であり、本実施形態では、第2レンズ222の周囲に固定されている。ただし、リング状照明223は、第2レンズ222に固定されていなくてもよく、自在に移動可能に構成されていてもよい。また、当該リング状照明223は、異物の観察に適した波長の光を出射可能であればよく、本実施形態では、可視光を出射する複数の光源および赤外光を出射する複数の光源が、交互に配置されている。また、各光源から出射する光が、発光素子1の所望の発光画素(欠陥画素)に所定の角度、具体的には15°以上60°以下、より好ましくは25°以上35°以下の角度で入射するように、各光源の位置が調整されている。
【0047】
カラーカメラ225および赤外モノクロカメラ226は、発光素子1の状態や、異物の状態を撮像可能であればよく、CCDカメラ等である。カラーカメラ225および赤外モノクロカメラ226は、第1レンズ221や第2レンズ222で観察する対象に応じて適宜使い分けられる。例えば、第1レンズ221で発光素子1の発光状態を確認する場合には、カラーカメラ225、または赤外モノクロカメラ226により撮像が行われる。一方、第2レンズ222で異物の状態を確認する際には、リング状照明223が出射する光の波長に合わせて、カラーカメラ225および赤外モノクロカメラ226が使い分けられる。例えば、リング状照明223により、可視光を照射し、異物の状態を確認する場合には、カラーカメラ225により撮像が行われる。一方、リング状照明223により赤外光を照射し、異物の状態を確認する場合には、赤外モノクロカメラ226により撮像が行われる。これらのカメラ225、226によって取得した画像は、制御部250に出力される。
【0048】
レーザ光源230は、所望の波長の光を連続発振もしくはパルス発振可能であればよく、一般的なレーザ光源と同様である。例えばITO等の透明電極に対してレーザ光を照射する場合には、波長300nm以上3000nm以下、より好ましくは500nm以上1500nm以下のレーザ光を、パルス幅200フェムト秒以上100ピコ秒以下、より好ましくは10ピコ秒以上30ピコ秒以下で発振する光源とすることができる。
【0049】
光学系240は、レーザ光源230から出射したレーザ光を、欠陥画素まで導くとともに、レーザ光の照射スポットの光強度分布を調整可能であれば、その構成は特に制限されず、例えば、スリットマスク241、結像レンズ242、ガルバノスキャナユニット243、上述のミラー(ダイクロイックミラー)224a、および上述の第2レンズ222を含む。
【0050】
スリットマスク241は、レーザ光の照射スポットの光強度分布を調整するための構成であり、その幅を自在に変更可能なスリットを有するマスクである。例えば、当該スリットマスク241のスリット幅を狭め、レーザ光源230から出射するレーザ光の一部の成分のみを通過させると、照射スポットの光強度分布がトップハット分布となる。一方、スリットマスク241のスリット幅を最大にし、レーザ光源230から出射する成分全てを通過させてから結像させると、照射スポットの光強度分布がガウシアン分布となる。当該スリットマスク241のスリット幅は、後述の制御部250からの信号に基づいて行われる
【0051】
また、結像レンズ242は、スリットマスク241を通過したレーザ光の幅を調整するためのレンズであり、ガルバノスキャナユニット243は、レーザ光の位置を調整するための構成である。これらは、一般的なレーザ光照射装置の結像レンズやガルバノスキャナユニットと同様である。
【0052】
また、制御部250は、上述のXYステージ210や、撮像部220、光学系240
等と接続されたコンピュータ等である。制御部250は、例えばレーザ光の照射位置や、その照射パターンに応じてXYステージの位置を調整したり、撮像部220の第1レンズ221および第2レンズ222を切り替えたり、カラーカメラ225や赤外モノクロカメラ226によって撮像された画像の情報に基づき、光学系240のスリットマスク241のスリット幅や、ガルバノスキャナユニット243を走査したりするための構成である。
【0053】
当該発光素子修復装置200の動作方法について、以下説明する。
当該発光素子修復装置200では、制御部250が、発光素子1を載置したXYステージ210および第1レンズ221の位置をそれぞれ制御し、第1レンズ221を発光素子1上に配置する。そして、制御部250は、カラーカメラ225(もしくは赤外モノクロカメラ226)を起動し、発光素子1の発光状態に関する画像を取得する。制御部250は、当該画像を解析し、滅点(欠陥画素)の位置情報を取得する。なお、制御部250による画像の解析方法は、上述の発光素子の製造方法における低倍率画像の評価方法(S22、S24)と同様である。
【0054】
当該滅点の位置情報に基づいて制御部250は、第2レンズ222およびXYステージ210の位置をそれぞれ制御し、特定の滅点(欠陥画素)上に第2レンズ222を配置する。そして、リング状照明223、カラーカメラ225、赤外モノクロカメラ226等を起動し、欠陥画素中の異物に関する画像を取得する。そして、当該画像を解析し、異物に関する情報を取得する。なお、画像の解析方法は、上述の発光素子の製造方法における高倍率画像の評価方法(S32)と同様である。
【0055】
制御部250は、上記取得した異物の情報に基づき、レーザ光の照射パターンを、くり抜き照射およびパターン照射から選択する。さらに、発光素子1に関する情報(例えば陰極の材料)を参照し、レーザ光の照射スポットの強度分布を、ガウシアン分布およびトップハット分布から選択する。なお、照射パターンおよび照射スポットの強度分布の決定方法は、上述の発光素子の製造方法におけるレーザ光照射条件の決定工程(S40)と同様である。
【0056】
そして、制御部250は、レーザ光源230を起動するとともに、上記照射条件に基づいて、光学系240を制御し、スリットマスク241のスリット幅の調整や、ガルバノスキャナユニット243の調整等を行う。これにより、レーザ光の焦点もしくは結像点の位置が調整され、さらに照射スポットの光強度分布が調整される。そして、上記で決定されたパターンに基づいて、欠陥画素の所望の位置に、所望のパターン(くり抜き照射またはスポット照射)でレーザ光を照射する。レーザ光を照射の際、制御部250が、撮像部220のカラーカメラ225や赤外モノクロカメラ226を通じて異物の位置を再取得してもよく、再取得した情報に基づいてガルバノスキャナユニット243を走査し、レーザ光の照射位置を微調整してもよい。
【0057】
レーザ光の照射後、制御部250は再びXYステージ210および第1レンズ221の位置をそれぞれ制御し、第1レンズ221を発光素子1上に配置する。そして、制御部250は、カラーカメラ225(もしくは赤外モノクロカメラ226)を通じて発光素子1の発光状態に関する画像を取得し、取得した画像の解析を行う。画像の解析結果に基づき、必要に応じてレーザ光源230や光学系240を再度起動し、レーザ光の照射を再度行う。
【0058】
(効果)
上述の発光素子の修復装置では、発光素子の発光画素に異物由来の滅点が生じた場合に、異物近傍の部材にレーザ光を照射し、変質させる。その結果、異物を介して陽極および陰極間で電流が流れ難くなり、当該発光画素(欠陥画素)が発光するようになる。またこのとき、発光素子の材料に合わせて、照射するレーザ光を適切に選択するため、レーザ光照射によって、他の層が劣化し難く、発光素子にダメージを与え難い。さらに、当該修復装置によれば、発光素子を分解することなく、滅点を効率よく修復できる。
【実施例0059】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。また、実施例では、カラーカメラや赤外カメラによって、写真を取得したが、当該実施例では、便宜上、模式図を示す。
【0060】
[実施例1]
図1Bに示すように、一対のガラス基板5a、5b間に、陽極6a、発光層6b、および陰極6cが配置された発光素子1を準備した。当該発光素子の各発光画素の平面視形状は、300μm×300μmとした。当該発光素子を発光させ、発光状態を、第1レンズ(対物レンズ、5倍)およびカラーカメラを介して確認したところ、1つの発光画素3の輝度が閾値を下回っていた(
図7A)。
そこで、当該発光画素(欠陥画素)上に、第2レンズ(対物レンズ、20倍)を配置し、第2レンズの周囲に配置したリング状照明によって赤外光を照射しながら、異物の大きさ(最大長さ)および位置を、赤外モノクロカメラを介して確認した。その結果、点状の異物9が確認され、その最大長さは3μmであった(
図7B)。上記異物9の最大長さからスポット照射が適切であり、かつ陰極の種類(ここではMg-Ag系薄膜)から、照射スポットの光強度分布はトップハット分布が適切であると判定された。そこで、当該異物9を覆うように照射スポットを配置し、以下の条件で、レーザ光を円形状(図中、符号8で示す領域)にスポット照射した(
図7C参照)。なお、スリットマスクとして、スリット幅5~300μmの間で調整可能なものを用い、照射時のスリット幅は20μmとした。
【0061】
レーザの強度分布:トップハット分布(結像レーザ)
レーザの走査の有無:なし(シングルショット)
レーザ光の波長:1030nm
パルス幅:20ピコ秒
パルスエネルギー:100nJ、ガウシアンビーム
集光光学系:対物レンズ倍率20倍
照射スポットサイズ:約10μm
レーザ光の照射時間:2秒
リトライ設定回数:3回
【0062】
上記条件で、1回のレーザ光を照射したところ、レーザ光を照射した領域以外の領域を発光させることができ、当該発光画素(欠陥画素)の輝度を、本来の発光画素の明るさの80%まで回復させることが可能であった。なお、同様の欠陥について、レーザ光の照射時のパルス幅を200フェムト秒まで短くした場合でも、回復の効果が認められた。
【0063】
[実施例2]
実施例1と同様の発光素子を準備し、第1レンズ(対物レンズ、5倍)で確認したところ、1つの発光画素3の輝度が閾値を下回っていた(
図8A参照)。
そこで、当該発光画素(欠陥画素)上に、第2レンズ(対物レンズ、50倍)を配置し、第2レンズの周囲に配置したリング状照明によって赤外光を照射しながら、異物の大きさ(最大長さ)および位置を、赤外モノクロカメラを介して確認した。その結果、線状の異物9が確認され、その最大長さは15μmであった(
図8B)。異物9の最大長さから、くり抜き照射が適切であり、かつ陰極の種類(ここでは酸化インジウムスズ(ITO))から、照射スポットの光強度分布は、ガウシアン分布が適切であると判定された。そこで、当該異物に対して、以下の条件で、レーザ光を異物の周囲を囲むように、直径20μmの円形状(図中、符号8で示す領域)に、照射スポットを走査させた(
図8C参照)。なお、スリットマスクのスリット幅は300μmとし、レーザ光に干渉しないように設定した。
【0064】
レーザの強度分布:ガウシアン分布(集光レーザ)
レーザの走査の有無:あり(繰り返し周波数:1kHz)
レーザ光の波長:1030nm
パルス幅:20ピコ秒
パルスエネルギー:100nJ、ガウシアンビーム
集光光学系:対物レンズ倍率50倍
照射スポットサイズ:約1μm
リトライ設定回数設定:3回
【0065】
上記条件で、1回のレーザ光を照射したところ、レーザ光を照射した領域以外の領域を発光させることができ、当該発光画素(欠陥画素)の輝度を、本来の発光画素の明るさの80%まで回復させることが可能であった。
【0066】
[実施例3]
実施例1と同様の発光素子を準備し、第1レンズ(対物レンズ、5倍)で確認したところ、1つの発光画素3の輝度が閾値を下回っていた(
図9A参照)。
そこで、当該発光画素(欠陥画素)上に、第2レンズ(対物レンズ、50倍)を配置し、第2レンズの周囲に配置したリング状照明によって赤外光を照射しながら、異物の大きさ(最大長さ)および位置を、赤外モノクロカメラを介して確認した。その結果、塊状の異物9が確認され、その最大長さは10μmであった(
図9B)。異物9の最大長さから、くり抜き照射が適切であり、かつ陰極の種類(ここではMg-Ag系薄膜)から、照射スポットの光強度分布は、ガウシアン分布が適切であると判定された。そこで、当該異物に対して、以下の条件で、レーザ光を異物9の周囲を囲むように、直径12μmの円形状(図中、符号8で示す領域)に、照射スポットを走査させた(
図9C参照)。なお、スリットマスクのスリット幅は300μmとし、レーザ光に干渉しないように設定した。
【0067】
レーザの強度分布:ガウシアン分布(集光レーザ)
レーザの走査の有無:あり(繰り返し周波数:1kHz)
レーザ光の波長:1030nm
パルス幅:20ピコ秒
パルスエネルギー:100nJ、ガウシアンビーム
集光光学系:対物レンズ倍率50倍
照射スポットサイズ:約1μm
リトライ設定回数:3回
【0068】
上記条件で、1回のレーザ光を照射したところ、レーザ光を照射した領域以外の領域を発光させることができ、当該発光画素(欠陥画素)の輝度を、本来の発光画素の明るさの70%まで回復させることが可能であった。
【0069】
[実施例4]
実施例1と同様の発光素子を準備し、第1レンズ(対物レンズ、5倍)で確認したところ、1つの画素の輝度が閾値を下回っていた(
図10A参照)。
そこで、当該発光画素(欠陥画素)上に、第2レンズ(対物レンズ、20倍)を配置し、第2レンズの周囲に配置したリング状照明によって赤外光を照射しながら、異物の大きさ(最大長さ)および位置を、赤外モノクロカメラを介して確認した。これにより点状の異物9が確認され、その最大長さは4μmであった(
図10B)。上記異物9の最大長さから、スポット照射が適切であり、さらに陰極の種類(ここでは酸化インジウムスズ(ITO))から照射スポットの光強度はトップハット分布が適切であると判定された。そこで、当該異物9を覆うように円形状(図中、符号8で示す領域)に、以下の条件で、レーザ光をスポット照射した(
図10C参照)。なお、スリットマスクとして、スリット幅5~300μmの間で調整可能なものを用い、照射時のスリット幅は4×4μmとした。
【0070】
レーザの強度分布:トップハット分布(結像レーザ)
レーザの走査の有無:なし(シングルショット)
レーザ光の波長:1030nm
パルス幅:20ピコ秒
パルスエネルギー:100nJ、ガウシアンビーム
集光光学系:対物レンズ倍率20倍
照射スポットサイズ:約10μm
レーザ光の照射時間:2秒
リトライ設定回数:3回
【0071】
上記条件で、1回のレーザ光を照射したところ、レーザ光を照射した領域以外の領域を発光させることができ、当該発光画素(欠陥画素)の輝度を、本来の発光画素の明るさの70%まで回復させることが可能であった。
【0072】
[参考例1]
実施例1と同様の発光素子を準備し、第1レンズ(対物レンズ、5倍)で確認したところ、2つの画素の輝度が閾値を下回っていた(
図11A参照)。
そこで、当該発光画素(欠陥画素)上に、第2レンズ(対物レンズ、20倍)を配置し、第2レンズの周囲に配置したリング状照明によって赤外光を照射しながら、異物の大きさ(最大長さ)および位置を、赤外モノクロカメラを介して確認した。これにより2つの画素に跨るように大きな異物が確認された(
図11B)。したがって、当該異物による欠陥は、レーザにて修復可能であると判定し、修復を断念した。
本発明に係る発光素子の製造方法によれば、発光素子の発光画素に異物由来の滅点が生じた場合に、当該滅点を効率よく、かつ分解することなく修復できる。したがって、各種発光素子の製造において、非常に有用である。