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特開2024-75982水性粘着剤、該水性粘着剤の製造方法、および粘着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075982
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】水性粘着剤、該水性粘着剤の製造方法、および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20240529BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240529BHJP
【FI】
C09J133/14
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187293
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大島 由照
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J040DF061
4J040GA05
4J040GA07
4J040JA03
4J040JB09
4J040KA16
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】本発明は、粘着力かつ再剥離性が良好な水性粘着剤および粘着シートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明の課題は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、特定量のカルボキシル基含有モノマーおよび特定量のヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物を、特定量の反応性乳化剤の存在下、乳化重合してなるアクリル系ポリマーのエマルション(A)と架橋剤(B)を含む水性粘着剤であって、エマルション(A)および水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分がそれぞれ所定範囲であることを特徴とする、水性粘着剤によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径50~200nmのアクリル系ポリマーのエマルション(A)と架橋剤(B)を含む水性粘着剤であって、
エマルション(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物ならびに反応性乳化剤を含む混合物の乳化重合物であり、
エマルション(A)の酢酸エチルに対する不溶分が0~30質量%であり、
水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分が60~90質量%であり、
モノマー混合物100質量%中、カルボキシル基含有モノマーを0.5~5質量%、ヒドロキシル基含有モノマーを1~10質量%含み、
モノマー混合物100質量部に対する反応性乳化剤の量が0.5~5質量部であることを特徴とする水性粘着剤。
【請求項2】
架橋剤(B)が、アジリジン架橋剤、エポキシ架橋剤およびカルボジイミド架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1記載の水性粘着剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物を反応性乳化剤の存在下、乳化重合してアクリル系ポリマーのエマルション(A)を合成する工程を含み、
モノマー混合物100質量%中、カルボキシル基含有モノマーを0.5~5質量%、ヒドロキシル基含有モノマーを1~10質量%含み、
モノマー混合物100質量部に対する反応性乳化剤の量が0.5~5質量部である、
アクリル系ポリマーのエマルション(A)を含む水性粘着剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の水性粘着剤からなる粘着剤層および基材を備えた、粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性粘着剤、該水性粘着剤の製造方法、および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、マスキングテープ、両面テープ、表面保護フィルム、包装用テープ等、様々な用途で用いられている。そして、環境対策、省資源、安全性などの観点から有機溶剤を使用しない水性粘着剤が盛んに使用されている。このような水性粘着剤としては、低コストかつ諸物性を満足し易いアクリル系粘着剤が、主に紙ラベル用途で用いられている。しかし、プラスチック成型物やプラスチックフィルムを被着体として使用したラベルの場合、水性粘着剤ではラベルの貼り合せ時に十分な接着力が得られず、ラベルのズレや、剥がれが生じる場合があり、改良が求められていた。
【0003】
一方で、水溶性ポリマーを主成分とする粘着テープは、プラスチック成型物やプラスチックフィルムに対して良好な接着性を示すものとして使用されていたが、実際は、ラベルを剥離する際、粘着剤層が吸水して膨潤することで溶出した粘着剤層由来の低分子量成分が被着体を汚染し、さらに白化などが起こる問題があった。この粘着剤層の吸水の原因のひとつは、モノマーを乳化重合する際に用いる乳化剤と考えられており、乳化剤使用量を低減する検討が進められてきた。
【0004】
特許文献1では、炭素数4~12のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有不飽和単量体と、その他の不飽和単量体含む単量体混合物をアニオン型反応性乳化剤の存在下に、乳化重合させて得られる溶剤不溶分が70重量% 未満のエマルジョンと、架橋剤とを含有してなる再剥離型水性粘着剤組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、硫酸イオン(SO -)濃度を100μg/g以下とした乳化剤、及びレドックス系重合開始剤を用いて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー混合物を、一括重合法により行われるエマルション重合に付すことにより得られるアクリルエマルション系重合体を主成分とし、カルボジイミド架橋剤を前記アクリルエマルション系重合体100重量部に対して0.5~3重量部含む粘着剤組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、アルキル基の炭素数が8~11である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有モノマーおよび水酸基含有モノマーを含むモノマー混合物の乳化重合物、ならびにエポキシ架橋剤、アジリジン架橋剤およびカルボシイミド架橋剤からなる群より選択される1種以上の架橋剤を含み、前記モノマー混合物中に水酸基含有モノマーを、2質量%を超えて含む水性粘着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-045410号公報
【特許文献2】特開2007-177003号公報
【特許文献3】特開2017-132937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、粘着力が高く、かつ糊残り発生の無い再剥離性が良好な粘着シートが得られる水性粘着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]~[4]に関する。
[1]粒子径50~200nmのアクリル系ポリマーのエマルション(A)と架橋剤(B)を含む水性粘着剤であって、
エマルション(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物ならびに反応性乳化剤を含む混合物の乳化重合物であり、
エマルション(A)の酢酸エチルに対する不溶分が0~30質量%であり、
水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分が60~90質量%であり、
モノマー混合物100質量%中、カルボキシル基含有モノマーを0.5~5質量%、ヒドロキシル基含有モノマーを1~10質量%含み、
モノマー混合物100質量部に対する反応性乳化剤の量が0.5~5質量部であることを含む、水性粘着剤。
[2]架橋剤(B)が、アジリジン架橋剤、エポキシ架橋剤およびカルボジイミド架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする[1]記載の水性粘着剤。
[3](メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基含有モノマーとヒドロキシル基含有モノマーとのモノマー混合物を反応性乳化剤の存在下、乳化重合してアクリル系ポリマーのエマルション(A)を合成する工程を含み、
モノマー混合物100質量%中、カルボキシル基含有モノマーを0.5~5質量%、ヒドロキシル基含有モノマーを1~10質量%含み、
モノマー混合物100質量部に対する反応性乳化剤の量が0.5~5質量部である、
アクリル系ポリマーのエマルション(A)を含む水性粘着剤の製造方法。
[4][1]または[2]記載の水性粘着剤からなる粘着剤層および透明フィルム基材を備えた、粘着シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、詳細なメカニズムは不明だが、エマルション(A)および水性粘着剤の溶剤不溶分が特定の範囲にあることで、本願の課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明により粘着力が良好で、かつ糊残り発生の無い再剥離性が良好な粘着シートが得られる水性粘着剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を詳細に説明する前に用語を定義する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルを含む。モノマーは、エチレン性不飽和二重結合含有単量体である。被着体は、粘着テープを貼付する相手方である。密着性は、粘着剤層の基材に対する密着性をいう。
【0013】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。また、アクリル系ポリマーのエマルション(A)をアクリル系ポリマー(A)あるいはエマルション(A)と略記する場合がある。
【0014】
≪水性粘着剤≫
本発明の水性粘着剤は、エマルション(A)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物を反応性乳化剤の存在下、乳化重合してなるアクリル系ポリマーのエマルション(A)と架橋剤(B)を含む。
【0015】
本発明の水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分は、60~90質量%であり、好ましくは、65~85質量%である。水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分を60~90質量%とすることで、粘着シートの粘着力と再剥離性をより向上させることができる。
なお、水性粘着剤の酢酸エチルに対する不溶分(溶剤不溶分と記載する場合がある)とは、水性粘着剤の乾燥塗膜の酢酸エチルに対する不溶分を指し、酢酸エチル浸漬前の乾燥塗膜の質量に対する、浸漬後の乾燥塗膜の質量の割合(質量%)を求めたものをいう。水性粘着剤の溶剤不溶分の算出方法の詳細は、実施例の欄に記載する。
【0016】
<アクリル系ポリマーのエマルション(A)>
本発明においてアクリル系ポリマーのエマルション(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーを含むモノマー混合物を特定量の反応性乳化剤の存在下、乳化重合して得ることができる。
【0017】
アクリル系ポリマーのエマルション(A)の粒子径は、50~200nmであり、70~180nmが好ましい。粒子径を50nm以上に調整することで、エマルション(A)の粘度が低下して、重合時の安定性がより向上する。また、粒子径を200nm以下に調整することで、フィルム形成時の耐水白化性がより向上する。粒子径は、乳化重合時に乳化剤をあらかじめ反応容器中に仕込むことで容易に調整できる。ここで粒子径とは、動的光散乱型装置「Nanоtrack Wave(マイクロトラック・ベル(株)社製)」で測定した際の、累積50%粒子径の体積平均径である。
【0018】
アクリル系ポリマーのエマルション(A)は、分子量を高めに調整することで、再剥離性を向上させることができる。分子量は、重量平均分子量で50万~100万が好ましい。重量平均分子量を50万~100万に調整することで、基材密着性と再剥離性をより向上させることができる。なお、エマルション(A)の分子量とは、テトラヒドロフランに可溶な成分の分子量を指す。
本明細書において、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ―(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算値である。また、重量平均分子量の測定方法の詳細は、実施例に記載する。
【0019】
アクリル系ポリマーのエマルション(A)の酢酸エチルに対する不溶分は0~30質量%であり、0~25質量%が好ましい。溶剤不溶分を0~30質量%にすることで密着性、粘着力および再剥離性を高いレベルで得ることができる。なお、エマルション(A)の酢酸エチルに対する不溶分(溶剤不溶分と記載する場合がある)とは、エマルション(A)の乾燥塗膜の酢酸エチルに対する不溶分を指し、酢酸エチル浸漬前の乾燥塗膜の質量に対する、浸漬後の乾燥塗膜の質量の割合(質量%)を求めたものをいう。エマルション(A)の溶剤不溶分の算出方法の詳細は、実施例の欄に記載する。
【0020】
アクリル系ポリマーのエマルション(A)を得るための乳化重合法としては、例えばモノマーを乳化して乳化物を形成してから合成することが好ましい(プレ乳化法)。乳化重合の方法は、前記乳化物の全量を予め反応容器中に仕込んでから反応する方法、または前記乳化物の一部を反応容器中に仕込んで、前記乳化物の残分を数回に分けて添加または連続滴下する方法等公知の方法を使用できる。
【0021】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー]
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、例えばエチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、iso-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、iso-ノニル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数4~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーが好ましい。アルキル基の炭素数4~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを用いることで、粘着シートの皮膜が柔軟になり、再剥離性がより向上する。
さらにより好ましくは、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが調達面および乳化重合の反応の進みやすさから好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0022】
[カルボキシル基含有モノマー]
カルボキシル基含有モノマーは、例えば(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、およびマレイン酸ブチル等が挙げられる。カルボキシル基含有モノマーは、単独または2種類以上併用できる。なお、カルボキシル基含有モノマーは酸無水物基含有モノマーを包含する。
【0023】
カルボキシル基含有モノマーは、モノマー混合物100質量%中に0.5~5質量%含まれ、0.8~3質量%が好ましい。0.5~5質量%含むことで粘着力および再剥離性がより向上する。
【0024】
[ヒドロキシル基含有モノマー]
ヒドロキシル基含有モノマーは、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、および6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ならびにポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。水酸基含有モノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0025】
ヒドロキシル基含有モノマーは、モノマー混合物100質量%中に1~10質量%含まれ、2~8質量%が好ましい。1~10質量%含むことで、架橋剤添加後のエマルション粒子間架橋を促進され、再剥離性がより向上する。
【0026】
[その他モノマー]
モノマー混合物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマー以外の「その他モノマー」を含んでも良い。その他モノマーとしては、例えば、アミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-シクロヘキシルイタコンイミド、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシオクタメチレンスクシンイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、および2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート等の公知の(メタ)アクリレート等が挙げられる。その他モノマーは、単独または2種類以上併用できる。
【0027】
[反応性乳化剤]
乳化重合に使用する乳化剤は、反応性乳化剤を使用する。反応性乳化剤は、モノマーと共重合可能なエチレン性不飽和結合を有する乳化剤である。反応性乳化剤を使用すると高湿度雰囲気下での粘着力低下を抑制できる。反応性乳化剤には、イオン種によりアニオン系反応性乳化剤およびノニオン系反応性乳化剤がある。これらの乳化剤の中でアニオン系反応性乳化剤を用いると、エマルションの粒子径を微細にできることに加え、水性粘着剤の貯蔵安定性が向上するため好ましい。反応性乳化剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0028】
アニオン系反応性乳化剤は、例えば、スルホコハク酸エステル系乳化剤、(メタ)アクリレート硫酸エステル系乳化剤、リン酸エステル系乳化剤、アリルスルホン酸塩系乳化剤等が挙げられる。
【0029】
ノニオン系反応性乳化剤は、例えば、アルキルエーテル系乳化剤、アルキルフェニルエーテル系乳化剤、アルキルフェニルエステル系乳化剤等が挙げられる。
【0030】
反応性乳化剤は、モノマー混合物100質量部に対して0.5~5質量部含む。0.5~3質量部が好ましく、0.7~2.5質量部がより好ましい。反応性乳化剤は、0.5~5質量部含むことで、乳化重合時の重合安定性が向上し、塗工かつ乾燥して得られる粘着シートの再剥離性が向上する。
【0031】
また、本発明の課題を解決できる範囲内であれば、非反応性乳化剤を併用できる。
非反応性アニオン性乳化剤は、例えばポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩;等が挙げられる。
【0032】
非反応性ノニオン性乳化剤は、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシ多環フェニルエーテル類;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0033】
[粘着付与樹脂]
モノマー混合物の乳化重合時に粘着付与樹脂を含むことができる。粘着付与樹脂は、モノマー混合物の乳化重合時に存在すると、得られるアクリル系ポリマーの溶剤不溶分を下げつつ、低分子のアクリル系ポリマーの生成を抑制し、粘着力を向上させる。粘着付与樹脂は、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、芳香族系石油樹脂、および脂肪族系石油樹脂等からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
コスト及びアクリル樹脂との相溶性の観点から、ロジン樹脂が好ましい。粘着付与樹脂は、単独または2種類以上併用できる。
【0034】
ロジン系樹脂は、例えば天然ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、不均化ロジン、および不均化ロジンエステル等が挙げられる。
テルペン系樹脂は、例えばα-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、テルペンフェノール樹脂、および水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。
芳香族系石油樹脂は、例えばスチレンオリゴマー、およびα-メチルスチレン・スチレン共重合体等が挙げられる。
脂肪族系石油樹脂は、例えば、ナフサのC5石油留分から得られるC5系石油樹脂等が挙げられる。C5石油留分は、例えば、イソプレン、トランス-1,3-ペンタジエン、シス-1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等に代表される炭素数4~6の共役ジオレフィン性不飽和炭化水素類;ブテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンテン等に代表される炭素数4~6のモノオレフィン性不飽和炭化水素類;シクロペンタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘキサン等の脂肪族系飽和炭化水素;これらの混合物等が挙げられる。
【0035】
粘着付与樹脂は、基材密着性および再剥離性の観点から、23℃で液状の樹脂が好ましい。23℃で液状の粘着付与樹脂は分子量が低いためモノマーに対する連鎖移動効果が高く、アクリル系ポリマーの分子量を効率的に低下でき、粘着剤層を形成した際の基材密着性が良好になる。23℃で液状の粘着付与樹脂は、例えば低分子量のロジン系樹脂、低分子量のテルペン系樹脂、芳香族系石油樹脂であるスチレンオリゴマー等が挙げられる。なお23℃で液状とは、25℃雰囲気で粘着付与樹脂を満たし250mlビーカーに直径5mm、長さ30cmのガラス棒を垂直に立てた場合、当該ガラス棒が傾いて10秒以内にビーカー壁面とに接する程度の粘度である。
【0036】
粘着付与樹脂は、モノマー混合物100質量部に対して0.1~5質量部用いることが好ましく、0.5~3質量部がより好ましい。0.1質量部以上用いることで、アクリル系ポリマーのエマルション(A)の溶剤不溶分を所定の範囲に調整でき、粘着剤層を形成した際の密着性がより向上する。また、5質量部以下用いることで、アクリル系ポリマー(A)の分子量を高めに調整し易いため、粘着剤層を形成した際の凝集力がより向上する。
【0037】
[連鎖移動剤]
本発明では、溶剤不溶分を調整するため、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤は、例えば、チオール基や水酸基を有する化合物が一般に知られている。チオール基を有する化合物としては、例えばラウリルメルカプタン、2-メルカプトエチルアルコール、ドデシルメルカプタン、およびメルカプトコハク酸等のメルカプタン;メルカプトプロピオン酸n-ブチル、およびメルカプトプロピオン酸オクチル等のメルカプトプロピオン酸アルキル;、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル等のメルカプトプロピオン酸アルコキシアルキル等が挙げられる。また、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、t-ブチルアルコール、およびベンジルアルコール等のアルコールも挙げられる。連鎖移動剤は、単独または2種類以上併用できる。
【0038】
連鎖移動剤は、モノマー混合物100質量部に対して0.01~0.5質量部用いることが好ましく、0.03~4質量部がより好ましい。0.01質量部以上用いることで、アクリル系ポリマーのエマルション(A)の溶剤不溶分を所定の範囲に調整でき、粘着剤層を形成した際の密着性がより向上する。また、0.5質量部以下用いることで、アクリル系ポリマー(A)の分子量を高めに調整し易いため、粘着剤層を形成した際の凝集力がより向上する。
【0039】
粘着付与樹脂と連鎖移動剤を使用することで、どちらもアクリル系ポリマーのエマルション(A)の溶剤不溶分を所定の範囲に調整できるが、粘着力を向上させる観点から、粘着付与樹脂がより好ましい。
【0040】
[重合開始剤]
乳化重合に使用する重合開始剤は、水溶性重合開始剤を使用することが好ましい。
水溶性重合開始剤は、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、4,4’-アゾビス-4-シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2’-アゾビス(2-メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレート、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-〔1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル〕-プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕等が挙げられる。これらの中でも過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムが乳化重合における進行のしやすさから好ましい。
【0041】
また重合開始剤は、レドックス系重合開始剤(酸化剤と還元剤を併用する)として使用できる。酸化剤は、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p-メタンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、還元剤は、例えば亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。これらの中でも重合反応性に優れるため、酸化剤:過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウムと、還元剤:亜硫酸ナトリウムまたは酸性亜硫酸ナトリウムとを組み合わせて使用することが好ましい。
【0042】
重合開始剤は、モノマー混合物100質量部に対して、0.01~0.5質量部を使用することが好ましく、0.02~0.3質量部がより好ましい。0.01~0.5質量部であることで重合反応性および水性粘着剤の機械安定性をより向上できる。
【0043】
<架橋剤>
本発明の水性粘着剤は、前記アクリル系ポリマーのエマルション(A)と、さらに架橋剤(B)を含む。架橋剤(B)とアクリル系ポリマーのカルボキシル基が反応することで再剥離性が向上し、粘着力の調整が容易になる。
【0044】
架橋剤(B)は、例えばチタンキレート化合物、アルミキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、酸化亜鉛、アジリジン系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、ヒドラジド系化合物等が挙げられる。これらの中でもポットライフが長く、基材との密着性が向上する面からカルボジイミド系化合物、エポキシ化合物およびアジリジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。架橋剤は、単独または2種類以上併用できる。
【0045】
カルボジイミド架橋剤は、例えば、カルボジイミド基(-N=C=N-)を分子内に2個以上有する化合物が好ましく用いられ、公知のポリカルボジイミドを用いることができる。
【0046】
エポキシ架橋剤は、例えば、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エポキシクレゾールノボラック等が挙げられる。
【0047】
アジリジン架橋剤は、例えば、N,N’-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、およびトリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン等が挙げられる。
【0048】
架橋剤(B)は、アクリル系ポリマー100質量部に対して0.01~5質量部配合することが好ましく、0.03~3質量部がより好ましい。0.01~5質量部配合することにより、粘着力を維持しつつ再剥離性がより向上する。
【0049】
<その他任意成分>
本発明の水性粘着剤は、乳化重合時とは別に粘着付与樹脂を配合できる。粘着付与樹脂の配合により粘着力の調整が容易になる。粘着付与樹脂の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.5~10質量部であることが好ましく、1~8質量部がより好ましい。0.5~10質量部配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性を両立することができる。
【0050】
(添加剤)
さらに、本発明の水性粘着剤は、任意成分として中和剤、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、増粘剤、および顔料分散体などの公知の添加剤を配合することができる。
中和剤の配合量は、アクリル系ポリマー(A)のpHを7~9に調整するため、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~5質量部配合することが好ましい。0.1~5質量部の配合により、アクリル系ポリマー(A)のpHが7~9に調整でき、アクリル系ポリマー(A)の貯蔵安定性が高まる。
レベリング剤の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~1質量部配合することが好ましい。0.1質量部以上配合することにより、塗工時のレベリング性が向上し、ハジキや収縮を抑えることができる。1質量部以下に配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性の低下を抑えることができる。
防腐剤の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~1質量部配合することが好ましい。0.1質量部以上配合することにより、水性粘着剤の腐敗や菌発生を抑えることができる。1質量部以下に配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性の低下を抑えることができる。
消泡剤の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~1質量部配合することが好ましい。0.1質量部以上配合することにより、水性粘着剤の塗工時の泡立ちを抑え、泡立ちによるハジキを抑えることができる。1質量部以下に配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性の低下を抑えることができる。
増粘剤の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~5質量部配合することが好ましい。0.1質量部以上配合することにより、水性粘着剤を増粘させることができ、塗工時の収縮やハジキを抑えることができる。5質量部以下に配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性の低下を抑えることができる。
顔料分散体は、粘着剤層に隠ぺい性や発色性が必要な場合に用いる。顔料分散体の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して0.1~5質量部配合することが好ましい。0.1質量部以上配合することにより、粘着剤層の隠ぺい性や発色性を高めることができる。5質量部以下に配合することにより、粘着剤層を形成した際の粘着力と再剥離性の低下を抑えることができる。
【0051】
≪水性粘着剤の製造方法≫
本発明の水性粘着剤の製造方法は、前記アクリル系ポリマーのエマルション(A)を合成するための乳化重合の工程を含む。アクリル系ポリマーのエマルション(A)の乳化重合後に架橋剤および/または粘着付与樹脂等のその他任意成分を配合して水性粘着剤とすることができる。
【0052】
≪粘着シート≫
本発明の粘着シートは、基材と、水性粘着剤から形成した粘着剤層とを備える。製造方法を例示すると(1)剥離性シートに水性粘着剤を塗工、乾燥することで粘着剤層を形成し、次いで基材上に粘着剤層を転写する方法、および(2)基材に水性粘着剤を塗工、乾燥することで粘着剤層を形成し、次いで剥離性シートを貼り合わせる方法が好ましい。
【0053】
塗工方法は、例えばマイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ-ター、スピンコーター等公知の方法が挙げられる。塗工に際し、乾燥を行うことが通常である。乾燥は、特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線ヒーターおよび減圧法等公知の方法を適宜選択して使用できる。乾燥温度は通常60~180℃程度である。
【0054】
粘着剤層の厚さは、一般的に5~100μm程度であり、10~50μmがより好ましい。
【0055】
前記基材は、例えば紙、セロハン、プラスチックシート、ゴム、発泡体、布帛、ゴムびき布、樹脂含浸布、ガラス板、金属板、木材、偏光板などの光学フィルム等の板材またはシートが挙げられる。前記基材は、単独または複数の積層体であっても良い。また、前記基材は、裏面(粘着剤層と接しない面)に剥離処理、または帯電防止処理をすることができる。また基材は、公知の易接着処理を行うことで粘着剤層との密着性を向上できる。
基材の厚さは、一般的に10~100μm程度であり、30~80μmがより好ましい。
【0056】
本発明の粘着シートの被着体は、素材として例えば、金属、ガラス、プラスチックフィルム、ゴム、木材、ダンボール、紙および塗料コート面など幅広い素材に使用できる。
【0057】
本発明の粘着シートの用途は、特に限定されないが、例えば各種ラベル用、マスキングテープ用途やプロテクトフィルム用途等の再剥離が必要な用途のみならず、再剥離を必要としない永久粘着用途にも好ましく使用できる。
【実施例0058】
次に、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の説明において、部は質量部、%は質量%を意味する。
【0059】
<水性粘着剤の溶剤不溶分の測定>
水性粘着剤をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)上に塗工し、乾燥後の厚さが約20g/mになるように乾燥塗膜を形成した(塗工物という)。得られた塗工物を23℃、相対湿度50%環境下で168時間養生した。養生後の塗工物を200メッシュのステンレス網で包み込み、次いでそれを酢酸エチルに投入し23℃で72時間浸漬した後、乾燥して酢酸エチルを除去した。溶剤不溶分を下記(式1)に従い求めた。

(式1)
溶剤不溶分(質量%)=(浸漬前の乾燥塗膜質量-PETフィルムの質量)/(浸漬後の乾燥塗膜質量-PETフィルムの質量)×100
【0060】
<アクリル系ポリマーのエマルション(A)の溶剤不溶分の測定>
アクリル系ポリマーのエマルション(A)をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)上に塗工し、乾燥後の厚さが約20g/mになるように乾燥塗膜を形成した(塗工物という)。得られた塗工物を200メッシュのステンレス網で包み込み、次いでそれを酢酸エチルに投入し23℃で72時間浸漬した後、乾燥して酢酸エチルを除去した。溶剤不溶分は上記(式1)に従い求めた。
【0061】
<粒子径の測定>
粒子径は、動的光散乱型装置「Nanоtrack Wave(マイクロトラック・ベル(株)社製)」を用いて、ローディングインデックス8.0~12.0の範囲になるように、アクリル系ポリマーのエマルション(A)のサンプル濃度をイオン交換水で希釈した。測定温度25℃、測定時間90秒、測定回数2回の条件で、溶媒をイオン交換水にして測定を行なった。累積50%粒子径の体積平均径を粒子径とした。
【0062】
<重量平均分子量の測定>
アクリル系ポリマーのエマルション(A)をPETフィルムに乾燥後の厚さが約20g/mになるように塗工・乾燥し、200メッシュのステンレス網で包み込み試料とした。次いで試料をテトラヒドロフランに投入し23℃で72時間浸漬した後、試料をテトラヒドロフラン溶液から除去し、テトラヒドロフラン溶液をフィルターで濾過後、GPC測定(ポリスチレン換算)を行った。

なお、GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置:Shodex GPC System-21〔昭和電工(株)製〕
カラム:Shodex KF-602.5を1本、Shodex KF-606Mを2本〔昭和電工(株)製〕の合計3本を連結して使用。
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/min
温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
試料注入量:50μl
【0063】
(合成例1)アクリル系ポリマーのエマルションの合成
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしてブチルアクリレート92.5部、カルボキシル基含有モノマーとしてアクリル酸1.5部、ヒドロキシル基含有モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート6.0部に、粘着付与樹脂としてエステルガムAT(ロジン樹脂、荒川化学社製)2.0部を添加して溶解した。さらにアニオン系反応性乳化剤として「アクアロンKH-10」(ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 第一工業製薬社製)1.9部、および脱イオン水25.1部を加えて攪拌し乳化物を得た。得られた乳化物を滴下ロートに入れた。
別途、撹拌機、冷却管、温度計を、上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を45.6部、アニオン系反応性乳化剤「アクアロンKH-10」0.1部および上記乳化物のうちの1.0部を仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を70℃まで加熱した。その後濃度10%過硫酸アンモニウムを添加して、反応を開始した。内温を70℃に保持したまま、上記乳化物を180分かけて滴下した後に、さらに撹拌しながら内温を70℃に保持したまま1時間反応を継続した。その後内温を65℃に冷却し、酸化剤の「パーブチルH-69」(日本油脂社製)の濃度10%水溶液1.0部、還元剤の「エルビットN」(扶桑化学工業社製)の濃度10%水溶液1.0部をそれぞれ10分おきに3回添加し、さらに1時間反応を継続した。その後、冷却し、30℃で25%アンモニア水を添加して中和することで不揮発分濃度50%、粒子径120nmのアクリル系ポリマーのエマルション(EM-1)を得た。なお、このアクリル系ポリマーの溶剤不溶分は20%であった。また、GPCで測定したアクリル系ポリマーの重量平均分子量は70万であった。
【0064】
(合成例2~28)
合成例1の配合を表1の材料および配合量に変更した以外は、合成例1と同様にして合成例2~26のアクリル系ポリマーのエマルション(A)を合成した。なお、表1において「-」は、配合していないことを表す。また、表1において重合安定性「×」としているものは、凝集物が大量に発生している、または高粘度のためエマルションの流動性を失っており、水性粘着剤の製造が困難のため、評価は実施しなかった。
【0065】
(実施例1)水性粘着剤および粘着シートの製造
合成例1で得られたアクリル系ポリマーのエマルション(EM-1)100部に対し、中和剤として25%アンモニア水を1部、消泡剤としてSNデフォーマー364(サンノプコ社製)を0.2部、防腐剤としてレバナックスBX-150(昌栄化学社製)を0.1部、レベリング剤として「ペレックスOT-P」(花王社製)0.2部を加え、架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤のカルボジライトV-04(不揮発分40%)を1.0部加え、さらにアルカリ増粘剤として「プライマルASE-60」(ダウケミカル社製)1.0部を加えて増粘し、実施例1の水性粘着剤を得た。
得られた水性粘着剤を乾燥後の厚さが20μmになるようにコンマコーターを使用して剥離性シート上に塗工し、100℃の乾燥オーブンで75秒間乾燥した後、市販の厚さ50μのPETフィルムのコロナ処理面を貼り合わせて実施例1の粘着シートを得た。なお、この水性粘着剤の溶剤不溶分は80%であった。
【0066】
(実施例2~21、比較例1~7)
実施例1の配合を表2の原料および配合量に変更した以外は、実施例1と同様に行うことで実施例2~21、比較例1~7の水性粘着剤および粘着シートを製造した。
【0067】
表1および表2の略称は下記の通りである。
[モノマー]
・BA:アクリル酸ブチル(アルキル基の炭素数4)
・EHA:2-エチルヘキシルアクリレート(アルキル基の炭素数8)
・OA:アクリル酸オクチル(アルキル基の炭素数8)
・MMA:メタクリル酸メチル(アルキル基の炭素数1)
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
・HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
・4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
[粘着付与樹脂]
・AT:「エステルガムAT」(ロジン樹脂、23℃で液状、荒川化学社製)
・D-125:「ペンセルD-125」(ロジン樹脂、軟化点125℃、荒川化学社製)
[反応性乳化剤]
・KH-10:製品名「アクアロンKH-10」(アニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 不揮発分100%、第一工業製薬社製)
・SR-10:「アデカリアソープSR-10」(アニオン系反応性乳化剤、α-スルホ-ω-(1-(アルコキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩 不揮発分100%、ADEKA社製)
[非反応性乳化剤]
・RA9612:「ニューコールRA9612」(アニオン系非反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩 不揮発分25% 日本乳化剤社製)
[架橋剤]
・V-04:製品名「カルボジライトV-04」(カルボジイミド架橋剤、日清紡ケミカル社製)
・PZ-33:「ケミタイトPZ-33」(アジリジン架橋剤、揮発分100%、日本触媒社製)
・EX-313:「デナコールEX-313」(エポキシ架橋剤、不揮発分100%、ナガセケムテックス社製)
・Solution No.1:「Zinc Oxide Solution No.1 」(酸化亜鉛架橋剤、不揮発分15%、BASF社製)
【0068】
得られた粘着シートを後述する試験方法で性能を評価し、その結果を表2に示した。
【0069】
[試験方法]
(1)粘着力
得られた粘着シートを23℃、相対湿度50%(以下50%RH)環境下にて長さ100mm×幅25mmの大きさに準備し試料とした。次いで、JIS Z 0237に準拠して、試料から剥離性シートを剥がし、露出した粘着剤層を、表面を研磨したステンレス鋼板(以下、SUSという)に貼付け、2kgロールを1往復した20分後の粘着力を測定した。なお粘着力の測定は引張試験機を用いて、剥離速度:300mm/分、剥離角180゜で行った。
◎:粘着力が4.0N/25mm以上、非常に良好
○:粘着力が3.0N/25mm以上、4.0N/25mm未満、良好。
△:粘着力が2.0N/25mm以上、3.0N/25mm未満、実用上問題ない。
×:粘着力が2.0N/25mm未満、実用不可。
【0070】
(2)再剥離性
得られた粘着シートを23℃、50%RH環境下にて長さ100mm×幅25mmの大きさに準備し試料とした。次いで、試料の剥離性シートを剥がし、露出した粘着剤層を市販のポリプロピレンフィルムに貼付け、2kgロールで1往復して圧着した。圧着後の試料を70℃環境下にて72時間放置し、引張試験機を用いて、試料をポリプロピレンフィルムから3m/分の速さで180゜方向に剥離して、ポリプロピレンフィルム表面に粘着剤層に由来する糊残りが付着しているか否かを目視により下記の基準で評価した。
◎:ポリプロピレンフィルム表面に糊残りの付着がなく、きれいだった。非常に良好。
○:ポリプロピレンフィルム表面の糊残りの付着面積が5%未満、良好。
△:ポリプロピレンフィルム表面の糊残りの付着面積が5%以上20%未満、実用上問題ない。
×:ポリプロピレンフィルム表面の糊残りの付着面積が20%以上、実用不可。
【0071】
(3)基材密着性
得られた粘着シートから剥離性シートを剥がし、当該粘着シートを折りたたんで貼り合わせ、露出した粘着剤同士を貼り合わせ、粘着剤層が基材から脱落するかどうか評価した。
◎:50回以上貼り合わせしても基材から脱落しない。非常に良好。
○:40回以上50回未満の貼り合わせで基材から脱落する。良好。
△:20回以上40回未満の貼り合わせで基材から粘着剤が脱落する。実用上問題ない。
×:20回未満の貼り合わせで基材から粘着剤が脱落する。実用不可。
【0072】
(4)耐水白化性
得られた粘着シートから剥離性シートを剥がし露出した粘着剤面を市販の厚さ50μのPETフィルムに貼り合わせ、試験片を作成した。得られた試験片を40℃環境下で72時間、温水に浸漬させた。72時間浸漬後、試験片を温水から取り出し、試験片の外観の変化は、ヘイズメーターNDH8000(日本電色工業(株)社製)を用いてヘイズ値の変化で評価した。
◎:試験片のヘイズ値の変化が0.1未満。非常に良好。
○:試験片のヘイズ値の変化が0.1以上、0.2未満。良好。
△:試験片のヘイズ値の変化が0.2以上、0.3未満。実用上問題ない。
×:試験片のヘイズ値の変化が0.3以上。実用不可。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】