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特開2024-75993回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024075993
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20240529BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240529BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187313
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】萩野 匠
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP20
(57)【要約】
【課題】 磁石挿入孔への樹脂充填にあたり、鉄心本体と一体に設けられた堰き止め部で、フラックスバリア部への樹脂進入を防いだ上で、堰き止め部を除去してフラックスバリア部を完成させることで、フラックスバリア部への樹脂進入阻止にあたり、鉄心本体以外の部材を不要にし、製造コストの抑制が図れる、コア部製造方法を提供する。
【解決手段】 プレス加工工程で、鉄心片31に対応する被加工材の加工対象箇所に堰き止め部40を形成する。樹脂充填工程では、堰き止め部40が存在する部位には樹脂が進入しない。これにより、樹脂充填後には、堰き止め部40のある領域には磁石を固定する樹脂13が存在しない。除去工程で堰き止め部40を除去すると、フラックスバリア部15bを生じさせられ、他の部材を用いることなくフラックスバリア部15bへの樹脂進入を阻止でき、樹脂の使用量増大を招かない。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心片を複数積層して形成される鉄心本体における、フラックスバリア部のある磁石挿入孔に永久磁石を配設すると共に、前記フラックスバリア部を所定の閉塞部材で塞いだ状態で、前記永久磁石の周囲に磁石固定用の樹脂を配置して、回転電機のコア部を製造する、コア部製造方法において、
前記鉄心片を磁性金属材料製の被加工材から打ち抜くと共に、前記被加工材における前記鉄心片にあたる加工対象箇所のうち、前記フラックスバリア部に対応する所定の第一部位に、前記閉塞部材としての堰き止め部を形成するプレス加工工程と、
前記鉄心本体の磁石挿入孔に、前記永久磁石を挿入配設する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入孔のうち、前記永久磁石と、磁石挿入孔周囲の前記鉄心本体及び前記堰き止め部との間の隙間に、前記樹脂を充填する樹脂充填工程と、
前記鉄心本体から前記堰き止め部を除去する除去工程とを含み、
前記プレス加工工程が、前記第一部位の略中心部分に、所定形状の貫通孔を設けると共に、前記第一部位のうち前記貫通孔を除いた残りの略環状部分に対し、所定の分離準備加工を施して、前記堰き止め部とし、
前記堰き止め部が、前記分離準備加工により、前記除去工程まで前記鉄心片における堰き止め部以外の他部分に対する連結を維持可能な、不完全分離状態として形成されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記貫通孔が、前記被加工材における前記第一部位の外縁の一部まで拡張された孔形状とされ、
前記堰き止め部が、前記貫通孔の拡張部分により環の一部が開いた不連続形状とされることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記堰き止め部が、外周部と内周部との間の幅について、幅広部と幅狭部を有する形状として形成されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項4】
前記請求項3に記載のコア部製造方法において、
前記堰き止め部が、前記貫通孔周りにおける前記幅広部同士の配置間隔を略等間隔とするように形成されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項5】
前記請求項3に記載のコア部製造方法において、
前記除去工程で、前記堰き止め部のうち、複数の前記幅広部に対し、前記鉄心片の積層方向に所定の外力を加えて、堰き止め部を前記鉄心片の他部分から分離し、前記鉄心本体から除去することを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項6】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記プレス加工工程が、前記分離準備加工として、前記被加工材における前記第一部位のうち前記略環状部分について、打ち抜きで被加工材の他部分から一旦分離して前記堰き止め部を形成すると共に、堰き止め部をプッシュバックにより被加工材の元の位置に戻すことを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項7】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記プレス加工工程が、前記被加工材における前記磁石挿入孔にあたる加工対象箇所のうち、前記第一部位を除いた残り部分である第二部位の打ち抜きについて、前記第一部位に隣接する前記第二部位周りの縁部の所定箇所に、所定径の丸みを有する隅部が形成されるように打ち抜きを行い、
前記隅部が、前記鉄心本体の磁石挿入孔に前記永久磁石を配設した状態における、永久磁石の角部のうち、前記堰き止め部寄りの一方の角部と対向する配置として、形成されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項8】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記プレス加工工程が、前記被加工材における前記磁石挿入孔にあたる加工対象箇所のうち、前記第一部位を除いた残り部分である第二部位の打ち抜きについて、前記第一部位に隣接する前記第二部位周りの縁部の所定箇所に、第二部位の側に突出する凸部が形成されるように打ち抜きを行い、
前記凸部が、前記鉄心本体の磁石挿入孔に前記永久磁石を配設した状態における、前記堰き止め部に面する永久磁石の所定面に向かって凸となる配置として、形成されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項9】
鉄心片を複数積層して形成される鉄心本体における、フラックスバリア部のある磁石挿入孔に永久磁石を配設すると共に、前記フラックスバリア部を所定の閉塞部材で塞いだ状態で、前記永久磁石の周囲に磁石固定用の樹脂を配置して、回転電機のコア部を製造する、コア部製造装置において、
前記鉄心片を磁性金属材料製の被加工材から打ち抜くと共に、前記被加工材における前記鉄心片にあたる加工対象箇所のうち、前記フラックスバリア部に対応する所定の第一部位に、前記閉塞部材としての堰き止め部を形成する加工装置と、
前記鉄心本体の磁石挿入孔に、前記永久磁石を挿入配設する挿入装置と、
前記磁石挿入孔のうち、前記永久磁石と、磁石挿入孔周囲の前記鉄心本体及び前記堰き止め部との間の隙間に、前記樹脂を充填する充填装置と、
前記鉄心本体から前記堰き止め部を除去する除去装置とを備え、
前記加工装置が、前記第一部位の略中心部分に、所定形状の貫通孔を設けると共に、前記第一部位のうち前記貫通孔を除いた残りの略環状部分に対し、所定の分離準備加工を施して、前記堰き止め部とし、
前記加工装置は、前記分離準備加工により、前記堰き止め部を、前記除去装置により除去するまで前記鉄心片における堰き止め部以外の他部分に対する連結を維持可能な、不完全分離状態として形成することを
特徴とするコア部製造装置。
【請求項10】
鉄心片を複数積層して形成されてなり、永久磁石を挿入される磁石挿入孔が複数配設される回転電機用の鉄心本体において、
前記磁石挿入孔が、矩形断面形状の永久磁石を挿入配設される磁石配置部と、当該磁石配置部に隣接するフラックスバリア部との組合せからなり、
前記磁石配置部周りの縁部のうち、前記フラックスバリア部に隣接する一の所定箇所に、所定径の丸みを有する隅部が形成され、且つ、磁石配置部周りの縁部のうち、フラックスバリア部に隣接する他の所定箇所に、磁石配置部の側に突出する凸部が形成され、
前記隅部が、前記磁石配置部に前記永久磁石を配設した状態における、永久磁石の角部のうち、前記フラックスバリア部寄りの一方の角部と対向する配置として、形成され、
前記凸部が、前記磁石配置部に前記永久磁石を配設した状態における、前記フラックスバリア部に面する永久磁石の所定面に向かって凸となる配置として、形成されることを
特徴とする鉄心本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の回転子におけるコア部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機といった回転電機の固定子又は回転子において、コイルや永久磁石を配設されるコアには、積層鉄心が一般に用いられる。
こうした積層鉄心のコアへの、コイルや永久磁石の配設にあたっては、従来から様々な工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、回転子のコアの場合、特に、IPM(Interior Permanent Magnet:磁石埋込式)モータの回転子コアの場合、積層鉄心の磁石挿入孔に磁石を挿入固定する構造が採用されていた。こうした構造では、永久磁石を固定する際、磁石挿入孔への永久磁石の挿入後、磁石挿入孔における永久磁石の存在部分を除いた隙間に、溶融し流動性のある状態とした熱硬化性樹脂等の樹脂を注入する。そして、樹脂で隙間を埋めた後、樹脂を固化させることで、永久磁石を固定するようにしていた。
【0004】
一方、積層鉄心の磁石挿入孔については、トルク発生に寄与しない漏れ磁束を抑えるために、フラックスバリア部、すなわち、永久磁石に隣接して磁性材が設けられない領域(空間)を含む構造の採用例が近年増加している。
【0005】
このように磁石挿入孔にフラックスバリア部が含まれる場合、磁石固定用の樹脂が空間であるフラックスバリア部に流入すると、固定に寄与しない樹脂が生じる分、コスト高となる。このため、フラックスバリア部をあらかじめ樹脂型で埋めたり、永久磁石とフラックスバリア部との間に仕切り部材を設けるなどして、樹脂がフラックスバリア部に進入しないようにし、樹脂の無駄な消費を防ぐようにしていた。
こうした従来の回転電機におけるコア製造の一例として、国際公開第2011/077513号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/077513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の回転電機のコアの製造は、前記特許文献に示されるように、積層鉄心の磁石挿入孔に対し樹脂型や仕切り部材を用いてなされるものである。これにより、磁石挿入孔における中空空間(フラックスバリア部)への樹脂の流入を抑えられ、樹脂使用量の増大を防ぎつつ、樹脂でコアと永久磁石を一体化することができた。
【0008】
ただし、こうした従来のコアへの磁石固定のための樹脂注入において、樹脂型や仕切り部材を併用した場合、樹脂注入の前に樹脂型又は仕切り部材を積層鉄心の磁石挿入孔に入れる工程が生じたり、樹脂の固化後に樹脂型を除去する工程が生じることとなる。このため、磁石固定に係る工程数や、樹脂注入で用いる消耗部品点数が増加し、製造コストの増大に繋がるという課題を有していた。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、鉄心本体の磁石挿入孔への樹脂充填にあたり、堰き止め部を鉄心本体と一体に設けて、フラックスバリア部への樹脂進入を防いだ上で、堰き止め部を除去してフラックスバリア部を生じさせるものである。そして、これにより、フラックスバリア部への樹脂進入を効率よく阻止でき、鉄心本体以外の部材の配置も不要にして製造コストの抑制が図れる、コア部製造方法及びコア部製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の開示に係るコア部製造方法は、鉄心片を複数積層して形成される鉄心本体における、フラックスバリア部のある磁石挿入孔に永久磁石を配設すると共に、前記フラックスバリア部を所定の閉塞部材で塞いだ状態で、前記永久磁石の周囲に磁石固定用の樹脂を配置して、回転電機のコア部を製造する、コア部製造方法において、前記鉄心片を磁性金属材料製の被加工材から打ち抜くと共に、前記被加工材における前記鉄心片にあたる加工対象箇所のうち、前記フラックスバリア部に対応する所定の第一部位に、前記閉塞部材としての堰き止め部を形成するプレス加工工程と、前記鉄心本体の磁石挿入孔に、前記永久磁石を挿入配設する磁石挿入工程と、前記磁石挿入孔のうち、前記永久磁石と、磁石挿入孔周囲の前記鉄心本体及び前記堰き止め部との間の隙間に、前記樹脂を充填する樹脂充填工程と、前記鉄心本体から前記堰き止め部を除去する除去工程とを含み、前記プレス加工工程が、前記第一部位の略中心部分に、所定形状の貫通孔を設けると共に、前記第一部位のうち前記貫通孔を除いた残りの略環状部分に対し、所定の分離準備加工を施して、前記堰き止め部とし、前記堰き止め部が、前記分離準備加工により、前記除去工程まで前記鉄心片における堰き止め部以外の他部分に対する連結を維持可能な、不完全分離状態として形成されるものである。
【0011】
このように本発明の開示によれば、プレス加工工程で、鉄心片に対応する被加工材の加工対象箇所に堰き止め部を形成し、鉄心片を積層して得た鉄心本体の磁石挿入孔への樹脂充填工程では、堰き止め部が存在する部位に樹脂を進入させないようにし、除去工程では堰き止め部を除去することにより、樹脂充填後の段階では、永久磁石の周囲にのみ樹脂が存在して永久磁石を固定する一方、堰き止め部のある領域には樹脂が存在せず、除去工程で鉄心本体から堰き止め部を除去すると、孔であるフラックスバリア部を生じさせられることとなり、他の部材を用いることなく樹脂のフラックスバリア部への進入を阻止して、樹脂の使用量増大を招かないと共に、フラックスバリア部のあるコア部製造の効率化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置の概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法のプレス加工工程で加工する被加工材における加工対象箇所の説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法のプレス加工工程における被加工材打ち抜き状態説明図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における磁石挿入工程前の鉄心本体の平面図である。
図5図5(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における磁石挿入工程前の鉄心本体の要部拡大平面図であり、図5(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における磁石挿入工程後の鉄心本体の要部拡大平面図である。
図6図6(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における樹脂充填工程後の鉄心本体の要部拡大平面図であり、図6(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における除去工程後の鉄心本体の要部拡大平面図である。
図7図7(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法により得られたコア部の平面図であり、図7(b)は図7(a)のA-A線断面図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における他のプレス加工工程を経た鉄心片の要部拡大平面図である。
図9図9(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における他のプレス加工工程を経た堰き止め部及び貫通孔の拡大図であり、図9(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法の他のプレス加工工程における一の方向への加工位置ずれ時の堰き止め部形成状態説明図であり、図9(c)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法の他のプレス加工工程における他の方向への加工位置ずれ時の堰き止め部形成状態説明図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係るコア部製造方法における磁石挿入工程後の鉄心本体の要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る回転電機のコア部製造方法を図1図7に基づいて説明する。本実施形態においては、プレス加工で所定形状の鉄心片を得てから、鉄心片を複数積層して鉄心本体を形成し、さらに鉄心本体の磁石挿入孔に永久磁石を配設すると共に、永久磁石を樹脂充填で固定して、回転電機のコア部を製造する方法の例について説明する。
【0014】
各図において本実施形態に係るコア部製造方法は、プレス加工工程と、磁石挿入工程と、樹脂充填工程と、除去工程とを含む。
このうち、プレス加工工程は、磁性金属材料製の被加工材30から鉄心片31を打ち抜くと共に、被加工材30における鉄心片31にあたる加工対象箇所のうち、所定の第一部位33に、堰き止め部40を形成する工程である。
【0015】
また、磁石挿入工程は、鉄心片31を積層して形成された鉄心本体11における磁石挿入孔15に、永久磁石12を挿入配設する工程である。
また、樹脂充填工程は、鉄心本体11の磁石挿入孔15のうち、永久磁石12と、磁石挿入孔15周囲の鉄心本体11及び堰き止め部40との間の隙間に、樹脂13を充填する工程である。
さらに、除去工程は、鉄心本体11から堰き止め部40を除去する工程である。
これら製造方法に含まれるプレス加工工程、磁石挿入工程、樹脂充填工程、及び、除去工程の具体的な内容については後述する。
【0016】
本実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置60は、プレス加工工程を実行する加工装置61と、磁石挿入工程を実行する挿入装置62と、樹脂充填工程を実行する充填装置63と、除去工程を実行する除去装置64とを備えるものである。
【0017】
本実施形態に係るコア部製造方法により製造されるコア部10は、鉄心片31を複数積層して形成される鉄心本体11と、この鉄心本体11の複数の磁石挿入孔15に配設される永久磁石12と、永久磁石固定用の樹脂13とを備える構成である(図7参照)。
このコア部10は、回転電機(電動機や発電機)における回転子の要部としての公知の構造を有するものであり、詳細な説明を省略する。
【0018】
鉄心本体11は、磁性金属材料製の鉄心片31を複数積層して形成される積層鉄心である。この鉄心本体11をなす鉄心片31は、磁性金属材料の帯状体である被加工材30からプレス加工工程を経て打ち抜き形成されるものである。
【0019】
この鉄心本体11は、鉄心片31の積層方向に貫通する、軸孔14及び磁石挿入孔15をそれぞれ設けられる構成である。
鉄心本体11の軸孔14は、鉄心本体11の中央に設けられる貫通孔であり、回転子の回転軸(シャフト)を挿通固定可能とされる。
【0020】
鉄心本体11の磁石挿入孔15は、永久磁石12を挿入可能な孔であり、鉄心本体11の円形の外周に沿う所定の配置で設けられる。この磁石挿入孔15の位置、形状及び数は、回転電機の用途、要求される性能などに応じて適宜設定することができる。
【0021】
磁石挿入孔15は、永久磁石12を位置させる磁石配置部15aと、永久磁石12の漏れ磁束を抑える空間であるフラックスバリア部15bとを含む。
フラックスバリア部15bは、永久磁石12に隣接して磁性材のない領域として存在することで、磁性材とは異なり磁束を制限するよう機能して、永久磁石12のトルク発生に寄与しない漏れ磁束を抑えられる公知の構造であり、詳細な説明を省略する。
【0022】
永久磁石12は、回転子の界磁用として、鉄心本体11の各磁石挿入孔15、詳細には磁石配置部15a、に磁石挿入工程を経て挿入されて配設されるものである。この永久磁石12は、磁石挿入孔15の磁石配置部15aより若干小さく形成されている。このため、永久磁石12を各磁石挿入孔15に挿入すると、永久磁石12と鉄心本体11との間には隙間が生じる。すなわち、永久磁石12を挿入された各磁石挿入孔15は、その一部が空間のまま残る状態となる。このような磁石挿入孔15における永久磁石12を除く残余部分に、樹脂13が充填配置されることとなる。
【0023】
樹脂13は、磁石挿入孔15に、より詳細には、永久磁石12挿入後の磁石配置部15aの残余部分に、溶融状態で送入充填され、充填後に固化して、永久磁石12を固定するものである。樹脂13は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂などであり、樹脂充填工程において、樹脂タブレット又は粉末状の樹脂等として供給された一又は複数種類の樹脂材料を溶融させて、磁石配置部15aに充填される。
【0024】
本実施形態に係るコア部製造方法におけるプレス加工工程は、磁性金属材料の帯状体である被加工材30に対し、加工装置61によりプレス加工を行い、鉄心本体11をなす各鉄心片31を得る工程である。
具体的には、プレス加工工程は、被加工材30における加工対象箇所に対し、加工装置61によるプレス加工で、孔や堰き止め部40等の鉄心片31における各部形状を加工形成する。そして、最終的に、被加工材30から所定形状の鉄心片31を打ち抜くこととなる。
【0025】
プレス加工工程を実行する加工装置61は、帯状体である被加工材30に対し、金型による順送り加工を行う装置である。
加工装置61は、公知の送出装置65により間欠的に搬送される被加工材30に対し、順送り加工を行い、被加工材30の加工対象箇所に回転電機の回転子用鉄心片の各部形状を形成していく。そして、所定の加工段階で鉄心片31を打ち抜く。
【0026】
こうした加工装置61の、間欠的に搬送される被加工材30に対し順送り加工で複数段階の打ち抜き加工を実行する各機構については、順送り加工方式のプレス加工で用いられる公知の装置と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0027】
加工装置61は、順送り加工を実行する機構と共に、打ち抜かれた鉄心片31を積層状態で一時的に保持可能とする公知の機構を有している。鉄心片31は、新たな鉄心片31が打ち抜かれるたびに積層状態を保ちつつ下方に移動していく。積層された鉄心片31の積数(積厚)が規定値に達すると、積層状態の鉄心片31のうち、下部の複数の鉄心片31が、積層状態で所定の移送機構71により次工程へ送り出される仕組みである。
【0028】
この積層状態の複数の鉄心片31は、必要に応じて転積などの調整を加えられた後、一体化した鉄心本体11とされる。なお、加工装置61は、鉄心片31を積層させる中で鉄心片31をかしめ等により一体化し、積層状態の複数の鉄心片31を鉄心本体11としてから送り出すものであってもよい。
【0029】
プレス加工工程は、被加工材30における鉄心片31にあたる加工対象箇所のうち、磁石挿入孔15のフラックスバリア部15bに対応する所定の第一部位33に、堰き止め部40を形成する。
プレス加工工程は、堰き止め部40を形成する前、又は形成と同時に、第一部位33の略中心部分に、所定形状の貫通孔45を設ける。そして、この第一部位33のうち、貫通孔45を除いた残りの略環状部分を堰き止め部40として、所定の分離準備加工を施すこととなる。
【0030】
この分離準備加工は、第一部位33の略環状部分について、打ち抜きで被加工材30の他部分から一旦分離して堰き止め部40を形成すると共に、堰き止め部40をプッシュバックにより被加工材30の元の位置に戻すものである。
【0031】
これにより、堰き止め部40は、鉄心片31上で、除去工程まで、すなわち、堰き止め部40にこれを分離させようとする所定の外力が加わらない間は、鉄心片31における堰き止め部40以外の他部分に対する連結を維持可能な、不完全分離状態とされることとなる。
こうして、堰き止め部40を分離準備加工により鉄心片31の他部分に対し不完全分離状態とすることで、堰き止め部40の除去工程までの確実な保持と、除去工程での除去実行の際における鉄心片他部分からの外れやすさとの両立が図れる。
【0032】
被加工材30の第一部位33に設けられる貫通孔45は、第一部位33の略中心部分に位置しつつ、その一部を第一部位33の外縁の一部まで拡張された孔形状とされる。このため、堰き止め部40は、貫通孔45の拡張部分により貫通孔45を囲む環が途切れ、環の一部が開いた不連続形状とされる。
【0033】
こうして第一部位33の外縁に達する形状の貫通孔45により、堰き止め部40の一部が開いていることで、堰き止め部40と鉄心片31の他部分との接触面積を小さくでき、除去工程で堰き止め部40を分離する際の接触応力を抑えられる。また、除去工程で堰き止め部40に外力を加えたときに堰き止め部40が変形しやすく、鉄心片31の他部分から容易に分離できる。
【0034】
堰き止め部40は、鉄心片31の堰き止め部40以外の他部分に接する外周部と、貫通孔45に面する内周部との間の幅について、幅広部41と幅狭部42を複数有する形状として形成される。そして、堰き止め部40は、貫通孔45周りにおける幅広部41同士の配置間隔を略等間隔とするように形成される。
【0035】
この他、プレス加工工程では、被加工材30における磁石挿入孔15にあたる加工対象箇所のうち、第一部位33を除いた残り部分である第二部位34が、打ち抜かれて孔とされる。この孔が磁石挿入孔15における磁石配置部15aとなる。
【0036】
また、プレス加工工程では、被加工材30における鉄心本体11の軸孔14に対応する第三部位35も、打ち抜かれて孔とされる。この孔の、鉄心片31の積層に伴う重なりにより、軸孔14が得られる。
【0037】
本実施形態に係るコア部製造方法における磁石挿入工程は、鉄心片31を積層して形成された鉄心本体11における磁石挿入孔15に、挿入装置62により永久磁石12を挿入配設する工程である。
【0038】
磁石挿入工程を実行する挿入装置62は、鉄心本体11に対し、あらかじめ保持した永久磁石12を、鉄心本体11の軸方向(鉄心片31の積層方向)から各磁石挿入孔15の磁石配置部15aに挿入することで、鉄心本体11に永久磁石12を配設する装置である。
【0039】
こうした挿入装置62の、鉄心本体11に対し永久磁石12の挿入配設を実行する各機構については、回転電機の回転子や固定子に用いられる積層鉄心の孔に界磁用の永久磁石を挿入配設する公知の装置と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施形態に係るコア部製造方法における樹脂充填工程は、鉄心本体11の磁石挿入孔15のうち、磁石配置部15a周囲の鉄心本体11及び堰き止め部40と、永久磁石12との間の隙間に、充填装置63により樹脂13を充填する工程である。
【0041】
樹脂充填工程を実行する充填装置63は、鉄心本体11をその軸方向両側から挟み込んで開口部を閉塞する閉塞機構と、加熱されて溶融状態となった樹脂を鉄心本体11の磁石挿入孔15に送り出す樹脂供給機構とを備える装置である。
【0042】
こうした充填装置63の、鉄心本体11の磁石挿入孔15に樹脂13を充填するための各機構については、回転電機の回転子や固定子に用いられる積層鉄心の孔や隙間に永久磁石固定用の樹脂を充填する公知の装置と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0043】
樹脂充填工程では、充填装置63の所定箇所に保持された鉄心本体11の軸方向両側に、充填装置63の図示しない閉塞機構をそれぞれ配置し、鉄心本体11の軸方向の開口部を、磁石挿入孔15(磁石配置部15a)の一部を除いて全て閉塞する。
【0044】
こうして充填装置63で鉄心本体11の各開口部を閉塞状態とした後、充填装置63に設けられる図示しない樹脂供給機構の樹脂溜め部に収容保持された樹脂が、樹脂溜め部から押出される。そして、充填装置63により閉じた空間となっている、磁石配置部15a周囲の鉄心本体11及び堰き止め部40と、永久磁石12との間の隙間に、樹脂が注入、充填される。
【0045】
樹脂の注入に際しては、充填装置63の閉塞機構によって、鉄心本体11に対しその軸方向から所定荷重を加え、鉄心本体11とこれに接する充填装置63各部との間が開いて樹脂が漏れ出すことのないようにされることはいうまでもない。
【0046】
注入された樹脂が固化することで、鉄心本体11の磁石挿入孔15に面する内側面と永久磁石12の外周面に接合し一体化した状態の樹脂13が得られ、鉄心本体11の各磁石挿入孔15に永久磁石12を固定した状態となる。
【0047】
本実施形態に係るコア部製造方法における除去工程は、鉄心本体11における堰き止め部40に対し、除去装置64で所定の外力を付加し、鉄心本体11をなす各鉄心片31から堰き止め部40を分離して、鉄心本体11からの堰き止め部40の除去を実行する工程である。
【0048】
詳細には、除去工程では、堰き止め部40のうち、この堰き止め部40の中心付近に存在する部位、すなわち、複数の幅広部41に、除去装置64で鉄心片31の積層方向、すなわち、鉄心片31表面に対し直角となる向きの押圧力を加える。これにより、鉄心片31の堰き止め部40以外の他部分から堰き止め部40を分離し、鉄心本体11から排出、除去することとなる。
【0049】
除去工程を実行する除去装置64は、積層された鉄心片31の除去対象部分をパンチで打ち抜く、又は、押圧部材で押圧することで、まとめて分離除去可能とする公知の装置であり、詳細な説明を省略する。
【0050】
次に、本実施形態に係るコア部製造方法に基づくコア部の製造過程について説明する。
まず、プレス加工工程として、送出装置65により加工装置61に対し間欠的に搬送される被加工材30に対し、加工装置61がその金型を用いて打ち抜く順送り加工を行う。
【0051】
加工装置61による順送り加工は、例えば、鉄心本体11における軸孔14や磁石挿入孔15に対応する各貫通孔の打ち抜き、鉄心片31同士の結合用のかしめ部形成、堰き止め部40の打ち抜きとプッシュバックによる形成等をそれぞれ行う。そして、最終的に鉄心片31を被加工材30から打ち抜いて分離するようにされる。
【0052】
なお、プレス加工工程で、被加工材30に対し堰き止め部40を不完全分離状態とするための分離準備加工として、堰き止め部40の打ち抜きとプッシュバックを行うようにしているが、これに限られるものではない。分離準備加工は、除去工程で堰き止め部に外力を加えると鉄心片から分離可能である一方、それまでは堰き止め部が被加工材の他部分や鉄心片の他部分との連結を維持できる状態(不完全分離状態)が得られるものであれば、他の加工でもかまわない。
【0053】
例えば、堰き止め部の外周にあたる箇所に所定深さの溝(ノッチ)を設けて、連結を維持しつつ分離しやすい状態を得る加工としてもよい。また、堰き止め部の外周にあたる箇所のうち、一部は切曲げと曲げ戻しにより分離した状態とする一方、他部は分離用の溝(ノッチ)を設けて連結を維持する加工とすることもできる。
【0054】
加工装置61は、順送り加工と並行して、打ち抜かれた鉄心片31を重ねて積層状態とする。加工装置61は、鉄心片31を積層状態で一時的に保持し、新たな鉄心片31が打ち抜かれて重なるたびに、鉄心片31を下方に移動させていく。
【0055】
積層された鉄心片31の積数(積厚)が規定値に達すると、加工装置61は、積層状態の鉄心片31のうち、下部の複数の鉄心片31を、一まとまりの積層体として移送機構71に送り出す。
積層状態の複数の鉄心片31は、加工装置61での積層の過程で、又は、加工装置61から送出された後で、一体化されて鉄心本体11となる。
【0056】
鉄心片31を積層する際、堰き止め部40は鉄心片31の他部分に対し、所定以上の外力を加えられない状態では連結を維持できることから、堰き止め部40が鉄心片31の他部分から外れることはない。
【0057】
複数の鉄心片31の一体化により得られた鉄心本体11は、磁石挿入工程に到り、挿入装置62により磁石挿入孔15の磁石配置部15aに永久磁石12を挿入される。
磁石挿入工程では、必要に応じて、鉄心本体11に対し永久磁石12を挿入配設してから、鉄心本体11が永久磁石12と共に予熱されるか、予熱後の鉄心本体11に対し別途予熱された永久磁石12が挿入配設される。樹脂充填に適した温度となった鉄心本体11は、磁石挿入孔15に収められた永久磁石12と共に、公知の移送機構72により樹脂充填工程に送られる。
【0058】
樹脂充填工程では、まず、鉄心本体11が、充填装置63に搬入され、閉塞機構で鉄心本体11を挟持押圧する状態とされる。
一方、充填装置63の樹脂供給機構では、収容保持している樹脂材料が適切なタイミングで加熱され、溶融して溶融樹脂となる。
【0059】
鉄心本体11の積層方向両端面を、閉塞機構で押圧することで、鉄心本体11の積層方向の端部において、磁石挿入孔15の一部を除く開口部を閉塞できる。
この閉塞機構による閉塞で鉄心本体11の各磁石挿入孔15を外部から隔離した状態とした後、樹脂供給機構により樹脂の送入が実行される。
【0060】
溶融樹脂は、樹脂供給機構により鉄心本体11側に押出され、鉄心本体11の磁石挿入孔15へ注入、充填される。樹脂充填後、閉塞機構で鉄心本体11を挟持押圧する状態を維持し、各磁石挿入孔15に位置する溶融樹脂の固化を進行させる。
【0061】
鉄心本体11の磁石挿入孔15のうち、フラックスバリア部15bにあたる位置には、堰き止め部40が存在しているため、注入された樹脂がここに達することはなく、樹脂を確実に永久磁石12の周囲に留められる。
【0062】
溶融樹脂が固化して固化済みの樹脂13になり、永久磁石12が鉄心本体11に固定されたら、閉塞機構による鉄心本体11の挟持押圧を終了させ、鉄心本体11を移送機構73で充填装置63の外に搬出する。充填装置63から搬出された鉄心本体11は、移送機構73により次の除去工程に移送されることとなる。
【0063】
除去工程では、除去装置64が、鉄心本体11の堰き止め部40に対し積層方向の一方からパンチ等で所定の押圧力を加えることで、堰き止め部40を押し抜き、鉄心本体11から除去する。
【0064】
除去装置64からの堰き止め部40への押圧力は、貫通孔45の周りに略等間隔に配置された幅広部41に加わることで、堰き止め部40各部に偏りなく力が加わり、堰き止め部40を鉄心片31の他部分から適切に分離できる。
また、堰き止め部40の幅広部41に外力が付加されると、幅狭部42を起点に堰き止め部40の各部が内方(貫通孔側)に曲がるように変形することとなり、周りの鉄心片31からの分離が促される。
【0065】
さらに、堰き止め部40と、その周りの鉄心片31との連結が、貫通孔45の一部で分断されて、環として連続していないことから、その分、堰き止め部40と周囲間の接触応力を小さくして、押し抜き時の抵抗力を抑えられる。
【0066】
除去装置64により、鉄心本体11から堰き止め部40が除去されると、コア部10が得られる。コア部10は、除去装置64の外に搬出され、移送機構74により次工程に移送されることとなる。
【0067】
このように、本実施形態に係るコア部製造方法においては、プレス加工工程で、鉄心片31に対応する被加工材30の加工対象箇所に堰き止め部40を形成する。そして、鉄心片31を積層して得た鉄心本体11の磁石挿入孔15への樹脂充填工程では、堰き止め部40が存在する部位に樹脂を進入させないようにし、次の除去工程では堰き止め部40を除去する。これにより、樹脂充填後の段階では、永久磁石12の周囲にのみ樹脂13が存在して永久磁石12を固定する一方、堰き止め部40のある領域には樹脂13は存在しない。除去工程で鉄心本体11から堰き止め部40を除去すると、孔であるフラックスバリア部15bを生じさせられる。こうして、他の部材を用いることなく樹脂のフラックスバリア部15bへの進入を阻止して、樹脂の使用量増大を招かないと共に、フラックスバリア部15bのあるコア部10の製造効率化が図れる。
【0068】
なお、本実施形態に係るコア部製造方法において、プレス加工工程の分離準備加工で不完全分離状態とされる堰き止め部40としての略環状部分は、貫通孔45の拡張された一部で環が途切れた形状とされるが、これに限られるものではない。例えば、被加工材の第一部位における中心部のみに貫通孔を設けるようにし、その周りの堰き止め部が環を途切れさせず連続する形状とされてもよい。この場合、図8に示すように、被加工材から打ち抜かれた鉄心片31において、堰き止め部47としての略環状部分は、貫通孔48の周りで環を途切れさせず連続する形状となって、周囲の鉄心片31の他部分に対しもれなく不完全分離状態で連結する。このように、堰き止め部としての略環状部分は、環がその途中で途切れ、環の一部が開いた不連続形状の場合と、環を途切れさせない連続形状の場合の両方を含む。
【0069】
この他、堰き止め部40における、貫通孔45の一部で環が途切れる位置は、フラックスバリア部15bに対応する部位のうち、磁石配置部15aから最も離れた箇所となるようにされているが、これに限らず、磁石配置部に近い箇所となってもかまわない。ただし、磁石配置部には堰き止め部のみが面するようにして、樹脂充填工程で磁石配置部に充填した樹脂が堰き止め部によりフラックスバリア部に対応する領域への進入を阻まれる状態、を確保することはいうまでもない。
【0070】
また、本実施形態に係るコア部製造方法において、樹脂充填工程では、充填装置63の樹脂供給機構に収容保持した樹脂材料を加熱し溶融させて溶融樹脂を得ている。そして、この溶融樹脂を、永久磁石12が既に挿入された磁石挿入孔15に注入、充填して固化させるようにしているが、これに限られるものではない。例えば、鉄心本体11の磁石挿入孔15に対し、永久磁石12の挿入前に未溶融状態のタブレット状や粒状、粉状等の樹脂材料を送入してもよい。その後、永久磁石12を挿入すると共に樹脂材料を溶融させ、溶融した樹脂が磁石挿入孔15各部に適切に位置してから、樹脂を固化させる手順とすることができる。
【0071】
また、本実施形態に係るコア部製造方法において、第一部位33の外縁部分にあたる、堰き止め部40の外周部と、堰き止め部40を途切れさせた貫通孔45の拡張部分における外周部とは、線状に連続させて形成されるが、これに限られるものではない。例えば、第一部位33の中心に対し、図9に示すように、堰き止め部40の外周部より、貫通孔45の拡張部分の外周部が遠位側に位置するようにして、これら二つの外周部間に段差46を生じさせ、外周部同士を線状に連続させない形状とすることもできる。
これにより、プレス加工工程において、堰き止め部40の外周部と、貫通孔45の拡張部分の外周部との境目部分が、貫通孔45を打ち抜くパンチと、堰き止め部40を形成するパンチとにより二回加工される際の、不具合の発生を防止することができる。
【0072】
順送り加工においては、堰き止め部40を形成するパンチの加工位置は、公差等の原因で、被加工材30や既加工済みの貫通孔45に対し相対的にずれることも起こりうる。仮に堰き止め部40の外周部と、貫通孔45の拡張部分の外周部とが線状に連続するよう設定されていると、パンチの加工位置ずれの影響が大きくなる。
【0073】
詳細には、堰き止め部を形成するパンチは、堰き止め部にあたる部位を確実に押して、打ち抜きとプッシュバックによる堰き止め部40の形成が適切に行えるよう、堰き止め部40と貫通孔45の境目を越えて貫通孔45に一部達する大きさとされる(図9(a)のクロスハッチ部参照)。パンチの加工位置がずれても、パンチの堰き止め部40より大きくされた余部66の位置が被加工材30の貫通孔45と重なる範囲にあれば、堰き止め部40の外周部と、貫通孔45の拡張部分の外周部とが線状に連続しなくなるものの、堰き止め部40は機能的には問題ない形状に保たれる。
【0074】
一方、こうしたパンチの堰き止め部40より大きい余部61aの位置が、被加工材30における貫通孔45の周囲部分に掛かるようにずれた場合、実際の加工範囲が、被加工材30の堰き止め部形成に際しての本来の想定範囲の外側にまで及ぶこととなる。このため、堰き止め部40が本来想定されていない余分な部分の付いた不適切な形状となったり、貫通孔45周りにバリが生じるといった不具合に繋がるおそれがある。
【0075】
これに対し、公差等によるパンチのずれを考慮して、先に設ける貫通孔45の拡張部分の外周部が、後に形成する堰き止め部40の外周位置より相対的に外側に位置するようにして、あらかじめ意図的に堰き止め部40の外周部と貫通孔45の拡張部分の外周部との間に段差46を生じさせる(図9(a)参照)。その場合、公差等によりパンチの加工位置がずれたとしても、パンチの堰き止め部40より大きい余部66の位置を、被加工材30の貫通孔45と重なる範囲に留められ、誤った加工状態を回避して、堰き止め部40が不適切な形状になるなどの不具合を未然に防ぐことができる(図9(b)、(c)参照)。
【0076】
また、プレス加工工程で、貫通孔45を先に設け、堰き止め部40を後に形成することで、製造コストの低減が図れる。仮に、堰き止め部40を先に形成する場合、堰き止め部40を形成するために、堰き止め部40の形状に倣った複雑な形状のパンチとダイが必要となる。さらにその後、貫通孔45を打ち抜いて設ける際には、不完全分離状態の堰き止め部40が貫通孔45の打ち抜きに伴って分離しないように、堰き止め部40の形状に倣ったダイを用いて堰き止め部40を支える必要がある。よって、複雑な形状のパンチやダイの必要数が増えてしまう。
【0077】
これに対し、貫通孔45を先に設ける場合には、貫通孔45の打ち抜きに際して、堰き止め部の保護を考慮せずに済む分、簡略化したダイを用いることができる。加えて、後で堰き止め部40を形成する際に用いるパンチやダイは、堰き止め部40と貫通孔45との境目部分で、余部66として貫通孔45側に適宜はみ出した形状にできるなど、貫通孔45の複雑な形状に左右されず、簡略化することができる(図9(a)のクロスハッチ部参照)。
【0078】
(本発明の第2の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部製造方法において、プレス加工工程で被加工材30に鉄心本体11の磁石挿入孔15に対応する孔を設けるにあたって、孔形状は、磁石挿入工程で挿入される永久磁石12の堰き止め部側への接近を特に妨げない形状としている。しかしながら、これに限らず、第2の実施形態として、磁石挿入孔の形状が、これに挿入される永久磁石の堰き止め部側への接近を許容しない形状となるように、プレス加工工程を実行することもできる。
【0079】
プレス加工工程は、被加工材30における磁石挿入孔15にあたる加工対象箇所のうち、第一部位33を除いた残り部分である第二部位34の打ち抜きも行う。この第二部位34の打ち抜きでは、第一部位33に隣接する第二部位34周りの縁部の所定箇所に、所定径の丸みを有する隅部36が形成されるように打ち抜きを行う。また、この第二部位34の打ち抜きにあたっては、第一部位33に隣接する第二部位34周りの縁部の他の所定箇所に、第二部位34の側に突出する凸部37が形成されるように、打ち抜きを行う。
【0080】
隅部36は、鉄心本体11の磁石挿入孔15に永久磁石12を配設した状態における、永久磁石12の角部のうち、堰き止め部40寄りの一方の角部12aと対向する配置として、形成される。
また、凸部37は、鉄心本体11の磁石挿入孔15に永久磁石12を配設した状態における、堰き止め部40に面する永久磁石12の所定面に向かって凸となる配置として、形成される。
【0081】
除去工程で堰き止め部40を除去された鉄心本体11の最終形態においては、隅部36が、鉄心本体11の磁石配置部15a周りの縁部のうち、フラックスバリア部15bに隣接する一の所定箇所に存在する。そして、隅部36は、磁石配置部15aに配設されている永久磁石12の角部のうち、フラックスバリア部15b寄りの一方の角部12aと対向する配置状態にある。また、同様に鉄心本体11の最終形態において、凸部37は、鉄心本体11の磁石配置部15a周りの縁部のうち、フラックスバリア部15bに隣接する他の所定箇所に存在する。そして、凸部37は、磁石配置部15aに配設されている永久磁石12における、フラックスバリア部15bに面する永久磁石12の所定面に向かって凸となる配置状態にある。
【0082】
隅部36は、磁石挿入工程を経て、磁石挿入孔15の磁石配置部15aに位置する永久磁石12における、堰き止め部40寄りの一方の角部12aと対向し、必要に応じて角部12aと接することとなる。
永久磁石12の大きさが、ばらつきにより許容範囲の下限近くに相当するなど、永久磁石12が相対的に小さい場合、磁石配置部15aに対し永久磁石12が回転して位置を変える状態が起り得る(図10参照)。こうして磁石配置部15aに対し永久磁石12が仮に回転しても、永久磁石12の角部12aが隅部36に接することで、永久磁石12が堰き止め部40に接触することを防止できる。
【0083】
凸部37は、磁石挿入工程を経て、磁石挿入孔15の磁石配置部15aに配設された永久磁石12の、磁石配置部15aから堰き止め部40側への動きを止めるストッパーの役割を果たすものである。
この凸部37により、永久磁石12が堰き止め部40に接触することを阻止できる。
なお、凸部37は、永久磁石12が磁石配置部15aに適切に収まって動かない状態を確実に見込める場合は、省略してもかまわない。
【0084】
このように、プレス加工工程で隅部36や凸部37が形成されるように第二部位34の打ち抜きを行うことで、プレス加工工程を経て得られる鉄心片31を積層一体化した鉄心本体11では、その磁石挿入孔15の磁石配置部15aが、永久磁石12を堰き止め部40に接触させない孔となる。これにより、永久磁石12が堰き止め部40に接触した状態で除去工程に進んで、堰き止め部40の除去に永久磁石12が悪影響を与えることを未然に防ぐことができる。
【0085】
特に、永久磁石12の堰き止め部40への接触が起こらないようにしていることで、堰き止め部40と永久磁石12間に接触応力は生じない。そして、除去工程では、堰き止め部40の永久磁石寄り部位では、元々小さい樹脂との間の接触応力のみ生じ得る状態として、除去実行時の堰き止め部40に起因する抵抗力を抑えられる。
【符号の説明】
【0086】
10 コア部
11 鉄心本体
12 永久磁石
12a 角部
13 樹脂
14 軸孔
15 磁石挿入孔
15a 磁石配置部
15b フラックスバリア部
30 被加工材
31 鉄心片
33 第一部位
34 第二部位
35 第三部位
36 隅部
37 凸部
40、47 堰き止め部
41 幅広部
42 幅狭部
45、48 貫通孔
46 段差
60 コア部製造装置
61 加工装置
62 挿入装置
63 充填装置
64 除去装置
65 送出装置
66 余部
71、72 移送機構
73、74 移送機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10