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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007602
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】クリップ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/02 20060101AFI20240112BHJP
   A61B 50/30 20160101ALI20240112BHJP
   F16L 3/12 20060101ALI20240112BHJP
   F16B 2/10 20060101ALI20240112BHJP
   F16B 2/22 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61M25/02
A61B50/30
F16L3/12 G
F16B2/10 Z
F16B2/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108772
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】栗田 朋香
【テーマコード(参考)】
3H023
3J022
4C267
【Fターム(参考)】
3H023AC02
3H023AD22
3H023AD29
3J022EA32
3J022EB14
3J022EC17
3J022EC22
3J022FA05
3J022FB07
3J022FB12
3J022FB15
3J022GA04
3J022GB23
3J022GB56
3J022HB02
3J022HB07
4C267AA01
4C267AA28
4C267AA80
4C267BB06
4C267BB20
4C267CC08
4C267HH07
(57)【要約】
【課題】長尺デバイスの機能の低下を抑えつつ、長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で堅固に保持可能なクリップを提供する。
【解決手段】医療用の長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で保持するクリップ10であって、第1部材20と、第2部材60と、連結部70と、を有し、第1部材20は、開口部23を囲むフレーム24を有し、第1部材20のフレーム24は、上方フレーム30と、下方フレーム40と、上方フレーム30と下方フレーム40との間に配置されて開口部23を挟む2つの側方フレーム50と、を有し、第2部材60は、クリップ10が閉鎖状態であるとき、第1部材20の上方フレーム30の表面の一部に重なる横板61と、下方へ横板61から突出し、厚み方向Xから見て開口部23を分割する縦板62と、を有し、縦板62の突出方向側の一部は、厚み方向Xから見て下方フレーム40に重なる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する医療用の長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で保持するための、表面、裏面および側面を備えたクリップであって、
第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを開閉可能に連結する連結部と、を有し、
前記第1部材は、前記表面に垂直な厚み方向へ貫通する開口部を囲むフレームを有し、
前記第1部材の前記フレームは、上方フレームと、前記開口部を挟んで前記上方フレームの反対側に配置される下方フレームと、前記上方フレームと前記下方フレームとの間に配置されて前記開口部を挟む2つの側方フレームと、を有し、
前記第2部材は、前記第2部材が前記第1部材に対して閉じて前記クリップが閉鎖状態であるとき、前記第1部材の上方フレームまたは側方フレームの表面の少なくとも一部に重なるように配置される横板と、前記上方フレームから前記下方フレームへ向かう方向である下方へ前記横板から突出し、前記厚み方向から見て前記開口部を分割する縦板と、を有し、前記縦板の突出方向側の一部は、前記厚み方向から見て前記下方フレームに重なるクリップ。
【請求項2】
各々の前記側方フレームは、前記表面に前記開口部側から前記側面側まで延び、前記上方フレームに近い側の上方内壁面と、前記下方フレームに近い側の下方内壁面と、前記上方内壁面と前記下方内壁面との間に配置される底面と、を含む第1溝を有し、
前記縦板の突出方向側の端部である縦板先端は、前記閉鎖状態において、各々の前記側方フレームに形成された2つの前記第1溝の前記下方内壁面よりも、前記上方フレームから前記下方フレームへ向かう方向である下方に位置する請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記クリップが閉鎖状態であるとき、前記縦板の前記第1部材と接する側の面である縦板面は、前記厚み方向において、前記第1溝の前記底面と一致する位置に配置される請求項1または2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記第1部材の上方フレームは、前記第2部材の横板を収容可能な第2溝を有し、前記第2溝の深さは、前記第2部材の前記横板の厚みとほぼ等しい請求項1または2に記載のクリップ。
【請求項5】
前記クリップは、前記第1部材と前記第2部材とを閉鎖状態で保持する少なくとも1つの留め部を有する請求項1または2に記載のクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の長尺デバイスをコイル状に保持するクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内治療では、ガイドワイヤやカテーテルなどの様々な医療用の長尺デバイスが使用される。血管内治療の手技中、術者は、ガイドワイヤを体外に抜去し、再び血管内に挿入することがある。体外に抜去されたガイドワイヤは、再挿入されるまでの間、コイル状に巻かれ、液体で満たされた容器内に一時的に保管される。
【0003】
ガイドワイヤの基端部は、剛性および弾性が高い材料で形成されている。これにより、ガイドワイヤは、コイル状に巻かれた状態から直線の状態に戻ろうとし、液体で満たされた容器内から意図せずに飛び出して汚染されてしまうことがある。そのため、ガイドワイヤをコイル状に巻かれた状態で保持する手段が提案されている。
【0004】
特許文献1には、ハンドルで操作可能なヒンジで接続され、閉鎖位置から開放位置へと互いに可動である2つの顎部に設けられた接触表面間に可撓性の長尺デバイスを保持する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0289744号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の装置は、装置が閉鎖位置にあるとき、装置の接触表面と長尺デバイスの外周面との間の摩擦によって長尺デバイスを保持する。しかしながら、長尺デバイスの表面に親水性コーティングが施されている場合、上述の装置で保持した長尺デバイスを液体で満たされた容器内に保管すると、装置の接触表面と長尺デバイスの外周面との間の摩擦が小さくなり、装置の長尺デバイスに対する保持力が低下する。これにより、長尺デバイスは、長尺デバイスの長軸方向や径方向に移動して装置の接触表面間から滑り落ち、コイル状に巻かれた状態から直線の状態に戻って、容器から飛び出す可能性がある。
【0007】
また、上述の装置では、長尺デバイスの保持力向上のために、装置の接触表面と長尺デバイスの外周面との接触面積を大きくする必要がある。しかしながら、装置の接触表面と長尺デバイスの外周面との接触面積を大きくすればするほど、装置の接触表面との接触に起因する長尺デバイスの親水性コーティングの剥離が生じやすくなる。長尺デバイスの親水性コーティングの剥離は、長尺デバイスの表面潤滑性を低下させるため、長尺デバイスの血管内への挿入性や血管内での操作性などの機能を低下させる可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、長尺デバイスの機能の低下を抑えつつ、長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で堅固に保持可能なクリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係るクリップは、可撓性を有する医療用の長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で保持するための、表面、裏面および側面を備えたクリップであって、第1部材と、第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを開閉可能に連結する連結部と、を有し、前記第1部材は、前記表面に垂直な厚み方向へ貫通する開口部を囲むフレームを有し、前記第1部材の前記フレームは、上方フレームと、前記開口部を挟んで前記上方フレームの反対側に配置される下方フレームと、前記上方フレームと前記下方フレームとの間に配置されて前記開口部を挟む2つの側方フレームと、を有し、前記第2部材は、前記第2部材が前記第1部材に対して閉じて前記クリップが閉鎖状態であるとき、前記第1部材の上方フレームまたは側方フレームの表面の少なくとも一部に重なるように配置される横板と、前記上方フレームから前記下方フレームへ向かう方向である下方へ前記横板から突出し、前記厚み方向から見て前記開口部を分割する縦板と、を有し、前記縦板の突出方向側の一部は、前記厚み方向から見て前記下方フレームに重なる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成したクリップは、連結部を閉鎖状態として第1部材の各々の2つの側方フレームに形成される2つの第1溝および第2部材の縦板の3箇所で長尺デバイスを挟むことにより、クリップと長尺デバイスとの接触面積が小さくても、コイル状に巻かれた長尺デバイスのループを保持できる。これにより、クリップは、クリップとの接触に起因する長尺デバイスの親水性コーティングの剥離が生じにくくなるので、長尺デバイスの機能の低下を抑えつつ、長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で堅固に保持できる。
【0011】
各々の前記側方フレームは、前記表面に前記開口部側から前記側面側まで延び、前記上方フレームに近い側の上方内壁面と、前記下方フレームに近い側の下方内壁面と、前記上方内壁面と前記下方内壁面との間に配置される底面と、を含む第1溝を有し、前記縦板の突出方向側の端部である縦板先端は、前記閉鎖状態において、各々の前記側方フレームに形成された2つの前記第1溝の前記下方内壁面よりも、前記上方フレームから前記下方フレームへ向かう方向である下方に位置してもよい。これにより、クリップは、第1部材の各々の2つの側方フレームに接触する長尺デバイスが、第1溝に安定して保持される。このため、クリップは、長尺デバイスをコイル状に巻かれた状態で堅固に保持できる。
【0012】
前記クリップが閉鎖状態であるとき、前記縦板の前記第1部材と接する側の面である縦板面は、前記厚み方向において、前記第1溝の前記底面と一致する位置に配置されてもよい。これにより、クリップは、各々の側方フレームに形成された2つの第1溝の底面および縦板の縦板面の3箇所でコイル状に巻かれた長尺デバイスのループを確実に挟むことができるので、長尺デバイスを堅固に保持できる。
【0013】
前記第1部材の上方フレームは、前記第2部材の横板を収容可能な第2溝を有し、第2溝の深さは、第2部材の横板の厚みとほぼ等しい。これにより、クリップは、閉鎖状態において横板が第2溝に収容された際、クリップの表面が滑らかな平面となるため、クリップが他のデバイスに引っかかることが抑制される。
【0014】
前記クリップは、前記第1部材と前記第2部材とを閉鎖状態で保持する少なくとも1つの留め部を有してもよい。これにより、クリップは、第1部材と第2部材とを閉鎖状態に安定して維持できるため、長尺デバイスを堅固にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るクリップの閉鎖状態を示し、(A)は正面図、(B)は背面図である。
図2】実施形態に係るクリップの閉鎖状態を示し、(A)は図1(A)の矢線Aから見た側面図、(B)は図1(A)のB-B線に沿う断面図である。
図3】実施形態に係るクリップの閉鎖状態を示す斜視図である。
図4】実施形態に係るクリップの開放状態を示す斜視図である。
図5】クリップの変形例を示す側面図である。
図6】クリップの他の変形例を示す正面図である。
図7】クリップのさらに他の変形例を示す断面図である。
図8】クリップのさらに他の変形例を示す図であり、(A)は正面図、(B)は(A)のC-C線に沿う断面図である。
図9】クリップのさらに他の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書における「上」「下」「縦」「横」の表現は、説明のために便宜上使用するものであり、クリップの姿勢を限定するものではない。
【0017】
本実施形態に係るクリップ10は、図3に示すように、ガイドワイヤやカテーテルなどの医療用の長尺デバイス100をループ状に複数回巻いて束ねた状態で保持するために使用される。クリップ10は、例えば、長尺デバイス100を保護しつつ保管、輸送する目的で巻回された管状のホルダーチューブおよび当該ホルダーチューブに収容される長尺デバイス100とともに、収容袋に同梱される。なお、クリップ10は、収容袋に同梱されなくてもよい。
【0018】
クリップ10は、図1~4に示すように、表面21とその反対面である裏面22とを有し、第1部材20と、第1部材20の表面21側に配置される第2部材60と、第1部材20と第2部材60とを開閉可能に連結する連結部70と、を有する。クリップ10は、第2部材60を第1部材20に対して閉じた閉鎖状態とし、第1部材20の2箇所と第2部材60の1箇所の計3箇所で長尺デバイス100を挟むことにより、コイル状に巻かれた長尺デバイス100のループを保持できる。なお、第2部材60を第1部材20に対して閉じた閉鎖状態において、第1部材20の表面と、第2部材60の表面とが、同方向を向いて配置される。
【0019】
クリップ10は、表面21と裏面22との間で薄く板状に形成され、クリップ10の表面21と裏面22とによって構成される外周である側面27を有している。側面27は、表面21および裏面22と直交している。クリップ10は、薄い平板状に形成することで、長尺デバイス100を個包装するための薄い収容袋に同梱することができる。さらに、クリップ10は、長尺デバイス100の収容袋に同梱されても、収容袋の表面を突出させないため、保管や輸送の際の収容袋の破損による長尺デバイス100の汚染が生じ難い。
【0020】
クリップ10は、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂などの樹脂により形成される。
【0021】
(第1部材)
第1部材20は、板状で、表面21から裏面22まで貫通する開口部23を備えたフレーム24を有する。フレーム24は、上方フレーム30と、下方フレーム40と、2つの側方フレーム50と、を有する。各フレーム24は一体に形成され、滑らかに接続する。なお、開口部23が貫通する方向を厚み方向X、厚み方向Xと垂直であって上方フレーム30と下方フレーム40との間で延在する方向を縦方向Y、厚み方向Xおよび縦方向Yと垂直な方向を横方向Zと定義する。上部は、縦方向Yにおいて上方フレーム30が配置される側の部位を意味し、下部は、縦方向Yにおいて下方フレーム40が配置される側の部位を意味する。
【0022】
クリップ10の横方向Zの全幅Eは、10mm以上であって50mm以下である。クリップ10を閉鎖状態とした際の、クリップ10の縦方向Yの全長Dは、10mm以上であって70mm以下である。連結部70を閉鎖状態とした際の第1部材20のフレーム24は、ほぼ一定の厚さTで形成されている。第1部材20のフレーム24の厚み方向Xの厚さTは、好ましくは0.5mm以上であって10.0mm以下である。
【0023】
上方フレーム30は、フレーム24の上部に位置する部位であり、上方フレーム30の上部で連結部70と連結する。上方フレーム30は、表面21の少なくとも一部に第2溝31を有する。第2溝31は、上方フレーム30の横方向Zの中央付近に、縦方向Yへ延びるように形成される。第2溝31は、クリップ10を閉鎖状態とした際に第2部材60を収容するための溝である。第2溝31の横方向Zの幅は、開口部23の横方向Zの幅とほぼ同じかわずかに大きい。
【0024】
下方フレーム40は、フレーム24の下部に位置する部位であり、開口部23を挟んで上方フレーム30の反対側に配置される。下方フレーム40は、第3溝41と、第1留め部42と、を有する。第3溝41は、下方フレーム40に位置する表面21の横方向Zの中央付近に、縦方向Yへ延びるように形成される。第3溝41は、第2部材60の下部(後述する縦板62の下部)を収容するための溝である。第3溝41の横方向Zの幅は、第2部材60の縦板62の下部の横方向Zの幅とほぼ同じかわずかに大きい。
【0025】
第1留め部42は、第1棒状部43と、第1膨隆部44と、を有する。第1棒状部43は、下方フレーム40から下方に延び、第1膨隆部44に接続する。下方とは、縦方向Yにおいて上方フレーム30から下方フレーム40へ向かう方向である。これに対し、上方とは、縦方向Yにおいて下方フレーム40から上方フレーム30へ向かう方向である。第1膨隆部44は、第1棒状部43の延びる方向の端部に設けられている。第1膨隆部44は、球形であるが、矩形などその他の形であってもよい。
【0026】
2つの側方フレーム50は、上方フレーム30と下方フレーム40との間に配置されて、縦方向Yへ延びている。2つの側方フレーム50は、横方向Zに離れて配置されて、開口部23を挟んでいる。2つの側方フレーム50は、表面21に、それぞれ長尺デバイス100のループを収容する第1溝51を有する。第1溝51は、側方フレーム50に位置する表面21に、第1部材20の開口部23側から側面27側まで横方向Zへ延びるように形成される。第1溝51が設けられることにより、クリップ10は、長尺デバイス100のループがフレーム24に沿って縦方向Yに移動することを抑制できる。このため、クリップ10は、コイル状に巻かれた長尺デバイス100を堅固に保持できる。第1溝51の開口部23側で縦方向Yへ延びる第1角部52は、長尺デバイス100のループが接触するため、面取りされていることが好ましい。
【0027】
各々の第1溝51は、上方フレーム30に近い側の上方内壁面53と、下方フレーム40に近い側の下方内壁面54と、上方内壁面53と下方内壁面54との間に配置される底面55とを備える。第1溝51に収容される長尺デバイス100のループは、第1溝51の底面55に接触する。
【0028】
本実施形態において、上方内壁面53は、厚み方向Xから見て、開口部23の上方側の内周面と同一平面上に位置する。また、下方内壁面54は、厚み方向Xから見て、開口部23の下方側の内周面と同一平面上に位置する。すなわち、第1溝51の縦方向Yに沿う長さは、開口部23の縦方向Yに沿う長さと等しい。なお、上方内壁面53は、開口部23の上方側の内周面と同一平面上に位置しなくてもよく、下方内壁面54は、開口部23の下方側の内周面と同一平面上に位置しなくてもよい。
【0029】
各々の第1溝51の底面55は、フレーム24に位置する表面21から厚み方向Xへ所定の深さで形成される。第1溝51の深さは、収容する長尺デバイス100が脱落しないように、長尺デバイス100の外径に応じて設定される。第1溝51の深さは、0.1mm以上であって5.0mm以下である。第1溝51の横方向Zの長さは、1mm以上であって20mm以下である。第1溝51の縦方向Yの最小距離は、長尺デバイス100のループを第1溝51に収容できるように、長尺デバイス100の外径以上であることが好ましい。第1溝51の縦方向Yの最小距離は、0.5mm以上であって30.0mm以下である。第1溝51の縦方向Yの最小距離は、上方内壁面53の最も下方の部位と、下方内壁面54の最も上方の部位の、縦方向Yへの離間距離である。第2溝31および第3溝41の深さは、第1溝51とほぼ等しいが、異なってもよい。
【0030】
(第2部材)
第2部材60は、板状であり、横方向Zに沿って延びる横板61と、クリップ10が閉鎖状態である場合に横板61から縦方向Yに沿って下方に延びる縦板62と、を有する。横板61は、クリップ10が閉鎖状態である場合に、第1部材20の上方フレーム30の第2溝31に収容される。したがって、横板61の横方向Zの幅は、第1部材20の上方フレーム30の第2溝31の横方向Zの幅以下であり、好ましくはほぼ等しい。クリップ10が閉鎖状態である場合に、横板61の厚み方向Xの厚みは、第2溝31の厚み方向Xの深さ以下であり、好ましくはほぼ等しい。これにより、クリップ10が閉鎖状態である場合に、横板61が第2溝31に収容されて、第1部材20の表面と横板61の表面とが同一平面上に位置し、クリップ10の表面21が滑らかな平面となる。
【0031】
縦板62は、横板61から縦方向Yに沿って下方に突出するように形成される。縦板62は、クリップ10が閉鎖状態である場合に、第1部材20の下方フレーム40の第3溝41に収容される。縦板62が第3溝41に収容された際の縦板62の厚み方向Xの厚みは、第3溝41の厚み方向Xの深さ以下であり、好ましくはほぼ等しい。これにより、クリップ10が閉鎖状態である場合に、縦板62が第3溝41に収容されて、第1部材20の表面と縦板62の表面とが同一平面上に位置し、クリップ10の表面21が滑らかな平面となる。クリップ10が閉鎖状態である場合に、縦板62は、厚み方向Xから見て開口部23を横方向Zに均等に2分割する位置に配置される。縦板62は、クリップ10が閉鎖状態である場合に、第3溝41に入り込み第3溝41と接触する、または対向して近接する縦板面68を有する。クリップ10が閉鎖状態である場合に、縦板面68は、厚み方向Xにおいて、第1溝51の底面55と一致する位置に配置される。なお、縦板面68は、厚み方向Xにおいて、第1溝51の底面55と異なる位置に配置されてもよい。
【0032】
縦板62の横方向Zの幅は、開口部23の横方向Zの幅未満である。縦板62の横方向Zの幅は、5mm以上であって40mm以下である。これにより、クリップ10が閉鎖状態である場合に、開口部23が縦板62により完全には塞がれず、開口部23に長尺デバイス100のループを収容できる。
【0033】
横板61および縦板62の厚み方向Xの厚みは、好ましくは0.5mm以上であって10mm未満であり、より好ましくは1.0mmである。
【0034】
クリップ10が閉鎖状態である場合に、縦板62の裏面22側の縦方向Yへ延びる第2角部66は、長尺デバイス100のループが接触するため、面取りされていることが好ましい。
【0035】
縦板62は、連結部70が閉鎖状態である場合に、下方に第2留め部63を有する。第2留め部63は、第1留め部42と横方向Zに異なる位置に設けられている。第1留め部42および第2留め部63は、第1部材20と第2部材60とを固定するために互いに係合する1つの留め部90を構成する。
【0036】
クリップ10が閉鎖状態であるとき、第2部材60の縦板62の突出方向側(下方側)の縦板面68の一部は、第1部材20の下方フレーム40の第3溝41に接触する、または第3溝41に対向して近接する。すなわち、クリップ10が閉鎖状態である場合に、第2部材60の縦板62の突出方向側の一部は、厚み方向Xから見て第1部材20の下方フレーム40に重なる。縦板62の突出方向側の端部である縦板先端67は、閉鎖状態において、各々の側方フレーム50に形成された2つの第1溝51の下方内壁面54よりも下方に位置する。
【0037】
第2留め部63は、第2棒状部64と、第2膨隆部65と、を有する。第2棒状部64は、縦板62から下方に延び、第2膨隆部65に接続する。第2膨隆部65は、第2棒状部64の延びる方向の端部に設けられている。第2膨隆部65の形状は、第1膨隆部44の形状と等しいことが好ましい。すなわち、第2膨隆部65は、球形であるが、矩形などその他の形であってもよい。また、第2膨隆部65の形状は、第1膨隆部44と異なる形状であってもよい。
【0038】
第2留め部63は、クリップ10が閉鎖状態である場合に、第1留め部42と横方向Zに異なる位置に設けられている。具体的には、閉鎖状態のクリップ10を厚み方向Xから見たとき、第1留め部42の第1膨隆部44と第2留め部63の第2膨隆部65は、少なくとも一部が重なるような位置に配置されている。クリップ10を閉鎖状態とするために、第1部材20と第2部材60とを近づけると、第1膨隆部44と第2膨隆部65が接触する。この状態で、第1膨隆部44と第2膨隆部65を指でつまんで捻るように移動させ、第1棒状部43と第2棒状部64とを厚み方向Xへ交差させることにより、第1棒状部43と第2棒状部64とが弾性的に変形しつつ、第1膨隆部44と第2膨隆部65との位置関係が厚み方向Xへ入れ替わり、第1膨隆部44と第2膨隆部65とが接触する。これにより、第1留め部42と第2留め部63が、いわゆるがま口構造を形成し、互いに引っ掛かることで、離間しないように固定できる。
【0039】
(連結部)
連結部70は、第1部材20と第2部材60とを開閉可能に連結する。連結部70は、図4に示すように、第1部材20および第2部材60と一体的に形成されており、第1部材20と第2部材60との間を折り曲げ可能とする。具体的には、連結部70は、第1部材20と第2部材60との間で、横方向Zに延びる厚みの薄い部分を有する。クリップ10が開放状態である場合に、第1部材20と第2部材60とは、連結部70を挟んで反対側に、同一平面上に位置するように配置される。なお、クリップ10が開放状態である場合に、第1部材20と第2部材60とは、連結部70を挟んで反対側に、同一平面上に位置するように配置されなくてもよい。
【0040】
なお、連結部70の構造は、第1部材20と第2部材60とを開閉可能に連結できれば、特に限定されない。例えば、連結部70は、図5に示す変形例のように、可撓性を有する樹脂によりループ状に形成されてもよい。また、連結部70は、第1部材20および第2部材60と一体的でなくてもよい。また、連結部70は、ばねを有するヒンジ構造でもよい。この場合は、ばねによって生じる力によって第1部材20と第2部材60とを接触させて、コイル状に巻かれた長尺デバイス100のループを保持できる。連結部70の構造がばねを有するヒンジ構造である変形例の場合には、第1部材20と第2部材60とを固定する留め部90は設けられなくてもよい。
【0041】
次に、本実施形態に係るクリップ10の使用方法を説明する。
【0042】
術者は、血管内治療の手技中に、一旦体外に抜去した長尺デバイス100(例えば、ガイドワイヤ)を血管内に再挿入するために、液体で満たされた容器内に一時的に保管する場合がある。このとき、術者は、血管から抜去した長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で保持するために、クリップ10を使用する。術者は、体外に抜去した長尺デバイス100をコイル状に巻き取る。これにより、長尺デバイス100に、複数のループが形成される。なお、クリップ10は、長尺デバイス100の先端部が患者の血管内に挿入された状態の長尺デバイス100の基端部をコイル状に巻かれた状態で保持する場合にも使用できる。
【0043】
次に、術者は、図4に示すように、クリップ10を開放状態とし、長尺デバイス100のループを、第1部材20の2つの第1溝51に配置する。次に、術者は、図1~3に示すように、第2部材60が第1部材20の上に重なるように連結部70を折り曲げて、長尺デバイス100のループを第1部材20と第2部材60との間に挟むように配置する。次に、術者は、第1部材20と第2部材60とを、第1留め部42および第2留め部63により固定する。これにより、クリップ10は、閉鎖状態となり、第1部材20の2つの第1溝51および第2部材60の縦板62の3箇所で、長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で保持する。このとき、クリップ10は、第1部材20の一方の第1溝51の底面55、第2部材60の縦板62の裏面22、第1部材20の他方の第1溝51の底面55の順に、長尺デバイス100の外周面に交互に片側から接触して、長尺デバイス100を保持している。このように構成したクリップ10は、長尺デバイス100を2つの接触表面で両側から挟んで保持する場合と比較して、長尺デバイス100の長軸方向(クリップ10の横方向Z)への移動やクリップ10の縦方向Yへの移動が生じにくいため、コイル状に巻かれた長尺デバイス100のループがほどけにくい。これにより、クリップ10は、長尺デバイス100の外周面との接触面積が小さくとも、十分な保持力を有することができる。したがって、クリップ10は、長尺デバイス100の機能の低下を抑えつつ、長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で堅固に保持できる。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る態様(1)のクリップ10は、可撓性を有する医療用の長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で保持するための、表面21、裏面22および側面27を備えたクリップ10であって、第1部材20と、第2部材60と、第1部材20と第2部材60とを開閉可能に連結する連結部70と、を有し、第1部材20は、表面21に垂直な厚み方向Xへ貫通する開口部23を囲むフレーム24を有し、第1部材20のフレーム24は、上方フレーム30と、開口部23を挟んで上方フレーム30の反対側に配置される下方フレーム40と、上方フレーム30と下方フレーム40との間に配置されて開口部23を挟む2つの側方フレーム50と、を有し、第2部材60は、第2部材60が第1部材20に対して閉じてクリップ10が閉鎖状態であるとき、第1部材20の上方フレーム30(または側方フレーム50)の表面の少なくとも一部に重なるように配置される横板61と、上方フレーム30から下方フレーム40へ向かう方向である下方へ横板61から突出し、厚み方向Xから見て開口部23を分割する縦板62と、を有し、縦板62の突出方向側の一部は、下方フレーム40に接触する。
【0045】
上記のように構成したクリップ10は、クリップ10を閉鎖状態として第1部材20の各々の2つの側方フレーム50および第2部材60の縦板62の3箇所で長尺デバイス100を挟むことにより、クリップ10と長尺デバイス100との接触面積が小さくても、コイル状に巻かれた長尺デバイス100のループを保持できる。これにより、クリップ10は、クリップ10との接触に起因する長尺デバイス100の親水性コーティングの剥離が生じにくくなるので、長尺デバイス100の機能の低下を抑えつつ、長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で堅固に保持できる。
【0046】
態様(2)のクリップ10は、態様(1)のクリップ10において、各々の側方フレーム50は、表面に開口部23側から側面27側まで延び、上方フレーム30に近い側の上方内壁面53と、下方フレーム40に近い側の下方内壁面54と、上方内壁面53と下方内壁面54との間に配置される底面55と、を含む第1溝51を有し、縦板62の突出方向側の端部である縦板先端67は、閉鎖状態において、各々の側方フレーム50に形成された2つの第1溝51の下方内壁面54よりも、上方フレーム30から下方フレーム40へ向かう方向である下方に位置する。これにより、クリップ10は、第1部材20の各々の2つの側方フレーム50に接触する長尺デバイス100が、第1溝51に安定して保持される。このため、クリップ10は、長尺デバイス100をコイル状に巻かれた状態で堅固に保持できる。
【0047】
態様(3)のクリップ10は、態様(1)または(2)のクリップ10において、クリップ10が閉鎖状態であるとき、縦板62の第1部材20と接する側の面である縦板面68は、厚み方向Xにおいて、第1溝51の底面55と一致する位置に配置される。これにより、クリップ10は、各々の側方フレーム50に形成された2つの第1溝51の底面55および縦板62の縦板面68の3箇所でコイル状に巻かれた長尺デバイス100のループを確実に挟むことができるので、長尺デバイス100を堅固に保持できる。
【0048】
態様(4)のクリップ10は、態様(1)~(3)のいずれか1つのクリップ10において、第1部材20の上方フレーム30は、第2部材60の横板61を収容可能な第2溝31を有し、第2溝31の深さは、第2部材60の横板61の厚みとほぼ等しい。これにより、クリップ10は、閉鎖状態において横板61が第2溝31に収容された際、クリップ10の表面21が滑らかな平面となるため、クリップ10が他のデバイスに引っかかることが抑制される。
【0049】
態様(5)のクリップ10は、態様(1)~(4)のいずれか1つのクリップ10において、第1部材20と第2部材60とを閉鎖状態で保持する少なくとも1つの留め部90を有する。これにより、クリップ10は、第1部材20と第2部材60とを閉鎖状態に安定して維持できるため、長尺デバイス100を堅固に保持できる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図6に示す他の変形例のように、クリップ10は、上方フレーム30に対して上方側に配置される付加フレーム25を有してもよい。付加フレーム25と上方フレーム30との間には、厚み方向Xへ貫通する付加開口部26が形成されている。付加フレーム25は、ホルダーチューブ110を保持するホルダークリップ111に連結可能である。
【0051】
また、図7に示す変形例のように、留め部90は、クリップ10の閉鎖状態において第2部材60の下方に配置されて第1部材20に引っ掛かるように弾性的に変形可能なフック91と、第1部材20の下方に配置されてフック91が引っ掛かる係合部92と、を有してもよい。すなわち、クリップ10は、留め部90がフック91と係合部92によるスナップフィットであってもよい。
【0052】
また、図8に示すさらに他の変形例のように、クリップ10は、複数個所に留め部90を有してもよい。留め部90の1つは、第2部材60の縦板62の下方および第1部材20の下方フレーム40を連結し、留め部90の他の2つは、第2部材60の横板61の両側の側方および第1部材20の両側の側方フレーム50を連結する。各々の留め部90は、例えば、フック91と係合部92により形成されるが、留め部90の構成は限定されない。また、留め部90の数も、限定されない。また、第2部材60の横板61の横方向Zの長さは、第1部材20のフレーム24の横方向Zの長さと等しくしてもよい。この場合、側方フレーム50の第1溝51は、上方内壁面53が第2部材60の横板61の上部の面と同一平面上に位置するように形成される。これにより、クリップ10を閉鎖状態としたとき、横板61の側部が第1溝51の溝内に収容される。クリップ10は、閉鎖状態において、クリップ10の表面21が滑らかな平面となるため、クリップ10が他のデバイスに引っかかることが抑制される。また、横板61が重なることが可能な上方部分56の厚みを、第1溝51の下方部分57の厚みよりも薄くしてもよい。これにより、術者は、クリップ10の開放状態において長尺デバイス100を第1部材20の第1溝51に配置する際、長尺デバイス100を配置する場所である第1溝51の下方部分57と、横板61の側部を配置する場所である第1溝51の上方部分56とを、クリップ10の表面21側から容易に区別できるため、第1溝51に長尺デバイス100を配置しやすい。
【0053】
また、クリップ10は、図9に示すさらに他の変形例のように、他の対象物に固定するための固定機構120を有してもよい。他の対象物は、例えば、コイル状に巻かれた長尺デバイス100を保管するための液体を満たした容器(ステンレス製のバット)、手術用のドレープ、または手術台である。これにより、クリップ10は、保持する長尺デバイス100の手術台などからの落下を防止できる。固定機構120は、固定部材121と接続部材122とを有する。固定部材121は、クリップ10を他の対象物に固定可能な部位であり、他の対象物を挟むことが可能な部材や、他の対象物に貼付可能な接着面を有するプレートなどである。接続部材122は、固定部材121とフレーム24とを接続する部材であり、例えば、付加フレーム25を篏合可能な凹部を有する。
【0054】
また、クリップ10は、第1部材20の第1溝51および/または縦板62の縦板面68の少なくとも一部に、柔軟に変形可能な圧縮部材130を有してもよい。これにより、クリップ10と長尺デバイス100の外周面との接触面積が増加するため、コイル状に巻かれてクリップ10に保持された長尺デバイス100のループがほどけることをより効果的に抑制できる。圧縮部材130は、例えば、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂など可撓性を有する樹脂で形成される。圧縮部材130は、発泡体やスポンジ等の多孔質体であってもよい。
【0055】
また、第1留め部42および第2留め部63は、がま口構造に限定されず、例えば、第1棒状部43および第2棒状部64が、柔軟に変形可能であって交差するように引っ掛かる構造であってもよい。
【0056】
また、第2部材60の横板61は、第1部材20の上方フレーム30ではなく、側方フレーム50に重なってもよい。また、第1部材20は、第1溝51、第2溝31および第3溝41を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 クリップ
20 第1部材
21 表面
22 裏面
23 開口部
24 フレーム
25 付加フレーム
26 付加開口部
27 側面
30 上方フレーム
31 第2溝
40 下方フレーム
41 第3溝
42 第1留め部
43 第1棒状部
44 第1膨隆部
50 側方フレーム
51 第1溝
53 上方内壁面
54 下方内壁面
55 底面
60 第2部材
61 横板
62 縦板
63 第2留め部
64 第2棒状部
65 第2膨隆部
67 縦板先端
68 縦板面
70 連結部
90 留め部
100 長尺デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9