(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076023
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】位相同期ループ回路
(51)【国際特許分類】
H03L 7/099 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
H03L7/099 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187360
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】308005648
【氏名又は名称】キュリアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼河 武文
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106CC01
5J106CC21
5J106CC41
5J106DD32
5J106EE19
5J106GG01
5J106HH10
5J106KK23
5J106KK27
5J106KK29
5J106LL01
5J106SS03
(57)【要約】
【課題】少ない回路面積の増加で位相同期ループ回路の耐放射線性能を向上させる。
【解決手段】それぞれがm段の遅延素子11からなり、平面視ループ形態のn個のリング発振ループ12と、各リング発振ループ12の遅延素子11の接続点において互いに対応するn個の前記接続点同士を接続し且つ入出力特性が正転であるm×
nC
2個の結合素子13と、前記接続点からの第1クロックが入力され1個を出力クロックとして選択する選択回路17と、選択回路17からの出力クロックをフィードバックした帰還クロックと基準クロックとを比較する比較回路とを備え、n個のリング発振ループ12は共通のバイアス回路16により制御され、選択回路17は、入力されるn個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も遅いタイミングの第1クロックに準じて出力される
nC
k個の第2クロックのうち、最も早いタイミングに準じて出力クロックを出力する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがm段の遅延素子(11)からなり、平面視ループ形態のn個のリング発振ループ(12)と、前記各リング発振ループ(12)の前記遅延素子(11)の接続点において互いに対応するn個の前記接続点同士を接続し且つ入出力特性が正転であるm×nC2個の結合素子(13)と、前記互いに対応するn個の前記接続点からの第1クロックが入力されて1個を出力クロックとして選択する選択回路(17)と、前記選択回路(17)からの出力クロックをフィードバックした帰還クロックと基準クロックとを比較する比較回路とを備え、前記n個の前記リング発振ループ(12)は共通のバイアス回路(16)により制御されており、前記選択回路(17)は、入力されるn個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も遅いタイミングの前記第1クロックに準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も早いタイミングに準じて前記出力クロックを出力するようにした位相同期ループ回路。
【請求項2】
前記選択回路(17)を、入力される前記n個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も早いタイミングの信号に準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も遅いタイミングに準じて前記出力クロックを出力するようにした請求項1に記載の位相同期ループ回路。
【請求項3】
前記リング発振ループ(12)の結合素子(13)の結合強度が可変である請求項1または2に記載の位相同期ループ回路。
【請求項4】
前記遅延素子(11)の入出力を差動にした請求項1または2に記載の位相同期ループ回路。
【請求項5】
前記遅延素子(11)または前記結合素子(13)の少なくとも一方におけるNMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも高い電位を印加した拡散層を配した請求項1または2に記載の位相同期ループ回路。
【請求項6】
前記遅延素子(11)または前記結合素子(13)の少なくとも一方におけるPMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも低い電位を印加した拡散層を配した請求項1または2に記載の位相同期ループ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線の照射などの外乱に対する耐性を高めた位相同期ループ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の電子機器には、ほぼすべてに半導体集積回路(IC)が搭載されている。半導体ICは、その性能とコストで電子機器の高性能化と小型化を支えてきた。また、電子機器のデジタル化に伴い、最近の半導体ICは大規模のデジタル回路を備えており、様々な演算処理を高速に行えるのである。この演算処理を行うデジタル回路は、半導体内部で生成されるクロックに同期して動作しており、このクロックを高速化することによって高性能なデジタル演算を可能にしてきた。半導体IC内のクロックの生成には、通常は位相同期ループ回路(Phase Lock Loop:PLL)が用いられている。このPLLは、周期的なクロック信号を生成する発振器(オシレータ)を備えており、このオシレータの発振周波数をフィードバック制御によって所望の周波数に調整している。これにより、安定した周波数のクロックをデジタル回路に供給し、高度なデジタル演算処理を実現しているのである。
【0003】
ところで、近年は人工衛星などの宇宙機器にもたくさんの電子機器が搭載されており、その中にICが使用されている。人工衛星は、一度打ち上げると部品の修理は不可能であるので、民生機器以上の信頼性が当然ながら求められる。この宇宙機器における信頼性に関する大きな懸念事項は耐放射線性能であり、宇宙空間での放射線の種類と量の多さから民生機器と比較して非常に高いレベルが求められるのである。
【0004】
放射線照射によるICへの影響の一つに、シングルイベント効果(Single Event Effect、以下SEEという。) がある。シングルイベント効果とは、高エネルギー粒子がIC内に入射することによって発生する現象である。宇宙空間に存在する陽子、中性子、α線、重イオンなどが発生要因として挙げられる。高エネルギー粒子が半導体IC100に入射すると、
図1(a)に示すように、電離作用により軌跡に沿って電子正孔対が生成され、空乏層の外まで電界が拡がる。そして、
図1(b)に示すように、空乏層内で発生した電子及び正孔は、空乏層電界により拡散領域に収集される。さらに、電界が拡がったことによって空乏層外で発生した電子及び正孔も拡散領域に収集される。この現象をファネリング効果と呼び、高エネルギー粒子による異常電荷収集の最大の原因と考えられている。
【0005】
この電荷の収集においては、空乏層内で正孔が電位の低いところへ、電子が電位の高いところへそれぞれ移動する。
図1(a)(b)は、NMOSトランジスタの例を示しており、生成された正孔は、グランド電位(VSS)に接続されているソースのn+拡散層とp型の基板をVSSに接続しているp+拡散領域(図示せず)に収集される。また、電子は高い電位の方に収集されるため、
図1(b)におけるドレインのn+拡散層に収集される。ソースのn+拡散層は、通常はドレインのn+拡散層より低い電位となるので、電子は主にドレイン拡散層に収集されることになる。
【0006】
なお、ここで言う放射線とは、粒子の流れであるα線、β線、中性子線や、電磁波であるγ線、エックス線を当然に含んでいるが、加えて半導体集積回路内でキャリア(電子および正孔)を発生させる原因となる外乱を広く含む概念である。
【0007】
このキャリアの収集によっておこるシングルイベント効果について説明する。
図2は、NMOSとPMOSのドレインとゲート同士をそれぞれ接続するとともに、NMOSとPMOSのソースをそれぞれVSSと電源に接続したCMOSインバータ101を示している。このインバータ構成は、CMOSデジタル回路のもっとも基本となる素子構造であり、本図では入力(IN)がVSS電位(=0)に、出力(OUT)が電源電位(=1)の状態になっている。
図2に示すように、空乏層内でVSSとドレイン拡散層にそれぞれ移動した正孔と電子は、正孔がVSSに収集され、電子が当該ドレイン拡散層からPMOSのドレイン(p+拡散層)及びゲート下のチャネルを介してPMOSのソース(p+拡散層)に到達し電源に収集される。このキャリアの一連のVSSと電源への移動によって、電源からグランドにドリフト電流が流れる(
図2中に示す太字矢印を参照)。この瞬時電流が流れることによって、瞬間的にインバータの出力(OUT)が1から0に変化する。これがシングルイベントトランジェント(SET)である。このSETによって、一時的にデジタル回路の論理が変わってしまうので、半導体IC内で誤動作が発生してしまうのである。上記の瞬時的なドリフト電流を、ここではSET電流と呼ぶ。
【0008】
図3に一般的な位相同期ループ回路102(PLL)のブロック図を示す。PLL102は、次の5つの回路ブロック、すなわち、i)位相周波数比較器(Phase/Frequency Detector:PFD)103、ii)チャージポンプ(Charge Pump:CP)104、iii)ループフィルタ(Loop Filter:LF)105、iv)電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)106、v)分周回路(Frequency Devider:FD)107で構成されている。PLL102は、出力クロックをフィードバック制御することによって、安定した周波数のクロックを生成する。またFD107の比の値を変化させることで出力クロックの周波数を変化させることができる。
【0009】
PLL102の動作は、まずPFD103で基準クロック(CLKref)とフィードバッククロック(CLKdiv)の位相比較を行う。比較した位相差をCP104によって電流(Icp)に変換する。その後、LF105により平滑化し、その平滑化された電圧信号(Vctrl)を制御電圧としてVCO106にてクロックとして信号を出力する。この出力クロック(CLKout)は、FD107にて分周されるので、FD107の比を変えることにより周波数を変化させることができるのである。
【0010】
ここで、放射線のPLL102への影響を検討すると、上記5ブロック中では、VCO106への放射線の照射が最も影響が大きい。なぜなら、VCO106は発振器であり、そこにSET電流が外乱として印加されると、周波数そのものが変化してしまうからである。
【0011】
VCO106には、一般的にリングオシレータ108が用いられる。リングオシレータ108は、
図4に示すように、奇数段(本図では5段)のインバータ109をリング状に接続し、反転した論理信号をフィードバック入力することで発振を実現している。つまり、1段のインバータ109の遅延時間をτ1とし、段数をN(本図では5)とすると、発振周期Tは、2N×τ1となり、その逆数、1/(2N×τ1)が発振周波数fとなる。また、この発振周波数fは、
図5に示すように、電圧制御発振器(VCO)におけるリングオシレータ108へ供給する制御電流Ictrlの増減によりインバータ109の遅延時間τ1を変更することにより制御できるようになっており、その制御電流Ictrlは、制御電圧Vctrlにより調整可能となっている。これらにより、VCO106においては、制御電圧Vctrlにより周波数fが制御可能となるのである。
【0012】
耐放射線用のPLL102に関しては、下記非特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Robert L, Shuler, Jr, “SEU/SET Tolerant Phase-Locked-Loops”, NASA, April, 1, 2010, https://ntrs.nasa.gov/search.jsp?R=20100017265
【0014】
非特許文献1では、
図6に示すように、同一のPLL102を3個用意し、同一周波数で発振させて、それらの出力クロックを後段で適宜選択するようにしている。このようにすると、放射線の照射により、いずれかのPLL102の発振周波数が変動しても、他の2つのPLL102の発振周波数には変化がないため、多数決(Voting)により他の2つのPLL102のクロックが選択されるようにすることによって、放射線の影響を回避できるのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
非特許文献1に記載の冗長構成では、チップ内でのPLL102の面積を3倍としてしまうので、コスト的に不利である。しかも、近年では、民間で人工衛星を打ち上げており、宇宙用途といえどもコスト意識が非常に高まっているので、上記のような冗長構成は是非とも避けたい。
【0016】
そこで、この発明は、複数のPLL102を用いることなく耐放射線性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明は、それぞれがm段の遅延素子からなり、平面視ループ形態のn個のリング発振ループと、前記各リング発振ループの前記遅延素子の接続点において互いに対応するn個の前記接続点同士を接続し且つ入出力特性が正転であるm×nC2個の結合素子と、前記互いに対応するn個の前記接続点からの第1クロックが入力されて1個を出力クロックとして選択する選択回路と、前記選択回路からの出力クロックをフィードバックした帰還クロックと基準クロックとを比較する比較回路とを備え、前記n個の前記リング発振ループは共通のバイアス回路により制御されており、前記選択回路は、入力されるn個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も遅いタイミングの前記第1クロックに準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も早いタイミングに準じて前記出力クロックを出力するようにして位相同期ループ回路を構成した。
【0018】
このようにすると、n個のリング発振ループが発振するが、互いに対応するn個の接続点同士を入出力特性が正転な結合素子により接続されており、これらn個の接続点からの第1クロックが選択回路で1個の出力クロックになり、その出力クロックをフィードバックした帰還クロックが比較回路で基準クロックと比較され、さらにリング発振ループは共通のバイアス回路により制御されているので、n個のリング発振ループにおいて互いに対応する接続点がほぼ同じタイミングになるようにそれぞれ同じ周波数で発振する。このために、ほぼタイミングが揃ったn個の第1クロックを生成することができる。そして、選択回路は、入力されるn個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も遅いタイミングの第1クロックに準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も早いタイミングに準じて出力クロックを出力する。
【0019】
つまり、高エネルギー粒子がn個のリング発振ループのうちの1個に衝突して、SET電流により、そのリング発振ループからの第1クロックが遅れたとすると、この遅れた第1クロックを含む組合せの第2クロックがつられて遅れることとなる。しかし、当該遅れた第1クロックを含まない組合せの第2クロックに遅れは発生しない。そして、上記の出力ロックは、第2クロックのうち最も早いタイミングで出力されるのであるから、この出力クロックに当該遅れた第1クロックの影響は表れないのである。
【0020】
また、SET電流により第1クロックが進んだとすると、この進んだ第1クロックを含み組合せの第2クロックは影響を受けない。なぜなら、最も遅いタイミングの第1クロックに準じて第2クロックが出力されるからである。
【0021】
このように、高エネルギー粒子によるSET電流によりリング発振ループからのクロックの出力タイミングに変動が起こったとしても、最終的に選択回路から出力されるクロックには影響が表れないのである。また、この出力クロックをフィードバックした帰還クロックが比較回路で基準クロックと比較されるので、PLLの動作も高エネルギー粒子の影響を受けず安定する。したがって、複数のPLLを用いることなく耐放射線性能を向上させることができる。
【0022】
前記構成においては、前記選択回路を、入力される前記n個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も早いタイミングの信号に準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も遅いタイミングに準じて前記出力クロックを出力するようにすることができる。
【0023】
このように、選択回路が、入力されるn個の第1クロックにおけるk個(n>k)を組み合わせた場合に最も早いタイミングの第1クロックに準じて出力されるnCk個の第2クロックのうち、最も遅いタイミングに準じて出力クロックを出力するようにした場合は、SET電流により第1クロックが遅れたとしても、第2クロックは最も早い第1クロックに準ずるので影響を受けない。また、第1クロックが進んだ場合は、その進んだ第1クロックを含む組合せの第2クロックがつられて進むこととなる。しかし、当該進んだ第1クロックを含まない組合せの第2クロックに進みは発生しない。そして、上記の出力ロックは、第2クロックのうち最も遅いタイミングで出力されるのであるから、この出力クロックに当該進んだ第1クロックの影響は表れないのである。したがって、選択回路からの出力クロックに影響は表れないし、PLLの動作も安定するのである。
【0024】
前記のすべての構成においては、前記リング発振ループの結合素子の結合強度が可変であるようにすることができる。
【0025】
このように、結合素子の結合強度を可変にすると、リング発振ループ同士の結合強度を実際の実験等で変化させて、最も安定する強度に設定することができるようになる。
【0026】
前記のすべての構成においては、前記遅延素子の入出力を差動にすることができる。
【0027】
このように、遅延素子の入出力を差動にすると、リング発振ループの段数mが奇数でも偶数でも発振するようになるので設計の自由度が向上する。
【0028】
前記のすべての構成においては、前記遅延素子または前記結合素子の少なくとも一方におけるNMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも高い電位を印加した拡散層を配することができ、また、前記遅延素子または前記結合素子の少なくとも一方におけるPMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも低い電位を印加した拡散層を配することができる。
【0029】
このように、遅延素子もしくは結合素子の少なくとも一方におけるNMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも高い電位を印加した拡散層を配した場合は、その拡散層の方に吸い寄せられる電子数の分だけドレインに吸収される電子数が減少するのでSET電流が減少して高エネルギー粒子の衝突の影響を緩和できる。また、前記遅延素子もしくは結合素子の少なくとも一方におけるPMOSトランジスタのドレインの近傍に、そのドレインよりも低い電位を印加した拡散層を配した場合は、その拡散層の方に吸い寄せられる正孔数の分だけドレインに吸収される正孔数が減少するのでSET電流が減少して高エネルギー粒子の衝突の影響を緩和できる。
【発明の効果】
【0030】
この発明に係る位相同期ループ回路によれば、高エネルギー粒子によるSET電流によりリング発振ループからのクロックの出力タイミングに変動が起こったとしても、最終的に選択回路から出力されるクロックには影響が表れない。また、この出力クロックをフィードバックした帰還クロックが比較回路で基準クロックと比較されるので、PLLの動作も高エネルギー粒子の影響を受けず安定する。したがって、複数のPLLを用いることなく耐放射線性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】半導体IC(NMOS)に放射線を照射した状態を示す模式図であって、(a)は電離作用による電子正孔対の発生、(b)は電荷の収集
【
図2】CMOSインバータにおけるシングルイベント効果を示す模式図
【
図3】一般的な位相同期ループ回路(PLL)のブロック図
【
図6】従来の耐放射線位相同期ループ回路(PLL)の回路図
【
図7】この発明に係るリングオシレータの第1実施例を示す回路図
【
図10】本発明の電圧制御発振器(VCO)の回路図
【
図12】抵抗で結合したリングオシレータと選択回路の回路図
【
図14】選択用インバータの第1の実施形態の回路図
【
図15】選択回路の第1の実施形態の動作説明図(遅れの場合)
【
図16】選択回路の第1の実施形態の動作説明図(進みの場合)
【
図18】外乱電流を印加したときの発振周波数と周波数変動幅の関係を示す図
【
図20】選択回路の第2の実施形態の動作説明図(遅れの場合)
【
図21】選択回路の第2の実施形態の動作説明図(進みの場合)
【
図23】差動方式の遅延素子のシングル方式バッファへの置き換えの説明図
【
図24】差動方式の遅延素子のシングル方式インバータへの置き換えの説明図
【
図25】遅延素子や結合素子として用いるインバータを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【実施例0032】
図7に本発明の第1実施例を示す。この多重結合リングオシレータ10(以下、単に多重リングオシレータ10と称することがある。)は、遅延素子11としてインバータ(以下、遅延素子11と同じ符号を付する。)を用いており、このインバータ11をm段(本図では、m=5)でループ状にしたリング発振ループ12(以下、単にリングオシレータ12と称することがある。)をn個(本図では、n=3)備えている。これらn個のリングオシレータ12のm×n個(本図では15個)の接点における2点間を、結合素子13を用いて結合している。この結合に供されるm×n個(本図では15個)の結合素子13は、本図に示すように、各リングオシレータ12の互いに対応するn個(本図では3個)の接続点同士、すなわち(a1、b1、c1)、(a2、b2、c2)、(a3、b3、c3)、(a4、b4、c4)、(a5、b5、c5)がそれぞれ結合素子13によって接続されている。いいかえれば、カッコ内のn個の各点接続点(本図では3個)が
nC
2個(本図では
3C
2=3個)の結合素子13によって結合されている。したがって、m段のリングオシレータ12のn個におけるn×mの接続点において、m×
nC
2個(本図では、5×
3C
2=15個)の結合素子13で互いに結合されている。
【0033】
この結合素子13は、
図8に示すように、抵抗14で形成する。抵抗14は、一方の端子の電圧が上昇すると、他方の端子の電圧も上昇するので、正転の入出力特性を有する。この場合は、抵抗値が固定となるが、
図9に示すように、PMOSとNMOSのトランジスタ15で構成することもできる。このようにすると、制御電圧信号Vc[0:3]により抵抗値を変化させることができる。
【0034】
全てのインバータ11は、
図10に示すように、共通のバイアス回路16によって制御されている。つまり、バイアス回路16に入力される制御電圧Vctrlに応じた制御電流I
CTRL1、I
CTRL2、I
CTRLが生成され、インバータ11は、そのソース端子SP、SNがすべて共通化されているので、制御電流I
CTRLによって、インバータ11の遅延時間を調整して全てのリングオシレータ12を所望で同一の発振周波数にすることができる。すなわち、バイアス回路16と多重リングオシレータ10とで電圧制御発振器(VCO)20(
図17を参照)として機能する。さらに、各リングオシレータ12の互いに対応するn個(本図では3個)の接続点同士、すなわち(a1、b1、c1)、(a2、b2、c2)、(a3、b3、c3)、(a4、b4、c4)、(a5、b5、c5)がそれぞれ結合素子13によって
図8のように接続されているので、対応する接続点(a1、b1、c1)、(a2、b2、c2)、(a3、b3、c3)、(a4、b4、c4)、(a5、b5、c5)におけるクロック(第1クロック)のタイミングが、
図11に示すようにほぼ揃うようになる。つまり、カッコ内の各点(本図では3点)から出力される第1クロックの立ち上がり時間がほぼ揃うのである。
【0035】
この実施形態では、
図12に示すように、タイミングがほぼ揃ったn個(本図では3個)の第1クロック(a1、b1、c1)を取りだして、選択回路17に入力している。この選択回路17は、
図13に示すように、選択用インバータ18と通常インバータ19からなる。
【0036】
選択用インバータ18は、n個(本図では3個)の第1クロック(a1、b1、c1)におけるk個(本図では2個)を組み合わせが入力されている。したがって、選択用インバータ18は、
nC
k個(本図では、
3C
2=3個)存在する。そして、選択用インバータ18は、
図14に示すように、k個(本図では2個)のPMOSとNMOSがそれぞれ縦積みになった構造となっており、k個(本図では2個)の入力A、BがともにHi論理かLo論理の電圧にならないと、出力YがLo論理かHi論理の電圧にならないようになっている。言い換えれば、出力Yの出力タイミングは、入力A、Bのうちの遅い方に準じて決められることになる。また、入力A、Bが違う論理の場合は、出力Yは、ハイ・インピーダンスになる。このため、これら選択用インバータ18の
nC
k個(本図では、
3C
2=3個)の出力である第2クロックYa、Yb、Ycは、束ねられて通常インバータ19を介して1個の出力クロックVCOoutとして出力される。つまり、出力クロックVCOoutは、選択用インバータ18の第2クロックYa、Yb、Ycがハイ・インピーダンスではなくなったタイミング、すなわち第2クロックの最も早いタイミングで出力されることとなる。
【0037】
次に高エネルギー粒子の衝突によるSET電流が流れた場合の動作について、以下に説明する。ここで、a系列のリングオシレータ12(接続点がa1~a5)にSET電流が流れて、第1クロックa1が遅れたとする。すると、
図15に示すように、この第1クロックa1を組合せに持つ選択用インバータ18からの第2クロックYa、Ycは、当該第1クロックa1につられて遅れることとなる。しかしながら、当該第1クロックa1を組合せに持たない第2クロックYbは、遅れることは無いので、通常インバータ19からは、第2クロックYbに準じたタイミングの出力クロックCLKoutが出力される。したがって、出力クロックVCOoutが遅れることは無い。
【0038】
また、SET電流の影響により、第1クロックa1が進んだ場合は、
図16に示すように、当該第1クロックa1を組合せに持つ選択用インバータ18からの第2クロックYa、Ycは、当該第1クロックa1につられて進むということはない。したがって、第2クロックYa、Yb、Ycの出力タイミングには、SET電流の影響が表れないので、当然ながら出力クロックVCOoutが進むことは無い。
【0039】
したがって、多重リングオシレータ10とバイアス回路16と選択回路17とで構成した電圧制御発振器(VCO)20を、
図17に示すように、位相周波数比較器(PFD)103、チャージポンプ(CP)104、ループフィルタ(LF)105、及び分周回路(FD)107とで位相同期ループ回路(PLL)1を構成した場合に、VCOの出力クロック(VCOout)が放射線の影響を受けないため、それをフィードバックした帰還クロックCLKdivと基準クロックCLKrefとの比較器(PFD)での比較結果も放射線の影響を受けることが無いので、位相同期ループ回路(PLL)1の出力クロックCLKoutは、放射線の影響を受けず安定する。
【0040】
図18に、通常の位相同期ループ回路(PLL)、すなわち
図4と
図5に示す単一リングオシレータ108の位相同期ループ回路(PLL)102と
図17のPLL1とのシミュレーションでの比較結果を示す。SET電流としては、電流源により100μAを印加している。
図18に示すように、通常のPLL102では、印加電流の影響で特に発振周波数が1GHz以下の場合に変動幅が4%以上となる。しかし、本発明のPLL1によれば、2%強の周波数変動で抑えられている。通常のPLL102で発振周波数が高い場合に変動が少ないのは、制御電圧Ictrlが大きいためSET電流の影響が見えにくくなるためである。また、本発明のPLL1において周波数変動幅として1~2%くらいであるのは、各リングオシレータ12が結合素子13で結合しているので、一のリングオシレータ12にSET電流が流れた場合に、他のリングオシレータ12に全く影響が出ないわけではなく、SET電流の結合素子13を介して流れる分の影響を受けるからである。このSET電流の影響度を軽減するには、結合素子13の結合強度を弱くすればよい(抵抗であれば、抵抗値を上げる)が、弱くしすぎると各リングオシレータ12からの第1クロックが揃いにくくなる。
【0041】
実際は、シミュレーションで最適な抵抗値を求めて設定するようにするか、
図9のように結合強度を可変にして、実際の実験で最適値を求めるようにする。
【0042】
図19に、選択回路17の他の実施形態を示す。この選択回路17は、k個(本図ではk=2)の入力のNORと、これらNORからの第2クロックYa、Yb、Ycを受ける
nC
k個(本図では、
3C
2=3)の入力の選択用インバータ18とからなる。選択用インバータ18は、それぞれの入力に対応したPMOSとNMOSが縦積みに接続された構成である。このため、選択用インバータ18の出力は、第2クロックの入力がすべて同一の論理になった場合に出力されることとなる。この選択回路17の動作について説明する。クロックの立ち上がりを基準にして考えると、
nC
k個(本図では、
3C
2=3)のNORのそれぞれに入力されたk個(本図ではk=2)の第1クロックのうち、早い方のタイミングに準じて第2クロックが出力される。そして、
nC
k個(本図では、
3C
2=3)の第2クロックのうち、最も遅い第2クロックのタイミングに準じて選択用インバータ18から出力クロックVCOoutが出力されるのである。
【0043】
この選択回路17の放射線照射に対する動作を説明する。
図20に示すように、a系列のリングオシレータ12に高エネルギー粒子が衝突してSET電流により、第1クロックa1が遅れたとする。しかしながら、この第1クロックa1が組み合わされる第2クロックYa、Ycは、NORの特性により最も早いタイミングに準じて出力されるので、当該第1クロックa1の遅れが反映されることはない。したがって、出力クロックVCOoutに放射線の影響は表れない。
【0044】
一方、SET電流により第1クロックa1が進んだとすると、
図21に示すように、当該第1クロックa1が組み合わされる第2クロックYa、Ycも、この進みの影響を受けて早いタイミングで出力される。しかしながら、当該第1クロックa1の組合せでない第2クロックYbには、進みの影響は表れない。そして、選択用インバータ18により、最も遅いタイミングで出力クロックVCOoutが出力されるので、放射線の影響が出力クロックVCOoutに反映されることはない。
【0045】
したがって、この選択回路17を使用した位相同期ループ回路(PLL)1は、放射線の影響を受けないのである。上記の遅延素子(インバータ)11は、入出力がシングルであったが、
図22に示すように、差動の入出力にすることもできる。このように、遅延素子11を差動方式にすれば、接続の正負を変更することによって、正転論理と反転論理を自在に作ることが出来るので、非常に使い勝手が良い。
図23に示すように、入出力の正負を合わせて接続すると、正転論理のバッファとなる。また、
図24に示すように、入出力の正負を違えて接続すると、反転論理のインバータとなる。したがって、遅延素子11を差動方式にすれば、リング発振ループの段数mや個数nに制限されることなく本発明の思想を具現化することができる。
【0046】
また、上記の遅延素子11や結合素子13におけるPMOSもしくはNMOSのドレインの近傍に、別途拡散層を設けたレイアウト構造にするようにしている。例として
図25に、遅延素子11や結合素子13として用いるインバータ2の断面図を示す。
図2に示すような通常インバータ101におけるPMOSとNMOSの各ドレインの近傍に拡散層を設けている。PMOSのドレイン近傍には、p+拡散層を設けるとともにグランド電位(VSS)に接続している。また、NMOSのドレイン近傍には、n+拡散層を設けるとともに電源電位に接続している。
【0047】
このようにすると、放射線の照射によりN-wellやP-well内で発生した電子正孔対が、別途設けた拡散層に収集されるようになる。すなわち、N-well内で発生した正孔は、PMOSのドレインより電位の低いp+拡散層に吸い込まれやすくなるし、P-wellで発生した電子は、NMOSのドレインより電位の高いn+拡散層に吸い込まれやすくなる。したがって、PMOSとNMOSのドレインに収集されるキャリアが減少することとなりシングルイベント効果が抑制されるので、耐放射線性能が向上するのである。
【0048】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。