(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076046
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂、成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20240529BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240529BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240529BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240529BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20240529BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C08L1/08
C08J3/20 Z CEP
C08J5/04
C08K7/02
C08K5/10
C08K5/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187406
(22)【出願日】2022-11-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月11日に「第2回[関西]サステナブルマテリアル展」において発表
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521327471
【氏名又は名称】株式会社 ネクアス
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 修広
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】角谷 雅和
(72)【発明者】
【氏名】船谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 登
(72)【発明者】
【氏名】岩村 正司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】北出 元博
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AB02
4F070AC43
4F070AE02
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB07
4F072AA02
4F072AB03
4F072AD01
4F072AF26
4F072AG05
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4F072AH23
4F072AK15
4F072AL01
4J002AB021
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4J002BB022
4J002BB112
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4J002CH042
4J002CK022
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL062
4J002EH026
4J002EH046
4J002EH146
4J002EW126
4J002FA042
4J002FA047
4J002FD026
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来製造できなかったセルロース系ポリマーをベースとした繊維強化熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂は、セルロースエステル、及び平均繊維長が0.1~10mmの繊維を含み、前記繊維が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、1質量%以上30質量%以下含まれることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル、及び平均繊維長が0.1~10mmの繊維を含み、
前記繊維が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、1質量%以上30質量%以下含まれることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項2】
下記式により求められる前記繊維の単分散状態が90.00%以上99.99%以下である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
単分散状態(%)={1-Tn/Sn}×100
Tn:包埋法断面撮影により観察される繊維束を構成する断面繊維の総数。なお前記繊維束は3本以上の繊維が隣接して形成されるものである。
Sn:包埋法断面撮影により観察される繊維の総数。
【請求項3】
前記繊維がセルロース繊維である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記セルロースエステルが酢酸セルロースであって、前記酢酸セルロースの酢化度が25~70%である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項5】
更に可塑剤を含み、前記可塑剤が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、5質量%以上50質量%以下含まれる請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項6】
前記可塑剤として、多価アルコールエステル、フタル酸エステル、リン酸エステル及びクエン酸エステルから選択される少なくとも1種以上を含む請求項5に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項7】
前記繊維が、前記可塑剤100質量部に対し、5~50質量部含まれる請求項5に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項8】
引張強度が10~60MPaであり、引張伸度が5~200%である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項9】
曲げ弾性率が500~4000MPaであり、曲げ強度が8~80MPaである請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項10】
メルトフローレート(MFR)が、190℃/2.16kgのとき0.30~10g/10minであり、230℃/2.16kgのとき1.0~60g/10minである請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂を含む成形品。
【請求項12】
繊維を含む長さ0.1~10mmのカット紡績糸を製造する工程A、
セルロースエステルを含むセルロースエステル組成物を製造する工程B、及び
前記カット紡績糸と、前記セルロースエステル組成物とを混合して、繊維強化熱可塑性樹脂を製造する工程C、を含む繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記工程Cにおける混合時に、前記カット紡績糸の一部または全部が解繊される請求項12に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性に優れたセルロース系の繊維強化プラスチックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境の負荷低減を目的として、生分解性樹脂の開発が進められている。生分解性樹脂は、通常の樹脂と同様に使用でき、使用後は自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解される性質を持つ。こうした生分解性樹脂は、用途に応じた種々の開発がされており、天然物利用系(例えば、酢酸セルロースポリマー、澱粉系ポリマー)、微生物産生系(例えば、ポリヒドロキシブチレートポリマー)、化学合成系(例えば、ポリ乳酸ポリマー、カプトラクトンポリマー、ポリビニルアルコールポリマー等)、添加物配合オレフィン系ポリマー等が知られている、中でも、天然物利用系の生分解性樹脂は長きにわたって研究されており、昨今ではSDGsの観点から注目を浴びている。
【0003】
地球環境に配慮して、以前より、天然繊維による繊維強化プラスチック(FRP)が開発されている。特許文献1には、植物系天然繊維からなる紡績糸を少なくとも一方向に引き揃え、熱硬化性樹脂と一体成形された繊維強化熱硬化性樹脂成形体が開示される。特許文献2には、熱可塑性樹脂と、白色度70%以上の天然繊維と、合成樹脂繊維とを所定量で含む樹脂成形体が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-67879号公報
【特許文献2】特開2012-188570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生分解性樹脂の需要が増す中、本発明者らは地球環境への負荷がさらに低減された繊維強化プラスチックの検討を進めた。従来、繊維強化プラスチック用の樹脂として広く一般的に用いられるのは、特許文献1~2に示されるような熱硬化性樹脂(特許文献1)や熱可塑性樹脂(特許文献2)である。本発明者らは、これらを生分解性樹脂に置き換えることで地球環境への負荷を低減できないか検討した。
【0006】
ところが、生分解性樹脂として代表されるセルロース系ポリマーは、一般的に柔軟性が乏しく、製造方法自体を検討する必要が生じた。本発明者らは、例えば、セルロース系ポリマーを用いた場合でも、特許文献2と同様にベースポリマーと繊維をそのまま混合して樹脂組成物を作製できないか検証した。しかし、繊維をそのまま混合しても、繊維がハンドミキサーのハネに絡みついてしまい、混合自体が困難になることが分かった。特許文献1に記載の方法を参照しても、特許文献1では、紡績糸をシート状、塊状または編物状に引き揃えた基材の上に熱硬化性樹脂を流して成形する必要があり、その後の成形を自由に行えない等、従来の方法では所望の繊維強化プラスチックを製造できないことが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、繊維を一旦カット紡績糸に加工して、セルロース系ポリマーと混合することにより、混合時の問題を解決し、従来製造できなかったセルロース系ポリマーをベースとした繊維強化熱可塑性樹脂が提供されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂は、以下の点に特徴を有する。
[1] セルロースエステル、及び平均繊維長が0.1~10mmの繊維を含み、
前記繊維が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、1質量%以上30質量%以下含まれることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂。
[2] 下記式により求められる前記繊維の単分散状態が90.00%以上99.99%以下である[1]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
単分散状態(%)={1-Tn/Sn}×100
Tn:包埋法断面撮影により観察される繊維束を構成する断面繊維の総数。なお前記繊維束は3本以上の繊維が隣接して形成されるものである。
Sn:包埋法断面撮影により観察される繊維の総数。
[3] 前記繊維がセルロース繊維である[1]または[2]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[4] 前記セルロースエステルが酢酸セルロースであって、前記酢酸セルロースの酢化度が25~70%である[1]~[3]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[5] 更に可塑剤を含み、前記可塑剤が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、5質量%以上50質量%以下含まれる[1]~[4]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[6] 前記可塑剤として、多価アルコールエステル、フタル酸エステル、リン酸エステル及びクエン酸エステルから選択される少なくとも1種以上を含む[5]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[7] 前記繊維が、前記可塑剤100質量部に対し、5~50質量部含まれる[5]または[6]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[8] 引張強度が10~60MPaであり、引張伸度が5~200%である[1]~[7]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[9] 曲げ弾性率が500~4000MPaであり、曲げ強度が8~80MPaである[1]~[8]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[10] メルトフローレート(MFR)が、190℃/2.16kgのとき0.30~10g/10minであり、230℃/2.16kgのとき1.0~60g/10minである[1]~[9]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂。
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂を含む成形品。
[12] 繊維を含む長さ0.1~10mmのカット紡績糸を製造する工程A、
セルロースエステルを含むセルロースエステル組成物を製造する工程B、及び
前記カット紡績糸と、前記セルロースエステル組成物とを混合して、繊維強化熱可塑性樹脂を製造する工程C、を含む繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
[13] 前記工程Cにおける混合時に、前記カット紡績糸の一部または全部が解繊される[12]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維を一旦カット紡績糸に加工して、セルロース系ポリマーと混合することにより、混合時の問題を解決し、従来製造できなかったセルロース系ポリマーをベースとした繊維強化熱可塑性樹脂が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例2で製造した繊維強化熱可塑性樹脂(ペレット)の断面写真である。
【
図2】
図2は、実施例2で製造した繊維強化熱可塑性樹脂の拡大写真の一例である。
【
図3】
図3は、単分散状態の評価で撮影された写真の一例である。
【
図4】
図4は、単分散状態の評価で撮影された写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<繊維強化熱可塑性樹脂>>
本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂は、セルロースエステル、及び平均繊維長が0.1~10mmの繊維を含み、前記繊維が、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、1質量%以上30質量%以下含まれることを特徴とする。本発明では、繊維を一旦カット紡績糸に加工して、セルロースエステル組成物と混合する。予め繊維をカット紡績糸に加工しておくことで、繊維の密度が上がり、混合時にセルロースエステル組成物との混合が安定する。これにより混合時の問題を解決することができ、繊維を含むセルロースエステルをベースとした繊維強化プラスチックが提供される。
【0012】
本明細書において、セルロースエステルとは、セルロースの分子内に存在するヒドロキシ基がエステル化されたセルロース誘導体をいう。
【0013】
前記セルロースエステルは特に限定されず、目的に応じて種々の樹脂が使用できる。前記セルロースエステルとしては、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸酢酸セルロース等が例示される。セルロースエステルには、セルロースを構成するグルコース単位の1~3個のヒドロキシ基がエステル化された1~3置換体のいずれの誘導体も含まれる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。中でもセルロースエステルとしては、酢酸セルロースが好ましい。本発明では、セルロースエステル100質量%中、酢酸セルロースが好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、殊更好ましくは95質量%以上含まれ、上限は好ましくは100質量%である。
【0014】
酢酸セルロースとは、セルロースを原料とし、その水酸基を酢酸でエステル化した樹脂をいう。酢酸セルロース自体は熱可塑性を有さず、適切な可塑剤を使用することで樹脂の軟化点を下げ、成形物の柔軟性を調整することができる。酢酸セルロースには、セルロースを構成するグルコース単位の1~3個のヒドロキシ基がアセチル化された誘導体が含まれ、例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等の1~3置換体の酢酸セルロースは好ましく用いられる。セルロースジアセテートやセルローストリアセテートは商業用として広く利用されており、本発明でも好ましい。
【0015】
酢酸セルロースにおけるエステル化(置換)の程度は酢化度で評価される。酢酸セルロースの酢化度は、一般的に25~70%であり、可塑性向上の観点から、45~70%が好ましく、50~65%がより好ましく、53~60%がさらに好ましく、54~58%がよりさらに好ましい。酢酸セルロースは、その酢化度によって水への溶解性が大きく変化するため、目的に応じた樹脂を適宜選択するとよい。酢化度が50%以上の酢酸セルロースは概して耐水性が高いため、繊維強化熱可塑性樹脂として汎用性が高い。また染色等の加工性を良好にする場合は、酢化度を65%以下にするとよい。力学的強度を高める観点からは、酢化度は53%以上が推奨される。なお酢化度の具体的な測定方法は実施例の欄で詳述する。
【0016】
酢酸セルロースの6%粘度は、好ましくは20~300mPa・s、より好ましくは30~200mPa・s、さらに好ましくは40~100mPa・sである。
【0017】
酢酸セルロースの重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは10,000~100,000、さらに好ましくは20,000~80,000である。
【0018】
酢酸セルロースの融点は一般的に230~300℃であり、使用目的や成形方法に応じて任意の融点を持つ酢酸セルロースを適宜使用するとよい。
【0019】
セルロースエステルは、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下含まれる。前記範囲を下回ると繊維が相対的に増え、混合時に混合物の流動性が低下したり、成形段階で詰まりが生じる場合がある。前記範囲を超えると、可塑剤を使用する場合に使用できる可塑剤量が制限され、繊維強化熱可塑性樹脂の柔軟性が劣る場合がある。
【0020】
繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維(単繊維)の平均繊維長は0.1~10mmであり、より好ましくは0.5~7mm、さらに好ましくは1~5mmである。前記範囲を超えると、混合時に繊維が装置に絡みつき生産が困難となったり、混合物の流動性が低下し、造粒時にストランドの吐出が悪化したり、射出成形時にノズルが詰まるなどの不具合が生じる場合がある。
【0021】
繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる繊維としては、綿、ラミー(苧麻)、カポック、ケナフ、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ、バガス等の天然繊維;ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、溶剤紡糸レーヨン(リヨセル)等の再生繊維;ジアセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート繊維等のポリエステル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ナイロン6、ナイロン66、アラミド繊維(パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等)等のポリアミド繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル-塩化ビニル共重合体繊維等のアクリル繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維等の合成繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維等が例示される。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。また天然繊維の漂白の有無は問わない。中でも、天然繊維、再生繊維及び半合成繊維からなる群から選択されるセルロース繊維が好ましく、天然繊維がより好ましく、綿、ラミーまたはケナフがさらに好ましく、綿がよりさらに好ましい。セルロース繊維は、環境負荷低減、原料調達の容易さ、繊維強度の観点から好ましい。また本発明者らが検討したところ、セルロース繊維は必要に応じて用いられる可塑剤を吸収(含浸)できるため、繊維強化熱可塑性樹脂中の可塑剤増量に寄与し、柔軟性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂が得られる。
【0022】
本発明では、繊維を一旦カット紡績糸に加工してセルロースエステル組成物と混合する。混合時のせん断応力により、カット紡績糸はその一部または全部が解繊され、繊維は、例えば、繊維強化熱可塑性樹脂中に単繊維の状態または単繊維と繊維束が混在した状態で分散する。
図3が示すように、カット紡績糸が十分に解繊されると、繊維強化熱可塑性樹脂中で繊維1は結束せずに、単繊維3の状態で均一分布する。一方、繊維の一部は、繊維強化熱可塑性樹脂中に未解繊の状態(繊維束の状態)で存在することもある。
図3が示すように、繊維強化熱可塑性樹脂中には、3本以上の繊維1が隣接して繊維束2を形成している場合もある。
【0023】
本発明では、こうした繊維の分散状態を、下記式により求められる単分散状態で定義する。繊維の単分散状態は、好ましくは90.00%以上、より好ましくは91.00%以上、さらに好ましくは92.00%以上であり、好ましくは99.99%以下であり、99.50%以下であってもよい。前記範囲内であれば、一部に未解繊状態(繊維束状態)の繊維が存在するものの、カット紡績糸が十分に解繊され、大半の繊維は単繊維の状態で繊維強化熱可塑性樹脂中に均一に分散されていると評価される。
単分散状態(%)={1-Tn/Sn}×100
Tn:包埋法断面撮影により観察される繊維束を構成する繊維の総数。なお前記繊維束は3本以上の繊維が隣接して形成されるものである。
Sn:包埋法断面撮影により観察される繊維の総数。
【0024】
本明細書において、3本以上の繊維が隣接している状態とは、より具体的には3本以上の繊維が隣り合って接触している状態をいう。
図3では4箇所で繊維束2を指摘している。観察断面において、1つの繊維束2を構成する3本の繊維1は、互いに繊維1の周の一部を共有するように接触していることがわかる。
図3中、各繊維束2を構成する繊維1は3本であり、Tnは12本となる。
【0025】
繊維は、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下含まれる。前記範囲を下回ると、繊維強化熱可塑性樹脂の強度が不十分なものとなる。また前記範囲を上回ると、繊維の分散が困難となる。前記範囲内であれば、混合時に混合物の流動性が低下を抑えることができる。また可塑剤が含まれる場合に、繊維強化熱可塑性樹脂における可塑剤の増量が可能となる。
【0026】
繊維は、セルロースエステル100質量部に対し、好ましくは1~40質量部、より好ましくは8~30質量部、さらに好ましくは10~20質量部含まれる。前記範囲内であれば、繊維強化熱可塑性樹脂の成形性が損なわれない。
【0027】
セルロースエステル(特に酢酸セルロース)は、その分子構造から樹脂単独では熱可塑性が乏しく、成形が困難な場合がある。そのため本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は、更に可塑剤を含むことが好ましい。適切な可塑剤を使用することで繊維強化熱可塑性樹脂の成形性の改善が期待できる。前記可塑剤としては、多価アルコールエステル、フタル酸エステル、ピロメリット酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、アミド類、エステルオリゴマー、クエン酸エステル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
多価アルコールエステルとしては、多価アルコールと、脂肪酸または芳香族カルボン酸とのエステルが好ましい。
前記多価アルコールの炭素数は1~6が好ましく、より好ましくは2~4である。また多価アルコールの有するヒドロキシ基の数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールまたはジプロピレングリコールが好ましく、グリセリンがより好ましい。
前記脂肪酸の炭素数は1~6が好ましく、より好ましくは2~4である。前記脂肪酸としては、酢酸が好ましい。また前記芳香族カルボン酸の炭素数は6~10が好ましく、より好ましくは6~7である。
多価アルコールエステルとしては、トリアセチン、ジグリセリンテトラアセタート、またはジプロピレングリコールジベンゾエートが好ましく、トリアセチンがより好ましい。
【0029】
フタル酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジ(2-メトキシエチル)、フタル酸ベンジルブチル、エチルフタリルエチルグリコラート、ブチルフタリルブチレングリコレート等が例示され、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルまたはフタル酸ジブチルが好ましく、フタル酸ジエチルがより好ましい。
トリメット酸エステルとしては、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)等が例示される。
ピロメリット酸エステルとしては、ピロメリット酸テトラオクチル等が例示される。
アジピン酸エステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ベンジルブトキシエトキシエチル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル等が例示される。
アゼライン酸エステルとしては、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸ジオクチル等が例示される。
セバシン酸エステルとしては、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル等が例示される。
リン酸エステルとしては、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等が例示され、リン酸トリフェニルが好ましい。
不飽和脂肪酸エステルとしては、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル等が例示される。
アミド類としては、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等が例示される。
エステルオリゴマーとしては、カプロラクトンオリゴマー等が例示される。
【0030】
クエン酸エステルとしては、例えば、式(IH):
【化1】
[式(IH)中、
R
h1~R
h3はそれぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基を表す。
R
h4は水素原子または*-CO-R
h5を表す。
R
h5は炭素数1~6のアルキル基を表す。
*は酸素原子との結合手である。]で表されるクエン酸エステルが例示される。
R
h1~R
h3はそれぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数2~6のアルキル基がより好ましく、炭素数3~5のアルキル基がさらに好ましい。
R
h4は、*-CO-R
h5が好ましい。
R
h5は、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~2のアルキル基がより好ましい。
クエン酸エステルとしては、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(以下、ATBCと称する場合がある)等が例示され、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)が好ましい。ATBCは一般的にポリ塩化ビニル用の可塑剤として広く普及している。このATBCをセルロースエステル(特に酢酸セルロース)に適用した例は少ない。特に、繊維としてセルロース繊維を混用すると、ATBCを増量することが可能となる。
【0031】
可塑剤は、セルロースエステル(特に酢酸セルロース)との相溶性などを考慮して適宜選定すればよい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は、可塑剤として、多価アルコールエステル、フタル酸エステル、リン酸エステル及びクエン酸エステルから選択される少なくとも1種以上を含むことが好ましく、より好ましくは多価アルコールエステル及びクエン酸エステルから選択される少なくとも1種以上、さらに好ましくは多価アルコールエステル及びクエン酸エステルの両方である。多価アルコールエステルによる可塑性付与の効果と、クエン酸エステルによる可塑性及び溶融流動性付与の効果により、柔軟性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂となる。また繊維強化熱可塑性樹脂が柔軟になることで低温での成形が可能となり、成形物の変色を抑えることができる。
【0032】
可塑剤は、繊維強化熱可塑性樹脂100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、よりさらに好ましくは30質量%以上、殊更好ましくは35質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下含まれる。前記範囲内であれば、繊維強化熱可塑性樹脂に十分な柔軟性を付与しながら、ブリードアウトの発生を抑えることができる。可塑剤の量が増えるほど、繊維強化熱可塑性樹脂の柔軟性が高まり、成形が容易となる。特に可塑剤の含有量が25質量%以上になると、繊維強化熱可塑性樹脂がより柔軟になり、低温で成形できることから成形物の変色が抑えられる。
【0033】
可塑剤は、セルロースエステル100質量部に対し、好ましくは5~40質量部、より好ましくは8~30質量部、さらに好ましくは10~20質量部含まれる。前記範囲内であれば、繊維強化熱可塑性樹脂に十分な可塑性を付与でき、低温での成形が可能となり樹脂の熱劣化が抑制される。また混合時に可塑剤が混合機内部で分離しにくくなる。
【0034】
繊維は、可塑剤100質量部に対し、好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~35質量部、さらに好ましくは12~35質量部、よりさらに好ましくは15~25質量部含まれる。前記範囲内であれば、繊維強化熱可塑性樹脂に十分な柔軟性を付与しながら、ブリードアウトの発生を抑えることができる。
【0035】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は、更に酸化チタンを含んでいてもよい。酸化チタンは、セルロースエステル100質量部に対し、好ましくは0.5~8.0質量部、より好ましくは1.0~6.0質量部、さらに好ましくは1.3~4.0質量部含まれる。繊維強化熱可塑性樹脂の用途によっては白色が要求される場合があるため、酸化チタンにより繊維強化熱可塑性樹脂を白色化できる。また理由は定かではないが、酸化チタンにより繊維強化熱可塑性樹脂の流動性、引張特性及び曲げ特性を高めることができる。
【0036】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は、更に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、セルロースエステルの改質等に一般的に使用される各種添加剤が例示され、具体的には紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸掃去剤、潤滑剤、染料、顔料、臭気マスク剤、増白剤、無機系・有機系充填剤、難燃剤、滑剤等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
繊維強化熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)は、190℃/2.16kgのとき、好ましくは0.30~10g/10min、より好ましくは1.0~8.0g/10min、さらに好ましくは3.0~5.0g/10minである。また、繊維強化熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)は、230℃/2.16kgのとき、好ましくは1.0~60g/10min、より好ましくは10~55g/10min、さらに好ましくは30~50g/10minである。前記範囲内であれば、射出成形性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂となる。繊維強化熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)の測定方法は、実施例の欄で詳述する。
【0038】
繊維強化熱可塑性樹脂の引張強度は、好ましくは10~60MPa、より好ましくは12~45MPa、さらに好ましくは15~30MPaである。また繊維強化熱可塑性樹脂の引張伸度は、好ましくは5~200%、より好ましくは12~150%、さらに好ましくは20~100%である。前記範囲内であれば、適度な強度を維持したまま、従来に比べ高い伸度を確保できる。上記繊維強化熱可塑性樹脂の引張強度及び引張伸度の具体的な測定方法は実施例の欄で詳述する。
【0039】
繊維強化熱可塑性樹脂の曲げ弾性率は、好ましくは500~4000MPaであり、より好ましくは550~2000MPaであり、さらに好ましくは580~1000MPaである。また繊維強化熱可塑性樹脂の曲げ強度は、好ましくは8~80MPa、より好ましくは9~50MPa、さらに好ましくは10~45MPaである。曲げ弾性率が2000MPa以上においては、曲げ強度は30~750MPa(好ましくは50~700MPa)、曲げ弾性率が1000MPa以下のポリエチレン並みの柔らかさを求める際には、曲げ強度は8~50MPa(好ましくは10~30MPa)であることが望ましい。
【0040】
<<製造方法>>
本発明はさらに、前記繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を包含する。前記繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、
繊維を含む長さ0.1~10mmのカット紡績糸を製造する工程(以下、工程Aと称する場合がある)、
セルロースエステルを含むセルロースエステル組成物を製造する工程(以下、工程Bと称する場合がある)、及び
前記カット紡績糸と、前記セルロースエステル組成物とを混合して、繊維強化熱可塑性樹脂を製造する工程(以下、工程Cと称する場合がある)、を含む。
予め繊維をカット紡績糸に加工しておくことで、繊維の密度が上がり、混合時にセルロースエステル組成物との混合が安定する。また混合時のせん断応力によりカット紡績糸の一部または全部が解繊され、繊維が繊維強化熱可塑性樹脂中に分散する。
【0041】
<工程A>
繊維を含むカット紡績糸を製造する工程は、より好ましくは、繊維を含む紡績糸を製造する工程、及び前記紡績糸を切断する工程を含む。一般的に紡績糸は長尺であることから、切断機等により紡績糸を所望の長さに切断する。これにより混合時の流動性を高めることができる。
【0042】
紡績糸の精紡方法は、例えば、リング紡績、オープンエンド紡績、結束紡績(例えば、ムラタボルテックススピナー)等の各種方法が挙げられる。中でも、解繊のしやすさからリング紡績が好ましい。なお精紡前には、一般的な方法により、混打綿、カーディング、コーミング、練条、粗紡等の各種工程を実施するとよい。
【0043】
紡績糸(カット紡績糸)の総繊度は、英式番手1~40番手が好ましく、3~30番手がより好ましく、5~20番手がさらに好ましい。前記範囲内であれば、紡績糸に適切な撚りをかけることが可能となり、所望の撚係数を有する紡績糸を得やすい。
【0044】
紡績糸をリング紡績法により製造する場合、紡績糸(カット紡績糸)の撚係数(K)は、好ましくは1.5~4.0、より好ましくは2.0~3.5である。前記範囲内であれば、混合時に混合物のスムーズな通過を可能としながら、紡績糸を適度に解繊することができる。
【0045】
紡績糸の切断には、各種切断機を用いるとよい。紡績糸は、長さ方向に、0.1~10mm、より好ましくは1~7mm、さらに好ましくは2~5mmの長さに切断され、カット紡績糸となる。前記範囲を超えると、混合時に繊維が装置に絡みつき生産が困難となったり、混合物の流動性が低下し、造粒時にストランドの吐出が悪化したり、射出成形時にノズルが詰まるなどの不具合が生じる場合がある。また紡績糸の長さが前記範囲を下回ると、混合時の繊維の比重が軽く、セルロースエステルと均一に混合できないおそれがある。
【0046】
<工程B>
セルロースエステル組成物する際、必要に応じて一次可塑剤を添加してもよい。一次可塑剤により、セルロースエステル(特に酢酸セルロース)に柔軟性を付与し、工程Cにおけるカット紡績糸とセルロースエステル組成物との混合が容易となる。
【0047】
一次可塑剤は、工程Cの任意の段階で添加できるが、工程Bではセルロースエステルと一次可塑剤を混合してセルロースエステル組成物を製造することが好ましい。
【0048】
工程Bで用いる一次可塑剤としては、多価アルコールエステル、フタル酸エステル、ピロメリット酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、アミド類、エステルオリゴマー等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、多価アルコールエステル、フタル酸エステル及びリン酸エステルから選択される少なくとも1種以上が好ましく、多価アルコールエステルがより好ましく、トリアセチン、ジグリセリンテトラアセタート、またはジプロピレングリコールジベンゾエートがさらに好ましく、トリアセチンが殊更好ましい。一次可塑剤として特に多価アルコールエステルを用いることで十分な可塑性が得られる。また一次可塑剤により十分な可塑性が得られるため、二次可塑剤として種々の可塑剤を選択できる。一次可塑剤の具体例は先に詳述した通りである。
【0049】
一次可塑剤の量は、セルロースエステル100質量部に対し、好ましくは10~70質量部、より好ましくは15~60質量部、さらに好ましくは20~55質量部である。前記範囲内であれば、セルロースエステルを適度に柔軟にでき、次工程でカット紡績糸とセルロースエステル組成物が混合しやすくなる。
【0050】
工程Bではさらに、酸化チタンを混合してもよい。また工程Bでは、用途に応じて、一次可塑剤及び酸化チタン以外の添加剤を適宜混合してもよい。
【0051】
セルロースエステルと一次可塑剤との混合装置としては、ヘンシェルミキサー、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、ボールミル等が例示される。短時間での均質な分散が可能なため、ヘンシェルミキサーが好ましい。混合の程度は限定されず、例えば、ヘンシェルミキサーを用いる場合、10分~1時間混合するとよい。
【0052】
一次可塑剤との均一な混合のため、予め加熱により軟化したセルロースエステルを用いてもよい。またセルロースエステルを溶媒に溶解または分散させたセルロースエステル混合液を用いてもよい。前記溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類;ニトロメタン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物;メチルグリコール、メチルグリコールアセテート等のグリコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;などが挙げられる。
【0053】
また、セルロースエステルと一次可塑剤を混合した後、必要に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥方法としては、セルロースエステルと一次可塑剤の混合物を、例えば、5~105℃の環境下で1~48時間静置するとよい。
【0054】
<工程C>
カット紡績糸とセルロースエステル組成物との混合は、例えば、ハンドミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロール混合機等により行うことが好ましい。カット紡績糸の解繊を考慮すると、装置内が加圧され、圧縮によるせん断応力が高い二軸押出機が好ましい。混合機として、二軸押出機((株)STEER JAPAN製「OMEGA60」)を用いる場合、スクリュー回転数は、セルロースエステルの性質を考慮すると1200rpmが上限であり、好ましくは50~400rpm、より好ましくは100~300rpmである。回転数が早すぎると、ストランドの押出速度が安定せず連続製造が困難になる場合がある。
【0055】
カット紡績糸と、セルロースエステル組成物とを混合する際、必要に応じて二次可塑剤を添加してもよい。二次可塑剤により造粒時のストランドが安定する。
【0056】
二次可塑剤は、工程Cの任意の段階で添加できる。二次可塑剤は、例えば、カット紡績糸と二次可塑剤を予め混合し、その後得られた混合物をセルロースエステル組成物に添加する方法;二次可塑剤を、カット紡績糸とセルロースエステルとの混合物に添加する方法;等により適宜添加されるとよい。好ましくはカット紡績糸と二次可塑剤を予め混合し、その後セルロースエステルに得られた混合物を添加する方法である。
【0057】
二次可塑剤としては、例えば、クエン酸エステルが例示され、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)が好ましく、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)がより好ましい。一次可塑剤により十分な可塑性が得られるため、二次可塑剤としてはセルロースエステル(特に酢酸セルロース)に対し相溶性の低い可塑剤であっても使用可能である。なお二次可塑剤の具体例は先に詳述した通りである。
【0058】
二次可塑剤は、カット紡績糸100質量部に対し、好ましくは50~400質量部、より好ましくは100~350質量部、さらに好ましくは120~300質量部である。前記範囲内であれば、高い柔軟性を有しブリードアウトが抑えられた繊維強化熱可塑性樹脂となる。
【0059】
混合後の繊維強化熱可塑性樹脂は、ペレット化してもよい。ペレット化の方法は特に限定されず、例えば、ペレタイザー等を使用して、混合機から排出される繊維強化熱可塑性樹脂(例えば、ストランド)をペレット状に切断するとよい。またペレット化工程を省略して、混合後の繊維強化熱可塑性樹脂をそのまま成形装置に供給し、成形品を連続的に製造してもよい。
【0060】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は、セルロースエステルをベースポリマーにしながら成形性に優れるため、各種成形方法により所望の形に自由に変形できる。成形方法としては、射出成形、押出成形、インフレーション成形、圧延成形、カレンダー成形等の一般的な成形方法が例示され、射出成形、押出成形、インフレーション成形が好ましく、射出成形がより好ましい。
【0061】
繊維強化熱可塑性樹脂の成形温度は、セルロースエステルの融点以上であればよく、繊維の変質・劣化を考慮して、好ましくは170~230℃、より好ましくは175~220℃、さらに好ましくは180~210℃である。繊維強化熱可塑性樹脂は、その含有成分によってメルトフローレート(MFR)が高くなる場合がある。しかしながらセルロースエステルの性質上、成形温度を下げることによって成形に適した流動性での加工が可能となる。
【0062】
本発明は、前記繊維強化熱可塑性樹脂を含む成形品も包含する。前記成形品としては、例えば、シート、フィルム、繊維、トレイ、容器、袋等が例示される。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂は成形性が良好で柔軟性にも優れるため、現在石油系高分子材料が主原料の各種成形品について、その代替原料としての展開が期待される。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0064】
<酢化度>
酢酸セルロースの酢化度は、ASTM D817 91(セルロースアセテート等の試験方法)における酢化度の測定方法に準拠して求めた。乾燥した酢酸セルロース1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間鹸化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を算出した。
酢化度(%)=[6.5×(B-A)×F]/W
(式中、Aは試料での1N硫酸の滴定量(ml)、Bはブランク試験での1N硫酸の滴定量(ml)、Fは1N硫酸の濃度ファクター、Wは試料の質量を示す)。
【0065】
<6%粘度>
酢酸セルロースの6%粘度は、下記の方法で測定した。三角フラスコに乾燥させた酢酸セルロース3.00g、95%アセトン水溶液を39.90g入れ、密栓して約1.5時間攪拌した。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させた。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温した。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出した。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数
なお、粘度計係数は、粘度計校正用標準液(昭和石油社製、商品名「JS-200」(JIS Z 8809に準拠))を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求めた。
粘度計係数={標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(0.827g/cm3)}/{標準液の密度(g/cm3)×標準液の流下秒数(s)}
【0066】
<平均繊維長>
JIS L1019 7.2.1 A法(ダブルソータ法)に準拠して測定した。なお測定は、紡績糸を繊維の状態に解して行った。平均繊維長は面積から算出した。試験環境は、20℃/65%RHとした。
【0067】
<総繊度>
JIS L1095 9.4.2に準拠して、見掛けの綿番手(英式番手)を測定した。
【0068】
<撚係数>
JIS L1095 9.15.1 A法に準拠して、撚数を測定し下記式より撚係数(K)を求めた。
撚係数(K)=T/D1/2
(上記式中、T:インチ当たりの撚回数、D:紡績糸の英式番手)
【0069】
<混合性評価>
工程Cにおけるカット紡績糸(またはカット繊維)と酢酸セルロース樹脂組成物の混合について、以下の項目で評価した。
○:混合できる ×:混合できない
【0070】
<造粒性評価>
工程Cにおける二軸押出機((株)STEER JAPAN製「OMEGA60」)からの押出について、以下の項目で評価した。
○:ストランドの吐出で走行が暴れない
×:ストランドの吐出で走行が暴れる
【0071】
<射出性評価>
Vライン型射出成形機((株)ソディック製「GL200」)からの押出について、パージ時におけるストランドの柔らかさ、離型性、不具合(例えば、ガスの発生、ヒケの発生、ショートの発生)を総合的に勘案し、以下の項目で評価した。
○:不具合なく連続50ショットを適切に射出できる
×:不具合なく連続50ショットを適切に射出できない
【0072】
<メルトフローレート(MFR)>
ASTM D1238に準拠し、190℃/2.16kg荷重および230℃/2.16kg荷重の条件で実施した。
【0073】
<ダンベル試験片>
ペレットを、Vライン型射出成形機((株)ソディック製「GL200」)に供し、表1に示す射出温度でダンベル試験片状に成形した。ダンベル試験片は、JIS K6251:2017 6.2に準拠して、ダンベル状3号形とした。
【0074】
<引張強度・引張伸度>
引張強度及び引張伸度は、ダンベル試験片(JIS K6251:2017 6.2に準拠したダンベル状3号形)を用い、ASTM D638に準拠して測定した。測定には、万能材料試験機((株)東洋精機製作所製「ストログラフ(登録商標)」)を用い、温度23℃、延伸速度200mm/分の条件とし、得られた応力-歪曲線から引張強度及び引張伸度を測定した。
【0075】
<曲げ弾性率・曲げ強度>
曲げ弾性率及び曲げ強度は、ダンベル試験片(JIS K6251:2017 6.2に準拠したダンベル状3号形)を用い、ASTM D790に準拠して測定した。
【0076】
<単分散状態>
測定対象の樹脂ペレットをエポキシ樹脂で包埋した。包埋した樹脂ペレットを、精密研磨装置であるドクターラップ(株式会社マルトー製)を用いて、樹脂ペレットの流れ方向(粒化する前のストランドの長手方向)に対して垂直な面が観察できるように研磨を行い、断面を作製した。作製した断面を工業用顕微鏡(株式会社ニコン製、ECLIPSE LV150N)を用いて、対物レンズ20倍の条件で10枚写真撮影を行う。1枚の写真で確認される全ての繊維について、露出した繊維断面を1本としたときの、その総数(Sn)と、3本以上の繊維が隣接して形成する繊維束を構成する繊維の総数(Tn)を求めた。Sn及びTnは目視で数えても良く、画像解析ソフトなどを用いて算出してもよい。得られた写真10枚について同様の作業を行った。Tn及びSnそれぞれの算術平均値を求め、下記式に基づいて繊維の単分散状態を評価した。
単分散状態(%)={1-Tn/Sn}×100
Tn:包埋法断面撮影により観察される繊維束を構成する繊維の総数。なお前記繊維束は3本以上の繊維が隣接して形成されるものである。
Sn:包埋法断面撮影により観察される繊維の総数。
【0077】
実施例1
混綿機((株)OHARA製)を用いて平均繊維長16.3mmのアップランド綿100質量%を混綿し、次いでカード機((株)石川製作所製)を用いて300ゲレン/6ydのカードスライバーを紡出した。次に、カードスライバーを練条機(原織機製作所製)に2回通して400ゲレン/6ydの練条スライバーを得た。この練条スライバーを粗紡機((株)豊田自動織機製)に通して、210ゲレン/15ydの粗糸を製造した。そしてリング精紡機((株)豊田自動織機製)を用いて、ドラフト18倍、トラベラ回転数(スピンドル回転数)6000rpmの条件で紡出し、英式番手10番手の紡績糸を得た。紡績糸の撚係数(K)は3.0であった。切断機((株)辻鉄工所製)を用いて、得られた紡績糸を長さ方向に4mmの長さに切断することでカット紡績糸を製造した(工程A)。
【0078】
ヘンシェルミキサーを用いて、酢酸セルロース(重量平均分子量約46,000、酢化度55%、6%粘度60mPa・s)、可塑剤としてトリアセチン((株)ダイセル製)、及び安定剤を表1に示す量で混合し酢酸セルロース樹脂組成物を製造した(工程B)。
【0079】
工程Aで製造したカット紡績糸を、工程Bで製造した酢酸セルロース樹脂組成物に加えてハンドミキサーにより混合した。なお、混合したカット紡績糸、及び酢酸セルロース樹脂組成物の量は表1に示す通りである。次いで、二軸押出機((株)STEER JAPAN製「OMEGA60」)に供し、投入口温度100℃、混合温度190℃、スクリュー回転数200rpmの条件にてストランド上に押し出したものを、ペレタイザーにて切断しペレットを製造した(工程C)。
【0080】
実施例2
実施例1と同様にして、工程A~Bを実施した。次いで、カット紡績糸を工程Bで製造した酢酸セルロース樹脂組成物に加える代わりに、予め工程Aで製造したカット紡績糸とトリアセチン((株)ダイセル製)をハンドミキサーで混合し、得られた混合物を工程Bで製造した酢酸セルロース樹脂組成物に加えたこと以外は実施例1と同様にしてペレットを製造した(工程C)。
【0081】
実施例3~4
表1に示すように原料を変更したこと以外は、実施例2と同様にしてペレットを製造した。
ATBC:田岡化学工業株式会社製「ATBC」
【0082】
比較例1
平均繊維長16.3mmのアップランド綿100質量%を混綿し、次いでカード機((株)石川製作所製)を用いて300ゲレン/6ydのカードスライバーを紡出した。得られたカードスライバーを長さ方向に4mmの長さに切断することでカット繊維を製造した。実施例2の工程Bと同様にして酢酸セルロース樹脂組成物を製造し、ここへカット繊維を加えてハンドミキサーにより混合しようとしたが、カット繊維がハンドミキサーのハネに絡みついてしまい混合できなかった。そのためペレットは製造できなかった。
【0083】
比較例2
工程Aにおいて得られた紡績糸を長さ方向に20mmの長さに切断すること以外は実施例1と同様にしてカット紡績糸を製造した。実施例1の工程Bと同様にして酢酸セルロース樹脂組成物を製造し、ここへカット紡績糸を加えてハンドミキサーにより混合しようとしたが、カット繊維がハンドミキサーのハネに絡みついてしまい混合できなかった。そのためペレットは製造できなかった。
【0084】
比較例3
工程Aにおいて得られた紡績糸を長さ方向に12mmの長さに切断し、得られたカット紡績糸を用いたこと以外は実施例4と同様にしてペレットを製造した。しかし繊維が十分に分散していないためストランドの吐出が悪かった。また射出成形時にも、ノズルが詰まる傾向にあった。単分散状態の評価で撮影された写真を
図4に示す。
図4に示すように、比較例3で得られたペレットでは単繊維状態の繊維が少なかった。
【0085】
参考例1
実施例1の工程Bと同様にして酢酸セルロース樹脂組成物を製造した。得られた酢酸セルロース樹脂組成物を、二軸押出機((株)STEER JAPAN製「OMEGA60」)に供し、混合温度190℃、スクリュー回転数200rpmの条件にてストランド上に押し出したものを、ペレタイザーにて切断しペレットを製造した。
【0086】
【0087】
実施例1~4では酢酸セルロースをベースとした繊維強化熱可塑性樹脂の製造に成功した。
実施例2では、工程Cでトリアセチンを使用した。繊維強化熱可塑性樹脂中の可塑剤量が増えることで、流動性、引張特性及び曲げ特性が向上した。また実施例2で製造したペレットの断面写真を
図1に、拡大写真を
図2に示す。
図1~2が示すように、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂では、繊維の分散が良好であることがわかる。
実施例3では、工程CでATBCを使用した。ATBCを使用しても、良好な引張特性及び曲げ特性を有する繊維強化熱可塑性樹脂が得られた。
実施例4では、可塑剤としてトリアセチンとATBCを併用した。引張伸度が大きく向上し、曲げ弾性も良好となり、柔らかな樹脂となった。