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特開2024-76052溶接材料、摺動部材および摺動部材の製造方法
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  • 特開-溶接材料、摺動部材および摺動部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076052
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】溶接材料、摺動部材および摺動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/08 20060101AFI20240529BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20240529BHJP
   B23K 35/28 20060101ALN20240529BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
B23K35/08
B23K35/26
B23K35/28
B23K35/30 320Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187413
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】中井 雅博
(57)【要約】
【課題】合金の元素の組成にかかわらず線材として形成され、溶接装置が限定されない溶接材料、この溶接材料を用いて形成される摺動部材および摺動部材の製造方法を提供する。
【解決手段】一実施形態の溶接材料10は、1本以上の主素線11および1本以上の副素線12を備える。主素線11は、溶接層21の主となる元素を含有する金属または合金からなる。副素線12は、前記主素線11と異なる金属または合金からなり、前記主素線11と組み合わせられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接層の主となる元素を含有する金属または合金からなる1本以上の主素線と、
前記主素線と異なる金属または合金からなり、前記主素線と組み合わせられた1本以上の副素線と、
を備える溶接材料。
【請求項2】
外径の異なる2本以上の前記主素線を有する、
請求項1記載の溶接材料。
【請求項3】
外径の異なる2本以上の前記副素線を有する、
請求項1記載の溶接材料。
【請求項4】
2本以上の前記副素線は、それぞれ組成が同一または異なる、
請求項3記載の溶接材料。
【請求項5】
前記主素線と前記副素線とが撚線状に撚り合わせられた、
請求項1記載の溶接材料。
【請求項6】
前記主素線と前記副素線とが編組線状に編み込まれた、
請求項1記載の溶接材料。
【請求項7】
基材と、
前記基材に積層して、請求項1から6のいずれか一項記載の溶接材料で形成され、前記主素線を由来とする元素および前記副素線を由来とする元素の合金からなる合金層と、
を備える摺動部材。
【請求項8】
基材に、前記基材と親和性の高い金属を含む請求項1から6のいずれか一項記載の溶接材料を肉盛溶接して、前記主素線を由来とする元素および前記副素線を由来とする元素の合金からなる溶接層を形成する溶接工程と、
前記溶接工程で形成した前記溶接層を機械的に加工して、前記基材の一方の端面側に合金層を形成する加工工程と、
を含む摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、溶接材料、摺動部材および摺動部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受装置の摺動部材として、基材の表面に溶接によって合金層を形成することが知られている(特許文献1)。特許文献1の場合、合金層となる溶接材料は、Cu-Ni-Si系の合金が用いられている。このような溶接材料は、元素の組成によっては合金の伸び率が5%以上と大きい。そのため、溶接材料を細い線材として形成することができ、連続した溶接工程に用いることができる。
【0003】
一方、近年では、摺動部材のさらなる性能の向上のために、合金層は多様な合金が用いられている。しかし、所望の摺動特性を達成可能な合金には、元素の組成によって伸び率が小さなものがある。例えば伸び率が5%未満となるような伸び率の小さな合金は、溶接材料の線材としての形成、および溶接装置への線材としての提供が困難である。伸び率の小さな合金は、線材を形成するために十分な外径を必要とするものの、外径によっては通常の溶接装置を用いることができないという問題がある。また、合金の組成を調整するために粉末を用いると、溶接装置が限定されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-229465号公報
【特許文献2】特開2016-179499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、合金の元素の組成にかかわらず線材として形成され、溶接装置が限定されない溶接材料、この溶接材料を用いて形成される摺動部材および摺動部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、一実施形態の溶接材料は、1本以上の主素線および1本以上の副素線を備える。主素線は、溶接層の主となる元素を含有する金属または合金からなる。副素線は、前記主素線と異なる金属または合金からなり、前記主素線と組み合わせられている。
【0007】
溶接材料は、主素線および副素線を組み合わせることにより、形成される合金層の組成を制御することができるとともに、線材としての機械的な性質が変更される。そのため、線材として伸び率や強度が小さな材料を用いる場合でも、主素線および副素線を組み合わせることにより、溶接装置に適した機械的な性質の溶接材料が形成される。したがって、合金の元素の組成にかかわらず線材として形成され、溶接装置を限定することなく適用することができる。
また、この溶接材料を用いて形成された摺動部材は、主素線および副素線を由来とする元素によって、所望の摺動特性を発揮する合金層が形成される。したがって、合金層を形成する合金の伸び率や強度にかかわらず、所望の摺動特性を達成する合金層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による溶接材料を撚線状に組み合わせた状態を示す模式図
図2図1の矢印II方向から見た模式図
図3】一実施形態による溶接材料を編組線状に組み合わせた状態を示す模式図
図4図3の矢印IV方向から見た模式図
図5】一実施形態による摺動部材を示す模式的な断面図
図6】一実施形態による摺動部材を回転部材に適用した例を示す模式図
図7】一実施形態によるによる溶接材料を適用した溶接装置を示す模式図
図8】一実施形態による溶接材料で形成した摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
図9】一実施形態による溶接材料で形成した摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
図10】一実施形態による溶接材料で形成した摺動部材の比較例の試験結果を示す概略図
図11】一実施形態による溶接材料で形成した摺動部材の試験条件を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態による溶接材料について説明する。
図1図4に示すように、溶接材料10は、主素線11および副素線12を備えている。主素線11は、1本以上であり、溶接後の溶接層を形成する主となる元素を含有する金属または合金で形成されている。副素線12は、主素線11と異なる金属または合金からなり、主素線11と組み合わされている。これら主素線11および副素線12は、対象となる溶接部分に求められる性能に応じて、構成する元素およびその組成が設定されている。
【0010】
主素線11と副素線12とは、例えば図1および図2に示すように撚線状に撚り合わされてもよく、図3および図4に示すように編組線状に編み込まれてもよい。すなわち、主素線11および副素線12は、複数を組み合わせることにより、1本の溶接材料10として撚線状または編組線状として形成されている。組み合わされた主素線11および副素線12で構成される溶接材料10は、主素線11または副素線12の単体と異なり、溶接の材料として供給される線材として十分な性能を有している。図1および図2に示すような撚線状の溶接材料10の場合、主素線11と副素線12とは、互いに捻られつつ撚り合わされている。また、図3および図4に示すような編組線状の溶接材料10の場合、主素線11と副素線12とは、互いに組み合わせられつつ編み込まれている。
【0011】
溶接材料10は、図5に示すような摺動部材20の合金層21を形成する。合金層21は、基材22の一方の面側に溶接材料10を肉盛溶接することによって形成されている。合金層21は、基材22と反対側の端面が図示しない相手部材に接する摺動面23を形成する。
【0012】
主素線11は、溶接によって形成される合金層21を構成する主たる金属または合金で形成されている。例えばCu基、Sn基、Al基などの合金で合金層21を形成する場合、主素線11はCu基、Sn基、Al基などの材料で形成されている。これに対し、副素線12は、それら合金層21を形成するCu基、Sn基、Al基の合金に、合金層21の性能を制御するために添加する添加元素を含む材料で形成されている。添加される元素としては、例えばAl、Si、Zn、Ni、Sn、Pb、Mg、Biなどである。これら主素線11および副素線12を構成する元素は、合金または純金属でもよく、形成する合金層21に応じて任意に選択することができる。
【0013】
主素線11を2本以上用いる場合、主素線11の外径は同一であってもよく、異なっていてもよい。同様に、2本以上の副素線12は、外径や組成が同一であってもよく、異なっていてもよい。主素線11と副素線12との間でも、外径は同一であってもよく、異なっていてもよい。主素線11および副素線12の外径は、形成する合金層21に含まれる元素の組成、溶接に用いる溶接材料10の強度や柔軟性などに応じて任意に制御される。同様に、主素線11および副素線12の数も、形成する合金層21に含まれる元素の組成、溶接材料10の強度や柔軟性などに応じて任意に制御される。主素線11および副素線12の構成元素の選択は、以下の用途に応じて行なうことができる。また、主素線11および副素線12の外径は、0.1~0.9mmであることが好ましい。
【0014】
1.合金層21に軟質物を析出
溶接によって形成される合金層21に、合金層21の主成分となる合金のマトリクスよりも融点が低い金属を添加すると、形成された合金層21は耐焼付性が向上する。これは、相手部材との摺動時において、添加された低融点の金属が合金層21の表面に供給されるからである。この場合、合金層21には、融点の低い軟質物が析出および分散した状態となる。
【0015】
(a)Cu基
Cu基の場合、溶接材料10は、Cu基合金を主素線11として、Sn基合金を副素線12として形成される。Cu基合金としては、例えば黄銅、青銅、Al青銅、Ni青銅などが用いられる。Sn基合金としては、例えばPb入りの共晶はんだ、Sn-Cu-AgやSn-Zn-BiなどのPbフリーはんだが用いられる。これらの組み合わせによって合金層21を形成することにより、合金層21は、Cu基合金に融点の低いPbやBiが析出および分散した状態となる。
【0016】
(b)Al基
Al基の場合、溶接材料10は、Al基合金を主素線11として、Sn基合金を副素線12として形成される。Al基合金としては、例えばJIS2000系列のAl-Cu-Mg、JIS4000系列のAl-Si、JIS5000系列のAl-Mg、JIS6000系列のAl-Si-Mgなどが用いられる。Sn基合金としては、例えばPb入りの共晶はんだ、Sn-Cu-AgやSn-Zn-BiなどのPbフリーはんだが用いられる。これらの組み合わせによって合金層21を形成することにより、合金層21は、Al基合金に融点の低いSn、MgSnなどのSn-Mg化合物やPbが析出および分散した状態となる。
【0017】
2.合金層21に硬質物を析出
溶接によって形成される合金層21に、合金層21の主成分となる合金のマトリクスよりも硬い化合物が析出または晶出すると、形成された合金層21は耐摩耗性が向上する。
この場合、溶接材料10は、種類の異なるCu基合金が主素線11および副素線12として用いられる。Cu基合金としては、例えば黄銅、Al青銅、白銅などが用いられる。これらの組み合わせによって合金層21を形成することにより、合金層21は、Cu基合金に硬度の高いNiAlやNiAlなどのNiAl化合物が析出および分散した状態となる。
【0018】
以上説明したように、一実施形態の溶接材料10では、主素線11および副素線12を撚線状に撚り合わせたり、編組線状に編み込んだりすることにより、線材としての性質が改良される。つまり、溶接材料10は、主素線11および副素線12を組み合わせることにより、形成される合金層21の組成を制御することができる。そのため、所望の摺動特性を達成可能な合金層21となる合金が伸び率や強度の点から溶接用の線材の形成に適していない場合でも、主素線11および副素線12を組み合わせることにより、溶接材料10は溶接装置に用いる線材として適したものとなる。したがって、合金の元素の組成にかかわらず線材として形成され、溶接装置を限定することなく適用することができる。
【0019】
次に、上記の溶接材料10で形成される摺動部材20について詳細に説明する。
図5に示すように摺動部材20は、合金層21および基材22を備えている。合金層21は、基材22の一方の面側である界面24に肉盛溶接することにより、基材22に設けられている。摺動部材20は、合金層21の表面、つまり合金層21の基材22と反対側の端面が図示しない相手部材と摺動する摺動面23となる。
【0020】
基材22は、いわゆる裏金層であり、Feを主成分とする材料で形成されている。Feを主成分とする基材22としては、例えば炭素鋼、亜共析鋼、共析鋼、過共析鋼、鋳鉄、高速度鋼、工具鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼などを用いることができる。また、基材22は、これらFe基に限らず、Cu基、Al基、Ti基などの金属や合金を用いてもよい。
【0021】
合金層21は、Cu、Al、Snなどを主成分とする合金である。合金層21は、基材22に上述の溶接材料10を肉盛溶接することにより、基材22に積層して形成されている。これにより、合金層21は、上述の溶接材料10を構成する主素線11および副素線12を由来とする元素の合金で形成される。合金層21は、溶接材料10を構成する元素の化合物によって生成される図示しない軟質相、硬質相などを含んでいてもよい。
【0022】
本実施形態で形成する摺動部材20は、例えば図6に示すように風力発電機の回転軸や軸受などのように、大規模かつ面圧が高い回転部材30に好適に用いることができる。図6に示す例の場合、回転部材30は、合金層21および基材22を備えている。合金層21は、基材22となる回転軸部31に、肉盛溶接によって直接設けられている。この場合、合金層21の外周面は、摺動面23を形成する。このように、回転軸部31に溶接によって合金層21を直接設けることにより、回転部材30は高い面圧にも対応することができる。また、このように風力発電機の回転部材30に摺動部材20を用いる場合、合金層21は、溶接によって基材22となる回転軸部31に肉盛されたあと、数mm以下の厚さに切削される。なお、摺動部材20は、例えば軸受部材などのように、円筒、半円筒、または周方向に3つ以上に分割した筒片状の基材22の内周側に、溶接によって合金層21を形成する構成としてもよい。
【0023】
次に、摺動部材20の製造方法について説明する。
合金層21は、基材22の表面に肉盛溶接によって形成されている。具体的には、合金層21は、図7に示すように溶接材料10を基材22に溶接することによって形成される。溶接材料10は、合金層21を形成する主素線11および副素線12で構成されている。
【0024】
溶接材料10は、図1図4に示すように撚線状または編組線状に形成されており、図7に示すように溶接装置40の供給部41に供給される。供給された溶接材料10は、基材22との間のアーク放電によって溶融し、基材22へ移行する。溶接装置40で用いる溶接方法は、溶接材料10として線材を用いるMIG溶接が用いられる。この場合、溶接材料10は、基材22へ向かう正方向および基材22から遠ざかる逆方向へ高速で往復駆動されるCMT方式を用いて基材22へ提供される。溶接にCMT方式を用いることにより、溶接時において合金層21に生成する無用な金属間化合物の生成が低減される。これにより、合金層21と基材22の間の接着強度は高く維持される。溶接装置40としてMIG溶接を用いる場合、溶接材料の総外径は、0.6~1.9mmであることが好ましい。なお、溶接材料10の溶接方法は、上述のMIG溶接に代えて、CO溶接、MAG溶接またはTIG溶接を用いてもよい。ただし、MAG溶接またはTIG溶接を用いる場合、基材22へ投入する熱量への配慮が必要である。また、溶接装置40としてMIG溶接、MAG溶接またはCO溶接を用いる場合、溶接材料10の総外径は、0.6~1.9mmであることが好ましい。
【0025】
溶接材料10によって基材22に形成された溶接層42は、摺動部材20における合金層21の前駆体である。この溶接層42の組成は、溶接材料10として提供される主素線11および副素線12に依存する。すなわち、溶接材料10で形成される溶接層42は、溶接材料10を構成する主素線11および副素線12に含まれる元素の合金として形成される。溶接材料10の溶接によって溶接層42が形成されると、溶接層42は例えば熱処理などの後処理が加えられる。これにより、溶接層42は、内部の結晶構造が制御された所望の合金層21となる。後処理が加えられ合金層21が形成された摺動部材20は、合金層21が所望の厚さへ切削される。合金層21は、例えば数mm以下に切削される。
【0026】
次に、溶接材料10を用いた摺動部材20の実施例および比較例について説明する。
図8図10において、素線材質と成分および通称との関係は、次の通りである。
「A4043」は「Al-Si合金」である。「Sn95Cu4Ag1」は「Pbフリーはんだ」である。「C2600」は「黄銅」である。「CAC703」は「Al青銅」である。「C7060」は「白銅」である。「Z80B30」は「Bi基Pbフリーはんだ」である。「Sn60Pb40」は「Pb入り共晶はんだ」である。「A5056」は「Al-Mg合金」である。「YGW12」および「YGW11」は「軟鋼ワイヤ」である。「Y308」は「ステンレスワイヤ」である。「CAC603」は「Cu-Sn-Pb合金」である。「AJ-1」は「Al-Sn合金」である。「CAC502」は「Cu-Sn合金」である。「A1020」はAlの純金属の単体である。また、図8図10における溶接材料の径および総外径の単位は、いずれもmmである。溶接材料10となる線材の総外径は、構成する主素線11および副素線12が最も多く組み合わされ、直径が最大となる箇所においてノギスで測定している。
【0027】
実施例1~7、実施例15~17については、溶接材料10は、複数の素線が撚線状に撚り合わされている。実施例8~14については、溶接材料10は、複数の素線が編組線状に編み込まれている。比較例1~7については、溶接材料10は、一般的に用いられる棒線状である。また、比較例4、比較例6は、伸び率が小さく溶接装置40に適用可能な外径の線材を形成することができなかった。これに対し、これら伸び率の小さな材料で外径を拡大して線材を形成した比較例5、比較例7は、いずれも線径が過大となり、通常用いられる溶接装置では線材溶接そのものができなかった。
【0028】
実施例および比較例は、摺動試験によって評価した。試験片は、板厚が2mmの基材22に各実施例または比較例の溶接材料10を用いて肉盛溶接することにより、合金層21となる溶接層42を形成した。形成した溶接層42は、厚さを0.5mmとなるように切削および研磨し、合金層21とした。試験片は、往復摺動試験機によって図11に示す条件で摺動試験を行なった。摺動試験は、形成した試験片における合金層21の動摩擦係数を測定するとともに、摺動時における相手部材への凝着の有無を評価した。摺動部材20と相手部材との摺動時に、相手部材に合金層21を形成する合金の凝着が生じると、摺動部分における摩擦係数の増大を招くとともに、焼付の原因となる。
【0029】
図8および図9に示すように、実施例1~7、実施例15~17は、複数の素線を図1および図2に示すような撚線状とした。また、実施例8~14は、複数の素線を図3および図4に示すような編組線状とした。これら実施例1~17は、生成される合金の組成が溶接用の線材の形成に適していない場合、または素線の一部に伸び率や強度の面から線材としての形成が困難な材質のものを含んでいる場合でも、溶接材料10として溶接装置40に適用することができる。また、これら実施例1~17の溶接材料10から形成した摺動部材20は、摺動試験によって、溶接材料10の組成に応じて動摩擦係数の低下が確認される。これは、溶接材料10の素線の材料を適切に選択することにより、合金層21を構成する元素の組成が制御され、形成される合金層21の摩擦係数が低減されるからである。さらに、これら実施例1~17の溶接材料10から形成した摺動部材20は、相手部材への凝着も見られなかった。これも、溶接材料10の素線の材料を適切に選択することにより、合金層21を構成する元素の組成が制御され、形成される合金層21の物性が制御されるからである。
【0030】
これに対し、比較例1~3は、いずれも従来用いられている棒線状の溶接材料10である。比較例1~3は、肉盛溶接によって合金層21となる溶接層42を形成することができるものの、所望の摺動特性を達成する溶接層42となる合金の組成に制御できない。これは、特定の材質で1本の棒線状に形成された溶接材料10は、それ自身の組成に依存し、溶接材料10を組成する以外の元素の添加ができないからである。そのため、比較例1~3は、動摩擦係数が実施例1~17に比較して高くなっている。また、比較例1~3は、その合金の特性上、摺動時において相手部材への凝着も見られた。さらに、比較例4~7は、所望の摺動特性を発揮する合金層21となる単一の材質で溶接材料の形成を試みた。しかし、比較例4および比較例6の場合、素線となる合金の伸び率が極めて小さいことから、溶接装置40に適用可能な線径に形成することができなかった。また、比較例5および比較例7の場合、伸び率の小さな合金で線材として形状を維持するためには、その線径が過大となり溶接装置40への適用ができなかった。
【0031】
以上のことから、異なる材料からなる素線を組み合わせた本実施形態の溶接材料10を用いることにより、合金層21を形成する合金の組成にかかわらず溶接材料10を線材として提供することができる。例えば、合金層21となる合金が伸び率や強度の関係で単一の合金として溶接材料を形成することが困難な場合がある。この場合、本実施形態のように伸び率や強度が十分な合金や純金属で主素線11および副素線12を形成し、これを組み合わせることにより、溶接材料10を形成している。形成した溶接材料10は、溶接装置40に適用可能な十分な機械的な性能を有しており、溶接装置40による溶接に供することができる。そして、この溶接材料10で形成された摺動部材20の合金層21は、主素線11および副素線12に含まれる元素を由来として、溶接によって所望の摺動特性を達成する合金として形成される。したがって、合金層21を形成する合金の組成にかかわらず、溶接によって所望の摺動特性を達成することができる。また、本実施形態の溶接材料10を用いることにより、溶接材料10に含まれない元素を粉末などで添加する必要がない。そのため、本実施形態の溶接材料10を用いることにより、溶接装置40を限定することなく、摺動特性が制御された摺動部材20の合金層21を溶接によって形成することができる。
【0032】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
例えば、複数の素線を撚線状に撚り合わせた素線群を編組線状に編み込んだり、複数の素線を編組線状に編み込んだ素線群を撚線状に撚り合わせたりしてもよい。このように、主素線11および副素線12は、1本以上が互いに撚り合わせたり編み込んだりすることによって、組み合わせられていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
図面中、10は溶接材料、11は主素線、12は副素線、20は摺動部材、21は合金層、22は基材、23は摺動面、42は溶接層を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11