(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076053
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】保持器、その保持器を用いた保持器付き針状ころ及び軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240529BHJP
F16C 33/34 20060101ALI20240529BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240529BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/34
F16H57/04 K
F16H57/04 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187414
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】久保田 好信
【テーマコード(参考)】
3J063
3J701
【Fターム(参考)】
3J063AA02
3J063AB12
3J063AC03
3J063BA11
3J063BB48
3J063XD03
3J063XD43
3J063XD73
3J701AA14
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA05
3J701CA08
3J701FA32
3J701GA11
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】潤滑油の低粘度化、回転遠心力の増加に対応できる潤滑構造とする。
【解決手段】周方向に沿って配置される複数の針状ころ13及び針状ころ13を周方向に沿って保持する保持器20が、給油穴32がその周面に開口する内方部材1の外周に配置される針状ころ軸受10に用いられる保持器20であって、針状ころ13及び保持器20は、給油穴32から供給される潤滑油によって潤滑され、針状ころ13の直径dwをφ1.5~φ4とし、保持器20は一対の円環部21,21と、一対の円環部21,21間を軸方向に結ぶ柱部22とを備え、針状ころ13と柱部22の側面と間の隙間CLaを針状ころ13の直径dwの0.02~0.08倍の保持器20とした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って配置される複数の針状ころ(13)及び前記針状ころ(13)を周方向に沿って保持する保持器(20)が、給油穴(32)がその周面に開口する内方部材(1)の外周に配置される針状ころ軸受(10)に用いられる前記保持器(20)であって、
前記針状ころ(13)及び前記保持器(20)は、前記給油穴(32)から供給される潤滑油によって潤滑され、前記針状ころ(13)の直径(dw)をφ1.5~φ4とし、前記保持器(20)は一対の円環部(21,21)と、一対の前記円環部(21,21)間を軸方向に結ぶ柱部(22)とを備え、前記針状ころ(13)と前記柱部(22)の側面と間の隙間(CLa)を前記針状ころ(13)の直径(dw)の0.02~0.08倍としたことを特徴とする保持器。
【請求項2】
前記隙間(CLa)を前記針状ころ(13)の直径(dw)の0.03~0.05倍としたことを特徴とする請求項1に記載の保持器。
【請求項3】
前記一対の円環部(21,21)及び前記柱部(22)は金属製のプレス成形品で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の保持器。
【請求項4】
前記柱部(22)は、前記円環部(21)への接続部である接続端部(25)と、前記柱部(22)の軸方向中ほどに位置して前記接続端部(25)よりも内径側に位置する中央部(23)と、前記接続端部(25)と前記中央部(23)とを接続する傾斜部(24)とを備え、
前記中央部(23)の軸方向長さ(B2)を、前記保持器(20)の軸方向幅(B1)の40%以上としたことを特徴とする請求項1に記載の保持器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の前記保持器(20)を用い、周方向に隣り合う前記柱部(22)間に前記針状ころ(13)を保持した保持器付き針状ころ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一つに記載の保持器を用いた針状ころ軸受が組み込まれ、
前記針状ころ(13)及び前記保持器(20)を潤滑する前記潤滑油の動粘度が、40℃で25mm2/s以下、100℃で5mm2/s以下である軸受装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一つに記載の保持器を用いた針状ころ軸受が組み込まれ、
前記針状ころ(13)及び前記保持器(20)の外周に外方部材(2)が配置され、前記外方部材(2)を遊星歯車機構に用いられるピニオンギヤとした軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動体として針状ころを用いた転がり軸受に用いられる保持器、その保持器を用いた保持器付き針状ころ及び軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転動体として針状ころ(ニードル)を用いた転がり軸受が、種々の分野で広く用いられている。例えば、自動車や自動二輪車等の輸送用機器、あるいは、各種分野の産業用機械において、針状ころ軸受が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1は、自動車用の自動変速機に用いられる遊星歯車機構において、遊星歯車の支持に用いられる針状ころ軸受を示している。一般に、遊星ギヤは自転しながらキャリアを伴って公転する複雑な構造であるため、各部に潤滑油が充分にいきわたらない傾向がある。近年、自動車の燃費向上のため変速機の小型化が求められており、遊星ギヤの回転速度が高速になるなど、その使用条件が厳しくなってきている。このため、特許文献1では、潤滑油を効率的に行き渡らせるために、針状ころを保持する保持器の形状を工夫している。
【0004】
具体的には、保持器は、一対の円環部と、その円環部間を軸方向に結ぶ複数の柱部を備えた構成となっている。周方向に隣り合う柱部同士の間が、針状ころが収容されるポケットとなっている。柱部は、一対の円環部に接続された端板部と、軸方向中間に位置し端板部よりも径方向内方に配設される中央板部と、端板部と中央板部とを軸方向に対して傾斜した状態で連結する斜板部とを備えている。また、中央板部の軸方向中ほどには、周方向に向けて幅狭となる幅狭部が設けられている。そして、ポケットの軸方向長さをL1、中央板部の軸方向長さをL2、幅狭部の軸方向長さをL3とし、中央板部の周方向幅寸法をL4、幅狭部の周方向幅寸法をL5とするとき、L1>L2>L3、且つ、L4>L5としている。
【0005】
このような構成としたことにより、中央板部の中ほどの幅狭部を通じて、保持器と針状ころとの間に潤滑油の流路となる隙間が形成される。これにより限られた潤滑油量で、転動面での潤滑油を効率的に保持できるとされている。また、幅狭部の設定により、柱部の中ほどにおいて容量が減少されることで、回転時に遠心力が負荷されたとしても、柱部は自重に伴う変形が抑制されて、針状ころに対する保持性を損なわないとされている。
【0006】
また、一般に、内径案内の保持器では高速条件で問題があり、外径案内の保持器では遠心力により保持器位置が外輪軌道面側に移動して隙間がなくなり、潤滑油の流路が塞がれて周辺部品への潤滑が不充分となる問題がある。そこで、特許文献2は、保持器を外径案内で規制する構造において、保持器の円環部に軸方向外側と軸方向内側を連通させる貫通孔を設け、さらに、円環部の外径面にポケットの内側へ通じる凹溝を形成している。この貫通孔や凹溝の介在により、転がり軸受の自転や公転に伴う遠心力によって、転がり軸受の外径側と外径側軌道面との隙間から流出する潤滑油を確保できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-115300号公報
【特許文献2】特開2007-211934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、自動車用の変速機等に使用される転がり軸受は、燃費向上のため潤滑油の低粘度化や潤滑油供給量の減少に伴い、軌道面と転動面間に十分な油膜が形成されない過酷な状態で使用されるケースが増えている。例えば、ATフルード(オートマチックトランスミッションフルード)、CVTフルード(連続可変トランスミッションフルード)等の動粘度の水準は、現在のところ、40℃で40mm2/s以下、100℃で10mm2/s以下であるが、今後は更に低下していくことが予想される。さらに、近年は、駆動源の電動化による回転速度の高速化傾向が顕著である。このため、潤滑油の低粘度化に加え、回転遠心力の増加により、シャフトに設けられた油孔から供給される潤滑油が、軸受を通過して外径側に流動しやすくなり、その結果、シャフトの潤滑に寄与する油量が減少する傾向が顕著となってきている。
【0009】
特許文献1では、少量の潤滑油を軸受外径側に効率的に流動させて、潤滑油を転動面に保持させる技術を開示しているが、前述の通り、更に厳しさを増す過酷な使用条件の下では、潤滑油のメンテナンス次第では、シャフト(軸受内径側)の転動面に傷や破損が生じる可能性が危惧される。このため、少量の潤滑油を、軸受内に適切に配分する流路設計において、更なる改善が必要となってきている。
【0010】
一方で、部品のコストに対する低減の要請も引き続き存在し、特許文献2で開示されているような、貫通孔や凹溝の追加加工による潤滑油流路設計ではコストアップが顕著であり、その採用が困難となる。
【0011】
そこで、この発明の課題は、潤滑油の低粘度化、回転遠心力の増加に対応できる潤滑構造とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明は、周方向に沿って配置される複数の針状ころと、前記針状ころを周方向に沿って保持する保持器とを備え、給油穴がその周面に開口する内方部材の外周に配置される針状ころ軸受に用いられる前記保持器であって、前記針状ころ及び前記保持器は、前記給油穴から供給される潤滑油によって潤滑され、前記針状ころの直径をφ1.5~φ4とし、前記保持器は一対の円環部と、一対の前記円環部間を軸方向に結ぶ柱部とを備えた金属製のプレス成形保持器であって、前記針状ころと前記柱部の側面と間の隙間を前記針状ころの直径の0.03~0.08倍としたことを特徴とする保持器を採用した(構成1)。
【0013】
さらに、前記隙間を前記針状ころの直径の0.03~0.05倍とした構成を採用できる(構成2)。
【0014】
ここで、前記一対の円環部及び前記柱部は金属製のプレス成形品である構成を採用できる(構成3)。
【0015】
また、前記柱部は、前記円環部への接続部である接続端部と、前記柱部の軸方向中ほどに位置して前記接続端部よりも内径側に位置する中央部と、前記接続端部と前記中央部とを接続する傾斜部とを備え、前記中央部の軸方向長さを、前記保持器の軸方向幅の40%以上とした構成を採用できる(構成4)。
【0016】
上記構成1の態様、又は、上記構成1に上記構成2を加えた態様に対して、上記構成3及び上記構成4から選択される単一の又は複数の構成を付加した態様を採用できる。
【0017】
これらの各態様からなる前記保持器を用い、周方向に隣り合う前記柱部間に前記針状ころを保持した保持器付き針状ころを採用できる。
【0018】
また、これらの各態様からなる保持器を用いた針状ころ軸受が組み込まれ、前記針状ころ及び前記保持器を潤滑する前記潤滑油の動粘度が、40℃で25mm2/s以下、100℃で5mm2/s以下である軸受装置を採用できる。
【0019】
さらに、これらの各態様からなる保持器を用いた針状ころ軸受が組み込まれ、前記針状ころ及び前記保持器の外周に外方部材が配置され、前記外方部材を遊星歯車機構に用いられるピニオンギヤとした軸受装置を採用できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、潤滑油の低粘度化、回転遠心力の増加に対応できる潤滑構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、一実施形態に係る針状ころ軸受10の縦断面を示している。針状ころ軸受10(以下、単に軸受10と称する)は、保持器20と、その保持器20によって周方向に沿って保持される複数の針状ころ13(以下、単にころ13と称する)とを備えている。保持器20ところ13は、内方部材1と外方部材2の間の環状空間に配置され、その内方部材1と外方部材2とを軸心周りに回転自在に支持している。
【0023】
なお、この実施形態では、遊星歯車機構に使用される軸受10を想定し、内方部材1をシャフトとし、外方部材2は、その外周に多数の歯2aを有するギヤ(遊星ギヤ/ピニオンギヤ)としている。この実施形態では、軸受10自体は、内方部材1や外方部材2を備えない状態で保持器付き針状ころとして提供される。その後、軸受部品としての保持器付き針状ころが内方部材1と外方部材2との間に組み込まれて、保持器付き針状ころ、内方部材1及び外方部材2によって軸受10を構成する。
【0024】
図1に示すように、保持器20は、複数のころ13を周方向へ保持するとともに、そのころ13を転動自在としている。内方部材1(以下、実施形態ではシャフト1と称する)の外周面を円筒面状の内側軌道面11とし、外方部材2(以下、実施形態ではギヤ2と称する)の内周面を円筒面状の外側軌道面12とする。ころ13の転動面は、これら内側軌道面11及び外側軌道面12に転がり接触する。ギヤ2の軸方向両端面とその外側にそれぞれ配置される支持部材4,4との間には、フローティングワッシャ3,3が配置され、ギヤ2と支持部材4との間の摩擦力を低減している。
【0025】
ころ13は円筒形状を成し、その外周の円筒面には適宜のクラウニング処理が施されて、軸方向両端部での応力集中が緩和されている。クラウニング処理は、例えば、素材の焼入れ後にその表面を研削仕上げすることによって行われる。
【0026】
保持器20は、例えば、金属製の板状部材に対して、打ち抜き加工と曲げ加工を行うことで成形できる。保持器20の構成は、
図2~
図4に示すように、一対の円環部21,21と、その円環部21,21間を軸方向に結ぶ複数の柱部22を備えた構成となっている。周方向に隣り合う柱部22,22同士の間が、ころ13が収容されるポケットとなっている。保持器20は、その軸方向両端部の外径面をギヤ2の内径面に接触させる外径案内となっている。
【0027】
通常、自動車の変速機、減速機等に用いられる遊星歯車機構では、遊星ギヤに適用される軸受10として、例えば、内径φ6~φ30mm程度のサイズが多用されている。この場合、ころ13は、直径寸法φ1.5~φ4mmが多く使用されている。また、近年は、軸受10の高負荷容量化が進んでおり、軸受10の軸方向幅が、その内径寸法より大きい幅広軸受が多くなってきている。このような幅広軸受では、保持器20は、上記のような金属製(鋼板製)の保持器、特に、プレス成形保持器が使用される場合が多いが、これを樹脂製の保持器としてもよい。
【0028】
柱部22は、円環部21への接続部である接続端部25と、柱部22の軸方向中ほどに位置して接続端部25よりも内径側に位置する中央部23と、接続端部25と中央部23とを接続する傾斜部24とを備えている。傾斜部24は、軸方向に対して傾斜する方向に接続端部25と中央部23とを結んでいる。
【0029】
図4に示すように、保持器20の軸方向幅(円環部21,21の外端面間距離)をB1(以下、第一寸法B1と称する)とし、中央部23の軸方向長さをB2(以下、第二寸法B2と称する)とする。
【0030】
図5に示すように、シャフト1には、給油通路30が設けられている。給油通路30は、シャフト1の外部に設定されたオイル供給源に通じており、そのオイル供給源から潤滑油が供給されるようになっている。給油通路30は軸方向に沿って設けられ、軸受10の内径側部分でその向きを変え、外径方向へ伸びてシャフト1の外面に開口している。シャフト1の外面に開口する給油通路30を給油穴32と称する。針状ころ13及び保持器20、さらには、シャフト1側の内側軌道面11、ギヤ2側の外側軌道面12は、給油穴32から供給される潤滑油によって潤滑される(
図5中の矢印A,B,C、D参照)。なお、潤滑油は、動粘度が40℃で25mm
2/s以下、100℃で5mm
2/s以下のものを採用することも可能である。
【0031】
この実施形態では
図6に示すように、針状ころ13の直径dwをφ1.5~φ4mmとし、針状ころ13と保持器20の柱部22の側面と間の隙間CLaを、針状ころ13の直径dwの0.03~0.08倍としている。柱部22の中央部23におけるころ13との隙間CLaを、従来よりも小さくすることで、軸受10の外径側に流出する潤滑油の量(
図7の矢印B参照)を制御し、シャフト1の表面の潤滑に寄与する油量を確保することができる。これにより、シャフト1の表面損傷を抑制することができる。すなわち、以下の式1を満たすことが好ましい。
0.02dw ≦ CLa ≦ 0.08dw・・・(式1)
【0032】
隙間CLaは、より小さい方が潤滑油をシャフト1の表面付近に保持しやすい。しかし、隙間CLaが0.02dw未満では軸受寿命低下のリスクが高まる。このため、隙間CLaは、0.02dwを下限値とした。また、隙間CLaが0.077dwより大きくなると、潤滑油が軸受部に滞留せずに外部に抜けてしまう傾向が強くなる(後述の表1参照)が、ここで、保持器20の製造時における寸法のばらつきを考慮し、隙間CLaの上限値を0.08dwとした。なお、今後もさらに進むと予想される軸受10の高速化を考慮すれば、隙間CLaを、ころ13の直径dwの0.03~0.05倍とすることが好ましい。すなわち、以下の式2とすることが好ましい。
0.03dw ≦ CLa ≦ 0.05dw・・・(式2)
【0033】
なお、針状ころ13と柱部22の側面と隙間CLaは、以下の式3で定義される。
CLa=0.5[(D1-dw)×sin(360/2z)-dw-a]・・・(式3)
【0034】
ここで、
隙間:CLa
外側軌道面12の内径:D1
ころ13の直径:dw
ころ13の数:z
保持器20の柱部22(中央部23)の幅:a
ころPCD:D1―dw
である(
図4及び
図6参照)。
【0035】
なお、この実施形態では、柱部22の中央部23が、外径面から内径面まで幅aが一定となっているが、これを、例えば、外径側に向かうにつれて拡径する形状として、ころ13の抜け止め機能を発揮させてもよい。
【0036】
表1に、この発明の実施例と比較例を示す。
【0037】
【0038】
実施例及び比較例では、潤滑油の動粘度を、前述のように、40℃で25mm2/s以下、100℃で5mm2/s以下としている。隙間CLaが0.077dw以下で、シャフト1の損傷が改善されている(実施例A及び実施例B)。ただし、隙間CLaが0.02dw以下では、軸受寿命が低下する場合がある。このように、潤滑油の流路となる隙間CLaは、その上限値、下限値の両方を規制するのが好ましい。
【0039】
また、柱部22における中央部23の軸方向長さ(第二寸法B2)を、保持器20の軸方向幅(第一寸法B1)の40%以上とすることが、さらに好ましい。すなわち、以下の式4とすることが、さらに好ましい。
0.4B1 ≦ B2・・・(式4)
ここで、第二寸法B2は、小さすぎないほうがよい。潤滑油をころ13の端部まで保持することで、ころ13の軸方向端部付近に発生しやすいシャフト1の損傷を抑制するためである。
【0040】
図8A及び
図8Bに一つの比較例(数値は、上記比較例Cに相当)を、
図9A及び
図9Bに一つの実施例(数値は、上記実施例Aに相当)を示す。
図8A及び
図8Bの比較例は、保持器20の柱部22に通油ヌスミ29を設けて、中央部23におけるころ13との隙間すきまCLa値を変更したものである。
図9A及び
図9Bの実施例は、通油ヌスミ29を設けていない。通油ヌスミ29を設けた場合の中央部23の幅w1に対して、通油ヌスミ29を設けない場合の中央部23の幅w2は大きく設定されている。図中の符号27は、柱部22の側面27(ただし、通油ヌスミ29を設けた部分を除く)であり、符号26は、接続端部25の側面26である。なお、接続端部25の円環部21側の根元部には、柱部22の幅方向に凹む凹部28が設けられている。凹部28が設けられている部分は、接続端部25の幅がやや狭くなっている。
【0041】
図10A及び
図10Bは、
図8A及び
図8Bの比較例C、及び、
図9A及び
図9Bの実施例Aをもとに、保持器20の柱部22に通油ヌスミ29を設けて隙間CLaの値を変えた場合の、軸受寿命とシャフトの摩耗について検証したものである。
【0042】
図8A及び
図8Bに示す比較例Cでは、
CLa=0.136dw
B2=0.5B1
に設定されている。
【0043】
図9A及び
図9Bに示す実施例Aでは、
CLa=0.030dw
B2=0.5B1
に設定されている。
【0044】
図10A及び
図10Bの上段に示すように、隙間CLaが大きい(CLa=α1=0.136dw)の比較例Cでは、保持器20の柱部22に設けた通油ヌスミ29を油路として、潤滑油が外径側に多量に流れたため、シャフト1の外径部で潤滑油量不足が生じたと推測される。このため、シャフト1に異常摩耗が生じるとともに、発生した摩耗粉の影響で外方部材2にフレーキングが発生した。
図10A及び
図10Bの下段に示すように、隙間CLaが小さい(CLa=α2=0.030dw)の実施例Aでは、軸受寿命が向上するとともに、シャフト1の摩耗量は減少している。すなわち、軸受寿命に関しては、実施例A(CLa=α2=0.030dw)は、比較例C(CLa=α1=0.136dw)の4.7倍であり、シャフト1の摩耗に関しては、実施例A(CLa=α2=0.030dw)は、比較例C(CLa=α1=0.136dw)の0.4倍となっており、この発明の効果が確認できる。
【0045】
上記の実施形態では、この発明の針状ころ軸受10が組み込まれ、内方部材1をシャフト、外方部材2をギヤ(遊星ギヤ/ピニオンギヤ)とした軸受装置を例に、この発明の構成を説明したが、遊星歯車機構の遊星ギヤ以外にも、各種の輸送用機器、産業用機械等の回転軸の支持部に、この発明の針状ころ軸受10及び、その針状ころ軸受10を用いた軸受装置を適用できる。また、上記の実施形態では、内方部材1をシャフトとし、外方部材2をギヤとしていたが、外方部材2はハウジング等であってもよい。
【0046】
上記の実施形態では、軸受10は、内方部材1や外方部材2を備えない状態、すなわち、
図11に実線で示す保持器20と針状ころ13とからなる保持器付き針状ころとして提供される形態としていた。ただし、仕様によっては、保持器付き針状ころが内方部材1及び外方部材2のいずれか一方に備えられた状態で提供されたり、あるいは、保持器付き針状ころが内方部材1及び外方部材2の間に配置された状態で軸受10として提供される場合もある。このとき、内方部材1はシャフトが挿通可能な孔を有する環状部材で構成されるのがよい。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 内方部材
2 外方部材
10 針状ころ軸受
13 針状ころ
20 保持器
21 円環部
22 柱部
23 中央部
24 傾斜部
25 接続端部
32 給油穴
CLa 隙間
dw 直径