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特開2024-76057複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液及びその製造方法、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、電極及びその製造方法、並びに固体酸化物形燃料電池単セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076057
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液及びその製造方法、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、電極及びその製造方法、並びに固体酸化物形燃料電池単セル
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/06 20060101AFI20240529BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240529BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240529BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C01G51/06
C01G51/00 A
H01M8/12 101
H01M4/86 U
H01M4/86 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187420
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宋 東
(72)【発明者】
【氏名】三由 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】福山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和好
(72)【発明者】
【氏名】神成 尚克
【テーマコード(参考)】
4G048
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD10
4G048AE07
4G048AE08
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018EE13
5H018HH01
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能な複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を提供する。
【解決手段】複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3のナノ粒子を製造するための水溶液であって、塩基性金属炭酸塩と、金属イオンに対して配位能を有する配位性有機化合物と、を溶質として含有し、pHが2以上7以下である。塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオン、ストロンチウムイオン、コバルトイオン、炭酸イオン、及び水酸化物イオンを有する。当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、
塩基性金属炭酸塩と、金属イオンに対して配位能を有する配位性有機化合物と、を溶質として含有し、pHが2以上7以下であり、
前記塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+、炭酸イオン、及び水酸化物イオンを有し、
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記塩基性金属炭酸塩から製造される前記ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項2】
前記配位性有機化合物がクエン酸である請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項3】
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記塩基性金属炭酸塩から製造される前記ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上10倍以下である請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項4】
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記塩基性金属炭酸塩の濃度は、5質量%以上15質量%以下であり、
前記塩基性金属炭酸塩の濃度は、所定質量の当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造される前記ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造する方法であって、
前記塩基性金属炭酸塩と前記配位性有機化合物とを水に溶解する溶解工程を有する複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法。
【請求項6】
硝酸ランタン(III)、硝酸ストロンチウム(II)、硝酸コバルト(II)を含有する硝酸塩水溶液に、沈殿剤を添加して、非晶質の塩基性金属炭酸塩を沈殿させる沈殿工程を有し、当該沈殿工程で得た前記非晶質の塩基性金属炭酸塩を、前記溶解工程において水に溶解する請求項5に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記沈殿剤が、炭酸水素テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラメチルアンモニウムである請求項6に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記炭酸水素テトラメチルアンモニウムの使用量は、前記硝酸塩水溶液が有するストロンチウムイオンの電荷の中和に必要な物質量以上であり、前記水酸化テトラメチルアンモニウムの使用量は、前記沈殿剤が添加された前記硝酸塩水溶液のpHが5以上となる物質量である請求項7に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法。
【請求項9】
ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子を製造する方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を750℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程を有する複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記焼成温度が650℃以上750℃以下である請求項9に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる含浸工程を有し、前記含浸工程において前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた前記多孔質体を前記焼成工程において焼成する請求項9に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
多孔質基体と、前記多孔質基体の表面に開口する細孔の内面に配されたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子と、を備える電極。
【請求項13】
前記ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径は50nm以下である請求項12に記載の電極。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質基体に含浸させる含浸工程と、前記含浸工程において前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた前記多孔質基体を750℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を備える電極の製造方法。
【請求項15】
前記焼成温度が650℃以上750℃以下である請求項14に記載の電極の製造方法。
【請求項16】
空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する固体酸化物形燃料電池単セルであって、請求項12又は請求項13に記載の電極で前記空気極が構成されている固体酸化物形燃料電池単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物のナノ粒子を製造するための前駆体水溶液及びその製造方法、当該前駆体水溶液を用いる複合酸化物ナノ粒子の製造方法、当該複合酸化物のナノ粒子を備える電極及びその製造方法、並びに当該電極を備える固体酸化物形燃料電池単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(以下、「LSC」と記すこともある)は、電子伝導性が高いことに加えて、電極触媒としての活性が高いため、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の空気極の材料として使用される場合がある。なお、上記化学式中のxは0超過1未満の数である。LSCを有する空気極は、LSCを製造することが可能な前駆体水溶液を多孔質基体に含浸させた後に焼成することによって製造することができる。
非特許文献1には、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト、及び界面活性剤を含有する水溶液を上記前駆体水溶液として用いて、LSCを有する電極を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Power Sources,410-411(2019),p.91-98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に開示の技術は、硝酸塩を含有する水溶液を上記前駆体水溶液として用いているので、単相のLSC(酸化ランタン(III)(La23)、酸化コバルト(III)(Co23)等の不純物の含有量が少ない高純度のLSC)を形成するためには、前駆体水溶液を900℃以上の高温で焼成する必要があった。硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルトの溶解度及び結晶構造は異なるため、加熱濃縮時に元素の偏析が生じ、焼成温度が900℃未満であると、不純物相が残留するおそれがあった。LSCが不純物を含有していると、電極特性及び長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池が得られにくい。
【0005】
一方、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造する際に900℃以上の高温で焼成を行うと、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池において多孔質基体を形成するジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)と、LSCのストロンチウム、コバルトとが反応して、SrCrO4、SrZrO3等の高抵抗相が形成されるおそれがあった。
また、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造する際に900℃以上の高温で焼成を行うと、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池に使用される金属製の多孔質支持体の酸化が促進されるおそれがあった。
これらのことから、非特許文献1に開示の技術をメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することは難しかった。
【0006】
本発明は、高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能な前駆体水溶液及びその製造方法、並びに、高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、長期耐久性に優れた電極及びその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池単セルを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、塩基性金属炭酸塩と、金属イオンに対して配位能を有する配位性有機化合物と、を溶質として含有し、pHが2以上7以下であり、塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+、炭酸イオン、及び水酸化物イオンを有し、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上であることを要旨とする。
【0008】
本発明の別の態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法は、上記一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造する方法であって、塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物とを水に溶解する溶解工程を有することを要旨とする。
本発明のさらに別の態様に係る複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子を製造する方法であって、上記一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を750℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程を有することを要旨とする。
【0009】
本発明のさらに別の態様に係る電極は、多孔質基体と、多孔質基体の表面に開口する細孔の内面に配されたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子と、を備えることを要旨とする。
本発明のさらに別の態様に係る電極の製造方法は、上記一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質基体に含浸させる含浸工程と、含浸工程において複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた多孔質基体を750℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程と、を備えることを要旨とする。
本発明のさらに別の態様に係る固体酸化物形燃料電池単セルは、空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する固体酸化物形燃料電池単セルであって、上記さらに別の態様に係る電極で空気極が構成されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液及び複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能である。本発明に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法は、高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することができる複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造可能である。本発明に係る電極及び固体酸化物形燃料電池単セルは、長期耐久性に優れている。本発明に係る電極の製造方法は、長期耐久性に優れた電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の一実施形態を説明する模式的概念図である。
図2】本発明に係る複合酸化物ナノ粒子の製造方法の一実施形態を説明する模式的概念図である。
図3】実施例1及び比較例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成時に生成した生成物をX線回折法により分析した結果を示す図である。
図4】実施例及び比較例において評価に用いた固体酸化物形燃料電池単セルの構造を説明する模式的断面図である。
図5】実施例1及び比較例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いて製造した固体酸化物形燃料電池単セルの発電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0013】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、塩基性金属炭酸塩と、金属イオンに対して配位能を有する配位性有機化合物と、を溶質として含有して、そのpHは2以上7以下である。
【0014】
上記塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+、炭酸イオン、及び水酸化物イオンを有する。
また、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上である。
【0015】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液には、上記質量の配位性有機化合物が含有されている。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液においては、塩基性金属炭酸塩に由来するランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+に配位性有機化合物が配位しているため、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+は複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に極めて均一に分散している。
【0016】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液において、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+が配位性有機化合物の作用によって均一に分散している状態の一例を、図1に模式的に示す。図1においては、配位性有機化合物が短い波線で示されている。
【0017】
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液に対してランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+が均一に分散されているため、焼成に900℃以上の高温を必要とせず、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成する際の焼成温度が例えば750℃以下の低温であっても、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造することが可能である。すなわち、マイクロメートルオーダーの複合酸化物粒子ではなく、ナノメートルオーダーの極微細な複合酸化物ナノ粒子を得ることができる。
【0018】
詳述すると、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成により、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が生成する際には、まず複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中の水等の溶媒が除去されて、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+が均一に分布した非晶質ゲルが形成され、その後に焼成が行われてランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が生成する。
【0019】
この非晶質ゲルは、非晶質であるために元素の偏在が抑制され、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、及びコバルトイオンCo2+が均一に分布している。よって、例えば750℃以下の低温での焼成であっても、未反応物、中間生成相等の不純物が生成しにくく、高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物が得られる。
【0020】
よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から得られたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を用いて電極(例えば、固体酸化物形燃料電池単セルの空気極)を製造すれば、大きな表面積を有する触媒を得ることができるので、触媒活性が優れる電極を製造することができる。したがって、その電極を空気極として用いれば、空気極の触媒活性が優れる固体酸化物形燃料電池単セルを製造することができる。
【0021】
また、低温で焼成可能であることから、低コストで焼成を行うことができ、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子や、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を備える電極及び固体酸化物形燃料電池単セルを安価に製造することができる。
【0022】
さらに、低温で焼成可能であることから、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られやすい。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から得られたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を用いれば、酸素還元活性及び長期耐久性に優れた電極の製造が可能である。そして、その電極を空気極に用いれば、出力密度及び長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池単セルの製造が可能である。
【0023】
さらに、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であれば、例えば、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルに使用される金属製の多孔質支持体や、固体酸化物形燃料電池単セルの空気極を構成する多孔質基体へ、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸して焼成することによって、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造することが可能である。
【0024】
すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を低温で焼成することによってランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造することが可能であるので、上記した金属製の多孔質支持体や空気極を構成する多孔質基体に高温による損傷(例えば酸化や変形)を与えることなく、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造することが可能である。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することが可能である。
【0025】
また、低温で焼成可能であることから、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池に使用されているジルコニウム、クロムとストロンチウム、コバルトとが反応しにくいので、SrCrO4、SrZrO3等の高抵抗相が形成されにくい(単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物が得られやすい)。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から得られたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を空気極に用いれば、出力密度及び長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池単セルの製造が可能である。
【0026】
ここで、本発明におけるナノ粒子とは、以下のことを意味する。焼成により得られるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の場合は、その平均一次粒子径が数十nm程度である粒子を意味する。焼成により得られるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径の下限は10nm以上であることが好ましく、上限は100nm未満であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。例えば、ナノ粒子の透過型電子顕微鏡画像を撮像し、撮像した画像に描画されたナノ粒子のうち任意の100個のナノ粒子の長径の平均値を算出して、この平均値をナノ粒子の平均一次粒子径としてもよい。
【0028】
以下に、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液及びその製造方法、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、電極及びその製造方法、並びに、固体酸化物形燃料電池単セルについて、さらに詳細に説明する。
(1)ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子について
本実施形態のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物は、ランタンとストロンチウムとコバルトとを含有する複合酸化物であり、化学式La1-xSrxCoO3で表される。上記化学式中のxは0超過1未満である。本実施形態のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物の例としては、La0.4Sr0.6CoO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.7Sr0.3CoO3、La0.8Sr0.2CoO3が挙げられる。
【0029】
ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径は、前述のように数十nm程度であり、100nm未満であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。前述したように、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径が小さいため、触媒活性が優れている。
【0030】
(2)複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、塩基性金属炭酸塩及び配位性有機化合物を溶質として含有する。
【0031】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の溶媒は、水のみでもよいが、塩基性金属炭酸塩に由来するランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+に配位性有機化合物が配位してなる金属錯体が溶解するならば、水と有機溶剤の混合物でもよい。
【0032】
(3)塩基性金属炭酸塩について
塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+、炭酸イオン、及び水酸化物イオンを有する混合塩である。そして、この塩基性金属炭酸塩は、低結晶性又は非晶質であり、溶解性が高い。
【0033】
(4)配位性有機化合物について
配位性有機化合物の種類は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+等の金属イオンに配位可能な配位能を有する有機化合物であれば特に限定されるものではないが、例としては、キレート剤、高分子電解質、アニオン界面活性剤、アミノ酸等が挙げられる。
【0034】
キレート剤の具体例としては、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、L-グルタミン酸二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテルが挙げられる。高分子電解質の具体例としては、ポリアクリル酸、アルギン酸、ポリビニルアミン、ポリリン酸、ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。アニオン界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0035】
これらの配位性有機化合物の中では、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+の溶解性や分散性をより高めることができることから、キレート剤が好ましい。また、キレート剤の中でも、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムがより好ましい。そして、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムの中では、クエン酸がさらに好ましい。
【0036】
(5)配位性有機化合物の量について
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上である必要があり、1.5倍以上10倍以下であることが好ましく、2倍以上5倍以下であることがより好ましい。
【0037】
配位性有機化合物の質量が上記理論質量の1.5倍以上であれば、塩基性金属炭酸塩が溶解しやすいので、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+を複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に極めて均一に分散させることができる。また、配位性有機化合物の質量が上記理論質量の1.5倍以上であれば、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+の溶解性や分散性が優れているため、不純物が生成しにくく、低温での焼成によって単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物が得られやすい。
【0038】
さらに、配位性有機化合物の質量が上記理論質量の10倍以下であれば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が好適であり、取り扱い性が優れている。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の多孔質体への含浸が容易である。
【0039】
(6)複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHについて
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、2以上7以下である必要があるが、3以上6.5以下であることが好ましく、3.5以上6以下であることがより好ましい。複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHが2以上であれば、配位性有機化合物がクエン酸等の酸である場合に十分に解離しやすいので、塩基性金属炭酸塩が溶解しやすい。そのため、塩基性金属炭酸塩の一部が溶解せずに複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液に残る現象が、生じにくい。その結果、焼成時に不純物が生成しにくく、低温での焼成によって単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物が得られやすい。
【0040】
一方、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHが7以下であれば、焼成時に不純物相が生じにくい。
なお、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、例えばpH調整剤(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア、アミン、コリン)を添加することによって調整することができる。
【0041】
(7)塩基性金属炭酸塩の濃度について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩の濃度は、特に限定されるものではないが、3質量%以上20質量%以下とすることが好ましく、5質量%以上15質量%以下とすることがより好ましく、7質量%以上12質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
なお、この塩基性金属炭酸塩の濃度は、所定質量の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである。ここで、本発明における「理論質量」とは、所定質量の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造しうるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の質量を理論的に算出したものを意味する。
【0043】
塩基性金属炭酸塩の濃度が5質量%以上であれば、十分な量の塩基性金属炭酸塩が複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液に含有されているので、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を効率よく製造することができる。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、少ない含浸回数でランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造することができる。
【0044】
一方、塩基性金属炭酸塩の濃度が15質量%以下であれば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が好適であり、取り扱い性が優れている。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の多孔質体への含浸が容易である。
【0045】
(8)複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物とを水に溶解することによって製造することができる。すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法は、塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物とを水に溶解する溶解工程を有する。
【0046】
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法の一例を示す。塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物(例えばクエン酸)と水(例えば超純水)を混合して撹拌し、塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物を水に溶解させる。塩基性金属炭酸塩と配位性有機化合物を同時に水に溶解させてもよいし、配位性有機化合物を先に水に溶解させた後に配位性有機化合物の水溶液に塩基性金属炭酸塩を溶解させてもよい。このようにして複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を得ることができるが、必要に応じて、得られた水溶液を濾過しても差し支えない。濾過によって、未溶解の塩基性金属炭酸塩などの固形分を除去することができる。
【0047】
塩基性金属炭酸塩は、結晶質でもよいし非晶質でもよいが、水に対する溶解性を考慮すると、非晶質であることが好ましい。すなわち、非晶質の塩基性金属炭酸塩は、ランタンイオンLa3+、ストロンチウムイオンSr2+、コバルトイオンCo2+が塩内に均一に分布しているため、水に溶解しやすい。また、非晶質の塩基性金属炭酸塩を用いて製造した複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であれば、900℃未満の低温(例えば700℃や750℃)で焼成しても、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物が得られやすい。
【0048】
非晶質の塩基性金属炭酸塩は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、硝酸ランタン(III)(La(NO33)、硝酸ストロンチウム(II)(Sr(NO32)、及び硝酸コバルト(II)(Co(NO32)を含有する硝酸塩水溶液に、沈殿剤を添加すると、非晶質の塩基性金属炭酸塩が沈殿する。
【0049】
よって、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法において、上記のような沈殿工程を上記溶解工程の前に設け、当該沈殿工程で得た非晶質の塩基性金属炭酸塩を、溶解工程において配位性有機化合物とともに水に溶解すれば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造することができる。
【0050】
沈殿剤の種類は、非晶質の塩基性金属炭酸塩を沈殿させることができるならば特に限定されるものではないが、例えば、炭酸水素テトラメチルアンモニウム((CH34N(HCO3))と水酸化テトラメチルアンモニウム((CH34NOH)を組み合わせて沈殿剤として用いることが好ましい。これ以外では、上記沈殿剤において、炭酸水素テトラメチルアンモニウムの代わりに、炭酸水素テトラエチルアンモニウム、炭酸水素テトラプロピルアンモニウム、炭酸水素テトラブチルアンモニウム、又は重炭酸コリンを用いた沈殿剤や、水酸化テトラメチルアンモニウムの代わりに、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、又はコリンを用いた沈殿剤も好適である。
【0051】
炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)とアンモニア(NH3)を組み合わせて沈殿剤として用いた場合は、コバルトイオンCo2+がアンミン錯体として上記硝酸塩水溶液に溶存しやすいため、沈殿が生じにくい。
また、水酸化テトラメチルアンモニウムのみを沈殿剤として用いた場合は、ストロンチウムイオンSr2+が上記硝酸塩水溶液に溶存しやすいため、沈殿が生じにくい。さらに、炭酸水素テトラメチルアンモニウムのみを沈殿剤として用いた場合は、十分な沈殿が生じるために多量の沈殿剤を必要とする。
【0052】
炭酸水素テトラメチルアンモニウムの使用量は、非晶質の塩基性金属炭酸塩を沈殿させることができるならば特に限定されるものではないが、上記硝酸塩水溶液が有するストロンチウムイオンSr2+の電荷の中和に必要な物質量以上であることが好ましい。水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)は水に対する溶解度が高く沈殿が生じにくいので、炭酸水素テトラメチルアンモニウムで中和して溶解度の低い炭酸ストロンチウムとして沈殿させることが好ましい。
【0053】
水酸化テトラメチルアンモニウムの使用量は、非晶質の塩基性金属炭酸塩を沈殿させることができるならば特に限定されるものではないが、沈殿剤が添加された上記硝酸塩水溶液のpHが5以上となる物質量であることが好ましい。上記硝酸塩水溶液のpHを5以上とすれば、沈殿が生じやすい。
【0054】
(9)ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の製造方法について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を750℃以下の焼成温度で焼成することにより(焼成工程)、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造することができる。本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いれば、750℃以下という低い焼成温度で焼成しても、不純物が少ない高純度のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(すなわち単相のLSC)のナノ粒子を得ることができる。また、低温で焼成可能であることから、低コストで焼成を行うことができる。なお、焼成温度は、650℃以上であることが好ましく、650℃以上750℃以下であることがより好ましく、650℃以上700℃以下であることがさらに好ましい。
【0055】
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成によりランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造する際には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させた状態で焼成を行ってもよい。すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる含浸工程と、含浸工程において複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた多孔質体を焼成する焼成工程と、を有する方法であってもよい。上記のような製造方法であれば、多孔質体の表面に、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を形成することができる。
【0056】
図2を参照しながらランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の製造方法の具体例を説明する。まず、含浸工程において、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる。すると、多孔質体が有する細孔の内部に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が保持される。次に、乾燥工程において、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中の水等の溶媒を除去する。すると、ランタンイオン、ストロンチウムイオン、及びコバルトイオンが均一に分布した非晶質ゲルが、多孔質体が有する細孔の内面に形成される。次に、焼成工程において多孔質体を焼成すると、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が生成し、多孔質体が有する細孔の内面に配される。
【0057】
(10)電極及びその製造方法について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いて、電極を製造することができる。すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質基体に含浸させ(含浸工程)、含浸工程において複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた多孔質基体を750℃以下の焼成温度で焼成すれば(焼成工程)、電極を製造することができる。焼成温度は650℃以上750℃以下であることが好ましく、650℃以上700℃以下であることがより好ましい。
【0058】
得られた電極は、多孔質基体と、多孔質基体の表面に開口する細孔の内面に配されたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La1-xSrxCoO3(xは0超過1未満)のナノ粒子と、を備える構成を有している。電極を構成する多孔質基体の表面に開口している細孔の内面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が配されているので、導電性が高くなるとともに、電極の触媒活性が優れている。よって、本実施形態の電極は、固体酸化物形燃料電池単セルの空気極として好適である。電極が備えるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることが好ましい。
【0059】
(11)固体酸化物形燃料電池単セルについて
本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する。そして、空気極が、上記本実施形態の電極で構成されている。多孔質基体の表面に開口している細孔の内面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が配されているので、導電性が高くなるとともに、空気極の触媒活性が優れている。
【0060】
また、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、積層構造の燃料極側に多孔質支持体がさらに積層されていてもよい。すなわち、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、多孔質支持体で支持されたメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルであってもよく、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することが可能である。
なお、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、平板型とすることもできるし、円筒型とすることもできる。
【実施例0061】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明する。
〔実施例1〕
まず、非晶質の塩基性金属炭酸塩を、以下のようにして製造した。硝酸ランタン(III)の六水和物(La(NO33・6H2O)5.77g、硝酸ストロンチウム(II)の無水物(Sr(NO32)1.88g、及び硝酸コバルト(II)の六水和物(Co(NO32・6H2O)6.46gを超純水105gに溶解して、硝酸塩水溶液を得た。
【0062】
この硝酸塩水溶液に、濃度63質量%の炭酸水素テトラメチルアンモニウム水溶液34gと濃度25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液8.5gとの混合水溶液を沈殿剤として添加し、撹拌した。すると、非晶質の塩基性金属炭酸塩が沈殿するので、この塩基性金属炭酸塩を水溶液から取り出して洗浄し、凍結乾燥した。得られた塩基性金属炭酸塩は、炭酸ランタン(III)、炭酸ストロンチウム(II)、及び炭酸コバルト(II)の混合物であった。
【0063】
次に、表1を参照しながら、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について説明する。上記のようにして得た非晶質の塩基性金属炭酸塩1.5gを、クエン酸5gを含有するクエン酸水溶液20gに添加し、100℃に加熱し撹拌して、塩基性金属炭酸塩をクエン酸水溶液に溶解させた後に、濃度25質量%のアンモニア水を添加して、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を得た。この複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは2であった。
【0064】
なお、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、表1に示すように、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の5倍である。
【0065】
また、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩の濃度は、表1に示すように10質量%である。ここで、塩基性金属炭酸塩の濃度とは、所定質量の実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである。
【0066】
【表1】
【0067】
〔比較例1〕
塩基性金属炭酸塩の代わりに硝酸ランタン(III)の六水和物、硝酸ストロンチウム(II)の無水物、及び硝酸コバルト(II)の六水和物を用いる点と、クエン酸を用いない点を除いては、実施例1と同様にして、比較例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造した。この複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは2であった。
【0068】
〔比較例2〕
塩基性金属炭酸塩の代わりに酢酸ランタン(III)の1.5水和物(La(CH3COO)3・1.5H2O)、酢酸ストロンチウム(II)の0.5水和物(Sr(CH3COO)2・0.5H2O)、及び酢酸コバルト(II)の四水和物(Co(CH3COO)2・4H2O)を用いる点と、クエン酸を用いない点を除いては、実施例1と同様にして、比較例2の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造した。この複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは2であった。
【0069】
〔比較例3〕
塩基性金属炭酸塩の代わりに硝酸ランタン(III)の六水和物、硝酸ストロンチウム(II)の無水物、及び硝酸コバルト(II)の六水和物を用いる点と、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物(クエン酸)の質量を、表1に記載のように2倍とする点を除いては、実施例1と同様にして、比較例3の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を製造した。この複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは2であった。
【0070】
〔実施例2、3及び比較例4、5〕
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHを、表1に記載のように変更する点を除いては、実施例1と同様にして、実施例2、3及び比較例4、5の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。なお、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、pH調整剤として濃度25質量%のアンモニア水を添加することによって調整した。
【0071】
〔実施例4、5及び比較例6〕
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物(クエン酸)の質量を、表1に記載のように変更する点を除いては、実施例2と同様にして、実施例4、5及び比較例6の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。
【0072】
〔実施例6、7〕
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩の濃度を、表1に記載のように変更する点を除いては、実施例4と同様にして、実施例6、7の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。
〔実施例8、9及び比較例7、8〕
焼成温度を表1に記載のように変更する点を除いては、実施例4と同様にして、実施例8、9及び比較例7、8の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。
【0073】
このようにして得られた実施例1~9及び比較例1~8の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、種々の評価を行った。
(A)溶解性
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液における塩基性金属炭酸塩の溶解性を評価した。すなわち、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の濁りを目視で確認し、透明であるか濁りがあるかによって、塩基性金属炭酸塩が完全に溶解しているか否かを評価した。
【0074】
(B)粘度(流動性)
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度を評価した。すなわち、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が入った容器を傾けて、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の流動性によって粘度を評価した。
【0075】
溶解性及び粘度の評価結果を、表1にまとめて示す。なお、表1においては、塩基性金属炭酸塩が完全に溶解しており、且つ、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が水と同程度である場合は、◎印で示してある。また、塩基性金属炭酸塩が完全に溶解しており、且つ、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度は水よりも高いが、容器を傾けた際に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液がすぐに流動し始める場合は、○印で示してある。さらに、塩基性金属炭酸塩はほとんど溶解しているが、若干溶け残っており、且つ、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度は水よりも高く、容器を傾けた際に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が少し時間を置いてから流動し始める場合は、△印で示してある。さらに、塩基性金属炭酸塩が溶解できないか、又は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が高く、容器を傾けた際に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が流動しない場合は、×印で示してある。
【0076】
(C)不純物
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を乾燥した後に空気中で焼成して、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La0.6Sr0.4CoO3のナノ粒子を製造した。乾燥の条件は、乾燥温度150℃、乾燥時間1時間である。また、焼成の条件は、表1に示した焼成温度で焼成時間0.5時間である。
【0077】
得られたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子をX線回折法により分析し、焼成時に生成した不純物の有無を調べた。結果を表1及び図3に示す。図3に描画された2つのX線回折チャートのうち上段のチャートが、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得たランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子のチャートである。また、下段のチャートは、比較例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得た複合酸化物のナノ粒子のチャートである。
【0078】
図3において、○印を付したピークはランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La0.6Sr0.4CoO3に由来するピークであり、□印を付したピークは酸化ランタン(III)(La23)に由来するピークであり、△印を付したピークは酸化コバルト(Co34)に由来するピークである。図3の上段のチャートから分かるように、実施例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成した場合は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のみが確認され、未反応の原料の残存や中間生成相等の不純物の生成は確認されなかった。一方、図3の下段のチャートから分かるように、比較例1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成した場合は、未反応の原料の残存や不純物の生成が確認された。
【0079】
なお、表1においては、X線回折法によりランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のみが確認され、未反応の原料の残存や中間生成相等の不純物の生成が確認されなかった場合は○印で示してある。また、X線回折法によりランタンストロンチウムコバルト複合酸化物以外の物質(不純物等)に由来するピークが確認されるが、そのピークのピーク強度は、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物に由来するピークのピーク強度の1/2以下である場合は△印、1/2超過である場合は×印で示してある。
【0080】
次に、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いて、直径30mmのメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルを製造した。図4を参照しながら説明する。
多孔質支持体10の上に燃料極20、固体電解質層30、及び空気極40がこの順で積層された積層構造を有する積層構造物を用意した。多孔質支持体10は、ステンレス鋼SUS製の多孔質体からなり、厚さは300μm、気孔率は40%である。燃料極20は、Sc0.1Zr0.92からなる多孔質基体にNi-Gd0.1Ce0.92からなるアノード材料を付着させたものであり、厚さは20μmである。固体電解質層30は(Y230.01(Sc230.10(ZrO20.89からなり、厚さは10μmである。空気極40は、Sc0.1Zr0.92からなる多孔質基体であり、厚さは20μmである。
【0081】
そして、この積層構造物に、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた。積層構造物に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させる際には、空気極40に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を滴下した。この滴下により、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が空気極40に含浸していった。複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の滴下が終了したら5分間保持し、含浸後に余剰の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を除去した。その後、積層構造物をホットプレート上で80℃に加熱し10分間保持した。さらに、上記の滴下、保持、及び加熱という操作を1サイクルとして、このサイクルを必要に応じて繰り返した後に、空気中で焼成を行って、積層構造物を焼成した。焼成の条件は、表1に示した焼成温度で焼成時間0.5時間である。
【0082】
このような操作及び焼成により、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液からランタンストロンチウムコバルト複合酸化物La0.6Sr0.4CoO3のナノ粒子が生成され、空気極40を構成する多孔質基体の表面に開口する細孔の内面にランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が付着して、固体酸化物形燃料電池単セルが得られた。
【0083】
このようにして得られた固体酸化物形燃料電池単セルについて、種々の評価を行った。固体酸化物形燃料電池単セル内(つまり、空気極を構成する多孔質基体の表面に形成された細孔の内面)に形成されたランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径については、いずれの実施例においても50nm以下であることを確認した。
【0084】
(D)プロセスの容易性(作業性)
上記と同様の操作により積層構造物に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させ焼成した場合において、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を空気極40(多孔質基体)に含浸する回数(含浸回数)によって、プロセスの容易性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1においては、3サイクル以下の操作(含浸回数が3回以下)によって十分な量のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成することができた場合は、プロセスの容易性が高いと評価し、◎印で示してある。
【0085】
また、十分な量のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成するために4回又は5回の含浸回数が必要な場合は、○印で示してある。さらに、十分な量のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成するために6回以上9回以下の含浸回数が必要な場合は、△印で示してある。さらに、十分な量のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成するために10回以上の含浸回数が必要な場合は、プロセスの容易性が不十分と評価し、×印で示してある。
【0086】
(E)焼成時の電解質との反応性
固体電解質層に用いられたスカンジア安定化ジルコニア粉末と複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液とが焼成時に反応し、SrZrO3相が生成したか否かを、粉末X線回折法を用いて調べた。結果を表1に示す。
なお、表1においては、SrZrO3相の生成が確認されなかった場合は○印で示してある。また、参照強度比法を用いて得たSrZrO3相の含有量が5%未満である場合は△印、5%以上である場合は×印で示してある。
【0087】
(F)開回路電圧
完成した固体酸化物形燃料電池単セルの開回路電圧を測定した。実施例1及び比較例1の固体酸化物形燃料電池単セルの開回路電圧を測定した結果、理論値どおりの開回路電圧であった。結果を図5に示す。なお、測定条件は以下のとおりである。
作動温度 :600℃
単セルの昇温条件 :昇温速度5℃/minで室温から600℃まで昇温
アノードガスの種類:97%の水素ガスと3%の水蒸気との混合ガス
アノードガスの流量:200cc/min
カソードガスの種類:空気
カソードガスの流量:200cc/min
カソード側の集電体:白金製の網
【0088】
実施例1、2、3の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHが2以上7以下の範囲内であると、不純物の生成がなく、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られた。これに対して、比較例4、5の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHが2以上7以下の範囲外であると、不純物が生成し、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られなかった。
【0089】
また、比較例1、2、3の結果から分かるように、出発原料として塩基性金属炭酸塩を用いなかった場合は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHが2以上7以下の範囲内であっても、不純物が生成し、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られなかった。
【0090】
実施例1、4、5の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量が、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上であると、不純物の生成がなく、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られた。
【0091】
これに対して、比較例6の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量が、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍未満であると、不純物が生成し、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られなかった。
【0092】
また、実施例1、4の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量が、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上10倍以下であると、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液における塩基性金属炭酸塩の溶解性の評価と、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度の評価が、良好であった。
【0093】
一方、実施例5及び比較例6の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量が、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩から製造されるランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子の理論質量の1.5倍以上10倍以下の範囲外であると、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液における塩基性金属炭酸塩の溶解性の評価と、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度の評価が、実施例1、4よりもやや劣る結果となった。
【0094】
実施例4、6、7の結果から分かるように、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩の濃度にかかわらず、不純物の生成がなく、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られた。
ただし、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される塩基性金属炭酸塩の濃度が5質量%以上15質量%以下の範囲内である実施例4に比べると、5質量%以上15質量%以下の範囲外である実施例6、7は、プロセスの容易性(含浸回数)の評価がやや劣る結果となった。
【0095】
詳述すると、塩基性金属炭酸塩の濃度が15質量%超過であると、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が高くなるため、積層構造物に含浸しにくくなった。一方、塩基性金属炭酸塩の濃度が5質量%未満であると、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造するために、含浸回数を多くする必要性が生じた。
【0096】
〔実施例8、9及び比較例7、8〕
表1に記載のように焼成温度を変更する点を除いては、実施例4と同様にして、実施例8、9及び比較例7、8のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子を製造し、不純物及び電解質との反応性の評価を行った。
【0097】
実施例2、8、9の結果から分かるように、焼成温度が750℃以下であると、不純物や電解質との反応生成物の生成がないか、あるいは、不純物や電解質との反応生成物の生成が微量であった。これに対して、比較例8の結果から分かるように、焼成温度が750℃超過であると、電解質との反応生成物が多量に生成し、単相のランタンストロンチウムコバルト複合酸化物のナノ粒子が得られなかった。
【符号の説明】
【0098】
10・・・多孔質支持体
20・・・燃料極
30・・・固体電解質層
40・・・空気極
図1
図2
図3
図4
図5