(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076059
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】針状体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240529BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20240529BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A61M37/00 512
A61K9/00
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187423
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
【テーマコード(参考)】
4C076
4C267
【Fターム(参考)】
4C076AA51
4C076BB31
4C076EE32
4C076FF01
4C076GG01
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB24
4C267BB31
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC01
4C267GG11
4C267GG16
4C267GG42
4C267GG43
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】針状体内に設けられた凹部の任意の位置に送達物を配置することができる針状体デバイスの製造方法を供給する。
【解決手段】少なくとも、支持部と支持部上に形成された針状体からなり、送達物の対象領域に、穿刺することで任意の送達物を搬送するための針状体デバイスの製造方法であって、内部に凹部を含む前記針状体を作製する第1工程と、前記送達物と比重調整液とを混合し混合液を作製する第2工程と、前記針状体の凹部に前記混合液を充填する第3工程と、を備える針状体デバイスの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、支持部と支持部上に形成された針状体からなり、送達物の対象領域に、穿刺することで任意の送達物を搬送するための針状体デバイスの製造方法であって、
内部に凹部を含む前記針状体を作製する第1工程と、
前記送達物と比重調整液とを混合し混合液を作製する第2工程と、
前記針状体の凹部に前記混合液を充填する第3工程と、
を備える針状体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記針状体の凹部に保護層を形成する工程ののちに、混合液を充填することを特徴とした請求項1に記載の針状体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記針状体の凹部に前記比重調整液を充填したのちに、針状体の凹部に混合液を充填することを特徴とした請求項1に記載の針状体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記第1工程において、前記針状体が水溶性材料であることを特徴とする請求項1~3に記載の針状体デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、前記送達物が細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の針状体デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第3工程において、前記針状体の凹部に保護層を形成する工程と、保護層が形成された凹部に比重調整液を充填したのちに、混合液を充填することを特徴とした請求項1に記載の針状体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体へ任意の送達物を搬送する針状体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚から薬剤などの送達物を投与する方法である経皮吸収法は低侵襲で簡便に送達物を投与することが出来る方法として用いられている。
【0003】
経皮吸収法を用いた経皮投与の分野において数mmからμmオーダーのサイズの針が形成された針状体を用いて皮膚に穿刺を行い皮膚内に薬剤などを投与する方法が提案されている。(特許文献1参照)
【0004】
針状体の製造方法として機械加工を用いて原版を作製し該原版から転写版を形成し該転写版を用いた転写加工成型を行なうことが提案されている(特許文献2参照)。
また、針状体の製造方法として原版を作製し該原版から転写版を形成し該転写版を用いた転写加工成型を行なうことも提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
針状体を構成する材料は、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましい。このため、針状体材料として、糖類や多糖類等の生体適合材料が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
水溶性高分子からなる生体適合性材料を用いた針状体は、皮膚に穿刺後に皮膚内部で溶解させることができる。したがって、硬度を調整した水溶性高分子に皮膚内への送達を目的とした薬剤を含有させ針を作製することにより、針を皮膚に穿刺した際に水溶性高分子の溶解により送達物を皮膚内に送達することができる(特許文献5、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭4893192号公報
【特許文献2】国際公開第2008013282号
【特許文献3】国際公開第2008004597号
【特許文献4】国際公開第2008020632号
【特許文献5】特許第6255759号公報
【特許文献6】特開2018-135286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術で示された針状体を用いて、送達物を生体内へ送達しようとする場合においては、あらかじめ水溶性高分子と送達物からなる懸濁液を作製し、それを乾燥成型する手法が用いられている。こういった手法の場合、送達物は乾燥可能な固体に限定される問題があった。特に液体成分が送達物の一部に含まれるような場合は、このような手法を用いることができない。それの対策として、針状体に事前に凹部を設け、そこに送達物を充填する手法が用いられるが、送達物が針状体の底面の領域のみに集約し、穿刺が浅い場合などに送達物が対象物の対象領域に届かないといった現象が生じるといった問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような問題点を解決することを目的とするものである。すなわち、生体へ任意の送達物を搬送する針状体デバイスであって、針状体内に設けられた凹部の任意の位置に送達物を配置することができる針状体デバイスの製造方法を供給することを課題
とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも、支持部と支持部上に形成された針状体からなり、送達物の対象領域に、穿刺することで任意の送達物を搬送するための針状体デバイスの製造方法であって、
内部に凹部を含む前記針状体を作製する第1工程と、前記送達物と比重調整液とを混合し混合液を作製する第2工程と、前記針状体の凹部に前記混合液を充填する第3工程と、を備える針状体デバイスの製造方法である。
【0011】
上記製造方法によれば、針状体内に設けられた凹部へ送達物が充填された際に、比重調整剤が送達物の浮遊位置を制御し、凹部の任意の位置に送達物を配置することができる。これにより、針状体内の狙った位置へ送達物を誘導することができるため、穿刺後に送達物が拡散するタイミングを事前に調整することができるようになる。
【0012】
本発明は、前記第3工程において、針状体の凹部に保護層を形成する工程ののちに、混合液を充填することを特徴とした請求項1に記載の針状体の製造方法とした。
上記製造方法によれば、送達物が針状体の材料に吸着することを抑制することができる。また、針状体の材料から凹部への溶出物を押さえることができる。
【0013】
本発明は、前記第3工程において、針状体の凹部に比重調整液を充填したのちに、針状体の凹部に混合液を充填することを特徴とした請求項1に記載の針状体の製造方法とした。
上記構成によれば、針状体の凹部に事前に比重調整剤があることで、送達物が充填される際の摩擦や衝撃などを緩和することができ、送達物の品質を一定に維持することが可能となる。
【0014】
また、本発明は、前記第1工程において、針状体が水溶性材料で、あることを特徴とする請求項1~3に記載の針状体の製造方法とした。
上記製造方法によれば、デバイスを対象部位に貼付するだけで送達物を任意の場所に届けるデバイスの作製が可能となり、送達の手技を簡便にできることに加え、生体などに触れる医療廃棄物等を削減することにも寄与できる。
【0015】
また、本発明は、前記第2工程において、送達物が細胞を含むことを特徴とする請求項1に記載の針状体の製造方法とした。
上記製造方法によれば、針状体内に細胞を保有することができ、細胞を簡便に搬送できるデバイスが作製できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体へ任意の送達物を搬送する針状体デバイスであって、針状体内に設けられた凹部の任意の位置に送達物を配置することができる針状体デバイスの製造方法を供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】針状体デバイスの一実施形態について、針状体内に凹部を含む場合を例示した図。
【
図3】針状体デバイスの一実施形態について、針状体内中段に送達物が配置された場合を例示した図。
【
図4】針状体デバイスの一実施形態について、針状体内中段以外に送達物が配置された場合を例示した図。
【
図5】針状体デバイスの一実施形態について、凹部に保護層を設けた形態を例示した図。
【
図6】針状体デバイスの一実施形態について、複数の針状部を備える場合を例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図6を参照して、針状体デバイスの一実施形態を説明する。
【0019】
[針状体デバイス]
本発明の針状体デバイスは、送達物をデバイスの内部に一定の期間保持したうえで、任意の部位に送達することを可能とするデバイスである。
図1のように、針状体デバイス10は、少なくとも、支持部2と、支持部2上に形成された、生体の対象領域に進入する針状体1が含まれる。生体の対象領域が皮内または皮下である場合、針状体1は針状に形成され突き出していて良く、突き出している部分の長さは、例えば、200μm以上15mm以下であることが好ましい。また、針状体1は刃物の形態であっても良い。このとき、針状体1のうち生体に最初に接触する鋭利な形状を持つ部分を先端1aとし、支持部2と接する領域を底面1bとする。
【0020】
針状体デバイス10は、支持部2と針状体1が一体の構成であってもよく、また、
図5のように、水溶性材料、保護層7、送達物6、比重調整液4、封止層5で個々に構成されていてもよい。針状体デバイス10は針状体1の中に送達物6を局所的に内包することを特徴とする。針状体1は、水溶性材料で構成され、送達物6を内包する構成として、
図2のようにあらかじめ凹部3を有する構成であってよく、凹部3のサイズは送達物6の体積と針状体1の材料強度のバランスから適宜選択されてよい。凹部3が小さければ材料強度としては高くより硬い穿刺対象物や対象部位への送達に適する設計とすることができる。対照的に、凹部3が大きければより大容量の送達物を保持することが可能となり送達物6の選択肢の幅が広がる。凹部3は針状体として先鋭な先端部1aとは反対に位置する底面1bから開口する形態であり、これにより生体に対し接触する針状体1の表面はすべて同一の材料で構成されている。
【0021】
図3は、比重調整液4の充填により送達物6が、針状体内中段に配置された形態を示すが、配置される位置は任意でよく、
図4(a)のように針状体1の先端1a近傍に配置された形態であってよく、
図4(b)のように、針状体1の底面1bに局在する形態であってもよい。局在する場合には球状の集合体として配置されてもよく、または層状の形態として配置されてもよい。球体の場合、送達物6と比重調整液4の接触面積を最低限にとどめることができ、送達物6の物性変化を低減させることができる。対照的に層状に配置される場合には表面積を確保することが可能となるため、比重調整液4との相互作用を効果的に得ることができる。特に送達部6がタンパク質や細胞等で水分を必要とする材料である場合、比重調整液4から水分が供給されていてもよく、その際により広い接触面積であることが有利となる。このとき、凹部3は送達物6と比重調整液4で充填される。比重調整液4による充填領域はその一部に空気層や水滴、油滴を含んでもよく、比重調整液4中にそれらが分散した形態も含む。
【0022】
凹部3を充填する材料として、送達物6、比重調整液4に加え、針状体デバイス10を構成した材料を再度添加する場合も含む。その際に、含有される水分量を調整することで任意の粘度にし充填材料としてよい。この方式は特に開口部を封止するプロセスにおいても重要であり、
図5のような送達物6が針状体内に密閉された構成をとることが可能となる。
【0023】
針状体デバイス10が備える針状体1の数は特に限定されず、
図1に示したように単一の針状体1を備えていてもよいし、
図6のように複数の針状体1を備えていてもよい。針状体デバイス10が複数の針状体1を備える場合、複数の針状体1の配置は特に限定されず、複数の針状体1は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。また、針状体デバイス10が複数の針状体1を備える場合、1つの支持部2が、すべての針状体1を一括して支持することが好ましい。すなわち、複数の針状体1が1つの支持部2に支持されることで、複数の針状体1が一体となった針状体デバイス10を構成していることが好ましい。
【0024】
針状体デバイス10が、複数の針状体1を備える形態であれば、複数の針状体1に送達物6を一括して収容すること、および、複数の針状体1から送達物6を一括して放出することが可能である。したがって、搬送の効率をさらに高めることができる。特に細胞等を搬送する際に、針状体間において搬送後の細胞の状態にばらつきが生じることが抑えられる。さらには、各針状体1で送達物6を収容することで搬送の対象領域までの搬送中に細胞が乾燥することを抑えることが可能である。そのため、針状体間において搬送後の細胞の状態にばらつきが生じることも抑えられる。
【0025】
送達物6として細胞単体や細胞群を搬送する場合、複数の針状体1の配置に応じて、穿刺部位の表面に沿った方向における細胞群の配置が決まり、すなわち、細胞群が搬送された部位に応じて細胞間の相互作用が生じることとなる。例えば皮膚の細胞群のように、発汗または発毛に寄与する細胞の集合体を送達する場合、単位面積当たりの針状体1の密度は、1個/cm2以上400個/cm2以下であることが好ましく、さらには、20個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。針状部1の密度が上記下限値以上であれば、送達された細胞群に基づき毛穴として適切な密度になる。針状体1の密度が上記上限値以下であれば、針状体1の密度と同等の密度で皮膚の内部に配置された細胞群に対して、栄養分が行きわたりやすく、細胞の生着が好適に進む。
【0026】
針状体デバイス10は送達物6を収容もしくは搬送できる形態であればよく、先鋭な端部を生体に対して穿刺するものである。このときサイズは微細なものから幅広のものまで適宜選択して良く。微細なものでは穿刺の傷跡を小さくすることや、出血や痛みの低減が可能となる。幅広のものでは大きなサイズの送達物6を保有させることが可能になるため、送達物6による薬剤効果を求める際であれば投与量の制御幅が広がり、細胞や組織の送達や置き換えであればより多彩な条件の細胞やその外部環境、細胞が集合したスフェロイドを送達できることに繋がり、より好適な搬送条件を維持したまま送達することができる。このとき針状体1は、有機材料や無機材料、またはそれらを組み合わせた材料を選択してもよい。
【0027】
本構成の針状体デバイス10は、針状体1の中に送達物6を局所的に配置することを特徴としている。また、針状体1の表面には送達物6が露出していない。一般に生体内への搬送を目的とした送達物6は基本的に生体との親和性が高い材料が多く用いられるため、結果として材料強度が低く送達物6の集合体のみで生体への穿刺性を確保することは難しい。したがって、他の材料と混錬し形状を維持する手法が一般的に用いられているが、送達物6が針状体1の穿刺機能の一部を担う場合、穿刺時の熱や圧力の影響を直接受けることになるため、温度管理の厳しい化合物やRNA、構造の維持が重要とされるタンパク質、細胞といった材料での実用が難しいとされていた。本発明においては穿刺機能を担う水溶性材料と送達物6がそれぞれの集合体として個々に配置されているため、それらの影響を最小限に抑えることが可能な構成を提供できる。また、送達物6が分散せず局所的に集合して存在しているため、送達物6と外部環境との相互作用を最小限にとどめることができる。特に粒塊として送達物6が針状体1内に存在する場合、粒塊の最表層は外部との相互作用を起こすが、内部では相互作用のない純度の高い送達物6を維持搬送することが可能となる。また、本発明の形態では液滴を針状体内に保持することができるため、薬剤等の有効成分の変質を最小限に抑えた環境を維持したまま送達できる。加えて、比重調整液4が送達物6の周辺に配置された構造を実現するため、これらの比重調整液4が緩衝領域として機能するため、熱や圧力に対する保護層として機能する。さらには、生体内でのpH変化や親水性疎水性の相互作用を緩和しながら送達することにも寄与し、微小サイズの材料の機能維持や吸着・接着などの事象を制御することができる。また、本構成による穿刺部の空隙は貫通孔ではない。
【0028】
[送達物]
本実施形態の針状体デバイス10は、送達物6として薬剤等の化学物質や細胞群を生体へ搬送するために用いられる。搬送の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、粘膜や臓器等の組織である。
【0029】
搬送対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0030】
細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。送達対象の細胞群は、例えば、皮膚または体内に配置されることにより、組織の再生に寄与する。こうした細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0031】
具体的には、本実施形態における搬送対象の細胞群の一例は、原始的な器官の基である。基となる細胞は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。基の細胞は、皮膚に分化する細胞や、肝臓の基、腎臓の基や膵臓の基、神経系の基となる細胞や血管系の基となる細胞等の細胞群である。また、これらの細胞はその形成方法に応じて、細胞群としての形状や性能を補助するための核材料やガイドワイヤー、夾雑物を含む構成であってもよい。
【0032】
例えば、送達物6としての細胞群は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群でもよい。より具体的には、皮膚領域に送達される細胞群であれば、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。
【0033】
また、送達物6は水分を含んでいても良い。水分は、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、水分は、生理食塩水、緩衝液、化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。また、水分は送達物の保護液として機能してもよく、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、これらの保護液は、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体やゲルおよびゾルであってもよい。送達物と水分とを含む液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0034】
[水溶性材料]
本実施形態の針状体デバイスは、水溶性材料を含む構成である。ここでの水溶性材料は100gの水に対し、大気圧の室温下において800rpmの攪拌速度で、60分以内に2g以上溶解する材料である。また、針状体1を構成する材料としては、仮に破損した針状体1が体内に残留した場合でも、人体に極力悪影響を及ぼさない材料であることが望まれる。具体的な材料としては生体高分子であり、その中でも糖類、ペプチド、たんぱく質
を好適に用いてよい。より具体的には、キチン、オリゴキチン、キトサン、トリメチルキトサン、オリゴキトサン、エチレングリコールキトサン、キトサンサクシナミド、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カードラン、ゼラチン、コラーゲン、コラーゲンペプチド、プルラン、ペクチン、アルギン酸塩、デンプン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー,ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、グルコマンナン、ポリリンゴ酸、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロース、トレハロサミン、マルチトール、セロビオン酸、ラクトサミン、ラクトースジアミン、ラクトビオン酸、ラクチトール、ヒアロビウロン酸、および、スクラロース等を用いることができるが、これに限定されるものではない。また、これらの材料を混合しても良い。
【0035】
中でも、第1の針状体形成材料として、キトサン、キトサンサクシナミド、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カードラン、トレハロース、スクロース、ゼラチン、コラーゲン、プルラン、ペクチン、アルギン酸塩の中から選択されることが好ましい。理由としては、生物学的に安全性が高いことによる。なお、これらの材料を混合しても良い。
【0036】
また、これらの材料は、水または水系溶媒に溶解または分散させることにより針状体形成液となる。加えて、針状体形成液にあっては、針状体形成材料である水溶性材料を溶媒である水に溶解させるために溶解促進物質を添加しても良い。例えば、針状体形成材料としてキトサンを用いた場合には、針状体形成液に酸を添加する必要がある。針状体形成液は、凹版に流入できる程度の流動性を有することが好ましい。また、針状体形成液は、予め脱泡処理がおこなわれていることが好ましい。脱泡処理は、針状体形成液を減圧環境下で保管することによりおこなうことができる。
【0037】
[保護層]
針状体デバイス10は
図5のように針状体1内面に保護層を設けてもよい。保護層によって、針状体1の内面に耐水性を付与することや、針状部1の水溶性材料と送達物6が相互作用し送達物6が変化してしまうことを抑制できる。また、保護層に硬度の高い油脂材料や生体親和性の高分子材料を用いることで強度を補強することもでき、穿刺性を向上させることができる。
【0038】
保護層は、針状部1の水溶性材料と比重調整液4を区分する層として機能する。特に比重調整液4が水分を多く含む材料の場合、水溶性材料と比重調整液4が反応することで水溶性材料により構成された任意の形状が維持されない場合がある。そういった現象に対し、保護層を設けることで材料間での反応を調整することができるようになるため、材料強度の維持や溶解速度の調整が可能となる。つまり、ここでの保護層は水や溶媒に溶けにくい材料からなる層を示す。
【0039】
保護層は、送達物の搬送後に生体内に残留する可能性を含むため、生体適合性が求められる。その具体的な材料として油脂類が挙げられ、ブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトライコサン酸、デセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン
酸、オクタデセン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いてよく、必要な設計に応じて適宜材料を選択することが好ましい。また、これらの材料を混合し使用してもよい。
【0040】
水溶性材料と高粘度液体との間でのバリア性能を高く維持したい場合には、常温で固体となる材料がより好ましい。これらの材料を用いて加温条件下でコートした後に冷却することで膜厚の厚い層を形成できるため、溶解性の高い材料や水分の含有量の多い高粘度液体を使用する際に好適である。
【0041】
また、薄膜の保護層を形成したい場合においては、常温で液体となる材料を選定することが好ましい。常温で液体となる場合、保護層となる材料の供給量を調整することで層の厚みが変更できる。特に生体においては各材料に対する許容量に個体差が生じるため、必要に応じて保護層を最低限の量に抑えたいなどのニーズが生じる。また、保護層を形成する場合の前処理として、加温環境下で保持することで粘度を調整してもよい。
【0042】
[比重調整液]
比重調整液4は、その密度特性に由来し、特定の比重を有する様々な液体である。この液中で、送達物6は沈降した状態や浮遊した状態を示す。その結果として、送達物6が針状体内で配置される状況を変更することができる。
【0043】
比重調整液4は、単一組成の物質の他、複数の材料によって構成される混合液、懸濁液等が含まれる。好ましくは、送達物6への相互作用が小さいことであり、中性に近い液体が望ましい。より好ましくはpHの変動が小さい緩衝液の形態である。
【0044】
比重調整液の具体的な範囲として25℃の温度条件下において、密度が0.6~3.5g/mlの材料である。特に密度が0.9から1.5g/mlの領域の比重調整液4は、多くの細胞や細胞塊が沈降や浮遊を示す範囲となる。これらの範囲の比重調整液4の中から、細胞や細胞塊の培養や維持に用いられる培地成分とは異なる密度の比重調整液4を選んでよい。比重調整液4の具体的な材料として、糖類、多糖類、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フィブリン糊やゼラチン糊等のタンパク質、高分子ゲル、シリコーン樹脂、マグネシウムやナトリウムなど各種の塩等を含む溶液を用いてよい。また、その際の溶媒として水や生理食塩水、緩衝溶液、有機溶剤を用いても良い。より具体的には、ブドウ糖液、リン酸バッファー、トリスバッファー、HEPESバッファー、MOPSバッファー、MESバッファー、EMEM、DMEMなどを改良して用いてよい。
【0045】
また、本発明にあっては、送達物6を比重調整液4に含有させてもよい。送達物6は、薬理活性物質や、化粧品送達物、細胞等から構成されている。このとき、送達物6として細胞を用いた場合、比重調整液4と接することで細胞の機能維持や特性を向上する効果を付与することができ、細胞搬送デバイスとしてより好ましいものとすることができる。
【0046】
[針状体デバイスの使用方法]
針状体デバイス10は送達物6が充填されたのちに、水溶性材料に合わせた規定の温度と湿度環境下で保持される。温度制御はインキュベーターやオーブン、ホットプレート、恒温室、冷蔵庫、メディカルフリーザー、凍結保管容器等の機器内で均一に行われてよく、ハロゲンヒーターや赤外線ランプを用いて針状体デバイス10を加温してもよい。特に細胞が充填された状態においては、体温近傍もしくは凍結保管条件として適切な温度制御や、最適な酸素濃度、二酸化炭素濃度の環境が必要となる。
【0047】
針状体デバイス10を用いた穿刺時には既定の温度や湿度条件から解放された状態で行われてよく、穿刺された状態が一定時間保持されてよい。また、穿刺された状態のまま必要に応じて穿刺部位を加水してもよい。これにより針状体1の溶解を短時間で誘導することができるため、送達物6の流動性を補助することができる、より効率的な送達が可能となる。
【0048】
針状体デバイス10は一定時間の穿刺後に針状体1ごと生体内等の送達部位から剥離されてもよく、針状体1が送達部位内で膨潤し針状体1の底面で分割され一部が送達部位に残留する使用方法であってもよい。分割される場合、膨潤するために必要となる時間がより長い材料を用いて作製することもできるため、より多くの送達物の形態や物性に対応することが可能となるため、結果として送達物6の選択の自由度が高まる。
【実施例0049】
[凹版の作製]
精密機械加工によって、真鍮製の針状体デバイス10の原版を作製した。突起部の形状は、正四角錐(高さ:1000μm、底面:350μm×350μm)であり、基板上に、1mm間隔で6列6行の格子状に36本の突起部を配列した。
次に、樹脂転写法によって、上記原版にポリジメチルシロキサンを流し込み90℃で10分間加熱することで厚さ3mmの凹版を作製形成した。
【0050】
[針状体デバイスの作製]
(実施例1)
水溶性材料としてヒドロキシプロピルセルロースを用意し、これを水に溶解し重量パーセント濃度が5%であるヒドロキシプロピルセルロース水溶液を調整した。上述の凹版にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を充填し、90℃に設定したホットプレートを用いて凹版とともに凹版に充填されたヒドロキシプロピルセルロース水溶液を加熱して、充填物を乾燥固化させた。固化した成形物を凹版から剥離し、針状体1の内部に凹部3を有する針状体1を得た(第1工程)。
【0051】
送達物6のモデルとして、直径約200マイクロメートルのジビニルベンゼン樹脂粒子(積水化学製ミクロパール 密度1.2g/ml)を用意した。次に、比重調整液4としてブドウ糖注射液(大塚製薬製、密度1.2g/ml)を用意し、ジビニルベンゼン樹脂粒子との混合液を作製した(第2工程)。
【0052】
次に、保護層7として、ワセリンを針状体1の凹部3内に薄膜塗工した。そののち、上記混合液をシリンジを用いて、開口部を上面として配置された凹部3内へゆっくりと充填した。充填後にテープ材(3M製)で裏面全体を封止し、流体の移動が生じないようにした(第3工程)。これらの工程により、ヒドロキシプロピルセルロースからなる実施例1の針状体デバイス10を得た。このとき、送達物であるジビニルベンゼン樹脂粒子は針状体の中央付近に位置していることが光学顕微鏡を用いた透過観察で確認することができた。
【0053】
(実施例2)
また次に、前述の手法を用いてヒドロキシプロピルセルロース製の針状体1を再度作成し、送達物6のモデルとしてジビニルベンゼン樹脂粒子(積水化学製ミクロパール 密度1.2g/ml)、比重調整液4として生理食塩水(大塚製薬製、密度1.0g/ml)を用意し、ジビニルベンゼン樹脂粒子との混合液を作製した(第2工程)。こののち、前述の第2工程で上記混合液を凹部3内へ充填し、ヒドロキシプロピルセルロースからなる
実施例2の針状体デバイスを得た。このとき、送達物であるジビニルベンゼン樹脂粒子は針状体内の先端近傍に配置されていることが光学顕微鏡を用いた透過観察で確認することができた。
【0054】
(実施例3)
また次に、前述の手法を用いてヒドロキシプロピルセルロース製の針状体1成型物を再度作成し、送達物6のモデルとしてジビニルベンゼン樹脂粒子(積水化学製ミクロパール
密度1.2g/ml)、比重調整液4としてショ糖溶液(密度1.3g/ml)を用意し、ジビニルベンゼン樹脂粒子との混合液を作製した(第2工程)。こののち、前述の第2工程で上記混合液を凹部3内へ充填し、ヒドロキシプロピルセルロースからなる実施例3の針状体デバイスを得た。このとき、送達物であるジビニルベンゼン樹脂粒子は針状体の底面に配置されていることが確認できた。
【0055】
[搬送試験]
実施例1から実施例3の針状体デバイス10を、12週齢のラットから摘出された皮膚上にあらかじめメスで作製した切開部内に穿刺し、25℃の下で30分間保持した。
【0056】
その後、ラット皮膚の切開部内を肉眼で観察した。その結果、ラット皮膚で針状体デバイスがすべて融解していることが確認でき、ラット皮膚内に送達物が放出されたことが示唆された。
【0057】
以上により、送達物6の対象領域への搬送が完了する。針状体デバイス10を用いた上記搬送方法によれば、多様な薬剤の搬送や細胞等の円滑な移植が可能である。